JP6081245B2 - 麹菌染色体における任意領域の重複転座の作製方法 - Google Patents

麹菌染色体における任意領域の重複転座の作製方法 Download PDF

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Description

本発明は、アスペルギルス属に属する菌の染色体において、或る染色体における任意の大領域を、別の染色体の任意の位置に重複転座させる技術に関する。
アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae )及びアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)等の麹菌は、醤油、酒、味噌などの伝統的な食品の醸造や酵素の生産等のために工業的に広く用いられている、また近年の麹菌(アスペルギルス・オリゼ)の全ゲノム配列の決定やマイクロアレイを用いた網羅的な遺伝子発現解析などの進展に伴い、遺伝子工学的な改変、特に染色体レベルの改変により酵素等の生産性や増殖速度の改良などの効果が期待される糸状菌である。
アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、ニガー(niger)、フミガタス(fumigatus)、アワモリ(awamori)などのアスペルギルス属菌が単核の世代を持つのに対し、アスペルギルス・ソーヤ及びアスペルギルス・オリゼ等の麹菌は分生子の状態も含めてその生活環において常に多核の状態を保ち、これまでのところ有性世代が確認されておらず、親細胞から娘細胞への核の分配機構についても解明されていない。そのために、菌株間の交配やRIP(repeat induced mutation)等の手段によって新たな変異株を作成することが出来ず、遺伝学的研究が困難であり、上記のように産業的に極めて有用な菌であるにもかかわらず、遺伝的解析は遅れていた。
これらのことから、多種の酵素の生産性が高い等の有用な麹菌を育種することは産業上極めて重要であり、これを目的とした育種が現在までに精力的に行なわれている。このような麹菌の育種方法には、大きく分けて突然変異法と遺伝子組換え法がある。
突然変異法にはX線、紫外線、重イオンビーム等の各種変異処理が用いられ、そこから有用な性質を指標としたスクリーニングを行うことにより、様々な酵素活性や、醸造特性等の優れた株が作出されてきた。近年、ゲノム情報を利用してこれらの有用な形質を持つ菌株を解析し、得られた知見により染色体の重複が麹菌に好ましい性質を付与するのに重要であることが判明しており、突然変異処理によって900kb以上の大規模なゲノム領域の重複をもつ麹菌が得られている(特許文献1)。又、最近の研究により、ガンマ線照射により得られた酵母を解析すると、染色体の重複領域の境界領域に高頻度で共通の繰り返し配列が存在することが報告された(非特許文献1)。
しかしながら、このような染色体の重複のメカニズムは解明されていない。従って、変異処理を用いた従来の方法では、酵素活性等を指標としてスクリーニングを行った際に、たまたまその活性に関係のある染色体上の領域に重複を持つ菌株が得られるだけで、実際には様々な染色体上の部位でランダムに変異が起こるため、麹菌の染色体上の特定の箇所を狙って重複させることは不可能であった。又、このような変異を利用して得られた染色体の重複株の場合には、それらの間の相同配列間の組換えにより復帰変異(すなわち染色体重複の脱落)が高い頻度で生じることも知られている。
一方、遺伝子組換え法に関しては、これまでに、麹菌の染色体上の任意の領域を広範囲に亘ってタンデムに重複させる方法として、麹菌染色体における大領域重複の作製方法(特許文献2)が開発されている。この方法では、麹菌の染色体上において数十〜数百kb(例えば、約200kb〜約700kb)に及ぶ任意の大きな領域の重複を起こさせることが可能となった。
特許第4469014号公報 国際公開パンフレットWO2011/158623 A1
Argueso et al. (2008) Proc Natl Acad Sci U S A. 105:11845-11850.
この方法では染色体上の700 kb以上に渡る領域をタンデムに重複させることが可能である。しかしながら、以下にあげるような改善点を有している。
まず、タンデムの重複では、重複した配列が同一の染色体上に存在しているため、形質転換マーカーに基づく選択圧がない状態ではタンデムに並んだ相同領域間の組換えにより重複領域の脱落が起きる可能性があり、特定の栄養要求性が実質的に意味を持たない冨栄養状態においては安定性に懸念がある。そのために安定的に重複状態を維持するためには、使用できる培地が制限される。
更に、タンデムの重複株では、重複を保持したまま安定的にマーカー部分のみを除くことが技術的に困難であるため、該重複株の染色体に組み込まれている形質転換マーカーとは異なる、新たなマーカーを使用しない限り、コピー数をこれ以上増やすことは難しい。
本発明は上記の問題点を解決し、麹菌の染色体上の任意の大領域を広範囲に亘って重複転座させる技術を提供し、従来は取得不能であった新たな形質を持つ麹菌の取得を安定的・計画的に可能にすることを目的とする。
即ち、本発明者は、アスペルギルス属に属する菌を用い、染色体の任意の領域を広範囲に亘って重複転座させる方法の開発を試みた。
即ち、本発明は以下の各態様に係る。
[態様1]
アスペルギルス属に属する菌において、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域のセントロメア側の外側にコード領域の5’ 末端の一部が欠損した形質転換マーカー遺伝子が該遺伝子の5’末端がセントロメア側に位置するように組み込まれ、該ターゲット領域と置き換えられる別の染色体上の領域のセントロメア側の外側にコード領域の3’ 末端の一部が欠損した該形質転換マーカー遺伝子が該遺伝子の5’末端がセントロメア側に位置するように組み込まれていることを特徴とする、形質転換体。
[態様2]
アスペルギルス属に属する菌において、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域のセントロメア側の外側にコード領域の3’ 末端の一部が欠損した形質転換マーカー遺伝子が該遺伝子の3’末端がセントロメア側に位置するように組み込まれ、該ターゲット領域と置き換えられる別の染色体上の領域のセントロメア側の外側にコード領域の5’ 末端の一部が欠損した該形質転換マーカー遺伝子がその3’末端がセントロメア側に位置するように組み込まれていることを特徴とする、形質転換体。
[態様3]
コード領域の5’又は3’末端の一部が欠損した2つの形質転換マーカー遺伝子に共通して存在する該遺伝子のコード領域の中間部分が約100bp〜約2kbの塩基を有する、態様1又は2に記載の形質転換体。
[態様4]
形質転換マーカー遺伝子が、pyrG、sC及びniaDから成る群から選択される、態様1ないし3のいずれか一項に形質転換体。
[態様5]
形質転換マーカー遺伝子のいずれか一方又はその両方のコード領域の中間部分に存在する相同配列領域に予め制限酵素認識部位が導入されている、態様1ないし4のいずれか一項に記載の形質転換体。
[態様6]
制限酵素がI-sceI、I-ceuI、PI-pspI及びPI-sceIから成る群から選択される、態様5記載の形質転換体。
[態様7]
制限酵素認識部位が相同組換えによって導入されたものである、態様5又は6に記載の形質転換体。
[態様8]
アスペルギルス属に属する菌がアスペルギルス・ソーヤ又はアスペルギルス・オリゼである、態様1ないし7のいずれかに記載の形質転換体。
[態様9]
アスペルギルス属に属する菌の染色体上の任意の領域を重複転座させる方法であって、
(1)態様1ないし8のいずれか一項に記載の形質転換体を培養し、
