特許文献1,2に記載の構成をはじめとする多くの磁気浮上式搬送装置の荷台は、内部に電磁石など、磁場発生装置を有し、電流を供給して磁界を発生させることで、路面との間に磁気反発力を発生させて浮上している。
このため、荷台は、電力供給用のバッテリを搭載したり、外部から電力の供給を受けたりする必要がある。しかしながら、電力供給のためにバッテリを搭載する場合、荷台の積載重量が圧迫され、搬送可能な積載物の重量が低減してしまう。このような状況において、より多くの積載物を搬送するためには、荷台に更に大容量且つ大重量のバッテリを搭載することが必要となり、効率的でなかった。
また、外部から電力の供給を受ける場合、例えば給電用のケーブルや、磁気軌道縁部に設けられる給電用のガイドレールなど、接触式の接続部材が必要となる。このようなケーブルやガイドレールは、荷台の移動範囲を制限するため利便性が悪く、また、ガイドレールなど磁気軌道と一体化して設けられる構成を用いる場合、磁気軌道のレイアウト変更に速やかに対応しきれないという技術的な問題があった。
本発明は、上述した技術的な問題点に鑑みてなされたものであり、荷台の移動を妨げることなく、好適な給電を実現可能な磁気浮上式搬送装置を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明の磁気浮上式搬送装置は、電源に接続される2つの送電装置と、積載物を積載可能な荷台と、磁気軌道とを備え、前記荷台は、前記送電装置から電力の伝送を受ける受電装置と、該受電装置において受電した電力の供給を受け磁場を発生させるコイルとを備え、前記コイルが生成した磁場と前記磁気軌道が生成した磁場との間の反発力または吸引力を利用して浮上し、移動及び固定が可能であり、前記2つの送電装置は、電界共振結合によって前記受電装置に対して外側面から非接触で電力を伝送するとともに、前記2つの送電装置は、前記磁気軌道上の前記荷台の移動経路に沿って、一の送電装置が電力を伝送する範囲と他の送電装置が電力を伝送する範囲とが重複するように、配置され、前記2つの送電装置のうち、前記電源から少なくとも一方の送電装置に供給される電流の位相を調整する移相器を更に備え、前記移相器は、前記2つの送電装置から、前記受電装置に対して作用する電界の位相が等しくなるように、前記電流の位相を調整する。
本発明の磁気浮上式搬送装置によれば、荷台が磁気軌道上に浮上し、且つ移動または固定した状態で、送電装置から受電装置に電力を供給できる。このため、荷台はバッテリなどの電源の代わりに、送電装置から非接触で電力の伝送を受ける受電装置を備えることで、コイルへの電流の供給ができる。
また、荷台に搭載される受電装置は、荷台の浮上、移動及び固定のための電力を供給可能な大容量のバッテリなどと比較して、小容量且つ軽量に構成されてよい。このような受電装置によれば、従来のバッテリ搭載型の荷台などと比較して、軽量の荷台を構成することができる。
また、有線やガイドレールを用いて電力を供給する従来の方式と比較して、磁気軌道のレイアウト変更などに速やかに対応することができる。特に、送電装置を複数配置して、磁気軌道上に電力伝送可能な範囲を広く形成することで、荷台の可動範囲をより広く設定することができる。
この態様によれば、他の非接触電力伝送方式と比べて高効率で電力を伝送することができる。
電界共振結合による電力の伝送を行うことで、例えば磁界共振結合による非接触の電力伝送と比較して、より高い伝送効率を実現することができる。また、一つの送電装置により電力を伝送できる範囲を、磁界共振結合方式など、他の非接触電力伝送方式と比べて広く設定することができ、荷台の移動への制限を軽減することができる。また、磁界共振結合方式など、磁界を利用して電力を伝送する構成と比較して、荷台の浮上や移動に用いる磁場への影響を軽減することもできる。
前記送電装置は、所定の距離を隔てて配置された第1及び第2の送電用電極と、前記第1及び第2の送電用電極を、交流電源の2つの出力端子のそれぞれと電気的に接続する第1及び第2接続線と、前記第1及び第2の送電用電極と前記交流電源の2つの出力端子の少なくとも一方の間に挿入される第1インダクタとを備えていてもよい。このとき、前記受電装置は、所定の距離を隔てて配置された第1及び第2の受電用電極と、前記第1及び第2の受電用電極を、前記コイルの2つの入力端子のそれぞれと電気的に接続する第3及び第4接続線と、前記第1及び第2の受電用電極と前記コイルの2つの入力端子の少なくとも一方の間に挿入される第2インダクタとを備えていてもよい。このような場合において、前記第1及び第2の送電用電極並びに前記第1インダクタによって構成されるカプラの共振周波数と、前記第1及び第2の受電用電極と前記第2インダクタによって構成されるカプラの共振周波数が略等しくなるように設定されていてよい。
