図1に模式的に示すように、本発明の太陽電池100は、光電変換部50の第一主面もしくは第二主面上に集電極70を備える。集電極70は、光電変換部50側から順に、第一導電層71と第二導電層72とを含む。第一導電層71と第二導電層72との間には、開口部を有する絶縁層9が形成されている。第二導電層72の一部は、絶縁層9の開口部9hを介して、第一導電層71に導通されている。また、前記光電変換部は、第一の主面および側面に、第一の主面側の最表面層と第二の主面側の裏面電極層の短絡が除去された絶縁領域を有する。前記絶縁領域A0は、前記光電変換部における第一の主面側表面および第二の主面側表面の幅を各々W1およびW2としたとき、W1<W2を満たす。前記絶縁領域A0は、前記基板が露出するように、前記光電変換部の第一の主面の周縁部と側面に跨って形成された肩構造を有する。
以下、本発明の一実施形態であるヘテロ接合結晶シリコン太陽電池(以下、「ヘテロ接合太陽電池」と記載する場合がある)を例として、本発明をより詳細に説明する。ヘテロ接合太陽電池は、一導電型の単結晶シリコン基板の表面に、単結晶シリコンとはバンドギャップの異なるシリコン系薄膜を有することで、拡散電位が形成された結晶シリコン系太陽電池である。シリコン系薄膜としては非晶質のものが好ましい。中でも、拡散電位を形成するための導電型非晶質シリコン系薄膜と結晶シリコン基板の間に、薄い真性の非晶質シリコン層を介在させたものは、変換効率の最も高い結晶シリコン太陽電池の形態の一つとして知られている。
図2は、本発明の一実施形態に係る結晶シリコン系太陽電池の模式的断面図である。結晶シリコン系太陽電池101は、光電変換部50として、一導電型単結晶シリコン基板1の一方の面(光入射側の面)に、導電型シリコン系薄膜3aおよび光入射側透明電極層6aをこの順に有する。一導電型単結晶シリコン基板1の他方の面(光入射側の反対面)には、導電型シリコン系薄膜3bおよび裏面側透明電極層6bをこの順に有することが好ましい。光電変換部50表面の光入射側透明電極層6a上には、第一導電層71および第二導電層72を含む集電極70が形成されることが好ましい。第一導電層71と第二導電層72との間には開口部を有する絶縁層9が形成されている。
一導電型単結晶シリコン基板1と導電型シリコン系薄膜3a,3bとの間には、真性シリコン系薄膜2a,2bを有することが好ましい。裏面側透明電極層6b上には裏面金属電極8を有することが好ましい。
更に、光電変換部50には、一主面側の周縁部と側面に絶縁領域A0が形成されている。前記絶縁領域A0は、前記光電変換部における第一の主面側表面および第二の主面側表面の幅を各々W1およびW2としたとき、W1<W2を満たし、かつ、前記基板が露出するように、前記光電変換部の第一の主面の周縁部と側面に跨って形成された肩構造を有する。
まず、本発明の結晶シリコン系太陽電池における、一導電型単結晶シリコン基板1について説明する。一般的に単結晶シリコン基板は、導電性を持たせるために、シリコンに対して電荷を供給する不純物を含有している。単結晶シリコン基板は、シリコン原子に電子を導入するための原子(例えばリン)を含有させたn型と、シリコン原子に正孔を導入する原子(例えばボロン)を含有させたp型がある。すなわち、本発明における「一導電型」とは、n型またはp型のどちらか一方であることを意味する。
ヘテロ接合太陽電池では、単結晶シリコン基板へ入射した光が最も多く吸収される入射側のへテロ接合を逆接合として強い電場を設けることで、電子・正孔対を効率的に分離回収することができる。そのため、光入射側のヘテロ接合は逆接合であることが好ましい。一方で、正孔と電子とを比較した場合、有効質量および散乱断面積の小さい電子の方が、一般的に移動度が大きい。以上の観点から、ヘテロ接合太陽電池に用いられる単結晶シリコン基板1は、n型単結晶シリコン基板であることが好ましい。単結晶シリコン基板1は、光閉じ込めの観点から、表面にテクスチャ構造を有することが好ましい。
テクスチャが形成された一導電型単結晶シリコン基板1の表面に、シリコン系薄膜が製膜される。シリコン系薄膜の製膜方法としては、プラズマCVD法が好ましい。プラズマCVD法によるシリコン系薄膜の形成条件としては、基板温度100〜300℃、圧力20〜2600Pa、高周波パワー密度0.004〜0.8W/cm2が好ましく用いられる。シリコン系薄膜の形成に使用される原料ガスとしては、SiH4、Si2H6等のシリコン含有ガス、またはシリコン系ガスとH2との混合ガスが好ましく用いられる。
導電型シリコン系薄膜3は、一導電型または逆導電型のシリコン系薄膜である。例えば、一導電型単結晶シリコン基板1としてn型が用いられる場合、一導電型シリコン系薄膜、および逆導電型シリコン系薄膜は、各々n型、およびp型となる。p型またはn型シリコン系薄膜を形成するためのドーパントガスとしては、B2H6またはPH3等が好ましく用いられる。また、PやBといった不純物の添加量は微量でよいため、予めSiH4やH2で希釈された混合ガスを用いることが好ましい。導電型シリコン系薄膜の製膜時に、CH4、CO2、NH3、GeH4等の異種元素を含むガスを添加して、シリコン系薄膜を合金化することにより、シリコン系薄膜のエネルギーギャップを変更することもできる。
シリコン系薄膜としては、非晶質シリコン薄膜、微結晶シリコン(非晶質シリコンと結晶質シリコンとを含む薄膜)等が挙げられる。中でも非晶質シリコン系薄膜を用いることが好ましい。例えば、一導電型単結晶シリコン基板1としてn型単結晶シリコン基板を用いた場合の光電変換部50の好適な構成としては、透明電極層6a/p型非晶質シリコン系薄膜3a/i型非晶質シリコン系薄膜2a/n型単結晶シリコン基板1/i型非晶質シリコン系薄膜2b/n型非晶質シリコン系薄膜3b/透明電極層6bの順の積層構成が挙げられる。この場合、前述の理由から、p層側を光入射面とすることが好ましい。
真性シリコン系薄膜2a,2bとしては、シリコンと水素で構成されるi型水素化非晶質シリコンが好ましい。単結晶シリコン基板上に、CVD法によってi型水素化非晶質シリコンが製膜されると、単結晶シリコン基板への不純物拡散を抑えつつ表面パッシベーションを有効に行うことができる。また、膜中の水素量を変化させることで、エネルギーギャップにキャリア回収を行う上で有効なプロファイルを持たせることができる。
p型シリコン系薄膜は、p型水素化非晶質シリコン層、p型非晶質シリコンカーバイド層、またはp型非晶質シリコンオキサイド層であることが好ましい。不純物拡散の抑制や直列抵抗低下の観点ではp型水素化非晶質シリコン層が好ましい。一方、p型非晶質シリコンカーバイド層およびp型非晶質シリコンオキサイド層は、ワイドギャップの低屈折率層であるため、光学的なロスを低減できる点において好ましい。
ヘテロ接合太陽電池101の光電変換部50は、導電型シリコン系薄膜3a,3b上に、透明電極層6a,6bを備えることが好ましい。透明電極層は、透明電極層形成工程により形成される。透明電極層6a,6bは、導電性酸化物を主成分とする。導電性酸化物としては、例えば、酸化亜鉛や酸化インジウム、酸化錫を単独または混合して用いることができる。導電性、光学特性、および長期信頼性の観点から、酸化インジウムを含んだインジウム系酸化物が好ましく、中でも酸化インジウム錫(ITO)を主成分とするものがより好ましく用いられる。ここで「主成分とする」とは、含有量が50重量%より多いことを意味し、70重量%以上が好ましく、90%重量以上がより好ましい。透明電極層は、単層でもよく、複数の層からなる積層構造でもよい。
透明電極層には、ドーピング剤を添加することができる。例えば、透明電極層として酸化亜鉛が用いられる場合、ドーピング剤としては、アルミニウムやガリウム、ホウ素、ケイ素、炭素等が挙げられる。透明電極層として酸化インジウムが用いられる場合、ドーピング剤としては、亜鉛や錫、チタン、タングステン、モリブデン、ケイ素等が挙げられる。透明電極層として酸化錫が用いられる場合、ドーピング剤としては、フッ素等が挙げられる。
ドーピング剤は、光入射側透明電極層6aおよび裏面側透明電極層6bの一方もしくは両方に添加することができる。特に、光入射側透明電極層6aにドーピング剤を添加することが好ましい。光入射側透明電極層6aにドーピング剤を添加することで、透明電極層自体が低抵抗化されるとともに、透明電極層6aと集電極7との間での抵抗損を抑制することができる。
光入射側透明電極層6aの膜厚は、透明性、導電性、および光反射低減の観点から、10nm以上140nm以下であることが好ましい。透明電極層6aの役割は、集電極7へのキャリアの輸送であり、そのために必要な導電性があればよく、膜厚は10nm以上であることが好ましい。膜厚を140nm以下にすることにより、透明電極層6aでの吸収ロスが小さく、透過率の低下に伴う光電変換効率の低下を抑制することができる。また、透明電極層6aの膜厚が上記範囲内であれば、透明電極層内のキャリア濃度上昇も防ぐことができるため、赤外域の透過率低下に伴う光電変換効率の低下も抑制される。
透明電極層の製膜方法は、特に限定されないが、スパッタ法等の物理気相堆積法や、有機金属化合物と酸素または水との反応を利用した化学気相堆積(MOCVD)法等が好ましい。いずれの製膜方法においても、熱やプラズマ放電によるエネルギーを利用することもできる。
透明電極層作製時の基板温度は、適宜設定される。例えば、シリコン系薄膜として非晶質シリコン系薄膜が用いられる場合、200℃以下が好ましい。基板温度を200℃以下とすることにより、非晶質シリコン層からの水素の脱離や、それに伴うシリコン原子へのダングリングボンドの発生を抑制でき、結果として変換効率を向上させることができる。
裏面側透明電極層6b上には、裏面金属電極8が形成されることが好ましい。裏面金属電極8としては、近赤外から赤外域の反射率が高く、かつ導電性や化学的安定性が高い材料を用いることが望ましい。このような特性を満たす材料としては、銀やアルミニウム等が挙げられる。裏面金属電極層の製膜方法は、特に限定されないが、スパッタ法や真空蒸着法等の物理気相堆積法や、スクリーン印刷等の印刷法等が適用可能である。
図3は、一実施形態により、シリコン基板1上に、シリコン系薄膜2,3;透明電極層6;および裏面金属電極層8までが形成された状態を模式的に表す断面図である。図3では、一導電型単結晶シリコン基板1の裏面側に真性シリコン系薄膜2bおよび一導電型シリコン系薄膜3bが形成された後、光入射側に真性シリコン系薄膜2aおよび逆導電型シリコン系薄膜3bが形成され、その後、光入射側の透明電極層6a、ならびに裏面側の透明電極層6bおよび裏面金属電極層8までが形成された場合の構造を模式的に示している(なお、結晶シリコン系太陽電池の各層の形成順は、図3に示す形態に限定されるものではない)。
マスクを使用せずに、CVD法やスパッタ法等により上記各層が形成された場合、一導電型単結晶シリコン基板1の裏面側の真性シリコン系薄膜2b、一導電型シリコン系薄膜3b、透明電極層6bおよび裏面金属電極層8は、製膜時の回り込みによって、一導電型結晶シリコン基板1の側面および光入射面にまで形成されている。また、一導電型単結晶シリコン基板1の光入射面に形成された真性シリコン系薄膜2b、逆導電型シリコン系薄膜3b、および透明電極層6aは、製膜時の回り込みによって、一導電型単結晶シリコン基板1の側面および裏面側にまで形成されている。このような回り込みが生じた場合、図3からも理解されるように、表面側の最表面層である透明電極層と、裏面側の透明電極層や裏面金属層が、短絡した状態となり、太陽電池の特性が低下するおそれがある。なお、各層の回り込みの順(各層の製膜順)は、図3には限定されず、どのような順番で製膜した場合であっても良い。
