JP6166860B2 - グラフェンの製造方法、該グラフェンを接合したグラフェン接合体の製造方法、および前記グラフェンないしは前記グラフェン接合体を用いた基材ないしは部品の製造方法 - Google Patents
グラフェンの製造方法、該グラフェンを接合したグラフェン接合体の製造方法、および前記グラフェンないしは前記グラフェン接合体を用いた基材ないしは部品の製造方法 Download PDFInfo
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Description
例えば、電子移動度が室温で15000cm2/VSという高い値をもつ。この値は、シリコーンの移動度である1400cm2/VSより一桁高い値である。この性質を利用して、高速トランジスタに応用する試みがなされている。例えば、特許文献1には、一層以上のグラフェンからなる炭素原子の膜をキャリアが走行する能動領域とすると共に、この能動領域を構成する炭素原子の膜について、キャリアの走行方向に垂直な方向の幅が場所によって変化する構成としたトランジスタを実現させる試みが開示されている。
また、熱伝導率は、銀の熱伝導率の4.5倍に近い数値を持つ。このため、優れた熱伝導材として応用することが検討されている。たとえば、特許文献2では、熱可塑性樹脂あるいは熱可塑性エラストマーをマトリクス材料とし、これにグラフェンを複合化させて熱拡散シートを実現させる試みが開示されている。
さらに、グラフェンの端末に用途に応じた活性物質を吸着させ、これによって黒鉛結晶にはない新たな性質を持つ黒鉛化合物を生成させる様々な試みがなされている。例えば、特許文献3は、リチウムイオン二次電池への応用事例であり、ヘキサベンゾコロネン誘導体を基本骨格とするグラフェン化合物を負極活物質として用いる事例である。
例えば、非特許文献1および2には、グラファイトからグラフェンを人の手によって物理的に引きはがす方法が記載されている。この方法では、大量のグラフェンを短時間に引き剥がすことは困難である。また、剥がされたものが単一層、つまり、グラフェンになるとは限らない。この手法は、グラフェンを工業的に製造する手法ではない。また、非特許文献3には、化学的に酸化処理したグラファイトからグラフェンを引き剥がす方法が記載されている。この方法は、酸化処理後のグラファイトからグラフェンを引き剥がすため、非特許文献1および2に記載された物理的に引き剥がす方法と同様に、大量のグラフェンを短時間に引き剥がすことは困難である。また、引き裂かれたものがグラフェンになるとは限らない。この方法もグラフェンを工業的に製造する手法ではない。
前記したグラファイトから物理的にグラフェンを引き剥がす方法とは異なるグラフェンの製造方法として、非特許文献4に、炭化ケイ素SiCの単結晶を熱分解することでグラフェンを製造する方法が記載されている。つまり、炭化ケイ素を不活性雰囲気または還元性雰囲気で加熱し、これによって表面を熱分解させる。この際、昇華温度が相対的に低いケイ素Siが優先的に昇華され、残存した炭素によってグラフェンが生成される。しかしながら、炭化ケイ素の単結晶の熱分解法では、原材料として用いる炭化ケイ素の単結晶が非常に高価な材料である。さらに、1600℃の高温で、かつ、真空度が高い雰囲気で熱処理しないとケイ素が完全に昇華されず、ケイ素が僅かでも残存した場合は、熱分解後の残渣物としてグラフェンが生成されない。このため、SiC単結晶の生成とSiC単結晶の熱分解処理に係わる製造コストは非常に高価になる。
前記した非特許文献1−4の問題点を考慮して、新しい製造方法による試みがなされている。例えば、特許文献4では、単結晶のグラファイト化金属触媒をシート状に形成する工程と、前記グラファイト化金属触媒に炭素系物質を接触させる工程と、前記炭素系物質と接触させた前記グラファイト化金属触媒を不活性雰囲気または還元性雰囲気下で熱処理する工程とによって、グラフェンを製造する方法が記載されている。しかしながら、特許文献4に記載されたグラフェンの製造方法は、安価な製造方法とは言えず、かつ、量産性に優れた製造方法ではない。第一に、単結晶のグラファイト化金属触媒を製造する製造コストは、炭化ケイ素の単結晶よりさらに高い。第二に、単結晶のグラファイト化金属触媒を炭素系物質に接触させる方法は量産性に劣る
。第三に、水素ガスを含む窒素ガスがリッチな雰囲気で、1000℃を超える高温度で、グラファイト化金属触媒を還元処理する方法は、熱処理費用が高価になる。
また、特許文献5では、グラフェンシートの製造方法と題して、活性炭が8族の遷移金属のイオンおよび還元剤を含む水溶液に分散して還元処理し、遷移金属からなる粒子を形成し、この粒子表面にグラフェンを形成する新たな試みがなされている。しかし、活性炭を原料としてグラフェンを製造するため、製造されたグラフェンは、黒鉛の結晶化が100%進んだ黒鉛単結晶からなるグラフェンを製造することは難しい。さらに、遷移金属の表面にグラフェンを形成する限定された製造方法であるため、グラフェンを用いる用途が限定される。また、大量のグラフェンを安価に製造することは困難である。
なお、グラフェンを接合して、グラフェンの面積ないしは厚みを拡大した物質を製造する試みは、現在までに特許文献および非特許文献に開示されていない。この理由は、非特許文献1−3に記載された製造方法で得られるグラフェンが、極めて微細な物質であるため、グラフェンを接合することは困難であると考えられてきたことによる。このため、より大きい面積を有するグラフェンを製造するには、例えば、非特許文献4に記載されているように、単結晶材料である炭化ケイ素を結晶成長させ、結晶成長させた炭化ケイ素からグラフェンを製造する方法が考えられてきた。従って、グラフェンを接合させる考えとこれを実施する試みは現在までになく、前記したグラフェンを接合したグラフェン接合体という言葉も、今までに使用されたことはない。本発明におけるグラフェン接合体とは、グラフェンを接合してグラフェンの面積ないしは厚みを拡大させた物質を意味する。
黒鉛単結晶からなる物質には、人造黒鉛と天然黒鉛とがある。人造黒鉛には、熱分解黒鉛とキッシュ黒鉛とがある。熱分解黒鉛は、炭化水素雰囲気中で基材を2000℃以上の温度で加熱して炭化水素の分解重合反応を起こさせ、これによって基材表面に炭素が沈積することによって得られる。キッシュ黒鉛は、融体の鉄をゆっくりと冷却して析出させることで得られる。人造黒鉛は天然黒鉛に比べると黒鉛の結晶化度は相対的に低く、結晶化度を高めるためには還元雰囲気での熱処理温度を3000℃まで上げなければならない。このため、人造黒鉛は高価な工業用材料であり、黒鉛の結晶化を進めることで更に高価な工業用材料になる。従って、豊富な資源である天然黒鉛が、最も安価な黒鉛単結晶材料になる。このため、天然黒鉛からグラフェンの集まりを安価な製造方法で製造することが、前記した本発明における第一の課題を解決する解決手段になる。
従って、鱗片状黒鉛を工業的に精製した黒鉛単結晶材料である鱗片状黒鉛粒子、ないしは塊状黒鉛を工業的に精製した黒鉛単結晶材料である塊状黒鉛粒子から、グラフェンの集まりを安価な製造方法で製造することが、本発明における第一の課題を解決する唯一の解決手段になる。さらに、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりから、グラフェンを安価な製造方法で製造できれば、これによってさらに多くのグラフェンの集まりを製造することができるので、本発明における第一の課題を解決する解決手段として最も望ましい。
また、基底面、すなわちグラフェンは熱的性質にも優れている。非特許文献6および7によれば、300°Kにおける熱伝導率は19.5W/Cmである。この値は、金属の中で最も熱伝導率が高い銀の熱伝導率である4.3W/Cmの4.5倍に相当する。
さらに、黒鉛の基底面、すなわちグラフェンは電気抵抗についても優れた性質を持つ。非特許文献8に記載されたPrimak&Fuches(1954、1956)の報告によれば、天然黒鉛粒子における基底面に平行な方向の比抵抗は3.8×10−7Ωmであり、基底面に垂直な方向の比抵抗は7.6×10−3Ωmである。グラフェンの比抵抗は銅の比抵抗の23倍に過ぎない。
以上のように、鱗状黒鉛の基底面、すなわちグラフェンは優れた物性を多く持つ。最も安価な黒鉛単結晶材料である鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子について、これら粒子の集まりからグラフェンの集まりを安価な製造方法で製造することによって、本発明における第一の課題が解決できる。また、これによって、安価なグラフェンを用いて安価なグラフェン接合体を製造し、さらに、グラフェンおよびグラフェン接合体の特長を活かした安価な基材や部品を製造する第二および第三の課題の解決に結びつく。
2枚の平行平板電極を所定の間隙をもって離間させ、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを、前記2枚の平行平板電極の間隙に引きつめ、この後、該2枚の平行平板電極の間隙に電位差を印加する、これによって、該電位差を前記2枚の平行平板電極の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、前記2枚の平行平板電極の間隙に引きつめられた前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりに印加され、該電界の印加によって、前記鱗片状黒鉛粒子ないしは前記塊状黒鉛粒子を形成する全ての黒鉛結晶の層間結合が同時に破壊され、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記鱗状黒鉛粒子の集まりから、グラフェンの集まりが製造される方法である。
以上に説明したように、グラフェンの集まりが安価に製造でき、本発明における第一の課題が具体的に解決できる。
ここで、2枚の平行平板電極の間隙に印加された電界によって、平行平板電極の間隙に引き詰められた黒鉛結晶の層間結合が破壊される現象を説明する。前記した黒鉛粒子における黒鉛結晶を形成する炭素原子は4つの価電子を持つ。このうちの3つの価電子は、黒鉛結晶の基底面、すなわちグラフェンを形成するσ電子である。このσ電子は、基底面上で隣り合う3つの炭素原子が持つσ電子と互いに120度の角度をなして共有結合し、六角形の強固な網目構造を2次元的に形成する。残り一つの価電子はπ電子であり、基底面に垂直な方向に伸びるπ軌道上に存在する。このπ電子は、基底面に垂直な上下方向で隣り合う炭素原子が持つπ電子と弱い結合力で結合し、この弱い結合力に基づいて基底面同士が層状に積層される。つまり基底面、すなわちグラフェンは、弱い結合力であるπ軌道の相互作用によって互いに層状に結合されている。
こうした黒鉛粒子に電界を印加させると、全てのπ電子に電界によるクーロン力が作用する。π電子に作用するクーロン力が、π電子に作用しているπ軌道の相互作用より大きな力としてπ電子に作用すると、π電子はπ軌道上の拘束から解放される。この結果、全てのπ電子がπ軌道から離れて自由電子となる。これによって、黒鉛結晶の層間結合の担い手である全てのπ電子がπ軌道上にいなくなるため、黒鉛結晶の全ての層間結合は同時に破壊される。こうして、安価な黒鉛粒子の集まりに電界を印加するという極めて簡単な製造方法によって、グラフェンの集まりが安価に製造できる。
なお、ここで言う黒鉛粒子の集まりとは、1gから100g程度の比較的少量の黒鉛粒子の集まりを言う。鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子の集まりは、嵩密度が0.2g/cm 3 〜0.5g/cm 3 であり、粒子の大きさが1ミクロン〜300ミクロンの分布を持つ微細な粒子の集まりからなる。このため、黒鉛粒子の集まりを2枚の平行平板電極の間隙に引き詰め、2枚の平行平板電極の間隙に電界を印加させると、黒鉛粒子が引きつめられた全ての領域に電界が発生する。この電界が黒鉛結晶の層間結合力より大きな負荷として全ての黒鉛粒子に印加され、黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶の層間結合の全てが同時に破壊される。この結果、2枚の平行平板電極の間隙に黒鉛粒子の集まりを引き詰め、この2枚の平行平板電極の間隙に電位差を印加させるだけの製造方法で、グラフェンの集まりが安価に製造できる。
しかしながら、鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子から製造したグラフェンは極めて微細な物質であるため、グラフェン同士を接合してグラフェン接合体を製造する試みさえもこれまでに実施されたことはない。この課題は、グラフェンがもつ特徴を活かす手段によってのみ解決できる。つまり、グラフェンの厚みは炭素原子の共有結合半径の2倍に過ぎず、他の物質にはない極めて微細で質量を殆ど持たない稀な物質である。しかし、グラフェンの厚みが極微小であるが故に、厚みに対する面積の比率であるアスペクト比は、他の物質にはない極めて大きな値を持つ。グラフェンが極めて大きなアスペクト比を持ち、極めて扁平な物質である特徴を活かせる製造方法によってのみ、グラフェン同士を接合してグラフェン接合体が製造できる。これによって、鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子から製造したグラフェンについて、このグラフェンの集まりを接合してグラフェン接合体を製造することが可能になり、グラフェン接合体の面積ないしは厚みを著しく増大させることができる。さらに、グラフェン同士を接合する手段が、グラフェン接合体に新たな性質をもたらすことができれば、グラフェン接合体の性質が付与された基材や部品が製造できる。この結果、本発明の第2の課題を解決する手段が、本発明の第3の課題を解決する手段に結びつく。
熱処理で磁性を有する金属である鉄、コバルト、ないしはニッケルが析出する原料を液体に分散して分散液を作成し、該分散液に鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりから製造したグラフェンの集まりを混合して懸濁液を作成し、該懸濁液を昇温して前記液体を気化させ、前記グラフェンの表面に前記熱処理で磁性を有する金属が析出する原料を吸着させ、さらに、該グラフェンの集まりを熱処理して前記熱処理で磁性を有する金属が析出する原料を熱分解させる、これによって、前記磁性を有する鉄、コバルト、ないしはニッケルからなる金属微粒子が前記グラフェンの表面に担持し、該グラフェンの表面に担持された前記磁性を有する金属微粒子同士が磁気吸着して前記グラフェン同士が接近し、該磁気吸着した金属微粒子の表面に、さらに前記磁性を有する金属が析出して該磁気吸着した金属微粒子同士が金属結合する、これによって前記グラフェン同士が前記金属微粒子同士の金属結合で接合され、該グラフェンより面積が広く、厚みが厚いグラフェン接合体が製造される製造方法である、
ないしは、
熱処理で磁性を有する金属である鉄、コバルト、ないしはニッケルが析出する原料と熱処理で前記3種類の金属を除く磁性を有しない金属が析出する原料とからなる複数種類の金属が熱処理で析出する原料を液体に分散して分散液を作成し、該分散液に鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりから製造したグラフェンの集まりを混合して懸濁液を作成し、該懸濁液を昇温して前記液体を気化させ、前記グラフェンの表面に前記複数種類の金属が熱処理で析出する原料を吸着させ、さらに、該グラフェンの集まりを熱処理して前記複数種類の金属が熱処理で析出する原料を熱分解させる、これによって、前記磁性を有する鉄、コバルト、ないしはニッケルからなる金属微粒子と、該3種類の金属を除く磁性を有しない金属からなる金属微粒子とからなる磁性を有する複合金属微粒子が前記グラフェンの表面に担持し、該グラフェンの表面に担持された前記磁性を有する複合金属微粒子同士が磁気吸着して前記グラフェン同士が接近し、該磁気吸着した複合金属微粒子の表面に、さらに前記磁性を有しない金属が析出して該磁気吸着した複合金属微粒子同士が金属結合する、これによって前記グラフェン同士が前記複合金属微粒子同士の金属結合で接合され、該グラフェンより面積が広く、厚みが厚いグラフェン接合体が製造される製造方法である。
ないしは、熱処理で磁性を有する金属である鉄、コバルト、ないしはニッケルを析出する原料と、前記3種類の金属を除く磁性を有しない金属を析出する原料とからなる複数種類の金属が熱処理で析出する原料を液体に分散させ、この分散液に前記した鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりから製造したグラフェンの集まりを混合して懸濁液を作成する。この後、懸濁液を昇温して液体を蒸発させると、全てのグラフェンの表面に、前記の複数種類の金属が熱処理で析出する原料が吸着する。このような簡単な手段で、グラフェンの表面に前記した複数種類の金属が熱処理で析出する原料を吸着させることができる。
次に、前記した磁性を有する金属が析出する原料が表面に吸着したグラフェンの集まりを熱処理すると、グラフェンに吸着した磁性を有する金属を析出する原料が熱分解し、ないしは、前記した磁性を有する金属を析出する原料と磁性を有しない金属を析出する原料とが表面に吸着したグラフェンの集まりを熱処理すると、複数種類の金属が熱処理で析出する原料が熱分解し、これによって、磁性を有する金属微粒子が、ないしは、磁性を有する複合金属微粒子がグラフェンの表面に担持する。この金属微粒子ないしは複合金属微粒子が発する磁力によって、全てのグラフェンが互いに接近し、金属微粒子同士ないし複合金属微粒子同士が磁気吸着する。さらに、磁気吸着した金属微粒子ないしは複合金属微粒子が、新たに析出する金属の核になってその表面に金属が析出し、新たに析出した金属によって、磁気吸着した金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士が金属結合し、これによって全てのグラフェンが接合して一枚のグラフェン接合体が製造される。なお、グラフェン接合体も同様に、グラフェン接合体の表面に磁性を有する金属微粒子ないしは複合金属微粒子を担持させ、金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士の金属結合によって、全てのグラフェン接合体が接合し、より面積が広く、より厚みが厚い一枚のグラフェン接合体が製造される。
グラフェンの集まりを接合してグラフェン接合体を製造する第一の製造方法は、グラフェンが持つ次の3つの特徴を活かしたことに依る。第一の特徴は、鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子から製造したグラフェンは、厚みが炭素原子の共有結合半径である0.77オングストローム(1オングストロームは1×10−10mの長さに相当する)の2倍に過ぎない極微小の厚みである。このため、グラフェンの表面に吸着した金属が析出する原料、ないしは、複数種類の金属が析出する原料が熱分解すると、析出する金属は、ナノレベルの大きさからなる金属微粒子ないしは複合金属微粒子として、グラフェンの表面に離散的に担持する。つまり、グラフェンの厚みが1.54オングストロームと極微小であるため、金属微粒子ないしは複合金属微粒子は、グラフェンの厚みに当たる側面には担持できない。なお、金属が析出する原料を熱分解することで析出する金属は、ないしは、複数種類の金属が析出する原料を熱分解することで析出する複合金属は、不純物を持たない活性状態にある。このため、グラフェンの表面に吸着した金属が析出する原料が熱分解すると、ないしは、グラフェンの表面に吸着した複数種類の金属が析出する原料が熱分解すると、ナノレベルの大きさを持つ金属微粒子ないしは複合金属微粒子がグラフェンの表面に離散的に担持する。さらに、金属の析出が継続すると、既に形成された金属微粒子ないしは複合金属微粒子が析出する金属の核になって、金属微粒子ないしは複合金属微粒子の表面に金属が継続して析出する。こうした現象は、金属を析出する原料がグラフェンの表面に吸着したため、グラフェンの表面で進行する。いっぽう、析出する金属微粒子ないしは複合金属微粒子の大きさと間隔とは、グラフェンに吸着した金属が析出する原料の量に依存する。グラフェンの面積より十分に小さいナノレベルの大きさからなる金属微粒子が離散的に析出する本事例では、グラフェンの表面に吸着する金属が析出する原料の量は、ないしはグラフェンの表面に吸着する複数種類の金属が析出する原料の量は微量である。
第二の特徴は、グラフェンは極めて軽量でかつ極めて扁平な物質である。このため、グラフェンの表面に吸着した金属の原料、ないしは複数種類の金属の原料が熱分解すると、大量の磁性を有する金属微粒子ないしは複合金属微粒子がグラフェンの表面に離散的に担持し、これらの微粒子が発する微弱な磁力でも、全てのグラフェンが互いに接近し、金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士が磁気吸着して、全てのグラフェンが近接する。この後、磁気吸着した金属微粒子ないしは磁気吸着した複合金属微粒子の表面に、新たに金属が析出することによって、磁気吸着した金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士が金属結合し、全てのグラフェンが接合し、一枚のグラフェン接合体が製造される。こうして製造されたグラフェン接合体も軽量で扁平な物質であるため、グラフェン接合体の表面に担持された金属微粒子ないしは複合金属微粒子が発する微弱な磁力で、全てのグラフェン接合体が接近し、金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士が磁気吸着して、全てのグラフェン接合体が近接する。さらに、新たに析出した金属によって、磁気吸着した金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士が金属結合し、全てのグラフェン接合体が接合し、一枚のグラフェン接合体が製造される。
第三の特徴は、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりから製造したグラフェンは、鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子を原料としてグラフェンを製造するため、製造されたグラフェンの面積は極めて大きな偏差を有する。つまり、黒鉛粒子が球体であるとすると、グラフェンが積層されて球状の粒子が形成されるので、全てのグラフェンの面積が異なり、面積の大きさの順にグラフェンが積層されることで球状の黒鉛粒子が形成される。鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子は粒子であるが故に、これらの粒子から製造したグラフェンの面積は極めて大きな偏差を持つ。この第三の特徴が、第一の特徴と第二の特徴とによって起こる現象と連動して、グラフェンの表面に担持した磁性を有する金属微粒子ないしは複合金属微粒子が金属結合することによって、全てのグラフェンが接合され、より面積が広くより厚みが厚いグラフェン接合体が製造できる。つまり、グラフェンが同一の面積、ないしは類似した大きさの面積であれば、グラフェン同士を接合しても、面積が広いグラフェン接合体の製造はできない。
全てのグラフェンないしはグラフェン接合体が接合されて、一枚のグラフェン接合体が製造されるため、グラフェン接合体の製造する際に用いるグラフェンないしはグラフェン接合体の量ないしは数によって、製造されるグラフェン接合体の面積と厚みが決まる。これによって、予め決めたグラフェン接合体の面積ないしは厚みを有する一枚のグラフェン接合体が製造できる。また、グラフェン接合体の製造は、金属が析出する原料を熱分解させる熱処理だけであり、安価な費用でグラフェン接合体が製造できる。こうして、本発明における第二の課題が解決できる。なお常温で強磁性を示す金属元素は、鉄、コバルト、ニッケルが挙げられる。従って、これらの金属元素を有する金属微粒子ないしは複合金属微粒子を、前記グラフェンないしは前記グラフェン接合体の表面に担持させればよい。
なお、熱伝導性および電気導電性に優れ磁性を有する複合金属微粒子によって、グラフェンを接合させてグラフェン接合体を製造するのは一例であって、熱伝導性および電気導電性に限定されない。磁性を有しない金属によって、複合金属微粒子の性質が自在に変えられる。これによって、グラフェン接合体は新たに複合金属微粒子の様々な性質を持ち、この性質を活かすことによって、グラフェン接合体の性質が付与される基材や部品を製造する領域が広がる。こうして、本発明の第二の課題を解決する手段が第三の課題を解決する手段に結びつく。
この理由は次の現象に基づく。グラフェンないしはグラフェン接合体の表面に担持された金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士の金属結合によって、一枚のグラフェン接合体が製造されるため、グラフェン同士ないしはグラフェン接合体同士の間隙は、金属微粒子ないしは複合金属微粒子の大きさで決まる極微小の間隙である。いっぽう、一旦製造されたグラフェン接合体に新たな物質、例えば酸化アルミニウムが析出する場合は、グラフェン同士ないしはグラフェン接合体同士の間隙が狭いため、酸化アルミニウムの原料となる物質はこの微細な間隙に侵入ないしは浸透できない。このため、酸化アルミニウムを析出する原料はグラフェン接合体の表面に吸着し、この原料が熱分解すると、グラフェン接合体の表面に担持された金属微粒子ないしは複合金属微粒子が、酸化アルミニウムが析出する核になり、表層が酸化アルミニウムからなる複合微粒子が形成される。
なお、グラフェン接合体の表面に担持される微粒子の表層は、酸化アルミニウムに限定されない。金属ないしは金属酸化物を析出する原料によって、グラフェン接合体の表面に担持する微粒子の表層の物質は自在に変えることができ、グラフェン接合体の表面に様々な性質をもたらされる。さらに、グラフェン接合体の表面の性質を内部の性質と異ならせることができる。これによってグラフェン接合体が持つ性質が格段に拡大し、グラフェン接合体の性質を活かしてグラフェン接合体の性質が付与される基材や部品を製造する幅も格段に広がる。こうして、本発明の第二の課題を解決する手段が、第三の課題を解決する手段に結びつく。
なお、触媒作用を有する金属ないしは合金として、白金族の金属ないしは白金族の複数の金属からなる合金、ないしは白金族の金属とコバルトとの合金などが挙げられる。このような金属ないしは合金によって、複合金属微粒子の表層を構成すれば、優れた触媒作用を有するグラフェン接合体が製造できる。また、触媒作用を有する白金族の金属として、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウムなどの金属が挙げられる。
なお、グラフェン接合体の表面に担持される微粒子の表層は、触媒作用を有する金属ないしは合金に限定されない。金属を析出する原料によって、グラフェン接合体の表面に担持する複合金属微粒子の表層は自在に変えられ、グラフェンシ接合体の表面に様々な性質をもたらすことができる。さらに、グラフェン接合体の表面の性質を内部の性質と異ならせることができる。これによって、グラフェン接合体の性質が格段に拡大し、このグラフェン接合体の性質を活かしてグラフェン接合体の性質が付与される基材や部品を製造できる幅が格段に広がる。これによって、本発明における第二の課題を解決させる手段は、第三の課題を解決することに結びつく。
例えば、前記したグラフェンの表面に銅と鉄とからなる複合金属微粒子を担持し、この複合金属微粒子の金属結合で製造されたグラフェン接合体は、グラフェンの間隙のみならず、グラフェン接合体の表面にも複合金属微粒子が担持される。さらに、複合金属微粒子の表層に酸化アルミニウムを析出させ、かつ、酸化アルミニウムの析出量を銅および鉄の析出量より多くした場合は、このグラフェン接合体の表面に担持される複合微粒子の性質は酸化アルミニウムの性質が優勢になる。これによって、グラフェン接合体の表面は、電気絶縁性で熱伝導性に優れる酸化アルミニウムの性質を持つ。いっぽう、グラフェン接合体自体は、銅と鉄とからなる複合金属微粒子の性質が反映され、熱伝導性と電気導電性に優れる。あるいは、グラフェンを鉄微粒子の金属結合で接合してグラフェン接合体を製造する。このグラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に白金を析出させた場合は、白金が表層を構成する複合金属微粒子がグラフェン接合体の表面に担持する。このグラフェン接合体は効率よい触媒作用を発揮する。
前記した現象は次の理由に基づく。グラフェン接合体に新たな有機金属化合物の熱分解によって新たな物質が析出する場合は、グラフェン同士が金属微粒子ないしは複合金属微粒子の金属結合で接合され、このグラフェン同士が接合される間隙が極微小であるため、新たな有機金属化合物の分散液は、その表面張力によってグラフェン同士の微細な間隙に浸入ないしは浸透しない。このため、新たな有機金属化合物はグラフェン接合体の表面に吸着し、この有機金属化合物が熱分解すると、グラフェン接合体の表面に担持された金属微粒子ないしは複合金属微粒子が、新たな物質が析出する核となって新たな物質が析出する。つまり、グラフェン接合体の表面に複合金属微粒子ないしは複合微粒子を担持させる方法には2つの方法がある。その一つは、前記したグラフェンの集まりを接合してグラフェン接合体を製造する製造方法に基づく方法である。他の方法が、本手段に依る方法である。本手段による方法では、新たに析出する金属ないしは金属酸化物が、グラフェン接合体の表面にのみに析出するので、グラフェン接合体における内部の性質と表面の性質とを異なるものにすることができるという利点がある。
また、この製造方法によれば、グラフェン接合体の表面に担持した金属微粒子ないしは複合金属微粒子の表層に酸化膜が形成された場合であっても、グラフェン接合体を還元焼成することで、グラフェン接合体を接合して新たなグラフェン接合体が製造できる。すなわち、グラフェン接合体の集まりにおいて、表面に担持された磁性を有する金属微粒子ないしは複合金属微粒子が発する磁力によってグラフェン接合体が互いに接近し、金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士が磁気吸着する。この後、グラフェン接合体の集まりを、水素ガスを含む還元性雰囲気で還元焼成すると、磁気吸着した金属微粒子ないしは複合金属微粒子の表層は新生金属に還元され、この新生金属同士が金属結合する。これによって、全てのグラフェン接合体が接合する。こうして、極めて面積が広いないしは極めて厚みが厚い一枚のグラフェン接合体の製造が可能になる。このように、還元焼成するグラフェン接合体の全てが、接合して一枚のグラフェン接合体になるため、還元焼成するグラフェン接合体の量ないしは数によって、新たに製造されるグラフェン接合体の面積ないしは厚みが決まる。この製造方法によって、製造するグラフェン接合体の面積と厚みの自由度が格段に広がるのみならず、予め決めた形状を有するグラフェン接合体が製造できる。
このように、金属微粒子の原料ないしは複合金属微粒子の原料は、液相化する必要がある。有機金属化合物はアルコールなどの有機溶剤に容易に分散する。また、安価な有機酸と金属との化合物であるため、合成が容易な安価な材料である。さらに、様々な有機酸を様々な金属と合成させ、様々な有機金属化合物が容易に合成できるため、様々な金属微粒子ないしは様々な複合金属微粒子が生成できる。このように、安価な材料である有機金属化合物が吸着したグラフェンを、熱処理という極めて簡単な手段で処理することで、様々な性質を持つ安価なグラフェン接合体が容易に製造できる。
前記したように、金属微粒子を生成する原料は、液相化する必要がある。金属化合物の中で、塩化金属化合物、硫酸金属化合物、硝酸金属化合物などの無機金属化合物は、水やアルコールなどの溶媒に溶解し、溶解溶液に金属イオンが溶出するため、殆どの金属イオンが金属微粒子の生成に参加できない。このため、溶媒に溶解する無機金属化合物は、グラフェンシ接合体を製造する原料にはならない。この理由から、金属微粒子の原料は、溶媒に溶解せずに分子として分散する性質が必要になる。いっぽう、酸化金属化合物、水酸金属化合物、炭酸金属化合物などの無機金属化合物は、アルコールなどの汎用的な有機溶剤に分散しない。従って、アルコールなどの汎用的な有機溶剤に分散する安価な有機金属化合物は、金属微粒子ないしは複合金属微粒子の原料として望ましい。
一回目に析出する金属が磁性を持つ金属である場合は前記の状況とは異なる。つまり、最初に磁性を持つ金属、例えば鉄が析出した時点で、グラフェンが鉄微粒子の磁気で接近し、鉄微粒子同士の金属結合でグラフェン接合体が製造される。この後、第二の金属、例えば銅が析出するが、銅はグラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に析出する。これによって、銅がグラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に析出するので、銅の析出量が著しく多くなる。この結果、グラフェン接合体の内部は鉄微粒子で結合された性質を示し、グラフェン接合体の表面は銅の性質を示す。
いっぽう、金属イオンが配位子を形成する物質との間で配位結合して、金属錯体ないしは金属錯塩を形成するカルボン酸金属化合物は、熱分解によって金属を析出しない。つまり、配位子を形成する物質が金属イオンに近づいて配位結合し、金属錯体ないしは金属錯塩を形成するため、金属錯体ないしは金属錯塩における金属イオンと配位子との距離は短い。従って、熱分解において最初に結合が切れる部位は、配位子が金属イオンと配位結合する部位ではなく、配位子が結合するもう一方の部位になる。これによって、金属イオンと配位子とが配位結合する部位は、熱分解が完了しても残る。例えば、配位子が酸素イオンの場合は、金属酸化物が残渣物として残る。金属酸化物同士は金属結合しないため、グラフェンを接合してグラフェン接合体を製造することはできない。このような金属錯体ないしは金属錯塩を形成するカルボン酸金属化合物として、酢酸金属化合物、安息香酸金属化合物、カプリル酸金属化合物などがある。カルボン酸金属化合物の中で金属錯体ないしは金属錯塩は、グラフェン接合体を製造する原料にはならない。
また、飽和モノカルボン酸と金属とからなるカルボン酸金属化合物は、容易に合成することができる。すなわち、飽和モノカルボン酸を強アルカリと反応させるとカルボン酸アルカリ金属が生成される。この後、カルボン酸アルカリ金属を無機金属化合物と反応させることで、カルボン酸金属化合物が合成される。このように、飽和モノカルボン酸と金属とからなるカルボン酸金属化合物は、安価な製造費用で製造されるとともに、安価な熱処理費用で熱分解され、これによって安価な費用でグラフェン接合体が製造できる。
以上に説明したように、金属微粒子を生成する原料は、飽和モノカルボン酸と金属とからなるカルボン酸金属化合物がさらに望ましい。このような構造のカルボン酸金属化合物として、オクチル酸金属化合物、ラウリン酸金属化合物などが挙げられる。
なお、カルボン酸における分岐鎖構造とは、カルボン酸を構成する炭化水素が、1つの炭化水素から構成された直鎖構造ではなく、2つの炭化水素に分岐された炭化水素から構成された分岐鎖構造をいう。分岐鎖構造のカルボン酸は、分岐鎖構造によって分子構造の対象性が崩れる。また、分岐鎖構造の炭化水素は、2つの炭化水素に分岐されるため、直鎖構造の炭化水素より分岐された炭化水素の分子量が小さく、分岐鎖構造を持つカルボン酸は、直鎖構造のカルボン酸より熱分解温度が低い。
すなわち、安価なグラフェンないしは安価なグラフェン接合体を基材や部品に接合し、ないしは基材と複合化させ、あるいはグラフェン接合体で新たな基材や部品を製造し、これによって、グラフェンないしはグラフェン接合体が持つ様々な特長が、基材や部品に新たな性質や新たな機能として反映され、この結果、基材や部品が有する従来の問題点を容易に解決する、あるいは、基材や部品が従来に比べて著しく安価に製造できる、また、基材や部品の機能が従来に比べて著しく向上する、あるいは、新たな基材によって画期的な機能を有する部品が製造できるなど、安価なグラフェンないしは安価なグラフェン接合体を用いることで、従来の基材や部品の姿を大きく変えることができるという画期的な効果を生むことで本発明の第三の課題が解決できる。
ここで、基材ないしは部品の製造方法を説明する。熱処理で磁性を有する金属が析出する原料が吸着したグラフェンの集まり、ないしは、熱処理で磁性を有する金属と磁性を有しない金属とからなる複数種類の金属が析出する原料が吸着したグラフェンの集まりと基材ないしは部品とを、金属を析出する原料が溶解ないしは分散しにくい液体、例えば水に混合して攪拌する。この後、水を蒸発させると、グラフェンの集まりが、基材ないしは部品に吸着する。この基材ないしは部品を熱処理すると、グラフェンに吸着した金属の原料が熱分解し、磁性を持つ金属微粒子ないしは磁性を持つ複合金属微粒子がグラフェンの表面に担持し、磁性を持つ金属微粒子同士ないしは磁性を持つ複合金属微粒子同士が磁気吸着し、全てのグラフェンが互いに近接する。さらに、磁気吸着した微粒子の表面に金属が析出し、これによって、磁性を持つ金属微粒子同士ないしは磁性を持つ複合金属微粒子同士の金属結合によってグラフェンが接合してグラフェン接合体が生成される。このグラフェン接合体が生成される現象は、グラフェンが吸着した基材ないしは部品の表面で起こるため、生成されたグラフェン接合体は、基材ないしは部品が磁性を持つ場合は基材ないしは部品に磁気吸着し、基材ないしは部品が磁性を持たない場合は基材ないしは部品に極薄い被膜を形成する。これによって、基材ないしは部品の表面は新たに超撥水性を示す。
前記した磁性を有する基材ないしは部品の好適な一例として、例えば、スクリーン印刷で用いるメタルマスク版が挙げられる。前記したグラフェンの集まりが吸着したメタルマスク版を熱処理してグラフェン接合体を生成すると、メタルマスク版の表面にグラフェン接合体が磁気吸着し、メタルマスク版の表面に超撥水性が付与される。この結果、ペースト剤やレジスト剤がメタルマスク版から容易に剥離し、メタルマスク版によるスクリーン印刷精度が大幅に向上する。また、メタルマスク版の洗浄が一切不要になる。メタルマスク版は、ニッケルやニッケル合金、あるいはマルテンサイト系やフェライト系のステンレススチールで構成すれば、メタルマスク版は強磁性の性質を持つ。なお、メタルマスク版へのグラフェン接合体の磁気吸着力が弱いことが問題になれば、グラフェン接合体が磁気吸着した後に、着磁機によってメタルマスク版を着磁させれば、磁気吸着力は著しく増大する。また、グラフェン接合体は極めて微細な物質であるため、メタルマスク版にグラフェン接合体が磁気吸着してもメタルマスク版の形状は変わらず、メタルマスク版のスクリーン印刷精度は変わらない。なお、新たに撥水性を付与する基材ないしは部品は、前記したメタルマスク版に限定されることはない。グラフェン接合体が基材ないしは部品に磁気吸着すれば、基材ないしは部品の表面に新たに撥水性を付与される。
また、磁性を持たない基材ないしは部品の好適な事例として、各種の液体を噴射するノズルが挙げられる。つまり、熱処理で磁性を有する金属が析出する原料が吸着したグラフェンの集まり、ないしは、熱処理で磁性を有する金属と磁性を有しない金属とからなる複数種類の金属が析出する原料が吸着したグラフェンの集まりをノズルに吸着させ、このノズルを熱処理してグラフェン接合体を生成すると、ノズルの内表面と外表面とにグラフェン接合体の極薄い被膜が形成され、ノズルに超撥水性が付与される。これによって、ノズルの内面のみならず外面にも異物が付着することがなくなる。この結果、ノズルを洗浄することなく、半永久的にノズルが使用できる。例えば、温水洗浄便座における肛門部および女性局部を洗浄する洗浄ノズルがある。この洗浄ノズルは、ケーシングの収容位置から洗浄位置まで往復動作するノズルロッドを備え、その先端に洗浄水を噴出させるための吐出穴を有するノズルヘッドを設けている。このようなノズル装置では、洗浄の時にはノズルヘッド部分が人体の局部に接近して洗浄水を噴射するため、洗浄の際に汚水や汚物が浴びやすい。そのため、洗浄動作の前後に洗浄水をノズルヘッドに噴射してノズルヘッドの洗浄を行なっている。ノズルヘッドの内表面と外表面とに、グラフェン接合体からなる超撥水性の極薄い被膜を形成させることによって、洗浄時の汚水、汚物がノズルヘッドに付着することがなくなり、かつ、クリーニング動作が不要になる。
また、液体を噴射させるノズルの他の事例として、液晶表示パネルやプラズマ表示パネルなどの製造に用いるガラス基板、半導体ウエハ、半導体製造装置用のマスク基板などの各種基板の表面に、フォトレジスト液、カラーレジスト液、現像液、超純水などの各種液体を供給するための液体供給ノズルが挙げられる。例えば、液晶表示パネルの製造工程において、スリット状の開口を有するノズルを用いてガラス基板に対してフォトレジスト液を吐出しながらノズルを移動させて塗布する。このノズルの表面にグラフェン接合体からなる超撥水性を有する極薄い被膜を形成すると、ノズルの表面にフォトレジスト液は付着しない。また、グラフェン接合体の被膜は極めて薄く、かつ金属微粒子同士の金属結合力に基づく強度を有するため、ノズルの先端がガラス基板と接触したとしても被膜が剥がれることはない。なお、新たに撥水性を付与する基材ないしは部品は、前記した液体を噴射するノズルに限定されることはない。基材ないしは部品の表面をグラフェン接合体で覆うことで、基材ないしは部品の表面に新たに優れた撥水性を付与することが出来る。
前記した磁性を持つ基材ないしは部品の好適な事例として、光ディスクを製造する際に用いるスタンパーが挙げられる。スタンパーは、成形時に高温のポリカーボネート樹脂に接触すると熱膨張する。このため光ディスク基板の成形時に、スタンパーは膨張と収縮を繰り返す。その結果、スタンパーは金型と摩擦をおこし、スタンパーの一部が削られる。この削られたスタンパー成分のニッケル粉が他の場所に移動し、成形中の圧力によってスタンパーが変形する。この結果、変形したスタンパーによって成形される基板形状は正規の基板形状とは異なり、使用できるスタンパーの寿命が短くなるという課題がある。
いっぽう、熱処理で磁性を有する金属が析出する原料が吸着したグラフェンの集まり、ないしは、熱処理で磁性を有する金属と磁性を有しない金属とからなる複数種類の金属が析出する原料が吸着したグラフェンの集まりをスタンパーに吸着させ、スタンパーを熱処理してグラフェン接合体を生成すると、スタンバーの表面にグラフェン接合体が磁気吸着し、スタンバーの表面は耐摩耗性が著しく向上する。また、グラフェン接合体は極薄い被膜であるため、スタンパー表面の形状は変わらない。なお、スタンバーは、記録したビットの表面にニッケル薄膜がスパッタリングで形成されているので強磁性の性質を持つ。このため、ビットが形成された表面に、グラフェン接合体が選択的に磁気吸着する。また、グラフェン接合体に担持された金属微粒子から発する磁力は、スタンパーのニッケル薄膜の磁力に比べて著しく小さく、ニッケル薄膜の磁力がグラフェン接合体で乱されない。このように、スタンパーにグラフェン接合体を磁気吸着させるだけで、スタンパーは半永久的に使用することができるという画期的な作用効果をもたらす。なお、耐摩耗性を付与する磁性を持つ基材ないしは部品は、スタンバーに限定されない。グラフェン接合体が磁気吸着すれば、新たに耐摩耗性が付与される。
また、磁性を持たない基材ないしは部品の好適な事例として、電気・電子部品のコネクタ、電気機械式小型リレー、プリント配線板、ブレーカーなどに用いられている電気接点がある。電気接点には、機械的特性、電気伝導性に優れる銅や銅合金などの金属部材に拡散防止や耐久性向上のためにニッケルもしくはニッケル合金の下地メッキを行い、その上に電気伝導性と耐食性にすぐれる銀メッキを行った材料からなるものがある。また、銅や銅合金に硬質銀や硬質金のメッキを施すものもある。しかし、ニッケルメッキの上に銀メッキを行った材料では、実装リフロー時や樹脂溶着などにより熱がかかると銀とニッケル間の密着力が低下するという問題点がある。また、硬質銀メッキや硬質金の処理を施した電気接点材では、無光沢銀材や金材よりは摩耗性が少ないものの、比較的大きい荷重での摺動が必要な箇所に用いるとすぐに消耗し、基材が露出して酸化や腐食を生じることで摺動接点材の導通不良をしばしば起こす。このように、電気接点の多くの問題はメッキ層に関わる問題であって、メッキ層が下地金属に積層することでメッキ層が形成されるため、メッキ層と下地金属との結合力がアンカー効果による弱い結合力であることによる。
いっぽう、熱処理で磁性を有する鉄と磁性を有しない銅とからなる複数種類の金属が析出する原料が吸着したグラフェンの集まりを用いて、鉄と銅とからなる複合金属微粒子の金属結合でグラフェン接合体を生成する場合は、グラフェン接合体の表面に担持される複合金属微粒子は、電気接点の下地金属である銅や銅合金と金属結合する。この理由は、有機金属化合物の熱分解によって析出する金属は、不純物を一切持たず、極めて活性度の高い金属であることによる。これによって、グラフェン接合体と下地金属との結合力が著しく増大し、また、グラフェン接合体からなる被膜によって表面の耐摩耗性が向上する。この被膜は、厚みに対する表面積の比率が著しく大きく、かつ、グラフェンが導電性を持つため、被膜が形成する電気抵抗は極めて小さい。さらに、電気接点はグラフェン接合体の被膜を介して他の部材との電気的接合を図るため、電気接点の下地金属が他の金属と直接接触することはなく、下地金属の拡散は起こらない。また、被膜の形成は、グラフェンに吸着した金属を析出する原料を熱処理するだけであり、被膜を形成する費用は、メッキ処理の費用に比べて著しく安価である。このように、グラフェン接合体の被膜によって電気接点の下地金属を被覆する利点は、耐摩耗性の向上のみならず多くの利点がある。なお、新たに耐摩耗性を付与する基材ないしは部品は、電気接点に限定されることはなく、グラフェン接合体の被膜が基材ないしは部品の表面に形成できればよい。
このような潤滑性を付与する基材ないしは部品の好適な事例として、軸受、歯車、ギアなどの摺動部ないしは被摺動部に設けられる摺動部材が挙げられる。従来は、非晶質炭素材料や粉末合金材料からなる焼結体や熱可塑性樹脂の成形体などからなる摺動部品ないしは被摺動部品の摺動部ないしは被摺動部に、フッ素樹脂やフッ素樹脂の複合材やダイアモンドライクカーボンなどの摺動材料が使用されている。フッ素樹脂やフッ素樹脂の複合材からなる摺動部材ないしは被摺動部材においては、耐摩耗性が十分でなく耐久性に劣る。また、ダイアモンドライクカーボンにおいては、表面の平坦度をサブミクロンレベルに上げることができず、摩擦力が大きく、相手部材に対する攻撃性のみならず摺動性や摩擦熱および異音を発生する上で問題点を有する。このような摺動上の問題の根本的な要因は、摺動部ないしは被摺動部における摩擦力に集約される。つまり、摩擦力を激減させることで、摺動に係わる多くの問題点が同時に解決できる。しかし、従来の製法によっては、摺動部ないしは被摺動部の表面をナノレベルの平坦度に加工することは困難であり、鏡面仕上げによるサブミクロンの平担度が限度である。従って、摺動部材ないしは被摺動部材の表面を構成する材料を変えても、摺動部ないしは被摺動部における摩擦力を著しく低減することはできず、摺動に係わる根本的な問題の解決にはならない。