このように構成することで、送電装置及び受電装置を比較的小さいサイズで構成することができる。また、電界共振結合による高効率の電力伝送を実現することができる。さらに、電力伝送を電界エネルギーで行うため、荷台の磁気浮上に伴う漏れ磁束の干渉を抑えることができる。
2つの送電装置の電力伝送可能な範囲を連続的に形成するため、荷台が移動しても、電力の伝送を受け続けることができ、コイルへの安定した電力供給を維持できる。これは、荷台の移動可能範囲の拡大に繋がる。なお、電界共振結合によって電力を伝送する送電装置の伝送可能範囲は、他の方式のものと比較して広いため、より広い覆域を形成することができる。
電源から供給された電力を、2つの送電装置を用いて、効率良く受電装置に伝送することができる。なお、3つ以上の送電装置を電源に接続し、分配した電力をそれぞれの送電装置から受電装置に伝送するようにしてもよい。
移相器により、2つの送電装置のそれぞれと、受電装置との間の距離の違いなどによって生じる、受電装置における2つの電界の位相差を補償することができる。このため、位相差による伝送電力の損失を軽減することができ、伝送効率を向上することができる。なお、3つ以上の送電装置を電源に接続した場合、少なくとも1つの送電装置に供給される電流位相を、他の1つ送電装置が発生する電界との位相差を補償するように調整することで、上述の効果が得られる。もちろん、複数の送電装置に対して、電流位相を調整する移相器を設けてもよい。
更に、移相器を備える態様では、前記荷台の位置を検出する位置検出手段を更に備え、前記移相器は、前記2つの送電装置と、前記荷台の受電装置との位置関係に応じて、前記電流の位相を調整してもよい。
このように構成することで、例えば、荷台の位置に応じて、受電装置において生じている2つの電界の位相差を推定し、移相器による位相補償を行うことができる。このため、荷台の移動に合わせて、好適に位相差による伝送電力の損失を軽減することができ、伝送効率を向上することができる。
本発明の磁気浮上式搬送装置の他の態様では、前記荷台は、前記磁気軌道と対向する面以外の面が磁気シールドによって被覆されている。
この態様によれば、磁気シールドによって、荷台の浮上、移動または固定などに寄与しない不要な磁場が漏れ出すことを抑制することができる。このため、当該磁気浮上式搬送装置の周囲の作業者や電子機器への磁場の影響を軽減することができる。なお、不要な磁場の漏れを抑制することができる限りにおいては、荷台の面のうち磁気軌道と対向する面以外の面のうち一部が磁気シールドによって被覆されていてもよく、また、磁気軌道と対向する面のうち一部が磁気シールドによって被覆されていてもよい。
本発明の磁気浮上式搬送装置の他の態様では、前記荷台は、前記受電装置と前記コイルとの間に磁気シールドを備える。
この態様によれば、受電装置において生じた磁場と、コイルから発生する磁場との間の干渉を軽減することができる。このため、荷台の浮上、移動及び固定などに用いる磁場の損失を軽減し、効率の向上に繋がる。
本発明の磁気浮上式搬送装置の他の態様では、前記荷台は、収納可能な支持用脚部を更に備え、前記荷台の固定時には、展開した前記支持用脚部により当該荷台を前記磁気軌道に対して固定して支持する。
この態様によれば、荷台の停止時(言い換えれば、着地または固定時)に、荷台と磁気軌道との間の磁場を調整し、荷台を着地させるための電流方向の切換などの処理を軽減、または不要とすることができる。具体的には、荷台の停止時に、支持用脚部を展開して、荷台を固定して支持することで、荷台を着地させることができる。なお、支持用脚部は、荷台の浮上時の高さであって、つまり、磁気軌道の上面から浮上時の荷台の下面までの距離以下の任意の長さを有していれば、上述の効果を享受することができる。
本発明の磁気浮上式搬送装置の他の態様では、前記荷台は、電力の供給が可能な補助給電手段を更に備え、前記荷台の浮上であり、前記受電装置が電力の伝送を受けられない状態では、前記補助給電手段から前記コイルに電力を供給する。
この態様によれば、受電装置が送電装置の電力伝送範囲から外れるなど、何らかの要因によって受電できず、コイルに電力を供給できなくなった場合に、補助給電手段からコイルに給電を行うことで、荷台の墜落を防止することができる。なお、補助給電手段は小容量且つ小サイズの蓄電池やキャパシタなどであって、単体で荷台を浮上するための電力を供給可能な大容量のバッテリなどと比較して、小容量且つ軽量に構成されていることが好ましい。このように構成した補助給電装置であれば、荷台に搭載しても、従来のバッテリ搭載型の荷台と比較して軽量とすることができる。
