図1に模式的に示すように、本発明の太陽電池100は、光電変換部50の一主面上に集電極70を備える。集電極70は、光電変換部50側から順に、低融点材料を含む第一導電層71と第二導電層72とを含む。第一導電層71と第二導電層72との間には絶縁層9が形成されている。第二導電層72の一部は、例えば絶縁層9の開口部9hを介して、第一導電層71に導通されている。第一導電層71の低融点材料は、光電変換部50の耐熱温度よりも低温の熱流動開始温度T1を有することが好ましい。熱流動開始温度T1は、例えば250℃以下である。
以下、本発明の一実施形態であるヘテロ接合結晶シリコン太陽電池(以下、「ヘテロ接合太陽電池」と記載する場合がある)を例として、本発明をより詳細に説明する。ヘテロ接合太陽電池は、一導電型の単結晶シリコン基板の表面に、単結晶シリコンとはバンドギャップの異なるシリコン系薄膜を有することで、拡散電位が形成された結晶シリコン系太陽電池である。シリコン系薄膜としては非晶質のものが好ましい。中でも、拡散電位を形成するための導電型非晶質シリコン系薄膜と結晶シリコン基板の間に、薄い真性の非晶質シリコン層を介在させたものは、変換効率の最も高い結晶シリコン太陽電池の形態の一つとして知られている。
図2は、本発明の一実施形態に係る結晶シリコン系太陽電池の模式的断面図である。結晶シリコン系太陽電池101は、光電変換部50として、一導電型単結晶シリコン基板1の一方の面(光入射側の面)に、導電型シリコン系薄膜3aおよび光入射側透明電極層6aをこの順に有する。一導電型単結晶シリコン基板1の他方の面(光入射側と反対側の面)には、導電型シリコン系薄膜3bおよび裏面側透明電極層6bをこの順に有することが好ましい。光電変換部50表面の光入射側透明電極層6a上には、第一導電層71および第二導電層72を含む集電極70が形成されている。第一導電層71と第二導電層72との間には絶縁層9が形成されている。
一導電型単結晶シリコン基板1と導電型シリコン系薄膜3a,3bとの間には、真性シリコン系薄膜2a,2bを有することが好ましい。裏面側透明電極層6b上には裏面金属電極8を有することが好ましい。
まず、本発明の結晶シリコン系太陽電池における、一導電型単結晶シリコン基板1について説明する。一般的に単結晶シリコン基板は、導電性を持たせるために、シリコンに対して電荷を供給する不純物を含有している。単結晶シリコン基板は、シリコン原子に電子を導入するための原子(例えばリン)を含有させたn型と、シリコン原子に正孔を導入する原子(例えばボロン)を含有させたp型がある。すなわち、本発明における「一導電型」とは、n型またはp型のどちらか一方であることを意味する。
ヘテロ接合太陽電池では、単結晶シリコン基板へ入射した光が最も多く吸収される入射側のへテロ接合を逆接合として強い電場を設けることで、電子・正孔対を効率的に分離回収することができる。そのため、光入射側のヘテロ接合は逆接合であることが好ましい。一方で、正孔と電子とを比較した場合、有効質量および散乱断面積の小さい電子の方が、一般的に移動度が大きい。以上の観点から、ヘテロ接合太陽電池に用いられる単結晶シリコン基板1は、n型単結晶シリコン基板であることが好ましい。単結晶シリコン基板1は、光閉じ込めの観点から、表面にテクスチャ構造を有することが好ましい。
テクスチャが形成された一導電型単結晶シリコン基板1の表面に、シリコン系薄膜が製膜される。シリコン系薄膜の製膜方法としては、プラズマCVD法が好ましい。プラズマCVD法によるシリコン系薄膜の形成条件としては、基板温度100〜300℃、圧力20〜2600Pa、高周波パワー密度0.004〜0.8W/cm2が好ましく用いられる。シリコン系薄膜の形成に使用される原料ガスとしては、SiH4、Si2H6等のシリコン含有ガス、またはシリコン系ガスとH2との混合ガスが好ましく用いられる。
導電型シリコン系薄膜3は、一導電型または逆導電型のシリコン系薄膜である。例えば、一導電型単結晶シリコン基板1としてn型が用いられる場合、一導電型シリコン系薄膜、および逆導電型シリコン系薄膜は、各々n型、およびp型となる。p型またはn型シリコン系薄膜を形成するためのドーパントガスとしては、B2H6またはPH3等が好ましく用いられる。また、PやBといった不純物の添加量は微量でよいため、予めSiH4やH2で希釈された混合ガスを用いることが好ましい。導電型シリコン系薄膜の製膜時に、CH4、CO2、NH3、GeH4等の異種元素を含むガスを添加して、シリコン系薄膜を合金化することにより、シリコン系薄膜のエネルギーギャップを変更することもできる。
シリコン系薄膜としては、非晶質シリコン薄膜、微結晶シリコン(非晶質シリコンと結晶質シリコンとを含む薄膜)等が挙げられる。中でも非晶質シリコン系薄膜を用いることが好ましい。例えば、一導電型単結晶シリコン基板1としてn型単結晶シリコン基板を用いた場合の光電変換部50の好適な構成としては、透明電極層6a/p型非晶質シリコン系薄膜3a/i型非晶質シリコン系薄膜2a/n型単結晶シリコン基板1/i型非晶質シリコン系薄膜2b/n型非晶質シリコン系薄膜3b/透明電極層6bの順の積層構成が挙げられる。この場合、前述の理由から、p層側を光入射面とすることが好ましい。
真性シリコン系薄膜2a,2bとしては、シリコンと水素で構成されるi型水素化非晶質シリコンが好ましい。単結晶シリコン基板上に、CVD法によってi型水素化非晶質シリコンが製膜されると、単結晶シリコン基板への不純物拡散を抑えつつ表面パッシベーションを有効に行うことができる。また、膜中の水素量を変化させることで、エネルギーギャップにキャリア回収を行う上で有効なプロファイルを持たせることができる。
p型シリコン系薄膜は、p型水素化非晶質シリコン層、p型非晶質シリコンカーバイド層、またはp型非晶質シリコンオキサイド層であることが好ましい。不純物拡散の抑制や直列抵抗低下の観点ではp型水素化非晶質シリコン層が好ましい。一方、p型非晶質シリコンカーバイド層およびp型非晶質シリコンオキサイド層は、ワイドギャップの低屈折率層であるため、光学的なロスを低減できる点において好ましい。
ヘテロ接合太陽電池101の光電変換部50は、導電型シリコン系薄膜3a,3b上に、透明電極層6a,6bを備えることが好ましい。透明電極層は、透明電極層形成工程により形成される。透明電極層6a,6bは、導電性酸化物を主成分とする。導電性酸化物としては、例えば、酸化亜鉛や酸化インジウム、酸化錫を単独または混合して用いることができる。導電性、光学特性、および長期信頼性の観点から、酸化インジウムを含んだインジウム系酸化物が好ましく、中でも酸化インジウム錫(ITO)を主成分とするものがより好ましく用いられる。ここで「主成分とする」とは、含有量が50重量%より多いことを意味し、70重量%以上が好ましく、90%重量以上がより好ましい。透明電極層は、単層でもよく、複数の層からなる積層構造でもよい。
透明電極層には、ドーピング剤を添加することができる。例えば、透明電極層として酸化亜鉛が用いられる場合、ドーピング剤としては、アルミニウムやガリウム、ホウ素、ケイ素、炭素等が挙げられる。透明電極層として酸化インジウムが用いられる場合、ドーピング剤としては、亜鉛や錫、チタン、タングステン、モリブデン、ケイ素等が挙げられる。透明電極層として酸化錫が用いられる場合、ドーピング剤としては、フッ素等が挙げられる。
ドーピング剤は、光入射側透明電極層6aおよび裏面側透明電極層6bの一方もしくは両方に添加することができる。特に、光入射側透明電極層6aにドーピング剤を添加することが好ましい。光入射側透明電極層6aにドーピング剤を添加することで、透明電極層自体が低抵抗化されるとともに、透明電極層6aと集電極70との間での抵抗損を抑制することができる。
