JP6108489B2 - 鋼鉄部材の表面硬化方法 - Google Patents

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Description

本発明は、鋼鉄部材の表面に、高硬度、高耐摩耗性の硼化鉄皮膜を形成するための鋼鉄部材の表面硬化方法に関するものである。
鋼鉄部材の表面に硼化鉄を主成分とする硬質の皮膜を形成する方法としては、硼素供給源の形態によって、粉末法と溶融塩法とに大別され、さらにその溶融塩法は溶融塩浸漬法と溶融塩電解法とに分類されていて、それぞれ実用化されている処理法である。
これらのうち、粉末法に属する技術としては、特許文献1、2に開示されているようなフェロボロン、アルカリ金属の炭酸塩などの混合粉末中に鋼鉄部材を埋没させ、不活性ガス中で700℃〜900℃に加熱する方法がある。その他、特許文献3には、硼素供給源として、BC、KBFを用い、粉末の増量剤としてSiCからなる混合粉末中で950℃に加熱する方法が開示されており、さらに特許文献4には、鋼鉄部材の表面をSiC粉末で覆い、その外周部に硼素供給源であるBCとKBFの混合粉末を用いて完全に被覆し、その後、非酸化性ガス中で900℃〜1050℃に加熱する方法が開示されている。
一方、溶融塩法に属する方法としては、特許文献5〜7に、アルカリ金属化合物と酸化硼素などの溶融塩中に鋼鉄部材やTi−Al合金部材を浸漬して硼化物皮膜を形成する技術が開示されている。さらに、特許文献8には、硼素供給源として硼砂(Na)を用い、これにAl粉末を添加することによって、硼砂成分から活性硼素(B)を析出させ、その活性硼素(B)を鋼鉄部材の表面に拡散浸透させて硼化鉄皮膜を形成する方法が開示されている。
特公昭46−13807号公報 特公昭48−28261号公報 特公昭52−4501号公報 特公平6−76655号公報 特開平8−20806号公報 特開平9−3620号公報 特開2007−105779号公報 特開2011−202260号公報
ところで、前記特許文献8に開示されている技術は、溶融状態の硼砂(Na)中に、アルミニウム金属粉末(Al)を添加して、Naの酸素と結合している硼素(例えば、BOx)を還元することによって、活性硼素(B)を遊離させ、このBを鋼鉄部材の表面に拡散浸透させて硬質の硼化鉄層を形成する方法である。しかし、この方法は下記のような課題を抱えていた。
即ち、文献8に開示の塩浴法というのは、作業工程が単純で、多量生産性に比較的優れていることから、古くから実用化されている硬質皮膜形成方法の一つである。しかし、その一方で、この塩浴法では、作業の実施に伴って、塩浴中にAl粉末を繰り返し添加する必要があるため、長期間使用した場合には該塩浴中に、多量のアルミニウム酸化物(Al)の微粒子が含まれるようになる。
もし、塩浴中にAl微粒子が多量に含まれるようになると、塩浴自体の硼化鉄形成能力が低下し、鋼鉄部材の表面に形成される硼化鉄皮膜の形成速度が次第に低下するとともに、作業条件によっては硼化鉄皮膜の表面に発生する微少な割れ部などにAl微粒子が混入し、品質低下の原因となる。現在、その対策案は提案されていない。
また、Al微粒子を多量に含む硼砂塩浴は粘度が高くなるため、塩浴の流動性が低くなって均等な温度分布が得られなくなり、硼化鉄皮膜の品質のバラつきが大きくなるという問題もある。
さらに、粘度の高い硼砂塩浴を用いて形成した硼化鉄皮膜被覆部材については、これを塩浴から引き上げるときに多量の塩浴成分が付着してくるため、その除去に多大な労力を要し、生産コストの上昇原因となる。なお、この種の硼砂塩浴成分は、ガラス状を呈するうえ、水に対する溶解度が極めて小さいのが特徴である。
従って、多量のAl微粒子を含むこととなった硼砂塩浴は、最終的には産業廃棄物として処理せざるを得なくなるため、環境汚染の原因となると共に、生産コストの上昇原因ともなっていた。