こうした摺動部材ないしは被摺動部材の表面にグラフェン接合体を磁気吸着ないしは被覆させ、表面をナノレベルの凹凸を有する平坦度とすることで、相手の部材と複数の接触点からなる点接触に近い状態で接触させ、摺動時における摩擦力が激減できる。なお、摺動部品ないしは被摺動部品の形状は、その用途に応じて種々の形態とすることができ、平板状、凸状、窪み状、円筒状又は円管状であって円筒の外表面に摺動部ないしは被摺動部を有するもの、円管状であってその内部の表面に摺動部ないしは被摺動部を有するものなど種々の形状が挙げられ、これら摺動部ないしは被摺動部に微細なグラフェン接合体が接合する。また、摺動部品ないしは被摺動部品が磁性を有する場合はグラフェン接合体が磁気吸着し、摺動部品ないしは被摺動部品が非磁性の場合はグラフェン接合体からなる極薄い被膜が形成される。なお、新たに潤滑性を付与する基材ないしは部品は、摺動部品ないしは被摺動部品に限定されない。グラフェン接合体が基材ないしは部品に磁気吸着ないしは被覆すればよい。
このようなスクリーンメッシュは、例えば、固体高分子形燃料電池におけるアノード触媒ないしはカソード触媒に用いることで、触媒作用の効率が飛躍的に向上する。従来のアノード触媒ないしはカソード触媒の製造コストに比べて、著しく安価な製造コストで触媒作用を発揮するスクリーンメッシュが製造できる。
ここで、触媒作用を持つスクリーンメッシュの製造方法を説明する。強磁性の性質を有するスクリーンメッシュは、ニッケルやニッケル合金、あるいはマルテンサイト系やフェライト系のステンレススチールの細線を編むことで製造する。第一の有機金属化合物として有機鉄化合物を用い、有機鉄化合物がグラフェンに吸着したグラフェンの集まりを製造する。このグラフェンの集まりを、有機鉄化合物が溶解ないしは分散しにくい液体、例えば水に混合させ、この混合液にスクリーンメッシュを浸漬して攪拌する。この後、水を蒸発させると、スクリーンメッシュの表面に、有機鉄化合物が吸着したグラフェンの集まりが吸着する。さらに、スクリーンメッシュを容器から取り出して大気雰囲気で熱処理すると、スクリーンメッシュに吸着していた有機鉄化合物が熱分解して鉄微粒子同士の金属結合によってグラフェン接合体が生成され、このグラフェン接合体はスクリーンメッシュに磁気吸着する。
次に、第二の有機金属化合物として有機白金化合物を用意する。この有機白金化合物のアルコール分散液が入った容器に、グラフェン接合体が磁気吸着したスクリーンメッシュを浸漬する。この後、アルコールを蒸発させ、スクリーンメッシュの表面に有機白金化合物を吸着させる。容器からスクリーンメッシュを取り出し、還元性雰囲気で熱処理する。スクリーンメッシュに吸着した有機白金化合物が還元されると、スクリーンメッシュに磁気吸着したグラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に白金が析出し、鉄と白金とからなる複合金属微粒子が形成される。この結果、複合金属微粒子が表面に担持されたグラフェン接合体が、グラフェン接合体の集まりとしてスクリーンメッシュに磁気吸着し、このスクリーンメッシュは極めて効率よい触媒作用を発揮する。
また、触媒作用を持つ金属としてパラジウムを用いる場合は、第二の有機金属化合物として、有機パラジウム化合物を用いる。さらに、触媒作用を持つ金属としてルテニウムを用いる場合は、有機ルテニウム化合物を用いる。また、触媒作用を持つ金属を、白金とルテニウムとからなる合金とする場合は、第二の有機金属化合物として有機白金化合物と有機ルテニウム化合物を用いる。この有機白金化合物と有機ルテニウム化合物とをアルコールに分散し、この分散液が入った容器に、グラフェン接合体が磁気吸着したスクリーンメッシュを浸漬する。アルコールを蒸発させた後に、容器からスクリーンメッシュを取り出し還元性雰囲気で熱処理する。スクリーンメッシュに吸着した有機白金化合物と有機ルテニウム化合物とが同時に還元され、スクリーンメッシュに磁気吸着したグラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に、白金とルテニウムとが同時に析出して、白金とルテニウムとの合金が複合金属微粒子の表層に形成される。また、触媒作用を持つ金属として、白金とコバルトとからなる合金を用いる場合は、前記した有機ルテニウム化合物の代わりにコバルト化合物を用いる。
ここで、固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell)におけるアノード触媒ないしはカソード触媒の作用を説明する。負極側に水素やメタノールなどの燃料が供給されて燃料極を構成し、負極側に配置されたアノード触媒の元で下記の酸化反応を起こし、燃料がプロトンH+と電子e−とに分解する。化1は水素を燃料として用いた場合の酸化反応で、化2はメタノールを燃料として用いた場合の酸化反応である。
(化1)
H2→2H++2e−
(化2)
CH3OH+H2O→CO2+6H++6e−
この後、プロトンは固体電解質の膜内を移動して陽極側に配置されたカソード触媒に至る。電子は負極から導線を通って陽極に移動し、さらに陽極側に配置されたカソード触媒に至る。このカソード触媒には空気が供給され、この空気が陽極としての空気極を構成する。カソード触媒の下では、下記の化3で示す還元反応が起こり、水が生成される。つまり、燃料電池は、燃料極で燃料をプロトンと電子とに分解し、この電子の生成によって電圧が発生し、空気極でプロトンと電子とが空気中の酸素ガスと反応してよって水を生成する。こうした化学反応が、アノード触媒とカソード触媒の近くで連続して発生する。
(化3)
3/2・O2+6H++6e−→3H2O
以上に説明した固体高分子形燃料電池の動作においては、燃料をプロトンと電子とに分解する酸化反応を担うアノード触媒の触媒作用の効率と、燃料の酸化反応から生成されたプロトンと電子が酸素と反応して水を生成する還元反応を担うカソード触媒の触媒作用の効率とが、燃料電池における発生電圧の大きさを決める重要な役割を担う。
次に、グラフェン接合体によるアノード触媒、ないしはカソード触媒の作用効果を説明する。固体高分子形燃料電池では、負極側に供給される燃料に微量の一酸化炭素が含まれる。白金族の金属、たとえば白金、ロジウムおよびパラジウムは、一酸化炭素を吸着する性質を持つ。これによって、白金族の金属の表面が一酸化炭素の被膜で覆われ、白金族の金属の触媒作用を阻害する、いわゆる触媒の失活状態になる。他方、鉄は常温においても一酸化炭素を吸着して金属カルボニルと呼ばれる遷移金属錯体、鉄ペンタカルボニルFe(CO)5を形成する。このため、グラフェン接合体の表面に担持された複合金属微粒子の構造を、表層の多くを白金族の金属で構成し、表層の一部に鉄を残す構造とすると、白金族の金属は一酸化炭素によって被毒しない。つまり、複合金属微粒子の表層は、鉄が一酸化炭素と反応して鉄ペンタカルボニルを生成し、白金族の金属が触媒作用を発揮する。いっぽう、白金族の複数の金属からなる合金、例えば、白金ルテニウムは、触媒作用を持つが一酸化炭素を吸着しない。さらに、白金族の金属とコバルトとからなる合金、例えば白金コバルトやパラジウムコバルトは、触媒作用を持つが一酸化炭素を吸着しない。このため、複合金属微粒子の表層の一部に鉄を残す必要はない。
以上に説明したように、燃料と接するアノード触媒に、鉄と白金、ないしは鉄とパラジウムとからなる複合金属微粒子が表面に担持されたグラフェン接合体を用いることが出来る。すなわち、グラフェンの表面に担持した鉄微粒子の金属結合で、グラフェンを接合してグラフェン接合体を製造する。さらに、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に、鉄の析出量より僅かな量として、たとえば1/30以下の量として白金ないしはパラジウムを析出させれば、表層の多くが白金ないしはパラジウムで構成され、表層の一部に鉄が残存する複合金属微粒子がグラフェン接合体の表面に形成される。これによって、白金と鉄、ないしはパラジウムと鉄で構成され複合金属微粒子の表層は、白金ないしはパラジウムが触媒作用を発揮し、鉄は一酸化炭素と反応して鉄ペンタカルボニルを生成する。このため、白金ないしはパラジウムは一酸化炭素によって被毒されない。このような2つの作用を持つ複合金属微粒子が、表面に担持されたグラフェン接合体は、アノード触媒に用いることが出来る。さらに、極めて扁平な物質であるグラフェン接合体の表面に複合金属微粒子が担持され、全ての複合金属微粒子が触媒作用を発揮する。また、白金ないしはパラジウムが析出する量を僅かにしたため、白金ないしはパラジウムを析出する高価な原料の使用量は少なくて済む。なお、このグラフェン接合体はカソード触媒として用いることもできる。
また、鉄と、白金とルテニウムとの合金とからなる複合金属微粒子が表面に担持されたグラフェン接合体は、アノード触媒ないしはカソード触媒として用いることができる。すなわち、グラフェンの表面に担持した鉄微粒子の金属結合で、グラフェン同士を接合してグラフェン接合体を製造する。さらに、このグラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に、鉄の析出量より少ない量として、たとえば1/10以下の量として、白金とルテニウムとを同時に析出させ、鉄微粒子の表層に白金とルテニウムとからなる合金を形成する。これによって、グラフェン接合体の表面に担持される複合金属微粒子は、鉄微粒子の表面全体に白金とルテニウムとの合金層が薄く形成され、この複合金属微粒子は効率のよい触媒作用を発揮する。
さらに、アノード触媒ないしはカソード触媒に、鉄と、白金族の金属とコバルトとの合金、例えば、白金コバルトないしはパラジウムコバルトからなる複合金属微粒子が表面に担持されたグラフェン接合体を用いることもできる。グラフェンの表面に担持した鉄微粒子の金属結合で、グラフェンを接合してグラフェン接合体を製造する。さらに、このグラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に、鉄の析出量より少ない量として、たとえば1/10以下の量として、白金とコバルト、ないしは、パラジウムとコバルトを同時に析出させ、鉄と、白金とコバルトとの合金ないしはパラジウムとコバルトとの合金からなる複合金属微粒子を形成する。これによって複合金属微粒子は、鉄微粒子の表面全体に白金とコバルト、ないしはパラジウムとコバルトとの合金層が薄く形成される。このため、この複合金属微粒子は効率のよい触媒作用を発揮する。
以上に説明したように、グラフェン接合体の表面に担持した複合金属微粒子は、微粒子であるがゆえに大きな比表面積を持つ。このため、複合金属微粒子の表層の多くの部分ないしは全てを、触媒作用を有する白金ないしはパラジウム、ないしは白金とルテニウムとの合金、ないしは白金族の金属とコバルトとの合金で構成した場合は、複合金属微粒子の表面が化学反応を起こす物質、ここでは、水素ないしはメタノール、および空気と効率よく接触でき、複合金属微粒子の触媒作用の効率が著しく上がる。また、グラフェン接合体は、グラフェンを接合した極めて平面状の物質で、厚みに対する面積の比率であるアスペクト比が極めて大きい。これによって、複合金属微粒子をグラフェン接合体の表面に担持でき、全ての複合金属微粒子の表層が燃料ないしは空気と直接接触する。このため、極めて効率のよい触媒作用を発揮する。さらに、こうしたグラフェン接合体が平面状のスクリーンメッシュに磁気吸着するので、グラフェン接合体の表面に担持された全ての複合金属微粒子が燃料ないしは空気と直接接するため、従来では考えられない極めて効率よい触媒作用を発揮する。この結果、グラフェン接合体が磁気吸着したスクリーンメッシュは、固体高分子形燃料電池における優れたアノード触媒ないしはカソード触媒として用いることができる。
グラフェン接合体の表面に担持する複合金属微粒子が、表層に触媒作用を持つ金属で構成したのは一例である。例えば、接合する2つの基材ないしは部品の間に、熱伝導性を確保しつつ電気絶縁性を確保する場合は、鉄と銅とからなる複合金属微粒子の表層に酸化アルミニウムを析出した複合微粒子が担持されたグラファン接合体を吸着すればよい。さらに、グラフェン接合体をスクリーンメッシュに磁気吸着させたのは一例であって、スクリーンメッシュに限定されるものではない。強磁性の性質を持つ基材ないしは部品に、複合金属微粒子が担持されたグラフェン接合体を磁気吸着させることで、基材ないしは部品は複合金属微粒子の性質を発揮する。このため、基材ないしは部品に新たに付与する性質に応じて、グラフェン接合体の表面に担持される複合金属微粒子の構成を決めればよい。
次に、スクリーンメッシュの製造方法を説明する。スクリーンメッシュは、ニッケルやニッケル合金、ないしはマルテンサイト系やフェライト系のステンレススチールなどの強磁性の合金からなり、線径が1ミクロン〜40ミクロン程度の細線を編んだもので、開口率が40体積%以上を有する。高分子電解質材料が溶剤で希釈された希釈液を容器に充填し、この容器に、66段落で説明したグラフェン接合体が磁気吸着したスクリーンメッシュを浸漬する。この後、スクリーンメッシュを容器から引き上げ、前記の溶剤を気化させる。これによって、スクリーンメッシュの表面全体に極薄い高分子電解質膜が吸着すると共に、グラフェン接合体と、グラフェン接合体の表面に担持された複合金属微粒子の表層にも極薄い高分子電解質膜が吸着する。なお、プロトンの伝導性を有する高分子電解質材料は、ナフィオン(Nafion、アメリカのデュポン社の商標)、フレミオン(Flemion、旭硝子株式会社の商標)、アシプレックス(Aciplex、旭化成株式会社の商標)などのスルホン酸基を持ったフッ素系ポリマーであるパーフルオロスルホン酸とカーボンとの重合体が挙げられる。なお、燃料極と空気極とにサンドイッチされる固体高分子電解質膜も、同様の高分子電解質材料で構成される。
次に、前記した製法で製造したスクリーンメッシュの燃料極と空気極としての作用を説明する。燃料は、スクリーンメッシュの両面に磁気吸着したグラフェン接合体と常時接するので、グラフェン接合体の表面に担持された複合金属微粒子も燃料と接して触媒作用をもたらし、複合金属微粒子の近傍で燃料が酸化され、プロトンと電子とが生成される。生成されたプロトンは、複合金属微粒子の表面に吸着した高分子電解質膜から、圧着された固体電解質膜に伝導され、固体電解質膜を通って空気極に伝導される。一方、生成された電子は、複合金属微粒子からグラフェン接合体に伝導され、さらにスクリーンメッシュに伝導され、スクリーンメッシュから、導線を介して空気極に伝導される。こうして、燃料極で生成されたプロトンと電子とが空気極に達する。
高分子電解質材料は、湿潤状態を保持することでプロトンが水和されてスルホン酸基上をプロトンが移動する。空気極で生成される水は、カソード触媒としての複合金属微粒子の近傍で生成されるので、表層の高分子電解質膜に水が供給される。また、空気極側に磁気吸着した複合金属微粒子は固体電解質膜に圧着されているので、複合金属微粒子の表層に供給された水は固体電解質膜に水を供給する。いっぽう、燃料極においても、燃料極側に磁気吸着した複合金属微粒子が固体電解質膜に圧着されているので、固体電解質膜に供給された水は、燃料極側に磁気吸着した複合金属微粒子の表層の高分子電解質膜に供給される。さらに、燃料極と空気極とのスクリーンメッシュと、グラフェン接合体および複合金属微粒子の表面に極薄い高分子電解質膜が形成されているので、複合金属微粒子から、燃料極および空気極のスクリーンメッシュとグラフェン接合体の表面に水が供給され、燃料極および空気極においても高分子電解質膜はプロトンを移動する機能を保持する。
次に、前記した製法で製造したスクリーンメッシュの空気極の作用を説明する。空気極の裏面に磁気吸着した複合金属微粒子が、固体電解質膜に圧着されているため、固体電解質膜を伝導したプロトンは、複合金属微粒子の表層の高分子電解質膜を介して、グラフェン接合体に吸着した高分子電解質膜に、さらに、スクリーンメッシュの表面に吸着した高分子電解質膜に伝導する。さらに、スクリーンメッシュの表面に磁気吸着したグラフェン接合体に伝導し、さらにグラフェン接合体の表面に担持された複合金属微粒子の表面に伝導する。この結果、固体電解質膜を伝導したプロトンは、空気極の裏面と表面とに存在する複合金属微粒子に到達する。一方、導線を伝導してきた電子は、スクリーンメッシュを介してグラフェン接合体に伝導し、さらに複合金属微粒子に到達する。こうして、空気極側の裏面と表面とに存在する複合金属微粒子は、常時空気と接しているので触媒作用を発揮し、空気中の酸素ガスがプロトンと電子と反応して水を生成する。この結果、燃料極における燃料の酸化反応と空気極における還元反応とが連動して起こり、電圧が発生する。
次に、スクリーンメッシュを燃料極および空気極として用いることによる作用効果を説明する。第一に、従来技術のガス拡散層は不要になる。つまり、スクリーンメッシュが燃料ないしは空気に直接接触するので、ガス拡散層が不要になる。従来は、アノード触媒層ないしはカソード触媒層に燃料ないしは空気を導くためにガス拡散層を設けている。ガス拡散層としては、ガスを拡散する多数の細孔を有するカーボンペーパーやカーボンクロスを用いている。このカーボンペーパーやカーボンクロスの電気導電性をグラフェン並みに高めるため、2000℃を超える還元雰囲気で還元焼成し、黒鉛の結晶化を進める還元処理を行っている。このため、カーボンペーパーやカーボンクロスは極めて製造コストが高い。なお、グラフェン接合体は、黒鉛の結晶化が最も進んだグラフェンを、金属微粒子ないしは複合金属微粒子の金属結合で接合したため、電気伝導性はカーボンペーパーやカーボンクロスより高い。さらに、前記したように本発明においては、グラフェン接合体は、安価な製造コストで製造できる。
第二に、触媒作用の効率が格段に上がる。つまり、比表面積が大きい複合金属微粒子が触媒作用を発揮し、この複合金属微粒子が極めて扁平な物質であるグラフェン接合体の表面に担持され、さらに、グラフェン接合体が平面状のスクリーンメッシュの両面に磁気吸着されるので、全ての複合金属微粒子は常時燃料ないしは空気に接し、極めて効率の高い触媒作用を発揮する。いっぽう、従来技術における触媒層は、カーボンブラックの粒子の表面に触媒機能を有する金属微粒子ないしは合金微粒子を結合させ、このカーボンブラックの集まりによって触媒層を構成している。カーボンブラックが粒子であり、かつカーボンブラックの集まりによって触媒層を形成するため、触媒機能を有する金属微粒子ないしは合金微粒子の多くが、カーボンブラックの粒子同士の間に埋もれ、あるいは、カーボンブラックの粒子同士に挟まれ、燃料ないしは空気と接近ないしは接触することが出来ず、触媒作用が発揮できない。このため、高価な金属微粒子ないしは合金微粒子の多くは、触媒作用が発揮できない。
第三に、固体電解質膜および高分子電解質膜に水分を容易に供給できる。プロトンを伝導する固体電解質膜および高分子電解質膜は、プロトンが水和されることでスルホン酸基上をプロトンが移動するため、常時湿潤状態を保持しなければならない。このため、従来技術における触媒層を形成するカーボンブラックは、保水性を持たせるための処理が必要になり、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどに保水性処理を行っている。この保水性処理によって、過剰な高分子電解質の層に触媒作用を発揮する微粒子が埋もれ、触媒作用を発揮することができない。いっぽう、空気極を構成するスクリーンメッシュは、磁気吸着したグラフェン接合体の表面に担持された複合金属微粒子の近傍で水が生成される。複合金属微粒子は固体電解質膜に圧着されているので、複合金属微粒子の近傍で生成された水は固体電解質膜に常時水を供給する。この結果、固体電解質膜は湿潤状態を保持することが出来る。さらに、燃料極では、グラフェン接合体の表面に担持された複合金属微粒子が固体電解質膜に圧着されているので、固体電解質膜に供給された水は燃料極の複合金属微粒子に供給する。また、燃料極および空気極において、複合金属微粒子とグラフェン接合体とスクリーンメッシュとが、連続した高分子電解質の被膜を形成するため、燃料極および空気極のグラフェン接合体とスクリーンメッシュの表面にも水が供給される。このため、燃料極および空気極に対して特段な保水性処理を行う必要がない。
例えば、グラフェン接合体の表面に担持される複合微粒子の表層を、66段落に記載した触媒作用を有する金属ないしは合金を酸化アルミニウムで構成し、このグラフェン接合体を基材ないしは部品に被覆させると、複合微粒子の表層を構成する酸化アルミニウムの作用によって、耐摩耗性と潤滑性とを同時に基材ないしは部品に付与することができる。すなわち66段落で記載した新たな有機金属化合物として、有機白金化合物の代わりに有機アルミニウム化合物を用いることで、表層が酸化アルミニウムからなる複合微粒子が担持されたグラフェン接合体からなる被膜が、基材ないしは部品の表面に形成される。この事例では、62段落に説明した鉄と銅とからなる複合金属微粒子の表層が、酸化アルミニウムで構成されるため、被膜は耐摩耗性の性質を持つ。なお、潤滑性については、64段落に説明した潤滑性と同様であり、基材ないしは部品の表面に形成されたナノレベルの凹凸による。
このようなグラフェン接合体を、摺動部品ないしは被摺動部品の表面に被膜として形成することで、グラフェン接合体は摺動部ないしは被摺動部に耐摩耗性と潤滑性とを同時に付与する。この摺動部品ないしは被摺動部品は、64段落で説明した摺動部品ないしは被摺動部品より、摺動部ないしは被摺動部により大きな荷重が発生しても、複合微粒子の表層を構成する酸化アルミニウムの作用で、摺動部ないしは被摺動部に対し耐摩耗性と潤滑性とを同時に付与することができる。このような摺動部品ないしは被摺動部品として、摺動部品と被摺動部品との双方が、金属ないしは合金から構成される軸受、歯車、ギア、スプール、プランジャー、ピストン、ローターなどの様々な機構部品が挙げられる。
さらに、プリンターやファクシミリ等における印字ヘッドとして使用されるサーマルヘッドの保護膜や、磁気記録媒体に相対的に摺動して情報の磁気記録または再生を行なう磁気ヘッドコアをヘッドケース内に固定してなる磁気ヘッドの保護膜として用いることができる。すなわち、サーマルヘッドにおいては、グラフェン接合体からなる保護膜は、耐摩耗性と潤滑性のみならず、ナノレベルの凹凸によって表面が形成されるため、60段落に記載したグラフェン接合体の撥水性の機能を有し、感熱記録紙や感熱紙の発色剤が保護膜に付着しない。また、グラフェン接合体が金属より熱伝導性に優れ、かつごく薄い被膜として形成されるため、保護膜の熱応答性が優れ、高速印字においても印字が薄れることはない。さらに、平坦度が極めて高い極薄い被膜からなるため、高速印字に対する追従性に優れる。こうした様々な作用効果が同時に得られる。また、磁気ヘッドにおいては、耐摩耗性のみならず、64段落で記載したように、グラフェン接合体は相手部材と複数の接触点からなる点接触に近い接触形態で接触するため潤滑性を有し、記録媒体に対し損傷を与えないという効果も得られる。さらに、平坦度が極めて高い極薄い被膜からなるため、高速磁気記録に対する追従性が得られる。このような多くの作用効果が同時に得られる。
また、複合微粒子を構成する事例として、酸化アルミニウムの表層を白金で構成し、このグラフェン接合体を部品に被覆させることで、新たに耐摩耗性と潤滑性と共に、耐食性を同時に部品に付与することができる。このような部品の好適な事例として、62段落で説明した電気接点が挙げられる。62段落で記載したグラフェン接合体に比べ、表面に担持される複合微粒子の表層を白金で構成するため、電気接点の接合部は、耐摩耗性と潤滑性に加えて耐食性が向上する。
、前記グラフェン接合体を、前記プリント配線板と前記基板との間に圧着させることによって、ないしは、前記プリント配線板と前記フレキシブル基板との間に圧着させることによって、前記プリント配線板の熱が、前記圧着されたグラフェン接合体を介して、前記基板ないしは前記フレキシブル基板に伝達する熱伝達経路が形成される前記プリント基板ないしは前記フレキシブルプリント基板である、方法。
本事例では、表面が電気絶縁性で熱伝導性である酸化アルミニウムの性質を持つグラフェン接合体を用いる。このグラフェン接合体は、銅の析出量が鉄の析出量より過多となる複合金属微粒子によってグラフェンを接合すれば、銅の性質が反映されて熱伝導性に優れる。また、表層が酸化アルミニウムからなる複合微粒子が表面に担持されているので、グラフェン接合体に圧縮応力が加わると、プリント配線板と基板ないしはフレキシブル基板に複合微粒子が食い込んで、基板ないしはフレキシブル基板とプリント配線板とが接合する。この際、プリント配線板における絶縁性は、酸化アルミニウムによって確保される。また、グラフェン接合体は厚みと重量とが極微小なので、回路基板の厚みと重量との増大はない。
前記したプリント基板は、紙フェノール基板に代表される紙基材銅張積層板、ガラスエポキシ基板に代表されるガラス基材銅張積層板、エポキシ系コンポジットやポリエステル系コンポジットなどのコンポジット銅張積層板、アルミナ基板に代表されるセラミック系基板などからなるリジッド基板、絶縁基材にポリエステルフィルム、ポリイミドフィルムなどからなる薄く柔軟性のあるフレキシブル銅張板などを含む。また、リジッド基板では、片面基板、両面基板、多層基板を含む。
半導体デバイスは、電流を流したときの内部抵抗であるオン抵抗を有し、オン抵抗による熱を発生する。この熱を効率よく伝達させ半導体デバイスの昇温が抑制できれば、半導体デバイスの実装密度がさらに高められ、電子回路が小型化できると共に、高密度実装された電子デバイスの動作寿命が延びる。つまり、半導体デバイスは、他の電子デバイスと共に、デバイスの端子をプリント配線板に実装して電子回路を構成するため、半導体デバイスが発する熱は、プリント配線板に実装された他の電子デバイスにも伝達する。いっぽう、プリント配線板は、基板ないしはフレキシブル基板と一体化されてプリント基板ないしはフレキシブルプリント基板になり、回路基板としての機械的強度を確保している。
回路基板に実装された半導体デバイスが発生する熱は、次の3つの伝達経路によって大気に放熱される。第一の伝達経路は、半導体パッケージの上部から大気に放熱される経路である。第二の伝達経路は、デバイスの端子からプリント配線板に伝達され、さらに基板に伝達され、最後に基板から大気に放熱される経路である。第三の伝達経路は、半導体パッケージの側面から大気に放熱される経路である。このうち最も放熱量が大きい熱伝達経路は、第二の伝達経路であり全体の約8割を占める。この理由は、基板が最も放熱面積が広いため放熱量が最も多くなる。フレキシブルプリント基板についても同様である。
従来は、基板の熱伝導性を高め、かつ、基板の機械的強度を増大させるため、例えば、エポキシ樹脂に、絶縁物の中では相対的に熱伝導性に優れたガラス繊維を分散させたガラスエポキシ樹脂基板が用いられてきた。しかし、金属に比べれば熱伝導性は著しく低いため、ガラスエポキシ樹脂基板の熱伝達効果が過小である場合は、高価なセラミックス基板を用いる。セラミックス基板は、ガラスエポキシ樹脂基板に比べて靱性がなく割れやすいため、基板の厚みを厚くすることで機械的強度を確保している。これによって、電子回路の製造コストが増大すると共に、回路基板の厚みと重量とが共に増大する。
プリント配線板と基板との間に、ないしは、プリント配線板とフレキシブル基板との間に、金属より優れた熱伝導率を持つグラフェン接合体を圧着させると、プリント配線板の熱は効率よくグラフェン接合体を介して、基板ないしはフレキシブル基板に伝導する。これによって、プリント配線板の昇温が抑制され、電子デバイスのさらなる高密度実装が可能になり、電子回路が小型化でき、また、高密度実装された電子デバイスの動作寿命も延びる。さらに、グラフェン接合体は、グラフェンを複合金属微粒子の金属結合で接合したため、金属結合に近い機械的強度を持つ。グラフェン接合体を介在させることで、回路基板としての機械的強度が増大し、基板ないしはフレキシブル基板の厚みを薄くすることができ、これによって基板の重量が低減できる。とくに、高密度実装された電子回路、例えば、携帯電話に内蔵された電子回路では、電子デバイスのさらなる高密度実装の効果、すなわち、電子回路の小型化と共に、基板の厚みと重量の低減効果は極めて大きい。このように、グラフェン接合体を、プリント配線板と基板ないしはフレキシブル基板との間に介在させるだけで、電子回路としての様々な作用効果を同時に発揮することができる。
数多くの半導体デバイスを高密度実装した電子回路では、実装する半導体デバイスの数に応じて発熱量が多くなる。このため、基板の熱伝導性を高めるために、ガラスエポキシ基板ではなくメタル基板ないしはセラミックス基板を用いている。これによって、電子回路の重量が増え、また、電子回路が高価になる。あるいは、自動車に搭載される一部の電子回路では、高温の環境下で動作するため、熱伝導性に優れるメタル基板ないしはセラミックス基板を用いている。このようなメタル基板の材質は一般的に銅やアルミニウムであり、セラミックス基板の材質は一般的にアルミナである。
グラフェン接合体は金属より高い熱伝導率を持つため、プリント配線板とメタル基板との間、ないしは、プリント配線板とセラミックス基板との間にグラフェン接合体を圧着させると、プリント配線板の熱を効率よくメタル基板、ないしは、セラミックス基板に伝導する。なお、グラフェン接合体の形状をプリント配線板の形状とすると、プリント配線板の最も多くの熱がグラフェン接合体に伝わる。これによって、プリント配線板の昇温が抑制され、プリント配線板における電子デバイスのさらなる高密度実装が可能になる。さらに、グラフェン接合体は熱抵抗が金属より小さいため、メタル基板ないしはセラミックス基板の厚みが低減でき、電子回路の重量が著しく減る。このような電子回路として画期的な様々な作用効果は、プリント配線板とメタル基板との間、ないしは、プリント配線板とセラミックス基板との間にグラフェン接合体を圧着させるだけで容易に実現できる。
なお、LED素子では、LEDチップに投入される電力の80%が熱に変換され、この発熱によってLED素子が熱劣化する。このため、LEDチップに流す電流を抑制し、LEDチップの発熱を抑えてLEDチップを動作させている。発熱源であるLEDチップに近いアノード電極ないしはカソード電極と配線電極との間に、金属より熱伝導性が高いグラフェン接合体を圧着させることで、LEDチップから発する熱がグラフェン接合体を介して効率よく配線電極に伝達できる。この配線電極からヒートシンクに熱が伝達し、ヒートシンクから熱が放熱される。この結果、LEDチップの昇温が抑えられる。これによって、より多くの電流をLEDチップに流すことができ、LEDチップの発光量を飛躍的に増大できる画期的な効果が得られる。また、グラフェン接合体は極めて軽量であるため、グラフェン接合体を圧着させても、表面実装型LED素子の重量が増加しない。
ところで、炭化ケイ素SiC、窒化ガリウムGaN、窒化アルミニウムAlNなどからなる半導体は、シリコーンSiからなる半導体に比べてバンドギャップが大きいためワイドギャップ半導体と呼ばれ、Si半導体に比べ高温での動作が可能になる。また、絶縁破壊電圧もSi半導体に比べて大きいため、順方向オン抵抗を低減させることができ、導通損失やスイッチング損失が低減できる。このため、ワイドギャップ半導体は、従来のSi半導体より多くの電流を流すことが出来るが発熱量は増える。いっぽう、SiC半導体はSi半導体の3倍の熱伝導率を持ち、AlN半導体はSi半導体の1.7倍の熱伝導率を持つ。このため、ワイドギャップ半導体からなるICチップの動作時において、Si半導体に比べてICチップからより多くの熱が発生すると共に熱が伝達され易い。これによって、ワイドギャップ半導体からなるICチップのみならず、回路基板に実装された他の電子デバイスに熱の影響を与える。このICチップが発する熱を効率的にヒートシンクに伝達し、電子回路全体の昇温を抑えることが課題になっている。
また、電力を制御するパワーデバイスは、相対的に大きな電流を流すため、より多くの熱が発生する。IGBTチップはパワーMOSFETと共に、こうした電力制御用のパワーデバイスを構成する。さらに、複数のIGBTチップと複数のパワーMOSFETとによってパワーデバイスを構成し、これらのパワーデバイスを駆動させる駆動回路および保護回路と共にインテリジェントパワーモジュールを構成する。このインテリジェントパワーモジュールについても、IGBTチップやパワーMOSFETから発生する熱を効率的に伝達させ、モジュール回路の昇温を抑えることが大きな課題になっている。
前記した3種類の電子デバイスのいずれかの電子デバイスが実装された回路基板とヒートシンクとの間にグラフェン接合体を圧着させると、電子デバイスが発する熱は、金属より熱伝導性に優れるグラフェン接合体を介してヒートシンクに効率的に伝わり、ヒートシンクから大気に放出される。こうして、電子デバイスが実装された電子回路の昇温が抑えられ、さらなる電子デバイスの高密度実装が可能となり、高密度実装された全ての電子デバイスの動作寿命が延びる。さらに、グラフェン接合体は熱抵抗が金属より小さいため、ヒートシンクの厚みが低減でき、電子回路の重量が著しく低減できるという画期的な効果が得られる。また、パワーデバイスを駆動させる駆動回路、電源回路、保護回路などをモジュール化したパワーモジュールにおいても、モジュール回路の昇温が抑えられ、同様の効果が得られる。いっぽう、グラフェン接合体は、厚みが極めて薄く殆ど重量を持たないため、電子回路の厚みと重量との増大はない。
パラフィンの気化が進むにつれ、懸濁液に占めるグラフェン接合体の割合が増大し、グラフェン接合体が磁気吸着する。また、パラフィンワックスの気化に際して、グラフェン接合体が還元性ガスにさらされ、磁気吸着した金属微粒子ないしは複合金属微粒子の表層が新生金属に還元され、金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士の金属結合し、グラフェン接合体が接合する。こうして、パラフィンワックスの気化が完了すると、型内にはグラフェン接合体からなる成形物が製造される。この成形物の少なくとも表層は還元性ガスにさらされていたため、金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士の金属結合によって、グラフェン接合体が接合する。成形物の内部は、金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士の金属結合と磁気吸着とによって、グラフェン接合体が接合する。
なお、前記した有機物は、炭化水素からなるパラフィンワックスに限定されず、合成樹脂でもよい。たとえば、ポリプロピレン樹脂は、大気雰囲気では300℃付近で完全に熱分解され、残渣物を残さない。また、ポリスチレン樹脂は、大気雰囲気では450℃付近で完全に熱分解され残渣物を残さない。但し、合成樹脂の溶剤の使い勝手が悪いため、合成樹脂の溶解溶液を製作する費用は高くなる。
次に、前記した製造方法で製造したグラフェン接合体からなる成形物の作用効果を説明する。成形物の少なくとも表層は、金属微粒子ないしは複合金属微粒子の金属結合で、グラフェン接合体が接合しているため、金属結合に基づく機械的強度を有する。また、金属結合した金属の融点に近い耐熱性を持つ。いっぽう、成形物の内部は、金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士の金属結合と磁気吸着とによって、グラフェン接合体が接合している。従って、グラフェン接合体は、金属微粒子ないしは複合金属微粒子による極微小の間隙をもって接合しているため、グラフェン接合体からなる成形物に液体を充填した場合、液体は表面張力を持つので、金属微粒子ないしは複合金属微粒子が形成する極微小の間隙に液体が浸入ないしは浸透できない。この結果、グラフェン接合体の接合に係わる金属微粒子ないしは複合金属微粒子は、腐食性の強い液体が成形物に充填されても腐食しない。さらに、成形物を着磁機によって着磁すれば、グラフェン接合体同士の磁気吸着力が著しく増大し、成形物の機械的強度が増大する。また、磁性を有する金属が鉄で構成される場合は、鉄の磁気キュリー温度が770℃であるため、770℃に近づかない限り、金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士の磁気吸着力は変わらず、成形物の形状は変わらず、機械的強度も変わらない。さらに、成形物はグラフェン接合体から構成されるので極めて軽量である。また、成形物にどのような性質を持たせるかによって、第一の製造方法で製造したグラフェン接合体、第二の製造方法で製造したグラフェン接合体、第三の製造方法で製造したグラフェン接合体からなるいずれかのグラフェン接合体を選択すればよい。例えば、熱伝導性と電気導電性に優れた成形物を製造する場合は、第二の製造方法で製造したグラフェン接合体を用いる。このように、グラフェン接合体からなる成形物は、従来の成形物にはない様々な特長を持つので、様々な液体を充填する容器になる。また、成形物の形状は、懸濁液を充填する型の形状で決まるので、様々な形状の成形物が製造出来る。
前記した製造工程において、パラフィンの気化が進むにつれ、懸濁液に占めるグラフェン接合体の割合が増大し、グラフェン接合体が磁気吸着する。磁気吸着したグラフェン接合体は、懸濁液の混練によって発生する剪断応力で一旦離れるが、再度磁気吸着する現象を繰り返す。こうして、パラフィンワックスの気化が完了した後に、押出し成形機に残った残渣物を押し出し、グラフェン接合体からなる成形物が製造される。成形物は、磁気吸着によって全てのグラフェン接合体が接合されているために可塑性を持ち、押出成形機のシリンダーとダイスとによって形成される間隙の形状に応じて押し出される。つまり、間隙の断面形状が所定の幅を持つ円であれば、スリーブないしはチューブが押し出され、間隙の断面形状が扁平な長方形であればシートが押し出される。また、押し出されたスリーブないしはチューブを切断する長さを延長すれば、パイプないしはホースが成形できる。なお、押し出された成形物を着磁機にかけて着磁することで、金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士の磁気吸着力が著しく増大し、成形物の機械的強度が増大する。こうして製造したグラフェン接合体からなる成形物の作用効果は、90段落で説明した第一の成形物と同様の作用効果を持つが、成形物の形状の自由度は第一の成形物より広い。
本事例における成形物の製造に用いる原料は、前記した第一および第二の成形物の製造で用いた原料と同様である。また、押出し成形機から一次成形物が押し出されるまでの製造工程および製造方法も、前記した第二の成形物の製造と同様である。本事例は、押出し成形機から押し出された一次成形物に二次加工、例えば、ブロー成形、サーモフォーミング成形、カレンダー成形などからなるいずれかの二次成形を施すことが前記した第二の成形物の製造と異なる。つまり、一次成形物は、磁気吸着によってグラフェン接合体が接合されているため可塑性を持ち、二次成形による加工が可能になる。これによって、二次成形による加工自由度が広がり、様々な形状を持つ容器や厚みが薄いシートやフィルムなどからなる二次成形物が製造できる。なお、二次成形にあたっては、水素ガスを含む加熱された還元性ガスを成形機に供給して二次成形を行なってもよい。この場合、成形物の表層は、金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士の金属結合で、グラフェン接合体が接合さる。このため表層は金属結合に基づく機械的強度と、金属の融点に近い耐熱性を持つ。二次成形物にさらなる機械的強度が必要な場合は、前記した第一および第二の成形物と同様に着磁機にかけて着磁する。二次成形物の作用効果は、二次成形の成形性と成形物の形状の自由度を除くと、90段落で説明した第一の成形物の製造と同様の作用効果を持つ。
最初に、パラフィンワックスを多量のn−ヘプタンに溶解させ、必要となる粘度を有するパラフィンワックスの希釈溶液を作成する。次に、この溶解溶液に、グラフェン接合体の第一の製造方法から第三の製造方法のいずれかの方法で製造したグラフェン接合体の集まりを混合して撹拌し、懸濁液を作成し、この懸濁液を塗料とする。こうして製造した塗料を容器ないしは成形物の表面に塗布し、この後、容器ないしは成形物を、水素ガスを含む還元性雰囲気において200℃の熱処理を行い、n−ヘプタンとパラフィンワックスとを気化させると、容器ないしは成形物の表面にグラフェン接合体からなる極薄い被膜が形成される。
グラフェン接合体からなる被膜は、以下に説明するように、今までの被膜では考えられない様々な優れた性質を持つ。本事例における塗料は、こうした被膜を製造する原料となる。グラフェンの表面に担持された金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士が金属結合することで、グラフェンが接合されてグラフェン接合体が生成される。同様に、グラフェン接合体の表面に担持された金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士の金属結合ないしは磁気吸着によって、グラフェン接合体が接合される。従って、グラフェンないしはグラフェン接合体は、金属微粒子ないしは複合金属微粒子が形成する極微小の間隙をもって接合される。このため、液体が持つ表面張力によって、グラフェン同士ないしはグラフェン接合体同士の極微小の間隙に、浸入することや浸透することはできない。このため、グラフェン同士およびグラフェン接合体同士の接合に係わる金属微粒子ないしは複合金属微粒子は液体と接触しないため、腐食性の強い液体が容器ないしは成形物に充填されたとしても腐食することはない。これによって、被膜は容器ないしは成形物の腐食防止膜になる。また、被膜の表層は、金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士の金属結合力に基づく機械的強度を有し、また、金属の融点に近い耐熱性を持つ。さらに、鉄によって磁性を有する金属微粒子ないしは複合金属微粒子を構成した場合は、鉄の磁気キュリー点が770℃であるため、770℃に近づかない限り、金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士の磁気吸着力は変わらず、被膜内部の機械的強度は変わらない。さらに、本被膜が形成された容器ないしは成形物を着磁機にかけて着磁すれば、被膜の機械的強度が著しく増大する。また、被膜はグラフェン接合体のみから構成される極薄い被膜であるため、容器ないしは成形物の重量は増えず形状は変わらない。
パラフィンワックスの気化が完了した時点では、塗膜はグラフェン接合体のみから構成される極薄い被膜になる。この被膜の少なくとも表層は、水素ガスを含む還元性雰囲気にさらされていたので、グラフェン接合体の表面に担持された金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士の金属結合によって、グラフェン接合体が接合される。被膜の内部は、金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士の金属結合と磁気吸着とによって、グラフェン接合体が接合される。このような緻密な構造を有する被膜は、96段落で説明したような従来の被膜にはない画期的な作用効果をもたらす。
このような腐食を防止する被膜の好適な事例として、例えば、応力腐食割れを防止する被膜が挙げられる。金属ないしは合金に発生する腐食現象の中で、外観では腐食の進行が識別しにくい腐食現象として応力腐食割れがある。つまり、応力腐食割れは、引っ張り応力と腐食とが共存することよって起こる金属ないしは合金の脆性破壊であり、外見上では変化が確認できない状態で突然に脆性破壊が起こる厄介な現象である。金属ないしは合金に加わる引っ張り応力が引っ張り強さ以下であるにも係わらず、引っ張り応力と腐食とが共存することで、ある時に突然脆性破壊が起きる。
前記した応力腐食割れの現象として様々な事例がある。アルミニウム合金からなる成形物が酸化剤を含む塩化ナトリウム溶液や空気を含む水によって応力腐食割れを起こす例、銅合金からなる成形物がアンモニアの水溶液およびアミン類によって応力腐食割れを起こす例、真鍮からなる成形物が空気を含む水蒸気応力によって応力腐食割れを起こす例、金合金が塩化鉄水溶液によって応力腐食割れを起こす例、オーステナイト系ステンレスが海水や高温で高濃度のアルカリ水溶液によって応力腐食割れを起こす例、炭素鋼が高温の苛性アルカリや硝酸塩溶液によって応力腐食割れを起こす例、ステンレス鋼が塩素イオンを含む溶液によって応力腐食割れを起こす例、真鍮がアンモニアによって応力腐食割れを起こす例、チタン合金がハロゲンを含むメタノール中によって応力腐食割れを起こす例などがある。最近では、沸騰水型原子炉(BWR)のステンレス鋼やニッケル基合金からなる配管の割れ、液体アンモニアタンクの割れ、硫化物を含む原油パイプラインの割れなどの事例が新しい問題として顕在化している。
前記した応力腐食割れを起こす原因は次の2つである。その1つは、引っ張り応力の作用によって腐食が局所的に進行し、ある時に金属ないしは合金が突然割れる。他の1つは、腐食によって生じた水素ガスが金属ないしは合金に入って脆化をもたらすことによって起こる。このため、応力腐食割れに対する抜本的な対策は、容器ないしは成形物の表面に、液体を完全に遮断できる緻密な構造を持つ被膜を形成し、腐食性の液体が直接容器ないしは成形物の表面に接触しない構成とすることである。これによって、腐食によって発生する金属ないしは合金の脆化をもたらす気体も発生しない。
ここで、各種容器ないしは成形物への被膜の形成方法と作用効果とを説明する。前記容器ないしは前記成形物として、タンク、パイプ、あるいは、循環ポンプなどに用いる電磁弁の部品などがある。これらの容器ないしは成形物の少なくとも内壁に、前記懸濁液からなる塗膜を形成する。タンクなどの大型の成形物には、懸濁液をはけ塗りで塗布することが望ましい。パイプなどの長さを有する成形物の場合は、ディッピングによって塗膜を形成することが望ましい。すなわち、塗膜の厚みと懸濁液の粘度との関係を予め求め、この両者の関係に基づく粘度を有する懸濁液を、前記タンクの内壁に塗布する、あるいはディッピングによって前記パイプ内を通過させる。これによって予め決めた厚みの塗膜が形成される。さらに、電磁弁などの部品に対しては、懸濁液をスプレー塗装によって塗膜を形成する、あるいはディッピングによって塗膜を形成する方法が望ましい。
この後、塗膜が形成された容器ないしは成形物を、水素ガスを含む還元性雰囲気において200℃の熱処理を行う。これによって、パラフィンワックスの溶剤とパラフィンワックスが気化し、塗膜はグラフェン接合体のみから構成される極薄い被膜になる。この被膜の少なくとも表層は、還元雰囲気にさらされていたので、金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士の金属結合で、グラフェン接合体が接合される。被膜の内部は、金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士の磁気吸着によって、グラフェン接合体が接合される。これによって、96段落で説明したように、グラフェン接合体の被膜によって、全ての液体が遮断される。このため、応力腐食割れは起こらない。また、被膜の表層は、金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士の金属結合に基づく機械的強度を持つ。さらに、被膜が形成された容器ないしは成形物を着磁機にかけて着磁させると、被膜の機械的強度が著しく増大する。グラフェン接合体の表面に担持される金属微粒子ないしは複合金属微粒子が、鉄によって磁性を有する場合は、鉄の磁気キュリー温度が770℃であるため、この温度に近づかない限り、被膜の機械的強度は変わらない。さらに、被膜はグラフェン接合体のみから構成されるので、容器ないしは成形物の重量が増えず、厚みは変わらない。