(2)2つの異なる染色体に組み込まれた夫々の形質転換マーカー遺伝子のコード領域の中間部分に共通して存在する相同配列領域間における二重鎖切断時の修復機構を介した、該形質転換体における2つの異なる染色体の間での相同組換えによって、該ターゲット領域が重複転座された菌株を得、
(3)上記の相同組換えによってコード領域の完全長が構築された該形質転換マーカー遺伝子に基づく形質によって、該ターゲット領域が重複された菌株を選択することから成る、前記方法。
[態様10]
形質転換体が多核の状態にあることを特徴とする、態様9記載の方法。
[態様11]
形質転換体に紫外線照射することによって、2つの異なる染色体の間での相同組換えを促進させることを特徴とする、態様9又は10記載の方法。
[態様12]
制限酵素の作用下に形質転換体を培養して相同組換えを生起させる、態様9ないし11のいずれか一項に記載の方法。
[態様13]
態様9〜12のいずれか一項に記載の方法で得られた、染色体上に重複転座領域を有するアスペルギルス属に属する菌。
[態様14]
アスペルギルス属に属する菌がアスペルギルス・ソーヤ又はアスペルギルス・オリゼである、態様13記載の形質転換体。
[態様15]
重複転座領域が千kb以上である、態様13又は14記載のアスペルギルス属に属する菌。
[態様16]
態様14ないし15のいずれか一項に記載のアスペルギルス属に属する菌を用いて製造される醤油。
本発明によって、アスペルギルス属に属する菌の染色体上において、特許文献2において重複が得られた領域よりもより大きな領域、例えば、染色体のセントロメア近傍からテロメア近傍領域に亘るアーム全体の領域であって千kb以上(例えば、約1400kb)に及ぶ任意の大きな領域の重複転座を起こさせることが可能となった。
重複転座の対象となるターゲット領域として、本明細書の実施例に記載されているように、アスペルギルス属に属する各菌において有用物質(例えば、各種酵素類)をコードする遺伝子が多数含まれている第2番の染色体のセントロメア近傍からテロメア近傍領域に亘るアーム全体を用いることによって、本発明方法で得られた染色体上に重複転座領域を有するアスペルギルス属に属する菌は、プロテアーゼ及びα―アミラーゼ等の酵素活性が数倍増加していることが確認された。
更に、本発明によって得られる重複転座株においては、重複転座した相同領域が、別々の染色体にあるため、選択圧がない状態でも重複転座した領域の脱落の恐れはなく、安定している。
又、本発明の重複転座株においては、形質転換マーカー部分のみを除去することが可能であるため、該マーカーをリサイクルして使うことで、さらにコピー数を増やすことが可能であり、理論的には重複転座領域のコピー数を染色体の末端の数、すなわち16コピーまで増やすことが可能である。
本発明は宿主に内在性の遺伝子しか使用しておらず、作出した重複転座株中にも外来遺伝子が残らないセルフクローニング株であることから、醤油の醸造等、食品製造に使用する微生物(例えば、醤油麹)の育種法としても極めて優れた方法である。
本発明方法の一例の概略を示す。 5’ΔpyrGあるいは3’ΔpyrGユニットの作製を示す。 染色体重複転座前のターゲット領域を示す。 染色体重複転座後のターゲット領域を示す。 UV照射による染色体重複転座株の作製の結果を示す。 UV照射による染色体重複転座株の取得を示すPCRの結果を示す。 UV照射による染色体重複転座株におけるリアルタイムPCRによる遺伝子コピー数の解析(1)の結果を示す。 UV照射による染色体重複転座株におけるリアルタイムPCRによる遺伝子コピー数の解析(2)の結果を示す。 部位特異的切断による染色体重複転座株の取得を示すPCRの結果を示す。 部位特異的切断による染色体重複転座株におけるリアルタイムPCRによる遺伝子コピー数の解析(1)の結果を示す。 部位特異的切断による染色体重複転座株におけるリアルタイムPCRによる遺伝子コピー数の解析(2)の結果を示す。
外来DNAの染色体への組込みは染色体DNAの二重鎖切断時の修復機構を介して行われることが知られており、このDNA修復機構には相同組換えと非相同組換え(非相同末端結合)の2種類の機構が存在する。相同組換えの場合には外来DNAと相同性のある領域を介して組込みが起こるが、非相同組換えの場合には外来DNAの配列には関係なく染色体上のランダムな位置への組込みが起こり、これら2つの組換え機構は平衡して作用していると考えられている(Ristic et al. Nucl. Acids Res. (2003) 31: 5229-5237)。
相同組換え機構の中心をなす遺伝子はrad52グループと呼ばれる一連の遺伝子でその中にrad50、51、52、54、Mre11、XRS2等が含まれる(Kooistra et al. 2004)。相同組換え機構はバクテリアから真核生物まで多くの生物種で存在が確認され、Aspergillus属の実験室株であり単核分生子を持つAspergillus nidulansにおいてもuvsC遺伝子がクローニングされ研究が進められており(van Heemst et al. Mol. Gen. Genet. (1997)254: 654-64)、発現頻度を一定レベル上昇させることで相同組換頻度が向上することが報告されている(Natsume et al. Biosci. Biotechnol. Biochem. (2004) 68: 1649-1656)。
一方で、非相同組換え機構は相同組換えとは全く異なる非相同末端結合(Non-Homologous End Joining)によることが明らかとなっており、この機構の中心になる遺伝子としてはKu70、Ku80、Xrcc4、LIG4、DNAPKcsなどが知られている。Ku70およびKu80はヘテロダイマーとして機能し、ヌクレオチドキナーゼ(XRCC4)およびDNA LigaseVIとともに複合体を形成して、DNA二重鎖切断(DSB)時にその修復のためにDNA末端に結合してNon-Homologous End Joiningを促進することが知られている。(Walker et al. Nature (2001) 412: 607-614)。このKuを介した非相同組換え機構に関しては真核生物でのみ存在が確認されている。
本発明における麹菌染色体重複転座株の作製の概略について以下に述べる。
染色体の重複は染色体中に生じた二重鎖切断を修復する過程で生じると考えられているが、その詳しいメカニズムは判っていない。しかしながら2倍体酵母においてガンマ線照射により取得された変異株の染色体を解析すると染色体の重複あるいは転座が起きた領域の境界付近に繰り返し配列が存在することが報告されている(非特許文献1)。
以上のことから、例えば、内部に相同な領域を保持させた状態で、5’ 末端を部分的に欠損させることにより遺伝子機能を失わせた5’ΔpyrGを転座により重複させたい領域の元の染色体部位に組込み、同様に3’ 末端を部分的に欠損させることにより遺伝子機能を失わせた3’ΔpyrGを、上記の重複させたい領域を転座させたい別の染色体上の境界部分に組み込んだ形質転換体を作製し、この形質転換体の培養過程において、相同配列内部で二重鎖切断が引き起こされた後に相同領域間の組換えを介した修復により目的部位での転座により完全型のpyrGが再構成された株、即ち、最小培地上で生育可能になった株を選択することで、染色体上の狙った部位での染色体重複転座株が作製出来るのではないかと考えられる(図1)。
本発明の形質転換体の親株として使用するアスペルギルス属に属する菌に属する菌株としては、アスペルギルス・ソーヤ、アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・アワモリ等の任意の菌株が挙げられるが、そのうちアスペルギルス・ソーヤ及びアスペルギルス・オリゼに属する菌株が好ましい。
このような菌株としては、例えば、アスペルギルス・ソーヤ 262(FERM P−2188)、アスペルギルス・ソーヤ 2165(FERM P−7280)、アスペルギルス・ソーヤ (ATCC42251)、アスペルギルス・オリゼ(IAM2638)、及びアスペルギルス・オリゼRIB40(NBRC100959)等の公的寄託機関で保存されており当業者には容易に入手可能であるような各菌株等を挙げることができる。
