(1)空調装置
図1は、本実施形態に係る車両(図示せず)の空調装置1の構成を示す概略図である。本実施形態で空調装置1において「上流」「下流」というときは特に断らない限り空調風の流れに関していう。
空調装置1は、車両の前部に備えられ、車室内空間2の空調を行う(符号7は後述するようにフロントウインドシールドである)。空調装置1は、車外空間3の空気(以下「外気」ともいう)を空調装置1に導入する外気導入モードと、車室内空間2の空気(以下「内気」ともいう)を空調装置1に導入する内気循環モードとの間で設定が切り替え可能に構成されている。空調装置1は、外気導入モードのときに外気を取り入れるための外気取入口4と、内気循環モードのときに内気を取り入れるための内気取入口5とを備えている。
空調装置1は、空調装置1で冷却又は加熱された空気(空調風)を車室内空間2に吹き出すための複数の吹き出し口(矢印で図示)6a〜6eを備えている。具体的に、ベント吹き出し口6aは、前席の乗員の上半身に向けて空調風を吹き出す。ヒート吹き出し口6bは、前席の乗員の足元に向けて空調風を吹き出す。デフロスタ吹き出し口6cは、フロントウインドシールド7の内面に向けて下方から上方に空調風を吹き出す。リヤベント吹き出し口6dは、後席の乗員の上半身に向けて空調風を吹き出す。リヤヒート吹き出し口6eは、後席の乗員の足元に向けて空調風を吹き出す。
空調装置1は、外気取入口4及び内気取入口5が一端に形成されたメインダクト部8を備えている。メインダクト部8に、内外気切り替えダンパ9、ブロワ10、及び冷却装置11(図3参照)のエバポレータ11aが上流側からこの順に配設されている。
内外気切り替えダンパ9は、外気取入口4及び内気取入口5の直下流に配置され、外気取入口4と内気取入口5とを選択的に塞ぐ。内外気切り替えダンパ9により外気取入口4が塞がれると、内気取入口5からメインダクト部8に空気が導入され、内気循環モードが実現可能となる。逆に、内外気切り替えダンパ9により内気取入口5が塞がれると(図1が示す状態)、外気取入口4からメインダクト部8に空気が導入され、外気導入モードが実現可能となる。
なお、内外気切り替えダンパ9は、外気取入口4を塞ぐ位置と内気取入口5を塞ぐ位置との間に位置して、外気取入口4と内気取入口5との開度の割合を調節し、これにより吹き出し口6a〜6eから吹き出されるときの空調風の外気と内気との混合比率を種々調節することが可能に構成されている。
ブロワ10は、内外気切り替えダンパ9の直下流に配置され、作動することにより外気取入口4又は内気取入口5からメインダクト部8に空気を導入する。これにより外気取入口4又は内気取入口5から吹き出し口6a〜6eに向けて流れる空調風が生じる。
エバポレータ11aは、冷房用の熱交換器であり、ブロワ10の直下流に配置され、空調風を冷却する。
メインダクト部8の下流側は、冷房用の第1空気流路8aと暖房用の第2空気流路8bとに分岐し、その分岐部8cに温度コントロールダンパ12が設けられている。
温度コントロールダンパ12は、エバポレータ11aの直下流に配置され、第1空気流路8aと第2空気流路8bとを選択的に塞ぐ。温度コントロールダンパ12により第1空気流路8aが塞がれると(図1が示す状態)、空調風は第2空気流路8bを通過して吹き出し口6a〜6eから車室内空間2に吹き出される。この経路は主に暖房時における空調風の経路である。逆に、温度コントロールダンパ12により第2空気流路8bが塞がれると、空調風は第1空気流路8aを通過して吹き出し口6a〜6eから車室内空間2に吹き出される。この経路は主に冷房時における空調風の経路である。
なお、温度コントロールダンパ12は、第1空気流路8aを塞ぐ位置と第2空気流路8bを塞ぐ位置との間に位置して、第1空気流路8aと第2空気流路8bとの開度の割合を調節し、これにより吹き出し口6a〜6eから吹き出されるときの空調風の温度(吹き出し温度)を種々微調整することが可能に構成されている。
第2空気流路8bに、ヒータコア41及びPTCヒータ42が上流側からこの順に配設されている。
ヒータコア41は、暖房用の熱交換器であり、温度コントロールダンパ12の直下流に配置され、空調風を加熱する。ヒータコア41は、暖房用の熱源として利用し得るエンジン冷却水がその内部を循環する。