光入射側透明電極層6aの膜厚は、透明性、導電性、および光反射低減の観点から、10nm以上140nm以下であることが好ましい。透明電極層6aの役割は、集電極70へのキャリアの輸送であり、そのために必要な導電性があればよく、膜厚は10nm以上であることが好ましい。膜厚を140nm以下にすることにより、透明電極層6aでの吸収ロスが小さく、透過率の低下に伴う光電変換効率の低下を抑制することができる。また、透明電極層6aの膜厚が上記範囲内であれば、透明電極層内のキャリア濃度上昇も防ぐことができるため、赤外域の透過率低下に伴う光電変換効率の低下も抑制される。
透明電極層の製膜方法は、特に限定されないが、スパッタ法等の物理気相堆積法や、有機金属化合物と酸素または水との反応を利用した化学気相堆積(MOCVD)法等が好ましい。いずれの製膜方法においても、熱やプラズマ放電によるエネルギーを利用することもできる。
透明電極層作製時の基板温度は、適宜設定される。例えば、シリコン系薄膜として非晶質シリコン系薄膜が用いられる場合、200℃以下が好ましい。基板温度を200℃以下とすることにより、非晶質シリコン層からの水素の脱離や、それに伴うシリコン原子へのダングリングボンドの発生を抑制でき、結果として変換効率を向上させることができる。
裏面側透明電極層6b上には、裏面金属電極8が形成されることが好ましい。裏面金属電極8としては、近赤外から赤外域の反射率が高く、かつ導電性や化学的安定性が高い材料を用いることが望ましい。このような特性を満たす材料としては、銀やアルミニウム等が挙げられる。裏面金属電極層の製膜方法は、特に限定されないが、スパッタ法や真空蒸着法等の物理気相堆積法や、スクリーン印刷等の印刷法等が適用可能である。
以下、本発明における集電極の製造方法の好ましい形態を図面に基づいて説明する。図3は、太陽電池の光電変換部50上への集電極70の形成方法の一実施形態を示す工程概念図である。この実施形態では、まず、光電変換部50が準備される(光電変換部準備工程、図3(A))。例えば、ヘテロ接合太陽電池の場合は、前述のように、一導電型シリコン基板上に、シリコン系薄膜および透明電極層を備える光電変換部が準備される。
光電変換部の一主面上に、低融点材料711を含む第一導電層71が形成される(第一導電層形成工程、図3(B))。第一導電層71上には、絶縁層9が形成される(絶縁層形成工程、図3(C))。絶縁層9は、第一導電層71上にのみ形成されていてもよく、光電変換部50の第一導電層71が形成されていない領域(第一導電層非形成領域)上にも形成されていてもよい。特に、ヘテロ接合太陽電池のように、光電変換部50の表面に透明電極層が形成されている場合は、第一導電層非形成領域上にも絶縁層9が形成されることが好ましい。
絶縁層9の形成において、基板を加熱しながら絶縁層を形成することで、絶縁層の製膜とほぼ同時に変形部の形成が行われる(図3(C))。ここで、「絶縁層の製膜とほぼ同時」とは、絶縁層形成工程以外の新たな工程を有さない、絶縁層の製膜中もしくは製膜直後の状態を意味する。例えば、本発明においては、加熱しながら絶縁層が製膜されるため、絶縁層の製膜終了後(加熱停止後)から基板表面温度が室温等に戻るまでの間に変形部が生じる場合などを含む。また、ある低融点材料上の絶縁層に変形部が形成される場合、該低融点材料上の絶縁層の製膜が終わった後であっても、該低融点材料周辺の絶縁層が製膜されることに追随して該低融点材料上の絶縁層に変形が生じる場合をも含む。
絶縁層形成工程により、低融点材料の熱流動開始温度T1よりも高い温度に基板を加熱しながら第一導電層71上に絶縁層を製膜することで、第一導電層に含まれる低融点材料が流動状態となり、第一導電層の表面形状に変化が生じ、これに伴って前記第一導電層71上に形成されている絶縁層9に開口(き裂)などを生じさせることができる。すなわち第一導電層71上に、変形部を有する絶縁層が形成される。
絶縁層9の変形部は、典型的には、絶縁層への開口部9hの形成である。開口部9hは、例えばき裂状に形成される。なお、絶縁層形成工程において、絶縁層には開口が形成されていない場合があるが、この場合、変形部は、絶縁層9が局所的に薄い膜厚の領域が形成されていればよい。
本発明においては、第二導電層72の一部が、絶縁層の変形部を通じて第一導電層71に導通されていればよい。ここで「一部が導通されている」とは、絶縁層に開口部が形成されている場合は、その開口部に第二導電層の材料が充填されていることによって、導通されている状態である。また局所的に薄い膜厚を有する場合は、例えば絶縁層9の一部の膜厚が、数nm程度と非常に薄くなることによって、第二導電層72が第一導電層71に導通していればよい。例えば、第一導電層71の低融点材料がアルミニウム等の金属材料である場合、その表面に形成された酸化被膜(絶縁層に相当)を介して第一導電層71と第二導電層との間が導通されている状態が挙げられる。
本発明における「絶縁層形成温度Tb」とは、絶縁層の製膜開始時点の基板表面温度(基板加熱温度ともいう)を意味する。絶縁層の製膜中において、基板表面温度の平均値は、通常、製膜開始時点の基板表面温度以上になる。従って、本発明のようにT1<Tbで加熱することにより、絶縁層に変形部を形成することができる。
例えば、絶縁層9が乾式法により形成される場合は、絶縁層製膜中の基板表面温度を低融点材料の熱流動開始温度T1よりも高温とすることにより、変形部の形成を行うことができる。また、絶縁層9が湿式法により形成される場合は、溶媒を乾燥して製膜する際の基板表面温度を熱流動開始温度T1よりも高温とすることにより、変形部の形成を行うことができる。なお湿式法で絶縁層を形成する場合、「製膜開始時点」とは溶媒の乾燥開始時点を意味するものとする。
基板表面温度は、例えば基板表面にサーモラベルや熱電対を貼り付けて測定することができる。また、加熱部(ヒーターなど)の温度は、基板の表面温度が所定範囲となるように適宜に調整することができる。なお、この場合の「基板表面」とは、絶縁層が形成される、光電変換部の表面の温度を意味する。
絶縁層形成後に、めっき法により第二導電層72が形成される(めっき工程、図3(D))。第一導電層71は絶縁層9により被覆されているが、絶縁層9に開口部9hが形成された部分では、第一導電層71が露出した状態である。そのため、第一導電層がめっき液に曝されることとなり、この開口部9hを起点として金属の析出が可能となる。このような方法によれば、集電極の形状に対応する開口部を有するレジスト材料層を設けずとも、集電極の形状に対応する第二導電層をめっき法により形成することができる。
第一導電層71は、めっき法により第二導電層が形成される際の導電性下地層として機能する層である。そのため、第一導電層は電解めっきの下地層として機能し得る程度の導電性を有していればよい。なお、本明細書においては、体積抵抗率が10-2Ω・cm以下であれば導電性であると定義する。また、体積抵抗率が、102Ω・cm以上であれば、絶縁性であると定義する。
第一導電層71の膜厚は、コスト的な観点から20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。一方、第一導電層71のライン抵抗を所望の範囲とする観点から、膜厚は0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。
