センサーコイルは、金属物の検出装置を始め、様々な分野で利用されている。その代表的な例は、商品の製造工程で、商品に混入した金属異物の検出である。具体的には、食品、医薬品等の製造過程において、搬送機、洗浄機、攪拌機、切断機、練機、蒸し器等の各種容器、刃物、篩等の一部が、摩耗、金属疲労等を受けて、むくれ、破断、剥がれ、削れ、欠け等による欠片が製品に異物として入り込まれることがある。これらの異物を、センサーコイルを用いた検知手段で検知して、商品から排除している。
センサーコイルでは、磁界の変化、又は、低周波の電磁波を検知している。このように、従来は、センサーコイルで磁界や低周波電磁波を検出しようとするとき、その周囲に、低周波数の電磁波雑音が発生し、検知信号と一緒に検知される。このような電磁波雑音としては、検知手段の周囲に、突発的に発生ものであり、その発生源としては、電気モータ、電線ケーブル、電磁弁、ポンプ、空調機等を例示できる。特に、検知手段が生産現場であるとき、このような電磁波雑音が沢山あり、その発生源が特定できるものがあれば、できない場合もあり得る。
また、強磁性体が検知手段の周囲の磁力線を横切り又は鎖交すると、これが電磁波雑音の発生源になる。このような強磁性体としては、生産現場に故意に用いることはほとんどないが、場合によって、鉄の工具や刃物等が成りえる。更に、検知手段の周囲に電力ケーブルが敷設されていた場合、その電力ケーブルに大電流が流れる度に、大きな磁界がこの電力ケーブルから発生して、電磁波雑音の発生源になる。つまり、センサーコイルの周囲の磁界を乱す。
この大電流としては、動力ポンプの起動又は停止、雷による瞬時停電、大負荷の入切等の大きな電圧変動が例示できる。これらの電磁波雑音で、検知手段の周囲の磁場が乱れ、これがセンサーコイルに電磁誘導雑音となって、検知信号に重畳される。センサーコイルの応用として、本発明の発明者等は、特許文献1〜3に記載の発明を提案した。特許文献1〜3に記載された装置は、食品等の被検出物中の金属異物を検知するものであり、センサーコイルを用いて微小な磁性体の検知に成功した。
具体的には、特許文献1には、被検出物中に混入した金属異物を検知する金属異物検知方法と金属異物検知装置が開示されている。この発明によると、被検出物中に混入したステンレス等の金属異物を検知するのみならず、導電性の包装材料で包まれた食品、医薬品、工業用材料等の被検出物中に混入した金属異物も検知できる。
特許文献1のこの金属異物検知装置は、コアに導線を巻いた構成の1つのコイルを有した検出部により微少磁界を発生させて、微少磁界に応答した金属異物からの検出磁界をコイルの検出電圧、又は検出電流として検出して検出信号を出力するものである。微少磁界は、コイルに、数百Hzから数十kHzの周波数、又は直流で印加される電圧であって供給される電流が微少で、かつコイルを構成するコアの磁化(B−H)特性内の、磁化特性を表わす磁束密度(B)と磁界(H)が0付近の微少の値である非線形部分を利用したものである。
金属異物がコイル付近を通過するとき、コイルに鎖交する磁力線の形成が乱れ、信号電圧の振幅、位相、周波数が変化し、これにより、金属異物を検知する。この装置は、1mm以下の金属異物を検知できる優れた感度をもつものである。また、アルミニウム包装内の針等の細長い金属物と、金属粉末からなる酸化防止剤の検知が可能である。特許文献3に開示されたこの金属探知機用センサーは、被検出物中の金属異物を探知するための金属探知機用センサーであって、コアに接触して配置され、静磁場による磁力線を発生させ、金属異物を磁化するための磁石とからなる。
特許文献3では、E型等の鉄心に銅線コイルを巻いた2対のセンサーコイルに交流電圧を印加すると交番磁界が発生する。このとき、2対のセンサーコイルを平衡又は非平衡ブリッジ回路になるよう接続しておく。交番磁界が変化されない限りブリッジ回路の出力電流は一定である。交番磁界を発生している2対のセンサーコイルの上下間を磁性体又は磁化された金属異物を含む被検査物が通過するとき、交番磁界の磁力線のフォーム(形成)が乱される。
このときセンサーコイルを流れる電流が変化し、平衡又は非平衡ブリッジ回路の出力電圧が変化する。この出力信号電圧の変化をもって金属異物が検知できる。特許文献4に開示された金属探知機は、磁石ブースターの磁石を、センサーコイル近傍に配置、又は直接センサーに磁石を固定し、センサーコイルに鎖交する不平等な静磁場を形成させている。被検出物がこの不平等な磁場を横切ったとき金属異物が一時的に磁化されると同時に、磁化された被検出物から発生する磁場が、センサーコイルに鎖交する磁場を乱す。
その磁場の乱れをセンサーコイルが検出信号として送出している。従来の金属検知器は、図6に図示したように、検知センサー70、71を用いて、被検査物2を2回検査している。これは、上述のように電磁波雑音等の雑音を確実に検知し排除するためである。検知センサー70、71は、上下2本ずつの2対のセンサーコイル5の4本を用いている。検知センサー70、71は、互いにL距離、例えば、数十センチ程離して設置されている。
検知センサー70と検知センサー71が同時に同じ検知信号を出力した場合、異物ではなく、雑音と判断し、最終的に、良品信号を出力している。そのために、検査中の被検査物2が、検知センサー71を通過しない限り、次の被検査物2が搬送できず、生産ラインの処理速度が制限を受ける。その理由は、異物の混入した被検査物2が2個以上続いて搬送された場合、検知センサー70、71の両方が同時に異物を示す信号を発生する領域が存在し、電磁波雑音と区別が付かないためである。
