以下、本発明に係る移動体制御装置の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一の要素同士、或いは、相当する要素同士には、互いに同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、本実施形態に係る移動体制御装置の実施の態様を示す模式図である。特に、図1の(a)は、本実施形態に係る移動体制御装置の構成を示すブロック図であり、図1の(b)は、図1の(a)に示された移動体制御装置の制御対象となる車両を示す模式的な平面図である。以下の図面には、直交座標系Sを示す場合がある。直交座標系Sにおけるx軸は車両Cの進行方向(前後方向)に沿った軸であり、y軸は車両Cの車幅方向に沿った軸であり、z軸は車両Cの上下方向に沿った軸である。
図1に示される移動体制御装置1は、例えば車両Cに搭載されており、車両Cを制御するためのものである。車両Cは、例えば、パーソナルモビリティとしての1〜2人乗りの小型EV等である。車両Cは、2つの前輪Caと1つの後輪Cbとを有している(すなわち、複数の車輪Ca,Cbを有している)。
移動体制御装置1は、車両状態検出部11、ドライバ操作検出部12、車両挙動予測部(減少量算出部)13、車両姿勢制御部14、ドライバ操作予測部(予測部)15、及び、制御部(トルク算出部、ZMP算出部、制限部)17を備えている。なお、少なくとも車両挙動予測部13、ドライバ操作予測部15、及び、制御部17は、例えば、CPU、ROM、及びRAM等を含むコンピュータを主体として構成され、それぞれの機能は、そのコンピュータにおいて所定のプログラムを実行することによって実現される。
車両状態検出部11は、車両Cの状態を検出する。車両状態検出部11は、例えば、車両Cのロール角(ロール姿勢角)及び/又はロール角速度をセンシングする手段、車両Cのヨー角及び/又はヨーレートをセンシングする手段、車両Cに生じている横G(車両Cの横方向重心加速度(y方向重心加速度))をセンシングする手段、並びに、車両Cに生じている前後G(車両Cの前後方向重心加速度(x方向重心加速度))をセンシングする手段等を含む。なお、車両Cのロール姿勢角は、車両Cの前後方向に沿った軸(x軸)周りの車体の傾斜角である。
ドライバ操作検出部12は、車両Cのドライバによる車両Cの操作(ドライバ操作)を検出する。ドライバ操作検出部12は、例えば、ドライバのアクセル操作を検出する手段、ドライバのブレーキ操作を検出する手段、及び、ドライバのステアリング操作を検出する手段等を含む。車両挙動予測部13は、ドライバの操作に基づいて車両Cの挙動を予測する。すなわち、車両挙動予測部13は、ドライバ操作検出部12の検出結果等に基づいて、ドライバが目標とする(希望する)車両Cの挙動(目標車両挙動)を演算する。また、車両挙動予測部13は、例えば、ドライバの操作に基づいて、目標車両挙動の範囲において車両Cに生じ得るx方向重心加速度、y方向重心加速度、y方向重心加速度の減少量(変化量)、及びロール姿勢角の角加速度等の状態量を取得する。
車両姿勢制御部14は、車両Cのロール姿勢角を制御する。車両姿勢制御部14は、例えば、各種アクチュエータを制御することによって、車両Cのロール姿勢角を任意の角度に変化させることが可能な機構を含む。ドライバ操作予測部15は、ドライバの操作(車両Cの駆動及び操舵等)を予測する。ドライバ操作予測部15は、例えば、ドライバの今後の操作を予測する手段を含む。なお、移動体制御装置1は、ドライバ操作予測部15を備えていなくてもよい。
制御部17は、例えば、車両Cの目標ゼロモーメントポイント(目標ZMP)及び安定領域を算出すると共に、算出した目標ZMPが安定領域内に収まるように車両Cを制御する。ここで、車両Cにおける目標ZMP及び安定領域について説明する。