第一導電層71は、熱流動開始温度T1の低融点材料を含む。熱流動開始温度とは、加熱により材料が熱流動を生じ、低融点材料を含む層の表面形状が変化する温度であり、典型的には融点である。高分子材料やガラスでは、融点よりも低温で材料が軟化して熱流動を生じる場合がある。このような材料では、熱流動開始温度=軟化点と定義できる。軟化点とは、粘度が4.5×106Pa・sとなる温度である(ガラスの軟化点の定義に同じ)。
低融点材料は、絶縁層形成工程において熱流動を生じ、第一導電層71の表面形状に変化を生じさせるものであることが好ましい。そのため、低融点材料の熱流動開始温度T1が、絶縁層形成温度Tbよりも低温である材料を用いる。また、本発明においては、光電変換部50の耐熱温度よりも低温の絶縁層形成温度Tbで絶縁層の製膜が行われることが好ましい。したがって、低融点材料の熱流動開始温度T1は、光電変換部の耐熱温度よりも低温であることが好ましい。
光電変換部の耐熱温度とは、当該光電変換部を備える太陽電池(「太陽電池セル」または「セル」ともいう)あるいは太陽電池セルを用いて作製した太陽電池モジュールの特性が不可逆的に低下する温度である。例えば、図2に示すヘテロ接合太陽電池101では、光電変換部50を構成する単結晶シリコン基板1は、500℃以上の高温に加熱された場合でも特性変化を生じ難いが、透明電極層6や非晶質シリコン系薄膜2,3は250℃程度に加熱されると、熱劣化を生じたり、ドープ不純物の拡散を生じたりすることで、太陽電池特性の不可逆的な低下を生じる場合がある。そのため、ヘテロ接合太陽電池においては、第一導電層71は、熱流動開始温度T1が250℃以下の低融点材料を含むことが好ましい。
低融点材料の熱流動開始温度T1の下限は特に限定されない。絶縁層形成工程における第一導電層の表面形状の変化量を大きくして、絶縁層9に開口部9hなどの変形部を容易に形成する観点からは、第一導電層の形成工程において、低融点材料は熱流動を生じないことが好ましい。例えば、塗布や印刷により第一導電層が形成される場合は、乾燥のために加熱が行われることがある。この場合は、低融点材料の熱流動開始温度T1は、第一導電層の乾燥のための加熱温度よりも高温であることが好ましい。かかる観点から、低融点材料の熱流動開始温度T1は、80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。
低融点材料は、熱流動開始温度T1が上記範囲であれば、有機物であっても、無機物であってもよい。低融点材料は、電気的には導電性であっても、絶縁性でも良いが、導電性を有する金属材料であることが望ましい。低融点材料が金属材料であれば、第一導電層の抵抗値を小さくできるため、電気めっきにより第二導電層が形成される場合に、第二導電層の膜厚の均一性を高めることができる。また、低融点材料が金属材料であれば、光電変換部50と集電極70との間の接触抵抗を低下させることも可能となる。
低融点材料としては、低融点金属材料の単体もしくは合金、複数の低融点金属材料の混合物を好適に用いることができる。低融点金属材料としては、例えば、インジウムやビスマス、ガリウム等が挙げられる。
第一導電層71は、上記の低融点材料に加えて、低融点材料よりも相対的に高温の熱流動開始温度T2を有する高融点材料を含有することが好ましい。第一導電層71が高融点材料を有することで、第一導電層と第二導電層とを効率よく導通させることができ、太陽電池の変換効率を向上させることができる。例えば、低融点材料として表面エネルギーの大きい材料が用いられる場合、絶縁層形成工程により第一導電層71が高温に曝されて、低融点材料が液相状態になると、図4に概念的に示すように、低融点材料の粒子が集合して粗大な粒状となり、第一導電層71に断線を生じる場合がある。
これに対して、高融点材料は絶縁層形成工程での加熱によっても液相状態とならないため、第一導電層の形成材料中に高融点材料を含有することによって、図4に示すような低融点材料の粗大化による第一導電層の断線が抑制され得る。
高融点材料の熱流動開始温度T2は、絶縁層形成温度Tbよりも高いことが好ましい。すなわち、第一導電層71が低融点材料および高融点材料を含有する場合、低融点材料の熱流動開始温度T1、高融点材料の熱流動開始温度T2、および絶縁層形成工程における絶縁層形成温度Tbは、T1<Tb<T2を満たすことが好ましい。高融点材料は、絶縁性材料であっても導電性材料であってもよいが、第一導電層の抵抗をより小さくする観点から導電性材料が好ましい。また、低融点材料の導電性が低い場合は、高融点材料として導電性の高い材料を用いることにより、第一導電層全体としての抵抗を小さくすることができる。導電性の高融点材料としては、例えば、銀、アルミニウム、銅などの金属材料の単体もしくは、複数の金属材料を好ましく用いることができる。
第一導電層71が低融点材料と高融点材料とを含有する場合、その含有比は、上記のような低融点材料粗大化による断線の抑止や、第一導電層の導電性、絶縁層への変形部の形成容易性(第二導電層の金属析出の起点数の増大)等の観点から、適宜に調整される。その最適値は、用いられる材料や粒径の組合せに応じて異なるが、例えば、低融点材料と高融点材料の重量比(低融点材料:高融点材料)は、5:95〜67:33の範囲である。低融点材料:高融点材料の重量比は、10:90〜50:50がより好ましく、15:85〜35:65がさらに好ましい。
第一導電層71の材料として、金属粒子等の粒子状低融点材料が用いられる場合、絶縁層形成工程での絶縁層への変形部の形成を容易とする観点から、低融点材料の粒径DLは、第一導電層の膜厚dの1/20以上であることが好ましく、1/10以上であることがより好ましい。低融点材料の粒径DLは、0.25μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。また、第一導電層71が、スクリーン印刷等の印刷法により形成される場合、粒子の粒径は、スクリーン版のメッシュサイズ等に応じて適宜に設定され得る。例えば、粒径は、メッシュサイズより小さいことが好ましく、メッシュサイズの1/2以下がより好ましい。なお、粒子が非球形の場合、粒径は、粒子の投影面積と等面積の円の直径(投影面積円相当径、Heywood径)により定義される。
低融点材料の粒子の形状は特に限定されないが、扁平状等の非球形が好ましい。また、球形の粒子を焼結等の手法により結合させて非球形としたものも好ましく用いられる。一般に、金属粒子が液相状態となると、表面エネルギーを小さくするために、表面形状が球形となりやすい。絶縁層形成工程前の第一導電層の低融点材料が非球形であれば、絶縁層形成工程により熱流動開始温度T1以上に加熱されると、粒子が球形に近付くため、第一導電層の表面形状の変化量がより大きくなる。そのため、第一導電層71上の絶縁層9への変形部の形成が容易となる。
前述のごとく、第一導電層71は導電性であり、体積抵抗率が10-2Ω・cm以下であればよい。第一導電層71の体積抵抗率は、10-4Ω・cm以下であることが好ましい。第一導電層が低融点材料のみを有する場合は、低融点材料が導電性を有していればよい。第一導電層が、低融点材料および高融点材料を含有する場合は、低融点材料および高融点材料のうち、少なくともいずれか一方が導電性を有していればよい。例えば、低融点材料/高融点材料の組合せとしては、絶縁性/導電性、導電性/絶縁性、導電性/導電性が挙げられるが、第一導電層をより低抵抗とするためには、低融点材料および高融点材料の双方が導電性を有する材料であることが好ましい。