一般に、食品工場等の製造環境では、モータや電磁バルブ等その周囲の磁界の乱れを誘発する機器を多数使用している。センサーコイル型の金属検知器又は金属探知機は、その近傍で発生される低周波電磁波雑音をセンサーコイルが偶発的に拾い、それが原因で、誤検知し、異物有りの信号を出力するという欠点を持つ。この誤検知の対策としてセンサーコイルと電磁波雑音の発生源に対しては様々対策をとっている。例えば、電磁波雑音の発生源が特定できる場合は、金属検知器から可能な限り発生源を遠くに離すことで、センサーコイルが拾う低周波電磁波雑音を低減する。
また、電磁波雑音の発生源が特定できる場合は、その発生源を撤去又は機能停止している。更に、電磁波雑音の発生源が指向性(物理的方向等)がある場合は、その電磁波雑音の放射角度を変更させ、センサーコイルがいない方向へ向かわせている。また、電磁波雑音の発生源を電磁波シールドで被覆、又は、電磁波雑音の発生源を電磁波防止ケースの中に入れる。
上述のように電磁波雑音は、センサーコイルで検出信号と同時に検知され、その消去が重要である。従来からは、低周波又は高周波の励磁周波数が決まっていて、検知対象信号がその励磁周波数に依存して発生又は変位する場合、例えば120dB以上の、ダイナミックリザーブの非常に大きなロックインアンプ等を用いた信号抽出法がある。しかし、この信号抽出法は、検出できる信号のレベル等に限界がある。
また、特に、検出対象電磁波信号と全く同じ周波数帯域で、且つ検出対象電磁波信号から数十倍〜数百倍以上の大きさの電磁波雑音があると、その除去は非常に難しい。上述のように大きな電磁波雑音は、生産工場で、製品の異物検査のためのセンサーコイルを用いるとき、生産設備から稀ではあっても発生し、検知されるので、異物検査の信頼性が損なわれることがある。上述のような様々対策をとっても、電磁波雑音の低減や消去が出来なかったり、電磁波雑音の発生源が生産ラインの主要機器の場合、又は、設備上、離したり位置変更したり、停止又は撤去すること等が出来無い場合がある。
このような止むを得ない場合の対策として、センサーコイルの検知感度を下げるか、又は、可能ならばラインの設計変更を行う等の対策をとって対処することがある。このように従来の金属検知器は、電磁波雑音の発生源の影響を受け易く、その対策には手間が取られている。このような情況の中で、電磁波雑音の影響を受けないで、又は、それを最小限に抑えて、センサーコイルで低周波信号の検知が望まれている。
本発明は上述のような技術背景のもとになされたものであり、下記の目的を達成する。
本発明の目的は、センサーコイルで低周波信号を検出するとき、周囲環境や電源ラインから拾う低周波の電磁波雑音を消去して、低周波信号を検出するための低周波信号の検出方法を提供する。
本発明の他の目的は、磁界の変化又は低周波電磁波をセンサーコイルで検知するとき、それに含まれる低周波雑音信号を除去して、低周波信号を検出するための低周波信号の検出方法を提供する。
本発明の更に他の目的は、磁界の変化又は低周波電磁波をセンサーコイルで検知するとき、それに含まれる生産ライン周囲の低周波の電磁波雑音を含んだ信号の中から、低周波信号を検出するための低周波信号の検出方法を提供する。
本発明は、前記目的を達成するため、次の手段を採る。
本発明の低周波信号の検出方法は、検知手段で磁界又は電磁波を検知した検知信号の中から、雑音信号を除去して、検出信号を求めるための低周波信号の検出方法であって、
前記検知手段は、磁場を発生させるための磁場発生手段、並びに、前記磁場の中で配置された第1センサーコイル、及び、前記第1センサーコイルの近傍に前記磁場の中で配置された第2センサーコイルからなり、
前記第1センサーコイルと前記第2センサーコイルは、それぞれ、周囲の前記磁界の変化、又は、低周波電磁波を前記検知するためのもので、コアに導線を巻いた構成で、かつ、前記コアの磁化(B−H)特性の磁束密度(B)と磁界(H)が0付近の微少な値である非線形部分を利用して前記検知を行うものであり、
前記第1センサーコイル及び前記第2センサーコイルには直流から10kHz以下の低周波数の電流を流して励磁し、
前記第1センサーコイルの前記コアに前記導線を巻いた面である第1センサーコイル表面は、被検知物が流れる搬送手段へ向けて配置されて、前記磁界が変化する変化磁界又は前記低周波電磁波を前記検知し、
前記第2センサーコイルの前記コアに前記導線を巻いた面である第2センサーコイル表面は、前記第1センサーコイル表面の反対方向又は前記雑音信号の発生源である雑音信号発生源へ向けて配置され、
前記第1センサーコイルで検知した第1検知信号と、前記第2センサーコイルで検知した第2検知信号の差を示す差異信号を、信号処理手段で求めて、低周波の前記雑音信号を除去し、
前記差異信号が所定の振幅値以上のとき、前記低周波の前記雑音信号に由来しない信号で、前記変化磁界又は前記低周波電磁波を示す前記検出信号を前記信号処理手段が出力する
ことを特徴とする。
以下は、本発明について詳しく説明する。
本発明においては、低周波信号又は低周波電磁波とは、5Hz以上かつ10Hz以下の周波数を有する信号又は電磁波を言う。本発明の低周波信号の検出方法は、2本のセンサーコイルからなる検知手段で、周囲の磁界の変化や低周波電磁波等を検知し、低周波電磁波雑音を除去して、検出信号を求める発明である。検知手段は、形成された磁場中に配置された、第1センサーコイルと、その近傍に配置された第2センサーコイルからなる。
第1センサーコイルと第2センサーコイルは、コアに導線を巻いた構成で、かつ、コアの磁化(B−H)特性の磁束密度(B)と磁界(H)が0付近の微少の値である非線形部分を利用して検知を行うものである。低周波電磁波雑音の除去は、信号処理手段で、第1センサーコイルで検知した第1検知信号と、第2センサーコイルで検知した第2検知信号を信号処理して行う。具体的には、第1検知信号と第2検知信号の差を示す差異信号を、信号処理手段で求めて、低周波電磁波雑音を除去する。
