本実施例のシステムでは、ある工場コミュニティにおいて、一定時間後に工場全体の電力需要に対して電力供給の不足が発生することが予測されたとき、工場内の各部署が実施または実施予定の業務実施計画を変更することで、その不足分の電力需要を削減する。その結果、電力需要が目標値を超過してしまい、それにより工場施設が停電してしまうのを防止することが可能となる。または、電力需要が目標値を超過してしまうことによる電力会社との契約電力が上昇し、電力料金が上昇してしまうのを防ぐことも可能となる。
図1は、実施例1による業務管理システムにおける施設デマンド管理装置100および工場デマンド管理装置110のハードウェア構成を示すブロック図である。この例では、工場内に需要家A、B、Cの各施設が設置されており、それぞれの需要家の設備機器106に対して施設デマンド管理装置100が設置されている。全ての施設デマンド管理装置100が工場デマンド管理装置110に接続されている。
施設デマンド管理装置100はMESであり、需要家施設内の電力需要および電力供給を調整する。工場デマンド管理装置110はFEMSであり、工場全体の電力需要および電力供給を調整する。ここで需要家とは、工場施設内の各部署などの生産業務毎に区分されている主体を示す。例えば、工場施設内の1つの工場棟が1つの需要家の施設であり、その需要家の製品を製造するといった構成が考えられる。
施設デマンド管理装置100および設備機器106は、工場内の生産部署などの需要家施設内に設置されており、通信ネットワーク120を介して、他需要家の施設デマンド管理装置100および工場デマンド管理装置110に接続されている。
通信ネットワーク120は、装置同士がデータを送受信するための通信路であり、例えば、インターネットや専用線などである。異なる需要家の施設デマンド管理装置100同士の通信、および施設デマンド管理装置100と工場デマンド管理装置110との通信を実現できれば、通信ネットワーク120の通信方式は問わない。
施設デマンド管理装置100は、CPU101、通信部102、入出力部103、主記憶装置104、二次記憶装置105を有し、例えば、PC(Personal Computer)端末である。施設デマンド管理装置100は、需要家の施設の中に設置される。
CPU101は、一般的なCPU(Central Processing Unit)である。通信部102は、外部装置と通信を行う。入出力部103は、施設デマンド管理装置100がデータを入出力するためのインターフェイスである。主記憶装置104は、データを蓄積する一般的な主記憶装置である。二次記憶装置105は、主記憶装置104を補う二次記憶装置である。
なお、図1では、施設デマンド管理装置100は、需要家の施設内に設置されているものとしているが、需要家の所有権が守られるようにして需要家の施設外に設置されてもよい。また図1では、施設デマンド管理装置100に専用にハードウェアが容易された例を示したが、実施形態がこれに限定されることはない。他の例として、施設デマンド管理装置100は、需要家の他のシステムと共有されるPCにソフトウェアをインストールして実現されてもよく、あるは、クラウド上で動作するソフトウェアによりサービスを提供される態様で実現されてもよい。
工場デマンド管理装置110は、CPU111、通信部112、入出力部113、主記憶装置114、二次記憶装置115を有する。例えば、工場デマンド管理装置110は工場全体を管理する上位管理部署など、需要家の情報を扱うことが許可される主体によって所有される。
CPU111は、一般的なCPUである。通信部112は、外部装置との通信を行う。入出力部113は、工場デマンド管理装置110がデータを入出力するためのインターフェイスである。主記憶装置114は一般的な主記憶装置である。二次記憶装置115は、主記憶装置114を補う一般的な二次記憶装置である。
図2は、実施例1の施設デマンド管理装置100および工場デマンド管理装置110の機能構成例を示すブロック図である。例えば、この機能構成例に従ったソフトウェア構成を採用できる。
施設デマンド管理装置100は、需給予測部201、不定業務許容型計画立案部202、調整余裕算出部203、設備機器制御部204を有する。
需給予測部201は、需要家の施設における将来の電力需要および電力供給を予測する。例えば、需要家の業務を実施するのに伴い、設備機器106の稼働により電力需要が発生する。また、需要家が太陽光発電装置を備えていれば、その発電により電力供給が得られる。