なお、そもそもAl粉末というのは、化学的活性力が強く、保管中であっても湿度の高い環境では、水と反応して水素ガスを発生するので爆発の危険性がある。ま、高温の硼砂塩浴中に添加する際にも、急激な酸化作用による発炎の可能性があり、甚だ危険な材料であることから、安全上、可能な限りその取り扱いは避けるべき材料である。
本発明の目的は、鋼鉄部材表面に形成する皮膜の品質の低下や処理効率の低下を招くことなく、かつ安全性の高い鋼鉄部材の表面硬化方法を提案することにある。
本発明は、従来技術が抱えている前述した課題を克服し、上掲の目的を実現するために、下記の点に着目して開発した技術である。
(1)硼砂塩浴中には、従来のようなAl粉末の添加に代え、アルミニウム−マグネシウム合金(以下、「Al−Mg合金」と記す)の小片または小塊を添加することとし、そのAlとMg両成分による還元反応によって硼砂成分から化学的活性力の強い硼素(B)、即ち活性硼素(B)を遊離させ、この活性硼素(B)を鋼鉄部材表面の硼化鉄皮膜の形成に利用する。
(2)硼砂塩浴中へのAl−Mg合金の添加は、この添加によって特に該合金中のAlによって硼砂成分中の活性硼素(B)を遊離させ、一方、MgはAlと比較すると一段と強い還元反応を示す成分であり、活性硼素(B)を遊離させるとともに、該塩浴中に不純物として残留しているAl微粒子とも反応してAl微粒子に還元することにより、再び活性硼素(B)の生成に寄与させることで、塩浴全体の硼化鉄皮膜形成能を上げる。
(3)前記硼砂塩浴中に添加するAl−Mg合金中のMgの含有量は、1.2mass%〜93mass%とし、塩浴中に残存するAl量の多少によって、その添加量を調節する。例えば、新しい硼砂塩浴に適用する場合は、Mg含有量1.2mass%〜10mass%のA1−Mg合金、多量のAl微粒子が残留している硼砂塩浴の場合には、30mass%以上のMgを含むAl−Mg合金を添加するなどすることによって、Al微粒子対策を行なう。
前記のような着想の下に開発した本発明は、硼砂を主成分とする塩浴中にAl−Mg合金を添加してなる溶融状態の硼砂塩浴中に鋼鉄部材を浸漬することによって、その鋼鉄部材の表面に、該硼砂塩浴中の硼砂成分から析出し遊離した活性硼砂と部材表面の鉄とを反応させることによって、FeB層とFeB層の二層構造の硼化鉄皮膜を形成させる際に、上記Al−Mg合金中のMg含有量を1.2〜93mass%の範囲内において、溶融状態の該硼砂浴中に残存するAl量に応じ、建浴当初の新しい硼砂塩浴中に適用する場合のAl−Mg合金中のMg含有量を1.2〜10mass%とし、Alが残留している硼砂塩浴に適用する場合のAl−Mg合金中のMg含有量を30mass%以上とすることを特徴とする鋼鉄部材の表面硬化方法に係るものである。
なお、本発明においては、上述した基本的な構成を前提としたうえで、さらに下記のように構成を採用することがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
)溶融状態の前記硼砂塩浴は、700℃〜1150℃の温度であること。
)前記鋼鉄部材は、硼砂塩浴中において、静止、上下運動、回転運動または水平運動から選ばれる1種以上の状態に保持して浸漬すること。
)塩浴中に添加する前記Al−Mg合金は、Mgを1.2mass%〜93mass%含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなる合金であって、その形状・寸法が直径2〜10mm、長さ5〜20mmの小片または小塊であること。
)前記硼化鉄皮膜は、少なくともその一部は前記硼砂塩浴中のAl微粒子が、Mgによって還元されて生成するAlによる還元作用によって生成した皮膜であること。
還元材としてAl−Mg合金の小片または小塊を添加した硼砂塩浴を使うことを特徴とする本発明は、従来のAl粉末を還元材とする硼化鉄皮膜形成用硼砂塩浴法に比べて、次のような効果が期待される。