車両Cにおける目標ZMPは、ZMP(床反力作用点)と同様に、下記式(1)によって与えられるものであり、車幅方向(y軸方向)における所定の点(位置)である。目標ZMPが車両Cの安定基準領域内に収まっているときに車両Cは安定状態であり、目標ZMPが車両Cの安定基準領域内に収まっていないときに車両Cは不安定状態である。車両Cが安定状態であるとは、車両Cに転倒や車輪の浮き等を生じさせることなく、目標ZMPを中心として車体をロール方向に制御可能な状態である。車両Cが不安定状態であるとは、車両Cに転倒や車輪の浮き等を生じさせることなく、目標ZMPを中心として車体をロール方向に制御可能でない状態である。
上記式(1)において、yCOGは、y軸方向における車両Cの重心Gcの位置(y方向重心位置)であり、zCOGは、z軸方向における車両Cの重心Gcの位置(z方向重心位置)である。また、Ayは、y軸方向における車両Cの重心Gcの加速度(y方向重心加速度)であり、Azは、z軸方向における車両Cの重心Gcの加速度(z方向重心加速度)である。さらに、Ixはx軸周りの慣性モーメントを示しており、Aφはx軸周りの姿勢角(ロール姿勢角)φの角加速度を示している。
また、車両Cの安定基準領域とは、上述したように車両Cの安定性の判定の基準となる領域であり、車両Cの複数の車輪Ca,Cbによって規定される領域である。より具体的には、車両Cの安定基準領域は、ここでは、図1の(b)に示されるように、車両Cの2つの前輪Caと1つの後輪Cbとによって規定される領域T(例えば、2つの前輪Ca及び1つの後輪Cbを頂点とする3角形状の領域)である。車両Cの安定基準領域Tの幅Wは、車両Cの前後方向(x軸方向)における中心線CLに対して非対称である。つまり、車両Cは、車両Cの前後方向に沿って安定基準領域Tの幅Wが変化する車両である。ここでは、車両Cの安定基準領域Tの幅Wは、車両Cの前方から後方に向かって減少している。
なお、4輪以上の車両においても、安定性の判定の基準として、4つ以上の複数の車輪によって安定基準領域Tを規定し得る(例えば、それぞれの車輪を頂点とする多角形状の領域として安定基準領域Tを規定し得る)。また、2輪の車両においても、2つの車輪によって安定基準領域Tを規定し得る(例えば、それぞれの車輪を始点及び終点とする直線状の領域として安定基準領域Tを規定し得る)。したがって、車両の前後方向に沿って安定基準領域Tの幅Wが変化しない場合もある。その場合には、安定基準領域Tの幅Wは、車幅方向において互いに対向する一対の車輪同士の間隔であり、所謂トレッド幅である。なお、安定基準領域Tは、上述したような複数の車輪によって規定される領域を鉛直方向に直交する平面(水平面)に投影して得られる領域とし得る。したがって、安定基準領域Tは、接地面の傾斜等に応じて変形する場合がある。
図2の(a)に示されるように、車両Cが旋回中であり、車両Cのロール姿勢角φの角加速度Aφが0であるとき(静的な状態であるとき)、目標ZMPは、重力加速度により重心Gcに生じる自重F1とy方向重心加速度Ayにより重心Gcに生じる遠心力F2との合力F3と、接地面Scとの交点(力の釣り合いの位置)P1と一致する。したがって、この場合には、力の釣り合いの位置P1が安定基準領域T(特に後述する安定領域SA)内に収まっていれば、車両Cは安定状態である。
一方、図2の(b)に示されるように、車両Cが旋回中であり、車両Cのロール姿勢角φの角加速度Aφが0でないときには(動的な状態であるときには)、上記式(1)により与えられる目標ZMPは、力の釣り合いの位置P1からずれる場合がある。その場合には、力の釣り合いの位置P1からずれた目標ZMPが、車両Cの安定基準領域T(特に後述する安定領域SA)内に収まれっていれば、車両Cは安定状態である。なお、動的な状態は、例えば、静的な状態に移行するまでの過渡状態である。
ここで、車両Cの安定基準領域Tは、上述したように、車両Cの前後方向に沿って幅Wが変化する(より具体的には、幅Wが車両Cの前方から後方に向かって減少する)ものである。このため、車両Cが安定状態であるためには、目標ZMPを、車両Cの前後方向の任意の位置における安定基準領域Tの幅Wに収めるのではなく、車両Cの前後方向の特定の位置における安定基準領域Tの幅Wに収める必要がある。ここでは、その特定の位置における安定基準領域Tの幅Wを安定領域SAと称する。つまり、安定領域SAは、前後方向に沿って安定基準領域Tの幅Wが変化する車両Cを安定状態とするために目標ZMPを収めるべき特定の領域である。