ここで、希土類磁石の持つ従来の問題点を説明する。希土類磁石は、酸素ガスが存在する熱水中や酸性が強い液体では、大気中に比べて腐食が加速する。いっぽう、希土類磁石は焼結によって製造され、焼結時に磁石が収縮し、焼結後の磁石の寸法が変わるため、焼結後に機械加工を行い、磁石の寸法を確保している。この機械加工によって加工面に結晶粒の物理的欠陥が生じ、結晶粒が脱粒しやすくなる。従って、脱粒する可能性がある結晶粒は、予めバレル研磨などによって結晶粒を予め脱落させる。このように希土類磁石の焼結後に、機械加工、研磨、洗浄、被膜形成という複雑な工程を経て、希土類磁石の耐食性被膜を形成している。さらに、加工面に応力が残っている場合は、このような状態で耐食性被膜を形成すると被膜が剥がれ易くなるため、希土類磁石を不活性ガス雰囲気でアニーリング処理によって残留応力を除去し、この後に耐食性被膜を形成する。
以上に説明したように、希土類磁石には腐食しやすいという材質上の問題点に加えて、耐食性被膜を形成させる前に、機械加工面の様々な物理的欠陥を取り除く必要があった。このため、希土類磁石の腐食防止に係わるコストは、磁石の製造コストの3割程度を占める。また、最近における希土類金属の暴騰から、物理的欠陥を取り除くことによる希土類金属の経済的損失はさらに増大している。
次に、希土類磁石への被膜の形成方法と、これによってもたらされる作用効果とを説明する。96段落に記載した製造方法で製造した懸濁液を塗料として用い、希土類磁石の表面にディッピング法や真空含浸法などで塗布し、この後、水素ガスを含む還元性雰囲気で熱処理する。パラフィンワックスの気化が進むと、塗膜が希土類磁石に磁気吸着する。さらに、パラフィンワックスの気化が完了すると、塗膜はグラフェン接合体のみからなる極薄い被膜になる。この被膜の表層は、還元雰囲気にさらされていたので、金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士の金属結合で、グラフェン接合体が接合している。被膜の内部は、金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士の磁気吸着で、グラフェン接合体が接合している。従って、グラフェン接合体からなる被膜は、金属微粒子ないしは複合金属微粒子の微細な間隙をもって、グラフェン接合体が接合された緻密な構造を有する。このため、希土類磁石を腐食させる液体は、被膜に浸入ないしは浸透しない。なお、希土類磁石は、保持力を確保するために約500℃で時効処理を行う。塗膜の熱処理温度が、時効処理を行う温度より300℃近く低いため、被膜の形成に当たり、希土類磁石の磁気特性の不可逆変化は起こらない。また、グラフェン接合体の表面に担持される金属微粒子ないしは複合金属微粒子が、鉄によって磁性を有する場合は、鉄の磁気キュリー温度が770℃で、希土類磁石の磁気キュリー温度より400℃ほど高いため、磁石を使用するにあたって、被膜の機械的強度が低減することはない。さらに、希土類磁石の実用にあたっては、希土類磁石を着磁する。着磁された希土類磁石は、極めて大きな磁力を発生する。この大きな磁力によって、被膜が希土類磁石の表面全体に強固に磁気吸着する。このため、希土類磁石の表層に機械加工に伴う物理的欠陥があっても、表層の結晶粒は脱落しない。従って、グラフェン接合体からなる被膜を形成する前に、磁石表面の物理的欠陥を取り除く処置は一切不要になり、高価な希少資源である希土類金属を有効に活用できる。
ここで、複合材料の製造方法を説明する。原料は次の2種類である。第一の製造方法、第二の製造方法、ないしは、第三の製造方法で製造したグラフェン接合体からなるいずれかのグラフェン接合体について、複数種類の形状からなるグラフェン接合体を第一の原料とする。これによって、複合材料においてグラフェン接合体が磁気吸着しやすくなる。熱可塑性樹脂が溶剤に溶解ないしは分散された希釈液を第二の原料とする。最初に、第一の原料であるグラフェン接合体の集まりを、第二の原料である熱可塑性樹脂の希釈液に混合して懸濁液を作成する。その後、懸濁液を押出し成形機に充填し、混練と熱処理とを同時に行い、第二の原料の過剰な溶剤を気化させた後に、熱可塑性樹脂を熱融解させる。こうして、押出し成形機内において、熱融解した熱可塑性樹脂とグラフェン接合体とからなる複合材料が生成され、この複合材料におけるグラフェン接合体の体積占有率は80体積%以上を占める。複合材料におけるグラフェン接合体は、全てのグラフェン接合体が磁気吸着によって接合し、これによって、複合材料はグラフェン接合体の性質を示す。この後、複合材料を押出し成形機から細長い紐状に押し出し、紐状の複合材料を一定の長さに切断し、複合材料からなるペレットを製造する。
熱可塑性樹脂が溶剤に溶解ないしは分散された希釈液として、例えば、水溶性の熱可塑性樹脂を用いることが出来る。このような水溶性の熱可塑性樹脂として、ポリビニールアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン、飽和共重合ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂などがある。また、水に分散する熱可塑性樹脂でもよい。更に、アルコール類に溶解ないしは分散するもの、ケトン類に溶解ないしは分散するもの、ないしは炭化水素系の溶剤に溶解ないしは分散するものを用いることも出来る。なお、複合材料におけるグラフェン接合体の充填率を80体積%以上にするためには、熱可塑性樹脂の希釈液の粘度を100mPa・s以下にすることが望ましい。
前記した製造方法で製造した複合材料の作用効果を説明する。複合材料のペレットの性質を熱伝導性と電気導電性に優れた性質とする場合は、グラフェンに近い熱伝導性ないしは電気導電性を持つグラフェン接合体を用いる。このような複合材料のペレットを用いて成形した成形物は、グラフェンに近い熱伝導性ないしは電気導電性性質を持つ成形物になる。また、グラフェンが鉄微粒子同士の金属結合で接合されたグラフェン接合体を用いる場合は、グラフェン接合体の内部および表面に、鉄微粒子が離散的に担持される。いっぽう、有機鉄化合物の熱分解によって析出した鉄は不純物を持たない。不純物が0.05重量%以下である純鉄の比透磁率は2×105と高い値を持ち、保持力はわずかに4A/mである。高価な高透磁率材料であるパーマロイでも、比透磁率は1×105で保持力は4A/mである。このため、グラフェン同士が鉄微粒子の金属結合で接合されたグラフェン接合体は、優れた軟磁性材料としての性質を示し、低周波数の電気ノイズに対する磁気シールドの機能を持つ。いっぽう、グラフェンの比抵抗は銅の比抵抗の23倍に過ぎないため、グラフェンに準ずる導電性を持つグラフェン接合体は、高周波数の電気ノイズに対する磁気シールドの機能をもつ。こうしたグラフェン接合体からなる複合材料で成形した成形物、例えば、シートは、電気ノイズに対する磁気シールド効果を持つシートになる。さらに、鉄は前述したように優れた高透磁率材料であるため、VHF帯の電波を吸収して熱に変換する。鉄微粒子の集まりが表面に担持されたグラフェン接合体は、VHF帯の電波を吸収する。いっぽう、炭素繊維と同様に、グラフェンはグラフェンの電気抵抗によってUHF帯の電波を吸収して熱に変換する。このため、グラフェンに準ずる電気抵抗をもつグラフェン接合体もUHF帯の電波を吸収する。こうしたグラフェン接合体からなる複合材料で成形した成形物、例えば、シートはVHF帯からUHF帯に及ぶ周波数の電波を吸収するシートになる。
前記した複合材料の作用効果は単なる事例である。複合材料はグラフェン接合体の性質を示すので、複合材料の成形物にどのような性質を持たせるかによって、グラフェン接合体を製造する第一の製造方法から第三の製造方法のいずれかの手段で製造されるグラフェン接合体を選択すればよい。また、成形物に機械的強度が必要な場合は、成形物を着磁機にかけて着磁することで、グラフェン接合体同士の磁気吸着力が著しく増大し、成形物の機械的強度が高まる。さらに、前記したように、本複合材料のペレットを用いて、射出成形はもとより、スリーブ成形法、チューブ成形法、ブロー成形法、シート成形法、サーモフォーミング成形法などの様々な成形法によって様々な形状を有する成形物が製作でき、この成形物の性質は、原料として用いたグラフェン接合体の性質を示す。
ここで、成形物の製造方法を説明する。原料は次の2種類からなる。第一の製造方法、第二の製造方法、ないしは第三の製造方法で製造したグラフェン接合体からなるいずれかのグラフェン接合体について、複数種類の形状から構成される前記グラフェン接合体を第一の原料とする。これによって、複合材料においてグラフェン接合体が磁気吸着しやすくなる。熱硬化性樹脂が溶剤に溶解ないしは分散された希釈液を第二の原料とする。最初に、第一の原料の集まりを第二の原料に混合して懸濁液を作成する。その後、懸濁液を押出し成形機に充填し、押出し成形機内で懸濁液を混練しながら熱処理し、過剰な溶剤を気化させて懸濁液を濃縮する。この濃縮された懸濁液は、磁気吸着したグラフェン接合体によって可塑性を持つ。また、濃縮された懸濁液におけるグラフェン接合体の体積占有率は80体積%以上を占める。この濃縮した懸濁液を、押出し成形機から押し出して二次成形機に供給し、熱硬化性樹脂を熱融解させ二次加工を施す。こうして、グラフェン接合体が体積割合で80%以上に充填された複合材料からなる様々な形状を有する成形物が製造できる。なお、二次成形にあたっては、水素ガスを含む加熱された還元性ガスの雰囲気で二次成形を行なってもよい。二次成形物にさらなる機械的強度が必要になれば、二次成形物を着磁機にかけて着磁すればよい。こうして製造され成形物を構成する全てのグラフェン接合体は互いに接合しているので、二次成形物の性質はグラフェン接合体の性質を示す。
第二の原料である熱硬化性樹脂が溶剤に溶解ないしは分散された希釈液は、例えば、水溶性の熱硬化性樹脂を用いることが出来る。このような水溶性の熱硬化性樹脂として、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキド樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などがある。また、水に分散する熱硬化樹脂でもよい。更に、アルコール類に溶解ないしは分散するもの、ケトン類に溶解ないしは分散するもの、炭化水素系の溶剤に溶解ないしは分散するものも用いられる。なお、複合材料におけるグラフェン接合体の充填率を体積割合で80%以上にするためには、熱硬化性樹脂の希釈液の粘度を100mPa・s以下にすることが望ましい。
前記した製造方法で製造した複合材料からなる二次成形物の作用効果を説明する。複合材料からなる二次成形物の性質は、グラフェン接合体の性質を持つので、二次成形物が熱伝導性と電気導電性とに優れた成形物とする場合は、熱導電性と電気導電性に優れたグラフェン接合体を用いればよい。また、鉄微粒子の金属結合を介してグラフェンを接合ないしは積層して製造したグラフェン接合体を用いる場合は、二次成形物は電気ノイズに対する磁気シールド効果を持ち、またVHF帯からUHF帯に及ぶ周波数の電波を吸収する性質をもつ。このような二次成形物における作用効果は単なる事例である。二次成形物にどのような性質を持たせるかによって、グラフェン接合体を製造する第一の製造方法から第三の製造方法のいずれかの方法で製造されるグラフェン接合体を選択すればよい。また、二次成形物に機械的強度が必要になれば、成形物を着磁機にかけて着磁すればよい。さらに、前記したように、二次成形にあたっては様々な成形法を用いることができ、これによって様々な形状を持つ成形物が製作でき、この成形物もグラフェン接合体の性質を示す。
つまり、微細な粒子である鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを平坦に引きつめ、これらの黒鉛粒子が存在する領域に電界を発生すれば、全ての黒鉛粒子に瞬時に電界が印加される。この電界は、黒鉛結晶の層間結合の担い手であるπ電子を励起させ、これによってπ電子がπ軌道から遊離する。π電子がπ軌道から遊離したため、黒鉛結晶の層間結合の担い手がπ軌道に存在せず、層間結合は破壊される。この結果、黒鉛粒子の集まりに電界を印加するだけで、黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶の層間結合の全てが同時に破壊され、グラフェンの集まりが得られる。図1は得られたグラフェンを拡大した説明図で、炭素原子が二次元的に六角形の網目を形成している。
ここで、1gの黒鉛粒子の層間結合を全て破壊することで得られるグラフェンの数を求める。最初に、黒鉛結晶の結晶構造について説明する。非特許文献9によれば、α黒鉛の結晶構造を持つ鱗片状黒鉛および塊状黒鉛の結晶構造は、2つの層が交互に距離b(b=3.354オングストローム)をもって積層された層状の結晶構造を有する。これら2つの層はいずれも、隣り合う2つの炭素原子が距離a(a=1.421オングストローム)をなして作る六角形の網目からなる基底面を形成している。この基底面がグラフェンに該当する。六角形を形成する6つの炭素原子の位置は、基底面に垂直な方向に距離c(c=6.708オングストローム)をもって規則的に配列している。つまり、2つの層の配置位置がずれている。このように、鱗片状黒鉛および鱗状黒鉛は、ひとつの結晶子、つまりグラフェンが3.354オングストロームの層間距離で積層された炭素原子のみから構成された単結晶材料であり、1個の鱗片状黒鉛粒子ないしは1個の塊状黒鉛粒子には大量のグラフェンが積層されている。なお、鱗片状黒鉛を工業的に精製したものが鱗片状黒鉛粒子であり、塊状黒鉛を工業的に精製したものが塊状黒鉛粒子である。
ここで、黒鉛粒子の集まりの具体例を説明する。図2は、鱗片状黒鉛粒子の集まりの粒度分布の実測結果を、頻度分布と累積分布とから示した説明図である。この事例では、累積が10 %となる粒子の大きさd10は10.4ミクロンであり、累積が50%となる粒子の大きさd50は44.4ミクロンであり、累積が90%となる粒子の大きさd90は113.8ミクロンである。また、算術による体積平均粒径は55.3ミクロンである。なお、この鱗片状黒鉛粒子の形状を球に換算したときの平均粒径は25ミクロンに相当する。この鱗片状黒鉛粒子の集まりにおける鱗片状黒鉛粒子の厚みの平均値が10ミクロンとすると、層間距離が3.354オングストロームであるので、この10ミクロンの厚みを持つ鱗片状黒鉛粒子には297,265個のグラフェンが積層されている。従って、黒鉛結晶の層間結合を全て破壊することで、僅か一つの鱗片状黒鉛粒子から297,265個のグラフェンの集まりが得られる。
次に、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりについて、黒鉛粒子を構成する全ての黒鉛結晶の層間結合を破壊することで得られるグラフェンの数を求める。黒鉛粒子は、基底面、すなわちグラフェンが積層された単結晶材料であるが、グラフェンが積層される形態は個々の粒子において異なるため、個々の粒子は異なる外形形状を持つ。この性質によって、黒鉛粒子の粒度分布は、図2に示すように幅広い粒径範囲に及ぶ。ここでは、全ての黒鉛粒子が、直径が25ミクロンの球から構成されるとする。黒鉛の真密度は2.25×103kg/m3であるから、直径が25ミクロンからなる球状の黒鉛粒子1個の重さはわずかに1.84×10−8gになる。1個の黒鉛粒子が持つグラフェンの数として前記した297,265個を用いれば、直径25がミクロンの球からなる黒鉛粒子の1gの集まりについて、全ての黒鉛結晶の層間結合を破壊したときに、1.62×1013個からなるグラフェンの集まりが得られる。
次に、黒鉛粒子に電界を印加することで、黒鉛粒子を形成する全ての黒鉛結晶の層間結合が同時に破壊される現象を説明する。黒鉛結晶の層間結合は、炭素原子が持つ価電子の電子軌道の相互作用に基づく。ここで、黒鉛結晶の微細構造について説明する。黒鉛結晶の単位格子には4つの炭素原子が含まれる。非特許文献10によれば、1つの炭素原子は隣り合う3つの炭素原子と120度の結合角を持って共有結合し、この結合が平面に広がって六角形の網目からなる基底面、すなわちグラフェンを形成する。この基底面、すなわちグラフェンが弱い結合力で結合されて層状に規則的に重なっている。
ここで、黒鉛結晶の微細構造を、炭素原子の価電子の電子軌道から説明する。炭素原子は、2s軌道にある2つの電子と2p軌道にある2つの電子とからなる4つの価電子を持つ。2p軌道は2px軌道、2py軌道、2pz軌道の3つの軌道からなるが、炭素原子では2px軌道と2py軌道とに電子が入り、2pz軌道は空いている。このため、炭素原子が結晶を作る際に、一旦2s軌道のひとつの電子が2pz軌道に入った後に、電子配置の再編成を行い、3種類のsp混成軌道を形成する。黒鉛結晶の電子配置では、3つの電子がsp2の混成軌道を形成し、残り一つの電子は他の3つの電子軌道とは孤立した2pz軌道に入る。図3は、黒鉛結晶を形成する炭素原子の電子軌道を模式的に示した説明図である。図3に示すCは炭素原子の原子核であり、Aはσ電子が確率的に存在するσ軌道であり、Bはπ電子が確率的に存在するπ軌道である。3つのsp2混成軌道(σ軌道という)に入る電子はσ電子と呼ばれ、同じ六角形の網面内で隣り合う3つの炭素原子に属するσ電子と共有結合し、強固な骨組みを六角形の網面として作る。残りの1つの価電子は、六角形の網面に垂直な上下方向に伸びる2pz軌道(π軌道という)に入るπ電子とよばれ、六角形の網面に垂直な上下方向に隣接する2つの炭素原子に属するπ電子と弱い相互作用で結合する。このため、π軌道におけるπ電子の束縛力は弱い。
黒鉛結晶の基底面、すなわちグラフェンは、ダイアモンドに準ずるヤング率をもち、機械的強度は大きい。この理由は、基底面上で相対的に短い1.421オングストロームの距離で隣接する2つの炭素原子がもつσ電子同士が、共有結合によって結合されているからである。いっぽう、黒鉛結晶の層間結合は破壊されやすい。この理由は、基底面に垂直な方向に相対的に長い3.354オングストロームの距離で隣接する2つの炭素原子がもつπ電子同士が、ファンデルワールス力と呼ばれる弱い相互作用によって結合されているからである。このため、π電子に作用する弱い相互材用より大きな力をπ電子に作用させれば、π電子はπ軌道の拘束から解放されて自由電子になる。この結果、黒鉛結晶の層間結合の担い手であるπ電子がπ軌道から遊離したため層間結合が破壊される。
微細な粒子である黒鉛粒子に電界が印加すると、黒鉛結晶の層間結合の担い手である全てのπ電子にクーロン力が発生する。このクーロン力が、前記した層間結合力であるπ軌道の弱い相互作用より大きな力としてπ電子に作用すると、全てのπ電子はπ軌道から遊離して自由電子になる。π電子がπ軌道から遊離すると、層間を結合する担い手がいなくなるので、層間結合が破壊される。この結果、天然黒鉛粒子は全ての層間結合が同時に破壊され、基底面が積み重なった状態、つまり、グラフェンが積み重なった状態になる。
以上に説明したように、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりに対し
、電界を印加させるだけで全ての黒鉛結晶の層間結合を同時に破壊させることが出来る。このため、黒鉛粒子の集まり1gを平坦に引きつめ、これらの黒鉛粒子が存在する領域に電界を与えるだけで、全ての黒鉛結晶の層間結合が同時に破壊される。こうして、鱗片状黒鉛粒子の1gないしは塊状黒鉛粒子の1gから1.62×1013個からなるグラフェンの集まりが得られる。この結果、前記した本発明における第一の課題が解決できる。
二枚の平行平板電極の間隙に黒鉛粒子を引きつめ、この電極間に電位差、つまり直流電圧Vを印加すると、直流電圧Vの大きさを電極間隙の大きさdで割った値に相当する電界E(E=V/d)が電極間隙に発生し、この電界Eは電極間隙に存在する全ての黒鉛粒子に印加される。この電界Eが黒鉛粒子に印加された瞬間に、全ての黒鉛粒子について、黒鉛結晶の層間結合が同時に破壊され、グラフェンの集まりが得られる。
この現象は次の理由によって起こる。図2に示したように、鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子は微細な粒子であるため、二枚の平行平板電極の狭い間隙に引きつめられる。この黒鉛粒子が引きつめられた電極間隙に電界を発生させると、全ての黒鉛粒子に電界が瞬時に印加され、黒鉛結晶の層間結合の担い手である全てのπ電子にクーロン力が作用する。このクーロン力が、π軌道の相互作用より大きな力としてπ電子に作用すると、π電子がπ軌道から遊離し自由電子になる。この結果、黒鉛結晶の層間結合の担い手であるπ電子がπ軌道にいなくなるので、黒鉛結晶の層間結合の全てが同時に破壊される。
電界を黒鉛粒子に印加させる装置は二枚の平板電極のみで構成され、この電極間に直流電圧を印加させるだけの極めて簡単な装置である。さらに、二枚の平板電極の間隙に天然黒鉛粒子の集まりを引きつめることも極めて容易である。このように、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりから、グラフェンの集まりを瞬時に製造することは極めて容易である。この結果、安価な鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子を用いて、グラフェンの集まりを安価に製造できる。
次に、電界が黒鉛粒子に印加した瞬間に、黒鉛粒子の全ての層間結合が破壊される現象を説明する。π電子に電界Eが印加すると、π電子にクーロ力Fが働く。電子の素電荷量をe(eは1.6×10−19クーロンに相当する)とすると、クーロン力Fと電界Eとの間にはF=−e・Eの関係がある。π電子はクーロン力Fによって電界ベクトルEの方向に移動しようとするが、π電子はπ軌道の相互作用によってπ軌道上に拘束される。
ここで、黒鉛結晶の基底面に対し垂直方向に、層間距離b(b=3.354オングストローム)の距離をもって隣り合う3つの炭素原子に着目する。これら3つの炭素原子のうち、中央の炭素原子の価電子であるπ電子は、π軌道上を上下方向にそれぞれ最大で1/2bの距離を移動する。なぜならば、炭素原子の価電子であるπ電子は、隣接する炭素原子のπ電子のπ軌道と共有しないからである。つまり、異なる炭素原子のπ電子同士がπ軌道を共有した場合は、π電子同士が共有結合することになる。従って、π電子がπ軌道上を移動する最大の距離は層間距離bになる。π電子がクーロン力Fで層間距離bの距離を動く際に行う仕事が、π軌道の相互作用より大きくなれば、つまり電界によってπ電子に作用するクーロン力がπ軌道の相互作用に基づく拘束力より大きくなれば、π電子は確実にπ軌道から遊離して自由電子になる。これによって黒鉛結晶の層間結合が全て破壊される。
ここで、π電子がクーロン力Fによって層間距離bの距離を動く際に行う仕事の大きさと、π軌道の相互作用の大きさとを比較する。π電子がクーロン力Fによって層間距離bを動いたとき、π電子は仕事W(W=b・F)を行う。この仕事Wが、π電子に作用する1原子当たりのπ軌道の相互作用の大きさである35meV(エレクトロンボルトeVは電子が持つエネルギーの大きさを表す単位で、1eVは1.62×10−19Jに相当する)を超えると、π電子はπ軌道の相互作用の拘束から解放されて自由電子になる。ここでは、二枚の平行平板電極間の狭い間隙dに、電極板に対し垂直方向に電位差Vを印加するので、電界EはV/dで近似できる。印加する電位差を100V、1kV、10kVとし、クーロン力Fで層間距離bの距離を移動するときの仕事Wを求めπ軌道の相互作用の大きさと比較する。結果を表1に示す。
100ボルトを印加した際にπ電子が層間距離bを移動する際に行う仕事量W
間隙d(nm) 100 1000
電界E(V/m) 1.0×109 1.0×108
距離bを移動する仕事W(eV) 0.33 0.033
1キロボルトを印加した際にπ電子が層間距離bを移動する際に行う仕事量W
間隙d(ミクロン) 1 10
電界E(V/m) 1.0×109 1.0×108
距離bを移動する仕事W(eV) 0.33 0.033
10キロボルトを印加した際にπ電子が層間距離bを移動する際に行う仕事量W
間隙d(ミクロン) 10 100
電界E(V/m) 1.0×109 1.0×108
距離bを移動する仕事W(eV) 0.33 0.033
2枚の平行平板電極の間隙に電界が発生する電極の有効面積を1m×1mとし、2枚の平行平板電極が100ミクロンの間隙で組み合わされ、この電極間に鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを満遍なく平らに引き詰めた場合、何個の黒鉛粒子が存在するかを求める。黒鉛粒子を粒径が25ミクロンの球とし、108段落で記述した条件に基づくと、2枚の並行平板電極で作られる100ミクロンの間隙に、黒鉛粒子が満遍なく一列に整列した場合は、6.4×107個の黒鉛粒子が存在する。これらの黒鉛粒子に、10.6キロボルト以上の直流電圧を印加すれば、全ての黒鉛粒子の層間結合は同時に破壊される。ひとつの黒鉛粒子が持つグラフェンの数を297,265個とした場合、1.9×1013個のグラフェンの集まりを得ることができる。このときに用いた鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりの重量はわずかに1.18gである。
以上に説明したように、わずか1.2gの黒鉛粒子に対して、電界という負荷を与えるだけで、20兆個に近いグラフェンの集まりが同時に得られる。また、グラフェンを製造する装置は、二枚の平行平板電極という極めて簡単な装置である。さらに、グラフェンを製造する方法は、二枚の平行平板電極の間隙に黒鉛粒子の集まりを引きつめ、この電極間に直流電圧を印加するという極めて簡単な方法である。この結果、グラフェンの集まりが安価に製造でき、前記した本発明における第一の課題が解決できる。
以上に説明したように、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりに係わる黒鉛結晶の層間結合を破壊することで得られるグラフェンは、極めて微細な物質でありまた重量も極微小である。さらに、グラフェンの大きさと重量の偏差はいずれも著しく大きい。このため、黒鉛粒子から製造したグラフェンを接合してグラフェン接合体を製造する手段は、ありきたりの手段では困難である。しかしながら、グラフェンは厚みが極微小であるため、アスペクト比が極めて大きいという他の物質にはない極めてまれな特徴をもつ。このグラフェン固有の特徴を活かす製造方法によってのみ、グラフェンを接合しグラフェン接合体を製造することができる。これによって、本発明における第二の課題が解決できる。
グラフェンは、アスペクト比が極めて大きいという他の物質にはない固有の特徴を持つため、最小グラフェンの面積より十分に小さいナノレベルの鉄微粒子は、グラフェンの表面に選択的に担持する。さらに、グラフェンの表面に担持された鉄微粒子同士が磁気吸着してグラフェンが近接する。磁気吸着した鉄微粒子は、さらに析出する鉄の核になり、磁気吸着した鉄微粒子の表面に鉄が析出して鉄微粒子同士が金属結合する。これによって、グラフェンが接合してグラフェン接合体が製造される。
なお、有機金属化合物の熱分解によって生成される金属微粒子は、不純物を持たないため、極めて活性度の高い物質である。いっぽう、グラフェンの比抵抗は銅の比抵抗の23倍に過ぎない。この理由は、グラフェンは伝導電子と正孔からなるキャリアを持つためである。つまり、グラフェンは、価電子バンドの一部の電子が伝導電子バンドに存在する確率を持ち、価電子バンドの底部に正孔が、伝導電子バンドの底部に伝導電子が存在する。このため、グラフェンの表面に吸着した有機金属化合物が熱分解し、グラフェンの表面に金属微粒子が析出する際に、金属微粒子はグラフェンと共有結合する。つまり、グラフェンの表面に金属微粒子が析出する際に、金属が持つ自由電子の電子軌道が、グラフェンが持つ伝導電子の電子軌道と共有され、金属微粒子はグラフェンと共有結合してグラフェンの表面に担持する。
グラフェンの表面に鉄微粒子を担持させ、鉄微粒子同士の金属結合でグラフェンを接合して、グラフェン接合体を製造する方法を説明する。最初に、有機鉄化合物の分散液中における鉄の重量割合が2重量%になるように、メタノールなどの有機溶剤に有機鉄化合物を分散させる。次に、グラフェンを製造する実施形態で製造したグラフェンの集まりの10gを、有機鉄化合物の分散液の60gに混合して攪拌する。これによって、有機鉄化合物の分散液にグラフェンの集まりが分散された懸濁液が作成でき、全てのグラフェンの表面は有機鉄化合物の分散液と接する。つまり、グラフェンは、極めて軽量でアスペクト比が大きい扁平な物質であるため、有機鉄化合物の分散液中で浮力を受けて沈降せずに分散する。次に、同一形状の溝が多数個形成された容器の各溝に、懸濁液の一定量ずつを充填する。さらに、容器を大気雰囲気の熱処理装置に入れる。最初に、有機溶剤が沸騰し、有機溶剤が蒸発して懸濁液が濃縮する。これによって、全てのグラフェンの表面に有機鉄化合物が吸着する。次に、有機鉄化合物の熱分解が完了する温度まで昇温し、グラフェンの表面に吸着した有機鉄化合物が熱分解し、グラフェンの表面に鉄微粒子が担持し始める。鉄の析出が継続し、鉄微粒子が成長し、鉄微粒子が発する磁気によって、鉄微粒子は互いに磁気吸着し、グラフェンが近接する。さらに鉄の析出が継続し、磁気吸着した鉄微粒子の表面に鉄が析出し、鉄微粒子同士が金属結合する。これによって、グラフェンが接合してグラフェン接合体が製造される。こうした現象が全てのグラフェンの表面で同時に進行する。この結果、鉄微粒子同士の金属結合を介して、全てのグラフェンが接合し、一枚のグラフェン接合体が懸濁液を充填した各溝に製造される。従って、グラフェン接合体の形状は、懸濁液を充填した溝の形状を反映する。
図5は、グラフェンの表面に直径bが1nmからなる鉄微粒子が担持した状態を拡大した説明図であり、1nmの大きさをもつ鉄微粒子が10nmの間隔aをもって離間して担持する。なお、グラフェンの厚みdは1.54オングストロームで、炭素原子の原子間距離cは1.42オングストロームである。図6は、1枚のグラフェンの表面に、鉄微粒子の集まりが10nmの間隔で離間して担持した状態を示した説明図である。グラフェンは極めて大きなアスペクト比を持つ扁平な物質であるため、鉄微粒子はグラフェンの表面のみに選択的に担持される。
なお、グラフェンの表面に担持される鉄微粒子の大きさと数とは、有機鉄化合物の分散液における鉄の重量割合と、有機鉄化合物の分散液に混合するグラフェンの量を変えることで変えられる。この理由は、グラフェンの表面に吸着した有機鉄化合物の量に応じて、グラフェンの表面に担持される鉄微粒子の大きさと数とが決まることによる。つまり、有機鉄化合物の分散液中にグラフェンの集まりを分散すると、全てのグラフェンの表面が有機鉄化合物の分散液と接する。この分散液を昇温して溶媒が気化すると、有機鉄化合物が全てのグラフェンの表面に吸着する。この後、有機鉄化合物が熱分解すると、グラフェンの表面に離散的に鉄微粒子が担持する。この際、析出する鉄微粒子の大きさと数は、グラフェンの表面に吸着した有機鉄化合物の量に依存する。本実施形態では、有機鉄化合物の分散液における鉄の重量割を2重量%とし、有機鉄化合物の分散液60gに対してグラフェンを10gの重量割合で混合したため、グラフェンの表面に1nmの鉄微粒子が10nmの間隔で担持された。
以上、グラフェンを接合させてグラフェン接合体を製造する第1実施形態を説明した。同様にグラフェン接合体についても、グラフェン接合体の表面に析出した鉄微粒子同士が金属結合し、この鉄微粒子の金属結合を介して、グラフェン接合体が接合され、さらに面積が広いないしはさらに厚みが厚い新たなグラフェン接合体が製造できる。
最初に、有機鉄化合物と有機銅化合物とを、分散液中における鉄および銅の重量割合がそれぞれ2重量%と0.5重量%になるように、メタノールなどの有機溶剤に分散させる。なお、有機鉄化合物が熱分解を完了する温度は、有機銅化合物が熱分解を完了する温度より低い。次に、2種類の有機金属化合物の分散液の60gにグラフェンの集まりの10gを混合して攪拌する。これによって、グラフェンの集まりが、2種類の有機金属化合物の分散液に分散された懸濁液が作成でき、全てのグラフェンの表面は2種類の有機金属化合物の分散液と接する。次に、同一形状の溝が多数個形成された容器が有する各溝に、懸濁液の一定量ずつを充填する。さらに、この容器を大気雰囲気の熱処理装置に入れる。最初に、有機溶剤が沸騰して懸濁液が濃縮される。これによって、全てのグラフェンの表面に2種類の有機金属化合物が吸着する。さらに、有機鉄化合物の熱分解が完了する温度まで昇温すると、有機鉄化合物が熱分解し、グラフェンの表面に鉄微粒子が析出し始める。こうして、グラフェンの表面に鉄微粒子が担持し、鉄微粒子が発する磁気によってグラフェン同士が近接し、更に鉄の析出が継続し、磁気吸着した鉄微粒子の表層に鉄が析出し、鉄微粒子同士が金属結合する。この結果、1nmの大きさからなる鉄微粒子の集まりを介してグラフェンが接合し、一枚のグラフェン接合体が製造される。更に、有機銅化合物の熱分解が完了する温度まで昇温すると有機銅化合物が熱分解する。これによって、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表面に銅が析出する。この結果、グラフェン接合体の表面に担持された微粒子は、内部が鉄で表層が銅からなる複合金属微粒子になる。なおグラフェン接合体の形状は、懸濁液を充填した容器の溝の形状を反映する。
この実施形態では、有機銅化合物の熱分解で析出する銅は、グラフェン接合体の表面に析出した鉄微粒子の表層に析出する。つまり、グラフェン同士は、1nmの大きさの鉄微粒子同士の金属結合によって、一枚のグラフェン接合体になる。この後、有機銅化合物の熱分解で銅が析出する。熱分解で生成された銅は、グラフェン同士の微細な間隙にある鉄微粒子は析出する核にはならず、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子が析出する核になる。このため、グラフェン接合体の表面に担持された金属微粒子は、内部が鉄で表層が銅で構成される複合金属微粒子になる。これによって、グラフェン接合体の表面に担持された鉄と銅とからなる複合金属微粒子は、1.4nmの大きさまで成長し、複合金属微粒子は銅の性質が優勢になる。この表層の銅の性質を利用することによって、様々の用途に本実施形態のグラフェン接合体を用いることができる。
この現象は、次の有機金属化合物の熱分解反応によって起こる。有機金属化合物は、金属イオンと結合するイオンが金属イオンと共有結合し、この共有結合部の距離が他の結合部の距離より長いため、熱分解が始まると、この共有結合部が最初に切れる。この現象の始まる温度が、有機金属化合物の熱分解の開始温度に該当する。この際、金属イオンと結合していた物質は液状の有機物となり、金属イオンは金属分子となる。さらに熱分解反応が進むと、有機物は分子量の小さい有機物に分解され、金属の析出が始まる直前に、有機物の全てが昇華する。有機物の昇華が完了すると、金属分子が集まって金属微粒子を生成する。この温度が有機金属化合物の熱分解が完了する温度に該当する。このため、有機金属化合物における熱分解反応は、開始から完了まで所定の温度幅を有する。
本実施形態では、有機鉄化合物と有機銅化合物との混合物が熱分解する。両者の熱分解温度には温度差があり、最初に有機鉄化合物の熱分解が始まり、その後、有機銅化合物の熱分解が始まる。なお、有機金属化合物の熱分解反応は、有機金属化合物が吸着したグラフェンの表面で進行する。有機鉄化合物の熱分解が始まった時点では、有機銅化合物の熱分解は起こらない。有機鉄化合物の熱分解が始まると、有機鉄化合物の熱分解で生成された液状の有機物は、温度の上昇と共に、グラフェンの表面で低分子量化の反応が進む。いっぽう、有機銅化合物の熱分解で生成された液状の有機物は、毛細管現象でグラフェン同士の間隙からグラフェンの表面に銅分子を伴って移動する。この理由は、有機鉄化合物の熱分解が有機銅化合物の熱分解より進んでいるため、有機鉄化合物の熱分解で生成された有機物の低分子量化は、有機銅化合物の熱分解で生成された有機物の低分子量化より進んでいる。このため、有機鉄化合物の熱分解で生成された有機物の分子量は、有機銅化合物の熱分解で生成された有機物の分子量より小さい。従って、有機鉄化合物の熱分解で生成された有機物の表面張力は、有機銅化合物の熱分解で生成された有機物の表面張力より小さい。これによって、有機鉄化合物の熱分解で生成された有機物はグラフェンの表面に留まり、有機銅化合物の熱分解で生成された有機物はグラフェンの表面から銅分子を伴って移動する。さらに温度が上がると、グラフェンの表面に鉄微粒子が担持し始め、さらに鉄微粒子同士の金属結合が起こり、グラフェン接合体が形成される。いっぽう、有機銅化合物の熱分解で生成された有機物は、鉄の析出が始まると鉄微粒子が磁気吸着しようとしてグラフェン同士が接近するため、接近した狭い間隔からグラフェンの表面に移動する。さらに有機物の低分子量化が進み、既に鉄微粒子同士の金属結合で形成されたグラフェン接合体の表面に銅分子を伴って移動する。こうして、有機銅化合物から分離された有機物の全てが昇華し後に、グラフェン接合体の表面に担持した鉄微粒子が銅の析出する核となって銅が析出し、鉄と銅とからなる複合金属微粒子を形成する。
以上、グラフェンの表面に1nmの大きさをもつ鉄微粒子を10nmの間隔で離散的に担持させ、この鉄微粒子同士の結合によってグラフェン接合体を製造し、さらに、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に銅を析出させ、鉄と銅とからなる1.4nmの大きさからなる複合金属微粒子をグラフェン接合体の表面に担持した実施形態を説明した。同様に、グラフェン接合体についても、1nmの鉄微粒子を10nmの間隔で離散的にグラフェン接合体の表面に担持させてグラフェン接合体同士を接合し、さらに面積が広い、ないしはさらに厚みが厚い一枚のグラフェン接合体が製造される。さらに、この新たに製造されたグラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に銅が析出する。
本実施形態では、鉄と銅とからなる複合金属微粒子を、グラフェン接合体の表面に担持させた。この複合金属微粒子は鉄と銅とに限定されることはなく、次の3つの手順で予め決めた構造を持つ複合金属微粒子がグラフェン接合体の表面に担持できる。最初に、必要となるグラフェン接合体の表面の性質に応じて、複合金属微粒子の構造を決める。次に、析出する金属の順番に応じて有機金属化合物の熱分解が完了する温度を定める。最後に、この熱分解が完了する温度に適合した有機金属化合物を金属の原料として用い、グラフェン接合体の表面に複合金属微粒子を担持する。
なお、本実施形態における鉄の析出量を、第2実施形態における鉄の析出量より少なくした。この理由は、析出する鉄はグラフェン同士を接合する機能に留めることによる。このため、グラフェン接合体の表面に担持される鉄微粒子の大きさは、第2実施形態における鉄微粒子より小さくなる。これによって、有機銅化合物の使用量を増やさずに、グラフェン接合体の表面に担持される複合金属微粒子は、鉄の量に対する銅の量の比率が増大する。この結果、有機鉄化合物と有機銅化合物の使用量の双方を増やさずに、複合金属微粒子における鉄の量に対する銅の量の比率が変わる。
有機鉄化合物と有機銅化合物とを、分散液中における鉄および銅のそれぞれの重量割合が0.5重量%と2重量%になるように、メタノールなどの有機溶剤に分散させる。この2種類の有機金属化合物の分散液の60gにグラフェンの集まりの10gを混合し、攪拌して懸濁液を作成する。次に、懸濁液を同一形状の溝が多数個形成された容器が有する各溝に、一定量を充填する。さらに、容器を大気雰囲気の熱処理炉に入れる。最初に、有機溶剤を蒸発させて懸濁液を濃縮する。次に、懸濁液を有機鉄化合物の熱分解が完了する温度まで昇温し、有機鉄化合物を熱分解する。これによって、0.6nmの大きさからなる鉄微粒子を介してグラフェンが接合し、一枚のグラフェン接合体が製造される。更に、有機銅化合物の熱分解が完了する温度まで昇温し、有機銅化合物を熱分解する。これによって、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表面に銅が析出する。この結果、グラフェン接合体の表面に担持される鉄と銅とからなる複合金属微粒子は、1nmの大きさまで成長する。本実施形態に基づいて製造されたグラフェン接合体は、その表面に担持された複合金属粒子は、鉄の量に対し銅の量が前実施形態より過多になるため、複合金属粒子の性質は銅の性質がさらに優勢になる。
本実施形態のグラフェン接合体の表面に担持された複合金属粒子の性質を利用し、様々な用途にグラフェン接合体を使用することができる。たとえば、銅は金属元素の中で金、銀、鉛についで展性が大きいので、銅の展性を利用して、グラフェン接合体をいろいろな基材や部品の表面に圧着させることができる。
本実施形態では、有機鉄化合物の使用量に対する有機銅化合物の使用量の比率を変えることで、グラフェン接合体の表面に担持される複合金属微粒子を構成する鉄と銅との比率を変えた。この様に、必要となるグラフェン接合体の表面の性質に応じて、表面に担持する複合金属粒子の構造が変えられる。つまり、必要となるグラフェン接合体の表面の性質に応じて、複合金属微粒子の構成と構造を決め、これに応じて複数種類の有機金属化合物の熱分解温度を定め、この複数種類の有機金属化合物の有機溶剤への各々の分散濃度を決め、この複数種類の有機金属化合物が吸着したグラフェンを熱処理すれば、必要となる性質を有する複合金属微粒子がグラフェン接合体の表面に担持する。
最初に、有機銅化合物と有機鉄化合物とを、分散液中における銅の重量割合が2重量%になり、鉄の重量割合が0.4重量%になるように、メタノールなどの有機溶剤に分散させる。次に、2種類の有機金属化合物が混合された分散液60gにグラフェンの集まり10gを混合して攪拌する。これによって、グラフェンの集まりが、2種類の有機金属化合物の分散液に分散された懸濁液が作成できる。次に、この懸濁液を、同一形状の溝が多数個形成された容器が有する各溝に、一定量ずつを充填する。さらに、この容器を大気雰囲気の熱処理装置に入れる。最初に、有機溶剤を蒸発させて懸濁液を濃縮する。次に、懸濁液を有機銅化合物の熱分解が完了する温度まで昇温し、有機銅化合物を熱分解する。これによって、グラフェンの表面に銅微粒子が担持する。この際、銅は磁性を持たないため、グラフェンは接近しない。更に、有機鉄化合物の熱分解が完了する温度まで昇温し、有機鉄化合物を熱分解する。この際、グラフェンの表面に担持された銅微粒子が鉄の析出する核になって鉄が析出し、析出した鉄によって銅と鉄とからなる複合金属微粒子が形成される。さらに、複合金属微粒子が磁気吸着してグラフェン同士が近接し、さらに鉄の析出が複合金属微粒子の表面に継続し、磁気吸着した複合金属微粒子同士が金属結合する。この結果、複合金属微粒子を介してグラフェンが接合し、一枚のグラフェン接合体が製造される。このグラフェン接合体の形状は、懸濁液を充填した溝の形状を反映する。
この実施形態では、1nmの大きさの銅微粒子が10nmの間隔で離散的にグラフェンの表面に担持される。この銅微粒子の表層に、銅の体積の1/5の体積で鉄が析出する。このため、複合金属微粒子の性質は銅の性質が優勢になる。つまり、鉄はグラフェンを接合させてグラフェン接合体を製造する手段として用いるため、鉄の析出量は銅の析出量に比べて少量とした。この結果、本実施形態で製造されるグラフェン接合体は、複合金属微粒子を構成する銅の性質が反映され、熱導電性と電気導電性とに優れる。これによって、グラフェンの熱伝導性ないしは電気導電性を損なうことなく、熱伝導性と電気導電性に優れるグラフェン接合体が製造できる。また、グラフェン接合体の表面に担持される複合金属微粒子は、展性に優れる銅の性質を反映する。
同様に、グラフェンの代わりにグラフェン接合体を原料として用い、このグラフェン接合体の表面に銅と鉄とからなる複合金属微粒子を担持させ、この複合金属微粒子同士の金属結合で、グラフェン接合体同士を接合ないしは積層し、より面積が広い、ないしは、より厚みが厚い新たなグラフェン接合体が製造できる。
次に、本実施形態で製造されるグラフェン接合体の優れた熱伝導性を説明する。グラフェンの熱伝導率は、金属の中で最も熱伝導率が高い銀が持つ熱伝導率4.30W/Cmの4.5倍に近い。このため、グラフェンの優れた熱伝導率を損なうことなく、グラフェン同士を接合させてグラフェン接合体が製作できれば、熱伝導に優れたグラフェン接合体となる。銅は4.00W/Cmの熱伝導率をもち、銀に次いで熱伝導性に優れる。ここで、上下に隣接する3枚のグラフェンが、互いに複合金属微粒子の金属結合で接合されている状態を考える。グラフェンAと上下に隣接するグラフェンB、Cへの熱伝達は、伝導、対流、放射に基づく。グラフェンAからグラフェンB、Cへの伝導に基づく熱伝達は、グラフェンA、B、Cに担持された複合金属微粒子を介して熱が伝達される。つまり銅の性質が優勢な複合金属微粒子の集まりを熱が伝達し、グラフェンAからグラフェンB、Cに熱が伝達される。次に、グラフェンAからグラフェンB、Cへの対流に基づく熱伝達は、複合金属微粒子の大きさで形成される2nm程度の距離からなる僅かな間隙における熱の対流によって熱が伝達される。従って、2nm程度の僅かな間隙における熱の対流は、グラフェンAにおける熱の対流の殆ど全てがグラフェンB、Cに伝達される。さらに、グラフェンAからグラフェンB、Cへの放射に基づく熱伝達は、対流と同様にグラフェンAの放射の殆ど全てがグラフェンB、Cに伝達される。このように、対流と放射に基づく熱伝達は、グラフェン同士の接合距離が、複合金属微粒子の大きさで決まる2nm程度の極めて短い距離であるため、グラフェンの熱の殆ど全てが隣接するグラフェンに伝達する。この結果、本実施形態で製造されるグラフェン接合体の熱伝達は、グラフェンの表面に担持された複合金属微粒子の性質が反映され、グラフェンの優れた熱伝導性を損なうことなく、熱伝導性に優れたグラフェン接合体になる。
なお、複合金属微粒子を伝導する熱は、複合金属微粒子の熱伝導率の大きさに基づいて伝達する。従って、複合金属微粒子の多くの体積を銅で構成すれば、複合金属微粒子の熱伝導率は銅の熱伝導率に近づき、熱伝導性に優れる複合金属微粒子になる。なお、鉄の熱伝導率は0.84W/Cmであり銅の1/5に近い。
本実施形態のグラフェン接合体は、グラフェン接合体の表面に担持する複合微粒子の性質を電気絶縁性でかつ熱伝導性とし、グラフェン接合体の内部は鉄微粒子でグラフェン同士を接合させ、グラフェン接合体の熱伝導性と電気導電性を確保する。なお酸化アルミニウムは、絶縁物の中では熱伝導率が20℃で30W/Cmと高くアルミニウムの1/8である。いっぽう固有抵抗は12Ωcmで、アルミニウムの4.4×106倍の固有抵抗を持つ絶縁材料である。なお、鉄は酸化アルミニウムの2.7倍の熱伝導率を持つ。
最初に、有機鉄化合物の分散液中における鉄の重量割合が2重量%になるように、メタノールなどの有機溶剤に分散させる。次に、有機鉄化合物の分散液60gにグラフェンの集まり10gを混合し攪拌する。これによって、グラフェンの集まりが有機鉄化合物の分散液に分散された懸濁液が作成できる。次に、懸濁液を、同一形状の溝が多数個形成された容器の有する各溝に、一定量ずつを充填する。さらに、容器を大気雰囲気の熱処理装置に入れる。最初に、有機溶剤を蒸発させて懸濁液を濃縮する。次に、懸濁液を前記有機鉄化合物の熱分解が完了する温度まで昇温し、有機鉄化合物を熱分解する。この結果、1nmの大きさからなる鉄微粒子が10nmの間隔で離散して析出し、この鉄微粒子同士の金属結合を介してグラフェンが接合し、グラフェン接合体が製造される。
