JP6103529B2 - 半導体材料の加工方法及びレーザ加工装置 - Google Patents

半導体材料の加工方法及びレーザ加工装置 Download PDF

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Description

本発明は、半導体材料の加工方法及びレーザ加工装置に関し、例えばサファイア基板上に積層されたGaN層の除去に利用可能な半導体材料の加工方法及びレーザ加工装置に関する。
発光ダイオード(LED)、半導体レーザ、FET、ショットキーダイオード、太陽電池等の半導体素子を構成する半導体材料は比較的堅く、半導体層を作製するときに用いる基板は、サファイア、GaN、SiC、Si、Ga23等比較的堅い基板を用いている。板状の半導体材料の表面又は裏面に溝加工を施す方法として、フォトリソグラフィ技術を用いてマスクを形成した後にエッチング(ウェットエッチングあるいはドライエッチング)を施す方法、回転するダイシングブレードによるダイシング、ダイヤモンドカッターによるスクライブ、レーザによるスクライブ等が知られている。
特開2012−140303号公報 特許第3012926号公報 特開2006−297478号公報 特開2004−306134号公報
Y.Kawaguchiら、Jpn.J.Appl.Phys.44巻、5号、L176−178頁(2005) H.Niinoら、Appl.Surf.Sci.253巻、8287−8291頁(2007) 新納弘之,川口喜三,佐藤正健,奈良崎愛子「レーザー誘起背面湿式加工法による石英ガラスの微細加工」レーザー研究第40巻第2号106−110頁(2012年2月) K.Zimmerら、Appl.Surf.Sci.253巻、2796−2800頁(2006) 堺和夫,生駒俊明「半導体中の深いエネルギー準位の不純物の測定」生産研究. 25(7),1973.7.1,278−287頁 R.Moritaら、Jpn. J. Appl. Phys. 45 (2006)2525−2527頁
RIE等のドライエッチング又はウェットエッチングでは、マスクが必要で、加工所要時間が長く、高アスペクト比の加工が難しい。
つまり、フォトリソグラフィ技術を用いてマスクを形成した後にエッチングを施す方法等は、マスクの下まで加工されたり、マスクも加工されたりして、高アスペクト比の加工が難しく、また高額な加工装置を複数用いる必要がある。
回転するダイシングブレードによるダイシング等の機械加工では、前述の堅い材料の加工時に割れ欠けクラックの発生が伴い易く、そのため加工速度が非常に遅くなり、加工効率が悪化するという難点がある。
さらに、ダイサーは、切りしろとして100μm前後必要で、半導体素子の収率が上がらないし、微細クラックが切断面近傍に発生し、微細破片の発生原因となる。
ダイヤモンドカッターをもちいたスクライバーは、微細クラックがスクライブ線近傍に発生し、微細破片の発生原因となり、また、高アスペクト比の加工が難しい。
また、レーザによるスクライブ等のレーザ光を直接半導体材料に吸収させる加工では、加工点から飛び散った材料が加工点周辺でデブリ(再凝固層)として付着し、除去のための工程が必要となる。
さらに、アブレーションを用いたレーザ加工は、高アスペクト比の加工を表面側から行うと横断面形状にテーパーがつき、微細加工に向かない。
このように、いずれの方法も欠点があり、半導体材料の加工に好適な加工方法が切望されていた。
本発明は、従来のこのような問題点に鑑みてなされたものである。本発明の主な目的は、高アスペクト比の半導体材料の加工を低エネルギー消費で実現可能な半導体材料の加工方法及びレーザ加工装置を提供することにある。
課題を解決するための手段及び発明の効果
上記目的を達成するため、本発明の一の側面に係る半導体材料の加工方法によれば、レーザ光を半導体材料に照射して、該半導体材料に加工を施す加工方法であって、照射するレーザ光の波長に対して高い吸収率を有する流動性物質を、半導体材料の加工対象面と接触させた状態を提供する工程と、半導体材料の加工対象面の裏面側からレーザ光をパルス照射して、半導体材料の加工対象面に加工を行う工程とを含み、前記レーザ光の光子のエネルギーを、半導体材料のバンドギャップエネルギーよりも小さくする。さらに、半導体材料のバンドギャップ内の吸収帯又は発光帯の波長領域を避けたレーザ光波長を選択する。これにより、高い光密度のレーザ光が半導体材料内部を透過する際に、半導体材料がレーザ光のエネルギーを直接受取ることがなく、半導体材料の局所的な熱発生にもとづいた割れ欠けの発生を抑制でき、レーザ光が吸収される流動性物質と半導体材料の界面のみで安定した加工を進めることができる。割れ欠けチッピングといった加工傷の発生を抑制することで、LED等の半導体素子の収率アップを図ることができる。
また他の側面に係るレーザ加工装置によれば、半導体材料に対してレーザ光をレーザ誘起背面湿式加工法に従い照射して、所望の加工パターンに加工可能なレーザ加工装置であって、レーザ光を発生させるためのレーザ発振部と、前記レーザ発振部より出射されるレーザ光を、X軸方向に走査させるためのX軸スキャナ及びY軸方向に走査させるためのY軸スキャナを含むレーザ光走査部と、前記レーザ発振部及び前記レーザ光走査部を制御するためのレーザ駆動制御部と、半導体材料の加工面に、照射するレーザ光の波長に対して高い吸収率を有する流動性物質を接触させるための流動性物質保持部とを備え、半導体材料の加工対象面の裏面側からパルス照射するレーザ光を、その光子のエネルギーが、半導体材料のバンドギャップエネルギーよりも小さく、かつその波長が半導体材料の吸収帯又は発光帯の波長領域含まれなくすることができる。これにより、溝側面の割れ欠けチッピングといった加工傷を抑制でき、LED等の半導体素子の収率アップを図ることができる。
