JP6086180B1 - 刃先交換式回転切削工具及びインサート - Google Patents

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Abstract

仮想平面(VS)内において、基準面(Pr)に対してコーナーR切れ刃(13)のすくい面(14)が傾斜する角度を放射方向すくい角(δ)、基準面(Pr)に投影した仮想直線(VL)が回転中心軸に対して傾斜する角度を放射角度(θ)、放射角度(θ)が5°とされた仮想直線(VL)がコーナーR切れ刃(13)に交差する点を基準点(RP)として、外周切れ刃(9)のねじれ角が正の値を有し、境界点(Q)におけるコーナーR切れ刃(13)の軸方向すくい角(Ar1)が正の値を有し、基準点(RP)におけるコーナーR切れ刃(13)の軸方向すくい角(Ar2)が負の値を有し、コーナーR切れ刃(13)の刃長全域のうち、少なくとも境界点(Q)と基準点(RP)との間の領域における放射方向すくい角(δ)が負の値を有し、放射方向すくい角(δ)が、境界点(Q)よりも基準点(RP)において小さい。

Description

本願発明は、被削材に正面削り加工(平面加工)や側面中仕上げ加工等を施すのに好適な切削加工用のインサートを装着した刃先交換式回転切削工具、及びインサートに関する。
本願は、2016年2月12日に、日本に出願された特願2016−025175号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
従来、例えば金型等の被削材に、正面削り加工や側面中仕上げ加工等を施す場合において、例えば下記特許文献1に記載されるようなソリッドタイプのラジアスエンドミルが使用されている。
また、刃先交換式のラジアスエンドミルとしては、回転中心軸回りに回転させられる円柱状のホルダ本体と、該ホルダ本体の先端部に形成されたスリットに着脱可能に装着されるとともに、ホルダ本体の先端部から先端側及び径方向外側へ向けて切れ刃部を突出させるインサートと、を備えた構成が周知である。
刃先交換式ラジアスエンドミルの切れ刃部には、回転中心軸方向に沿うように延びる外周切れ刃と、回転中心軸に直交する径方向に沿うように延びる底切れ刃と、底切れ刃の径方向の外端と外周切れ刃の回転中心軸方向の先端とを繋ぐとともに、ホルダ本体の先端外周側へ向けて凸となる円弧状に形成されたコーナーR切れ刃と、が含まれる。
日本国特開2014−97574号公報(A)
しかしながら、従来の刃先交換式ラジアスエンドミルでは、下記の課題を有していた。
例えば、被削材に対して深彫り加工を行ったり、等高線加工等の倣い加工を行ったりする場合において、工具突出しが長く設定されることがある。「工具突出しが長くなる」とは、例えばL/Dが4以上の場合であり、L値は工具の回転中心軸線方向の長さ、D値は工具切れ刃の回転軌跡の直径である。
また、被削材として、靱性が高い金属材料(いわゆる粘い材料)や、高硬度材(例えばロックウェル硬さが40HRC以上の材料)等が用いられる場合がある。このような被削材としては、例えば、日立金属株式会社製のDAC−MAGIC(登録商標)や大同特殊鋼株式会社製のDH31などの延性の高い高機能ダイス鋼等が挙げられる。
このような切削条件や被削材において、切削加工を行う際に、コーナーR切れ刃のうち、被削材の平面(例えば被削材の金型に深彫り加工する凹所の底面等)を正面削り加工する底切れ刃近傍においては、被削材への食い付き時に刃先が被削材の内部に潜り込むように引っ張られる(食い込み勝手になる)現象が生じやすい。切れ刃が食い込み勝手になると、チッピングが生じやすくなったり、びびり振動が生じやすくなったりする。
また、コーナーR切れ刃のうち、被削材の立壁面(例えば前記凹所の内壁面等)を側面中仕上げ加工する外周切れ刃近傍においては、切削加工時に被削材から工具に対して反力(工具を立壁面から離間させる向きの力)が作用する。特に、工具突出しが長い加工では、このような工具径方向への反力によって工具にたわみが生じやすかった。
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、靱性の高い金属材料や高硬度材からなる被削材に工具突出しの長い(例えばL/Dが4以上)切削加工を施すような場合であっても、びびり振動やたわみの発生を抑制することができ、かつチッピングの発生を防止することができて、高精度な切削加工を高能率にかつ長期にわたり安定して行うことが可能な刃先交換式回転切削工具、及びインサートを提供することを目的とする。
本願発明の一態様は、工具本体の先端部に設けた取付座に、切れ刃部を有するインサートを着脱自在に装着する刃先交換式回転切削工具であって、前記取付座は、前記工具本体の先端部に、工具の回転中心軸を含んで前記回転中心軸に直交する径方向に延びて形成されたスリット状のインサート嵌合溝と、前記インサート嵌合溝に挿入された前記インサートを固定するための固定用ネジと、を備え、前記インサートの切れ刃部は、前記回転中心軸方向に沿うように延びる外周切れ刃と、前記外周切れ刃のすくい面と、前記径方向に沿うように延びる底切れ刃と、前記底切れ刃のすくい面と、前記底切れ刃の前記径方向の外端と前記外周切れ刃の前記回転中心軸方向の先端とを繋ぐとともに、前記工具本体の先端外周側へ向けて凸となる円弧状に形成されたコーナーR切れ刃と、前記コーナーR切れ刃のすくい面と、少なくとも前記コーナーR切れ刃のすくい面に形成された面取り面と、前記底切れ刃のすくい面の前記回転中心軸方向の基端側に形成された切屑排出溝と、前記外周切れ刃のすくい面の前記径方向の内側に形成された切屑排出溝と、を備え、前記コーナーR切れ刃上の所定の点及び前記回転中心軸を含む基準面に対して垂直であり、かつ、前記コーナーR切れ刃の円弧中心点と前記所定の点とを通る仮想直線を含む仮想平面内において、前記基準面に対して前記コーナーR切れ刃のすくい面が傾斜する角度である真のすくい角を、放射方向すくい角と定義し、前記基準面に投影した前記仮想直線が、前記基準面内において、前記回転中心軸に対して傾斜する角度を、放射角度と定義し、前記放射角度が5°とされた前記仮想直線が、前記コーナーR切れ刃に交差する点を基準点と定義して、前記外周切れ刃のねじれ角が、正の値を有し、前記コーナーR切れ刃と前記外周切れ刃との境界点における前記コーナーR切れ刃の軸方向すくい角が、正の値を有し、前記基準点における前記コーナーR切れ刃の軸方向すくい角が、負の値を有し、前記コーナーR切れ刃の刃長全域のうち、少なくとも前記境界点と前記基準点との間の領域における前記放射方向すくい角が、負の値を有し、前記基準点における前記コーナーR切れ刃の前記放射方向すくい角が、前記境界点における前記コーナーR切れ刃の前記放射方向すくい角よりも小さいことを特徴とする(以下、「本願発明の刃先交換式回転切削工具」と称する)。
また、本願発明の一態様のインサート(以下、「本願発明のインサート」と称する)は、上述の刃先交換式回転切削工具に用いられることを特徴としている。
本願発明の刃先交換式回転切削工具及びインサートは、外周切れ刃のねじれ角が正の値を有しており、この外周切れ刃と、円弧状のコーナーR切れ刃との境界点(最外周位置)におけるコーナーR切れ刃の軸方向すくい角も、正の値を有している。つまり、外周切れ刃のねじれ角、及び、コーナーR切れ刃における外周切れ刃近傍の軸方向すくい角が、ともにポジティブ角である。
従って、切削加工時に生じた切屑が効率よく工具先端から基端側へと送られて、切屑排出性がよい。特に、被削材の立壁面(例えば被削材の金型に深彫り加工する凹所の内壁面等。一般に水平面に垂直な壁面であり、鉛直面)を、側面中仕上げ加工する際の切屑排出性が良好に維持されて、切削速度を高めることができ、加工能率が向上する。
また、コーナーR切れ刃と底切れ刃との境界点(最先端位置)から、コーナーR切れ刃上を外周切れ刃へ向けて放射角度5°だけ離間した基準点においては、コーナーR切れ刃の軸方向すくい角が、負の値を有している。つまり、コーナーR切れ刃における底切れ刃近傍の軸方向すくい角が、ネガティブ角である。
なお、本願発明の刃先交換式回転切削工具についての放射角度の定義に記載において「基準面に投影した仮想直線」とは、基準面に対して垂直に、仮想直線を投影させることを指す。
コーナーR切れ刃における底切れ刃近傍は、被削材の平面(例えば被削材の金型に深彫り加工する凹所の底面等。一般に水平面)を正面削り加工する際に、被削材に食い付く部分である。つまり本願発明の刃先交換式回転切削工具では、コーナーR切れ刃において、平面加工時に被削材に食い付く部分がネガティブ角とされているので、切れ刃の刃先が被削材の内部に潜り込むように引っ張られる現象(切れ刃の食い込み勝手)が抑制されて、チッピングが防止される。
また、コーナーR切れ刃における底切れ刃近傍の軸方向すくい角が、ネガティブ角とされていると、被削材の平面(加工面)から工具に対しては、回転中心軸方向の基端側へ向けた反力が作用しやすくなる。つまり、切削加工時において、常に工具を回転中心軸方向に圧縮させるような切削抵抗(圧縮力)が作用することから、特に工具突出しの長い(例えばL/Dが4以上)切削加工を行う場合でも、びびり振動が効果的に抑制されて、加工面精度が向上する。
なお上述したように、コーナーR切れ刃のうち、コーナーR切れ刃と外周切れ刃との境界点において軸方向すくい角が正の値とされ、基準点において軸方向すくい角が負の値とされていると、コーナーR切れ刃において境界点と基準点との間に位置する領域(中間部分)には、軸方向すくい角が正から負へと変化する最凸点が形成される。
最凸点は、コーナーR切れ刃及び外周切れ刃の刃長全域のうち、工具回転方向に最も突出して配置される。
コーナーR切れ刃の最凸点は、切削加工時において、被削材に最初に食い付き始める箇所となる。コーナーR切れ刃は円弧状をなしているため、該コーナーR切れ刃上に配置された最凸点についても、工具回転方向に向けて凸となる円弧状とされている。このため、最凸点が、例えば被削材の加工硬化層を削る切れ刃境界部に位置した場合であっても、食付き時の耐衝撃性を高めることができて、刃先強度が確保される。
また、コーナーR切れ刃の刃長全域のうち、少なくともコーナーR切れ刃と外周切れ刃との境界点から、基準点までの間の領域における放射方向すくい角が、負の値を有している。つまり、コーナーR切れ刃の刃長の略全域(コーナーR切れ刃の中心角90°のうち85°以上の領域)にわたって、放射方向すくい角がネガティブ角とされている。
