JP6135161B2 - 新規抗ヒトngf抗体 - Google Patents

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Description

本発明は、新規な抗ヒトNGF抗体、より具体的には、抗ヒトNGF抗体のFab’フラグメントに関する。
神経成長因子(nerve growth factor;NGF)は、神経栄養因子(neurotrophic factor)と総称される液性因子の一つであり、生体内においてニューロンの発生、分化、機能維持において重要な役割を担っている。NGFの受容体としては、高親和性のtrkA受容体(受容体型チロシンキナーゼ)と低親和性のp75NTR受容体が知られている。このうちp75NTRは全ての神経栄養因子と結合し、ニューロンの発生過程においてアポトーシスに関与していることが報告されているが、その役割は未だ十分に解明されていない。一方、NGFとtrkA受容体のノックアウトマウスは同様のフェノタイプを示すことが知られており(非特許文献1)、NGFの生理作用は主にtrkA受容体を介して発現すると考えられている。
1993年にラットへのNGFの投与により痛みが誘発されることが報告され(非特許文献2)、その後、ヒトへのNGFの静脈内投与により全身性の筋肉痛を生じること、また局所投与により全身的な効果に加え、注射部位の痛覚過敏及び異痛症を誘発することが報告されている(非特許文献3)。さらに、trkA受容体のノックアウトマウスで痛覚が欠如することが報告され(非特許文献4)、NGFは痛みの発現に強く関わる分子であると考えられている。ヒト疼痛病態との関連性については、変形性関節症(osteoarthritis;OA)の関節軟骨でNGF/trkAの発現が亢進していることや(非特許文献6)、リウマチ性関節炎(非特許文献7)や間質性膀胱炎(非特許文献8)の患者でNGFレベルの上昇が実証されている。
これらのことから、NGFに特異的に結合し、その作用を阻害する活性を有するモノクローナル抗体を開発することができれば、疼痛をはじめとする、NGFに関連する各種疾患の治療、予防、診断に有用であることが期待される。
現在までに臨床開発が進められているヒトNGFに対する抗体としては、ヒト化抗ヒトNGF抗体であるTanezumab(特許文献1)及びPG110(特許文献2)、完全ヒト型抗ヒトNGF抗体であるREGN475(特許文献3)、Fulranumab(特許文献4)、及びMEDI−578(特許文献5)が報告されている。その中でもTanezumabは最も開発が先行しており、その臨床結果から、変形性関節症に伴う関節痛、慢性腰痛、間質性膀胱炎に伴う膀胱痛などの疼痛に対して、強力で幅広い鎮痛効果を示すことが報告されている(非特許文献9〜11)。
一般に、抗体医薬の有効投与量を規定する主な要因としては、抗体が有する抗原に対する中和活性や、体内に存在する抗原の量が挙げられるが、中和活性を向上させることは投与量の低減に繋がり、結果として患者の経済的な負担や医療コストの低減にも繋がる極めて有益な改良であると言える。また、投与量の低減が実現できれば、皮下投与を行うことも可能となる。皮下投与は、一定の条件を満たせば在宅で自己注射できる最大のメリットを有し、また、一般に静脈内投与では多くの場合、一定時間をかけて点滴投与されるのに対して、皮下投与ではボーラスで投与できる点も有用であり、医師と患者双方にとって静脈内投与製剤と皮下投与製剤を選択できることは望ましいことである。しかし、一般に、皮下投与では1回に投与できる容量が1mL程度と少量であり、この液量中に薬効を発現するのに十分な抗体が含まれる必要がある。また、静脈内投与とは異なり、バイオアベイラビリティも考慮しなければならない。すなわち、皮下投与の製剤を実現するためには、溶解性に優れ、かつ低用量でも十分な薬効を発現する抗体を作製することが求められる。従って、従来の抗体よりもNGFに対する中和活性がより高い抗体を取得することは、NGFに関連する疾患の治療及びその利便性向上に有用である。
また、前述のように、NGFはニューロンの発達に重要な因子であるが、NGFの機能を阻害する医薬品の開発においては安全性の観点からも十分な検討が必要となる。特に、安全性に関して検討すべき事項の1つとして、胎児への影響が挙げられる。現在までに、NGFの機能阻害に関して、NGF変異が先天性無痛症の原因であることや(非特許文献5)、動物実験において、妊娠モルモットにNGFに対する自己抗体を産生させて生体内のNGFを阻害すると、出産した新生仔モルモットが無痛症状を呈すること(非特許文献12)が報告されている。また、NGFやtrkAの欠損マウスを用いた試験からも、NGF作用の欠失により、胚の感覚神経及び交感神経のニューロンの発達が阻害されることが実証されており(非特許文献4及び13)、これらのことからも、NGFが発生初期の神経発達に必須の因子であることが理解される。一方、NGFが関連する疾患には、間質性膀胱炎(患者の半数以上が44歳以下であり、患者の90%が女性(非特許文献14))、慢性腰痛(平均年齢は40〜50歳であり、患者の50%強が女性(非特許文献15〜17))、偏頭痛(15〜40歳で好発し、患者の80%が女性(非特許文献18))など、妊娠適齢期の女性に高い割合で発生する疾患も含まれる。このような状況から、抗NGF抗体を医薬品として開発する場合に、妊娠中の女性における胎児への副作用リスクを回避することが極めて重要となる。
また、抗NGF抗体を医薬品として開発する場合の別のリスク要因として、免疫複合体(IC)の形成が挙げられる。抗体と抗原が結合した免疫複合体は、通常、脾臓や肝臓などの網内系で処理されるが、免疫異常等の病態時や、形成されるICサイズが大きい場合には、ICが可溶性を失い、血栓形成のリスクが高まるほか、腎糸球体に蓄積し、腎炎の発症に関連すると言われている。IgGは2価抗体であるが、抗原が多価である場合、ICは格子形成(lattice formation)により様々なサイズを取り得る。ICのサイズは、抗体と抗原の量や比、抗体の親和性等に依存し、例えば、抗VEGF抗体Bevacizumab(商品名:アバスチン)は、IgG1抗体であり、これは、二量体のVEGFと結合してICを形成し、血栓形成を誘発するとの報告がある。具体的には、ヒトFcγRIIα受容体TgマウスにアバスチンとVEGFを投与すると肺動脈血栓が形成されることが観察されている(非特許文献19)。さらに、化学療法とアバスチンの治療を受けた転移性癌の患者は、化学療法のみのプラセボ群と比べて動脈血栓の発生率が高いことが報告されている(非特許文献20)。NGFも生体内では二量体を形成して生理作用を発揮することから、抗NGF抗体の医薬品開発においても、IC形成のリスクを回避し、安全性をより高めることが望ましい。
さらに、Tanezumabの臨床試験フェーズ3において急速進行性変形性関節症(Rapidly Progressive osteoarthritis;RPOA)等の関節関連の有害事象が認められ、Fulranumabの臨床試験フェーズ2においても同様の事象が認められた(非特許文献21及び22)。これに関して、米国での抗NGF抗体の臨床開発はFood and Drug Administration(FDA)の勧告に従い中断となっていた。従って、抗NGF抗体を医薬品として開発する場合に、RPOA等の関節関連の有害事象リスクを低減することも安全性の観点から望ましい。
これらのことから、高い中和活性を保持しつつ、胎児への影響や血栓形成、RPOA等の関節関連の有害事象などの副作用リスクを低減した、安全性に優れた抗NGF抗体を取得することが、NGFに関連する各種疾患の治療又は予防において極めて重要である。
WO2004/058184 WO2005/061540 WO2009/023540 WO2005/019266 WO2006/077441
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本発明の課題は、高い中和活性を保持しつつ、胎児への影響や血栓形成、RPOA等の関節関連の有害事象などの副作用リスクを低減した、安全性に優れた抗ヒトNGF抗体又はその抗原結合フラグメントを提供することにある。
本発明は、医学上又は産業上有用な物質・方法として以下の発明を含むものである。
[1]配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント。
[2]前記Fab’フラグメントの重鎖定常領域がヒトIgγ1定常領域である、[1]のFab’フラグメント。
[3]前記Fab’フラグメントの軽鎖定常領域がヒトIgκ定常領域である、[1]のFab’フラグメント。
[4]前記Fab’フラグメントの重鎖定常領域がヒトIgγ1定常領域であり、前記Fab’フラグメントの軽鎖定常領域がヒトIgκ定常領域である、[1]のFab’フラグメント。
[5]配列番号10、配列番号14、又は配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント、及び配列番号12に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、[1]のFab’フラグメント。
[6]ポリエチレングリコールを結合させた、[1]〜[5]のいずれかのFab’フラグメント。
[7][1]〜[6]のいずれかのFab’フラグメントの重鎖フラグメントをコードする配列を含む、ポリヌクレオチド。
[8][1]〜[6]のいずれかのFab’フラグメントの軽鎖をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド。
[9][7]及び/又は[8]のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
[10][9]の発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
[11]以下の(a)及び(b)からなる群より選択される、[10]の宿主細胞。
(a)[1]〜[6]のいずれかのFab’フラグメントの重鎖フラグメントをコードする配列を含むポリヌクレオチドと該Fab’フラグメントの軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;及び
(b)[1]〜[6]のいずれかのFab’フラグメントの重鎖フラグメントをコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと該Fab’フラグメントの軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターとで形質転換された宿主細胞。
[12][10]又は[11]の宿主細胞を培養し、抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを発現させる工程を包含する、[1]〜[6]のいずれかのFab’フラグメントを生産する方法。
[13][1]〜[6]のいずれかのFab’フラグメントを含む、疼痛治療薬。
[14]前記疼痛が変形性関節症に伴う関節痛である、[13]の治療薬。
[15][1]〜[6]のいずれかのFab’フラグメントを投与する工程を包含する、疼痛を予防又は処置するための方法。
[16]前記疼痛が変形性関節症に伴う関節痛である、[15]の方法。
[17]疼痛の予防又は処置に使用するための、[1]〜[6]のいずれかのFab’フラグメント。
[18]前記疼痛が変形性関節症に伴う関節痛である、[17]のFab’フラグメント。
本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、ヒトNGFが病態形成に関与する各種疾患の予防又は治療に有用である。このような本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、その高い中和活性により、投与量の低減、投与間隔の拡大、投与方法の改善(例えば、皮下注射剤)等の臨床適用における優れた改善をもたらすとともに、胎児への影響や血栓形成、RPOA等の関節関連の有害事象などの副作用リスクが低減された、安全性に非常に優れたものであり、ヒトNGFが病態形成に関与する各種疾患の予防や治療において大きく貢献するものである。