エキシマレーザ露光マスク縮小型のレーザ加工装置を示す模式図である。 固体レーザの出射光をスキャンさせる走査型のレーザ加工装置を示す模式図である。 マルチビーム干渉型のレーザ加工装置示す模式図である。 半導体膜を設けた異種材料基板と流動性物質とを接触させた界面に半導体膜と異種材料基板を透してレーザ光を照射し溝加工を施す概略図である。 本発明の一実施の形態に係るレーザ加工装置を示す概略ブロック図である。 実施例1に係る半導体材料にレーザ光を照射して溝加工を施す様子を示す概略図である。 実施例1に係る溝加工を施したGaN基板の表面を示す光学顕微鏡像のイメージ図である。 実施例2に係る溝加工を施したGaN基板の溝に垂直な断面を示す走査型電子顕微鏡像のイメージ図である。 実施例3に係る溝加工を施したGaN基板の平面を示す光学顕微鏡像のイメージ図である。 実施例4に係る溝加工を施したGaN基板の溝に垂直な断面を示す走査型電子顕微鏡像のイメージ図である。 比較例1に係る溝加工を施したGaN基板の入射面側の表面(加工対象面の裏面側)を示す光学顕微鏡像のイメージ図である。 GaN基板、GaNテンプレート、AlNテンプレート、サファイアの透過率の波長依存性を示すグラフである。 実施例2に係る異種材料基板上の半導体膜にレーザ光を照射して溝加工を施す様子を示す概略図である。 図14A、図14Bは比較例2に係る溝加工を施したGaNテンプレートの表面を示す光学顕微鏡像のイメージ図である。 図15A、図15Bは、実施例5に係る溝加工を施したGaNテンプレートの表面を示す光学顕微鏡像のイメージ図である。 実施例6に係る溝加工を施したAlNテンプレートの表面を示す光学顕微鏡像のイメージ図である。
本発明を実施するための最良の形態を、以下に図面を参照しながら説明する。ただし、以下に示す形態は、本発明の技術思想を具体化するための半導体材料の加工方法及びレーザ加工装置を例示するものであって、本発明は、半導体材料の加工方法及びレーザ加工装置を以下に限定するものではない。また、本明細書は、特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細な説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一部の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一部の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。また、一部の実施例、実施形態において説明された内容は、他の実施例、実施形態等に利用可能なものもある。
本実施の形態においては、半導体材料に加工を施す方法として、非特許文献3に示されるレーザ誘起背面湿式加工法(LIBWE法)を用いる。ここでは、板状の半導体材料(ウェハー)にLIBWE法で溝加工を行う。LIBWE法においては、レーザ光を透過する半導体材料に接したレーザ光の波長に対して高い吸収率を有する流動性物質に、パルスレーザ光を半導体材料を通して照射する。この流動性物質には、一般に液体が用いられる。半導体材料と液体との界面で液体アブレーションが誘起されると、アブレーションが起こった液体界面側の半導体材料表面で高品位なエッチングが起こる。
これによって、溝側面の割れや欠け、チッピングの原因となる加工傷を抑制できる。特にLED等の半導体素子の製造に用いる半導体材料に対して、この加工を行うことで、収率アップがはかれる。またこの方法によれば斜めに溝を加工できるので、LED側面からのLED光の取り出し効率を向上することができる。さらに工程途中のウェハー個別識別のための刻印をデブリなく行うこともでき、デブリ除去工程の省略が図られる。さらにレーザ加工装置の構成が簡単で、安価な装置で溝加工が行え、半導体素子のコストダウンに繋がる。
本実施の形態に係る半導体材料の加工方法によれば、前記半導体材料として、単元素の半導体、化合物半導体、又は前記レーザ光に対して透明な異種材料基板の上に形成された半導体膜を利用できる。これにより、様々な種類の半導体素子構造に対応した半導体多層膜の加工に適応でき、産業上の応用範囲を拡大できる。
また他の実施の形態に係る半導体材料の加工方法によれば、前記流動性物質として、有機化合物、有機色素、無機顔料又は炭素粉末を含む液体状の物質を用いることができる。これにより、加工点から飛び散った材料が加工点周辺でデブリ(再凝固層)として付着するのを防ぎ、加工にかかわる消耗材料費用を抑制できる。また加工が起こった場合に、加工された半導体材料の表面に沿って流動性物質との界面が新たに形成されるため、レーザ光照射を繰り返し行うことで、高アスペクト比加工を半導体材料において実現できる。
さらに他の実施の形態に係る半導体材料の加工方法によれば、前記流動性物質を、水溶液とできる。これにより、従来のようなトルエン等の有機溶媒を利用する加工方法と比べて、洗浄、排液処理が容易で環境負荷も低減できる利点が得られる。
さらにまた他の実施の形態に係る半導体材料の加工方法によれば、前記レーザ光として、エキシマレーザ、YAGレーザ、YVOレーザ、YLFレーザ、半導体レーザ、炭酸ガスレーザ、色素レーザ、銅蒸気レーザ、又はチタンサファイアレーザの基本発振波長あるいは高調波を用いることができる。これにより、明瞭な光学吸収が観測される吸収帯のみならず、半導体材料のバンドギャップ内に存在する不純物準位が関与する微弱な吸収帯又は発光帯の波長領域を避けた半導体材料毎に適したレーザ光を選択可能となり、局所的な熱発生に基づいた割れ欠けの発生を抑制した高品位な加工が実現できる。
