JP6128379B2 - 非接触温度センサ - Google Patents

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Description

本発明は、複写機やプリンタ等の加熱ローラの温度を測定することに好適な非接触温度センサに関する。
一般に、複写機やプリンタに使用されている定着ローラ等の加熱ローラには、その温度を測定するために非接触温度センサが対向状態に設置されている。このような非接触温度センサとしては、例えば特許文献1に、保持体に設置した樹脂フィルムと、該樹脂フィルムに設けられ保持体の導光部を介して赤外線を検出する赤外線検出用感熱素子と、樹脂フィルムに遮光状態に設けられ保持体の温度を検出する温度補償用感熱素子とを備えた赤外線温度センサが提案されている。
また、特許文献2には、レーザプリンタの加熱ローラの温度を測定する赤外線センサにレンズを用いている技術が提案されている。
特開2002−156284号公報 特開平8−16031号公報 特開2004−319737号公報
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
従来の非接触温度センサでは、受光面となる検出部が平面であり、検出エリアは検出部側前方の180°の範囲であり、測定対象物以外の影響を避けるために導光路等の部材を使用して視野角の制限を行っている。しかしながら、導光路等の部材を用いると、赤外線受光面積が減少して感度が低下してしまう問題があった。特に、検出距離(作動距離)を大きくする場合、より長い導光路が必要となり、さらに感度が低下する原因となってしまう。この感度低下を抑制するために、赤外線を透過、屈折する物質(ポリエチレン、ゲルマニウム結晶等)によりレンズを作り、集光する技術も知られているが、このような集光系は構造が複雑化してしまう不都合がある。また、導光路では長さを変えることにより視野角が容易に調整可能であるが、レンズでは焦点距離を変える必要があり、多くの種類のレンズが必要になってしまう。また、ゲルマニウム結晶は熱画像観察装置等には使用されているが、高価でかつレンズ加工も困難で、より一層の高価格化の原因となり、通常の温度センサ用としては不適であった。
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、簡易な構成で感度の低下を抑制しつつ視野角の制限が可能な非接触温度センサを提供することを目的とする。
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係る非接触温度センサは、赤外線を受光するセンサ部と、前記センサ部を支持する支持部材とを備え、前記センサ部が、受光面を上面に有する帯状の絶縁性フィルムと、前記絶縁性フィルムの下面に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子及び第2の感熱素子と、前記絶縁性フィルムの下面に形成され前記第1の感熱素子に接続された導電性の第1の配線膜及び前記第2の感熱素子に接続された導電性の第2の配線膜と、前記第2の感熱素子に対向して前記絶縁性フィルムの上面に設けられた赤外線反射膜と、前記絶縁性フィルムの下面に形成され対応する前記第1の配線膜及び前記第2の配線膜に接続された複数の端子電極とを備え、前記支持部材が、対応する前記複数の端子電極に先端が接続された複数の接続端子と、前記絶縁性フィルムの上面を凹曲面にして湾曲させた状態で前記絶縁性フィルムを支持しているフィルム支持部と、前記接続端子及び前記フィルム支持部とを保持するベース部とを備えていることを特徴とする。
この非接触温度センサでは、支持部材が、絶縁性フィルムの上面を凹曲面にして湾曲させた状態で絶縁性フィルムを支持しているフィルム支持部を備えているので、センサ部が湾曲状態で測定対象物に対向配置されることで、曲率に応じて視野角を容易に制限することが可能になる。すなわち、可撓性を有する絶縁性フィルムを曲げた状態のまま測定対象物に向けることで、曲率に応じた視野角が得られる。特に、測定対象物が、定着ローラ等の円筒形である場合、測定対象物の曲率に沿って湾曲させたセンサ部を対向配置することで、測定対象物以外の範囲を視野内に入れることなく高精度な検出が可能になる。したがって、簡易な構成で、感度を低下させずに視野角の制限が可能であると共に、検出距離(作動距離)も大きくすることができる。
また、赤外線反射膜が形成された第2の感熱素子側の領域をリファレンスとして機能させ、第1の感熱素子側の領域を測定用とすることで、正確な温度測定が可能になる。
第2の発明に係る非接触温度センサは、第1の発明において、前記第1の感熱素子と前記第2の感熱素子とが、前記絶縁性フィルムの曲率を有する方向に並んで設置されていることを特徴とする。
すなわち、この非接触温度センサでは、第1の感熱素子と第2の感熱素子とが絶縁性フィルムの曲率を有する方向に並んで設置されているので、測定対象物の表面が曲率を有する方向で温度の変化が小さい場合に、測定対象物の曲面に沿った状態で湾曲したセンサ部を対向配置することで、正確な温度検出が可能になる。
第3の発明に係る非接触温度センサは、第1の発明において、前記第1の感熱素子と前記第2の感熱素子とが、前記絶縁性フィルムの曲率を有する方向に直交する方向に並んで設置されていることを特徴とする。
すなわち、この非接触温度センサでは、第1の感熱素子と第2の感熱素子とが絶縁性フィルムの曲率を有する方向に直交する方向に並んで設置されているので、測定対象物の表面が曲率を有する方向に直交する方向で温度の変化が小さい場合に、測定対象物の曲面に沿った状態で湾曲したセンサ部を対向配置することで、正確な温度検出が可能になる。
