JP6103956B2 - 乳酒の製造方法及び乳酒 - Google Patents
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(1)MRS培地に1.1×106cfu/mLで播種し、30℃で30時間好気培養したときの培養液のOD660の値が1.0以下。
(2)50g/Lのラクトースを含む10%(w/v)スキムミルク水溶液に1.0×107cfu/mLで播種し、43℃で24時間好気培養したときのラクトース分解率が99%以上。
本発明に係る乳酸菌は、ラクトバチラス・デルブレッキ又はストレプトコッカス・サーモフィラスに属し、下記(1)かつ(2)の特性を有する。
(1)乳酸菌をMRS培地に1.1×106cfu/mLで播種し、30℃で30時間好気培養したときの培養液のOD660の値が1.0以下。
(2)乳酸菌を50g/Lのラクトースを含む10%(w/v)スキムミルク水溶液(以下、「ラクトース分解率測定用溶液」ともいう。)に1.0×107cfu/mLで播種し、43℃で24時間好気培養したときのラクトース分解率が55%以上。
(C0−C24)×100/C0 (I)
<HPLC分析条件>
カラム:Asahipak NH2P−50 4E 4.6×250mm
サンプル注入量:10μL
移動相:アセトニトリル70.0%
移動相流速:1.0mL/分
カラムオーブン温度:40℃
検出器:ELSD
(3)乳酸菌をβ−ガラクトシダーゼの基質であるONPG(o−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシド)を含む緩衝液に懸濁させたときの懸濁液のOD660と、当該懸濁液を37℃で30分間遮光した状態で反応させたときのOD420との吸光度比(OD420/OD660)が、10.0以上。
(ln(OD660t30/OD660t12))/(30−12) (II)
OD660t30は培養開始30時間後のOD660の値、OD660t12は培養開始12時間後のOD660の値である。「ln」は自然対数である。
上記酵母としては、アルコール発酵を行う酵母であればよく、例えば、ビール酵母、ワイン酵母、清酒酵母、焼酎酵母、ウイスキー酵母等の醸造用酵母が挙げられる。より具体的には、例えば、サッカロマイセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・ウバルム(Saccharomyces uvarum)、サッカロマイセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)及びサッカロマイセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)からなる群より選択される少なくとも1種とすることができる。酵母は、市販されているものであってもよい。
本明細書において、乳成分とは、乳糖(ラクトース)を含む獣乳由来の成分を意味する。獣乳に含まれる全成分であってもよく、一部の成分であってもよい。乳成分としては、具体的には、牛乳、馬乳、ヤク乳、ラクダ乳、ヤギ乳、ヒツジ乳等の獣乳の生乳、並びに生乳を脱脂、濃縮、乾燥、凍結、滅菌、乳糖分解、加熱等により処理した処理乳が挙げられる。処理乳としては、例えば、全粉乳、調製粉乳、脱脂粉乳(スキムミルク)、全脂粉乳、濃縮乳、滅菌乳、乳糖分解乳等が挙げられる。乳成分は1種単独であってもよく、2種以上を組合わせてもよい。
(発酵工程)
本発明の乳酒の製造方法は、乳成分を含有する基質を上述した乳酸菌と酵母で発酵させる工程(発酵工程)を含む。乳酸菌がラクトースを資化しグルコース及びガラクトースが生成する。また、酵母がグルコースを資化し、エタノール等が生成する。
上記製造方法は、基質を乳酸菌及び酵母で発酵させて得られた発酵物にエタノールを添加する工程(エタノール添加工程)を備えていてもよい。エタノールの添加量は、最終エタノール濃度を決定し、当該最終エタノール濃度になるように添加すればよい。最終エタノール濃度は、例えば、消費者の嗜好に合わせて決定すればよい。具体的には、例えば、最終エタノール濃度は、1.0〜10.0v/v%とすることができる。
上記製造方法は、乳酸菌及び酵母で発酵させる前、又は発酵中に基質にグルコースを添加する工程(グルコース添加工程)を更に備えていてもよい。添加したグルコースを酵母が資化するため、得られる乳酒のエタノール濃度をより高めることができる。添加するグルコースの量は、例えば、得られる乳酒のエタノール濃度が1.0〜10.0v/v%となるように決定することができる。これに限られるものではないが、例えば、グルコースを0.01〜0.2g/mLとなるように添加することができる。
(実験例1:変異株の取得)
市販されている乳酸菌(ヨーグルトスターター菌)(クリスチャンハンセン社)7種から、ラクトバチラス・デルブレッキに属する乳酸菌13株及びストレプトコッカス・サーモフィラスに属する乳酸菌15株を分離した。分離した株をこれらの株のラクトース分解率と併せて下記表1に示す。
50g/Lのラクトースを含む10%(w/v)スキムミルク水溶液に、上記乳酸菌株をそれぞれ1.0×107cfu/mLで播種し、43℃で24時間好気培養した。播種直後及び培養終了後直ちに上記スキムミルク中のラクトース濃度を、高速液体クロマトグラフ(HPLC)により測定した。HPLCによる分析条件は以下のとおりである。