第一導電層71の材料として上記のような低融点材料と高融点材料との組合せ以外に、材料の大きさ(例えば、粒径)等を調整することにより、絶縁層形成工程での加熱による第一導電層の断線を抑制し、変換効率を向上させることも可能である。例えば、銀、銅、金等の高い融点を有する材料も、粒径が1μm以下の微粒子であれば、融点よりも低温の200℃程度あるいはそれ以下の温度T1’で焼結ネッキング(微粒子の融着)を生じるため、本発明の「低融点材料」として用いることができる。このような焼結ネッキングを生じる材料は、焼結ネッキング開始温度T1’以上に加熱されると、微粒子の外周部付近に変形が生じるため、第一導電層の表面形状を変化させ、絶縁層9に変形部を形成することができる。また、微粒子が焼結ネッキング開始温度以上に加熱された場合であっても、融点T2’未満の温度であれば微粒子は固相状態を維持するため、図4に示すような材料の粗大化による断線が生じ難い。すなわち、金属微粒子等の焼結ネッキングを生じる材料は、本発明における「低融点材料」でありながら、「高融点材料」としての側面も有しているといえる。
このような焼結ネッキングを生じる材料では、焼結ネッキング開始温度T1’=熱流動開始温度T1と定義できる。図5は、焼結ネッキング開始温度について説明するための図である。図5(A)は、焼結前の粒子を模式的に示す平面図である。焼結前であることから、粒子は互いに点で接触している。図5(B)および図5(C)は、焼結が開始した後の粒子を、各粒子の中心を通る断面で切ったときの様子を模式的に示す断面図である。図5(B)は焼結開始後(焼結初期段階)、図5(C)は、(B)から焼結が進行した状態を示している。図5(B)において、粒子A(半径rA)と粒子B(半径rB)との粒界は長さaABの点線で示されている。
焼結ネッキング開始温度T1’は、rAとrBの大きい方の値max(rA,rB)と、粒界の長さaABとの比、aAB/max(rA,rB)が、0.1以上となるときの温度で定義される。すなわち、少なくとも一対の粒子のaAB/max(rA,rB)が0.1以上となる温度を焼結ネッキング開始温度という。なお、図5では単純化のために、粒子を球形として示しているが、粒子が球形でない場合は、粒界近傍における粒子の曲率半径を粒子の半径とみなす。また、粒界近傍における粒子の曲率半径が場所によって異なる場合は、測定点の中で最も大きな曲率半径を、その粒子の半径とみなす。例えば、図6(A)に示すように、焼結を生じた一対の微粒子A,B間には、長さaABの粒界が形成されている。この場合、粒子Aの粒界近傍の形状は、点線で示された仮想円Aの弧で近似される。一方、粒子Bの粒界近傍は、一方が破線で示された仮想円B1の弧で近似され、他方が実線で示された仮想円B2の弧で近似される。図6(B)に示されるように、rB2>rB1であるため、rB2を粒子Bの半径rBとみなす。なお、上記の仮想円は、断面もしくは表面の観察像の白黒2値化処理により境界を定め、粒界近傍の境界の座標に基づいて最小二乗法により中心座標および半径を算出する方法により、決定できる。なお、上記の定義により焼結ネッキング開始温度を厳密に測定することが困難な場合は、微粒子を含有する第一導電層を形成し、その上に絶縁層を形成する際の加熱により絶縁層に変形部が生じる温度を焼結ネッキング開始温度とみなすことができる。
第一導電層の形成材料には、上記の低融点材料(および高融点材料)に加えて、バインダー樹脂等を含有するペースト等を好ましく用いることができる。また、スクリーン印刷法により形成された第一導電層の導電性を十分向上させるためには、熱処理により第一導電層を硬化させることが望ましい。したがって、ペーストに含まれるバインダー樹脂としては、上記乾燥温度にて硬化させることができる材料を用いることが好ましく、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、アクリル系樹脂等が適用可能である。この場合、硬化とともに低融点材料の形状が変化し、図3(C)に示すように、絶縁層形成時に、低融点材料近傍の絶縁層に開口(き裂)が生じやすくなるためである。なお、バインダー樹脂と導電性の低融点材料の比率は、いわゆるパーコレーションの閾値(導電性が発現する低融点材料含有量に相当する比率の臨界値)以上になるように設定すればよい。
第一導電層71は、インクジェット法、スクリーン印刷法、導線接着法、スプレー法、真空蒸着法、スパッタ法等の公知技術によって作製できる。第一導電層71は、櫛形等の所定形状にパターン化されていることが好ましい。パターン化された第一導電層の形成には、生産性の観点からスクリーン印刷法が適している。スクリーン印刷法では、金属粒子からなる低融点材料を含む印刷ペースト、および集電極のパターン形状に対応した開口パターンを有するスクリーン版を用いて、集電極パターンを印刷する方法が好ましく用いられる。
一方、印刷ペーストとして、溶剤を含む材料が用いられる場合には、溶剤を除去するための乾燥工程が必要となる。前述のごとく、この場合の乾燥温度は、低融点材料の熱流動開始温度T1よりも低温であることが好ましい。乾燥時間は、例えば5分間〜1時間程度で適宜に設定され得る。
第一導電層は、複数の層から構成されてもよい。例えば、光電変換部表面の透明電極層との接触抵抗が低い下層と、低融点材料を含む上層からなる積層構造であっても良い。このような構造によれば、透明電極層との接触抵抗の低下に伴う太陽電池の曲線因子向上が期待できる。また、低融点材料含有層と、高融点材料含有層との積層構造とすることにより、第一導電層のさらなる低抵抗化が期待できる。
以上、第一導電層が印刷法により形成される場合を中心に説明したが、第一導電層の形成方法は印刷法に限定されるものではない。例えば、第一導電層は、パターン形状に対応したマスクを用いて、蒸着法やスパッタ法により形成されてもよい。
(絶縁層)
第一導電層71上には、絶縁層9が形成される。ここで、第一導電層71が所定のパターン(例えば櫛形)に形成された場合、光電変換部50の表面上には、第一導電層が形成されている第一導電層形成領域と、第一導電層が形成されていない第一導電層非形成領域とが存在する。絶縁層9は、少なくとも第一導電層形成領域に形成される。本発明において、絶縁層9は、第一導電層非形成領域上にも形成されていることが好ましく、第一導電層非形成領域の全面に形成されていることが特に好ましい。絶縁層が第一導電層非形成領域にも形成されている場合、めっき法により第二導電層が形成される際に、光電変換部をめっき液から化学的および電気的に保護することが可能となる。例えば、ヘテロ接合太陽電池のように光電変換部50の表面に透明電極層が形成されている場合は、透明電極層の表面に絶縁層が形成されることで、透明電極層とめっき液との接触が抑止され、透明電極層上への金属層(第二導電層)の析出を防ぐことができる。また、生産性の観点からも、第一導電層形成領域と第一導電層非形成領域との全体に絶縁層が形成されることがより好ましい。
絶縁層9の材料としては、電気的に絶縁性を示す材料が用いられる。また、絶縁層9は、めっき液に対する化学的安定性を有する材料であることが望ましい。めっき液に対する化学的安定性が高い材料を用いることにより、第二導電層形成時のめっき工程中に、絶縁層が溶解しにくく、光電変換部表面へのダメージが生じにくくなる。また、第一導電層非形成領域上にも絶縁層9が形成される場合、絶縁層は、光電変換部50との付着強度が大きいことが好ましい。例えば、ヘテロ接合太陽電池では、絶縁層9は、光電変換部50表面の透明電極層6aとの付着強度が大きいことが好ましい。透明電極層と絶縁層との付着強度を大きくすることにより、めっき工程中に、絶縁層が剥離しにくくなり、透明電極層上への金属の析出を防ぐことができる。