(1)Al粉末を添加する従来の硼砂塩浴中には、硼化処理に伴って、Al微粒子が不可避に増加し、その結果、塩浴が汚染されて硼化鉄皮膜の形成速度が低下したり、皮膜品質の悪化を招く。これに対し、本発明によれば、還元材としてAl−Mg合金を添加することによって、Mgの強い還元作用によってAl微粒子から分離したAl粒子によって、硼砂塩浴自体が化学活性力を自ら回復し、良好な硼化鉄皮膜の形成浴として機能するようになる。
(2)本発明においては、還元材として用いられるAl−Mg合金中のMg成分が、Al微粒子の還元作用に寄与するだけでなく、自らもAlより強い還元作用を発揮して、硼砂成分から活性硼素(B)を遊離させるので、硼化鉄皮膜の形成を効率よく行なうことができる。
(3)本発明において、還元材である前記Al−Mg合金の使用は、この合金中のAl成分が、従来技術同様に硼化鉄皮膜の形成作用に寄与することになるので、硼砂塩浴中のAl微粒子量の多寡によって、合金成分中の両者の割合を選択することができる。
(4)本発明によれば、前記Al−Mg合金が、硼砂塩浴の使用温度700℃〜1150℃では完全に溶融し、しかも微粒子状に分散するので、前記(1)〜(3)の効果が一層向上する。
(5)本発明によれば、還元材として、Al−Mg合金を使用するので、その合金中のMgも前記(1)〜(4)の作用、効果を発揮した後、最終的にはMgO(酸化マグネシウム)の微粒子となって塩浴中に残留することになるものの、MgOの密度は3.65g/cmで、従来技術で用いるAl還元材の最終生成物のAl(密度3.99g/cm)に比べると軽いため塩浴の表面に集合しやすく、そのため除去作業が容易であり、塩浴の清浄化維持に有利である。
(6)本発明によれば、還元材として使用するAl−Mg合金(Mg:1.2〜93mass%)は、溶射皮膜用材料および一般構造用材料として適宜使用されている合金であり、空気が完全に遮断された硼砂の溶融塩中で用いられるため、安全性が高い。
(7)本発明の実施によって形成される硼化鉄皮膜については、高硬度で優れた耐摩耗性を有するため、塩浴の稼動寿命を大きく延長させることが可能となる。その結果、生産性の向上および生産コストの低減に大きな効果が期待できる。
以下に本発明の一実施形態について説明する。
(1)塩浴の主成分となる硼砂の性状とその役割
本発明で用いる塩浴は、主成分が硼砂(Na)であり、この塩浴中には、さらに還元材としてAl−Mg合金、とくにその小片または小塊を添加してなる活性硼素(B)を含有する硼砂塩浴である。そして、この硼砂塩浴中の活性硼素(B)こそが鋼鉄基材の表面に硼化鉄皮膜を形成するために重要な役割を担う成分である。
本発明で使用可能な硼砂は市販品のものでよいが、その多くは結晶水を含むNa・10HOの化学式で示されるものである。一般に、硼砂はこれを加熱すると、350℃〜400℃で結晶水を放出してガラス状の粘性を有する融態となる。一旦ガラス状になった硼砂は、大気を遮断して空気の内部侵入を防止して、無酸化環境を構成するのみならず、そこに被処理鋼鉄部材を浸漬した際には、該部材の表面に生成している薄い酸化膜を除去するフラックスとしての作用も発揮し、硼化鉄皮膜の形成を円滑に進行させるものである。
なお、前記硼砂塩浴中には、LiやNa、Kなどのアルカリ金属、およびCaやMg、Ba、Srなどのアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、塩化物、酸化物、フッ化物をはじめ、B、BC、KBF、NaBFなどの含硼素化合物などを添加しても、本発明に係る硼化鉄皮膜を形成することができるので、これらの化合物の添加を制限されるものではない。
本発明の実施に適した該硼砂塩浴の温度は、700℃〜1150℃の範囲である。その理由は、700℃よりも低い温度では塩浴の粘度が高くなりすぎて取り扱いが困難となるだけでなく、Al−Mg合金による活性硼素(B)の生成反応および被処理鋼鉄部材の表面に形成される硼化物皮膜の形成速度が遅くなるからである。また、その温度が1150℃よりも高いと、硼砂塩浴自体の酸化熱分解反応が速くなりすぎるとともに、塩浴槽の溶解による溶損現象が顕著となり、生産コストの上昇、作業時間の短縮による処理コストの上昇を招く。