信号処理手段は、差異信号を判定して、検出対象である変化磁界又は低周波電磁波を示す信号である否かを判定する。差異信号が所定の振幅値以上のとき、信号処理手段は、低周波電磁波雑音に由来しない信号で、変化磁界又は低周波電磁波を示す検出信号として出力する。検知手段は、第1センサーコイルと第2センサーコイル上に磁場を生成しておき、その磁場の乱れを検知する。磁場の乱れは、その磁場の中に、磁性体が移動又は通過するときに起こる。
磁場の生成は、第1センサーコイルと第2センサーコイルを励磁して形成することができる。この励磁は、直流から10kHz以下の低周波数の電流を第1センサーコイルと第2センサーコイルに流すものである。また、磁場の生成は、第1センサーコイルと第2センサーコイルの付近にマグネットブースタを配置して、マグネットブースタが形成する磁界を利用することができる。更に、磁場の生成は、第1センサーコイルと第2センサーコイルの励磁と、マグネットブースタを組み合わせることができる。
このように、生成された磁場が乱れ又は揺らぐとき、これをセンサーコイルで検知している。第1センサーコイルと第2センサーコイルは、コアに前記導線を巻いた面を、表面とする。この表面は、磁界の磁束線が出入りする面であるため検出面と言うこともできる。表面の反対側の面は裏面と言う。裏面は、コアの背中で、磁束線が出入れしない面である。この磁束線の変化は、結果として、第1センサーコイルと第2センサーコイルで検出された変化磁界になる。
第1センサーコイルの表面は、検出対象の変化磁界、低周波電磁波の発生源へ向けて配置される。少なくともこのように配置すると、検出対象の変化磁界、低周波電磁波が第1センサーコイルで効率的に検知できる。第2センサーコイルの表面は、第1センサーコイルの表面の反対方向へ向けて配置される。この反対方向とは、第2センサーコイルの表面と第1センサーコイルの表面それぞれの垂直線は方向が180度異なり、反対方向へ向く方向である。
言い換えると、第2センサーコイルの裏面と第1センサーコイルの裏面が接触又は対向して配置される。このような配置では、検出対象の変化磁界、低周波電磁波が第2センサーコイルで検出し難い。少なくとも、このような配置では、検出対象の変化磁界、低周波電磁波は、第2センサーコイルより、第1センサーコイルで検出される。また、第2センサーコイルの表面は雑音信号の発生源である雑音信号発生源へ向けて配置されることもできる。
雑音信号発生源は、現実的に、第1センサーコイルと第2センサーコイルからある程度の距離離れているので、第1センサーコイルと第2センサーコイルは同じ雑音信号を検知する。言い換えると、雑音信号発生源から発生された雑音信号は、第1センサーコイルと第2センサーコイルに同じく検知される。上述の変化磁界は、静磁界の中で、磁性体等の磁界発生源が移動することに起こる。磁性体が移動すると、その磁束が、第1センサーコイルの磁束に影響を与え、これが、第1センサーコイルを流れる電流を変化させる。
この電流の変化が検出信号として出力される。低周波雑音信号の例としては、生産現場からみると、電気回線、電気機器、電子機器、移動若しくは回転する永久磁石、電力線等から発生する電磁波雑音である。信号処理手段は、第1検知信号と第2検知信号を整流する。整流した第2検知信号を位相反転させて、整流した第1検知信号と加算して、差異信号を求める。この位相反転と加算によって、低周波雑音信号が消去され、検出信号のみが残り、差異信号として出力される。
第1センサーコイルと第2センサーコイルは、その表面を反対側へ向け、その背中を合わせて配置されることができる。無論、第1センサーコイルと第2センサーコイルは、その長手方向の軸線を、所定角度を有するように、配置されることができるが、これは、雑音信号の消去感度を確認しながら、微調整して決定されることが好ましい。一般的には、この所定角度が0にし、裏面を合わせて平行に配置されることが好ましい。このように、検出対象である変化磁界又は低周波電磁波を検知手段で検出するとき、それと同時に検知されたその周囲の電磁波雑音を信号処理手段で除去する。
特に、電磁波雑音の強度が、検出対象である変化磁界又は低周波電磁波の強度から大きいときに、従来の方法より有効である。本発明は、低周波の大雑音の信号中から低周波の微弱な検知対象信号を抽出する。別の言い方をすると、低周波の微弱検知対象信号と低周波の大雑音信号のS/N比(信号対雑音比)が非常に小さい場合でも、検出対象である変化磁界又は低周波電磁波は、大きな低周波の大雑音の信号の中から検出できる。
本発明は、従来の技術のように、分離・抽出の為の基準周波数や参照周波数帯域が存在しない。磁界発生源は微小な磁性体であることができる。低周波雑音信号は、任意の低周波の雑音であることができる。信号処理手段は、もっと効率的に検出するために、位相移送部、LPF部、ノッチフィルタ部、ピークホールド部、リセット部等の信号処理部を有することができる。この位相移送部、は、検知された第1検知信号と第2検知信号の位相の微調整を行うためのものである。
第1センサーコイルと第2センサーコイルの配置は、近傍と言っても、空間的に別々の場所になる。これにより、雑音信号発生源から発生した雑音信号は、第1センサーコイルと第2センサーコイルに別々の位相で検知される。よって、位相移送部は、この位相を微調整し同じにするためのものである。位相移送部は、任意の既知回路で実現する。雑音信号の強度が変化磁界、低周波電磁波の強度より大きいとき、本発明は有効に検出対象信号が検出できる。
