本発明のプレート式反応器は、ガス状の原料を反応させるための反応容器と、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、前記伝熱プレートに所望の温度の熱媒を供給するための熱媒供給装置と、を有する。
前記反応容器には、ガス状の原料(原料ガス)が供給され、生成ガスが排出され、かつ複数の伝熱プレートが並んで収容される容器を用いることができる。プレート式反応器は一般に加圧条件下の雰囲気での反応に用いられることから、前記反応容器は3,000kPa(キロパスカル)の内圧に耐えられる耐圧性の容器であることが好ましい。このような反応容器としては、例えば円筒部またはその一部を組み合わせたシェル、複数の伝熱プレートが収容されるように板部材によって内部が区切られたシェル、及び、複数の伝熱プレートが収容されるように平面の内面を構成する部材によって囲まれてなる筐体状の内部を有する容器等が挙げられる。
前記伝熱プレートは、断面形状の周縁又は端縁で鉛直方向に連結している複数の伝熱管を含む。このように伝熱プレートは、並列する複数の伝熱管を含む板状体である。伝熱プレートにおいて、伝熱管は直接連結されていてもよいし、プレートやヒンジ等の適当な部材を介して間接的に連結されていてもよい。伝熱プレートは、伝熱管の断面形状を二分割した形状が直接又は間接的に複数連なる形状にそれぞれ成形された二枚の鋼板を接合することによって形成されることが、安価に伝熱プレートを得る観点から好ましい。
前記伝熱プレートの間隔は、設計値に応じて設定され、等間隔であってもよいし、二以上の異なる間隔であってもよい。例えば反応容器の内部の形状が矩形である場合では、伝熱プレートは、伝熱プレート間において伝熱プレートの軸が互いに平行になり、伝熱プレート間において伝熱管の軸が互いに平行になるように設けられる。また例えば反応容器の内部が円筒状である場合では、伝熱プレートは、前述のように設けられてもよいし、伝熱プレートの軸が反応容器の横断面の半径方向になり、伝熱プレート間において伝熱管の軸が互いに平行になるように(すなわち放射状に)設けられてもよい。
前記反応容器内に収容される伝熱プレートの数は、特に制限されず、実用的には反応に必要な触媒量から決定され、通常、数十枚から数百枚である。また、前記反応容器内に収容される伝熱プレートの数は、反応生成物の工業的な生産における高い生産性を実現する観点から、伝熱プレート間の隙間の全容量が3L(リットル)以上となる数であることが好ましく、100L以上となる数であることがより好ましく、250L以上となる数であることがさらに好ましい。伝熱プレート間の隙間にスペーサが挿入されている場合は、スペーサと伝熱プレートで囲まれた一区画の容積が1L以上であることが好ましく、10L以上であることがより好ましく、30L以上であることがさらに好ましい。
反応容器に収容されている前記伝熱プレートの軸間の距離は、気相接触反応において反応温度を十分に制御する観点から、10〜50mmである。なお、伝熱プレートの軸とは、前記隙間から前記伝熱プレートを見たときに、前記隙間におけるガスの通気方向に沿って伝熱プレートを切断したときの伝熱プレートの断面において、伝熱プレートにおいて全ての伝熱管が一直線上で連結している場合はこの直線を言い、全ての伝熱管の連結部が一直線上にない場合は、全ての連結部を挟む二本の平行線の間の中点を通る直線を言う。
前記伝熱プレートの軸間の距離は、反応に伴う熱を有効に除去し、触媒層のホットスポットによる(発熱反応の場合)触媒の劣化を防ぎ、一方触媒層全層に亘る温度を最適な範囲に制御して、高い反応率と高い反応成績を得る観点から、平均値で10〜50mm(隣り合う伝熱プレートにおける伝熱管の幅の半値の和の1.1〜5倍)であることが好ましく、10〜40mmであることがより好ましく、20〜35mmであることがさらに好ましい。
前記伝熱プレートの軸間の距離は、触媒の直径(通常、工業触媒では、1から10mm)や触媒の反応活性、更には触媒の耐高温性能にも影響される。反応熱の除熱に対しては、伝熱プレートの軸間距離が小さいほど反応の制御は容易であるが、触媒の直径の5〜10倍以上の伝熱プレートの軸間距離でないと、触媒充填時にブリッジングを起こし、充填密度が低下することがある。
前記伝熱プレートは、前記反応容器内において、伝熱プレートの表面の凸縁が互いに対向するように並べられてもよいし、一方の伝熱プレートの表面の凸縁が他方の伝熱プレートの表面の凹縁に対向するように並べられてもよい。
前記伝熱管は、前記伝熱プレートが反応容器内に収容されたときに、伝熱管の軸が反応容器内の通気方向に対して横断する方向に一般に配置される。このとき、伝熱管の軸と反
応容器内の通気方向との角度は、反応容器内において伝熱管の軸がガスの通気方向に対して横断していれば特に限定されない。伝熱管は、反応容器内の通気方向に対して伝熱管の軸が直交すること、すなわち伝熱管を流れる熱媒の流れ方向が反応容器内の通気方向に対して直交すること、が、伝熱管内の熱媒の温度の調整によって原料の反応を制御する観点からより好ましい。
前記伝熱管は、伝熱管内の熱媒と伝熱管に外接する触媒層との間で熱が交換される伝熱性を有する材料で形成される。このような材料としては、例えばステンレス及びカーボンスチール、ハステロイ、チタン、アルミニウム、エンジニアリングプラスチック及び銅が挙げられる。好ましくはステンレスが用いられる。ステンレスでは、304、304L、316、及び316Lが好ましい。伝熱管の断面形状は、円形でもよいし、楕円形やラグビーボール型等の略円形でもよいし、円弧を対称に接続してなる葉形でもよいし、矩形等の多角形でもよいし、これらの複数を組み合わせた形状であってもよい。伝熱管の断面形状における周縁とは、円形における周縁を意味し、伝熱管の断面形状における端縁とは、略円形における長軸端の縁や、多角形における一角の縁を意味する。
各伝熱プレートにおいて、伝熱プレートの軸方向における前記伝熱管の直径は、(1)伝熱プレートの軸及び伝熱管の軸の両方と直交する方向の曲げ(撓み)剛性、(2)伝熱管の形状の成形性と成形精度、(3)反応熱の除去に必要な伝熱面積、を十分に確保する観点から、また(4)適度な反応ガスの流れ分布と触媒層の伝熱係数、(5)伝熱管内の適度な熱媒の流速と伝熱係数、を得る観点から、10〜100mmであることが好ましく、15〜70mmであることがより好ましく、20〜50mmであることがさらに好ましい。
また各伝熱プレートにおいて、伝熱プレートの軸に直交する方向における前記伝熱管の半径は、気相接触反応において反応温度を十分に制御する観点から、1.5 〜25mmである。前記伝熱管の半径は、(1)隣り合う伝熱プレート間の距離を、この伝熱プレート間で発生する反応熱に対応して制御し、触媒層温度を調整する観点、(2)反応熱の除熱に必要な伝熱面積、及び(3)伝熱管の形状の成形性と成形精度、を十分に確保する観点、適度な(4)反応ガスの流速分布の乱れと触媒層の伝熱係数、(5)反応ガスの圧力損失、及び(6)伝熱管内の熱媒の流速と伝熱係数、を得る観点から、1.5〜25mmであることが好ましく、3〜20mmであることがより好ましく、5〜15mmであることがさらに好ましい。