(絶縁処理)
絶縁処理として、例えば、表裏の透明電極層の短絡の様な、PN接合部を回避して電気的な短絡を取り除く絶縁領域が形成されることによって、回り込みによる電気的短絡の問題を解決することができる。
絶縁処理は、一般に太陽電池のP型半導体側とN型半導体側の電極間に短絡電流を生じさせないために行う工程である。例えば、絶縁処理が不十分な場合の例として、PN接合を跨るように側面端部等に透明電極層が付着しているような場合においては、PN接合部だけでなく、PN接合を跨るように付着した透明電極層などを介しても電流が流れることになる。このようなPN接合部の短絡により生じ得るリーク電流を抑制するために、通常は透明電極層や裏面電極層のマスク製膜を行うことで、回り込みによる短絡を防止したり、表裏の層を回り込むように製膜した後、レーザー照射やメカニカルな方法により短絡部を分離することにより短絡を除去する方法が行われている。
ここで、本明細書において光電変換部とは、半導体層や金属あるいは金属酸化物等からなる電極等が積層されて光起電力を生じさせ、更には、電力を取り出すという太陽電池の基本的な部分を指し、これらを積層するために用いられるガラス基板等の絶縁基材は、光電変換部には含まれない。また、第一の主面側に形成される絶縁層も、光閉じ込めの面では光電変換に関係するものの、直接的に光起電力を生じさせたり、導電性によって電力を取り出したりする部分ではないため、光電変換部には含まれない。
また、本明細書において、「絶縁領域」とは、前記基板の表面に形成された単一あるいは複数の特定の領域を指す用語であり、太陽電池の表裏の電気的短絡を防止する領域を意味する。例えば、ヘテロ接合太陽電池においては、前記一主面側の少なくとも光入射側透明電極層と、他主面側の少なくとも裏面電極層と、の短絡が除去された領域を意味する。典型的には、絶縁領域は、前記基板の一主面側の最表面層を構成する成分が少なくとも付着していない領域である。なお、「付着していない領域」とは、当該層を構成する材料元素が全く検出されない領域に限定されるものではなく、材料の付着量が周辺の「形成部」と比較して著しく少なく、当該層自体が有する特性(電気的特性、光学特性、機械的特性等)が発現しない領域も、「付着していない領域」に包含される。
これにより光電変換部の第一主面側の最表面層と、第二主面側の裏面電極層と、の電気的な短絡を除去する。裏面電極層としては、少なくとも第二透明電極層または裏面金属層のいずれか一方を有することが好ましい。例えば、ヘテロ接合太陽電池では、裏面電極層として、裏面側透明電極層や、全面に形成された場合の金属電極層などが含まれる。表面側の最表面層は、例えば、ヘテロ接合太陽電池では光入射側透明電極層が相当し、通常の結晶シリコン系太陽電池においては、導電型半導体層がこれに相当する。
ここで、裏面電極層は、裏面側の略全面に形成された電極層であり、例えば、ヘテロ接合太陽電池は、通常、裏面側透明電極層や、裏面金属電極層などが相当し、通常の結晶シリコン系太陽電池においては、裏面金属電極層がこれに相当する。また例えば、裏面電極層として裏面側透明電極層と裏面金属電極を有するものを用いる場合、光入射側透明電極層と裏面側透明電極層が基板側面に回り込んで製膜されており、裏面金属電極のみマスク製膜して回り込みが抑えられているような場合でも、電気抵抗の低い裏面側透明電極層を介して光入射側透明電極層と裏面金属電極も電気的に短絡しているということができる。なお、本発明において、「略全面」とは、ある領域において、ある層が90%以上に形成されていることを意味する。
なお、本発明におけるヘテロ接合太陽電池の場合、絶縁領域は、一主面側の最表面層が付着していないことが好ましく、更には第二主面側の裏面電極層も付着していないことがより好ましい。また一導電型単結晶シリコン基板が露出するように絶縁領域が形成されることが好ましい。
これにより短絡防止効果をより向上させることができる。また、別の例として、ヘテロ接合太陽電池以外の結晶系シリコン太陽電池においては、一導電型結晶シリコン基板内を含む表面側に逆導電型シリコン系層が形成された構造であり、最表面層が逆導電型シリコン系層であるため、絶縁領域は一導電型結晶シリコン基板の一主面側、及び/又は側面に形成される逆導電型シリコン層が形成されていない領域を意味する。この場合、逆導電型シリコン系層が形成されていない部分まで基板を削って、絶縁領域を形成することになる。絶縁領域の形成方法は特に限定されず、例えば、レーザー照射、機械研磨、化学エッチング等によって所定領域の電極層や半導体薄膜等を除去する方法等が挙げられる。
以下では、ヘテロ接合太陽電池を用いた場合の好ましい実施形態について説明するが、本発明における太陽電池は、以下に限定されるものではない。
一導電型半導体基板として一導電型単結晶シリコン基板を用い、該シリコン基板の一主面上に逆導電型半導体層として逆導電型シリコン系薄膜と、一主面側の最表面層として透明電極層を有し、該シリコン基板の第二の主面側に裏面電極層として第二透明電極層と裏面金属層を有するヘテロ接合太陽電池を用いて説明する。
図4(A)〜(C)は、それぞれ、半導体層や透明電極層を製膜後に、光電変換部の第一の主面の周縁部および側面に絶縁領域が形成された場合の例を表す模式的断面図である。
図4(A1)では表裏の半導体層や透明電極層、絶縁層が基板の側面にまで回り込んで形成されている様子を模式的に示している。また図4(A1)では、裏面金属電極層も側面に回りこんで形成されている。
このような太陽電池の光電変換部の第一の主面の周縁部および側面に絶縁領域が形成される。なお、図4(B)中における太線部分が絶縁領域に相当する。本発明においては、図4(B)に示すように絶縁領域A0として、光電変換部の一主面側表面から側面へ跨って形成された肩構造を有する。
図4(B1)では、シリコン基板1の主面から側面に跨るように、表裏の透明電極層6およびシリコン系薄膜2,3、絶縁層9が除去された絶縁領域A0が形成されている。ここで、A0は第一の主面側の基板1も除去するように形成されている。図4(B1)においては、肩構造部分が絶縁領域A0となる。
図4(B2)では、シリコン基板1の主面から側面に跨るように、表裏の透明電極層6およびシリコン系薄膜2,3、絶縁層が除去された絶縁領域A0が形成されており、A0は第一の主面側の基板も除去するように形成されている。さらに、側面に形成されていた表裏の半導体層および透明電極層、絶縁層が全て除去されている。この際、図4(B2)も示されているように、基板側面にもレーザー痕が形成されている。
この場合、図4(B2)における「レーザー痕A1」も絶縁領域に含まれる。すなわち、肩構造部分とレーザー痕部分が絶縁領域A0となる。ここで、例えば、レーザー照射により溝を形成した後に、メカニカルに基板を折り割りした場合も、該折割り部分の断面形状は類似した形状となるが、折り割りを実施した場合は、図4(B2)のようなレーザー痕A1が存在しない点で異なる。更に、レーザー照射のみで基板の割断まで実施する場合は、図4(B2)のように「肩構造」の様な形状とはならず、側面は、レーザー痕のみを有する面となる。
本発明のように、絶縁領域A0として肩構造を形成することにより、レーザー照射により溝を形成後に折割りを行う場合に比べて、製造工程を低減することができる。またレーザー照射のみにより基板の割断を行う場合と異なり、レーザー照射回数を低減できるため、生産性の観点から好ましい。すなわち、レーザー照射のみで割断する場合、光電変換部の第一の主面側と第二の主面とを貫通させるようにレーザー照射するためには、ある程度のレーザー照射回数が必要であるが、本発明においては、貫通させる必要がないため、好ましい。
図4(B3)では、段差のある構造とは別に、斜めに絶縁領域が形成されている場合を示している。図4(A2)では、図4(A1)とほぼ同様であるが、裏面金属電極のみマスクをして形成している点で異なる構造を示している。
図4(B4)においては、表裏の半導体層と透明電極層、絶縁層が側面にまで回り込んで形成されており、裏面金属電極のみマスクを用いて形成することにより、側面への周り込みを防いでいる。図4(B5)では、図4(B4)からさらに側面に形成された半導体層、透明電極層、絶縁層が全て除去されている。図4(A2)のような場合、裏面金属電極はマスクにより形成領域を制限されているため、直接的に表側の最表面層とは接触していないが、低抵抗である裏面側透明電極層を介在して電気的に短絡しているため、絶縁領域がない状態では短絡していると言える。よって、絶縁領域が形成されることによって、第一の主面側の最表面層と裏面電極層の短絡が除去される。
図4(A3)では、表裏の半導体層や透明電極層が基板の側面にまで回り込んで形成されている様子を模式的に示している。更に図4(B6)において、レーザーにより絶縁領域A0を、基板を削り取るように形成した後に、図4(C)の様に絶縁層9を形成している。図4(C)では、絶縁領域A0上を覆うように絶縁層が形成されている。
これらの絶縁領域は、各層を製膜後に、レーザー照射、機械研磨等によって所定領域に付着した透明電極層や半導体薄膜等を除去することにより形成される。
本発明においては、図4(B1)〜(B6)に示すように、少なくとも第一の主面の最表面層が除去され、第一の主面と側面にまたがって形成された肩構造を有する絶縁領域が形成される。
すなわち、本実施形態においては、少なくとも第一の主面の最表面層である透明電極層が除去されており、また側面に回り込んだ第二の主面側の第二主面側層(透明電極層、および/または、裏面金属電極)との電気的な短絡が除去されて絶縁領域が形成されている。これらの絶縁領域では、シリコン基板1の一部が削り取られるように形成される。
絶縁処理工程としては、図5(A)に示されているように、光電変換部の一主面側表面に垂直な断面において、光電変換部の周縁部の側面端部から、光電変換部の表面と平行な方向への幅xが、0μm<x≦1000μmとなる位置に、前記一主面側および側面に前記一導電型単結晶シリコン基板を削るようにまたがり、かつ、光電変換部の第一の主面および第二の主面の表面の幅を各々W1およびW2としたとき、W1<W2を満たすように形成されるように(図5(C)参照)、レーザー照射を行うことが好ましい。中でも、後述のように、集電極形成後に絶縁処理を行う場合、集電極よりも外側にレーザー照射を行うことが好ましい。また一主面側の周縁部にレーザー光を照射することがより好ましく、該一主面周縁部の全周に亘ってレーザー光を照射する工程を有することがさらに好ましい。また該一主面周縁部の全周に亘って連続してレーザー照射することが特に好ましい。
この場合、溝を周縁部全周に連続して形成する場合に生じ得る、基板の角部分からの破断をより抑制することができる。特にヘテロ接合太陽電池など、通常単結晶シリコン基板を使用するため、特定の結晶方向に劈開しやすく、破損しやすいが、本発明のように肩構造を有する絶縁領域を形成することにより、別途の折割り工程等が不要なため、破損をより抑制することができる。
なお、第一主面もしくは第二主面上における「光電変換部の幅」とは、光電変換部の一主面側表面に垂直な断面において、ある主面上に製膜された表面の層のにおける最も離れた距離を意味する。すなわち、ある主面の表面側の層として、最表面層をマスクにより、その下地層よりも幅が小さくなるように製膜した場合、該主面における「光電変換部の幅」は最表面層の下地層の幅を意味する。例えば、裏面電極層として、裏面全面に形成された第二透明電極層と、マスク製膜により前記第二透明電極層よりも面積が小さい範囲に形成した裏面金属電極を用いる場合、裏面側の「光電変換部の幅」は、第二透明電極層の幅を意味する。