検出対象の変化磁界、低周波電磁波が第1センサーコイルで効率的に検知できる。第1センサーコイルは、直流から10kHz以下の低周波数で励磁される。第1センサーコイルの付近を移動又は通過する磁性体は、搬送手段で搬送されることが実際に多い。例えば、磁性体は、被検査物の中に含まれていて、ベルトコンベア等の搬送手段で搬送される。この場合は、第1センサーコイルと第2センサーコイルが移動せず、固定されていて、搬送手段の搬送速度で、磁性体が移動する。
現在の商品製造ラインのベルトコンベアの実例からみると、その搬送速度は一定で、0.1m/min〜100m/minの範囲内であることが多い。そして、このような搬送速度で搬送されている磁性体は、第1センサーコイルに検知される信号の周波数は、0.1Hz〜25Hz、多くて40Hz程度である。しかし、検出される信号は、磁性体の搬送速度と、第1センサーコイルの物理的な検出幅、磁性体の大きさと磁性体と比透磁率の違い等によって異なる。検知回路の時定数、周波数応答等もこれに影響し、一意的に計算することが難しい。
本発明の低周波信号の検出方法によると、2つのセンサーコイルを裏面を合わせて配置し、その検知信号の差異を求め信号処理することで、低周波の電磁波雑音を消去し、検出信号を求めることができるようになった。
本発明の低周波信号の検出方法によると、2つのセンサーコイルを裏面を合わせて配置し、その検知信号の差異を求め信号処理することで、生産ライン周囲の低周波の電磁波雑音を消去し、検出信号を求めることができるようになった。
〔第1の実施の形態〕
図1は、本発明の第1の実施の形態の金属異物検知装置1の概要を図示している。金属異物検知装置1は、被検査物2の中の金属物を検知又は探知して通知するためのものである。被検査物2としては、特に限定されないが、固体、液体、又はゲル状の食品、医薬品等の包装袋に充填された商品が例示できる。
〔金属異物検知装置1の構成〕
金属異物検知装置1は、被検査物2を搬送する搬送路であるベルト3、異物を検知するためのセンサー部4、これらを制御する回路を収納した筐体である制御ユニット15等から構成される。ベルト3とセンサー部4は、床面上に設置される脚9付きのフレーム8の上部に搭載されている。制御ユニット15は、本例では、フレーム8の下部に固定されている。ベルト3は、片方に設けられた駆動用モータ10によってエンドレスに回転駆動し、被検査物2をその上に載せて搬送する。
本例では、ベルト3の搬送速度は、10m/min〜50m/minぐらいの範囲で設定することができる。ベルト3の幅は、製造ラインに広くしたり狭くしたりと、使用者の要望に合わせて変更することができるが、一般的にはよく利用される50cm幅の仕様にしている。センサー部4は、被検査物2が搬送される搬送路中、言い換えると、ベルト3の長さ方向の中央あたりに配置されている。センサー部4は、被検査物2中の磁性体を検知するためのセンサーコイルからなる。本第1の実施の形態において、センサー部4は、ベルト3の下側に設置された第1センサー4aと、ベルト3の上側に設置された第2センサー4bからなる。
第1センサー4aと第2センサー4bは基本的に同一構造のものであり、それぞれセンサーコイル5とセンサーコイル6の1対の組みから成る。第1センサー4aと第2センサー4bは、磁界発生手段の磁石ブースター11をそれぞれ備える。センサーコイル5とセンサーコイル6は同一構造のものである(詳細な説明は後述する)。被検査物2の中の金属物や金属異物等の磁性体金属から発生する磁界はその周囲の磁界を変化させる。
また、金属異物検知装置1の近傍の他の装置からは、低周波数の電磁波雑音が発生し、センサーコイル5とセンサーコイル6の周囲に届くことがある。センサーコイル5とセンサーコイル6は、このような低周波数の電磁波雑音によって、その周囲の磁界が乱れ、その周囲の低周波数の電磁波雑音を検知するためのものである。センサーコイル5とセンサーコイル6は、直流から10kHz以下の低周波数で励磁される。センサーコイル5とセンサーコイル6は、その周囲の磁界の変化に応じた電圧又は電流の検出信号を出力する。センサー部4から出力された検知信号は、制御ユニット15に送られる。
センサー部4内で、被検査物2の流れから見てセンサー部4の上流側には、被検査物2中の磁性体を磁化するための磁石ならなる磁石ブースター11が設置されている。磁石ブースター11は、その周囲に静磁場を発生させ、その静磁場内、言い換えるとその静磁界内に、センサーコイル5とセンサーコイル6が配置される。また、金属異物検知装置1は、被検査物2がセンサー部4を通過したことを検知するための位置検知手段を備える。この位置検知手段は、図1の中に図示したように、フォトセンサー7からなる。
フォトセンサー7は、センサー部4と隣接して設置されている。被検査物2は、ベルト3で搬送されて、磁石ブースター11、センサー部4、そして、フォトセンサー7を順番に通過する。フォトセンサー7は、被検査物2の位置を検知した位置検知信号を、制御ユニット15に送信する。制御ユニット15は、センサー部4、言い換えると、センサーコイル5とセンサーコイル6から受信した検知信号を解析して、被検査物2中に磁性体があるか否かの判定を行なう。
制御ユニット15は、検知信号の解析には、フォトセンサー7から受信した位置検知信号も利用する。制御ユニット15は、この判定の結果を通知(電気信号、警告音、表示等)する。被検査物2の中に磁性体が含まれている場合は、制御ユニット15は、その旨の出力信号を出力する。この出力信号は、制御ユニット15から、金属異物検知装置1に設けられているシグナルタワー(図示せず。)、又は、後段の装置等へ送信される。このシグナルタワーは、欠品を検出したとき、点滅したり、ブザーを鳴らしたりして、警報信号をオペレータに発するものである。