第4の発明に係る非接触温度センサは、第1から第3の発明のいずれかにおいて、前記第1の感熱素子と前記第2の感熱素子とが、前記絶縁性フィルムにサーミスタ材料でパターン形成された薄膜サーミスタ部と、前記薄膜サーミスタ部の上及び下の少なくとも一方に複数の櫛部を有して互いに対向してパターン形成され対応する前記第1の配線膜又は前記第2の配線膜に接続された一対の櫛型電極とを備えていることを特徴とする。
すなわち、この非接触温度センサでは、第1の感熱素子と第2の感熱素子とが、絶縁性フィルムにサーミスタ材料でパターン形成された薄膜サーミスタ部を備えているので、絶縁性フィルムを湾曲させ易いと共に、全体の厚みが薄くなり、小さい体積によって優れた応答性を得ることができる。
第5の発明に係る非接触温度センサは、第4の発明において、前記薄膜サーミスタ部が、一般式:TiAl(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相であることを特徴とする。
一般に、温度センサ等に使用されるサーミスタ材料は、高精度、高感度のために、高いB定数が求められている。従来、このようなサーミスタ材料には、Mn,Co,Fe等の遷移金属酸化物が一般的である。また、これらのサーミスタ材料では、安定なサーミスタ特性を得るために、600℃以上の焼成が必要である。
また、上記のような金属酸化物からなるサーミスタ材料の他に、例えば特許文献3では、一般式:M(但し、MはTa,Nb,Cr,Ti及びZrの少なくとも1種、AはAl,Si及びBの少なくとも1種を示す。0.1≦x≦0.8、0<y≦0.6、0.1≦z≦0.8、x+y+z=1)で示される窒化物からなるサーミスタ用材料が提案されている。また、この特許文献3では、Ta−Al−N系材料で、0.5≦x≦0.8、0.1≦y≦0.5、0.2≦z≦0.7、x+y+z=1としたものだけが実施例として記載されている。このTa−Al−N系材料では、上記元素を含む材料をターゲットとして用い、窒素ガス含有雰囲気中でスパッタリングを行って作製されている。また、必要に応じて、得られた薄膜を350〜600℃で熱処理を行っている。
近年、樹脂フィルム上にサーミスタ材料を形成したフィルム型サーミスタセンサの開発が検討されており、フィルムに直接成膜できるサーミスタ材料の開発が望まれている。すなわち、フィルムを用いることで、フレキシブルなサーミスタセンサが得られることが期待される。さらに、0.1mm程度の厚さを持つ非常に薄いサーミスタセンサの開発が望まれているが、従来はアルミナ等のセラミックス材料を用いた基板材料がしばしば用いられ、例えば、厚さ0.1mmへと薄くすると非常に脆く壊れやすい等の問題があったが、フィルムを用いることで非常に薄いサーミスタセンサが得られることが期待される。
従来、TiAlNからなる窒化物系サーミスタを形成した非接触温度センサでは、フィルム上にTiAlNからなるサーミスタ材料層と電極とを積層して形成する場合、サーミスタ材料層上にAu等の電極層を成膜し、複数の櫛部を有した櫛型にパターニングしている。しかし、このサーミスタ材料層は、曲率半径が大きく緩やかに曲げられた場合には、クラックが生じ難く抵抗値等の電気特性に変化がないが、曲率半径が小さくきつく曲げた場合に、クラックが発生し易くなり、抵抗値等が大きく変化して電気特性の信頼性が低くなってしまう。特に、フィルムを櫛部の延在方向に直交する方向に小さい曲率半径できつく曲げた場合、櫛部の延在方向に曲げた場合に比べて櫛型電極とサーミスタ材料層との応力差により、電極エッジ付近にクラックが発生し易くなり、電気特性の信頼性が低下してしまう不都合があった。
また、樹脂材料で構成されるフィルムは、一般的に耐熱温度が150℃以下と低く、比較的耐熱温度の高い材料として知られるポリイミドでも300℃程度の耐熱性しかないため、サーミスタ材料の形成工程において熱処理が加わる場合は、適用が困難であった。上記従来の酸化物サーミスタ材料では、所望のサーミスタ特性を実現するために600℃以上の焼成が必要であり、フィルムに直接成膜したフィルム型サーミスタセンサを実現できないという問題点があった。そのため、非焼成で直接成膜できるサーミスタ材料の開発が望まれているが、上記特許文献3に記載のサーミスタ材料でも、所望のサーミスタ特性を得るために、必要に応じて、得られた薄膜を350〜600℃で熱処理する必要があった。また、このサーミスタ材料では、Ta−Al−N系材料の実施例において、B定数:500〜3000K程度の材料が得られているが、耐熱性に関する記述がなく、窒化物系材料の熱的信頼性が不明であった。
本発明者らは、窒化物材料の中でもAlN系に着目し、鋭意、研究を進めたところ、絶縁体であるAlNは、最適なサーミスタ特性(B定数:1000〜6000K程度)を得ることが難しいため、Alサイトを電気伝導を向上させる特定の金属元素で置換すると共に、特定の結晶構造とすることで、非焼成で良好なB定数と耐熱性とが得られることを見出した。
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、薄膜サーミスタ部が、一般式:TiAl(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相であるので、非焼成で良好なB定数が得られると共に高い耐熱性を有している。
なお、上記「y/(x+y)」(すなわち、Al/(Ti+Al))が0.70未満であると、ウルツ鉱型の単相が得られず、NaCl型相との共存相又はNaCl型相のみの相となってしまい、十分な高抵抗と高B定数とが得られない。
また、上記「y/(x+y)」(すなわち、Al/(Ti+Al))が0.95をこえると、抵抗率が非常に高く、きわめて高い絶縁性を示すため、サーミスタ材料として適用できない。
