以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。図1は本発明の実施の形態に係る原子炉内検査システムの概略図である。この図に示す原子炉1には、シュラウド2、上部格子板3、炉心支持板4、及びシュラウドサポート5等の構造物が設置されており、PLR(Primary Loop Re-circulation System:一次冷却材再循環系)配管6等の配管が接続されている。原子炉1の上部には作業スペースであるオペレーションフロア7があり、さらにその上方には燃料交換装置8がある。
本実施の形態の原子炉内検査システムは、原子炉1内の構造物の目視検査に用いる水中検査装置9(水中移動体)と、ケーブル10を介して水中検査装置9に接続された制御装置11と、この制御装置11に接続され、水中検査装置9のカメラ画像を表示するとともに水中検査装置9の位置や姿勢等を表示する表示装置12と、制御装置11に接続され、水中検査装置9を操作可能な操作装置13を備えている。原子炉1内の構造物の目視検査作業を行う場合、燃料交換装置8上の検査員14は、原子炉1内に水中検査装置9を投入し、この水中検査装置9の位置や姿勢を表示装置12で確認しつつ、操作装置13を操作する。
図2は本発明の実施の形態に係る水中検査装置9の概略図である。
この図において、水中検査装置9は、本体の前面側(図2中左側)に設けられ原子炉1内の構造物等を撮像するカメラ15と、カメラ15の画像を電子情報化する画像取込部16を備えている。また、水中検査装置9は、本体の上面側(図2中上側)、後面側(図2中右側)、及び左側面側(図2中紙面に向かって手前側)にそれぞれ設けられた3つのスラスタ(推進機構)17を備えている。3つのスラスタ17は、それぞれ、スクリューと、スクリューを正回転又は逆回転に駆動するモータ(図示せず)で構成されている。スラスタ17は、水中検査装置9に対して上下方向(図2中上下方向)の推力、前後方向(図2中左右方向)の推力、及び左右方向(図2中紙面に対し垂直方向)の推力をそれぞれ付与する。すなわち、このスラスタ17により、水中検査装置9は水で満たされた3次元空間を自在に移動可能となっている。なお、以降、水中検査装置9の座標系は、本体における垂直下向き(検査装置9の高さ方向下向き)がZ軸正方向である右手座標系を定義して説明する。具体的には、本体の右方向(図2中紙面に向かって奥方向)がX軸正方向、前方向(図2中左方向)がY軸正方向、下方向(図2中下方向)がZ軸正方向となっており、X軸及びY軸はZ軸と直交しかつ互いに直交している。
水中検査装置9は、水中検査装置9に作用する水圧を検出する圧力センサ(垂直位置検出器)18と、原子炉1内における水中検査装置9の姿勢(姿勢角)を検出するための慣性センサ部(姿勢角検出器)19と、本体下部(底面)に取り付けられたレンジセンサユニット(相対距離検出器)23を備えている。
圧力センサ18で検出された圧力は、原子炉1内における水中検査装置9の垂直位置(深度)の検出に用いられる。また、慣性センサ部19は、X軸、Y軸、及びZ軸周りの角速度をそれぞれ検出する3軸ジャイロ(角速度検出器)20と、X軸及びY軸周りの角度(傾斜角)を検出する傾斜計(傾斜角検出器)21と、Z軸周りの角度(方位角)を検出する地磁気センサ(方位角検出器)22を有しており、これらの検出値は水中検査装置9の姿勢角の検出に用いられる。
図3はレンジセンサユニット23の概略構造を表す水平断面図であり、図4は図3中の断面IV−IVにおける断面図(垂直断面図)である。
レンジセンサユニット23は、水で満たされた3次元空間で水中検査装置9の位置に応じて定められる水平面上において、水中検査装置9から当該水中検査装置9の周囲に存在する構造物までの相対距離を検出するものである。レンジセンサユニット23のケーシング25内には、水中検査装置9の前方側及び後方側に配置された合計2つの走査型のレーザセンサ(レーザレンジファインダ)24a,24bが収納されている。なお、本稿における「水平面」とは、完全な水平面のみを示すだけでなく、誤差等も含んだ実質的に水平な面を意味するものとする。
ケーシング25の材質は、レーザセンサ24a,24bから投光されるレーザが透過可能なものであれば良く、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリプロピレン等の透光性を有する樹脂がある。
レーザセンサ24a,24bは、それぞれ、レーザを投光する投光部26と、投光したレーザを受光する受光部27を有している。投光部26は、走査装置(図示せず)によってZ軸周りに回転されて、同一平面上(ここでは水平面上となる)にレーザを走査する。投光部26より投光及び走査されたレーザは周囲の構造物等に反射して受光部27で受光される。本実施の形態では、レーザの投光時刻からその反射光の受光時刻までのレーザ飛行時間に基づいて周囲の構造物までの相対距離を測定している。このように測定した相対距離は、測定画像算出部36(後述)における測定画像の算出に主に用いられる。