さらにまた他の実施の形態に係る半導体材料の加工方法によれば、レーザ光をパルス照射する軌跡を、半導体材料の厚さ方向に対して斜めに設定できる。これにより、斜めに溝を形成する加工が半導体材料において可能となり、例えば本発明の加工方法を発光ダイオードに利用する場合は、側面からのLED光の取り出しを向上又は抑制することができる。
さらにまた他の実施の形態に係る半導体材料の加工方法によれば、前記半導体材料の加工対象面に前記流動性物質を接触させ、集光レンズを透過させて所定のビームサイズにした前記レーザ光を前記半導体材料の加工対象面の裏面側から前記半導体材料と前記流動性物質との界面に照射しながら、レーザ光を走査又は半導体材料を移動させることにより、半導体材料に所定の三次元構造を加工することができる。これにより、各種半導体材料、及びその薄膜積層体に高アスペクト比加工、傾斜加工を施すことが可能になり、フォトリソグラフィのような高価なマスクを使用せず、多品種の加工ができる。
さらにまた他の実施の形態に係る半導体材料の加工方法によれば、前記半導体材料と前記流動性物質との接触面を、重力の向きと略直交させることができる。これにより、前記流動性物質の保持機構に上面を開放とする簡略な構造を採用できたり、カーボンブラック等沈降性の分散物を利用する場合に、分散物が徐々に沈降するため分散状態の維持が困難な懸濁液を流動性物質として用いる際に沈降した状態の分散物にレーザ光を吸収させて加工に用いることで加工条件の均一化を図ることができる。
さらにまた他の実施の形態に係る半導体材料の加工方法によれば、レーザ光の波長を1000〜1100nmにし、加工対象の半導体材料を窒化ガリウム系材料にできる。これにより、窒化ガリウム系材料の微細加工が可能となり、窒化ガリウム系材料を用いた半導体発光素子の光取り出し効率の向上に寄与できる利点が得られる。
さらにまた他の実施の形態に係る半導体材料の加工方法によれば、前記レーザ光のパルスエネルギーとして、1回目の照射で前記半導体材料の前記流動性物質との接触面に改質を起こし、2回目以降の照射で加工を生じさせる低いエネルギーとし、複数回照射することができる。これにより、窒化ガリウム系材料に所望の深さの微細加工を安定して施すことが可能となり、薄い半導体素子層あるいは基板の加工ができる利点が得られる。特に1回の照射で殆ど溝加工が生じないが半導体材料の前記流動性物質との接触面に改質を起こす程度の低いパルスエネルギー範囲で、複数回レーザ光を走査することができる。
(LIBWE法)
LIBWE法に基づくレーザ加工装置の例を、図1〜図3に示す。これらの図において、図1はエキシマレーザ露光マスク縮小型のレーザ加工装置100を、図2は全固体レーザの出射光をスキャンさせる走査型のレーザ加工装置200を、図3はマルチビーム干渉型のレーザ加工装置300を、それぞれ示している。いずれの構成においても、加工対象となる半導体材料10の背面に流動性物質20を配置している。半導体材料10は、ここでは加工対象基板としている。また流動性物質20は、高濃度色素溶液が利用でき、半導体材料10の背面に流動性物質保持部22でもって保持される。流動性物質保持部22は、加工対象基板の加工対象面側の表面にパッキン等で水密に固定されたセル状の容器であり、内部に高濃度色素溶液を貯えて、加工面を高濃度色素溶液で浸している。また、必要に応じて高濃度色素溶液を循環させる循環機構、あるいは溶液を攪拌する機構を設けてもよい。
レーザ発生部80で得られたレーザ光30を、加工対象基板の加工対象面の裏面側から加工対象基板を透過させて高濃度色素溶液との界面に照射する。このレーザ照射によって、色素分子の高密度励起状態が高濃度色素溶液中の加工対象基板との界面近傍に局所的に形成され、溶液のアプレーションが起こり、過渡的な高温、高圧状態の発生によって加工対象基板の表面層がパルス毎に一定の深さでエッチングされる。このようにLIBWE法に基づくレーザ加工方法はレーザ吸収材として高濃度色素溶液を用いることで、光吸収が起こる領域を加工対象基板/高濃度色素溶液の界面近傍に限定している。この結果、1パルス照射当たりのエッチング速度とレーザフルエンスとの間に直線関係があり、照射パルス数を積算することで所望の深さのエッチング加工を行うことができる。
また、この方法であれば、高アスペクト比の深溝加工を行うことができる。特に、流動性物質である高濃度色素溶液が入り込む隙間であればエッチング加工後にも高濃度色素溶液が入り込むことで新たな加工対象基板/高濃度色素液体界面を形成してアブレーションを継続できるため、細い溝でも加工できる。なお、本明細書においてアスペクト比とは、加工される対象の縦横比であり、溝加工の場合は溝の幅と深さの比を指す。さらに通常のレーザ加工では、レーザ光の直接照射による加工が困難な半導体材料であっても、加工できるという利点を有する。
以上の例ではレーザ加工の例として溝加工について説明したが、本発明は加工例を溝加工に限定しない。例えば、半導体材料に改質層を形成したり、あるいは特定の領域や複数層の積層体から特定層を除去する用途にも利用できる。例えば、板状の半導体材料として、サファイア基板上にGaNバッファ層から始まるUV−LED多層膜を設けたDeepUV−LEDウェハーから、サファイア基板とGaNバッファ層を除去する加工が行える。図4に模式断面図を示す。ここでは、半導体膜12の異種材料基板11との界面近傍にあるGaNバッファ層を、レーザ光30の照射によって異種材料基板11と共に除去する。DeepUV光を吸収するGaNバッファ層が除去されたDeepUV−LEDウェハーを切り出して製造したLEDチップの光取り出し効率を、特に出射光を基板側から取り出すフリップチップ型(フェイスダウン型)マウントにおいて、改善することができる。