荷台には、磁場発生用のコイルに電流を供給するための大容量且つ大重量のバッテリなどを搭載する必要がなくなり、荷台の軽量化や、積載重量の増大に繋がる。
本発明の磁気浮上式搬送装置によれば、送電装置と受電装置とが相互に離隔した状態で、電源ケーブルなどの設備を用いることなく、非接触での電力伝送を行うことができる。このため、荷台にコイルへの大容量バッテリなどの給電設備を設ける必要がなく、荷台の浮上のために必要な発生磁場の強度の低減や、積載可能重量の増大に繋がる。
特に、電界共振結合による非接触電力伝送方式を採用する場合、荷台に搭載する受電装置を小規模且つ低重量とすることができ、上述した効果がより顕著なものとなる。このとき、送電装置から送電可能なエリアを広く設定することができ、荷台の移動可能範囲の向上にも繋がる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(1)基本的な構成例
図1を参照して、本発明の磁気浮上式搬送装置の基本的な構成例について説明する。図1は、本発明の実施の形態である磁気浮上式搬送装置1の構成を示す概略断面図である。図示されるように、磁気浮上式搬送装置は、荷台140と、給電装置150と、磁気軌道160とを備える。
荷台140は、受電装置20と、磁場生成用のコイル141,142とが内蔵された磁気浮上式の搬送装置であり、不図示の制御装置の制御により、コイル141,142に通電することで、所定の極性の磁場を生成する。
給電装置150は、内部に、交流電源30に接続された送電装置10が内蔵された構成である。給電装置150は、送電装置10、特に送電装置10が備える送電用電極の位置を固定するための固定部材である。なお、給電部材150は、送電装置10において生じる、電界共振結合のための電界の損失を極力低減するように、比較的誘電率の低い誘電体により構成されることが好ましい。
磁気軌道160は、内部に磁気を制御しながら磁場を生成する磁気制御ユニット161が内蔵された構成である。磁気軌道160は、不図示の電源より磁気制御ユニット161に電流を供給することで、所定の極性の磁場を発生し、更に制御することができる。
このような構成においては、荷台140において、受電装置20から電力の供給を受けた磁場生成用のコイル141,142が発生する磁場と、磁気軌道160の磁気制御ユニット161が発生する磁場と、により生じる反発力で荷台140が浮上(つまり、図中上方に移動)させることができる。また、荷台140は、制御装置によりコイル141,142に供給する電流の向きや強度などを制御することで、発生する磁場の極性を変更し、浮上した状態で移動(例えば、図中左右方向など)し、積載物200を搬送することができる。
送電装置10は、受電装置20に対して、例えば、電界共振結合によって電圧を励起させることで電力を伝送する非接触電力伝送装置である。
以下に、送電装置10と受電装置20とにより形成される非接触電力伝送システムの基本的な構成と動作原理とについて説明する。
(2)非接触電力伝送システム
図2を参照して、本発明の磁気浮上式搬送装置1に用いられる非接触電力伝送システムの基本的な構成と動作原理について説明する。図2は、送電装置10及び受電装置20により構成される非接触電力伝送システム2の構成例を示す概略図である。
送電装置10は、送電用電極11,12と、インダクタ13,14と、接続線15,16とを有し、交流電源30に接続される。送電用電極11,12のそれぞれは、銅など、導電性の部材によって構成される、略同一のサイズを有する矩形の平板または薄膜状の電極である。図示されるように、送電用電極11,12は、同一平面(例えば、給電装置150の内部または表面)上に所定の距離d1を隔てて平行に整列して配置されている。なお、距離d1を含む送電用電極11及び送電用電極12の合計幅Dは、λ/2πで示される近傍界よりも狭くなるように設定されている。インダクタ13,14は、例えば、被覆銅線など、導電性の線材を巻回した構成である。インダクタ13の一端は、送電用電極11の端部に電気的に接続され、インダクタ14の一端は、送電用電極12の端部に電気的に接続されている。なお、送電装置10において、送電用電極11,12及びインダクタ13,14は、電界共振結合による電力伝送における送電用カプラを構成する。接続線15,16は、同軸ケーブルまたは平衡ケーブルなど、導電性の線材(例えば、銅線)を含む。接続線15は、インダクタ13の他端と交流電源30の一の出力端子とを接続し、接続線16は、インダクタ14の他端と交流電源30の他の出力端子とを接続する。
交流電源30は、所定の周波数の交流電力を発生し、接続線15,16を介してインダクタ13,14に供給する。なお、交流電源30は、必ずしも側壁3上に形成されている必要は無く、側壁3を介して有線で商用電源など、既知の交流電源に接続される態様であってもよい。