ところで、本実施の形態のレーザセンサ24a,24bでは、投光部26と受光部27が分離されており、レーザセンサ24a,24bには投光部26側と受光部27側を区画する略U字状の遮光板26がそれぞれ設けられている。遮光板26は、投光部26からのレーザ光の一部がケーシング25の内表面で反射して生じる反射光が受光部27で受光されるのを防ぐためのものである。
なお、図4に示すように、ケーシング25の前方側側面部は、その水平断面がレーザセンサ24aを中心とした円弧状になるように形成することが好ましく、また、ケーシング25の後方側側面部は、その水平断面がレーザセンサ24bを中心とした円弧状になるように形成することが好ましい。このようにケーシング25を形成すると、投光部26からのレーザ光が直交して出射するとともに、受光部27で受光する反射光が直交して入射するので、ケーシング25への出入射に伴うレーザ光の強度低下を抑制することができるからである。また、レーザセンサ24a,24bの構造は例えば特開2006−349449号公報に詳しい。
図5はレンジセンサユニット23の測定動作の説明図である。この図に示すように、本実施の形態におけるレンジセンサユニット23では、レーザセンサ24aは、水中検査装置9の前方側範囲となる走査角度θa(1)〜θa(n)の範囲(例えば−30°〜210°程度の範囲)でレーザ光を走査するとともにその反射光を受光して、構造物Aとの相対距離M(1)〜M(n)をそれぞれ検出する。
また、レーザセンサ24bは、水中検査装置9の後方側範囲となる走査角度θb(1)〜θb(n)の範囲(例えば150°〜390°程度の範囲)でレーザ光を走査するとともにその反射光を受光して、構造物Aとの相対距離M(n+1)〜M(2n)をそれぞれ検出する。これにより、レーザセンサ24a,24bが位置する平面上における水中検査装置9とその周囲の構造物との相対距離を検出することができる。
図2に戻り、水中検査装置9には信号伝送部29が設けられている。そして、信号伝送部29及びケーブル10を介して、圧力センサ18、慣性センサ部19(3軸ジャイロ20、傾斜計21、地磁気センサ22)、及びレンジセンサユニット23(レーザセンサ24a,24b)からの検出信号並びに画像取込部16からの画像信号が制御装置11に出力されている。そして、制御装置11は、前述した検出信号等に基づいて水中検査装置9の位置や姿勢を算出し、この算出した水中検査装置9の位置や姿勢を表示装置12に出力して表示している。また、制御装置11は、前述した画像信号を表示装置12に出力して、カメラ15の画像を表示している(後の図13で詳述)。また、制御装置11は、操作装置13からの操作信号に応じてスラスタ17を駆動制御する制御信号を生成し、この生成した制御信号をケーブル10及び信号伝送部29を介してスラスタ17に出力している。
圧力センサ18は、水中検査装置9の底面から外部に露出したセンサ部(図示せず)を有しており、当該センサ部に作用する水圧を検出することで圧力を検出している。なお、圧力センサ18の設置の有無は、センサ部を外部から視認することで容易に確認できる。
制御装置11は、コンピュータであり、ハードウェアとして、各種プログラムを実行するための演算手段としての演算処理装置(例えば、CPU)と、当該プログラムをはじめ各種データを記憶するための記憶手段としての記憶装置(例えば、ROM、RAMおよびフラッシュメモリ等の半導体メモリや、ハードディスクドライブ等の磁気記憶装置)と、各装置と水中検査装置9に係る各センサ等へのデータ及び指示等の入出力制御を行うための入出力演算処理装置を備えている(いずれも図示せず)。
次に、制御装置11の位置・姿勢算出機能について説明する。図6は制御装置11の機能ブロック図である。
この図に示すように、制御装置11は、3軸ジャイロ20の角速度信号に基づきX軸、Y軸、及びZ軸周りの角速度をそれぞれ算出する角速度算出部30と、傾斜計21の角度信号に基づきX軸及びY軸周りの傾斜角をそれぞれ算出するとともに、地磁気センサ22の角度信号に基づきZ軸周りの方位角を算出する角度算出部31と、これら算出された角速度、傾斜角、及び方位角に基づき水中検査装置9の姿勢角(3軸周りの姿勢角)を算出する姿勢角算出部32として機能する。また、圧力センサ18の圧力信号に基づき水中における水中検査装置9の深度、すなわち垂直位置を算出する垂直位置算出部33としても機能する。
また、制御装置11は、測定画像算出部36と、画像記憶部34と、画像選択部35と、対応部分特定部37と、水平位置算出部38と、位置・姿勢記憶部80として機能する。