また、上記「z」(すなわち、N/(Ti+Al+N))が0.4未満であると、金属の窒化量が少ないため、ウルツ鉱型の単相が得られず、十分な高抵抗と高B定数とが得られない。
さらに、上記「z」(すなわち、N/(Ti+Al+N))が0.5を超えると、ウルツ鉱型の単相を得ることができない。このことは、ウルツ鉱型の単相において、窒素サイトにおける欠陥がない場合の正しい化学量論比は、N/(Ti+Al+N)=0.5であることに起因する。
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る非接触温度センサによれば、支持部材が、絶縁性フィルムの上面を凹曲面にして湾曲させた状態で絶縁性フィルムを支持しているフィルム支持部を備えているので、センサ部が湾曲状態で測定対象物に対向配置されることで、簡易な構成で、感度を低下させずに視野角の制限が可能であると共に、検出距離(作動距離)も大きくすることができる。
また、赤外線反射膜が形成された第2の感熱素子側の領域をリファレンスとして機能させ、第1の感熱素子側の領域を測定用とすることで、正確な温度測定が可能になる。
さらに、薄膜サーミスタ部を、一般式:TiAl(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相である材料とすることで、非焼成で良好なB定数が得られると共に高い耐熱性が得られる。
したがって、本発明の非接触温度センサによれば、高精度な温度測定が可能になり、特に複写機やプリンタ等に搭載されている円筒状の加熱ローラの温度用として好適である。
本発明に係る非接触温度センサの第1実施形態を示す正面図である。 第1実施形態において、非接触温度センサを示す平面図である。 第1実施形態において、サーミスタ用金属窒化物材料の組成範囲を示すTi−Al−N系3元系相図である。 第1実施形態において、薄膜サーミスタ部形成工程を示す平面図及びB−B線断面図である。 第1実施形態において、電極形成工程を示す平面図及びC−C線断面図である。 第1実施形態において、保護膜形成工程を示す平面図及びD−D線断面図である。 本発明に係る非接触温度センサの第2実施形態を示す正面図である。 第2実施形態において、非接触温度センサを示す平面図である。 本発明に係る非接触温度センサの実施例において、定着ローラに対する設置例を示す概略的な斜視図である。 本発明に係る非接触温度センサの実施例において、サーミスタ用金属窒化物材料の膜評価用素子を示す正面図及び平面図である。 本発明に係る実施例及び比較例において、25℃抵抗率とB定数との関係を示すグラフである。 本発明に係る実施例及び比較例において、Al/(Ti+Al)比とB定数との関係を示すグラフである。 本発明に係る実施例において、Al/(Ti+Al)=0.84としたc軸配向が強い場合におけるX線回折(XRD)の結果を示すグラフである。 本発明に係る実施例において、Al/(Ti+Al)=0.83としたa軸配向が強い場合におけるX線回折(XRD)の結果を示すグラフである。 本発明に係る比較例において、Al/(Ti+Al)=0.60とした場合におけるX線回折(XRD)の結果を示すグラフである。 本発明に係る実施例において、a軸配向の強い実施例とc軸配向の強い実施例とを比較したAl/(Ti+Al)比とB定数との関係を示すグラフである。 本発明に係る実施例において、c軸配向が強い実施例を示す断面SEM写真である。 本発明に係る実施例において、a軸配向が強い実施例を示す断面SEM写真である。
以下、本発明に係る非接触温度センサにおける第1実施形態を、図1から図6を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面の一部では、各部を認識可能又は認識容易な大きさとするために必要に応じて縮尺を適宜変更している。
本実施形態の非接触温度センサ1は、図1及び図2に示すように、例えば複写機やプリンタ等の定着ローラ(加熱ローラ)を測定対象物Rとして、この測定対象物Rに対して非接触で対向配置されて温度を検出するセンサであり、赤外線を受光するセンサ部2と、センサ部2を支持する支持部材3とを備えている。
上記センサ部2は、受光面を上面に有する帯状の絶縁性フィルム6と、絶縁性フィルム6の下面に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子4A及び第2の感熱素子4Bと、絶縁性フィルム6の下面に形成され第1の感熱素子4Aに接続された導電性の第1の配線膜9A及び第2の感熱素子4Bに接続された導電性の第2の配線膜9Bと、第2の感熱素子4Bに対向して絶縁性フィルムの上面に設けられた赤外線反射膜5と、絶縁性フィルム6の下面に形成され対応する第1の配線膜9A及び第2の配線膜9Bに接続された複数の端子電極9aとを備えている。
上記支持部材3は、対応する複数の端子電極9aに先端が接続された複数の接続端子11と、絶縁性フィルム6の上面を凹曲面にして湾曲させた状態で絶縁性フィルム6の両端部を支持している一対のフィルム支持部12と、接続端子11及びフィルム支持部12とを保持するベース部13とを備えている。
第1の感熱素子4Aと第2の感熱素子4Bとは、絶縁性フィルム6の曲率を有する方向(絶縁性フィルム6の延在方向)に並んで設置されている。
第1の配線膜9A及び第2の配線膜9Bの端部は、端子電極9aとされており、これらに接続端子11の先端がはんだ付け等により接合されている。すなわち、4つの接続端子11がそれぞれ対応する端子電極9aに接続されている。