本発明の実施の形態に係る半導体材料の加工方法及びレーザ加工装置によれば、板状の半導体材料の加工対象面にレーザ光の波長に対して高い吸収率を有する流動性物質を接触させ、加工対象面の裏面側からレーザ光をパルス照射して、溝加工を施す加工、素子を個片化する加工、素子分離する加工、片持ち梁構造をつくる加工等の微細加工を施す。その際に、加工損傷が少ない加工面を実現でき、割れや欠けを防いで歩留りを向上できる。例えば、LEDウェハーで素子分離のためn層部をサファイア基板まで溝加工するのに用いることができる。また、レーザ光を斜めに入射することにより、溝側面をウェハー表面から垂直でなく傾けることができ、LEDの溝側面からのLED光の取り出し効率を向上又は抑制することができる。さらにLEDウェハーで、サファイア基板及びバッファ層を除去することができるので、DeepUV−LEDの光を基板側から取り出すフェイスダウンマウントダイスの光取り出し効率を改善することができる。
(半導体材料10)
半導体材料10は、単元素の半導体(Si、Ge)、化合物半導体(GaN、AlN、InN等又はそれらの混晶のIII族窒化物半導体、GaAs、GaP、AlAs、AlP、InAs、InP等あるいはそれらの混晶のIII−V族化合物半導体、ZnSe、ZeTe、CdTe等あるいはそれらの混晶のII−VI族化合物半導体、ZnO、GaO等あるいはそれらの混晶の酸化物半導体)、又はレーザ光に対して透明な材料(石英ガラス、一般ガラス、サファイア、アルミナ、水晶、ダイヤモンド、シリコンカーバイト等)の上に形成された、単層又は多層の半導体膜である。
(流動性物質20)
流動性物質20は、有機化合物、有機色素、無機顔料又は炭素粉末を含む物質が利用できる。例えば、トルエン、ベンゼン、ローダミン6Gのエタノール溶液、フタロシアニンのエタノール溶液、ズダンIVのトルエン溶液、炭素粉末のトルエン懸濁液、炭素粉末のNメチルピロリドン懸濁液、食用色素(黄色、赤色、緑色)の水溶液等に適宜添加物を混ぜたものが流動性物質に利用できる。
レーザ光の波長が従来のLIBWE法の実施事例より長くなった場合、特にレーザ光の波長が緑色より長くなると、特許文献1の図3に示されるように、色素溶液の吸収率が低くなってしまうという課題がある。赤外光である1064nmのレーザ光波長に対し、非特許文献4で示される液体状ガリウム、あるいは水銀(アマルガムを含む)やアルカリ金属(ルビジウム、セシウム、フランシウム等)といった液体金属は、吸収率の高い流動性物質となりうるが、次のような問題がある。液体状ガリウムは、液体状態で利用するために融点30℃以上の温度を保持する必要があり装置が複雑になる。また、加工後もガリウムが加工部位表面に強固に付着するため除去が容易でない。酸をもちいた洗浄が必要になり、ガリウム自体、高価であるにも関わらず、流動性物質として再利用することができない。水銀は人体にとって有害であり、付着時の除去に酸をもちいた洗浄が必要になり、取り扱いが厄介である。アルカリ金属は反応性が非常に高く、空気中の水蒸気と反応し、また消防法の危険物であり、取り扱いはさらに難しい。1064nmのような赤外領域のレーザ光には、赤外領域で高い吸収率を有する流動性物質(例えば、炭素微粉末の懸濁液)をもちいて半導体材料の加工を行うと酸をもちいた洗浄が不要で取扱いが比較的容易である。
流動性物質の溶媒について、特に、有機溶媒でなく水にすることで、加工後の半導体基板の洗浄に水を利用することができると共に、排液処理が容易となり、作業者が有機溶剤蒸気に暴露するのを防ぐ機構や装置を防爆仕様にする必要が無くなり装置の構成が簡便化できる。環境負荷も少なくできるので好ましい。具体的には、ピラニン水溶液、各種食用色素の水溶液、水溶性を付与したカーボンブラック(炭素微粒子、炭素からなる黒色顔料)を水に分散させたものが利用できる。
炭素粉末(カーボンブラック)を含む物質、例えば炭素粉末のトルエン懸濁液は、炭素粉末の分散状態が変化しうる。具体的には、時間の経過と共に炭素粉末が沈降し、炭素粉末濃度が上方で低下し下方で上昇する。半導体材料10を水平に保持し、下方からレーザ光30を照射することにより、図2、図3等に示す水平方向にレーザ光を出射させる構成と比べ、下方での炭素粉末濃度上昇を利用し、沈降した状態の炭素粉末にレーザ光を吸収させて加工に用いることで加工条件の均一化を図ることができる。つまり、半導体材料と流動性物質との接触面を重力の向きとほぼ直交させることで、炭素粉末の懸濁液のような分散物の沈降が発生するような流動性物質を用いても、安定に加工することが可能となる。また、流動性物質の保持機構に上面を開放とする簡略な構造を採用できる。
(レーザ光30)
レーザ光30は、そのピーク波長を、半導体材料の吸収帯及び発光帯の波長領域をさけた波長とする。したがって、加工対象の半導体材料の種別や組成、バンドギャップ、不純物等に応じて、レーザ光の波長が選択される。このようなレーザ光源には、エキシマレーザ、YAGレーザ、YVOレーザ、YLFレーザ、半導体レーザ、炭酸ガスレーザ、色素レーザ、銅蒸気レーザ、又はチタンサファイアレーザの基本発振波長や高調波、あるいは和周波や差周波等を用いることができる。