測定画像算出部36は、レンジセンサユニット23で検出された水中検査装置9と構造物との相対距離に基づいて、その相対距離を検出した水平面(以下において「スキャン平面」と称することがある)における構造物の外形の画像データ(測定画像)を算出・作成する処理(ビットマップ化処理)を行う部分である。
本実施の形態における測定画像算出部36は、検出した相対距離を画像に変換する際に、距離[mm]を画素値[pixel]に変換する係数Kを使用してビットマップ化処理を行っている。このビットマップ化処理によって得られた画像は、複数の点(画素)の集合で表されており、原子炉1内の構造物をスキャン平面で切断したときの外形の一部を表すことになる。なお、本実施の形態では係数Kの値として、測定画像が一定のサイズ(例えば、640x480[pixel])のビットマップ画像となる値が採用されている。
画像記憶部34は、原子炉1およびその内部の構造物の設計情報に基づいて作成される複数の画像データであって、原子炉1内(3次元空間)で垂直位置の異なる複数の水平面における構造物の外形の画像データ(記憶画像)が記憶されている部分であり、制御装置11に係る記憶装置内の所定の領域に確保されている。
本実施の形態に係る画像記憶部34に記憶されている各記憶画像は、垂直位置の異なる複数の水平面で原子炉1内の構造物を切断したときの当該構造物の外形を表しており、各記憶画像には、それぞれの切断位置を示す情報である原子炉1内における垂直位置情報が付与されている。
また、画像記憶部34に記憶された各記憶画像を構成する画素の少なくとも1つには、原子炉1内の3次元空間に対応する水平位置情報が付されており(以下、この水平位置情報が付された画素を「基準画素」と称することがある)、各記憶画像は原子炉1内における水平位置の地図として機能している。なお、水平位置の算出精度を向上させる観点からは、記憶画像の画像サイズは大きいほど好ましい。画像サイズを大きくするほど各画素に付与する水平位置情報の精度を向上させることができるからである。
画像選択部35は、測定画像算出部36によって測定画像を得たときの水中検査装置9の垂直位置や、測定画像と画像記憶部34内の複数の記憶画像とのマッチング率等に基づいて、画像記憶部34に記憶された複数の記憶画像の中から水中検査装置9の位置算出に利用する記憶画像を最終的に1枚選択する処理を実行する部分である。
本実施の形態の画像選択部35は、圧力センサ18で検出された水中検査装置9の垂直位置に基づいて、画像記憶部34に記憶された複数の記憶画像の中からレンジセンサユニット23が相対距離を検出した水平面に対応する記憶画像を選択している。具体的には、画像選択部35は、垂直位置算出部33で算出された垂直位置と一致する垂直位置情報を有する記憶画像(一致するものが無い場合には垂直位置が最も近い画像)を選択画像として選択する。
また、この選択画像の選択方法に追加・代替して行われる他の選択方法としては、水中検査装置9の垂直位置に近い垂直位置情報を有する記憶画像を所定の枚数だけ抽出し、その抽出した記憶画像のそれぞれと測定画像に対して画像相関処理によるマップマッチングを実行し、当該複数の記憶画像の中からマッチング率の高いものを1枚選択し、最終的にその1枚を選択画像とするものがある。
また、上記の選択方法に追加・代替して行われる更に他の方法としては、初回の選択のみ水中検査装置9の位置(主に垂直方向位置)から最適な画像を選択し、その後の水平位置算出処理には、対応部分特定部37で算出されるマッチング率が選択画像の再選択が不要なことを示す閾値M2(第2閾値)未満に到達したときに、マッチング率がM2以上に到達する他の記憶画像を改めて選択する方法がある。このマッチング率がM2以上の他の画像を改めて選択する場合の具体的手段としては、まず、現在の選択画像(マッチング率がM2未満のもの)に垂直方向情報が近い数枚の記憶画像であって、水中検査装置9の移動可能範囲内にあるものを再選択の候補として挙げ、次に、その候補に挙げた複数の記憶画像と測定画像とのマッチング率をそれぞれ算出し、最もマッチング率の高い記憶画像を選択画像として選択する方法がある。このように選択画像を選択すれば、常にマッチング率が一定値以上の記憶画像を用いることができるので、水中検査装置9の水平位置算出処理の精度を向上することができる。
対応部分特定部37は、画像選択部35で選択された選択画像と測定画像算出部36で算出された測定画像とに対してマップマッチングを行うことで、当該選択画像上における当該測定画像に対応する部分を特定する部分である。すなわち、対応部分特定部37は、測定画像に表れた構造物の外形が選択画像に表れた構造物の外形のどの部分に対応するかを探索する。測定画像と選択画像の一致(対応)の程度はマッチング率で表される。
