JP6158925B6 - 引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線の製造用の線材、引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線、パーライト組織ボルト、及び、それらの製造方法 - Google Patents

引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線の製造用の線材、引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線、パーライト組織ボルト、及び、それらの製造方法 Download PDF

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本発明は、耐水素脆化特性及び冷間加工性に優れた引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線の製造用の線材、引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線、パーライト組織ボルト、及び、それらの製造方法に関する。
本願は、2013年6月13日に、日本に出願された特願2013−124740号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
近年、自動車の軽量化や省スペース化のために、高強度ボルトに対するニーズが高まっている。従来、引張強度が950MPa以上の高強度ボルトは、SCM435、SCM440、SCr440などの合金鋼の鋼線を、所定の形状に成形した後、焼入れ・焼戻しを施して製造している。
しかし、高強度ボルトにおいては、引張強度が950MPaを超える場合、水素脆化による遅れ破壊が発生し易くなり、高強度ボルトの使用は制約される。
水素脆化を防ぎ、高強度ボルトの耐遅れ破壊特性(耐水素脆化特性)を改善する手法として、組織をパーライト組織とし、伸線加工で組織を強化する手法が知られていて、これまで多くの提案がなされている(例えば、特許文献1〜11、参照)。
例えば、特許文献11には、組織をパーライト組織とし、次いで、伸線加工を施した、引張強度1200N/mm2以上の高強度ボルトが開示されている。特許文献3には、引張強度が1200MPa以上の高強度ボルト用の、パーライト組織の線材が開示されている。
パーライト組織を伸線加工で強化した高強度ボルトにおいては、パーライト組織が、セメンタイトとフェライトとの界面で水素を捕捉するので、鋼材内部への水素の侵入が抑制されて、耐水素脆化特性が向上すると考えられる。
引張強度950MPa以上の高強度ボルトにおいて、耐水素脆化特性は、パーライト組織を伸線加工することで、ある程度向上する。しかし、この手法だけで耐水素脆化特性を十分に向上させることはできず、抜本的な解決にはなっていない。さらに、耐水素脆化特性と冷間加工性の両方を改善する技術は未だ確立されていない。
日本国特開昭54−101743号公報 日本国特開平11−315348号公報 日本国特開平11−315349号公報 日本国特開2000−144306号公報 日本国特開2000−337332号公報 日本国特開2001−348618号公報 日本国特開2002−069579号公報 日本国特開2003−193183号公報 日本国特開2004−307929号公報 日本国特開2005−281860号公報 日本国特開2008−261027号公報
本発明は、従来技術の現状に鑑み、引張強度が950〜1600MPaの高強度ボルトにおいて、耐水素脆化特性を向上させることを課題とし、該課題を解決するパーライト組織ボルト、該ボルト用の冷間加工性に優れた鋼線、該鋼線製造用の冷間加工性に優れた線材、及び、それらの製造方法を提供することを目的とする。本発明において、高強度ボルトとは、引張強さが950〜1600MPaであるボルトを意味する。
引張強度が950〜1600MPaの高強度ボルトに優れた耐水素脆化特性を付与するためには、機械部品、例えばボルトの表層組織をパーライト組織とし、かつ、パーライトブロックが伸線方向に伸長した組織にすることが有効である。パーライト組織は、主にセメンタイト相からなる層(以下、単に「セメンタイト層」と称する場合がある)と主にフェライト相からなる層(以下、単に「フェライト層」と称する場合がある)との積層構造を有する。この積層構造が、表層からの水素侵入に対する抵抗(耐水素脆化特性)となる。パーライトブロックが伸線方向に沿って伸長している場合、パーライト組織の層状構造の向きが均一となるので、耐水素脆化特性がさらに向上する。
一方、高強度ボルト用の鋼線の冷間加工性を高めるためには、鋼線を軟質化して、かつ、延性を向上させることが有効である。通常、鋼材の炭素量が多くなると鋼材の冷間加工性が劣化するので、良好な冷間加工性を得るためには、C含有量を0.65質量%以下にする必要がある。しかし、C含有量の低減に伴い、初析フェライトとパーライトとの二相組織が生成し易くなる。特に、線材の表層では、脱炭によりC含有量がさらに低下し、初析フェライトが生成し易い。また、線材の表層では、冷却速度が大きいので、ベイナイト組織が生成し易い。
初析フェライトとパーライトとの二相組織の耐水素脆化特性、およびベイナイトの耐水素脆化特性は、パーライトの耐水素脆化特性と比較して著しく低い。C含有量を低減させた場合、初析フェライトとパーライトとの二相組織およびベイナイトが生成しやすくなるので、機械部品、例えばボルトの表層部の耐水素脆化特性が劣化する。また、初析フェライトとパーライトとの二相組織およびベイナイトが生じた場合、表層部の強度が不均一になるので、冷間加工の際に割れが発生し易くなる。
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋼の成分組成および表層組織が、耐水素脆化特性および冷間加工性に及ぼす影響を詳細に調査した。その結果、鋼にAsおよびSbの1種または2種を含有させると、パーライト変態後の鋼の表層組織において、初析フェライト組織およびベイナイト組織の生成が抑制されることを本発明者らは見いだした。
即ち、鋼にAs及びSbの1種または2種を含有させることにより、表層の組織が改善され、(i)ボルト成形時の冷間加工性が向上すること、及び、(ii)成形後又は熱処理後のボルトにおいて、耐水素脆化特性が向上することを見いだした。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
(1)本発明の一態様に係る引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線の製造用の線材は、成分組成が、質量%で、C:0.35〜0.65%、Si:0.15〜0.35%、Mn:0.30〜0.90%、P:0.020%以下、S:0.020%以下、Al:0.010〜0.050%、N:0.0060%以下、O:0.0030%以下、As及びSbのうち1種又は2種:合計で0.0005〜0.0100%、Cr:0〜0.20%、Cu:0〜0.05%、Ni:0〜0.05%、Ti:0〜0.02%、Mo:0〜0.10%、V:0〜0.10%、及び、Nb:0〜0.02%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、熱間圧延後、直接、恒温変態処理を施すことにより製造され、C含有量を単位質量%で[C]と表した場合、前記線材の表面から深さ4.5mmまでの領域において、金属組織が140×[C]面積%以上のパーライト組織を有し、前記線材の前記表面から深さ4.5mmまでの前記領域において、前記線材の横断面で測定したパーライトブロックの平均ブロック粒径が20μm以下であり、前記線材の前記表面から深さ4.5mmまでの前記領域において、前記パーライト組織の平均ラメラ間隔が120nm超200nm以下である。
(2)上記(1)に記載の引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線の製造用の線材は、前記成分組成が、質量%で、Cr:0.005〜0.20%、Cu:0.005〜0.05%、Ni:0.005〜0.05%、Ti:0.001〜0.02%、Mo:0.005〜0.10%、V:0.005〜0.10%、及び、Nb:0.002〜0.02%の1種又は2種以上を含有してもよい。