これにより、コーナーR切れ刃の刃物角を、刃長の略全域で大きく確保することができ、刃先強度が顕著に高められる。特に、等高線加工等の倣い加工を行う場合には、コーナーR切れ刃の刃長領域の各所に対して局部的に強い衝撃が作用することがあるが、このような場合であっても、安定して切れ刃のチッピングを防止できる。
また、コーナーR切れ刃の放射方向すくい角が、コーナーR切れ刃と外周切れ刃との境界点よりも、基準点において小さくされている。つまり、コーナーR切れ刃において底切れ刃近傍に位置する基準点の放射方向すくい角が、負の値とされ、かつ小さくされているので、平面加工時の切れ刃の食い込み勝手を抑えてチッピングを防止する効果や、びびり振動を抑制する効果が、格別顕著なものとなる。
特に、被削材として、靱性が高い金属材料(いわゆる粘い材料)や、高硬度材(例えばロックウェル硬さが40HRC以上の材料)等を切削加工する場合であっても、刃先強度が十分に確保されて、工具寿命が延長し、かつ、加工面品位が良好に維持される。なお、このような被削材としては、例えば、日立金属株式会社製のDAC−MAGIC(登録商標)や大同特殊鋼株式会社製のDH31などの延性の高い高機能ダイス鋼等が挙げられる。
また、コーナーR切れ刃と外周切れ刃との境界点における、コーナーR切れ刃の放射方向すくい角については、負の値としつつも前記基準点よりは正角側(ポジティブ角側)に近づけることができる。これにより、側面中仕上げ加工時において、コーナーR切れ刃における外周切れ刃近傍での切れ味を確保することができ、立壁面への食い付きを良くすることができる。
従って、切削加工時に被削材から工具に対して、反力(工具を立壁面から離間させる向きの力)が作用しにくくなる。特に、工具突出しが長い切削加工であっても、工具径方向へ向けた反力が作用しにくくなるため、工具にたわみが発生することを顕著に抑制でき、立壁面の加工面精度が向上する。
以上より本願発明によれば、靱性の高い金属材料や高硬度材からなる被削材に工具突出しの長い(例えばL/Dが4以上)切削加工を施すような場合であっても、びびり振動やたわみの発生を抑制することができ、かつチッピングの発生を防止することができて、精度の高い切削加工を長期にわたり安定して行うことができる。また、このようにびびり振動やたわみが抑制され、かつ、刃先強度が高められているため、切削速度を高めて加工能率を向上することができる。
また、上記刃先交換式回転切削工具は、前記コーナーR切れ刃の刃長全域において、前記放射方向すくい角が負の値とされることが好ましい。
この場合、コーナーR切れ刃の中心角90°全域にわたって、放射方向すくい角がネガティブ角であるので、コーナーR切れ刃の刃物角を、その刃長全域において大きく確保することができ、切れ刃強度を確実に高めることができる。従って、切削加工の種類に係わらず、コーナーR切れ刃のチッピングをより確実に防止できる。
また、上記刃先交換式回転切削工具は、前記面取り面が、前記コーナーR切れ刃の刃長全域を含むことが好ましい。
この場合、切削加工時に、コーナーR切れ刃の刃長領域のいずれの部分で切屑が生成されても、これらの切屑が、面取り面に擦過して排出される。従って、コーナーR切れ刃のすくい面を、1つの平面や曲面から構成される面取り面によりシンプルに形成して、切屑排出性を安定させることができる。
また、コーナーR切れ刃のすくい面を、1つの面取り面により形成することができるので、コーナーR切れ刃の刃長全域において、刃物角が急激に変化するようなことを防止でき、刃先強度をより安定的に高めることができる。
また、工具の製造時においては、面取り面をギャッシュ加工等により研削して、コーナーR切れ刃を一工程で簡単に形成することができ、製造が容易である。つまりこの場合、面取り面は、コーナーRギャッシュと呼ぶことができる。
また、上記刃先交換式回転切削工具は、前記面取り面が、前記コーナーR切れ刃のすくい面から、前記コーナーR切れ刃と前記外周切れ刃との前記境界点を前記回転中心軸方向の基端側へ越えて、前記外周切れ刃のすくい面にも形成されていることが好ましい。
一般に、コーナーR切れ刃と外周切れ刃との境界点は、互いに形状の異なる2つの切れ刃が接続される部分であることから、この境界点を挟んで回転中心軸方向の先端側と基端側とで、軸方向すくい角や径方向すくい角、刃物角等が変化する。このため、切削加工時には、前記境界点近傍の切削負荷が大きくなりやすい。
そこで、上記刃先交換式回転切削工具では、コーナーR切れ刃のすくい面から、前記境界点を越えて外周切れ刃のすくい面にまで面取り面を形成することとした。つまりこの場合、前記境界点近傍において、切れ刃のすくい面は1つの面取り面によって形成される。
これにより、前記境界点を挟んだ回転中心軸方向の先端側と基端側とで、軸方向すくい角や径方向すくい角、刃物角等が大きく変化するようなことが抑えられ、この境界点近傍に大きな切削負荷が作用することを防止できる。従って、コーナーR切れ刃と外周切れ刃との接続部分における刃先強度が顕著に高められるとともに、工具寿命が延長する。
なお、例えば、切削加工時において回転中心軸方向への切り込み量(ap)が、コーナーR切れ刃の半径と等しく設定された場合には、前記境界点近傍が、直前に加工された加工硬化層に切り込むこととなり、境界点近傍への切削負荷が特に高くなりがちであるが、上記刃先交換式回転切削工具の構成によれば、このような場合であっても切れ刃の刃先強度が十分に確保される。
また、上記刃先交換式回転切削工具は、前記面取り面が、前記コーナーR切れ刃と前記外周切れ刃との前記境界点から前記回転中心軸方向の基端側へ向けて延びる長さが、前記コーナーR切れ刃の半径をrとして、0.02r以上0.5r以下であることが好ましい。より好ましい範囲は、0.05r以上0.5r以下であり、さらにより好ましい範囲は0.1r以上0.5r以下である。
この場合、面取り面が、コーナーR切れ刃のすくい面から、コーナーR切れ刃と外周切れ刃との境界点を回転中心軸方向の基端側へ越えて外周切れ刃のすくい面に延びる長さが、境界点からの距離で0.02r以上0.5r以下とされているので、上述した境界点近傍の切削負荷を抑える効果が得られつつ、工具径が小さくなってしまうようなことを抑制できる。
前記長さが0.02r以上であることにより、コーナーR切れ刃と外周切れ刃との境界点は、互いに形状の異なる2つの切れ刃が接続される部分であることから、前記境界点を挟んだ回転中心軸方向の先端側と基端側とで、軸方向すくい角や径方向すくい角、刃物角等が大きく変化するようなことが抑えられ、切削加工時には、この境界点近傍に大きな切削負荷が作用することを防止することが期待できる。
また、前記長さが0.02r以上であることにより、コーナーR切れ刃と外周切れ刃との境界点近傍において、軸方向すくい角や径方向すくい角、刃物角等が大きく変化するようなことを確実に防止して、境界点近傍の切削負荷を抑える効果が得られる。
また、前記長さが0.1r以上であることにより、コーナーR切れ刃と外周切れ刃との境界点近傍において、軸方向すくい角や径方向すくい角、刃物角等が大きく変化するようなことを確実に防止して、切削負荷を抑制できるという効果がさらに安定する。
また、前記長さが0.5r以下であることにより、面取り面を形成したことによって外周切れ刃を工具回転方向とは反対側へ向けて後退させ過ぎてしまうようなことを防止できる。すなわち、一般に外周切れ刃の逃げ面には逃げ角が付与されているため、外周切れ刃のすくい面に大きな面取り面を形成すると、その分、外周切れ刃が工具回転方向とは反対側へ向けて後退させられる。この場合、外周切れ刃の外径が加工精度に影響するほど小さくなりやすいことから、好ましくない。そこで、前記長さを0.5r以下とすることにより、切削精度に影響するほどの工具径の減少を抑制することができる。
また、上記刃先交換式回転切削工具は、前記面取り面が、前記コーナーR切れ刃のすくい面から、前記コーナーR切れ刃と前記底切れ刃との境界点を前記径方向の内側へ越えて、前記底切れ刃のすくい面にも形成されていることが好ましい。
一般に、コーナーR切れ刃と底切れ刃との境界点は、互いに形状の異なる2つの切れ刃が接続される部分であることから、この境界点を挟んで径方向の内側と外側とで、軸方向すくい角や径方向すくい角、刃物角等が変化する。このため、切削加工時には、前記境界点近傍の切削負荷が大きくなりやすい。
そこで、上記刃先交換式回転切削工具では、コーナーR切れ刃のすくい面から、前記境界点を越えて底切れ刃のすくい面にまで面取り面を形成することとした。つまりこの場合、前記境界点近傍において、切れ刃のすくい面は1つの面取り面によって形成される。
これにより、前記境界点を挟んだ径方向の内側と外側とで、軸方向すくい角や径方向すくい角、刃物角等が大きく変化するようなことが抑えられ、この境界点近傍に大きな切削負荷が作用することを防止できる。従って、コーナーR切れ刃と底切れ刃との接続部分における刃先強度が顕著に高められるとともに、工具寿命が延長する。
また、上記刃先交換式回転切削工具は、前記コーナーR切れ刃及び前記外周切れ刃のうち、前記コーナーR切れ刃上に、前記回転中心軸回りに沿う周方向のうち工具回転方向に向けて最も突出する最凸点が配置され、前記最凸点は、前記コーナーR切れ刃上において前記放射角度で40°以上55°以下の範囲に配置されることが好ましい。
上記刃先交換式回転切削工具によれば、コーナーR切れ刃の最凸点が、放射角度で40°以上55°以下の範囲に配置されているので、コーナーR切れ刃の底切れ刃近傍における軸方向すくい角を確実にネガティブ角として上述の作用効果を奏しつつ、切屑排出性を高めることができる。
すなわち、コーナーR切れ刃の最凸点が、放射角度で40°以上の位置にあることにより、最凸点が底切れ刃に近づき過ぎることを防止して、コーナーR切れ刃の基準点における軸方向すくい角を確実に負の値とすることができる。これにより、上述したチッピングを防止する効果や、びびり振動を抑制する効果が安定して得られる。
また切削加工時において、コーナーR切れ刃の最凸点より開始された切削は、工具の回転とともに回転中心軸方向の先端側と基端側とに、切削範囲が拡大していく。つまり、コーナーR切れ刃の最凸点よりも先端側部分では、軸方向すくい角が負の角度に設定されているため、切屑は工具先端側へ向かおうとする。また、コーナーR切れ刃の最凸点よりも基端側部分及び外周切れ刃では、軸方向すくい角が正の角度に設定されているため、切屑は工具基端側へ向かう。