PTCヒータ42もまた、暖房用の熱交換器であり、ヒータコア41の直下流に配置され、ヒータコア41で加熱された空調風をさらに加熱する。PTCヒータ42は、電力の供給を受けて作動する電気式ヒータであり、図示しないPTC素子(正特性サーミスタ)に電力が供給されることによって発熱する。PTCヒータ42は、作動時に発熱して温度が上昇すると抵抗値が増大して電流量を抑制する自己温度制御機能を有する。一方、PTCヒータ42は、非作動時に温度が低下すると抵抗値が減少して電流が流れ易くなり、そのため、冷間始動時は多量の電流(突入電流)が流れるという特性を有する。
本実施形態に係る車両は、動力源(エンジン)(図示せず)として熱効率に優れる内燃機関を搭載している。そのため、燃費性能に優れる反面、熱損失が少ないので、ヒータコア41を循環するエンジン冷却水の温度が相対的に低くなる。そのため、ヒータコア41だけでは暖房用の熱源として不足するので、それを補うために、追加の暖房用熱源としてPCTヒータ42が採用されている。
第1空気流路8aと第2空気流路8bとは下流で再び合流し、合流部8の下流に複数の吹き出し口6a〜6eが配置されている。
なお、符号43は、吹き出し口6a〜6eを選択するために、各吹き出し口6a〜6eに通じる空気流路に個別に設けられた開閉弁等のアクチュエータである(図3参照)。
(2)電気系統−減速エネルギー回生システム
図2は、上記空調装置1を備えた本実施形態に係る車両の電気系統90の構成を示すブロック図である。本実施形態で電気系統90において「上流」「下流」というときは特に断らない限り発電装置13からDC/DCコンバータ15を経て第1、第2電気負荷25,34に向かう電流の流れに関していう。
この車両の電気系統90においては減速エネルギー回生システムが構築されている。すなわち、上記電気系統90は、発電装置13、第1蓄電装置14、DC/DCコンバータ15、第2蓄電装置16、第1電気負荷25、及び第2電気負荷34を備えている。
発電装置13として、車両の減速時や降坂時等、車両が駆動力を必要とせず、アクセルペダル(図示せず)が踏み込まれていないときに、運動エネルギーを電気エネルギーに変換して回収する(つまり発電する)減速回生オルタネータが採用されている。特に、本実施形態では、車両の走行状態に応じて所定の範囲で変動する電圧(例えば14〜24V程度)にて電力を発生する可変電圧オルタネータが採用されている。したがって、本実施形態では、発電装置13の最小発電電圧は14Vであり、最大発電電圧は24Vである。この最小発電電圧及び最大発電電圧は、必ずしも可変電圧オルタネータにて発電可能な電圧範囲の下限(発電可能最小電圧)及び上限(発電可能最大電圧)に限らず、例えば、発電可能最小電圧と発電可能最大電圧との間の電圧範囲の下限及び上限も含まれるものとする。発電装置13は、第1ハーネス17を介して、DC/DCコンバータ15と電気的に接続されている。
第1蓄電装置14として、複数の電気二重層キャパシタセル(図示せず)が直列に接続された構成のキャパシタが採用されている。第1蓄電装置14は第2蓄電装置16よりも急速な充放電が可能であるという特性を有する。第1蓄電装置14は、上記第1ハーネス17に電気的に接続されている。これにより、第1蓄電装置14は、上記発電装置13により発電された電力が上記第1ハーネス17を介して供給され、上記電力をその発電電圧に対応した電圧(例えば14〜24V程度)にて蓄電する。つまり、第1蓄電装置14は、発電装置13の発電電圧が所定の範囲で変動しても、その変動する発電電圧を蓄電できる。
第1電気負荷25は、ナビゲーション装置(図2に「Navi」と表示)21、オーディオ装置(同じく「Audio」と表示)22、メータユニット(同じく「メータ」と表示)23、及び車室内照明装置(同じく「照明」と表示)24等、車両の電装品の群である。ここで、例えばナビゲーション装置21の消費電流値は2.9A、オーディオ装置22は2.1A、メータユニット23は0.8Aである。第1電気負荷25は、第1給電回路26を介して、DC/DCコンバータ15と電気的に接続されている。第1電気負荷25の定格電圧は12Vである。すなわち、第1電気負荷25は、発電装置13の最大発電電圧(24V)より低い定格電圧を有する。なお、本明細書において、定格電圧とは、メーカーによって補償された使用限度という意味での、いわゆる定格電圧に限らず、電気負荷25,34やPTCヒータ42が異常を生じることなく動作可能な電圧、すなわち耐電圧も含まれるものとする。