(2)硼砂塩浴中におけるAl−Mg合金の作用機構
以下に、700℃〜1150℃に加熱された溶融状態の硼砂塩浴中におけるAl−Mg合金の作用機構について、従来技術に属するAl粉末添加の場合と比較して説明する。Al−Mg合金とAl粉末は、それぞれ硼砂塩浴中において、下記の反応によって活性硼素(B)を発生するものと考えられる。
Na+Al→xB+yAl (1)
Na+Mg→xB+yMgO (2)
前記(1)式は、従来技術に属するAl粉末のみを添加した場合の還元反応式であり、硼素(B)の生成に伴って、Al粉末が微粒子状のAlに変化して塩浴中に残留することになる。一方、Al−Mg合金添加の場合には、前記(1)式と前記(2)式の還元反応によって活性硼素(B)が生成するが、Alに比べてMgの方が酸化物生成自由エネルギーが小さいため、Mgによる還元反応の方が熱力学的に強く、短時間かつ低温の領域でもより速やかに活性硼素(B)の析出を果すことができる。
前述した硼化鉄皮膜の形成処理は、通常、同一の硼砂塩浴を用いてその処理を繰り返すことによって行なわれるが、従来は、その都度、Al粉末の添加が行なわれる。しかし、このようなAl添加作業を繰り返すと、前記(1)式の反応によってAl微粒子が多く生成するようになり、しかもその全量が当該塩浴中に残留することになる。
一般に、Alは、2050℃の高融点酸化物であり、塩浴中では常に微細な固体粒子の形態で存在するため、その残留量が増加すると、次のような現象が顕在化する。
(1)硼砂塩浴の化学的活性が低下して、前記(1)式による活性硼素(B)の生成量が少なくなる。
(2)硼砂塩浴の粘度が高くなるため、Al粉末を添加しても塩浴中に均等に分散することがなくなり、被処理鋼鉄部材の表面に形成される硼化鉄皮膜の品質に大きなバラツキが見られるようになる。
(3)上記(2)の現象が顕著となると、やがて硼砂塩浴としての機能を消失することになるため、産業廃棄物として処理されることになり、硼砂塩浴としての有効な試用期間の短縮に伴う、生産コストの上昇原因となる。
(4)Al微粒子自体は、化学的に非常に安定な酸化物であるうえ、ガラス状の硼砂塩浴中に含まれていることもあって、その物理的な除去方法は、極めて困難な状況にある。
この点に関し、本発明のように硼砂塩浴中に、従来の金属Alの添加に代え、還元材としてAl−Mg合金を、前記Al微粒子を含む硼砂塩浴中に添加すると、合金中のMgが下記(3)式の反応によって、AlをAlに還元する作用を発揮する。
Al+3Mg→3MgO+2Al (3)
即ち、本発明のように、硼砂塩浴中へのAl−Mg合金の添加する方法というのは、硼砂塩浴が新しい環境条件(建浴当初)では、前記(1)式と(2)式の反応によって活性硼素(B)の生成を行い、(1)式の反応によって生成するAlが多くなってくると、(3)式の反応によってAlをAl微粒子へ還元し、再度(1)式の反応に寄与させることが可能になる。
本発明においては、上記の反応を効果的に行なうため、Al−Mg合金に含まれるMg量を1.2mass%〜93mass%の範囲とし、かつ適用する硼砂塩浴中のAl残留量に応じて、最適なMg成分量の合金を使用することとした。具体的にはAl残留量が少ない場合には、低Mg含有Al−Mg合金を用い、Al残留量が多い場合は高Mg含有Al−Mg合金を使用することによって対応する。
(3)還元材としてのAl−Mg合金材料の化学成分とその形状および寸法
本発明において最も特徴的なことは、前記硼化物形成用金属化合物である還元材として、Al−Mg合金を用いることにある。この合金の化学成分は、Mg:1.2〜93mass%、残部がAlおよび不可避的不純物であるものが好ましく、さらにMg5〜50mass%のものを用いることがより好ましい。その理由は、Mgの含有量が1.2mass%(ただし、好ましい例では5mass%)よりも少ないと、Mgによる酸化アルミニウム(Al)の還元作用に長時間を要するうえ還元できる量が少なく、一方、93mass%(ただし、好ましい例では50mass%)よりも多いと、前記Alの還元作用によるAl粒子の生成量が増加して塩浴の化学活性度が、必要以上に高くなって鋼製の塩浴槽と反応して、その溶解成分による塩浴の汚染および塩浴槽の寿命を短くするからである。