(3)本発明の別の態様に係る引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線は、上記(1)又は(2)に記載の引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線の製造用の線材から製造した、引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線であって、金属組織が、前記鋼線の表面から深さ2.0mmまでの領域において、140×[C]面積%以上の伸線加工された前記パーライト組織を有し、前記鋼線の前記表面から深さ2.0mmまでの前記領域において、前記鋼線の縦断面で測定した前記パーライトブロックの平均アスペクト比ARが1.2以上2.0未満であり、かつ、前記鋼線の横断面で測定した前記パーライトブロックの前記平均ブロック粒径が20/ARμm以下である。
(4)本発明の別の態様に係るパーライト組織ボルトは、上記(3)に記載の引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線から製造したパーライト組織ボルトであって、金属組織が、前記パーライト組織ボルトの軸部の表面から深さ2.0mmまでの領域において、140×[C]面積%以上の伸線加工された前記パーライト組織を有し、前記パーライト組織ボルトの前記軸部の前記表面から深さ2.0mmまでの前記領域において、前記パーライト組織ボルトの縦断面で測定した前記パーライトブロックの前記平均アスペクト比ARが1.2以上2.0未満であり、かつ、前記パーライト組織ボルトの横断面で測定した前記パーライトブロックの前記平均ブロック粒径が20/ARμm以下であり、引張強度が、950〜1600MPaである。
(5)上記(4)に記載のパーライト組織ボルトは、フランジボルトであってもよい。
(6)本発明の別の態様に係る引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線の製造用の線材の製造方法は、成分組成が、質量%で、C:0.35〜0.65%、Si:0.15〜0.35%、Mn:0.30〜0.90%、P:0.020%以下、S:0.020%以下、Al:0.01〜0.05%、N:0.006%以下、O:0.003%以下、As及びSbの1種又は2種:合計で0.0005〜0.010%、Cr:0〜0.20%、Cu:0〜0.05%、Ni:0〜0.05%、Ti:0〜0.02%、Mo:0〜0.10%、V:0〜0.10%、及び、Nb:0〜0.02%を含有し、残部がFe及び不純物からなる鋼片を、1000〜1150℃に加熱する工程と、前記鋼片を、仕上げ圧延温度800〜950℃で熱間圧延することにより線材を得る工程と、800〜950℃である前記線材を、直接、450〜600℃の溶融塩槽に50秒以上浸漬することにより恒温変態処理する工程と、前記線材を400℃以上から300℃以下まで水冷する工程と、を備え、C含有量を単位質量%で[C]と表した場合、前記線材の表面から深さ4.5mmまでの領域において、金属組織が140×[C]面積%以上のパーライト組織を有し、前記線材の前記表面から深さ4.5mmまでの前記領域において、前記線材の横断面で測定したパーライトブロックの平均ブロック粒径が20μm以下であり、前記線材の前記表面から深さ4.5mmまでの前記領域において、前記パーライト組織の平均ラメラ間隔が120nm超200nm以下の線材を得る方法である。
(7)上記(6)に記載の引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線の製造用の線材の製造方法では、前記鋼片の成分組成が、質量%で、Cr:0.005〜0.20%、Cu:0.005〜0.05%、Ni:0.005〜0.05%、Ti:0.001〜0.02%、Mo:0.005〜0.10%、V:0.005〜0.10%、及び、Nb:0.002〜0.02%の1種又は2種以上を含有してもよい。
(8)本発明の別の態様に係る引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線の製造方法は、上記(1)又は(2)に記載の引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線の製造用の線材を、室温にて、総減面率10〜55%で伸線加工する工程を備える。
(9)本発明の別の態様に係るパーライト組織ボルトの製造方法は、上記(3)に記載の引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線を、冷間鍛造によって、又は、冷間鍛造と転造とによってボルト形状に加工することによりボルトを得る工程と、前記ボルトを100〜400℃の温度範囲内に10〜120分保持する工程と、を備える。
(10)上記(9)に記載のパーライト組織ボルトの製造方法では、前記ボルト形状がフランジボルト形状であってもよい。
本発明の上記態様によれば、耐水素脆化特性に優れた高強度パーライト組織ボルト、該ボルト用の冷間加工性に優れた鋼線、該鋼線製造用の冷間加工性に優れた線材、及び、それらの製造方法を提供することができる。
高強度パーライト組織ボルトの製造方法の一例を示すフローチャートである。
本発明の一実施形態に係る引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線の製造用の線材は、成分組成が、質量%で、C:0.35〜0.65%、Si:0.15〜0.35%、Mn:0.30〜0.90%、P:0.020%以下、S:0.020%以下、Al:0.01〜0.05%、N:0.006%以下、O:0.003%以下、As及びSbのうち1種又は2種:合計で0.0005〜0.0100%、Cr:0〜0.20%、Cu:0〜0.05%、Ni:0〜0.05%、Ti:0〜0.02%、Mo:0〜0.10%、V:0〜0.10%、及び、Nb:0〜0.02%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、熱間圧延後、直接、恒温変態処理を施すことにより製造され、C含有量を単位質量%で[C]と表した場合、前記線材の表面から深さ4.5mmまでの領域において、金属組織が140×[C]面積%以上のパーライト組織を有し、前記線材の前記表面から深さ4.5mmまでの前記領域において、前記線材の横断面で測定したパーライトブロックの平均ブロック粒径が20μm以下であり、前記線材の前記表面から深さ4.5mmまでの前記領域において、前記パーライト組織の平均ラメラ間隔が120nm超200nm以下である。
本発明の別の実施形態に係る引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線は、上記の引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線の製造用の線材から製造した引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線であって、金属組織が、前記鋼線の表面から深さ2.0mmまでの領域において、140×[C]面積%以上の伸線加工された前記パーライト組織を有し、前記鋼線の前記表面から深さ2.0mmまでの前記領域において、前記鋼線の縦断面で測定した前記パーライトブロックの平均アスペクト比ARが1.2以上2.0未満であり、かつ、前記鋼線の横断面で測定した前記パーライトブロックの前記平均ブロック粒径が20/ARμm以下である。
本発明の別の実施形態に係るパーライト組織ボルトは、上記の引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線から製造したパーライト組織ボルトであって、金属組織が、前記パーライト組織ボルトの軸部の表面から深さ2.0mmまでの領域において、140×[C]面積%以上の伸線加工された前記パーライト組織を有し、前記パーライト組織ボルトの前記軸部の前記表面から深さ2.0mmまでの前記領域において、前記パーライト組織ボルトの縦断面で測定した前記パーライトブロックの前記平均アスペクト比ARが1.2以上2.0未満であり、かつ、前記パーライト組織ボルトの横断面で測定した前記パーライトブロックの前記平均ブロック粒径が20/ARμm以下であり、引張強度が、950〜1600MPaである。