受電装置20は、受電用電極21,22と、インダクタ23,24と、接続線25,26とを有する。受電装置20において、各受電用電極21,22は、それぞれインダクタ23,24を介して接続線25,26によって、コイル141,142に接続されている。受電用電極21,22のそれぞれは、銅など、導電性の部材によって構成される、送電用電極11,12と略同一のサイズと形状を有する矩形の平板または薄膜状の電極である。また、受電用電極21,22は、同一平面上に距離d1を隔てて平行に整列して配置されており、距離d1を含む受電用電極21,22の合計幅Dもまた、λ/2πで示される近傍界よりも狭くなるように設定されている。インダクタ23,24は、インダクタ13,14と同様に、被覆銅線など、導電性の線材を巻回した構成である。インダクタ23の一端は、受電用電極21の端部に電気的に接続され、インダクタ24の一端は、受電用電極22の端部に電気的に接続されている。なお、受電装置20において、受電用電極21,22及びインダクタ23,24は、電界共振結合による電力伝送における受電用カプラを構成する。接続線25,26は、同軸ケーブルまたは平衡ケーブルなど、導電性の線材(例えば、銅線)を含む。例えば、接続線25は、インダクタ23の他端とコイル141の一の入力端子とを接続し、接続線26は、インダクタ24の他端とコイル142の一の入力端子とを接続する。
なお、磁気浮上式搬送装置1において、送電装置10の導電用電極11,12と、受電装置20の受電用電極21,22とは、距離d2を隔てて平行に対向するように配置されている。このとき、送電装置10の送電用電極11,12と、受電装置20の受電用電極21,22とが、例えば、対向距離d2がλ/2πで示される近傍界よりも短い場合など、電界共振結合が可能な位置関係にある場合に、送電装置10から受電装置20への電力の伝送が行われる。
図3は、図1に示される浮上式搬送装置1に適用される非接触電力伝送システム2において、送電用電極11,12と、受電用電極21,22とが電界共振結合され、送電装置10から受電装置20への電力の伝送が行われている状態の等価回路100を示す回路図である。
図3において、インピーダンス102は、接続線15,16及び接続線25,26の特性インピーダンスを示し、Z0の値を有する。インダクタ103はインダクタ13,14に対応し、Lの素子値を有する。キャパシタ104は、送電用電極11,12の間に生じる素子値Cのキャパシタから、送電用電極11,12と受電用電極21,22の間に生じる素子値Cmのキャパシタを減じた素子値(C−Cm)を有する。キャパシタ105は、送電用電極11,12と受電用電極21,22の間に生じるキャパシタを示し、Cmの素子値を有する。キャパシタ106は、受電用電極21,22の間に生じる素子値Cのキャパシタから、送電用電極11,12と受電用電極21,22の間に生じる素子値Cmのキャパシタを減じた素子値(C−Cm)を有する。インダクタ107はインダクタ23,24に対応し、Lの素子値を有する。インピーダンス108は、等価回路100において、磁場発生用のコイル141,142を負荷として扱う場合の特性インピーダンスを示している。
図4は、送電装置10と受電装置20との間のSパラメータの周波数特性を示すグラフである。具体的には、図4の横軸は周波数を示し、縦軸は送電装置10から受電装置20への挿入損失(S21)を示している。図4に示されるように、送電装置10から受電装置20への挿入損失は、周波数fCで反共振点を有し、周波数fL及びfHで共振点を有する。ここで、周波数fCは、図3に示すインダクタ3、7のインダクタンス値Lと、送電用電極11,12または受電用電極21,22によって形成されるキャパシタのキャパシタンス値Cによって定まる。また、周波数fL及びfHは、図3に示すインダクタ3、7のインダクタンス値Lと、送電用電極11,12及び受電用電極21,22によって形成されるキャパシタのキャパシタンス値Cmと、ならびに、送電用電極11,12の間及び受電用電極21,22の間にそれぞれ生じるキャパシタのキャパシタンス値Cによって定まる。
なお、交流電源30が発生する交流電力の周波数は、図4に示されるfLまたはfHと等しくなるように設定されることが好ましい。このように、交流電源30の周波数を設定することにより、電極同士が電界共振結合されている場合の送電装置10から受電装置20への挿入損失が略0dBとなり、送電装置10から受電装置20に対して損失なく電力を送電することができる。