そして、コーナーR切れ刃の最凸点が、放射角度で55°以下の位置にあることにより、最凸点をコーナーR切れ刃の中でも工具先端側へ近づけることが可能になる。これにより、工具基端側へ向けて排出される切屑量の割合を増大させて、切屑排出性を高めることができる。
また、上記刃先交換式回転切削工具は、前記コーナーR切れ刃と前記外周切れ刃との前記境界点における前記コーナーR切れ刃の軸方向すくい角の大きさが、前記外周切れ刃のねじれ角の大きさを100%として、90%以上110%以下であることが好ましい。
一般に、コーナーR切れ刃と外周切れ刃との境界点は、互いに形状の異なる2つの切れ刃が接続される部分であることから、この境界点を挟んで回転中心軸方向の先端側と基端側とで、軸方向すくい角が変化する。
具体的に、外周切れ刃のねじれ角(軸方向すくい角に相当)に対して、前記境界点におけるコーナーR切れ刃の軸方向すくい角が小さくなっていると、境界点近傍で切れ刃が工具回転方向へ向けて突出する凸形状に形成される。また、外周切れ刃のねじれ角に対して、前記境界点におけるコーナーR切れ刃の軸方向すくい角が大きくなっていると、境界点近傍で切れ刃が工具回転方向とは反対側へ向けて窪む凹形状に形成される。
上記刃先交換式回転切削工具によれば、外周切れ刃のねじれ角の大きさを100%として、前記境界点におけるコーナーR切れ刃の軸方向すくい角が90%以上110%以下であるので、この境界点近傍において切れ刃が凸形状や凹形状になることを抑制して、外周切れ刃とコーナーR切れ刃とを滑らかに接続することができる。これにより、境界点近傍に大きな切削負荷が作用することを防止できる。
また、上記刃先交換式回転切削工具は、前記放射方向すくい角は、前記コーナーR切れ刃のうち、前記コーナーR切れ刃と前記外周切れ刃との前記境界点と、前記基準点との間に位置する領域において最大値となることが好ましい。
コーナーR切れ刃のうち、軸方向すくい角が正の値とされた外周切れ刃との境界点と、軸方向すくい角が負の値とされた基準点と、の間に位置する領域(中間部分)は、工具回転方向に最も突出して配置される部分(最凸点)を含み、被削材に食い付き始める箇所となる。
コーナーR切れ刃において、前記領域の放射方向すくい角が最大値とされている(つまり正角側に最も大きい)と、この領域の切れ味が高められる。つまり、被削材への食い付きを良くすることができ、これによりびびり振動が抑制されて、加工面精度が向上する。
詳しくは、例えば、コーナーR切れ刃と底切れ刃との境界点に近い基準点の放射方向すくい角(真のすくい角)をα、コーナーR切れ刃と外周切れ刃との境界点における放射方向すくい角(真のすくい角)をβ、前記領域(中間部分)における放射方向すくい角(真のすくい角)の最大値をγとしたときに、放射方向すくい角α、放射方向すくい角β、及び放射方向すくい角γは、いずれも負の値を有し、放射方向すくい角α値、β値、γ値の絶対値を、それぞれ|α|、|β|、|γ|としたとき、|α|>|β|>|γ|、の関係を有する。
本願発明の刃先交換式回転切削工具及びインサートによれば、靱性の高い金属材料や高硬度材からなる被削材に工具突出しの長い(例えばL/Dが4以上)切削加工を施すような場合であっても、びびり振動やたわみの発生を抑制することができ、かつチッピングの発生を防止することができて、高精度な切削加工を高能率にかつ長期にわたり安定して行うことが可能である。
本願発明の一実施形態に係る刃先交換式回転切削工具を示す斜視図である。 刃先交換式回転切削工具の平面図である。 刃先交換式回転切削工具の側面図である。 刃先交換式回転切削工具の正面図である。 刃先交換式回転切削工具に装着されるインサートを示す斜視図である。 図5とは異なる角度からインサートを見た斜視図である。 インサートの平面図である。 インサートの正面図である。 インサートの側面図である。 図7の要部を拡大して示す図である。 図8の要部を拡大して示す図である。 図9の要部を拡大して示す図である。 コーナーR切れ刃近傍の拡大図である。 コーナーR切れ刃の最凸点を説明する側面図である。 コーナーR切れ刃の変形例を示す側面図である。 刃先交換式回転切削工具のコーナーR切れ刃における、放射方向すくい角及び放射角度を説明する図である。 刃先交換式回転切削工具のコーナーR切れ刃における、放射方向すくい角のプロファイルを示すグラフである。 従来例3のインサートを示す斜視図である。 本発明例1、比較例2、従来例3の各インサートによる切削条件1を用いた立壁側面部の等高線加工において、切削距離(m)を増加させながら所定の間隔毎に、逃げ面最大摩耗幅VBmax(mm)を測定した結果を示すグラフである。 切削試験において、切れ刃が寿命に達した際の切れ刃の損傷状態の写真を示す図である。 切削試験における切れ刃の損傷状態の経時変化を観察した写真を示す図である。 本発明例1、比較例2、従来例3の各インサートによる切削条件2を用いた正面削り(フライス)加工において、切削距離(m)を増加させながら所定の間隔毎に、逃げ面最大摩耗幅VBmax(mm)を測定した結果を示すグラフである。
以下、本願発明の一実施形態に係る刃先交換式回転切削工具について、図面を参照して説明する。本実施形態における刃先交換式回転切削工具は、刃先交換式ラジアスエンドミル6である。この刃先交換式ラジアスエンドミル6は、特に、工具突出しの長い(L/Dが4以上)切削条件において行われる、被削材の正面削り加工(平面加工)及び側面中仕上げ加工等に適している。なお、上記L値は工具の回転中心軸C方向の長さであり、上記D値は、工具切れ刃の回転軌跡の直径である。
〔刃先交換式ラジアスエンドミルの概略構成〕
図1〜図4に示すように、刃先交換式ラジアスエンドミル6は、略円柱状をなす工具本体1と、工具本体1の回転中心軸C方向の先端部2に形成された取付座3に着脱自在に装着され、切れ刃部4を有するインサート5と、を備えている。
工具本体1の回転中心軸C方向の基端部には、図示しないシャンク部がこの工具本体1と一体に形成されている。
本実施形態の刃先交換式ラジアスエンドミル6は、鋼材や超硬合金等で形成された工具本体1と、超硬合金等で形成されたインサート5と、を備えており、回転中心軸C回りに回転させられる工具本体1の先端部2に形成された取付座(インサート取付座)3に、板状をなすインサート5がそのインサート中心軸(インサート5に形成された切れ刃部4の対称軸)を工具の回転中心軸Cに一致させられた状態で、着脱可能に装着される。
取付座3に取り付けられたインサート5は、その切れ刃部4が、工具本体1の先端側及び径方向外側に突出して配置される。
刃先交換式ラジアスエンドミル6は、その工具本体1の基端部(シャンク部)が、チャックを介して間接的に、又は直接的に、工作機械の主軸(不図示)に取り付けられ、主軸が回転駆動させられるのにともなって、回転中心軸C回りの工具回転方向Rに回転させられて、金属材料等からなる被削材に転削加工(ミーリング加工)を施す。
〔本実施形態で用いる向き(方向)の定義〕
本実施形態においては、工具本体1の回転中心軸Cが延在する方向、つまり回転中心軸Cに平行な方向を、回転中心軸C方向という。また、回転中心軸C方向のうち、工具本体1のシャンク部から取付座3へ向かう方向を先端側(図2及び図3における下側)といい、取付座3からシャンク部へ向かう方向を基端側(図2及び図3における上側)という。
また、回転中心軸Cに直交する方向を径方向という。径方向のうち、回転中心軸Cに接近する方向を径方向の内側といい、回転中心軸Cから離間する方向を径方向の外側という。
また、回転中心軸C回りに周回する方向を周方向という。周方向のうち、切削時に主軸の回転駆動により工具本体1が回転させられる向きを工具回転方向Rといい、これとは反対の回転方向を、工具回転方向Rとは反対側(つまり反工具回転方向)という。
なお、上記した向き(方向)の定義は、刃先交換式ラジアスエンドミル6全体において適用されるのはもちろんのこと、この刃先交換式ラジアスエンドミル6の回転中心軸Cに対してインサート中心軸が一致させられる(同軸に配置される)インサート5においても、同様に適用される。従って、インサート5を示す図7〜図9においては、インサート中心軸を、回転中心軸Cと同じ符号Cを用いて表す。
〔取付座〕
図1〜図4において、取付座3は、工具本体1の先端部2に、工具の回転中心軸Cを含んで径方向に延びて形成されたスリット状のインサート嵌合溝7と、インサート嵌合溝7に挿入されたインサート5を固定するための固定用ネジ8と、を備えている。
インサート嵌合溝7は、工具本体1の先端面に開口し、工具本体1の径方向に延びて工具本体1の外周面にも開口している。インサート嵌合溝7は、工具本体1の先端面から基端側へ向かって所定の長さ(深さ)に形成されたスリット状をなしている。
工具本体1の先端部2にスリット状のインサート嵌合溝7を形成したことにより、工具本体1の先端部2は2つに分割されて、一対の先端半体部が形成されている。また、先端部2には、先端半体部の一方の表面部から、インサート嵌合溝7と交差して他方の先端半体部内に達するように、インサート固定用ネジ穴が形成されている。このインサート固定用ネジ穴のネジ中心軸は、先端部2においてインサート嵌合溝7が工具本体1の径方向に延びる向きに対して、直交する方向に延びている。
また、一方の先端半体部を通って、他方の先端半体部内に達するインサート固定用ネジ穴の内周面には、固定用ネジ8の雄ネジ部と螺合する雌ネジ部が形成されている。
〔インサート〕
図5〜図9に示すように、インサート5は、略平板形状をなしており、図8に示すように、厚さTを有している。インサート5は、該インサート5を取付座3に固定するための固定用ネジ8が挿入されるネジ挿通孔18と、被削材に切り込み切削加工を行うための切れ刃部4と、を備えている。
インサート5は、厚さ方向を向く一対の外側面部5a、5bを有する。ネジ挿通孔18は、一方の外側面部5aから他方の外側面部5bに向けて貫通する貫通孔である。ネジ挿通孔18には、インサート5を取付座3に装着して固定するときに固定用ネジ8が挿通される。
切れ刃部4は、工具回転方向Rを向くすくい面と、すくい面に交差して径方向外側又は先端側を向く逃げ面と、すくい面と逃げ面との交差稜線に形成される切れ刃と、を備えている。
前記切れ刃には、外周切れ刃9と、底切れ刃11と、コーナーR切れ刃13と、が含まれる。前記切れ刃は、外周切れ刃9、底切れ刃11及びコーナーR切れ刃13を備えたことにより、全体として略L字状をなしている。また、各切れ刃(9、11、13)に対して、すくい面及び逃げ面がそれぞれ隣接配置される。