制御ユニット15からの出力信号を受ける後段の装置の例としては、被検査物2へ印をつけるための装置、製造ライン管理コンピュータ、工場管理の制御コンピュータ、管理者のコンピュータ等が例示できる。制御ユニット15は、本例のように必ずしもセンサー部4の近傍に設置する必要はなく、センサー部4から有線通信、又は無線通信により検知信号を受け取り、処理できる環境であれば任意の場所で設置しても良い。この有線通信と無線通信の通信方式は、公知の任意の通信規格を用いることができ、本発明の趣旨ではないので、その詳細な説明は省略する。
〔センサー部〕
図1に図示したように、センサー部4は、1個乃至2個の磁石ブースター11、センサーコイル5とセンサーコイル6からなる。センサーコイル5とセンサーコイル6は、同一であり、その構造は、センサーコイル5を例に説明する。図2は、センサーコイル5の構造を図示したものである。図2(a)はセンサーコイル5の正面図、図2(b)は図2(a)のセンサーコイル5の平面図、及び図2(c)は図2(a)のA−A線の切断断面図である。
センサーコイル5は、細長い棒状の形状をし、断面構造がE字形である導電性材料の鉄心20の溝部に沿って、コイル21を巻き付けた構成である。鉄心20は、珪素鋼板やアモルファス等の板を積層して構成されている。又は、この鉄心20には、フェライトコア、永久磁石等を使っても良い。このセンサーコイル5に数kHzの交流電源をかけると、その付近の周囲に交番磁界が発生する。この中を、磁性体が通過すると、この交番磁界が乱れ、センサーコイル5を流れる電流等が変化する。
センサーコイル5の周囲に低周波数の電磁波が伝搬していると、この交番磁界が乱れ、同じく、センサーコイル5を流れる電流等が変化する。この交番磁界の乱れは磁性体の大きさと種類、搬送速度に応じて変更あるが、数十Hz程度の周波数の変化である。実際の現場で検知された信号の分析からみると、交番磁界の乱れは、センサーコイル5の励磁周波数が5Hz〜10Hz程度の周波数で変化されている。センサーコイル5の励磁周波数は、直流から10kHz以下の低周波数励磁である。
又は、センサーコイル5に交流電源をかけずに、静磁界内に配置しているとき、その静磁界内を磁性体が通過すると、この静磁界が乱れて変化し、センサーコイル5に電流が流れる。センサーコイル5は、主に、1mm以下の微小な金属を検知するために用いられている。このような低周波数の電磁波は、生産ライン等の利用されるモータ等から発生する電磁波雑音であることが多い。
センサーコイル5は、被検査物2中に含まれる磁性体金属に由来する信号と、低周波数の電磁波雑音に由来する信号が同時に検知できる。図2(c)に図示したように、センサーコイル5は、鉄心20の裏面22と、コイル21が巻かれた表面23を有する。センサーコイル5は、通常は、表面23を被検知物2が流れるベルト3へ向けて、ベルト3の面と表面23を並行になるように配置される。
本第1の実施の形態において、1つのセンサーコイル5と1つのセンサーコイル6を合わせて一つのセンサーにしている。センサーコイル5とセンサーコイル6は、裏面22を合わせ、言い換えると、互いに背中合わせして配置されている。センサーコイル5は、鉄心20のコイル21が巻きつけられた面である表面23をベルト3へ向けて、詳しくは、この表面23をベルト3に平行になるように配置されている。よって、センサーコイル5の鉄心20の裏面22もベルトと平行な面に配置されるが、ベルト3の反対側へ向けて配置されている。
センサーコイル6は、その鉄心20の裏面22を、センサーコイル5の裏面22へ向けて配置されている。センサーコイル5は、その磁化(B−H)特性の内、磁化特性を表わす磁束密度(B)と磁界(H)が0付近の微少の値である非線形部分を利用して、金属物の検知を行う。この磁化特性、その利用方法についての技術思想は、特許文献1に詳しく述べている。特許文献1に記載された発明の全部又はその一部は、本発明と実質的に同一構造、回路であり、これらが本発明を構成する。
ただし、センサーコイル5,6に印加される電圧、電流、その周波数は、全部又は一部が、本発明の第1の実施の形態で特許文献1と異なる値であっても良い。センサーコイル5,6には、特別に、電流供給、電圧印加がされていなくても、磁性体の金属異物の検知動作が可能である。例えば、センサーコイル5,6には、増幅器のバイアス電圧を印加しておく。これにより、増幅器の入力バイアス電流がセンサーコイル5,6のコイルに流れることになる。
これに、周辺磁界の変化に伴って、センサーコイル5,6を横切る磁束が変化すると、センサーコイル5,6を流れる電流及び/又は電圧が変化し、出力信号となる。磁石ブースター11から発生した静磁界はこの周辺磁界に相当する。センサーコイル5の近傍にステンレスの微小破片が接近したとき、この静磁界の働きにより、ステンレスの微小破片が磁化し磁極を生じさせる。
例えば、オーステナイト系のステンレス鋼(SUS304等)は、破断、潰れ、曲がり、欠け等の塑性変形により、マルテンサイト誘起変態を起こして弱い磁性をもった部分が、静磁界の働きにより磁化し磁極を生じさせる。この磁極の変化が交番磁界へ影響を与え、これを、センサーコイル5を含む検知回路で検知する。特に、被検査物2がセンサーコイル5に接近するほどこの効果が大きく現れるので、センサーコイル5で被検査物2中の微小破片の金属異物を確実に検出することが可能である。
被検査物2に異物として混入される磁性体としては、鉄、ニッケル、コバルト等の強磁性体、これらの合金、マルテンサイト系ステンレス鋼等が例示できる。本例では、センサーコイル6は、センサーコイル5と比べ被検査物2から離れて設置されている。また、センサーコイル6の磁界検知面である表面23は、ベルト3と被検査物2へ向かず、その反対方向へ向いて設置されている。よって、被検査物2の中に含まれる磁性体の金属異物から生じる磁界は、わずかなものであり、センサーコイル6に検知されることがほとんどない。