また、送電用電極11,12の間に形成されるキャパシタ及びインダクタ13,14による共振周波数(つまり、送電用カプラにおける共振周波数)と、受電用電極21,22の間に形成されるキャパシタ及びインダクタ23,24による共振周波数(つまり、受電用カプラにおける共振周波数)とは略等しくなるように設定されている。このように、送電装置10の送電用電極11,12と受電装置20の受電用電極21,22は、電界共振結合されていることから、送電装置10の送電用電極11,12から受電装置20の受電用電極21,22に対して電界によって交流電力が効率よく伝送される。
送電装置10の電極11,12と、受電装置20の電極21,22とは、電界共振結合が可能な限りにおいては、任意の位置関係で配置されていてもよい。例えば、送電装置10の電極11,12と、受電装置20の電極21,22とは、互いに平行となるよう対向した状態で、所定の角度だけ相対的に回転するように配置されていてもよい。
なお、その場合において、電極11,12と電極21,22とが相互に90度または270度回転配置された場合には、送電装置10から受電装置20へ電力が伝送されなくなる。すなわち、電極21と電極11の間の容量と、電極21と電極12の間の容量が等しいか、または、電極22と電極11の間の容量と、電極22と電極12の間の容量が等しい場合には、受電装置20に励起された電圧が相殺される。このため、各電極がこのような位置関係となることを避けて、送電装置10及び受電装置20の配置が決定されることが好ましい。
(3)磁気浮上式搬送装置の実施例
図5は、図1に示した磁気浮上式搬送装置1を図中上方から見た場合の図である。図5(a)に示されるように、送電装置10の送電用電極11,12と、受電装置20の受電用電極21,22とが所定の距離内で対向している場合に、電力が伝送される。なお、他の様態として、図6に示されるように、送電装置10の送電用電極11,12と、受電装置20の受電用電極21,22とが所定の距離内で直交している場合においても、電力の伝送が可能である。
ここに、電力の伝送条件となる送電用電極11,12と、受電用電極21,22との間の所定の距離とは、例えば、電界共振結合や磁界共振結合による非接触での電力伝送時に、電極間またはコイル間で電界や磁界を共振することができる距離である。
電界共振結合や磁界共振結合での非接触電力伝送における電界または磁界の共振範囲、言い換えれば電力伝送範囲は、電界発生用の電極や磁場発生用コイル、電界または磁界の周波数に応じて決定される。例えば、電界共振結合による電力伝送の場合は、送受電用の電極間の距離が、発生する電界の近傍界であるλ/2π以内となる範囲を、電力伝送範囲とする。なお、一般的に、電界共振結合による電力伝送と、磁界共振結合による電力伝送とで、電界及び磁界の周波数や、電極及びコイルのサイズなどの条件を略同一にした場合、電界共振結合の方がより広い電力伝送範囲を形成できるとの傾向がある。
図5(b)は、図5(a)に示した態様において、略同一条件下での電界共振結合による電力伝送可能範囲と、磁界共振結合による電力伝送可能範囲とを概念的に示したものである。図5(b)において、実線により示される領域が、電界共振結合により送電装置10から電力の伝送が可能な範囲を概略的に示したものである。また、点線で囲まれた部分が、同位置に配置された磁界共振結合による送電装置により送電可能な範囲を示したものである。
図示されるように、電界共振結合による電力伝送範囲の幅(つまり、電力の伝送方向に直交する方向であって、図中Y方向の幅)W1は、磁界共振結合による電力伝送範囲の幅W2と比較して大きい。このとき、荷台140の移動方向をY方向とするように送電装置を配置する場合、電界共振結合による送電装置10は、その移動時において、受電装置20を介してより広い範囲で電力の伝送を受けることができる。
荷台140は、典型的には、受電装置20の他にはコイル141,142への電力供給手段を搭載しない。このため、何らかの要因によって荷台140の受電装置20が備える電極21,22が、送電装置10の電力伝送範囲から外れた場合、コイル141,142への電力伝送が停止する。このため、本発明の実施形態である磁気浮上式搬送装置1においては、荷台140は、送電装置10により規定される電力伝送範囲内で移動するよう構成されることが好ましい。このとき、送電装置10の電力伝送範囲は、荷台140の可動範囲と言い換えることもできる。つまり、広い電力伝送範囲を形成可能な電界共振結合方式の送電装置10を用いることで、荷台140の可動範囲をより広く設定することができる。
また、このような送電装置10を複数並べることで、より広い電力伝送範囲を形成することもできる。図7は、給電装置150が送電装置10を複数配置して、広い電力伝送範囲を形成した状態を示す図である。図示されるように、図中Y方向に、互いの電力伝送範囲が重なり合うよう3つ送電装置10を並べることで、Y方向に広い荷台140の可動範囲を形成することができる。