レーザ光の選択において、特許文献2の段落0034、表1や特許文献4の段落0057、表1で示されるように、透明材料の微細加工方法として、従来実施例では紫外領域のレーザ光が比較的多く用いられ、その波長域にて高い吸収率を有する色素溶液が流動性物質として用いられた。半導体材料は、特許文献1〜4あるいは非特許文献3で示される透明材料よりバンドギャップエネルギーが小さい。例えば、AlN約6.3eV、閃亜鉛鉱型ZnS約3.54eV、GaN約3.4eV、ZnO約3.2eV、SiC約3.2eV、ZnSe約2.7eV、GaP約2.3eV、CdTe約1.52eV、GaAs約1.43eV、InP約1.35eV、Si約1.12eV、InN約0.7eV、Ge約0.7eVで、サファイヤ単結晶の約8eV、水晶の約8.4eV、溶融石英ガラスの約7.8eV(不純物や構造欠陥等によりバラツキあり)と比べ半導体材料のバンドギャップエネルギーは小さい。そのため加工に用いるレーザ光の波長は透明材料でもちいられたものより一般に長くなる。
また、半導体材料の特徴として、非特許文献5に示されるようなバンドギャップ内準位が存在し、この準位に関わる光吸収がある。このため、前記レーザ光として、前記半導体材料の吸収帯又は発光帯の波長領域を避けた波長のレーザ光を用いる必要がある。この場合に、明瞭な光学吸収が観測される吸収帯のみならず、半導体材料のバンドギャップ内に存在する不純物準位が関与する微弱な吸収帯を避ける必要がある。このような微弱な吸収帯の存在は光吸収の測定では明瞭に観測できないが、発光帯として観測できる場合があるので吸収帯だけでなく発光帯の波長領域を避けることが好ましい。例えば、AlNでは500−6200nmの波長、ZnSでは約8〜12μmの波長、GaNでは約700nmより長い波長 (より好ましくは約950nmより長い波長)、ZnOでは850nmより長い波長、ZnSeでは506nmより長い波長、GaPでは600〜630nmあるいは1130nmより長い波長、GaAsでは約920nmより長い波長、InPでは970nmより長い波長、a−Siでは約780nmより長い波長、結晶Siでは1.18〜4.5μmの波長、Geでは約2〜20μmの波長のレーザ光が好ましいが、これらに限られるわけではなく、実際の加工対象の半導体材料により含まれる不純物や欠陥が異なるため、適切な波長のレーザ光を選択する。1064nmのNd系固体レーザ、約1030nmのYb系固体レーザ、赤外の半導体レーザ(約810nm、約970nm、約1.5μm等)、チタンサファイアレーザ(約700〜1000nm)、あるいは炭酸ガスレーザ(10.6μm)は、世の中で比較的普及し光源メーカーやレンズやミラー等の光学素子も多く取り揃えられており、適用できる半導体材料も多いので使い易い。例えば、半導体材料がAlNの場合は、532nmのNd:YAGレーザ光のSHG光が、好適に利用できる。またGaNに対しては、1064nmのNd:YAGレーザ光の基本波が利用できる。
レーザ光は、集光レンズを透過させて半導体材料と流動性物質との界面において所定のビームサイズに集光するように照射し、レーザ光を走査又は半導体材料を移動させることにより、半導体材料に所定の三次元微細構造を加工する。この際に、ビームを分割し複数のビームで同時に多点加工することも可能である。マスクを用いて、縮小露光により加工することも可能である。ビームウェストが十分長い場合、斜め照射により斜め溝加工が可能である。ビームウェストが十分短い場合、加工の進捗に合わせ集光点を移動させることにより、加工側面に折れ曲がりや曲面を有する溝を形成することが可能である。
(レーザ加工装置)
次に半導体材料の加工に用いるレーザ加工装置400の概略構成を、図5に示す。この図に示すレーザ加工装置400は、レーザ光を発生させるレーザ発生部80と、このレーザ発生部80から発せられるレーザ光のビーム径を拡大させる第一ビームエキスパンダー41と、戻り光を除去するファラデーアイソレーター70と、第二ビームエキスパンダー42と、レーザ光を走査させるレーザ光走査部61と、レーザ光を集光させるfθレンズ43とを備える。また流動性物質20は、流動性物質保持部22でもって半導体材料10の加工対象面側に保持される。
(レーザ光走査部61)
レーザ発生部80で得られたレーザ発振は、レーザ光走査部61により走査される。レーザ光走査部61は、X軸スキャナと、X軸スキャナと直交するよう配置されたY軸スキャナとを備える。X軸スキャナ、Y軸スキャナは、ガルバノモータでミラーを回転軸を中心に回転自在として、反射角度を調整可能としている。このレーザ光走査部61は、X軸スキャナ、Y軸スキャナでもって、レーザ発生部80より出射されるレーザ光を加工領域内で2次元的に走査し、さらにZ軸上で移動するレンズでワーキングディスタンスすなわち焦点距離を調整する機構を含む3次元加工システムとすることが可能となる。なお、この例では三次元加工可能なレーザ走査系を採用したレーザ光走査部61について説明したが、レーザ光走査部61が光軸に沿って前後し焦点位置を制御するレンズを備えず、X軸スキャナ、Y軸スキャナによる二次元走査のみのシステムであれば、半導体材料の保持機構に焦点が半導体材料と流動性物質との界面に来るように加工対象面に対して垂直な方向に移動して半導体材料の位置を設定することができる機能を備えれば、同様な3次元加工システムとすることができる。
実施例1として、半導体材料にGaN基板を用いた加工方法について、図6の模式断面図に基づいて説明する。ここでは、半導体材料10に板状の均質なウェハーとして、厚さ約360μmの、(0001)面(Ga面、c+面)のGaN基板を用いた。またレーザ光30として、1064nmのDPSS(Nd:YAG)レーザ光の基本波を用いた。さらに流動性物質20として、炭素粉末のトルエン懸濁液(6g/200mL)を用いた。