本発明の形質転換体を使用して、アスペルギルス属に属する菌の染色体上において千kb以上に及ぶ任意の大きな領域を重複転座させることが可能である。
即ち、本発明の形質転換体の第一の型においては、アスペルギルス属に属する菌において、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域の外側にコード領域の5’ 末端の一部が欠損した形質転換マーカー遺伝子が組み込まれ、該ターゲット領域と置き換えられる別の染色体上の領域の外側には、3’ 末端の一部が欠損した該形質転換マーカー遺伝子が組み込まれていることを特徴とする。
より具体的には、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域のセントロメア側の外側にコード領域の5’ 末端の一部が欠損した形質転換マーカー遺伝子がその5’末端がセントロメア側に位置するように組み込まれ、該ターゲット領域と置き換えられる別の染色体上の領域のセントロメア側の外側にコード領域の3’ 末端の一部が欠損した該形質転換マーカー遺伝子がその5’末端がセントロメア側に位置するように組み込まれている。
本発明の形質転換体の第二の型においては、アスペルギルス属に属する菌において、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域の外側にコード領域の3’ 末端の一部が欠損した形質転換マーカー遺伝子が組み込まれ、該ターゲット領域と置き換えられる別の染色体上の領域の外側には、5’ 末端の一部が欠損した該形質転換マーカー遺伝子が組み込まれていることを特徴とする。
より具体的には、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域のセントロメア側の外側にコード領域の3’ 末端の一部が欠損した形質転換マーカー遺伝子がその3’末端がセントロメア側に位置するように組み込まれ、該ターゲット領域と置き換えられる別の染色体上の領域のセントロメア側の外側にコード領域の5’ 末端の一部が欠損した該形質転換マーカー遺伝子がその3’末端がセントロメア側に位置するように組み込まれている、ことを特徴とする。
上記の第一又は第二のいずれの型の形質転換体においても、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域は、該染色体の長腕又は短腕のいずれの側に位置していても良い。更に、該ターゲット領域と置き換えられる別の染色体上の領域も該別の染色体の長腕又は短腕のいずれの側に位置していても良い。尚、本明細書においては、染色体上の短腕側のテロメア末端を上流側とし、長腕側のテロメア末端を下流側と定義する。その結果、重複転座の対象となるターゲット領域及び該ターゲット領域と置き換えられる別の染色体上の領域が夫々の染色体において長腕又は短腕のいずれの側に位置するかによって、以下の4つの場合が考えられる。
従って、本発明の形質転換体の第一の型には以下の4つの場合がある。
即ち、第1例として、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域及び該ターゲット領域と置き換えられる領域が共に夫々の染色体の長腕に位置するような場合には、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域の5’ 末端の外側にコード領域の5’ 末端の一部が欠損した形質転換マーカー遺伝子が5’側を上流にして組み込まれ、該ターゲット領域と置き換えられる別の染色体上の領域の5’末端の外側にコード領域の3’ 末端の一部が欠損した該形質転換マーカー遺伝子が5’側を上流にして組み込まれている。
第2例として、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域及び該ターゲット領域と置き換えられる領域が共に夫々の染色体の短腕に位置するような場合には、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域の3’ 末端の外側にコード領域の5’ 末端の一部が欠損した形質転換マーカー遺伝子が3’を上流にして逆向きで組み込まれ、該ターゲット領域と置き換えられる別の染色体上の領域の3’末端の外側にコード領域の3’ 末端の一部が欠損した該形質転換マーカー遺伝子が3’側を上流にして逆向きで組み込まれている。
第3例として、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域が染色体の長腕に位置し、一方、該ターゲット領域と置き換えられる領域が染色体の短腕に位置するような場合には、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域の5’ 末端の外側にコード領域の5’ 末端の一部が欠損した形質転換マーカー遺伝子が5’側を上流にして組み込まれ、該ターゲット領域と置き換えられる別の染色体上の領域の3’末端の外側にコード領域の3’ 末端の一部が欠損した該形質転換マーカー遺伝子が3’側を上流にして逆向きで組み込まれている。
更に、第4例として、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域が染色体の短腕に位置し、一方、該ターゲット領域と置き換えられる領域が染色体の長腕に位置するような場合には、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域の3’ 末端の外側にコード領域の5’ 末端の一部が欠損した形質転換マーカー遺伝子が3’を上流にして逆向きで組み込まれ、該ターゲット領域と置き換えられる別の染色体上の領域の5’末端の外側にコード領域の3’ 末端の一部が欠損した該形質転換マーカー遺伝子が5’側を上流にして組み込まれている。
同様に、本発明の形質転換体の第二の型にも以下の4つの場合がある。
即ち、第1例として、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域及び該ターゲット領域と置き換えられる領域が共に夫々の染色体の長腕に位置するような場合には、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域の5’ 末端の外側にコード領域の3’ 末端の一部が欠損した形質転換マーカー遺伝子が3’を上流にして逆向きで組み込まれ、該ターゲット領域と置き換えられる別の染色体上の領域の5’末端の外側にコード領域の5’ 末端の一部が欠損した該形質転換マーカー遺伝子が3’ 側を上流にして逆向きで組み込まれている。
第2例として、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域及び該ターゲット領域と置き換えられる領域が共に夫々の染色体の短腕に位置するような場合には、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域の3’ 末端の外側にコード領域の3’ 末端の一部が欠損した形質転換マーカー遺伝子が5’側を上流にして組み込まれ、該ターゲット領域と置き換えられる別の染色体上の領域の3’末端の外側にコード領域の5’ 末端の一部が欠損した該形質転換マーカー遺伝子が5’側を上流にして組み込まれている。
第3例として、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域が染色体の長腕に位置し、一方、該ターゲット領域と置き換えられる領域が染色体の短腕に位置するような場合には、或る染色体上重複転座の対象となるターゲット領域の5’ 末端の外側にコード領域の3’ 末端の一部が欠損した形質転換マーカー遺伝子が3’を上流にして逆向きで組み込まれ、該ターゲット領域と置き換えられる別の染色体上の領域の3’末端の外側にコード領域の5’ 末端の一部が欠損した該形質転換マーカー遺伝子が5’側を上流にして組み込まれている。