図示されるように、荷台140の移動方向に、電力伝送範囲が互いに重なり合うよう送電装置10を複数配置することで、荷台140の移動に合わせて常時電力の供給が可能な非接触電力伝送システムを形成することができる。なお、電界共振結合方式の送電装置10の電力伝送範囲は、幅W1が比較的大きいため、このように送電装置10を複数配置する場合の設置間隔を広くすることができる。これは、磁界共振結合など他の非接触電力伝送の方式と比較して、所定の広さの荷台140の可動範囲を形成するために必要な送電装置10の数の削減にも繋がる。
なお、複数設置した送電装置10のそれぞれの電界周波数は、それぞれ略等しくなるよう設定されている。
(4)変形例
図8を参照して、磁気浮上式搬送装置1において用いられる送電装置10の変形構成例について説明する。図8は、磁気浮上式搬送装置1の変形例である磁気浮上式搬送装置1aの構成を示す概略図であって、荷台140と、給電装置150aとを示すものである。なお、不図示であるが、磁気浮上式搬送装置1aは、磁気浮上式搬送装置1と同様に磁気軌道160を備える。なお、図8において、図1と同様の構成については、同一の番号を付して説明を省略している。
図示されるように、給電装置150aは、交流電源30と、該交流電源30に接続される2つの送電装置10a,10bを備える。荷台140は、磁気浮上式搬送装置1において説明した荷台140と同様の構成である。
送電装置10a,10bのそれぞれは、送電装置10と同様の構成である。すなわち、送電装置10aは、送電用電極11a,12aと、インダクタ13a,14aと、接続線15a,16aと、を有し、交流電源30に接続される。送電装置10bは、送電用電極11b,12bと、インダクタ13b,14bと、接続線15b,16bと、を有し、交流電源30に接続される。
送電用電極11a,12a,11b,12bのそれぞれは、略同一のサイズと形状を有する平板または薄膜状の電極である。つまり、送電用電極11a,12a,11b,12b及び受電用電極21,22のそれぞれは、略同一のサイズと形状を有する電極である。
このような構成の給電装置150aは、一つの交流電源30から供給される電力を、2つの送電装置10a,10bに分配して、受電装置20へと伝送することができる。
ここで、図9に示されるように、送電用電極11a,12a,11b,12b及び受電用電極21,22のサイズと形状を規定する。図9は、送電用電極11a,12aを例に挙げて、そのサイズと形状について示した図である。
図示されるように、送電用電極11a,12aは、距離d1離隔して平行に並んだ2つの電極であって、電極長、及び離隔した距離d1を含む合計幅が略等しい値Dとなるよう設定されている。このような構成は、送電用電極11b,12b及び受電用電極21,22においても同様である。また、図8において、送電装置10aの送電用電極11a,12aと、送電装置10bの送電用電極11b,12bとは、給電装置150a内または表面の同一平面上において、距離D離隔して配置されている。
また、図8に示される磁気浮上式搬送装置1aの更なる変形例として、図10に示される磁気浮上式搬送装置1bを採用してもよい。図10は、磁気浮上式搬送装置1bの構成を示す概略図であって、荷台140と、給電装置150bとを示すものである。
図示されるように、給電装置150bは、交流電源30と、該交流電源30に接続される2つの送電装置10a,10bを備え、更に送電装置10bと交流電源30との間に移相器151を有している。
移相器151は、交流電源30から送電装置10bに供給される電流の位相を調整可能な構成である。例えば、移相器151は、送電装置10aが発生する電界と、送電装置10bが発生する電界とが、受電装置20において同位相となるよう、送電装置10bに供給される電流の位相を調整することができる。
このような構成においては、送電用電極10aから受電装置20までの距離と、送電装置10bから受電装置20までの距離が異なる場合など、各送電装置と受電装置の電界に位相差が生じている場合に、同位相となるように調整することができる。このように受電装置における電界位相を調整することで、位相差による伝送損失を低減し、電力の伝送効率を向上することができる。
図8または図10に示されるように2つの送電装置10a,10bを用いて受電装置20へ電力を伝送する場合の受電装置20の位置と、伝送効率との関係について説明する。まず、送電装置10a,10b及び受電装置20のそれぞれの電極位置について、図11に示されるようにモデル化する。図示されるように、送電装置10a,10bの送電用電極11a,12a及び11b,12bとは、各電極の合計幅及び電極長Dと同じ距離D離隔している。また、送電装置10a,10bの送電用電極11a,12a及び11b,12bと、受電装置20の受電用電極21,22とは、距離d2を隔てて対向するように配置される。