マウスコラーゲン誘発関節炎モデルの足底における抗体滞留量の経時的変化を示す。 ラットMIAモデルにおける抗体投与後の膝関節浮腫の形成を示す。 ラット破骨細胞により誘導される吸収窩形成に対する抗ヒトNGF抗体の影響を示す。
以下に、本発明について詳述する。
本発明者らは、抗ヒトNGF抗体又はその抗原結合フラグメントの作製において相当の創意検討を重ねた結果、高い中和活性を保持しつつ、胎児への影響や血栓形成、RPOA等の関節関連の有害事象などの副作用リスクを低減した、安全性に優れた抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを作製することに成功した。
抗体分子の基本構造は、各クラス共通で、分子量5万〜7万の重鎖と2〜3万の軽鎖から構成される。重鎖は、通常約440個のアミノ酸を含むポリペプチド鎖からなり、クラスごとに特徴的な構造をもち、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEに対応してγ、μ、α、δ、ε鎖とよばれる。さらにIgGには、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4が存在し、それぞれγ1、γ2、γ3、γ4とよばれている。軽鎖は、通常約220個のアミノ酸を含むポリペプチド鎖からなり、L型とK型の2種が知られており、それぞれλ、κ鎖とよばれる。抗体分子の基本構造のペプチド構成は、それぞれ相同な2本の重鎖及び2本の軽鎖が、ジスルフィド結合(S−S結合)及び非共有結合によって結合され、分子量15万〜19万である。2種の軽鎖は、どの重鎖とも対をなすことができる。個々の抗体分子は、常に同一の軽鎖2本と同一の重鎖2本からできている。
鎖内S−S結合は、重鎖に四つ(μ、ε鎖には五つ)、軽鎖には二つあって、アミノ酸100〜110残基ごとに一つのループを成し、この立体構造は各ループ間で類似していて、構造単位あるいはドメインとよばれる。重鎖、軽鎖ともにN末端に位置するドメインは、同種動物の同一クラス(サブクラス)からの標品であっても、そのアミノ酸配列が一定せず、可変領域とよばれており、各ドメインは、それぞれ、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)とよばれている。これよりC末端側のアミノ酸配列は、各クラスあるいはサブクラスごとにほぼ一定で定常領域とよばれており、各ドメインは、それぞれ、CH1、CH2、CH3あるいはCLと表される。
抗体の抗原決定部位はVH及びVLによって構成され、結合の特異性はこの部位のアミノ酸配列によっている。一方、補体や各種細胞との結合といった生物学的活性は各クラスIgの定常領域の構造の差を反映している。重鎖と軽鎖の可変領域の可変性は、どちらの鎖にも存在する3つの小さな超可変領域にほぼ限られることがわかっており、これらの領域を相補性決定領域(CDR;それぞれN末端側からCDR1、CDR2、CDR3)と呼んでいる。可変領域の残りの部分はフレームワーク領域(FR)とよばれ、比較的一定である。
抗体の重鎖定常領域のCH1ドメインとCH2ドメインとの間にある領域はヒンジ領域とよばれ、この領域は、プロリン残基を多く含み、2本の重鎖をつなぐ複数の鎖間S−S結合を含む。例えば、ヒトのIgG1、IgG2、IgG3、IgG4の各ヒンジ領域には、重鎖間のS−S結合を構成している、それぞれ、2個、4個、11個、2個のシステイン残基を含む。ヒンジ領域は、パパインやペプシン等のタンパク質分解酵素に対する感受性が高い領域である。抗体をパパインで消化した場合、ヒンジ領域の重鎖間S−S結合よりもN末端側の位置で重鎖が切断され、2個のFabフラグメントと1個のFcフラグメントに分解される。Fabフラグメントは、軽鎖と、重鎖可変領域(VH)、CH1ドメインとヒンジ領域の一部とを含む重鎖フラグメントから構成される。抗体をペプシンで消化した場合、ヒンジ領域の重鎖間S−S結合よりもC末端側の位置で重鎖が切断され、F(ab’)2フラグメントが生成される。F(ab’)2フラグメントは、2つのFab’フラグメントがヒンジ領域中の重鎖間S−S結合で結合した二量体構造のフラグメントである。Fab’フラグメントは、軽鎖と、重鎖可変領域(VH)、CH1ドメインとヒンジ領域の一部とを含む重鎖フラグメントから構成され、このヒンジ領域の部分には重鎖間S−S結合を構成していたシステイン残基が含まれる。Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fab’フラグメントは、いずれも可変領域を含み、抗原結合活性を有する。
本発明者らが作製に成功した本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、以下の特徴を有するFab’フラグメントである。
配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント。
具体的には、本発明者らは、ヒトモノクローナル抗体開発技術「ベロシミューン」(VelocImmune antibody technology;Regeneron社(米国特許6596541号))マウスを用いて抗体を作製し、各種生物学的活性試験及び物性試験を用いた抗体のスクリーニングによって、本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを同定することに成功した。ベロシミューン技術では、内因性の免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の可変領域が対応するヒト可変領域で置換されたトランスジェニックマウスを目的の抗原(例えば、ヒトβNGF)で免疫した後、抗体を発現するマウスのリンパ系細胞を取得し、マウスミエローマ細胞と細胞融合することによってハイブリドーマを作製する。次いで、このハイブリドーマ細胞を、目的の抗原に特異的に結合し、所望の中和活性を有する抗体を産生するか否かについてスクリーニングする。ここで産生される抗体は、ヒト抗体の可変領域とマウス抗体の定常領域を有する抗体(本明細書中、キメラ抗体とも称する)である。次いで、目的の抗原に特異的に結合し、所望の中和活性を有する抗体が同定された場合、そのハイブリドーマ細胞から抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域をコードするDNAを単離し、そのDNAを所望のクラスのヒト抗体重鎖及び軽鎖の定常領域をコードするDNAに連結する。このようにして得られた重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子を細胞内(例えば、CHO細胞)で発現させて、抗体分子を産生する。当該方法により作製された抗体の重鎖及び軽鎖は、ヒト免疫グロブリン遺伝子に由来する「完全ヒト型」抗体の重鎖及び軽鎖である。
本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、本願明細書に開示される、その重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の配列情報に基づいて、当該分野で公知の方法を使用して、当業者によって容易に作製され得る。好ましくは、本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、その重鎖可変領域及び軽鎖可変領域をヒト抗体の重鎖定常領域の一部分(CH1ドメインと、ヒンジ領域システインを含むヒンジ領域の一部とを含む)及び軽鎖定常領域にそれぞれ連結して、完全ヒト型抗体Fab’フラグメントとして作製することができる。具体的には、本発明のFab’フラグメントの重鎖可変領域アミノ酸配列(配列番号6)をコードする塩基配列を有する重鎖可変領域遺伝子断片、及び本発明のFab’フラグメントの軽鎖可変領域アミノ酸配列(配列番号4)をコードする塩基配列を有する軽鎖可変領域遺伝子断片を作製する。そして、この重鎖及び軽鎖の可変領域遺伝子をヒト抗体の適当なクラスの重鎖定常領域部分及び軽鎖定常領域の各遺伝子と連結させて、完全ヒト型抗体Fab’フラグメントの遺伝子を作製する。次いで、この遺伝子を適当な発現ベクターに連結し、培養細胞中に導入する。最後にこの培養細胞を培養して培養上清からモノクローナルFab’フラグメントを得ることができる。
本発明のFab’フラグメントの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列をコードする遺伝子断片は、例えば、該重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列に基づいてデザインされた塩基配列に基づき、当該分野で公知の遺伝子合成方法を利用して合成することが可能である。このような遺伝子合成方法としては、WO90/07861に記載の抗体遺伝子の合成方法等の当業者に公知の種々の方法が使用され得る。
次いで、上記の可変領域遺伝子断片とヒト抗体の定常領域遺伝子とを連結させて完全ヒト型抗体Fab’フラグメント遺伝子を作製する。ヒト抗体の定常領域は、どのようなサブクラスの定常領域(例えば、重鎖としてγ1、γ2、γ3又はγ4、軽鎖としてλ又はκ鎖の定常領域)も選択可能であり得るが、好ましくは重鎖定常領域としてはヒトIgγ1が、軽鎖定常領域としてはヒトIgκを用いることができる。
この完全ヒト型抗体Fab’フラグメント遺伝子の作製につづく、当該遺伝子の発現ベクターへの導入、発現ベクターの培養細胞への導入、培養細胞の培養、Fab’フラグメントの精製等については、当該分野で公知の種々の方法を使用して行うことができる。
上記のようにして得られた遺伝子と連結される発現ベクターとしては、例えば、GSベクターpEE6.4やpEE12.4(Lonza Biologics社)が挙げられるが、抗体遺伝子を発現することができるものであれば特に制限されない。また、AG−γ1やAG−κ(例えば、WO94/20632を参照)等の予めヒトIg定常領域遺伝子を有する発現ベクターに可変領域遺伝子断片を導入して抗体遺伝子を発現することもできる。
上記の発現ベクターは、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法等により、培養細胞中に導入される。
発現ベクターを導入する培養細胞としては、例えば、CHO−K1SV細胞、CHO−DG44細胞、293細胞等の培養細胞が使用でき、これを常法により培養すればよい。
上記培養後、培養上清中に蓄積されたFab’フラグメントは、各種カラムクロマトグラフィーにより精製することができ、例えば、KappaSelect等によるカラムクロマトグラフィーを使用することができる。
本発明のFab’フラグメントは、前述のような組換え発現法を用いて作製することもできるが、一旦全長抗体として作製した後にペプシンで消化して、得られたF(ab’)2フラグメントを2−メルカプトエタノールのような還元剤で処理して、Fab’フラグメントとして作製してもよい。
好ましくは、本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、当該分野で公知の方法を用いて、配列番号6に示される重鎖可変領域アミノ酸配列をコードする塩基配列を含むDNA、及び配列番号4に示される軽鎖可変領域アミノ酸配列をコードする塩基配列を含むDNAを合成し、これらを適当なクラスのヒト抗体定常領域遺伝子、好ましくは重鎖についてはヒトIgγ1定常領域遺伝子、軽鎖についてはヒトIgκ定常領域遺伝子と連結して完全ヒト型抗体Fab’フラグメント遺伝子を構築し、当該分野で公知の種々の方法を用いて、該遺伝子を発現ベクターへ導入し、該発現ベクターを培養細胞に導入して該培養細胞を培養し、得られる培養物からFab’フラグメントを精製することによって、容易に取得することができる。好ましくは、配列番号6に示される重鎖可変領域アミノ酸配列をコードする塩基配列を含むDNAは、配列番号5に示される塩基配列を含む。好ましくは、配列番号4に示される軽鎖可変領域アミノ酸配列をコードする塩基配列を含むDNAは、配列番号3に示される塩基配列を含む。