一例として、図3に示されるように、例えば車両Cが加減速していない状態においては、車両Cの安定領域SAは、重力加速度により重心Gcに生じる自重F1と接地面Scとの交点P2における安定基準領域Tの幅Wである(より具体的には、車両Cの前後方向における交点P2に相当する位置での幅Wである)。これに対して、例えば車両Cが加速している状態においては、安定領域SAは、重心Gcに生じる慣性力F4と自重F1との合力F5と、接地面Scとの交点P3における安定基準領域Tの幅Wとなる(より具体的には、車両Cの前後方向における交点P3に相当する位置での幅Wとなる)。
このように、車両Cにおいては、車両Cの加速に伴って慣性力F4が生じる結果、安定領域SAが減少する(換言すれば、車両Cの減速に伴って安定領域SAが増大する)。なお、前方から後方に向かって安定基準領域Tの幅Wが増大するような車両の場合には、その減速時において安定領域SAが減少する(換言すれば、加速時において安定領域SAが増大する)。
引き続いて、旋回中の車両Cの安定性について説明する。まず、図4の(a)は、車両Cのロール姿勢角φが、重心Gcに生じる重力による自重F1と、重心Gcに生じるy方向重心加速度(横方向加速度)Ayによる遠心力F2との釣り合いの角度(自重F1と遠心力F2との合力F3の接地面Scの法線に対する角度)と一致している状態を示している。
そのような状態において、図4の(b)に示されるように、車両Cが減速されると、重心Gcに生じるy方向重心加速度Ayが減少する結果、遠心力F2が減少する。このため、自重F1と遠心力F2との釣り合いの角度θが小さくなり、車両Cのロール姿勢角φと異なる状況が生じる。そのような状況にあっては、y方向重心加速度Ayの減少に伴って目標ZMPが安定領域SA内から外れ、不安定状態が生じるおそれがある。
また、車両Cのロール姿勢角φを釣り合いの角度θに変更するために過大なロール姿勢角制御トルク(ロール姿勢角φを制御するためのトルク)が発生する結果、ロール姿勢角φの角加速度Aφが大きくなり、同様に目標ZMPが安定領域SA内から外れ、不安定状態が生じるおそれがある。
したがって、制御部17は、y方向重心加速度Ayの減少量に基づいて、目標ZMP及び安定領域SAを算出し、目標ZMPが安定領域SA内に収まるように、車両Cを制御することによって、車両Cが不安定状態となることを抑制する。制御部17の制御の一例としては、例えば、車両Cのロール姿勢角の制御のためのロール姿勢角制御トルクを制限したり、車両Cの減速を制限したり、車両Cの旋回半径を制限したりする制御等が挙げられる。制御部17の制御の詳細については後述する。
引き続いて、移動体制御装置1の動作について説明する。図5は、図1に示された移動体制御装置の動作の主要な工程を示すフローチャートである。図5に示される移動体制御装置の動作は、車両Cの旋回中における動作である。図5に示されるように、移動体制御装置においては、まず、車両挙動予測部13が、ドライバ操作を入力する(ステップS101)。より具体的には、車両挙動予測部13は、車両Cのドライバによる車両Cの操作をドライバ操作検出部12から入力する。ここでは、例えば、ドライバによる車両Cのブレーキ操作、及びステアリング操作等が入力される。
続いて、車両挙動予測部13が、入力したドライバ操作に基づいて、車両Cに生じ得るy方向重心加速度Ayの減少量を算出(予測)する(ステップS102)。この場合、ドライバのブレーキ操作に伴う車両Cの減速や、ドライバのステアリング操作に伴う旋回半径の拡大等に基づいて、y方向重心加速度Ayの減少量を算出することができる。なお、車両挙動予測部13は、ドライバ操作に基づいて、車両Cに生じ得るx方向重心加速度Ax、y方向重心加速度Ay、z方向重心加速度Az、及びロール姿勢角φの角加速度Aφ等の状態量をさらに取得する(すなわち、上記式(1)における各値を取得する)。