次に、有機アルミニウム化合物の分散液中におけるアルミニウムの重量割合が0.5重量%になるように、メタノールなどの有機溶剤に分散させる。この分散液60gを、先行して製造したグラフェン接合体が存在する各溝に、一定量ずつを充填する。この後、容器を大気雰囲気の熱処理装置に入れる。最初に、有機溶剤を気化させて、グラフェン接合体の表面に有機アルミニウム化合物を吸着させる。次に、有機アルミニウム化合物を熱分解させて、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に酸化アルミニウムを析出させる。本実施形態では、鉄微粒子の2倍近い体積で酸化アルミニウムが析出する。こうして、グラフェン接合体の表面に担持された複合微粒子は、内部が鉄で表層が酸化アルミニウムからなる複合微粒子になる。なお、製造されたグラフェン接合体の形状は、懸濁液を充填した溝の形状を反映する。
本実施形態におけるグラフェン接合体の表面に担持された複合微粒子の性質は、表層を形成する酸化アルミニウムの性質、つまり、電気絶縁性で熱導電性の性質が優勢になる。いっぽう、グラフェン同士は鉄微粒子の金属結合で接合してグラフェン接合体が製造されるため、グラフェン接合体の熱伝導性と電気導電性は鉄微粒子によって確保される。このため、本実施形態のグラフェン接合体は、表面においては熱伝導性で電気絶縁性であり、内部においては熱伝導性で電気導電性である。なお、グラフェン接合体の熱伝導性と電気導電性とをさらに増大させたい場合がある。この場合は、実施形態4で製造したグラフェン接合体を用い、グラフェン接合体の表面に酸化アルミニウムを析出すればよい。このグラフェン接合体は、本実施形態のグラフェン接合体より熱伝導性と電気導電性とが優れる。
つまり、本実施形態では、鉄微粒子の表層に析出する白金ないしはパラジウムの量を微量としたため、グラフェン接合体の表面に担持される複合金属微粒子の表層は、その大半が触媒作用を有する白金ないしはパラジウムで構成されるが、表層の一部に鉄が残存する点で、第1から第5までの実施形態とは異なる。なお、触媒作用をもたらす物質の体積に対する表面積の比率である比表面積が大きいほど、触媒作用の効率が上がる。比表面積が大きい複合金属微粒子の表層が、触媒作用をもつ白金ないしはパラジウムで形成されるため、白金ないしはパラジウムの触媒作用の効率が上がる。このような複合金属微粒子が、グラフェン接合体の表面に担持される。
本実施形態は、第5実施形態における酸化アルミニウムを白金ないしはパラジウムに変えた実施形態である。但し、グラフェン接合体の表面に担持された複合金属微粒子の表層は、その大半が触媒作用を有する白金ないしはパラジウムで構成するが、表層の一部に鉄を残存させる点が、第5実施形態とは異なる。
最初に、有機鉄化合物の分散液中における鉄の重量割合が2重量%になるように、メタノールなどの有機溶剤に分散させる。次に、有機鉄化合物の分散液60gにグラフェンの集まり10gを混合し攪拌する。これによって、グラフェンの集まりが有機鉄化合物の分散液に分散された懸濁液が作成できる。次に、懸濁液を、同一形状の溝が多数個形成された容器が有する各溝に、一定量ずつを充填する。さらに、容器を大気雰囲気の熱処理装置に入れる。最初に、有機溶剤を蒸発させて懸濁液を濃縮する。次に、容器を有機鉄化合物の熱分解が完了する温度まで昇温し、有機鉄化合物を熱分解する。この結果、1nmの大きさからなる鉄微粒子が10nmの間隔で離散して析出し、この鉄微粒子同士の金属結合を介してグラフェンが接合し、グラフェン接合体が製造される。
次に、有機白金化合物ないしは有機パラジウム化合物の有機溶剤における分散濃度を、白金ないしはパラジウムの重量割合が0.04重量%になるように、メタノールなどの有機溶剤に分散させ、グラフェン接合体が存在する容器の各溝に一定量ずつを充填する。この後、容器をアンモニアガスの雰囲気からなる熱処理装置に入れる。最初に、有機溶剤を気化させてグラフェン接合体の表面に、有機白金化合物ないしは有機パラジウム化合物を吸着させる。次に、200℃に昇温し、有機白金化合物ないしは有機パラジウム化合物を還元し、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に、鉄微粒子の体積の1/50に近い体積で白金ないしはパラジウムを析出させる。複合金属微粒子の表層は、その殆どが触媒作用を有する白金ないしはパラジウムで構成されるが、表層の一部に鉄が残存する。本実施形態では、白金ないしはパラジウムの析出量が少ないため、白金ないしはパラジウムの原料となる高価な有機金属化合物の使用量は少なくて済む。
本実施形態におけるグラフェン接合体の表面に担持される複合金属微粒子は、表層の殆どを占める白金ないしはパラジウムによる触媒作用と、表層の一部分を占める鉄がもたらす作用とを兼備することになる。白金ないしはパラジウムは一酸化炭素と接触すると、一酸化炭素を吸着し、白金ないしはパラジウムの表面が一酸化炭素の被膜で覆われ、白金ないしはパラジウムの触媒作用が阻害される、いわゆる触媒の失活状態になる。他方、鉄は常温においても一酸化炭素を吸着して金属カルボニルと呼ばれる遷移金属錯体、鉄の場合はペンタカルボニル鉄Fe(CO)5を形成する。こうして、複合金属微粒子の表層の一部に鉄の層を残すことで、白金触媒ないしはパラジウム触媒の被毒作用をもたらす一酸化炭素を鉄によって吸着させ、ペンタカルボニル鉄を生成させる。このような2つの性質を持つ複合金属微粒子が、グラフェン接合体の表面に担持される。なお、ペンタカルボニル鉄は、メタノールなどの有機溶剤に容易に溶けるため、グラフェン接合体がメタノールなどの有機溶剤に触れることで鉄が再生される。
白金とルテニウムとの合金は白金と同様に触媒作用を持つが、白金のように一酸化炭素を吸着する性質はないので、複合金属微粒子の表面に鉄を残存させる必要はない。鉄微粒子の表面全体を、白金とルテニウムとの合金層が薄く覆う構造とすれば、白金とルテニウムとの合金層は大きな比表面積を持ち、触媒作用の効率が上がる。また、白金およびルテニウムの原料となる高価な有機金属化合物の使用量は少なくて済む。
最初に、有機鉄化合物の分散液中における鉄の重量割合が2重量%になるように、メタノールなどの有機溶剤に分散させる。次に、有機鉄化合物の分散液の60gに、グラフェンの集まりの10gを混合し攪拌する。これによって、グラフェンの集まりが有機鉄化合物の分散液に分散された懸濁液が作成できる。次に、懸濁液を、同一形状の溝が多数個形成された容器が有する各溝に、一定量ずつを充填する。さらに、容器を大気雰囲気の熱処理装置に入れる。最初に、有機溶剤を蒸発させて懸濁液を濃縮する。次に、有機鉄化合物の熱分解が完了する温度まで昇温し、有機鉄化合物を熱分解する。この結果、1nmの大きさからなる鉄微粒子が10nmの間隔で離散して析出し、この鉄微粒子同士の金属結合を介してグラフェンが接合し、グラフェン接合体が製造される。次に、有機白金化合物の分散液における白金の重量割合と、有機ルテニウム化合物の分散液におけるルテニウムの重量割合とが、それぞれ0.1重量%になるように、メタノールなどの有機溶剤に分散させる。この分散液を、グラフェン接合体が存在する容器の各溝に、一定量を充填する。この後、容器を水素ガスの雰囲気からなる熱処理装置に入れる。最初に、有機溶剤を気化させて前記グラフェン接合体の表面に、有機白金化合物と有機ルテニウム化合物とを吸着させる。次に、200℃に昇温し、有機白金化合物と有機ルテニウム化合物とを還元し、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に、白金とルテニウムとを同時に析出させる。これによって、白金とルテニウムとからなる合金の層が、鉄微粒子の表面に薄く形成される。
白金とコバルトとの合金、ないしはパラジウムとコバルトとの合金は、第7実施形態の白金とルテニウムとの合金と同様に触媒作用を持つ。さらに、一酸化炭素を吸着する性質はなく、複合金属微粒子の表面に鉄を残存させる必要はない。鉄微粒子の表面全体を、白金とコバルトとの合金層、ないしはパラジウムとコバルトとの合金層が薄く覆う構造とすれば、白金とコバルトとの合金、ないしはパラジウムとコバルトとの合金層は大きな比表面積を持ち、触媒作用の効率が上がる。また、析出する金属の原料となる高価な金属化合物の使用量は少ない。
最初に、有機鉄化合物の分散液中における鉄の重量割合が2重量%になるように、メタノールなどの有機溶剤に分散させる。次に、有機鉄化合物の分散液60gにグラフェンの集まり10gを混合し攪拌する。これによって、グラフェンの集まりが有機鉄化合物の分散液に分散された懸濁液が作成できる。次に、懸濁液を、同一形状の溝が多数個形成された容器が有する各溝に、一定量ずつを充填する。さらに、容器を大気雰囲気の熱処理装置に入れる。最初に、有機溶剤を蒸発させて懸濁液を濃縮する。次に、有機鉄化合物の熱分解が完了する温度まで昇温し、有機鉄化合物を熱分解する。この結果、1nmの大きさからなる鉄微粒子が10nmの間隔で離散して析出し、この鉄微粒子同士の金属結合を介してグラフェンが接合し、グラフェン接合体が製造される。
次に、有機白金化合物の分散液における白金の重量割合、ないしは有機パラジウム化合物におけるパラジウムの重量割合と、無機コバルト化合物の水和物の分散液におけるコバルトの重量割合がそれぞれ0.1重量%になるように、メタノールなどの有機溶剤に分散させる。この分散液の60gに、還元剤であるヒドラジンH2N2H2の0.6gを混合して攪拌し、グラフェン接合体が存在する各溝に一定量ずつを充填する。この後、容器を水素ガスの雰囲気からなる熱処理装置に入れる。最初に、有機溶剤を気化させてグラフェン接合体の表面に、有機白金化合物ないしは有機パラジウム化合物と無機コバルト化合物とを吸着させる。次に200℃に昇温し、ヒドラジンを気化させると共に有機白金化合物ないしは有機パラジウム化合物と無機コバルト化合物の水和物とを還元し、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に、白金ないしはパラジウムとコバルトとを同時に析出させる。この結果、白金とコバルトとからなる合金層、ないしはパラジウムとコバルトとからなる合金層が、鉄微粒子の表面に薄く形成される。
グラフェン接合体の集まりを、水素ガスを含む還元性雰囲気に放置して還元焼成するだけでは、全てのグラフェン接合体を互いに接合することは難しい。つまり、グラフェン接合体を接近させることで、グラフェン接合体の表面に担持された磁性を有する金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士が磁気吸着する。磁気吸着した金属微粒子ないしは複合金属微粒子の表層を新生金属に還元すると、磁気吸着した金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士が金属結合し、全てのグラフェン接合体が接合して新たなグラフェン接合体が製造できる。このため、グラフェン接合体を接合するには、グラフェン接合体が互いに接近した状態を作る必要がある。
本実施形態では、有機金属化合物の熱分解が完了する温度に比べ、沸点が低くかつ発火点が高い有機物の水溶液に、グラフェン接合体の集まりを分散させる。例えば、有機銅化合物の熱分解が完了する温度が290℃で、有機鉄化合物の熱分解が完了する温度が330℃である事例では、沸点が197℃で発火点が398℃であるエチレングリコール、沸点が244℃で発火点が351℃であるジエチレングリコール、沸点が250℃で発火点が360℃であるポリエチレングリコールなどの多価アルコールを用いるのが望ましい。
このような多価アルコールの水溶液にグラフェン接合体の集まりを混合し、攪拌して懸濁液を作成する。次に懸濁液を容器に入れ、容器を100℃に昇温して水を蒸発させ、グラフェン接合体が多価アルコールに分散された混合物を作成する。この後、水素ガスの体積割合が10%以上で窒素ガスの体積割合が90%以下の割合からなり、多価アルコールの沸点に昇温された還元性ガスが供給される還元焼成室に容器を配置し、マグネチックスターラーなどの攪拌装置を容器の背後に配置して混合物を攪拌する。マグネチックスターラーは、磁力によって攪拌子を回転させて液体を攪拌する装置であるが、本実施形態では懸濁液が磁性を持つため、攪拌子を用いることなく懸濁液が攪拌できる。つまり、マグネチックスターラーは、懸濁液が入った容器の背後に配置し、マグネチックスターラーが発する回転磁場によって懸濁液を攪拌させる。多価アルコールの気化が進むと、グラフェン接合体同士は、金属微粒子ないしは複合金属微粒子が発する磁力によって磁気吸着する。また、グラフェン接合体が還元雰囲気にさらされると、金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士の金属結合で、グラフェン接合体が接合する。多価アルコールの気化が完了すると、容器には一枚のグラフェン接合体が残る。新たに製造されたグラフェン接合体の少なくとも表層は、還元雰囲気にさらされたため、グラフェン接合体が金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士の金属結合によって接合される。また、新たに製造されたグラフェン接合体の内部は、金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士の磁気吸着と金属結合とによって、グラフェン接合体が接合している。こうして、より広い面積ないしはより厚みが厚い一枚のグラフェン接合体が製造される。なお、新たに製造したグラフェン接合体に、機械的強度が必要になる場合は、前記した製法で製造したグラフェン接合体を、着磁機にかけて着磁させることで、グラフェン接合体同士の磁気吸着力が著しく増大し、グラフェン接合体の機械的強度は飛躍的に増す。
グラフェンないしはグラフェン接合体の表面に担持する金属微粒子ないしは複合金属微粒子に係わる、金属の原料は、次の5つの性質を持つ必要がある。第一に液相化され、液相中に金属イオンが溶出しない。つまり、金属の原料は液体に溶解せず分散する性質を持つ。これによって金属イオンの全てが、金属微粒子の生成に参加する。第二に、合成が容易で安価な費用で製造できる。これによって、原料が安価に製造できる。第三に、熱分解を完了すると金属が析出する。これによって、金属微粒子が生成される。第四に、熱分解が完了する温度が相対的に低い。これによって、熱処理費用が安価で済む。第五に、アルコールなどの有機溶剤に分散する分散濃度が相対的に高い。これによって、金属微粒子の析出度合いの自由度が増す。
第一の性質を有する金属の原料の実施形態について説明する。21段落で説明したように本発明の出発点は、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりから、グラフェンの集まりを製造することにある。しかしながら、天然黒鉛粒子から製造したグラフェンの大きさは、113段落で説明したように、極めて微細な物質であるが、厚みが極めて薄いがゆえに、厚みに対する面積の比率であるアスペクト比は極めて大きく、かつ、アスペクト比の偏差も極めて大きい扁平な微細物質の集まりである。このような性質を持つグラフェンの集まりについて、グラフェンを接合してグラフェン接合体を製造するには、グラフェン固有の特徴を活かす方法によってのみ可能になる。すなわち、最小グラフェンの面積より充分に小さいナノオーダーの大きさの金属微粒子を、グラフェンの表面に離散して担持させ、この金属微粒子同士を金属結合させることによってのみ、グラフェンの接合が可能になる。
しかし、ナノオーダーの大きさの金属微粒子を全てのグラフェンの表面に物理的に結合させることは、グラフェンが微細な物質であり、金属微粒子はさらに微細な物質であるがゆえに困難である。従って、金属の原料となる金属化合物をグラフェンに吸着させ、この金属化合物の熱分解という化学反応によって不純物を含まない金属を析出させ、これによって、全てのグラフェンの表面に金属微粒子を離散的に担持させる方法のみが、グラフェンの表面に金属微粒子を結合させる方法になる。
つまり、42段落で説明したように、グラフェンの表面に金属微粒子を担持させる方法は、第一に金属の原料となる物質を液相化し、第二に液相化された物質とグラフェンとによって懸濁液を作成し、第三に懸濁液における液体を蒸発させて金属の原料をグラフェンの表面に吸着させ、第四にグラフェンの表面に吸着した金属の原料を熱分解させ、第五に全てのグラフェンの表面に金属微粒子を担持する方法である。すなわち、第一に、金属の原料である金属化合物が液相化されることで、液相中に金属化合物が均一に分散された状態となる。第二に、分散液にグラフェンの集まりを混合して懸濁液とすることで、全てのグラフェンの表面に分散液が接触する。第三に、分散液の液体を気化させると、金属化合物が全てのグラフェンの表面に均一に吸着する。第四に、金属化合物を熱分解させると金属が析出する。第五に、析出した金属は、全てのグラフェンの表面に離散的に金属微粒子として担持する。
以上に説明したように、金属の原料となる金属化合物は、第一に液相化できなければならない。なお、グラフェンの量に対し、液相化された金属化合物における金属の量を定めることで、グラフェンの表面に担持する金属微粒子の大きさと数とが決まる。ここで、液相化できる金属化合物の実施形態を説明する。ここでは、金属を銅とし、銅の原料となる銅化合物について説明する。銅化合物の中で、塩化銅、硫酸銅、硝酸銅などの無機銅化合物は、液相化された無機銅化合物に銅イオンが溶出するため、殆どの銅イオンが銅微粒子の生成に参加できなくなる。さらに、銅化合物はアルコールなどの汎用的な溶剤に分散できれば、銅化合物の分散液が簡単に作成でき、この結果、銅化合物の分散液中にグラフェンの集まりが分散された懸濁液が作成出来る。酸化銅、水酸化銅、炭酸銅などの無機銅化合物は、アルコール類に分散しない。このため、無機銅化合物は銅微粒子を生成する原料にはならず、有機銅化合物が銅微粒子を生成する原料になる。
次に、第二および第四の性質を有する有機金属化合物の実施形態を説明する。ここでは銅の原料となる有機銅化合物として説明する。有機銅化合物の中で、合成が容易で、相対的に低い温度で熱分解が完了する有機銅化合物は、有機銅化合物の製造と熱分解処理とが安価で行えるために望ましい。カルボン酸銅は、合成が容易で、熱分解温度が相対的に低い有機銅化合物である。つまり、カルボン酸を水酸化ナトリウムなどの強アルカリ溶液中で反応させることで、カルボン酸アルカリ金属が容易に生成できる。このカルボン酸アルカリ金属を、硫酸銅などの無機銅化合物と反応させることでカルボン酸銅が容易に生成できる。また多くのカルボン酸銅は、熱分解温度が500℃以下であり、他の有機銅化合物に比べ熱分解完了温度が低い。このように、金属微粒子を生成する原材料は、有機金属化合物の中でカルボン酸金属化合物が更に望ましい。
第三の性質を有するカルボン酸金属化合物の実施形態を、カルボン酸銅を具体的な例として説明する。カルボン酸銅の組成式は、RCOO―Cu―COORで表わさせられる。Rは炭化水素でありCmHnである(ここでmとnとは整数)。つまり、カルボン酸RCOOHが水酸化ナトリウムNaOHと反応してカルボン酸ナトリウムRCOONaが生成され、このカルボン酸ナトリウムの2モルが硫酸銅CuSO4の1モルと反応してカルボン酸銅RCOO−Cu−COORが生成される。このように、カルボン酸銅は合成が容易な有機銅化合物である。組成式で示されるカルボン酸銅を構成する物質の中で、最も大きい物質は、組成式の中央に存在する銅イオンCu2+である。また、銅イオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンO−とが共有結合する場合は、銅イオンと酸素イオンとの距離が最大になる。この理由は、銅イオンCu2+の共有結合半径は112pmであり、酸素イオンO−の共有結合半径は63pmであり、炭素原子の共有結合半径は75pmであり、酸素原子の共有結合半径は57pmであることによる。このため、銅イオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとが共有結合するカルボン酸銅の熱分解反応では、結合距離が最も長い銅イオンと酸素イオンとの結合部が最初に切れる。この後、銅イオンと結合した有機物質の熱分解が進行し、全ての有機物質が気化した後に、銅分子が銅となって析出する。このように、カルボン酸銅の熱分解反応が完了した時点で生成される物質は、銅イオンCu2+がカルボキシル基の酸素イオンO−と、どのような形態で結合しているかに依存する。つまり、カルボン酸銅を熱処理する際に、銅イオンCu2+と酸素イオンO−との結合部位が最初に切れれば、カルボン酸銅の熱分解が完了すると銅が析出する。銅イオンと結合する酸素イオンが銅イオンと共有結合するカルボン酸銅として、オレイン酸銅、オクチル酸銅、ラウリン酸銅、ナフテン酸銅などが挙げられる。このように、金属微粒子を生成する原材料は、金属イオンがカルボキシル基の酸素イオンと共有結合するカルボン酸金属化合物が更に望ましい。
いっぽう、カルボン酸銅の中で、銅イオンと結合する酸素イオンが配位子を形成する銅錯体ないしは銅錯塩では、銅イオンと結合する酸素イオンが配位子を形成するため、酸素イオンが銅イオンに近づき配位結合する。このため、銅錯体ないしは銅錯塩を形成するカルボン酸銅の熱分解反応では、最初に切れる部位は銅イオンと酸素イオンとが結合する部位ではなく、酸素イオンがカルボキシル基を形成する炭素原子と結合する部位になる。これによって、銅イオンと酸素イオンとの結合部位は熱分解が完了しても残存し、酸化銅が残る。このような銅錯体ないしは銅錯塩を形成するカルボン酸銅として、酢酸銅、カプリル酸銅、安息香酸銅などが挙げられる。従って、金属錯体ないしは金属錯塩を形成するカルボン酸金属化合物は、金属微粒子の原料にはならない。
第五の性質を有するカルボン酸金属化合物の実施形態について、カルボン酸銅を具体例としてその実施形態を説明する。銅イオンと結合する酸素イオンが銅イオンと共有結合するカルボン酸銅について、次の3つの分子構造を兼備するカルボン酸銅が、アルコールなどの有機溶剤に分散する濃度が高く、また、熱分解が完了する温度も低い。
第一に、炭素原子間に二重結合や三重結合が無く、またベンゼン環を有せず、飽和脂肪酸から構成されたカルボン酸銅である。つまり、不飽和脂肪酸は、飽和脂肪酸に比べて炭素原子の数が多くなるため、不飽和カルボン酸と銅からなるカルボン酸銅の大気雰囲気での熱分解では、炭素原子の数が多いことによって酸素ガスが不足し、酸化第二銅CuOと酸化第一銅Cu2Oとの双方が生成される。Cu2OをCuに還元するには、酸素ガスが大気に比べてリッチな雰囲気でなければならず、Cu2Oの還元処理費用がCuOよりかさむ。また、不飽和脂肪酸と銅からなるカルボン酸銅は、アルコールなどの有機溶剤に分散する濃度が著しく低い。このため、炭素原子間に2重結合を持つオレイン酸銅などの不飽和脂肪酸からなるカルボン酸銅と、ベンゼン環を持つナフテン酸銅などの不飽和脂肪酸からなるカルボン酸銅は、銅微粒子の原料としては望ましくない。
第二に、長鎖構造の炭化水素でない飽和脂肪酸で形成されたカルボン酸銅である。つまり、飽和脂肪酸から形成されたカルボン酸銅であっても、脂肪酸を構成する炭化水素が長鎖構造である場合は、アルコールなどの有機溶剤に分散する濃度が低く、また熱分解温度も相対的に高い。このような長鎖飽和脂肪酸からなるカルボン酸銅として、ラウリン酸銅が挙げられる。ラウリン酸銅が熱分解を完了する温370℃である。
第三に、極性を有する脂肪酸、つまり、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸と銅からなるカルボン酸銅である。分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸は、分岐鎖の分子構造によって極性を持つ。従って、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸と銅からなるカルボン酸銅も極性を持ち、アルコールなどの極性溶媒に分散する濃度が相対的に高くなる。また、分岐鎖構造の飽和脂肪酸は、長鎖構造の飽和脂肪酸より熱分解温度が低い。このようなカルボン酸銅に、たとえばオクチル酸銅がある。オクチル酸銅は、大気中で熱分解が完了する温度は290℃と低い。また、メタノールに対して10重量%まで分散する。
以上に説明したように、金属イオンと結合するイオンが金属イオンと共有結合するカルボン酸金属化合物の中で、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸と金属とからなるカルボン酸金属化合物が、金属微粒子を生成する有機金属化合物として最も望ましい。
なお、複合金属微粒子を形成する場合はこの限りではない。つまり、複合金属微粒子を構成する金属の中で相対的に析出量が少ない金属の原料は、そもそも溶媒に対し低い分散濃度で使用するため、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸からなるカルボン酸金属化合物を用いなくて済む。また、例えば2種類の金属からなる複合金属粒子を形成する場合は、2種類のカルボン酸金属化合物の熱分解が完了する温度に、温度差が必要になる。この場合、2番目に金属が析出するカルボン酸金属化合物の熱分解温度は、必ずしも熱分解温度が低くなくてもよく、最初に金属が析出するカルボン酸金属化合物の熱分解温度との間で温度差が必要になる。このように、複合金属微粒子を形成する場合は、長鎖飽和脂肪酸と金属からなるカルボン酸金属化合物は、金属微粒子の原料として用いることができる。
最初に、鱗片状黒鉛ないし塊状黒鉛からなる天然黒鉛粒子(いずれも日本黒鉛株式会社のCB黒鉛)、電極板、絶縁板、メッシュフィルターを用意する(S10工程)。電極板は一辺が1.2mからなる正方形の銅板を2枚用意する。さらに、長さが1.2mと1mとの2種類からなり、幅が10cmで、厚みが50ミクロン、100ミクロン、200ミクロン、300ミクロン、400ミクロンの5種類からなる合計で10種類の電気絶縁性の板を2枚ずつ用意する。材質は、マイカやガラスなどの高電圧下でも絶縁性が確保されれば材質にはこだわらない。絶縁性が確保できれば合成樹脂でもよい。さらにメッシュフィルターは、100ミクロンの大きさのメッシュからなり、厚みが200ミクロンで、大きさが1.2m×1.2mで、メッシュが1m×1mの範囲に形成されるメッシュフィルターを用意する。なおメッシュの粗さは、黒鉛粒子の累積粒度分布が90%となるd90の粒子の大きさを目安としてメッシュの粗さを決める。
次に、電極板の上に前記のメッシュフィルターを載せる(S11工程)。さらに、このメッシュフィルターの上から黒鉛粒子を、満遍なくメッシュが形成されている領域にまく(S12工程)。単位時間当たり一定の量の黒鉛粒子が排出するノズルを用意し、このノズルが移動する範囲をメッシュフィルターが配置された位置に制御して、前記メッシュフィルターの上から満遍なく黒鉛粒子をまいてもよい。この後、メッシュフィルターを電極板の上から取り除く(S13工程)。こうして、電極板上の1m×1mの領域に、見かけ状満遍なく黒鉛粒子が引きつめられた状態ができる。
次に電極板の4隅に、厚みが最も厚い400ミクロンの厚みからなる4枚の絶縁板を載せる(S14工程)。この後、もう一方の電極板を4枚の絶縁板の上にのせる(S15工程)。この電極板の自重によって黒鉛粒子はすべり、より平坦に引きつめた状態になる。この後、上からのせた電極板を取り除き、400ミクロンの厚みからなる絶縁体を300ミクロンの厚みからなる絶縁体に置き換える(S16工程)。この後、電極板を再度のせる。こうしたS15工程とS16工程とを繰り返し、最後に、100ミクロンの厚みからなる絶縁体に置き換え、この後、電極板を再々度のせる。こうして、電極板の上には、黒鉛粒子が1層に配列される状態に近い状態が出来上がる。黒鉛粒子が25ミクロンの粒径からなる球状粒子とした場合、電極板の1m×1mの領域に黒鉛粒子が満遍なく1層に配列された場合は、1.6×109個の黒鉛粒子が電極板の上に引きつめられる。
次に100ミクロンの厚みからなる絶縁体を、厚みが最も薄い50ミクロンの厚みからなる絶縁体に置き換える(S17工程)。この後、電極板を再度のせる(S18工程)。さらに、電極間に6キロボルトの直流電圧を印加する(S19工程)。これによって、2枚の電極板が作る50ミクロンの間隙に存在する全ての黒鉛粒子は、全ての層間結合が同時に破壊され、グラフェンの集まりが重なった状態になる。最後に、電極板の上からグラフェンを回収する(S20工程)。
ここで、108段落で説明したように、黒鉛粒子は粒径が25ミクロンからなる球状粒子で構成されるとし、さらに、ひとつの黒鉛粒子が持つグラフェンの数を前記の297,265個とした場合は、4.76×1014個のグラフェンが得られる。この際に使用した黒鉛粒子の重量は、わずかに29.4gである。
以上に説明したように、グラフェンを製造する本実施例は、2枚の平行平板電極間にわずか29.4gの天然黒鉛粒子を平坦に引きつめ、電極間に直流電圧を印加させるという簡単な手段で、500兆個に近いグラフェンの集まりを瞬時に製造することができる。
図8に製造工程を示す。最初に、金属の原料となる有機金属化合物をアルコールに分散する(S21工程)。次に、このアルコール分散液にグラフェンの集まりを混合する(S22工程)。さらに、アルコール分散液を攪拌し、アルコール分散液にグラフェンの集まりが分散した懸濁液を作成する(S23工程)。次に、この懸濁液を、多数個の溝を有する容器の各溝に充填する(S24工程)。さらに、容器を熱処理炉に入れる(S25工程)。熱処理炉の低温焼成室において、アルコールを蒸発させて懸濁液を濃縮し、蒸発したアルコールを回収する(S26工程)。さらに、熱処理炉の高温焼成室において、有機金属化合物を熱分解させる(S27工程)。最後に、容器の溝からグラフェン接合体を取り出す(S28工程)。
グラフェン並びにグラフェン接合体の特長を活かすことによって、グラフェン並びにグラフェン接合体用いた様々な基材や部品の製造ができる。このような基材や部品の製造に当たっては、基材や部品に応じたグラフェン接合体の形状を予め決める必要がある。前記したグラフェン接合体を製造する製造工程のS24工程において、懸濁液が充填される溝の形状を反映した形状を有するグラフェン接合体が製造される。ここで、代表的な溝の形状の実施例を説明する。なお、容器の材質は非磁性の金属、ガラス、セラミックス、耐熱性プラスチックなどが挙げられる。また、下記に示す容器に設けられた溝の形状は単なる事例であって、これらの溝の形状に限定されるものではない。必要となるグラフェン接合体の形状を溝の形状に反映してグラフェン接合体を製造する。
なお、下記に説明する懸濁液を充填する溝の形状は、ミリメートルの大きさからなる比較的小さい溝である。この理由は、グラフェン接合体単品で基材や部品の製造に用いる事例が少ないことによる。このような少ない事例として、グラフェン接合体を直接、基材や部品に圧着する事例がある。いっぽう、基材や部品の製造にグラフェン接合体を用いる多くの事例は、グラフェン接合体を原料として用いて基材や部品を製造する事例が多い。このような事例として、グラフェン接合体のみからなる容器や成形物や被膜を製造する、あるいは、グラフェン接合体と他の材料とからなる複合材料で容器や成形物を製造する事例などがある。このような事例では、比較的小さいグラフェン接合体の集まりを原料として用い、グラフェン接合体を接合して、容器や成形物や被膜あるいは複合材料を製造する。
図9に示す容器には、幅(d)が3mm、長さ(a)が3mm、深さが1mmからなる正方形の溝が多数形成されている。S24工程において、この微細な溝の各々に、ディスペンサー装置のニードルノズルを用いて懸濁液の一定量ずつを充填し、その後、スピンテスタに容器を固定してスピンテスタを回転させ、容器の各溝に懸濁液を充填する。図9に示した容器を用いて製造されるグラフェン接合体は、一辺が3mmの正方形からなり、厚みは1mmより薄い。
図10に示す容器に、幅が1mm、長さが10mm、深さが1mmからなる細長い長方形の微細な溝が多数形成されている。S24工程において、この微細な溝の各々に懸濁液の一定量ずつを充填する。図10に示した容器を用いて製造されるグラフェン接合体は、幅が1mm、長さが10mmからなる細長い長方形で、厚みは1mmより薄い。
図11に示す容器に、幅が2mm、長さが5mmの十字形状で、深さが1mmからなる微細な溝が多数形成されている。S24工程において、この微細な溝の各々に懸濁液の一定量ずつを充填する。図11に示した容器を用いて製造されたグラフェン接合体は、幅が2mm、長さが5mmの十字形状で、厚みは1mmより薄い。
図12に示す容器に、直径が3mmの円で、深さが1mmからなる微細な溝が多数形成されている。S24工程において、微細な溝の各々に懸濁液の一定量ずつを充填する。図12に示した容器を用いて製造されたグラフェン接合体は、直径が3mmの円で、厚みは1mmより薄い。
前記した溝の形状は一つの事例である。グラフェン接合体を用いる基材や部品の形状に応じてグラフェン接合体の形状を決め、これに応じて、懸濁液を充填する溝の形状を決める。なお、金属微粒子の原料となる有機金属化合物は、析出する金属の量が重量割合で例えば2重量%となるように有機金属化合物をアルコールで希釈する。このため分散液の粘度は極めて低い。また、有機金属化合物の分散液に混合する極微細で極軽量のグラフェンの量は、例えば、有機金属化合物の希釈液に対して重量割合で1/6と低い。このため、懸濁液の粘度も低い。従って、前記した微細な形状の溝であっても、粘度の低い懸濁液はディスペンサー装置のニードルノズルを用いて容易に充填できる。
最初に、鉄微粒子の原料となるオクチル酸鉄を製造する。オクチル酸鉄は市販されていないので、図13に図示した製造工程に基づいてオクチル酸鉄を新たに合成した。原料となるオクチル酸(協和発酵ケミカル株式社の製品)と水酸化ナトリウム(試薬1級品)を蒸留水に溶かして水酸化ナトリウム水溶液を用意する(S30工程)。水酸化ナトリウムとオクチル酸とがモル比で1対1の割合で混合し、この混合物を90℃で反応させ、この後、10℃まで温度を下げてオクチル酸ナトリウムの結晶を生成する(S31工程)。生成したオクチル酸ナトリウムの結晶を、水洗した後に乾燥してオクチル酸ナトリウムを得る(S32工程)。生成したオクチル酸ナトリウムが2モルに対し、硫酸鉄(試薬1級品)が1モルの割合で混合し、この混合物を90℃の蒸留水に混合して反応させ、10℃まで温度を下げてオクチル酸鉄の結晶を生成する(S33工程)。この後、多量の水でオクチル酸鉄の結晶を水洗した後に乾燥し、オクチル酸鉄を製造した(S34工程)。
オクチル酸鉄は、鉄イオンがカルボキシル基の酸素イオンと共有結合するため、熱分解が完了すると鉄が析出する。また熱分解が完了する温度、つまり、オクチル酸鉄から鉄が析出する温度は260℃で、カルボン酸金属化合物の中で熱分解温度は低い。さらに、オクチル酸鉄は極性を持つため、代表的な極性有機溶媒であるメタノールに対し重量割合で10重量%近くまで分散する。
次に、図8に図示した製造工程に基づいて、グラフェン接合体を製造する。オクチル酸鉄のメタノール分散液における鉄の重量割合が2重量%になるように、オクチル酸鉄をメタノールに分散する(S21工程に相当)。次に、天然黒鉛粒子から製造したグラフェン10gを、オクチル酸鉄のメタノール分散液の60gに混合する(S22工程に相当)。さらに、グラフェンが混合されたオクチル酸鉄のメタノール分散液を、マグネチックスターラーを用いて攪拌し、グラフェンがオクチル酸鉄のメタノール分散液に分散された懸濁液を作る(S23工程に相当)。次に、図9に示した容器を用い、ディスペンサー装置のニードルノズルを使って各溝に懸濁液を一定量ずつ充填する(S24工程に相当)。さらに、容器を大気雰囲気からなる熱処理炉に投入する(S25工程に相当)。熱処理炉は、図14に示すように、メタノールを蒸発させる70℃の低温焼成室(A)と、オクチル酸鉄を熱分解させる260℃の高温焼成室(B)とからなる。低温焼成室(A)には、メタノールの蒸気を回収する装置(C)が付随している。回収装置(C)は、圧縮機C1、コンデンサC2、コンデンサC2に繋がった冷凍機C3、サーモスタットC4とメタノールを回収する回収タンクC5から構成される。70℃の低温焼成室(A)に2分間入った容器は、メタノールが蒸発し、蒸発したメタノールは回収装置(C)で回収される(S26工程に相当)。その後、容器は高温焼成室(B)に1分間入り、オクチル酸鉄が熱分解され、鉄微粒子がグラフェンの表面に析出し、この鉄微粒子同士の金属結合を介してグラフェンが接合され、グラフェン接合体が製造される(S27工程に相当)。製造されたグラフェン接合体の大きさは、3mm四方の正方形で厚みは1mmより薄い。この実施例は、オクチル酸鉄のメタノール分散液における鉄の濃度を2重量%とし、オクチル酸鉄のメタノール分散液に対するグラフェンの混合割合を重量比率で1/6にしたため、図15に示すように、直径(d)が1nmの大きさを持つ鉄微粒子(F)がグラフェンの表面に間隔(a)が10nmで離散した状態で担持する。最後に、容器を焼成炉から取り出し、溝の中にあるグラフェン接合体を取り出す(S28工程に相当)。
以上に説明したようにグラフェン接合体を製造する第一実施例は、グラフェンの表面に鉄微粒子を担持させ、鉄微粒子が発する磁力によって鉄微粒子同士が磁気吸着し、これによってグラフェンが近接する。さらに、磁気吸着した鉄微粒子の表面に鉄が継続して析出し、析出した鉄によって鉄微粒子同士が金属結合する。これによってグラフェンが接合され、グラフェン接合体が製造される。
グラフェン接合体を製造する第二実施例は、グラフェンの表面に担持した鉄微粒子同士の金属結合によってグラフェンを接合してグラフェン接合体を製造し、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に、鉄微粒子より多くの量の銅を析出させ、銅の性質が優勢になる鉄と銅とからなる複合金属微粒子をグラフェン接合体の表面に形成させる。
最初に、銅微粒子の原料となる有機銅化合物としてオクチル酸銅を製造する。オクチル酸銅もオクチル酸鉄と同様に市販されていないので、図13に図示したオクチル酸鉄の製造方法に準じて、オクチル酸銅を新たに合成した。但し、オクチル酸ナトリウムと反応させる薬品は硫酸銅になる。原料となるオクチル酸(協和発酵ケミカル株式社の製品)と水酸化ナトリウム(試薬1級品)を蒸留水に溶かした水酸化ナトリウムの水溶液を用意する(S30工程)。水酸化ナトリウムとオクチル酸とをモル比で1対1の割合になるように混合し、この混合物を90℃で反応させ、その後10℃まで温度を下げてオクチル酸ナトリウムの結晶を生成する(S31工程)。生成したオクチル酸ナトリウムの結晶を、水で洗浄した後に乾燥してオクチル酸ナトリウムを得る(S32工程)。生成したオクチル酸ナトリウムの2モルに対し、硫酸銅(試薬1級品)が1モルの割合で混合し、この混合物を90℃の蒸留水に混合して反応させ、その後10℃まで温度を下げてオクチル酸銅の結晶を生成する(S33工程)。この後、多量の水でオクチル酸銅の結晶を水洗した後に乾燥し、オクチル酸銅を製造した(S34工程)。
オクチル酸銅は、オクチル酸鉄と同様に、銅イオンがカルボキシル基の酸素イオンと共有結合し、オクチル酸銅の熱分解が完了すると銅が析出する。熱分解が完了する温度、つまり、オクチル酸銅から銅が析出する温度は290℃であり、オクチル酸鉄より熱分解の完了温度が30℃ほど高い。さらに、オクチル酸鉄と同様に極性を持つため、代表的な極性有機溶媒であるメタノールに対し重量割合で10重量%近くまで分散する。
図16に図示する製造工程に則って、グラフェン接合体を製造する第二実施例を説明する。オクチル酸鉄のメタノール分散液における鉄の重量割合が2重量%になるよう、オクチル酸鉄をメタノールに分散する。オクチル酸銅のメタノール分散液における銅の重量割合が0.2重量%をなるよう、オクチル酸銅をメタノールに分散する。両者を重量比率が1対1で混合し、オクチル酸鉄とオクチル酸銅とのメタノール分散液を作る(S40工程)。次に、天然黒鉛粒子から製造したグラフェンの10gを、オクチル酸鉄とオクチル酸銅とが混合されたメタノール分散液の60gに混合する(S41工程)。さらに、グラフェンが混合されたメタノール分散液を、マグネチックスターラーを用いて攪拌し、グラフェンが分散された懸濁液を作る(S42工程)。次に、図10に示した容器を用い、ディスペンサー装置のニードルノズルを使って各溝に懸濁液を一定量ずつ充填する(S43工程)。さらに、容器を図14に示した大気雰囲気からなる熱処理炉に投入する(S44工程)。70℃の低温焼成室(A)に容器を2分間入れ、溶媒のメタノールを蒸発させ、メタノールは回収装置(C)で回収する(S45工程)。その後、容器を260℃の高温焼成室(B)の低温部(B1)に1分間入れ、オクチル酸鉄を熱分解して、グラフェンの表面に鉄微粒子を析出させる(S46工程)。こうして、鉄微粒子同士の金属結合を介してグラフェンが接合され、グラフェン接合体が製造される。さらに、容器を290℃の高温焼成室(B)の高温部(B2)に1分間入れ、オクチル酸銅が熱分解して、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に銅が析出する(S47工程)。製造された一枚のグラフェン接合体の大きさは、幅が1mmで長さが10mmの長方形で厚みは1mmより薄い。この実施例では、オクチル酸銅の熱分解で生成される銅が、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に析出するため、図17に示すように直径が1nmの大きさからなる鉄微粒子(F)が10nmの間隔(a)をもって離散的に析出し、鉄微粒子(F)の表層に10倍近い体積で銅(C)が析出する。この後、容器を焼成炉から取り出し、溝の中にあるグラフェン接合体を取り出す(S48工程)。
以上に説明したように、グラフェン接合体を製造する第二実施例は、グラフェンを鉄微粒子の金属結合で接合してグラフェン接合体を製造し、更に、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に銅を析出させ、鉄と銅とからなる複合金属微粒子をグラフェン接合体の表面に担持させた。複合金属微粒子の表層を形成する銅の体積が、内部を形成する鉄の体積の10倍近い体積を占めるため、複合金属粒子は銅の性質が優勢になる。この銅の性質を利用して、本実施例で製造したグラフェン接合体を基材や部品に適用する。
グラフェン接合体の製造の第三実施例は、グラフェンの表面に銅微粒子を先行して担持させ、この後、銅微粒子の表層に銅より少ない量として鉄を析出させ、銅と鉄とからなる複合金属微粒子を形成し、この複合金属微粒子によって、グラフェンを接合し、グラフェン接合体を製造する。本実施例では、グラフェンの間隙およびグラフェン接合体の表面に担持される複合金属微粒子は、銅の性質が優勢になる。これによって、本実施例で製造されるグラフェン接合体はグラフェンに近い熱伝導性を持つ。図18に本実施例の製造工程を示す。
金属微粒子の原料となる有機金属化合物として、オクチル酸銅とラウリン酸鉄(三津和化学薬品株式会社の製品)とを用意する。ラウリン酸鉄は、直鎖飽和脂肪酸であるラウリン酸と鉄との化合物であり、オクチル酸鉄より熱分解の完了温度が70℃ほど高く、メタノールに対する分散割合はオクチル酸鉄の1/10程度である。オクチル酸銅の熱分解温度より40℃高まるとラウリン酸鉄が熱分解して銅微粒子の表面に鉄が析出する。
最初に、オクチル酸銅のメタノール分散液における銅の重量割合が2重量%のなるように、オクチル酸銅をメタノールに分散する。ラウリン酸鉄のメタノール分散液における鉄の重量割合が0.2重量%になるように、ラウリン酸鉄をメタノールに分散する。両者を重量割合で1対1に混合して、オクチル酸銅とラウリン酸鉄とのメタノール分散液を作る(S50工程)。次に、天然黒鉛粒子から製造したグラフェン10gを、オクチル酸銅とラウリン酸鉄とが分散されたメタノール分散液の60gに混合する(S51工程)。さらに、マグネチックスターラーを用いて攪拌し、グラフェンがメタノール分散液に分散された懸濁液を作る(S52工程)。次に、図11に示した容器を懸濁液が充填される容器として用い、ディスペンサー装置のニードルノズルを使って各溝に懸濁液を一定量ずつ充填する(S53工程)。さらに、容器を図14に示した大気雰囲気からなる熱処理炉に投入する(S54工程)。70℃の低温焼成室(A)に2分間入った容器は、溶媒のメタノールが蒸発し、蒸発したメタノールは回収装置(C)で回収される(S55工程)。その後容器は、290℃の高温焼成室(B)の低温部(B1)に1分間入り、オクチル酸銅が熱分解され、グラフェンの表面に銅微粒子が担持する(S56工程)。さらに、330℃の高温焼成室(B)の高温部(B2)に1分間入り、ラウリン酸鉄が熱分解され、グラフェンの表面に担持した銅微粒子の表面に鉄が析出し、銅と鉄とからなる複合金属微粒子が形成される。銅と鉄とからなる複合金属微粒子同士の結合によってグラフェンが接合され、グラフェン接合体が製造される(S57工程)。製造されたグラフェン接合体は、幅が2mmで長さが5mmで厚みは1mmより薄い十字形状を有する。本実施例では、オクチル酸銅のメタノール分散液における銅の重量割合を2重量%とし、ラウリン酸鉄のメタノール分散液における鉄の重量割合が0.2重量%としたため、図19に示すように直径が1nmの大きさを持つ銅微粒子(C)の表層に1/10に近い体積で鉄(F)が析出する。容器を焼成炉から取り出し、溝の中にあるグラフェン接合体を取り出す(S58工程)。
以上に説明したように、グラフェン接合体を製造する第三の実施例は、グラフェンの表面に銅微粒子を先行して担持させ、この後、銅微粒子の表層に1/10に近い体積で鉄を析出させた。本実施例で製造したグラフェン接合体は、グラフェンの間隙に銅の性質が優勢になる複合金属粒子が無数に存在する。このグラフェン接合体はグラフェンに近い熱伝導性を持ち、金属の熱伝導率より高い。
図20に、本実施例の製造工程を示す。鉄微粒子の原料としてオクチル酸鉄を、酸化アルミニウムの原料としてテトラヒドロキソアルミン酸イオン[Al(OH)4(H2O)2]―を有するヒドロキシ錯体(岳南化学株式会社の試作品)を用意する。なお、ヒドロキシ錯体の熱分解が完了する温度は、オクチル酸鉄が熱分解を完了する温度より10℃ほど高く、金属錯塩であるため熱分解が完了すると酸化アルミニウムが析出する。
最初に、オクチル酸鉄のメタノール分散液における鉄の重量割合が2重量%を占めるように、オクチル酸鉄をメタノールに分散する(S60工程)。次に、天然黒鉛粒子から製造したグラフェンの集まり10gを、オクチル酸鉄のメタノール分散液60gに混合する(S61工程)。さらに、マグネチックスターラーを用いて攪拌し、グラフェンが分散された懸濁液を作る(S62工程)。次に、図10に示した容器を懸濁液が充填される容器として用い、ディスペンサー装置のニードルノズルを用いて、溝に懸濁液を一定量ずつ充填する(S63工程)。さらに、容器を図14に示した大気雰囲気からなる熱処理炉に投入する(S64工程)。70℃の低温焼成室(A)に2分間入った容器は、メタノールが蒸発し、蒸発したメタノールは回収装置(C)で回収される(S65工程)。その後、容器は260℃の高温焼成室(B)に1分間入り、オクチル酸鉄が熱分解され、グラフェンの表面に鉄微粒子が析出し、鉄微粒子同士の金属結合を介してグラフェンが接合され、グラフェン接合体が製造される(S66工程)。