絶縁層9には、光吸収が少ない材料を用いることが好ましい。絶縁層9は、光電変換部50の光入射面側に形成されるため、絶縁層による光吸収が小さければ、より多くの光を光電変換部へ取り込むことが可能となる。例えば、絶縁層9が透過率90%以上の十分な透明性を有する場合、絶縁層での光吸収による光学的な損失が小さく、第二導電層形成後に絶縁層を除去することなく、そのまま太陽電池として使用することができる。そのため、太陽電池の製造工程を単純化でき、生産性をより向上させることが可能となる。絶縁層9が除去されることなくそのまま太陽電池として使用される場合、絶縁層9は、透明性に加えて、十分な耐候性、および熱・湿度に対する安定性を有する材料を用いることがより望ましい。
絶縁層の材料は、無機絶縁性材料でも、有機絶縁性材料でもよい。無機絶縁性材料としては、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等の材料を用いることができる。有機絶縁性材料としては、例えば、ポリエステル、エチレン酢酸ビニル共重合体、アクリル、エポキシ、ポリウレタン等の材料を用いることができる。絶縁層形成工程における第一導電層の表面形状の変化に伴って生じる界面の応力等による、絶縁層への開口の形成を容易とする観点から、絶縁層の材料は、破断伸びが小さい無機材料であることが好ましい。このような無機材料の中でも、めっき液耐性や透明性の観点からは、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化窒化シリコン、酸化アルミニウム、サイアロン(SiAlON)、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、チタン酸バリウム、酸化サマリウム、タンタル酸バリウム、酸化タンタル、フッ化マグネシウム、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム等が好ましく用いられる。中でも、電気的特性や透明電極層との密着性等の観点からは、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化窒化シリコン、酸化アルミニウム、サイアロン(SiAlON)、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、チタン酸バリウム、酸化サマリウム、タンタル酸バリウム、酸化タンタル、フッ化マグネシウム等が好ましく、屈折率を適宜に調整し得る観点からは、酸化シリコンや窒化シリコン等が特に好ましく用いられる。なお、これらの無機材料は、化学量論的(stoichiometric)組成を有するものに限定されず、酸素欠損等を含むものであってもよい。
絶縁層9の膜厚は、絶縁層の材料や形成方法に応じて適宜設定される。絶縁層9の膜厚は、絶縁層形成工程における第一導電層の表面形状の変化に伴って生じる界面の応力等によって、絶縁層に変形部が形成され得る程度に薄いことが好ましい。かかる観点から、絶縁層9の膜厚は、1000nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましい。また、第一導電層非形成部における絶縁層9の光学特性や膜厚を適宜設定することで、光反射特性を改善し、太陽電池セル内部へ導入される光量を増加させ、変換効率をより向上させることが可能となる。このような効果を得るためには、絶縁層9の屈折率が、光電変換部50表面の屈折率よりも低いことが好ましい。また、絶縁層9に好適な反射防止特性を付与する観点から、膜厚は30nm〜250nmの範囲内で設定されることが好ましく、50nm〜250nmの範囲内で設定されることがより好ましい。なお、第一導電層形成領域上の絶縁層の膜厚と第一導電層非形成領域上の絶縁層の膜厚は異なっていてもよい。例えば、第一導電層形成領域では、絶縁層形成工程での変形部の形成を容易とする観点で絶縁層の膜厚が設定され、第一導電層非形成領域では、適宜の反射防止特性を有する光学膜厚となるように絶縁層の膜厚が設定されてもよい。
ヘテロ接合太陽電池のように、光電変換部50の表面に透明電極層(一般には屈折率:1.9〜2.1程度)を有する場合、界面での光反射防止効果を高めて太陽電池セル内部へ導入される光量を増加させるために、絶縁層の屈折率は、空気(屈折率=1.0)と透明電極層との中間的な値であることが好ましい。また、太陽電池セルが封止されてモジュール化される場合、絶縁層の屈折率は、封止剤と透明電極層の中間的な値であることが好ましい。かかる観点から、絶縁層9の屈折率は、例えば1.4〜1.9が好ましく、1.5〜1.8がより好ましく、1.55〜1.75がさらに好ましい。絶縁層の屈折率は、絶縁層の材料、組成等により所望の範囲に調整され得る。例えば、酸化シリコンの場合は、酸素含有量を小さくすることにより、屈折率が高くなる。なお、本明細書における屈折率は、特に断りがない限り、波長550nmの光に対する屈折率であり、分光エリプソメトリーにより測定される値である。また、絶縁層の屈折率に応じて、反射防止特性が向上するように絶縁層の光学膜厚(屈折率×膜厚)が設定されることが好ましい。
絶縁層は、公知の方法を用いて形成できる。例えば、酸化シリコンや窒化シリコン等の無機絶縁性材料の場合は、プラズマCVD法、スパッタ法等の乾式法が好ましく用いられる。また、有機絶縁性材料の場合は、スピンコート法、スクリーン印刷法等の湿式法が好ましく用いられる。これらの方法によれば、ピンホール等の欠陥が少なく、緻密な構造の膜を形成することが可能となる。
中でも、より緻密な構造の膜を形成する観点から、絶縁層9はプラズマCVD法で形成されることが好ましい。この方法により、200nm程度の厚いものだけでなく、30〜100nm程度の薄い膜厚の絶縁層を形成した場合も、緻密性の高い構造の膜を形成することができる。
例えば、図2に示す結晶シリコン系太陽電池のように、光電変換部50の表面にテクスチャ構造(凹凸構造)を有する場合、テクスチャの凹部や凸部にも精度よく膜形成できる観点からも、絶縁層はプラズマCVD法により形成されることが好ましい。緻密性が高い絶縁層を用いることにより、めっき処理時の透明電極層へのダメージを低減できることに加えて、透明電極層上への金属の析出を防止することができる。このように緻密性が高い絶縁膜は、図2の結晶シリコン系太陽電池におけるシリコン系薄膜3のように、光電変換部50内部の層に対しても、水や酸素などのバリア層として機能し得るため、太陽電池の長期信頼性の向上の効果も期待できる。
なお、第一導電層71と第二導電層72との間にある絶縁層9、すなわち第一導電層形成領域上の絶縁層9の形状は、必ずしも連続した層状でなくてもよく、島状であっても良い。なお、本明細書における「島状」との用語は、表面の一部に、絶縁層9が形成されていない非形成領域を有する状態を意味する。
本発明において、絶縁層9は、第一導電層71と第二導電層72との付着力の向上にも寄与し得る。例えば、下地電極層であるAg層上にめっき法によりCu層が形成される場合、Ag層とCu層との付着力は小さいが、酸化シリコン等の絶縁層上にCu層が形成されることにより、第二導電層の付着力が高められ、太陽電池の信頼性を向上することが期待される。