ここで、本発明においては、一導電型単結晶シリコン基板の一主面(光入射面)と他主面(裏面)との間に側面を有する。「周縁部」とは、図6の斜線部として示されている部分を表し、一主面から見た場合、側面により近い領域を意味する。この際、レーザー光を周縁部から側面にかけて照射し、前記一主面側の周縁部と側面に跨って形成された肩構造を有する絶縁領域A0が形成される。上述の様に、図4(A)に示すように、第一の主面と第二の主面の層が回り込んで形成された光電変換部に対し、レーザー照射等により絶縁処理を行うことで図4(B1)〜(B5)に示されているように絶縁領域A0を形成する。
ここで、本発明において「肩構造」とは、図6に示すように、光電変換部の第一の主面および第二の主面の表面の幅を各々W1およびW2としたとき、W1<W2を満たし、基板が露出するように光電変換部の第一の主面の周縁部および側面に跨って形成されれば特に制限されない。
例えば、図4(A)に示すように、光電変換部の側面に回り込んで製膜されている各層は、レーザー照射により除去されてしまう場合があり、図4(B2)の「レーザー痕A1」の様に除去されてしまっても良い。この場合、第一主面側から側面にまたがる領域では、典型的には、シリコン基板も除去され、「レーザー痕A1」で表されている側面においては回り込んだ薄膜のみ除去されている。
ヘテロ接合太陽電池においては、電気的な短絡を防ぐ絶縁領域は、第一の主面から側面に跨る領域だけでなく、側面の各層が除去された部分も含まれる。これは、ヘテロ接合太陽電池の場合、第一の主面側の最表面層である光入射面側の透明電極層は基板表面上に付着しているだけであるため、通常はレーザー痕が残る程度にレーザーが照射されると、その部分における透明電極層は除去される。一方で、例えば、一導電型(例えばp型)結晶シリコン基板の一主面上に逆導電型(例えばn型)の拡散層を有する結晶シリコン系太陽電池においては、通常基板内へのドーピングによって逆導電型半導体層が基板内部に形成され、それが光電変換部の最表面層となるため、レーザー痕が残っていても、基板が削れるほどでなければ、必ずしも最表面層全てが除去されているとは限らず、「レーザー痕A1」で表される部分は絶縁領域に含まれない場合もある。この場合、レーザー照射により第一主面側から側面に跨って基板が除去された肩構造部分のみが絶縁領域となる。
また、図4(B1)に示すように、側面に回り込んだ各層は残り、絶縁領域のみ除去されてもよい。図4(B1)の様に残ったままの状態の方が、側面におけるパッシベーションの観点からより好ましい。
なお、本発明においては、上述のようなヘテロ接合太陽電池に限定されるものではない。例えば、ヘテロ接合太陽電池以外の例である結晶系シリコン太陽電池においては、第一の主面側、及び側面に最表面層である逆導電型半導体層が形成されており、かつ、裏面側の電極層として裏面側金属電極が形成されている場合は、絶縁領域において、少なくとも逆導電型半導体層が付着していない絶縁領域が形成されていることが好ましく、裏面金属電極層も付着していないことが好ましい。
また、絶縁処理工程は、第一主面上の最表面層と、第二主面上の裏面電極層を形成後であれば、どの段階で行っても良い。例えば、ヘテロ接合太陽電池を用いる場合、光入射側透明電極層と裏面側透明電極層、裏面金属電極を形成後であれば、どの段階で行っても良い。
レーザー光は光電変換部の第一主面側から、該第一主面上における周縁部に照射し、図5(A)のように、照射する位置はセルの側面端部から、光電変換部の表面と平行な方向への幅をxとすると、0<x≦1000μmであることが好ましく、0<x<700μmであることが更に好ましく、更には0<x<500μmであることが特に好ましい。十分な絶縁機能を持つ絶縁領域が形成されれば、xは小さければ小さいほど、太陽電池の受光面積が増加するため好ましい。また、図4(B3)のように、斜めに肩構造が形成されている場合は、図5(B)に示されているように肩構造部の底辺の長さをxとする。
また、前記絶縁領域は、図5(A)に示されているように、基板の厚みをdとし、肩構造形成領域における前記光電変換部の第一の主面側から第二主面側への厚み方向の距離をd1とすると、0<d1≦0.95dであることが好ましく、d1≦0.5dであることが更に好ましく、d1≦0.2dであることが特に好ましい。これは、レーザー照射により形成されるダメージ部の面積がより小さくなればなるほど、キャリアの再結合中心が減少し、太陽電池特性の向上が期待できるからである。
d1は絶縁領域における基板厚みの平均値から算出することが好ましく、測定方法としては、SEMや光学顕微鏡による断面観察や段差計を用いて測定することが好ましい。なお、光電変換部の表面に凹凸形状を有する場合は、上述の方法等により取得した断面データに関して、所望の幅を計測したい位置の近傍で10点程度の幅を計測し、その平均値を測定することにより求めることができる。
なお、光電変換部の表面に凹凸形状を有する場合は、光電変換部の第一の主面側表面の凸部から第二の主面側表面の凸部までの厚みを意味する。この場合、例えば、光電変換部の表面に垂直な断面において第一の主面と第二の主面の凸部間の距離を10点程度求め、該距離の平均値を求めることにより算出することができる。この際、断面は、上述のように例えばSEMなどにより100倍〜1000倍程度で観察することにより求めることができる。
通常、裏表面の短絡を防止するために、各層を形成した後に、照射面を上にし、上から下へとレーザー照射することにより溝が形成され、最後に溝形成により生じた残渣(すなわち堆積物)が除去されることが一般的に行われている。例えば、波長の短いレーザーを用いて、PN接合部とは反対側の面(すなわち本発明においては第二の主面側)から、PN接合部には達しないようにレーザー光を照射して溝を形成し、メカニカルに折り割りを行うことで、絶縁処理を行うことができる。
しかしながら、この場合、レーザー照射によりPN接合部に達しないように溝を形成するだけでは、電気的な絶縁を取ることはできず、絶縁処理のために必ず折り割りが必要になる。このため、シリコン基板の端部から、ある程度距離をとった所に溝を形成しないと、メカニカルに折り割りを実施することは困難である。従って、元のシリコン基板を最大限に利用することができず、受光面積にロスが生じることとなる。
一方で、PN接合部側(すなわち本発明においては第一の主面側)からレーザー光を照射した場合は、レーザーによる溝だけで電気的な絶縁を実現することができるため、シリコン基板の端部に非常に近いところにレーザーを照射することにより、受光面積を広くすることが可能である。
すなわち、PN接合部に達するようにレーザー照射を行う場合、別途の折割処理を行う必要がないが、PN接合部でダメージが生じ、リーク電流が発生するため、好ましくないとされてきた。しかしながら本発明のように、第一の主面の周縁部から側面に跨るように形成された肩構造を有する絶縁領域を形成することで、できる限り側面端部近傍に絶縁領域を形成することができるため、発電面積を増加させることができる。従って、変換効率の高い太陽電池を作製できる。また後述のように、該太陽電池を用いた太陽電池モジュールを作製した場合、後述のように配線部材の接触によるリーク電流の発生を抑制することが期待できる。
レーザー光としては、基材として用いられる材料が吸収可能な光の波長で、絶縁領域A0の形成に十分な出力を有するものが適用可能であり、絶縁領域A0の周辺に堆積物を形成できればどのようなものでも良い。たとえは、YAGレーザーやArレーザーの第3高調波等の波長が400nm以下のUVレーザーでは、絶縁領域の深さを低減させることができるため、基板へのダメージを抑制しながら絶縁領域A0を形成しやすく、表裏の電気的な絶縁処理を行うことが可能である。
パワーとしては、1〜20Wのものを用いることができ、また、レーザー光の光径としては、例えば、20〜200μmのものを用いることができる。このような条件のレーザー光を照射することにより、幅が上記のレーザー光の光径とほぼ同じである絶縁領域を形成することができる。また、より長波長光を利用する、第2高調波レーザーやIRレーザーを使用しても良い。
また、レーザー光を太陽電池の光入射面から照射することにより、受光面側の集電極に対して対称な位置をレーザーで加工することができる。これにより裏面からレーザーを照射した場合に比べ、端部からの距離が概ね均等な位置に集電極を配置することができ、集電極の位置ズレによる電気抵抗ロスを最小に抑えることができ、量産時において曲率因子を安定的に高い値に保つことができる。
またメカニカルに絶縁領域を形成する方法としては、スクラバーやダイシングソー等の方法を用いることができる。この場合、レーザーによるPN接合へのダメージは生じず、電気的短絡部を含まない太陽電池を形成することができる。またこの場合、リーク電流が生じないため、変換効率の高い太陽電池を作製できる。
太陽電池性能向上の観点から、絶縁領域は、集電極70よりも外周の領域に設けられることが好ましい。
絶縁領域の形成は、絶縁層の形成前でも後でもどちらでも良いが、絶縁層形成前に絶縁処理を実施することがより好ましい。中でも、図4(F)の様に、絶縁領域上に絶縁層が形成されることがより好ましい。これによって、めっき法により集電極が形成される際に生じうる、基板への不純物の拡散がより抑制されると考えられる。
絶縁領域形成後に熱処理(熱処理工程)が行われることが好ましい。これにより絶縁領域でのリーク電流を抑制することができる。例えば、本発明の一実施形態のように第一主面側からレーザー照射により一導電型単結晶シリコン基板と逆導電型シリコン系薄膜にまたがるPN接合部への溝形成を行う際に生じうる、PN接合部へのダメージをより抑制することが可能となる。また上記実施形態のようにPN接合部有するものだけでなく、一導電型半導体基板と逆導電型半導体層との間に、真性半導体層などを含む、PIN接合部を有する場合でも同様と考えられる。
熱処理工程で、絶縁領域を加熱する温度は、リーク電流を抑制する観点から、150℃以上であることが好ましく、170℃以上であることがより好ましい。一方、本発明の太陽電池として、逆導電型半導体層として非晶質半導体層を用いたり、また透明電極層を有するものを用いる場合、これらの層の変質に伴う、VocやFFの低下をより抑制できる観点から、熱処理温度は250℃以下であることが好ましく、230℃以下であることがより好ましい。
熱処理工程における雰囲気や処理圧力は、大気圧、減圧雰囲気、真空中、加圧雰囲気のいずれで実施してもよい。裏面電極層の変質(例えば、酸化)などをより抑制できる観点から、減圧雰囲気や真空中、酸化性ガスを低減した雰囲気で実施することが好ましい。なお、大気中とは、大気雰囲気の組成、圧力を特に制御することなく熱処理工程を実施することを意味する。なお、熱処理工程において、機密性の高い設備を用いた場合、加熱により設備内に封止された大気が熱膨張し、装置内の圧力が大気圧よりも高くなり得るが、このときも大気圧中とみなすものとする。
また、上述のように、光入射面側の集電極として、樹脂ペーストを含有する導電性ペースト等を用いる場合、一般的に、まず150℃程度で乾燥させた後、別途樹脂ペーストを170℃〜210℃程度で硬化している。この際、前記熱処理工程において前記集電極の硬化を行うことが好ましい。なお、集電極は、絶縁処理工程前に形成しても良いし、絶縁処理工程後に形成しても良い。