なお、移動体制御装置1がドライバ操作予測部15を備えている場合には、車両挙動予測部13は、例えば、ドライバ操作予測部15によって予測されたドライバ操作に基づいて、y方向重心加速度Ayの減少量の算出や各種状態量の取得を行ってもよい。車両挙動予測部13は、算出したy方向重心加速度Ayの減少量、及び取得した各種状態量を制御部17に出力する。
続いて、制御部17が、ステップS102において算出されたy方向重心加速度Ayの減少量及び各種状態量に基づいて、上記式(1)により車両Cの目標ZMPを算出すると共に、安定領域SAを算出する(ステップS103)。安定領域SAは、車両Cのx方向重心加速度Axによって車両Cの重心Gcに生じ得る慣性力F4を考慮することにより、安定基準領域Tに基づいて算出することができる。なお、このステップS103において算出された目標ZMP及び安定領域SAについて、それぞれ、以下では「第1目標ZMP」及び「第1安定領域SA」と称する。なお、第1目標ZMPは、減少量を差し引いたy方向重心加速度Ayを用いて算出される。
続いて、制御部17が、車両Cが安定状態であるか否かを判定する(ステップS104)。ここでは、制御部17は、第1目標ZMPが第1安定領域SA内に収まっているか否かを判定することにより、車両Cが安定状態であるか否かを判定することができる。すなわち、第1目標ZMPが第1安定領域SA内に収まっていれば、車両Cは第1目標ZMPにおいて安定状態であり、第1目標ZMPが第1安定領域SAから外れていれば、車両Cは第1目標ZMPにおいて不安定状態である。
ステップS104の判定の結果、第1目標ZMPが第1安定領域SA内に収まり、車両Cが第1目標ZMPにおいて安定状態である場合、制御部17が、ロール姿勢角制御トルクを算出する(ステップS105)。ここでは、車両Cの旋回中の減速に伴ってy方向重心加速度Ayが減少する結果、自重F1と遠心力F2との釣り合いの角度θが車両Cのロール姿勢角φと異なっている(ロール姿勢角φよりも小さくなっている)。したがって、制御部17は、ここでは、特に、車両Cのロール姿勢角φをy方向重心加速度Ayの減少量に応じた釣り合いの角度θに変更するためのロール姿勢角制御トルクを算出する。
ロール姿勢角制御トルクが算出されると、そのロール姿勢角制御トルクを車両Cに与えたときに車両Cに生じ得るロール姿勢角φの角加速度Aφが算出され得る。ここで算出される角加速度Aφは、ステップS102において車両挙動予測部13が取得したものと異なる場合がある。したがって、続く工程では、制御部17が、算出されたロール姿勢角制御トルクにより車両Cに生じ得る角加速度Aφと、減少量を考慮したy方向重心加速度Ayと、ステップS102において取得された各種状態量とに基づいて、上記式(1)により改めて目標ZMPを算出する(ステップS106)。なお、このステップS106において算出された目標ZMPについて、以下では「第2目標ZMP」と称する。
続いて、制御部17が、車両Cが安定状態であるか否かを判定する(ステップS107)。ここでは、制御部17は、第2目標ZMPが第1安定領域SA内に収まっているか否かを判定することにより、車両Cが安定状態であるか否かを判定する。なお、上記のステップS106において算出される第2目標ZMPは、ステップS103において算出される第1目標ZMPと異なる場合がある。したがって、第1目標ZMPが第1安定領域SA内に収まっている場合であっても、このステップS107においては、第2目標ZMPが第1安定領域SAから外れる場合もある。