水平位置算出部38は、対応部分特定部37で特定された選択画像上の部分において相対距離を検出した位置(すなわち、水中検査装置9の位置(正確にはレンジセンサユニット23の位置、さらに正確にはレーザセンサ24a,24bの位置だが、本稿ではこれらを同じ意味で利用する))に対応する画素を特定し、その特定した画素の位置と基準画素の位置から水中検査装置9の水平位置を算出する部分である。
ここにおける「相対距離を検出した位置」とは、図5からも明らかなように、測定画像の中心に位置し、水中検査装置9の水平位置を示す。したがって、選択画像において測定画像の中心が位置する画素の位置が分かれば、当該画素と基準画素の距離を求めることにより、水平検査装置9の水平位置を算出することができる。なお、このとき画素から距離データへの変換が必要な場合には、距離から画素値に変換する際に用いた定数Kの逆数(すなわち、1/K)を画素値に乗じれば良い。
位置・姿勢記憶部80は、上記のように垂直位置算出部33、水平位置算出部37、及び姿勢角算出部32で演算された水中検査装置9の垂直位置、水平位置、及び姿勢角を記憶する部分である。位置・姿勢記憶部80に記憶された垂直位置、水平位置、及び姿勢角は、水中検査装置9の垂直位置、水平位置、及び姿勢角として表示装置12に送信され、画像取込部16で電子情報化された目視検査用のカメラ15の映像とともに表示される。
不一致部分抽出部81は、測定画像算出部36による測定画像と、画像選択部35による選択画像とを比較し、当該2つの画像を重ね合わせたときに構造物の有無が一致しない画素の集合を、不一致部分として抽出する処理を実行する。なお、選択画像には無く測定画像に有るものを新規構造物、選択画像には有り測定画像には無いものを欠落構造物として区別して抽出し、これら不一致画像の各画素は、水中検査装置9の座標系での水平位置座標と、画像選択部35に選択される際に用いた垂直位置座標を含んでいる。
記憶画像更新部82は、不一致部分抽出部81において不一致部分が抽出された場合、画像記憶部34に記憶された複数の記憶画像のうち、不一致部分抽出部81で不一致部分の探索が行われた選択画像(画像選択部35で選択された記憶画像)に対応する記憶画像を、不一致部分抽出部81で不一致部分の探索が行われた測定画像に基づいて更新する処理を行う。具体的には、不一致部分抽出部81において抽出された不一致部分(新規構造物と欠落構造物)を、画像記憶部34に記憶された複数の記憶画像のうち画像選択部35で選択された選択画像に対応するものに対して当該不一致部分を反映する処理を行う。
次に上記のように構成される制御装置11で行われる制御処理内容について説明する。図7は制御装置11の位置・姿勢算出機能に係わる制御処理内容を表すPAD図である。
この図において、まずステップ39で水中検査装置9の初期位置・初期姿勢角が入力されて位置・姿勢記憶部38に記憶される。そして、ステップ40に進んで水中検査装置9の操作開始とともにその位置・姿勢算出処理に移る。この位置・姿勢算出処理において、姿勢角算出処理(ステップ41)と、垂直位置算出処理(ステップ42)と、測定画像算出処理(ステップ43)と、水平位置算出処理(ステップ44)が順次繰り返し行われ、その都度ごとにステップ41,42,44で算出された姿勢角、垂直位置及び水平位置が位置・姿勢記憶部38に記憶される(ステップ45)。以下、各算出処理の詳細を説明する。
(1)姿勢角算出処理
図8は図7に示すステップ41の姿勢角算出処理の詳細を表すPAD図である。
姿勢角算出処理において、角速度算出部30は、まず、3軸ジャイロ20の角速度信号を取り込み、角度算出部31は、傾斜計21及び地磁気センサ22の角度信号を取り込む(ステップ46)。
そして、ステップ47に進み、角速度算出部30は、3軸ジャイロ20の角速度信号から各軸(X軸、Y軸、Z軸)周りの角速度を算出する角速度算出処理に移る。本実施の形態の3軸ジャイロ20は、静電浮上型ジャイロであり、角速度に比例する増減値が基準電圧(一定の電圧値)に加えられた正の電圧値を出力する。そのため、まずステップ48において、3軸ジャイロ20の各軸(X軸、Y軸、Z軸)周りの信号に対し基準電圧を減じる基本処理を行う。ここで、基準電圧は、通常、3軸ジャイロ20の固有スペックとして示されているが、本実施の形態では、角速度信号が入力されないときの電圧値を予め計測して平均化したものを用いる。その後、ステップ49に進んで、電圧−角速度換算係数(3軸ジャイロ20の固有のスペックとして示される一定値)を乗じて各軸周りの角速度を算出する。