上記の絶縁領域の形成方法の中でも、生産性の観点および短絡を確実に除去する観点からは、レーザー照射を用いた方法が特に好ましい。後述するように、基板の割断面が絶縁層9により覆われることで、リーク電流が防止されると共に、モジュール化のために配線部材等のインターコネクタを接続する際の短絡をも効率的に抑止することができ、モジュール化工程を簡略化することが可能となる。
従来技術である、光入射面側に溝構造を形成することで、絶縁処理を行う場合、図7(A)に矢印で電流の流れが模式的に示されているように、モジュール化を行った際に配線部材によって太陽電池の表裏電極が短絡する可能性が生じる。ここで、本来配線部材と第二導電層との間に半田やコンダクティブフィルム等を用いて接着を行うが、図7では簡略化のため、半田等は省略している。図7(A)に示されているように、通常はセルの最表面には絶縁層9が形成されているため、絶縁層により電気的な短絡はある程度防止できると考えられるが、モジュール化を行う際に、例えばラミネート工程等によって、熱が配線部材に加わった際の膨張、収縮や、行程中の搬送などの際の物理的な衝突等により、配線部材がセルと接触し、絶縁層9にダメージが加わることなどでピンホール等が生じる可能性がある。この場合、絶縁層のピンホール等を通して、光入射面側の透明電極層と配線部材が直接接触し、リーク電流が発生すると考えられる。また、結晶シリコン系太陽電池の様に表面に凹凸構造を有する場合、凸部の頂点がよりピンホールができやすいと考えられる。
一方で、図7(B)の様に、本発明に依れば、絶縁領域A0が前記一主面側の周縁部と側面にまたがって形成された肩構造を有するため、配線部材と裏面側の電極との接触が抑制される。これにより、モジュール化後のリーク電流の発生を防ぐことが可能になる。更に図7(C)の記載されているように、絶縁領域の上(特に肩構造の上)に絶縁層が形成されている場合は、更にリーク電流発生が抑制されることが期待できると考えられる。
なお、この際、配線部材が、絶縁領域A0における肩構造が形成された領域の少なくとも一部上に形成されている場合、上述のような効果がより期待できる。中でも、絶縁領域A0が絶縁層で覆われている場合、配線部材が絶縁領域A0上に形成されることがより好ましい。中でも、絶縁領域の略全面が絶縁層により覆われていることがさらに好ましく、全面が覆われていることが特に好ましい。なお絶縁領域の「略全面」とは、絶縁領域の90%以上が覆われていることを意味する。
以上のように形成された光電変換部の第一の主面もしくは第二の主面上に、集電極70が形成される。図2に示すヘテロ接合太陽電池の実施形態では、光入射側の透明電極層6a上に、集電極7が形成される。この際、前記絶縁領域は、第一主面側の最表面層形成後、及び裏面電極層形成後であれば集電極形成後であっても良いし、集電極としての第一導電層形成後第二導電層形成前であってもよい。
集電極7は、第一導電層71と、第二導電層72とを含む。第一導電層71は、光電変換部の耐熱温度よりも低温の熱流動開始温度T1を有する、低融点材料を含むことが好ましい。
本実施形態においては、第一導電層71と第二導電層72との間に開口部を有する絶縁層9が形成される。本発明の集電極7において、第二導電層72の一部は、第一導電層71に導通されている。ここで「一部が導通されている」とは、典型的には絶縁層に開口部が形成され、その開口部に第二導電層の材料が充填されていることによって、導通されている状態であり、また絶縁層の一部の膜厚が、数nm程度と非常に薄くなる(すなわち局所的に薄い膜厚の領域が形成される)ことによって、第二導電層72が第一導電層71に導通しているものも含む。例えば、第一導電層71の低融点材料がアルミニウム等の金属材料である場合、その表面に形成された酸化被膜(絶縁層に相当)を介して第一導電層71と第二導電層との間が導通されている状態が挙げられる。
絶縁層9に、第一導電層と第二導電層とを導通させるための開口部を形成する方法は特に制限されず、レーザー照射、機械的な孔開け、化学エッチング等の方法が採用できる。一実施形態では、第一導電層中の低融点材料を熱流動させることによって、その上に形成された絶縁層に開口部を形成する方法が挙げられる。
第一導電層中の低融点材料の熱流動により開口を形成する方法としては、低融点材料を含有する第一導電層71上に絶縁層9を形成後、低融点材料の熱流動開始温度T1以上に加熱(アニール)して第一導電層の表面形状に変化が生じさせ、その上に形成されている絶縁層9に開口(き裂)を形成する方法;あるいは、低融点材料を含有する第一導電層71上に絶縁層9を形成する際にT1以上に加熱することにより、低融点材料を熱流動させ、絶縁層の形成と同時に開口を形成する方法が挙げられる。
以下、第一導電層中の低融点材料の熱流動を利用して、絶縁層に開口を形成する方法を図面に基づいて説明する。なお、本発明においては、以下の実施形態に限定されるものではない。
図8は、太陽電池の光電変換部50上への集電極70の形成方法の一実施形態を示す工程概念図である。この実施形態では、まず、光電変換部50が準備される(光電変換部準備工程、図8(A))。例えば、ヘテロ接合太陽電池の場合は、前述のように、一導電型シリコン基板上に、シリコン系薄膜および透明電極層を備える光電変換部が準備される。
光電変換部の一主面上に、低融点材料711を含む第一導電層71が形成される(第一導電層形成工程、図8(B))。その後、光電変換部に絶縁領域が形成される(絶縁処理工程、図8(C))。絶縁領域は、前記一主面から側面に跨って形成された肩構造を有する。前記肩構造は、前記光電変換部における第一の主面側表面および第二の主面側表面の幅を各々W1およびW2としたとき、W1<W2を満たし、かつ、前記基板が露出するように形成される。
絶縁領域の形成は、第一主面側の最表面層と第二主面側の裏面電極層形成後であれば、第一導電層形成前であっても良いし、第二導電層形成後であってもよいが、本実施形態のように、第一導電層形成後、めっき工程前に行うことが好ましい。
なお、図8(C)では、レーザー照射を行う方法により絶縁領域を形成する例が図示されている。絶縁領域形成後に、第一導電層71上に、絶縁層9が形成される(絶縁層形成工程、図8(D))。絶縁層9は、第一導電層71上にのみ形成されていてもよく、光電変換部50の第一導電層71が形成されていない領域(第一導電層非形成領域)上にも形成されていてもよい。特に、ヘテロ接合太陽電池のように、光電変換部50の表面に透明電極層が形成されている場合は、第一導電層非形成領域上にも絶縁層9が形成されることが好ましい。また、本発明においては、この絶縁層形成工程において、図8(D)又は図8(D’)の様に絶縁処理工程で形成された絶縁領域A0上にも絶縁層9が形成されることが好ましく、絶縁領域の全面を覆うように形成されていることがより好ましい。この際、図8(D’)の様に、絶縁層9を形成した段階で開口部9hが形成されても良い。
絶縁層が形成された後、加熱によるアニール処理が行われる(アニール工程、図8(E))。アニール処理により、第一導電層71がアニール温度Taに加熱され、低融点材料が熱流動することによって表面形状が変化し、それに伴って第一導電層71上に形成された絶縁層9に変形が生じる。絶縁層9の変形は、典型的には、絶縁層への開口部9hの形成である。開口部9hは、例えばき裂状に形成される。
この際、アニール工程と、上述の熱処理工程とを同時に行うことが好ましい。この場合、第一導電層上の絶縁層への開口部の形成と、リーク電流低減のための絶縁領域の熱処理と、を同時に行うことができるため、生産性の観点から好ましい。
アニール処理により絶縁層に開口部を形成した後に、めっき法により第二導電層72が形成される(めっき工程、図8(F))。第一導電層71は絶縁層9により被覆されているが、絶縁層9に開口部9hが形成された部分では、第一導電層71が露出した状態である。そのため、第一導電層がめっき液に曝されることとなり、この開口部9hを起点として金属の析出が可能となる。このような方法によれば、集電極の形状に対応する開口部を有するレジスト材料層を設けずとも、集電極の形状に対応する第二導電層をめっき法により形成することができる。
アニール後に、めっき法により第二導電層72が形成される(めっき工程、図8(F))。第一導電層71は絶縁層9により被覆されているが、絶縁層9に開口部9hが形成された部分では、第一導電層71が露出した状態である。そのため、第一導電層がめっき液に曝されることとなり、この開口部9hを起点として金属の析出が可能となる。このような方法によれば、集電極の形状に対応する開口部を有するレジスト材料層を設けずとも、集電極の形状に対応する第二導電層をめっき法により形成することができる。さらに、図8(D)の様に、透明電極層やシリコン系薄膜等が除去されシリコン基板1が露出している絶縁領域A0が、事前に絶縁層9により覆われることにより、太陽電池特性の低下を生じ得る不純物(例えば、銅イオン等)が、めっき工程中に、絶縁領域A0から結晶シリコン基板へと拡散することを防ぐことができる。
なお、図8(C)では、第一導電層形成後に、絶縁領域A0を形成する方法が図示されているが、絶縁領域A0の形成は、第一主面側の最表面層と第二主面側の裏面電極層の形成後(すなわち図8(A)に示すような光電変換部準備工程後)であれば、いずれの段階で行われてもよい。
例えば、透明電極層6a、及び裏面電極層6bと8を形成後、第一導電層形成前に絶縁領域A0が形成されてもよい。また、絶縁処理工程は絶縁層形成工程前後のいずれであっても良いが、絶縁層形成工程の前に実施されれば、絶縁領域A0を、容易に絶縁層9で覆うことができる。
(第一導電層)
第一導電層71は、めっき法により第二導電層が形成される際の導電性下地層として機能する層である。そのため、第一導電層は電解めっきの下地層として機能し得る程度の導電性を有していればよい。なお、本明細書においては、体積抵抗率が10−2Ω・cm以下であれば導電性であると定義する。また、体積抵抗率が、102Ω・cm以上であれば、絶縁性であると定義する。
第一導電層71の膜厚は、コスト的な観点から20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。一方、第一導電層71のライン抵抗を所望の範囲とする観点から、膜厚は0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。
第一導電層71は、熱流動開始温度T1の低融点材料を含むことが好ましい。熱流動開始温度とは、加熱により材料が熱流動を生じ、低融点材料を含む層の表面形状が変化する温度であり、典型的には融点である。高分子材料やガラスでは、融点よりも低温で材料が軟化して熱流動を生じる場合がある。このような材料では、熱流動開始温度=軟化点と定義できる。軟化点とは、粘度が4.5×106Pa・sとなる温度である(ガラスの軟化点の定義に同じ)。
低融点材料は、アニール処理において熱流動を生じ、第一導電層71の表面形状に変化を生じさせるものであることが好ましい。そのため、低融点材料の熱流動開始温度T1は、アニール温度Taよりも低温であることが好ましい。また、本発明においては、光電変換部50の耐熱温度よりも低温のアニール温度Taでアニール処理が行われることが好ましい。したがって、低融点材料の熱流動開始温度T1は、光電変換部の耐熱温度よりも低温であることが好ましい。