本明細書中、「Fab’フラグメント」とは、軽鎖と、重鎖可変領域(VH)、CH1ドメインとヒンジ領域の一部とを含む重鎖のフラグメントから構成される、1価の抗体のフラグメントであり、このヒンジ領域の部分には、重鎖−軽鎖間のS−S結合を構成しているシステイン残基以外の少なくとも1つのシステイン残基(本明細書中、「ヒンジ領域システイン」とも称する)が含まれる。ヒンジ領域システインは、後述のポリエチレングリコールでの修飾部位として使用することができる。Fab’フラグメント中のヒンジ領域システインの数は、使用する抗体のクラスによって1〜数個の間で異なり得るが、当業者によって容易に調整可能である。例えば、ヒトのIgG1クラス(通常、ヒンジ領域において、2個のヒンジ領域システインを有する)のFab’フラグメントを作製する場合、重鎖のヒンジ領域において、最初のヒンジ領域システインのコード部位と2番目のヒンジ領域システインのコード部位との間に停止コドンを挿入することによって、ヒンジ領域中に1個のヒンジ領域システインを有するFab’フラグメントを作製することができ、2番目のヒンジ領域システインのコード部位の後に停止コドンを挿入することによって、ヒンジ領域中に2個のヒンジ領域システインを有するFab’フラグメントを作製することができる。
配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域とヒトIgγ1定常領域の部分とを含む、本発明の好ましい抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの重鎖フラグメントは、配列番号10、配列番号14、又は配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントである。好ましくは、配列番号10、配列番号14、又は配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの重鎖フラグメントをコードする塩基配列を含むDNAは、配列番号9、配列番号13、又は配列番号15に示される塩基配列を含む。配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とヒトIgκ定常領域とを含む、本発明の好ましい抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの軽鎖は、配列番号12に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖である。好ましくは、配列番号12に示されるアミノ酸配列からなる抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの軽鎖をコードする塩基配列を含むDNAは、配列番号11に示される塩基配列を含む。
配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントと、配列番号12に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、本発明の好ましい抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントとしては、後記実施例に記載される完全ヒト型1−15(N52D)抗体Fab’フラグメントが挙げられる。配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントと、配列番号12に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、本発明の好ましい抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントとしては、後記実施例に記載される完全ヒト型1−15(N52D−A)抗体Fab’フラグメントが挙げられる。配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントと、配列番号12に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、本発明の好ましい抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントとしては、後記実施例に記載される完全ヒト型1−15(N52D−P)抗体Fab’フラグメントが挙げられる。
本発明は、配列番号6の31〜35番目のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号6の50〜65番目のアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号6の98〜110番目のアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域、及び配列番号4の24〜39番目のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号4の55〜61番目のアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号4の94〜102番目のアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む、抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントをも包含する。このようなFab’フラグメントもまた、前述のような手順に従って当業者に容易に作製され得る。
本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、そのヒンジ領域システインを介して、ポリエチレングリコール(PEG)を結合させて修飾してもよい。Fab’フラグメントへのPEGの結合は、当該分野で公知の方法を使用して実施可能である(例えば、欧州特許EP0948544)。本発明においては、直鎖又は分枝鎖の、任意の平均分子量のPEG又はその誘導体が使用可能であり、使用目的に応じて当業者により容易に選択され得る。例えば、腫瘍組織や炎症反応時においては、正常組織と比べて血管透過性が著しく亢進しており、到達した物質は血管外に漏出し、腫瘍や炎症組織に蓄積する傾向がある(EPR効果)。また、分子量が小さい物質は血管へ再吸収されやすく、分子量が大きい物質は再吸収されにくいことも知られている。従って、Fab’フラグメントの病巣組織での滞留性を改善するために、高い平均分子量(例えば、約40000Da)のPEGを結合してもよく、体外への速やかな排泄が望ましい場合には、低い平均分子量(例えば、約10000Da)のPEGを結合してもよい。また、ヒンジ領域システインへのPEGの結合を容易にするために、PEGの誘導体を使用してもよい。例えば、後述の実施例に記載のように、マレイミドのようなチオール反応基を結合させたPEG誘導体を使用し、ヒンジ領域システインのチオール基とマレイミド基を共有結合させることができる。一般的にPEGの平均分子量は、約500Da〜約50000Daであり、好ましくは、約5000Da〜約40000Daであり、より好ましくは、約10000Da〜約40000Daの範囲である。
本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、ヒトNGFに結合する。得られた抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒトNGFに対する結合活性を測定する方法としては、ELISAやFACS等の方法がある。例えば、ELISAを用いる場合、ヒトβNGFをELISAプレートに固定化し、これに対してFab’フラグメントを添加して反応させた後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)等の酵素で標識した抗kappa抗体等の二次抗体を反応させ、洗浄した後、その活性を検出する試薬(例えば、HRP標識の場合、TMB発色試薬)等を用いた活性測定により、二次抗体の結合を同定する。また、本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントには、ヒトNGFに加え、他の動物由来のNGF(例えば、マウスNGF)にも結合するFab’フラグメントも含まれ、これらのタンパク質に対する結合活性を測定してもよい。
本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、ヒトNGFに対する中和活性を有している。本明細書中で使用される場合、抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの「中和活性」とは、NGFへの結合によりNGFを介してもたらされる任意の生物活性を阻害する活性を意味し、NGFの1つ又は複数の生物活性を指標に評価することができる。このような中和活性としては、例えば、NGFとその受容体であるtrkAとの結合阻害活性、NGF−trkAシグナル媒介細胞内カルシウム流入阻害活性、NGF依存性の細胞生存シグナル阻害活性が挙げられ、後記実施例に記載されるような方法を用いることによって評価することができる。
本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの効果をより詳細に評価するために、in vivoでの試験を用いることもできる。例えば、後記実施例に記載のように、マウス関節炎モデルを用いる鎮痛効果試験等を用いて、Fab’フラグメントのin vivoでの薬効を評価することができ、また、病巣移行性試験を用いて、その病巣組織滞留効果を評価することもできる。
さらに、本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントについて、副作用リスクの低さを評価してもよい。例えば、後記実施例に記載のように、妊娠中の動物におけるFab’フラグメント投与後の胎盤通過試験を使用することによって、本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントが胎児に影響を及ぼす可能性について評価することができる。また、後記実施例に記載のように、NGFとの免疫複合体(IC)形成試験を用いて、本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントとNGFとの間で形成されるICのサイズを測定し、血栓形成を誘発する可能性について評価することができる。また、後記実施例に記載のように、ラット変形性関節症モデルやラット破骨細胞を用いて本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのRPOA等の関節関連の有害事象リスクを評価することができる。
その他、本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの各種安定性(例えば、熱安定性、長期保存安定性、高濃度安定性)を評価する方法としては、例えば、示差走査熱量測定や、保存中の凝集体形成の測定を利用する方法が挙げられる。
本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、必要に応じて精製された後、常法に従って製剤化され、変形性関節症に伴う関節痛(OA疼痛)、リウマチに伴う関節痛、癌性疼痛、神経因性疼痛、慢性腰痛、術後疼痛、帯状疱疹後神経痛、有痛性糖尿病性神経障害、骨折痛、膀胱痛症候群等の疼痛や、間質性膀胱炎、急性膵炎、慢性膵炎、子宮内膜症等のNGFが病態形成に関連する疾患の治療に用いることができる。