本実施形態のインサート5は、2枚刃の切削インサートであり、外周切れ刃9、底切れ刃11及びコーナーR切れ刃13を備えた前記切れ刃を2組有し、この2組の切れ刃は回転中心軸Cを中心として、180°回転対称に配置されている。
〔外周切れ刃〕
図中に示す符号「9」は、インサート5の外周切れ刃9である。外周切れ刃9は、回転中心軸C方向に沿うように延びている。詳しくは、外周切れ刃9は、コーナーR切れ刃13に接続するその先端から基端側へ向かうに従い、工具回転方向Rとは反対側へ向けて、螺旋状にねじれて延びている。
つまり図3及び図9に示すように、外周切れ刃9のねじれ角(軸方向すくい角に相当)εは、正の値(ポジティブ角)とされている。また、本実施形態の例では、外周切れ刃9の径方向すくい角(中心方向すくい角。ラジアルレーキ)は、後述する面取り面15に対応する部分を除いて、正の値とされている。ただしこれに限定されるものではなく、外周切れ刃9の径方向すくい角は、0°や負の値であってもよい。
取付座3にインサート5を装着して刃先交換式ラジアスエンドミル6を回転中心軸C回りに回転させると、一対の外周切れ刃9の回転軌跡は、円筒状に形成される。
インサート5を工具本体1の取付座3(インサート嵌合溝7)に装着したときに、外周切れ刃9とコーナーR切れ刃13との境界点Q、及び外周切れ刃9は、回転中心軸Cに対する垂線方向(つまり径方向)の最外周に位置する。
図10、図12及び図13に示すように、境界点Qにおいて、外周切れ刃9の先端と、コーナーR切れ刃13の基端とが接続している。つまり、境界点Qから基端側へ向かう切れ刃が外周切れ刃9であり、境界点Qから先端側へ向かう切れ刃がコーナーR切れ刃13である。
図7、図10及び図13に示すように、外周切れ刃9の径方向内側には、外周切れ刃9のすくい面10が隣接配置されている。外周切れ刃9のすくい面10の径方向内側には、切屑排出溝17が形成されている。切屑排出溝17は、回転中心軸C方向に沿うように延びている。
詳しくは、切屑排出溝17の径方向外側の端縁に外周切れ刃9が位置しており、切屑排出溝17において外周切れ刃9に隣接する部分に、外周切れ刃9に沿って延びるすくい面10が形成されている。
外周切れ刃9の工具回転方向Rとは反対側には、工具回転方向Rを向く外周切れ刃9の逃げ面が隣接配置されている。前記逃げ面は、径方向外側を向いて形成されており、外周切れ刃9から工具回転方向Rとは反対側へ向かうに従い径方向内側へ向かうように傾斜していて、逃げ角が付与されている。
〔底切れ刃〕
図中に示す符号「11」は、インサート5の底切れ刃11である。底切れ刃11は、径方向に沿うように延びている。詳しくは、底切れ刃11は、そのコーナーR切れ刃13に接続(隣接)する径方向外端から径方向の内側へ向かうに従い、基端側へ向けて延びており、回転中心軸Cに垂直な平面(水平面)に対して僅かに傾斜している。
本実施形態の例では、底切れ刃11の軸方向すくい角(アキシャルレーキ)は、0°とされている。ただしこれに限定されるものではなく、底切れ刃11の軸方向すくい角は、負の値や正の値であってもよい。また、図11に示すように、底切れ刃11の径方向すくい角は、0°とされている。ただしこれに限定されるものではなく、底切れ刃11のうち、例えばコーナーR切れ刃13との接続部分を他の部位とは異なる向きに延ばすことにより、前記接続部分の径方向すくい角を、負の値や正の値としてもよい。
取付座3にインサート5を装着して刃先交換式ラジアスエンドミル6を回転中心軸C回りに回転させると、一対の底切れ刃11の回転軌跡は、略円錐状に形成される。
インサート5を工具本体1の取付座3(インサート嵌合溝7)に装着したときに、コーナーR切れ刃13と底切れ刃11との境界点Pは、回転中心軸C方向の最先端に位置する。
図10、図11及び図13に示すように、境界点Pにおいて、底切れ刃11の径方向外端と、コーナーR切れ刃13の径方向内端とが接続している。つまり、境界点Pから径方向内側へ向かう切れ刃が底切れ刃11であり、境界点Pから径方向外側へ向かう切れ刃がコーナーR切れ刃13である。
図7、図10及び図13に示すように、底切れ刃11の基端側には、工具回転方向Rを向く底切れ刃11のすくい面12が隣接配置されている。底切れ刃11のすくい面12の基端側には、切屑排出溝16が形成されている。切屑排出溝16は、回転中心軸C方向に沿うように延びている。
詳しくは、切屑排出溝16の先端側の端縁に底切れ刃11が位置しており、切屑排出溝16において底切れ刃11に隣接する部分に、底切れ刃11に沿って延びるすくい面12が形成されている。
底切れ刃11の切屑排出溝16は、外周切れ刃9の切屑排出溝17の径方向内側に隣接配置されており、これらの切屑排出溝16、17同士は、互いに異なる面によって形成されている。本実施形態の例では、外周切れ刃9に隣接する切屑排出溝17が、凹曲面状をなしており、底切れ刃11に隣接する切屑排出溝16が、平面状をなしている。
底切れ刃11の工具回転方向Rとは反対側には、底切れ刃11の逃げ面が隣接配置されている。前記逃げ面は、先端側を向いて形成されており、底切れ刃11から工具回転方向Rとは反対側へ向かうに従い基端側へ向かうように傾斜していて、逃げ角が付与されている。
〔コーナーR切れ刃〕
図中に示す符号「13」は、インサート5の底切れ刃11と外周切れ刃9とを繋ぐコーナーR切れ刃13である。図10及び図13に示すように、コーナーR切れ刃13は、底切れ刃11の径方向の外端と外周切れ刃9の先端とを接続しているとともに、工具本体1の先端外周側へ向けて凸となる円弧状に形成されている。
取付座3にインサート5を装着して刃先交換式ラジアスエンドミル6を回転中心軸C回りに回転させると、一対のコーナーR切れ刃13の回転軌跡(回転軌跡の回転中心軸Cを含み回転中心軸C方向に平行な断面形状)は、先端側へ向かうに従い漸次縮径する筒状に形成され、その断面が1/4円弧状をなす。
インサート5を工具本体1の取付座3(インサート嵌合溝7)に装着したときに、コーナーR切れ刃13は、底切れ刃11の径方向外端に位置する工具の最下点(境界点P)から外周切れ刃9の先端に位置する工具の最外周点(境界点Q)までを結ぶ円弧刃となる。
コーナーR切れ刃13の径方向内側かつ基端側には、工具回転方向Rを向くコーナーR切れ刃13のすくい面14が隣接配置されている。本実施形態の例では、コーナーR切れ刃13のすくい面14が、1つの平面又は曲面からなる面取り面15により形成されている。面取り面15は、外周切れ刃9のすくい面10、底切れ刃11のすくい面12及びコーナーR切れ刃13のすくい面14のうち、少なくともコーナーR切れ刃13のすくい面14に形成される。面取り面15については、別途後述する。
コーナーR切れ刃13のすくい面14の基端側には、切屑排出溝17が連なっており、コーナーR切れ刃13のすくい面14の径方向内側には、切屑排出溝16、17が連なっている。
コーナーR切れ刃13の工具回転方向Rとは反対側には、コーナーR切れ刃13の逃げ面が隣接配置されている。前記逃げ面は、工具本体1の先端外周側へ向けて凸となる曲面状をなしているとともに、径方向外側かつ先端側を向いて形成されている。前記逃げ面は、コーナーR切れ刃13から工具回転方向Rとは反対側へ向かうに従い径方向内側かつ基端側へ向かうように傾斜していて、逃げ角が付与されている。
ここで、本実施形態の特別な技術的特徴を説明するにあたり、図16を参照して、「放射方向すくい角δ」、「放射角度θ」及び「基準点RP」等についてあらかじめ定義する。
図16に示す符号「Pr」は、刃先交換式ラジアスエンドミル6の工具の主運動方向(工具回転方向R)に垂直な基準面である。基準面Prは、回転中心軸Cを含む仮想の平面であり、本実施形態では図16に示すように、コーナーR切れ刃13上の所定の点Aをその面内に含んでいる。また、図16の左上図は、基準面Prに垂直な面から見たインサートのコーナーR切れ刃部近傍の拡大図である。
符号「O」は、コーナーR切れ刃13の円弧中心点である。
符号「VL」は、コーナーR切れ刃13の円弧中心点OとコーナーR切れ刃13の所定の点Aとを通る仮想直線である。
符号「VS」で示すインサート5の断面(ハッチングした面)は、基準面Prに対して垂直であり、かつ、仮想直線VLを含む仮想平面である。
符号「δ」で示すものは、仮想平面VS内において、基準面Prに対してコーナーR切れ刃13のすくい面14が傾斜する角度(仮想直線(VLとすくい面14とのなす角度))である、放射方向すくい角である。放射方向すくい角δは、真のすくい角である。本実施形態では、コーナーR切れ刃13上の所定の点Aが、このコーナーR切れ刃13上を移動することにより、放射方向すくい角δが変化する。言い換えると、点AのコーナーR切れ刃13上の位置によって、放射方向すくい角(δ)が異なる。
符号「η」で示すものは、コーナーR切れ刃13の所定の点Aにおける逃げ角であり、言い換えると、仮想平面VSにおいて仮想直線VLに直交する直線とコーナーR切れ刃13の逃げ面とのなす角度である。
符号「θ」で示すものは、仮想直線VLが回転中心軸Cに対して傾斜する角度である、放射角度である。詳しくは、放射角度θは、基準面Prに投影した仮想直線VL(すなわち、図16における仮想直線VL)が、この基準面Pr内において、回転中心軸Cに対して傾斜する角度である。なお、上記「基準面Prに投影した仮想直線VL」とは、基準面Prに対して垂直に、仮想直線VLを投影させることを指す。
符号「RP」で示すものは、放射角度θが所定の値(放射角度θRP)とされた仮想直線VLが、コーナーR切れ刃13に交差する点である。本実施形態では、放射角度θRPが5°とされた前記交差する点を、基準点RPと呼ぶ。
そして、図12及び図14に示すように、コーナーR切れ刃13と外周切れ刃9との境界点QにおけるコーナーR切れ刃13の軸方向すくい角Ar1は、正の値を有している。
また、図10及び図16において、基準点RPにおけるコーナーR切れ刃13の軸方向すくい角Ar2(不図示)は、負の値を有している。また、本実施形態の例では、コーナーR切れ刃13と底切れ刃11との境界点PにおけるコーナーR切れ刃13の軸方向すくい角も、微視的には負の値とされている。
図17に示すように、コーナーR切れ刃13の放射方向すくい角δは、コーナーR切れ刃13の刃長全域(放射角度θが0〜90°の範囲)のうち、少なくとも境界点Qと基準点RPとの間の領域において、負の値を有している。本実施形態の例では、放射方向すくい角δが、コーナーR切れ刃13の刃長全域において、負の値を有している。つまり、コーナーR切れ刃13の両端(境界点Q、P)間の全域で、放射方向すくい角δが負角である。