更に、第4例として、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域が染色体の短腕に位置し、一方、該ターゲット領域と置き換えられる領域が染色体の長腕に位置するような場合には、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域の3’ 末端の外側にコード領域の3’ 末端の一部が欠損した形質転換マーカー遺伝子が5’側を上流にして組み込まれ、該ターゲット領域と置き換えられる別の染色体上の領域の5’末端の外側にコード領域の5’ 末端の一部が欠損した該形質転換マーカー遺伝子が3’ 側を上流にして逆向きで組み込まれている。
このような構造上の特徴を有するいずれかの形質転換体を培養することによって、2つの異なる染色体に組み込まれた夫々の形質転換マーカー遺伝子のコード領域の中間部分に共通して存在する相同配列領域間(図1及び図2中で斜線で示した部分)における二重鎖切断時の修復機構を介した、該形質転換体における2つの異なる染色体の間での相同組換えによって、該ターゲット領域が重複転座された菌株が得られる。ターゲット領域並びに2つの異なる染色体は、重複転座の対象となるターゲット領域及び菌株の種類等に応じて任意に選択することが出来る。例えば、実施例で示されるように、アスペルギルス属に属する各菌において有用物質(例えば、各種酵素類)をコードする遺伝子が多数含まれている、第2番の染色体のセントロメア近傍からテロメア近傍領域に亘るアーム全体をターゲット領域として選択することができる。
尚、形質転換体において重複転座の対象となるターゲット領域と該ターゲット領域と置き換えられる別の染色体上の領域の一方が夫々の染色体において長腕又は短腕いずれか一方の同じ腕側に位置する場合には、上記の相同組換えによって得られるターゲット領域が重複転座された菌株において重複転座されたターゲット領域は5’側を上流にして組み込まれることになる。
これに対して、形質転換体において重複転座の対象となるターゲット領域が長腕又は短腕いずれか一方の腕側に位置し、該ターゲット領域と置き換えられる別の染色体上の領域が他方の腕側に位置する場合には、上記の相同組換えによって得られるターゲット領域が重複転座された菌株において重複転座されたターゲット領域は3’ 側を上流にして逆向きで組み込まれることになる。
本発明で使用するアスペルギルス属に属する菌としては、上記のような非相同組換え機構に関与する各種遺伝子が抑制又は欠失している形質転換菌(特開2006−158269号公報)を使用することによって、より効果的である。
又、該形質転換体における組み込まれる形質転換マーカー遺伝子は、相同組換えを効率よく生起するのに十分な長さ、例えば、数百bp以上、数百bp〜数kb程度(例えば、約100bp〜約2kb)の塩基配列がコード領域の中間部分に残るように、そのコード領域の5’末端又は3’末端の一部が欠損していることが好ましい。即ち、2つの異なる染色体に組み込まれた夫々の一部が欠損している形質転換マーカー遺伝子において、元の形質転換マーカー遺伝子のコード領域の中間部分に存在する上記の長さの塩基配列が共通して残っていることが好ましい。従って、形質転換マーカー遺伝子のコード領域において欠損させる5’末端又は3’末端領域の塩基配列の長さは、使用する形質転換マーカー遺伝子の種類及び全長等に応じて、当業者が適宜決めることが出来る。例えば、pyrG遺伝子を使用する場合には、通常、例えば、約0.4kb〜約1.4kbである。又、欠損させる5’末端又は3’末端領域の塩基配列の長さは同じである必要はない。
本発明の形質転換体を培養した場合に、上記の相同組換えによって該ターゲット領域が重複転座された菌株においては同時に形質転換マーカー遺伝子コード領域の完全長が構築される結果、形質転換マーカー遺伝子に基づく形質によって、該ターゲット領域が重複転座された菌株を該ターゲット領域が重複されていない(即ち、形質転換マーカー遺伝子コード領域の完全長が構築されていない)菌株から選択すること出来る。尚、上記の形質転換マーカー遺伝子のコード領域の5‘側には、目的とする遺伝子自身のコード領域に加えて、該遺伝子のプロモーター領域及びターミネーター領域等の転写調節領域も含まれていても良い。
本発明で使用するこのような形質転換マーカーに特に制限はないが、ポジティブ選択可能なマーカー遺伝子の代表例として、pyrG、sC及びniaD等を挙げることが出来、これらマーカー遺伝子を使用した際には、夫々の栄養要求性(ウリジン要求、イオウ資化、及び、硝酸資化)を補償する形質によって該ターゲット領域が重複転座された菌株を選択することが可能となる。
尚、これらのマーカー遺伝子は、選択用の薬剤を含む培地で培養することによって、該マーカー遺伝子を含有する菌はそこに含まれている該マーカー遺伝子の発現産物によって選択用の薬剤が細胞毒性物質に変換され細胞死に至らしめることによって、ネガティブ選択にも使用することが出来る。
更に、上記形質転換マーカー遺伝子のいずれか一方又はその両方のコード領域の中間部分に存在する相同配列領域に予め、I-sceI、I-ceuI、PI-pspI及びPI-sceI等の当業者に公知の適当な制限酵素認識部位を導入しておくことが出来る。このような制限酵素部位は、相同組換え等の当業者に公知の任意の手段によって導入することが出来る。
従って、本発明は、上記の形質転換体を使用してアスペルギルス属に属する菌の染色体上の任意の領域を重複転座させる方法にも係る。この方法の一例の概略は図1に示したとおりである。即ち、本発明方法は、
(1)上記の本発明に係る形質転換体を培養し、
(2)2つの異なる染色体に組み込まれた夫々の形質転換マーカー遺伝子のコード領域の中間部分に共通して存在する相同配列領域間における二重鎖切断時の修復機構を介した、該形質転換体における2つの異なる染色体の間での相同組換えによって、該ターゲット領域が重複転座された菌株を得、
(3)上記の相同組換えによってコード領域の完全長が構築された該形質転換マーカー遺伝子に基づく形質によって、該ターゲット領域が重複された菌株を選択することから成る。
本発明方法は、本発明の形質転換体を通常の条件で培養することによって、形質転換マーカー遺伝子のコード領域の中間部分に共通して存在する相同配列領域間において二重鎖の切断が適当な頻度で生じた時に働く修復機構を介した相同組換えを利用するものである。
本発明方法において、形質転換体を培養する際に、適当な時期、例えば、培養開始前に形質転換体の分生子に紫外線及びX線等の当業者に公知の適当な突然変異処理を施すことによって、2つの異なる染色体の間での相同組換えを促進させて相同組換えの効率を高めることが出来る。例えば、分生子懸濁液に紫外線処理をする場合には、当業者に公知の任意の手段を用いて、通常、15W紫外線ランプ下で1〜10分間程度照射することが好ましい。尚、本発明の形質転換体を培養する際に、特にプロトプラストの状態にする必要はない。
更に、コード領域の中間部分に存在する相同配列領域に、予め、I-sceI、I-ceuI、PI-pspI及びPI-sceI等の当業者に公知の適当な制限酵素認識部位が導入された形質転換マーカー遺伝子を使用する場合には、該制限酵素の作用下に形質転換体を培養して部位特異的切断を起こさせ、それによって相同組換えの効率を高めることが出来る。具体的には、例えば、プロトプラストの状態にした形質転換体と制限酵素を融合補助剤(例えば、PEG等)の存在下で混合すること(プロトプラストPEG法)によって、制限酵素を該形質転換体に効率よく作用させることが可能である。
尚、本発明の形質転換体は、本願明細書の実施例に記載されているような当業者の公知の手段を用いて作製することが出来る。又、形質転換体の培養は当業者に公知の適当な条件で実施することが出来る。