第2電気負荷34は、エンジン始動用のスタータ31、パワーステアリング装置(図2に「パワステ」と表示)32、及びABS(アンチロックブレーキシステム)・DSC(横滑り防止)装置33等、車両の補機の群である。ここで、例えばパワーステアリング装置32の消費電流値は0.5〜4A、ABS・DSC装置33は0.5Aである。第2電気負荷34は、第1給電回路26から分岐した第2給電回路35を介して、DC/DCコンバータ15と電気的に接続されている。第2電気負荷34の定格電圧もまた12Vである。すなわち、第2電気負荷34もまた、発電装置13の最大発電電圧(24V)より低い定格電圧を有する。
第2蓄電装置16として、長期に亘り電力を例えば12V程度にて蓄電可能な鉛蓄電池が採用されている。第2蓄電装置16は、上記第2給電回路35に電気的に接続されている。
そして、本実施形態では、上記空調装置1に採用されたPTCヒータ42が、上記第1電気負荷25及び第2電気負荷34とは別に、上記第1ハーネス17に電気的に接続されている。すなわち、PTCヒータ42はDC/DCコンバータ15の上流側(発電装置13及び第1蓄電装置14の側)にあり、第1電気負荷25及び第2電気負荷34はDC/DCコンバータ15の下流側にある。なお、PTCヒータ42は、上記第1蓄電装置14よりも下流側で上記第1ハーネス17に接続されている。ここで、PTCヒータ42の消費電流値は80Aである。つまり、PTCヒータ42は、発熱のために消費電力が大きく、他の電装品21〜24や補機31〜33に比べて高い電流値を必要とする。PTCヒータ42の定格電圧は24Vである。すなわち、PTCヒータ42は、発電装置13の最大発電電圧(24V)と同じ値の定格電圧を有する。
DC/DCコンバータ15をバイパスするバイパス回路27が設けられている。バイパス回路27の一端は第1ハーネス17に接続され、他端は第2給電回路35に接続されている。バイパス回路27上にバイパスリレー28が配設されている。
DC/DCコンバータ15は、上流側(発電装置13及び第1蓄電装置14の側)から供給される電力の電圧(例えば24V)を下流側の第1、第2電気負荷25,34の定格電圧(例えば12V)に降圧して下流側に供給する機能を有する。
本実施形態において、上記電気系統90を以上のような構成にした理由、特に、PTCヒータ42を第1、第2電気負荷25,34とは別にDC/DCコンバータ15の上流側に配置した理由は、およそ以下の通りである。
すなわち、この電気系統90(減速エネルギー回生システム)では、発電装置13は、車両の走行状態に応じて所定の範囲で変動する電圧(最小発電電圧14V〜最大発電電圧24V)にて電力を発生する可変電圧オルタネータが採用されている。また、第1蓄電装置14は、上記発電装置13により発電された電力をその発電電圧に対応した電圧(14〜24V)にて蓄電するキャパシタが採用されている。そして、可変電圧オルタネータによる発電やキャパシタへの蓄電は発電電圧が高いほど高効率となることから、基本的には、発電装置13の発電電圧は車両の電装品21〜24や補機31〜33の定格電圧(12V)よりも高い電圧(例えば24V)に設定され、上記発電及び蓄電が12Vよりも高い24Vで行われる。そして、発電装置13及び第1蓄電装置14の側の電力を上記電装品21〜24や補機31〜33に供給するときは、その電圧がDC/DCコンバータ15により24Vから12Vに降圧されて供給される。
その場合に、多くの電装品21〜24や補機31〜33が同時に電力を必要とすると、これらに供給される電流値の総計がDC/DCコンバータ15の供給可能電流値を超えることが想定される。そのようなシーンは、特に、消費電力の大きいPTCヒータ42がDC/DCコンバータ15の下流側に配置されている場合に、PTCヒータ42がオンのとき、とりわけ空調風を加熱する必要量が多いときに起き易い。そこで、DC/DCコンバータ15をバイパスするバイパス回路27を設け、上記シーンの発生が想定されるときは、バイパス回路27をオン(つまりバイパスリレー28をオン)にして、発電装置13及び第1蓄電装置14の側(上流側)から電力をDC/DCコンバータ15を通さずにバイパス回路27を介して電装品21〜24及び補機31〜33の側(下流側)に直接供給するようにしたものである。
ところが、バイパス回路27がオンのときは、発電装置13及び第1蓄電装置14の側の電圧(24V)がDC/DCコンバータ15により降圧されないから、発電装置13及び第1蓄電装置14の側の電圧を電装品21〜24及び補機31〜33の定格電圧(12V)に設定する必要がある。そのため、発電装置13の発電電圧が相対的に低い12Vに固定され、発電装置13による発電(12Vの発電)は行われるが、発電電圧が12Vと低いために第1蓄電装置14への蓄電が効率的に行われず、発電装置13で発電された電力の第1蓄電装置14への蓄電機会をロスするという問題が起きる。