仮に、検知されたとしてほとんど無視できる程度である。センサーコイル5とセンサーコイル6は隣接して設置されているので、金属異物検知装置1の周囲の他の装置から発生した電磁波は、センサーコイル5とセンサーコイル6にほとんど同じものが検知される。
〔制御ユニット15の構成例〕
図3は、金属異物検知装置1の制御ユニット15の構成例の概要を示す機能ブロック図である。
制御ユニット15は、ブリッジ回路31、LPF32、ノッチフィルタ33、検知回路34、波形処理部35、ディジタルコンピュータ処理部36、信号出力部37等から構成されている。ブリッジ回路31は、センサーコイル5、及びセンサーコイル6からの信号を受信する回路である。LPF32は、ブリッジ回路31で検出した信号の内、高周波数分のカットし、低周波数分を取りだすフィルタ回路である。本例では、LPF32は、本例では、1kHz以下の周波数の信号を通過させる。
ノッチフィルタ33は、LPF32を通過した信号の中から特定の周波数帯域の信号を消去するフィルタ回路である。本例では、ノッチフィルタ33は50Hzと60Hzの帯域の信号を消去している。50Hzと60Hzは、商業電気配線の帯域であり、ありふれた雑音の周波数であることが多い。検知回路34は、ノッチフィル33からの検知信号(検出電流)を処理して、ディジタルコンピュータ処理部36で処理し異物判定するための信号を出力するものである。
検知回路34は、低周波数の電磁波雑音に由来する信号を消去し、できるだけ、異物に由来する信号を残して、ディジタルコンピュータ処理部36へ送信する。波形処理部35では、検知回路34の出力信号の波形整形をし、ディジタル信号に変換して、受信感度の調整を行って、ディジタルコンピュータ処理部36へ出力する。ディジタルコンピュータ処理部36は、波形処理部35からのディジタル信号を受信して信号処理し、被検査物2中に含まれる磁性体の有無の判定をする。
ディジタルコンピュータ処理部36では、磁性体が検知されたと判断された場合は、信号出力部37に出力信号を出力する。信号出力部37は、基本的に、金属異物検知装置1から出力信号を、他の機器に提供するインターフェースである。信号出力部37は、ディジタルコンピュータ処理部36の出力信号を、金属異物検知装置1に接続された適当なデバイス、装置に送信する。例えば、信号タワー(図示せず。)、被検査物2へマーキングするためのマーカー装置(図示せず。)等に送信する。
又は、信号出力部37は、無線又は有線の通信部を有し、ディジタルコンピュータ処理部36の出力信号を、指定されたアドレスでネットワーク経由して、適当なデバイス、装置に送信することもできる。ディジタルコンピュータ処理部36は、図示しないが、メモリ、中央処理ユニット(CPU)、入力インターフェース、出力インターフェース等を備えた信号処理ユニットである。ディジタルコンピュータ処理部36は、波形処理部35又は検知回路34から受信した信号を信号処理して、金属異物の判定を行う。これについては、以下に、表1の説明に詳しく説明している。
ディジタルコンピュータ処理部36としては、ROM、RAM等の記憶装置、中央処理ユニット(CPU)、入力装置、出力装置を備えた汎用の電子計算機を利用することができる。この場合は、上述の判定は、記憶装置に格納された専用プログラムによって行う。ディジタルコンピュータ処理部36が電子計算機である場合、この電子計算機は、信号出力部37を兼ね、その機能を提供することができる。ディジタルコンピュータ処理部36は、これと同じ機能をする、アナログ回路又はディジタル回路からなる回路手段で実現することができるが、ここではその詳細な説明は省略する。
〔検知回路の概要〕
図4は、センサーコイル5とセンサーコイル6の配置例と、検知回路34の構成の概要を示すブロック図である。また、図4には電磁波雑音の発生源を参照番号16で図示している。雑音発生源16は、金属異物検知装置1から適当に離れた装置である。現実的には、雑音発生源16は、金属異物検知装置1から数十センチ又は数メートル以上に離れている。
雑音発生源16から発生した電磁波雑音は、破線16aで示すように、雑音発生源16を中心点にした球面として伝搬する。この電磁波雑音は、センサーコイル5とセンサーコイル6にほぼ殆ど同時に同じ大きさで届く。センサーコイル5とセンサーコイル6が全く同じ特性ならば、それらで検知し出力する検知信号も同じ波形、振幅も同じで出力される。これは、電子回路の常識ではあるが、センサーコイル5とセンサーコイル6の検知信号の差分をとると、この電磁波雑音を消去することができる。
この検知信号の差分は、色々な方法で実現できるがここで一つの例を示す。ここで、図4の回路は、図1に図示した第1センサー4aを例に説明するものであり、第2センサー4bはまったく同じ回路で検知するので、その説明は省略する。センサーコイル5とセンサーコイル6は、ベルト3の下側に、裏面22(図2を参照。)を合わせて配置されている。被検査物2は、ベルト3によって搬送されて、センサーコイル5の検知面付近を通過する。センサーコイル5とセンサーコイル6はそれぞれ独立してその周囲の磁界の変化を検知し出力する。
センサーコイル5とセンサーコイル6の出力信号を、整流器40、41でそれぞれ整流処理する。整流器41の出力信号は、インバータ42で、その位相を反転させる。センサーコイル5とセンサーコイル6は、雑音発生源16に由来する電磁波雑音を、同じ検知している。この位相反転で、センサーコイル6で検知した電磁波雑音の信号が、センサーコイル5で検知した電磁波雑音の信号と反対位相になる。加算器43は、整流器40の出力信号と、インバータ42の出力信号を加算して出力する。