まず、本実施形態に係る引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線の製造用の線材(以下、単に「線材」と称する場合がある)、本実施形態に係る引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線(以下、単に「鋼線」と称する場合がある)、及び、本実施形態に係るパーライト組織ボルト(以下、単に「ボルト」と称する場合がある)の成分組成について説明する。本実施形態に係る鋼線は、本実施形態に係る線材を伸線加工することによって得られ、本実施形態に係るボルトは、本実施形態に係る鋼線を冷間鍛造すること、または冷間鍛造および転造することによって得られる。伸線加工、冷間鍛造、および転造は、鋼の成分組成に影響を及ぼさない。従って、以下に述べる成分組成に関する説明は、線材、鋼線、およびボルトのいずれにも該当する。以下の説明において、「%」は「質量%」を意味する。なお、成分組成の残部は、Fe及び不純物である。なお、線材の表面から深さ4.5mmまでの領域を「線材の表層部」と称する場合があり、鋼線の表面から深さ2.0mmまでの領域を「鋼線の表層部」と称する場合があり、ボルトの軸部の表面から深さ2.0mmまでの領域を「ボルト軸部の表層部」と称する場合がある。
C:0.35〜0.65%
Cは、引張強度を確保するのに必要な元素である。C含有量が0.35%未満である場合、950MPa以上の引張強度を得ることが困難である。好ましくは、C含有量が0.40%以上である。一方、C含有量が0.65%超である場合、冷間鍛造性が劣化する。好ましくは0.60%以下である。
Si:0.15〜0.35%
Siは、脱酸元素であるとともに、固溶強化により引張強度を高める元素である。Si含有量が0.15%未満である場合、添加効果が十分に発現しない。好ましくは、Si含有量は0.18%以上である。一方、Si含有量が0.35%超である場合、添加効果が飽和するとともに、熱間圧延時の延性が劣化して疵が発生し易くなる。好ましくは、Si含有量は0.28%以下である。
Mn:0.30〜0.90%
Mnは、パーライト変態後の鋼の引張強度を高める元素である。Mn含有量が0.30%未満である場合、添加効果が十分に発現しない。好ましくは、Mn含有量は0.40%以上である。一方、Mn含有量が0.90%超である場合、添加効果が飽和するとともに、線材の恒温変態処理の際の変態完了時間が長くなる。変態完了時間が長くなることにより、線材の表層部のパーライト組織の面積率が140×[C]面積%を下回り、これにより水素脆化特性および加工性が劣化するおそれがある。さらに、添加効果の飽和によって、製造コストが不必要に増大する。好ましくは、Mn含有量は0.80%以下である。
P:0.020%以下
Pは、結晶粒界に偏析して耐水素脆化特性を劣化させるとともに、冷間加工性を劣化させる元素である。P含有量が0.020%超の場合、耐水素脆化特性の劣化、及び、冷間加工性の劣化が顕著となる。好ましくは、P含有量は0.015%以下である。本実施形態に係る線材、鋼線、およびボルトはPを含有する必要がないので、P含有量の下限値は0%である。
S:0.020%以下
Sは、Pと同様に、結晶粒界に偏析して耐水素脆化特性を劣化させるとともに、冷間加工性を劣化させる元素である。S含有量が0.020%超の場合に、耐水素脆化特性の劣化、及び、冷間加工性の劣化が顕著となる。S含有量は、好ましくは0.015%以下であり、より好ましくは0.010%以下である。本実施形態に係る線材、鋼線、およびボルトはSを含有する必要がないので、S含有量の下限値は0%である。
Al:0.010〜0.050%
Alは、脱酸元素であり、また、ピン止め粒子として機能するAlNを形成する元素である。AlNは結晶粒を細粒化し、これにより冷間加工性を高める。また、Alは、固溶Nを低減して動的歪み時効を抑制する作用、及び、耐水素脆化特性を高める作用を有する元素である。Al含有量が0.010%未満である場合、上述の効果が得られない。Al含有量は好ましくは0.020%以上である。Al含有量が0.050%超である場合、上述の効果が飽和するとともに、熱間圧延の際に疵が発生し易くなる。Al含有量は好ましくは0.040%以下である。
N:0.0060%以下
Nは、動的歪み時効により冷間加工性を劣化させ、さらに耐水素脆化特性も劣化させることがある元素である。このような悪影響を回避するために、N含有量を0.0060%以下とする。N含有量は好ましくは0.0050%以下であり、より好ましくは0.0040%以下である。N含有量の下限値は0%である。
O:0.0030%以下
Oは、線材、鋼線、及び、鋼製部品、例えばボルト中に、Al及びTi等の酸化物として存在する。O含有量が0.0030%を超える場合、粗大な酸化物が鋼中に生成して、疲労破壊が生じ易い。O含有量は好ましくは0.0020%以下である。O含有量の下限値は0%である。
As+Sb:0.0005〜0.0100%
As及びSbは、本実施形態に係る線材、本実施形態に係る鋼線、及び、本実施形態に係るボルトにおいて、重要な元素である。As及びSbは、ともに、線材の表層部に偏析して表層組織を改善する。具体的には、線材の表層部における初析フェライト組織およびベイナイト組織の生成を抑制する。これにより、耐水素脆性及び冷間加工性が改善される。それ故、本実施形態に係る線材、本実施形態に係る鋼線、および本実施形態に係るボルトにおいて、As及びSbの1種又は2種の含有量の合計が規定される。
As及びSbの1種又は2種の含有量の合計が0.0005%未満である場合、上述の効果が得られない。すなわち、この場合、線材の表層部におけるパーライト組織の面積率が、後述する下限値を下回る。一方、As及びSbの1種又は2種の含有量の合計が0.0100%を超える場合、As及びSbが結晶粒界に過剰に偏析し、これにより冷間加工性が劣化する。As及びSbの1種又は2種の含有量の合計は好ましくは0.0008〜0.005%である。
As及びSbの1種又は2種が表層組織を改善する理由は、以下のように推定できる。
AsおよびSbは、線材、鋼線、およびボルトの結晶粒界および表面に偏析する。(i)これらの元素が表面に偏析することにより、表面での脱炭が抑制される。また、(ii)これらの元素が結晶粒界に偏析することにより、結晶粒界からのフェライトおよびベイナイトの核生成が抑制される。フェライトおよびベイナイトの核生成の抑制によって、線材、鋼線、およびボルト軸部の表層部において、初析フェライトおよびベイナイトの生成が抑制された組織を得ることができる。さらに、合計0.0005%以上のAsおよびSbは、線材、鋼線、およびボルトの表層部において、パーライトブロックを微細化し、且つパーライト組織の平均ラメラ間隔を小さくする。
パーライト組織は、セメンタイト層とフェライト層とが積層された層状構造を有する。線材に伸線加工を施して鋼線を製造する場合、セメンタイト層とフェライト層とが伸線方向に延伸されることにより、整然とした層状構造を有するパーライト組織が得られる。この層状構造が、表層からの水素侵入を防ぐので、鋼線およびボルトの耐水素脆化特性が向上する。
表層の強度が不均一である場合、鍛造などの冷間加工の際に、強度が低い部分から割れが発生する。しかし、AsおよびSbの1種または2種を含有させることにより、初析フェライトおよびベイナイト等の低強度の組織の生成が抑制される。つまり、表層における強度の不均一が解消され、これにより冷間加工性が向上する。
本実施形態に係る線材、本実施形態に係る鋼線、及び、本実施形態に係るボルトは、上記元素の他に、Cr、Cu、Ni、Ti、Mo、V、及び、Nbのいずれか1種又は2種以上を含有してもよい。ただし、これら元素を含有しない場合であっても、本実施形態に係る線材、本実施形態に係る鋼線、及び、本実施形態に係るボルトは、課題を解決するために十分な特性を有する。従って、Cr、Cu、Ni、Ti、Mo、V、及び、Nbの含有量の下限値は0%である。
Cr:0〜0.20%
Crは、パーライト変態後の鋼の引張強度を高める元素である。Cr含有量が0.005%未満である場合、上述の効果が十分に得られない。一方、Cr含有量が0.20%超である場合、マルテンサイトが生じ易くなり、これにより冷間加工性が劣化する。よって、Crを含有させる場合、Cr含有量は0.005〜0.20%が好ましく、0.010〜0.15%がより好ましい。
Cu:0〜0.05%