光電変換部の耐熱温度とは、当該光電変換部を備える太陽電池(「太陽電池セル」または「セル」ともいう)あるいは太陽電池セルを用いて作製した太陽電池モジュールの特性が不可逆的に低下する温度である。例えば、図2に示すヘテロ接合太陽電池101では、光電変換部50を構成する単結晶シリコン基板1は、500℃以上の高温に加熱された場合でも特性変化を生じ難いが、透明電極層6や非晶質シリコン系薄膜2,3は250℃程度に加熱されると、熱劣化を生じたり、ドープ不純物の拡散を生じ、太陽電池特性の不可逆的な低下を生じる場合がある。そのため、ヘテロ接合太陽電池においては、第一導電層71は、熱流動開始温度T1が250℃以下の低融点材料を含むことが好ましい。
低融点材料の熱流動開始温度T1の下限は特に限定されない。アニール処理時における第一導電層の表面形状の変化量を大きくして、絶縁層9に開口部9hを容易に形成する観点からは、第一導電層の形成工程において、低融点材料は熱流動を生じないことが好ましい。例えば、塗布や印刷により第一導電層が形成される場合は、乾燥のために加熱が行われることがある。この場合は、低融点材料の熱流動開始温度T1は、第一導電層の乾燥のための加熱温度よりも高温であることが好ましい。かかる観点から、低融点材料の熱流動開始温度T1は、80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。
低融点材料は、熱流動開始温度T1が上記範囲であれば、有機物であっても、無機物であってもよい。低融点材料は、電気的には導電性であっても、絶縁性でも良いが、導電性を有する金属材料であることが望ましい。低融点材料が金属材料であれば、第一導電層の抵抗値を小さくできるため、電気めっきにより第二導電層が形成される場合に、第二導電層の膜厚の均一性を高めることができる。また、低融点材料が金属材料であれば、光電変換部50と集電極70との間の接触抵抗を低下させることも可能となる。
低融点材料としては、低融点金属材料の単体もしくは合金、複数の低融点金属材料の混合物を好適に用いることができる。低融点金属材料としては、例えば、インジウムやビスマス、ガリウム等が挙げられる。
第一導電層71は、上記の低融点材料に加えて、低融点材料よりも相対的に高温の熱流動開始温度T2を有する高融点材料を含有することが好ましい。第一導電層71が高融点材料を有することで、第一導電層と第二導電層とを効率よく導通させることができ、太陽電池の変換効率を向上させることができる。例えば、低融点材料として表面エネルギーの大きい材料が用いられる場合、アニール処理により第一導電層71が高温に曝されて、低融点材料が液相状態になると、図9に概念的に示すように、低融点材料の粒子が集合して粗大な粒状となり、第一導電層71に断線を生じる場合がある。これに対して、高融点材料はアニール処理時の加熱によっても液相状態とならないため、第一導電層形成材料中に高融点材料を含有することによって、図9に示すような低融点材料の粗大化による第一導電層の断線が抑制され得る。
高融点材料の熱流動開始温度T2は、アニール温度Taよりも高いことが好ましい。すなわち、第一導電層71が低融点材料および高融点材料を含有する場合、低融点材料の熱流動開始温度T1、高融点材料の熱流動開始温度T2、およびアニール処理におけるアニール温度Taは、T1<Ta<T2を満たすことが好ましい。高融点材料は、絶縁性材料であっても導電性材料であってもよいが、第一導電層の抵抗をより小さくする観点から導電性材料が好ましい。また、低融点材料の導電性が低い場合は、高融点材料として導電性の高い材料を用いることにより、第一導電層全体としての抵抗を小さくすることができる。導電性の高融点材料としては、例えば、銀、アルミニウム、銅などの金属材料の単体もしくは、複数の金属材料を好ましく用いることができる。
第一導電層71が低融点材料と高融点材料とを含有する場合、その含有比は、上記のような低融点材料粗大化による断線の抑止や、第一導電層の導電性、絶縁層への開口部の形成容易性(第二導電層の金属析出の起点数の増大)等の観点から、適宜に調整される。その最適値は、用いられる材料や粒径の組合せに応じて異なるが、例えば、低融点材料と高融点材料の重量比(低融点材料:高融点材料)は、5:95〜67:33の範囲である。低融点材料:高融点材料の重量比は、10:90〜50:50がより好ましく、15:85〜35:65がさらに好ましい。
第一導電層71の材料として、金属粒子等の粒子状低融点材料が用いられる場合、アニール処理による絶縁層への開口の形成を容易とする観点から、低融点材料の粒径DLは、第一導電層の膜厚dの1/20以上であることが好ましく、1/10以上であることがより好ましい。低融点材料の粒径DLは、0.25μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。また、第一導電層71が、スクリーン印刷等の印刷法により形成される場合、粒子の粒径は、スクリーン版のメッシュサイズ等に応じて適宜に設定され得る。例えば、粒径は、メッシュサイズより小さいことが好ましく、メッシュサイズの1/2以下がより好ましい。なお、粒子が非球形の場合、粒径は、粒子の投影面積と等面積の円の直径(投影面積円相当径、Heywood径)により定義される。
低融点材料の粒子の形状は特に限定されないが、扁平状等の非球形が好ましい。また、球形の粒子を焼結等の手法により結合させて非球形としたものも好ましく用いられる。一般に、金属粒子が液相状態となると、表面エネルギーを小さくするために、表面形状が球形となりやすい。アニール処理前の第一導電層の低融点材料が非球形であれば、アニール処理により熱流動開始温度T1以上に加熱されると、粒子が球形に近付くため、第一導電層の表面形状の変化量がより大きくなる。そのため、第一導電層71上の絶縁層9への開口部の形成が容易となる。
前述のごとく、第一導電層71は導電性であり、体積抵抗率が10−2Ω・cm以下であればよい。第一導電層71の体積抵抗率は、10−4Ω・cm以下であることが好ましい。第一導電層が低融点材料のみを有する場合は、低融点材料が導電性を有していればよい。第一導電層が、低融点材料および高融点材料を含有する場合は、低融点材料および高融点材料のうち、少なくともいずれか一方が導電性を有していればよい。例えば、低融点材料/高融点材料の組合せとしては、絶縁性/導電性、導電性/絶縁性、導電性/導電性が挙げられるが、第一導電層をより低抵抗とするためには、低融点材料および高融点材料の双方が導電性を有する材料であることが好ましい。
第一導電層71の材料として上記のような低融点材料と高融点材料との組合せ以外に、材料の大きさ(例えば、粒径)等を調整することにより、アニール処理時の加熱による第一導電層の断線を抑制し、変換効率を向上させることも可能である。例えば、銀、銅、金等の高い融点を有する材料も、粒径が1μm以下の微粒子であれば、融点よりも低温の200℃程度あるいはそれ以下の温度T1’で焼結ネッキング(微粒子の融着)を生じるため、本発明の「低融点材料」として用いることができる。このような焼結ネッキングを生じる材料は、焼結ネッキング開始温度T1’以上に加熱されると、微粒子の周縁部付近に変形が生じるため、第一導電層の表面形状を変化させ、絶縁層9に開口部を形成することができる。また、微粒子が焼結ネッキング開始温度以上に加熱された場合であっても、融点T2’未満の温度であれば微粒子は固相状態を維持するため、図9に示すような材料の粗大化による断線が生じ難い。すなわち、金属微粒子等の焼結ネッキングを生じる材料は、本発明における「低融点材料」でありながら、「高融点材料」としての側面も有しているといえる。
このような焼結ネッキングを生じる材料では、焼結ネッキング開始温度T1’=熱流動開始温度T1と定義できる。図10は、焼結ネッキング開始温度について説明するための図である。図10(A)は、焼結前の粒子を模式的に示す平面図である。焼結前であることから、粒子は互いに点で接触している。図10(B)および図10(C)は、焼結が開始した後の粒子を、各粒子の中心を通る断面で切ったときの様子を模式的に示す断面図である。図10(B)は焼結開始後(焼結初期段階)、図10(C)は、(B)から焼結が進行した状態を示している。図10(B)において、粒子A(半径rA)と粒子B(半径rB)との粒界は長さaABの点線で示されている。
焼結ネッキング開始温度T1’は、rAとrBの大きい方の値max(rA,rB)と、粒界の長さaABとの比、aAB/max(rA,rB)が、0.1以上となるときの温度で定義される。すなわち、少なくとも一対の粒子のaAB/max(rA,rB)が0.1以上となる温度を焼結ネッキング開始温度という。なお、図10では単純化のために、粒子を球形として示しているが、粒子が球形でない場合は、粒界近傍における粒子の曲率半径を粒子の半径とみなす。また、粒界近傍における粒子の曲率半径が場所によって異なる場合は、測定点の中で最も大きな曲率半径を、その粒子の半径とみなす。例えば、図11(A)に示すように、焼結を生じた一対の微粒子A,B間には、長さaABの粒界が形成されている。この場合、粒子Aの粒界近傍の形状は、点線で示された仮想円Aの弧で近似される。一方、粒子Bの粒界近傍は、一方が破線で示された仮想円B1の弧で近似され、他方が実線で示された仮想円B2の弧で近似される。図11(B)に示されるように、rB2>rB1であるため、rB2を粒子Bの半径rBとみなす。なお、上記の仮想円は、断面もしくは表面の観察像の白黒2値化処理により境界を定め、粒界近傍の境界の座標に基づいて最小二乗法により中心座標および半径を算出する方法により、決定できる。なお、上記の定義により焼結ネッキング開始温度を厳密に測定することが困難な場合は、微粒子を含有する第一導電層を形成し、加熱により絶縁層に開口部(き裂)が生じる温度を焼結ネッキング開始温度とみなすことができる。後述するように、絶縁層形成時に加熱が行われる場合は、絶縁層形成時の基板の加熱により開口部(き裂)が生じる温度を焼成ネッキング開始温度とみなすことができる。
第一導電層の形成材料には、上記の低融点材料(および高融点材料)に加えて、バインダー樹脂等を含有するペースト等を好ましく用いることができる。また、スクリーン印刷法により形成された第一導電層の導電性を十分向上させるためには、熱処理により第一導電層を硬化させることが望ましい。したがって、ペーストに含まれるバインダー樹脂としては、上記乾燥温度にて硬化させることができる材料を用いることが好ましく、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、アクリル系樹脂等が適用可能である。この場合、硬化とともに低融点材料の形状が変化し、図8(E)に示すように、アニール処理時に、低融点材料近傍の絶縁層に開口(き裂)が生じやすくなるためである。なお、バインダー樹脂と導電性の低融点材料の比率は、いわゆるパーコレーションの閾値(導電性が発現する低融点材料含有量に相当する比率の臨界値)以上になるように設定すればよい。
第一導電層71は、インクジェット法、スクリーン印刷法、導線接着法、スプレー法、真空蒸着法、スパッタ法等の公知技術によって作製できる。第一導電層71は、櫛形等の所定形状にパターン化されていることが好ましい。パターン化された第一導電層の形成には、生産性の観点からスクリーン印刷法が適している。スクリーン印刷法では、金属粒子からなる低融点材料を含む印刷ペースト、および集電極のパターン形状に対応した開口パターンを有するスクリーン版を用いて、集電極パターンを印刷する方法が好ましく用いられる。