次に、ヒドロキシ錯体をメタノールに分散する。分散濃度は、分散液における酸化アルミニウムの重量割合が0.1重量%とする(S67工程)。前記したS63工程において懸濁液を滴下した量の1/10に相当する量としてヒドロキシ錯体の分散液を、グラフェン接合体が存在する容器の溝に、ディスペンサー装置のニードルノズルを使って滴下する(S68工程)。さらに、容器を図14に示した大気雰囲気からなる熱処理炉に投入する(S69工程)。70℃の低温焼成室(A)に5分間入った容器はメタノールが蒸発し、蒸発したメタノールは回収装置(C)で回収する(S70工程)。その後、容器は270℃の高温焼成室(B)に1分間入り、ヒドロキシ錯体が熱分解され、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に酸化アルミニウムが析出する(S71工程)。こうして製造された一枚のグラフェン接合体の形状は、幅が1mmで長さが10mmの長方形で厚みは1mmより薄い。本実施例では、ヒドロキシ錯体のメタノール分散液における酸化アルミニウムの重量濃度を0.1重量%とし、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に酸化アルミニウムが析出するため、図21に示すように、10nmの間隔(a)でグラフェンの表面に担持された直径(d)が1nmの大きさからなる鉄微粒子(F)の表層に、10倍近い体積で酸化アルミニウム(A)が析出する。最後に、容器を焼成炉から取り出し、溝の中にあるグラフェン接合体を取り出す(S72工程)。
以上に説明したように、グラフェン接合体を製造する第四実施例は、グラフェンを鉄微粒子の金属結合によって接合して一枚のグラフェン接合体を製造し、更に、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に、鉄の10倍に近い体積で酸化アルミニウムを析出させた。このため、本実施例におけるグラフェン接合体の表面に担持された複合微粒子の性質は、表層を形成する酸化アルミニウムの性質が優勢になる。この酸化アルミニウムの性質を利用して、グラフェン接合体を基材や部品に適用する。
図24に本実施例の製造工程を示す。オクチル酸銅のメタノール分散液の濃度を、銅の重量割合が2重量%になるようにオクチル酸銅をメタノールに分散する。さらに、ラウリン酸鉄のメタノール分散液における鉄の重量割合が0.2重量%になるように、ラウリン酸鉄をメタノールに分散する。両者を重量割合で1対1として混合し、オクチル酸銅とラウリン酸鉄とがメタノールに分散された分散液を作る(S80工程)。次に、天然黒鉛粒子から製造したグラフェン10gを、オクチル酸銅とラウリン酸鉄とが混合されたメタノール分散液60gに混合する(S81工程)。さらに、マグネチックスターラーを用いて攪拌し、グラフェンが分散された懸濁液を作る(S82工程)。次に、図10に示す容器を用い、ディスペンサー装置のニードルノズルを使って溝に懸濁液を充填する(S83工程)。さらに、容器を図14に示した大気雰囲気からなる熱処理炉に投入する(S84工程)。70℃の低温焼成室(A)に2分間入った容器は、メタノールが蒸発し、蒸発したメタノールは回収装置(C)で回収する(S85工程)。その後、容器は290℃の高温焼成室(B)の低温部(B1)に1分間入り、オクチル酸銅が熱分解され、グラフェンの表面に銅微粒子が担持する(S86工程)。さらに、330℃の高温焼成室(B)の高温部(B2)に1分間入り、ラウリン酸鉄が熱分解され、グラフェンの表面に担持された銅微粒子の表層に鉄が析出する(S87工程)。こうして、鉄と銅とからなる複合金属微粒子を介してグラフェンが接合され、一枚のグラフェン接合体が製造される。この実施例では、オクチル酸銅のメタノール分散液における銅の重量割合を2重量%とし、ラウリン酸鉄のメタノール分散液における鉄の重量割合を0.2重量%としたため、図19に示すように、10nmの間隔(a)でグラフェンの表面に担持された直径dが1nmの銅微粒子(C)の表層に1/10に近い体積で鉄(F)が析出する。
次に、ヒドロキシ錯体をメタノールに分散する(S88工程)。ヒドロキシ錯体の分散濃度は、分散液における酸化アルミニウムの重量割合が0.1重量%とした。さらに、ディスペンサー装置のニードルノズルを使いグラフェン接合体が存在する溝に、S83工程において懸濁液を滴下した量の1/10に相当する量を、ヒドロキシ錯体のメタノール分散液を溝に滴下する(S89工程)。さらに、容器を図14に示した大気雰囲気からなる熱処理炉に投入する(S90工程)。70℃の低温焼成室(A)に2分間入った容器は、メタノールが蒸発し、蒸発したメタノールは回収装置(C)で回収される(S91工程)。その後、容器は270℃の高温焼成室(B)に1分間入り、ヒドロキシ錯体が熱分解され、グラフェン接合体の表面に担持された複合金属微粒子の表層に、酸化アルミニウムが析出する(S92工程)。こうして製造されたグラフェン接合体は、ヒドロキシ錯体のメタノール分散液中における酸化アルミニウムの重量割合を0.1重量%とし、グラフェン接合体の表面に担持された銅と鉄とからなる複合金属微粒子の表層に酸化アルミニウムが析出するため、図23に示すように直径dが1nmの銅(C)と鉄(F)とからなる複合金属微粒子の表層に、10倍近い体積で酸化アルミニウム(A)が析出する。一枚のグラフェン接合体の大きさは、幅が1mmで長さが10mmの長方形で厚みは1mmより薄い。最後に、容器を焼成炉から取り出し、溝からグラフェン接合体を取り出す(S93工程)。
本実施例で製造したグラフェン接合体は次の2つの性質を有する。第一に、グラフェンを銅の性質が優勢となる複合金属粒子で結合させたため、グラフェン接合体製造の第四実施例で製造したグラフェン接合体より、熱伝導性と電気伝導性に優れる。第二に、グラフェン接合体の表面に担持される複合微粒子は、表層を形成する酸化アルミニウムの性質が優勢になるので、グラフェン接合体の表面は電気絶縁性と熱導電性を示す。このため、本実施例で製造したグラフェン接合体を2つの異なる部品の間に介在させ、2つの部品をグラフェン接合体によって接合すると、次の2つの性質をもつことになる。第一に、接合された2つの部品の間で電気絶縁性が確保できる。第二に、グラフェン接合体の優れた熱伝導性が発揮され、結合された2つの部品の間で優れた熱伝導が発揮できる。このような2つの機能、つまり、電気絶縁性と熱伝導性とを同時に実現させるため、グラフェン接合体の表面に担持される複合微粒子の表層を酸化アルミニウムで構成した。
一般的に、酸化アルミニウムは、アルミナセラミックスに代表されるように形状の自由度が狭く、加工の自由度も狭い。さらに、4重量%の不純物を持つ。不純物の割合を低減させるには、酸化アルミニウムの製造コストが著しく高まる。本発明においては、有機金属化合物を熱分解して金属ないし金属酸化物を析出させるため、微粒子の大きさと析出頻度とは、有機金属化合物のアルコールにおける分散濃度とグラフェンの数とに依存する。このため、グラフェン接合体の表面に担持する複合微粒子の構成と構造の自由度は広い。さらに、析出した金属ないしは金属酸化物は、不純物を持たない。本実施例における酸化アルミニウムの事例であっても、酸化アルミニウムの析出量は自由に変えられる。さらに、析出した酸化アルミニウムは不純物を持たない。
本実施例で製造するグラフェン接合体の表面に担持される複合金属微粒子は、表層の多くの部分を占める白金による触媒作用と、表層の一部分を占める鉄がもたらす作用とを兼備する。すなわち、白金は一酸化炭素と接触すると一酸化炭素を吸着し、白金の表面が一酸化炭素の被膜で覆われ、白金の触媒作用を阻害する。他方、鉄は一酸化炭素と反応して遷移金属錯体であるペンタカルボニルFe(CO)5を形成する。複合金属微粒子の表層の一部に鉄を残すことで、一酸化炭素を鉄と反応させ鉄ペンタカルボニルを生成させる。これによって白金は触媒作用の失活状態にならない。また、微粒子の表層のみに触媒作用をもつ白金を形成するので、触媒作用の効率が上がる。さらに、白金の析出量が少ないため、高価な有機白金化合物の使用量が少ない。このような性質を持つ複合金属微粒子がグラフェン接合体の表面に担持される。図24に本実施例の製造工程を示す。
鉄の原料となるオクチル酸鉄と、白金の原料となるヘキサクロロ白金酸アンモニウム[NH4]2[PtCl6](三津和薬品工業株式会社の製品)とを用意する。なお、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムは、200℃の水素ガスないしはアンモニアガス中で熱処理することで白金に還元される。
最初に、オクチル酸鉄のメタノール分散液における分散濃度は、鉄の重量割合が2重量%になるようにオクチル酸鉄をメタノールに分散する(S100工程)。次に、天然黒鉛粒子から製造したグラフェンの集まり10gを、オクチル酸鉄が分散されたメタノール分散液60gに混合する(S101工程)。さらに、マグネチックスターラーを用いて攪拌しグラフェンが分散された懸濁液を作る(S102工程)。図12に図示した直径が3mmの円で深さが1mmからなる溝が多数形成された容器を用意し、ニードルノズルを使って各溝に懸濁液を一定量ずつ充填する(S103工程)。さらに、容器を図14に示した大気雰囲気からなる熱処理炉に投入する(S104工程)。70℃の低温焼成室(A)に2分間入った容器は、メタノールが蒸発し、蒸発したメタノールは回収装置(C)で回収される(S105工程)。その後、容器は260℃の高温焼成室(B)に入り、オクチル酸鉄が熱分解され、グラフェンの表面に鉄微粒子が析出する。こうして、鉄微粒子同士の金属結合を介してグラフェンが接合され、グラフェン接合体が製造される(S106工程)。さらに、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムを50℃のメタノールに分散する。分散濃度は分散液における白金の重量割合が0.05重量%とする(S107工程)。次に、グラフェン接合体が存在する容器の各溝に、S103工程において懸濁液を滴下した量の1/10に相当する量としてヘキサクロロ白金酸アンモニウムの分散液を、ニードルノズルを使って滴下する(S108工程)。さらに、容器を図14に示した熱処理炉に投入する(S109工程)。70℃の低温焼成室(A)に2分間入った容器は、メタノールが蒸発し、蒸発したメタノールは回収装置(C)で回収される(S110工程)。その後、アンモニアガスが供給される200℃の高温焼成室(B)に1分間入り、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムが還元され、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に白金が析出する(S111工程)。こうして製造されたグラフェン接合体の形状は、直径が3mmの円で厚みは1mmより薄い。本実施例では、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムのメタノール分散液中における白金の重量割合を0.05重量%とし、さらに、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムのメタノール分散液の滴下量を、オクチル酸鉄のメタノール分散液の滴下量に対し1/10としたため、図25に示すように1nmの大きさからなる鉄微粒子(F)の表層に1/50近い体積で白金(P)が析出する。このため、複合金属微粒子の表層は、表層の多くの部分が白金(P)で形成されるが、グラフェン接合体の表面に近い部分の表層は白金が形成されず鉄(F)が残る。最後に、容器を焼成炉から取り出し、溝の中にあるグラフェン接合体を取り出す(S112工程)。
以上に説明したように、本実施例は、グラフェンを鉄微粒子の金属結合を介して接合してグラフェン接合体を製造する。更に、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に、鉄の1/50に近い体積で白金を析出させた。このため、複合金属微粒子は、表層の多くの部分を占める白金による触媒作用と、表層の一部分を占める鉄がもたらす作用とを兼備することになる。この白金と鉄との性質を利用して、本実施例で製造したグラフェン接合体は触媒作用を有する基材や部品に適用することが出来る。
鉄の原料のオクチル酸鉄と、白金の原料のヘキサクロロ白金酸アンモニウム[NH4]2[PtCl6]と、ルテニウムの原料のヘキサクロロルテニウム酸アンモニウム[NH4]3[RuCl6](三津和薬品工業株式会社の製品)を用意する。なお、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムとヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムは、200℃の水素ガス中で熱処理することで白金とルテニウムとに還元される。
最初に、オクチル酸鉄のメタノール分散液における分散濃度は、鉄の重量割合が2重量%になるようにオクチル酸鉄をメタノールに分散する(S120工程)。次に、天然黒鉛粒子から製造したグラフェンの集まり10gを、オクチル酸鉄が分散されたメタノール分散液60gに混合する(S121工程)。さらに、マグネチックスターラーを用いて攪拌し、グラフェンが分散された懸濁液を作る(S122工程)。次に、図12に図示した直径が3mmの円で深さが1mmからなる溝が多数形成された容器を用い、ディスペンサー装置のニードルノズルを使って各溝に懸濁液を一定量ずつ充填する(S123工程)。容器を図14に示した大気雰囲気からなる熱処理炉に投入する(S124工程)。70℃の低温焼成室に2分間入った容器は、メタノールが蒸発し、蒸発したメタノールは回収装置で回収される(S125工程)。その後、容器は260℃の高温焼成室に1分間入り、オクチル酸鉄が熱分解され、グラフェンの表面に鉄微粒子が析出する。こうして、鉄微粒子同士の金属結合によってグラフェンが接合され、グラフェン接合体が製造される(S126工程)。
次に、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムと、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムとを50℃のメタノールに分散する。分散濃度は、分散液における白金の重量割合とルテニウムの重量割合の双方が0.1重量%とする(S127工程)。さらに、グラフェン接合体が存在する容器の溝に、S123工程において懸濁液を滴下した量の1/10に相当する量として、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムとヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムとのメタノール分散液を、ニードルノズルを使って滴下する(S128工程)。さらに、容器を図14に示した熱処理炉に投入する(S129工程)。70℃の低温焼成室に2分間入った容器からメタノールが蒸発し、蒸発したメタノールは回収装置で回収される(S130工程)。その後、容器は200℃の水素ガスが供給される高温還元焼成室に1分間入り、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムと、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムとが同時に還元され、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に白金とルテニウムとが同時に析出する(S131工程)。この際、同時に析出した白金とルテニウムとは不純物を含まない活性金属であるため、両者が反応して白金とルテニウムとの合金が生成される。こうして製造された一枚のグラフェン接合体の形状は、直径が3mmで厚みは1mmより薄い。この実施例では、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムとヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムとを、メタノール分散液における白金およびルテニウムの重量割合で0.1重量%とした。さらに、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムとヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムとのメタノール分散液の滴下量を、オクチル酸鉄のメタノール分散液の滴下量に対して1/10にした。こため、図27に示すように1nmの大きさからなる鉄微粒子(F)の表層全体に、1/10に近い体積で白金とルテニウムとかからなる合金(PR)の薄い層が形成する。最後に容器を焼成炉から取り出し、溝からグラフェン接合体を取り出す(S132工程)。
以上に説明したように、本実施例は、グラフェン同士を鉄微粒子の金属結合を介して接合してグラフェン接合体を製造する。更に、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に、鉄の1/10に近い体積で白金とルテニウムとを同時に析出させ、白金とルテニウムとの合金層を形成した。これによって、グラフェン接合体の表面に担持された複合金属微粒子は、鉄微粒子の表面全体を白金とルテニウムとからなる合金層で薄く覆われる。この白金とルテニウムとからなる合金の触媒作用を利用して、本実施例で製造したグラフェン接合体を基材や部品に適用する。
鉄の原料のオクチル酸鉄と、白金の原料のヘキサクロロ白金酸アンモニウム[NH4]2[PtCl6]と、コバルトの原料の硝酸コバルト六水和物Co(NO3)26H2O(試薬一級品)と、還元剤のヒドラジンH2NNH2(試薬一級品)を用意する。最初にオクチル酸鉄のメタノール分散液における分散濃度は、鉄の重量割合が2重量%になるようにオクチル酸鉄をメタノールに分散する(S140工程)。次に、天然黒鉛粒子から製造したグラフェンの集まり10gを、オクチル酸鉄が分散されたメタノール分散液60gに混合する(S141工程)。さらに、マグネチックスターラーを用いて攪拌し、グラフェンが分散された懸濁液を作る(S142工程)。次に、図12に図示した直径が3mmの円で、深さが1mmからなる溝が多数形成された容器を用い、ディスペンサー装置のニードルノズルを使って各溝に懸濁液を一定量ずつ充填する(S143工程)。さらに、容器を大気雰囲気からなる熱処理炉に投入する(S144工程)。70℃の低温焼成室に2分間入った容器は、メタノールが蒸発し、蒸発したメタノールは回収装置で回収される(S145工程)。その後、容器は260℃の高温焼成室に1分間入り、オクチル酸鉄が熱分解され、グラフェンの表面に鉄微粒子が析出する。こうして、鉄微粒子同士の金属結合でグラフェンが接合され、グラフェン接合体が製造される(S146工程)。
さらに、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムと硝酸コバルト六水和物とを50℃のメタノールに分散する。分散液における白金とコバルトとの重量割合が0.1重量%とし、この分散液に重量割合で1%のヒドラジンを滴下して混合する(S147工程)。次に、グラフェン接合体が存在する容器の溝に、S143工程において懸濁液を滴下した量の1/10に相当する量として、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムと硝酸コバルト六水和物とのメタノール分散液を、ニードルノズルを使って滴下する(S148工程)。さらに、容器を図14で示した熱処理炉に投入する(S149工程)。70℃の低温焼成室に2分間入った容器は、メタノールが蒸発し、蒸発したメタノールは回収装置で回収される(S150工程)。その後、容器は200℃の水素ガスが供給される高温還元焼成室に1分間入り、最初にヒドラジンが気化し、この後、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムと硝酸コバルト六水和物とが同時に還元され、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に、白金とコバルトとが同時に析出する(S151工程)。この際、同時に析出した白金とコバルトとは不純物を含まない活性状態にあるため、両者が結合して白金とコバルトとの合金が生成される。こうして製造された一枚のグラフェン接合体の形状は、直径が3mmで厚みは1mmより薄い。この実施例は、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムと硝酸コバルト六水和物を、メタノール分散液における白金およびコバルトの重量割合を0.1重量%とした。また、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムと硝酸コバルト六水和物とのメタノール分散液の滴下量を、オクチル酸鉄のメタノール分散液の滴下量に対して1/10にした。このため、図29に示すように1nmの大きさからなる鉄微粒子(F)の表層全体に、1/10に近い体積で白金とコバルトとからなる合金の薄い層(PC)が形成する。最後に、容器を焼成炉から取り出し、溝の中にあるグラフェン接合体を取り出す(S152工程)。
以上に説明したように、本実施例は、グラフェン同士を鉄微粒子の金属結合によって接合してグラフェン接合体を製造する。更に、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に、鉄の1/10に近い体積で白金とコバルトとを同時に析出させ、白金とコバルトとの合金層を形成した。これによって、グラフェン接合体の表面に担持された複合金属微粒子は、鉄微粒子の表面全体を白金とコバルトとからなる合金層で薄く覆われる。この白金とコバルトとからなる合金の触媒作用を利用して、本実施例で製造したグラフェン接合体を基材や部品に適用することが出来る。
鉄の原料となるオクチル酸鉄と、パラジウムの原料となるテトラクロロパラジウム酸アンモニウム[NH4]2[PdCl4](三津和化学薬品工業株式会社の製品)と、コバルトの原料となる硝酸コバルト六水和物(試薬一級品)と還元剤であるヒドラジンH2NNH2(試薬一級品)を用意する。
最初に、オクチル酸鉄のメタノール分散液における鉄の重量割合が2重量%になるように、オクチル酸鉄をメタノールに分散する(S160工程)。次に、天然黒鉛粒子から製造したグラフェンの集まり10gを、オクチル酸鉄が分散されたメタノール分散液60gに混合する(S161工程)。さらに、マグネチックスターラーを用いて攪拌し、グラフェンが分散された懸濁液を作る(S162工程)。次に、図12に図示した直径が3mmの円で深さが1mmからなる溝が多数形成された容器を用い、ディスペンサー装置のニードルノズルを使って各溝に懸濁液を一定量ずつ充填する(S163工程)。さらに、容器を図14に示した大気雰囲気からなる熱処理炉に投入する(S164工程)。70℃の低温焼成室に2分間入った容器は、メタノールが蒸発し、蒸発したメタノールは回収装置で回収される(S165工程)。その後、容器は260℃の高温焼成室に1分間入り、オクチル酸鉄が熱分解され、グラフェンの表面に鉄微粒子が析出する。こうして、鉄微粒子同士の金属結合によってグラフェンが接合され、グラフェン接合体が製造される(S166工程)。
さらに、テトラクロロパラジウム酸アンモニウムと、硝酸コバルト六水和物とを50℃のメタノールに分散する。分散濃度は、分散液におけるパラジウムとコバルトとの重量割合が0.1重量%とし、この分散液に重量割合で1重量%としてヒドラジンを滴下して混合する(S167工程)。次に、グラフェン接合体が存在する容器の各溝に、S163工程で懸濁液を滴下した量の1/10に相当する量として、テトラクロロパラジウム酸アンモニウムと、硝酸コバルト六水和物とのメタノール分散液とを、ニードルノズルを使って滴下する(S168工程)。さらに、容器を図14に示した熱処理炉に投入する(S169工程)。70℃の低温焼成室に2分間入った容器は、メタノールが蒸発し、蒸発したメタノールは回収装置で回収される(S170工程)。その後、容器は200℃の水素ガスが供給される高温還元焼成室に1分間入り、最初にヒドラジンが気化し、この後、テトラクロロパラジウム酸アンモニウムと硝酸コバルト六水和物とが同時に還元され、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層にパラジウムとコバルトとが同時に析出する(S171工程)。この際、パラジウムとコバルトとは不純物を含まない活性金属であるため、パラジウムとコバルトとの合金が生成される。こうして製造された一枚のグラフェン接合体の形状は、直径が3mmで厚みは1mmより薄い。この実施例では、テトラクロロパラジウム酸アンモニウムと硝酸コバルト六水和物とを、メタノール分散液におけるパラジウムおよびコバルトの重量割合で0.1重量%として分散した。さらに、テトラクロロパラジウム酸アンモニウムと硝酸コバルト六水和物とのメタノール分散液の滴下量を、オクチル酸鉄のメタノール分散液の滴下量に対して1/10にした。このため、図31に示すように1nmの大きさからなる鉄微粒子(F)の表層全体に、1/10に近い体積でパラジウムとコバルトとかからなる合金層(PrC)が形成し、鉄微粒子の表面全体を合金層が薄く覆う。最後に、容器を焼成炉から取り出し、溝の中にあるグラフェン接合体を取り出す(S172工程)。
以上に説明したように、本実施例は、グラフェンを鉄微粒子の金属結合によって接合してグラフェン接合体を製造する。更に、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に、鉄の1/10に近い体積でパラジウムとコバルトとを同時に析出させ、パラジウムとコバルトとの合金層を形成した。これによって、グラフェン接合体の表面に担持された複合金属微粒子は、鉄微粒子の表面をパラジウムとコバルトとからなる合金層で薄く覆われる。このパラジウムとコバルトとからなる合金の触媒作用を利用して、本実施例で製造したグラフェン接合体を基材や部品に適用することが出来る。
グラフェン接合体を還元焼成してグラフェン接合体同士を接合するには、予めグラフェン接合体同士が互いに接近した状態を作る必要がある。つまり、グラフェン接合体が接近すると、磁性を有する金属粒子同士ないしは複合金属粒子同士が確実に磁気吸着する。この状態でグラフェン接合体を還元焼成すれば、金属微粒子ないしは複合金属粒子の表層が新生金属に還元され、磁気吸着した金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士が金属結合する。これによって、グラフェン接合体同士が接合する。
グラフェン接合体同士が接近した状態を作る手段として、有機物の溶解液にグラフェン接合体を分散させる手段が有効である。つまり、有機物の溶解液にグラフェン接合体の集まりを混合し、グラフェン接合体の集まりが有機物の溶解液に分散された懸濁液を作る。この懸濁液を水素ガスを含む還元性雰囲気で熱処理すると、最初に過剰な溶剤が気化し、グラフェン接合体の集まりの全てが有機物に分散された状態になる。これによって、グラフェン接合体が高い混合割合で有機物に混合された状態になり、グラフェン接合体同士が磁気吸着する。さらに、昇温して有機物の気化させると、磁気吸着したグラフェン接合体が還元雰囲気にさらされ、磁気吸着した金属微粒子ないしは複合金属微粒子の表層に新生金属が生成され、金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士が金属結合し、これによって、グラフェン接合体が接合されて一枚のグラフェン接合体が製造される。
グラフェン接合体の製造の第一実施例における鉄微粒子の原料であるオクチル酸鉄は260℃で熱分解が完了し、グラフェン接合体の製造の第二実施例における銅微粒子の原料であるオクチル酸銅は290℃で熱分解が完了し、グラフェン接合体の製造の第三実施例における鉄微粒子の原料であるラウリン酸鉄は330℃で熱分解が完了する。このような有機金属化合物を金属微粒子の原料として用いる場合は、前記した有機物として、沸点が197℃で発火点が398℃であるエチレングリコールを用いるのが望ましい。
本実施例では、一度製造されたグラフェン接合体として、グラフェン接合体の製造の第一実施例で製造したグラフェン接合体を用いる。なお、グラフェン接合体の製造の第二および第三実施例で製造されたグラフェン接合体も、表面に担持された複合金属粒子が磁性を発するので、一度製造されたグラフェン接合体として用いることが出来る。図32に本実施例の製造工程を示す。
最初に、エチレングリコール(試薬一級品)と蒸留水との重量比が、1対5となるように、エチレングリコールを水に溶かす(S180工程)。次に、グラフェン接合体の製造の第一実施例に基づいて製造したグラフェン接合体の100gを、エチレングリコールの水溶液600gに混合する(S181工程)。さらに、マグネチックスターラーを用いて攪拌し懸濁液を作る(S182工程)。次に、この懸濁液を、一辺が10mmの正方形で深さが1mmからなる溝が多数個形成されている容器の各溝に、ディスペンサー装置のニードルノズルを使って懸濁液を一定量ずつ充填する(S183工程)。さらに、容器を図14に示した構成からなる熱処理炉に投入する(S184工程)。なお、熱処理炉は、水素ガスが10%体積割合で窒素ガスが90%体積割合で構成される還元性ガスが供給される。100℃の低温焼成室に入った容器は、懸濁液の溶媒である水が蒸発する(S185工程)。その後、容器は200℃の高温焼成室に入りエチレングリコールが蒸発し、蒸発したエチレングリコールは回収装置で回収される(S186工程)。この後、容器を2分間放置して、グラフェン接合体を還元焼成する(S187工程)。これによって、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層が新生金属に還元され、新生金属同士が金属結合し、グラフェン接合体が接合する。こうして製造されたグラフェン接合体の大きさは、一辺が10mmの正方形で厚みは1mmより薄い。最後に、容器を焼成炉から取り出し、溝の中にあるグラフェン接合体を取り出す(S188工程)。
S186工程でエチレングリコールの気化が進むにつれ、グラフェンシ接合体の磁気吸着が進む。また、還元性雰囲気にさらされると、鉄微粒子同士の金属結合でグラフェンシ接合体が接合する。こうして、新たに製造された一枚のグラフェン接合体の少なくとも表面は、グラフェン接合体同士が鉄微粒子の金属結合によって接合される。内部にはグラフェン接合体同士が鉄微粒子で磁気吸着したものと、金属結合したものとが共存する。この結果、より大きな面積ないしはより厚みが厚い一枚のグラフェン接合体が製造される。なお、新たに製造したグラフェン接合体におけるグラフェン接合体同士の接合力が必要になる場合は、新たに製造したグラフェン接合体を着磁機にかけて着磁することで、グラフェン接合体同士の磁気吸着力が著しく増大し、グラフェン接合体同士の接合力が増大する。
本実施例は、グラフェン接合体を製造する第一実施例におけるグラフェン接合体の多数個を接合して、より面積が広くより厚みが厚いグラフェン接合体を製造した。元のグラフェン接合体は、グラフェン接合体の表面に磁性を有する金属微粒子ないしは複合金属微粒子が表面に担持されていれば他の実施例でもよい。さらに、新たなグラフェン接合体の形状は本実施例に制限されることはなく、懸濁液を充填する溝の形状に応じて新たなグラフェン接合体を製造すればよい。
グラフェン接合体の表面は、ナノレベルの大きさからなる金属微粒子ないしは複合金属微粒子が離散的に担持しているので、グラフェン接合体の表面はナノレベルの凹凸を有する。このようなグラフェン接合体が基材ないしは部品の表面に吸着ないしは被覆すると、基材ないしは部品の表面はナノレベルの凹凸が形成され、この凹凸の表面積は莫大な広さの表面積を有し、いわゆるフラクタル面に近い面になる。このような基材ないしは部品の表面に液滴が接触すると、液滴の表面張力によってナノレベルの凹凸に液体が入り込むことは出来ず、液滴の液面はナノレベルの凹凸と点接触に近い状態で接する。この結果、基材ないしは部品の表面は、接触角が180度に近い超撥水性を示す。つまりミリメートルの大きさからなる微細な液滴であっても、金属微粒子ないしは複合金属微粒子の大きさが6桁近く小さいため、液滴は金属微粒子ないしは複合金属微粒子と点接触に近い状態で接し、基材ないしは部品の表面はフラクタル面に近い面を形成する。
本実施例の第一の事例は、グラフェン接合体を基材ないしは部品に磁気吸着させ、磁気吸着したグラフェン接合体が基材ないしは部品に撥水性を付与する事例であって、基材ないしは部品の好適な第一の事例として、スクリーン印刷に使用されるメタルマスク版がある。従来、スクリーン印刷に使用されるメタルマスク版は、印刷に使用したインクやペーストが付着し、これによって正確な印刷が出来ないという問題があった。このため、溶剤によるシャワー洗浄や超音波洗浄などを定期的に行うことで、表面に付着した異物を除去していた。しかし、洗浄、液切り、乾燥などの様々な工程において溶剤を使うため、洗浄用の溶剤が外部に漏れるという安全上の問題や環境を悪化させる問題があった。さらに、洗浄費用に加えて、汚れた溶剤を回収し再利用するための費用が必要になった。メタルマスク版が、洗浄を行うことなく半永久的に使用することが出来れば、その作用効果は大きい。また、撥水性能を付与することで付着物がないため、印刷精度が維持できるという効果も得られる。
メタルマスク版の表面に大量のグラフェン接合体を磁気吸着させると、メタルマスク版の表面はナノレベルの凹凸が形成され、優れた撥水性が付与される。また、グラフェン接合体は極めて微細な物質であるため、メタルマスク版の平面のみならず曲面にも、グラフェン接合体が磁気吸着する。メタルマスク版は、ニッケルやニッケルコバルト合金ないしはマルテンサイト系やフェライト系のステンレススチールなどの強磁性を示す材質で構成する。これによって、磁性を有する金属微粒子が担持したグラフェン接合体が磁気吸着する。なお、メタルマスク版とグラフェン接合体との吸着力がさらに必要になれば、グラフェン接合体をメタルマスク版に磁気吸着させた後に、着磁機によって着磁させれば、グラフェン接合体のメタルマスク板への磁気吸着力が著しく増大する。
本実施例におけるメタルマスク版にグラフェン接合体を磁気吸着させる製造工程を図33に示す。最初に、メタルマスク版と、124段落のグラフェンを製造する実施例で説明した製法で製造したグラフェンの集まりを用意する(S190工程)。次に、オクチル酸鉄のメタノール分散液における分散濃度が、鉄の重量割合で2重量%になるようにオクチル酸鉄をメタノールに分散する(S191工程)。さらに、グラフェンの集まり100gを、オクチル酸鉄のメタノール分散液600gに混合する(S192工程)。次に、マグネチックスターラーを用いて攪拌し、グラフェンが分散された懸濁液を作る(S193工程)。この懸濁液を70℃に昇温してメタノールを気化させ、オクチル酸鉄がグラフェンの表面に吸着したグラフェンの集まりを作成する(S194工程)。この後、オクチル酸鉄が吸着したグラフェンの集まりとメタルマスク版を容器に入れ、オクチル酸鉄が溶解ないしは分散しにくい水にグラフェンを分散する(S195工程)。この後、容器を100℃に昇温して水を蒸発させ、メタルマスク版の表面にグラフェンを吸着させる(S196工程)。さらに、メタルマスク版を容器から取り出して、大気雰囲気の260℃で熱処理を行い、オクチル酸鉄を熱分解する(S197工程)。オクチル酸鉄の熱分解で析出した鉄微粒子を介して、グラフェンが接合してグラフェン接合体が生成される。このグラフェン接合体は、強磁性の性質を持つメタルマスク版に磁気吸着する(S198工程)。
本実施例の第二事例は、グラフェン接合体によって基材ないしは部品を被覆し、基材ないしは部品に撥水性を付与する事例であり、こうした基材ないしは部品の好適な事例として各種の液体を噴射するノズルがある。例えば、温水洗浄便座における肛門部および女性局部を洗浄する洗浄ノズルがある。洗浄ノズルは、ケーシングの収容位置から洗浄位置まで往復動作するノズルロッドを備え、その先端に洗浄水を噴出させるための吐出穴を有するノズルヘッドを設けている。このようなノズル装置では、洗浄の時にはノズルヘッド部分が人体の局部に接近して洗浄水を噴射するため、洗浄の際に汚水や汚物が浴びやすい。そのため、洗浄動作の前後に洗浄水をノズルヘッドに噴射してノズルヘッドの洗浄を行なっている。ノズルヘッドの表面に、グラフェン接合体からなる薄い被膜を形成させることによって、洗浄時の汚水、汚物がノズルヘッドに付着することがなく、クリーニング動作が不要になる。
本実施例におけるグラフェン接合体によってノズルヘッドを被覆する製造方法は、前記したメタルマスク版にグラフェン接合体を磁気吸着させる図33に図示した製造工程に準ずる。ただし、ノズルヘッドを被覆するグラフェン接合体は、127段落で記載したグラフェン接合体の製造の第二実施例のグラフェン接合体とする。このため、前記したS191工程に相当する工程では、127段落で説明したように、オクチル酸鉄とオクチル酸銅とをメタノールに分散する。さらに前記したS197工程に相当する工程では、260℃でオクチル酸鉄を熱分解して、鉄微粒子によってグラフェン接合体が生成され、このグラフェン接合体がノズルヘッドを被覆する。さらに、290℃でオクチル酸銅を熱分解し、ノズルヘッドを被覆したグラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に銅が析出し、鉄と銅とからなる複合金属微粒子がグラフェン接合体の表面に形成する。このため、ノズルヘッドは耐熱性が300℃以上の合成樹脂から構成する。こうして、ノズルヘッドの表面を大量のグラフェン接合体が覆い、これによって、莫大な数のナノレベルの大きさの凹凸が形成され、ノズルヘッドは優れた撥水性を示す。なお、ノズルヘッドへのグラフェン接合体の接合力が弱いことが問題になれば、ノズルヘッドをグラフェン接合体で被覆させた後に、ノズルヘッドを着磁にかけて着磁させれば、グラフェン接合体同士の磁気吸着力が著しく増大したグラフェン接合体の被膜でノズルヘッドが覆われる。また、グラフェン接合体は極めて薄い被膜であるため、グラフェン接合体がノズルヘッドを被覆してもノズルヘッドの形状は変わらず、洗浄ノズルを組み立てる際の障害にはならない。
なお、液体を噴射させるノズルは、温水洗浄便座に用いる洗浄ノズルに限られることはない。液晶表示パネルの製造工程において用いるフォトレジスト液を吐出するノズルでもあるいは他の液体を噴射するノズルでもよい。ノズルの表面にグラフェン接合体からなる極薄い被膜を形成することによって、ノズルの表面は優れた撥水性を持つことになる。
グラフェンのヤング率は1020GPaと非常に大きな値を持つ。この値はダイアモンドのヤング率1050GPaに近い。剪断弾性率も440GPaという極めて大きな数値を持つ。このように、グラフェンは壊れにくい物質である。このようなグラフェンを金属微粒子同士ないしは複合金属微粒子同士の金属結合によって、グラフェン接合体を製造する。こうしたグラフェン接合体の集まりが基材ないしは部品に磁気吸着、ないしは、被覆した基材ないしは部品に応力が加わると、グラフェン接合体の表面に担持された莫大な数の金属微粒子ないしは複合金属微粒子のうち極少数の微粒子が応力を受ける。この応力が過大である場合は、微粒子がグラフェン接合体から剥ぎ落ちる。こうした過大の応力が継続して加わると、グラフェン接合体の表面はグラフェンが剥き出しになった状態になり、基材ないしは部品の表面は前記したグラフェンの機械的強度を有する表面になる。いっぽう、グラフェンが大量の金属微粒子ないしは複合金属微粒子の金属結合で接合してグラフェン接合体が生成されるため、グラフェン接合体の内部には、莫大な数のグラフェンが金属微粒子ないしは複合金属微粒子の金属結合で接合されている。こうしたグラフェン接合体の表面に直接、応力が加わると、この応力はグラフェン接合体の表面から、莫大な数の金属微粒子ないしは複合金属微粒子を介して莫大な数のグラフェンに分散される。この結果、グラフェンの接合に係わる金属微粒子ないしは複合金属微粒子に加わる応力が著しく低減され、グラフェンの接合は破壊されず、これによってグラフェン接合体は破壊されない。つまり、グラフェンは優れた機械的強度を有する物質であるが、極微細な物質であるため、グラフェンを直接、基材ないしは部品に接合させることは困難である。このため、大量のグラフェンが金属微粒子ないしは複合金属微粒子の金属結合によって接合したグラフェン接合体を、基材ないしは部品に磁気吸着ないしは被覆させた。グラフェン接合体に直接加わった応力は、莫大な数の金属微粒子ないしは複合金属微粒子を介して、莫大な数のグラフェンに分散され、グラフェン接合体の破壊は回避される。このようなグラフェン接合体が磁気吸着した、ないしは、グラフェン接合体で被覆された基材ないしは部品の表面は、優れた耐摩耗性を有する。
本実施例の第一の事例は、グラフェン接合体を基材ないしは部品に磁気吸着させ、これによって、耐摩耗性が付与される基材ないしは部品を製造する事例であり、このような基材ないしは部品の好適な事例として、光ディスクの製造に用いるスタンパーがある。光ディスク用のスタンパーは、成形時に高温のポリカーボネート樹脂と接触して熱膨張する。このため光ディスクの基板を成形する際に、スタンパーは膨張と収縮を繰り返す。これによって、スタンパーは金型と摩擦を起こし、スタンパーの裏面の一部が削られる。削られたスタンパー成分のニッケル粉が他の場所に移動し、成形中の圧力によってスタンパーが変形する。この結果、成形される基板の形状が正規の形状から外れ、スタンパーの寿命を短くするという課題があった。スタンバーは、記録したビットの表面にニッケルの薄膜がスパッタリングで形成されているので強磁性の性質を持つ。これによって、ビットが形成された表面に、鉄微粒子が担持したグラフェン接合体が磁気吸着し、磁気吸着したグラフェン接合体によって前記した耐摩耗性が付与される。スタンパーにグラフェン接合体を磁気吸着させる製造工程は、図33に図示したメタルマスク版にグラフェン接合体を磁気吸着させる製造工程と同様である。磁気吸着したグラフェン接合体は、前記のようにスタンパーに耐摩耗性を付与し、このスタンパーは半永久的に使用できる。
本実施例の第二の事例は、グラフェン接合体を基材ないしは部品の表面に被覆させ、これによって、耐摩耗性が付与される基材ないしは部品を製造する事例であって、このような基材ないしは部品の好適な事例として、電気、電子部品のコネクタ、電気機械式小型リレー、プリント配線板、ブレーカーなどに用いられている電気接点がある。電気接点は、展性や電気導電性に優れる銅や銅合金などの金属部材に金属の拡散防止や耐久性向上のためにニッケルもしくはNi合金の下地メッキを行い、その上に電気導電性と耐食性にすぐれる銀メッキを行った材料からなるものがある。しかしながら、ニッケルメッキ上に銀メッキを行った材料では、実装リフロー時や樹脂溶着などにより熱がかかると銀とニッケル間の密着力が低下する。また、硬質銀メッキや硬質金の処理を施した電気接点材では、無光沢銀材や金材よりは摩耗が少ないものの、高い荷重が印加される摺動が行われる箇所に用いるとすぐに消耗し、基材が露出して酸化や腐食を生じて接点材の導通不良を起こす。このように、電気接点の多くの問題はメッキ層に関わる問題であって、メッキ層が下地金属に積層してメッキ層が形成されるため、メッキ層と下地金属との結合力はアンカー効果による弱い結合力である。
電気接点に被膜として形成するグラフェン接合体は、136段落で説明した洗浄ノズを被覆するグラフェン接合体と同様で、127段落で記載したグラフェン接合体の製造の第二実施例で製造するグラフェン接合体を被覆させる。従って、図33で図示したメタルマスク版にグラフェン接合体を磁気吸着させる製造工程のS191工程において、127段落で説明したようにオクチル酸鉄とオクチル酸銅とをメタノールに分散させる。S194工程においては、オクチル酸鉄とオクチル酸銅との混合物がグラフェンに吸着したグラフェンを電気接点に吸着させる。さらに、S197工程に相当する工程では、260℃でオクチル酸鉄を熱分解して、鉄微粒子によってグラフェン接合体を生成し、このグラフェン接合体が電気接点を被覆する。さらに、290℃でオクチル酸銅を熱分解し、電気接点を被覆したグラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に銅が析出し、鉄と銅とからなる複合金属微粒子がグラフェン接合体の表面に形成する。なお、S197工程に相当する工程では、オクチル酸鉄の熱分解が完了した時点で、オクチル酸鉄の熱分解で分離生成された有機物の全てが昇華する。この際、新生金属である鉄が、電気接点の下地金属である銅や銅合金と金属結合する。これによって、グラフェン接合体と下地金属との結合力が著しく増大する、と共に、グラフェン接合体からなる被膜によって前記した耐摩耗性が付与される。この被膜は、鉄の融点に近い温度にならない限り、グラフェン接合体が下地金属から剥離することはない。さらに、電気接点はグラフェン接合体の被膜を介して他の部材との電気的接合が図られるので、電気接点の下地金属が他の金属と直接接触することはなく、下地金属の拡散は起こらない。また、導電性であるグラフェン接合体はごく薄い被膜として形成されるため、グラフェン接合体が形成する電気抵抗は小さい。なお、グラフェン接合体からなる被膜の形成は、グラフェンに吸着した金属を析出する原料を大気中で熱処理するだけであるため、被膜を形成する費用は、様々な工程からなるメッキ処理の費用に比べて安価で済む。このように、グラフェン接合体の被膜によって電気接点の下地金属を被覆する方法は、耐摩耗性の向上のみならず多くの利点がある。
グラフェン接合体は、ナノレベルの大きさの金属微粒子ないしは複合金属微粒子が離散的に表面に担持されているので、グラフェン接合体の表面はナノレベルの凹凸を持つ。このため、グラフェン接合体が磁気吸着した、ないしは、グラフェン接合体で被覆された基材ないしは部品の表面は、ナノレベルの凹凸が形成され、いわゆる鏡面仕上げの平坦度より2桁近く平坦度が優れる。これによって優れた潤滑性が付与される。例えば、基材ないしは部品が摺動部品ないしは被摺動部品であれば、摺動部ないしは被摺動部に磁気吸着したグラフェン接合体、ないしは、被覆したグラフェン接合体は、相手部材と複数の接触点からなる点接触に近い状態で接触する。これによって、接触面積が激減され、摺動時における摩擦力は著しく低減する。この結果、摺動時における摩耗が著しく低減すると共に、異音の発生や摩擦熱の発生など摺動に係わる多くの問題点が同時に払拭できる。
本実施例における基材ないしは部品は、軸受、歯車、ギアなどの摺動部品ないしは被摺動部品が好適である。従来は、非晶質炭素材料や粉末合金材料からなる焼結体や熱可塑性樹脂の成形体などからなる摺動部品ないしは被摺動部品の摺動部ないしは被摺動部に、フッ素樹脂やフッ素樹脂の複合材やダイアモンドライクカーボンなどの摺動材料を使用している。フッ素樹脂やフッ素樹脂の複合材からなる摺動材料は、耐摩耗性が十分でなく耐久性に劣る。また、ダイアモンドライクカーボンは、表面の平坦度をサブミクロンレベルに上げることができず、摩擦力が大きく、相手部材を摩耗させるのみならず、摩擦熱および異音を発生する。このように摺動上の問題をもたらす根本的な要因は、摺動部における摩擦力に集約される。つまり、摺動時に発生する摩擦力を激減させることで、摺動に係わる多くの問題が同時に解決できる。しかしながら、従来の加工法では、摺動部の表面をナノレベルの平坦度に加工することは困難で、鏡面仕上げによるサブミクロンの平坦度が限度である。従って、摺動材料を変えても、摺動部の摩擦力は大きく変わらず、摺動に係わる根本的な問題の解決にはならない。
摺動部品ないしは被摺動部品の表面にグラフェン接合体を磁気吸着、ないしは、被覆させる製造方法は、摺動部品ないしは被摺動部品が磁性を持つ場合は、図33に図示したグラフェン接合体をメタルマスク版に磁気吸着させる製造方法と同様である。摺動部品ないしは被摺動部品が磁性をもたない場合は、図33に図示したS197工程において、グラフェン接合体が摺動部品ないしは被摺動部品の表面を被覆する。こうして、摺動部ないしは被摺動部の表面はナノレベルの凹凸からなる平坦度となり、優れた潤滑性が付与される。この結果、相手部材と複数の接触点からなる点接触に近い状態で接触し、摺動時における摩擦力が激減する。なお摺動部品ないしは被摺動部品の形状は、その用途に応じて種々の形態とすることができ、平板状、凸状、窪み状、円筒状又は円管状であって円筒の外表面に摺動部を有するもの、円管状であってその内部の表面に摺動部を有するものなど種々の形状が挙げられる。これら摺動部品ないしは被摺動部品のいずれの表面にも、微細な物質であるグラフェン接合体が磁気吸着し、ないしはごく薄い被膜を形成する。