不定業務許容型計画立案部202は、需要家の不定型業務のブレを含めた計画を立案する。不定型業務は、業務の実施時期と実施量が変動する可能性のある業務である。この変動がブレである。業務のブレには、時間的変動と量的変動について発生しうる変動幅が含まれている。業務のブレにより、その需要家の業務の電力需要は消費時間帯と消費電力量の少なくとも一方が変動する。
調整余裕算出部203は、需要家の業務の調整余裕を算出する。調整余裕には、実施時間帯と実施量の少なくとも一方を調整できる業務(調整可能業務)について、その調整可能な範囲と幅(調整幅)の情報が含まれる。
設備機器制御部204は、立案された需給計画に基づき設備機器106を制御する。業務の実施に伴って設備機器106が制御されると、それにより電力需要が発生する。
一方、工場デマンド管理装置110は、電力不足ポテンシャル算出部210、調整余裕集約部211、逼迫時DR候補算出・予約部212、デマンド監視部213、電力逼迫検知部214、運用時DR計画立案部215を有する。
まず、工場デマンド管理装置110の概略動作について説明する。
需要家の業務には調整可能業務と不定型業務とがある。ただし、調整可能業務であり、かつ不定型業務であるという業務もありえる。調整可能業務は、消費時間帯と消費電力量の少なくとも一方を調整可能な業務である。不定型業務は上述した通りである。
電力不足ポテンシャル算出部210(ポテンシャル算出手段)は、電力需要および電力供給についての、消費時間帯と消費電力量の起こりうる変動を含んだ予測に基づき、電力需要が目標値を超過する可能性がある時間帯である超過可能性時間帯と、超過可能性時間帯に電力需要が目標値を超過する可能性がある超過量である超過可能性電力量とを算出する。
逼迫時DR候補算出・予約部212(予約手段)は、電力逼迫が発生したときに実施するDR候補を算出し、超過可能性時間帯に対して超過可能性電力量の分を調整できるだけの調整可能業務を調整のために予約する。
電力逼迫検知部214(電力逼迫検知手段)は、電力需要と電力供給の関係が所定の逼迫条件を満たす電力逼迫が発生するか否か判定する。例えば、各施設デマンド管理装置100から通知される電力需要と電力供給の情報を総合して判断すればよい。逼迫条件は、工場全体における電力需要が電力供給を超過する場合、あるいは電力需要が電力供給を超過すると判断される所定の条件である。この電力供給には、電力会社からの電力の供給と、太陽光発電など工場内で発電された電力の供給とが含まれる。
運用時DR計画立案部215(調整計画立案手段)は、電力逼迫検知部214で電力逼迫が発生すると判定されると、運用時におけるDR計画として、超過可能性時間帯に対して予約した調整可能業務の消費時間帯および消費電力量の少なくとも一方を調整するような計画を立案する。
これにより、本実施例では、電力の需要および/または供給が予測値から量的および時間的にずれる可能性のある場合において適切な需給調整が可能である。
なお、デマンド監視部213(デマンド監視手段)は、各需要家の電力需要および電力供給を監視しており、電力不足ポテンシャル算出部210によって算出された超過可能性時間帯に基づいて定まる強化監視時間帯における電力需要および電力供給の監視頻度を高める。デマンド監視部213の監視で得られた結果は、電力逼迫検知部214における判定に利用される。これによれば、電力逼迫が生じる可能性の高い時間帯に高い頻度で電力需要を監視することができ、電力逼迫を迅速に検出することが可能になる。超過可能性時間帯を超過可能性時間帯とするだけでなく、超過可能性時間帯の所定時間前から強化監視時間を開始してもよい。
また、電力不足ポテンシャル算出部210は、不定型業務における消費電力量が変動する可能性がある時間帯である変動可能性時間帯と、不定型業務の変動する可能性がある消費電力量である変動可能性電力量と、に基づき、電力量と開始時刻と実施期間とを変動要素として電力需要または電力供給の時間帯毎の変動を含んだ予測を表す予測ブレモデルを決定し、その予測ブレモデルを超過可能性時間帯および超過可能性電力量の算出に用いてもよい。これによれば、電力需要および電力供給の時間帯毎の変動を含んだ予測を表す予測ブレモデルにより、超過可能性時間帯および超過可能性電力量を容易に算出することができる。
また、逼迫時DR候補算出・予約部212は、調整可能業務の調整可能な時間帯である調整可能時間帯と、調整可能業務の調整可能な消費電力量である調整可能電力量と、に基づき、電力量と開始時刻と実施期間とを変動要素として電力需要または電力供給の時間帯毎の調整可能な電力量を表す調整余裕モデルを決定し、その調整余裕モデルを、調整のために予約する調整可能業務の選択に用いてもよい。これによれば、電力需要および電力供給の時間帯毎の調整可能な電力量を表す調整余裕モデルにより、調整余裕を容易に決定することができる。