更に、本発明は、以上の方法で得られた、染色体上に、例えば、千kb以上(例えば、約1400kb)の重複転座領域を有するアスペルギルス属に属する菌にも係るものである。重複転座の対象となるターゲット領域は任意に選択することができるので、有用な酵素類をコードする公知の各種領域をターゲット領域とすることによって、醤油の醸造等、食品製造に有用な菌(例えば、醤油麹)を得ることが出来る。従って、本発明は、このような該麹菌を用いて製造される醤油等の食品にも係るものである。
以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
[実験方法]
使用菌株
Aspergillus oryzae RP-1株(ΔpyrG)。Aspergillus oryzae RP-1株はRIB40(=ATCC42149) 由来のpyrG deletion株(Takahashi et al. (2006) Biosci Biotechnol Biochem. 70:135-143)。
使用培地
ポリペプトンデキストリン(PD)培地(polypepton 1%, dextrin 2%, KH2PO4 0.5%, NaNO3 0.1%, MgSO4 0.05%, casamino acid 0.1%, pH 6.0)、CzapekDox (CZ) 最小培地、再生培地として1.2M ソルビトール CZを使用した。1.5 mg/ml 5fluoroortic acid(5FOA) (シグマ社) および20mM ウリジンを含むCZ培地プレートをpyrG-(ウリジン要求)株のポジティブセレクション用の培地として使用した。
形質転換
150ml容三角フラスコ中の20mM Uridineを含むポリペプトンデキストリン液体培地50mlに分生子を接種し、30℃で約20時間振とう培養を行い、菌体を回収した。回収した菌体を0.7 M KCl bufferで洗浄し、1% Lysing enzyme(シグマ社)を含む0.7M KCl buffer中で30℃、3時間緩やかに振とうし、プロトプラストを調製した。得られたプロトプラストを1.2 Mソルビトール bufferで洗浄した後、プロトプラストPEG法により形質転換を行った。形質転換体の再生は0.5%agarを含む1.2Mソルビトール-CZ培地上で行った。
I-SceIを用いた重複転座株の作製
染色体重複転座株の作製は、以下の通りに行った。約2X107/100μl量のプロトプラスト溶液に対し、20μlのPEG溶液を加えた後、50Uまたは0UのI-SceIを加え、氷中に40分保持した後、70μlのPEG溶液を加え、さらに室温で20分保持した後、1.2Mソルビトール-CZ培地プレート上で再生させた。CZ培地上で生育の見られた株を染色体重複転座候補株として以後の解析に使用した。
ふすま麹の作製法
麹菌の酵素活性評価は定法に従って行なった。すなわち、80%散水した小麦ふすま5gを150ml容三角フラスコに入れ、121℃、50分滅菌した後、麹菌を2白金耳程度接種し30℃、4日間培養する。培養後、滅菌水100mlを入れ、ゴム栓をして十分に振とうし、4時間室温にて静置した後、No.2の濾紙(アドバンテック社製)で濾過して得られた抽出液を酵素サンプルとした。
プロテアーゼ活性の測定法
得られた酵素サンプルを適宜希釈し、「しょうゆ試験法」(財団法人 日本醤油研究所 昭和60年、287ページ)に記載の方法に従って測定した。プロテアーゼ活性は、ふすま麹1g当り1分間に1μモルのチロシンを生成する活性を1U(ユニットまたは単位)として示した。
α-アミラーゼ活性の測定法
得られた酵素サンプルを適宜希釈し、α-アミラーゼ測定キット(キッコーマン醸造分析キット、コード60213)を用い、キットのプロトコルに従って測定を行なった。α-アミラーゼ活性は、ふすま麹1g当り1分間に1μモルの2-クロロ-4-ニトロフェノールを遊離する力価を1U(ユニットまたは単位)として示した。
定量PCR(リアルタイムPCR)を用いた染色体中の遺伝子コピー数の比較
定量PCRはMx3005P(アジレント・テクノロジー社)を用いて行った。rad52をノーマライザーとして相対定量法により、2番染色体上のAlp (B1036)、amyR、prtT(B1212)、D1258、B1440、B1555および4番染色体上のD0024、D0123および8番染色体上のH19の各遺伝子のコピー数を親株(RIB40)と染色体重複株(UV4-C株及びBN1-1株)比較した。PCRの条件は95℃で10分保持した後、95℃20秒−58℃30秒−72℃30秒を40サイクル繰り返した。rad52、Alp、prtT、H19、D1258、B1440、B1555、D0024、D0123の各遺伝子の増幅には、r52UR-r52LR、AlpU-AlpL、prtTU-prtTL、H19U-H19L、1258D U-1258D L、B1440U-B1440L、B1555U-B1555L、D0024U-D0024L、D0123U-D0123Lの各プライマーを使用した(表1)。
重複転座株作製用のベクターの構築および染色体重複転座株の確認に使用したPCRのプライマーの配列を表2に示す。
UV照射による染色体重複転座株の作製
[形質転換体の作製]
重複転座の標的とする領域は図3に示すように、A.oryzaeの2番染色体中のSC003領域のAO090003001035〜AO090003001556の各ORFの領域に対応する部分を含む1380 kbの領域(図3、斜線部)である。この領域を4番染色体SC166領域のAO090166000009とAO090166000010の境界領域(166 locus)からテロメア側に重複転座させる。そのために、B locusに5’ΔpyrGを組込み、166 locusに3’ΔpyrGを組込むためのベクターを作製した。本明細書内では以後簡略化のため、各遺伝子名のAO090003000部分を省略し、Bで表現する(例:AO090003000160 → B0160)。またAO090166000部分を省略し、Dで表現する(例:AO090166000010 → D0010)。SC003領域と対応する各遺伝子の配列は独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)のゲノム解析データベースであるDOGAN(Database Of the Genomes Analyzed at NITE)に基づいている。
(http://www.bio.nite.go.jp/dogan/GeneMap?GENOME_ID=ao__G2)。
4番染色体において予定通りの重複転座が起こり、2番染色体中のtarget領域(図3)が4番染色体へと重複転座した場合、図4のような染色体構造を持った株を得ることが出来る。
5’ΔpyrGおよび3’ΔpyrGの作製
まず、5’ΔpyrGおよび3’ΔpyrGを作製するために、図2に示すような基本ユニットを作製した。5’ΔpyrGあるいは3’ΔpyrGユニットの作製は PCRとライゲーションを用いて行った。pyrGユニットの作製は、当業者に公知の方法を用いて、pyrG全長の転写開始点付近(5’ΔpyrGの場合)あるいはコード領域の3’側付近(3’ΔpyrGの場合)に、図2中で斜線で示す相同配列(適当な制限酵素認識部位を含んでいても良い)を組込むことにより行った。各ベクターが染色体上に組込まれた後5FOA耐性株を選択(ネガティブ選択)することにより、それぞれ相同領域での組換えにより内部が切り出された5’ΔpyrGあるいは3’ΔpyrG株が得られた。
2番染色体B-locusへ5’ΔpyrGのユニットを組み込むためのベクターの作製
次に5’ΔpyrGおよび3’ΔpyrGそれぞれのユニットを染色体上のターゲットとする領域に組込むためのベクターを構築した。