ステップS107の判定の結果、第2目標ZMPが第1安定領域SA内に収まらず、車両Cが第2目標ZMPにおいて安定状態でない場合(不安定状態である場合)、制御部17が、車両Cが静的に安定状態であるか否かを判定する(ステップS108)。車両Cが静的に安定状態であるとは、上述したように、ロール姿勢角φの角加速度Aφが0である場合に安定状態であることを意味している。したがって、ここでは、制御部17は、第2目標ZMPにおいて角加速度Aφを0とした「第3目標ZMP」が第1安定領域SA内に収まっているか否かを判定する。
ステップS108の判定の結果、第3目標ZMPが第1安定領域SA内に収まり、車両Cが静的に安定状態である場合に、制御部17が、ステップS105において算出したロール姿勢角制御トルクを制限する(ステップS109)。このロール姿勢角制御トルクの制限により、車両Cに生じ得るロール姿勢角φの角加速度Aφが制限されることになる。したがって、この制限された角加速度Aφを含む目標ZMPは、ステップS106において算出された第2目標ZMPと異なる場合がある。
したがって、続く工程においては、制御部17が、ステップS109において制限されたロール姿勢角制御トルクに応じたロール姿勢角φの角加速度Aφ(制限された角加速度Aφ)に基づいて、上記式(1)によって、改めて目標ZMP及び安定領域SAを算出する(ステップS110)。なお、このステップS110において算出された目標ZMP及び安定領域SAについて、それぞれ、以下では「第4目標ZMP」及び「第2安定領域SA」と称する。
続いて、制御部17が、車両Cが安定状態であるか否かを判定する(ステップS111)。ここでは、制御部17は、第4目標ZMPが第2安定領域SA内に収まっているか否かを判定することにより、車両Cが安定状態であるか否かを判定する。なお、第4目標ZMPは、上記のように制限された角加速度Aφに基づいたものであるため、ステップS107において安定状態の判定に用いられた第2目標ZMPに比べて、y方向重心位置yCOGからのずれが小さいと考えらえる。したがって、第2目標ZMPが第1安定領域SA内に収まっていない場合であっても、第4目標ZMPが第2安定領域SA内に収まる場合がある。
ステップS111の判定の結果、第4目標ZMPが第2安定領域SA内に収まらず、車両Cが第4目標ZMPにおいて安定状態でない場合(不安定状態である場合)、制御部17は、ステップS111において車両Cが安定状態であると判定されるまで、ステップS109〜ステップS111の処理を繰り返す。この繰り返しにより、ロール姿勢角制御トルクが段階的に順次制限され、それに伴ってロール姿勢角φの角加速度Aφも段階的に順次制限されていく。つまり、ステップS109〜ステップS111を繰り返すことにより、ステップS110において順次算出される第4目標ZMPがy方向重心位置yCOGからのずれが小さいものになっていく。
そして、ステップS111において、第4目標ZMPが第2安定領域SA内に収まり、車両Cが安定状態である場合に、制御部17は、そのときのロール姿勢角制御トルク(第2安定領域SA内に収まる第4目標ZMPを与える角加速度Aφを生じさせるロール姿勢角制御トルク)を、ロール姿勢角φの制御のためのアクチュエータ(例えばリーンアクチュエータ)に出力し(ステップS112)、動作を終了する。また、ステップS107の判定の結果、第2目標ZMPが第1安定領域SA内に収まり、車両Cが第2目標ZMPにおいて安定状態である場合(すなわち、ロール姿勢角制御トルクの制限が不要である場合)にも、制御部17は、そのロール姿勢角制御トルクをロール姿勢角φの制御のためのアクチュエータに出力して(ステップS130)動作を終了する。
一方、ステップS108の判定の結果、第2目標ZMPにおいて角加速度Aφを0とした第3目標ZMPが第1安定領域SA内に収まらず、車両Cが静的に安定状態でない場合、移動体制御装置1の動作はステップS120に移行する。ステップS120においては、制御部17が、車両Cが安定状態となるように、車両Cの運動を制限する(ステップS120)。ここでは、制御部17は、特に、車両Cの減速度及び/又は旋回半径を制限する。
