以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
本発明の実施形態に係る水洗大便器装置について、図1及び図2を参照しながら説明する。図1は、水洗大便器装置FTの断面図であって、水洗大便器装置FTをその左右方向に垂直な面で切断した場合の断面を示している。図2は、水洗大便器装置FTの上面図である。図2では、後に説明するタンク20の内部構造を示すため、タンク20の上蓋201を取り外した状態を描いている。
図1及び図2に示したように、水洗大便器装置FTは、大便器本体10と、大便器本体10の後方側(図1では右側、図2では上側)において大便器本体10の上面101に設置されたタンク20とを備える。水洗大便器装置FTは、大便器本体10によって汚物を受け止めて、当該汚物を、タンク20から供給される水(洗浄水)によって、排水管SWに排出する装置である。
なお、以下の説明においては、特に断らない限り、大便器本体10に着座した状態の使用者から見て右側(図2では左側)のことを「右側」と称し、大便器本体10に着座した状態の使用者から見て左側のことを「左側」(図2では右側)と称する。また、大便器本体10に着座した状態の使用者から見て前方側(図1では左側、図2では下側)のことを「前側」又は「前方側」と称し、大便器本体10に着座した状態の使用者から見て後方側(図1では右側、図2では上側)のことを「後側」又は「後方側」と称する。
大便器本体10は、ボウル部110と、リム部120と、導水路130と、排水トラップ管路140とを有する。ボウル部110は、上方から落下する汚物を一時的に受け止める部分である。リム部120は、ボウル部110の上縁部に形成されており、図1に示したように、ボウル部110の内側面の一部を外周側に向けて後退させたような形状となっている。後に説明するように、リム部120は、ボウル部110に向けて供給された水が旋回して流れる流路となっている。リム部120は、ボウル部110の上縁に沿って一周するような略円形(上面視)の流路として形成されている。
導水路130は、タンク20から供給された水をボウル部110に導くために、大便器本体10の内部に形成された流路である。導水路130は、その一端が大便器本体10の上面101に開口しており、タンク20から供給される水の入口131となっている。入口131が形成されている位置は、大便器本体10の上面101のうち後方側の部分であり、且つ左右方向における中央の部分である。
導水路130は、その下流側において二つの流路(第一導水路132、第二導水路134)に分岐している。一方の流路である第一導水路132は、その下流側の端部がリム部120のうち右側の部分において開口しており、当該開口が水の出口(吐水部133)となっている。タンク20から入口131に水が供給されると、その一部は第一導水路132の内部を通り、吐水部133から噴出してリム部120に供給される。
他方の流路である第二導水路134は、その下流側の端部がリム部120のうち左側且つ後方寄りの部分において開口しており、当該開口が水の出口(吐水部135)となっている。タンク20から入口131に水が供給されると、その一部は第二導水路134の内部を通り、吐水部135から噴出してリム部120に供給される。
吐水部133から水が噴出する方向は、略円形の流路として形成されたリム部120の円周に沿う方向であり、且つ上面視において反時計回りの方向となる。吐水部135から水が噴出する方向も、略円形の流路として形成されたリム部120の円周に沿う方向であり、且つ上面視において反時計回りの方向となる。図2において矢印で示したように、吐水部133及び吐水部135からリム部120に噴出した水は、いずれもリム部120に沿って反時計回りに旋回して流れながら、リム部120の全体からボウル部110に向けて流下する。
排水トラップ管路140は、ボウル部110の下端と排水管SWとを接続する流路である。排水トラップ管路140は、ボウル部110の下端から下流に向かう方向に沿って上り勾配となるように形成されている上昇流路141と、上昇流路141の上端から下流に向かう方向に沿って下り勾配となるように形成されている下降流路142とを有する。このような構成により、ボウル部110の下部から上昇流路141の下部に亘る部分には水を貯留することが可能となっており、貯留した水によって封水WTが形成されている。下降流路142の下端には排水管SWが接続されている。排水管SWは建物の内部に配置された配管であって、その下流側の端部が不図示の下水管に接続されている。