レーザ加工装置400でレーザ光30を発生させ、GaN基板である半導体材料10と炭素粉末のトルエン懸濁液である流動性物質20との界面に照射する。具体的には、レーザ発生部80である1064nmのDPSSレーザから出射されたレーザ光30は、ビームエキスパンダー41、ビームエキスパンダー42によりビーム径φ約12mmに拡大され、レーザ光走査部61に入る。レーザ光走査部61を通ったレーザ光30は、fθレンズ43により集光され、GaN基板である半導体材料10の(000−1)面(N面、c−面)から入射し、基板を通過して、炭素粉末のトルエン懸濁液である流動性物質20との界面で焦点を結ぶ。この焦点が加工点50である。ここではfθレンズ43に、焦点距離99.93mmのものを用いた。レーザ光集光径の計算値は約13μmである。レーザ光走査部61でレーザ光30を走査することにより、加工点50の位置を変更できる。
ここではレーザ光の照射条件を、パルス繰返し周波数5kHz、パルスエネルギー53μJ/pulse、走査速度1.7cm/sとして、GaN基板の溝加工を行った。
加工終了後に、炭素粉末のトルエン懸濁液をエタノールを用いて洗い流した後、GaN基板表面に形成された溝構造を共焦点レーザ顕微鏡で観察した。この結果を図7に示す。これらの図に示すように、得られたGaN基板には、チッピング、割れ欠け、デブリ等が見られない良好な溝加工が形成されることが確認された。ここで、レーザ光を1回走査することで得られた溝構造の溝幅は16.6μm、溝深さは7.2μm、2回走査で得られたものの溝幅は18.4μm、溝深さは13.8μm、3回走査で得られたものの溝幅は16.6μm、溝深さは21.7μmであった。走査回数に比例して深さが増大し、高アスペクト比の溝加工が可能となることが確認できた。また溝幅は、レーザ光集光径をより小さくすることで、より小さな溝幅とすることができる。
次に、実施例2として同種のGaN基板に対して、レーザ光として、同じく1064nmのDPSSレーザ光の基本波を、パルスエネルギー57μJ/pulseで、多数回ビーム走査させて溝加工を行った。この結果GaN基板に作製された深溝構造の溝に垂直な断面の走査型電子顕微鏡像を図8に示す。
図8に示すように、レーザ光を20回走査して加工した深溝では、深さ93μm、側壁平行部分の溝幅7.8μmという高アスペクト比が実現できた。溝の側壁に、チッピングやクラック(割れ欠け)が見られず、良好な溝加工が実現できていることが確認できた。
このレーザ加工装置400では、レーザ光走査部61でレーザ光をXY平面内で走査することにより、加工点50の位置を任意に変更でき、半導体材料10に対して直線以外の六角形、円形等任意の形状に溝加工ができる。このような例として、GaN基板の表面に円形、その内側に六角形、さらに内側に平行線を溝加工した例を、実施例3に係るGaN基板の溝加工として、図9の光学顕微鏡像に示す。このように各方向に溝加工が可能であることから、GaN基板の面方位に依存しない、すなわち化学反応とは異なる物理的な加工が実現されていることが確認された。これにより、半導体ウェハー加工工程途中の個別識別のための刻印、例えば任意の文字や数字、一次元バーコードや二次元バーコード等の加工が可能となる。
さらに半導体材料をレーザ光の光軸に対し相対的に傾斜させて配置すれば、斜めに溝加工を行うことも可能である。このような例を実施例4として、GaN基板をレーザ光の光軸に対し45度傾けて配置し、斜めに溝加工を行った結果を、図10のSEM像に示す。加工する溝の角度はGaN基板をレーザ光の光軸に対し傾ける角度を調節することで変更可能であり、基板から流動性物質との界面への光の入射角度に一致する。この角度は基板への光の入射角と基板の屈折率からスネルの法則に基づいて求められる。この技術をLEDのウェハー加工に適用すれば、LEDの溝側面からのLED光の取り出し効率を向上させることができる。また同様に角度を変更すれば、側面からのLED光の取り出し効率を抑制することも可能である。
なお上記の実施例では、GaN基板の(0001)面(Ga面、c+面)への加工を示した。図9で加工方向の結晶方位依存性が見られなかったのと同様に、(000−1)面(N面、c−面)のGaN基板に対しても同様に加工可能である。
(比較例1)
以上の実施例では、GaN基板の加工に1064nmのレーザ光を用いた。これに対して比較例1として、532nmのレーザ光を用いて溝加工を行った。ここでは、パルスエネルギー35μJ/pulseのレーザ光をGaN基板の(000−1)面(N面、c−面)に照射したところ、レーザ光入射面に溝形成がみられたが、同時に割れが発生した。この結果を図11の光学顕微鏡像に示す。
ここで参考のため、GaN基板、及びGaN基板表面にGaNエピタキシャル膜を形成したGaNテンプレート、AlN基板表面に同じくGaNエピタキシャル膜を形成したAlNテンプレート、及びサファイア基板について、波長別の光の透過率を測定した透過スペクトルのグラフを図12に示す。テンプレート基板は薄膜による光の干渉の為、透過率が波打っているが、特に吸収を示す透過率が特に低下する波長領域は見られない。透過率が100%にならないのは基板による反射のロスが存在するためであり、光が吸収されているのではない。