ステップ47の角速度算出処理が終了すると、ステップ50に進み、角度算出部31は、傾斜計21の角度信号から各軸(X軸、Y軸)周りの傾斜角を算出する傾斜角算出処理に移る。本実施の形態の傾斜計21は、封入された電解液の液面変化(X軸及びY軸周りの傾斜角)を電圧変化に変換して出力するものである。そのため、まずステップ51において、各軸(X軸、Y軸)周りの信号から基準電圧(傾斜計21の固有スペックとして示される一定の電圧値)を減じる基本処理を行う。その後、ステップ52に進んで、傾斜角換算係数(傾斜計21の固有スペックとして示される一定値)を乗じて各軸周りの傾斜角を算出する。
ステップ50の傾斜角算出処理が終了すると、ステップ53に進み、角度算出部31は、地磁気センサ22の角度信号からZ軸周りの方位角を算出する方位角算出処理に移る。本実施の形態の地磁気センサ22は、X軸方向及びY軸方向に感度を有するホール素子で捉えた磁力を出力するものである。そのため、まずステップ54において、X軸及びY軸の地磁気信号から基準電圧を減じ、ゲインを乗じる基本処理を行う。ここで、基準電圧及びゲインは、地磁気センサ22を使用する環境により異なるため、予め使用する領域で測定したものを用いる。その後、ステップ55に進んで、基本処理したX軸及びY軸の信号Mx,Myを用い、下記の式(1)によりZ軸周りの方位角θmを算出する。
ステップ53の方位角算出処理が終了すると、ステップ56に進み、姿勢角算出部32は、上述したX軸、Y軸、及びZ軸周りの角速度、X軸及びY軸周りの傾斜角、Z軸周りの方位角をカルマンフィルタ(この種のものとして公知のものであり、例えば上記特許文献1参照)に入力し、水中検査装置9の姿勢角(3軸周りの姿勢角)の最適値を推定する。その後、ステップ57に進んで、推定した水中検査装置9の姿勢角を位置・姿勢記憶部38に記憶する。このステップ57の手順が終了すると姿勢角算出処理が終了する。
(2)垂直位置算出処理
図9は図7に示すステップ42の垂直位置算出処理の詳細を表すPAD図である。
垂直位置算出処理において、垂直位置算出部33は、まず、下記の式(2)に基づいて圧力Pを算出する。すなわち、まず、ステップ58において圧力センサ18の圧力信号(検出電圧)を取り込む。そして、ステップ59に進んで、検出電圧Vpから基準電圧Vp_base(圧力センサ18の固有スペックとして示される一定の電圧値)を減じ、さらに圧力換算係数Kv_p(圧力センサ18の固有スペックとして示される一定値)を乗じて圧力Pを算出する。
次に、垂直位置算出部33は、ステップ60に進んで、算出した圧力Pと原子炉1内の冷却材の密度ρと重力加速度gとを用い、下記の式(3)により水中検査装置9の深度Hを算出する。そして、算出した深度Hに例えばオペレーションフロア7から水面までの距離Lw(図1参照)を加えて、水中検査装置9の垂直位置とする。
その後、ステップ61に進んで、算出した水中検査装置9の垂直位置を位置・姿勢記憶部38に記憶する。このステップ61の手順が終了すると垂直位置算出処理が終了する。
ところで、以下に続く測定画像算出処理(ステップ43)と水平位置算出処理(ステップ44)では、その理解を容易にするために、水中検査装置9で中空直方体内を検査する場合を適宜参照しながら説明する。
図10は制御装置11による測定画像算出処理及び水平位置算出処理の説明図である。この図に示す水中検査装置9は、水で満たされた中空直方体90内に配置されている。水中検査装置9の水平位置は、スキャン平面Sにおける選択画像91と、平面Sで検出された測定画像92とに基づいて算出される。なお、選択画像91及び測定画像92のサイズは640×480[pixel]であり、選択画像91の中心点をC91とし、測定画像92の中心点をC92とする。
(3)測定画像算出処理(構造物形状算出処理)
図11は図7に示すステップ43の測定画像算出処理の詳細を表すPAD図である。
測定画像算出処理において、測定画像算出部36は、まず、レーザセンサ24a,24bの出力信号を取り込む(ステップ62)。本実施の形態におけるレンジセンサユニット23(レーザセンサ24a,24b)では図5で説明した方法で水平なスキャン平面(図10の例では面S)における構造物との相対距離が測定されており、レーザセンサ23a,23bからの出力信号には、レーザの走査角度θ(θa,θb)、及びそれぞれの走査角度ごとに算出される構造物までの距離Mが情報として含まれている。測定画像算出部36は、下記の式(4)を用いて、ステップ62で取り込んだ出力信号から、スキャン平面上において構造物の表面(外形)が位置する座標値L(xL,yL)を算出する(ステップ63)。