Cuは、析出硬化によって強度の向上に寄与する元素である。Cu含有量が0.005%未満である場合、上述の効果が十分に得られない。一方、Cu含有量が0.05%超である場合、粒界脆化が生じ、これにより耐水素脆化特性が劣化する。よって、Cuを含有させる場合、Cu含有量は0.005〜0.05%が好ましく、0.010〜0.03%がより好ましい。
Ni:0〜0.05%
Niは、鋼の靭性を高める元素である。Ni含有量が0.005%未満である場合、上述の効果が十分に得られない。一方、Ni含有量が0.05%超である場合、マルテンサイトが生じ易くなり、これにより冷間加工性が劣化する。よって、Niを含有させる場合、Ni含有量は0.005〜0.05%が好ましく、0.01〜0.03%がより好ましい。
Ti:0〜0.02%
Tiは、脱酸元素である。また、Tiは、TiCを析出させて、これにより引張強度及び降伏強さを高める。また、Tiは固溶N量を低減して、これにより冷間加工性を高める。Ti含有量が0.001%未満である場合、上述の効果が十分に得られない。一方、Ti含有量が0.02%超である場合、上述の効果が飽和するとともに、耐水素脆化特性が劣化する。よって、Tiを含有させる場合、Ti含有量は0.001〜0.02%が好ましく、0.002〜0.015%がより好ましい。
Mo:0〜0.10%
Moは、炭化物(MoC又はMo2C)を析出させて、これにより引張強度、降伏強さ、及び、耐力を向上させる。また、Moは耐水素脆化特性を向上させる元素である。Mo含有量が0.005%未満である場合、上述の効果が十分に得られない。一方、Mo含有量が0.10%超である場合、材料のコストが大幅に増加する。よって、Moを含有させる場合、Mo含有量は0.005〜0.10%が好ましく、0.01〜0.08%がより好ましい。
V:0〜0.10%
Vは、炭化物(VC)を析出させて、これにより引張強度、降伏強さ、及び、耐力を向上させる。また、Vは耐水素脆化特性の向上に寄与する元素である。V含有量が0.005%未満である場合、上述の効果が十分に得られない。一方、V含有量が0.10%超である場合、材料のコストが大幅に増加する。よって、Vを含有させる場合、V含有量は0.005〜0.10%が好ましく、0.010〜0.08%がより好ましい。
Nb:0〜0.02%
Nbは、炭化物(NbC)を析出させて、これにより引張強度、降伏強さ、及び、耐力を向上させる。Nb含有量が0.002%未満である場合、上述の効果が十分に得られない。一方、Nb含有量が0.02%超である場合、上述の効果が飽和する。よって、Nbを含有させる場合、Nb含有量は0.002〜0.02%が好ましく、0.005〜0.01%がより好ましい。
次に、本実施形態に係る線材、本実施形態に係る鋼線、および本実施形態に係るボルトの金属組織について説明する。本実施形態に係る鋼線は、本実施形態に係る線材を伸線加工することによって得られる。本実施形態に係るボルトは、本実施形態に係る鋼線を冷間鍛造することによって、または冷間鍛造および転造することによって得られる。伸線加工は、パーライトの形状に影響を及ぼす。従って、以下では、線材、鋼線、およびボルトそれぞれの金属組織を別々に説明する。
なお、ボルトの強度を支配するボルト軸部の金属組織に冷間鍛造および転造が及ぼす影響は小さい。ボルト軸部に対して、冷間鍛造および転造が及ぼす加工の量は小さいからである。また、伸線加工がパーライトの面積率に及ぼす影響も小さい。従って、本実施形態においてこれら影響は考慮されない。
[本実施形態に係る線材の金属組織について]
(パーライトの面積率:線材の表面から深さ4.5mmまでの領域において、140×[C]面積%以上)
(表面から深さ4.5mmまでの領域におけるパーライトブロックの、横断面で測定した平均ブロック粒径:20μm以下)
(線材の表面から深さ4.5mmまでの領域におけるパーライト組織の平均ラメラ間隔:120nm超200nm以下)
本実施形態に係る線材は、熱間圧延後、直接、恒温変態処理を施すことにより形成される。本実施形態に係る線材の表面から深さ4.5mmまでの領域(線材の表層部)の金属組織は、140×[C]面積%以上のパーライトを有する。[C]は、線材のC含有量(質量%)である。線材の表層部のパーライトの面積率が140×[C]面積%未満である場合、この線材を加工して得られる鋼線の表面から深さ2.0mmまでの領域(鋼線の表層部)、およびボルトの表面から深さ2.0mmまでの領域(ボルトの表層部)のパーライトの面積率が140×[C]面積%未満となる。この場合、鋼線およびボルトの耐水素脆化特性が劣化する。パーライトの他に、ベイナイト、初析フェライト、およびマルテンサイト等が線材に含まれる場合があるが、線材の表層部のパーライトの含有量が140×[C]面積%以上である限り、パーライト以外の金属組織の含有は許容される。なお、線材の表層部のパーライト面積率が140×[C]面積%を下回る場合、線材の表層部に含まれる初析フェライトおよびベイナイトの量が多くなるので、線材から得られるボルトの耐水素脆化特性が低下する。さらに、線材の表層部のパーライト面積率が140×[C]面積%を下回る場合、線材の表層部の強度(引張強さ、および硬度等)が不均一になるので、線材の冷間加工の際に割れが発生しやすくなる。線材の表層部のパーライトの含有量は、好ましくは145×[C]面積%以上である。なお、線材の表層部にはパーライト以外の金属組織が含まれないことが望ましいので、線材の表層部のパーライトの面積率の上限値は100面積%である。
また、本実施形態に係る線材では、表層部において、横断面で測定したパーライトブロックの平均ブロック粒径が20μm以下であり、パーライト組織の平均ラメラ間隔が120nm超200nm以下である。横断面とは、線材の長手方向に垂直な面を意味する。
線材の表層部における横断面で測定したパーライトブロックの平均ブロック粒径が20μmを超える場合、線材の延性が低くなり、これにより線材の冷間加工性が低下する。さらに、この場合、この線材を伸線加工して得られる鋼線の表層部と、鋼線を加工して得られるボルトの表層部とのパーライトブロック粒径が粗大化する。加えて、表層部のパーライトブロックが粗大化した場合、耐水素脆化特性が低下する。何故なら、水素は、パーライトブロック粒界に偏析する傾向を有するからである。線材の表層部のパーライトブロックが粗大化した場合、線材の表層部のパーライトブロック粒界の総面積が減少するので、線材の表層部の水素捕捉能力(即ち、水素が線材内部に侵入することを妨げる能力)が低下する。好ましくは、線材の表層部のパーライトブロックの平均ブロック粒径は15μm以下である。なお、線材の表層部におけるパーライトブロックの平均ブロック粒径は、小さい方が好ましいので、その下限値を規定する必要はない。しかし、製造設備の能力などを考慮すると、線材の表層部におけるパーライトブロックの平均ブロック粒径を約5μm未満とすることは難しい。
パーライト組織は、複数のフェライト層とセメンタイト層とが層状に並んだ組織である。この複数のセメンタイト層同士の間隔がラメラ間隔である。線材の表層部のパーライト組織の平均ラメラ間隔が120nm以下である場合、線材の変形抵抗が高くなり、これにより線材の冷間加工性が劣化する。一方、線材の表層部において、パーライト組織の平均ラメラ間隔を200nm超とするためには、パーライト変態温度を高くする必要がある。しかし、パーライト変態温度を高くした場合、本実施形態に係る線材の生産性が低下する。好ましくは、線材の表層部のパーライト組織の平均ラメラ間隔は125〜180nmである。
よって、本実施形態に係る線材の表層部のパーライト組織においては、横断面で測定したパーライトブロックの平均ブロック粒径を20μm以下とし、且つパーライト組織の平均ラメラ間隔を120nm超200nm以下とする。
本実施形態に係る線材において、パーライトブロックの平均ブロック粒径、およびパーライト組織の平均ラメラ間隔を規定する領域は、線材の表面から深さ4.5mmまでの領域(線材の表層部)である。後述するように、本実施形態に係る鋼線を製造する際の、線材の伸線加工時の総減面率は10〜55%である。線材の表面から深さ4.5mmまでの領域は、総減面率10〜55%の伸線加工後に、この領域は少なくとも鋼線またはボルトの表面から2.0mm以上の深さを有する。本実施形態に係る線材を伸線加工して得られる鋼線には、この鋼線の表面から深さ2.0mmまでの領域(鋼線の表層部)においてパーライトブロックの平均ブロック粒径を制御することが必要とされる。線材において、線材の表面から深さ4.5mmまでの領域のパーライトの構成を規定することにより、この線材から得られる鋼線において、表面から深さ2.0mmまでの領域のパーライトの構成を適切なものとすることができる。