本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、好ましくは、疼痛治療剤、より好ましくは、変形性関節症に伴う関節痛治療剤として用いることができる。これら治療剤等の剤型の例としては、注射剤、点滴用剤等の非経口剤とすることができ、静脈内投与、皮下投与等により投与することが好ましい。また、製剤化にあたっては、薬学的に許容される範囲で、これら剤型に応じた担体や添加剤を使用することができる。
上記製剤化に当たっての本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの添加量は、患者の症状の程度や年齢、使用する製剤の剤型、あるいは抗体の結合力価等により異なるが、例えば、0.001mg/kgないし100mg/kg程度を用いればよい。
本発明はまた、本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントをコードする配列を含むポリヌクレオチド及びそれを含む発現ベクターを提供する。本発明はまた、本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの重鎖可変領域をコードする配列を含むポリヌクレオチド、及び本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの軽鎖可変領域をコードする配列を含むポリヌクレオチド、並びにそれらのいずれか又は両方を含む発現ベクターを提供する。本発明の発現ベクターは、原核細胞及び/又は真核細胞の各種の宿主細胞中で本発明のFab’フラグメントあるいはその重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域をコードする遺伝子を発現し、これらポリペプチドを産生できるものであれば特に制限されない。例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス)等を挙げることができる。好ましくは、本発明の発現ベクターは、前述の本発明のFab’フラグメントの重鎖フラグメント又は軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含むか、あるいは本発明のFab’フラグメントの重鎖フラグメントをコードする配列を含むポリヌクレオチドと本発明のFab’フラグメントの軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドとを含む。
本発明の発現ベクターは、本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントをコードする遺伝子、あるいは本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域をコードする遺伝子、及び当該遺伝子に機能可能に連結されたプロモーターを含み得る。細菌中で本発明のFab’フラグメントあるいはその重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域をコードする遺伝子を発現させるためのプロモーターとしては、宿主がエシェリキア属菌の場合、例えば、Trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、tacプロモーターなどが挙げられる。酵母中での発現用プロモーターとしては、例えば、PH05プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターが挙げられ、バチルス属菌での発現用プロモーターとしては、SL01プロモーター、SP02プロモーター、penPプロモーターなどが挙げられる。また、宿主が哺乳動物細胞等の真核細胞である場合、SV40由来のプロモーター、レトロウイルスのプロモーター、ヒートショックプロモーターなどが挙げられる。
宿主細胞として細菌、特に大腸菌を用いる場合、本発明の発現ベクターは、開始コドン、終止コドン、ターミネーター領域及び複製可能単位をさらに含み得る。一方、宿主として酵母、動物細胞又は昆虫細胞を用いる場合、本発明の発現ベクターは、開始コドン、終止コドンを含み得る。また、この場合、エンハンサー配列、本発明のFab’フラグメントあるいはその重鎖可変領域又は軽鎖可変領域をコードする遺伝子の5’側及び3’側の非翻訳領域、分泌シグナル配列、スプライシング接合部、ポリアデニレーション部位、又は複製可能単位などを含んでいてもよい。また、目的に応じて通常用いられる選択マーカー(例えば、テトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子)を含んでいてもよい。
本発明はまた、本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントをコードする遺伝子あるいは本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域をコードする遺伝子が導入された形質転換体を提供する。このような形質転換体は、例えば、本発明の発現ベクターで宿主細胞を形質転換することにより作製できる。形質転換体の作製に用いられる宿主細胞としては、前記の発現ベクターに適合し、形質転換されうるものであれば特に限定されず、本発明の技術分野において通常使用される天然細胞あるいは人工的に樹立された細胞など種々の細胞(例えば、細菌(エシェリキア属菌、バチルス属菌)、酵母(サッカロマイセス属、ピキア属など)、動物細胞又は昆虫細胞(例えば、Sf9)など)が例示される。形質転換は自体公知の方法により行われ得る。
好ましくは、本発明の形質転換体は、本発明のFab’フラグメントの重鎖可変領域をコードする配列を含むポリヌクレオチドと該Fab’フラグメントの軽鎖可変領域をコードする配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞であるか、又は、本発明のFab’フラグメントの重鎖可変領域をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと該Fab’フラグメントの軽鎖可変領域をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞である。より好ましくは、本発明の形質転換体は、前述の本発明のFab’フラグメントの重鎖フラグメントをコードする配列を含むポリヌクレオチドと該Fab’フラグメントの軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞であるか、又は、前述の本発明のFab’フラグメントの重鎖フラグメントをコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと該Fab’フラグメントの軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞である。
本発明はまた、本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントをコードする遺伝子あるいは本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域をコードする遺伝子を宿主細胞に発現させること、即ち、このような形質転換体を用いることを含む、本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの生産方法を提供する。好ましくは、該方法で使用される宿主細胞は、前述の本発明の発現ベクターで形質転換された宿主細胞であり、本発明のFab’フラグメントの重鎖可変領域をコードする配列を含むポリヌクレオチドと、該Fab’フラグメントの軽鎖可変領域をコードする配列を含むポリヌクレオチドを、別々にか又は同時に含んでもよい。
本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの生産において、形質転換体は、栄養培地中で培養され得る。栄養培地は、形質転換体の生育に必要な炭素源、無機窒素源もしくは有機窒素源を含んでいることが好ましい。炭素源としては、例えば、グルコース、デキストラン、可溶性デンプン、ショ糖などが、無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えば、アンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などが例示される。また所望により他の栄養素(例えば、無機塩(例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム)、ビタミン類、抗生物質(例えば、テトラサイクリン、ネオマイシン、アンピシリン、カナマイシン等)など)を含んでいてもよい。
形質転換体の培養は自体公知の方法により行われる。培養条件、例えば、温度、培地のpH及び培養時間は、適宜選択される。例えば、宿主が動物細胞の場合、培地としては、約5〜20%の胎児牛血清を含むMEM培地(Science,Vol.122,p.501,1952)、DMEM培地(Virology,Vol.8,p.396,1959)、RPMI1640培地(J.Am.Med.Assoc.,Vol.199,p.519,1967)、199培地(proc.Soc.Exp.Biol.Med.,Vol.73,p.1,1950)等を用いることができる。培地のpHは約6〜8であるのが好ましく、培養は通常約30〜40℃で約15〜72時間行なわれ、必要により通気や撹拌を行うこともできる。宿主が昆虫細胞の場合、例えば、胎児牛血清を含むGrace’s培地(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.82,p.8404,1985)等が挙げられ、そのpHは約5〜8であるのが好ましい。培養は通常約20〜40℃で15〜100時間行なわれ、必要により通気や撹拌を行うこともできる。宿主が細菌、放線菌、酵母、糸状菌である場合、例えば、上記栄養源を含有する液体培地が適当である。好ましくは、pHが5〜8である培地である。宿主がE.coliの場合、好ましい培地としてLB培地、M9培地(Millerら、Exp.Mol.Genet,Cold Spring Harbor Laboratory,p.431,1972)等が例示される。かかる場合、培養は、必要により通気、撹拌しながら、通常14〜43℃、約3〜24時間行うことができる。宿主がBacillus属菌の場合、必要により通気、撹拌をしながら、通常30〜40℃、約16〜96時間行うことができる。宿主が酵母である場合、培地として、例えば、Burkholder最小培地(Bostian,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.77,p.4505,1980)が挙げられ、pHは5〜8であることが望ましい。培養は通常約20〜35℃で約14〜144時間行なわれ、必要により通気や撹拌を行うこともできる。
本発明の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、上述のような形質転換体を培養し、該形質転換体から回収、好ましくは単離、精製することができる。単離、精製方法としては、例えば、塩析、溶媒沈澱法等の溶解度を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動など分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーやヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーなどの荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動などの等電点の差を利用する方法などが挙げられる。
本発明について全般的に記載したが、さらに理解を得るために参照する特定の実施例をここに提供するが、これらは例示目的とするものであって、本発明を限定するものではない。
市販のキット又は試薬等を用いた部分については、特に断りのない限り添付のプロトコールに従って実験を行った。