上記接続端子11は、リード線やリードフレーム等の金属製の棒状部材であり、基端側がベース部13に埋め込まれて支持されており、基端部がベース部13の側方に突出して表面実装可能な実装用端子11aとなっている。
上記一対のフィルム支持部12は、例えば金属製又は樹脂製の棒状部材で形成されている。このフィルム支持部12は、基端部がベース部13の両端部に固定されており、先端部に絶縁性フィルム6の端部を挟んで保持する又は嵌め込んで保持するフック部12aが形成されている。一対のフィルム支持部12の間隔と高さとは、絶縁性フィルム6の長さと設定する曲率とに応じて設定される。なお、絶縁性フィルム6の曲率を任意に変更可能にするために、一対のフィルム支持部12の間隔や高さを可変する機能を設けても構わない。
また、本実施形態の非接触温度センサ1は、第1の配線膜9A,第2の配線膜9Bの端子電極9aが配されている絶縁性フィルム6の領域を除いて、絶縁性フィルム6上に形成され薄膜サーミスタ部7、櫛型電極8及び第1の配線膜9A,第2の配線膜9Bを覆う保護膜10を備えている。
なお、本実施形態では、薄膜サーミスタ部7の上に櫛型電極8を形成しているが、薄膜サーミスタ部7の下に櫛型電極を形成しても構わない。
上記絶縁性フィルム6は、例えば厚さ50〜125μmのポリイミド樹脂シートで帯状に形成されている。
また、絶縁性フィルム6としては、他にPET:ポリエチレンテレフタレート,PEN:ポリエチレンナフタレート等でも作製できるが、加熱ローラの温度測定用としては、最高使用温度が180℃と高いためポリイミドフィルムが望ましい。
上記薄膜サーミスタ部7は、絶縁性フィルム6の中央部に配され、TiAlNのサーミスタ材料で形成されている。特に、薄膜サーミスタ部7は、一般式:TiAl(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相である。
上記第1の配線膜9A,第2の配線膜9B及び櫛型電極8は、薄膜サーミスタ部7上に形成された膜厚5〜100nmのCr又はNiCrの接合層と、該接合層上にAu等の貴金属で膜厚50〜1000nmで形成された電極層とを有している。
一対の櫛型電極8は、互いに対向状態に配されて交互に櫛部8aが並んだ櫛型パターンとされている。
上記保護膜10は、絶縁性樹脂膜等であり、例えば厚さ20μmのポリイミド膜が採用される。この保護膜10は、端子電極9aの領域を除いて絶縁性フィルム6に印刷される。なお、ポリイミドカバーレイフィルムを絶縁性フィルム6に接着剤で接着して保護膜10としても構わない。
上記薄膜サーミスタ部7は、上述したように、金属窒化物材料であって、一般式:TiAl(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系の結晶系であってウルツ鉱型(空間群P6mc(No.186))の単相である。すなわち、この金属窒化物材料は、図3に示すように、Ti−Al−N系3元系相図における点A,B,C,Dで囲まれる領域内の組成を有し、結晶相がウルツ鉱型である金属窒化物である。
なお、上記点A,B,C,Dの各組成比(x、y、z)(原子%)は、A(15、35、50),B(2.5、47.5、50),C(3、57、40),D(18、42、40)である。
また、この薄膜サーミスタ部7は、例えば膜厚100〜1000nmの膜状に形成され、前記膜の表面に対して垂直方向に延在している柱状結晶である。さらに、膜の表面に対して垂直方向にa軸よりc軸が強く配向していることが好ましい。
なお、膜の表面に対して垂直方向(膜厚方向)にa軸配向(100)が強いかc軸配向(002)が強いかの判断は、X線回折(XRD)を用いて結晶軸の配向性を調べることで、(100)(a軸配向を示すミラー指数)と(002)(c軸配向を示すミラー指数)とのピーク強度比から、「(100)のピーク強度」/「(002)のピーク強度」が1未満であることで決定する。
この非接触温度センサ1の製造方法について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態の非接触温度センサ1の製造方法は、絶縁性フィルム6上に薄膜サーミスタ部7をパターン形成する薄膜サーミスタ部形成工程と、互いに対向した一対の櫛型電極8を薄膜サーミスタ部7上に配して絶縁性フィルム6上に第1の配線膜9A,第2の配線膜9Bをパターン形成する電極形成工程と、絶縁性フィルム6の表面に保護膜10を形成する保護膜形成工程と、センサ部2を支持部材3に取り付けるセンサ部取り付け工程とを有している。
より具体的な製造方法の例としては、厚さ50μmのポリイミドフィルムの絶縁性フィルム6上に、Ti−Al合金スパッタリングターゲットを用い、窒素含有雰囲気中で反応性スパッタ法にて、TiAl(x=9、y=43、z=48)のサーミスタ膜を膜厚200nmで形成する。その時のスパッタ条件は、到達真空度5×10−6Pa、スパッタガス圧0.4Pa、ターゲット投入電力(出力)200Wで、Arガス+窒素ガスの混合ガス雰囲気下において、窒素ガス分率を20%で作製する。
成膜したサーミスタ膜の上にレジスト液をバーコーターで塗布した後、110℃で1分30秒のプリベークを行い、露光装置で感光後、現像液で不要部分を除去し、さらに150℃で5分のポストベークにてパターニングを行う。その後、不要なTiAlのサーミスタ膜を市販のTiエッチャントでウェットエッチングを行い、図4に示すように、レジスト剥離にて所望の形状の薄膜サーミスタ部7にする。
次に、薄膜サーミスタ部7及び絶縁性フィルム6上に、スパッタ法にて、Cr膜の接合層を膜厚20nm形成する。さらに、この接合層上に、スパッタ法にてAu膜の電極層を膜厚100nm形成する。