タンク20からボウル部110に向けて水が供給されると、上記のように、当該水はリム部120を旋回して流れながら、リム部120の全体からボウル部110に向けて流下する。水はボウル部110に対して上方から追加され、ボウル部110の下端部から上昇流路141及び下降流路142を通って排出される。その結果、ボウル部110に貯留されている水(封水WT)には下向きの流れが生じることとなる。
ボウル部110において一時的に受け止められていた汚物は、上方のリム部120から供給される水によって下方に向けて押し込まれ、ボウル部110の下端に向かって移動する。その後、汚物は水流によって上昇流路141を通り下降流路142に到達して、水と共に排水管SWに向けて落下する。
タンク20は内部に水が貯留された容器であって、当該水を導水路130の入口131に供給するためのものである。タンク20は、第一タンク部210と、第一タンク部210の底壁211の一部を下方に伸ばすように形成された第二タンク部220とを有している。第一タンク部210と第二タンク部220はいずれも略直方体の容器であって、両者の内部空間が互いに連通している。第二タンク部220は、第一タンク部210の底壁211のうち後方側の部分に接続されている。
第一タンク部210の底壁211(第二タンク部220よりも前方側の部分)は、大便器本体10の上面101のうち後方側の部分に対して上方から近接した状態となっている。具体的には、大便器本体10の上面101のうち後方側の部分には入口131が形成されているが、第一タンク部210の底壁211は、入口131の周囲を上方から覆うように、大便器本体10の上面101に対して上方から近接した状態となっている。また、底壁211には入口131と略同一形状の開口212が形成されており、開口212と入口131とが上面視で重なっている。このため、タンク20の内部に貯留されている水は、開口212及び入口131を通って導水路130の内部に流入し、ボウル部110に向かって流れることが可能となっている。
第一タンク部210を上記のように配置した結果、第二タンク部220は大便器本体10よりも後方に位置している。すなわち、大便器本体10の後方側端部よりも更に後方側に位置した状態となっている。また、第二タンク部220の底壁221は、大便器本体10の上面101よりも低い位置に配置されている。
上記のようにタンク20が配置されることにより、タンク20の前端部が、大便器本体10の後端部よりも前方側に位置している。また、タンク20の下端部が、大便器本体10の上面101よりも下方側に位置している。その結果、水洗大便器装置FT全体の前後方向における寸法と、上下方向における寸法とが、いずれも小さくなっており、水洗大便器装置FTのデザイン性が向上している。
次に、タンク20の内部の構成について説明する。図3は、水洗大便器装置FTを後方側から見た場合における、タンク20の内部を示す斜視図である。図3に示したように、タンク20の内部には、給水管231と、主弁233と、パイロット弁234と、ジェットポンプユニット300とが配置されている。
給水管231は、主弁233に向けて水を供給するための管であって、第二タンク部220の底壁221から鉛直上方に向かって伸びるように配置されている。給水管231の下端は、タンク20の外部において不図示の水道管に接続されている。また、給水管231の上端は、タンク20の内部において主弁233に下方から接続されている。給水管231は、タンク20の内部のうち左右方向における中央よりも左側となる位置に配置されている。
給水管231の途中(水道管と主弁233との間)には、図3では図示しない定流量弁232が配置されている。主弁233が開いた状態において主弁233に流入する水の流量は定流量弁232によって一定となり、水道管内の水圧によって変動することがない。
主弁233は開閉弁であって、給水管231からジェットポンプユニット300に向かう水の流路の開閉を行うものである。主弁233とジェットポンプユニット300との間にはバキュームブレーカー235が備えられており、バキュームブレーカー235の上流側が負圧となって水が逆流してしまうことが防止されている。なお、上記のように給水管231が上方に向かって伸びており、主弁233とバキュームブレーカー235とはタンク20内の高い位置に配置されている。このため、タンク20の水位が満水位となった状態においても、バキュームブレーカー235が水没してしまうことはない。