まず、B-locusへ5’ ΔpyrGを組込むためのベクターは以下のようにして作製した。A.oryzae RIB40株のゲノムDNAを鋳型とし、primer B-UおよびB-Lを用いてPCRを行い、B-locus近傍を含む3 kbのDNA断片を得た。得られた断片を精製し、TOPO-TA cloning kit(invitrogen社)を用いてクローニングした。得られたプラスミドを鋳型とし、プライマーB-iUとB-iLを用いて増幅し、約6 kbのDNA断片を得た。5’ ΔpyrGを作製するための基本ユニットをプライマーP-UおよびP-Lを用いて増幅し、約3 kbのDNA断片を得た。これらの断片を精製した後、In-fusion cloning kit(Takara社)を用いて処理し、ベクターpB-d5pyrGを得た。
4番染色体166-locusへ3’ΔpyrGのユニットを組み込むためのベクターの作製
続いて166-locusへ3’ΔpyrGを組込むためのベクターを作製した。A.oryzae RIB40株のゲノムDNAを鋳型とし、primer 166-Uおよび166-Lを用いてPCRを行い、166-locus近傍を含む3 kbのDNA断片を得た。得られた断片を精製し、TOPO-TA cloning kit(invitrogen社)を用いてクローニングした。得られたプラスミドを鋳型とし、プライマー166-iUと166-iLを用いて増幅し、約6 kbのDNA断片を得た。3’ ΔpyrGを作製するための基本ユニットをプライマーP-UおよびP-Lを用いて増幅し、約3 kbのDNA断片を得た。これらの断片を精製した後、In-fusion cloning kit(Takara社)を用いて処理し、ベクターp166-d3pyrGを得た。
重複転座用の親株の作製
続いてこれらのベクターをA.oryzae染色体上のB-locusおよび166-locusへ組込み、染色体の重複転座用の親株を作製した。まず、A.oryzae RIB40のpyrG欠失株であるA.oryzae RP-1株に対し、pB-d5pyrGをプライマーB-UおよびB-Lを用いて増幅した断片で形質転換を行った。再生培地上で得られた形質転換体に対し、プライマーB-OUおよびB-OLを用いてスクリーニングを行い、B-locusにベクターが組込まれた株を得た。この株より分生子を回収し、5FOA-CZプレートに塗布した後、30℃で一週間程度培養し、十分に分生子を着生した耐性株からDNAを抽出し、プライマーB-OUおよびB-OLを用いてPCRを行うことにより、pyrGの5’側の欠失を確認するとともに最小培地で生育しないことを確認し、B-locusに5’pyrGが組込まれた株(AO-B-d5pyrG株)を得た。続いて、得られた株の4番染色体の166-locusに3’ΔpyrGの組込むことを試みた。3’pyrG組込み用のベクターp166d3pyrGをプライマー166Uおよび166Lを用いて増幅し、得られた断片を用いてAO-B-d5pyrG株に対し、形質転換を行った。最小培地上で再生した形質転換体からゲノムDNAを抽出し、プライマー166-OUおよび166-OLを用いてPCRを行い、166-locusにベクターが組込まれた株を得た。得られた株から分生子を回収し、5FOA-CZプレートに塗布した後、30℃で一週間程度培養し、十分に分生子を着生した耐性株を得た。得られた耐性株からDNAを抽出し、プライマー166-OUおよび166-OLを用いてPCRを行うことにより、pyrGの3’側の欠失を確認した。最小培地で生育しないことを確認し、最終的に2番染色体B-locusに5’pyrGが組込まれ、4番染色体166-locusに3’pyrGが組込まれた、本発明の形質転換体である、重複転座用の親株(AO-D-2株)を得た。
UV照射による染色体重複転座株の作製
UV照射による染色体重複転座株の作製は、以下の通りに行った。約2X106/100μl量の分生子懸濁液を塗布したマルツプレートを6枚用意し、それぞれのプレートに対し、クリーンベンチ中で蓋を開けた状態でUVランプを0分、1分、2分、3分、4分、5分間、照射した後、30℃で1週間、培養しプレート全面に分生子を形成させた。各プレートの分生子に0.01% tween液を加え、スプレッダーでかき取ることにより回収した後、一枚あたり約2X106個の分生子をカゼインプレート上に塗布し、30℃で約4日間培養し、分生子の生育状況、およびハロの形成状態を調べた。カゼインプレート上ではウリジン要求株は生育できないため、ここで生育できる株は、栄養要求が解除された株である。各UV照射で得られた再生分生子数(コロニー数)を図5に示す。UV照射0分、1分、2分のものから再生した分生子は得られなかったが、UV照射3分および5分からは各1個、4分のものからは5個の再生分生子が得られた。UV照射4分の分生子を塗布したカゼインプレートを図5に示す。5個のコロニー(UV4-A、UV4-B、UV4-C、UV4-D、UV4-E)のうち1個(UV4-C)で大きなハロの形成が確認された(図5)。
PCRを用いた染色体の重複転座株の確認
続いて、得られた重複転座候補株に対し、PCRを用いて染色体上の狙った位置で重複転座が起きているかどうかを確認した。使用したプライマーの配列を表2に示す。図6に示すように、2番染色体上の転座境界領域および4番染色体上の転座境界領域の両隣接領域にプライマーを組合せ、PCR産物が増幅されるか否かにより、重複転座の有無を確認できる。転座が起きる前の状態では2番染色体上の5‘ΔpyrG の両サイドに配置したプライマーB-U&B-Lの組合せ(1)、および4番染色体上の3’ΔpyrGの両サイドに配置したプライマーct166-U&ct166-Lの組合せ(2)、それぞれで、約5-kbのバンドの増幅が見られる。これに対し、相互転座が起きた場合には、プライマーB-U&ct166-Lの組合せ(3)、およびプライマーct166-U&B-Lの組合せ(4)でバンドが増幅する。一方、重複転座が起きた場合にはプライマーB-U&B-Lの組合せ(1)、およびプライマーct166-U&B-Lの組合せ(4)でバンドが増幅されると考えられる。そこで転座が起きる前の親株および今回得られた重複転座の候補株であるUV4-C株およびUV4-D株よりゲノムDNAを調製し、PCRを行った。親株およびUV4-D株ではプライマーの組合せがB-U&B-L(1)の時、およびct166-U&ct166-L(2)の時(2)にのみバンドの増幅が見られ、転座が起きていないことが示された。一方、UV4-C株ではプライマーB-U&B-Lの組合せ(1)、に加えてプライマーct166-U&B-Lの組合せ(4)でもバンドが増幅されたため、狙った領域で重複転座が起きていることが示唆された(図6、電気泳動図)。
リアルタイムPCRによるコピー数の確認
続いてリアルタイムPCR(定量PCR)を用いて2番染色体の重複領域における各遺伝子のコピー数をコントロール株(Wt:RIB40株)および染色体重複転座株(UV4-C株)で比較した(図7および図8)。実験では他の染色体に存在し、コピー数が1であるrad52をノーマライザーとして使用し、重複転座領域内のセントロメア側の端に位置するB1036遺伝子(Alp)とそこから490 kb離れた位置に存在するB1208(amyR)遺伝子、B1212(prtT)遺伝子、B1258(1258D)遺伝子、B1440遺伝子およびテロメア側の端に位置するB1555遺伝子、そして重複領域外である8番染色体に位置するH19遺伝子および転座した先の4番染色体上の領域に位置するD0024遺伝子とD0123遺伝子(図3参照)をターゲットとして、SYBR Greenを用いた相対的定量法により、親株におけるコピー数との比較を行った。図7および図8にはコントロール株(Wt:RIB40株)でのコピー数に対する相対値を示す。
その結果、RIB40株に対する染色体重複株(UV4-C株)における各遺伝子のコピー数は、8番染色体(染色体重複領域外)に位置するH19では、1程度の値で変化が見られないのに対し、2番染色体の重複転座領域内に位置するB1036(Alp)遺伝子、B1208(amyR)遺伝子、B1212(prtT)遺伝子、B1258(1258D)遺伝子のコピー数はいずれも染色体重複転座株(UV4-C株)では約2倍の値に増幅していることが判明した(図7)。