この図に示すとおり、GaNのバンドギャップエネルギーである3.45eV相当の光の波長は、約365nmであり、GaN基板は532nmの光に対して高い透過率を示す。しかしながら、532nmのレーザ光を用いた場合、レーザ光の入射側の面で直接加工が起こり、流動性物質との界面でのLIBWE加工が見られなかった。図11に示す光学顕微鏡像は、GaN基板の流動性物質と接した加工対象面でなく、入射面側(加工対象面の裏面側)に形成された溝を示している。この図に示すように、溝近傍にデブリが見られ、割れも発生しており良好な溝加工とはなっていない。この理由の詳細は明らかでないが、非特許文献6のFig.1に示されるようなGaN基板に存在する「イエローの発光帯(浅いドナー準位と深いアクセプター準位が関連する560nm付近を中心とするブロードな発光帯)」が関連して、半導体材料のバンドギャップ内に存在する不純物準位が関与する微弱な吸収帯に強度の大きい532nmのレーザ光が吸収された結果、直接加工に至ったものと考えられる。
したがって、GaNのような半導体材料のLIBWE加工においては、バンドギャップエネルギー(3.45eV)相当の光の波長である約365nmよりも波長の長いレーザ光であればよいという訳ではなく、バンドギャップ内の発光帯あるいは光吸収帯にふくまれない波長のレーザ光を用いることが必要といえる。
(比較例2)
以上の例では、加工対象の半導体材料としてGaN基板の単層を用いたが、本発明は複数層の積層体に対しても、所望の層に対して微細加工を行うために利用することもできる。比較例2として、板状の半導体材料として、サファイア基板上にGaNエピタキシャル膜を約4μm形成したGaNテンプレートに対して、レーザ光を走査して溝加工を行った。ここではレーザ光として、532nmのDPSS(Nd:YAG)レーザ光の2倍波を用い、流動性物質としてズダンIV色素のトルエン飽和溶液を流動性物質として実施した、GaNテンプレートのGaN膜の溝加工の結果を示す。加工に用いたレーザ加工装置の概略やGaNテンプレートの配置は、図5に示したものと同様とした。またGaNテンプレートの配置を図13の模式断面図に示す。この図に示す半導体材料10は、基板11と、その上面に成長された半導体膜12の積層体である。パルスエネルギーを11.7、16.5μJ/pulseとして得られた加工結果を図14A、図14Bに示す。16.5μJ/pulseでの加工ではレーザ走査を行った領域の全体で加工が見られているが円形のチッピングが多数発生している。このチッピングは厚さ4μmのGaN層とサファイアの境界付近を起点としたすり鉢状の形状となっている。パルスエネルギーを11.7μJ/pulseに減少した場合にも、チッピングの発生は見られており、さらに、レーザ走査をしたにもかかわらず加工が起こらない部位が発生した。
比較例2と同様のGaNテンプレートに対してレーザ光として、1064nmのDPSS(Nd:YAG)レーザ光の基本波を用い、また流動性物質としては、炭素粉末のトルエン懸濁液(6g/200mL)を用いた加工を行った。ここでは図9と同様の形状の加工を行った。外周の円形と6角形の部分は1回走査、中央の6本の横線は下から1回〜6回走査による加工を行っている。パルスエネルギーを39、48μJ/pulseとして得られた加工結果を図15A、図15Bにそれぞれ示す。パルスエネルギーが57μJ/pulseの場合、(比較例2)で発生したのと同様のチッピングが見られた。パルスエネルギーが48μJ/pulseの場合、1回走査で加工した外周部は断続的な加工になっている。走査回数が2回以上になる横線部分では全長にわたる加工が見られた。しかし、円形のチッピングの発生が2か所で見られた。これに対してパルスエネルギーが39μJ/pulseの場合、1回の走査の外周部分では加工が見られないが、3回以上の走査を行った横線部分では走査した全長にわたりチッピングのない溝形成が見られた。3回の走査で得られた溝はサファイア基板まで到達しており最大深さは4.1μmであった。チッピングのない溝形成は、1回の走査での加工があまり進まないパルスエネルギー40μJ/pulse以下の低フルエンスのレーザ光の走査を複数回行うことで可能となった。低フルエンスのレーザ光の1回目の照射により流動性物質に接する半導体材料の表面の改質が起こり、改質した半導体材料表面が2回目以降のレーザ光照射によりレーザ光エネルギーを吸収し加工が進むと考えられる。一方、比較例2の波長532nmの場合には、パルスエネルギーを11.7μJ/pulseに下げてもチッピング発生は抑制されず、溝加工の方が見られなくなったが、波長を1064nmにすることでチッピングを発生させずに溝形成可能な条件が得られた。この結果から、上記加工法が適正な条件(レーザ波長、流動性物質、パルスエネルギー、集光サイズ、走査速度、パルス周期、走査回数)を設定することで、複数層の積層体に対しても適用可能であることが示される。
以上の例では、加工対象の半導体材料としてGaNを用いたが、本発明はGaN以外の半導体材料に対しても利用できる。ここで実施例6として、板状の半導体材料として、サファイア基板上にAlNエピタキシャル膜を約3.5μm成長させたAlNテンプレートに対して、レーザ光を走査して溝加工を行った。ここではレーザ光として、532nmのDPSS(Nd:YAG)レーザ光の2倍波を用いた。また流動性物質として、ズダンIV色素のトルエン飽和溶液を用いた。加工に用いたレーザ加工装置の概略やAlNテンプレートの配置は、図5に示したものと同様とした。この結果を図16の光学顕微鏡像に示す。この図に示すように、チッピングやデブリのない良好な溝加工が出来ることが確認された。なおこの例ではレーザ光のパルスエネルギーは20.2μJ/pulseとしているところ、十数μJ/pulseでも加工可能である。ただ、好ましくは20μJ/pulse以上のパルスエネルギーとする。
さらにレーザ光走査部等を用いレーザ光を走査すれば、マスクを必要とせずに任意の直線や曲線を描けるため、少量多品種の半導体素子の溝加工に適する。また、板状の半導体材料の工程途中の個別識別のための刻印にも好適に利用できる。