スキムミルク200μLを2,000rpmで5分間遠心分離し、得られた上清20μLに希釈液(イノシトール(660mg/L)含有67%アセトニトリル溶液)500μLを添加し、振とうし、静置した。続いて、この溶液を2,000rpmで5分間遠心分離し、得られた上清80μLに超純水を120μL添加し、振とうし、フィルターろ過して固形分を除去した。これをHPLC分析用試料とし、内部標準(イノシトール)法により、ラクトース濃度を測定した。HPLC分析条件は以下のとおりである。
<HPLC分析条件>
カラム:Asahipak NH2P−50 4E 4.6×250mm
サンプル注入量:10μL
移動相:アセトニトリル70.0%
移動相流速:1.0mL/分
カラムオーブン温度:40℃
検出器:ELSD
ラクトース分解率=(C0−C24)×100/C0 (I)
C0は乳酸菌を播種した時点での10%(w/v)スキムミルク水溶液中のラクトース濃度、C24は24時間好気培養した時点での10%(w/v)スキムミルク水溶液中のラクトース濃度である。
各乳酸菌株にニトロソグアニジン処理を施し、変異株を作製した。MRS培地に105〜107cfu/mLとなるよう各乳酸菌株を播種し、37℃、24〜48時間前培養した。培養液に、生存率が1%程度となるように、ニトロソグアニジンを添加し、60分間攪拌することによりニトロソグアニジン処理を行った。ニトロソグアニジンの添加量は、No.10137が800質量ppm、No.10142が800質量ppm、No.10148が800質量ppm、No.10141が400質量ppm、No.10150が400質量ppmであった。
変異原処理により得たコロニーを50g/Lのラクトースを含む10%(w/v)スキムミルク水溶液中で37℃、16時間前培養した後、50g/Lのラクトースを含む10%(w/v)スキムミルク水溶液0.2mLに1.0×107cfu/mLとなるよう前培養液を添加し、43℃で24時間培養した。播種時点でのスキムミルク水溶液中のラクトース濃度、及び24時間培養後のスキムミルク水溶液中のラクトース濃度を測定し、上記式(I)に従ってラクトース分解率を測定した。また、各変異株の親株についても同様にラクトース分解率を測定した。
[増殖速度]
48A12株(変異株)及び48P株(親株)をMRS培地200mLに1.1×106cfu/mLで播種し、30℃で56時間好気培養した。経時的に培養液をサンプリングし、OD660の値及び乳酸濃度を測定した。OD660の値は、サンプリングした培養液を必要に応じて希釈し、自記分光光度計U−3210(日立株式会社)で測定した。乳酸濃度は高速液体クロマトグラフ(HPLC)により測定した。
(ln(OD660t30/OD660t12))/(30−12) (II)
OD660t30は培養開始30時間後のOD660の値、OD660t12は培養開始12時間後のOD660の値である。
β−ガラクトシダーゼ定量システム(β−Galactosidase Enzyme Assay System with Reporter Lysis Buffer、プロメガ社)を使用して、β−ガラクトシダーゼ活性を測定した。上記システムは、β−ガラクトシダーゼが、基質であるONPG(o−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシド)を加水分解することにより、黄色のo−ニトロフェニルを生成することを利用するものである。o−ニトロフェニルは420nmの波長の光を吸収するため、OD420の値は、β−ガラクトシダーゼ活性と相関する。
(実施例1)
10%(w/v)スキムミルク(森永乳業社製)水溶液を基質とし、乳酸菌48A12株(変異株)を107cfu/mL、酵母Saccharomyces cerevisiae UA株を107cfu/mLとなるように添加した。25℃で72時間並行複発酵させ、実施例1の乳酒を製造した。
10%(w/v)スキムミルク水溶液に代えて20%(w/v)スキムミルク水溶液を基質としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の乳酒を製造した。
乳酸菌48A12株(変異株)に代えて乳酸菌48P株(親株)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の乳酒を製造した。
乳酸菌48A12株(変異株)に代えて乳酸菌48P株(親株)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、比較例2の乳酒を製造した。
実施例1〜2及び比較例1〜2の乳酒について、pH、エタノール濃度及びラクトース分解率を測定した。また、実施例1〜2及び比較例1〜2の乳酒の風味について官能試験により評価した。
乳酒のpHは、pHメーター(F−51、堀場製作所)により測定した。結果を表7に示す。
乳酒のエタノール濃度は、F−kit(エタノール、JKインターナショナル社)により測定した。結果を表7に示す。
ラクトース分解率は、酵母及び乳酸菌添加前のラクトース含有量(CB)(g/100mL)及び乳酒のラクトース含有量(CA)(g/100mL)を、高速液体クロマトグラフ(HPLC)により測定し、得られた測定値から下記式により算出した。
(ラクトース分解率)=(CB−CA)×100/CB
結果を表7に示す。