本発明においては、第一導電層71上に絶縁層9が形成される際、絶縁層形成温度Tbを低融点材料の熱流動開始温度T1よりも高温とすることで、第一導電層上の絶縁層に変形が生じる。第一導電層71が低融点材料の熱流動開始温度T1よりも高温に加熱され、低融点材料が流動状態となるために、第一導電層の表面形状が変化する。この変化に伴って、その上に形成される絶縁層9に開口部9hなどの変形部が形成される。すなわち絶縁層の製膜とほぼ同時に変形部が形成される。したがって、その後のめっき工程において、第一導電層71の表面の一部が、めっき液に曝されて導通するため、図3(D)に示すように、この導通部を起点として金属を析出させることが可能となる。
なお、変形部は主に第一導電層71の低融点材料711上に形成される。低融点材料が絶縁性材料の場合、開口部などの変形部の直下は絶縁性であるが、低融点材料の周辺に存在する導電性の高融点材料にもめっき液が浸透するために、第一導電層とめっき液とを導通させることが可能である。
絶縁層形成工程における絶縁層形成温度(基板加熱温度)Tbは、低融点材料の熱流動開始温度T1よりも高温、すなわちT1<Tbである。絶縁層形成温度Tbは、T1+1℃≦Tb≦T1+100℃を満たすことがより好ましく、T1+5℃≦Tb≦T1+60℃を満たすことがさらに好ましい。絶縁層形成温度は、第一導電層の材料の組成や含有量等に応じて適宜設定され得る。
また、前述のごとく、絶縁層形成温度Tbは、光電変換部50の耐熱温度よりも低温であることが好ましい。光電変換部の耐熱温度は、光電変換部の構成により異なる。例えば、ヘテロ接合太陽電池や、シリコン系薄膜太陽電池のように透明電極層や非結晶質シリコン系薄膜を有する場合の耐熱温度は250℃程度である。そのため、光電変換部が非晶質シリコン系薄膜を備えるヘテロ接合太陽電池や、シリコン系薄膜太陽電池の場合、非晶質シリコン系薄膜およびその界面での熱ダメージ抑制の観点から、絶縁層形成温度Tbは250℃以下に設定されることが好ましい。より高性能の太陽電池を実現するためには絶縁層形成温度Tbは200℃以下にすることがより好ましく、180℃以下にすることがさらに好ましい。従って、第一導電層71の低融点材料の熱流動開始温度T1は、250℃未満であることが好ましく、200℃未満がより好ましく、180℃未満がさらに好ましい。
またより緻密な膜を形成する観点から、絶縁層形成温度Tbは130℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましく、150℃以上がさらに好ましい。また、上記と同様の理由により、絶縁層製膜時における基板表面の最高到達温度は、光電変換部の耐熱温度より低温であることが好ましい。
本発明における絶縁層の製膜方法としては、変形部が形成され、また光電変換部をめっき液から保護することができる条件であれば特に制限されないが、例えばプラズマCVDにより製膜される場合、製膜速度を0nm/secよりも速くすることが好ましく1nm/sec以下にすることが好ましい。中でも0.5nm/sec以下にすることがより好ましく、0.25nm以下にすることが特に好ましい。上記範囲で製膜することにより、より緻密な膜が形成できる。
また絶縁層は、導電性酸化物の材料および組成、製膜条件(製膜方法、基板温度、導入ガスの種類および導入量、製膜圧力、パワー密度等)を変更することにより、適宜に調整され得る。絶縁層として酸化シリコンを用いた場合の製膜を例に挙げると、プラズマCVDが用いられることが好ましい。製膜条件としては、基板温度145℃〜250℃、圧力30Pa〜300Pa、パワー密度0.01W/cm2〜0.160W/cm2の条件で製膜が行われることが好ましい。
本発明においては、上述のように絶縁層形成工程において絶縁層に変形部を形成することができるため、めっき工程にてめっきを行うことが出来るが、絶縁層形成工程後、めっき工程前に、さらにアニール処理を行うアニール工程を有していても良い。アニール条件などを適宜調整してアニール処理を行うことにより、例えば変形部の形成が不十分であった場合などにおいても容易に所定の変形部を形成することができる。なお、本発明においては、製造工程を低減させる観点から、上記アニール工程を有さないことがより好ましい。
一方、一導電型結晶シリコン基板の一主面上に逆導電型の拡散層を有する結晶シリコン太陽電池は、非晶質シリコン薄膜や透明電極層を有していないため、耐熱温度は800℃〜900℃程度である。そのため、250℃よりも高温の絶縁層形成温度Tbで絶縁層の形成が行われてもよい。
絶縁層形成工程後に、第一導電層形成領域の絶縁層9上に第二導電層72がめっき法により形成される。この際、第二導電層として析出させる金属は、めっき法で形成できる材料であれば特に限定されず、例えば、銅、ニッケル、錫、アルミニウム、クロム、銀、金、亜鉛、鉛、パラジウム等、あるいはこれらの混合物を用いることができる。
太陽電池の動作時(発電時)には、電流は主として第二導電層を流れる。そのため、第二導電層での抵抗損を抑制する観点から、第二導電層のライン抵抗は、できる限り小さいことが好ましい。具体的には、第二導電層のライン抵抗は、1Ω/cm以下であることが好ましく、0.5Ω/cm以下であることがより好ましい。一方、第一導電層のライン抵抗は、電気めっきの際の下地層として機能し得る程度に小さければよく、例えば、5Ω/cm以下にすればよい。
第二導電層は、無電解めっき法、電解めっき法のいずれでも形成され得るが、生産性の観点から、電解めっき法を用が好適である。電解めっき法では、金属の析出速度を大きくすることができるため、第二導電層を短時間で形成することができる。
酸性銅めっきを例として、電解めっき法による第二導電層の形成方法を説明する。図7は、第二導電層の形成に用いられるめっき装置10の概念図である。光電変換部上に第一導電層および変形部を有する絶縁層が形成された基板12と、陽極13とが、めっき槽11中のめっき液16に浸されている。基板12上の第一導電層71は、基板ホルダ14を介して電源15と接続されている。陽極13と基板12との間に電圧を印加することにより、絶縁層9で覆われていない第一導電層の上、すなわち絶縁層形成工程により絶縁層に生じた開口部などの変形部を起点として、選択的に銅を析出させることができる。
酸性銅めっきに用いられるめっき液16は銅イオンを含む。例えば硫酸銅、硫酸、水を主成分とする公知の組成のものが使用可能であり、これに0.1〜10A/dm2の電流を流すことにより、第二導電層である金属を析出させることができる。適切なめっき時間は、集電極の面積、電流密度、陰極電流効率、設定膜厚等に応じて適宜設定される。
第二導電層は、複数の層から構成させても良い。例えば、Cu等の導電率の高い材料からなる第一のめっき層を、絶縁層を介して第一導電層上に形成した後、化学的安定性に優れる第二のめっき層を第一のめっき層の表面に形成することにより、低抵抗で化学的安定性に優れた集電極を形成することができる。
めっき工程の後には、めっき液除去工程を設けて、基板12の表面に残留しためっき液を除去することが好ましい。めっき液除去工程を設けることによって、絶縁層形成工程で形成された絶縁層9の開口部9hなどの変形部以外を起点として析出し得る金属を除去することができる。変形部以外を起点として析出する金属としては、例えば絶縁層9のピンホール等を起点とするものが挙げられる。めっき液除去工程によってこのような金属が除去されることによって、遮光損が低減され、太陽電池特性をより向上させることが可能となる。