このとき、送受電装置10a,10b,20における電界の共振周波数を27.12MHzに設定する。また、送電用電極11a,12a,11b,12b及び受電用電極21,22それぞれの電極の合計幅及び電極長Dを、発生される電界の近傍界より狭い250mmに設定する。また、対向する送受電装置10a,10b,20間の対向距離d2が、電力伝送可能な距離、例えば電界の近傍界と比較してより狭い160mmとなるよう設定する。
上述した条件下での送電装置10a,10b及び受電装置20のそれぞれの電極の位置関係と、伝送効率との関係について、図12のグラフに示す。図12のグラフは、横軸は図11中のX方向を示し、縦軸は送電装置10a,10bから受電装置20への電力の伝送効率を0から1までの範囲で示す。なお、図11に示される状態、即ち、X軸上において、電極長250mmの受電装置20が、互いに250mm離隔した送電装置10a,10bの真ん中に位置し、送電装置10a,10bと受電装置20とが重複していない状態である状態をX=0とする。
また、グラフ中で丸点付きの点線は、移相器151を有しない、図8に示す磁気浮上式搬送装置1aでの伝送効率(Rx受信パワー(Tx位相差無し))を示す。また、角点付きの実線は、移相器151を有する、図10に示す磁気浮上式搬送装置1bでの伝送効率であって、移相器151によって受電装置20における電界の位相が等しくなり、伝送効率を最適とした場合の伝送効率(Rx受信パワー(Tx位相差有り、最大値))を示す。
図示されるように、位相を調整した場合でも調整していない場合でも、X=0の位置で伝送効率が0.95程度と最高値になり、X方向への移動量が大きくなるにつれて伝送効率が低下する。また、X=0の位置から送受電用電極の電極長の半分D/2=125mm)移動した場合、つまり、Xが125mm以上または−125mm以下である場合には、送電装置間の電界の位相差が、伝送効率低下の大きな要因となる。このため、移相器151を備えて、位相を合わせるよう調整する場合、このように比較的遠く離隔した位置においても、位相差を調整していない場合と比較して高い伝送効率を維持することができる。
なお、図10に示される磁気浮上式搬送装置1bでは、好適には、移相器151は、荷台140、つまり受電装置20の位置に応じて、送電装置10bに供給される電流の位相を調整する。このため、給電装置150bは、何らかの手段で荷台140の位置を検出可能な構成を更に備えていてもよい。例えば、給電装置150bは、非接触で荷台140の位置を検出可能な光学的、電気的、磁気的又はその他何らかのセンサ類や、荷台140との間で通信を行う装置などを用いて荷台140の位置を検出し、検出した位置に基づき、移相器151による電流の位相調整量を適宜制御する装置を更に備えていてもよい。
また、図10に示した例では、給電装置150bは、送電装置10bに供給される電流の位相のみを調整する移相器151を有しているが、送電装置10aに供給される電流の位相を調整する移相器を別途備えていてもよい。
(5)その他の変形例
以下に、磁気浮上式搬送装置1のその他の変形例について説明する。
図13は、磁気浮上式搬送装置1の他の変形例である磁気浮上式搬送装置1cの構成を示す概略図であって、荷台140cと、給電装置150と、磁気軌道160とを示すものである。
図示されるように、荷台140cは、受電装置20と、磁場生成用のコイル141,142とが内蔵された磁気浮上式の搬送装置であり、更に、積載物200を積載する上面と磁気軌道160と対向しない側面とが磁気シールド143により被覆されている。
このような構成とすることで、コイル141,142により発生される磁場のうち、浮上や移動や固定などに寄与しない不要な成分が荷台140cから漏れ出すのを抑制することができる。これは、磁気浮上式搬送装置1cの近辺で作業する作業者の人体や、荷台140上に積載されるものなど他の電子機器へ与える磁気影響の軽減という点で利点がある。なお、荷台140cは、不要な磁場成分の漏れ出しを抑制可能であれば、上面と側面の一部のみが磁気シールドによって被覆されている態様でもよい。また、荷台140cの浮上や移動や固定のための磁場の発生を妨げることなく、且つ不要な磁場成分の漏れ出しを抑制できる限りにおいては、磁気軌道160と対向する下面の一部が磁気シールドによって被覆されていてもよい。
なお、更なる変形例として、荷台140cに内蔵されるコイル141,142を部分的に磁気シールドで被覆し、荷台140の浮上、移動及び固定に寄与しない成分の漏出を防ぐ構造としてもよい。