次に、成膜した電極層の上にレジスト液をバーコーターで塗布した後、110℃で1分30秒のプリベークを行い、露光装置で感光後、現像液で不要部分を除去し、150℃で5分のポストベークにてパターニングを行う。その後、不要な電極部分を市販のAuエッチャント及びCrエッチャントの順番でウェットエッチングを行い、図5に示すように、レジスト剥離にて所望の櫛型電極8及び第1の配線膜9A,第2の配線膜9Bを形成する。
さらに、その上にポリイミドワニスを印刷法により塗布して、250℃、30分でキュアを行い、図6に示すように、20μm厚のポリイミド保護膜10を形成する。
また、絶縁性フィルム6の上面で第2の感熱素子4B側の領域に、Auメッキ等で赤外線反射膜5を形成する。このようにしてフィルム型サーミスタであるセンサ部2が作製される。
次に、図1に示すように、第1の感熱素子4A及び第2の感熱素子4Bをベース部13側に向けて絶縁性フィルム6の両端部を一対のフィルム支持部12のフック部12aに挟み、所定の曲率となるようにセンサ部2を撓ませ湾曲状態として支持部材3に取り付けることで、本実施形態の非接触温度センサ1が作製される。
なお、複数のセンサ部2を同時に作製する場合、絶縁性フィルム6の大判シートに複数の薄膜サーミスタ部7、櫛型電極8、第1の配線膜9A,第2の配線膜9B及び保護膜10を上述のように形成した後に、大判シートから各センサ部2に切断する。
このように本実施形態の非接触温度センサ1では、支持部材3が、絶縁性フィルム6の上面を凹曲面にして湾曲させた状態で絶縁性フィルム6を支持しているフィルム支持部12を備えているので、センサ部2が湾曲状態で測定対象物Rに対向配置されることで、曲率に応じて視野角を容易に制限することが可能になる。すなわち、可撓性を有する絶縁性フィルム6を曲げた状態のまま測定対象物Rに向けることで、曲率に応じた視野角が得られる。
特に、測定対象物Rが、定着ローラ等の円筒形である場合、測定対象物Rの曲率に沿って湾曲させたセンサ部2を対向配置することで、測定対象物R以外の範囲を視野内に入れることなく高精度な検出が可能になる。したがって、簡易な構成で、感度を低下させずに視野角の制限が可能であると共に、検出距離(作動距離)も大きくすることができる。また、赤外線反射膜5が形成された第2の感熱素子4B側の領域をリファレンスとして機能させ、第1の感熱素子4A側の領域を測定用とすることで、正確な温度測定が可能になる。
また、薄い絶縁性フィルム6と、絶縁性フィルム6に直接形成された薄膜サーミスタ部7とにより、湾曲させ易いと共に、全体の厚みが薄くなり、小さい体積によって優れた応答性を得ることができる。
さらに、第1の感熱素子4Aと第2の感熱素子4Bとが絶縁性フィルム6の曲率を有する方向に並んで設置されているので、測定対象物Rの表面が曲率を有する方向で温度の変化が小さい場合に、測定対象物Rの曲面に沿った状態で湾曲したセンサ部2を対向配置することで、正確な温度検出が可能になる。
また、薄膜サーミスタ部7が、一般式:TiAl(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系の結晶系であってウルツ鉱型の単相であるので、非焼成で良好なB定数が得られると共に高い耐熱性を有している。
また、この金属窒化物材料では、膜の表面に対して垂直方向に延在している柱状結晶であるので、膜の結晶性が高く、高い耐熱性が得られる。
さらに、この金属窒化物材料では、膜の表面に対して垂直方向にa軸よりc軸を強く配向させることで、a軸配向が強い場合に比べて高いB定数が得られる。
なお、本実施形態のサーミスタ材料層(薄膜サーミスタ部7)の製造方法では、Ti−Al合金スパッタリングターゲットを用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って成膜するので、上記TiAlNからなる上記金属窒化物材料を非焼成で成膜することができる。
また、反応性スパッタにおけるスパッタガス圧を、0.67Pa未満に設定することで、膜の表面に対して垂直方向にa軸よりc軸が強く配向している金属窒化物材料の膜を形成することができる。
したがって、本実施形態の非接触温度センサ1では、絶縁性フィルム6上に上記サーミスタ材料層で薄膜サーミスタ部7が形成されているので、非焼成で形成され高B定数で耐熱性の高い薄膜サーミスタ部7により、樹脂フィルム等の耐熱性の低い絶縁性フィルム6を用いることができると共に、良好なサーミスタ特性を有した薄型でフレキシブルなサーミスタセンサが得られる。
また、従来アルミナ等のセラミックスを用いた基板材料がしばしば用いられ、例えば、厚さ0.1mmへと薄くすると非常に脆く壊れやすい等の問題があったが、本発明においてはフィルムを用いることができるので、上記のように、例えば厚さ0.1mmの非常に薄いフィルム型サーミスタセンサ(センサ部2)を得ることができる。
次に、本発明に係る非接触温度センサの第2実施形態について、図7及び図8を参照して以下に説明する。なお、以下の実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、第1の感熱素子4Aと第2の感熱素子4Bとが、絶縁性フィルム6の曲率を有する方向に並んで設置されているのに対し、第2実施形態の非接触温度センサ21では、図7及び図8に示すように、センサ部22の第1の感熱素子4Aと第2の感熱素子4Bとが、絶縁性フィルム6の曲率を有する方向に直交する方向(絶縁性フィルム6の延在方向に直交する方向)に並んで設置されている点である。
また、第2実施形態では、赤外線反射膜5が絶縁性フィルム6の延在方向に長く形成されている。
このように第2実施形態では、第1の感熱素子4Aと第2の感熱素子4Bとが絶縁性フィルム6の曲率を有する方向に直交する方向に並んで設置されているので、測定対象物Rの表面が曲率を有する方向に直交する方向で温度の変化が小さい場合に、測定対象物Rの曲面に沿った状態で湾曲したセンサ部22を対向配置することで、正確な温度検出が可能になる。