本実施形態では、パーライトブロック粒界は、パーライト中のフェライトの方位差が15度以上である隣り合う2つのパーライトの境界であると定義され、パーライトブロックは、パーライトブロック粒界によって囲まれた領域であると定義され、パーライトブロックの平均ブロック粒径は、パーライトブロックの円相当径の平均値であると定義される。線材の表層部のパーライトブロックの平均ブロック粒径は、まず線材の横断面の表面から4.5mmの深さのパーライトブロックの円相当径の平均値を、EBSD装置を用いて、45°おきに8箇所測定し、次いで8箇所での測定結果を平均することにより得られる。線材の表層部の平均ラメラ間隔は、以下の手順により測定する。まず、線材の横断面をピクラールでエッチングすることによりパーライト組織を現出させ、次いで、線材の表面から4.5mmの深さのパーライト組織を45°おきに8箇所、FE−SEMを用いて写真撮影する。写真撮影時の倍率は10000倍とする。各写真の視野内での最小ラメラ間隔部において、2μmの線分と垂直に交差するラメラ数を求め、直線交差法によりラメラ間隔を求める。そして、8箇所でのラメラ間隔の平均値を、平均ラメラ間隔とする。本実施形態では、線材の表層部のパーライトの面積率は以下の手順により求められる。まず、ピクラールを用いて線材の横断面をエッチングし、組織を現出させる。次に、線材表面から4.5mmの深さの箇所において、組織を45°おきに8箇所、FE−SEMを用いて写真撮影する。写真撮影時の倍率は1000倍とする。写真中の非パーライト組織(フェライト、ベイナイト、マルテンサイトの各組織)を目視でマーキングし、それぞれの組織の面積率を画像解析により求める。パーライト組織の面積率は、観察視野全体から各組織の面積を減じることにより求められる。
[本実施形態に係る鋼線の金属組織について]
(パーライトの面積率:140×[C]%以上)
(表面から深さ2.0mmまでの領域におけるパーライトブロックの、縦断面で測定した平均アスペクト比AR:1.2以上2.0未満)
(表面から深さ2.0mmまでの領域におけるパーライトブロックの、横断面で測定した平均ブロック粒径:(20/AR)μm以下)
本実施形態に係る線材を伸線加工して製造した本実施形態に係る鋼線の表面から深さ2.0mmまでの領域(鋼線の表層部)におけるパーライトの面積率は140×[C]%以上である。本実施形態に係る線材に、後述する伸線加工を適用した場合、鋼線の表層部におけるパーライトの面積率は140×[C]%以上となる。本実施形態に係る鋼線の表層部の、縦断面で測定したパーライトブロックの平均アスペクト比(AR)は1.2〜2.0未満で、かつ、横断面で測定した平均ブロック粒径が(20/AR)μm以下である。縦断面とは、鋼線の伸線方向に平行な断面である。アスペクト比とは、パーライトブロックの長軸の長さと短軸の長さとの比、すなわち「長軸の長さ/短軸の長さ」である。鋼線の表層部のパーライトブロックの、縦断面で測定した平均アスペクト比は、以下の手順により求められる。まず、線材の縦断面の表面から2.0mmの深さの位置において8箇所における平均アスペクト比を、EBSPを用いて求める。次いで、各箇所における平均アスペクト比をさらに平均した値を、本実施形態における平均アスペクト比とする。
引張強度が950〜1600MPaの高強度ボルトに優れた耐水素脆化特性を付与するためには、ボルトの材料である鋼線の表層部のパーライトブロックを伸線方向に伸長させることが有効である。パーライト組織は、セメンタイト層とフェライト層との積層構造を有する。この積層構造が、表層からの水素侵入に対する抵抗(耐水素脆化特性)となる。鋼線の表層部のパーライトブロックが伸線方向に沿って伸長している場合、鋼線の表層部のパーライト組織の層状構造の向きが均一となるので、耐水素脆化特性がさらに向上する。鋼線表層部のパーライトブロックの、縦断面で測定した平均アスペクト比が1.2未満である場合、鋼線を材料として製造されたボルトの表層部のパーライトブロックの、縦断面で測定した平均アスペクト比が1.2未満となる。この場合、上述の効果が得られず、表面からの水素侵入に対する抵抗が十分に向上しないので、本実施形態に係るボルトの耐水素脆化特性が向上しない。一方、パーライトブロックの平均アスペクト比が2.0以上である場合、伸線歪みが増加するので、本実施形態に係るボルトの生産性が低下する。
よって、本実施形態に係る鋼線の表層部のパーライト組織において、縦断面で測定したパーライトブロックの平均アスペクト比(AR)は1.2以上2.0未満とすることが必要であり、1.4〜1.8とすることが好ましい。
伸線加工が行われることにより、パーライトブロックが伸線方向に沿って延伸するので、伸線加工後に横断面で測定したパーライトブロックの平均ブロック粒径は、伸線加工前に横断面で測定したパーライトブロックの平均ブロック粒径よりも小さくなる。本実施形態に係る鋼線の表層部のパーライトブロックの、横断面で測定した平均ブロック粒径が(20/AR)μmを超える場合、鋼線の延性が低下し冷間加工性が劣化する。さらに、この場合、この鋼線から製造されるボルトの表層部のパーライトブロックが粗大化し、これにより耐水素脆化特性が低下する。本実施形態に係る鋼線における(20/AR)は、約10〜17μmとなることが通常である。
よって、本実施形態に係る鋼線の表層部のパーライト組織の、横断面で測定した平均ブロック粒径は(20/AR)μm以下とする。
[本実施形態に係るボルトの金属組織について]
(軸部の金属組織:140×[C]面積%以上の伸線加工されたパーライト組織)
(軸部の表面から深さ2.0mmまでの領域における、縦断面で測定したパーライトブロックの平均アスペクト比AR:1.2以上2.0未満)
(軸部の表面から深さ2.0mmまでの領域における、横断面で測定したパーライトブロックの平均ブロック粒径:(20/AR)μm以下)
(引張強度:950〜1600MPa)
本実施形態に係る鋼線を加工して製造した本実施形態に係るボルトは、ボルトの軸部の表層部において、金属組織が140×[C]面積%以上の伸線加工されたパーライト組織を有する。本実施形態に係る鋼線に、後述する製造方法を適用した場合、本実施形態に係るボルトの表層部のパーライト面積率は140×[C]面積%以上となる。また、本実施形態係るボルトの軸部の表層部において、縦断面で測定したパーライトブロックの平均アスペクト比(AR)が1.2以上2.0未満で、かつ、横断面で測定した平均ブロック粒径が(20/AR)μm以下である。本実施形態に係るボルトは、引張強度が950〜1600MPaの高強度ボルトである。
本実施形態に係るボルトの表層部における、縦断面で測定したパーライトブロックの平均アスペクト比(AR)、及び、横断面で測定した平均ブロック粒径は、前述された本実施形態に係る鋼線のそれと同様である。
引張強度が950MPa未満のボルトである場合、水素脆化現象が生じ難いので、ボルトの製造に本実施形態に係る鋼線を使用する必要はない。よって、本実施形態に係るボルトの引張強度は950MPa以上とする。
一方、引張強度が1600MPa超のボルトを冷間鍛造で製造することは困難である。製造できたとしても、歩留が低く、製造コストが嵩むので、本実施形態に係るボルトの引張強度は1600MPa以下とする。本実施形態に係るボルトの成分組成は、上述した本実施形態にかかる線材の成分組成と同一であり、この成分組成と組織の形態とにより、950〜1600MPaの引張強度が達成される。
セメンタイト層とフェライト層とが積層構造をなすパーライト組織を伸線加工することにより、前述したように、セメンタイト層とフェライト層とが伸線方向に延伸して、整然とした層状構造のパーライト組織が得られる。この「整然とした」との用語は、層状構造を構成する層の向きが均一であることを意味する。この層状構造が、表層からの水素侵入への抵抗となって、本実施形態に係るボルトの耐水素脆化特性が向上する。
なお、本実施形態に係る鋼線および本実施形態に係るボルトにおいて、パーライト組織のラメラ間隔を規定する必要はない。上述の本実施形態に係る線材に、後述する製造方法を適用して、本実施形態に係る鋼線およびボルトを製造した場合、本実施形態に係る鋼線およびボルトの表層部において、ラメラ間隔は通常100〜160nmとなる。この場合、ラメラ間隔が本実施形態に係る鋼線およびボルトに悪影響を及ぼすことはない。