また、基準点RPにおけるコーナーR切れ刃13の放射方向すくい角δが、境界点QにおけるコーナーR切れ刃13の放射方向すくい角δよりも小さくされている。また、本実施形態の例では、コーナーR切れ刃13と底切れ刃11との境界点PにおけるコーナーR切れ刃13の放射方向すくい角δが、コーナーR切れ刃13と外周切れ刃9との境界点QにおけるコーナーR切れ刃13の放射方向すくい角δよりも、小さくされている。
具体的に本実施形態では、図17において放射方向すくい角δが、境界点P(θ=0°)において−8°とされ、基準点RP(θ=5°)において−7°とされ、境界点Q(θ=90°)において−3°とされている。つまり、コーナーR切れ刃13のうち、底切れ刃11に接近配置される境界点P及び基準点RPにおける放射方向すくい角δが、コーナーR切れ刃13のうち、外周切れ刃9に接近配置される境界点Qにおける放射方向すくい角δに対して、負角側(ネガティブ角側)に2倍以上大きくされている。
放射方向すくい角δは、コーナーR切れ刃13のうち、境界点Pにおいて最小値とされている。また、放射方向すくい角δは、コーナーR切れ刃13のうち、境界点Qと基準点RPとの間に位置する領域(中間部分)において最大値とされている。なお、中間部分とはコーナーR切刃13のうち境界点Q及び基準点RPとを除く領域(0°<θ<90°)である。
図17に示す例では、放射方向すくい角δの最大値は、コーナーR切れ刃13のうち、放射角度θで30°以上50°以下の範囲に設定されている。言い換えると、放射方向すくい角δが最大値となる点が、コーナーR切刃13のうち放射角度θが30°以上50°以下の領域に位置している。具体的には、放射角度θが40°付近において、放射方向すくい角δが最大値(−0.8°)となっている。
詳しくは、例えば、コーナーR切れ刃13と底切れ刃11との境界点Pに近い基準点RPの放射方向すくい角をα、コーナーR切れ刃13と外周切れ刃9との境界点Qにおける放射方向すくい角をβ、前記領域(中間部分)における放射方向すくい角の最大値をγとしたときに、放射方向すくい角α、放射方向すくい角β、及び放射方向すくい角γは、いずれも負の値を有し、放射方向すくい角α値、β値、γ値の絶対値を、それぞれ|α|、|β|、|γ|としたとき、|α|>|β|>|γ|、の関係を有する。
図14に示すように、コーナーR切れ刃13及び外周切れ刃9のうち、コーナーR切れ刃13上には、工具回転方向Rに向けて最も突出する最凸点Mが配置されている。最凸点Mは、コーナーR切れ刃13上に位置していることから、工具回転方向Rに向けて凸となる円弧状をなしている。
図15に示すものは、本実施形態のコーナーR切れ刃13の変形例である。この変形例では、最凸点Mが、コーナーR切れ刃13上において放射角度θで40°以上55°以下の範囲に配置されている。具体的に、図示の例では最凸点Mが、放射角度θで53°である。
また、図15の変形例では、コーナーR切れ刃13と外周切れ刃9との境界点QにおけるコーナーR切れ刃13の軸方向すくい角Ar1の大きさが、外周切れ刃9のねじれ角εの大きさを100%として、90%以上110%以下とされている。具体的に、この変形例では、外周切れ刃9のねじれ角εが15°であり、コーナーR切れ刃13の境界点Qにおける軸方向すくい角Ar1が14°である。
〔面取り面〕
図10、図13及び図16に示すように、面取り面15は、コーナーR切れ刃13に隣接配置されており、コーナーR切れ刃13に沿って延びている。本実施形態では、面取り面15が、コーナーR切れ刃13の刃長全域を含んでいる。つまり面取り面15が、コーナーR切れ刃13のすくい面14全域にわたって形成されている。
具体的に、図10及び図13に示すようにコーナーR切れ刃13のすくい面14を正面に見て、面取り面15は、コーナーR切れ刃13と円弧中心点Oとの間に位置する点Gと境界点Pとを繋ぐ曲線状稜線、コーナーR切れ刃13、及び、外周切れ刃9上においてコーナーR切れ刃13に接近して配置される点Fと前記点Gとを繋ぐ曲線状稜線、の3つの曲線に囲まれた領域に形成されている。本実施形態の例では、面取り面15が、上記3つの曲線に囲まれて形成された平面領域となっている。なお、上記点Gにおいて、一対の切屑排出溝16、17及び面取り面15の計3面が互いに接している。
本実施形態では、面取り面15が、コーナーR切れ刃13のすくい面14から、コーナーR切れ刃13と外周切れ刃9との境界点Qを回転中心軸C方向の基端側へ越えて、外周切れ刃9のすくい面10にも形成されている。具体的に、図10において面取り面15が、コーナーR切れ刃13と外周切れ刃9との境界点Qから回転中心軸C方向の基端側へ向けて延びる長さWは、コーナーR切れ刃の半径をrとして、0.02r以上0.5r以下である。
図示の例では、面取り面15の幅が、コーナーR切れ刃13の刃長方向に沿って、境界点Pから境界点Q及び点Fへ向かうに従い漸次狭くなっている。
〔本実施形態による作用効果〕
以上説明した本実施形態の刃先交換式ラジアスエンドミル6及びインサート5は、外周切れ刃9のねじれ角εが正の値を有しており、この外周切れ刃9と、円弧状のコーナーR切れ刃13との境界点Q(最外周位置)におけるコーナーR切れ刃13の軸方向すくい角Ar1も、正の値を有している。つまり、外周切れ刃9のねじれ角ε、及び、コーナーR切れ刃13における外周切れ刃9近傍の軸方向すくい角Ar1が、ともにポジティブ角である。
従って、切削加工時に生じた切屑が効率よく工具先端から基端側へと送られて、切屑排出性がよい。特に、被削材の立壁面(例えば被削材の金型に深彫り加工する凹所の内壁面等。一般に水平面に垂直な壁面であり、鉛直面)を、側面中仕上げ加工する際の切屑排出性が良好に維持されて、切削速度を高めることができ、加工能率が向上する。
また、コーナーR切れ刃13と底切れ刃11との境界点P(最先端位置)から、コーナーR切れ刃13上を外周切れ刃9へ向けて放射角度θRP=5°だけ離間した基準点RPにおいては、コーナーR切れ刃13の軸方向すくい角Ar2が、負の値を有している。つまり、コーナーR切れ刃13における底切れ刃11近傍の軸方向すくい角Ar2が、ネガティブ角である。
コーナーR切れ刃13における底切れ刃11近傍は、被削材の平面(例えば被削材の金型に深彫り加工する凹所の底面等。一般に水平面)を正面削り加工する際に、被削材に食い付く部分である。つまり本実施形態では、コーナーR切れ刃13において、平面加工時に被削材に食い付く部分がネガティブ角とされているので、切れ刃の刃先が被削材の内部に潜り込むように引っ張られる現象(切れ刃の食い込み勝手)が抑制されて、チッピングが防止される。
また、コーナーR切れ刃13における底切れ刃11近傍の軸方向すくい角Ar2が、ネガティブ角とされていると、被削材の平面(加工面)から工具に対しては、回転中心軸C方向の基端側へ向けた反力が作用しやすくなる。つまり、切削加工時において、常に工具を回転中心軸C方向に圧縮させるような切削抵抗(圧縮力)が作用することから、特に工具突出しの長い(例えばL/Dが4以上)切削加工を行う場合でも、びびり振動が効果的に抑制されて、加工面精度が向上する。
なお上述したように、コーナーR切れ刃13のうち、コーナーR切れ刃13と外周切れ刃9との境界点Qにおいて軸方向すくい角Ar1が正の値とされ、基準点RPにおいて軸方向すくい角Ar2が負の値とされていると、コーナーR切れ刃13において境界点Qと基準点RPとの間に位置する領域(中間部分)には、軸方向すくい角が正から負へと変化する最凸点Mが形成される。
最凸点Mは、コーナーR切れ刃13及び外周切れ刃9の刃長全域のうち、工具回転方向Rに最も突出して配置される。
コーナーR切れ刃13の最凸点Mは、切削加工時において、被削材に最初に食い付き始める箇所となる。コーナーR切れ刃13は円弧状をなしているため、該コーナーR切れ刃13上に配置された最凸点Mについても、工具回転方向Rに向けて凸となる円弧状とされている。このため、最凸点Mが、例えば被削材の加工硬化層を削る切れ刃境界部に位置した場合であっても、食付き時の耐衝撃性を高めることができて、刃先強度が確保される。
また、コーナーR切れ刃13の刃長全域のうち、少なくともコーナーR切れ刃13と外周切れ刃9との境界点Qから、基準点RPまでの間の領域における放射方向すくい角δが、負の値を有している。つまり、コーナーR切れ刃13の刃長の略全域(コーナーR切れ刃13の中心角90°のうち85°以上の領域)にわたって、放射方向すくい角δがネガティブ角とされている。
これにより、コーナーR切れ刃13の刃物角を、刃長の略全域で大きく確保することができ、刃先強度が顕著に高められる。特に、等高線加工等の倣い加工を行う場合には、コーナーR切れ刃13の刃長領域の各所に対して局部的に強い衝撃が作用することがあるが、このような場合であっても、安定して切れ刃のチッピングを防止できる。
また、コーナーR切れ刃13の放射方向すくい角δが、コーナーR切れ刃13と外周切れ刃9との境界点Qよりも、基準点RPにおいて小さくされている。つまり、コーナーR切れ刃13において底切れ刃11近傍に位置する基準点RPの放射方向すくい角δが、負の値とされ、かつ小さくされているので、平面加工時の切れ刃の食い込み勝手を抑えてチッピングを防止する効果や、びびり振動を抑制する効果が、格別顕著なものとなる。
特に、被削材として、靱性が高い金属材料(いわゆる粘い材料)や、高硬度材(例えばロックウェル硬さが40HRC以上の材料)等を切削加工する場合であっても、刃先強度が十分に確保されて、工具寿命が延長し、かつ、加工面品位が良好に維持される。なお、このような被削材としては、例えば、日立金属株式会社製のDAC−MAGIC(登録商標)や大同特殊鋼株式会社製のDH31などの延性の高い高機能ダイス鋼等が挙げられる。
また、コーナーR切れ刃13と外周切れ刃9との境界点Qにおける、コーナーR切れ刃13の放射方向すくい角δについては、負の値としつつも基準点RPよりは正角側(ポジティブ角側)に近づけることができる。これにより、側面中仕上げ加工時において、コーナーR切れ刃13における外周切れ刃9近傍での切れ味を確保することができ、立壁面への食い付きを良くすることができる。
従って、切削加工時に被削材から工具に対して、反力(工具を立壁面から離間させる向きの力)が作用しにくくなる。特に、工具突出しが長い切削加工であっても、工具径方向へ向けた反力が作用しにくくなるため、工具にたわみが発生することを顕著に抑制でき、立壁面の加工面精度が向上する。