次に、本発明に係る非接触温度センサについて、上記実施形態に基づいて作製した実施例により評価した結果を、図9から図18を参照して具体的に説明する。
複写機の定着ローラを測定対象物Rとし、その端部の測温を行うため、図9に示すように、第1実施形態の非接触温度センサ1を、定着ローラの端部に対向状態にして設置した。このとき、湾曲したセンサ部2が定着ローラの円周方向に沿うように配し、当該円周方向に第1の感熱素子4Aと第2の感熱素子4Bとが並ぶように設置した。
また、定着ローラの中央部の測温を行うため、第2実施形態の非接触温度センサ21を、定着ローラの中央部に対向状態にして設置した。このとき、湾曲したセンサ部22が定着ローラの円周方向に沿うように配し、当該円周方向に直交する方向(定着ローラの軸方向)に第1の感熱素子4Aと第2の感熱素子4Bとが並ぶように設置した。なお、定着ローラの直径は30mm、検出距離(作動距離)を5mmとし、センサ部22の曲率半径を20mmとした。また、図9では、分かり易くするために、定着ローラである測定対象物Rに対して対向配置される第1実施形態のセンサ部2及び第2実施形態のセンサ部22のみを簡易的に図示している。
定着ローラの端部では、円周方向の温度がほぼ一定であるが、長手方向(軸方向)には大きな温度分布が生じているため、従来は接触式温度センサを使用していたが、応答速度が遅く(数秒〜10秒程度)、最適な制御を行うことが困難であった。また、従来の非接触温度センサを使用する場合、導光路を十分に長くして視野を限定する必要があり、感度低下を生じて十分なS/N比が得られないため、やはり最適な制御を行うことが困難であった。これらに対して上記本発明の実施例では、第1実施形態の非接触温度センサ1を定着ローラの端部に上記のようにして対向配置することで、非常に早い応答時間(0.3秒)が得られた。これにより、最適な制御を行うことができ、S/N比も約40dBとなった。
また、定着ローラの中央部は被定着物(紙)が接触するために温度変化が大きく、円周方向に温度分布が生じている。このため、第2実施形態の非接触温度センサ21を定着ローラの中央部に上記のようにして対向配置した。この結果、応答速度は0.1秒と非常に早く、S/N比は約50dBとなり、最適な制御を行うには十分な値となった。
<膜評価用素子の作製>
本発明のサーミスタ材料層(薄膜サーミスタ部7)の評価を行う実施例及び比較例として、図10に示す膜評価用素子121を次のように作製した。
まず、反応性スパッタ法にて、様々な組成比のTi−Al合金ターゲットを用いて、Si基板Sとなる熱酸化膜付きSiウエハ上に、厚さ500nmの表1に示す様々な組成比で形成された金属窒化物材料の薄膜サーミスタ部7を形成した。その時のスパッタ条件は、到達真空度:5×10−6Pa、スパッタガス圧:0.1〜1Pa、ターゲット投入電力(出力):100〜500Wで、Arガス+窒素ガスの混合ガス雰囲気下において、窒素ガス分率を10〜100%と変えて作製した。
次に、上記薄膜サーミスタ部7の上に、スパッタ法でCr膜を20nm形成し、さらにAu膜を100nm形成した。さらに、その上にレジスト液をスピンコーターで塗布した後、110℃で1分30秒のプリベークを行い、露光装置で感光後、現像液で不要部分を除去し、150℃で5分のポストベークにてパターニングを行った。その後、不要な電極部分を市販のAuエッチャント及びCrエッチャントによりウェットエッチングを行い、レジスト剥離にて所望の櫛形電極部124aを有するパターン電極124を形成した。そして、これをチップ状にダイシングして、B定数評価及び耐熱性試験用の膜評価用素子121とした。
なお、比較としてTiAlの組成比が本発明の範囲外であって結晶系が異なる比較例についても同様に作製して評価を行った。
<膜の評価>
(1)組成分析
反応性スパッタ法にて得られた薄膜サーミスタ部7について、X線光電子分光法(XPS)にて元素分析を行った。このXPSでは、Arスパッタにより、最表面から深さ20nmのスパッタ面において、定量分析を実施した。その結果を表1に示す。なお、以下の表中の組成比は「原子%」で示している。
なお、上記X線光電子分光法(XPS)は、X線源をMgKα(350W)とし、パスエネルギー:58.5eV、測定間隔:0.125eV、試料面に対する光電子取り出し角:45deg、分析エリアを約800μmφの条件下で定量分析を実施した。なお、定量精度について、N/(Ti+Al+N)の定量精度は±2%、Al/(Ti+Al)の定量精度は±1%ある。
(2)比抵抗測定
反応性スパッタ法にて得られた薄膜サーミスタ部7について、4端子法にて25℃での比抵抗を測定した。その結果を表1に示す。
(3)B定数測定
膜評価用素子121の25℃及び50℃の抵抗値を恒温槽内で測定し、25℃と50℃との抵抗値よりB定数を算出した。その結果を表1に示す。
なお、本発明におけるB定数算出方法は、上述したように25℃と50℃とのそれぞれの抵抗値から以下の式によって求めている。
B定数(K)=ln(R25/R50)/(1/T25−1/T50)
R25(Ω):25℃における抵抗値
R50(Ω):50℃における抵抗値
T25(K):298.15K 25℃を絶対温度表示
T50(K):323.15K 50℃を絶対温度表示
これらの結果からわかるように、TiAlの組成比が図3に示す3元系の三角図において、点A,B,C,Dで囲まれる領域内、すなわち、「0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1」となる領域内の実施例全てで、抵抗率:100Ωcm以上、B定数:1500K以上のサーミスタ特性が達成されている。