官能評価は、15名の訓練されたパネルにより、下記表6に示す基準で、乳臭さ、アルコール感及び総合評価について評点を付け、15名のパネルの評点の平均値を求めた。結果を表7に示す。なお、乳臭さ、アルコール感及び総合評価のいずれも点数が高い程評価が高いことを意味する。また、各パネルには各乳酒の風味に関して自由にコメントしてもらった。代表的なコメントを併せて表7に示す。
(実施例3)
実施例1の乳酒にエタノールを添加して、エタノール濃度を3v/v%に調整し、実施例3の乳酒を製造した。
10%(w/v)スキムミルク水溶液に代えて、10%(w/v)スキムミルク水溶液に、発酵後の乳酒のエタノール濃度が3v/v%となるようにグルコースを0.05g/mL添加したものを基質としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の乳酒を製造した。
比較例1の乳酒にエタノールを添加して、エタノール濃度を3v/v%に調整し、比較例3の乳酒を製造した。
10%(w/v)スキムミルク水溶液に代えて、10%(w/v)スキムミルク水溶液に、発酵後の乳酒のエタノール濃度が3v/v%となるようにグルコースを0.05g/mL添加したものを基質としたこと以外は比較例1と同様にして、比較例4の乳酒を製造した。
上述した〔乳酒の評価1〕と同様にして、実施例3〜4及び比較例3〜4の乳酒を評価した。結果を、実施例1及び比較例1の結果と併せて表8に示す。
Claims (9)
- 乳成分を含有する基質を乳酸菌と酵母で発酵させる、乳酒の製造方法であって、
前記乳酸菌が、ラクトバチラス・デルブレッキ(Lactobacillus delbureckii)又はストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)に属し、
前記乳酸菌をMRS培地に1.1×106cfu/mLで播種し、30℃で30時間好気培養したときの培養液のOD600の値が1.0以下であり、かつ、
前記乳酸菌を50g/Lのラクトースを含む10%(w/v)スキムミルク水溶液に1.0×107cfu/mLで播種し、43℃で24時間好気培養したときのラクトース分解率が55%以上である、
乳酒の製造方法。 - 前記乳酸菌が、ラクトバチラス・デルブレッキ(Lactobacillus delbureckii)又はストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)に属する菌株を変異原処理して得られたものである、請求項1に記載の製造方法。
- 前記乳酸菌が、ラクトバチラス・デルブレッキ亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbureckii subsp. bulgaricus)の変異株であり、
前記変異株は、比増殖速度が親株の0.5倍未満であり、且つ単位菌量当たりのβ−ガラクトシダーゼ活性が親株の9倍以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。 - 前記乳酸菌がラクトバチラス・デルブレッキ亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbureckii subsp. bulgaricus)48A12株(NITE P−1515)である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
- 前記基質を前記乳酸菌及び前記酵母で並行複発酵させる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
- 前記基質を前記乳酸菌及び前記酵母で発酵させて得られた発酵物にエタノールを添加するエタノール添加工程を更に備える、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
- 前記乳酸菌及び前記酵母で発酵させる前、又は発酵中に前記基質にグルコースを添加するグルコース添加工程を更に備える、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
- 前記酵母がサッカロマイセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・ウバルム(Saccharomyces uvarum)、サッカロマイセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)及びサッカロマイセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
- ラクトバチラス・デルブレッキ亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbureckii subsp. bulgaricus)48A12株(NITE P−1515)又は下記(1)及び(2)を満たす、その変異株。
(1)MRS培地に1.1×106cfu/mLで播種し、30℃で30時間好気培養したときの培養液のOD660の値が1.0以下
(2)50g/Lのラクトースを含む10%(w/v)スキムミルク水溶液に1.0×107cfu/mLで播種し、43℃で24時間好気培養したときのラクトース分解率が99%以上
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