この加算処理で、雑音発生源16に由来する電磁波雑音が消去される。よって、加算器43からは、被検査物2に由来する異物検知信号のみが残り、出力される。原理的には、この加算器43から出力された信号で、被検査物2の中に金属異物があるか否かを判定することができる。つまり、加算器43から所定閾値以上の信号が出力されると、被検査物2の中に金属異物があると判定する。
〔検知回路の例〕
図5は、検知回路34の例をより具体的に示す回路図である。センサーコイル5とセンサーコイル6は、互いに裏面22(図2を参照。)を合わせ配置され、一つのセンサーとしての機能をしている。図5の回路例は、図4の回路構成をより具体的に示す回路である。図5の回路では、センサーコイル5とセンサーコイル6の検知信号を増幅器52で増幅している。
センサーコイル5とセンサーコイル6の検知信号は、微弱な信号であるため後段の信号処理のため増幅する。本例では、増幅器52は、120dBまで増幅している。増幅された検知信号は、整流器51、54で整流する。整流器51、54は、ダイオードからなっている。センサーコイル6の検知信号のみは、位相移送回路53で位相を移送させて移送調整行う。センサーコイル6の検知信号は、整流器54で整流する前でも、整流後でも、位相移送回路53で位相調整ができ、どちらでも良い。位相移送回路53は、限定しないが、オールパスフイルタ等を用いると良い。
センサーコイル5の検知信号で整流された信号は、そのまま出力端子62から出力される。この出力信号は、後段のディジタルコンピュータ処理部36には、第2入力として入力される。また、センサーコイル5の検知信号で整流された信号は、バッファ57で一時的にバッファされる。センサーコイル6の検知信号で整流された信号は、ピークホールド回路55に入力される。また、センサーコイル6の検知信号で整流された信号は、バッファ58で一時的にバッファされる。
バッファ58に一時保持された信号は、インバータ59で位相反転され、加算器60に入力される。同じく、バッファ57に一時保持された信号も、加算器60に入力される。加算器60は、これらの入力信号を加算して出力する。センサーコイル5の検知信号に、センサーコイル6の検知信号を位相反転して加算しているので、センサーコイル5とセンサーコイル6で同時に検知した、同じ信号が消去される。言い換えると、電磁波雑音の信号は、消されてゼロとなる。
加算器60の出力は、出力端子61から出力され、この出力信号は、後段のディジタルコンピュータ処理部36に第1入力として入力される。この電磁波雑音があるとき、金属異物が混入した被検査物2が搬送されるとセンサーコイル5の出力信号には、電磁波雑音信号と異物信号の混在した信号が出力される。このときの第1入力は、異物信号に由来する信号分となり、異物信号が出力される。
電子回路の構成要素のセンサーコイル、IC回路、トランジスタ、抵抗、コンデンサ等が線形ならば上述の図4、図5に図示した回路構成で、電磁波雑音は原理的にスムーズに消去することが可能である。しかし、現実的に、電子回路を構成している全ての素子や電磁波雑音の磁場が非線形なので、雑音がスムーズに消えない。例えば、センサーコイル5,6で検知した検知信号の信号波形の形状は同じでも振幅が微小に異なる。また、振幅が同じでも非線形で信号の波形形状が部分的に違う。
更に、電磁波雑音の周波数と発生源の位置や向きによりセンサーコイル5とセンサーコイル6の検知信号に物理的な位相差が発生する。これらの問題は、位相移送回路53及びピークホールド回路55、リセット回路等を用いて解決する。具体的には、センサーコイル6の電磁波雑音の波形の移相(進み又は遅れ)と、波形整形を行い端子63から出力し、後段のディジタルコンピュータ処理部36に第3入力として入力する。
ピークホールド回路55は、センサーコイル6で検知した電磁波雑音の信号のピーク値を記憶して保持するための回路であり、電磁波雑音の振幅ブレを吸収するための回路である。電磁波雑音がなくなった場合、又は、被検査物2の検知が終わった時に、このピークホールド回路55が保持しているピーク値をリセットする必要がある。本例では、フォトセンサー7(図1を参照。)を用いて、被検査物2がセンサーコイル5を通過するタイミングを検出している。
よって、フォトセンサー7の検知信号で、ピークホールド回路55のピーク値をリセットしている。つまり、被検査物2を検知しているときは、ピークホールド回路55が電磁波雑音のピーク値を保持しており、被検査物2がセンサーコイル5を通過し終わった時間を示すフォトセンサー7の立ち下り信号を使って、ピークホールド回路55のピーク値をリセットする。このリセット信号は、トランジスタ56から、ピークホールド回路55に入力される。
〔探知アルゴリズム〕
これらの第1入力〜第3入力の信号を使い、ディジタルコンピュータ処理部36で、信号解析を行い、異物の判定を行う。ディジタルコンピュータ処理部36での異物判定の例を次の表1に示している。表1の第1欄は、ディジタルコンピュータ処理部36の入力信号の種類を示しており、最後の行は、判定結果である。
表1の第2欄〜第9欄は、ディジタルコンピュータ処理部36の入力信号の組み合わせ示している。第1入力〜第3入力の3種類の入力信号があるので、その組み合わせは、全体で8種類になる。表の中で、入力信号があるとき、丸(「○」)で、入力信号がないときマイナス(「−」)で示している。表1の最後の行の異物検知の判定では、金属異物があると判定された「有」、金属異物が無いと判定された「無」で示している。