なお、市販のAl−Mg合金は、微量のZn、Mn、Fe、Si、Cu、CrあるいはTiなど、またその他の不可避的不純物が含まれているが、これらは本発明の作用、効果を得る上であまり障害とならないため、特には規制されない。
具体的な市販のAl−Mg合金として、日本工業規格JIS H4040規定の「アルミニウムおよびアルミニウム合金の棒及び線」の合金番号2024(Mg:1.2〜1.8%)を最低のMg含有量とし、最大Mg含有量として、JIS H4202規定の「マグネシウム合金継目無管」MT2(Al:5.5〜6.5%、残余:Mg他)を使用することができる。
これらのAl−Mg合金材料は、いずれも市販品であるため入手および取り扱いが容易である。従って、Mg含有量の多い合金であっても、安全性が高く、本発明の目的に叶う好適な還元材である。
さらに、Al−Mg合金を塩浴中に添加する場合には、取り扱い上の安全性を考慮して、直径2〜10mm、長さ5〜20mmの小片または小塊のものを用いることが好ましい。その理由は、この程度の大きさのものは、塩浴の操業条件である700℃〜1150℃の温度環境では、容易に溶融状態となって硼砂塩浴と反応し、硼化鉄皮膜の形成源となる活性硼素(B)を遊離状態(析出)とすることができる。因みにAlの融点は660℃、Mgの融点は650℃である。
(4)本発明の目的に適した被処理鋼鉄部材
本発明において使用可能な被処理対象となる鋼鉄部材としては、機械構造用炭素鋼、合金鋼をはじめ、マルテンサイト、オーステナイトおよびそれらの二相組織からなる各種ステンレス鋼などの特殊鋼、鋳鉄や鋳鋼、鍛鋼などが好適であり、これらの部材は前述した表面処理に好適な部材と言える。
<実施例1>
この実施例は、650℃〜1200℃の温度範囲に変化させた硼砂塩浴中に、Mg含有量の異なるAl−Mg合金を添加した試験塩浴を調整した後、この塩浴中にSUS410鋼試験片を浸漬して、その表面に形成される硼化鉄皮膜の形成状況を調査した。
(1)供試塩浴
SUS310鋼の容器中に硼砂20kgを投入した後、加熱溶融させ、塩浴温度650℃〜1200℃の温度範囲に維持しつつ、それぞれ所定の温度に供試鋼試験片を6時間浸漬した。
(2)Al−Mg合金材の種類と添加量
前記硼砂塩浴中に添加するAl−Mg合金として、Mg含有量1.2mass%〜93mass%、残部が主としてAlからなる合金を直径5〜10mm×長さ20mmの小片に加工し、硼砂量の約10mass%相当の量を添加した。
また比較例として、市販のAl粉末を約10mass%となるように硼砂塩浴中に添加した例を示す。
(3)供試鋼種
SUS410鋼(寸法:直径10mm×長さ30mm)
(4)評価方法
浸漬試験後の供試鋼試験片に形成されている硼化鉄皮膜の形成状況を金属顕微鏡を用いて観察するとともに、その皮膜のミクロ硬さを測定した。
(5)試験結果
試験結果を表1に示した。この表1に示す結果から明らかなように、塩浴温度650℃では、硼化鉄皮膜の形成は認められなかった。この原因の大部分は、塩浴温度650℃では、Al粉末の融点660℃より低く、Mgの融点650℃とほぼ同じ温度であるため、両金属とも硼砂から活性硼素(B)を還元する作用が弱かったためと考えられる。
これに対し、700℃〜1200℃の硼砂塩浴中では、Al粉末、Al−Mg合金とも完全な溶融状態となって塩浴中に分散するとともに、硼砂を還元して硼化鉄皮膜の形成に寄与するとともに、その皮膜のミクロ硬さもHV:1600以上を有するなど、良好な作業温度条件であることが判明した。また、この温度範囲で形成される硼化鉄皮膜の性状、ミクロ硬さなどは、Al粉末、Al−Mg合金ともほぼ同等であり、有意差は認められていない。