また、荷台140cにおいて、受電装置20と、コイル141,142との間を磁気シールドによって磁気的に遮断する構造としてもよい。このような構造とすることで、受電用電極21,22において発生した磁場と、コイル141,142において発生した磁場との間の干渉を軽減することができ、効率的な荷台140cの浮上、移動及び固定を実現できる。
図14は、磁気浮上式搬送装置1の他の変形例である磁気浮上式搬送装置1dの構成を示す概略図であって、荷台140dと、給電装置150と、磁気軌道160とを示すものである。
図示されるように、荷台140dは、受電装置20と、磁場生成用のコイル141,142とが内蔵された磁気浮上式の搬送装置であり、更に、磁気軌道160と対向する下面に支持用脚部144a,144bを備えている。
支持用脚部144a,144bは、それぞれ、図示されるように展開することで、磁気軌道160上に荷台140dを固定して支持する。また、支持用脚部144a,144bは、折り畳まれることや、荷台140d内部に収納されることなどにより、荷台140dの固定状態を解除することができるように構成される。例えば、支持用脚部144a,144bは、展開及び収納のために、受電装置20からの給電で駆動するモータなど駆動用の動力を有する。
支持用脚部144a,144bを用いて荷台140を固定することで、磁気浮上式搬送装置1dの動作停止時に、荷台140dの着地のために、荷台140dのコイル141,142及び磁気軌道160の磁気制御ユニット161とで、電流方向を切り換え、発生する磁場を調整する必要がなくなる。即ち、磁気浮上式搬送装置1dの動作停止時に、荷台140dから支持用脚部144a,144bを展開して磁気軌道160に対して荷台140dを固定して支持することで、荷台140dの着地を実現することができる。
なお、支持用脚部144a,144bの展開時の長さは、荷台140dの固定時には、磁気軌道160に対して浮上している場合の浮上高さ以下の任意の荷台高さとなるよう、適宜決定されてよい。また、支持用脚部144a,144bは、磁気軌道160と対向する下面に限定されることなく、上述した態様で好適に荷台140dを磁気軌道160に対して固定可能であれば、荷台140dの側面や上面などに設けられていても構わない。
図15は、磁気浮上式搬送装置1の他の変形例である磁気浮上式搬送装置1eの構成を示す概略図であって、荷台140eと、給電装置150と、磁気軌道160とを示すものである。
図示されるように、荷台140eは、受電装置20と、磁場生成用のコイル141,142とが内蔵された磁気浮上式の搬送装置であり、更に、コイル141,142に対して給電可能な補助給電装置145を有している。
補助給電装置145は、例えば、小容量且つ小サイズの蓄電池やキャパシタなどであって、受電装置20からコイル141,142への給電が停止された場合に、コイル141,142へ電力を供給する。補助給電装置145の容量は、目的に応じて設定されていてよい。補助給電装置145は、例えば、受電装置20からコイル141,142への給電が停止された場合に、磁気反発力の消滅によって荷台140eが磁気軌道160上に墜落しないよう、浮上状態の維持や、弱い磁場を生じさせて軟着陸させるためなどの目的で配置される。
このような磁気浮上式搬送装置1eによれば、荷台140eが送電装置10の電力伝送範囲から外れるなど、受電装置20からコイル141,142への給電が行えなくなった場合において、荷台140eが磁気軌道160上に墜落することを防止することができる。なお、このような補助給電装置145は、荷台140eの浮上、移動及び固定を目的としてコイル141,142への給電を行うバッテリに比較して、小容量且つ小サイズで構成することができる。よって、荷台140eは、補助給電装置145を搭載したとしても、従来のバッテリ搭載型の荷台と比較して軽量に構成することができる。
なお、図15に示す荷台140eに、さらに図14に示す支持用脚部144a,144bを備えていてもよく、その場合は、補助給電装置145から支持用脚部144a,144bの展開のために、駆動用の電力が供給されるようにしてもよい。
同様に、図15に示す荷台140eに、さらに図13に示す磁気シールド143を備える構成を適用してもよい。また、図13から図15に示す荷台140の変形例を、適宜組み合わせて適用してもよい。
本発明は、上述した実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う磁気浮上式搬送装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。