また、逼迫時DR候補算出・予約部212は、予約する調整可能業務を実施する需要家に対して、電力逼迫が発生した場合に適用させる消費時間帯と消費電力量の少なくとも一方の変更を含む調整内容を事前に通知することにしてもよい。これにより、調整内容を事前に需要家に把握させることができ、電力逼迫が発生する場合に迅速に調整を実施することができる。
また、逼迫時DR候補算出・予約部212は、電力逼迫を解消することができ、かつ、調整可能業務の消費時間帯および/または消費電力量の変更に費やされるコストが最小となるように、予約する調整可能業務を選択してもよい。これによれば、最小のコストで電力逼迫を解消することが可能な調整可能業務を事前に確保しておくことができる。
また、運用時DR計画立案部215は、電力逼迫が発生するとき、予約された調整可能業務から、調整に費やすコストが最小で電力逼迫を解消できる調整対象の業務とその調整量を抽出し、調整計画を立案することにしてもよい。これによれば、電力逼迫が発生したとき最小のコストでその電力逼迫を解消することができる。
以下、工場デマンド管理装置110の構成および各部の動作について更に説明する。
電力不足ポテンシャル算出部210は、電力不足ポテンシャルを算出する。電力不足ポテンシャルは、電力需要が電力供給を超過して電力不足が発生する可能性のある時間帯(超過可能性時間帯)と、そのときの電力需要と電力供給に基づく、不足する電力量(超過可能性電力量)とを含んでおり、更に電力不足が発生する確率(可能性)の情報を含んでいてもよい。
調整余裕集約部211は、施設デマンド管理装置100から送信された調整余裕の情報を受信し、集約する。
逼迫時DR候補算出・予約部212は、予測される電力逼迫ケースに応じたDR計画を立案する。工場全体における電力需要が電力供給を超過する場合、あるいは電力需要が電力供給を超過すると判断される所定の条件(逼迫条件)を満たした場合に、電力逼迫と判断される。
デマンド監視部213は、工場全体の電力需要を監視する。例えば、デマンド監視部213は、定期的に、各需要家の施設デマンド管理装置100からそれぞれの電力需要の情報を取得する。
電力逼迫検知部214は、工場全体の電力需要および電力供給に基づいて電力逼迫を検知する。
運用時DR計画立案部215は、計画運用中に電力逼迫が予測されると、電力逼迫の不足する電力量を補償し、電力逼迫を解消するようなDR計画を立案する。
なお、ここでは、電力不足ポテンシャル算出部210、調整余裕集約部211、逼迫時DR候補算出・予約部212、デマンド監視部213、電力逼迫検知部214、運用時DR計画立案部215は、工場デマンド管理装置110にインストールされている構成となっているが、例えば、インターネット上でクラウドサービスとして提供される形態となっていてもよい。
図3は、施設デマンド管理装置100の動作を示すフローチャートである。
ステップS300は、需給予測部201によって実行される。需給予測部201は、現在からX時間後までの電力需要の予測量を算出する。例えば、一時間毎の需要家の施設の固定負荷による電力需要の予測量を算出する。時刻tにおける、固定負荷による電力需要の予測量の算出は、例えば、記憶ベース推論のような統計的手法を用いてもよいし、前日の実績値を用いるなどして行ってもよい。
ステップS301の不定業務許容計画立案は、不定業務許容型計画立案部202において行われる。業務の実施計画の立案は、固定負荷による需給予測結果を元に、各時間帯について、電力需要の可能な量を鑑みて業務実施の時間を決定することにより行われる。この際、例えば、計画立案を実施する管理者は、図9に示すような入力画面に業務毎の開始時刻、最大電力、および所要時間のような業務実施計画を入力する。図9は、施設デマンド管理装置100における入出力画面の表示例を示す図である。
業務計画は、各施設の管理者により立案される。ここで管理者による業務計画の立案は、例えば、CPU101によって任意の最適化プログラムを実行することにより行われても良いし、管理者自身が試行錯誤によって行っても良い。立案された業務計画は、施設デマンド管理装置100の主記憶装置104に記憶される。管理者による業務計画立案は、例えば、24時間ごとに前日夜の所定の時刻などに実施される。