また、同じく重複領域内に位置する遺伝子であるB1440およびB1555遺伝子のコピー数は、コントロールに比較して2倍に増幅しているのに対し、転座した先の4番染色体166 locusとテロメアの間の領域に位置するD0024およびD0123遺伝子のコピー数は0に近い値を示し、UV4-C株においては、この部分が消失していることが確認された(図8)。これらのことからUV4-C株においては2番染色体上の狙った領域が4番染色体の狙った領域に転座することにより、重複転座が起きていることが示された。
染色体重複株におけるプロテアーゼおよびアミラーゼ活性の測定
2番染色体の重複株については、特許文献1(特許第4469014号「大規模ゲノム重複を保持する麹菌」)で、麹菌の2番染色体上のSC003のAO090003001003〜AO090003001259に対応するゲノム領域の重複株で、プロテアーゼ活性およびアミラーゼ活性の顕著な上昇が見られることが報告されている。そこで本実験で2番染色体を重複転座させた重複株について、同様の活性上昇が見られるかどうかを調べるために、酵素活性の測定を行なった。
プロテアーゼ活性測定の結果
前述の方法によって、ふすま麹より得られた酵素抽出液を用いて全プロテアーゼ活性の測定を行い、染色体重複を持たないコントロール株(Ct株)と重複株とで比較を行なった。その結果を表3に示す。プロテアーゼ活性については、コントロール株(Ct株)の活性に対し、染色体重複転座株(UV4-C株)では約2.6倍程度に活性値が上昇していた。
α‐アミラーゼ活性測定の結果
続いてα‐アミラーゼ活性についても同一の酵素液を用いて測定を行なった。その結果を表4に示す。その結果、コントロール株(Ct株)の活性値に対し、染色体重複転座株(UV4-C株)での活性値は約1.8倍程度に上昇していることが明らかとなった。
これらの結果から本研究で得られた染色体重複転座株(UV4-C株)においてはフスマ培養において、プロテアーゼおおびアミラーゼ活性ともに染色体重複株と同様に顕著な活性の上昇が見られることが確認された。このことから、UV4-C株では2番染色体のアルカリプロテアーゼ遺伝子を含む領域が広範囲に亘って重複していることが確認された。
以上の結果から、本発明で得られた染色体重複転座株(UV4-C株)を解析した結果、PCRおよびリアルタイムPCR(定量PCR)およびフスマ培養における活性測定の、いずれの結果においても、2番染色体のアルカリプロテアーゼ遺伝子(alp)およびamyR、prtTを含む部分(SC003領域のAO090003001035〜AO090003001556の各ORFの領域に対応する1380 kbの領域(図3、斜線部))が、4番染色体(SC166領域のAO090166000009とAO090166000010の境界領域(166 locus)からテロメア側)に重複転座し、そのことにより各遺伝子のコピー数が増えていることを示すデータが得られた。
部位特異的切断による染色体重複転座株の作製
実施例1と同様に、形質転換体の作成、5’ΔpyrGおよび3’ΔpyrGの作製、2番染色体B-locusへ5’ΔpyrGのユニットを組み込むためのベクターの作製を行った。
4番染色体166-locusへ3’ΔpyrGのユニットを組み込むためのベクターの作製
続いて166-locusへ3’ΔpyrGを組込むためのベクターを作製した。A.oryzae RIB40株のゲノムDNAを鋳型とし、primer 166-Uおよび166-Lを用いてPCRを行い、166-locus近傍を含む3 kbのDNA断片を得た。得られた断片を精製し、TOPO-TA cloning kit(invitrogen社)を用いてクローニングした。得られたプラスミドを鋳型とし、プライマー166-iUと166-iLを用いて増幅し、約6 kbのDNA断片を得た。コード領域中にI-SceI切断部位を持つ3’ ΔpyrGを作製するための基本ユニットをプライマーP-UおよびP-Lを用いて増幅し、約3 kbのDNA断片を得た。これらの断片を精製した後、In-fusion cloning kit(Takara社)を用いて処理し、ベクターp166-d3pyrG-Iを得た。
重複転座用の親株の作製
続いてこれらのベクターをA.oryzae染色体上のB-locusおよび166-locusへ組込み、染色体の重複転座用の親株を作製した。まず、A.oryzae RIB40のpyrG欠失株であるA.oryzae RP-1株に対し、pB-d5pyrGをプライマーB-UおよびB-Lを用いて増幅した断片で形質転換を行った。再生培地上で得られた形質転換体に対し、プライマーB-OUおよびB-OLを用いてスクリーニングを行い、B-locusにベクターが組込まれた株を得た。この株より分生子を回収し、5FOA-CZプレートに塗布した後、30℃で一週間程度培養し、十分に分生子を着生した耐性株からDNAを抽出し、プライマーB-OUおよびB-OLを用いてPCRを行うことにより、pyrGの5’側の欠失を確認するとともに最小培地で生育しないことを確認し、B-locusに5’ΔpyrGが組込まれた株(AO-B-d5pyrG株)を得た。続いて、得られた株の4番染色体の166-locusに3’ΔpyrGの組込むことを試みた。3’ΔpyrG組込み用のベクターp166d3pyrGをプライマー166Uおよび166Lを用いて増幅し、得られた断片を用いてAO-B-d5pyrG株に対し、形質転換を行った。最小培地上で再生した形質転換体からゲノムDNAを抽出し、プライマー166-OUおよび166-OLを用いてPCRを行い、166-locusにベクターが組込まれた株を得た。得られた株から分生子を回収し、5FOA-CZプレートに塗布した後、30℃で一週間程度培養し、十分に分生子を着生した耐性株を得た。得られた耐性株からDNAを抽出し、プライマー166-OUおよび166-OLを用いてPCRを行うことにより、pyrGの3’側の欠失を確認し、なおかつこの部分に新たにI-SceIによる切断認識部位が組込まれていることを確認した。最小培地で生育しないことを確認し、最終的に2番染色体B-locusに5’ΔpyrGが組込まれ、4番染色体166-locusに3’ΔpyrGが組込まれ、重複転座用の親株(AO-BN43株)を得た。
部位特異的切断による染色体重複転座株の作製
部位特異的切断による染色体重複転座株の作製は、以下の通りに行った。重複転座用の親株の分生子をポリペプトンデキストリン液体培地に接種し30℃で14時間培養した。形質転換と同様の方法でプロトプラストを調製し、I-SceIで処理後(方法の項参照)、1.2 MソルビトールCZプレート上に重層し、30℃で約一週間静置培養した。その結果、再生株として1株(BN1-1株)が得られた。重複転座用の親株はウリジン要求性であるため、そのままでは生育出来ないが、I-SceIにより切断された4番染色体の3’ΔpyrGが2番染色体の5’ΔpyrGによって修復されることにより、完全型pyrGとして相補されることが期待される。
PCRを用いた染色体の重複転座株の確認
続いて、得られた重複転座候補株に対し、PCRを用いて染色体上の狙った位置で重複転座が起きているかどうかを確認した。使用したプライマーの配列を表2に示す。図9に示すように、2番染色体上の転座境界領域および4番染色体上の転座境界領域の両隣接領域にプライマーを組合せ、PCR産物が増幅されるか否かにより、重複転座の有無を確認できる。転座が起きる前の状態では2番染色体上の5‘ΔpyrG の両サイドに配置したプライマーB-U&B-Lの組合せ(1)、および4番染色体上の3’ΔpyrGの両サイドに配置したプライマーct166-U&ct166-Lの組合せ(2)、それぞれで、約5-kbのバンドの増幅が見られる。これに対し、相互転座が起きた場合には、プライマーB-U&ct166-Lの組合せ(3)、およびプライマーct166-U&B-Lの組合せ(4)でバンドが増幅する。一方、重複転座が起きた場合にはプライマーB-U&B-Lの組合せ(1)、およびプライマーct166-U&B-Lの組合せ(4)でバンドが増幅されると考えられる。そこで今回得られた重複転座の候補株であるBN1-1株よりゲノムDNAを調製し、PCRを行った。その結果、BN1-1株ではプライマーB-U&B-Lの組合せ(1)、およびプライマーct166-U&B-Lの組合せ(4)でバンドが増幅され、プライマーct166-U&ct166-Lの組合せ(2)およびプライマーB-U&ct166-Lの組合せ(3)ではバンドが検出されなかった。このことから、BN1-1株では、染色体上の狙った領域で重複転座が起きていることが示された(図9左下、電気泳動図)。