本実施例は、複合金属微粒子ないしは複合微粒子が表面に担持したグラフェン接合体を基材ないしは部品に被覆させる実施例であって、これによって、基材ないしは部品に複合金属微粒子ないしは複合微粒子の性質を付与することができ、複合金属微粒子ないしは複合微粒子の表層を構成する物質に応じて、基材ないしは部品に付与される性質が変わる。
第一事例は、グラフェン接合体の表面に担持される複合微粒子の表層を酸化アルミニウムで構成し、このグラフェン接合体を基材ないしは部品に被覆させ、耐摩耗性と潤滑性とを同時に付与する基材ないしは部品を製造する実施例である。すなわち、130段落におけるグラフェン接合体の製造の第五実施例に準じて製造するグラフェン接合体を、基材ないしは部品の表面に被覆する。本実施例の製造方法を、136段落で説明したメタルマスク版にグラフェン接合体を磁気吸着させる製造工程である図33に図示した製造工程に準じて説明する。本事例では、銅と鉄とからなる複合金属微粒子の金属結合によってグラフェン接合体を生成するため、S191工程に相当する工程では、130段落で説明したオクチル酸銅とラウリン酸鉄とをメタノールに分散させる。S192工程においては、このメタノール分散液とグラフェンの集まりを混合する。S193工程においては、混合液を撹拌して懸濁液を作成する。S194工程においては、分散溶媒であるメタノールを気化させ、オクチル酸銅とラウリン酸鉄とをグラフェンの表面に吸着させる。S195工程においては、グラフェンと基材ないしは部品とを水に分散させる。S196工程において水を蒸発させ、基材ないしは部品にグラフェンを吸着させる。S197工程において基材ないしは部品を大気雰囲気で熱処理するが、最初に290℃でオクチル酸銅を熱分解し、グラフェンの表面に銅微粒子を担持させ、次に330℃でラウリン酸鉄を熱分解し、銅微粒子の表面に鉄を析出させて複合金属微粒子を生成し、この複合金属微粒子の金属結合でグラフェン接合体を生成する。この際、生成されたグラフェン接合体は、基材ないしは部品の表面を覆う(S198工程)。さらに、図33に図示した製造工程にはない酸化アルミニウムを析出させる次の4つの工程を追加する。つまり、130段落で説明したように、ヒドロキシ錯体をメタノールに分散する(S199工程に相当)。さらに、メタノール分散液を基材ないしは部品が存在する容器に充填する(S200工程に相当)。次に大気雰囲気で熱処理する。最初に70℃でメタノールを気化させ、基材ないしは部品の表面にヒドロキシ錯体を吸着させる(S201工程に相当)。さらに270℃で熱処理すると、ヒドロキシ錯体が熱分解して酸化アルミニウムが析出するが、酸化アルミニウムは、基材ないしは部品の表面を被覆したグラフェン接合体に析出する。この際、グラフェン接合体の表面に担持された複合金属微粒子の表層に酸化アルミニウムが析出し、複合微粒子を形成する(S202工程に相当)。こうして、基材ないしは部品は、複合微粒子が表面に担持されたグラフェン接合体によって覆われ、ナノレベルの平坦度が形成される。
基材ないしは部品を被覆したグラフェン接合体によって、耐摩耗性と潤滑性とが同時に付与される基材ないしは部品の第一の事例として、摺動部品ないしは被摺動部品が挙げられる。この摺動部品ないしは被摺動部品は、138段落で記載した摺動部品ないしは被摺動部品より、摺動部ないしは被摺動部により大きな荷重が発生しても、グラフェン接合体の被膜によって摺動部ないしは被摺動部に潤滑性が付与されると同時に、複合微粒子の表層を構成する酸化アルミニウムの作用によって優れた耐摩耗性が付与される。摺動部品として、摺動部品と被摺動部品との双方が、金属ないしは合金から構成される軸受、歯車、ギア、スプール、プランジャー、ピストン、ローターなどの様々な機構部品がある。
さらに、耐摩耗性と潤滑性とが同時に付与される基材ないしは部品の第二事例として、プリンターやファクシミリ等における印字ヘッドとして使用されるサーマルヘッドの保護膜と、磁気記録媒体に摺動して情報の磁気記録または再生を行なう磁気ヘッドの保護膜がある。サーマルヘッドについては、グラフェン接合体からなる保護膜は、前記した摺動部品ないしは被摺動部品における耐摩耗性と潤滑性のみならず、ナノレベルの凹凸によって表面が形成されるため136段落に記載した撥水性の機能が付与され、感熱記録紙や感熱紙の発色剤が保護膜に付着しない。また、グラフェン接合体が金属より熱伝導性に優れ、かつ、ごく薄い被膜として形成されるため、保護膜の熱応答性が優れ、高速印字においても印字が薄れることはない。さらに、グラフェン接合体は平坦度が極めて高い極薄い被膜からなるため、高速印字に対する追従性に優れる。磁気ヘッドについては、グラフェン接合体からなる保護膜は、複合微粒子の表層を構成する酸化アルミニウムの作用による耐摩耗性のみならず、138段落で記載したように、グラフェン接合体は相手部材と複数の接触点からなる点接触に近い接触形態で接触するため潤滑性を有し、記録媒体に対し損傷を与えないという効果も得られる。さらに、グラフェン接合体は平坦度が極めて高い極薄い被膜からなるため、高速磁気記録に対する優れた追従性が得られる。
本実施例の第二の事例は、グラフェン接合体の表面に担持される複合金属微粒子の表層を白金で構成し、このグラフェン接合体を基材ないしは部品に被覆させることで、新たに耐摩耗性と潤滑性と共に、耐食性を同時に基材ないしは部品に付与することができる。すなわち、131段落におけるグラフェン接合体の製造の第六実施例に準じて製造するグラフェン接合体を、基材ないしは部品の表面に被覆する。ここで、このグラフェン接合体によって基材ないしは部品を被覆する製造方法を、136段落で説明したメタルマスク版にグラフェン接合体を磁気吸着させる製造工程である図33に図示した製造工程に準じて説明する。本事例では、鉄微粒子の金属結合でグラフェン接合体を生成した後に、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に白金を析出させ、鉄と白金とからなる複合金属微粒子を形成する。従って、鉄微粒子同士の金属結合でグラフェン接合体を生成し、このグラフェン接合体が基材ないしは部品を被覆するS198工程までは、メタルマスク版にグラフェン接合体を磁気吸着させる製造工程と同様である。この後、図33に図示した製造工程にはない白金を析出させる次の4つの工程を追加する。つまり、131段落で説明したように、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムをメタノールに分散する(S199工程に相当)。ただし、析出する白金の量を鉄微粒子の量の1/10とするため、メタノール分散液における白金の重量割合が0.25重量%とする。次に、このメタノール分散液を基材ないしは部品が存在する容器に充填する(S200工程に相当)。さらに、アンモニア雰囲気で熱処理する。最初に70℃でメタノールを気化させると、基材ないしは部品の表面にヘキサクロロ白金酸アンモニウムが吸着する(S201工程に相当)。次に200℃において、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムを還元し、グラフェン接合体に白金を析出させる。この際、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子が核となり、鉄微粒子の表層に白金が析出して複合金属微粒子を形成する(S202工程に相当)。こうして、基材ないしは部品は、白金が表層をなす複合金属微粒子が表面に担持されたグラフェン接合体によって覆われる。
このようなグラフェン接合体を基材ないしは部品に被覆させる好適な事例として、137段落で記載した電気接点が挙げられる。137段落で記載した電気接点に形成したグラフェン接合体の被膜に比べ、複合金属微粒子の表層が白金で構成されたグラフェン接合体で電気接点が被覆されるため、耐摩耗性と潤滑性に加え耐食性を同時に付与することができる。
微細な線径からなる強磁性の線材を編んで製造されるスクリーンメッシュに、磁性を有する複合金属微粒子が表面に担持されたグラフェン接合体を磁気吸着させることで、スクリーンメッシュは複合金属微粒子の性質を発揮する。本実施例は、複合金属微粒子の表層を、触媒作用を有する金属ないしは合金で構成し、スクリーンメッシュに触媒作用を付与する実施例である。複合金属微粒子は、体積に対する表面積の比率である比表面積が大きいため、効率のよい触媒作用を発揮する。また、グラフェン接合体はアスペクト比が極めて大きい扁平な物質であるため、表面に離散的に担持させた複合金属微粒子の全てを外界にさらして、触媒作用を発揮させることができる。さらに、平面状の基材であるスクリーンメッシュに、グラフェン接合体の集まりを磁気吸着させ、全てのグラフェン接合体を外界にさらして、触媒作用を発揮させることができる。このような極めて触媒作用の効率が高いスクリーンメッシュは、固体高分子形燃料電池におけるアノード触媒およびカソード触媒として用いることができる。
製造工程を図34に示す。スクリーンメッシュとして、線径が18ミクロンで、開口率が40%で、紗厚が15ミクロンで、材質がニッケルからなるスクリーンメッシュ(メッシュ株式会社のαメッシュ5S−2424の該当品)を用意する(S200工程)。オクチル酸鉄のメタノール分散液における分散濃度が、鉄の重量割合で2重量%になるようにオクチル酸鉄をメタノールに分散する(S201工程)。さらに、124段落で説明した製法で製造したグラフェンの集まり100gを、オクチル酸鉄のメタノール分散液600gに混合する(S202工程)。次に、マグネチックスターラーを用いて攪拌し、グラフェンが分散された懸濁液を作る(S203工程)。懸濁液を70℃に昇温してメタノールを蒸発させ、オクチル酸鉄をグラフェンに吸着させる(S204工程)。グラフェンの集まりと複数のスクリーンメッシュとを容器に入れ、オクチル酸鉄が分散しにくい水を混合して撹拌する(S205工程)。この後、容器を100℃に昇温して水を蒸発させ、スクリーンメッシュにグラフェンを吸着させる(S206工程)。スクリーンメッシュを容器から取り出し、大気雰囲気でオクチル酸鉄が熱分解する260℃まで昇温する(S207工程)。オクチル酸鉄の熱分解によって鉄微粒子が析出し、鉄微粒子同士の金属結合でグラフェン接合体が生成され、グラフェン接合体がスクリーンメッシュに磁気吸着する(S208工程)。
さらに、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムをメタノールに分散する(S209工程)。分散濃度は、分散液における白金の重量割合が0.05重量%とする。次に、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムのメタノール分散液が入った容器に、グラフェン接合体が磁気吸着したスクリーンメッシュを浸漬する(S210工程)。この後、容器を70℃に昇温してメタノールを蒸発させ、グラフェン接合体の表面にヘキサクロロ白金酸アンモニウムを吸着させる(S211工程)。容器からスクリーンメッシュを取り出し、200℃のアンモニアガスの雰囲気で還元する(S212工程)。これによって、ヘキサクロロ白金酸アンモニウムが還元し、グラフェン接合体の表面に担持された鉄微粒子の表層に白金が析出する(S213工程)。スクリーンメッシュに、鉄と白金とからなる複合金属微粒子が表面に担持されたグラフェン接合体が磁気吸着し、スクリーンメッシュは触媒作用を持つ。
以上に説明した触媒作用を持つ複合金属微粒子は一例である。132段落に記載した鉄と白金ルテニウム合金とからなる複合金属微粒子、133段落に記載した鉄と白金コバルト合金とからなる複合金属微粒子、あるいは134段落に記載した鉄とパラジウムコバルト合金とからなる複合金属微粒子でもよい。また、グラフェン接合体を磁気吸着させる相手は、スクリーンメッシュに限定されるものではない。基材ないしは部品が強磁性の性質を持てば、グラフェン接合体が基材ないしは部品に磁気吸着し、基材ないしは部品はグラフェン接合体の表面に担持された複合金属微粒子の性質を発揮する。
140段落で説明したスクリーンメッシュは、グラフェン接合体が磁気吸着し、このグラフェン接合体の表面に担持された複合金属微粒子によって触媒作用を発揮する。スクリーンメッシュにプロトンが伝導する高分子電解質材料を吸着させた第一の付加要素と、スクリーンメッシュに磁気吸着したグラフェン接合体の表面に、プロトンが伝導する高分子電解質材料を吸着させた第二の付加要素を兼備させることで、スクリーンメッシュは、固体高分子形燃料電池における燃料極ないしは空気極として用いることができる。これによって、スクリーンメッシュからなる燃料極、固体高分子電解質膜、スクリーンメッシュからなる空気極を順番に重ねて圧着して一体化すると、固体高分子形燃料電池の基本ユニットであるMEAと呼ばれる膜/電極接合体が製造できる。
ここで、固体高分子形燃料電池の基本構成について説明する。図35に燃料電池の基本構成を示す。アノード極に該当する燃料極(F)、固体高分子膜(E)、カソード極に該当する空気極(A)を圧着させて一体化した膜/電極接合体と呼ばれる基本ユニットを、反応ガスである燃料(Fu)と空気(Ai)とが供給される流路が彫り込まれたリブ付きセパレータ(S)(あるいはバイポーラプレート)と呼ばれる導電板で挟み、燃料電池の基本単位である単セル(シングルセル)を構成する。この単セルを積層して直列接続し、燃料電池の本体であるセル積層体(セルスタック)を構成する。
68段落で説明したように、アノード極に該当する燃料極(F)では、供給された水素やメタノールなどの燃料(Fu)を分解してプロトン(水素イオンH+)と電子とを生成する。この後、プロトンは電解質膜(E)に、電子は導線を通って空気極(A)へと移動する。空気極(A)では固体高分子膜(E)から移動して来たプロトンと、導線から移動して来た電子が空気中の酸素と反応して水を生成する。このように、固体高分子膜(E)は、燃料極(F)で生成したプロトンを空気極(K)へ移動させる機能を担う。プロトンの伝導性の高さと安定性から、68段落に記載したナフィオン、フレミオン、アシプレックスなどのスルホン酸基を持ったフッ素系ポリマーであるパーフルオロスルホン酸とカーボンとの重合体が用いられている。この高分子膜内でプロトンは水和されてスルホン酸基上を移動する。
また、従来技術における燃料極と空気極とは、ガス拡散層(G)と触媒層(C)とが積層された構造から成る。ガス拡散層(G)は燃料極(F)の触媒層(S)に燃料(Fu)を供給し、ないしは、空気極(A)の触媒層(S)に空気(Ai)を供給するために、莫大な数の細孔を持つ。また、ガス拡散層(G)は、燃料極(F)の触媒層(S)で生成された電子を導線に伝え、さらに導線を伝わってきた電子を空気極(A)の触媒層(S)に伝えるために導電性が必要になる。これら2つの機能を有する従来技術におけるガス拡散層(G)は、カーボンペーパーやカーボンクロスからなる織布ないしは不織布で構成されている。また、従来技術における触媒層(S)は、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどからなるカーボンブラックの粉末粒子の表面に、白金族の金属あるいは白金族の金属からなる合金を微粒子として結合させ、このカーボンブラックの粉末粒子の集合体から構成されている。さらに、触媒層(S)は、燃料極(F)の触媒で生成されたプロトンを固体高分子膜(E)に伝導し、ないしは、固体高分子膜(E)に伝達したプロトンを空気極の触媒に伝導するため、アイオノマーと呼ばれる固体高分子膜と同種の材料を、前記したカーボンブラックの集合体に吸着させた構造になっている。
以上に説明した固体高分子形燃料電池における従来技術の燃料極および空気極を構成するガス拡散層と触媒層とは、次の3つの問題点を持つ。第一の問題点は、ガス拡散層の構造にある。ガス拡散層を、カーボンペーパーやカーボンクロスの織布ないしは不織布によって構成し、触媒層に燃料ないしは空気を供給する莫大な数の細孔を有する構造としたため、燃料ないしは空気が細孔を通過する際の抵抗分を必ず有する。これによって、燃料極での酸化反応と空気極での還元反応とにおける反応効率が低下し、発生する電圧が低下する。この抵抗分を小さくするために細孔の開口率を上げる、ないしは厚みを薄くすると、カーボンペーパーやカーボンクロスの織布ないしは不織布の機械的強度が低下し、燃料極および空気極を圧着させて膜/電極接合体を製造することが困難になる。さらに、触媒層をガス拡散層に積層させる構造であるため、触媒層がガス拡散層と直接接触する部分が形成され、これによって、燃料ないしは空気と接触しない触媒微粒子が形成される。この触媒微粒子は、触媒作用が発揮できなくなる。
第二の問題点は、触媒層の構造にある。触媒層は、触媒作用を有する微粒子を、カーボンブラックの粒子の表面に結合させ、このカーボンブラックの粒子の集合体によって触媒層を形成している。このため、カーボンブラックの粒子の表面に担持された金属微粒子あるいは合金微粒子の多くが、隣接するカーボンブラック粒子と接触し、あるいは、隣接するカーボンブラック粒子との間隙に埋もれる。これによって、触媒作用を有する微粒子の多くが燃料ないしは空気にさらされず、触媒作用が発揮できなくなる。つまり、触媒層がカーボブラックのような粉末粒子の集合体で構成せず、面を有する2次元的な物質の表面に触媒作用を有する微粒子が結合される構造で構成すれば、全ての微粒子は外界にさらされるので触媒作用が発揮できる。さらに、カーボンブラックの粉末粒子の集合体からなる触媒層に、アイオノマーを吸着させる構造であるため、カーボンブラックの表面に結合された触媒微粒子の一部が、アイオノマーが過剰となった層に埋もれ、触媒作用を発揮することができなくなる。これらが要因になって、燃料極での酸化反応と空気極での還元反応における反応効率が低下し、発生する電圧が低下する。さらに、触媒層の表面をプロトンが移動できるようにするために、触媒の微粒子を結合させた後に、カーボンブラック粒子の表面に保水処理を行なっている。この保水処理は、燃料電池の製造コストを上昇させる一因になる。
第三に、ガス拡散層および触媒層が有する問題点から、高価な原料から製造される触媒微粒子の多くが触媒作用を発揮できないという致命的な問題をもたらす。このため、触媒層の厚みと面積とを必要以上に拡大させ、必要となる触媒作用を確保している。この結果、触媒層の製造コストが著しく高くなり、燃料電池の製造コストを押し上げる。
以上に説明した従来技術の3つの問題点は、次の2つの要因に集約される。第一は、ガス拡散層の存在である。固体高分子膜の耐熱性の制約によって、固体高分子膜に触媒となる金属微粒子あるいは合金微粒子を結合する事が出来ないので、触媒層を固体高分子膜と切り離して別個に形成せざるを得ない。いっぽう、ガス拡散層に電子の導電性を持たせ、触媒層にプロトンの伝導性を持たせる考えに基づき、ガス拡散層と触媒層とを分離した。つまり、電子の導電性とプロトンの伝導性と触媒作用とを兼備する部品の構成を考えるに至らなかったため、触媒層にガスないしは燃料を導入するガス拡散層を積層させた。
第二の要因は、触媒層をカーボンブラックという粉末粒子の集合体から形成させたことである。カーボンブラックが粒子であるがゆえに、その表面に結合した金属微粒子あるいは合金微粒子の多くが、カーボンブラック同士が隣接する間隙に埋もれ、あるいは隣接するカーボンブラック粒子と接触し、燃料ないしは空気に晒されず、触媒としての作用が発揮できない。さらに、カーボンブラックの集合体にアイオノマーを吸着させたため、カーボンブラックの表面の多くが過剰なアイオノマーの層に埋もれてしまう。この結果、多くの触媒微粒子が、燃料ないしは空気にさらされない。つまり、面からなる2次元的な部材の表面に触媒微粒子を離散的に担持させ、これによって触媒層を構成することを考えるに至らなかった。このため、触媒層をカーボンブラックの粒子の集合体から形成させた。
本実施例では、従来技術の問題点を次の2つの考えによって解決した。第一の考えは、ガス拡散層を排除した。第二の考えは、触媒作用を発揮する微粒子を面からなる部材の表面に離散的に担持させ、さらに面からなる部材を平面状の部材に吸着させた。これらによって、触媒粒子の効率が飛躍的に向上する。これら2つの考えに基づいて燃料極ないしは空気極を実現するには、燃料極ないしは空気極は、触媒作用を発揮する機能、電子が移動する機能、プロトンが伝導する機能からなる3つの機能を兼備することが必須になる。本実施例では、これら3つの機能を兼備する部材をスクリーンメッシュとして実現させた。つまり、下記の5つの処置によって、3つの機能をスクリーンメッシュに兼備させた。第一に、導電性であるスクリーンメッシュの表面にアイオノマーを吸着させ、スクリーンメッシュに電子の移動経路とプロトンの伝導経路との機能を兼備させた。第二に、触媒作用をもたらす金属微粒子あるいは合金微粒子を、極めて扁平な物質であり導電性のグラフェン接合体の表面に離散的に担持させた。これによって、グラフェン接合体は、触媒作用を発揮する機能と電子が移動する機能を兼備する。第三に、グラフェン接合体にアイオノマーを吸着させ、電子が移動する機能とプロトンが伝導する機能を兼備させた。第四に、触媒作用をもたらす金属微粒子あるいは合金微粒子の表面にアイオノマーを吸着させ、触媒作用とプロトンの伝導作用と電子の移動作用との三つの機能を金属微粒子あるいは合金微粒子に兼備させた。第五に、スクリーンメッシュの両面に、前記したグラフェン接合体を磁気吸着させた。この結果、グラフェン接合体が磁気吸着したスクリーンメッシュは、前記した3つの機能を兼備することができる。
なお、グラフェンは、カーボンペーパーやカーボンクロスより黒鉛の結晶化が進んでいるため、電気抵抗はカーボンペーパーやカーボンクロスより小さい。このため、グラフェンを金属微粒子ないしは複合金属微粒子の金属結合で接合したグラフェン接合体の電気抵抗は、カーボンペーパーやカーボンクロスの電気抵抗より小さい。さらに、カーボンペーパーやカーボンクロスは、2000℃を超える還元雰囲気で焼成して黒鉛の結晶化を進めて導電性を高めるため、グラフェン及びグラフェン接合体に比べると、製造コストが極めて高く、燃料電池の製造コストを引き上げる要因になっている。
ここで、燃料極および空気極の製造方法を説明する。スクリーンメッシュとして、線径が18ミクロンで、開口率が40%で、紗厚が15ミクロンで、材質がニッケルからなるスクリーンメッシュ(例えば、メッシュ株式会社のαメッシュ5S−2424の該当品)を用意する。材質は、強磁性を有するニッケル合金やマルテンサイト系ないしはフェライト系のステンレススチールでもよい。次に、アイオノマーとなる固体電解質材料を用意する。アイオノマーの材料として、ナフィオン(米国デュポン社の登録商標)を5重量%で溶解させた希釈溶液(和光純薬工業製のDE521CSタイプ)を用意する。なおナフィオンに限らず、アシプレックス(旭化成工業の登録商標)の希釈溶解溶液(旭化成イーマテリアルズ製の溶液SS500)、ないしはフレミオン(旭硝子の登録商標)をエタノールに5重量%で溶解した希釈溶液を用いることも出来る。さらに、140段落で説明した製造方法によって製造した触媒作用を有するスクリーンメッシュを用意する。ナフィオンの溶解溶液を容器に充填し、スクリーンメッシュをナフィオンの溶液に浸漬する。次に、マグネチックスターラーを1分間動作させる。この後、スクリーンメッシュを容器から引き上げ、80℃に1分間さらしてナフィオンの溶解溶液の溶媒を蒸発させ、ナフィオンをスクリーンメッシュに吸着させる。このような極めて簡単な製造方法で燃料極および空気極が出来上がる。この燃料極ないしは空気極としてのスクリーンメッシュを、燃料極、固体電解質膜、空気極の順で積層し、125℃において10kg/cm2の荷重を印加して圧着させ、膜/電極接合体を製造した。
ここで、燃料極を構成するスクリーンメッシュの作用効果を説明する。スクリーンメッシュの表面に磁気吸着したグラフェン接合体は、表面に担持された微粒子の触媒作用によって、燃料を酸化してプロトンと電子を生成する。スクリーンメッシュの裏面に磁気吸着したグラフェン接合体も、燃料がスクリーンメッシュを通過し、通過した燃料は裏面に担持された微粒子の触媒作用によって、燃料が酸化されてプロトンと電子を生成する。生成されたプロトンは、微粒子と接触するナフィオンの電解質膜に伝導し、さらに、グラフェン接合体の表面に吸着したナフィオンの電解質膜およびスクリーンメッシュの表面に吸着したナフィオンの電解質膜を伝導する。いっぽう、燃料極が固体電解質膜に直接圧着されているので、スクリーンメッシュの裏面に磁気吸着したグラフェン接合体の表面に担持された微粒子が、固体電解質膜に直接接触する。これによって、グラフェン接合体とスクリーンメッシュとに伝達したプロトンは、微粒子の表層を介して固体電解質膜に伝導する。このように、燃料極がスクリーンメッシュで構成されるため、燃料が触媒作用を発揮する微粒子に直接接触する。さらに、微粒子がグラフェン接合体の表面に離散的に担持されているため、全ての微粒子の表層が触媒作用を発揮する。さらに、生成されたプロトンの第一の伝導経路が触媒作用を持つ微粒子の表層に形成され、第二の伝導経路がグラフェン接合体の表面に形成され、第三の伝導経路がスクリーンメッシュの表面に形成され、第一の伝導経路から第三の伝導経路が連通しているため、プロトンの伝導性を阻害する要因が全くない。これらの作用効果によって、触媒作用の効率が飛躍的に向上し、プロトンと電子とを生成する阻害要因とプロトンが移動する阻害要因がないため、燃料電池の発生電圧を低下させる障害がなくなる。
いっぽう、燃料極で生成された電子は、金属微粒子ないしは合金微粒子からグラフェン接合体に移動し、さらにグラフェン接合体が磁気吸着したスクリーンメッシュに移動し、スクリーンメッシュから導線に移動する。従って、電子の伝達経路についても阻害する要因はない。つまり、触媒作用を発揮する微粒子が第一の電子の移動経路を、微粒子が担持されたグラフェン接合体が第二の電子の移動経路を、スクリーンメッシュが第三の電子の移動経路を、スクリーンメッシュが接合した導線が第四の電子の移動経路を形成し、第一から第四の移動経路が電気的に導通している。これらの作用効果によって生成された電子の移動を妨げる要因がないため、燃料電池の発生電圧を低下させる障害がない。
次に、空気極を構成するスクリーンメッシュの作用効果を説明する。スクリーンメッシュの裏面に磁気吸着したグラフェン接合体は、表面に担持された金属微粒子ないしは合金微粒子が、固体電解質膜に直接圧着されるため、固体電解質膜から移動して来たプロトンが、金属微粒子ないしは合金微粒子に移動する。また、導線から移動して来た電子がスクリーンメッシュ、グラフェン接合体、金属微粒子ないしは合金微粒子の順で移動する。この結果、金属微粒子ないしは合金微粒子の触媒作用で、微粒子の近傍でプロトンと電子とが空気中の酸素と反応して水を生成する。スクリーンメッシュの表面に磁気吸着したグラフェン接合体についても、スクリーンメッシュから移動してきたプロトンと電子とは、グラフェン接合体を移動して、金属微粒子ないしは合金微粒子に達し、微粒子の触媒作用によって、微粒子の近傍で空気中の酸素と反応して水を生成する。このように、空気極もスクリーンメッシュで構成されるため、空気が触媒作用をもたらす微粒子と直接接触する。さらに、触媒作用を持つ微粒子がグラフェン接合体の表面に離散的に担持されているため、全ての微粒子が触媒作用を発揮する。また、プロトンは、微粒子の表層、グラフェン接合体の表面及びスクリーンメッシュの表面に形成された電解質膜に連続して移動するため、プロトンの伝導性を阻害する要因はない。これらの作用効果で、触媒作用の効率が飛躍的に上昇し、また、水が生成される阻害要因とプロトンと電子とが移動する阻害要因がないため、燃料電池の発生電圧を低下させる障害がなくなる。
また、導線を移動してきた電子は、スクリーンメッシュに移動し、スクリーンメッシュからグラフェン接合体に、さらに触媒作用を持つ微粒子に移動する。スクリーンメッシュとグラフェン接合体と微粒子とは電気的に導通している。従って、電子の導電性を阻害する要因は一切ない。つまり、導線が第一の導電経路を、導線が接合されたスクリーンメッシュが第二の電子の導電経路を、グラフェン接合体が第三の電子の導電経路を、触媒作用を持つ微粒子が第四の電子の導電経路を形成し、第一の導電経路から第四の導電経路までが電気的に導通している。これらの作用効果によって、電子の移動を妨げる要因がなく、燃料電池の発生電圧を低下させる障害がない。
さらに、触媒作用を有する金属微粒子ないしは合金微粒子の近傍で生成された水は、隣接する固体高分子膜およびスクリーンメッシュ、グラフェン接合体および微粒子の表面に形成された電解質膜に供給される。これによって、固体高分子膜およびスクリーンメッシュ、グラフェン接合体、微粒子の表面に形成された電解質膜は湿潤状態が保持でき、プロトンは水和されて固体電解質のスルホン酸基上を常時移動することができる。これらによって、プロトンが移動する阻害要因がなくなり、燃料電池の発生電圧を低下させる障害がない。
以上に説明したスクリーンメッシュを燃料極および空気極として用いる実施例は、要約すると次の5つの特徴を持つ。第一に、製造コストが高いガス拡散層がない。第二に、触媒作用を有する莫大な数からなる微粒子が、平面状の導電性物質であるグラフェン接合体に離散的に担持され、さらに、莫大な数のグラフェン接合体が平面状のスクリーンメッシュに磁気吸着するため、全ての微粒子が燃料および空気と直接接触して効率のよい触媒作用を発揮する。第三に、触媒作用を有する微粒子はプロトンを伝導する電解質の被膜と直接接触し、電子の移動機能とプロトンの伝導機能とを兼備する。第四に、導電性のグラフェン接合体が導電性のスクリーンメッシュに磁気吸着して電子が連続して移動する。第五に、プロトンが伝道する電解質が吸着したスクリーンメッシュは、電子の導電経路とプロトンの伝導経路とを兼備する。これらの特徴によって、燃料極および空気極における触媒作用の効率が飛躍的に向上し、プロトンの伝導と電子の移動を妨げる要因が全くなく、燃料電池における発生電圧を低下させる障害がないという画期的な作用効果をもたらす。これによって、燃料電池の製造コストが大幅に低減できるとともに、燃料電池の本体であるセル積層体が小型化できる。
本実施例の製造工程を図36に示す。最初に、製品の表装容器の表面ないしは製品の表面に圧着するグラフェン接合体と圧着冶具を用意する(S220工程)。本実施例で使用するグラフェン接合体は、127段落で説明したグラフェン接合体を製造する第二実施例で製造したグラフェン接合体である。つまり、圧着冶具によってグラフェン接合体の表面全体に圧縮応力をかけると、表面に担持された複合金属微粒子の集まりに圧縮応力が加わり、複合金属粒子の表層をなす銅が変形すると共に製品の表装容器の表面ないしは製品の表面も変形し、グラフェン接合体が製品の表装容器の表面ないしは製品の表面に容易に接合する。圧着されたグラフェン接合体は、グラフェンの接合を担う鉄微粒子と表面の複合金属微粒子を構成する鉄によって磁気を発生するので、磁気マーカーの機能を有する。いっぽう、使用するグラフェン接合体の形状は、グラフェン接合体を圧着させる製品の表層容器あるいは製品の部位に応じて決める。このため、予め決めたグラフェン接合体の形状を、グラフェンの懸濁液を充填する溝の形状に反映し、127段落で記載したグラフェン接合体を製造する実施例2に基づいてグラフェン接合体を製造する。次に、グラフェン接合体を圧着する製品の表装容器の表面ないしは製品の表面を洗浄する(S221工程)。この後、グラフェン接合体を圧着する部位に配置する(S222工程)。こうして、圧着冶具を用いてグラフェン接合体の表面全体に圧縮応力を印加させて、グラフェン接合体を製品の表装容器の表面ないしは製品の表面に圧着させる(S223工程)。
本実施例では、鉄と銅とからなる複合金属微粒子が表面に担持されたグラフェン接合体を用いたが、このグラフェン接合体に限定されることはない。つまり、展性に優れている金属で磁性を有する複合金属微粒子の表層を形成すればよい。また、製品の表装容器の表面ないしは製品の表面が、変形しやすい材質、例えば、合成樹脂や展性に優れた金属で構成される場合は、126段落に記載したグラフェン接合体を製造する第一実施例で製造したグラフェン接合体、ないしは129段落に記載したグラフェン接合体を製造する第四実施例で製造したグラフェン接合体を用いることが出来る。
本実施例では、磁性を持つ金属微粒子ないしは複合金属微粒子が担持されたグラフェン接合体を、製品の表装容器の表面ないしは製品の表面の予め決められた部位に圧着した。圧着したグラフェン接合体からの微弱な漏れ磁束を検出する専用の磁気センサによってのみ、製品が本物か偽者かの識別ができる。模倣業者は、グラフェン接合体が圧着された場所を調べようとしても、グラフェン接合体が余りにも微細でかつ薄いので、グラフェン接合体の存在を明かすことは難しい。仮にグラフェン接合体の存在が分かっても、グラフェン接合体が特殊な材料であるため、分析し特定することは到底できない。このため、磁気マーカーを複製することはできない。
本実施例の製造工程は、図36に示した磁気マーカーを施す製造工程と同様である。最初に、グラフェン接合体を製造する第五実施例で製造したグラフェン接合体と圧着冶具とを用意する(S220工程に相当)。グラフェン接合体は、表層が酸化アルミニウムからなる複合微粒子が表面に担持されているため、表面は電気絶縁性を有する。また、プリント配線板に実装された電子デバイスの裏面にグラフェン接合体を配置し、プリント配線板の表面に圧着治具によって圧縮応力をかけると、グラフェン接合体の表面全体に圧縮応力が加わり、複合微粒子の全てに圧縮応力が加わる。この際、複合微粒子の表層を形成する酸化アルミニウムが、基板ないしはフレキシブル基板の表面とプリント配線板の表面とに食い込んで、グラフェン接合体が基板ないしはフレキシブル基板とプリント配線板とを接合する。なお、使用するグラフェン接合体の形状は、グラフェン接合体を配置するプリント配線板の部位に応じて決める。次に、グラフェン接合体を圧着する基板ないしはフレキシブル基板の表面とプリント配線板の裏面を洗浄する(S221工程に相当)。この後、プリント配線板の発熱部位に該当する基板ないしはフレキシブル基板の上面にグラフェン接合体を配置し、さらに、プリント配線板を配置する(S222工程に相当)。この後、グラフェン接合体が配置された部位に該当するプリント配線板に、圧着冶具を用いて圧縮応力を加え、グラフェン接合体を接合させる(S223工程に相当)。本実施例では、熱導電性に優れたグラフェン接合体を、発熱量が大きいプリント配線板の裏面とプリント基板ないしはフレキシブルプリント基板との間に圧着させた。グラフェン接合体は、銅の体積が鉄の体積より大きい複合金属微粒子でグラフェン同士が接合されているため、グラフェン接合体の熱伝導性はグラフェンに近い。さらに、安価なグラフェン接合体を、プリント配線板と基板ないしはフレキシブル基板とを接合する絶縁性で熱伝導性に優れる接合部材として用いることもできる。これによって次の3つの作用効果が得られる。第一に、発熱量が大きいプリント配線板の部位の熱を、効率よく基板ないしはフレキシブル基板に伝える。これによって、プリント配線板の昇温が抑えられ、プリント配線板に実装された電子デバイスの昇温が抑えられ、電子デバイスの熱劣化が防げる。第二に、グラフェン接合体の表面に担持された複合微粒子を圧着手段として用いることができ、基板ないしはフレキシブル基板とプリント配線板とにグラフェン接合体を容易に圧着させることができる。これによって、プリント配線板と基板ないしはフレキシブル基板とが絶縁性を確保して接合される。このため、従来用いていたプリント配線板と基板ないしはフレキシブル基板とを接着する接着層が不要になる。第三に、グラフェン接合体は重量を持たず微細なため、回路基板の重量と厚みの増大はない。
LED素子は、LEDチップに投入される電力の約80%が熱に変換され、この発熱による昇温でLEDチップが熱劣化する。従って、LEDチップが発する熱を効率よくヒートシンクに伝達することができれば、LEDチップの昇温が抑えられ、LED素子の動作寿命がさらに延びる。さらに、LEDチップの昇温が抑えられれば、より大きな電流をLEDチップに流すことが出来るので、LED素子からの発光量を増やすことが出来る。
LED素子は、LEDチップの発光効率を上げるため、多くの電子と正孔とを半導体素子の接合領域に集めることが必須になる。このため、LEDチップを構成する半導体素子の接合領域では、電子と正孔のキャリアが集中し、効率よく再結合を起こす。電子と正孔とのキャリアを、接合領域の境界付近に集中させる接合として、量子井戸接合とダブルへテロ接合とがある。前者はインジウム窒化ガリウム系半導体チップで代表され、後者は系アルミニウムインジウムガリウムリン半導体チップで代表される。これら2種類の半導体チップからなるLEDチップは、アノード電極とカソード電極を取り出す構造が異なる。
図37にインジウム窒化ガリウム系半導体チップの構造を示す。電気絶縁性で優れた熱伝導性であるサファイア基板(S)の上に、エヌ型窒化物半導体である窒化ガリウム層(G)、発光層であるインジウムガリウム活性層(I)、ピー型窒化物半導体である窒化ガリウム層(G)を順番に積層する。絶縁材料であるサファイア基板の表面にエヌ型電極を設けることは出来ず、エヌ型電極(N)はエヌ型窒化物半導体である窒化ガリウム層に段差を設け、この段差の上面に設ける。さらに、ピー型電極とアノード電極とをボンディングワイヤで結合し、エヌ型電極とカソード電極とをボンディングワイヤで結合する。サファイアはアルミナからなる単結晶材料で、41W/mKという絶縁材料では極めて高い熱伝導率を持ち、比抵抗が1×1014Ωmと高い絶縁体である。バルク材のアルミナに比べて、熱伝導率は1.4倍で比抵抗は100倍近く高い。
図38にアルミニウムインジウムガリウムリン系半導体チップ構造を示す。エヌ型リン化合物半導体であるリン化ガリウム層(G)、発光層であるアルミニウムインジウムガリウムリン活性層(A)、ピー型リン化合物半導体であるリン化ガリウム層(G)を順に積層する構造を持つ。ピー型電極(P)はチップの上面に設け、エヌ型電極(N)はチップの下面に設ける。さらに、ピー型電極とアノード電極とをボンディングワイヤで結合し、エヌ型電極をカソード電極に直接結合する構造になっている。
本実施例では、3枚のグラフェン接合体を4箇所に圧着した。第一のグラフェン接合体は、発熱源であるLEDチップがマウントされ、かつ、アノード電極およびカソード電極が設けられるパッケージ基板の表面に圧着する。これによって、LEDチップが発した熱は、直接第一のグラフェン接合体に伝わる。第二のグラフェン接合体は、アノード電極およびカソード電極の各電極の下面に圧着する。これによって、第一のグラフェン接合体からアノード電極およびカソード電極に伝わった熱が、第二のグラフェン接合体に伝わる。第三のグラフェン接合体は、ヒートシンク上に設けられる配線電極の下面に圧着する。これによって、配線電極に伝達された熱が、第三のグラフェン接合体を介してよりヒートシンクに伝わる。第四のグラフェン接合体は、前記した第二のグラフェン接合体の各々の片方の端部をヒートシンク上に設けられた配線電極の表面に圧着する。これによって、アノード電極およびカソード電極に伝わった熱が、第二のグラフェン接合体を介して配線電極に伝わる。以上の4箇所に3枚のグラフェン接合体を圧着させることによって、LEDチップが発する熱は、パッケージ基板、第一のグラフェン接合体、アノード電極およびカソード電極、第二のグラフェン接合体、配線電極、第三のグラフェン接合体、ヒートシンクの順に連続して熱が伝達される7つの伝熱経路が形成される。この結果、発熱源であるLEDチップの熱が効率よくヒートシンクに伝わり、ヒートシンクから大気に熱が放出される。なお、第一のグラフェン接合体のみは、表面が電気絶縁性であることが必要になるため、第五実施例で製造したグラフェン接合体を用いる。その他のグラフェン接合体は、グラフェン接合体を製造する第三実施例で製造したグラフェン接合体を用いる。
図39は、インジウム窒化ガリウム系半導体チップに対し、グラフェン接合体を圧着した実施例である。この実施例では、インジウム窒化ガリウム系半導体チップを実装するパッケージ基板(P)の表面に第一のグラフェン接合体(1)を圧着し、さらに、第一のグラフェン接合体(1)の表面にアノード電極(A)とカソード電極(K)を形成させた。また、アノード電極(A)およびカソード電極(K)の各電極の下面に第二のグラフェン接合体(2)を圧着した。発熱源であるインジウム窒化ガリウム系半導体チップが発する熱の多くは、チップの下部を構成するサファイア基板に伝わる。サファイア基板とパッケージ基板(P)との間に第一のグラフェン接合体(1)を介在させたため、サファイア基板の熱を直接第一のグラフェン接合体(1)に伝える熱伝達経路が形成される。さらに、パッケージ基板(P)の下面において、カソード電極(K)の下面に第二のグラフェン接合体(2)を圧着し、第一のグラフェン接合体(1)に伝わった熱はカソード電極(K)を介して、第二のグラフェン接合体(2)に伝える熱伝達経路が形成される。この結果、サファイア基板の熱は、第一のグラフェン接合体(1)、カソード電極(K)、第二のグラフェン接合体(2)の順に連続して熱が伝わる第一の経路が形成される。また、サファイア基板と直接接する第一のグラフェン接合体(1)はアノード電極(A)とも接する。アノード電極(A)の下面に第二のグラフェン接合体(2)を圧着させたため、第一のグラフェン接合体(1)に伝わった熱はアノード電極(A)を介して、第二のグラフェン接合体(2)に伝える伝熱経路を形成される。こうして、サファイア基板の熱は、第一のグラフェン接合体(1)、アノード電極(A)、第二のグラフェン接合体(2)の順に連続して熱が伝わる第二の経路が形成される。これらの2つの連続した伝熱経路によって、インジウム窒化ガリウム系半導体チップが発する熱の多くが、効率よく第二のグラフェン接合体(2)に伝わる。
図40は、アルミニウムインジウムガリウムリン系半導体チップに対して、グラフェン接合体を圧着した実施例である。この実施例も、アルミニウムインジウムガリウムリン系半導体チップを実装するパッケージ基板(P)の表面に、第一のグラフェン接合体(1)を圧着させ、第一のグラフェン接合体(1)の表面にアノード電極(A)とカソード電極(K)とを形成させた。更に、アノード電極(A)およびカソード電極(K)の各電極の下面に第二のグラフェン接合体(2)を圧着させた。発熱源であるアルミニウムインジウムガリウムリン系半導体チップと接触する面積が最も大きいのは、チップの下面にあるエヌ型電極である。エヌ型電極とパッケージ基板(P)との間に第一のグラフェン接合体(1)を介在させることで、エヌ型電極の熱が直接第一のグラフェン接合体(1)に伝わる。パッケージ基板の下面において、カソード電極(K)の下面に第二のグラフェン接合体(2)を圧着させることで、第一のグラフェン接合体(1)の熱はカソード電極(K)を介して、第二のグラフェン接合体(2)に伝わる。こうして、半導体チップが発生する熱は、エヌ型電極、第一のグラフェン接合体(1)、カソード電極(K)、第二のグラフェン接合体(2)の順に連続して熱が伝わる第一の経路が形成される。第一のグラフェン接合体(1)に伝わった熱はアノード電極(A)にも伝わり、アノード電極(A)から第二のグラフェン接合体(2)に伝わる。これによって、エヌ型電極に伝わった熱は、第一のグラフェン接合体(1)、アノード電極(A)、第二のグラフェン接合体(2)の順に連続して熱が伝わる第二の熱伝達経路が形成される。これら2つの連続した熱伝達経路によって、アルミニウムインジウムガリウムリン系半導体チップが発する熱の多くが、効率よく第二のグラフェン接合体(2)に伝わる。
図41は、表面実装型LEDチップをアレイ状に実装したものに対する実施例である。第三のグラフェン接合体(3)を、配線電極(E)の背後にグラフェン接合体(3)を介在させ、配線電極(E)とヒートシンク(H)との間にグラフェン接合体(3)を圧着させ、アノード電極(A)およびカソード電極(K)の下端面に圧着した第二のグラフェン接合体(2)の各々の先端を、配線電極(E)の表面に圧着させる。つまり、ヒートシンクは放熱面積が最も大きいので放熱量が最も大きい。従って、ヒートシンクに効率的に熱を伝えることで、LEDチップが発する熱を効率よく大気に放出できる。本実施例では、図39および図40に図示したアノード電極(A)およびカソード電極(K)の下端面に圧着された第二のグラフェン接合体(2)の先端を、図41に示した配線電極(E)の表面に圧着させ、かつ、配線電極(E)の背後に第三のグラフェン接合体(3)を圧着させる。これによって、第二のグラフェン接合体(2)に伝わった熱が配線電極(E)に伝わり、配線電極(E)に伝わった熱が第三のグラフェン接合体(3)を介してヒートシンク(H)に伝わる。この結果、インジウム窒化ガリウム系半導体LEDチップないしはアルミニウムインジウムガリウムリン系半導体チップが発する熱は、パッケージ基板、第一のグラフェン接合体(1)、アノード電極(A)ないしはカソード電極(K)、第二のグラフェン接合体(2)、配線基板(E)、第三のグラフェン接合体(3)、ヒートシンク(H)の順に熱が連続して伝わる経路が形成される。これによって、LEDチップの昇温が抑制でき、LED素子の動作寿命を飛躍的に延ばすことが出来る。さらに、LEDチップにより多くの電流を流すことができ、LED素子の発光量が著しく増大する。
なお、LED素子は、表実装型LED素子の他に砲弾型LED素子がある。砲弾型LED素子は、リードフレーム構造のカソード電極およびアノード電極を用いる。このカソードリードフレームの上端にカップ部を設け、このカップ部にYAG蛍光体を分散させた樹脂を充填する。このような構造を持つ素子に、砲弾型に成形したエポキシ樹脂のケースを被せる。従って、LEDチップの実装構造については、表面実装型LED素子と大きな違いは無く、砲弾型LED素子におけるグラフェン接合体の圧着場所は、図39および図40に図示した実施例に準ずる。
ワイドギャップ半導体からなるICチップや、パワーデバイスと呼ばれる電力制御に用いるIGBTチップやパワーMOSFETなどの半導体デバイスは、デバイスの駆動時に発する熱が従来のシリコーンからなる半導体デバイスに比べて多いため、発熱デバイスと呼ばれる。これらの発熱デバイスなどから発する熱を効率よくヒートシンクに伝達させ、電子回路の昇温を抑制させる手段として、DCB(Direct Copper Bonding)基板と呼ばれるセラミック基板を介して回路基板と銅板とを挟み込んだ構造からなる基板を用いている。つまり、発熱デバイスから回路基板に伝わった熱を、電気絶縁性で熱伝導性に優れるセラミックス基板を介して銅板に伝え、さらに銅板からヒートシンクに伝える。一般的に、セラミック基板としては、熱伝導率が高いアルミナセラミックを用いる。従来の発熱デバイスのDCB基板への実装例を図42に示す。
発熱デバイスを実装する多くの電子回路では、複数の発熱デバイスを駆動する回路、電源回路、保護回路などがDCB基板上(D)にモジュール化されたパワー半導体モジュールないしはインテリジェントパワーモジュールとして使用されている。このモジュール回路をヒートシンク(H)上に放熱フィン(F)と共にネジ止めによって固定する。モジュール回路をネジ止めでヒートシンク(H)に固定する際、アルミナセラミックス基板の板厚が薄いと破損するため、基板の厚さは0.6mm以上である。いっぽう、アルミナセラミックスは熱伝導率が大きいといっても、96%の純度を持つアルミナセラミックスの熱伝導率は21W/mKであり、厚みが厚くなるほど熱抵抗が増大する。DCB基板の熱伝効果が小さい場合は、アルミナセラミックスの熱伝導性は純度に応じて熱伝導率が高まるため、96%以上の純度を持つ高価なアルミナセラミックス基板を用いている。