次に、測定画像算出部36は、ステップ63で算出した各座標値xL,yLに係数Kを乗じ、その値を測定画像における構造物の表面を示す画素の座標値L’(KxL,KyL)とする(ステップ64)。すなわち、図10の例においてステップ64で得られた点P1の座標値が例えば(120,100)であった場合には、測定画像92の中心かつ水中検査装置9の中心の点C92からX軸の正方向へ120[pixel],Y軸の正方向へ100[pixel]進んだ位置が構造物の表面上の点P1の位置となる。そして、測定画像算出部36は、検出したすべての走査角度θについてステップ63,64の算出処理を行って測定画像92を得る。測定画像算出部36は、このように取得した測定画像92のデータを保存し(ステップ65)、測定画像算出処理を終了する。
(4)水平位置算出処理
図12は図7に示すステップ44の水平位置算出処理の詳細を表すPAD図である。
水平位置算出処理が開始すると、対応部分特定部37は、ステップ43で算出された測定画像を取り込む(ステップ66)。
一方、画像選択部35は、ステップ42で得られた水中検査装置9の垂直位置に基づいて、画像記憶部34内に記憶されている複数の記憶画像の中から、測定画像とマッチングさせて水中検査装置9の水平位置を算出するために利用する画像(選択画像91)を選択する(ステップ67)。すなわち、図10の例ではスキャン平面Sの垂直位置情報を有する記憶画像が選択画像91として選択される。
なお、ステップ67における選択画像の選択方法として、画像選択部35の説明箇所で触れた他の方法を利用しても良い。例えば、2回目以降の水平位置算出処理において水中検査装置9が垂直方向に移動することで選択画像と測定画像のマッチング率がM2未満に到達したときは、マッチング率がM2以上となる選択画像を改めて選択しても良い。
次に、対応部分特定部37は、ステップ66で取り込んだ測定画像と、ステップ67で選択した選択画像とに対して画像相関処理によるマップマッチングを行い、選択画像上で測定画像に対応する部分を特定する。換言すれば、測定画像と選択画像がどのように重ね合わさるかが特定される(ステップ68)。図10の例では、ステップ67で選択された選択画像91と、ステップ66で取り込まれた測定画像92との間でマップマッチングが行われ、選択画像91と測定画像92がどのように重ね合わさるかが特定される。
ステップ68において対応部分が特定できたら、水平位置算出部38は、まず、レンジセンサユニット23を利用して水中検査装置9から構造物までの距離を検出した位置(すなわち、測定画像の中心位置であって、水中検査装置9の中心位置)が、選択画像上のどの画素に対応するかを特定する。そして、その特定した画素の位置と、選択画像において水平位置情報が判明している画素(例えば、基準画素)の位置とから、水中検査装置9の水平位置を算出する(ステップ69)。
ステップ69を図10の例で説明すると、選択画像91と測定画像92とは図10の右端に示したマッチングイメージ93が示すように重なるので、選択画像91上において測定画像92の中心点C92に対応する画素を容易に特定できる。そして、選択画像91の中心点C91の画素は中空直方体90の中心に対応する基準画素なので、中心点C91と中心点C92との画素上における距離(シフト量94)を算出し、そのシフト量94を中空直方体90における距離データに変換すれば、中心点C92の水平位置(すなわち、水中検査装置9の水平位置)を算出することができる。なお、シフト量94を距離データへ変換する際には、測定画像算出部36において距離を画素値に変換する際に用いた定数Kの逆数(すなわち、1/K)をシフト量94(ξ,η)に乗じて算出すれば良い。 このように水中検査装置9の水平位置の算出が終了したら、その算出した水平位置を位置・姿勢記憶部80に記憶する(ステップ70)。
次に、ステップ71において、不一致部分抽出部81は、ステップ66で取り込んだ測定画像とステップ67で選択した選択画像に表された構造物の外形を比較し、当該2つの画像において不一致部分を抽出する。
具体的には、不一致部分抽出部81は、まず、ステップ68で測定画像と選択画像をマッチングさせたときの両画像の画素の対応関係に基づいて、構造物の外形の比較を行う。すなわち、構造物の外形を基準にして2つの画像を重ね合わせた状態で上下に位置する2つの画素を対応する1組の画素とし、当該1組の画素において構造物の有無が一致するかどうかを判定する。そして、一致する場合には当該1組の画素を一致部分として抽出し、一致しない場合には不一致部分として抽出する。この処理を測定画像中の全ての画素について行い、位置情報を有する点(画素)の集合データ(点群データ)として抽不一致部分を抽出する。なお、上記とは逆に、選択画像上の画素を基準にして一致/不一致の判定を行っても良い。