(実施例1:ベロシミューンマウスへの免疫)
ヒトNGFに対する抗体を、ベロシミューンマウスに免疫することによって取得した。本発明者らは、得られる抗体の多様性を高めるために、複数の免疫方法、投与経路、アジュバント、免疫期間等を検討した。免疫原としては、ヒトβNGF(R&D System社)を使用し、ヒトβNGFを溶解してアジュバントと混和した後に免疫に使用する方法と、ヒトβNGFを熱変性(0.5%SDS溶液下、80℃、10分処理)した後にアジュバントと混和して免疫する方法を検討した。投与経路としては、足蹠投与と腹腔内投与を検討した。アジュバントとしては、TiterMax Gold(CytRx Corporation)、完全フロイントアジュバント(Sigma社)、不完全フロイントアジュバント(Sigma社)、及びRIBIアジュバント(Corixa Corporation)を検討した。さらに添加する免疫賦活剤としては、CpGオリゴヌクレオチドとAluminum Phosphate Gel(BRENNTAG社)を検討した。免疫期間としては,3週間〜14週間まで検討した。数回免疫した後、マウス尾静脈より採血を行い、力価をモニターすることで、ヒトNGFに結合する抗体を産生するベロシミューンマウスの選択を行った。
力価測定は以下の標準的なELISA方法を用いて測定した。Maxisorp384プレート(Nunc社)にヒトβNGFを1ウェルあたり10ng添加し、4℃にて一晩インキュベートして固相化した。翌日、プレートを洗浄液(TBST:0.05% Tween−20含有トリスバッファー(TBS))で1回洗浄後、ブロッキング剤(20% Blocking One(ナカライテスク社)含有TBST)を添加し室温にて1時間静置した。TBST洗浄液で1回洗浄後、採血した血液の希釈系列を作製して添加した。室温にて1時間インキュベート後、TBST洗浄液にて3回洗浄し、5% Blocking One含有TBST洗浄液で2000倍に希釈したホースラディッシュぺルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIg抗体(HRP−goat anti−mouse Ig antibody;Zymed社)を添加した。室温にて1時間インキュベートした後、TBST洗浄液で3回洗浄した。TMB発色試薬(住友ベークライト社)を加えて室温で10分静置した後、停止液(2mol/L 硫酸)を加えて反応を停止させ、450nmの吸光度を測定した。
(実施例2:抗ヒトNGF抗体産生ハイブリドーマの作製)
抗体価の上昇を確認して選択したマウスに最終免疫(抗原の静脈内投与又は腹腔内投与)を行った。定法に従い、免疫したマウスの脾臓やリンパ節等を摘出しリンパ球を収集し、これをマウスミエローマ細胞SP2/0と細胞融合することでハイブリドーマを作製した。ハイブリドーマを限界希釈し、単一クローンにしたうえで、上清からプロテインA又はプロテインGカラム(GEヘルスケアジャパン社)を用いて抗体を精製した。
(実施例3:NGF−trkA結合阻害評価)
ヒトβNGF(R&D System社)とEZ−LINK 5−(biotinamido)pentylamine(PIERCE社)を室温暗所にて30分反応させてビオチン標識を行い、脱塩カラムにて過剰量のビオチンを除去し、ビオチン標識ヒトβNGFを取得した。なお、作製したビオチン標識ヒトβNGFについては、生物活性が元のヒトβNGFと同等であることを以下の実施例6及び実施例7で確認した。
阻害活性を以下の方法を用いて測定した。白色Maxisorp384プレート(Nunc社)にヒトtrkA(R&D Systems社)を1ウェルあたり60ng添加し、4℃にて一晩インキュベートして固相化した。翌日、プレートをTBST洗浄液で1回洗浄後、ブロッキング剤(20% Blocking One(ナカライテスク社)含有TBST)を添加し室温にて1時間静置した。次に、上記で作製したビオチン標識ヒトβNGF(0.2μg/ml)と実施例2で得た抗体を混和したものを、ブロッキング後のtrkA固相プレートに添加した。室温にて1時間インキュベート後、TBST洗浄液にて3回洗浄し、アルカリフォスファターゼ標識ストレプトアビジン(PIERCE社)を添加した。室温にて1時間インキュベート後、TBST洗浄液にて3回洗浄し、化学発光検出試薬であるAPU4(BioFX社)を加えて、その化学発光量をEnVisionカウンター(パーキンエルマー社)で測定した。
(実施例4:種交差性評価)
抗体がマウスβNGFに対して交差性を有する場合、当該抗体を用いてマウス病態モデルでの薬効評価を行うことが可能となる。そこで、実施例3の方法において、マウスβNGF(R&D Systems社)を用いてビオチン標識マウスβNGFを作製することによって、抗体のマウスβNGFに対する交差性を評価した。
(実施例5:結合特異性評価)
実施例1に記載のELISA法を用いて、抗体のNGFへの結合特異性を評価した。具体的には、NGFと最も相同性の高いファミリー分子であるNT−3を用いて、実施例1の方法においてヒトNT−3(PeproTech社)を1ウェルあたり20ng添加してプレートに固相化して評価した。
(実施例6:NGF−trkAシグナル阻害評価)
抗体のNGF−trkAシグナルの阻害活性について評価した。NGFはその受容体であるtrkAを介して細胞内カルシウム(Ca2+)濃度の上昇を引き起こす。通常、このCa2+濃度変化は、カルシウム指示薬存在下のもとで、細胞内Ca2+濃度測定システム(FLIPR;モレキュラーデバイス社)を用いると評価できる。
阻害活性を以下の方法を用いて測定した。ヒトtrkAを安定的に発現させたHEK293細胞(WO2009/054468)を、実験前日に2×104細胞/ウェルとなるように、96ウェル ポリ−D−リジン−コートプレート(日本ベクトンディッキンソン社)に分注し、一晩培養した。翌日、培地をカルシウム指示薬(Fluo4−AM;同仁堂社)を含むDMEM培地(3.6mM 水酸化ナトリウム(NaOH)、2.5mM プロベネシド(Sigma社)含有)に置き換え、37℃にて30分静置した。次いで、洗浄液(ハンクスバランス塩溶液(HBSS)(20mM 2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)、3.6mM 水酸化ナトリウム、2.5mM プロベネシド(Sigma社)、0.1% ウシ血清アルブミン))にて細胞を2回洗浄し、培地をこの洗浄液150μl/ウェルで置き換えた。細胞プレートをFLIPR内にセットした。FLIPRの操作により、実施例2で得た抗体とβNGFとの混和液を50μl/ウェル添加し(NGF最終濃度100ng/ml)、細胞内Ca2+濃度変化を測定した。細胞内Ca2+濃度変化の最大値と最小値の差を算出し、測定データとして保存した。
(実施例7:NGF依存性細胞生存シグナル阻害評価)
天然にtrkA及びp75受容体を発現しているPC12細胞を無血清条件で培養した場合、NGFは細胞の生存を数日間維持できる。以下の方法を用いて、抗体のNGF依存的細胞生存シグナルに対する阻害活性を評価した。
96ウェルのコラーゲンコートプレート(旭テクノ社)にPC12細胞を1ウェルあたり1×104細胞で播き、2.5%ウシ胎仔血清及び15%ウマ非働化血清(Invitrogen社)を含むF12K培地(Invitrogen社)にて37℃、5%CO2で一晩インキュベートした。翌日、培地をF12Kのみの無血清条件に置換した。1時間後、抗体及びヒトβNGF(最終濃度50ng/ml)を添加し、72時間培養を行った。その後、培養液をアスピレーターにて除去し、細胞の内在性ATP定量試薬(CellTiter Glo;Promega社)により細胞の生存能を測定した。
(実施例8:Fabフラグメントの作製)
Fabプレパレーションキット(Pierce社)を使用し、抗体1mg/mlに消化酵素パパイン結合ゲルを加え、37℃、3時間処理した。処理した反応液をプロテインGカラム(GEヘルスケアジャパン社)に添加し、切断されたFc及び未反応のIgGをカラムに吸着させて除去し、溶出画分を回収することでFabフラグメントを得た。得られたFabフラグメントについて、実施例3、実施例6、及び実施例7に記載した試験で評価を行った。
実施例3〜8による評価の結果、1−15と命名した抗体(キメラ抗体)が、高い中和活性、種交差性、結合特異性を有するとともに、1価の抗体フラグメントにした場合にも高い中和活性を保持することが確認された。
(実施例9:抗体遺伝子配列の決定)
同定された1−15抗体について、本発明者らはハイブリドーマから抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子をクローニングした。具体的には、ハイブリドーマクローンを1×105以上準備し、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社)に添付のRLT bufferで懸濁後、QIAshredder(QIAGEN社)を用いて細胞の破砕を行った。その後プロトコールに従ってRNAを抽出し、抽出したRNAを鋳型として、DNA増幅キット(SMARTer RACE cDNA Amplification kit;Clontech社)を用いてcDNAの合成を行った。得られたcDNAを用いてPCR反応を行い、重鎖及び軽鎖の可変領域を伸長及び増幅した。このPCR産物を直接シークエンサー(ABI PRISM 3100;Applied Biosystems社)で配列解析を行った。また、PCR産物をpCR3.1−TOPO(Invitrogen社)等のPCR産物サブクローニング用ベクターへ組み換えた後、遺伝子配列を解析して配列決定を行った。
決定された1−15抗体の重鎖可変領域の塩基配列を配列番号1に、アミノ酸配列を配列番号2に、該抗体の軽鎖可変領域の塩基配列を配列番号3に、アミノ酸配列を配列番号4にそれぞれ示す。1−15抗体の重鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3は、それぞれ、Kabat番号付けに基づく重鎖可変領域の31〜35番目、50〜65番目、及び95〜102番目の領域であり、それぞれ、配列番号2の31〜35番目、50〜65番目、及び98〜110番目のアミノ酸配列からなる。1−15抗体の軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3は、それぞれ、Kabat番号付けに基づく軽鎖可変領域の24〜34番目、50〜56番目、及び89〜97番目の領域であり、それぞれ、配列番号4の24〜39番目、55〜61番目、及び94〜102番目のアミノ酸配列からなる。
(実施例10:可変領域の糖鎖修飾部位の変異体作製)
前述の1−15抗体の重鎖可変領域アミノ酸配列(配列番号2)には、N−X−(T/S)のN型糖鎖修飾モチーフ配列が含まれている。具体的には、配列番号2で示す重鎖可変領域における、Kabat番号付けに基づく52番目のAsn(N52)が糖鎖修飾部位に該当する。糖鎖修飾部位が存在すると細胞培養の間に抗体への糖鎖の付加が起こるが、糖鎖の付加は培養条件や発現させる宿主に依存することが知られている。すなわち、樹立した同一の抗体産生細胞であっても、培養条件(培地、細胞密度など)によって糖鎖付加の程度が変わる可能性があり、均一な品質の抗体医薬品を取得することが困難となる可能性がある。そこで、本発明者らは、1−15抗体の重鎖可変領域におけるN52に変異を導入した1−15(N52D)を作製した。
作製した1−15(N52D)の重鎖可変領域の塩基配列を配列番号5に、アミノ酸配列を配列番号6にそれぞれ示す。1−15(N52D)抗体の重鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3は、それぞれ、Kabat番号付けに基づく重鎖可変領域の31〜35番目、50〜65番目、及び95〜102番目の領域であり、配列番号6の31〜35番目、50〜65番目、及び98〜110番目のアミノ酸配列からなる。
(実施例11:完全ヒト型抗体Fab’フラグメントの作製)