図10は、需給ブレモデルおよび調整余裕モデルについて説明するための図である。
この際、管理者は図10に示す需給ブレモデルおよび調整余裕モデルに基づき、業務毎の開始時刻、期間、および時間毎の需給量fに関するブレ幅および調整可能幅を設定する。図10の例では、電力の需給量、業務の開始時刻、業務の実施時間を需給プロファイルの要素(変動要素あるいは調整可能要素)として設定を行う。ここでは電力需要の電力量(需要量)と電力供給の電力量(供給量)とを合わせて需給量と呼ぶ。なお、需要家自身の発電による電力供給は負の電力需要と考えることができる。またブレ幅に関しては、そのブレが発生する確率と、調整可能幅については、その調整に要するコストを合わせて設定する。これら情報項目の設定値は管理者が経験に基づいて決定してもよいし、例えば、過去の業務毎の需給特性の履歴情報に基づく統計的手法によって自動的に決定されてもよい。また各項目は運用に合わせて適宜省略してもよい。ブレが発生する確率は、例えば、ブレが発生する確率が高い部分については特に、他の部分と比べて、調整可能業務を多く予約しておくと言った利用が考えられる。
例えば、図9に示す入力画面に業務毎の開始時刻、最大電力、および所要時間において予想されるブレ、および調整可能な余裕幅を入力する。入力は、入出力部103を通して管理者が直接行っても良いし、CPU101にて、例えば、業務を、過去需給履歴情報をもとにクラスタリングし、クラスタごとのポリシーを事前に決めておくなどすることで自動的に行われても良い。
ステップS302の予測ブレ・需給調整余裕を工場デマンド管理装置110に通知するステップでは、業務の予測ブレ、および需給調整余裕を、通信ネットワーク120を介して、工場デマンド管理装置110に通知する。
図4は、工場デマンド管理装置110における逼迫時DR計画の立案動作を示すフローチャートである。
ステップS401にて、通信部112は、制御対象の施設デマンド管理装置100から予測ブレ・需給調整余裕を受信する。工場デマンド管理装置110は、通信ネットワーク120を介して、工場内の各需要家の施設デマンド管理装置100に接続されており、通信部112によりそれらの施設デマンド管理装置100とデータの送受信が可能である。工場デマンド管理装置110は、通信ネットワーク120を介して、制御対象である施設デマンド管理装置100から、需要家の業務計画、予測ブレ、および調整余裕のデータを受信する。取得したデータは二次記憶装置115に記憶される。
ステップS402では、工場内の全ての施設デマンド管理装置100から業務計画を受信したかを確認する。この業務計画によって各需要家の将来の電力需要と電力供給が分かる。全ての施設デマンド管理装置100から業務計画のデータの受信を確認した場合は、ステップS403に進み、全ての施設デマンド管理装置100から業務計画のデータを受信していない場合にはステップS401に戻る。業務計画には業務のブレに関する情報も含まれている。
ステップS403は、電力不足ポテンシャル算出部210において実行される。電力不足ポテンシャルの算出に際しては、電力不足ポテンシャル算出部210は、各施設デマンド管理装置100から受信した業務計画に示された業務の実施計画と、業務の予測されるブレとを考慮して、時間帯毎の電力需要と電力供給を併せた電力値が需給目標値を超過する可能性のある電力量を算出する。需給目標値は、電力需要および電力供給が満たすべき目標となる値である。電力需要については、電力需要の増大により超過が発生しうる。電力供給については、電力供給の低下によって超過が発生しうる。
図11は、電力不足ポテンシャルの算出例を示す図である。
図11(1)には、業務の開始時刻が変動することによって電力不足が発生する様子が示されている。開始時刻が変動する可能性のあるような種類の業務(時間不定型業務)がある。時間不定型業務では、開始時間が所定時間内で変動しうるものとする。図11(1)を参照すると、時間不定型業務による電力需要の曲線の現れる時間は変動時間帯の範囲内で変動する。例えば、固定負荷による電力需要のピーク付近の時間に時間不定型業務による電力需要の曲線が現れれば、トータルの電力需要は需給目標値(供給可能量)を超過してしまう。
電力需要が目標値を超過する可能性のある電力量(目標値超過可能性量)は、時間不定型業務の実施時間帯が変動時間帯内で時間変動した場合の各時間帯の電力需要の合計の最大値を算出し、その最大値と需給目標値との差分として求められる。