車両Cの減速度を制限すれば、y方向重心加速度Ay(ひいては遠心力F2)の減少量を低減させることができる。また、車両Cの旋回半径を制限する(小さくする)ことによっても、y方向重心加速度Ay(ひいては遠心力F2)の減少量を低減させることができる。このように制御部17が車両Cの運動を制限すると、目標ZMP及び安定領域SAが変化すると考えられる。したがって、続く工程においては、制御部17は、車両Cの運動の制御によって減少量が低減されたy方向重心加速度Ayに基づいて、上記式(1)によって、改めて目標ZMP及び安定領域SAを算出する。なお、このステップS120において算出された目標ZMP及び安定領域SAについて、それぞれ、以下では「第5目標ZMP」及び「第3安定領域SA」と称する。
続いて、制御部17が、車両Cが安定状態であるか否かを判定する(ステップS122)。ここでは、制御部17は、第5目標ZMPが第3安定領域SA内に収まっているか否かを判定することにより、車両Cが安定状態であるか否かを判定することができる。
ステップS122の判定の結果、第5目標ZMPが第3安定領域SA内に収まらず、車両Cが第5目標ZMPにおいて安定状態でない場合(不安定状態である場合)、制御部17は、ステップS122において車両Cが安定状態であると判定されるまで、ステップS120〜ステップS122の処理を繰り返す。この繰り返しにより、車両Cの減速度及び/又は旋回半径が段階的に順次制限され、それに伴って、y方向重心加速度Ayの減少量が順次低減される。
そして、ステップS122において、第5目標ZMPが第3安定領域SA内に収まり、車両Cが安定状態であると判定された場合に、制御部17は、そのときの車両Cの減速度及び/又は旋回半径を実現するための各種アクチュエータの出力値を出力し(ステップS123)、動作を終了する。
他方、ステップS104の判定の結果、そもそも、第1目標ZMPが第1安定領域SA内に収まらず、車両Cが第1目標ZMPにおいて安定状態でない場合(不安定状態である場合)には、移動体制御装置1の動作は、ステップS108に移行する。そして、ステップS108において、制御部17が、第1目標ZMPにおいて角加速度Aφを0とした「第6目標ZMP」が第1安定領域SA内に収まっているか否かを判定する。
ステップS108の判定の結果、第6目標ZMPが第1安定領域内に収まり、車両Cが安定状態である場合、制御部17が、上述したように、車両Cのロール姿勢角φを制御するためのロール姿勢角制御トルクを制限する(ステップS109)。なお、ここでは、特に上述したステップS105のようなロール姿勢角制御トルクを算出していないものの、少なくとも車両Cが減速される以前において、車両Cの旋回を維持するようにロール姿勢角制御トルクが発生しており、制限の対象は存在すると考えられる。
続いて、上述したように、制御部17が、ステップS109において制限されたロール姿勢角制御トルクに応じたロール姿勢角φの角加速度Aφ(制限された角加速度Aφ)に基づいて上記式(1)によって第4目標ZMPを算出すると共に、第2安定領域SAを算出する。続いて、上述したように、制御部17が、車両Cが安定状態であるか否かを判定する(ステップS111)。ステップS111の判定の結果、車両Cが第4目標ZMPにおいて安定状態でない場合、制御部17は、ステップS111において車両Cが安定状態であると判定されるまで、ステップS109〜ステップS111の処理を繰り返す。そして、制御部17は、その繰り返しにより得られる制限されたロール姿勢角制御トルクをアクチュエータに出力し、(ステップS112)、動作を終了する。
さらに、ステップS104の判定の結果、車両Cが第1目標ZMPにおいて安定状態でなく、且つ、ステップS108の判定の結果、車両Cが静的に安定状態でない場合には、移動体制御装置1の動作は、ステップS120に移行し、それ以降の処理を上述したように実施する。