前述の1−15及び1−15(N52D)の重鎖可変領域と1−15の軽鎖可変領域を用いて、各々の完全ヒト型抗体Fab’フラグメントを作製した。
1−15及び1−15(N52D)の各重鎖可変領域遺伝子の5’側にシグナル配列を、そして3’側にヒトIgγ1の定常領域遺伝子(Man Sung Coら,(1992) J Immunol.Vol.148(4):1149−1154)をそれぞれ繋げ、この重鎖フラグメント遺伝子をGSベクターpEE6.4(Lonza Biologics社)に挿入した。ここで、Fab’フラグメントとして発現させるために、重鎖定常領域遺伝子において、EUインデックスに基づく226番目のCys(後述の配列番号8及び10のアミノ酸配列中の230番目のCysに対応)のコドンの後に停止コドンを挿入した。また、1−15の軽鎖可変領域遺伝子の5’側にシグナル配列を、そして3’側にヒトκ鎖の定常領域遺伝子(Man Sung Coら,前出)をそれぞれ繋げ、この軽鎖遺伝子をGSベクターpEE12.4(Lonza Biologics社)に挿入した。
一過性発現及び恒常的発現の2種類の方法でFab’フラグメントの発現を行った。一過性発現については、FreeStyle 293 Expression medium(Invitrogen社)で約100万個/mLに培養されたFreeStyle 293細胞(Invitrogen社)に対し、前述の重鎖フラグメント及び軽鎖のGSベクターを293フェクチン(Invitrogen社)を用いてトランスフェクトし、7日間培養した。恒常的発現については、前述の両GSベクターをNotIとPvuIで制限酵素切断し、DNAライゲーションキット(タカラバイオ社)を用いてライゲーションを行い、重鎖フラグメントと軽鎖の両遺伝子が挿入されたGSベクターを構築した。この発現ベクターは、重鎖フラグメント及び軽鎖とグルタミン合成酵素(Glutamine synthetase)をコードしており、CHO−K1SV細胞へのトランスフェクションにより発現させた。各方法で発現させた後、培養上清をKappaSelect(GEヘルスケアジャパン社)を用いて精製し、各Fab’フラグメントを得た。
作製した完全ヒト型1−15抗体Fab’フラグメント(1−15−Fab’とも称する)の重鎖フラグメントの塩基配列を配列番号7に、アミノ酸配列を配列番号8にそれぞれ示す。
作製した完全ヒト型1−15(N52D)抗体Fab’フラグメント(1−15(N52D)−Fab’とも称する)の重鎖フラグメントの塩基配列を配列番号9に、アミノ酸配列を配列番号10にそれぞれ示す。
各Fab’フラグメントの軽鎖は共通で、その塩基配列は配列番号11に、アミノ酸配列は配列番号12にそれぞれ示す。
(実施例12:完全ヒト型抗体Fab’フラグメントの中和活性及び発現量評価)
実施例11で取得した1−15−Fab’と1−15(N52D)−Fab’について、実施例3及び実施例6に記載した試験で評価した。実施例3の試験において、1−15−Fab’及び1−15(N52D)−Fab’のIC50は、それぞれ0.17μg/ml及び0.18μg/mlであった。実施例6の試験において、1−15−Fab’及び1−15(N52D)−Fab’のIC50は、それぞれ0.021μg/ml及び0.018μg/mlであった。これらの結果から、1−15(N52D)−Fab’は、改変前の1−15−Fab’と同程度の中和活性を保持し、変異の導入によっても中和活性に影響を与えないことが確認された。
また、各Fab’フラグメントの恒常的発現を行い、安定発現細胞プール培養の上清中における抗体産生量を測定した。その結果、1−15−Fab’及び1−15(N52D)−Fab’の各培養上清中の濃度は、それぞれ86mg/L及び106mg/Lであり、1−15(N52D)−Fab’は、改変前の1−15−Fab’よりも高い量で産生される抗体であることが示された。
(実施例13:PEG化Fab’フラグメントの作製と中和活性評価)
次いで、本発明者らは、前述の1−15(N52D)−Fab’に対してPEGの導入を行った。KappaSelectで精製後、Fab’フラグメントをTCEP塩酸塩(Tris(2−carboxyethyl)phosphine HCl)により還元反応をすることで、PEG化可能な構造体にした。
具体的には、20mMリン酸ナトリウムバッファー(pH6.8)にて1.2mg/mlに調整したFab’フラグメント溶液に、1mMとなるようにTCEPを添加して、37℃で2時間反応させたのち、20mM酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)で希釈しpHを整えた。これを陽イオン交換樹脂(SP−5PW;東ソー製)に吸着させ、NaClグラジエントで溶出し、メインピークを回収した。得られたFab’フラグメントを20mMリン酸ナトリウムバッファー(pH6.8)で1mg/mlとなるように希釈し、pHを6.8に調整後、4℃で一晩以上静置し自然酸化させた。これに終濃度0.1mMとなるように40kDa PEG(SUNBRIGHT GL2−400MA;NOF CORPORATION)を添加し、室温で2時間静置後、4℃で一晩静置した。同PEGは末端にマレイミド基を有しているので、重鎖フラグメントのカルボキシル末端のCys(EUインデックスに基づくC226;配列番号10の230番目のCys)と速やかに反応する。これを20mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.5)で希釈してpHを調整後、再度陽イオン交換樹脂(SP−5PW;東ソー製)に吸着させ、NaClのグラジエントで溶出、メインピークを回収した。このようにしてPEG化したFab’フラグメントを精製した。このPEG化した1−15(N52D)−Fab’を、1−15(N52D)−Fab’−PEGとも称する。
PEG化前及びPEG化した1−15(N52D)−Fab’について、実施例3に示す方法で中和活性を評価した。その結果、1−15(N52D)−Fab’のIC50が0.15μg/mlであったのに対し、1−15(N52D)−Fab’−PEGのIC50は0.12μg/ml(Fab’フラグメント濃度として)であり、1−15(N52D)−Fab’は、PEGの付加によっても中和活性に影響を受けないことが確認された。
また、実施例6の方法を用いて、1−15(N52D)−Fab’−PEGと先行抗ヒトNGF抗体Tanezumabのヒト及びマウスβNGFに対する中和活性を比較した。その結果、1−15(N52D)−Fab’−PEGのIC50が、ヒトNGFに対して0.051μg/ml、マウスβNGFに対して0.069μg/mlであったのに対し、TanezumabのIC50は、ヒトβNGFに対して0.17μg/ml、マウスβNGFに対して0.23μg/mlであり、1−15(N52D)−Fab’−PEGが、ヒト及びマウスのいずれのβNGFに対しても、Tanezumabより3.3倍程度強力な中和活性を有することが確認された。
(実施例14:マウスアジュバント誘発関節炎モデルによる鎮痛効果試験)
本発明者らは、前述の1−15(N52D)−Fab’−PEGについて、マウスアジュバント誘発関節炎モデルに対する鎮痛効果を評価した。
1−15(N52D)−Fab’−PEGをマウス静脈内に投与し(0.03mg/kg、0.1mg/kg、0.3mg/kg、投与容量は10mL/kg)、後肢足蹠にフロイント完全アジュバント(Sigma社)1mg/mLを25μL投与して疼痛を惹起した。惹起24時間に20分間の立ち上がり行動を測定した。具体的には、スーパーメックス自発運動量測定システム(室町機械)を用いて、マウスの自発的な立ち上がり行動の回数を赤外線ビームセンサーで20分間自動計測した(Matsonら、JPET 320:194−201,2007)。比較対照として、先行抗体Tanezumabを用いた。その結果、Tanezumabの静脈内投与での鎮痛効果がED50=0.27mg/kgだったのに対し、1−15(N52D)−Fab’−PEGは、ED50=0.11mg/kgで鎮痛効果を発揮し、約3倍の有効性を示した。
(実施例15:ラット胎盤通過試験)
雌性ラットの妊娠17日目に、1−15(N52D)−Fab’−PEG又はTanezumabを静脈内に投与し(100mg/kg、投与容量10mL/kg)、3日後の母体及び胎仔の血液中の抗体濃度を測定した。
抗体濃度の測定は以下のように行った。MULTI−ARRAY Plate(Standard)96プレート(Meso Scale Discovery社)にヒトβNGF(R&D Systems社)を1ウェルあたり25ng添加して、室温にて1時間静置することで固相化した。プレートをTBST洗浄液で3回洗浄後、ブロッキング剤(1%カゼイン TBS;サーモフィッシャー社)を添加し、室温にて1時間静置した。次に、経時的に採血した血液を希釈した血液サンプルを、ブロッキング後のヒトβNGF固相プレートに添加した。室温で撹拌しながら60分反応後、TBST洗浄液にて3回洗浄し、ビオチン標識抗ヒトカッパ抗体(免疫生物研究所)を添加した。室温で撹拌しながら60分反応後、TBST洗浄液にて3回洗浄し、SULFO−TAG標識ストレプトアビジン(Meso Scale Discovery社)を添加した。室温で撹拌しながら60分反応後、TBST洗浄液にて3回洗浄し、Read Buffer T(Meso Scale Discovery社)を加えて、その電気化学発光量をSECTOR Imager 6000(Meso Scale Discovery社)で測定した。
本試験を3匹のラット母体において行った結果、3日後のラット母体血中における1−15(N52D)−Fab’−PEG及びTanezumabの抗体濃度は、それぞれ平均12.1μg/ml及び7.1μg/mlであった。一方、各ラット母体から3例ずつ胎仔を摘出(合計9例)した胎仔血中における抗体濃度については、1−15(N52D)−Fab’−PEGの血中濃度が、全例で定量限界の0.01μg/ml以下であったのに対し、Tanezumabの血中濃度は、平均5.39μg/mlであった。すなわち、Tanezumabの胎仔移行率は75.9%であったのに対し、1−15(N52D)−Fab’−PEGの胎仔移行率は検出限界の0.08%以下の移行率であった。このことから、1−15(N52D)−Fab’−PEGは、胎児におけるNGF阻害による副作用リスクを回避し、安全性に優れる薬剤であることが示唆された。
(実施例16:免疫複合体(IC)の形成)
1−15(N52D)−Fab’−PEGがICを形成するか否か、あるいは形成されるICのサイズがどの程度になるかを評価した。具体的には、1−15(N52D)−Fab’−PEGを1mg/mlとヒトβNGF(R&D Systems社)を、モル比で1:1になるように混和し、室温で3時間インキュベートしてICを形成させた。この反応液を、動的光散乱を測定する機器Zetasizer Nano(Malvern社)を用い、ICの粒子径と分布を測定した。解析にはZetasizar v6.01(Malvern社)を用い、粒子径はIntensity(%)で解析した値(d.nm)で示した。
測定された粒子サイズを以下の表1に示す。この実験において、NGF単独の粒子径は平均で6.2nmであった。Tanezumab単独では11.7nmにピーク径が出現した。TanezumabとNGFをインキュベートしてICを形成させたものを測定すると、ピーク径が91.3nmにシフトした。一方、コントロール抗体としてNGFと結合しない抗体を用いた場合、ピーク径は11.7nmのままであった。シフト幅から考えると、TanezumabとNGFはそれぞれ複数分子を結合した巨大分子となり、巨大サイズのICを形成していると推測された。これに対して、1−15(N52D)−Fab’−PEGとNGFとのICの形成を測定した結果、ピーク径が18.1nmから24.4nmへとシフトした。シフト幅から考察すると、1:1結合のみを反映し、1−15(N52D)−Fab’−PEGでは格子形成されないことが示唆された。