以上より本実施形態によれば、靱性の高い金属材料や高硬度材からなる被削材に工具突出しの長い(例えばL/Dが4以上)切削加工を施すような場合であっても、びびり振動やたわみの発生を抑制することができ、かつチッピングの発生を防止することができて、精度の高い切削加工を長期にわたり安定して行うことができる。
また、このようにびびり振動やたわみが抑制され、かつ、刃先強度が高められているため、切削速度を高めて加工能率を向上することができる。
また本実施形態では、コーナーR切れ刃13の刃長全域において、放射方向すくい角δが負の値とされている。
すなわち、コーナーR切れ刃13の中心角90°全域にわたって、放射方向すくい角δがネガティブ角であるので、コーナーR切れ刃13の刃物角を、その刃長全域において大きく確保することができ、切れ刃強度を確実に高めることができる。従って、切削加工の種類に係わらず、コーナーR切れ刃13のチッピングをより確実に防止できる。
また本実施形態では、面取り面15が、コーナーR切れ刃13の刃長全域を含んでいる。
これにより、切削加工時に、コーナーR切れ刃13の刃長領域のいずれの部分で切屑が生成されても、これらの切屑が、面取り面15に擦過して排出される。従って、コーナーR切れ刃13のすくい面14を、1つの平面や曲面から構成される面取り面15によりシンプルに形成して、切屑排出性を安定させることができる。
また、コーナーR切れ刃13のすくい面14を、1つの面取り面15により形成することができるので、コーナーR切れ刃13の刃長全域において、刃物角が急激に変化するようなことを防止でき、刃先強度をより安定的に高めることができる。
また、工具の製造時においては、面取り面15をギャッシュ加工等により研削して、コーナーR切れ刃13を一工程で簡単に形成することができ、製造が容易である。つまりこの場合、面取り面15は、コーナーRギャッシュと呼ぶことができる。
また本実施形態では、面取り面15が、コーナーR切れ刃13のすくい面14から、コーナーR切れ刃13と外周切れ刃9との境界点Qを回転中心軸C方向の基端側へ越えて、外周切れ刃9のすくい面10にも形成されているので、下記の作用効果を奏する。
一般に、コーナーR切れ刃13と外周切れ刃9との境界点Qは、互いに形状の異なる2つの切れ刃が接続される部分であることから、この境界点Qを挟んで回転中心軸C方向の先端側と基端側とで、軸方向すくい角や径方向すくい角、刃物角等が変化する。このため、切削加工時には、境界点Q近傍の切削負荷が大きくなりやすい。
そこで、本実施形態では、コーナーR切れ刃13のすくい面14から、境界点Qを越えて外周切れ刃9のすくい面10にまで面取り面15を形成することとした。つまりこの場合、境界点Q近傍において、切れ刃のすくい面は1つの面取り面15によって形成される。
これにより、境界点Qを挟んだ回転中心軸C方向の先端側と基端側とで、軸方向すくい角や径方向すくい角、刃物角等が大きく変化するようなことが抑えられ、この境界点Q近傍に大きな切削負荷が作用することを防止できる。従って、コーナーR切れ刃13と外周切れ刃9との接続部分における刃先強度が顕著に高められるとともに、工具寿命が延長する。
なお、例えば、切削加工時において回転中心軸C方向への切り込み量(ap)が、コーナーR切れ刃13の半径rと等しく設定された場合には、境界点Q近傍が、直前に加工された加工硬化層に切り込むこととなり、境界点Q近傍への切削負荷が特に高くなりがちであるが、本実施形態の上記構成によれば、このような場合であっても切れ刃の刃先強度が十分に確保される。
また、面取り面15が、コーナーR切れ刃13のすくい面14から、コーナーR切れ刃13と外周切れ刃9との境界点Qを回転中心軸C方向の基端側へ越えて外周切れ刃9のすくい面10に延びる長さWが、境界点Qからの距離で0.02r以上0.5r以下とされているので、上述した境界点Q近傍の切削負荷を抑える効果が得られつつ、工具径が小さくなってしまうようなことを抑制できる。
すなわち、長さWが0.02r以上であることにより、コーナーR切れ刃13と外周切れ刃9との境界点Q近傍において、軸方向すくい角や径方向すくい角、刃物角等が大きく変化するようなことを確実に防止して、切削負荷を抑制できるという効果が安定する。
また、長さWが0.5r以下であることにより、面取り面15を形成したことによって外周切れ刃9を工具回転方向Rとは反対側へ向けて後退させ過ぎてしまうようなことを防止できる。すなわち、一般に外周切れ刃9の逃げ面には逃げ角が付与されているため、外周切れ刃9のすくい面10に大きな面取り面15を形成すると、その分、外周切れ刃9が工具回転方向Rとは反対側へ向けて後退させられる。この場合、外周切れ刃9の外径が加工精度に影響するほど小さくなりやすいことから、好ましくない。そこで、長さWを0.5r以下とすることにより、切削精度に影響するほどの工具径の減少を抑制することができる。
また本実施形態では、コーナーR切れ刃13及び外周切れ刃9のうち、コーナーR切れ刃13上に、工具回転方向Rに向けて最も突出する最凸点Mが配置され、図15に示す変形例では最凸点Mが、コーナーR切れ刃13上において放射角度θで40°以上55°以下の範囲に配置されているので、コーナーR切れ刃13の底切れ刃11近傍における軸方向すくい角Ar2を確実にネガティブ角として上述の作用効果を奏しつつ、切屑排出性を高めることができる。
すなわち、コーナーR切れ刃13の最凸点Mが、放射角度θで40°以上の位置にあることにより、最凸点Mが底切れ刃11に近づき過ぎることを防止して、コーナーR切れ刃13の基準点RPにおける軸方向すくい角Ar2を確実に負の値とすることができる。これにより、上述したチッピングを防止する効果や、びびり振動を抑制する効果が安定して得られる。
また切削加工時において、コーナーR切れ刃13の最凸点Mより開始された切削は、工具の回転とともに回転中心軸C方向の先端側と基端側とに、切削範囲が拡大していく。つまり、コーナーR切れ刃13の最凸点Mよりも先端側部分では、軸方向すくい角が負の角度に設定されているため、切屑は工具先端側へ向かおうとする。また、コーナーR切れ刃13の最凸点Mよりも基端側部分及び外周切れ刃9では、軸方向すくい角が正の角度に設定されているため、切屑は工具基端側へ向かう。
そして、コーナーR切れ刃13の最凸点Mが、放射角度θで55°以下の位置にあることにより、最凸点MをコーナーR切れ刃13の中でも工具先端側へ近づけることが可能になる。これにより、工具基端側へ向けて排出される切屑量の割合を増大させて、切屑排出性を高めることができる。
また、図15に示す変形例では、コーナーR切れ刃13と外周切れ刃9との境界点QにおけるコーナーR切れ刃13の軸方向すくい角Ar1の大きさが、外周切れ刃9のねじれ角εの大きさを100%として、90%以上110%以下とされているので、下記の作用効果を奏する。
一般に、コーナーR切れ刃13と外周切れ刃9との境界点Qは、互いに形状の異なる2つの切れ刃が接続される部分であることから、この境界点Qを挟んで回転中心軸C方向の先端側と基端側とで、軸方向すくい角が変化する。
具体的に、外周切れ刃9のねじれ角εに対して、境界点QにおけるコーナーR切れ刃13の軸方向すくい角Ar1が小さくなっていると、境界点Q近傍で切れ刃が工具回転方向Rへ向けて突出する凸形状に形成される。また、外周切れ刃9のねじれ角εに対して、境界点QにおけるコーナーR切れ刃13の軸方向すくい角Ar1が大きくなっていると、境界点Q近傍で切れ刃が工具回転方向Rとは反対側へ向けて窪む凹形状に形成される。
図15の変形例によれば、外周切れ刃9のねじれ角εの大きさを100%として、境界点QにおけるコーナーR切れ刃13の軸方向すくい角Ar1が90%以上110%以下であるので、この境界点Q近傍において切れ刃が凸形状や凹形状になることを抑制して、外周切れ刃9とコーナーR切れ刃13とを滑らかに接続することができる。これにより、境界点Q近傍に大きな切削負荷が作用することを防止できる。
また本実施形態では、放射方向すくい角δが、コーナーR切れ刃13のうち、コーナーR切れ刃13と外周切れ刃9との境界点Qと、基準点RPとの間に位置する領域において最大値となるので、下記の作用効果を奏する。
コーナーR切れ刃13のうち、軸方向すくい角Ar1が正の値とされた外周切れ刃9との境界点Qと、軸方向すくい角Ar2が負の値とされた基準点RPと、の間に位置する領域(中間部分)は、工具回転方向Rに最も突出して配置される部分(最凸点M)を含み、被削材に食い付き始める箇所となる。
コーナーR切れ刃13において、前記領域の放射方向すくい角δが最大値とされている(つまり正角側に最も大きい)と、この領域の切れ味が高められる。つまり、被削材への食い付きを良くすることができ、これによりびびり振動が抑制されて、加工面精度が向上する。
〔本願発明に含まれるその他の構成〕
なお、本願発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、前述の実施形態では、面取り面15が、コーナーR切れ刃13のすくい面14から、コーナーR切れ刃13と外周切れ刃9との境界点Qを回転中心軸C方向の基端側へ越えて、外周切れ刃9のすくい面10にも形成されていることとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、面取り面15は、コーナーR切れ刃13のすくい面14に形成される一方、外周切れ刃9のすくい面10には形成されていなくてもよい。
また、特に図示していないが、面取り面15が、コーナーR切れ刃13のすくい面14から、コーナーR切れ刃13と底切れ刃11との境界点Pを径方向の内側へ越えて、底切れ刃11のすくい面12にも形成されていてもよい。この場合、下記の作用効果を奏する。
一般に、コーナーR切れ刃13と底切れ刃11との境界点Pは、互いに形状の異なる2つの切れ刃が接続される部分であることから、この境界点Pを挟んで径方向の内側と外側とで、軸方向すくい角や径方向すくい角、刃物角等が変化する。このため、切削加工時には、境界点P近傍の切削負荷が大きくなりやすい。
そこで、コーナーR切れ刃13のすくい面14から、境界点Pを越えて底切れ刃11のすくい面12にまで面取り面を形成することとすれば、境界点P近傍において、切れ刃のすくい面は1つの面取り面15によって形成される。