また、不一致部分抽出部81は、不一致部分として抽出した1組の画素について、構造物が存在すると示している画素が選択画像と測定画像のいずれかに存在するかを判定する処理も行う。この処理により、選択画像に存在しないが、測定画像には存在する画素は、選択画像の作成時に存在しなかった「新規構造物」の一部を構成するものとして当該画素を抽出する。一方、選択画像には存在するが、測定画像に存在しない画素は、選択画像の作成時より後に消失した「欠落構造物」の一部を構成するものとして当該画素を抽出する。
ところで、測定画像と選択画像の比較処理において、不一致部分が存在しない場合には、後続するステップ72の処理を実行することなく水平位置算出処理を終了する。また、測定画像と選択画像を重ね合わせたときに上下に位置する2つの画素が一致しない場合であっても、一方の画像の画素から他方の画像の対応画素までの距離が所定の閾値以内の場合には、一致部分として処理しても良い。
ステップ71が終了したら、記憶画像更新部82は、ステップ67で選択された選択画像に対応する記憶画像(すなわち、選択画像と同じ垂直位置情報を有する記憶画像)に対して、ステップ70で抽出した不一致部分を反映する処理を行い、その反映後の画像を新たな記憶画像として保存する(ステップ72)。記憶画像において反映(変更)すべき画素の位置の特定は、ステップ71の不一致部分抽出処理と同様に、ステップ68で両画像をマッチングさせたときの両画像の対応関係に基づいて行うものとする。各画素の水平位置情報を利用しても良い。
これにより、一部が測定画像によって修正された記憶画像が画像記憶部34に記憶される。このとき新規構造物の一部として記憶画像に追加された画素には、当該画素が新規構造物の一部である旨の情報を付す。一方、欠落構造物の一部として消去された画素があった場合には、当該消去された画素と同じ位置にある画素に対して以前構造物が存在した旨の情報を付す。
なお、ここでは、不一致部分に基づいて記憶画像を上書き更新する場合について述べたが、更新前の記憶画像を記憶装置内の領域に別途保存しておき適宜利用しても良い。更新前の記憶画像の利用方法の一例としては、現況を示す測定画像と比較・対比するために、測定画像とともにまたは測定画像と重ね合わせて表示装置12上に表示するものがある。
ステップ72が終了したら一連の水平位置算出処理を終了する。上記の姿勢角算出処理(ステップ41)、垂直位置算出処理(ステップ42)、測定画像算出処理(ステップ43)、及び水平位置算出処理(ステップ44)で算出された水中検査装置値9の位置及び姿勢は位置・姿勢記憶部80を介して表示装置12に出力される。
図13は表示装置12の表示画面の一例を表す図である。この図に示す表示画面120は、位置座標表示部95と、水平位置画像表示部96と、カメラ映像表示部99を有している。
位置座標表示部95には、制御装置11の位置・姿勢記憶部38から読み込んだ水中検査装置9の絶対位置が表示される。水平位置画像表示部96には、水中検査装置9が位置する垂直位置における原子炉1内の水平断面画像とともに水中検査装置9の水平位置を示すマーカ94が表示される。
水平位置画像表示部96における原子炉1内の水平断面画像は、例えば、制御装置11における構造物データ記憶部(図示せず)に記憶されている原子炉1の形状データ(例えば、CADデータ)と、垂直位置算出部33で算出された水中検査装置9の垂直位置とを利用して描かれており、水中検査装置9の垂直方向の移動に追従して随時変化する。また、水平位置画像表示部96には、水中検査装置9の投入位置(初期位置)をマーカ97でマークする機能や、水中検査装置9の移動軌跡98を表示又は非表示する機能が具備されている。
カメラ映像表示部99は、水中検査装置9に搭載されたカメラ15の映像が表示される部分である。
なお、表示装置12は、図示しない他の表示画面に切り換えられるようになっており、位置・姿勢記憶部80から読み込んだ水中検査装置9の姿勢等も表示されるようになっている。このように構成された表示画面120によれば、検査員14は原子炉1内のどこに水中検査装置9があるかを視覚的に把握しながら検査することができる。
図14は表示装置12の他の表示画面の一例を表す図である。この図に示す表示画面130は、水中検査装置9による測定画像が表示される測定画像表示部110と、画像記憶部34の記憶画像のうち更新前のもの(すなわち、原子炉の設計情報に基づいて作成した当初の記憶画像)が表示される記憶画像表示部115を有している。このように測定画像と記憶画像を同時に表示すると、新規構造物と欠落構造物の認識が容易になる。例えば、図14の例では、測定画像表示部110に表れた構造物111が新規構造物であると判断でき、記憶画像表示部115の構造物116が欠落構造物であると判断できる。また、新規構造物と欠落構造物は、他の構造物と容易に判別可能なように色を変えて表示する等しても良い。