主弁233にはパイロット弁234が備えられており、パイロット弁234の動作によって主弁233の開閉が切り替えられる構成となっている。パイロット弁234には、タンク20の外側に配置された操作レバー236が、タンク20の内部に配置された伝達機構237を介して接続されている。また、パイロット弁234には、タンク20の内部に配置されたフロート238が更に接続されている。
水洗大便器装置FTの使用者によって操作レバー236が操作されると、当該操作が伝達機構237を介してパイロット弁234に伝達され、パイロット弁234が開かれる。これにより主弁233が開かれた状態となり、給水管231からジェットポンプユニット300に向かって水が流れる。後に説明するように、ジェットポンプユニット300に向かって流れた水は、タンク20の内部に貯留されていた水と共に洗浄水として導水路130に供給される。このため、タンク20の内部における水位は次第に低下していく。
ボウル部110の洗浄が終了した後も、主弁233は閉じられず、給水管231からジェットポンプユニット300に向かって引き続き水が流れる。ジェットポンプユニット300に向かって流れた水はタンク20の内部に供給されて、次回の洗浄のために貯留される。タンク20の内部に向けた水の供給(タンク20への注水)が行われると、タンク20の内部における水位は次第に上昇して行く。タンク20の内部においてパイロット弁234に接続されているフロート238は、水位の上昇に伴って上昇し、これによりパイロット弁234が閉じられる。
このように、タンク20の内部における水位が上昇すると、フロート238が受ける浮力の変化によってパイロット弁234が閉じられる。パイロット弁234が閉じられると、主弁233が閉じられた状態となり、給水管231からジェットポンプユニット300への水の供給が停止される。この時点においてタンク20の内部に貯留されている水の量が、次回の洗浄のために必要な量となるように(所定の満水位となるように)、フロート238の配置が調整されている。
ジェットポンプユニット300は、給水管231から供給された水によりジェットポンプ作用を誘発させ、これにより導水路130に向けた水の供給を行うためのものである。ジェットポンプユニット300は、ノズル310と、スロート管320とを有している。
ノズル310は、一端が接続管339を介してバキュームブレーカー235に接続されており、他端には噴射口311が形成されている管である。ノズル310は、第二タンク部220の底壁221の近傍に配置されている。主弁233が開かれると、給水管231から供給された水は、接続管239を流れてノズル310に到達し、噴射口311から高速の水流として噴射される。ノズル310は、第二タンク部220のうち後方側且つ右側の隅(上面視における隅)に配置されている。図3に示したように、ノズル310はU字形状となっており、その下流側が上記隅から折り返されている。噴射口311は、その噴射方向がスロート管320の内部に向けられている。
スロート管320は、断面が円形の管であって、底壁211に形成された開口212を一部が貫通した状態で、タンク20の内部に配置されている。スロート管320の一端は導水路130の入口131に接続されており、他端には開口である吸引口321が形成されている。スロート管320は、導水路130の入口131側の部分が鉛直方向に沿っており、吸引口321側の部分が水平面に対して傾斜している。このため、その全体が逆U字形状となっている。図2に示したように、スロート管320は、上面視において前後方向に対して傾斜した状態で、タンク20の内部に配置されている。
スロート管320の具体的な形状について更に詳しく説明する。スロート管320は、吸引口321から斜め上方に向けて伸びる上昇部322と、上昇部322の下流側(上側)に配置された屈曲部323と、屈曲部323の下流側(下側)に配置され、屈曲部323から下方に向かって伸びる下降部324とを有する。
上昇部322は、その管径が全体において均一な円筒形状の管であって、水平面に対して傾斜した状態で配置されている。吸引口321は上昇部322の下端に形成されている。吸引口321は、その縁の全体が水平面に沿うように(水平面と平行になるように)形成されている。