これにより、境界点Pを挟んだ径方向の内側と外側とで、軸方向すくい角や径方向すくい角、刃物角等が大きく変化するようなことが抑えられ、この境界点P近傍に大きな切削負荷が作用することを防止できる。従って、コーナーR切れ刃13と底切れ刃11との接続部分における刃先強度が顕著に高められるとともに、工具寿命が延長する。
また、前述の実施形態では、放射方向すくい角δの最大値が、コーナーR切れ刃13のうち、放射角度θで30°以上50°以下の範囲に設定されているとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、放射方向すくい角δの最大値は、放射角度θで30°未満や、50°を超えて設定されてもよい。例えば、放射角度θが90°のときに、放射方向すくい角δが最大値とされていてもよい。
なお、前述の実施形態において、インサート5の基体の材質は、炭化タングステン(WC)とコバルト(Co)を含む超硬合金の他に、例えば、サーメット、高速度鋼、炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、及びこれらの混合体からなるセラミックス、立方晶窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、多結晶ダイヤモンドあるいは立方晶窒化硼素からなる硬質相と、セラミックスや鉄族金属などの結合相とを超高圧下で焼成する超高圧焼成体を用いることも可能である。
また、工具本体1とシャンク部は、例えば、SKD61等の合金工具鋼で製造する場合と、工具本体1をSKD61等の合金工具鋼とし、超硬合金で製造したシャンク部を工具本体1に接合した超硬シャンクタイプを用いることも可能である。
その他、本願発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態、変形例及びなお書き等で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本願発明は、前述した実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
以下、本願発明を実施例により具体的に説明する。ただし本願発明はこの実施例に限定されるものではない。
〔刃先交換式ラジアスエンドミルの作製及び切削試験〕
まず、本願発明の実施形態として、本発明例1の刃先交換式ラジアスエンドミルを用意した。工具本体は、刃先径(刃径)がφ20mm、シャンク径がφ20mm、全長220mm、首下長さ120mm、首下径がφ19mmとされた超硬シャンクタイプを用いた。
工具本体の基材は、超硬合金とSKD61相当材とをロウ材で接合した基材を用い、旋盤加工により外観形状を整えた後、シャンク部を研摩加工により仕上げた。また、取付座のインサート固定部はマシニングセンターにてフライス加工により形成した。インサートを着脱するための固定用ネジは、呼び径がM6、ピッチが0.75mmのネジサイズを使用した。
インサートの基材は、WC−Co系の超硬合金製とし、インサート表面のコーティング被膜には、TiSi系の窒化物被膜を施した。
インサートの形状は図5に示すように略平板形状であり、コーナーR切れ刃のr寸法が1mm、厚さ寸法T値が5.2mm、インサート側面視における外周切れ刃の長さは7mm、このインサート側面視における外周切れ刃の軸方向すくい角(つまりねじれ角ε)を正の値で15度、に設定した。
底切れ刃は、該底切れ刃とコーナーR切れ刃との境界点を通り回転中心軸に垂直な水平面に対して、境界点から径方向内側へ向かうに従い漸次回転中心軸方向の基端側へ向けて延びるように傾斜し、この傾斜する角度である正の中低勾配角を3度に設定した。
本発明例1のインサート形状を示す主なパラメータは、コーナーR切れ刃の境界点(Q)の位置における軸方向すくい角(Ar1)を14度、境界点(P)の位置におけるコーナーR切れ刃の軸方向すくい角(Ar2)を−8度、に設定した。
図10に示す境界点(Q)は、コーナーR切れ刃と外周切れ刃との境界点であり、回転中心軸回りの切れ刃の回転軌跡において、外周切れ刃の最外周点でもある。このような理論上(理想)の境界点(Q)は、コーナーR切れ刃においては放射角度(θ)=90度となる点である。
本願発明の刃先交換式回転切削工具では、コーナーR切れ刃のすくい面から、境界点を越えて外周切れ刃のすくい面にまで面取り面を形成した。この面取り面が、コーナーR切れ刃と外周切れ刃との境界点から回転中心軸方向の基端側へ向けて延びる長さをW値としたとき、W値がコーナーR切れ刃の半径をrとして、0.02r以上、0.50r以下とすることが好ましい。
これにより、コーナーR切れ刃と外周切れ刃との境界点は、互いに形状の異なる2つの切れ刃が接続される部分であることから、前記境界点を挟んだ回転中心軸方向の先端側と基端側とで、軸方向すくい角や径方向すくい角、刃物角等が大きく変化するようなことが抑えられ、切削加工時には、この境界点近傍に大きな切削負荷が作用することを防止することが期待できるからである。
W値の長さが0.02r以上であることにより、コーナーR切れ刃と外周切れ刃との境界点近傍において、軸方向すくい角や径方向すくい角、刃物角等が大きく変化するようなことを確実に防止して、境界点近傍の切削負荷を抑える効果が得られるため、好ましい。
また、W値の長さが0.50r以下であることにより、面取り面を形成したことによって外周切れ刃を工具回転方向とは反対側へ向けて後退させ過ぎてしまうことによる切削加工精度に影響するほどの工具径の減少を抑制することができるため、好ましい。
上記のことを鑑みて、本発明例1では、W値は、0.05rに相当する、0.05mmとなるように、インサートを製作した。
本発明例1のコーナーR切れ刃における、放射方向すくい角(δ)のプロファイルを図17に示す。本発明例1のコーナーR切れ刃の放射角度(θ)40°における切れ刃断面の模式図を図16に示す(図16の右下図)。
図17より、本発明例1の放射角度(θ)が0度のとき(境界点P)の放射方向すくい角のδ値を−8度、放射角度(θ)が5度のとき(基準点RP)の放射方向すくい角のα値を−7度、放射角度(θ)が90度のとき(境界点Q)の放射方向すくい角のβ値を−3度とした。放射角度(θ)が40度の位置において、放射方向すくい角(δ)は最小値を有した。このときの放射方向すくい角(δ)は−0.8度である。
次に、基本的な構成要素は本発明例1に準拠させて比較例2を作成した。比較例2のコーナーR切れ刃における、放射角度(θ)が5°のとき(基準点RP)の放射方向すくい角のα値を−3度、放射角度(θ)が90°のとき(境界点Q)の放射方向すくい角のβ値を−8度とした。
また本発明例1、比較例2との性能を比較するために、従来例3のインサートを用意した。従来例3のインサートは、三菱日立ツール株式会社製のインサートである。型式名は、ラジアスプレシジョン、ARPF形のZCFW200−R1.0、PTH08Mタイプである。
従来例3のインサートは、本発明例1のインサートと略同形状の同材質で製作されている。但し、従来例3は本願発明の特別な構成を有しておらず、具体的には、コーナーR切れ刃の面取り面を有していないため、コーナーR切れ刃の諸元が本願発明とは異なる。比較例3は、底切れ刃のすくい面と、コーナーR切れ刃のすくい面と、外周切れ刃を同一平面に形成し、その軸方向すくい角は0度に設定した。さらに、底切れ刃のすくい面と、コーナーR切れ刃のすくい面は、底切れ刃のすくい面の基端側に延在する切屑排出溝とも同一平面に形成した。従来例3のインサートの基材は、WC−Co系の超硬合金製、インサート表面のコーティング被膜には、TiSi系の窒化物被膜を施している。インサートの形状は図18に示すように略平板形状であり、コーナーR切れ刃のr寸法が1mm、厚さ寸法T値が5.2mm、インサート側面視における外周切れ刃の長さは6mm、外周切れ刃の軸方向すくい角を0度、底切れ刃は、正の中低勾配角を1度に設定している。
このように作製した本発明例1、比較例2、従来例3のインサートを、刃先交換式ラジアスエンドミルの工具本体に装着して、切削評価を行なった。それぞれのインサートを取付けた工具本体は、工具保持具であるチャックへ取付けた後、フライス盤の主軸に装着した。下記の2通りの切削条件を用いて切削加工を実施した。
その際に、切削距離(m)を増加させていったときの逃げ面最大摩耗幅VBmax(mm)を、所定の間隔毎に測定した。切れ刃の寿命は、このVBmax値が0.2(mm)に到達した時点で判断した。また、切れ刃が寿命に達した際の切れ刃の損傷状態を写真撮影した。その測定結果を、表1に示す。
ここで言う逃げ面最大摩耗幅VBmax(mm)とは、切削加工に寄与している切れ刃の逃げ面を観察した際に、摩耗幅の最大値を測定したものである。
実験には、被削材の材料としてクロム合金ステンレス工具鋼材、寸法は100×100×250(mm)を用いた。この被削材を用いて、下記の2通りの切削条件で加工を行った。その1つは、側面肩削り中仕上げ加工として立壁加工を行い、上面部から深さ方向に立壁側面部を形成した。他方の1つは、正面削り(フライス)加工として底面加工を行った。
<切削条件1>
被削材:クロム合金ステンレス工具鋼(プラスチック金型用途)
被削材硬さ:52HRC(ロックウェル硬さ)
切削速度(Vc):120m/分
主軸の回転数(n):1910回転/分
1刃辺りの送り(fz):0.25mm(一定)
テーブル送り(Vf):955mm/分
軸方向切込み量(ap):1.0mm(一定)
径方向切込み幅(ae):0.5mm(一定)
工具突出し:60mm
加工方法:乾式、立壁側面部の等高線加工
<切削条件2>
被削材:クロム合金ステンレス工具鋼(プラスチック金型用途)
被削材硬さ:52HRC
切削速度(Vc):120m/分
主軸の回転数(n):1910回転/分
1刃辺りの送り(fz):0.25mm(一定)
テーブル送り(Vf):955mm/分
軸方向切込み量(ap):0.5mm(一定)
径方向切込み幅(ae):10mm(一定)
工具突出し:60mm
加工方法:乾式、正面削り(フライス)加工
図19には、本発明例1、比較例2、従来例3の各インサートによる切削条件1を用いた立壁側面部の等高線加工において、切削距離(m)を増加させながら所定の間隔毎に、逃げ面最大摩耗幅VBmax(mm)を測定した結果を示す。図20には、切れ刃が寿命に達した際の切れ刃の損傷状態の写真を示す。