めっき液の除去は、例えば、めっき槽から取り出された基板12の表面に残留しためっき液をエアーブロー式のエアー洗浄により除去した後、水洗を行い、さらにエアーブローにより洗浄液を吹き飛ばす方法により行うことができる。水洗の前にエアー洗浄を行い基板12表面に残留するめっき液量を低減することによって、水洗の際に持ち込まれるめっき液の量を減少させることができる。そのため、水洗に要する洗浄液の量を減少させることができるとともに、水洗に伴って発生する廃液処理の手間も低減できることから、洗浄による環境負荷や費用が低減されるとともに、太陽電池の生産性を向上させることができる。
ここで一般的に、ITO等の透明電極層や、酸化シリコン等の絶縁層は親水性であるため、基板12の表面、すなわち光電変換部50の表面や絶縁層9の表面の水との接触角は、10°程度あるいはそれ以下である場合が多い。本発明においては、基板12の表面の接触角を20°以上にすることが好ましく、上記範囲とするために、基板12表面に撥水処理が行われることが好ましい。撥水処理は、例えば表面へ撥水層を形成することにより、基板表面のめっき液に対する濡れ性を低下させ、水に対する接触角を大きくすることができる。なお、本明細書における撥水処理とは、表面の水に対する濡れ性を低下させる(接触角を増大させる)処理を意味する。撥水処理を行うことにより、めっき工程後にめっき槽から取り出された基板12表面に残留するめっき液の量を低減できるとともに、エアーブローなどによるめっき液の除去を容易にすることができる。
なお、撥水性を有する絶縁層9が形成されることによって同等の効果が得られる。すなわち水との接触角θが大きい(例えば20°以上)絶縁層9が形成されることにより、太陽電池の生産性をより向上させることができる。絶縁層に撥水性を持たせる方法としては、例えば、後の実施例で詳述するように、絶縁層の製膜条件(例えば、製膜室に導入するシリコン原料ガスと酸素原料ガスの流量比)を変更したプラズマCVD法により、酸化シリコン層を形成する方法などがある。
本発明においては、集電極形成後(めっき工程後)に絶縁層除去工程が行われてもよい。特に、絶縁層として光吸収の大きい材料が用いられる場合は、絶縁層の光吸収による太陽電池特性の低下を抑制するために、絶縁層除去工程が行われることが好ましい。絶縁層の除去方法は、絶縁層材料の特性に応じて適宜選択される。例えば、化学的なエッチングや機械的研磨により絶縁層が除去され得る。また、材料によってはアッシング(灰化)法も適用可能である。この際、光取り込み効果をより向上させる観点から、第一導電層非形成領域上の絶縁層が全て除去されることがより好ましい。また、絶縁層9上に撥水層が形成されている場合、絶縁層9とともに撥水層も除去されることが好ましい。なお、絶縁層として光吸収の小さい材料が用いられる場合は、絶縁層除去工程が行われる必要はない。
以上、ヘテロ接合太陽電池の光入射側に集電極70が設けられる場合を中心に説明したが、裏面側にも同様の集電極が形成されてもよい。ヘテロ接合太陽電池のように結晶シリコン基板を用いた太陽電池は、電流量が大きいため、一般に、透明電極層/集電極間の接触抵抗の損失による発電ロスが顕著となる傾向がある。これに対して、本発明では、第一導電層と第二導電層を有する集電極は、透明電極層との接触抵抗が低いため、接触抵抗に起因する発電ロスを低減することが可能となる。
また、本発明は、ヘテロ接合太陽電池以外の結晶シリコン太陽電池や、GaAs等のシリコン以外の半導体基板が用いられる太陽電池、非晶質シリコン系薄膜や結晶質シリコン系薄膜のpin接合あるいはpn接合上に透明電極層が形成されたシリコン系薄膜太陽電池や、CIS,CIGS等の化合物半導体太陽電池、色素増感太陽電池や有機薄膜(導電性ポリマー)等の有機薄膜太陽電池のような各種の太陽電池に適用可能である。
結晶シリコン太陽電池としては、一導電型(例えばp型)結晶シリコン基板の一主面上に逆導電型(例えばn型)の拡散層を有し、拡散層上に前記集電極を有する構成が挙げられる。このような結晶シリコン太陽電池は、一導電型層の裏面側にp+層等の導電型層を備えるのが一般的である。このように、光電変換部が非晶質シリコン層や透明電極層を含まない場合は、低融点材料の熱流動開始温度T1および絶縁層形成温度Tbは、250℃より高くてもよい。
シリコン系薄膜太陽電池としては、例えば、p型薄膜とn型薄膜との間に非晶質の真性(i型)シリコン薄膜を有する非晶質シリコン系薄膜太陽電池や、p型薄膜とn型薄膜との間に結晶質の真性シリコン薄膜を有する結晶質シリコン系半導体太陽電池が挙げられる。また、複数のpin接合が積層されたタンデム型の薄膜太陽電池も好適である。このようなシリコン系薄膜太陽電池では、透明電極層や非晶質シリコン系薄膜の耐熱性を勘案して、低融点材料の熱流動開始温度T1および絶縁層形成温度Tbは250℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、180℃以下であることがさらに好ましい。
本発明の太陽電池は、実用に供するに際して、モジュール化されることが好ましい。太陽電池のモジュール化は、適宜の方法により行われる。例えば、集電極にタブ等のインターコネクタを介してバスバーが接続されることによって、複数の太陽電池セルが直列または並列に接続され、封止剤およびガラス板により封止されることによりモジュール化が行われる。
以下、図2に示すヘテロ接合太陽電池に関する実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1のヘテロ接合太陽電池を、以下のようにして製造した。
一導電型単結晶シリコン基板として、入射面の面方位が(100)で、厚みが200μmのn型単結晶シリコンウェハを用い、このシリコンウェハを2重量%のHF水溶液に3分間浸漬し、表面の酸化シリコン膜が除去された後、超純水によるリンスが2回行われた。このシリコン基板を、70℃に保持された5/15重量%のKOH/イソプロピルアルコール水溶液に15分間浸漬し、ウェハの表面をエッチングすることでテクスチャが形成された。その後に超純水によるリンスが2回行われた。原子間力顕微鏡(AFM パシフィックナノテクノロジー社製)により、ウェハの表面観察を行ったところ、ウェハの表面はエッチングが最も進行しており、(111)面が露出したピラミッド型のテクスチャが形成されていた。
エッチング後のウェハがCVD装置へ導入され、その光入射側に、真性シリコン系薄膜2aとしてi型非晶質シリコンが5nmの膜厚で製膜された。i型非晶質シリコンの製膜条件は、基板温度:150℃、圧力:120Pa、SiH4/H2流量比:3/10、投入パワー密度:0.011W/cm2であった。なお、本実施例における薄膜の膜厚は、ガラス基板上に同条件にて製膜された薄膜の膜厚を、分光エリプソメトリー(商品名M2000、ジェー・エー・ウーラム社製)にて測定することにより求められた製膜速度から算出された値である。
i型非晶質シリコン層2a上に、逆導電型シリコン系薄膜3aとしてp型非晶質シリコンが7nmの膜厚で製膜された。p型非晶質シリコン層3aの製膜条件は、基板温度が150℃、圧力60Pa、SiH4/B2H6流量比が1/3、投入パワー密度が0.01W/cm2であった。なお、上記でいうB2H6ガス流量は、H2によりB2H6濃度が5000ppmまで希釈された希釈ガスの流量である。
次にウェハの裏面側に、真性シリコン系薄膜2bとしてi型非晶質シリコン層が6nmの膜厚で製膜された。i型非晶質シリコン層2bの製膜条件は、上記のi型非晶質シリコン層2aの製膜条件と同様であった。i型非晶質シリコン層2b上に、一導電型シリコン系薄膜3bとしてn型非晶質シリコン層が4nmの膜厚で製膜された。n型非晶質シリコン層3bの製膜条件は、基板温度:150℃、圧力:60Pa、SiH4/PH3流量比:1/2、投入パワー密度:0.01W/cm2であった。なお、上記でいうPH3ガス流量は、H2によりPH3濃度が5000ppmまで希釈された希釈ガスの流量である。