下降部324は、その管径が全体において均一な円筒形状の管であって、鉛直方向に沿って配置されている。下降部324の管径は、上昇部322の管径よりも大きい。屈曲部323のうち上昇部322側の管径は、上昇部322の管径に等しい。また、屈曲部323のうち下降部324側の管径は、下降部324の管径に等しい。このため、管径が互いに異なる上昇部322と下降部324とが、屈曲部323によって滑らかに繋がれているということができる。
図4は、タンク20の内部における構成を模式的に示している。既に説明したように、タンク20の内部には、給水管231と、主弁233と、ジェットポンプユニット300とが配置されている。
ボウル部110の洗浄が行われていない状態(待機状態)においては、タンク20の水位は満水位となっている。水洗大便器装置FTの使用者によって操作レバー236が操作されると、既に説明したように主弁233が開かれた状態となり、ノズル310の噴射口311から水が噴射される(図4の矢印AR1)。タンク20の内部に貯留されていた水は、スロート管320の内部に引き込まれて(図4の矢印AR2)、洗浄水としてリム部120に供給される(図4の矢印AR3)。
リム部120への水の供給が終了すると、ノズル310からの水の供給先が進行方向切替手段350によって切り替えられて、タンク20への注水が開始される(図4の矢印AR4)。タンク20内の水位は次第に上昇して行き、満水位となった時点でフロート238によりパイロット弁234が閉じられる。これと同時に主弁233が閉じられることによりタンク20への注水が終了し、待機状態に戻る。
タンク20の内部におけるその他の構成について、再び図3を参照しながら説明する。図3に示したように、タンク20の内部にはスロート管320の下降部324を囲むような隔壁240が配置されている。隔壁240は、底壁211から上方に向かって伸びるように形成されている。隔壁240、タンク20の前側壁面213、左側壁面214、及び第一タンク部210の底壁211によって、タンク20の内部空間の一部が区画され、小タンク260が構成されている。小タンク260は、その上部がタンク20の内部に開放された容器であって、第一タンク部210のうち前方側且つ左側の隅に配置されている。スロート管320は、下降部324の下端部分が小タンク260の内側に配置されている。また、吸引口321が小タンク260の外側に配置されている。
隔壁240のうち下端部近傍には開閉窓241が設けられている。開閉窓241は通常は開かれた状態となっており、開閉窓241を通じて小タンク260の内部と外部(隔壁240よりも後方側の空間)とが連通している。このため、ボウル部110の洗浄が行われていない状態(待機状態)においては、タンク20内に貯留された水の水位と、小タンク260内に貯留された水の水位は等しくなっている。
操作レバー236は、二つの方向(大方向、小方向)に操作することが可能である。操作レバー236が大方向に操作された場合には、開閉窓241が開かれた状態のまま、パイロット弁234及び主弁233が開かれる。小タンク260に貯留されていた水は、開閉窓241を通過して第二タンク部220に流出し、吸引口321に到達する。このため、タンク20の内部に貯留されていた水は、小タンク260に貯留されていた分を含む殆どが、スロート管320の内部に引き込まれてリム部120に供給される。
一方、操作レバー236が、小方向に操作された場合には、開閉窓241が閉じられると同時にパイロット弁234及び主弁233が開かれる。このため、タンク20の内部に貯留されていた水のうち小タンク260に貯留されていた水は、開閉窓241を通過することができずに小タンク260の内部に残留したままとなる。その結果、洗浄水としてリム部120に供給される水の量は少量となる。
なお、以下の説明において「タンク20に貯留されている水の水位」又は「タンク20内の水位」等というときには、小タンク260の外部における水位を示すものとする。すなわち、隔壁240によって二つに分けられた空間のうち、吸引口321が配置されている方の空間に貯留されている水の水位を示すものとする。小タンク260に貯留されている水の水位については、以下の説明では考慮しない。
続いて、リム部120へ洗浄水として供給される水の流量(吐水部133、135に供給される水の流量といってもよい)について、図5を参照しながら説明する。図5は、水洗大便器装置FTの、洗浄時における動作の流れを説明するためのフローチャートである。