被検査物2の通常の検査は、第2入力で示す、センサーコイル5の出力のみで検出及び信号解析を行う。金属異物の検知は、第2入力のみに信号がある場合と、第1入力又は第3入力のとき第2入力に信号がある場合である。第1組み合わせは、通常の良品を示す。この場合、センサーコイル5とセンサーコイル6のどらでも信号検知しない。通常の金属異物の判定は、第5組み合わせである。この場合、センサーコイル5のみで信号検知する。
通常の電磁波雑音発生時は、第6又は第7の組み合わせである。最後の欄の第8組み合わせの場合で示すように、第1入力〜第3入力の全てに信号があると、金属異物の判定は難しい。第8組み合わせの場合、第1入力の信号の大きさ(エネルギー)が通常の感度レベルを超えたか超えていないか、それに加えて各信号の位相関係から金属異物が検知された、又は、被検査物2が良品かの判定をする。
〔磁石ブースター〕
本発明の第1の実施の形態の金属異物検知装置1の磁石ブースター11は、センサーコイル5とセンサーコイル6に磁場を提供し、被検査物2の中の磁性体を磁化、或いは磁化を強化するためのものである。センサーコイル5とセンサーコイル6が励磁されている場合は、磁石ブースター11は、被検査物2の中の磁性体を磁化、或いは磁化を強化するために利用される。
この場合は、磁石ブースター11は、センサーコイル5とセンサーコイル6から離れて配置されることができる。また、センサーコイル5とセンサーコイル6が励磁されている場合は、磁石ブースター11は、同時に、センサーコイル5とセンサーコイル6に静磁場を提供することができる。本例では、限定しないが、センサーコイル5とセンサーコイル6は例示されず、磁石ブースター11の静磁場の提供を受けているものとする。
磁石ブースター11は、永久磁石からなる。磁石ブースター11は、被検査物2の搬送方向で言えば、センサー部4の手前(供給側)に設置されている。被検査物2の搬送方向で見ると、被検査物2は、ベルト3中を搬送されて、磁石ブースター11を通過後、センサーコイル5を通過する。磁石ブースター12は、一つの永久磁石又は2以上の複数の永久磁石から構成される。本第1の実施の形態においては、図1に図示したように、磁石ブースター11は、ベルト3の下側に固定される磁石12と、ベルト3の上側に固定される磁石13からなる。
特に、ベルト3の下側に固定される磁石12を配置することで、被検査物2が、磁石12をもっとも近くにして通過することが可能になる。磁石12又は磁石13は、被検査物2へN磁極又はS極を向けて配置される。この磁極の向きは、被検査物2の種類、大きさ等によって最適化されるものであり、上述の配置のみに限定されるものではない。磁石12、13は、ネオジム磁石からできている複数の磁石要素から構成されている。
このようにネオジム磁石等の強力な磁石を用いることで、永久磁石の磁界が磁性体に影響を及ぼす範囲を大きく拡大でき、センサーコイル5の検出距離を大幅に伸ばすことが可能となる。このために、被検査物2の形状及び幅に応じて、磁石12、13の磁化力、被検査物2が通過するベルト3との隙間を調整することができる。
〔その他〕
センサー部4は、ベルト3の上側に配置されたセンサーコイル5,6と、ベルト3の下側に配置されたセンサーコイル5,6から構成されている。これは、被検査物2の上部と下部を、感度良く検出するために、このような構成にしている。被検査物2中の金属異物は、ベルト3の上側又は下側ののみで検知が可能である。本第1の実施の形態の金属異物検知装置1は、被検査物2は、アルミニウム合金で包装、アルミニウム合金袋に挿入されたものでも、その中の磁性体を良好に検出できる。
このように、センサーコイル5,6を背中合わせて配置することで、電磁波雑音が消去できるようになった。よって、従来は、図6の示すように、検知センサー70、71で2回検出したいたのが、センサー部4のみで一回の検知で金属異物を確実に検知できるようになった。よって、センサー部4が1対のみになり、検知時間で拘束されていた従来の搬送速度の制限がなくなった。図1に示すように、センサー部4は、第1センサー4aと第2センサー4bから成っているが、そのどちらか一方であっても良い。
また、センサーコイル5,6は、ベルト3の上側又は下側に設置されているが、ベルト3の横でも良い。ただし、センサーコイル5をベルト3の下にベルト3とわずかな隙間を開けて設置すると、被検査物2に一番近く配置でき、検知感度がその分向上する。センサー部4は、本実施の形態では、磁気シールドを図示していないが、金属製の筐体又は、磁気シールド効果を有する材料の筐体内に、センサー部4を収納する、センサーコイル5,6を外部磁界から遮断することができる。
本例では、フォトセンサー7は、光学式のセンサーを利用しているが、被検査物2の搬送タイミングや、センサーコイル5を追加した時間を検知できるものであれば、既知の任意のセンサーが利用できる。センサーコイル5は、被検査物2の搬送方向に直角又は所定角度をするように配置することができる。直角の場合は、センサーコイル5を通過し終わった被検査物2をフォトセンサー7で検知し易いので、直角の方が好ましい。本例では、センサーコイル6は、その背中をセンサーコイル5の背中に合うように配置している。
センサーコイル6の検知面が被検査物2へ向けない、その反対方向に設置すると、被検査物2の中の磁性体による信号を、一番検知しにくいので、このような設置が望ましい。しかし、センサーコイル6の役割は、電磁波雑音を、センサーコイル5と同じ感度で検知することであるので、金属異物検知装置1の設置場所、周囲の状況に合わせて最適化することができる。例えば、センサーコイル5とセンサーコイル6は、所定の角度をするように設置されても良い。