したがって、引張強度が950〜1600MPaの高強度で、耐水素脆化特性に優れた本実施形態に係るボルトは、自動車の足回り部品やエンジン部品などの締結に用いるボルトとして最適である。
次に、本実施形態に係る線材の製造方法、本実施形態に係る鋼線の製造方法、及び、本実施形態に係るボルトの製造方法について説明する。
本実施形態に係る線材、鋼線、およびボルトは、図1に示される製造方法によって製造される。
本実施形態に係る引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線の製造用の線材の製造方法は、成分組成が、質量%で、C:0.35〜0.65%、Si:0.15〜0.35%、Mn:0.30〜0.90%、P:0.020%以下、S:0.020%以下、Al:0.01〜0.05%、N:0.006%以下、O:0.003%以下、As及びSbの1種又は2種:合計で0.0005〜0.010%、Cr:0〜0.20%、Cu:0〜0.05%、Ni:0〜0.05%、Ti:0〜0.02%、Mo:0〜0.10%、V:0〜0.10%、及び、Nb:0〜0.02%を含有し、残部がFe及び不純物からなる鋼片を、1000〜1150℃に加熱する工程と、前記鋼片を、仕上げ圧延温度800〜950℃で熱間圧延することにより線材を得る工程と、800〜950℃である前記線材を、直接、450〜600℃の溶融塩槽に50秒以上浸漬することにより恒温変態処理する工程と、前記線材を400℃以上から300℃以下まで水冷する工程と、を備える。この鋼片の成分組成は、上述した線材、鋼線、およびボルトの成分組成と同一である。
上記成分組成の溶鋼を、通常の方法で鋳造して鋳片とし、該鋳片を通常の方法で鋼片とする。この鋼片を、1000〜1150℃に加熱し、次いで熱間圧延S1に供することにより、線材とする。熱間圧延S1に供する前の加熱温度が1000℃未満であった場合、熱間圧延S1の際の変形抵抗が大きくなり、生産性が低下する。また、熱間圧延S1に供する前の加熱温度が1150℃超であった場合、線材表面の脱炭深さが大きくなる。この場合、線材の表層部の平均ブロック粒径、および線材の表層部の平均ラメラ間隔が増大する。
後の恒温変態処理によって均一なパーライト組織を得るためには、オーステナイトの粒径を適切に制御することが重要である。熱間圧延S1における仕上げ圧延温度が、パーライト変態前のオーステナイトの粒径に影響する。均一なパーライト組織を得るために、熱間圧延S1における仕上げ圧延温度を800〜950℃とする。
仕上げ圧延温度が800℃未満である場合、圧延時の負荷が上昇するので、生産性が低下する。仕上げ圧延温度が950℃超である場合、仕上げ圧延温度が高すぎるので、オーステナイト粒径が粗大化する。この場合、線材の表層部のパーライトブロックが粗大化するので、耐水素脆化特性が劣化する。
仕上げ圧延後、800〜950℃の線材を、直接、450〜600℃の溶融塩槽に50秒以上浸漬して、恒温変態処理S2を施す。「直接」との用語は、仕上げ圧延後の線材に、溶融塩槽への浸漬前に冷却および再加熱を行わないことを意味する。溶融塩槽の温度が450℃未満であると、線材の表層部にベイナイトが生成するので、線材の表層部のパーライトの面積率が140×[C]面積%未満となる。この場合、耐水素脆化特性が劣化する。さらに、溶融塩槽の温度が450℃未満であると、線材の表層部の平均ラメラ間隔が小さくなり、線材の加工性が低下する。溶融塩槽の温度が600℃超であると、パーライト変態の開始が遅くなり、生産性が劣化する。さらに、溶融塩槽の温度が600℃超である場合、線材のパーライト変態温度が高くなるので、線材の表層部のパーライトブロックの平均ブロック粒径が20μm超となる。加えて、溶融塩槽の温度が600℃超である場合、線材のパーライト変態温度が高くなるので、線材の表層部のパーライト組織の平均ラメラ間隔が200nm超となる。溶融塩槽への浸漬時間が50秒未満である場合、パーライト変態が十分に進行しないので、線材の表層部において140×[C]面積%以上のパーライトを生成させることができない。溶融塩槽への浸漬時間の上限は特に規定されないが、約150秒以上の浸漬は、線材の特性向上に寄与せず、さらに生産性を低下させる。
仕上げ圧延終了と溶融塩槽への浸漬の開始との間の時間は、特に規定されない。しかし、溶融塩槽への浸漬は、線材の温度を800〜950℃とした状態で開始する必要がある。さらに、上述したように、溶融塩槽への浸漬は仕上げ圧延後に直接行われる必要がある。言い換えると、仕上げ圧延終了後の線材の温度が800℃未満になる前に、線材を溶融塩槽に浸漬する必要がある。従って、製造設備の雰囲気の温度などを考慮しながら、これら条件が満たされるように、仕上げ圧延終了と溶融塩槽への浸漬の開始との間の時間を適宜調節する必要がある。
溶融塩槽内への線材の浸漬の際に、生産性を向上させるために、異なる温度を有する複数の溶融塩槽内に線材を順に浸漬してもよい。このような方法を採用する場合、各溶融塩槽の温度を450〜600℃の範囲内とし、各溶融塩槽における浸漬時間の合計を50秒以上とすればよい。
恒温変態処理S2後、線材を水冷する(S3)。水冷S3の開始温度を400℃以上とし、水冷S3の終了温度は300℃以下とすることが必要である。この水冷条件が満たされなかった場合、線材のスケールの剥離性が劣化する。
この一連の処理により、線材の表層部の金属組織が140×[C]面積%以上のパーライト組織を有し、線材表層部において、線材の横断面で測定したパーライトブロックの平均ブロック粒径が20μm以下であり、線材表層部において、パーライト組織の平均ラメラ間隔が120nm超200nm以下である、冷間加工性に優れた線材を製造することができる。
本実施形態に係る引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線の製造方法は、上述の引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線の製造用の線材を、室温にて、総減面率10〜55%で伸線加工する工程を備える。この製造方法によって、鋼線表層部に、縦断面で測定したパーライトブロックの平均アスペクト比ARが1.2以上2.0未満であり、且つ横断面で測定した平均ブロック粒径が(20/AR)μm以下であるパーライト組織を形成する。このパーライト組織の層状構造が、鋼線表面から鋼線内部への水素侵入に対する抵抗(耐水素脆化特性)となる。
鋼線の表層部において、縦断面で測定した平均アスペクト比が1.2未満であると、パーライト組織の層状構造の向きが不均一となり、鋼線の耐水素脆化特性が向上しない。上記平均アスペクト比を2.0以上とする場合、高減面率の伸線加工が必要となるので、生産性が低下するとともに、冷間加工性が劣化する。
鋼線の表層部にて、横断面で測定した平均ブロック粒径が(20/AR)μmを超える場合、材料の延性が低下し、冷間加工性が劣化する。上述のように、本実施形態に係る鋼線およびボルトにおいて、(20/AR)は約10〜17μmとなることが通常である。
なお、本実施形態に係る鋼線の製造方法における「室温」は、20±15℃である。
総減面率が10%未満である場合、鋼線の表層部に、パーライトブロックの平均アスペクト比が1.2以上であるパーライト組織を形成することが難しい。総減面率が55%以上である場合、パーライトブロックの平均アスペクト比が2.0以上となるので、冷間加工性が低下する。
伸線加工S4における総減面率10〜55%は、一回の伸線加工で達成してもよいし、複数回の伸線加工で達成してもよい。なお、総減面率は30〜45%が好ましい。
本実施形態に係るパーライト組織ボルトの製造方法は、上述の引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線を、冷間鍛造によって、又は、冷間鍛造と転造とによってボルト形状に加工することによりボルトを得る工程と、前記ボルトを100〜400℃の温度範囲内に10〜120分保持する工程と、を備える。冷間鍛造、または冷間鍛造及び転造S5の後の保持S6における保持温度が100℃未満であると、ボルトの耐力が低くなるので、ボルトに必要な機能が得られない。保持S6における保持温度が400℃超であると、ボルト軸部の表層部のパーライトブロックの横断面で測定した平均アスペクト比ARが増大し、ボルトの耐水素脆化特性及び強度が低下する。ボルト形状は、フランジボルト形状であることが好ましい。100〜400℃の温度範囲内に保持する時間は、10〜120分である。保持時間が10分を下回った場合、上述の効果が得られない。保持時間が120分を上回った場合、上述の効果が飽和し、製造コストが上昇する。保持が終了した後は、ボルトを室温まで冷却すればよい。冷却手段および冷却速度は制限されない。