まず、水洗大便器装置FTの使用者によって操作レバー236が操作されると(ステップS01)、ノズル310から水が噴射され、既に説明したようにジェットポンプ作用によってリム部120に水が供給される(ステップS02)。
ノズル310からの水の噴射が開始されてから、タンク20内の水位が低下して、噴射された水の進行方向が進行方向切替手段350により切り替えられるときの位置(このときの水位を、以下では「第一水位」とも称する)となるまでの期間においては、ジェットポンプ効果によって大流量の水がリム部120に供給される(ステップS03)。
タンク内の水位が第一水位まで低下すると、継続して噴射されているノズル310からの水により、タンク20内への貯水が行われる(ステップS04)。タンク20内の水位が上昇して、満水位となると、ノズル310からの水の噴射が停止され、タンク20内への水の貯水が停止される(ステップS05、S06)。
なお、ボウル部110の洗浄が行われた後において、封水WTを形成するための水(リフィル水)をジェットポンプユニット300からリム部120に追加供給する構成としてもよい。このようなリフィル水の供給は、タンク20内への水の貯水が停止した時点(ステップS05の直後)のタイミングにおいて、開始することが望ましい。
図6は、進行方向切替手段350に含まれる切替安定部材351及び遮蔽部352が、ノズル近傍を回動することを説明するための図である。図6(A)は、切替安定部材351及び遮蔽部352の回動方向を示す図である。図6(A)に示したように、切替安定部材351及び遮蔽部352は、回動機構(回動軸)353を軸に、反時計回りの第一方向D1又は時計回りの第二方向D2に回動する。また、第一方向D1は、遮蔽部352にとって、ノズルの噴射口311を覆う方向であり、第二方向D2は、第一方向D1とは逆方向である。
進行方向切替手段350は、棒状の部材であって、その長手方向に沿った一端には切替安定部材351を有し、他端には遮蔽部352を有する。なお、進行方向切替手段350は、先に参照した図3等においては図示を省略していたものである。
図6(B)は、ノズル310から噴射された水がスロート管320の内部に向かう便器洗浄モードにおける、切替安定部材351と、遮蔽部352と、ノズル310との位置関係を示す図である。図6(B)に示したように、便器洗浄モード時では、切替安定部材351及び遮蔽部352は、第二方向D2において最大限回動している位置にある。
また、図6(B)に示したように、進行方向切替手段350は、ノズル310から噴射された水の進行方向を、タンク20内の水位に連動して切り替えるフロート部材354を有してもよい。このフロート部材354は、切替安定部材351の一部として構成されてもよい。切替安定部材351は、ノズル310近傍で回動させるように構成される。
図6(C)は、ノズル310から噴射された水がスロート管320の外部に向かうタンク貯水モードにおける、切替安定部材351と、遮蔽部352と、ノズル310との位置関係を示す図である。図6(C)に示したように、タンク貯水モード時では、切替安定部材351及び遮蔽部352は、第一方向D1において最大限回動している位置にある。
また、図6(C)に示したように、遮蔽部352は、便器洗浄モードからタンク貯水モードに切り替わる際に、ノズル310から噴射された水を第二方向D2に指向させるように構成されたガイド面355(方向転換部分とも言う)を有する。ノズル310から噴射された水は、このガイド面355に沿って、進行方向がスロート管320の外部に向かうようになる。
図7は、便器洗浄モード時における水の流れ及び誘引される水により受ける力の関係を説明するための図である。図7(A)は、便器洗浄モード時の水の流れを示す図である。図7(A)に示したように、便器洗浄モード時には、ノズル310から噴射された水(ジェット水とも言う)は、スロート管320内部に向かって進行する。このとき、タンク20内に貯水された水は、ジェット水に誘引されてスロート管320内部に引き込まれ、ジェット水と引き込まれた水とを合わせた大流量の水が導水路130に供給される。
図7(B)は、便器洗浄モード時の切替安定部材351及び遮蔽部352に作用する力を示す図である。図7(B)に示したように、第一方向の力F1は、便器洗浄モード時に、誘引される水により遮蔽部352に対して付与される力を表す。第二方向の力F2は、便器洗浄モード時に、誘引される水により切替安定部材351に対して付与される力を表す。