図11(2)には、再生可能エネルギーによる発電量の変動によって電力不足が発生する様子が示されている。再生可能エネルギーは発電量が変動しやすい。例えば、太陽光発電であれば、天候が急激に悪化して日射量が減少すれば発電量は突発的に低下してしまう。図11(2)を参照すると、最悪ケースにおける電力供給の低下により需給目標値(供給可能量)が低下している。例えば、需給目標値が固定負荷を含む全ての業務の電力需要の合計を下回れば、電力不足が発生する。
目標値超過可能性量は、電力需要の合計値と需給目標値との差分として求められる。
図11(3)に示すように、図11(1)および(2)にて算出された目標値超過可能性量(超過量)の時間帯毎の線形和を算出すると、トータルの電力需要の目標値超過可能性量が求まる。これが電力不足ポテンシャルとなる。
図12は、時間帯毎の電力不足ポテンシャルを示す電力不足ポテンシャルテーブルを示す図である。電力不足ポテンシャルの情報は、例えば図12のような時間帯毎の不足する電力量(電力不足ポテンシャル)を表すテーブル形式にて、主記憶装置114または二次記憶装置115に記憶される。
図4に戻り、ステップS404は、調整余裕集約部211において行われる。調整余裕集約部211は、各施設デマンド管理装置100から受信した業務計画、および業務の調整余裕を集約する。集約された業務計画、および調整余裕は、主記憶装置114または二次記憶装置115に記憶される。
ステップS405は逼迫時DR候補算出・予約部212において行われる。逼迫時DR施策立案においては、逼迫時DR候補算出・予約部212は、各時間帯の電力不足ポテンシャルの値、および調整可能業務の調整余裕を考慮し、電力不足ポテンシャルと同量またはそれ以上の電力量の電力需要を低減するか、または電力供給量を増加する、DR施策を各時間帯毎に立案する。
図13は、調整に要するコストを最小にするDR施策を算出するための目的関数を示す図である。図13の目的関数は、業務の作業を調整する場合に発生するコスト、設備のピークカットを行った場合に発生するコスト、および電力貯蓄装置(蓄電池)に蓄積した電力を放出した場合に発生するコストの合計値を示す。
図13において、Rlは調整可能業務lの時間調整量、Cmは設備mのピークカット量、Dnは電力貯蓄装置の放電量、al,bm,cnは各調整量における単位調整量あたりの調整コストを示す。plは作業lを調整した場合の他時間帯の電力不足ポテンシャル増加量を示す。これを目的関数に入れることで、業務調整による他時間帯における電力不足のリスクを低減することができる。電力不足ポテンシャルを解消することが可能となる作業の調整量、設備のピークカット量、および電力貯蓄装置に放電量の各値の、目的関数で示されるコストの値が最小となる組み合わせを探索すればよい。計画立案は、例えば、CPU111によって任意の最適化プログラムを用いて行われても良いし、人が試行錯誤によって行っても良い。
また、調整可能業務が電力需要あるいは電力供給のブレを含む業務である場合、つまり、調整可能業務でありかつ不定型業務である場合には、電力需要あるいは電力供給の予測ブレモデルと調整余裕モデルの間の制約を考慮して実行可能な計画の立案を行う。
図18は、予測ブレモデルと調整余裕モデルの間の制約関係の一例について説明するための図である。調整可能業務でありかつ不定型業務である業務には、需給量について調整可能量とブレ量の両方がある。図18(1)に示すように、基準となる需給量yと、調整可能量Δymと、需給ブレ量Δyとの総和は、許容される需給量の許容範囲(ymin≦y+Δy+Δym≦ymax)に収まっているのが好ましい。ここでymin、ymaxは、それぞれ当該業務の需給量の許容される最大値、最小値を示す。このことは当該業務の需給総容量および実施時刻についても同様ことが言え、その当該値と調整可能量とブレ量の総和が許容範囲に収まっているのが好ましい。
図14は、時間帯毎の電力逼迫が発生した場合に制御を行う業務と、最大で可能な制御量を示したテーブルである。図15は、図14の制御対象の業務による調整を行った場合に発生する単位調整量当りの調整コストを示すテーブルである。立案される電力逼迫時DR施策の一例は、図14に示した、時間帯毎の電力逼迫が発生した場合に制御を行う業務と最大で可能な制御量とを示すテーブルと、図15に示した制御対象の業務による調整を行った場合に発生する単位調整量当りの調整コストを示すテーブルとを含む。例えば、図15には、施設ID=Aの設備に関する業務ID=1の業務の開始時刻を1時間遅らせるDRパタンが予約されており、その業務の単位調整量当たりの調整コストが10であると登録されている。また、施設ID=Bで、業務ID=1の業務の最大電力を200kWhに抑えるDRパタンが予約されており、その業務の単位調整量当たりの調整コストが1であると登録されている。また、施設ID=B、業務ID=5の業務の所要時間を1時間短縮するというDRパタンが予約されており、その業務の単位調整量当たりの調整コストが20であると登録されている。立案された電力逼迫時DR施策は主記憶装置114または二次記憶装置115に記憶される。