プレート式反応器においては、伝熱プレート間の距離は、通常、触媒層の温度を制御することを目的として調整される。前述した伝熱プレートの軸方向、及び軸に直交する方向における伝熱管のそれぞれの半径は、伝熱プレート間の距離及び触媒の粒径とも関連し、前述の記載の範囲内で上記の目的を達成することが可能である。
なお、一枚の伝熱プレート中の複数の伝熱管のそれぞれにおける断面の形状及び大きさは、一定であってもよいし異なっていてもよい。
また伝熱管の軸方向における長さは、特に制限されないが、一般に0.5〜20mである。伝熱管の軸方向における長さは、反応生成物の大量生産の観点から、3〜15mであることが好ましく、6〜10mであることがより好ましい。
伝熱プレートの軸方向(即ち、伝熱管の軸と直交する伝熱管の断面における伝熱管の連結方向)における長さは、反応容器内に収容した伝熱プレートの撓み等の変形を防止する観点から、5m以下であることが好ましく、0.5〜2mであることがより好ましく、0.5〜1.5mであることがさらに好ましい。
伝熱プレートを製作する際に用いる鋼板の板幅規格及び入手し易さも、実用的な、かつ安価な伝熱プレートの製作には重要であり、通常、入手可能な鋼板の大きさは、国際的にも1.5〜2mかそれ以下である。従って、上記実用サイズの板幅を超える場合は、2枚以上の鋼板を接合して用いることも可能であるが、鋼板の接合部での成形性については、成形精度が低下する場合がある。
伝熱プレートの表面間の距離の設計値の実現では、鋼板の成形時に起因する誤差が重要である。鋼板の成形時に起因する誤差には、伝熱管の軸方向の誤差と伝熱管の連結方向の誤差とがあり、どちらも重要である。特に反応ガスの流れ方向(通常は伝熱管の連結方向)に伝熱プレート間の表面間の距離を変更するときは、反応ガスの流れ方向における伝熱管の形状の成形精度が特に重要になる。これらの誤差を所望の値以下に抑える観点から、伝熱プレートの軸方向の長さは、2m以下が好ましい。
対向する前記伝熱プレートの表面間の距離の設計値は5〜50mmである。ここで伝熱プレートの表面間の距離とは、対向する伝熱プレート間の隙間において、前記伝熱プレートの軸からなる面から等距離にある面に直交する方向における伝熱プレートの表面間の距離を言う。又は、伝熱プレートの表面間の距離とは、前記隙間から前記伝熱プレートを見たときに、前記隙間におけるガスの通気方向に沿って伝熱プレートを切断したときの伝熱プレートの断面において、前記伝熱プレートの軸から等距離にある線に直交する方向における伝熱プレートの表面間の距離を言う。伝熱管と熱媒供給装置とが接続されるにあたり、反応容器内への熱媒の漏出、及び反応容器から伝熱管や熱媒供給装置へのガスの漏出を防止するために、伝熱管は一般に溶接によって熱媒供給装置に接合される。したがって、一般に、反応容器内において、伝熱プレートは不可逆的に固定される。このため、反応容器内の伝熱プレートの配置は、一般に、所望の反応成績に応じた設計値で予め決められている。
前記設計値は、反応の制御と反応成績との条件に基づいて決めることができる。反応の制御の条件は、例えば、反応時における触媒層のピーク温度の絶対値の上限値によって決めることができる。反応成績は、例えば、原料の転化率及び生成物の選択率を考慮して、主に生成物の収量によって決めることができる。前記設計値は、触媒の種類、原料ガスの組成及び流量、及び熱媒の温度等のさらなる因子を考慮して、反応の制御の条件を満たし、かつ反応成績の条件を満たすときの触媒層の厚さ、すなわち伝熱プレートの表面間の距離、として求められる。なお、触媒層のピーク温度は、発熱反応では触媒層の最高温度、吸熱反応では触媒層の最低温度である。
前記設計値は、コンピュータシミュレーションによる計算、伝熱プレートを一対のみ有する等の簡素な構成を有するプレート式反応器及び触媒の総収容量が3L程度の小型のプレート式反応器等の試験機による実験、又は、触媒が充填される一本の反応管と反応管の周囲に熱媒を循環させるジャケットとを有する管式の反応試験機による実験から求めることができる。コンピュータシミュレーションは、例えばアンシス株式会社のCFX、CD
adapco社のSTAR−CD、PSE社のgPROMS等のソフトを用いて行うことができる。
前記設計値は、反応の精密な制御及び反応成績(反応収率或いは選択率)、触媒量当たりの反応生成物の生産性(空時収率)の観点から5〜50mmであることが好ましく、7〜30mmであることがより好ましく、10〜25mmであることがさらに好ましい。触媒の高い生産性を達成するためには、伝熱プレートの表面間の距離は狭い方が温度制御が容易で、反応の精密な制御が可能であるが、伝熱プレートの表面間の距離は挿入する触媒の粒径でも制約される。工業触媒では、触媒の粒径は1〜10mmが多く採用され、前記
設計値はこれらの条件の観点からも上記の範囲内において好ましくは決めることができる。
対向する前記伝熱プレートの表面間の距離の設計値に対する実測値の差は−0.6〜+2.0mmである。ここで「−」は、前記実測値が前記設計値に対して小さいことを表し、「+」は、前記実測値が前記設計値に対して大きいことを表す。
前記伝熱プレートの表面間の距離は、5〜50mmの範囲内であれば、対向する伝熱プレートの表面の如何なる位置の間の距離であってもよい。例えば、伝熱プレートの表面間の距離は、伝熱プレートに含まれる伝熱管のうち、反応容器における原料ガスの通気方向において最も上流側に位置する伝熱管を伝熱管Aとしたときに、対向する一対の伝熱プレートにおける伝熱管Aによる凸縁間の距離であってもよいし、対向する一対の伝熱プレートにおける伝熱管Aとその下流側に隣接する伝熱管との接続部による凹縁間の距離であってもよいし、対向する一対の伝熱プレートにおける一方又は他方の伝熱プレートにおける伝熱管Aとその下流側に隣接する伝熱管との接続部による凹縁と他方又は一方の伝熱プレートにおける伝熱管Aによる凸縁と間の距離であってもよい。
前記伝熱プレートの表面間の距離は、例えば、この表面間の距離の設計値と同じ太さを有する棒を挿入することによって測定することができる。また前記伝熱プレートの表面間の距離は、例えば、前記隙間に挿入される挿入棒部材と、挿入棒部材の先端に、挿入棒部材の軸に直交して配置される前記設計値の長さを有する測定棒部材とを有する測定部材を前記隙間に挿入し、測定棒部材の端部と前記隙間における伝熱プレートの表面とが接触したときの挿入棒部材の軸の角度や回転角度を測定することによって、この角度から測定棒部材に接触した部分の伝熱プレートの表面間の距離を求めることができる。