以上説明したように、移動体制御装置1においては、車両挙動予測部13が、車両Cのドライバの操作に基づいて、車両Cにおけるy方向重心加速度Ay(車両Cの進行方向に交差する方向について車両Cに生じる横方向加速度)の減少量を算出する(例えばステップS102)。その一方で、制御部17が、車両Cのロール姿勢角φを、y方向重心加速度Ayの減少量に応じた釣り合いの角度θに変更するためのロール姿勢角制御トルクを算出する(例えばステップS105)。また、制御部17が、そのロール姿勢角制御トルクにより車両Cに生じるロール姿勢角φの角加速度Aφに基づいて、車両Cの目標ZMPを算出する(例えばステップS106)。そして、制御部17が、目標ZMPが車両Cの安定領域内に収まらない場合に、そのロール姿勢角制御トルクを制限する(例えばステップS109)。
このため、この移動体制御装置1においては、車両Cのロール姿勢角φを、制限された後のロール姿勢角制御トルクによって制御することが可能となるので、ロール姿勢角φの角加速度Aφが不用意に大きくなることが抑制される。したがって、例えば、車両Cのロール姿勢角φを当該釣り合いの角度θに変更する際に、その制限されたロール姿勢角制御トルクを用いれば、目標ZMPが安定領域内SAに収まらない不安定状態が車両Cに生じることを抑制可能となる。
また、移動体制御装置1においては、制御部17が、目標ZMPが安定領域内に収まらない場合であって(例えばステップS107:NO)、ロール姿勢角φの角加速度Aφを0としたときの目標ZMPが安定領域SA内に収まる場合に(例えばステップS108:YES)、ロール姿勢角制御トルクを制限する。このため、ロール姿勢角制御トルクを、例えば車両Cのロール姿勢角φを一定の角速度で変化させ得る程度の範囲に制限し、不安定状態が生じることを抑制可能である。
さらに、移動体制御装置1においては、制御部17が、目標ZMPが安定領域SA内に収まらない場合であって(例えばステップS107:NO)、ロール姿勢角φの角加速度Aφを0としたときの目標ZMPが安定領域SA内に収まらない場合に(例えばステップS108:NO)、車両Cの減速度及び/又は旋回半径を制限する。このように、車両Cの減速度や旋回半径を制限することにより、車両Cにおけるy方向重心加速度Ayの減少量を低減させることが有効である。y方向重心加速度Ayの減少量を低減させれば、車両Cに生じる遠心力F2の低減を抑制することができる。つまり、車両Cにおける釣り合いの角度θの変化が抑制されるので、車両Cのロール姿勢角φを当該釣り合いの角度θに変更する際に不安定状態が生じることを抑制可能である。
以上の実施形態は、本発明に係る移動体制御装置の一実施形態を説明したものである。したがって、本発明に係る移動体制御装置は、上述した移動体制御装置1に限定されない。本発明に係る移動体制御装置は、各請求項の要旨を変更しない範囲において、上述した移動体制御装置1を任意に変形し、又は他のものに適用したものとすることができる。
例えば、上記実施形態においては、移動体制御装置1は、前後方向に沿って安定基準領域Tの幅Wが変化する車両Cに搭載され、その車両Cを制御するためのものとしたが、本発明に係る移動体制御装置はこれに限定されない。本発明に係る移動体制御装置は、例えば、前後方向に沿って安定基準領域Tの幅Wが変化しない一般の4輪車両や、車両以外の任意の移動体に適用することができる。
また、移動体制御装置1の動作は、図5に示される態様に限定されない。例えば、移動体制御装置1の動作は、ステップS109においてロール姿勢角制御トルクの制限を実施した後に、ステップS111において車両Cが安定状態でないと判定された場合に、上述したようにロール姿勢角制御トルクの制限を繰り返すことなく、ステップS120に移行し、車両Cの減速度及び/又は旋回半径の制限を実施してもよい。
つまり、移動体制御装置1においては、制御部17は、ロール姿勢角制御トルクの制限と、車両Cの減速度及び/又は旋回半径の制限とを適宜組み合わせ、目標ZMPが安定領域SA内に収まるように車両Cを制御すればよい。換言すれば、制御部17は、ロール姿勢角制御トルクの制限量の割合と、車両Cの減速度及び/又は旋回半径の制限量の割合とに重み付けを行うことにより、それぞれの制限量のバランスを考慮してもよい。