この問題に対処するために、消費電力の大きいPTCヒータ42をDC/DCコンバータ15に対して発電装置13及び第1蓄電装置14と同じ上流側に配置し、その定格電圧を発電装置13の最大発電電圧(24V)と同じ電圧に高くしたものである。このようにすることにより、PTCヒータ42に対しては、発電装置13及び第1蓄電装置14の側の24Vの電力を供給すればよくなり、PTCヒータ42がオンのときでも、発電装置13は24Vで効率よく発電でき、第1蓄電装置14は電力の蓄電機会をロスすることなく24Vで効率よく蓄電できる。しかも、PTCヒータ42が抜けた分、電装品21〜24及び補機31〜33の側の消費電力が少なくなり、バイパス回路27がオンになる頻度が減少するから、この点からも電力の蓄電機会のロスが抑制される。
さて、上記電気系統90の動作を簡単に説明する。通常時は、バイパス回路27をオフ(つまりバイパスリレー28をオフ)にする。上流側の電力、すなわち車両の減速時や降坂時等に発電装置13で発電された14〜24V程度の電力又は第1蓄電装置14で蓄電された14〜24V程度の電力は、DC/DCコンバータ15で12V程度に降圧された後、第1給電回路26を通って第1電気負荷25に供給されるとともに、第2給電回路35を通って第2電気負荷34及び第2蓄電装置16にも供給され、有効に利用される。このとき、第2蓄電装置16の蓄電電圧が例えば12V程度に設定された規格電圧よりも低い場合は、上記上流側からの電力により第2蓄電装置16が蓄電される。また、上流側の電力、すなわち、発電装置13で発電された14〜24V程度の電力又は第1蓄電装置14で蓄電された14〜24V程度の電力は、バイパス回路27の状態に拘らず、常に直接そのままPTCヒータ42に供給される。
第1蓄電装置14の電力が消費され、その電圧が例えば14V未満に低下した場合は、バイパス回路27をオン(つまりバイパスリレー28をオン)にし、この状態で発電装置13を駆動して12〜14V程度の電圧にて発電を行う。バイパス回路27をオンにすると、上流側の電力(12〜14V程度の電力)は、DC/DCコンバータ15で降圧されることなく、バイパス回路27及び第2給電回路35を通って第2電気負荷34及び第2蓄電装置16に供給されるとともに、第1給電回路26を通って第1電気負荷25にも供給され、有効に利用される。また、上流側の電力は、このときも、直接そのままPTCヒータ42に供給される。
(3)制御系統
図3は、上記空調装置1及び上記電気系統90を備えた本実施形態に係る車両の制御系統の構成を示すブロック図である。
車両制御ユニット50及びPT(パワートレイン)制御ユニット60は、それぞれ、CPU、ROM、RAM等を含む周知の構成のマイクロプロセッサであり、相互に情報通信可能に接続されている。車両制御ユニット50は、空調装置1のコントローラである空調装置コントローラ51とも相互に情報通信可能に接続されている。
車両制御ユニット50は、車室内空間2の空気の温度を検出する車内温度センサ52、第1蓄電装置14の蓄電電圧を検出する第1電圧センサ53、及び第2蓄電装置16の蓄電電圧を検出する第2電圧センサ54から、各検出信号を入力する。車両制御ユニット50は、PT制御ユニット60を介して、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサ61、及び車外空間3の空気の温度を検出する外気温センサ62から、各検出信号を入力する。車両制御ユニット50は、さらに、PT制御ユニット60を介して、発電装置13の発電量及び発電電圧に関する情報も入力する。
車両制御ユニット50は、空調装置1に対しては、上述した内外気切り替えダンパ9、ブロワ10、冷却装置11(エバポレータ11a)、温度コントロールダンパ12、及びPTCヒータ42に、それぞれ制御信号を出力する。車両制御ユニット50は、さらに、吹き出し口選択用アクチュエータ43にも、制御信号を出力する。すなわち、上記吹き出し口6a〜6eは、乗員が空調装置コントローラ51を操作することによって、あるいは車両制御ユニット50が行う制御によって、いずれの吹き出し口6a〜6eから空調風を吹き出すかが選択される。そのため、各吹き出し口6a〜6eに通じる空気流路に、吹き出し口選択用のアクチュエータとして、開閉弁(図示せず)が個別に設けられており、車両制御ユニット50は、これらの開閉弁に制御信号を出力することによって、吹き出し口6a〜6eを選択することが可能に構成されている。