本実施例は、銀の熱伝導率の4.5倍に近い熱伝導率をもつグラフェンを、銅の性質が優勢となる複合金属微粒子で接合したグラフェン接合体を熱伝導部材として用い、電子回路の熱伝達の問題を解決する実施例である。図43は、グラフェン接合体(G)を、回路基板(C)とヒートシンク(H)の間に介在させて圧着した実施例である。圧着したグラフェン接合体(G)はグラフェンに近い熱伝導率を持つため、アルミナセラミックス基板より多くの熱をヒートシンク(H)に伝え、回路基板(C)の昇温が抑えられる。図44は、前記した3種類のデバイスのいずれかのデバイスが実装された回路基板(C)の下面に第一のグラフェン接合体(G1)を介在させ、第二のグラフェンシート(G2)をヒートシンク(H)の上面に介在させ、さらに、回路基板(C)に圧縮応力を印加させて、第一のグラフェン接合体(G1)と第二のグラフェン接合体(G2)を、回路基板(C)とヒートシンク(H)に圧着させた実施例である。この実施例では、発熱デバイスの熱を第一のグラフェン接合体(G1)に伝え、第一のグラフェン接合体(G1)に伝達された熱を、第二のグラフェン接合体(G2)を介してヒートシンク(H)に伝える。これらの実施例は、いずれのグラフェン接合体も、回路基板に実装されたデバイスの絶縁性を確保するため、グラフェン接合体を製造する第五実施例で製造したグラフェン接合体を用いる。
以上に説明したように、本実施例は、グラフェンに近い熱伝導率をもつグラフェン接合体を伝熱手段として用いたため、発熱デバイスが発する熱を効率よくヒートシンクに伝えることができる。これによって、回路基板全体の昇温を抑えることができ、前記した発熱デバイスのみならず、回路基板に実装された全ての電子デバイスの動作寿命を延ばすことができる。さらに、グラフェン接合体の厚みは極めて薄くかつ極めて軽量であるため、従来のセラミックス基板を用いたDCB基板に比べて、電子回路の厚みは著しく薄くかつ軽量になる。さらに、グラフェン接合体の熱抵抗が小さいため、ヒートシンクの厚みを薄くすることができ、電子回路の重量が著しく低減できる。特に、発熱デバイスを用いる電子回路はモジュール回路として用いるのが一般的であるため、モジュール回路の厚みの低減効果と重量の低減効果は大きい。
なお、141段落で説明したスクリーンメッシュを固体高分子形燃料電池における燃料極および空気極として用いる第一の実施例は、140段落に記載した製造方法によって製造した触媒作用を有するスクリーンメッシュに、高分子電解質材料であるナフィオンを吸着させ、燃料極ないしは空気極を製造した実施例である。つまり、140段落で説明したように、グラフェンを接合して生成したグラフェン接合体をスクリーンメッシュに磁気吸着させ、さらに、表面に担持した鉄微粒子の表層に触媒作用を有する金属ないしは合金を析出させ、触媒作用を有するスクリーンメッシュを製造した。これに対し、本実施例は、グラフェン接合体の製造の第六実施例から第九実施例のいずれかの製造方法に基づいて製造したグラフェン接合体を、スクリーンメッシュに磁気吸着させ、これによって、スクリーンメッシュに触媒作用をもたらす点が異なる。
141段落において、固体高分子形燃料電池の基本構成と、従来技術の問題点とその解決手段について詳細に説明した。本実施例における従来技術の問題点とその解決手段も、141段落で説明した内容と同様であるので説明は省略する。
燃料極および空気極の製造方法を、図45に図示した製造工程に基づいて説明する。141段落に記載したスクリーンメッシュとアイオノマーとしてナフィオンの溶解溶液を用意する(S230工程)。141段落に記載したナフィオンの溶解溶液とグラフェン接合体との重量比が1対2になるように、グラフェン接合体を製造する第六実施例から第九実施例のいずれかの製造方法で製造したグラフェン接合体を混合する(S231工程)。この後、マグネチックスターラーを用いて2分間攪拌し懸濁液を作る(S232工程)。さらに、この懸濁液にスクリーンメッシュを浸漬する(S233工程)。マグネチックスターラーを1分間動作させ、スクリーンメッシュにグラフェン接合体を磁気吸着させる(S234工程)。この後、スクリーンメッシュを容器から引き上げ、80℃に1分間さらしてナフィオンの溶解溶液の溶媒を蒸発させ、ナフィオンをスクリーンメッシュとグラフェン接合体に吸着させる(S235工程)。このような極めて簡単な製造方法によって燃料極および空気極が製造でされる。
燃料極および空気極の構造を図46−50に図示する。図46は燃料極と空気極の全体図で、スクリーンメッシュの両面にグラフェン接合体が磁気吸着した状態を示す。図47は図46のA部の拡大図で、図48は図47のB−B断面図で、図49は図48のC部の拡大図で、図50は図49のD部の拡大図である。図47は、スクリーンメッシュ(S)の表面全体にグラフェン接合体(G)の集まりが磁気吸着している状態を示す。図49はスクリーンメッシュ(S)の両面にグラフェン接合体(G)が磁気吸着している状態を示す。図50は、ナフィオン(E)が、グラフェン接合体(G)の表面に担持された金属微粒子(P)ないしは合金微粒子(P)の表面に吸着して極薄い被膜を形成している状態を示す。つまり、スクリーンメッシュ(S)に磁気吸着したグラフェン接合体(G)は、金属微粒子(P)ないしは合金微粒子(P)が1nmの大きさからなる微粒子が10nmの間隔で離散的に担持されるため、微粒子同士の間隙にナフィオンの溶解溶液が侵入できず空隙となり、微粒子の表層に極薄いナフィオンの被膜(E)が形成される。
以上に説明した方法で製造した燃料極と空気極を、燃料極、固体電解質膜、空気極の順で積層し、125℃において10kg/cm2の荷重を印加して圧着させ、膜/電極接合体を製造した。前記した製造方法で製造した燃料極および空気極を構成するスクリーンメッシュの作用効果は、141段落で説明した内容と同様である。この結果、スクリーンメッシュによって構成した燃料極および空気極は、要約すると次の5つの特徴を持つ。第一に、製造コストが高いガス拡散層がない。第二に、触媒作用を有する莫大な数からなる微粒子が扁平な導電性物質であるグラフェン接合体に離散的に担持され、莫大な数のグラフェン接合体が平面状の導電性物質であるスクリーンメッシュに磁気吸着するため、全ての微粒子が燃料および空気と直接接触し、極めて効率のよい触媒作用を発揮する。第三に、触媒作用を有する微粒子はプロトンを伝導する電解質の被膜と直接接触し、電子の移動とプロトンの伝導を兼備する。第四に、導電性のグラフェン接合体が導電性のスクリーンメッシュに磁気吸着して電子が連続して移動する。第五に、スクリーンメッシュは電子の導電経路とプロトンの伝導経路とを兼備する。これらの特徴によって、燃料極および空気極における触媒作用の効率が飛躍的に向上し、プロトンと電子の移動を妨げる要因がなく、発生する電圧を低下させる障害がない。これによって、本実施例における燃料極と空気極は、製造コストが大幅に低減でき、燃料電池の本体であるセル積層体が小型化できる。
第一の原料であるグラフェン接合体は、その表面に担持された金属微粒子ないしは複合金属微粒子が磁性を有するグラフェン接合体を用いる。さらに、形状が異なる2種類のグラフェン接合体を用いる。これによって、グラフェンシ接合体が互いに接触し易くなり、グラフェン接合体が確実に磁気吸着する。例えば、グラフェン接合体の製造の第一実施例におけるグラフェンの懸濁液を、図9と図10とに示す容器の各溝に充填して製造したグラフェン接合体を用いる。なお、グラフェン接合体の形状は、本実施例における形状に限定されることはない。成形物である容器の形状と大きさとに応じて、グラフェン接合体の形状と大きさを決めればよい。また、グラフェン接合体の製造の第一実施例に制限されることは無く、第二実施例から第四実施例で製造されたいずれのグラフェン接合体も、原料として用いることが出来る。また、グラフェン接合体をさらに磁気吸着し易くするため、形状が異なる3種類以上のグラフェン接合体を用いても良い。
第二の原料である有機材料は次の二つの性質を持つ。第一の性質は、磁性を有する金属微粒子ないしは複合金属微粒子がグラフェン接合体の表面に担持する温度より低い温度で熱分解が完了する。第二の性質は、熱分解によって全ての物質が気化し、残渣物を残さない。これら二つの性質を兼備する有機材料として、例えば、炭素原子の数が20以上のアルカンからなるパラフィンワックスがある。炭素数が20からなる炭化水素を主成分とするパラフィンワックス(日本精鑞株式会社が製造するSCP―0036P)は197℃で熱分解が完了し、熱分解によって全ての物質は気化し残渣物を残さない。このようなパラフィンワックスを溶解する溶剤として、n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソオクタン、シクロヘキサン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフランなどの無極性有機溶媒がある。本実施例では、パラフィンワックスの希釈溶液にグラフェン接合体の集まりを混合して懸濁液を作り、この懸濁液を型に充填した後、水素ガスを含む還元性雰囲気で昇温させてパラフィンワックスを昇華させ、グラフェン接合体のみからなる軽量の成形物を製造する。本実施例における成形物を製造する製造方法を、図51の製造工程に従って説明する。
最初に、前記したパラフィンワックスとn−ヘプタン(試薬一級品)との重量比が1対5となるように、パラフィンワックスをn−ヘプタンに溶かして希釈溶液を作る(S240工程)。次に、グラフェン接合体の製造の第一実施例において、図9に図示した懸濁液を充填する容器で製造したグラフェン接合体と、図10に図示した懸濁液を充填する容器で製造したグラフェン接合体とを、重量比率で1対5になるように混合する(S241工程)。パラフィンワックスの希釈溶液の重量を1とした場合、2種類のグラフェン接合体の混合物の重量が5になるように両者を混合する(S242工程)。さらに、マグネチックスターラーを用いて攪拌して懸濁液を作る(S243工程)。次に、図52に示す容器を懸濁液が充填される容器として用い、ディスペンサーを使って容器の間隙の底の部分から順に高さが15cmの位置まで懸濁液を間隙に充填する(S244工程)。同様に、同じ形状を持つ他の容器にもディスペンサーを使って順次懸濁液を充填する。図52に示した容器は、断面が同心円である2つの容器からなり、両者は500ミクロンの間隙を形成する。外側の容器の内径(a)は20cmで高さ(h)が20cmである。内側の容器は外側の容器に対し、500ミクロンの高さだけ高くなるように設置されている。これによって、内側の容器の底の部分は外側の容器の底の部分に対し500ミクロンの間隙(d)を形成する。容器の材質は、200℃程度の耐熱性を有する非磁性材料、例えば、耐熱性の合成樹脂で構成する。次に、懸濁液が充填された容器の集まりを、図14で図示した構成からなる熱処理炉に入れる(S245工程)。100℃の低温焼成室(A)に2分間入った容器は、最初に沸点が98℃であるn−ヘプタンが蒸発し、蒸発したn−ヘプタンは回収装置(C)で回収される(S246工程)。n−ヘプタンの蒸発が完了すると、熱融解したパラフィンワックスにグラフェン接合体が分散された混合物になり、グラフェン接合体が磁気吸着する。その後、容器は水素ガスが10体積割合で窒素ガスが90体積割合で構成される200℃の還元性ガスが供給される高温焼成室(B)に2分間入る。この際に、最初にパラフィンワックスが昇華する(S247工程)。パラフィンワックスの昇華が完了すると、容器に残存したグラフェン接合体の少なくとも表層は、還元性雰囲気にさらされていたので、グラフェン接合体が鉄微粒子同士の金属結合で接合される。グラフェン接合体の内部は、鉄微粒子同士の金属結合と磁気吸着とによってグラフェン接合体が接合される。こうして、グラフェン接合体のみからなる外径(a)が20cmで高さ(h)が15cmで肉厚(d)が500ミクロンに近い成形物が製造される。最後に容器を焼成炉から取り出し、容器の外側をはずし、グラフェン接合体のみからなる成形物を取り出す(S258工程)。
S246工程において、n−ヘプタンの蒸発が完了すると、熱融解されたパラフィンワックスにグラフェン接合体が分散された混合物になる。この混合物は、融解されたパラフィンワックスの重量割合を1とすると、グラフェン接合体の重量割合は30になる。従って、鉄微粒子が発する磁力によってグラフェン接合体の全てが磁気吸着する。S247工程においてパラフィンワックスの昇華が完了すると、グラフェン接合体のみから構成される。成形物の表層をなすグラフェン接合体は還元雰囲気にさらされたので、グラフェン接合体同士が鉄微粒子の金属結合で接合する。成形物の内部のグラフェン接合体は、鉄微粒子同士の金属結合と磁気吸着とによって接合する。なお、成形物に機械的強度が必要になる場合は、製造された成形物を着磁機にかけて着磁することで、鉄微粒子同士の磁気吸着力が著しく増大するので、成形物の機械的強度が増大する。着磁方向は、着磁機の構成によって成形物の径方向でも周方向でもどちらの方向でも可能である。
本実施例で製造した成形物は、グラフェン接合体の集まりが、鉄微粒子同士の金属結合と磁気吸着とによって接合される。グラフェン接合体の表面には、1nmの大きさの鉄微粒子が10nmの間隔で担持され、グラフェン接合体は僅かに2nm程度の間隙をもって金属結合ないしは磁気吸着によって接合される。従って、2nm程度の間隙は、製造された成形物に莫大な数として存在する。このような成形物にどのような液体が充填されたとしても、液体が持つ表面張力によって、2nmの間隙に液体が侵入ないし浸透することはできない。このため、成形物に腐食性の強い液体が充填されたとしても、グラフェン接合体の金属結合ないしは磁気吸着に係わる鉄微粒子は腐食しない。さらに、成形物の少なくとも表層は、鉄微粒子同士の金属結合によってグラフェン接合体が結合されるため、鉄の融点である1538℃に近い温度に昇温しない限り、表層は破壊しない。また、鉄の磁気キュリー温度が770℃であるため、770℃の温度に近づかなければ、グラフェン接合体同士の磁気吸着力は維持でき、成形物の形状は変わらない。さらに、液体窒素の温度である−195.8℃でも鉄微粒子同士の金属結合力と磁気吸着力とは変わらないので、液体窒素を充填する成形物にもなる。また、グラフェン接合体のみで成形物が構成されるので、軽量の成形物になる。このように、本容器は、従来の成形物では考えられない画期的な性質を持つ。
なお、第三実施例に基づいて製造したグラフェン接合体を、原料として用いる場合は、グラフェン接合体が熱伝導性に優れるため、熱伝導性に優れた成形物が製造される。このように、成形物に必要となる性質に応じて、グラフェン接合体を製造する各種の実施例の中から選択し、選択した実施例に基づいて製造したグラフェン接合体を成形物の原料として用いればよい。
原料として用いるグラフェン接合体は、グラフェン接合体の製造の第一の実施例において、図10に示すグラフェンの懸濁液を充填する容器を用いて製造したグラフェン接合体である。なお、グラフェン接合体の形状はこの形状に限定されることはない。また、グラフェン接合体の製造の第二実施例から第四実施例のいずれのグラフェン接合体を用いることもできる。さらに、形状ないしは大きさが異なる複数種類のグラフェン接合体を混合して用いても良い。製造するスリーブないしはチューブの大きさと肉厚とに応じて、グラフェン接合体の形状と大きさとを組み合わせて成形物の原料として用いる。
成形物を製造する製造装置の構成を図53に示す。押出し成形機は、押出し機(A)、ダイス(B)、冷却装置(C)、引き取り機(D)、定尺カッター(E)の5つの部分からなる。押出し機(A)は、懸濁液(K)を供給するホッパー(H)、油圧モータで駆動される押出しスクリュー(O)、ヒーターを内蔵したシリンダー(S)、シリンダーの間隙からシリンダーの側壁を貫通してn−ヘプタン回収装置に連通するn−ヘプタン回収装置(F)の4つの部分からなる。
成形物を製造する方法を、図54の製造工程に基づいて説明する。パラフィンワックスとn−ヘプタンとの重量比が1対5となるように、パラフィンワックスをn−ヘプタンに溶かした希釈溶液を作成する(S250工程)。グラフェン接合体の重量割合が5、パラフィンワックスの希釈溶液が重量割合で1として両者を混合する(S251工程)。さらに、マグネチックスターラーを用いて攪拌して懸濁液を作る(S252工程)。こうして製造された懸濁液の一定量、例えば1kgを一定の時間間隔で、例えば1時間ごとにホッパー(H)に供給する(S253工程)。ホッパーに供給された懸濁液は、押出し機のシリンダー(S)に入り、スクリュー(O)によって回転速度300rpmで混練される(S254工程)。懸濁液は、混練されながらシリンダー内のヒーターによって徐々に昇温され、ダイス(B)の方向に移動する。シリンダーの入り口付近の温度は50℃で、出口付近で200℃まで昇温される。最初に、沸点が98℃であるn−ヘプタンが蒸発し、n−ヘプタンの蒸気は回収装置(F)で回収される(S255工程)。次に昇華点が197℃であるパラフィンワックスが昇華する(S256工程)。こうして、押出し成形機の出口に当たるダイス(B)付近でパラフィンワックスの昇華が完了し、グラフェン接合体のみからなる成形物が、円筒形状として押出し機の先端のダイス(B)から押し出される(S257工程)。この後、押し出された円筒が冷却装置(C)で冷却され(S258工程)、引き取り機(D)を通った後に、定尺カッター(E)で一定の長さに切断し、グラフェン接合体のみからなるスリーブないしはチューブが製造される(S259工程)。なお、成形物のスリーブないしはチューブの肉厚と外径の大きさとは、成形物が押し出される際のシリンダー(S)とダイス(B)との間隙で決まる。従って、製造するスリーブないしはチューブの形状に応じてシリンダー(S)とダイス(B)との間隙を決定し、予め決めた形状を有するスリーブないしはチューブを製造する。なおS258工程の後に、冷却された成形物の長さを、長い長さとなるように切断すれば、パイプないしはホースとして成形物が製造される。また、シリンダー(S)の先端から押し出される成形物が、本実施例のように円でなく扁平な長方形として押し出される場合は、S258工程においてグラフェン接合体のみからなるシートが製造される。
S256工程においてn−ヘプタンの蒸発が完了すると、熱融解されたパラフィンワックスにグラフェン接合体が分散された混合物になる。この混合物は、熱融解されたパラフィンワックスの重量割合を1とすると、グラフェン接合体の重量割合は30になり、混合物における全てのグラフェン接合体が、鉄微粒子が発する磁力によって磁気吸着する。この混合物が押出しスクリューで混練されるため、グラフェン接合体同士の磁気吸着が解離し、再度磁気吸着が行われる。こうしてS257工程において、パラフィンワックスの昇華が完了し、シリンダーの先端部で円筒状の成形物が押し出される。この成形物は、磁気吸着したグラフェン接合体から構成されるので可塑性を持つ。なお、グラフェン接合体のみからなるスリーブないしはチューブに、機械的強度が必要になる場合は、製造されたスリーブないしはチューブを着磁機にかけて着磁させることで、グラフェン接合体の磁気吸着力は著しく増大し、機械的強度が増大する。着磁方向は、着磁機の構成によって、スリーブないしはチューブの長さ方向でも周方向でも可能である。
本実施例においても、グラフェン接合体の集まりが互いに磁気吸着し、グラフェン接合体のみからなるスリーブないしはチューブの成形物が製造される。製造したスリーブないしはチューブを構成する全てのグラフェン接合体は、鉄微粒子同士の磁気吸着で接合される。グラフェン接合体の接合に当たっては、グラフェン接合体が扁平な物質であるため、グラフェン接合体の厚み方向に重なるようにグラフェン接合体がランダムに接合される。いっぽう、グラフェン接合体の表面には、1nmの大きさの鉄微粒子が10nmの間隔で担持されている。このため、グラフェン接合体同士は僅かに2nm程度の間隙をもって磁気吸着する。このような極微小の間隙は、グラフェン接合体からなるスリーブないしはチューブに莫大な数として存在する。スリーブないしはチューブにどのような液体が接触したとしても、液体が持つ表面張力によって、2nmの間隙に液体が侵入することや浸透することはできない。これによって、グラフェン接合体の接合を担う鉄微粒子は、腐食性の強い液体に接触しても腐食することはない。更に、鉄の磁気キュリー温度が770℃であるため、770℃の温度に近づかなければスリーブないしはチューブは変形しない。−195.8℃の液体窒素を通過させても、鉄微粒子同士の磁気吸着力は変わらず、スリーブないしはチューブは変形しない。さらに、グラフェン接合体のみでスリーブないしはチューブが構成されるので、軽量のスリーブないしはチューブが製造される。
いっぽう、グラフェン接合体として、第三実施例で製造したグラフェン接合体を用いれば、製造されたスリーブないしはチューブ、あるいはパイプないしはホースが、極めて熱伝導性に優れる。このように、成形物に必要になる性質に応じて、前記したグラフェン接合体を製造する実施例におけるグラフェン接合体を選択して原料として用いればよい。また、シリンダーの先端から押し出される成形物が、本実施例のように円でなく扁平な長方形として押し出される場合は、グラフェン接合体のみからなるシートが製造できる。
容器を製造する装置の構成を図55に示す。本実施例におけるブロー成形装置は、還元性ガスがバリソンに供給される以外は、従来のブロー成形装置に準ずる。製造装置は、押出し機(A)、ダイス(D)、金型(K)、および還元性ガスのブローを発生するブロー発生装置(L)の4つの部分からなる。押出し機(A)は前記した第二実施例と同様に、懸濁液を供給するホッパー(H)、油圧モータで駆動される押出しスクリュー(O)、ヒーターを内蔵したシリンダー(S)、シリンダーの間隙からシリンダーの側壁を貫通してn−ヘプタン回収装置に連通するn−ヘプタン回収装置(F)の4つの部分からなる。図56の左側の図は、ダイス(D)の先端部に配置された金型にバリソン(P)と呼ばれる円筒形状の成形物が押し出される様子を説明する図である。ダイスコア(D1)にエアマンドレル(D2)と呼ばれる心金が装着され、エアマンドレル(D2)の側壁からバリソン(P)が押し出される。図56の右側の図は、バリソン(P)に1.2気圧の還元性ガス(Ga)を供給して成形加工を施す様子を説明する図である。ブロー発生装置(L)から1.2気圧の還元性ガス(Ga)がバリソン(P)の内部に供給され、バリソン(P)が金型(K)に押し付けられ、金型(K)の内側の形状に成形される。金型(K)の内部には冷却水が供給される冷却回路(R)が設けられていて、成形されたバリソン(P)を冷却して製品を得る。なお、ブロー発生装置は、1.2気圧の還元性ガスをバリソンが成形される際に金型に供給する。還元性ガスは、水素ガスが10体積割合で窒素ガスが90体積割合で構成される。
容器の製造方法を、図57に示す製造工程に基づいて説明する。パラフィンワックスとn−ヘプタンとの重量比が1対5となるように、パラフィンワックスをn−ヘプタンに溶かす(S261工程)。原料に用いるグラフェン接合体は、グラフェン接合体の製造の第一実施例において製造するグラフェン接合体であって、前記した第二実施例と同様に図10に示すグラフェンの懸濁液を充填する容器を用いて製造する。グラフェン接合体の集まりを重量割合で5とし、パラフィンワックスの希釈溶液を重量割合で1となるように混合する(S262工程)。さらに、マグネチックスターラーを用いて攪拌して懸濁液を作る(S263工程)。こうして製造された懸濁液の一定量、例えば1kgを1時間ごとにホッパーに供給する(S264工程)。ホッパーに供給された懸濁液は押出し機のシリンダーに入り、スクリューによって300rpmの回転速度で混練される(S265工程)。懸濁液は、混練されながらシリンダー内のヒーターによって徐々に昇温され、ダイスの方向に移動する。シリンダーの入り口付近の温度は50℃で、出口付近では200℃まで昇温される。シリンダー内では、沸点が98℃であるn−ヘプタンが蒸発し、n−ヘプタンの蒸気は回収装置で回収される(S266工程)。出口付近では197℃で昇華するパラフィンワックスが気化する(S267工程)。さらに、ダイスコアからバリソンが押し出され、金型の内部に入る(S268工程)。バリソンは、磁気吸着したグラフェン接合体から構成されるため可塑性を持つ。この後、金型を閉じ、バリソンを金型で挟み込む(S269工程)。さらに、1.2気圧の還元性ガスをバリソンの上端から吹き込み、バリソンを膨らまして金型の内壁に押し付ける(S270工程)。この後、金型を冷却して成形物を冷却する(S271工程)。最後に、金型を外し、成形物を金型から取り出す(S272工程)。
S270工程において、1.2気圧の還元性ガスをバリソンに吹き込むと、バリソンは可塑性を持つため、バリソンは膨らんで金型の内壁に押し当てられる。また、バリソンの表面は還元雰囲気にさらされるので、成形された容器の少なくとも表層に存在する全てのグラフェン接合体は、鉄微粒子同士の金属結合で接合される。成形された容器に機械的強度が必要になる場合は、例えば、容器に高圧の液体が充填される場合は、製造された容器を着磁機にかけて着磁し、鉄微粒子同士の磁気吸着力を増大させて容器の機械的強度を向上させる。
本実施例においても、グラフェン接合体の集まりが、鉄微粒子同士の金属結合ないしは磁気吸着によって接合して、グラフェン接合体のみからなる容器が製造される。グラフェン接合体が接合するに当たっては、扁平な物質であるグラフェン接合体の厚み方向にグラフェン接合体が重なるように、グラフェン接合体同士がランダムに接合する。グラフェン接合体の表面には、1nmの大きさの鉄微粒子が10nmの間隔で担持されているため、グラフェン接合体同士は僅かに2nm程度の間隙をもって接合する。このような極微小な間隙は、グラフェン接合体からなる容器に莫大な数として存在する。どのような液体が容器に充填されたとしても、液体が持つ表面張力によって、2nmの間隙に液体が侵入することや浸透することはできない。これによって、グラフェン接合体同士の接合を担う鉄微粒子は、容器に腐食性の液体が充填されたとしても腐食することはない。さらに、鉄微粒子同士の金属結合によってグラフェン接合体同士が接合された表層は、鉄の融点である1538℃の温度に近づかない限り、表層の金属結合は破壊しない。また、鉄の磁気キュリー温度が770℃であるため、770℃の温度に近づかなければ鉄微粒子同士の磁気吸着力は変わらず、容器は変形しない。また、−195.8℃の液体窒素を容器に充填させても、鉄微粒子同士の磁気吸着力は変わらず、容器は変形しない。さらに、グラフェン接合体のみで容器が構成されるので軽量の容器になる。いっぽう、グラフェン接合体として、グラフェン接合体の製造の第三実施例で製造したグラフェン接合体を用いれば、製造された容器は極めて熱伝導性に優れる容器になる。このように、成形物に必要になる性質に応じて、前記したグラフェン接合体を製造する実施例におけるグラフェン接合体を選択して原料として用いればよい。
製造する製造装置の構成を図58に示す。製造装置は、押出し機(A)、カレンダーローラー(B)、金型(C)、真空発生装置(E)、トリミングカッター(F)からなる。押出し機(A)は、懸濁液(K)を供給するホッパー(H)、油圧モータで駆動される押出しスクリュー(Sc)、ヒーターを内蔵したシリンダー(Si)、押出し機の先端に設けられたダイス(D)、シリンダーの間隙からシリンダーの側壁を貫通してn−ヘプタン回収装置に連通するn−ヘプタン回収装置(G)からなる。カレンダーローラー(B)で薄いシート状に引き伸ばされた成形物は、金型(C)の手前でヒータ(He)によって加熱される。なお、カレンダーローラー、金型、真空発生装置は還元焼成室内に配置され、金型(C)には、水素ガスが10体積%で窒素ガスが90体積%で構成される還元性ガスが供給される。
容器の製造方法を図59の製造工程に基づいて説明する。パラフィンワックスとn−ヘプタンとの重量比が1対5の割合で、パラフィンワックスをn−ヘプタンに溶かす(S280工程)。原料として用いるグラフェン接合体は、グラフェン接合体の製造の第一実施例において、図10に示すグラフェンの懸濁液を充填する容器を用いて製造したグラフェン接合体である。このグラフェン接合体の集まりを重量割合で5とし、パラフィンワックスの希釈溶液を重量割合で1として両者を混合する(S281工程)。次に、マグネチックスターラーを用いて攪拌して懸濁液を作る(S282工程)。こうして製造された懸濁液の一定量、例えば1kgを1時間ごとにホッパーに供給する(S283工程)。ホッパーに供給された懸濁液は押出し機のシリンダー内に入り、スクリューによって300rpmの回転速度で混練される(S284工程)。シリンダー内のヒーターによって徐々に昇温されダイス方向に移動する。シリンダーの入り口付近の温度は50℃で、出口付近では200℃まで昇温される。このため、最初に沸点が98℃であるn−ヘプタンが蒸発し、n−ヘプタンの蒸気は回収装置で回収される(S285工程)。次に197℃で昇華するパラフィンワックスが気化する(S286工程)。この後、グラフェン接合体のみからなる成形物が、押出し成形機の先端のダイス(D)からシート状に押し出される(S287工程)。押し出されたシートは、還元性雰囲気にさらされたカレンダーローラー(B)を通過し、さらに薄く引き延ばされる(S288工程)。薄くなったシートは再度加熱された後に、水素ガスを含む還元性ガスが供給される金型(C)に入り、金型で挟み込まれる(S289工程)。この後、上金型(C1)のプラグが下降し、下金型(C2)の孔が開いて真空引きされ、成形物をより金型に密着するように絞り込む(S290工程)。最後に、トリミングカッター(F)で製品を切り離し、グラフェン接合体のみからなる容器(P)を製造する(S291工程)。最終成形物の容器の形状は、シートが挟み込まれる金型の形状を反映する。
S287工程において押し出されるシートは、磁気吸着したグラフェン接合体から構成されるので可塑性を持つ。S288工程において、還元性ガスに晒されたカレンダーローラーを通過して、更に薄いシートに伸ばされる。この後、金型でシートを挟み込み、上金型のプラグを下降させると共に、下方の金型の孔を介して真空引きし、成形物の形状をより金型の形状に近づける。この際、成形物の表層を構成する全てのグラフェン接合体は、還元性ガスにさらされたため、鉄微粒子同士の金属結合で接合される。本実施例においても、前実施例と同様に、製造した容器に機械的強度が必要になる場合、例えば、容器に大量の液体が充填され、容器に液体の重量が加わる場合は、製造された容器を着磁機にかけて着磁することによって、鉄微粒子の磁力が著しく増大して磁気吸着力が増大するので、容器の機械的強度が増大する。
本実施例においても、莫大な数のグラフェン接合体が、鉄微粒子同士の金属結合と磁気吸着とによって接合し、グラフェン接合体のみからなる容器を構成する。グラフェン接合体が接合するに当たっては、グラフェン接合体が扁平な物質であるため、グラフェン接合体の厚み方向にグラフェン接合体が重なるように、グラフェン接合体がランダムに接合する。グラフェン接合体には、1nmの大きさの鉄微粒子が10nmの間隔で担持され、グラフェン接合体は僅かに2nm程度の間隙をもって接合する。このような微細な間隙は、グラフェン接合体からなる容器に莫大な数として存在する。どのような液体が容器に充填されたとしても、液体が持つ表面張力によって、2nmの間隙に液体が侵入することや浸透することはない。これによって、グラフェン接合体の接合を担う鉄微粒子は、腐食性の液体が容器に充填されたとしても腐食しない。さらに、鉄の融点である1538℃の温度に昇温しない限り、容器の表層は破壊されない。また、鉄の磁気キュリー温度が770℃であるため、770℃の温度に近づかなければ鉄微粒子同士の磁気吸着は維持され、容器は変形しない。−195.8℃の液体窒素を容器に充填させても、鉄微粒子同士の金属結合と磁気吸着力は変わらず、容器は変形しない。さらに、グラフェン接合体のみで容器が構成されるので軽量の容器になる。原料となるグラフェン接合体として、グラフェン接合体の製造の第三実施例で製造したグラフェン接合体を用いれば、製造された容器は極めて熱伝導性に優れる容器になる。このように、成形物に必要になる性質に応じて、前記したグラフェン接合体を製造する実施例におけるグラフェン接合体を選択して原料として用いればよい。
なお、本実施例は、サーモフォーミング成形法と呼ばれる加熱成形法でグラフェン接合体のみからなる容器を製造する実施例を説明したが、S288工程でカレンダーローラーを通過することで、薄く引き伸ばされたカレンダーが製造され、このカレンダーをグラフェン接合体のみからなる成形物とすることができる。このカレンダーも、加熱成形法で製造された容器と同様の作用効果を持つ。
S307工程においてn−ヘプタンの蒸発が完了すると、塗膜は熱融解されたパラフィンワックスにグラフェン接合体が分散された状態になる。この塗膜は、グラフェン接合体の重量を1とすると、熱融解されたパラフィンワックスの重量は30の割合になる。S308工程において過剰なパラフィンワックスの昇華が完了すると、被膜はグラフェン接合体のみで構成される。
製造した被膜は、グラフェン接合体の集まりが鉄微粒子同士の金属結合と磁気吸着とによって接合されたグラフェン接合体からなる。このグラフェン接合体は扁平な物質であるため、グラフェン接合体の厚み方向に互いに重なるように、グラフェン接合体がランダムに接合される。いっぽう、グラフェン接合体の表面には、1nmの大きさの鉄微粒子が10nm程度の間隔で担持されているため、グラフェン接合体は僅かに2nm程度の間隙をもって接合する。このような微小な間隙は、グラフェン接合体からなる被膜に莫大な数として存在する。従って、どのような液体が容器ないしは成形物に充填されたとしても、液体が持つ表面張力によって、2nmの間隙に液体が侵入することや浸透することはない。このため、容器ないしは成形物を腐食する強酸や強アルカリなどの腐食性の強い液体が充填されても、グラフェン接合体の接合を担う鉄微粒子は腐食しない。これによって、被膜は腐食防止膜の機能を発揮する。さらに、鉄の融点である1538℃の温度に近くならない限り、被膜の表層は破壊されない。鉄の磁気キュリー温度が770℃であるため、770℃に近づかなければ、被膜の強度は変わらない。さらに、液体窒素の温度である−195.8℃でも鉄微粒子の金属結合と磁気吸着は変化しないので、液体窒素を容器に充填しても被膜は破壊されない。グラフェン接合体のみで被膜が構成されるので、極めて薄い緻密な構造の被膜になる。なお、被膜の機械的強度が必要な場合は、被膜が形成された容器ないしは成形物を着磁機にかけて着磁することによって、鉄微粒子同士の磁気吸着力が増大するので被膜の機械的強度が増大する。さらに、容器ないしは成形物が強磁性の性質を持てば、被膜は強力な吸着力で容器ないしは成形物に磁気吸着する。
本実施例の被膜を適応する格好な事例として、金属ないしは合金からなる容器ないしは成形物の応力腐食割れを防ぐ腐食防止膜が挙げられる。つまり、応力腐食割れに対する抜本的な腐食対策は、金属ないしは合金の容器ないしは成形物に、腐食性の液体が直接接触しない緻密な構造からなる被膜を形成することである。これによって、金属ないしは合金の腐食によって発生する腐食性気体や脆化をもたらす気体も発生しない。本実施例における被膜は、腐食性液体はグラフェン接合体が接合されたごく微小の間隙に侵入ないしは浸透することは出来ないので、応力腐食割れに対する抜本的な腐食対策になる。
本実施例では、容器ないしは成形物の表層にグラフェン接合体のみからなる被膜を形成した。このような被膜を形成する対象物として、タンク、パイプ、あるいは、循環ポンプなどに用いる電磁弁の部品など様々な工業製品が挙げられる。タンクなどの大型の成形物には、塗料をはけ塗りで塗布する。また、パイプなどの長さを有する成形物の場合は、ディッピングによって塗膜を形成する。さらに、電磁弁などの部品に対しては、塗料をスプレー塗装によって、あるいはディッピングによって塗膜を形成する。この後、塗膜が形成された容器ないしは成形物を還元性雰囲気で熱処理することで、グラフェン接合体のみからなる緻密な構造を有する極薄い被膜が形成される。
希土類磁石が小型であるため、原料として用いるグラフェン接合体は、グラフェン接合体の製造の第一実施例において、図9に示す容器の各溝にグラフェンの懸濁液を充填して製造したグラフェン接合体を用いる。なお、希土類磁石の上部には小さい貫通孔が1箇所設けられ、この貫通孔にフックを引っ掛け、希土類磁石を塗料に浸漬させる。
また、第二の原料として、パラフィンワックスをn−ヘプタンに溶解した希釈溶液を作成し、パラフィンワックスの希釈溶液に、グラフェン接合体の集まりを混合して塗料を作る。希土類磁石を塗料に浸漬し、この後、水素ガスを含む還元性雰囲気で熱処理し、n−ヘプタンを蒸発させた後にパラフィンワックスを昇華させ、グラフェン接合体のみからなる被膜を希土類磁石の表層に形成する。なお、パラフィンワックスの希釈濃度は、前記した塗膜の厚みが0.3mm程度になるような粘度とする。本実施例における被膜形成の方法を、図61の製造工程に基づいて説明する。
最初に、パラフィンワックスとn−ヘプタンとの重量比が1対10となる希釈溶液を作成する(S310工程)。次に、パラフィンワックスの希釈溶液の重量割合が5、グラフェン接合体の重量割合が1の重量比率で両者を混合する(S311工程)。さらに、マグネチックスターラーで攪拌して懸濁液を作り、懸濁液を塗料とする(S312工程)。この塗料を容器に充填する(S313工程)。容器に充填された塗料は、常時、容器の背後に配置されたマグネチックスターラーを用いて攪拌する。次に、希土類磁石をフックに掛けて塗料に浸漬する(S314工程)。なお、フックに掛けた希土類磁石は一旦塗料の容器の底に接触させ、フックと希土類磁石との接触を一度引き離す。この後、再度希土類磁石をフックに掛ける。これによって、フックと希土類磁石との接触部にも塗膜が形成される。この後、フックに掛けられた希土類磁石を、容器から熱処理炉に移し、200℃の還元性雰囲気で熱処理する(S315工程)。還元性雰囲気は、水素ガスが10体積割合で窒素ガスが90体積割合で構成される。熱処理工程において、最初に沸点が98℃であるn−ヘプタンが蒸発し、蒸発したn−ヘプタンは回収装置で回収する(S316工程)。次に、昇華点が197℃であるパラフィンワックスが昇華する(S317工程)。パラフィンワックスの昇華が完了すると、被膜を構成するグラフェン接合体は、希土類磁石に磁気吸着する。最後に、熱処理した希土類磁石を取り出す(S319工程)。
本実施例で製造した被膜は、莫大な数のグラフェン接合体が、鉄微粒子同士の金属結合と磁気吸着とによって接合された被膜である。つまり扁平なグラフェン接合体は、グラフェン接合体の厚み方向に互いに重なるようにグラフェン接合体がランダムに接合される。いっぽう、グラフェン接合体の表面には、1nmの大きさの鉄微粒子が10nmの間隔で担持されているため、グラフェン接合体は僅かに2nm程度の間隙をもって接合する。このような微小な間隙は、グラフェン接合体からなる被膜に莫大な数として存在する。どのような液体であっても、液体が持つ表面張力によって、2nmの間隙に液体が侵入することや浸透することはない。このため、被膜に腐食性の強い液が接触したとしても、グラフェン接合体の接合を担う鉄微粒子は腐食しない。これによって被膜は腐食防止膜の機能を維持する。更に、鉄の磁気キュリー温度が770℃であるため、770℃に近づかなければ被膜の強度は維持される。この温度は、希土類磁石の磁気キュリー温度より400℃以上高い。還元処理温度である200℃は、希土類磁石の保持力を高めるための時効処理温度より250℃以上低いため、希土類磁石の不可逆変化は起こらない。
いっぽう、希土類磁石を実用するに当たって磁石を着磁する。磁石の着磁後においては希土類磁石が発する強力な磁力によって被膜が磁石に吸着されるとともに、被膜も着磁され、これによって被膜の強度は著しく増大する。このため、希土類磁石を機械加工した際に形成された物理的欠陥は、強力な磁力によって磁石に吸引された被膜で覆われるので、物理的欠陥を持つ結晶粒が脱落しない。従って、腐食防止膜を形成する以前に行っていたバレル研磨、洗浄、アニーリング処理の全ての前処理が不要になる。また、極めて薄い緻密な構造の強磁性の被膜であるため、被膜形成後の寸法は焼結後の機械加工時の寸法と変わらず、かつ、被膜の形成によって希土類磁石の磁気特性が低下することがない。
複合材料におけるグラフェン接合体の充填率を80体積%以上に高めることで、複合材料の全てのグラフェン接合体が互いに磁気吸着し、例えばグラフェン接合体が熱伝導性と電気導電性とに優れれば、磁気吸着したグラフェン接合体が熱伝達経路ないしは電気導電経路を形成する。これによって、複合材料は優れた熱伝導性ないし電気導電性を有する。
複合材料におけるグラフェン接合体の充填率を80体積%以上に高めるためには、複合材料を構成する2種類の原料は次の性質を持つのが望ましい。第一の原料であるグラフェン接合体は、幅に対する長さの比率であるアスペクト比が大きい形状を有し、かつ、形状が異なる複数種類のグラフェン接合体、例えば3種類の形状からなるグラフェン接合体を組み合わせるとよい。つまり、アスペクト比が大きい形状を有するグラフェン接合体は、グラフェン接合体が接触しやすくなる。また、形状が異なるグラフェン接合体は、複合材料におけるグラフェン接合体の充填率が高まる。第二の原料である熱可塑性樹脂は粘度が低いことである。つまり、熱可塑性樹脂の粘度が低ければ、グラフェン接合体を熱可塑性樹脂に高い配合率で配合できる。
以下に説明する複合材料を製造する実施例は、複合材料にグラフェン接合体に準ずる熱伝導性を持たせる複合材料を製造する実施例である。複合材料の特長は、熱伝導性に限られることはない。例えば、104段落で説明したように、グラフェン接合体の製造の第一実施例で製造したグラフェン接合体を用いる場合は、鉄微粒子の性質が反映され、複合材料は電気ノイズに対する磁気シールド効果の性質を持つ。また、VHF帯からUHF帯にまたがる周波数の電波を吸収する性質をもつ。このように、複合材料にどのような性質を持たせるかに応じてグラフェン接合体を選択し、グラフェン接合体を製造する第一実施例から第四実施例に基づいて製造すればよい。なお本実施例では、グラフェン接合体と熱可塑性樹脂の希釈溶液とからなる混合物を、大気雰囲気の押出し成形機で混練と熱処理とを行い、複合金属微粒子同士の磁気吸着で、グラフェン接合体を接合させた。複合材料のペレットを用いて成形した成形物に、機械的強度が必要になる場合には、水素ガスを含む還元性ガスを押出し成形機に供給し、還元性ガスと共に混練と熱処理を行う、さらに、押し出された紐状の成形物を、着磁機を通過させて紐状の成形物を着磁することによって、グラフェン接合体の接合力がさらに高まる。
複合材料において、グラフェン接合体が互いに磁気吸着し、グラフェン接合体による熱の伝達経路が形成され、複合材料はグラフェン接合体に近い熱伝導性を持つ。このため、本実施例では、第三実施例で製造したグラフェン接合体を第一の原料として用いる。つまり、銅と鉄とからなり、銅の性質が優勢になる複合金属微粒子が、グラフェン同士を接合すると共に表面に担持されるグラフェン接合体を用いる。また、アスペクト比が大きいグラフェン接合体は、例えば、図10に示したグラフェンの懸濁液を充填する容器で製造したグラフェン接合体のアスペクト比10が大きい。本実施例では、細長い長方形の形状を有するグラフェン接合体を主成分として用いる。第一のグラフェン接合体は長さが10mmで幅が1mmで厚みが1mmより薄いものを用い、第二のグラフェン接合体は長さが5mmで幅が500ミクロンで厚みが500ミクロンより薄いものを用い、第三のグラフェン接合体は長さが3mmで幅も3mmで厚みが1mmより薄いものを用いる。第一のグラフェン接合体は、図10に示した容器の溝にグラフェンの懸濁液を充填してグラフェン接合体を製造する。第二のグラフェン接合体は、グラフェンの懸濁液を充填する溝形状を、長さが5mmで幅が500ミクロンで深さが500ミクロンとすることで製造する。第三のグラフェン接合体は、図9に示した容器用いてグラフェンの懸濁液を充填することでグラフェン接合体を製造する。これら3種類のグラフェン接合体の混合割合は、第一のグラフェン接合体を70重量%とし、第二のグラフェン接合体を10重量%とし、第三のグラフェン接合体を20重量%として混合する。
第二の原料である熱可塑性樹脂について説明する。熱可塑性樹脂の粘度が低いほど、熱可塑性樹脂へのグラフェン接合体の混合割合が高まるため、熱可塑性樹脂は、溶剤に溶解ないしは分散された熱可塑性樹脂を用いる。本実施例では、水溶性の熱可塑性樹脂としてポリエチレンオキサイドを用いる。なお、水溶性の熱可塑性樹脂として、ポリビニールアルコール、ポリアミドイミド、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドンなどの合成樹脂を用いることができる。更に、水溶性の熱可塑性樹脂に限らず、アルコール類に溶解する熱可塑性樹脂、ケトン類に溶解する熱可塑性樹脂、炭化水素系溶媒に溶解する熱可塑性樹脂を用いることも出来る。本実施例では、平均分子量が15万の白色粉末であるポリエチレンオキサイド(住友精化株式会社が製造する商品名PEO―1Z)を5重量%で水に溶かしたものを用いる。この水溶液の粘度は25℃において僅かに50ミリパスカル秒である。なお、このポリエチレンオキサイドは、窒素雰囲気では320℃で熱分解が始まり、大気雰囲気では180℃で熱分解が始まる。
複合材料を製造する製造方法を、図62に示す製造工程に基づいて説明する。最初に、ポリエチレンオキサイドを5重量%として蒸留水に溶かす(S320工程)。次に、3種類のグラフェン接合体を混合する(S321工程)。グラフェン接合体の混合物の重量比率を1とした場合、ポリエチレンオキサイド水溶液の重量比率が2になるように両者を混合し、マグネチックスターラーを用いて攪拌して懸濁液を作る(S322工程)。次に、懸濁液を押出し成形機に供給する(S323工程)。押出し成形機は、図58で図示した押出し成形機と同様の構成からなる。ただし、図58に図示したダイス(D)に貫通孔が設けられ、この貫通孔から成形物が紐状に押し出される。押し出し成形機に入った懸濁液は、押出しスクリューによる300rpmの回転速度で混練され、スクリューの回転によってダイス方向に押し出される。懸濁液はシリンダーの側壁に設けられたヒーターによって、ポリエチレンオキサイドが大気雰囲気で熱分解が開始する温度より10℃低い170℃に加熱される。最初に、懸濁液の内部から水が継続して蒸発する。水の蒸発が完了すると、懸濁液はポリエチレンオキサイドの重量比率が1に対し、グラフェン接合体の重量比率が10からなる構成される。さらに、ポリエチレンオキサイドが熱融解し、熱融解したポリエチレンオキサイドとグラフェン接合体との混合物となる。この際、グラフェン接合体が磁気吸着する。この磁気吸着力は弱いため、混練によって磁気吸着が解離し、再度磁気吸着する。複合材料がシリンダーの先端に達すると、シリンダーの先端にあるダイスから複合材料が紐状に押し出される(S324工程)。複合材料が冷却された後に、切断機によって一定の長さに切断し、複合材料のペレットを製作する(S325工程)。
グラフェン接合体とポリエチレンオキサイドとからなる複合材料の熱伝導率は、数1で与えられる。但し数1は、グラフェン接合体が磁気吸着せず、グラフェン接合体がポリエチレンオキサイドにランダムに離散的に分散されている場合である。グラフェン接合体の熱伝導率をλ1、ポリエチレンオキサイドの熱伝導率をλ2、複合材料におけるグラフェン接合体の体積占率をV1とすると、複合材料の熱伝導率λは、
(数1)
λ=λ1V1+λ2(1−V1)
で与えられる。