本実施形態に係る鋼線は、冷間加工に優れているので、冷間鍛造、又は、冷間鍛造と転造とで、円錐形の鍔を有するフランジボルトを製造することができる。
本実施形態に係る鋼線で製造したフランジボルトは、引張強度が950〜1600MPaの高強度で、耐水素脆化特性に優れているので、自動車の足回り部品やエンジン部品などの締結に用いるボルトとして最適である。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(実施例1)
表1に示す成分組成の鋼片を、加熱して熱間圧延に供し線材とし、該線材に恒温変態処理と、これに続く冷却とを施した。この際、全ての発明線材および比較線材の冷却開始温度を450℃とし、冷却停止温度を280℃とした。得られた発明線材および比較線材の表層部(線材の表面から深さ4.5mmまでの領域)の平均ブロック粒径と平均ラメラ間隔とパーライトの面積率とを測定した。線材の表層部のパーライトブロックの平均ブロック粒径は、まず線材の横断面の表面から4.5mmの深さのパーライトブロックの円相当径の平均値を、EBSD装置を用いて、45°おきに8箇所測定し、次いで8箇所での測定結果を平均することにより測定した。線材の表層部のパーライト組織の平均ラメラ間隔は、以下の手順により測定した。まず、線材の横断面をピクラールでエッチングすることによりパーライト組織を現出させ、次いで、線材の表面から4.5mmの深さのパーライト組織を45°おきに8箇所、FE−SEMを用いて写真撮影した。写真撮影時の倍率は10000倍とした。各写真の視野内での最小ラメラ間隔部において、2μmの線分と垂直に交差するラメラ数を求め、直線交差法によりラメラ間隔を求めた。そして、8箇所でのラメラ間隔の平均値を、平均ラメラ間隔とした。線材の表層部のパーライトの面積率は以下の手順により求めた。まず、ピクラールを用いて線材の横断面をエッチングし、組織を現出させた。次に、線材表面から4.5mmの深さの箇所において、組織を45°おきに8箇所、FE−SEMを用いて写真撮影した。写真撮影時の倍率は1000倍とした。写真中の非パーライト組織(フェライト、ベイナイト、マルテンサイトの各組織)を目視でマーキングし、それぞれの組織の面積率を画像解析により求めた。線材の表層部のパーライト組織の面積率は、観察視野全体から各組織の面積を減じることにより求めた。表2に、加熱温度、仕上げ圧延温度、恒温変態処理条件、並びに、表層部のパーライト組織の平均ブロック粒径及び平均ラメラ間隔を示す。
Figure 0006158925
Figure 0006158925
線材の表層部のパーライト組織の平均ラメラ間隔(nm)が120nm超200nm以下の範囲外にある比較線材2と、線材の表層部の平均ブロック粒径が本発明の範囲外にある比較線材1及び6と、線材の表層部の平均ラメラ間隔及び平均ブロック粒径の両方が本発明の範囲外にある比較例3、4及び5とは、表3に示すように、伸線加工後の限界圧縮率が、いずれも72%以下であった。
一方、線材の表層部のパーライト組織の平均ラメラ間隔(nm)が120nm超200nm以下の範囲内にあり、かつ、線材の表層部の平均ブロック粒径が本発明の範囲内である発明線材1〜7は、伸線加工後の限界圧縮率が78%以上である。この結果から、発明線材の冷間加工性は比較線材と比較して優れていることが解る。
(実施例2)
表2に示す発明線材1〜7、及び、比較線材1〜7に、総減面率5〜70%の伸線加工を施して鋼線を製造し、その限界圧縮率を測定した。結果を表3に示す。
限界圧縮率は、冷間加工性を示す指数である。限界圧縮率の測定は以下の手順により行った。伸線加工後の鋼線から、直径D×高さ1.5Dの試料を機械加工により作成した。この試料の端面を、同心円状に溝がついた金型を用いて拘束および圧縮した。割れが発生しない最大の圧縮率を、その試料の限界圧縮率とした。
Figure 0006158925
鋼線の表層部の平均ブロック粒径が本発明の範囲を外れる比較鋼線1、3、4、5、及び、6、及び、鋼線の表層部のパーライトブロック粒の平均アスペクト比が本発明の範囲を外れる比較鋼線7及び8は、いずれも、限界圧縮率が71%未満であり、発明鋼線と比べて低い。これより、発明鋼線は、冷間加工性に優れていることが解る。比較鋼線2は、その金属組織が本発明の範囲内であったが、線材の表層部のラメラ間隔が小さすぎる線材である比較線材2から製造されたので、限界圧縮率が低かった。比較鋼線9は、その金属組織が本発明の範囲内であったが、SbおよびAsの合計含有量が過剰であったので、限界圧縮率が低かった。
(実施例3)
表3に示す発明鋼線1〜7、及び、比較鋼線1〜9を、冷間鍛造によりフランジ付ボルトに加工した。加工後、これらボルトを300〜450℃に保持し、ボルトを製造した。全てのボルトの温度保持時間は30分とした。ボルトの軸部の引張強度、耐力比、及び、耐水素脆化特性を測定した結果を表4に示す。
耐水素脆化特性の評価は、以下の手順により行った。まず、試料を電界水素チャージすることにより、0.5ppmの拡散性水素を試料に含有させた。次いで、試験中に水素が試料から大気中に放出することを防ぐために、試料にCdめっきを施した。その後、大気中で、その試料の最大引張荷重の90%の荷重を試料に負荷した。荷重を付加した状態で100h経過した後に破断が生じなかった試料を、耐水素脆化特性が良好な試料であると判断した。
耐力比の測定は、以下の手順により行った。まず、JIS Z 2241に準拠した引張試験を各試料に行うことにより、各試料の引張強さおよび耐力を測定した。各試料耐力は、JIS Z 2241に記載のオフセット法に基づき、各試料の塑性伸びが伸び計標点距離の0.2%になる応力とした。耐力比は、耐力を引張強さで除すことにより求めた。
Figure 0006158925
比較鋼線2、8、および11においては、ボルト成形の際に割れが発生した。比較鋼線7を冷間鍛造して製造したボルトの軸部の引張強度は950MPa未満であった。ボルト軸部の表層部のパーライトブロックの平均アスペクト比が本発明の範囲を外れる比較ボルト10、平均ブロック粒径が本発明の範囲を外れる比較ボルト1、3、4、5、及び、6は、いずれも、耐水素脆化特性が不良であった。比較ボルト7は、良好な耐水素脆化特性を有しているが、これは伸線加工時の総減面率が小さく、引張強さが950MPa未満であったことに起因する。引張強さが低い鋼では水素脆化が生じにくい。比較ボルト12は、表層部のパーライト面積率が低かったので、加工性が悪かった。
本発明の範囲を満たす発明ボルト1〜7は、いずれも、引張強さが950〜1600MPaの範囲内にあり、耐力比が0.93以上であり、耐水素脆化特性が良好であることが解る。
前述したように、本発明によれば、耐水素脆化特性に優れ、950〜1600MPaの引張強度を有する自動車用パーライト組織ボルト、該ボルト用の冷間加工性に優れた鋼線、該鋼線製造用の冷間加工性に優れた線材、及び、それらの製造方法を提供することができる。よって、本発明は、鋼部材製造産業において利用可能性が高いものである。

Claims (12)

  1. 引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線の製造用の線材であって、成分組成が、質量%で、
    C:0.35〜0.65%、
    Si:0.15〜0.35%、
    Mn:0.30〜0.90%、
    P:0.020%以下、
    S:0.020%以下、
    Al:0.010〜0.050%、
    N:0.0060%以下、
    O:0.0030%以下、
    As及びSbのうち1種又は2種:合計で0.0005〜0.0100%、
    Cr:0〜0.20%、
    Cu:0〜0.05%、
    Ni:0〜0.05%、
    Ti:0〜0.02%、
    Mo:0〜0.10%、
    V:0〜0.10%、及び、
    Nb:0〜0.02%を含有し、
    残部がFe及び不純物からなり
    C含有量を単位質量%で[C]と表した場合、前記線材の表面から深さ4.5mmまでの領域において、金属組織が140×[C]面積%以上のパーライト組織を有し、