第一方向の力F1を受ける遮蔽部352の第一受圧面と、第二方向の力F2を受ける切替安定部材351の第二受圧面との大きさについては、第一受圧面よりも、第二受圧面の方を大きくすると良い。
これにより、切替安定部材351の第二受圧面を遮蔽部352の第一受圧面より大きく形成することで、便器洗浄モード時にノズル310から噴射される水によって誘引される水により、切替安定部材351の第二受圧面が受ける力を大きくすることができる。つまり、便器洗浄モード時に、遮蔽部352の第一受圧面が、誘引される水により受ける第一方向の力よりも、切替安定部材351の第二受圧面が、誘引される水により受ける第二方向の力を大きくすることができるため、便器洗浄モード途中でタンク貯水モードに切り替わることがなく、モード切り替えの安定性をさらに向上させることができる。
図8は、便器給水時における進行方向切替手段350の位置及び力の受け方を説明するための図である。図8(A)は、便器給水時における進行方向切替手段350の位置を示す図である。図8(A)に示したように、タンク内において、タンク水位が十分高い位置にある場合(例えば水位がLe1の位置にある場合)は、進行方向切替手段350は、便器洗浄モード時の位置で維持される。つまり、切替安定部材351及び遮蔽部352は、第二方向において最大限回動している位置にある。便器洗浄モード時に、進行方向切替手段350が図8(A)に示す位置に維持される理由を、図8(B)を用いて説明する。
図8(B)は、便器給水時に進行方向切替手段350が受ける力を示す図である。図8(B)に示したように、力F1は、遮蔽部352が、誘引される水から受ける力を表し、力F2は、切替安定部材351が、誘引される水から受ける力を表す。また、力F3は、フロート部材354による浮力を表し、力F4は、切替安定部材351の自重による力を表す。力の符号(F1〜F4)は、以降で用いられる場合、図8(B)に示す意味と同じ意味で用いることとする。
進行方向切替手段350が受けるこれらの力のうち、力F2とF3が、便器洗浄モードを維持する方向(D2)の力を表し、力F1とF4が、タンク貯水モードに切り替える方向(D1)の力を表す。図8(B)に示す場合、タンク20内に多くの水が貯まっている状態であるので、フロート部材354が受ける浮力F3は、自重F4よりも大きい。また、図7(B)で説明したように、切替安定部材351及び遮蔽部352の受圧面の大きさの関係から、F2>F1が成り立つ。そのため、ジェット水の進行方向の切り替えに関する力関係は、F2+F3>F1+F4が成り立ち、図8(A)に示した便器洗浄モード時の位置関係が維持される。
図9は、便器洗浄モードからタンク貯水モードに切り替わる直前の進行方向切替手段350の位置及び力の受け方を説明するための図である。図9(A)は、便器洗浄モードからタンク貯水モードに切り替わる直前の進行方向切替手段350の位置を示す図である。図9(A)に示したように、タンク内において、タンク水位がスロート管320の吸引口321付近にある場合(例えば水位がLe2の位置にある場合)、進行方向切替手段350は、便器洗浄モードからタンク貯水モードに切り替わる直前の状態となる。
図9(B)は、便器洗浄モードからタンク貯水モードに切り替わる直前の進行方向切替手段350が受ける力を示す図である。図9(B)に示したように、タンク内の水が減っており、切替安定部材351が受ける浮力F3が小さくなる。これにより、浮力F3<自重F4の関係が成り立つようになる。よって、ジェット水の進行方向の切り替えに関する力関係は、タンク内の水位が低くなると、F2+F3>F1+F4からF2+F3≒F1+F4となり、その後、F2+F3<F1+F4となった時点で、進行方向切替手段350が反時計回り(タンク貯水モードに切り替わる方向)に回動し始める。
図10は、便器洗浄モードからタンク貯水モードに切り替わる途中における進行方向切替手段350の位置及び力の受け方を説明するための図である。図10(A)は、便器洗浄モードからタンク貯水モードに切り替わる途中における進行方向切替手段350の位置を示す図である。図10(A)に示したように、モードの切り替え途中において、ノズル310から噴射された水(ジェット水)は、遮蔽部352により、スロート管320の内部に向かうものと、スロート管320の外部に向かうものとに分けられる。スロート管320の外部に向かうジェット水があるため、図10(A)に示すタンク内の水位は、図9(A)に示すタンク内の水位Le2よりも上昇する(例えば図10(A)に示す水位Le3)。