車両制御ユニット50は、電気系統90に対しては、上述した発電装置13、DC/DCコンバータ15、及びバイパスリレー28に制御信号を出力する。
(4)制御動作−その1
上述のように、本実施形態では、発電装置13で発電された電力の第1蓄電装置14への蓄電機会をロスするという問題に対処するために、PTCヒータ42をDC/DCコンバータ15に対して発電装置13及び第1蓄電装置14と同じ上流側に配置している。そのため、PTCヒータ42はDC/DCコンバータ15を介さずに発電装置13及び第1蓄電装置14と直結している。そして、これにより次のような新たな問題が起きる。
すなわち、発電装置13は、上述のように、車両の走行状態に応じて所定の範囲で変動する電圧(例えば14〜24V程度)にて電力を発生する可変電圧オルタネータであるため、発電装置13の発電電圧は常に上記範囲内で変動する。PTCヒータ42が他の電装品21〜24や補機31〜33と同じ下流側に配置されているときは、DC/DCコンバータ15がこの変動する電圧を所定の電圧(例えば12V)に降圧するので、PTCヒータ42には常に一定の電圧(降圧された電圧)が供給される。しかし、PTCヒータ42を上流側に配置したことにより、この変動する電圧がそのまま供給されるので、PTCヒータ42の発熱量が変動し、狙いの温度の空調風が得られず、車室内空間2の空調によって乗員が感じる快適さが損なわれるという問題が起きる。
そこで、車両制御ユニット50は、発電装置13で発電された電力の第1蓄電装置14への蓄電機会のロスを抑制するためにPTCヒータ42をDC/DCコンバータ15の上流側に配置した本実施形態において、図4にフローチャートで示す制御を行うことにより、PTCヒータ42の発熱量の変動を抑制する。
いま、図4において、PTCヒータ42がオフであるとする。ステップS1で、車両制御ユニット50は、PTCリクエストがあるか否かを判定する。つまり、例えば、乗員が空調装置コントローラ51を操作し、暖房を要求したので、空調装置コントローラ51から車両制御ユニット50にPTCヒータ42をオフからオンに切り替える要求の信号が入力されたか否かを判定するのである。その結果、NOの場合はリターンし、YESの場合はステップS2に進む。
ステップS2で、車両制御ユニット50は、外気温及び水温が閾値以下か否かを判定する。つまり、外気温センサ62から入力される車外空間3の空気の温度及び水温センサ61から入力されるエンジン冷却水の温度が、それぞれ個別に設定されたPTCヒータ作動判定用の閾値以下か否かを判定するのである。その結果、少なくともいずれか一方の温度が閾値を超える場合は、PTCヒータ42の作動が不要と判断されて、判定がNOとなり、リターンする。これに対し、両方の温度がそれぞれ閾値以下の場合は、PTCヒータ42の作動が必要と判断されて、判定がYESとなり、ステップS3に進む。
ステップS3で、車両制御ユニット50は、PTC目標出力値を演算する。
具体的に、車両制御ユニット50は、外気温に基いてPTCヒータ42の出力電力値(Dta)を決定する。その場合、外気温がTa1(例えば10℃)未満のときは、最大値(例えば1000W)が選択され、Ta2(例えば20℃)を超えるときは、最小値(0W)が選択され、Ta1以上Ta2以下のときは、その温度に応じて最大値と最小値との間の値が選択される。
同様に、車両制御ユニット50は、エンジン冷却水温に基いてPTCヒータ42の出力電力値(Dtw)を決定する。その場合、水温がTw1(例えば65℃)未満のときは、最大値(例えば1000W)が選択され、Tw2(例えば75℃)を超えるときは、最小値(0W)が選択され、Tw1以上Tw2以下のときは、その温度に応じて最大値と最小値との間の値が選択される。
そして、車両制御ユニット50は、外気温に基いて決定された出力電力値(Dta)と、エンジン冷却水温に基いて決定された出力電力値(Dtw)とを比較し、小さいほうの値(同じときはその値)をPTC目標出力値(W)とする。
次いで、ステップS4で、車両制御ユニット50は、総消費電流値が閾値以下か否かを判定する。つまり、それまで行われていなかった消費電力の大きいPTCヒータ42への電力供給が開始するので、発電装置13及び第1蓄電装置14の側からの電力供給が、下流側の他の電装品21〜24や補機31〜33への電力供給を継続しつつ、すべて満足に行えるか否かを判定するのである。その結果、NOの場合はリターンし、YESの場合はステップS5に進む。