    前記線材の前記表面から深さ4.5mmまでの前記領域において、前記線材の横断面で測定したパーライトブロックの平均ブロック粒径が20μm以下であり、
    前記線材の前記表面から深さ4.5mmまでの前記領域において、前記パーライト組織の平均ラメラ間隔が120nm超200nm以下である
    ことを特徴とする引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線の製造用の線材。
  2. 前記成分組成が、質量%で、
    Cr:0.005〜0.20%、
    Cu:0.005〜0.05%、
    Ni:0.005〜0.05%、
    Ti:0.001〜0.02%、
    Mo:0.005〜0.10%、
    V:0.005〜0.10%、及び、
    Nb:0.002〜0.02%の1種又は2種以上を含有する
    ことを特徴とする請求項1に記載の引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線の製造用の線材。
  3. 張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線であって、
    成分組成が、質量%で、
    C:0.35〜0.65%、
    Si:0.15〜0.35%、
    Mn:0.30〜0.90%、
    P:0.020%以下、
    S:0.020%以下、
    Al:0.010〜0.050%、
    N:0.0060%以下、
    O:0.0030%以下、
    As及びSbのうち1種又は2種:合計で0.0005〜0.0100%、
    Cr:0〜0.20%、
    Cu:0〜0.05%、
    Ni:0〜0.05%、
    Ti:0〜0.02%、
    Mo:0〜0.10%、
    V:0〜0.10%、及び、
    Nb:0〜0.02%を含有し、
    残部がFe及び不純物からなり、
    金属組織が、前記鋼線の表面から深さ2.0mmまでの領域において、140×[C]面積%以上の伸線加工された前記パーライト組織を有し、
    前記鋼線の前記表面から深さ2.0mmまでの前記領域において、前記鋼線の縦断面で測定した前記パーライトブロックの平均アスペクト比ARが1.2以上2.0未満であり、かつ、前記鋼線の横断面で測定した前記パーライトブロックの前記平均ブロック粒径が20/ARμm以下であり、
    前記鋼線の前記表面から深さ2.0mmまでの前記領域において、前記パーライト組織の平均ラメラ間隔が100〜160nmである
    ことを特徴とする引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線。
  4. 前記成分組成が、質量%で、
    Cr:0.005〜0.20%、
    Cu:0.005〜0.05%、
    Ni:0.005〜0.05%、
    Ti:0.001〜0.02%、
    Mo:0.005〜0.10%、
    V:0.005〜0.10%、及び、
    Nb:0.002〜0.02%の1種又は2種以上を含有する
    ことを特徴とする請求項3に記載の引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線。
  5. ーライト組織ボルトであって、
    成分組成が、質量%で、
    C:0.35〜0.65%、
    Si:0.15〜0.35%、
    Mn:0.30〜0.90%、
    P:0.020%以下、
    S:0.020%以下、
    Al:0.010〜0.050%、
    N:0.0060%以下、
    O:0.0030%以下、
    As及びSbのうち1種又は2種:合計で0.0005〜0.0100%、
    Cr:0〜0.20%、
    Cu:0〜0.05%、
    Ni:0〜0.05%、
    Ti:0〜0.02%、
    Mo:0〜0.10%、
    V:0〜0.10%、及び、
    Nb:0〜0.02%を含有し、
    残部がFe及び不純物からなり、
    金属組織が、前記パーライト組織ボルトの軸部の表面から深さ2.0mmまでの領域において、140×[C]面積%以上の伸線加工された前記パーライト組織を有し、
    前記パーライト組織ボルトの前記軸部の前記表面から深さ2.0mmまでの前記領域において、前記パーライト組織ボルトの縦断面で測定した前記パーライトブロックの前記平均アスペクト比ARが1.2以上2.0未満であり、かつ、前記パーライト組織ボルトの横断面で測定した前記パーライトブロックの前記平均ブロック粒径が20/ARμm以下であり、
    前記パーライト組織ボルトの前記軸部の前記表面から深さ2.0mmまでの前記領域において、前記パーライト組織の平均ラメラ間隔が100〜160nmであり、
    引張強度が、950〜1600MPaである
    ことを特徴とするパーライト組織ボルト。
  6. 前記成分組成が、質量%で、
    Cr:0.005〜0.20%、
    Cu:0.005〜0.05%、
    Ni:0.005〜0.05%、
    Ti:0.001〜0.02%、
    Mo:0.005〜0.10%、
    V:0.005〜0.10%、及び、
    Nb:0.002〜0.02%の1種又は2種以上を含有する
    ことを特徴とする請求項5に記載のパーライト組織ボルト。
  7. 前記パーライト組織ボルトがフランジボルトであることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のパーライト組織ボルト。
  8. 成分組成が、質量%で、C:0.35〜0.65%、Si:0.15〜0.35%、Mn:0.30〜0.90%、P:0.020%以下、S:0.020%以下、Al:0.01〜0.05%、N:0.006%以下、O:0.003%以下、As及びSbの1種又は2種:合計で0.0005〜0.010%、Cr:0〜0.20%、Cu:0〜0.05%、Ni:0〜0.05%、Ti:0〜0.02%、Mo:0〜0.10%、V:0〜0.10%、及び、Nb:0〜0.02%を含有し、残部がFe及び不純物からなる鋼片を、1000〜1150℃に加熱する工程と、
    前記鋼片を、仕上げ圧延温度800〜950℃で熱間圧延することにより線材を得る工程と、
    800〜950℃である前記線材を、直接、450〜600℃の溶融塩槽に50秒以上浸漬することにより恒温変態処理する工程と、
    前記線材を400℃以上から300℃以下まで水冷する工程と、
    を備える引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線の製造用の線材の製造方法。
  9. 前記鋼片の成分組成が、質量%で、Cr:0.005〜0.20%、Cu:0.005〜0.05%、Ni:0.005〜0.05%、Ti:0.001〜0.02%、Mo:0.005〜0.10%、V:0.005〜0.10%、及び、Nb:0.002〜0.02%の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項に記載の引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線の製造用の線材の製造方法。
  10. 請求項1又は2に記載の引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線の製造用の線材を、室温にて、総減面率10〜55%で伸線加工する工程
    を備える引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線の製造方法。
  11. 請求項3又は4に記載の引張強さが950〜1600MPaであるパーライト組織ボルト用の鋼線を、冷間鍛造によって、又は、冷間鍛造と転造とによってボルト形状に加工することによりボルトを得る工程と、
    前記ボルトを100〜400℃の温度範囲内に10〜120分保持する工程と、
    を備えるパーライト組織ボルトの製造方法。
  12. 前記ボルト形状がフランジボルト形状であることを特徴とする請求項11に記載のパーライト組織ボルトの製造方法。
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