一方、印刷ペーストとして、溶剤を含む材料が用いられる場合には、溶剤を除去するための乾燥工程が必要となる。前述のごとく、この場合の乾燥温度は、低融点材料の熱流動開始温度T1よりも低温であることが好ましい。乾燥時間は、例えば5分間〜1時間程度で適宜に設定され得る。
第一導電層は、複数の層から構成されてもよい。例えば、光電変換部表面の透明電極層との接触抵抗が低い下層と、低融点材料を含む上層からなる積層構造であっても良い。このような構造によれば、透明電極層との接触抵抗の低下に伴う太陽電池の曲線因子向上が期待できる。また、低融点材料含有層と、高融点材料含有層との積層構造とすることにより、第一導電層のさらなる低抵抗化が期待できる。
以上、第一導電層が印刷法により形成される場合を中心に説明したが、第一導電層の形成方法は印刷法に限定されるものではない。例えば、第一導電層は、パターン形状に対応したマスクを用いて、蒸着法やスパッタ法により形成されてもよい。
(絶縁層)
第一導電層71上には、絶縁層9が形成される。ここで、第一導電層71が所定のパターン(例えば櫛形)に形成された場合、光電変換部50の表面上には、第一導電層が形成されている第一導電層形成領域と、第一導電層が形成されていない第一導電層非形成領域とが存在する。絶縁層9は、少なくとも第一導電層形成領域に形成される。本発明において、絶縁層9は、第一導電層非形成領域上にも形成されていることが好ましく、第一導電層非形成領域の全面に形成されていることが特に好ましい。
また絶縁層9は、絶縁領域A0の少なくとも一部を覆うように形成されることが好ましく、不純物の拡散抑制効果をより高める観点から、図4(C)に示すように、絶縁領域A0の全面を覆うように形成されることがより好ましい。また、結晶シリコン基板1の表面または側面に絶縁層が直接形成される場合、絶縁層の材料や製法を適宜選択することにより結晶シリコンの表面パッシベーション効果等が得られうる。さらに、めっき工程前に絶縁領域を形成する場合、絶縁領域の全面を覆うように絶縁層を形成することで、不純物の拡散抑制効果をより向上させることが期待できる。またモジュール化の際に生じうる配線部材の接触によるリーク電流の発生をより抑制することができる。
なお、絶縁領域を覆う絶縁層の材料は、第一導電層形成領域上に形成される絶縁層の材料と同じであっても、異なってもよいが、生産性の観点から同じ材料が用いられることが好ましい。同じ材料が用いられる場合、絶縁領域を覆う絶縁層と、第一導電層形成領域上の絶縁層は、同時に形成されることが好ましい。
なお、本発明においては、製造工程の簡略化等の観点から、第一導電層上に絶縁層9が形成される際に、絶縁領域の全てが絶縁層9で覆われることが好ましい。一方、絶縁層形成工程において絶縁領域の一部が絶縁層9により覆われ、他の部分が絶縁層により覆われない場合は、その前後に別の工程を設けて、絶縁領域の全てが絶縁層で覆われるようにしてもよい。
絶縁層が第一導電層非形成領域にも形成されている場合、めっき法により第二導電層が形成される際に、光電変換部をめっき液から化学的および電気的に保護することが可能となる。例えば、ヘテロ接合太陽電池のように光電変換部50の表面に透明電極層が形成されている場合は、透明電極層の表面に絶縁層が形成されることで、透明電極層とめっき液との接触が抑止され、透明電極層上への第二導電層の析出を防ぐことができる。また、生産性の観点からも、第一導電層形成領域と第一導電層非形成領域との全体に絶縁層が形成されることがより好ましい。
絶縁層9の材料としては、電気的に絶縁性を示す材料が用いられる。また、絶縁層9は、めっき液に対する化学的安定性を有する材料であることが望ましい。めっき液に対する化学的安定性が高い材料を用いることにより、第二導電層形成時のめっき工程中に、絶縁層が溶解しにくく、光電変換部表面へのダメージが生じにくくなる。また、第一導電層非形成領域上にも絶縁層9が形成される場合、絶縁層は、光電変換部50との付着強度が大きいことが好ましい。例えば、ヘテロ接合太陽電池では、絶縁層9は、光電変換部50表面の透明電極層6aとの付着強度が大きいことが好ましい。透明電極層と絶縁層との付着強度を大きくすることにより、めっき工程中に、絶縁層が剥離しにくくなり、透明電極層上への金属の析出を防ぐことができる。
絶縁層9には、光吸収が少ない材料を用いることが好ましい。絶縁層9は、光電変換部50の光入射面側に形成されるため、絶縁層による光吸収が小さければ、より多くの光を光電変換部へ取り込むことが可能となる。例えば、絶縁層9が透過率90%以上の十分な透明性を有する場合、絶縁層での光吸収による光学的な損失が小さく、第二導電層形成後に絶縁層を除去することなく、そのまま太陽電池として使用することができる。そのため、太陽電池の製造工程を単純化でき、生産性をより向上させることが可能となる。絶縁層9が除去されることなくそのまま太陽電池として使用される場合、絶縁層9は、透明性に加えて、十分な耐候性、および熱・湿度に対する安定性を有する材料を用いることがより望ましい。
絶縁層の材料は、無機絶縁性材料でも、有機絶縁性材料でもよい。無機絶縁性材料としては、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等の材料を用いることができる。有機絶縁性材料としては、例えば、ポリエステル、エチレン酢酸ビニル共重合体、アクリル、エポキシ、ポリウレタン等の材料を用いることができる。アニール処理における第一導電層の表面形状の変化に伴って生じる界面の応力等による、絶縁層への開口の形成を容易とする観点から、絶縁層の材料は、破断伸びが小さい無機材料であることが好ましい。このような無機材料の中でも、めっき液耐性や透明性の観点からは、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化窒化シリコン、酸化アルミニウム、サイアロン(SiAlON)、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、チタン酸バリウム、酸化サマリウム、タンタル酸バリウム、酸化タンタル、フッ化マグネシウム、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム等が好ましく用いられる。中でも、電気的特性や透明電極層との密着性等の観点からは、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化窒化シリコン、酸化アルミニウム、サイアロン(SiAlON)、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、チタン酸バリウム、酸化サマリウム、タンタル酸バリウム、酸化タンタル、フッ化マグネシウム等が好ましく、屈折率を適宜に調整し得る観点からは、酸化シリコンや窒化シリコン等が特に好ましく用いられる。なお、これらの無機材料は、化学量論的(stoichiometric)組成を有するものに限定されず、酸素欠損等を含むものであってもよい。
絶縁層9の膜厚は、絶縁層の材料や形成方法に応じて適宜設定される。絶縁層9の膜厚は、アニール処理における第一導電層の表面形状の変化に伴って生じる界面の応力等によって、絶縁層に開口部が形成され得る程度に薄いことが好ましい。かかる観点から、絶縁層9の膜厚は、1000nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましい。また、第一導電層非形成部における絶縁層9の光学特性や膜厚を適宜設定することで、光反射特性を改善し、太陽電池セル内部へ導入される光量を増加させ、変換効率をより向上させることが可能となる。このような効果を得るためには、絶縁層9の屈折率が、光電変換部50表面の屈折率よりも低いことが好ましい。また、絶縁層9に好適な反射防止特性を付与する観点から、膜厚は30nm〜250nmの範囲内で設定されることが好ましく、50nm〜250nmの範囲内で設定されることがより好ましい。なお、第一導電層形成領域上の絶縁層の膜厚と第一導電層非形成領域上の絶縁層の膜厚は異なっていてもよい。例えば、第一導電層形成領域では、アニール処理による開口部の形成を容易とする観点で絶縁層の膜厚が設定され、第一導電層非形成領域では、適宜の反射防止特性を有する光学膜厚となるように絶縁層の膜厚が設定されてもよい。
ヘテロ接合太陽電池のように、光電変換部50の表面に透明電極層(一般には屈折率:1.9〜2.1程度)を有する場合、界面での光反射防止効果を高めて太陽電池セル内部へ導入される光量を増加させるために、絶縁層の屈折率は、空気(屈折率=1.0)と透明電極層との中間的な値であることが好ましい。また、太陽電池セルが封止されてモジュール化される場合、絶縁層の屈折率は、封止剤と透明電極層の中間的な値であることが好ましい。かかる観点から、絶縁層9の屈折率は、例えば1.4〜1.9が好ましく、1.5〜1.8がより好ましく、1.55〜1.75がさらに好ましい。絶縁層の屈折率は、絶縁層の材料、組成等により所望の範囲に調整され得る。例えば、酸化シリコンの場合は、酸素含有量を小さくすることにより、屈折率が高くなる。なお、本明細書における屈折率は、特に断りがない限り、波長550nmの光に対する屈折率であり、分光エリプソメトリーにより測定される値である。また、絶縁層の屈折率に応じて、反射防止特性が向上するように絶縁層の光学膜厚(屈折率×膜厚)が設定されることが好ましい。
絶縁層は、公知の方法を用いて形成できる。例えば、酸化シリコンや窒化シリコン等の無機絶縁性材料の場合は、プラズマCVD法、スパッタ法等の乾式法が好ましく用いられる。また、有機絶縁性材料の場合は、スピンコート法、スクリーン印刷法等の湿式法が好ましく用いられる。これらの方法によれば、ピンホール等の欠陥が少なく、緻密な構造の膜を形成することが可能となる。
中でも、より緻密な構造の膜を形成する観点から、絶縁層9はプラズマCVD法で形成されることが好ましい。この方法により、200nm程度の厚いものだけでなく、30〜100nm程度の薄い膜厚の絶縁層を形成した場合も、緻密性の高い構造の膜を形成することができる。
例えば、図2に示す結晶シリコン系太陽電池のように、光電変換部50の表面にテクスチャ構造(凹凸構造)を有する場合、テクスチャの凹部や凸部にも精度よく膜形成できる観点からも、絶縁層はプラズマCVD法により形成されることが好ましい。緻密性が高い絶縁層を用いることにより、めっき処理時の透明電極層へのダメージを低減できることに加えて、透明電極層上への金属の析出を防止することができる。このように緻密性が高い絶縁膜は、図2の結晶シリコン系太陽電池におけるシリコン系薄膜3のように、光電変換部50内部の層に対しても、水や酸素などのバリア層として機能し得るため、太陽電池の長期信頼性の向上の効果も期待できる。
なお、第一導電層71と第二導電層72との間にある絶縁層9、すなわち第一導電層形成領域上の絶縁層9の形状は、必ずしも連続した層状でなくてもよく、島状であっても良い。なお、本明細書における「島状」との用語は、表面の一部に、絶縁層9が形成されていない非形成領域を有する状態を意味する。
本発明において、絶縁層9は、第一導電層71と第二導電層72との付着力の向上にも寄与し得る。例えば、下地電極層であるAg層上にめっき法によりCu層が形成される場合、Ag層とCu層との付着力は小さいが、酸化シリコン等の絶縁層上にCu層が形成されることにより、第二導電層の付着力が高められ、太陽電池の信頼性を向上することが期待される。