施設デマンド管理装置にDRパタンを予約するステップS406は、逼迫時DR候補算出・予約部212において行われる。逼迫時DR候補算出・予約部212は、例えば通信部112を用い、通信ネットワーク120を介して、図14の制御対象の業務を持つ施設デマンド管理装置10に対して、図15に示す予約すべきDRパタンを通知する。需要家の承諾が得られれば予約は完了である。例えば、図9に示した、DR予約受付の出力画面に、予約すべきDRパタンが表示され、需要家の作業者がそれを承諾したら予約を完了させればよい。
予約が完了すると、逼迫時DR候補算出・予約部212は、ステップS407にて、需要家の承諾が得られた電力逼迫時のDRパタンからなるDR施策を主記憶装置114または二次記憶装置115に記録する。DR施策は、全ての需要家を含む工場コミュニティ全体の調整計画であり、個々の需要家のDRパタンを含んでいる。
図5は、工場デマンド管理装置110における強化監視時の動作を示すフローチャートである。図5の各処理はデマンド監視部213が実行する。
ステップS500において、デマンド監視部213は、二次記憶装置115から、例えば図12に示したような各時間毎の電力不足ポテンシャルの情報を取得する。
続いて、ステップS501において、デマンド監視部213は、電力逼迫の発生の監視を強化する時間帯を、各時間帯の電力不足ポテンシャルの値から決定する。決定方法は、例えば、電力不足に近づいている程度を示す電力ポテンシャルの値が所定の閾値以上のときに監視を強化すべき時間帯(監視強化時間帯)であると判定する。
続いて、ステップS502において、デマンド監視部213は、ステップS501で決定した監視強化時間帯を二次記憶装置115に登録する。
続いて、ステップS503において、デマンド監視部213は、二次記憶装置115に登録された監視強化時間帯になると、通常時間帯より重点的に電力逼迫の監視を行う。例えば、監視強化時間帯に対しては、電力需要または電力供給の実測値を高い頻度で取得し、需給予測の計算を高い頻度で実施すればよい。他の例として、監視強化時間帯における電力需要あるいは電力供給のブレが所定の閾値以上の業務に対する需給予測の計算の実施頻度を高くしてもよい。
図6は、工場デマンド管理装置110における運用時の需給調整の動作を示すフローチャートである。また、図6におけるステップS600、S602についての詳細動作のフローチャートを図7、8にそれぞれ示す。
ステップS600において、工場デマンド管理装置110は、工場全体における電力逼迫が発生しているか否か判定する。太陽光発電などの自然エネルギーによる電力を供給資源として導入している場合、気象変化などによる電力の供給量が急激に変化することがあるため、高い頻度で電力逼迫の判定を実施する。例えば、現在からX時間後までに電力逼迫が予測される場合、電力逼迫がある判定する。ステップS600の詳細フローは後述する。
電力逼迫があると判定されると(ステップS601のYes)、工場デマンド管理装置110はステップS602に進む。電力逼迫がないと判定されると(ステップS601のNo)、工場デマンド管理装置110は処理を終了する。
ステップS602において、工場デマンド管理装置110は、予測される電力逼迫に応じたDR計画を立案し、そのDR計画において調整の対象となっている需要家に対して、そのDR計画に基づくDRパタンの変更を依頼する。ステップS602の詳細フローは後述する。
図7は、ステップS600の工場全体の電力逼迫を判定する詳細処理を示すフローチャートである。
ステップS700は電力逼迫検知部214が実行する、現在からX時間後までの所定時間毎の時刻である時刻tにおける工場全体への資源供給可能量Qt.maxを予測する処理である。時刻tは、それに対応する時間帯(時間帯t)を代表する時刻である。
電力逼迫検知部214は、例えば、通信ネットワーク120を介して、電力会社などの工場外の主体からの電力供給量に関する情報と、工場内の太陽光発電施設などの自家発電施設からの電力供給量に関する情報とを受信する。そして、電力逼迫検知部214は、工場内の自家発電施設による電力供給量の総和と、工場外の主体からの電力供給量の総和を求める。更に、電力逼迫検知部214は、それらを合計することにより、工場への全ての電力供給の総和である総供給可能量Qt.maxを算出する。算出された工場全体への総供給可能量Qt.maxは二次記憶装置115に記憶される。