ステップS5で、車両制御ユニット50は、ALT発電電圧からPTC作動量を決定する。
具体的に、PTCヒータ42への電力供給が追加されるので、電力を補うために発電装置13による発電が開始される。車両制御ユニット50は、この発電装置13の現在の発電電圧に基いてPTCヒータ42の作動量を制御する。
PTCヒータ42の作動量は、下記式(1)に従い、PTCヒータ42の定格容量に対する目標電力値の比率を示すデューティ値で設定される。
式(1):デューティ値(%)=(目標電力値(W)/PTCヒータ42の定格容量(W))×(第1蓄電装置14の上限電圧(V)/現在のDC/DCコンバータ15の入力電圧(V))×100
車両制御ユニット50は、目標電力値(W)として、ステップS3で決定したPTC目標出力値(W)を代入し、PTCヒータ42の定格容量(W)として、例えば2000Wを代入し、第1蓄電装置14の上限電圧(V)として、例えば24.3Vを代入し、現在のDC/DCコンバータ15の入力電圧(V)として、PT制御ユニット60を介して車両制御ユニット50に入力される現在の発電装置13の発電電圧(V)を代入する。
次いで、ステップS6で、車両制御ユニット50は、PTC出力を指示する。つまり、PTCヒータ42に対して、ステップS5で設定したデューティ値を制御信号として出力する。
例えば、いま、式(1)において、目標電力値(W)が400Wであるとする。PTCヒータ42の定格容量(W)及び第1蓄電装置14の上限電圧(V)は固定値であるから、デューティ値(%)は、現在のDC/DCコンバータ15の入力電圧(V)、すなわち現在の発電装置13の発電電圧(V)に応じて変化する。発電装置13の発電電圧が14〜24Vの範囲内で変動するものとすると、現在の発電電圧が24Vのときは、上記設例の場合、デューティ値は20.3%となり、14Vのときは、34.7%となる。車両制御ユニット50は、ステップS6で、このように現在の発電装置13の発電電圧(V)に応じて変化するデューティ値(%)をPTCヒータ42に対して指示することになる。これにより、常に変動する発電装置13の発電電圧に拘らず、PTCヒータ42は常に目標の熱量を発生し、目標電力値(上記設例の場合400W)を達成する。
これに対し、例えば、現在の発電装置13の発電電圧が14Vのときに、24Vのときと同じ20.3%のデューティ値をPTCヒータ42に対して出力すると、PTCヒータ42は、目標電力値が400Wであるのに、234Wの熱量しか発生せず(つまり発熱量が変動し)、暖房が不足し、車室内空間2の空調によって乗員が感じる快適さが損なわれてしまうのである。本実施形態では、PTCヒータ42の発熱量の変動が抑制されるので、このような問題に対処することができる。
車両制御ユニット50は、ステップS6の後、リターンし、以降は、PTCヒータ42がオン、つまりPTCヒータ42の作動中に、上記ステップS1〜S6を繰り返し行う。その場合、車両制御ユニット50は、ステップS1で、例えば、乗員が空調装置コントローラ51を操作して設定温度が変化したか否かを判定する。
(5)制御動作−その2(PTC停止時制御)
また、本実施形態では、PTCヒータ42をDC/DCコンバータ15に対して発電装置13及び第1蓄電装置14と同じ上流側に配置するか他の電装品21〜24や補機31〜33と同じ下流側に配置するかに拘らず、依然として次のような問題がある。
すなわち、例えばエンジン水温の上昇等により空調装置1側の要請でPTCヒータ42がオンからオフに切り替わった場合、それまで行われていたPTCヒータ42への電力供給が急激に停止することになる。このPTCヒータ42への電力供給は発電装置13及び第1蓄電装置14の側から行われていたものである。しかも、下流側の他の電装品21〜24や補機31〜33への電力供給を行いつつ、消費電力の大きいPTCヒータ42がオンしていたので、電力を補うために発電装置13による発電が行われていた。そのような状況で、PTCヒータ42への電力供給が急激に停止するので、発電装置13により発電された電力をPTCヒータ42に供給する必要が急になくなる。そのため、余剰分の電力が第1蓄電装置14に流入し、第1蓄電装置14に供給される電圧が第1蓄電装置14の最大定格電圧(例えば24V)を超えるおそれがある。そして、このような蓄電量の急増(急変)は第1蓄電装置14の寿命を低下させてしまうのである。