なお、硼砂塩浴を1200℃に加熱すると、硼砂自体の熱分解反応が発生する兆候が見られることから、長期間にわたって使用する塩浴の安定的性能発揮限界温度は約1150℃にあるものと考えられる。
さらに、この実施例において、Al粉末とAl−Mg合金の作用機構は、ほぼ同等であることが判明したが、その取扱上、特に作業の安全上において、両者に大きな相違があることが判明した。即ち、本発明に係るAl−Mg合金の添加は、それぞれの温度に加熱された硼砂塩浴に直接添加することが可能であり、その取扱上極めて安全であった。
一方、Al粉末は、空気中で高温加熱された際、具体的には800℃〜1000℃に加熱された塩浴表面に添加すると、急激な酸化反応に伴う昇温現象が加わり、Al粉末またはその酸化物のAl粉末が周囲に飛散するなどの問題が発生した。
また、硼砂塩浴にAl粉末を添加すると、見掛比重の軽いAl粉末は塩浴の表面に浮遊状態となって分離し、塩浴中に均等に分布させることが困難であることも分った。
Figure 0006108489
<実施例2>
この実施例では、硼砂塩浴中に浸漬した被処理鋼部材への硼化鉄皮膜の形成速度に及ぼす被処理鋼部材の回転および移動などの運動因子の効果を調査した。
(1)供試塩浴
実施例1に記載した硼砂塩浴槽に硼砂20kgを投入した後、800℃に加熱溶融させ、この塩浴中にAl−10mass%Mg合金を1kg添加したものを供試塩浴とした。
(2)供試鋼種
供試鋼種はSUS403とし、塩浴に浸漬する試験片は、直径10mm×長さ50mmの棒状試験片に加工した。
(3)塩浴中への浸漬条件
900℃の塩浴中に6時間浸漬したが、試験片に対しては、下記のような運動因子を付与させた。
(1)浸漬期間中、試験片を静かに上下運動させた。(上下運動試験片)
(2)浸漬期間中、試験片を静かに回転運動させた。(回転運動試験片)
(3)浸漬期間中、試験片を塩浴槽の内壁に沿って静かに移動させた。(内壁移動試験片)
(4)浸漬期間中、試験片を塩浴槽の中心部で静止状態にした。(静止試験片)
(4)評価方法
浸漬試験後の各試験片の表面に形成されている硼化鉄皮膜の形成状況を金属顕微鏡を用いて観察するとともに、ミクロピッカース硬さ計にて皮膜の硬度を測定した。
(5)試験結果
試験結果を表2に示した。この表2に示す結果から明らかなように、塩浴中に浸漬した試験片のすべてに、試験片の回転、移動などの運動の有無に関係なく、硼化鉄皮膜の形成が認められ、また、その硬さもHV:1500以上の高硬度皮膜であった。ただ、硼化鉄皮膜の成長速度には差が認められ、回転、移動、あるいは上下運動を付与した試験片の表面には、静止試験片の皮膜に比べて7〜10%程度厚く成長していることが判明した。この原因は、Al−Mg合金の還元反応によって硼砂塩浴中に析出した活性硼素(B)が、塩浴中で回転したり、移動したりする試験片の表面に対する接触機会が増大するためと考えられるが、試験片の運動に伴う塩浴の流動化現象も、硼化鉄皮膜の形成速度の向上に有利に働いたものと思われる。
Figure 0006108489
<実施例3>
この実施例では、硼砂塩浴にAl粉末を継続的に添加しつつ、硼化鉄皮膜処理を実施する場合(比較例)を想定し、塩浴中に増加し続けるA1微粒子の硼化鉄皮膜の品質および作業性に与える影響について、本発明に適合する例であるAl−Mg合金添加の場合と比較した。
(1)供試塩浴
比較例の塩浴組成:硼砂20kg、Al粉末400g、Al 2kg
本発明例の塩浴組成:硼砂20kg、Al−30mass%Mg400g、Al 2kg
(2)供試鋼種
供試鋼種として、SUS410鋼を用い、直径10mm×長さ15mmの試験片に加工した。
(3)塩浴温度・浸漬時間
960℃×5hとした。
(4)評価方法
供試鋼試験片の表面に形成された硼化鉄皮膜の硬さおよびその断面ミクロ組織観察によって評価した。
(5)試験結果