なお、図14の例では測定画像と記憶画像を個別のウィンドウに表示したが、測定画像と記憶画像は1つのウィンドウ内に重ねて表示しても良い。その場合には、不一致部分の判別が容易になるように、各画像の色を異ならせること等して各画像の視認性の向上を図ることが好ましい。また、図14の例では、記憶画像表示部115に更新前の画像を表示したが、更新後の画像を表示しても良いし、記憶画像に代えて選択画像を表示しても良い。これは測定画像と記憶画像を重畳的に表示する場合についても同様である。
以上のように、本実施の形態に係る原子炉内検査システムは、水中検査装置9が位置する水平面において水中検査装置9と構造物の相対距離を検出するレンジセンサユニット23と、レンジセンサユニット23で検出された相対距離に基づいて測定画像を算出する測定画像算出部36と、水中検査装置9の垂直位置に基づいて画像記憶部34からマップマッチングに利用する画像(選択画像)を選択する画像選択部35と、マップマッチングを行うことで選択画像における測定画像に対応する部分を特定する対応部分特定部37と、選択画像における測定画像の中心の位置と選択画像における基準画素の位置から水中検査装置9の水平位置を算出する水平位置算出部38と、測定画像算出部36で算出した測定画像と画像記憶部34から選択した選択画像(一部更新)を比較し、異なる部分を抽出する不一致部分抽出部81と、不一致部分抽出部81で抽出した測定画像と選択画像の差異を画像記憶部34へ反映する記憶画像更新部82を備えている。
このように水中移動体の位置検知装置を構成すると、不一致部分を反映した選択画像と測定画像をマップマッチングすることで水中検査装置9の水平位置を算出することができるので、選択画像の更新を実施せず水中検査装置9の絶対位置を算出する技術(特開2010−203888号公報等参照)と比較して、位置算出に伴う誤差を軽減することができる。したがって、本実施の形態によれば、設計情報と異なる環境下での水中検査装置9の位置の検知精度を向上させることができる。
また、本実施の形態における水中検査装置9は、構造物との相対距離を検出する相対距離検出器として、投光部26及び受光部27を有するレーザセンサ23a,23bを備えたレンジセンサユニット23を設けているので、次の効果を発揮する。すなわち、例えば投光部及び受光部のうちのいずれか一方を水中検査装置側に設けて他方を構造物側に設けるような構成では、水中検査装置が狭隘部若しくは複雑な構造物が介在するような環境下に配置された場合に、水中検査装置の位置を検知することが困難となる。これに対し本実施の形態では、投光部26及び受光部27をともに水中検査装置9側に設けているので、狭隘部や複雑な構造物が存在する環境下に配置された場合でも、水中検査装置9の位置を検知することができる。
なお、上記では、記憶画像を構成する画素には水平位置情報が付された基準画素が1つ以上含まれている場合について説明したが、記憶画像を構成するすべての画素に水平位置情報を付しても良い。この場合には、選択画像上で測定画像の中心が位置する画素を特定できれば、当該画素に付された水平位置情報から水平位置を算出することができるようになるので、上記の場合と比較して水平処理算出処理を容易に行うことができる。
また、上記の実施の形態では、多数の方向にレーザを走査してその反射光を受光する走査型のレーザセンサ24a,24bを距離センサの例として取りあげたが、相対距離検出器はこれに限られない。例えば、超音波の反響の影響が少なければ、超音波を送信してその反射波を受信する超音波センサを利用してもよい。この場合にもレーザセンサ同様の効果を得ることができる。
また、上記の説明では、位置算出に利用する測定画像と記憶画像は水平面に限定したが、測定画像と記憶画像は水平面に限らず、水平面と交差する他の面としても良い。この場合の構成例としては、検査対象である構造物の3次元モデルを記憶装置内に記憶しておき、測定画像を取得した時の水中検査装置9の垂直位置に近い位置で測定画像と平行な1以上の面でもって当該3次元モデルを切断し、その結果得られる1以上の画像を記憶画像とし、当該記憶画像を測定画像とマッチングさせることで水中検査装置9の水平位置を推定するものがある。なお、この場合には、水中検査装置9の姿勢から測定画像の水平面に対する傾きを推定し、当該傾きを有する1以上の画像を記憶画像として3次元モデルから切り出せば良い。
また、上記において図7およびこれに関連する図を利用して説明した各処理の順番は、一例に過ぎず、算出結果の変化が許容される範囲内で各処理の順番は適宜変更可能である。
さらに、以上の説明では原子炉内検査システムに用いられる水中移動体の位置検知装置について説明したが、本発明は、原子炉内の検査に用いる検査装置の位置検知だけでなく、水中で使用する移動体の位置検知に広く適用可能である。特に、本発明は、移動体を直接目視できない環境における当該移動体の位置把握に適している。