リアルタイムPCRによるコピー数の確認
続いてリアルタイムPCR(定量PCR)を用いて2番染色体の重複領域における各遺伝子のコピー数をコントロール株(Wt:RIB40株)および染色体重複転座株(BN1-1株)で比較した(図10および図11)。実験では他の染色体に存在し、コピー数が1であるrad52をノーマライザーとして使用し、2番染色体の重複転座領域内のセントロメア側の端に位置するB1036遺伝子(Alp)とそこからテロメア側に490 kb離れた位置に存在するB1212(prtT)遺伝子およびさらにテロメア側に位置するB1440遺伝子とB1555遺伝子、および転座した先の4番染色体上の領域に位置するD0024遺伝子およびD0123遺伝子(図3参照)、さらに重複転座領域全く別の染色体である8番染色体に位置するH19遺伝子をターゲットとして、SYBR Greenを用いた相対的定量法により、親株におけるコピー数との比較を行った。図10および図11に各遺伝子のコピー数のコントロール株(Wt:RIB40株)に対する相対値を示す。その結果、2番染色体の重複転座領域内に位置するB1036(Alp)遺伝子、B1212(prtT)遺伝子、B1440遺伝子、B1555遺伝子のコピー数はいずれも染色体重複転座株(BN1-1株)ではコントロール株に比較して約2倍の値に増幅していた。一方、重複転座した先の4番染色体に上に位置するD0024遺伝子およびD0123遺伝子は染色体重複株(BN1-1株)では消失していることが判明した(図10および図11)。また重複転座領域とは別の8番染色体に位置するH19遺伝子のコピー数は1で変化がなかった。
プロテアーゼ活性測定の結果
実施例1と同様に、染色体重複を持たないコントロール株(Ct株)と重複株とで比較を行なった。その結果を表5に示す。プロテアーゼ活性については、コントロール株(Ct株)の活性に対し、染色体重複転座株(BN1-1株)では約2.5倍程度に活性値が上昇していた。

α‐アミラーゼ活性測定の結果
続いてα‐アミラーゼ活性についても同一の酵素液を用いて測定を行なった。その結果を表6に示す。その結果、コントロール株(Ct株)の活性値に対し、染色体重複転座株(BN1-1株)での活性値は約1.5倍程度に上昇していることが明らかとなった。
本発明で得られた染色体重複転座株(BN1-1株)を解析した結果、PCRおよびリアルタイムPCR(定量PCR)およびフスマ培養における活性測定の、いずれの結果においても、2番染色体のアルカリプロテアーゼ遺伝子(alp)およびamyR、prtTを含む部分(SC003領域のAO090003001035〜AO090003001556の各ORFの領域に対応する1380 kbの領域(図3、斜線部))が、4番染色体(SC166領域のAO090166000009とAO090166000010の境界領域(166 locus)からテロメア側)に重複転座し、そのことにより各遺伝子のコピー数が増えていることを示すデータが得られた。
以上の結果から、本発明で確立した方法により、麹菌の染色体上の任意の領域を広範囲に亘って重複転座させることができることが示された。
本発明による製造方法を使用することにより、育種の対象である菌株のゲノム情報を利用して実用上有用であると考えられる染色体の領域を特定し、その染色体領域を狙って重複させた菌株を作製することが可能となり、効率的に分子育種が進められると考えられる。更に、従来知られていなかった全く新たな有用な形質が強化された麹菌が得られるものと期待される。

Claims (15)

  1. アスペルギルス属に属する菌において、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域のセントロメア側の外側にコード領域の5’ 末端の一部が欠損した形質転換マーカー遺伝子が該遺伝子の5’末端がセントロメア側に位置するように組み込まれ、該ターゲット領域と置き換えられる別の染色体上の領域のセントロメア側の外側にコード領域の3’ 末端の一部が欠損した該形質転換マーカー遺伝子が該遺伝子の5’末端がセントロメア側に位置するように組み込まれていることを特徴とする、形質転換体。
  2. アスペルギルス属に属する菌において、或る染色体上の重複転座の対象となるターゲット領域のセントロメア側の外側にコード領域の3’ 末端の一部が欠損した形質転換マーカー遺伝子が該遺伝子の3’末端がセントロメア側に位置するように組み込まれ、該ターゲット領域と置き換えられる別の染色体上の領域のセントロメア側の外側にコード領域の5’ 末端の一部が欠損した該形質転換マーカー遺伝子がその3’末端がセントロメア側に位置するように組み込まれていることを特徴とする、形質転換体。
  3. コード領域の5’又は3’末端の一部が欠損した2つの形質転換マーカー遺伝子に共通して存在する該遺伝子のコード領域の中間部分が100bp〜2kbの塩基を有する、請求項1又は2に記載の形質転換体。
  4. 形質転換マーカー遺伝子が、pyrG、sC及びniaDから成る群から選択される、請求項1ないし3のいずれか一項に形質転換体。
  5. 形質転換マーカー遺伝子のいずれか一方又はその両方のコード領域の中間部分に存在する相同配列領域に予め制限酵素認識部位が導入されている、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の形質転換体。
  6. 制限酵素がI-sceI、I-ceuI、PI-pspI及びPI-sceIから成る群から選択される、請求項5記載の形質転換体。
  7. 制限酵素認識部位が相同組換えによって導入されたものである、請求項5又は6に記載の形質転換体。
  8. アスペルギルス属に属する菌がアスペルギルス・ソーヤ又はアスペルギルス・オリゼである、請求項1ないし7のいずれかに記載の形質転換体。
  9. アスペルギルス属に属する菌の染色体上の任意の領域を重複転座させる方法であって、
    (1)請求項1ないし8のいずれか一項に記載の形質転換体を培養し、
    (2)2つの異なる染色体に組み込まれた夫々の形質転換マーカー遺伝子のコード領域の中間部分に共通して存在する相同配列領域間における二重鎖切断時の修復機構を介した、該形質転換体における2つの異なる染色体の間での相同組換えによって、該ターゲット領域が重複転座された菌株を得、
    (3)上記の相同組換えによってコード領域の完全長が構築された該形質転換マーカー遺伝子に基づく形質によって、該ターゲット領域が重複された菌株を選択することから成る、前記方法。
  10. 形質転換体が多核の状態にあることを特徴とする、請求項9記載の方法。
  11. 形質転換体に紫外線照射することによって、2つの異なる染色体の間での相同組換えを促進させることを特徴とする、請求項9又は10記載の方法。
  12. 制限酵素の作用下に形質転換体を培養して相同組換えを生起させる、請求項9ないし11のいずれか一項に記載の方法。
  13. 請求項9〜12のいずれか一項に記載の方法で得られた、染色体上に重複転座領域を有するアスペルギルス属に属する菌。
  14. アスペルギルス・ソーヤ又はアスペルギルス・オリゼである、請求項13記載のアスペルギルス属に属する菌
  15. 重複転座領域が千kb以上である、請求項13又は14記載のアスペルギルス属に属する菌。

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