白色粉末のポリエチレンオキサイドの嵩密度は、0.3−0.5kg/lであり、ポリエチレンオキサイドの粘度平均分子量は15万である。従って、本実施例で用いるポリエチレンオキサイドの真密度を求めることは困難である。ここで、ポリエチレンオキサイドの真密度を低密度ポリエチレンの密度である0.91kg/lとし、グラフェン接合体の真密度をグラファイトの真密度である2.25kg/lとする。いっぽう、水が蒸発した後においては、グラフェン接合体の重量比率が10でポリエチレンオキサイドの重量比率が1の割合で複合材料が構成される。これらの値を用いると、複合材料におけるグラフェン接合体の体積占有率V1は0.82になる。つまり、82%の体積充填率でグラフェン接合体が充填され、当初目標の80%の体積充填率が達成された。更に、ポリエチレンオキサイドの熱伝導率を低密度ポリエチレンの熱伝導率である0.33W/Cmとし、グラフェン接合体の熱伝導率をグラフェンの熱伝導率である19.5W/Cmとする。これらの値を数1に当てはめると複合材料の熱伝導率λは16.05W/Cmになる。この数値は、グラフェンの熱伝導率の82%に相当し、銅の熱伝導率の4倍に相当する。更に、本実施例における複合材料では、グラフェン接合体が磁気吸着して接合されているので、複合材料の熱伝導率は更に高まり、グラフェンの熱伝導率に近づく。
このように、一方の原料がポリエチレンオキサイドという熱伝導率が低い材料であっても、もう一方の原料であるグラフェン接合体の配合割合を82体積割合まで高めることで、複合材料の熱伝導率を銅の熱伝導率4.01W/Cmの4倍に近い数値となる。さらに、グラフェン接合体が磁気吸着することで、複合材料の熱伝導率はグラフェンの熱伝導率に近づく。複合材料における電気導電性も、グラフェンの電気導電性に近づく。本実施例におけるこれらの効果は、次の二つの理由による。第一に、低粘度の熱可塑性樹脂の溶解液を用いたため、熱可塑性樹脂に対する重量比率で10倍の高い配合割合でグラフェン接合体を配合することができた。第二に、形状が異なる3種類のグラフェン接合体を原料として用いたため、グラフェン接合体が複合材料中で接合しやすくなり、グラフェン接合体が熱伝達経路と電気導電経路を形成して熱および電気が複合材料を伝わる。
こうして製造された高い熱伝導率を持つ複合材料のペレットを用いて、射出成形による様々な形状を有する成形物の製造のみならず、スリーブ成形法、チューブ成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、サーモフォーミング成形法などの各成形法によって様々な形状を有するスリーブ、チューブ、厚手のフィルム、シート、板、容器などが製造できる。この結果、従来では考えられない高い熱伝導性を持つ成形物が製造できる。さらに、必要に応じて成形物を着磁機にかけて着磁することによって、グラフェン接合体の磁気吸着力が増大し、これによって成形物の機械的強度も増大する。
以上に説明したグラフェン接合体と熱可塑性樹脂とからなる複合材料を製造する実施例は一例である。つまり、熱可塑性樹脂は、過剰な溶剤に溶解ないしは分散して溶解液ないしは分散液の粘度が100ミリパスカル秒以下の低粘度に希釈できればよい。グラフェン接合体については、複合材料からなる成形物に求められる性質に応じて、前記したグラフェン接合体の製造の第一実施例から第四実施例のいずれかのグラフェン接合体を選択すればよい。また、グラフェン接合体の形状と組み合わせについては、成形物の形状と大きさに応じたグラフェン接合体の形状と組み合わせを決めればよい。
本実施例における第一の原料であるグラフェン接合体は、グラフェン接合体の製造の第三実施例で説明したグラフェン接合体を用いる。さらに、3種類のグラフェン接合体の組み合わせと配合割合は、グラフェン接合体と熱可塑性樹脂とからなる複合材料のペレットを製造する実施例と同様とした。また、第二の原材料である熱硬化性樹脂についても、複合材料におけるグラフェン接合体の充填率を80体積割合以上に高めるため、溶媒で希釈された粘度の低い熱硬化性樹脂の分散液を用いる。
熱硬化性樹脂の粘度が低いほど、熱硬化性樹脂にグラフェン接合体を配合させる配合割合が高まる。本実施例では、熱硬化性樹脂として水溶性のフェノール樹脂を用いるが、他の水溶性の熱硬化性樹脂として、フェノール樹脂以外にアミノアルキド樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、エポキシ樹脂なども用いることができる。更に、水溶性の熱硬化性樹脂に限らず、アルコール溶解性の熱硬化性樹脂やケトン類、エーテル類、エステル類に溶解する熱硬化性樹脂や芳香族系炭化水素の溶媒に溶解する熱硬化性樹脂を用いることもできる。
本実施例では、DIC株式会社が製造するエマルジョン化されたフェノール樹脂(商品名PE−602)を第二の原料として用いる。商品名PE−602のフェノール樹脂は、数ミクロンのフェノール樹脂の粉体を分散剤でエマルジョン化したものである。このエマルジョン化したフェノール樹脂を30重量%として水で希釈した液の粘度は、25℃において僅かに50ミリパスカル秒である。このエマルジョン化されたフェノール樹脂は、窒素雰囲気と大気雰囲気とにおいて250℃付近から熱分解が始まる。
本実施例における加熱圧縮成形によって成形物を製造する方法を、図63に図示した製造工程に基づいて説明する。本実施例における製造装置の一次成形物の製造装置は、図58の一次成形機である押出し成形機に準じるため説明は省く。一次成形物を加熱圧縮して二次成形物を製造する製造装置を図64に図示する。
最初に、エマルジョン化したフェノール樹脂を30重量%として蒸留水に分散する(S330工程)。次に前記した実施例と同様に、第一のグラフェン接合体を重量比率で7、第二のグラフェン接合体を重量比率で1、第三のグラフェン接合体を重量比率で2として混合する(S331工程)。このグラフェン接合体の混合物とフェノール樹脂の水分散液との重量比率が3対1になるように混合し、マグネチックスターラーを用いて攪拌して懸濁液を作る(S332工程)。次に懸濁液を押出し成形機に充填する(S333工程)。押出し成形機は、図58の一次成形機に該当する押出し成形機と同様の構成である。押し出し成形機に入った懸濁液は、押出しスクリューによって300rpmの回転速度で常時混練され、スクリューの回転によってダイス方向に押し出される。懸濁液はシリンダーの側壁に設けられたヒーターで、フェノール樹脂が熱融解する温度より10℃低い140℃まで加熱される。これによって、蒸留水が蒸発して懸濁液が濃縮され、微細な粉体からなるフェノール樹脂の重量比率が1に対しグラフェンシートの重量比率が10となる混合物と残存した微量の分散剤からなる。この混合材料においては、全てのグラフェン接合体が磁気吸着し、混合材料は可塑性を持つ。
図64に混合材料を加熱圧縮する工程を図示する。混合材料がシリンダーの先端に達すると、ダイスのスプール(S)から金型(K)のキャビティ(C)に、混合材料が充填される(S334工程)。この際、金型に配置されたヒーターによって分散剤の全てが蒸発する。この後、金型を閉じて金型に締め付け力をかけて混合材料を圧縮する(S335工程)。この際、金型内のヒーターによって混合材料は160℃まで昇温され、フェノール樹脂が熱融解する(S336工程)。こうして、グラフェン接合体とフェノール樹脂とからなる複合材料で成形物が製造される。その後、金型を開いて成形物を取り出す(S337工程)。なお、加熱圧縮成形物に機械的強度が必要な場合は、成形物を着磁機にかけて着磁することで、グラフェン接合体の磁気吸着力が著しく増大し、成形物の機械的強度が増大する。また必要に応じて、金型(K)のキャビティ(C)に水素ガスを含む還元性ガスを供給して、還元性雰囲気で二次成形を行なっても良い。
ここで、グラフェン接合体とフェノール樹脂とからなる複合材料の熱伝導率を求める。フェノール樹脂の真密度を1.3kg/lとし、グラフェン接合体の真密度をグラファイトの真密度である2.25kg/lとする。濃縮された懸濁液においては、グラフェン接合体の重量比率が10に対してフェノール樹脂の重量比率が1の割合になるため、グラフェン接合体の体積占率V1は0.85になる。つまり、85%の体積充填率でグラフェン接合体が充填され、当初目標の80%の体積充填率が達成された。分散剤の重量は、フェノール樹脂の微細粉の重量に比べて極めて少量であるため省略する。更に、フェノール樹脂の熱伝導率を0.21W/Cmとする。また、グラフェン接合体の熱伝導率をグラフェンの熱伝導率である19.5W/Cmとする。これらの値を前記した数1に当てはめると複合材料の熱伝導率λは16.61W/Cmになる。この数値は、グラフェンの熱伝導率の85%に相当し、銅の熱伝導率の4倍を超える。更に、全てのグラフェン接合体が磁気吸着しているので、複合材料の熱伝導率は更に高まり、グラフェンの値に近づく。
熱硬化性樹脂とグラフェン接合体との複合材料についても、グラフェン接合体の充填割合を高めることで、つまり、グラフェン接合体の重量割合がフェノール樹脂の重量割合の10倍で構成することによって、複合材料の熱伝導率は銅の熱伝導率の4倍を超える数値になる。更に、全てのグラフェン接合体が磁気吸着しているため、熱伝導率はグラフェンの熱伝導率に近づく。また、二次成形物を着磁することで、グラフェン接合体の磁気吸着力が著しく増大し、成形物の機械的強度も高まる。これらの効果は、次の二つの理由による。第一に、低粘度の熱硬化性樹脂の分散液を原料として用いたため、グラフェン接合体を熱硬化性樹脂の分散液に高い配合割合で混合できた。第二に、アスペクト比が大きく、かつ、形状が異なる3種類のグラフェン接合体を用いたため、グラフェン接合体が磁気吸着し、複合材料において熱伝達経路を形成する。
こうした複合材料を用いて様々な成形物が製造できる。この成形物は、金属より高い熱伝導性を有する様々な厚みと幅を有する成形物になるので、様々な用途に利用できる。例えば、ヒートシンクや放熱板として利用する場合は、従来の金属や合金から構成される場合に比べて、ヒートシンクや放熱板の厚みが著しく薄くなり、重量も激減する。さらに複合材料を原料として加熱圧縮成形で成形するため、成形物の幅や厚みの自由度が高まる。
以上に説明したグラフェン接合体と熱硬化性樹脂とからなる複合材料で成形物を製造する実施例は一例である。熱硬化性樹脂は、過剰な溶剤に溶解ないしは分散し100ミリパスカル秒m以下の低粘度に希釈できればよい。グラフェン接合体については、成形物に求められる性質に応じて、グラフェン接合体の製造の第一実施例から第四実施例のグラフェン接合体を選択すればよい。グラフェン接合体の形状と組み合わせについては、成形物の大きさと形状に応じて決めればよい。
グラフェン接合体と熱硬化性樹脂とからなる複合材料によって、薄いシートを製造する方法を、図65に図示した製造工程に基づいて説明する。最初に、エマルジョン化したフェノール樹脂を30重量%として蒸留水に分散する(S340工程)。次に、前記と同様に、第一のグラフェン接合体を重量比率で7、第二のグラフェン接合体を重量比率で1、第三のグラフェン接合体を重量比率で2として、これら3種類のグラフェン接合体を混合する。このグラフェン接合体の混合物とフェノール樹脂の分散液との重量比率が3対1になるように混合する(S341工程)。さらに、マグネチックスターラーを用いて攪拌して懸濁液を作る(S342工程)。次に、懸濁液を押出し成形機に供給する(S343工程)。押出し成形機は、図58で図示した押出し成形機と同様の構成である。押し出し成形機に入った懸濁液は、押出しスクリューによって300rpmの回転速度で混練され、ダイス方向に押し出される。更に、懸濁液はシリンダーの側壁に設けられたヒーターで加熱され、蒸留水が蒸発して懸濁液が濃縮される。濃縮された懸濁液は、フェノール樹脂の重量比率を1とした場合、グラフェン接合体の重量比率が10からなる混合材料になる。このため、混合材料における全てのグラフェン接合体が磁気吸着し、この混合材料は可塑性を持つ。
混合材料がシリンダーの先端に達すると、ダイスから厚手のシートとして押し出される(S344工程)。押し出されたシートには、フェノール樹脂をエマルジョン化させる分散剤が残存する。この厚手のシートを、160℃にさらされたカレンダーローラーを通過して薄く延ばす(S345工程)。この際、分散剤の全てが蒸発し、さらに、フェノール樹脂が熱融解して硬化する。これによって、フェノール樹脂とグラフェン接合体とからなるシートが成形される(S346工程)。薄くなったシートを所定の長さにトリミングカッターで切断し、複合材料からなるシートを製造する(S347工程)。最終成形物のシートに機械的強度が必要であるならば、S345工程の後に着磁工程を設け、カレンダーローラーを通過したシートを着磁すれば、シートの機械的強度が高まる。
上記した製造工程で、銅の4倍を超える高い熱伝導率を持つ複合材料を用いて、カレンダー成形によって様々な形状と厚みを有する薄手のシートが製造できる。このシートは従来では考えられない高い熱伝導性を有するので、熱伝導シートとして様々な用途に利用できる。例えば、回路基板とヒートシンクとの間に本実施例で製造したシートを挟みこんで圧着すれば、高い熱伝導性と機械的強度とをもつ熱伝導シートとして利用できる。あるいは、プリント配線板とプリント基板との間に挟み込んで圧着すれば、プリント配線板の熱を効率よくプリント基板に伝達できる。さらに、押し出し成形機から押出された厚手のシートを、カレンダーローラーを通過させて薄く延ばすため、最終成形物のシートの幅と厚みは、如何様にも変えることができる。
104段落で説明したように、第一実施例に基づいて製造したグラフェン接合体は、グラフェン接合体の内部および表面に不純物を含まない鉄微粒子の集まりが離散的に担持される。不純物が0.05重量%以下である純鉄の比透磁率は2×105と高い値を持ち、保持力はわずかに4A/mである。このため、鉄微粒子の集まりは、低周波数の電気ノイズに対する磁気シールドの機能を持つ。さらに、グラフェンの比抵抗は銅の比抵抗の23倍に過ぎない。このため、グラフェンに準ずる導電性を持つグラフェン接合体は、高周波数の電気ノイズに対する磁気シールドの機能をもつ。従って、グラフェン接合体の体積割合が85%からなる複合材料から構成されたシートは、電気ノイズに対する磁気シールド効果を持つシートになる。また、鉄は優れた高透磁率材料であるため、VHF帯の電波を吸収して熱に変換する。莫大な数の鉄微粒子が表面に担持されたグラフェン接合体は、VHF帯の電波を吸収する性質を持つ。いっぽう、炭素繊維と同様に、グラフェンはその電気抵抗によってUHF電波を吸収して熱に変換する。このため、グラフェンに準ずる電気抵抗をもつグラフェン接合体もUHF帯の電波を吸収する。従って、グラフェン接合体の体積割合が85%からなる複合材料から構成されたシートも、VHF帯からUHF帯にまたがる周波数の電波を吸収する性質をもつシートになる。以上に説明したように、グラフェン接合体の体積割合が85%を占める複合材料からなる成形物はグラフェン接合体の性質を示すので、実現させる成形物の性質に応じて前記したグラフェン接合体を製造する実施例におけるグラフェン接合体を選択して原料とする。
複合材料からなるスリーブ状ないしはチューブ状の成形物を製造する製造方法を、図66に図示する製造工程に基づいて説明する。最初に、エマルジョン化したフェノール樹脂を30重量%として蒸留水に分散する(S350工程)。前記した実施例と同様に、第一のグラフェン接合体を重量比率で7、第二のグラフェン接合体を重量比率で1、第三のグラフェン接合体を重量比率で2として、混合する(S351工程)。このグラフェン接合体の混合物とフェノール樹脂の分散液との重量比率が3対1になるように混合し、マグネチックスターラーを用いて攪拌して懸濁液を作る(S352工程)。次に、懸濁液を押出し成形機に供給する(S353工程)。
押し出し成形機に入った懸濁液は、押出しスクリューによって300rpmの回転速度で常時混練され、ダイス方向に押し出される。懸濁液はシリンダーの側壁に設けられたヒーターで140℃まで加熱され、蒸留水が蒸発し懸濁液が濃縮される。濃縮された懸濁液は、フェノール樹脂の重量割合を1とすると、グラフェン接合体の重量割合が10となる混合材料になる。このため、混合材料における全てのグラフェン接合体は磁気吸着し可塑性を持つ。
混合材料がシリンダーの先端に達すると、ダイスからスリーブ状ないしはチューブ状に押し出される(S354工程)。押し出された混合材料は、加熱装置(C)と引き取り機(D)との間隙を通過する(S355工程)。この際、全ての分散剤が蒸発し、その後フェノール樹脂が熱融解して硬化する(S356工程)。こうして、フェノール樹脂とグラフェン接合体とからなるスリーブ状ないしはチューブ状の成形物が製造される。この後、所定の長さにトリミングカッターで切断し、スリーブないしはチューブを製造する(S357工程)。製造したスリーブないしはチューブに機械的強度が必要な場合は、S355工程の引き取り工程の後に着磁工程を設け、引き取り機を通過したスリーブないしはチューブを着磁することで、機械的強度を増大させることができる。また、S357工程におけるスリーブないしはチューブを切断する長さを延長すれば、成形物はパイプないしはホースになる。
上記した製造工程で製造した複合材料は、グラフェン接合体の体積充填率が85%を占めるため、銅の4倍を超える高い熱伝導率を持つ。これによって、成形されたスリーブないしはチューブは、従来では考えられない高い熱伝導性を有するので、熱伝導スリーブないしは熱伝導チューブとして様々な用途に利用できる。例えば、各種熱交換器に用いるスリーブないしはチューブとして利用できる。また、スリーブないしはチューブを切断する長さを延長すれば、熱伝導パイプないしは熱伝導ホースが製造できる。
以上、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を用い、フェノール樹脂にグラフェン接合体の体積割合が80%以上になるように充填し、この複合材料を用いて各種形状の成形物を製造する実施例を説明した。熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂に限定されない。熱硬化性樹脂が過剰な溶剤に溶解ないしは分散され、粘度が100ミリパスカル秒以下の低粘度に希釈できれば、グラフェン接合体を体積割合が80%以上まで充填できる。また、原料となるグラフェン接合体は、成形物にもたらす性質に応じて、前記したグラフェン接合体を製造する実施例から選択すればよい。さらに、アスペクト比が大きく、かつ、形状が異なる複数種類のグラフェン接合体を組み合わせると良い。また、複合材料の成形法も上記した実施例に限定されない。押出成形機から押し出される一次成形物は、磁気吸着したグラフェン接合体によって可塑性を持つため、二次成形の自由度が高い。こうして、熱硬化性樹脂とグラフェン接合体とからなる複合材料からなる様々な形状の成形物が製造でき、かつ、成形物の性質はグラフェン接合体の性質を示す。
Claims (54)
- 炭素原子の六角形からなる網目構造が二次元的に広がった物質構造を有する炭素原子の集まりであるグラフェンの集まりを製造する製造方法は、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりに電界を印加し、該電界の印加によって、前記鱗片状黒鉛粒子ないしは前記塊状黒鉛粒子を形成する全ての黒鉛結晶の層間結合を同時に破壊し、これによって、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりから、前記グラフェンの集まりを製造するグラフェンの集まりの製造方法であり、該グラフェンの集まりを製造する方法は、
2枚の平行平板電極を所定の間隙をもって離間させ、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを、前記2枚の平行平板電極の間隙に引きつめ、この後、該2枚の平行平板電極の間隙に電位差を印加する、これによって、該電位差を前記2枚の平行平板電極の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、前記2枚の平行平板電極の間隙に引きつめられた前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりに印加され、該電界の印加によって、前記鱗片状黒鉛粒子ないしは前記塊状黒鉛粒子を形成する全ての黒鉛結晶の層間結合が同時に破壊され、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記鱗状黒鉛粒子の集まりから、グラフェンの集まりが製造されることを特徴とする、グラフェンの集まりを製造する方法。 - 請求項1に記載した方法で製造したグラフェンの集まりを接合して該グラフェンより面積が広く、厚みが厚いグラフェン接合体を製造する方法は、
熱処理で磁性を有する金属である鉄、コバルト、ないしはニッケルが析出する原料を液体に分散して分散液を作成し、該分散液に請求項1に記載した方法で製造したグラフェンの集まりを混合して懸濁液を作成し、該懸濁液を昇温して前記液体を気化させ、前記グラフェンの表面に前記熱処理で磁性を有する金属が析出する原料を吸着させ、さらに、該グラフェンの集まりを熱処理して前記熱処理で磁性を有する金属が析出する原料を熱分解させる、これによって、前記磁性を有する鉄、コバルト、ないしはニッケルからなる金属微粒子が前記グラフェンの表面に担持し、該グラフェンの表面に担持された前記磁性を有する金属微粒子同士が磁気吸着して前記グラフェン同士が接近し、該磁気吸着した金属微粒子の表面に、さらに前記磁性を有する金属微粒子が析出して前記磁気吸着した金属微粒子同士が金属結合する、これによって、前記グラフェン同士が前記金属微粒子同士の金属結合で接合され、前記グラフェンの集まりからなるグラフェン接合体が製造されることを特徴とする、請求項1に記載した方法で製造したグラフェンの集まりを接合してグラフェン接合体を製造する方法、
ないしは、
熱処理で磁性を有する金属である鉄、コバルト、ないしはニッケルが析出する原料と、熱処理で前記3種類の金属を除く磁性を有しない金属が析出する原料とからなる複数種類の金属が熱処理で析出する原料を液体に分散して分散液を作成し、該分散液に請求項1に記載した方法で製造したグラフェンの集まりを混合して懸濁液を作成し、該懸濁液を昇温して前記液体を気化させ、前記グラフェンの表面に前記複数種類の金属が熱処理で析出する原料を吸着させ、さらに、該グラフェンの集まりを熱処理して前記複数種類の金属が熱処理で析出する原料を熱分解させる、これによって、前記磁性を有する鉄、コバルト、ないしはニッケルからなる金属微粒子と、該3種類の金属を除く磁性を有しない金属からなる金属微粒子とからなる磁性を有する複合金属微粒子が前記グラフェンの表面に担持し、該グラフェンの表面に担持した前記磁性を有する複合金属微粒子同士が磁気吸着して前記グラフェン同士が接近し、該磁気吸着した複合金属微粒子の表面に、さらに前記磁性を有しない金属微粒子が析出して該磁気吸着した複合金属微粒子同士が金属結合する、これによって、前記グラフェン同士が前記複合金属微粒子同士の金属結合で接合され、前記グラフェンの集まりからなるグラフェン接合体が製造されることを特徴とする、請求項1に記載した方法で製造したグラフェンの集まりを接合してグラフェン接合体を製造する方法。 - 請求項2に記載したグラフェン接合体を製造する方法において、熱処理で磁性を有しない金属が析出する原料として、熱伝導性と電気導電性と磁性を有しない性質とを兼備する金属である銀、銅、金、ないしはアルミニウムが熱処理で析出する原料を用いる、請求項2に記載したグラフェン接合体を製造する方法。
- 請求項2ないしは請求項3のいずれかの請求項に記載したグラフェン接合体を製造する方法により製造したグラフェン接合体を用い、表面が電気絶縁性で熱伝導性の性質を持つグラフェン接合体を製造する方法は、請求項2ないしは請求項3のいずれかの請求項に記載したグラフェン接合体を製造する方法で製造したグラフェン接合体の金属微粒子または複合金属微粒子の表層に、さらに電気絶縁性で熱伝導性である酸化アルミニウムを析出させる、方法。
- 請求項2に記載したグラフェン接合体を製造する方法により製造したグラフェン接合体を用い、表面が触媒作用を持つグラフェン接合体を製造する方法は、請求項2に記載したグラフェン接合体を製造する方法で製造したグラフェン接合体の金属微粒子または複合金属微粒子の表層に、さらに触媒作用を有する白金族の金属を析出させ
、ないしは、さらに触媒作用を有する複数種類の白金族の金属を同時に析出させ、ないしは、さらに触媒作用を有する白金族の金属とコバルトとを同時に析出させ、これによって
、前記金属微粒子または前記複合金属微粒子の表層に、白金族の金属微粒子、ないしは、複数種類の白金族の金属からなる合金微粒子、ないしは、白金族の金属とコバルトとからなる合金属微粒子が担持し、前記グラフェン接合体の表面に触媒作用を持つ複合金属微粒子が担持する、方法。 - 請求項5に記載した表面が触媒作用を持つグラフェン接合体を製造する方法において、触媒作用を有する白金族の金属が析出する量を制御し、ないしは、触媒作用を有する複数種類の白金族の金属が同時に析出する量を制御し、ないしは、触媒作用を有する白金族の金属とコバルトとが同時に析出する量を制御し、請求項2に記載したグラフェン接合体を製造する方法で製造したグラフェン接合体の金属微粒子または複合金属微粒子の表層の一部ないしは全てに、前記白金族の金属微粒子、ないしは、前記複数種類の白金族の金属からなる合金微粒子、ないしは、前記白金族の金属とコバルトとからなる合金微粒子を担持する、方法。
- 請求項2に記載したグラフェン接合体を製造する方法により製造したグラフェン接合体を用い、請求項2に記載したグラフェン接合体を製造する方法により製造したグラフェン接合体の金属微粒子または複合金属微粒子の表層に、さらに、前記金属微粒子または前記複合金属微粒子の組成とは異なる金属、ないしは、金属酸化物を析出させる、方法。
- 請求項2に記載した方法で製造したグラフェン接合体より面積が広く、厚みが厚いグラフェン接合体を製造する方法は、請求項2に記載した方法で製造したグラフェン接合体の集まりを、水素ガスが含まれる還元性雰囲気で還元焼成することにより、請求項2に記載した方法で製造したグラフェン接合体より面積が広く、厚みが厚いグラフェン接合体を製造する方法。
- 請求項2に記載したグラフェン接合体を製造する方法において、熱処理で磁性を有する鉄、コバルト、ないしはニッケルからなる金属が析出する原料は、鉄、コバルト、ないしはニッケルからなる金属を構成する金属元素に該当する金属イオンが、有機金属化合物を形成した有機金属化合物である、方法、ないしは、熱処理で磁性を有する鉄、コバルト、ないしはニッケルからなる金属と、該3種類の金属を除く磁性を有しない金属とを析出する原料は、前記磁性を有する金属と前記磁性を有しない金属とからなる複数種類の金属を構成する金属元素に該当する複数種類の金属イオンが、複数種類の有機金属化合物を形成した複数種類の有機金属化合物である、方法。
- 請求項9に記載したグラフェン接合体の製造方法において、複数種類の有機金属化合物を、該複数種類の有機金属化合物における有機金属化合物の重量比率が同一の重量比率でない比率からなる複数種類の有機金属化合物として用いる、方法。
- 請求項9および請求項10のいずれの請求項に記載したグラフェン接合体の製造方法において、有機金属化合物は、金属イオンと結合するイオンが前記金属イオンとの間で共有結合によって結合するカルボン酸金属化合物である、方法。
- 請求項11に記載したグラフェン接合体の製造方法において、カルボン酸金属化合物は、飽和モノカルボン酸と金属とからなるカルボン酸金属化合物である、方法。
- 請求項12に記載したグラフェン接合体の製造方法において、飽和モノカルボン酸と金属とからなるカルボン酸金属化合物は、分岐鎖構造を有する飽和モノカルボン酸と金属とからなるカルボン酸金属化合物である、方法。
- 請求項2に記載したグラフェン接合体を製造する方法により製造したグラフェン接合体を用い、前記グラフェン接合体を、基材ないしは部品に磁気吸着ないしは被覆させることによって、該グラフェン接合体の性質が付与される前記基材ないしは前記部品を製造する製造方法。
- 請求項14に記載したグラフェン接合体の性質が付与される基材ないしは部品を製造する製造方法において、前記グラフェン接合体の性質が撥水性である、方法。
- 請求項15に記載した方法において、撥水性が付与される基材が、スクリーン印刷で用いる強磁性の性質を持つメタルマスク版である、方法。
- 請求項15に記載した方法において、撥水性が付与される部品が、液体を噴射するノズルである、方法。
- 請求項14に記載したグラフェン接合体の性質が付与される基材ないしは部品を製造する製造方法において、前記グラフェン接合体の性質が耐摩耗性である、方法。
- 請求項18に記載した方法において、耐摩耗性が付与される基材は、光ディスクを製造する際に用いる強磁性の性質を持つスタンパーである、方法。
- 請求項18に記載した方法において、耐摩耗性が付与される部品は、電気接点である、方法。
- 請求項14に記載したグラフェン接合体の性質が付与される基材ないしは部品を製造する製造方法において、前記グラフェン接合体の性質が潤滑性である、方法。
- 請求項21に記載した方法において、潤滑性が付与される部品は、摺動部品ないしは被摺動部品である、方法。
- 請求項14に記載したグラフェン接合体の性質が付与される基材ないしは部品を製造する製造方法において、前記グラフェン接合体の性質として、グラフェン接合体の表面に担持された複合金属微粒子の性質を付与する、方法。
- 請求項23に記載した方法において、複合金属微粒子は、表層が触媒作用を有する金属ないしは合金で構成される複合金属微粒子であり、基材が強磁性の線材を編んで製造されるスクリーンメッシュである、方法。
- 請求項24に記載した方法において、スクリーンメッシュを、固体高分子形燃料電池におけるアノード触媒ないしはカソード触媒とする、固体高分子形燃料電池におけるアノード触媒ないしはカソード触媒の製造方法。
- 請求項24に記載した方法において、さらに、スクリーンメッシュの表面にプロトンが伝導する高分子電解質材料を吸着させる第一の付加要素と、スクリーンメッシュに磁気吸着したグラフェン接合体の表面に前記プロトンが伝導する高分子電解質材料を吸着させる第二の付加要素とを付与し、該2つの付加要素を兼備したスクリーンメッシュを、固体高分子形燃料電池における燃料極ないしは空気極とする、固体高分子形燃料電池における燃料極ないしは空気極の製造方法。
- 請求項14に記載したグラフェン接合体の性質が付与される基材ないしは部品を製造する製造方法において、前記グラフェン接合体の性質として、グラフェン接合体の表面に担持された複合微粒子の性質を付与する、方法。
- 請求項27に記載した方法において、グラフェン接合体の表面に担持された複合微粒子は、表層が酸化アルミニウムで構成される複合微粒子である、方法。
- 請求項28に記載した方法において、表層が酸化アルミニウムで構成される複合微粒子は、酸化アルミニウムの性質である耐摩耗性と潤滑性とが同時に付与するものであり、該耐摩耗性と潤滑性とが同時に付与される部品は、摺動部品ないしは被摺動部品である、方法。
- 請求項29に記載した方法において、耐摩耗性と潤滑性とが同時に付与される部品は、印字ヘッドとして使用されるサーマルヘッド、ないしは、磁気記録または記録再生を行う磁気ヘッドである、方法。
- 請求項28に記載した方法において、表層が酸化アルミニウムで構成される複合微粒子に、さらに、前記酸化アルミニウムの表層を白金で構成する複合微粒子であり、該複合微粒子は耐摩耗性と潤滑性と耐食性とを同時に付与する、方法。
- 請求項31に記載した方法において、耐摩耗性と潤滑性と耐食性とが同時に付与される部品は、電気接点である、方法。
- 請求項2から請求項4のいずれかの請求項に記載した方法で製造されたグラフェン接合体を用い、前記グラフェン接合体を基材ないしは部品に圧着させることによって、該グラフェン接合体の性質が付与される前記基材ないしは前記部品を製造する製造方法。
- 請求項33に記載した方法において、グラフェン接合体を圧着する基材ないしは部品が、製品を覆う表装容器ないしは製品であり、該表装容器の表面ないしは該製品の表面に、前記グラフェン接合体からなる磁気マーカーが付与される、方法。
- 請求項33に記載した方法において、請求項4に記載した方法で製造したグラフェン接合体を用い、グラフェン接合体を圧着する基材ないしは部品が、プリント配線板と基板とからなるプリント基板、ないしは、プリント配線板とフレキシブル基板とからなるフレキシブルプリント基板であり、前記グラフェン接合体を、前記プリント配線板と前記基板との間に圧着させることによって、ないしは、前記プリント配線板と前記フレキシブル基板との間に圧着させることによって、前記プリント配線板の熱が、前記圧着されたグラフェン接合体を介して、前記基板ないしは前記フレキシブル基板に伝達する熱伝達経路が形成される前記プリント基板ないしは前記フレキシブルプリント基板になる、方法。
- 請求項33に記載した方法において、請求項4に記載した方法で製造したグラフェン接合体を用い、グラフェン接合体を圧着する基材ないしは部品が、プリント配線板とメタル基板とからなる回路基板、ないしは、プリント配線板とセラミック基板とからなる回路基板であり、前記グラフェン接合体を、前記プリント配線板と前記メタル基板との間に圧着させることによって、ないしは、前記プリント配線板と前記セラミック基板との間に圧着させることによって、前記プリント配線板の熱が、前記圧着されたグラフェン接合体を介して、前記メタル基板ないしは前記セラミック基板に伝達する熱伝達経路が形成される前記回路基板になる、方法。
- 請求項33に記載した方法において、請求項3に記載した方法で製造したグラフェン接合体を用い、グラフェン接合体を圧着する基材ないしは部品が、複数の表面実装型LED素子がヒートシンク上に設けられた配線電極にアレイ状に接続された表面実装型LED素子の第一の実装回路であり、前記グラフェン接合体を、前記表面実装型LED素子のアノード電極と前記配線電極との間に第一のグラフェン接合体として圧着させ、さらに、前記表面実装型LED素子のカソード電極と前記配線電極との間に第二のグラフェン接合体として圧着させることによって、前記表面実装型LED素子の発熱源であるLEDチップの熱がパッケージ基板に伝わる第一の熱伝達経路と、前記パッケージ基板に伝わった熱が前記アノード電極と前記カソード電極とに伝達する第二の熱伝達経路と、前記アノード電極に伝わった熱が前記第一のグラフェン接合体を介して前記配線電極に伝達する第三の熱伝達経路と、ないしは、前記カソード電極に伝わった熱が前記第二のグラフェン接合体を介して前記配線電極に伝達する第三の熱伝達経路と、前記配線電極に伝わった熱が前記ヒートシンクに伝達する第四の熱伝達経路とからなる四つの熱伝達経路が形成される前記表面実装型LED素子の第一の実装回路になる、方法。
- 請求項33に記載した方法において、請求項3ないしは請求項4に記載した方法で製造したグラフェン接合体を用い、グラフェン接合体を圧着する基材ないしは部品が、複数の表面実装型LED素子がヒートシンク上に設けられた配線電極にアレイ状に接続された表面実装型LED素子の第二の実装回路であり、請求項4に記載した方法で製造したグラフェン接合体を、前記表面実装型LED素子の発熱源であるLEDチップが実装されるパッケージ基板の表面に第一のグラフェン接合体として圧着させ、さらに、請求項3に記載した方法で製造したグラフェン接合体を、前記表面実装型LED素子のアノード電極と配線電極との間に第二のグラフェン接合体として圧着させ、さらに、請求項3に記載した方法で製造したグラフェン接合体を、前記表面実装型LED素子のカソード電極と配線電極との間に第三のグラフェン接合体として圧着させ、これによって、前記LEDチップの熱が前記パッケージ基板に伝達する第一の熱伝達経路と、前記パッケージ基板に伝わった熱が前記第一のグラフェン接合体を介して前記アノード電極と前記カソード電極とに伝達する第二の熱伝達経路と、前記アノード電極に伝わった熱が前記第二のグラフェン接合体を介して前記配線電極に伝達する第三の熱伝達経路と、ないしは、前記カソード電極に伝わった熱が前記第三のグラフェン接合体を介して前記配線電極に伝達する第三の熱伝達経路と、前記配線電極に伝わった熱が前記ヒートシンクに伝達する第四の熱伝達経路とからなる四つの熱伝達経路が形成される前記表面実装型LED素子の第二の実装回路になる、方法。
- 請求項33に記載した方法において、請求項3ないしは請求項4に記載した方法で製造したグラフェン接合体を用い、グラフェン接合体を圧着する基材ないしは部品が、複数の表面実装型LED素子がヒートシンク上に設けられた配線電極にアレイ状に接続された表面実装型LED素子の第三の実装回路であり、請求項4に記載した方法で製造したグラフェン接合体を、第一のグラフェン接合体として前記表面実装型LED素子の発熱源であるLEDチップが実装されるパッケージ基板の表面に圧着させ、さらに、請求項3に記載した方法で製造したグラフェン接合体を、第二のグラフェン接合体として前記表面実装型LED素子のアノード電極およびカソード電極の各電極の下面に圧着させるとともに、該第二のグラフェン接合体のそれぞれの端部を配線電極の表面に圧着させ、さらに、請求項3に記載した方法で製造したグラフェン接合体を、第三のグラフェン接合体として配線電極とヒートシンクとの間に圧着させ、これによって、前記LEDチップの熱が前記パッケージ基板に伝達する第一の熱伝達経路と、前記パッケージ基板に伝わった熱が前記第一のグラフェン接合体を介して前記アノード電極と前記カソード電極とに伝達する第二の熱伝達経路と、前記アノード電極と前記カソード電極とに伝わった熱が前記第二のグラフェン接合体を介して前記配線電極に伝達する第三の熱伝達経路と、前記配線電極に伝わった熱が前記第三のグラフェン接合体を介して前記ヒートシンクに伝達する第四の熱伝達経路とからなる四つの熱伝達経路が形成される前記表面実装型LED素子の第三の実装回路になる、方法。
- 請求項33に記載した方法において、請求項4に記載した方法で製造したグラフェン接合体を用い、グラフェン接合体を圧着する基材ないしは部品が、ワイドギャップ半導体からなるICチップないしはIGBTチップないしはパワーMOSFETの3種類の電子デバイスのうちのいずれかの電子デバイスが実装された回路基板とヒートシンクとからなる第一の電子回路であり、前記グラフェン接合体を、前記回路基板と前記ヒートシンクとの間に圧着させ、これによって、前記回路基板の熱が、前記圧着されたグラフェン接合体を介して、前記ヒートシンクに伝達する熱伝達経路が形成される前記第一の電子回路になる、方法。
- 請求項33に記載した方法において、請求項4に記載した方法で製造したグラフェン接合体を用い、グラフェン接合体を圧着する基材ないしは部品が、ワイドギャップ半導体からなるICチップないしはIGBTチップないしはパワーMOSFETの3種類の電子デバイスのうちのいずれかの電子デバイスが実装された回路基板とヒートシンクとからなる第二の電子回路であり、前記グラフェン接合体を、第一のグラフェン接合体として、前記した3種類の電子デバイスのうちのいずれかの電子デバイスが実装された部位に該当する回路基板の下面に圧着させ、さらに、前記グラフェン接合体を第二のグラフェン接合体として、前記第一のグラフェン接合体と前記ヒートシンクとの間に圧着させ、これによって、前記回路基板に実装された前記3種類の電子デバイスのうちのいずれかの電子デバイスが発する熱が前記第一のグラフェン接合体に伝達する第一の熱伝達経路と、前記第一のグラフェン接合体に伝わった熱が前記第二のグラフェン接合体に伝達する第二の熱伝達経路と、前記第二のグラフェン接合体に伝わった熱が前記ヒートシンクに伝達する第三の熱伝達経路とからなる3つの熱伝達経路が形成される前記第二の電子回路になる、方法。
- 請求項2から請求項4のいずれかの請求項に記載した方法で製造したグラフェン接合体を用い、グラフェン接合体からなる第一の成形物を製造する方法は、請求項2から請求項4のいずれかの請求項に記載した方法で製造したグラフェン接合体の集まりを第一の原料として用い、該グラフェン接合体の表面に、磁性を有する金属微粒子ないしは磁性を有する複合金属微粒子が担持する温度より低い温度で熱分解が完了する第一の性質と、前記熱分解によって全ての物質が気化して残渣物を残さない第二の性質を兼備する有機物を第二の原料として用い、前記有機物を溶剤で溶解した溶解溶液に前記グラフェン接合体の集まりを混合して懸濁液を作成する第一の製造工程と、前記懸濁液を金型に充填する第二の製造工程と、前記金型に充填した懸濁液を水素ガスが含まれる還元性雰囲気で熱処理して前記溶剤と前記第二の原料とを気化させる第三の製造工程とからなる3つの製造工程を連続して実施する、グラフェン接合体からなる第一の成形物を製造する方法。
- 請求項2から請求項4のいずれかの請求項に記載した方法で製造したグラフェン接合体を用い、グラフェン接合体からなる第二の成形物を製造する方法は、請求項2から請求項4のいずれかの請求項に記載した方法で製造したグラフェン接合体の集まりを第一の原料として用い、該グラフェン接合体の表面に、磁性を有する金属微粒子ないしは磁性を有する複合金属微粒子が担持する温度より低い温度で熱分解が完了する第一の性質と、前記熱分解によって全ての物質が気化して残渣物を残さない第二の性質を兼備する有機物を第二の原料として用い、前記有機物を溶剤で溶解した溶解溶液に前記グラフェン接合体の集まりを混合して懸濁液を作成する第一の製造工程と、前記懸濁液を押出し成形機に充填する第二の製造工程と、前記押出し成形機に充填された懸濁液を該押出し成形機内で混練処理と熱処理とを同時に施して前記溶剤と前記有機物とを気化させる第三の製造工程と、前記押出し成形機に残った残渣物を押出す第四の製造工程とからなる4つの製造工程を連続して実施する、グラフェン接合体からなる第二の成形物を製造する方法。
- 請求項43に記載した方法において、押出成形機に残った残渣物を押し出す第四の製造工程は、スリーブ、チューブ、ないしはシートのうちのいずれかの形状で前記残渣物を押し出す製造工程であり、該製造工程によってグラフェン接合体からなるスリーブ、チューブ、パイプ、ホース、ないしはシートのうちのいずれかの成形物を製造する、グラフェン接合体からなる第二の成形物を製造する方法。
- 請求項2から請求項4のいずれかの請求項に記載した方法で製造したグラフェン接合体を用い、グラフェン接合体からなる第三の成形物を製造する方法は、請求項2から請求項4のいずれかの請求項に記載した方法で製造したグラフェン接合体の集まりを第一の原料として用い、該グラフェン接合体の表面に、磁性を有する金属微粒子ないしは磁性を有する複合金属微粒子が担持する温度より低い温度で熱分解が完了する第一の性質と、前記熱分解によって全ての物質が気化して残渣物を残さない第二の性質を兼備する有機物を第二の原料として用い、前記有機物を溶剤で溶解した溶解溶液に前記グラフェン接合体の集まりを混合して懸濁液を作成する第一の製造工程と、前記懸濁液を押出し成形機に充填する第二の製造工程と、前記押出し成形機に充填された懸濁液を該押出し成形機内で混練処理と熱処理とを同時に施して前記溶剤と前記有機物とを気化させる第三の製造工程と、前記押出し成形機に残った残渣物を押出す第四の製造工程と、前記押出された成形物を二次成形機に充填する第五の製造工程と、前記二次成形機に充填した充填物に二次成形を施す第六の製造工程とからなる6つの製造工程を連続して実施する、グラフェン接合体からなる第三の成形物を製造する方法。
- 請求項45に記載した方法において、二次成形は、ブロー成形法
、サーモフォーミング成形法、ないしはカレンダー成形法のうちのいずれかの成形法で成形する二次成形である、グラフェン接合体からなる第三の成形物を製造する方法。 - 請求項2から請求項4のいずれかの請求項に記載した方法で製造したグラフェン接合体を用い、グラフェン接合体を成分とする塗料を製造する方法は、請求項2から請求項4のいずれかの請求項に記載した方法で製造したグラフェン接合体の集まりを第一の原料として用い、該グラフェン接合体の表面に、磁性を有する金属微粒子ないしは磁性を有する複合金属微粒子が担持する温度より低い温度で熱分解が完了する第一の性質と、前記熱分解によって全ての物質が気化して残渣物を残さない第二の性質とを兼備する有機物を第二の原料として用い、前記有機物を溶剤で溶解した希釈溶解溶液に前記グラフェン接合体の集まりを混合して懸濁液を作成し、該懸濁液からなるグラフェン接合体を成分とする塗料を製造する方法。
- 請求項47に記載した方法で製造した塗料を容器ないしは成形物の表面に塗布し、該容器ないしは該成形物にグラフェン接合体からなる被膜を形成する方法は、請求項47に記載した方法で製造した塗料を容器ないしは成形物に塗布する第一の製造工程と、該容器ないしは該成形物を水素ガスが含まれる還元性雰囲気で熱処理して前記塗料を構成する溶剤と有機物とを気化させる第二の製造工程とからなる2つの製造工程を連続して実施する、方法。
- 請求項48に記載した方法において、容器ないしは成形物は、金属ないしは合金からなる容器ないしは成形物である、方法。
- 請求項49に記載された方法において、金属ないしは合金からなる成形物は希土類磁石である、方法。
- 請求項2から請求項4のいずれかの請求項に記載した方法で製造したグラフェン接合体を用い、グラフェン接合体と熱可塑性樹脂とからなる複合材料のペレットを製造する方法は、請求項2から請求項4のいずれかの請求項に記載した方法で製造したグラフェン接合体の集まりを第一の原料として用い、熱可塑性樹脂が溶剤に溶解ないしは分散された希釈液を第二の原料として用い、前記希釈液に前記グラフェン接合体の集まりを混合して懸濁液を作成する第一の製造工程と、該懸濁液を押出し成形機に充填する第二の製造工程と、該押出し成形機に充填された前記懸濁液を該押出し成形機内で混練処理と熱処理とを同時に行なって前記溶剤の気化と前記熱可塑性樹脂の熱融解とを行う第三の製造工程と、前記押出し成形機に残った残渣物を紐状に押出す第四の製造工程と、該紐状に押し出された成形物を一定の長さに切断する第五の製造工程とからなる5つの製造工程を連続して実施する、グラフェン接合体と熱可塑性樹脂とからなる複合材料のペレットを製造する方法。
- 請求項51に記載した製造方法で製造した複合材料のペレットを用い、射出成形法、スリーブ成形法、チューブ成形法、ブロー成形法、シート成形法、ないしはサーモフォーミング成形法のうちのいずれかの成形法によって、グラフェン接合体の性質を持つ成形物を成形する、グラフェン接合体の性質を持つ成形物を成形する方法。
- 請求項2から請求項4のいずれかの請求項に記載した方法で製造したグラフェン接合体を用い、グラフェン接合体と熱硬化性樹脂とからなる複合材料で成形物を成形する方法は、請求項2から請求項4のいずれかの請求項に記載した方法で製造したグラフェン接合体の集まりを第一の原料として用い、熱硬化性樹脂が溶剤に溶解ないしは分散された希釈液を第二の原料として用い、前記希釈液に前記グラフェン接合体の集まりを混合して懸濁液を作成する第一の製造工程と、前記懸濁液を押出し成形機に充填する第二の製造工程と、該押出し成形機に充填された前記懸濁液を該押出し成形機内で混練処理と熱処理とを同時に行なって前記溶剤を気化して該懸濁液を濃縮する第三の製造工程と、該濃縮された懸濁液を前記押出し成形機より押出す第四の製造工程と、該押し出された成形物を二次成形機に供給する第五の製造工程と、該二次成形機において、前記供給された供給物を加熱して前記熱硬化性樹脂を熱融解させ、該熱融解した熱硬化性樹脂に二次成形を施す第六の製造工程とからなる6つの製造工程を連続して実施する、グラフェン接合体と熱硬化性樹脂とからなる複合材料で成形物を成形する方法。
- 請求項53に記載した方法において、二次成形は、スリーブ成形法、チューブ成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、ないしはサーモフォーミング成形法のうちのいずれかの成形法で成形する二次成形である、グラフェン接合体と熱硬化性樹脂とからなる複合材料で成形物を成形する方法。
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