試験結果を表3に示した。この表3に示す結果から明らかなように、Al粉末を添加する比較例の塩浴中には、添加したAl粉末のすべてがAlとなって塩浴中に残留するため、その残留量が多くなると、Al粉末を添加してもその作用効果は著しく低下していることが認められた。即ち、Al粉末の添加による硼砂(Na)の還元作用による活性硼素(B)の析出、遊離の効果が低下する結果、試験片表面に形成されるFeB層とFeB層との2層からなる硼化鉄皮膜の厚さが薄くなるとともに、皮膜の表層部では割れが多数発生し、その割れ部には多量のAl微粒子が残存しているのが認められた。ただ、硼化鉄皮膜の硬さについては、HV:1600以上を示し、両者に相違は認められなかった。
Figure 0006108489
これに対して、本発明適合例のAl−Mg合金を添加した塩浴中では、多量のAl微粒子が存在していても、Mg成分による還元反応によって、Al微粒子となって、再び硼化鉄皮膜の形成作用が活性化し、その結果として、割れの少ない硼化鉄皮膜の形成速度を大きくする傾向が認められた。
なお、Al微粒子が多量に残留している塩浴は、粘度が高く、試験片を引き上げた際にも多量の塩浴が付着する現象が認められた。この現象から、塩浴中に浸漬した試験片の表面では、活性硼素(B)を含む塩浴との流動接触の機会が少なくなるとともに、多量のAl微粒子の付着による硼化鉄形成反応の妨げ作用が誘発されている可能性が大きい。
本発明は、基本的に鋼鉄部材の表面硬化処理技術に関するものであるが、特に、次のような分野での応用が可能である。
即ち、硼化鉄皮膜は、高硬度、高耐摩耗性、高耐食性に加え、高温強度にも優れているため、石油精製・石油化学プラントなどの硬質の触媒粒子を含む高温ガス用熱交換器部材、石炭ポイラの各種金具類の耐エロージョン用皮膜、また水蒸気タービンの入口部材で発生する高温・高圧水蒸気中に含まれる鉄酸化物粒子のエロージョン対策技術として好適に用いることができる。
その他、硼化鉄皮膜の表面を精密仕上加工することによって、各種プレス成形用金型、線材圧延機の穴型、各種草刈機の切断刃物類など、耐摩耗性とその耐久性が要求される部材への表面処理技術としても利用できる。
また、本発明の考え方は、Niおよびその合金などの非鉄合金部材の表面硬化処理とに適用が可能である。

Claims (4)

  1. 硼砂を主成分とする塩浴中にAl−Mg合金を添加してなる溶融状態の硼砂塩浴中に鋼鉄部材を浸漬することによって、その鋼鉄部材の表面に、該硼砂塩浴中の硼砂成分から析出し遊離した活性硼砂と部材表面の鉄とを反応させることによって、FeB層とFeB層の二層構造の硼化鉄皮膜を形成させる際に、上記Al−Mg合金中のMg含有量を1.2〜93mass%の範囲内において、溶融状態の該硼砂浴中に残存するAl量に応じ、建浴当初の新しい硼砂塩浴中に適用する場合のAl−Mg合金中のMg含有量を1.2〜10mass%とし、Alが残留している硼砂塩浴に適用する場合のAl−Mg合金中のMg含有量を30mass%以上とすることを特徴とする鋼鉄部材の表面硬化方法。
  2. 溶融状態の前記硼砂塩浴は、700℃〜1150℃の温度であることを特徴とする請求項1に記載の鋼鉄部材の表面硬化方法。
  3. 前記鋼鉄部材は、硼砂塩浴中において、静止、上下運動、回転運動または水平運動から選ばれる1種以上の状態に保持して浸漬することを特徴とする請求項1または2に記載の鋼鉄部材の表面硬化方法。
  4. 塩浴中に添加する前記Al−Mg合金は、Mgを1.2mass%〜93mass%含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなる合金であって、直径2〜10mm、長さ5〜20mmの小片または小塊であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の鋼鉄部材の表面硬化方法。
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