上述のように、第一導電層として例えば低融点材料を有する場合、第一導電層71上に絶縁層が形成された後、第二導電層72が形成される前にアニール処理が行われる。アニール処理時に、第一導電層71が低融点材料の熱流動開始温度T1よりも高温に加熱され、低融点材料が流動状態となるために、第一導電層の表面形状が変化する。この変化に伴って、その上に形成される絶縁層9に開口部9hが形成される。したがって、その後のめっき工程において、第一導電層71の表面の一部が、めっき液に曝されて導通するため、図8(F)に示すように、この導通部を起点として金属を析出させることが可能となる。
なお、この場合、開口部は主に第一導電層71の低融点材料711上に形成される。低融点材料が絶縁性材料の場合、開口部の直下は絶縁性であるが、低融点材料の周辺に存在する導電性の高融点材料にもめっき液が浸透するために、第一導電層とめっき液とを導通させることが可能である。
アニール処理時におけるアニール温度(加熱温度)Taは、低融点材料の熱流動開始温度T1よりも高温、すなわちT1<Taであることが好ましい。アニール温度Taは、T1+1℃≦Ta≦T1+100℃を満たすことがより好ましく、T1+5℃≦Ta≦T1+60℃を満たすことがさらに好ましい。アニール温度は、第一導電層の材料の組成や含有量等に応じて適宜設定され得る。
また、前述のごとく、アニール温度Taは、光電変換部50の耐熱温度よりも低温であることが好ましい。光電変換部の耐熱温度は、光電変換部の構成により異なる。例えば、ヘテロ接合太陽電池や、シリコン系薄膜太陽電池のように透明電極層や非結晶質シリコン系薄膜を有する場合の耐熱温度は250℃程度である。そのため、光電変換部が非晶質シリコン系薄膜を備えるヘテロ接合太陽電池や、シリコン系薄膜太陽電池の場合、非晶質シリコン系薄膜およびその界面での熱ダメージ抑制の観点から、アニール温度は250℃以下に設定されることが好ましい。より高性能の太陽電池を実現するためにはアニール温度は200℃以下にすることがより好ましく、180℃以下にすることがさらに好ましい。これに伴って、第一導電層71の低融点材料の熱流動開始温度T1は、250℃未満であることが好ましく、200℃未満がより好ましく、180℃未満がさらに好ましい。
一方、一導電型結晶シリコン基板の一主面上に逆導電型の拡散層を有する結晶シリコン太陽電池は、非晶質シリコン薄膜や透明電極層を有していないため、耐熱温度は800℃〜900℃程度である。そのため、250℃よりも高温のアニール温度Taでアニール処理が行われてもよい。
なお、絶縁層への開口部の形成方法は、上記のように、絶縁層形成後にアニール処理を行う方法に限定されない。例えば、図8(D’)で示されるように、絶縁層90の形成と同時に開口部9hを形成することもできる。
例えば、基板を加熱しながら絶縁層が形成されることで、絶縁層の形成と略同時に開口部が形成される。ここで、「絶縁層の形成と略同時」とは、絶縁層形成工程の他に、アニール処理等の別途の工程が行われていない状態、すなわち、絶縁層の製膜中、あるいは製膜直後の状態を意味する。製膜直後とは、絶縁層の製膜終了後(加熱停止後)から、基板が冷却され室温等に戻るまでの間も含むものとする。また、低融点材料上の絶縁層に開口部が形成される場合、低融点材料上の絶縁層の製膜が終わった後であっても、その周辺に絶縁層が製膜されることに追随して、低融点材料周辺の絶縁層に変形が生じ、開口部が形成される場合も含むものとする。
絶縁層の形成と略同時に開口部を形成する方法としては、例えば、絶縁層形成工程において、第一導電層71の低融点材料711の熱流動開始温度T1よりも高い温度Tbに基板を加熱しながら、第一導電層71上に絶縁層9を製膜する方法が用いられる。低融点材料が流動状態となっている第一導電層上に絶縁層9が製膜されるため、製膜と同時に製膜界面に応力が生じ、例えばき裂状の開口が絶縁層に形成される。
なお、絶縁層形成時の基板温度Tb(以下、「絶縁層形成温度」)とは、絶縁層の製膜開始時点の基板表面温度(「基板加熱温度」ともいう)を表す。一般に、絶縁層の製膜中の基板表面温度の平均値は、通常製膜開始時点の基板表面温度以上となる。したがって、絶縁層形成温度Tbが、低融点材料の熱流動開始温度T1よりも高温であれば、絶縁層に開口部等の変形を形成することができる。
例えば、絶縁層9がCVD法やスパッタ法等の乾式法により形成される場合は、絶縁層製膜中の基板表面温度を低融点材料の熱流動開始温度T1よりも高温とすることにより、開口部を形成することができる。また、絶縁層9がコーティング等の湿式法により形成される場合は、溶媒を乾燥する際の基板表面温度を低融点材料の熱流動開始温度T1よりも高温とすることにより、開口部を形成することができる。なお、湿式法により絶縁層が形成される場合の「製膜開始時点」とは、溶媒の乾燥開始時点を指す。絶縁層形成温度Tbの好ましい範囲は、前記アニール温度Taの好ましい範囲と同様である。
基板表面温度は、例えば基板表面に温度表示材(サーモラベルやサーモシールとも呼ばれる)や熱電対を貼り付けて測定することができる。また、加熱部(ヒーターなど)の温度は、基板の表面温度が所定範囲となるように適宜に調整することができる。絶縁層形成工程においてアニール処理を行う場合、絶縁層の材料および組成、製膜条件(製膜方法、基板温度、導入ガスの種類および導入量、製膜圧力、パワー密度等)を適宜調整することにより、絶縁層に開口部を形成することができる。
プラズマCVD法により絶縁層9が形成される場合、緻密な膜を形成する観点から、絶縁層形成温度Tbは、130℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましく、150℃以上がさらに好ましい。また、絶縁層製膜時の基板表面の最高到達温度は、光電変換部の耐熱温度よりも低温であることが好ましい。
プラズマCVDによる製膜速度は、より緻密な膜を形成する観点から、1nm/秒以下が好ましく、0.5nm/秒以下がより好ましく、0.25nm/秒以下がさらに好ましい。プラズマCVDにより、酸化シリコンが形成される場合の製膜条件としては、基板温度145℃〜250℃、圧力30Pa〜300Pa、パワー密度0.01W/cm2〜0.16W/cm2が好ましい。
絶縁層の形成と略同時に開口部が形成された後、開口部の形成が不十分な箇所がある場合等は、さらに前述のアニール工程が行われてもよい。
(第二導電層)
上記のように、開口部9hを有する絶縁層9が形成された後、第一導電層形成領域の絶縁層9上に第二導電層72がめっき法により形成される。この際、第二導電層として析出させる金属は、めっき法で形成できる材料であれば特に限定されず、例えば、銅、ニッケル、錫、アルミニウム、クロム、銀、金、亜鉛、鉛、パラジウム等、あるいはこれらの混合物を用いることができる。
太陽電池の動作時(発電時)には、電流は主として第二導電層を流れる。そのため、第二導電層での抵抗損を抑制する観点から、第二導電層のライン抵抗は、できる限り小さいことが好ましい。具体的には、第二導電層のライン抵抗は、1Ω/cm以下であることが好ましく、0.5Ω/cm以下であることがより好ましい。一方、第一導電層のライン抵抗は、電気めっきの際の下地層として機能し得る程度に小さければよく、例えば、5Ω/cm以下にすればよい。
第二導電層は、無電解めっき法、電解めっき法のいずれでも形成され得るが、生産性の観点から、電解めっき法を用が好適である。電解めっき法では、金属の析出速度を大きくすることができるため、第二導電層を短時間で形成することができる。
酸性銅めっきを例として、電解めっき法による第二導電層の形成方法を説明する。図12は、第二導電層の形成に用いられるめっき装置10の概念図である。光電変換部上に第一導電層および開口部を有する絶縁層が形成された基板12と、陽極13とが、めっき槽11中のめっき液16に浸されている。基板12上の第一導電層71は、基板ホルダ14を介して電源15と接続されている。陽極13と基板12との間に電圧を印加することにより、絶縁層9で覆われていない第一導電層の上、すなわちアニール処理により絶縁層に生じた開口部を起点として、選択的に銅を析出させることができる。
酸性銅めっきに用いられるめっき液16は銅イオンを含む。例えば硫酸銅、硫酸、水を主成分とする公知の組成のものが使用可能であり、これに0.1〜10A/dm2の電流を流すことにより、第二導電層である金属を析出させることができる。適切なめっき時間は、集電極の面積、電流密度、陰極電流効率、設定膜厚等に応じて適宜設定される。
第二導電層は、複数の層から構成させても良い。例えば、Cu等の導電率の高い材料からなる第一のめっき層を、絶縁層の開口部を介して第一導電層上に形成した後、化学的安定性に優れる第二のめっき層を第一のめっき層の表面に形成することにより、低抵抗で化学的安定性に優れた集電極を形成することができる。
めっき工程の後には、めっき液除去工程を設けて、基板12の表面に残留しためっき液を除去することが好ましい。めっき液除去工程を設けることによって、アニール処理で形成された絶縁層9の開口部9h以外を起点として析出し得る金属を除去することができる。開口部9h以外を起点として析出する金属としては、例えば絶縁層9のピンホール等を起点とするものが挙げられる。めっき液除去工程によってこのような金属が除去されることによって、遮光損が低減され、太陽電池特性をより向上させることが可能となる。
ここで、一般に、ITO等の透明電極層や、酸化シリコン等の絶縁層は親水性であり、基板12の表面や絶縁層9の表面の水との接触角は、10°程度あるいはそれ以下である場合が多い。一方、エアーブロー等によるめっき液の除去を容易にする観点からは、基板12の表面の水との接触角を20°以上とすることが好ましい。基板表面の接触角を大きくするために、基板12表面に撥水処理が行われてもよい。撥水処理は、例えば表面への撥水層の形成することにより行われる。撥水処理により、基板表面のめっき液に対する濡れ性を低下させることができる。
なお、絶縁層9の表面への撥水処理に代えて、撥水性を有する絶縁層9が形成されてもよい。すなわち水との接触角θ大きい(例えば20°以上)の絶縁層9が形成されることにより、別途の撥水処理工程を省略できるため、太陽電池の生産性をより向上させることができる。絶縁層に撥水性を持たせる方法としては、例えば、絶縁層の製膜条件(例えば、製膜室に導入するシリコン原料ガスと酸素原料ガスの流量比)を変更したプラズマCVD法により、絶縁層としての酸化シリコン層を製膜する方法が挙げられる。
本発明においては、集電極形成後(めっき工程後)に絶縁層除去工程が行われてもよい。特に、絶縁層として光吸収の大きい材料が用いられる場合は、絶縁層の光吸収による太陽電池特性の低下を抑制するために、絶縁層除去工程が行われることが好ましい。絶縁層の除去方法は、絶縁層材料の特性に応じて適宜選択される。例えば、化学的なエッチングや機械的研磨により絶縁層が除去され得る。また、材料によってはアッシング(灰化)法も適用可能である。この際、光取り込み効果をより向上させる観点から、第一導電層非形成領域上の絶縁層が全て除去されることがより好ましい。また、絶縁層9上に撥水層が形成されている場合、絶縁層9とともに撥水層も除去されることが好ましい。なお、絶縁層として光吸収の小さい材料が用いられる場合は、絶縁層除去工程が行われる必要はない。
以上、ヘテロ接合太陽電池の光入射側に集電極7が設けられる場合を中心に説明したが、裏面側にも同様の集電極が形成されてもよい。ヘテロ接合太陽電池のように結晶シリコン基板を用いた太陽電池は、電流量が大きいため、一般に、透明電極層/集電極間の接触抵抗の損失による発電ロスが顕著となる傾向がある。これに対して、本発明では、第一導電層と第二導電層を有する集電極は、透明電極層との接触抵抗が低いため、接触抵抗に起因する発電ロスを低減することが可能となる。