前記設計値に対する前記実測値の差が+2.0mmより大きいと、反応の十分な制御、暴走反応の抑止、触媒の劣化の防止、及び反応の収率の低下の防止を行うことができないことがある。また、前記設計値に対する前記実測値の差が−0.6mm未満であると、伝熱プレート間の隙間への触媒のフィードに支障を来たすことがあり、又は触媒のフィードが支障なく行われたとしても、形成された触媒層の充填密度が低下し触媒量が足らずに所期の反応率が達成されないことがある。前記設計値に対する前記実測値の差は、より精密な反応の制御の観点から、−0.5〜+1.5mmであることが好ましく、−0.5〜+1.0mmであることがより好ましく、−0.3〜+1.0mmであることがさらに好ましい。
なお、前記設計値に対する前記実測値の差は、プレート式反応器全体において−0.6〜+2.0mmの範囲内にあることが最も望ましいが、反応の暴走の防止と高い生産性の維持とを両立する観点から、全ての実測値のうちの50%以上の前記設計値に対する差が−0.6〜+2.0mmに含まれていることが好ましく、全ての実測値のうちの70%以上の前記設計値に対する差が−0.6〜+2.0mmに含まれていることがより好ましく、80%以上の前記設計値に対する差が−0.6〜+2.0mmに含まれていることがさらに好ましく、90%以上の前記設計値に対する差が−0.6〜+2.0mmに含まれていることがより一層好ましい。
前記実測値の測定点は、伝熱プレートの軸方向において2〜30であることが好ましく、5〜25であることがより好ましく、10〜20であることがさらに好ましい。また、前記実測値の測定点は、伝熱プレートにおける伝熱管の軸方向において2〜50であることが好ましく、5〜30であることがより好ましく、10〜20であることがさらに好ましい。
後述するように、隣り合う伝熱プレートの間隔を制御するため、伝熱プレート間にスペーサー(仕切り)を挿入することがあるが、その場合にはスペーサが伝熱プレートの間隔を調整する効果を有するので、この場合では、前記実測値は、スペーサ間の中央の位置から2箇所を測定すればよい。スペーサを複数枚設置するときの設置間隔は、通常、50cmから1mである。
前記設計値に対する前記実測値の差は、例えば、伝熱プレートを二枚の成形された鋼板の接合によって形成する場合に、鋼板の成形の設計値に対する誤差が十分に小さな(例えば誤差が±0.5mm以下である)、精度の高い成形鋼板を選んで用いる方法、及び、精度が十分でない成形鋼板を選別し、修正して精度を高めて用いる方法、を行うことによって−0.6〜+2.0mmにすることができる。鋼板の成形の設計値に対する誤差については、例えばレーザー式変位計を成形鋼板の両面に設置し、変位計又は鋼板を移動させることによって、成形鋼板の両面の変位を測定し、成形鋼板の形状、その成形精度、及び前記設計値に対する誤差を求めることができる。
さらに、前記伝熱管に、伝熱管の軸方向における長さが10m以下である伝熱管を用いることは、伝熱管や伝熱プレートの撓みを防止する観点から有効であり、前記設計値に対する前記実測値の差を−0.6〜+2.0mmにする観点から好ましい。
前記設計値に対する前記実測値の差は、単一の値であってもよいが、気相接触反応に用いたときの予想される反応率に応じて、伝熱プレートの軸方向において異なる複数の値であってもよい。例えば、気相接触反応において、特に反応の激しい、原料の反応率が小さい反応が行われる伝熱プレート間の隙間における原料ガスの入口部で、前記設計値に対する前記実測値の差を原料ガスの出口部のそれと比べてより小さくすること、すなわち前記設計値に対する前記実測値の差が、伝熱プレート間の隙間における通気方向において上流側でより小さいこと、が、反応の暴走を抑止する観点から好ましい。
このような観点から、原料の反応率が70%以下となる位置における前記設計値に対する前記実測値の差をより小さくすることが好ましく、原料の反応率が60%以下となる位置における前記設計値に対する前記実測値の差をより小さくすることがより好ましく、原料の反応率が50%以下となる位置における前記設計値に対する前記実測値の差をより小さくすることがさらに好ましい。また、前述の観点から、前記の位置における前記設計値に対する前記実測値の差は、他の位置における前記設計値に対する前記実測値の差に比べて、絶対値で0.2mm以上小さいことが好ましく、絶対値で0.5mm以上小さいことがより好ましい。
前記伝熱プレート間の隙間における、前記伝熱プレートの軸方向において原料の反応率が所定の値となる位置は、伝熱管の断面形状及びその大きさ、伝熱管を流れる熱媒の温度及びその流量、伝熱プレートの表面間の距離、触媒の種類、及び原料ガスの組成とその流量等の、反応の進行と伝熱に係る諸条件によって決められ、例えば前述した試験機による実験や前述したコンピュータシミュレーションによる計算から決めることができる。
前記熱媒供給装置は、前記伝熱プレートにおける前記伝熱管の両端において伝熱管と接合し、所望の温度の熱媒を伝熱管に供給するための装置である。前記熱媒供給装置には、プレート式反応器において、前記伝熱管に熱媒を供給するための通常の装置を利用することができる。熱媒供給装置は、複数の伝熱管の全てに一方向に熱媒を供給する装置であってもよいし、複数の伝熱管の一部に一方向に熱媒を供給し、複数の伝熱管の他の一部には逆方向に熱媒を供給する装置であってもよい。
また熱媒供給装置は、伝熱プレートの軸方向を横断する方向に区切られてなる複数の熱
媒循環室を有することが、伝熱プレートの軸方向に沿って触媒層に複数の反応帯域を形成する観点から好ましい。また熱媒供給装置は、前記伝熱管を介して反応容器の内外で熱媒を循環させる装置であることが好ましい。
さらに熱媒供給装置は、伝熱管に供給する熱媒の温度を調整する装置を有する。このような装置としては、例えば、熱媒の循環流路中に設けられる熱交換器、及び熱媒供給装置における前記室の熱媒に、異なる温度の熱媒を混合するための熱媒混合装置が挙げられる。前記熱媒混合装置には、例えば熱媒供給装置内に突出し、熱媒供給装置内に熱媒を分散して供給することができる分配管、熱媒供給装置内に設けられる通液板、及び通称スタティックミキサーと呼ばれる静止型混合器を用いることができる。
前記分配管としては、例えば分配管の長手方向に沿って管壁にスリットや孔のような複数の通液口を有する分配管、及び通液口を有する枝管をさらに有する分配管が挙げられる。前記分配管は、熱媒供給装置内における熱媒の流れ方向に対して直交する方向に延出して設けられることが好ましく、枝管を有する分配管は、主管と枝管とを有し、これらが共に熱媒供給装置内における熱媒の流れ方向に対して直交する方向に延出して設けられ、かつ主管と枝管の延出方向が互いに直交するように設けられることが、異なる温度の熱媒の分散における効率の向上及び圧力損失の抑制の観点から好ましい。