Figure 0006135161
(実施例17:病巣組織移行性)
雄性DBA/1マウス足関節にコラーゲン(ウシ関節由来タイプ2コラーゲン、10mg/mL;コラーゲン技術研修会)及び完全フロイントアジュバント(0.5mg/mL;DIFCO社)の1:1のエマルジョンを皮下投与し、コラーゲン誘発関節炎モデルを作製した。惹起4週間後に再度、エマルジョンを投与し、関節炎を発症させた。後肢関節炎の発症程度(スコア・腫脹の大きさ)を観察し、マウスの群分けを行った。1−15(N52D)−Fab’−PEG及びTanezumabの1mg/ml PBS溶液について、SAIVITM Rapid Antibody Labeling Kit、Alexa Fluor(登録商標)680(Life Technologies社)を用いて蛍光標識を行った。それぞれを2mg/kgにて尾静脈から投与を行った(N=4)。腫脹した足底に蓄積してくる蛍光を、IVIS Spectrum(Caliper/Xenogen社)を用いて、投与後1時間から50時間まで解析し、蛍光強度を数値化した。
図1に足底の抗体滞留量の経時的変化を示す。1−15(N52D)−Fab’−PEGはTanezumabに比較して明らかな病巣組織滞留効果を示し、その効果は48時間まで持続した。この結果から、1−15(N52D)−Fab’−PEGは効率的に鎮痛効果を発揮する考えられ、薬効強度以上に低用量で鎮痛効果期待できること、さらには、病巣部位選択的に集積するので安全性に優れる薬剤となりうることが期待できる。
(実施例18:Fab’フラグメントのアミノ酸付加体の作製)
本発明者らは、1−15(N52D)−Fab’において、PEGの導入効率を改善するために、重鎖フラグメントのカルボキシル末端のCys残基の後に2個のアラニン(A)又はプロリン(P)を付加したFab’フラグメントを作製し、発現及び精製した。これらのFab’フラグメントの作製においては、実施例11と同様の方法を用い、ここで、1−15(N52D)−Fab’の重鎖フラグメントのカルボキシル末端Cys残基のコドンの後に2個のアラニン又はプロリンのコドンを挿入し、その後に停止コドンを挿入した。
アラニン付加した1−15(N52D)−Fab’(完全ヒト型1−15(N52D−A)抗体Fab’フラグメント;1−15(N52D−A)−Fab’とも称する)の重鎖フラグメントの塩基配列を配列番号13に、アミノ酸配列を配列番号14にそれぞれ示す。プロリン付加した1−15(N52D)−Fab’(完全ヒト型1−15(N52D−P)抗体Fab’フラグメント;1−15(N52D−P)−Fab’とも称する)の重鎖フラグメントの塩基配列を配列番号15に、アミノ酸配列を配列番号16にそれぞれ示す。なお、各Fab’フラグメントの軽鎖は、1−15(N52D)−Fab’の軽鎖と同じであり、その塩基配列は配列番号11に、アミノ酸配列は配列番号12にそれぞれ示される。
(実施例19:PEG化1−15(N52D−A)−Fab’の作製並びに中和活性及び薬理評価)
1−15(N52D−A)−Fab’に対して、実施例13と同様の方法を用いて40kDa PEGを結合させ、PEG化した1−15(N52D−A)−Fab’(以下、1−15(N52D−A)−Fab’−PEGとも称する)を得た。
1−15(N52D−A)−Fab’−PEGについて、実施例3に示す方法を用いて中和活性を評価した。その結果、1−15(N52D)−Fab’−PEGのIC50が0.081±0.034μg/mlであったのに対し、1−15(N52D−A)−Fab’−PEGのIC50は0.074±0.021μg/mlであった。また、このときTanezumabのIC50は0.410±0.099μg/mlであった。
次に、実施例6に示す方法を用いて中和活性を比較した。その結果、1−15(N52D)−Fab’−PEGのIC50が、ヒトNGFに対して0.061±0.011μg/mlであったのに対し、1−15(N52D−A)−Fab’−PEGのIC50は0.064±0.028μg/mlであった。
さらに、実施例14に示す方法を用いてアジュバント誘発関節炎モデルにおける鎮痛効果を評価した。その結果、1−15(N52D)−Fab’−PEGは、ED50=0.14mg/kgで鎮痛効果を発揮したのに対し、1−15(N52D−A)−Fab’−PEGは、ED50=0.21mg/kgで鎮痛効果を発揮した。
以上より、カルボキシル末端のCys残基の後に2個のアラニンを付加することによっても、中和活性及び薬理活性に影響を受けないことが確認された。
(実施例20:1−15(N52D−A)−Fab’−PEGの結合親和性の評価)
1−15(N52D−A)−Fab’−PEG及びTanezumabのNGF抗原に対する結合熱力学を等温滴定型熱量測定(Isothermal titration calorimetry;ITC)によって検討した(Scappaticci FA,J Natl Cancer Inst.2007,99:1232−9.Velazquez−Campoy,A.,et al,Curr Protoc Cell Biol.2004,Chapter 17,Unit 17−18.)。すべての測定はGE healthcare社製のAuto−iTC200を用いて行った。実験では1価のFab’フラグメントと1分子の抗原間の結合を評価すべく、以下の濃度で試験を行い、試験は全てPBS溶媒中で行った。具体的には、滴定用シリンジに入ったヒトβNGF 44μM(R&D systems社)を1.4μLずつ30回にわたって抗体試料(3μMの1−15(N52D−A)−Fab’−PEG又は1.5μMのTanezumab)を満たした熱量計セルに滴定し、その際に生じた熱量を検出した。得られたデータを装置付属のソフトを用いSingle site binding modelによって解析することで、抗原−抗体結合に伴われる結合親和力(Kd)、結合比(n)、結合自由エネルギー(ΔG)、結合エンタルピー(ΔH)、及び結合エントロピー(−TΔS)を見積もった。結果を表2に示す。
その結果、TanezumabのKd値が20.41nMであったのに対し、1−15(N52D−A)−Fab’−PEGのKd値は1.49nMであり、1−15(N52D−A)−Fab’−PEGの結合親和性はTanezumabよりも10倍以上強力であった。
Figure 0006135161
(実施例21:各種PEGサイズのPEG化1−15(N52D−A)−Fab’の作製及び中和活性評価)
実施例18で作製した1−15(N52D−A)−Fab’に対して、実施例13と同様の手順を用いて、5kDa PEG又は10kDa PEGを結合させた。具体的には、20mMトリス塩酸バッファー(pH7.4)にて調製したFab’フラグメント溶液をTCEPで還元させた後、脱塩カラムを用いてFab’フラグメントを回収した。得られたFab’フラグメントにPEG(SUNBRIGHT GL2−50MA又はSUNBRIGHT GL2−100MA;いずれもNOF CORPORATION)を添加し、4℃で一晩静置した。このようにして得られた、5kDa PEG又は10kDa PEGを結合させた1−15(N52D−A)−Fab’を、それぞれ1−15(N52D−A)−Fab’−5kPEG、1−15(N52D−A)−Fab’−10kPEGと称する。
次に、実施例6に示す方法を用いて、各PEG化Fab’フラグメントの中和活性を比較した。比較対照として、実施例19で作製した1−15(N52D−A)−Fab’−PEG(40kDa PEGを結合;以下、1−15(N52D−A)−Fab’−40kPEGとも称する)を用いた。今回の実験ではNGF最終濃度を50ng/mlで実施した。その結果、1−15(N52D−A)−Fab’−5kPEG、1−15(N52D−A)−Fab’−10kPEG、及び1−15(N52D−A)−Fab’−40kPEGのIC50は、それぞれ0.030μg/ml、0.028μg/ml、及び0.023μg/mlであった。この結果から、PEGサイズは5kDaから40kDaのサイズにおいてはFab’フラグメントの中和活性に影響しないことがわかった。
(実施例22:各種PEGサイズのPEG化1−15(N52D−A)−Fab’のマウスPK評価)
各種PEG化1−15(N52D−A)−Fab’のマウスPK評価を行った。具体的には、0.3mg/kgの各種PEG化1−15(N52D−A)−Fab’を静脈内に投与し、投与後1、4、8、12、24、48、72、96、及び168時間毎に採血した。得られた血液中の被検抗体量をサンドイッチELISA法を用いて測定した。具体的には、被検抗体を、NGFを固定化したMSDプレート(Meso Scale Discovery社製)に添加した。プレートに結合した被検抗体をビオチン標識抗ヒトカッパ抗体で認識し、これをSULFO−TAG標識ストレプトアビジンで検出した。血中濃度の算出は、各標準品で検量線を作製して求めた。算出した血中濃度より血中半減期(T1/2:時間)を計算した。その結果、1−15(N52D−A)−Fab’−5kPEG、1−15(N52D−A)−Fab’−10kPEG、及び1−15(N52D−A)−Fab’−40kPEGのT1/2は、それぞれ13.8±2.2時間、17.7±0.4時間、及び39.2±3.7時間であった。
(実施例23:ラット足裏切開モデルによる鎮痛効果試験)
臨床における術後痛を反映するとされるラット足裏切開後痛モデル(Brennan et al.Current Protocols in Pharmacology 2004;5.34.1−5.34.8)を用いて、1−15(N52D−A)−Fab’−5kPEG及び1−15(N52D−A)−Fab’−10kPEGの術後痛に対する鎮痛効果を評価した。
具体的には、各群8匹とし、1−15(N52D−A)−Fab’−5kPEG又は−10kPEGをラット静脈内に投与し(0.1mg/kg、0.3mg/kg、1mg/kg、投与容量は1mL/kg)、右後肢足裏を踵先端から5mm部分を起点として10mmつま先方向へ直線的に切開して直ちにナイロン糸で2か所マットレス縫合することで疼痛を惹起した。惹起5時間、1日、2日、3日、4日、及び5日に術部位付近の疼痛閾値を測定した。測定は、Ugo Basile社製Dynamic plantar anesthesiometerを用いて、ラットの足裏への加圧に対する逃避行動を示す圧力を測定した。比較対照として、先行抗体Tanezumabを用いた。
その結果、術後1日のTanezumabの静脈内投与での鎮痛効果がED50=0.26mg/kgであったのに対し、1−15(N52D−A)−Fab’−5kPEG又は−10kPEGは、いずれもED50=0.15mg/kgで鎮痛効果を発揮し、約2倍の有効性を示した。また、1−15(N52D−A)−Fab’−5kPEG又は−10kPEGの有意な鎮痛効果は、それぞれ術後3日あるいは4日まで観察された。
(実施例24:凝集安定性評価)
1−15(N52D−A)−Fab’−40kPEGを、pH5、pH6、pH7.4、及びpH9の各条件で1mg/ml及び10mg/mlに溶解した。これらをそれぞれ50℃の条件におき、2週間後の凝集安定性について評価を行った。凝集性の評価はサイズ排除クロマトグラフィーにより行い、Agilent社製1100を用いて測定した。測定条件は、移動相のバッファーとして0.1Mリン酸ナトリウム(0.2Mアルギニン含有)(pH6.8)を用い、カラムはTSK gel Super Sw3000(TOSOH,2.0mmID×300mm)を用いた。検出波長は280nmで行った。1mg/mlでの試験では、比較抗体としてTanezumabを用い、その結果を表3に示す。10mg/mlでの試験では、比較抗体としてTanezumab及びREGN475を用い、その結果を表4に示す。
その結果、Tanezumab及びREGN475は2週間後に顕著な凝集体の産生上昇が観察されたのに対し、1−15(N52D−A)−Fab’−40kPEGでは凝集体が殆ど検出されなかった。この結果から、PEG化1−15(N52D−A)−Fab’は、保存安定性に優れる医薬品になりうる可能性が高いことが示唆された。