切削速度(Vc値)の条件が120m/分の場合において、放射方向すくい角のβ値が−3度を備えた本発明例1は、VBmaxの規定値に到達したときの切削距離が264(m)となり良好な結果を示した。またβ値が−7度を備えた比較例2では、VBmaxの規定値に到達したときの切削距離が210(m)となり、目標値の250(m)を超えることはできず、満足のいく結果を得られなかった。
ここで、本発明例1、比較例2の結果について考察する。本発明例1のβ値は、負の値としつつも正角側に近づけることにより、側面加工時において、コーナーR切れ刃における外周切れ刃近傍での切れ味を確保することができ、立壁面への食い付きを良くすることができたものと考えられる。従って、切削加工時に被削材から工具に対して、工具を立壁面から離間させる向きの力が作用しにくくなり、びびり振動の発生が低減され加工が安定したものと考えられる。
一方、比較例2のβ値はネガ方向に強く設定したために損傷の進行が早まり、本発明例1よりも短寿命な結果となった。損傷状態の経時変化を観察した図21の写真によれば、初期の切削距離7.5mmの時点においては、スクイ面の損傷が大きくなり、続いて中期の150mの時点は、初期のスクイ面摩耗を中心に損傷進行が見られた。終期には、スクイ面の損傷が一定域を超え、逃げ面の損傷が加速していったものと考えられる。
また、本発明例1のW値の設定は、コーナーR切れ刃と外周切れ刃との接続部分における刃先強度が顕著に高めて、工具寿命が延長に有効であったものと考えられる。上記より、本発明例1は良好な結果を示すことが確認できた。
また従来例3では、切削距離が48(m)となった時点で観察した際に、切れ刃部に大きな欠損を生じたため、短寿命の結果を示した。この理由は、被削材へ食付くコーナーR切れ刃の軸方向すくい角が、外周切れ刃の軸方向すくい角(ねじれ角)と同一であることにより、被削材への食付きが線接触で開始されるために、びびり振動の発生率が高いことが影響していると考えられる。
図22には、本発明例1、比較例2、従来例3の各インサートによる切削条件2を用いた正面削り(フライス)加工において、切削距離(m)を増加させながら所定の間隔毎に、逃げ面最大摩耗幅VBmax(mm)を測定した結果を示す。図20には、切れ刃が寿命に達した際の切れ刃の損傷状態の写真を示す。
切削速度(Vc値)の条件が120m/分の場合において、放射方向すくい角のα値が−7度を備えた本発明例1は、VBmaxの規定値に到達したときの切削距離が15.3(m)となり良好な結果を示した。またα値が−3度を備えた比較例2では、VBmaxの規定値に到達したときの切削距離が9.8(m)となり、目標値の10.0(m)を超えることはできず、満足のいく結果を得られなかった。
ここで、本発明例1、比較例2の結果について考察する。本発明例1のα値は負の値とされ、かつ小さく設定されているので、平面加工時の切れ刃の食い込み勝手を抑えてチッピングを防止する効果や、びびり振動を抑制する効果が得られて、加工が安定したものと考えられる。
一方、比較例2のα値は、負の値としつつも正角側に近づけることにより、平面加工時のチッピングを防止する効果や、びびり振動を抑制する効果が得られにくくなったものと考えられる。上記より、本発明例1は良好な結果を示すことが確認できた。
また従来例3では、切削距離が6(m)となった時点で観察した際に切れ刃部に大きな欠損を生じたため、短寿命の結果を示した。この理由は、切削加工を行う際に、被削材の平面を正面削り加工する底切れ刃近傍においては、被削材への食い付き時に刃先が被削材の内部に潜り込むように引っ張られる現象が生じやすいためと考えられる。すなわち、切れ刃が食い込み勝手になると、チッピングが生じやすくなったり、びびり振動が生じやすくなり、加工が不安定になったものと考えられる。
本願発明の刃先交換式回転切削工具及びインサートは、靱性の高い金属材料や高硬度材からなる被削材に工具突出しの長い(例えばL/Dが4以上)切削加工を施すような場合であっても、びびり振動やたわみの発生を抑制することができ、かつチッピングの発生を防止することができて、高精度な切削加工を高能率にかつ長期にわたり安定して行うことが可能である。従って、産業上の利用可能性を有する。
1 工具本体
2 先端部
3 取付座
4 切れ刃部
5 インサート
6 刃先交換式ラジアスエンドミル(刃先交換式回転切削工具)
7 インサート嵌合溝
8 固定用ネジ
9 外周切れ刃
10 外周切れ刃のすくい面
11 底切れ刃
12 底切れ刃のすくい面
13 コーナーR切れ刃
14 コーナーR切れ刃のすくい面
15 面取り面(コーナーRギャッシュ)
16、17 切屑排出溝
A コーナーR切れ刃上の所定の点
Ar1、Ar2 軸方向すくい角(アキシャルレーキ)
C 回転中心軸
M 最凸点
O 円弧中心点
Pr 基準面
Q 境界点
R 工具回転方向
r コーナーR切れ刃の半径
RP 基準点
VL 仮想直線
VS 仮想平面
W 長さ
δ 放射方向すくい角(真のすくい角)
ε ねじれ角
θ 放射角度
θRP 基準点の放射角度

Claims (10)

  1. 工具本体の先端部に設けた取付座に、切れ刃部を有するインサートを着脱自在に装着する刃先交換式回転切削工具であって、
    前記取付座は、
    前記工具本体の先端部に、工具の回転中心軸を含んで前記回転中心軸に直交する径方向に延びて形成されたスリット状のインサート嵌合溝と、
    前記インサート嵌合溝に挿入された前記インサートを固定するための固定用ネジと、を備え、
    前記インサートの切れ刃部は、
    前記回転中心軸方向に沿うように延びる外周切れ刃と、
    前記外周切れ刃のすくい面と、
    前記径方向に沿うように延びる底切れ刃と、
    前記底切れ刃のすくい面と、
    前記底切れ刃の前記径方向の外端と前記外周切れ刃の前記回転中心軸方向の先端とを繋ぐとともに、前記工具本体の先端外周側へ向けて凸となる円弧状に形成されたコーナーR切れ刃と、
    前記コーナーR切れ刃のすくい面と、
    少なくとも前記コーナーR切れ刃のすくい面に形成された面取り面と、
    前記底切れ刃のすくい面の前記回転中心軸方向の基端側に形成された切屑排出溝と、
    前記外周切れ刃のすくい面の前記径方向の内側に形成された切屑排出溝と、を備え、
    前記コーナーR切れ刃上の所定の点及び前記回転中心軸を含む基準面に対して垂直であり、かつ、前記コーナーR切れ刃の円弧中心点と前記所定の点とを通る仮想直線を含む仮想平面内において、前記基準面に対して前記コーナーR切れ刃のすくい面が傾斜する角度である真のすくい角を、放射方向すくい角と定義し、
    前記基準面に投影した前記仮想直線が、前記基準面内において、前記回転中心軸に対して傾斜する角度を、放射角度と定義し、
    前記放射角度が5°とされた前記仮想直線が、前記コーナーR切れ刃に交差する点を基準点と定義して、
    前記外周切れ刃のねじれ角が、正の値を有し、
    前記コーナーR切れ刃と前記外周切れ刃との境界点における前記コーナーR切れ刃の軸方向すくい角が、正の値を有し、
    前記基準点における前記コーナーR切れ刃の軸方向すくい角が、負の値を有し、
    前記コーナーR切れ刃の刃長全域のうち、少なくとも前記境界点と前記基準点との間の領域における前記放射方向すくい角が、負の値を有し、
    前記基準点における前記コーナーR切れ刃の前記放射方向すくい角が、前記境界点における前記コーナーR切れ刃の前記放射方向すくい角よりも小さいことを特徴とする刃先交換式回転切削工具。
  2. 請求項1に記載の刃先交換式回転切削工具であって、
    前記コーナーR切れ刃の刃長全域において、前記放射方向すくい角が負の値とされることを特徴とする刃先交換式回転切削工具。
  3. 請求項1又は2に記載の刃先交換式回転切削工具であって、
    前記面取り面が、前記コーナーR切れ刃の刃長全域を含むことを特徴とする刃先交換式回転切削工具。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の刃先交換式回転切削工具であって、
    前記面取り面が、前記コーナーR切れ刃のすくい面から、前記コーナーR切れ刃と前記外周切れ刃との前記境界点を前記回転中心軸方向の基端側へ越えて、前記外周切れ刃のすくい面にも形成されていることを特徴とする刃先交換式回転切削工具。
  5. 請求項4に記載の刃先交換式回転切削工具であって、
    前記面取り面が、前記コーナーR切れ刃と前記外周切れ刃との前記境界点から前記回転中心軸方向の基端側へ向けて延びる長さが、前記コーナーR切れ刃の半径をrとして、0.02r以上0.5r以下であることを特徴とする刃先交換式回転切削工具。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の刃先交換式回転切削工具であって、
    前記面取り面が、前記コーナーR切れ刃のすくい面から、前記コーナーR切れ刃と前記底切れ刃との境界点を前記径方向の内側へ越えて、前記底切れ刃のすくい面にも形成されていることを特徴とする刃先交換式回転切削工具。
  7. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の刃先交換式回転切削工具であって、
    前記コーナーR切れ刃及び前記外周切れ刃のうち、前記コーナーR切れ刃上に、前記回転中心軸回りに沿う周方向のうち工具回転方向に向けて最も突出する最凸点が配置され、
    前記最凸点は、前記コーナーR切れ刃上において前記放射角度で40°以上55°以下の範囲に配置されることを特徴とする刃先交換式回転切削工具。
  8. 請求項1〜7のいずれか一項に記載の刃先交換式回転切削工具であって、
    前記コーナーR切れ刃と前記外周切れ刃との前記境界点における前記コーナーR切れ刃の軸方向すくい角の大きさが、前記外周切れ刃のねじれ角の大きさを100%として、90%以上110%以下であることを特徴とする刃先交換式回転切削工具。
  9. 請求項1〜8のいずれか一項に記載の刃先交換式回転切削工具であって、
    前記放射方向すくい角は、前記コーナーR切れ刃のうち、前記コーナーR切れ刃と前記外周切れ刃との前記境界点と、前記基準点との間に位置する領域において最大値となることを特徴とする刃先交換式回転切削工具。
  10. 請求項1〜9のいずれか一項に記載の刃先交換式回転切削工具に用いられることを特徴とするインサート。
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