前記プレート式反応器は、前述した以外の他の構成要素をさらに有していてもよい。このような他の構成要素としては、例えば、スペーサ、通気栓、温度測定装置、及びプレート挟持部が挙げられる。
前記スペーサ(仕切り)は、前記伝熱プレートの間に所定の間隔を形成するための部材である。前記スペーサは、伝熱プレートの表面に当接し、伝熱プレートの間隔を保つのに十分な剛性を有することが好ましい。また前記スペーサは、伝熱プレートの軸方向において伝熱プレートの表面に断続的に当接する部材であることが、スペーサを鋼材で形成する場合に、プレート式反応器に要する鋼材の量を削減する観点から好ましい。また前記スペーサは、伝熱プレートの軸方向において伝熱プレートの表面に連続して当接する部材であることが、反応容器内における伝熱プレートの撓み等の変形を防止する観点から好ましい。さらに前記スペーサは、伝熱管の軸方向における触媒の通過を許容しない部材であることが、触媒の充填の観点から、前記伝熱プレート間の隙間を所定の容量の区画に仕切ることができ、伝熱プレート間の隙間に触媒を容易かつ正確に充填する観点から好ましい。スペーサは、伝熱管の軸方向において、10箇所以上配置されることが、又は100〜1,000mmの間隔で配置されることが、反応容器内における伝熱プレートの変形を防止する観点から好ましい。
前記通気栓は、通気性を有し、伝熱プレートの隙間、又はスペーサをさらに有する場合では前記区画の、伝熱プレートの軸方向における端部を、触媒の通過を許容しないように着脱自在に塞ぐための部材である。このような通気栓としては、例えば、伝熱プレートの軸方向における伝熱プレート間の隙間又は前記区画の端部を塞ぐ通気板と、この通気板に設けられ、前記伝熱プレート又は前記スペーサと着脱自在に係止する係止部材とを有する部材が挙げられる。前記通気栓は、前記区画の端部に着脱自在に配置される部材であることが、伝熱プレート間の隙間に触媒を容易かつ正確に充填する観点から好ましい。
前記温度測定装置は、前記伝熱プレート間の隙間に形成された触媒層の温度を測定する装置である。このような温度測定装置としては、可撓性を有する支持体とこの支持体に支持される温度測定部とを有する装置が挙げられる。前記支持体としては、可撓性を有する紐、帯、鎖、管を用いることができる。また前記温度測定部としては、例えば、白金測温抵抗体、サーミスタ、熱電対、及び光ファイバ型温度測定器が挙げられる。
一反応容器当たりの前記温度測定装置の設置数は、触媒層の温度を把握する観点から、2〜20であることが好ましい。また支持体の太さ(幅)は0.5〜5mmであることが好ましい。さらに温度測定部は、触媒層の温度の測定を反応の制御に反映させる観点から、一本の支持体に1〜30設けられることが好ましく、触媒層に複数の反応帯域が形成される場合では、一反応帯域に対して1〜10設けられることが好ましい。前記温度測定装置は、前記伝熱プレート間の隙間において、隣り合う伝熱プレートから等距離の位置に直線状に前記支持体を張り、前記支持体が張られている状態で前記隙間に触媒を充填することによって、前記隙間に適切に配置することができる。伝熱プレートの変形、伝熱菅の形状誤差による部分的な反応異常や触媒層の温度分布異常への影響をチェックする目的では、温度測定位置は、一触媒層において2箇所以上であることが必要である。反応制御の容易さの観点では、温度測定位置は多い方が好ましい。
前記プレート挟持部は、前記伝熱プレートが並ぶ方向における両端の伝熱プレートに、少なくとも伝熱管の軸方向に沿って原料ガスの通気を遮断するように当接して、前記複数の伝熱プレートを伝熱プレートが並ぶ方向に挟持する部材である。プレート挟持部は、反応容器内に設けられていてもよいし、反応容器の対向する一対の壁を構成してもよい。プレート挟持部は、反応容器の壁におけるガスの滞留部の形成を防止する観点から好ましい。このようなプレート挟持部としては、前記複数の伝熱プレートが並ぶ方向における両端の伝熱プレートの少なくとも一本の伝熱管に、伝熱管の延出方向において伝熱管全体に当接する一対の挟持板と、これらの挟持板を貫通して保持する保持棒とが挙げられる。
さらに保持棒が、例えば少なくとも先端部にナットが螺着可能なネジを有する棒のような、所定の間隔で挟持板を対向方向に連結することができる部材であることが、挟持する伝熱プレートとの間隔を微調整する観点、触媒の充填やプレート式反応器内部の点検時における足場を容易に設置する観点、及び他の条件のプレート式反応器への転用が可能である観点からより好ましい。
前記プレート式反応器では、このプレート式反応器を気相接触反応に用いる場合に、前記伝熱プレート間の隙間に触媒が充填される。前記触媒は、気相接触反応の原料及び反応生成物に応じて選ばれる。前記触媒には、気相接触反応で管又は伝熱プレート間の隙間に充填される通常の粒状の触媒を用いることができる。触媒は一種でも二種以上でもよい。このような触媒としては、例えば粒径(最長径)が1〜20mmである触媒が挙げられる。用いられる触媒の粒径は1〜10mmであることがより好ましい。また触媒の形状としては、例えば球状、円柱状、ラシヒリング状が挙げられる。
本発明のプレート式反応器は、熱交換能を有しており、原料ガスと固体の触媒とが用いられる気相接触反応のうち、反応器に熱交換機能を必要とする発熱反応又は吸熱反応に用いることができる。すなわち前記プレート式反応器は、前記反応容器にガス状の原料を供給して前記触媒層に通す工程と、前記伝熱プレートを構成する複数の伝熱管に所定の温度の熱媒を供給する工程とを含む、前記触媒の存在下で原料ガスを反応させてガス状の反応生成物を生成する反応生成物の製造方法に用いることができる。このような製造方法は、公知のプレート式反応器を用いる気相接触反応と同様に行うことができ、又は公知の多管式反応器を用いる気相接触反応と同様の条件で行うことができる。
前記発熱反応を伴う気相接触反応としては、例えば:プロパン、プロピレンと酸素から又はアクロレイン及びアクリル酸の一方又は両方を生成する反応;イソブチレンと酸素からメタクロレイン及びメタクリル酸の一方又は両方を生成する反応;エチレンと酸素から酸化エチレンを生成する反応;炭素数3の炭化水素と酸素から、炭素数3の不飽和脂肪族アルデヒド及び不飽和脂肪酸の一方又は両方を生成する反応;炭素数4の炭化水素及びタ
ーシャーブタノールの一方又は両方と酸素から、炭素数4の不飽和脂肪族アルデヒド及び不飽和脂肪酸の一方又は両方を生成する反応;炭素数3又は4の不飽和脂肪族アルデヒドと酸素から炭素数3又は4の不飽和脂肪酸を生成する反応;炭素数4以上の脂肪族炭化水素と酸素からマレイン酸を生成する反応;o−キシレンと酸素からフタル酸を生成する反応;ブテンの酸化脱水素によりブタジエンを生成する反応;が挙げられる。