Figure 0006135161
Figure 0006135161
− 試験せず
(実施例25:ラットモノソディウムヨードアセテート誘発変形性関節症モデルにおける膝関節浮腫に対する抗ヒトNGF抗体の影響)
雄性SDラットをイソフルランで麻酔し、1mgモノソディウムヨードアセテート(MIA;シグマ社)を右膝の膝蓋靭帯を通して関節内に投与した。MIAは生理食塩水で希釈して調製し、26ゲージ、0.5インチの注射針を用いて50μlの用量で投与した。MIA投与後2日目に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS;コントロール群)、Tanezumab(1mg/kg、1回)、1−15(N52D−A)−Fab’−PEG(1mg/kg、1回/8日)、又は1−15(N52D)−ヒトIgG抗体(実施例11に記載の方法において1−15(N52D)の重鎖可変領域遺伝子の3’側にヒトIgγ1の定常領域遺伝子を繋げ、全長の完全ヒト型抗体として作製)(1mg/kg、1回)を尾静脈から投与した(各群n=6)。MIAを投与した右膝及び投与していない左膝の関節幅をノギスを用いて測定し、右膝の幅と左膝の幅の差を計算した。
結果を図2に示す。PBSで処置したラット(図2中、Control)においては、膝関節の幅の差(関節浮腫)は、MIA投与後一過的に増加したが、約14日以内にほぼ正常レベル(MIA非処置群;図2中、Normal)まで減少した。同様の結果は、1−15(N52D−A)−Fab’−PEG処置群でも認められた。一方、Tanezumab投与群では膝関節浮腫が時間依存的に亢進され、MIA投与後28日目に右膝と左膝の差は約3.6mmに達した。同様の浮腫の亢進は1−15(N52D)−ヒトIgG抗体投与群(図2中、1−15(N52D))でも認められた。また、膝関節浮腫が抗ヒトNGF抗体に起因することを確認するために、ヒトIgG抗体(抗KLH抗体、1mg/kg、1回)を用いて同様の試験を行ったところ、PBS群及び1−15(N52D−A)−Fab’−PEG群と同様、膝関節浮腫の亢進作用は認められなかった。
右膝関節のMRI画像において、MIA投与により大腿骨遠位端及び脛骨近位端に軟骨破壊が認められた。Tanezuma投与群では、浮腫像及び軟骨・軟骨下骨の損傷が認められたが、1−15(N52D−A)−Fab’−PEGでは損傷程度はコントロールと変わらなかった。これらの結果から、1−15(N52D−A)−Fab’−PEG投与では変形性関節症における炎症状態が亢進するリスクを低減できる可能性があることが示唆された。
(実施例26:ラット破骨細胞による吸収窩形成に対する抗ヒトNGF抗体の影響)
本実施例を破骨細胞培養キット(Primary Cell社)を用いて実施した。ラット骨髄由来破骨前駆細胞を温浴にて37℃で解凍後、洗浄用培地を添加し遠心した。上清を除去後同様の操作を繰り返した後、RANKL及びM−CSFを含む培養用培地を用いて細胞浮遊液を調製した。オステオプレートに細胞を播種し、PBS、1−15(N52D−A)−Fab’−PEG、又はTanezumabを、各320nMをウェルに添加した。細胞を5%CO2存在下の37℃のCO2インキュベーターで7日間培養した。2日おきに培地を交換し、7日目に破骨細胞によって形成される吸収窩の面積をArrayScan(サーモフィッシャーサイエンティフィック)にて計測した。
結果を図3に示す。TanezumabはRANKL及びM−CSFによって誘導される破骨細胞の吸収窩形成作用(面積)を亢進させたのに対し、1−15(N52D−A)−Fab’−PEGは吸収窩形成作用に影響を与えなかった。このことから、1−15(N52D−A)−Fab’−PEG投与では骨吸収作用による関節損傷のリスクが低減できる可能性があることが示唆された。
本発明の抗ヒトNGF抗体、より具体的には、抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントは、ヒトNGFが病態形成に関与する各種疾患の予防又は治療に有用である。

Claims (7)

  1. ポリエチレングリコールを結合させた抗ヒトNGF抗体Fab'フラグメントの生産方法であって、
    以下の(a)及び(b)からなる群より選択される宿主細胞を培養し、抗ヒトNGF抗体Fab'フラグメントを発現させる工程、及び、
    チオール反応基を結合させた平均分子量約40KDaのポリエチレングリコール誘導体を使用し、抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基とマレイミド基を共有結合させる工程を包含する、
    ポリエチレングリコールを結合させた抗ヒトNGF抗体Fab'フラグメントを生産する方法:
    (a)配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメントをコードする配列を含むポリヌクレオチド及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;及び
    (b)配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメントをコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
  2. ポリエチレングリコールを結合させた抗ヒトNGF抗体Fab'フラグメントの生産方法であって、
    以下の(a)及び(b)からなる群より選択される宿主細胞を培養し、抗ヒトNGF抗体Fab'フラグメントを発現させる工程、及び、
    チオール反応基を結合させた平均分子量約40KDaのポリエチレングリコール誘導体を使用し、抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントのヒンジ領域システインのチオール基とマレイミド基を共有結合させる工程を包含する、
    ポリエチレングリコールを結合させた抗ヒトNGF抗体Fab'フラグメントを生産する方法:
    (a)配列番号10、配列番号14、又は配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントをコードする配列を含むポリヌクレオチド及び配列番号12に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;及び
    (b)配列番号10、配列番号14、又は配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントをコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと配列番号12に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
  3. ポリエチレングリコールを結合させた、抗ヒトNGF抗体Fab'フラグメントであって、以下の(a)及び(b)からなる群より選択される宿主細胞を培養し、抗ヒトNGF抗体Fab'フラグメントを発現させる工程を包含する抗ヒトNGF抗体Fab'フラグメントを生産する方法によって生産された抗ヒトNGF抗体Fab'フラグメントに、チオール反応基を結合させた平均分子量約40KDaのポリエチレングリコール誘導体を使用し、ヒンジ領域システインのチオール基とマレイミド基を共有結合させる工程を包含する方法によって結合させた、ポリエチレングリコールを結合させた抗ヒトNGF抗体Fab'フラグメント:
    (a)配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメントをコードする配列を含むポリヌクレオチド及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;及び
    (b)配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖フラグメントをコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
  4. ポリエチレングリコールを結合させた、抗ヒトNGF抗体Fab'フラグメントであって、以下の(a)及び(b)からなる群より選択される宿主細胞を培養し、抗ヒトNGF抗体Fab'フラグメントを発現させる工程を包含する抗ヒトNGF抗体Fab'フラグメントを生産する方法によって生産された、抗ヒトNGF抗体Fab'フラグメントに、チオール反応基を結合させた平均分子量約40KDaのポリエチレングリコール誘導体を使用し、ヒンジ領域システインのチオール基とマレイミド基を共有結合させる工程を包含する方法によって結合させた、ポリエチレングリコールを結合させた抗ヒトNGF抗体Fab'フラグメント:
    (a)配列番号10、配列番号14、又は配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントをコードする配列を含むポリヌクレオチド及び配列番号12に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;及び
    (b)配列番号10、配列番号14、又は配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる重鎖フラグメントをコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと配列番号12に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
  5. 抗ヒトNGF抗体Fabフラグメントであって、
    配列番号2の31〜35番目のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号2の50〜65番目のアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号2の98〜110番目のアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域;並びに
    配列番号4の24〜39番目のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号4の55〜61番目のアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号4の94〜102番目のアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域
    を含む、抗ヒトNGF抗体Fabフラグメント。
  6. 抗ヒトNGF抗体Fabフラグメントであって、
    配列番号6の31〜35番目のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号6の50〜65番目のアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号6の98〜110番目のアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域;並びに
    配列番号4の24〜39番目のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号4の55〜61番目のアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号4の94〜102番目のアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域
    を含む、抗ヒトNGF抗体Fabフラグメント。
  7. 配列番号2又は配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、抗ヒトNGF抗体Fabフラグメント。
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