図10(B)は、便器洗浄モードからタンク貯水モードに切り替わる途中に進行方向切替手段350が受ける力を示す図である。図10(B)に示したように、スロート管320外部に向かうジェット水による反力であり、タンク貯水モードに切り替える方向の力F5が、遮蔽部352に付与される。この力F5は、進行方向切替手段350が、タンク貯水モードに切り替わる方向に回動すれば回動するほど、時計回りの方向に向かうジェット水の量が多くなり、その反力も大きくなる。また、図10(B)に示す場合、ジェット水が与える力F5が反時計回りの方向に加わるので、ジェット水の進行方向の切り替えに関する力関係は、F2+F3<F1+F4+F5が成り立つ。
これにより、遮蔽部352は、時計回りの方向に向かうジェット水の反力を利用して、タンク貯水モードに切り替わる方向(反時計回りの方向)の力を受けることとなり、便器洗浄モードからタンク貯水モードへと瞬時に切り替えることができ、切り替りの安定性を向上させることができる。
図11は、タンク貯水時における進行方向切替手段350の位置及び力の受け方を説明するための図である。図11(A)は、タンク貯水時における進行方向切替手段350の位置を示す図である。図11(A)に示したように、ジェット水がスロート管320外部に向かう反力によって、進行方向切替手段350は、タンク貯水モード時の位置で維持される。つまり、切替安定部材351及び遮蔽部352は、第一方向において最大限回動している位置にある。また、ジェット水がスロート管320の外部に向かうため、タンク内の水位が上昇する(例えば図11(A)に示す水位Le4)。
図11(B)は、タンク貯水時に進行方向切替手段350が受ける力を示す図である。図11(B)に示したように、タンク貯水時では、進行方向切替手段350は、スロート管320内部に誘引される水が存在しないので、力F1とF2とが進行方向切替手段350に加えられない。また、時計回りの方向に向かうジェット水が与える反力F5は、フロート部材354の浮力F3よりも大きいので、ジェット水の進行方向の切り替えに関する力関係は、F3<F4+F5が成り立ち、図11(B)に示した便器洗浄モード時の位置関係が維持される。
次に、遮蔽部352が有するガイド面355について説明する。図12は、便器洗浄モードからタンク貯水モードに切り替わる際に、ガイド面355に加えられる力を説明するための図である。図12に示したように、便器洗浄モード時のジェット水が、遮蔽部352に少しでも干渉すると、ガイド面355によってジェット水が第二方向(D2)に指向される。このとき、ジェット水を第二方向に指向したガイド面355を有する遮蔽部352は、ジェット水の進行方向である第二方向とは逆の方向である第一方向(D1)に力F5を受ける。これにより、遮蔽部352は、ジェット水の力を受け、進行方向切替手段350は、タンク貯水モードに瞬時に切り替わることができる。
次に、フロート部材354の形状について説明する。図13は、2つのフロート部材354の形状を比較するための図である。図13(A)は、垂直方向の長さよりも水平方向の長さの方が長いフロート部材Aを示す図である。図13(A)に示すフロート部材Aは、水平方向に広がった扁平形状となっている。図13(B)は、垂直方向の長さの方が水平方向の長さより長いフロート部材Bを示す図である。図13に示すX,Y方向は水平面の方向を表し、Z方向は、垂直方向を表す。
図13の上面図に示したように、図13(A)に示すフロート部材Aの断面積Sは、図13(B)に示すフロート部材Bの断面積S’よりも大きい。つまり、S>S’が成り立つ。また、図13の側面図に示したように、図13(A)に示すフロート部材Aの方が、図13(B)に示すフロート部材Bよりも、垂直方向の長さが短い。
また、図13に示したように、垂直方向における水位の減少分をdとした場合、水位の減少分に対応するフロート部材の体積は、図13(A)に示すフロート部材Aの体積V=S×dであり、図13(B)に示すフロート部材Bの体積V’=S’×dである。ここで、S>S’であるため、V>V’となる。浮力の減少量としては、体積と相関関係があるため、体積が大きいほど、浮力の減少量が大きい。つまり、図13(A)に示すフロート部材Aの方が、図13(B)に示すフロート部材Bよりも浮力の減少量が大きい。