また、本発明は、ヘテロ接合太陽電池以外の結晶シリコン太陽電池や、GaAs等のシリコン以外の半導体基板が用いられる太陽電池、非晶質シリコン系薄膜や結晶質シリコン系薄膜のPIN接合あるいはPN接合上に透明電極層が形成されたシリコン系薄膜太陽電池や、CIS,CIGS等の化合物半導体太陽電池、色素増感太陽電池や有機薄膜(導電性ポリマー)等の有機薄膜太陽電池のような各種の太陽電池に適用可能である。
結晶シリコン太陽電池としては、一導電型(例えばp型)結晶シリコン基板の一主面上に逆導電型(例えばn型)の拡散層を有し、拡散層上に前記集電極を有する構成が挙げられる。このような結晶シリコン太陽電池は、一導電型層の裏面側にp+層等の導電型層を備えるのが一般的である。このように、光電変換部が非晶質シリコン層や透明電極層を含まない場合は、低融点材料の熱流動開始温度T1およびアニール温度Taは、250℃より高くてもよい。
シリコン系薄膜太陽電池としては、例えば、p型薄膜とn型薄膜との間に非晶質の真性(i型)シリコン薄膜を有する非晶質シリコン系薄膜太陽電池や、p型薄膜とn型薄膜との間に結晶質の真性シリコン薄膜を有する結晶質シリコン系半導体太陽電池が挙げられる。また、複数のPIN接合が積層されたタンデム型の薄膜太陽電池も好適である。このようなシリコン系薄膜太陽電池では、透明電極層や非晶質シリコン系薄膜の耐熱性を勘案して、低融点材料の熱流動開始温度T1およびアニール温度Taは250℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、180℃以下であることがさらに好ましい。
本発明の太陽電池は、実用に供するに際して、モジュール化されることが好ましい。太陽電池のモジュール化は、適宜の方法により行われる。例えば、集電極に配線部材等のインターコネクタを介してバスバーが接続されることによって、複数の太陽電池セルが直列または並列に接続され、封止剤およびガラス板により封止されることによりモジュール化が行われる。
以下、図2に示すヘテロ接合太陽電池に関する実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1のヘテロ接合太陽電池を、以下のようにして製造した。
一導電型単結晶シリコン基板として、入射面の面方位が(100)で、厚みが200μmのn型単結晶シリコンウェハを用い、このシリコンウェハを2重量%のHF水溶液に3分間浸漬し、表面の酸化シリコン膜が除去された後、超純水によるリンスが2回行われた。このシリコン基板を、70℃に保持された5/15重量%のKOH/イソプロピルアルコール水溶液に15分間浸漬し、ウェハの表面をエッチングすることでテクスチャが形成された。その後に超純水によるリンスが2回行われた。原子間力顕微鏡(AFM パシフィックナノテクノロジー社製)により、ウェハの表面観察を行ったところ、ウェハの表面はエッチングが最も進行しており、(111)面が露出したピラミッド型のテクスチャが形成されていた。
エッチング後のウェハがCVD装置へ導入され、その光入射側に、真性シリコン系薄膜2aとしてi型非晶質シリコンが5nmの膜厚で製膜された。i型非晶質シリコンの製膜条件は、基板温度:150℃、圧力:120Pa、SiH4/H2流量比:3/10、投入パワー密度:0.011W/cm2であった。なお、本実施例における薄膜の膜厚は、ガラス基板上に同条件にて製膜された薄膜の膜厚を、分光エリプソメトリー(商品名M2000、ジェー・エー・ウーラム社製)にて測定することにより求められた製膜速度から算出された値である。
i型非晶質シリコン層2a上に、逆導電型シリコン系薄膜3aとしてp型非晶質シリコンが7nmの膜厚で製膜された。p型非晶質シリコン層3aの製膜条件は、基板温度が150℃、圧力60Pa、SiH4/B2H6流量比が1/3、投入パワー密度が0.01W/cm2であった。なお、上記でいうB2H6ガス流量は、H2によりB2H6濃度が5000ppmまで希釈された希釈ガスの流量である。
次にウェハの裏面側に、真性シリコン系薄膜2bとしてi型非晶質シリコン層が6nmの膜厚で製膜された。i型非晶質シリコン層2bの製膜条件は、上記のi型非晶質シリコン層2aの製膜条件と同様であった。i型非晶質シリコン層2b上に、一導電型シリコン系薄膜3bとしてn型非晶質シリコン層が4nmの膜厚で製膜された。n型非晶質シリコン層3bの製膜条件は、基板温度:150℃、圧力:60Pa、SiH4/PH3流量比:1/2、投入パワー密度:0.01W/cm2であった。なお、上記でいうPH3ガス流量は、H2によりPH3濃度が5000ppmまで希釈された希釈ガスの流量である。
この上に透明電極層6aおよび6bとして、各々酸化インジウム錫(ITO、屈折率:1.9)が100nmの膜厚で製膜された。ターゲットとして酸化インジウムを用い、基板温度:室温、圧力:0.2Paのアルゴン雰囲気中で、0.5W/cm2のパワー密度を印加して透明電極層の製膜が行われた。裏面側透明電極層6b上には、裏面金属電極8として、スパッタ法により銀が500nmの膜厚で形成された。光入射側透明電極層6a上には、第一導電層71および第二導電層72を有する集電極7が以下のように形成された。
第一導電層71の形成には、低融点材料としてのSnBi金属粉末(粒径DL=25〜35μm、融点T1=141℃)と、高融点材料としての銀粉末(粒径DH=2〜3μm、融点T2=971℃)とを、20:80の重量比で含み、さらにバインダー樹脂としてエポキシ系樹脂を含む印刷ペーストが用いられた。この印刷ペーストを、集電極パターンに対応する開口幅(L=80μm)を有する#230メッシュ(開口幅:l=85μm)のスクリーン版を用いて、スクリーン印刷し、90℃で乾燥が行われた。
次に、レーザー光を光入射面側から照射して、絶縁領域の形成を行った。レーザー光は、ウェハの端部より0.5mmまでの周縁部に照射し、太陽電池の光入射面と側面に跨るように絶縁領域を形成した。レーザー光としては、レーザーの加工点におけるスポット径が約100μmの第三高調波(波長355nm)を用い、基板端部から、複数回位置を基板の内側に向けてずらしながら照射した。この際、SEM(フィールドエミッション型走査型電子顕微鏡S4800、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて、倍率が500倍の条件で、基板の第一の主面から側面に跨って、d1=94μm、x=489μmとなるようにレーザー光により除去されていることを確認した。この際、レーザー照射部はレーザーにより表面が凹凸状に荒れていたが、10点d1を計測して、その平均を求めた。これにより図9(B)の様な端部構造を持つ絶縁処理を実施した。
第一導電層71が形成されたウェハが、CVD装置に投入され、絶縁層9として酸化シリコン層(屈折率:1.5)が、プラズマCVD法により80nmの厚みで光入射面側に形成された。
絶縁層9の製膜条件は、基板温度:135℃、圧力133Pa、SiH4/CO2流量比:1/20、投入パワー密度:0.05W/cm2(周波数13.56MHz)であった。その後、絶縁層形成後のウェハが熱風循環型オーブンに導入され、大気雰囲気において、180℃で20分間、アニール処理が実施された。
以上のようにアニール工程までが行われた基板12が、図12に示すように、めっき槽11に投入された。めっき液16には、硫酸銅五水和物、硫酸、および塩化ナトリウムが、それぞれ120g/l、150g/l、および70mg/lの濃度となるように調製された溶液に、添加剤(上村工業製:品番ESY−2B、ESY−H、ESY−1A)が添加されたものが用いられた。このめっき液を用いて、温度40℃、電流3A/dm2の条件でめっきが行われ、第一導電層71上の絶縁層上に、10μm程度の厚みで第二導電層72として銅が均一に析出した。第一導電層が形成されていない領域への銅の析出はほとんど見られなかった。
以上のようにして作製した結晶シリコン系太陽電池セルを1枚含むミニモジュールを作製し、AM1.5のスペクトル分布を有するソーラーシミュレータを用いて、25℃の下で擬似太陽光を100mW/cm2のエネルギー密度で照射して太陽電池特性の測定を行った。ミニモジュールの構造は、バックシート/封止材/配線部材接続済み結晶シリコン系太陽電池/封止材/ガラスであり、結晶シリコン系太陽電池に貼り付けた配線部材を介して外部の測定器と接続し、前記のソーラーシミュレータを用いて太陽電池特性の測定を行った。
(比較例1)
レーザー光を、ウェハの端部より0.5mmの周縁部のみに照射し、図7(A)の様な溝構造を形成したことを除いて、実施例1同様に結晶シリコン系太陽電池セルを作製した。以上のようにして作製した結晶シリコン系太陽電池セルを1枚含むミニモジュールを作製し、AM1.5のスペクトル分布を有するソーラーシミュレータを用いて、25℃の下で擬似太陽光を100mW/cm2のエネルギー密度で照射して太陽電池特性の測定を行った。ミニモジュールの構造は、バックシート/封止材/接続済み結晶シリコン系太陽電池/封止材/ガラスであり、結晶シリコン系太陽電池に貼り付けた配線部材を介して外部の測定器と接続し、前記のソーラーシミュレータを用いて太陽電池特性の測定を行った。
(比較例2)
実施例1と同様に結晶シリコン系太陽電池セルを、集電極を銀ペーストの印刷により形成してめっきによる第二導電層を形成しなかった点と、絶縁層を形成していない点と、レーザー光を、ウェハの端部より0.5mmの周縁部のみに照射し、図7(A)の様な溝構造を形成した点を除いて、実施例1同様に結晶シリコン系太陽電池セルを作製した。
上記実施例及び比較例、参考例の太陽電池セル及びミニモジュールの光電変換特性を表1に示す。
実施例1及び、比較例1では、ともに表面からレーザーを照射しており、照射幅と領域が僅かに異なる程度の違いしかないため、セルとしては、ほぼ同様の太陽電池特性が得られた。
一方で、比較例1では、表面に絶縁層を形成していないため、Jscが35.95mA/cm2と実施例の36.04mA/cm2と比較して小さくなった。また、集電極にめっき法を用いてバルクの銅を形成した実施例1や比較例1と比較して、比較例2では、銀ペーストを使用しているため、集電極における電気抵抗が高く、曲率因子の低下がみられた。以上より、本発明のようにめっきにより集電極を形成することにより、従来のような銀ペーストのものに比べて変換効率が高くなることがわかる。
次に、それぞれをミニモジュールにした実施例1、及び比較例1を比較する。比較例1では、実施例1と比較して、リーク電流による曲率因子の低下がみられた。一方で、実施例1では、配線部材によるリーク電流の発生は見られなかった。
これは、図7(A)に示されているように、比較例1や比較例2の端部付近の構造は、表裏の電極がレーザーにより絶縁処理を施した溝の両端に位置することとなるため、ミニモジュールを作製する際の過熱による配線部材の熱収縮や、作製工程中に力が加わること等による配線部材と絶縁層の接触によって、絶縁層がダメージを受け、リーク電流が発生したと考えられる。
これに対し、実施例1では、端部の構造が図7(C)の様になっており、絶縁領域が第一の主面の周縁部と側面に跨って形成された肩構造を有し、かつ絶縁層で覆われていたため、配線部材によるダメージが生じず、リーク電流が発生しなかったと考えられる。
以上、実施例を用いて説明したように、本発明によれば、絶縁層のパターニングを行うことなく、太陽電池の集電極を作製することができるため、高出力の太陽電池を低コストで提供することが可能となる。