上記結果から25℃での抵抗率とB定数との関係を示したグラフを、図11に示す。また、Al/(Ti+Al)比とB定数との関係を示したグラフを、図12に示す。これらのグラフから、Al/(Ti+Al)=0.7〜0.95、かつ、N/(Ti+Al+N)=0.4〜0.5の領域で、結晶系が六方晶のウルツ鉱型の単一相であるものは、25℃における比抵抗値が100Ωcm以上、B定数が1500K以上の高抵抗かつ高B定数の領域が実現できている。なお、図12のデータにおいて、同じAl/(Ti+Al)比に対して、B定数がばらついているのは、結晶中の窒素量が異なるためである。
表1に示す比較例3〜12は、Al/(Ti+Al)<0.7の領域であり、結晶系は立方晶のNaCl型となっている。また、比較例12(Al/(Ti+Al)=0.67)では、NaCl型とウルツ鉱型とが共存している。このように、Al/(Ti+Al)<0.7の領域では、25℃における比抵抗値が100Ωcm未満、B定数が1500K未満であり、低抵抗かつ低B定数の領域であった。
表1に示す比較例1,2は、N/(Ti+Al+N)が40%に満たない領域であり、金属が窒化不足の結晶状態になっている。この比較例1,2は、NaCl型でも、ウルツ鉱型でもない、非常に結晶性の劣る状態であった。また、これら比較例では、B定数及び抵抗値が共に非常に小さく、金属的振舞いに近いことがわかった。
(4)薄膜X線回折(結晶相の同定)
反応性スパッタ法にて得られた薄膜サーミスタ部7を、視斜角入射X線回折(Grazing Incidence X-ray Diffraction)により、結晶相を同定した。この薄膜X線回折は、微小角X線回折実験であり、管球をCuとし、入射角を1度とすると共に2θ=20〜130度の範囲で測定した。
その結果、Al/(Ti+Al)≧0.7の領域においては、ウルツ鉱型相(六方晶、AlNと同じ相)であり、Al/(Ti+Al)<0.65の領域においては、NaCl型相(立方晶、TiNと同じ相)であった。また、0.65< Al/(Ti+Al)<0.7においては、ウルツ鉱型相とNaCl型相との共存する結晶相であった。
このようにTiAlN系においては、高抵抗かつ高B定数の領域は、Al/(Ti+Al)≧0.7のウルツ鉱型相に存在している。なお、本発明の実施例では、不純物相は確認されておらず、ウルツ鉱型の単一相である。
なお、表1に示す比較例1,2は、上述したように結晶相がウルツ鉱型相でもNaCl型相でもなく、本試験においては同定できなかった。また、これらの比較例は、XRDのピーク幅が非常に広いことから、非常に結晶性の劣る材料であった。これは、電気特性により金属的振舞いに近いことから、窒化不足の金属相になっていると考えられる。
次に、本発明の実施例は全てウルツ鉱型相の膜であり、配向性が強いことから、Si基板S上に垂直な方向(膜厚方向)の結晶軸においてa軸配向性が強いか、c軸配向性が強いかであるかについて、XRDを用いて調査した。この際、結晶軸の配向性を調べるために、(100)(a軸配向を示すミラー指数)と(002)(c軸配向を示すミラー指数)とのピーク強度比を測定した。
その結果、スパッタガス圧が0.67Pa未満で成膜された実施例は、(100)よりも(002)の強度が非常に強く、a軸配向性よりc軸配向性が強い膜であった。一方、スパッタガス圧が0.67Pa以上で成膜された実施例は、(002)よりも(100)の強度が非常に強く、c軸配向よりa軸配向が強い材料であった。
なお、同じ成膜条件でポリイミドフィルムに成膜しても、同様にウルツ鉱型相の単一相が形成されていることを確認している。また、同じ成膜条件でポリイミドフィルムに成膜しても、配向性は変わらないことを確認している。
c軸配向が強い実施例のXRDプロファイルの一例を、図13に示す。この実施例は、Al/(Ti+Al)=0.84(ウルツ鉱型、六方晶)であり、入射角を1度として測定した。この結果からわかるように、この実施例では、(100)よりも(002)の強度が非常に強くなっている。
また、a軸配向が強い実施例のXRDプロファイルの一例を、図14に示す。この実施例は、Al/(Ti+Al)=0.83(ウルツ鉱型、六方晶)であり、入射角を1度として測定した。この結果からわかるように、この実施例では、(002)よりも(100)の強度が非常に強くなっている。
さらに、この実施例について、入射角を0度として、対称反射測定を実施した。なお、グラフ中(*)は装置由来のピークであり、サンプル本体のピーク、もしくは、不純物相のピークではないことを確認している(なお、対称反射測定において、そのピークが消失していることからも装置由来のピークであることがわかる。)。
なお、比較例のXRDプロファイルの一例を、図15に示す。この比較例は、Al/(Ti+Al)=0.6(NaCl型、立方晶)であり、入射角を1度として測定した。ウルツ鉱型(空間群P6mc(No.186))として指数付けできるピークは検出されておらず、NaCl型単独相であることを確認した。
次に、ウルツ鉱型材料である本発明の実施例に関して、さらに結晶構造と電気特性との相関を詳細に比較した。
表2及び図16に示すように、Al/(Ti+Al)比がほぼ同じ比率のものに対し、基板面に垂直方向の配向度の強い結晶軸がc軸である材料(実施例5,7,8,9)とa軸である材料(実施例19,20,21)とがある。
これら両者を比較すると、Al/(Ti+Al)比が同じであると、a軸配向が強い材料よりもc軸配向が強い材料の方が、B定数が100K程度大きいことがわかる。また、N量(N/(Ti+Al+N))に着目すると、a軸配向が強い材料よりもc軸配向が強い材料の方が、窒素量がわずかに大きいことがわかる。理想的な化学量論比:N/(Ti+Al+N)=0.5であることから、c軸配向が強い材料のほうが、窒素欠陥量が少なく理想的な材料であることがわかる。