そこで、車両制御ユニット50は、図5にフローチャートで示す制御(PTC停止時制御)を行うことにより、PTCヒータ42がオンからオフに切り替わった場合でも、第1蓄電装置14の蓄電量の急増を抑制する。車両制御ユニット50は、本発明の「制御手段」に相当する。
図5のステップS11〜S14は、PTCヒータ42がオン、つまりPTCヒータ42の作動中に行われる。より詳しくは、PTCヒータ42の作動中、ステップS11の判定が繰り返し行われる。すなわち、ステップS11で、車両制御ユニット50は、PTC停止指示があるか否かを判定する。つまり、例えば、エンジン水温が上昇した等の理由により、空調装置1側の要請で、空調装置コントローラ51から車両制御ユニット50にPTCヒータ42をオンからオフに切り替える要求の信号が入力されたか否かを判定するのである。その結果、NOの場合はリターンし、YESの場合はステップS12に進む。
ステップS12で、車両制御ユニット50は、CAPA電圧が閾値以下か否かを判定する。つまり、第1電圧センサ53から入力される第1蓄電装置14の蓄電電圧が、予め設定されたステップ制御実行判定用の閾値以下か否かを判定するのである。その結果、第1蓄電装置14の蓄電電圧が上記閾値以下の場合は、ステップ制御の実行が不要と判断されて、判定がYESとなり、ステップS13で、PTCヒータ42の出力を目標出力(具体的に、図4のステップS3で決定したPTC目標出力値、より詳しくは、ステップS5で設定したデューティ値)から速やかに減少させる速冷制御を実行する。これに対し、第1蓄電装置14の蓄電電圧が上記閾値を超えて大きい場合は、ステップ制御の実行が必要と判断されて、判定がNOとなり、ステップS14で、PTCヒータ42の出力を上記目標出力から徐々に減少させる(漸減させる)ステップ制御を実行する。
以上により、車両制御ユニット50は、PTCヒータ42をオンからオフに切り替える、すなわち停止させるに際し、ステップS13で、速冷制御により停止させるか、あるいは、ステップS14で、ステップ制御により停止させる。
速冷制御は、図6に示すように、PTCヒータ42の出力を上記目標出力からゼロ(0%)の状態まで比較的速やかに減少させる制御である。図中、縦軸は、PTCヒータ42の出力電力値を示し、目標値とあるのは、ステップS5で設定したデューティ値(例えば20.3%)であり、20%、40%、…とあるのは、そのデューティ値の20%の値(4.1%)、40%の値(8.1%)、…という意味である。図中、横軸は、時間を示し、符号「a」は、デューティ値が20%づつ減少する時間である。つまり、この速冷制御では、「a」の時間が経過する毎にデューティ値が20%づつ減少する。したがって、図6の場合、「4×a」の時間で、PTCヒータ42の出力が上記デューティ値からゼロ(0%)の状態まで減少する。
ステップ制御は、図7に示すように、PTCヒータ42の出力を上記目標出力からゼロ(0%)の状態まで比較的緩やかに減少させる制御である。このステップ制御では、速冷制御と異なり、「a」の時間が経過する毎にデューティ値が5%づつ減少する。したがって、図7の場合、「19×a」の時間で、PTCヒータ42の出力が上記デューティ値からゼロ(0%)の状態まで減少する。
(6)作用等
以上説明したように、本実施形態では、車室内空間2の空調を行う空調装置1を制御する車両用空調制御装置において、次のような特徴的構成が採用されている。
すなわち、本実施形態に係る車両用空調制御装置は、発電装置13と、第1蓄電装置14と、PTCヒータ42と、車両制御ユニット50とを備えている。
発電装置13は、車両の走行状態に応じて発電電圧が所定の範囲で変動する。つまり、発電装置13は、車両の走行状態に応じて所定の範囲で変動する電圧(例えば14〜24V程度)にて電力を発電する。
第1蓄電装置14は、発電装置13により発電された電力を上記発電電圧に対応した電圧(例えば14〜24V程度)にて蓄電する。つまり、第1蓄電装置14は、発電装置13の発電電圧が所定の範囲で変動しても、その変動する発電電圧を蓄電できる。
PTCヒータ42は、空調装置1の作動状態に応じてオンとオフとが切り替わり、オフからオンに切り替わったときは、発電装置13及び第1蓄電装置14の側から電力が供給され、ステップS3で決定されるPTC目標出力値、より詳しくは、ステップS5で設定されるデューティ値にて作動し、車室内空間2に吹き出される空調風を加熱する。