この上に透明電極層6aおよび6bとして、各々酸化インジウム錫(ITO、屈折率:1.9)が100nmの膜厚で製膜された。ターゲットとして酸化インジウムを用い、基板温度:室温、圧力:0.2Paのアルゴン雰囲気中で、0.5W/cm2のパワー密度を印加して透明電極層の製膜が行われた。裏面側透明電極層6b上には、裏面金属電極8として、スパッタ法により銀が500nmの膜厚で形成された。光入射側透明電極層6a上には、第一導電層71および第二導電層72を有する集電極70が以下のように形成された。
第一導電層71の形成には、低融点材料としてのSnBi金属粉末(粒径DL=25〜35μm、融点T1=141℃)と、高融点材料としての銀粉末(粒径DH=2〜3μm、融点T2=971℃)とを、20:80の重量比で含み、さらにバインダー樹脂としてエポキシ系樹脂を含む印刷ペーストが用いられた。この印刷ペーストを、集電極パターンに対応する開口幅(L=80μm)を有する#250メッシュ(開口幅:l=72μm)のスクリーン版を用いて、スクリーン印刷し、130℃で乾燥が行われた。
第一導電層71が形成されたウェハが、CVD装置に投入され、絶縁層9として酸化シリコン層(屈折率:1.5)が、プラズマCVD法により80nmの厚みで光入射面側に形成された。
絶縁層9の製膜条件は、基板加熱温度Tb:145℃、圧力33Pa、SiH4/CO2流量比:3/21、投入パワー密度:0.16W/cm2(周波数27MHz)、製膜速度:0.21nm/secであった。この条件で光入射面側に形成された絶縁層の屈折率(n)および消衰係数(k)は図8に示す通りであった。
以上のように絶縁層形成工程までが行われた基板12が、図7に示すように、めっき槽11に投入された。めっき液16には、硫酸銅五水和物、硫酸、および塩化ナトリウムが、それぞれ120g/l、150g/l、および70mg/lの濃度となるように調製された溶液に、添加剤(上村工業製:品番ESY−2B、ESY−H、ESY−1A)が添加されたものが用いられた。このめっき液を用いて、温度40℃、電流3A/dm2の条件でめっきが行われ、第一導電層71上の絶縁層上に、10μm程度の厚みで第二導電層72として銅が均一に析出した。第一導電層が形成されていない領域への銅の析出はほとんど見られなかった。
その後、レーザー加工機によりセル外周部のシリコンウェハが0.5mmの幅で除去され、本発明のヘテロ接合太陽電池が作製された。
(実施例2)
絶縁層9を製膜したのち、180℃にてアニールを実施した点を除いて、実施例1と同様にしてヘテロ接合太陽電池が作製された。
(比較例1)
第一導電層形成用の印刷ペーストとして、低融点材料を含まない銀ペースト(すなわち金属材料粉末と銀粉末との比率を0:100としたもの)が用いられた点を除いて、実施例1と同様にして第一導電層(銀電極)71の形成までが行われた。その後、絶縁層形成工程、第二金属層形成工程のいずれも実施せず、180℃にてアニールを実施し、この銀電極を集電極とするヘテロ接合太陽電池が作製された。
(比較例2)
第一導電層71形成用の印刷ペースト中の低融点材料が、SnSb粉末(粒径DL=35〜45μm、融点T1=266℃)に変更された点を除いて、実施例1と同様に第一導電層の形成および絶縁層の形成までが行われた。その後、実施例1と同様にめっき法による第二導電層の形成を試みたが、銅が析出せず、第二導電層が形成されなかった。
(比較例3)
絶縁層9を製膜したのち、300℃にてアニールを実施した点を除いて、比較例2と同様にしてヘテロ接合太陽電池が作製された。比較例3では、めっき法工程において絶縁層の第一導電層形成領域上に銅が析出し、第二導電層が形成された。
(比較例4)
実施例1において、第一導電層を形成後、絶縁層形成工程およびアニール工程を実施することなく、めっき法により第二導電層が形成された。比較例4では、第二導電層を形成することができたものの、めっき処理中に透明電極層が完全にエッチングされる不具合が生じており、太陽電池として機能するものが得られなかった。
(比較例5)
基板加熱温度が表1に示すようにTb=115℃に変更された点を除いて、実施例1と同様にしてヘテロ接合太陽電池が作製された。比較例5では、第一導電層非形成領域上にも銅が部分的に析出した。
(比較例6)
基板加熱温度が表1に示すようにTb=115℃に変更された点を除いて、実施例2と同様にしてヘテロ接合太陽電池が作製された。比較例5では、第一導電層非形成領域上にも銅が部分的に析出した(太陽電池特性は測定せず)。
上記各実施例および比較例のヘテロ接合太陽電池の作製条件および太陽電池特性(開放電圧(Voc)、短絡電流密度(Jsc)、曲線因子(FF)および変換効率(Eff)の測定結果を表1に示す。
各実施例と比較例1との比較から、本発明の太陽電池は、銀ペースト電極からなる集電極を有する従来の太陽電池に比べて、変換効率(Eff)が向上している。これは、実施例の太陽電池においては、集電極の抵抗が低くなり、曲線因子(FF)が向上したためと考えられる。
また、各実施例では、比較例1に比して短絡電流(Jsc)も向上している。これは、屈折率の高い透明電極層6a上に、屈折率の低い絶縁層9を有するため、最表面(太陽電池の空気界面)での反射率が低下したためと考えられる。このことは、図8において、絶縁層(酸化シリコン)は太陽電池が光電変換に利用できる波長範囲において透明電極層(ITO)よりも屈折率が低く、かつ光吸収がほとんどないことからも推定できる。このように、透明性および適宜の屈折率を有する絶縁層が形成される場合は、第二導電層形成後に絶縁層が除去されずとも、高い変換特性を有する太陽電池が得られることがわかる。
また、比較例2では絶縁層形成温度Tb(145℃)が低融点材料の熱流動開始温度T1(266℃)よりも低かったため、絶縁層上にめっきの起点が存在せず、第二導電層が形成されなかった。
比較例3では、アニール温度Ta(300℃)が低融点材料の熱流動開始温度T1(266℃)よりも高いため、第二導電層が形成されたが、300℃の高温で加熱されたことにより、太陽電池特性が著しく低下していた。これは、高温での加熱より、光電変換部の非晶質シリコン層の特性(膜質)が低下したためと考えられる。
実施例において、めっき工程により第二導電層として銅が析出したのは、絶縁層形成工程により第一導電層形成領域上の絶縁層に開口部が形成され、第一導電層がめっき液と接触(導通)し、この開口部を析出の起点として、めっきが行われたためである。
一方、比較例5及び6では、絶縁層形成温度Tb(115℃)がT1(141℃)よりも低温であるにも拘わらず、第一導電層非形成領域にも第二導電層である銅が析出した。これは絶縁層形成温度Tb(115℃)が低温であり、本製膜条件では絶縁層であるSiOx膜が、透明電極層を十分保護しうる程度の緻密性を有していなかったためと考えられる。
以上の結果から、絶縁層形成温度Tbは、低融点材料の熱流動開始温度T1以上で、かつ光電変換部の耐熱温度よりも小さければよく、これに伴って低融点材料の熱流動開始温度T1も光電変換部の耐熱温度より小さくすればよいことが分かる。
以上、実施例を用いて説明したように、本発明によれば、開口部形成のためのアニール処理を行うことなく、太陽電池の集電極を作製することができるため、高出力の太陽電池の生産性を向上させることが可能となる。