前記吸熱反応を伴う気相接触反応としては、例えば、エチルベンゼンの脱水素によりスチレンを生成する反応が挙げられる。
前記製造方法は、メタアクロレイン及びメタアクリル酸の一方又は両方、アクロレイン及びアクリル酸の一方又は両方、マレイン酸、フタル酸、スチレン、酸化エチレン、又はブタジエンの製造に好適に用いることができる。
例えば、(メタ)アクロレイン(アクロレイン又はメタクロレイン)及び(メタ)アクリル酸の一方又は両方を製造する方法は、反応器として本発明のプレート式反応器を用いる以外は、特開2003−252807号公報に記載されているような、プロパン、プロピレン又はイソブチレンを触媒の存在下で分子状酸素又はそれを含有するガスを用いて酸化する公知の方法によって行うことができる。また前記触媒には、同公報に記載されているような、Mo−V−Te系複合酸化物触媒、Mo−V−Sb系複合酸化物触媒、Mo−Bi系複合酸化物触媒、及びMo−V系複合酸化物触媒等の、(メタ)アクリル酸を生成する気相接触酸化反応での使用において公知の触媒を公知の用法で用いることができる。
また前記製造方法は、触媒の存在下における原料ガス中の原料の反応としての発熱反応を伴う気相接触反応において、好適に用いることができる。
前記製造方法では、反応時における触媒層の伝熱プレート軸方向の温度分布中のピーク温度を、プレート式反応器の設計時に設定された触媒層のピーク温度の設定値にする温度の熱媒を、熱媒供給装置から伝熱管に供給する。このような熱媒の温度の制御は、例えば前記設計値に基づくフィードバック制御等の公知の制御方法を利用して行うことができる。反応時における熱媒の温度の制御は、触媒層のピーク温度が前記設計値に対して±20℃となるように行われることが好ましく、触媒層のピーク温度が前記設計値に対して±10℃となるように行われることがより好ましく、触媒層のピーク温度が前記設計値に対して±5℃となるように行われることがさらに好ましい。前記設定値は、プレート式反応器の前記設計値を決める際の実験から求められ、又は前記のコンピュータシミュレーションによる計算において決められる。また熱媒の温度の制御は、前記熱媒供給装置を利用して行うことができる。
本発明のプレート式反応器は、対向する前記伝熱プレートの表面間の距離が前記設計値となる間隔で前記伝熱プレートを配置して前記伝熱管と前記熱媒供給装置とを溶接等により接合することによって得られる。前記伝熱プレートは、例えば前記設計値に等しい太さを有する棒部材を介して伝熱プレートを並べることによって、前記設計値となる間隔で配置することができる。前記棒部材は、伝熱管と熱媒供給装置との接合の後に伝熱プレート間の隙間から抜き出される。
又は、前記伝熱プレートは、プレート式反応器が前記スペーサを有する場合は、接合前の伝熱プレートとスペーサとを交互に密に配置することによって、前記設計値となる間隔で配置することができる。
以下、本発明の実施形態を、図面を用いてより具体的に説明する。
本発明のプレート式反応器は、例えば図1〜4に示されるように、伝熱管1を有し、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレート2と、伝熱プレート2が並ぶ方向における両端の伝熱プレート2に、少なくとも伝熱管1の軸に沿って当接して、複数の伝熱プレート2を伝熱プレート2が並ぶ方向に挟持する一対の挟持板3と、これらの挟持板3を連結する複数の保持棒4と、伝熱プレート2における伝熱管1の両端に当接して伝熱管1に熱媒を供給する熱媒供給装置5と、伝熱管1の軸を横断する方向において、複数の伝熱プレート2における両端を覆い、隣り合う伝熱プレート2間の隙間にガスを流通させるガス分配部6と、隣り合う伝熱プレート2間の隙間を、ガスの通気方向に沿って、充填された触媒を収容する複数の区画に仕切る仕切り7と、各区画の下端を塞ぐ通気栓8と、所定の区画の中央部に、伝熱管1の軸を横断する方向へ張設されている温度測定装置9と、複数の伝熱プレート2の上方を覆うように設けられる穴あき板10とを有する。
伝熱管1は、例えば伝熱プレート2の軸方向における直径(長径、L)が30〜50mmであり、伝熱プレート2の軸方向に直交する方向における直径(短径、H)が10〜20mmである、断面形状が円弧、楕円弧、矩形及び多角形の一部を主構成要素とする形状である管である。伝熱管1の長さは通常0.1〜20mであり、例えば10mである。図5には、円弧を断面形状の構成要素とする、断面形状が葉形の伝熱管を示している。図5中、伝熱管の長径をL、短径をHで表す。
伝熱プレート2は、複数の伝熱管1が断面形状の端縁で連結した形状を有している。伝熱プレート2は、楕円弧が連続して形成するように成形された二枚の鋼板を、両鋼板における弧の端に形成される凸縁で溶接により互いに接合することによって形成されている。前記鋼板には、厚さ2mm以下、好適には1mm以下の鋼板が用いられる。成形された前記鋼板の形状は精密に検査され、例えば、成形の設計値に対する誤差が±1%以内である成形された鋼板はそのまま用いられ、成形の設計値に対する誤差が±5%を超える成形された鋼板は、成形の設計値に対する誤差が±2%以内になるように修正された後に用いられている。
なお、隣り合う伝熱プレート2は、表面の凸縁同士が対向するように並列していてもよいが、図1のプレート式反応器では、一方の伝熱プレート2の表面の凸縁と、他方の伝熱プレート2の表面の凹縁とが対向するように並列している。
伝熱プレート2は、全て同じ伝熱管1で構成してもよいし、断面の大きさが異なる伝熱管1によって構成してもよい。例えば伝熱プレート2は、断面の大きさが異なる三種の伝熱管のそれぞれによって、伝熱プレート2の上部、中部、及び下部が構成されていてもよい。より具体的には、伝熱プレート2は、図7に示すように、三種の伝熱管のそれぞれの長軸が一直線上に配置されるように形成され、例えば、伝熱プレート2の上部は、伝熱プレート2の高さの20%分が最も断面の大きさが大きい伝熱管aで構成され、伝熱プレート2の中部は、伝熱プレート2の高さの30%分が二番目に断面の大きさが大きい伝熱管bで構成され、伝熱プレート2の下部は、伝熱プレート2の高さの40%分が最も断面の大きさの小さい伝熱管cで構成され、伝熱プレート2の高さの10%分は、伝熱プレート2の上端部及び下端部の接合板部で形成されていてもよい。伝熱管aの断面形状は、例えば長径(L)が50mmであり、短径(H)が20mmの葉形であり、伝熱管bの断面形状は、例えば長径(L)が40mmであり、短径(H)が16mmの葉形であり、伝熱管cの断面形状は、例えば長径(L)が30mmであり、短径(H)が10mmの葉形である。
伝熱プレート2は、伝熱プレート2の軸方向における長さは通常0.5〜10mであり、好ましくは2m以下である。伝熱プレート2の軸方向における長さが2m以上の場合は、2枚の伝熱プレート2を接合するか、組み合わせて用いることもできる。