車両制御ユニット50は、PTCヒータ42がオンからオフに切り替わったとき、PTCヒータ42の出力を上記PTC目標出力値、より詳しくは、上記デューティ値から漸減させる(ステップS14のステップ制御)。
これにより、車両制御ユニット50は、空調装置1の作動状態に応じてPTCヒータ42がオンからオフに切り替わったとき、PTCヒータ42の出力を上記PTC目標出力値、より詳しくは、上記デューティ値からゼロ(0%)の状態まで漸減させるから、それまで行われていたPTCヒータ42への電力供給が緩やかに停止することになる。そのため、たとえ発電装置13により発電された電力をPTCヒータ42に供給する必要がなくなり、余剰分の電力が第1蓄電装置14に流入する状況となっても、第1蓄電装置14の蓄電量は徐々に増加し、急激に増加することがない。以上により、本実施形態によれば、PTCヒータ42がオンからオフに切り替わった場合でも、第1蓄電装置14の蓄電量の急増(急変)が抑制され、その結果、第1蓄電装置14の寿命の低下が抑制される車両用空調制御装置が提供される。
本実施形態では、車両用空調制御装置は、DC/DCコンバータ15と、第1電気負荷25及び第2電気負荷34とをさらに備えている。
DC/DCコンバータ15は、発電装置13及び第1蓄電装置14の側から供給される電力の電圧(例えば24V)を第1、第2電気負荷25,34の定格電圧(例えば12V)に降圧する。
第1電気負荷25及び第2電気負荷34は、発電装置13の最大発電電圧(24V)より低い定格電圧(12V)を有し、DC/DCコンバータ15により降圧された電力が供給される。
そして、PTCヒータ42は、発電装置13の最大発電電圧(24V)と同じ値の定格電圧を有し、発電装置13及び第1蓄電装置14の側から電力がDC/DCコンバータ15を介さずに供給される。
これにより、発電装置13の最大発電電圧より低い定格電圧を有する第1電気負荷25及び第2電気負荷34には、発電装置13及び第1蓄電装置14の側から供給される電力がDC/DCコンバータ15により第1、第2電気負荷25,34の定格電圧に降圧されて供給されるのに対し、発電装置13の最大発電電圧と同じ値の定格電圧を有するPTCヒータ42には、発電装置13及び第1蓄電装置14の側から電力がDC/DCコンバータ15を介さずにそのまま供給される。つまり、消費電力の大きいPTCヒータ42をDC/DCコンバータ15に対して発電装置13及び第1蓄電装置14と同じ側に配置し、その定格電圧を発電装置13の最大発電電圧と同じ値に高くしたから、上述のように、発電装置13で発電された電力の第1蓄電装置14への蓄電機会のロスが抑制される。その上で、併せて、PTCヒータ42がオンからオフに切り替わったときの第1蓄電装置14の蓄電量の急増(急変)が抑制される。
なお、電気式ヒータとして、PTCヒータ42以外のもの(例えば電熱式ヒータや遠赤外線ヒータ等)を採用しても構わない。そのような電気式ヒータは、PTCヒータ42ほどには消費電力が大きくないが、空調風を加熱する必要量が多いとき等には、バイパス回路27がオンになるシーンが頻繁にかつ長く続く場合がある。したがって、PTCヒータ42以外の電気式ヒータであっても、これをDC/DCコンバータ15の上流側に配置し、かつその定格電圧を発電装置13の最大発電電圧(24V)以上の電圧に高くすることによって、発電装置13で発電された電力の第1蓄電装置14への蓄電機会のロスが抑制されるという作用効果は十分得られる。
また、PTC停止時制御の別の例として、図8に示すように、第1蓄電装置14の蓄電量が少ないほど、漸減の減少速度、すなわち、PTCヒータ42の出力を上記目標出力からゼロ(0%)の状態まで比較的緩やかに減少させる際の減少速度を大きくするようにしてもよい。
これにより、第1蓄電装置14の蓄電量が比較的少なく、蓄電量が急激に増大しても第1蓄電装置14の寿命に与える影響が比較的小さいときは、PTCヒータ42の出力が比較的速やかに上記目標出力から減少する。そのため、PTCヒータ42がオンからオフに切り替わったときの空調風の温度低下の応答遅れが低減される。
また、本発明に係る制御(PTC停止時制御)は、電気式ヒータがオンからオフに切り替わったときに限らず、目標デューティ値と実デューティ値との差が所定値より大きいときに行ってもよい。このようにすれば、空調風の温度低下の応答遅れが常に低減されるとともに、不要な電気式ヒータ出力を抑制することにより不要な電力消費を低減することができる。