本発明の半導体材料の加工方法及びレーザ加工装置は、板状の半導体材料に溝加工を施す際に、加工面に加工損傷を少なくでき、半導体素子ウェハー製造工程において好適に利用できる。
100、200、300、400…レーザ加工装置
10…半導体材料
11…異種材料基板
12…半導体膜
20…流動性物質
22…流動性物質保持部
30…レーザ光
40…集光レンズ
41…第一ビームエキスパンダー
42…第二ビームエキスパンダー
43…fθレンズ
44…ビームエキスパンダー
45…ミラー
46…ミラー
50…加工点
61…レーザ光走査部
70…ファラデーアイソレーター
80…レーザ発生部
81…エキシマレーザ
82…DPSSレーザ
91…ホモジナイザー
92…マスク

Claims (11)

  1. レーザ光を半導体材料に照射して、該半導体材料に加工を施す加工方法であって、
    照射するレーザ光の波長に対して高い吸収率を有する流動性物質を、半導体材料の加工対象面と接触させた状態を提供する工程と、
    半導体材料の加工対象面の裏面側からレーザ光をパルス照射して、半導体材料の加工対象面に加工を行う工程と
    を含み、
    前記レーザ光の光子のエネルギーが、半導体材料のバンドギャップエネルギーよりも小さく、半導体材料の透過率の低下がみられない吸収帯又は発光帯の波長領域に含まれない波長のレーザ光を用いることを特徴とする半導体材料の加工方法。
  2. レーザ光を半導体材料に照射して、該半導体材料に加工を施す加工方法であって、
    照射するレーザ光の波長に対して高い吸収率を有する流動性物質を、半導体材料の加工対象面と接触させた状態を提供する工程と、
    半導体材料の加工対象面の裏面側からレーザ光をパルス照射して、半導体材料の加工対象面に加工を行う工程と
    を含み、
    前記レーザ光の光子のエネルギーが、半導体材料のバンドギャップエネルギーよりも小さく、半導体材料の吸収帯又は発光帯の波長領域に含まれない波長のレーザ光を用いるものであり、
    前記レーザ光のパルスエネルギーとして、1回目の照射で前記半導体材料の前記流動性物質との接触面に改質を起こし、2回目以降の照射で加工を生じさせる低いエネルギーとし、複数回照射することを特徴とする半導体材料の加工方法。
  3. 請求項1又は2に記載の半導体材料の加工方法であって、
    前記半導体材料が、単元素の半導体、化合物半導体、又は前記レーザ光に対して透明な材料の上に形成された半導体膜であることを特徴とする半導体材料の加工方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか一に記載の半導体材料の加工方法であって、
    前記流動性物質として、有機化合物、有機色素、無機顔料又は炭素粉末を含む物質を用いることを特徴とする半導体材料の加工方法。
  5. 請求項1〜のいずれか一に記載の半導体材料の加工方法であって、
    前記流動性物質が、水溶液であることを特徴とする半導体材料の加工方法。
  6. 請求項1〜のいずれか一に記載の半導体材料の加工方法であって、
    前記レーザ光として、エキシマレーザ、YAGレーザ、YVOレーザ、YLFレーザ、半導体レーザ、炭酸ガスレーザ、色素レーザ、銅蒸気レーザ、又はチタンサファイアレーザの基本発振波長あるいは高調波を用いることを特徴とする半導体材料の加工方法。
  7. 請求項1〜のいずれか一に記載の半導体材料の加工方法であって、
    レーザ光をパルス照射する光軸を、半導体材料の厚さ方向に対して斜めに設定してなることを特徴とする半導体材料の加工方法。
  8. 請求項1〜のいずれか一に記載の半導体材料の加工方法であって、
    前記半導体材料の加工対象面に前記流動性物質を接触させ、集光レンズを透過させて所定のビームサイズにした前記レーザ光を前記半導体材料の加工対象面の裏面側から前記半導体材料と前記流動性物質との界面に照射しながら、レーザ光を走査又は半導体材料を移動させることにより、半導体材料に所定の三次元構造を加工することを特徴とする半導体材料の加工方法。
  9. 請求項に記載の半導体材料の加工方法であって、
    前記半導体材料と前記流動性物質との接触面が、重力の向きと略直交することを特徴とする半導体材料の加工方法。
  10. 請求項1〜のいずれか一に記載の半導体材料の加工方法であって、
    レーザ光の波長が1000〜1100nmであり、
    加工対象の半導体材料が窒化ガリウム系材料であることを特徴とする半導体材料の加工方法。
  11. 半導体材料に対してレーザ光をレーザ誘起背面湿式加工法に従い照射して、所望の加工パターンに加工可能なレーザ加工装置であって、
    レーザ光を発生させるためのレーザ発生部と、
    前記レーザ発生部より出射されるレーザ光を、X軸方向に走査させるためのX軸スキャナ及びY軸方向に走査させるためのY軸スキャナを含むレーザ光走査部と、
    前記レーザ発生部及び前記レーザ光走査部を制御するためのレーザ駆動制御部と、
    半導体材料の加工面に、照射するレーザ光の波長に対して高い吸収率を有する流動性物質を接触させるための流動性物質保持部と、
    を備え、
    半導体材料の加工対象面の裏面側からパルス照射するレーザ光を、その光子のエネルギーが、半導体材料のバンドギャップエネルギーよりも小さく、かつその波長が半導体材料の透過率の低下がみられない吸収帯又は発光帯の波長領域よりも長くしてなることを特徴とするレーザ加工装置。
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