挟持板3は、図2及び図3に示すように、一対の板であり、例えばステンレス製の一対の板である。挟持板3は、縁部で保持棒4によって結合することができるように、伝熱プレート2よりも大きく形成されている。
保持棒4は、図3に示すように、一対の挟持板3を貫通して連結する複数の棒であり、例えば両端部にネジを有するステンレス製の棒である。挟持板3は、図2から図4に示すように、保持棒4の両端部において、伝熱プレート2の上部の伝熱管1(前記伝熱管a)の外周に接する位置に、ナットによって固定される。挟持板3は、保持棒4のネジの設置長さの範囲で、伝熱プレート2を挟持する方向において位置を変えて固定することができる。また保持棒4は、上下方向において、伝熱プレート2間の隙間に配置される仕切り7と重なる位置に配置されている。一対の挟持板3及び保持棒4は前記プレート挟持部を構成している。
熱媒供給装置5は、図1及び図2に示すように、伝熱プレート2の伝熱管1の両端に接する一対の容器であり、例えば接する伝熱管1に対応する開口部を有するステンレス製の一対のジャケット11、12と、ジャケットに設けられ、熱媒の供給と排出に用いられるノズル13と、ジャケット11から排出された熱媒の温度を調整するための熱交換器14と、ジャケット11と熱交換器14との間で熱媒を循環させるためのポンプ15とを有する。熱媒供給装置5は、ネジ及びナット等の通常の固定部材と、ガスケット等のシールとを用いて、挟持板3の側縁部において、挟持板3と互いに気密に接合している。
ジャケット11、12の内部は、所定の本数の伝熱管1ごとにおいて熱媒が一方向又は逆方向に流れて熱媒がジャケット11、12間を往復するように、伝熱プレート2の軸を横断する方向に沿って、連通又は遮断するように適宜に区切られていてもよい。
なお、熱媒供給装置5は、例えば図2中の矢印Yで示されるように、一方のジャケット11から他方のジャケット12へ熱媒を全ての伝熱管1において一方向に流す装置であってもよい。
さらに熱媒供給装置5は、例えばジャケット11、12に、又はジャケット11、12における、伝熱プレート2の軸方向に対して遮断されてなる複数の室のうちの任意の室に、熱媒混合装置を有している。熱媒混合装置は、図6に示すように、ジャケット内外を連通するノズル16と、ジャケット内部においてノズル16に連結し、ジャケット内の熱媒の流れ方向に対して直交する方向に延出する分配管17とを有している。分配管17は、例えば先端が塞がれており、分配管の長手方向の全体にわたって複数の孔が設けられている管である。
ガス分配部6は、例えば、前記複数の伝熱プレートの端部に離間する覆いを形成し、前記熱媒供給装置及びプレート挟持部が形成する反応容器の側壁の両端を密閉する反応容器カバーと、原料ガスが供給され、又は反応生成ガスが排出されるガスの通気口(ノズル18)とから構成することができる。前記反応容器カバーには、ドーム形状、円錐形状、四角垂形状、三角柱形状、筐体等の種々の形状のカバーを用いることができる。また前記通気口には、例えば反応容器カバーに開口するノズルとその端部に形成されるフランジとを有する通常の通気口を用いることができる。前記反応容器カバーは、前記反応容器の側壁に対して通常は一対が設けられ、これらは同一であってもよいし異なっていてもよい。また前記通気口は、反応容器カバーに通常は一つ設けられるが、複数設けられていてもよい。さらに前記通気口は、プレート式反応器において通常は一対設けられるが、これらは同一であってもよいし異なっていてもよい。
より具体的には、ガス分配部6は、図1及び図3に示すように、挟持板3の上端縁とジャケット11、12の上端縁、及び挟持板3の下端縁とジャケット11、12の下端縁、のそれぞれに、例えば前記固定部材とシールとを用いて気密に接合して複数の伝熱プレート2の両端を覆う一対の部材である。ガス分配部6は、例えば、かまぼこ型のステンレス製の蓋である。ガス分配部6は、それぞれ、ノズル18とマンホール19とを有する。一方のガス分配部6のノズル18を介して、ガスが伝熱プレート2間の隙間に向けて供給され、また前記隙間から他方の蓋のノズル18を介してガスが排出される。前記プレート式反応器では、挟持板3、熱媒供給装置5、及びガス分配部6が気密に接合することによって反応容器が形成されている。
マンホール19は、ガス分配部6が設置された状態でガス分配部6に対して作業員が出入りするための開閉扉である。ノズル18及びマンホール19の配置は特に限定されないが、ガス分配部6がかまぼこ型の蓋である場合では、例えば図1に示すように、ノズル18は蓋の一端部に設けられ、マンホール19は蓋の他端部に設けられる。さらにガス分配部6には、圧力の異常な急上昇時や異常反応時の安全対策として、安全弁や破裂板等の不図示の安全装置が、入口部及び/或いは出口部のガス分配部6の本体やノズル18に設置される。
仕切り7は、隣り合う伝熱プレート2の間を、伝熱管1の軸を横断する方向、すなわちプレート式反応器におけるガスの通気方向、に沿って設けられている。仕切り7は、図7に示すように、例えば伝熱管1の表面に当接する、十分な剛性を有する板状の部材であり、下部に矩形の貫通孔である窓20を有している。仕切り7は、伝熱プレート2の間隔を所定の間隔に維持するスペーサとなっている。仕切り7は、プレート式反応器全体において同じ間隔で設けられていてもよいし、異なる間隔で設けられていてもよい。仕切り7は、例えば400mmの同じ間隔で並列して設けられ、伝熱プレート2間の隙間に12Lの容積の複数の区画を形成している。
通気栓8は、図8に示すように、各区画の断面形状と同じ矩形の通気板21と、通気板21の短辺から下方に垂設される第一のスカート部22と、通気板21の長辺から下方に垂設される第二のスカート部23とを有している。第一のスカート部22には、矩形の係止窓24と、その隣に併設される係止爪25とが形成されている。
通気板21は例えば2mmの円形の孔が開口率30%で形成された板である。係止窓24は、係止爪25を収容する幅と高さを有する大きさで形成されている。また係止爪25は、第一のスカート部22の下端縁からの平行な二本の切り込みを外側に凸に折り曲げて形成されている。対向する一対の第一のスカート部22において、一方の係止窓24と他方の係止爪25とが対向し、一方の係止爪25と他方の係止窓24とが対向している。仕切り7の窓20は、係止窓24と係止爪25とが同時に含まれる幅及び高さを有する大きさで形成されている。
通気栓8は、各区画の下端から通気板21を上に各区画に挿入される。このとき係止爪25は、外側への付勢に抗して仕切り7に押さえられるが、窓20に到達したときに、図9に示すように、仕切り7の押さえつけから開放されて窓20に向けて進出し、窓20に係止する。