ステップS701は通信部112によって行われる、制御対象の施設デマンド管理装置10から需要家の業務計画(電力需給予測テーブル)を受信する処理である。受信する需要家の業務計画は、需要家における最新の状況によって更新された最新の業務計画である。
工場デマンド管理装置110は、通信ネットワーク120を介して、各需要家の工場内の施設デマンド管理装置100に接続されており、通信部112によりデータの送受信が可能である。工場デマンド管理装置110は、通信ネットワーク120を介して、制御対象の施設デマンド管理装置100から、需要家の業務計画を受信する。取得したデータは二次記憶装置115に記憶される。
ステップS702では、工場デマンド管理装置110は、全ての制御対象の施設デマンド管理装置100の業務計画のデータを処理(受信)したか否か判定する。工場内の全ての施設デマンド管理装置100から業務計画のデータを受信していれば、ステップS703に進む。まだ、業務計画のデータを取得していない施設デマンド管理装置100があれば、ステップS701に戻る。
ステップS703はデマンド監視部213が実行する、現在からX時間後までの所定時間毎の時刻である時刻tにおける工場全体の予定需要量Dtを算出する処理である。
デマンド監視部213は、ステップS701で受信した各需要家の業務計画から、現在からX時間後までの、例えば、一時間毎の工場全体の需要予測量を算出する。時刻tにおける需要予測量の算出方法は、例えば、ある業務の開始時刻と終了時刻の間に時刻tが含まれる場合、その業務の消費資源量を工場全体の需要予測量に加算する。この処理を全ての需要家の業務について実行することで算出された工場全体の需要予測量を、時刻tにおける工場全体の予定需要量Dtとする。算出された時刻tにおける工場全体の予定需要量Dtは二次記憶装置115に記憶される。
ステップS704は、電力逼迫検知部214が実行する、全ての時刻tにおいてQt.max>Dtであるか否か判定する処理である。
電力逼迫検知部214は、ステップS700で算出した工場全体への総供給可能量Qt.maxと、ステップS703で算出した工場全体の予定需要量Dtとを、現在からX時間後までの全ての時刻tのそれぞれにおいて比較する。全ての時刻tにおいてQt.max>Dtを満たすのであれば(ステップS704のYes)、ステップS706に進む。いずれかの時刻tにおいてQt.max>Dtを満たさなければ(ステップS704のNo)、ステップS705に進む。
ステップS705は電力逼迫検知部214が実行する、電力逼迫があると判定する処理である。判定結果は二次記憶装置115に記憶される。
ステップS706は電力逼迫検知部214が実行する、電力逼迫がないと判定する処理である。判定結果は二次記憶装置115に記憶される。
図8は、DR発令を行うステップS602の詳細処理を示すフローチャートである。
ステップS801は、現在からX時間後までの所定時間毎の時刻tにおける工場全体への資源供給可能量Qt.maxを取得する処理である。工場デマンド管理装置110は二次記憶装置115から、現在からX時間後までの所定時間毎の全ての時刻tにおける工場全体への資源供給可能量Qt.maxを取得する。
ステップS802は、現在からX時間後までの所定時間毎の時刻tにおける工場全体の予定需要量Dtを取得する処理である。工場デマンド管理装置110は、二次記憶装置115から、現在からX時間後までの所定時間毎の全ての時刻tにおける工場全体の予定需要量Dtを取得する。
ステップS803は、制御対象の時刻tにおける工場全体への資源供給可能量Qt.maxと工場全体の予定需要量Dtとを比較する処理である。Qt.max>Dtが満たされれば(ステップS803のYes)、ステップS804に進み、Qt.max>Dtが満たされなければ(ステップS803のNo)、ステップS805に進む。
ステップS804は、電力逼迫があると判定された時間帯の時刻tを電力逼迫時刻t’に追加する処理である。工場デマンド管理装置110は、Qt.max>Dtが満たされた時刻t、つまり、電力逼迫があると判定された時間帯の時刻tを、電力逼迫時間帯t’として二次記憶装置115または主記憶装置114に記録する。記録する形態は、制御対象の時刻を電力逼迫時刻と認識可能であれば、その形態は問わない。