<結晶形態の評価>
次に、薄膜サーミスタ部7の断面における結晶形態を示す一例として、熱酸化膜付きSi基板S上に成膜された実施例(Al/(Ti+Al)=0.84,ウルツ鉱型、六方晶、c軸配向性が強い)の薄膜サーミスタ部7における断面SEM写真を、図17に示す。また、別の実施例(Al/(Ti+Al)=0.83,ウルツ鉱型六方晶、a軸配向性が強い)の薄膜サーミスタ部7における断面SEM写真を、図18に示す。
これら実施例のサンプルは、Si基板Sをへき開破断したものを用いている。また、45°の角度で傾斜観察した写真である。
これらの写真からわかるように、いずれの実施例も高密度な柱状結晶で形成されている。すなわち、c軸配向が強い実施例及びa軸配向が強い実施例の共に基板面に垂直な方向に柱状の結晶が成長している様子が観測されている。なお、柱状結晶の破断は、Si基板Sをへき開破断した際に生じたものである。
<膜の耐熱試験評価>
表1に示す実施例及び比較例において、大気中,125℃,1000hの耐熱試験前後における抵抗値及びB定数を評価した。その結果を表3に示す。なお、比較として従来のTa−Al−N系材料による比較例も同様に評価した。
これらの結果からわかるように、Al濃度及び窒素濃度は異なるものの、Ta−Al−N系である比較例と同じB定数で比較したとき、耐熱試験前後における電気特性変化でみたときの耐熱性は、Ti−Al−N系のほうが優れている。なお、実施例5,8はc軸配向が強い材料であり、実施例21,24はa軸配向が強い材料である。両者を比較すると、c軸配向が強い実施例の方がa軸配向が強い実施例に比べて僅かに耐熱性が向上している。
なお、Ta−Al−N系材料では、Taのイオン半径がTiやAlに比べて非常に大きいため、高濃度Al領域でウルツ鉱型相を作製することができない。TaAlN系がウルツ鉱型相でないがゆえ、ウルツ鉱型相のTi−Al−N系の方が、耐熱性が良好であると考えられる。
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述したように感熱素子としては薄膜サーミスタ部を用いたものが好ましいが、チップサーミスタ等を用いても構わない。
また、本発明は、複写機等の定着ローラを温度の測定対象物とする場合に好適であるが、本発明では検出距離(作動距離)を大きく設定可能であるため、より高温の検出物として自動車の排気マフラーやエキゾーストパイプ等の温度検出に用いても構わない。特に、本発明は、表面が凸曲面である円筒状や楕円状の形態を有したものを測定対象物とすることに適している。
1,21…非接触温度センサ、2,22…センサ部、3…支持部材、4A…第1の感熱素子、4B…第2の感熱素子、5…赤外線反射膜、6…絶縁性フィルム、7…薄膜サーミスタ部、8…櫛型電極、8a…櫛部、9a…端子電極、9A…第1の配線膜、9B…第2の配線膜、11…接続端子、12…フィルム支持部、13…ベース部

Claims (5)

  1. 赤外線を受光するセンサ部と、
    前記センサ部を支持する支持部材とを備え、
    前記センサ部が、受光面を上面に有する帯状の絶縁性フィルムと、前記絶縁性フィルムの下面に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子及び第2の感熱素子と、前記絶縁性フィルムの下面に形成され前記第1の感熱素子に接続された導電性の第1の配線膜及び前記第2の感熱素子に接続された導電性の第2の配線膜と、前記第2の感熱素子に対向して前記絶縁性フィルムの上面に設けられた赤外線反射膜と、前記絶縁性フィルムの下面に形成され対応する前記第1の配線膜及び前記第2の配線膜に接続された複数の端子電極とを備え、
    前記支持部材が、対応する前記複数の端子電極に先端が接続された複数の接続端子と、前記絶縁性フィルムの上面を凹曲面にして湾曲させた状態で前記絶縁性フィルムを支持しているフィルム支持部と、前記接続端子及び前記フィルム支持部とを保持するベース部とを備え、
    一対の前記フィルム支持部の先端部に、前記絶縁性フィルムの端部を挟んで保持する又は嵌め込んで保持するフック部が形成されていることを特徴とする非接触温度センサ。
  2. 請求項1に記載の非接触温度センサにおいて、
    前記第1の感熱素子と前記第2の感熱素子とが、前記絶縁性フィルムの曲率を有する方向に並んで設置されていることを特徴とする非接触温度センサ。
  3. 請求項1に記載の非接触温度センサにおいて、
    前記第1の感熱素子と前記第2の感熱素子とが、前記絶縁性フィルムの曲率を有する方向に直交する方向に並んで設置されていることを特徴とする非接触温度センサ。
  4. 請求項1から3のいずれか一項に記載の非接触温度センサにおいて、
    前記第1の感熱素子と前記第2の感熱素子とが、前記絶縁性フィルムにサーミスタ材料でパターン形成された薄膜サーミスタ部と、前記薄膜サーミスタ部の上及び下の少なくとも一方に複数の櫛部を有して互いに対向してパターン形成され対応する前記第1の配線膜又は前記第2の配線膜に接続された一対の櫛型電極とを備えていることを特徴とする非接触温度センサ。
  5. 請求項4に記載の非接触温度センサにおいて、
    前記薄膜サーミスタ部が、一般式:TiAl(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相であることを特徴とする非接触温度センサ。
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