温度測定装置9は、例えば図2に示すように、伝熱プレート2が形成する複数の隙間のうち、最も外側の隙間と、それより内側の任意の隙間とに設けられる。また温度測定装置9は、伝熱プレート2間の一つの隙間において、伝熱管1の軸方向、すなわち熱媒の流れ方向、に沿って、熱媒の入口近傍と出口近傍とを含む複数箇所に設けられる。温度測定装置9の設置位置は、伝熱プレート2の一本の伝熱管1における上流側の熱媒と下流側の熱
媒との温度差に応じて決めることができる。例えば熱媒の温度を0.5℃単位で制御する場合では、温度測定装置9は、伝熱プレート2の一本の伝熱管1における上流側の熱媒と下流側の熱媒との温度差が2℃以上になる位置に設けられる。
温度測定装置9は、図10に示すように、可撓性を有する支持体26と、支持体26に支持されている複数の温度測定部27と、支持体26から水平方向に延出し、伝熱プレート2の表面に接する複数のスペーサロッド28と、支持体26の基端に設けられるフランジ29と、フランジ29に接続されるコネクタ30と、コネクタ30に接続されるケーブル31と、支持体26の先端に設けられる固定用フランジ32とを有している。
支持体26は管壁の平均厚さが0.2mmであるステンレス製の管である。支持体26内には、温度測定部27である11本の熱電対が挿入されている。各温度測定部27は、各触媒層における温度変化に応じて配置される。例えば温度測定部27は、触媒層における反応ガスの入口近傍と、出口近傍と、各触媒層の各反応帯域においてそれぞれ最大温度になると予測される三箇所とに設けられる。より具体的には温度測定部27は、図10に示すように、各隙間の通気方向において、各隙間の上端部に一つ、伝熱管a群によって形成される第一の反応帯域の中央部に三つ、伝熱管b群によって形成される第二の反応帯域の中央部に三つ、伝熱管cによって形成される第三の反応帯域の上部に三つ、各隙間の下端部に一つが、それぞれ設けられる。
なお、各伝熱管1において熱媒の温度差が2℃以上になる位置や、各触媒層の各反応帯域において最大温度になると予測される位置は、この反応器の試験機を用いた実験結果に基づいて、又はアンシス株式会社のCFX、CD adapco社のSTAR−CD、PSE社のgPROMS等のソフトを用いるコンピュータシミュレーションの結果に基づいて決めることができる。
スペーサロッド28は、支持体26に基端が固定され水平方向に延出するステンレス製の棒材である。スペーサロッド28は、支持体26における位置に応じた長さを有しており、支持体26が各隙間の中心面に支持されたときに伝熱プレート2の表面にスペーサロッド28の先端が接触する長さを有している。スペーサロッド28は、支持体26の中央部から基端部にかけて三本設けられており、対向する伝熱プレート2のそれぞれに交互に接触するように設けられている。
フランジ29は、反応容器の上部に支持体26を固定するために、例えばフランジ29を反応容器内の所定の高さに支持するフランジ支持部材に載せられている。フランジ支持部材は、例えば上側のガス分配部6から垂設するボルトが挿通され、ナットによって所定の高さに保たれる部材であり、例えば支持体26を挟む二本の鋼線と、ボルト用の孔を有し二本の鋼線を支持する鋼線支持部材と、ボルト用の孔に前記ボルトが挿入された鋼線支持部材を下から締め上げるナットとによって構成される。固定用フランジ32は、通気栓8の通気板21における孔の直径よりも大きな直径を有する円板又は輪であり、例えば支持体26の先端を通気板21の前記孔に通した後に支持体の先端に固定される。
図10の温度測定装置9は、垂直方向において、前記隙間の下端部では、各伝熱プレート2から等距離の位置で、支持体26の先端が固定用フランジ32によって通気栓8に固定されており、前記隙間の上端部では、各伝熱プレート2から等距離の位置で、支持体26の基端が前記フランジ支持部材によって固定されている。フランジ支持部材のナットを締め付けることにより、ナットが上方に移動し、支持体26はフランジ支持部材によって上方に張られ、それぞれのスペーサロッド28が伝熱プレート2の表面に接触した状態で直線状になる。
前記プレート式反応器では、前述した構成によって、伝熱プレート2は、例えば、伝熱管aの外壁間の最短距離が14mm(各伝熱プレート2の軸間の距離が30mm)の等間隔で並列している。
伝熱プレート2は、伝熱プレート2とスペーサ7とを交互に配置することによって所望の位置に配置され、この位置で伝熱管1の両端がジャケット10、11と溶接されて接合している。ここで伝熱プレート2の表面間の距離は、伝熱プレート2間の隙間から伝熱プレート2を見たとき(図1)に、前記隙間におけるガスの通気方向(図1中のB−B’線)に沿って伝熱プレート2を切断したときの伝熱プレート2の断面(図3及び図5)において、伝熱プレート2の軸から等距離にある線に直交する方向における伝熱プレート2の表面間の距離である。伝熱プレート2は、伝熱プレート2の軸が鉛直方向に沿うように、また伝熱管1の軸が水平方向に沿うように配置されていることから、例えば、伝熱プレート2の表面間の距離の設計値は、軸が鉛直方向となるように配置されている伝熱プレート2において、水平方向における伝熱プレート2の表面間の距離のうち、一方の伝熱プレートの凸縁と他方の伝熱プレートの凹縁間の距離で20mmであり、前記距離の実測値は19.5〜21mmであるとき、このときの伝熱プレート2の表面間の距離の設計値に対する差は−0.5〜1.0mmとなる。
隣り合う伝熱プレート2間の隙間の各区画には触媒が充填される。触媒には、例えば、最大平均粒径が5mmであり、形状がリングであるモリブデン(Mo)−ビスマス(Bi)系触媒が用いられる。伝熱プレート2と仕切り7とによって形成される区画に、この区画の容積に応じた所定の容積の触媒が充填される。
伝熱プレート2間の隙間に触媒が充填された状態を図11に示す。図11に示すように、伝熱プレート2は、2枚の薄板が円弧や楕円弧、矩形或いは多角形の一部に成型され、互いに向き合って接合され、断面積の異なる三種の熱媒の流路33、34、35を形成している。流路33の幅はもっとも大きく、従って触媒層35の幅は流路33の間でもっとも狭くなっている。流路34、35は、流路33に比べて流路の幅は順次小さくなっており、従って触媒層36の幅は、順次広くなっている。
触媒層36は、流路33、34、35に応じて三つの反応帯域37、38、39を形成している。触媒層36の厚さを、伝熱プレート2の軸に直角な方向の伝熱プレート2間の距離の平均値とすると、反応帯域37における触媒層36の厚さは例えば8〜15mmであり、反応帯域37に続く反応帯域38における触媒層36の厚さは例えば10〜20mmであり、反応帯域38に続く反応帯域39における触媒層36の厚さは例えば15〜30mmである。