ステップS805は全ての時刻tについてデータの処理を行ったか否か判定する処理である。工場デマンド管理装置110は、現在からX時間後までの所定時間毎の全ての時刻tについてデータを処理したか否か判定する。現在からX時間後までの所定時間毎の全ての時刻tについてデータを処理し終えていれば(ステップS805のYes)、工場デマンド管理装置110は、ステップS806に進む。全ての時刻tについてデータを処理し終えていなければ(ステップS805のNo)、工場デマンド管理装置110は、ステップS803に戻る。
ステップS806は、電力逼迫時間帯t’について電力逼迫を最小コストで解消するDRパタンを算出する処理であり、運用時DR計画立案部215において実行される。
運用時DR計画立案部215は、電力逼迫時間帯t’について立案された逼迫時DR施策より、超過量(Dt−Qt.max)を最小コストで補償する、DR施策およびそれを構成するDRパタンを算出する。DRパタンは個々の需要家についてのDR計画である。
超過量(Dt−Qt.max)を最小コストで補償するDRパタンの算出方法は、例えば、図14、図15に示す逼迫時DR施策において制御対象となっている業務の制御量を制御変数とし、超過量(Dt−Qt.max)≦総DR調整量(業務を制御することで確保される電力量)となることと、予約された逼迫時DR施策の範囲内の制御となることを制約条件として、図13に示す調整コスト最小化・逼迫リスク最小化の目的関数を用いて、時間帯毎に最も低コストで総DR調整量を確保するDRパタンからなるDR施策を探索すればよい。この立案は、例えば、CPU111によって任意の最適化プログラムを用いて実行してもよいし、人が試行錯誤によって行っても良い。
図16は、指令すべきDR計画の一例を示す図である。立案結果は、指令すべきDR計画として、例えば図16のような形態で二次記憶装置115に登録される。図16の例では、指令すべきDR計画は、施設ID、業務ID、およびDR指令値の情報を含んでいる。DR指令値は、業務の開始時刻、最大電力、および所要時間のそれぞれについて指令内容を指定することが可能な形式となっている。
ステップS807は、電力逼迫を解消できるDR計画が立案できたか否か判定する処理である。工場デマンド管理装置110は、ステップS806における立案の結果、電力逼迫において不足する電力量を補償できるDR施策およびDRパタンが存在するか否か判定する。ステップS806にて、超過量(Dt−Qt.max)≦総DR調整量を満たすDR計画を得ることができたか否かにより判定すればよい。
電力逼迫を解消できるDR計画が立案できたのであれば(ステップS807のYes)、工場デマンド管理装置110は、ステップS808に進む。電力逼迫を解消できるDR計画が立案できなかったのであれば(ステップS807のNo)、工場デマンド管理装置110は処理を終了する。
ステップS808は全ての電力逼迫時間帯t’についてのデータの処理を行ったか否か判定する処理である。工場デマンド管理装置110は、制御対象の全ての電力逼迫時刻t’のデータを処理したか否か確認する。全てのデータの処理が完了していれば、工場デマンド管理装置110はステップS809に進む。全てのデータの処理が完了していなければ、工場デマンド管理装置110はステップS806に戻る。
ステップS809は、電力逼迫を解消するDRパタンを各需要家の施設デマンド管理装置100に通知する処理である。工場デマンド管理装置110は、コストが最小で、リスクが最小のDR施策に含まれるDRパタンを需要家に依頼するDR依頼を、通信ネットワーク120を介して、DR施策の対象である工場内の全ての需要家の施設デマンド管理装置100に通知し、その実施を依頼する。
図17は、施設デマンド管理装置100における入出力画面の表示例を示す図である。通知の形態は特に問わないが、例えば、図17のような形態で、DR施策の対象となる需要家の施設デマンド管理装置100の管理者向け表示画面にDR依頼情報を表示するといった方法が考えられる。
ステップS810は、需要家が依頼されたDRパタンを実施する工程である。
DRパタンの依頼の通知を受けた需要家において、例えば、施設デマンド管理装置100が、設備機器制御部204によって、通知されたDRパタンを自動的に実施してもよい。また、施設デマンド管理装置100の管理者向け表示画面に表示されたDR依頼情報に従って、作業者が人手で実施してもよい。例えば、図17のDR依頼受信の出力画面に、DR依頼情報が表示されるようにしてもよい。