よって、図13(A)に示す、水平方向の長さの方が垂直方向の長さよりも長い扁平形状のフロート部材Aを用いることで、タンク内の水位の減少に対して水中から出る体積を増やすことができ、フロート部材の浮力の減少量を大きくすることができる。このようにフロート部材の浮力の減少量をタンク内の水位の減少量に対して大きくすることで、便器洗浄モードからタンク貯水モードに切り替わる際に、フロート部材の浮力に連動して発生する第二方向の力もタンク内の水位の減少量に対して相対的に小さくなり、瞬時に便器洗浄モードからタンク貯水モードに切り替わることができる。このようにタンク内の水位の減少量に対して相対的に浮力の減少量を大きくすることで、モード切り替えを瞬時に行い、タンク内の水面の乱れによる影響を最小限に止めることが可能となり、便器洗浄モード中にタンク貯水モードに切り替わることや、タンク貯水モードに切り替える位置に到達しても便器洗浄モードが継続してしまうことを回避することができる。
図14は、便器洗浄モード及びタンク貯水モード時のノズル310、スロート管320、遮蔽部352の位置関係について説明するための図である。図14(A)は、便器洗浄モード時の各部品の位置関係を示す図である。図14(A)に示したように、便器洗浄モード時において、遮蔽部352のガイド面355(方向転換部分)が、ジェット水に干渉しないようにスロート管320の外部に位置すればよい。つまり、便器洗浄モード時において、遮蔽部352の大部分がスロート管320の外部に位置し、遮蔽部352が、ジェット水にできるだけ干渉しない位置に存在すればよい。
図14(B)は、タンク貯水モード時の各部品の位置関係を示す図である。図14(B)に示したように、タンク貯水モード時において、遮蔽部352のガイド面355(方向転換部分)が、ジェット水の方向を転換できるようにスロート管320の内部に位置すればよい。つまり、タンク貯水モード時において、遮蔽部352の大部分がスロート管320の内部に位置し、ジェット水の進行方向を切り替えるような位置に存在すればよい。
図14(B)に示したように、タンク貯水モード時に、遮蔽部352の大部分は、スロート管320内部に位置するため、ノズル310をスロート管320の吸引口に近づけることができ、ノズル310とスロート管320との間のスペースである、遮蔽部352が出入りするスペースを小さくすることができる。これにより、タンク20の高さを低くし、タンク20をさらに小型化することができる。
図14(A)に示したように、便器洗浄モード時に、遮蔽部352の大部分は、スロート管320の外部に位置するため、流速の速いジェット水との干渉を防ぐことができる。例えば、流速の速いジェット水と遮蔽部352とが干渉すると、圧損が生じてしまい、ジェットポンプ性能が低下してしまう。したがって、図14に示したような構成を適用することで、ジェットポンプ性能の低下を防ぎつつ、タンク20を小型化することが可能となる。
次に、切替安定部材351の下面形状について説明する。図15は、切替安定部材351の下面の例を示す図である。図15(A)は、下面が平らな形状をしている切替安定部材351Aの例を示す図である。この場合、誘引される水を下から上に受ける場合の抗力係数Cdは、参考値として例えば約1.1である。図15(B)は、下面が下方向に凹となる形状をしている切替安定部材351Bの例を示す図である。この場合、誘引される水を下から上に受ける場合の抗力係数Cdは、参考値として例えば約1.3である。また、図15(C)は、下面が下方向に凸となる形状をしている切替安定部材351Cの例を示す図である。この場合、誘引される水を下から上に受ける場合の抗力係数Cdは、参考値として例えば約0.3である。
本実施の形態において、切替安定部材351の下面の形状は、ジェット水によって誘引される水の力を受けやすい形状とすることが望ましい。ここで、一般的に流速の向きに向って凹曲面のほうが凸曲面より抗力係数が高いことが知られており、図15(A)乃至15(C)の抗力係数の大小関係はA>B>Cとなる。よって、図15(A)と図15(B)とに示す切替安定部材の下面の形状は、本実施の形態で適用する形状として望ましい形状である。なお、図15(C)に示す切替安定部材の下面の形状は、誘引される水の影響を受けにくいので、本実施の形態で適用する形状としては望ましくない形状である。
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。