前記プレート式反応器を用いて気相接触反応を行う場合、反応温度は伝熱管1を流れる熱媒の温度によって制御される。熱媒の温度は、原料、生成物、触媒の種類によって異なるが、一般に200〜600℃であることが好ましい。熱媒の温度の一例としては、反応原料ガスがC3からC4不飽和炭化水素のとき、300〜400℃である。各反応帯域に供給される熱媒の温度は、それぞれ独立に決定され、制御される。反応原料ガスが(メタ)アクロレインのときは、250〜320℃の範囲で熱媒の温度が選択される。
特に反応原料ガスの反応転化率が重要であり、所望の転化率を得るために熱媒の温度が制御される。プレート式反応器の運転時に触媒層の温度を許容温度以上にすると、触媒の活性の低下、選択率の低下、活性や選択率の低下速度の増大等の問題を生じることがある。ここで「転化率」とは、触媒層に供給された原料ガス(例えばプロピレン)の供給量に対する、反応によって生成物へ転化された原料ガスの量の比率)を言い、「選択率」とは、反応によって転化した原料ガスの量に対する、目的とする生成物に変換された原料ガス
の量の比率を言う。
所定の転化率を得るために、熱媒の温度を制御するが、触媒の性能を長期間にわたり高く保つ為には、触媒層の最大温度が使用する触媒の最大許容温度以下であることが重要であり、より好ましくは、所望の反応成績を得られる範囲で可能な限り触媒層の最大温度を低く保つ事が重要である。
熱媒は、2〜5の反応帯域にそれぞれ、触媒層のピーク温度を前記設定値±10℃以内とする温度で供給され、反応ガスの流れ方法と直角な方向(十字流方向)に流れる。一本の伝熱管1における入口と出口とにおける熱媒の温度差は0.5〜10℃であることが好ましく、2〜5℃であることがより好ましい。図11に示す形態において、所定の温度に制御された熱媒は、例えば流路33〜35における伝熱管1のそれぞれ一本毎に流される場合があり、また同じ反応帯域の伝熱管1の全てに同時に流す場合もある。また、ある反応帯域の伝熱管1に供給され排出された熱媒を同じあるいは別の反応帯域の伝熱管1に供給することも可能である。
反応成績に関連する可能性が高く、プレート式反応器の注目すべき製作の精度としては、触媒層36の厚み(伝熱プレート2の表面間の距離)を決定する伝熱管a〜cの厚み及び1対の伝熱プレート2の軸間の距離である。伝熱プレート2の軸間の距離が一定で伝熱管1の厚みが設定よりも薄すぎる場合、あるいは伝熱プレート2の軸間の距離が設定よりも大きすぎると、触媒層36の厚み(伝熱プレート2の表面間の距離)が大きくなり、熱の授受が効率的に行われず、触媒層36や反応原料の温度を正しく維持できなくなることがある。
伝熱プレート2の軸間の距離が一定で熱媒流路の厚みが設定よりも大きすぎる場合、あるいは伝熱プレート2の軸間の距離が設定よりも小さすぎると、触媒層36の厚み(伝熱プレートの表面間の距離)が小さくなり、熱の授受は効率的になるが、設定した触媒が正しく充填できず、気相接触反応を正しく維持できなくなることがある。
前記プレート式反応器において、熱媒に、例えば345℃の熱媒を伝熱管1に流し、原料ガスとしてプロピレン、分子状酸素、水蒸気及び不活性ガスを含むガスを上側のガス分配部6から流すことによって、アクロレインとアクリル酸とを含む反応ガスが得られる。前記設計値から決められる所望の収量の反応生成物を得るための原料ガスの供給量で原料ガスが供給され、前記設計値から決められる熱媒の温度及び供給量で熱媒が伝熱管1に供給され、触媒層36の最大温度(ピーク温度)Aが温度測定装置9によって測定される。
ピーク温度Aが前記設定値±10℃以内である場合には、熱媒は熱媒の設定された温度及び供給量で伝熱管1に供給される。ピーク温度Aが前記設定値+10℃より高い場合には、熱媒は熱媒の設定された温度より低い温度及び熱媒の設定された供給量で伝熱管1に供給される。ピーク温度Aが前記設定値−10℃より低い場合には、熱媒は熱媒の設定された温度より高い温度及び熱媒の設定された供給量で伝熱管1に供給される。このように触媒層36のピーク温度に応じて熱媒の温度を制御することによって、原料ガスの供給量を変えることなく、また反応の収量を下げることなく反応生成物を製造し続けることができる。
前記プレート式反応器は、設計値に対する誤差が±1%以内に成形された鋼板を接合して形成された伝熱プレート2を用いることから、触媒層のピーク温度の実測値が該ピーク温度の設定値となるように熱媒の温度を制御することによって、生産性の高い条件での反応生成物の製造を維持することができる。
また前記プレート式反応器は、仕切り7を有することから、伝熱プレート2を、伝熱プレート2の表面間の距離の設計値の通りに配置する観点から効果的である。さらに前記プレート式反応器は、仕切り7を有することから、伝熱プレート2間の隙間に複数の区画が形成され、区画ごとに触媒が充填されることから、前記隙間に均一に触媒を充填する観点から効果的である。
また前記プレート式反応器は、温度測定装置9を有することから、触媒層36の温度を測定することができ、触媒層36のピーク温度に応じた熱媒の温度の制御による高い効率での生成物の製造を行う観点から効果的である。
また前記プレート式反応器は、熱媒混合装置を有することから、熱媒供給装置5における熱媒の温度を迅速かつ精密に制御する観点から効果的である。
また前記プレート式反応器は、通気栓8を有することから、任意の区画の触媒のみを抜出すことが可能であり、触媒層36の均一化及び保守点検作業の高効率化の観点から効果的である。
また前記プレート式反応器は、ガス分配部6及びマンホール19を有し、さらに保持棒4が仕切り7と重なる位置に配置されていることから、触媒の充填作業や保守点検作業における足場又はその支持部材として保持棒4を利用することができ、プレート式反応器内部で効率よく作業する観点から効果的である。
なお、本発明には、特許文献2に開示されているような、原料ガスの流れ方向に沿って形成される三つの反応帯域40、41、42毎に触媒層43の幅が拡大する、図12に示す形態も含まれる。
プレート式反応器は 一般に精度良く製作することが難しく、例えば同様の構成を有するプレート式熱交換器は、一般に、伝熱プレートの表面間の距離は設計値に対して3〜5mm以上の誤差を有する。本発明では、熱媒の温度の制御によって反応を制御できる誤差範囲内に伝熱プレートが配置されたプレート反応器を提供することができ、プレート式反応器の工業的な利用の可能性を大幅に拡大することができる。
本発明のプレート式反応器は、固相の触媒の存在下で気相の原料を反応させる反応に用いることができ、特に、使用時の反応器内の温度と準備や点検のための作業が行われる常温との差が大きい条件での使用や、原料ガスや生成ガスが使用時の条件に長期に晒されることによるこれらのガスの変質が反応器の損傷を生じ得る条件で用いる場合、原料ガス成分の反応に伴う反応熱が著しく大きくて熱によって触媒の劣化が起こりやすく、触媒層の温度管理が重要な場合に、より顕著に効果を奏する。