以下、実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、同一の機能および構成を有する要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
実施形態を説明する前に、実施形態に至った経緯を説明する。
スピン注入磁化反転方式を用いたMRAMにおいて、スピン注入磁化反転方式によって磁化を反転させるための反転電流は、記憶層の飽和磁化および磁気摩擦定数に依存する。このため、低電流値を用いたスピン注入によって記憶層の磁化を反転させるには、記憶層の飽和磁化および磁気摩擦定数を小さくすることが必要である。更に、記憶層の垂直磁気異方性および熱擾乱耐性を向上させることも必要となる。
そこで、本発明者達は、記憶層として低い飽和磁化、低い磁気摩擦定数、高い垂直磁気異方性を備えた材料を用い、更に高スピン分極率を有する界面磁性層としてCoFeBを用いて磁気抵抗素子を作製して研究を進めた。なお、記憶層の材料に関しては後述する。しかしながら、研究を進めるに連れて、高い磁気抵抗比を得るためには次の課題を解決する必要があることが見出された。
高いTMR効果を得るための阻害要因として、界面磁性層の結晶成長の阻害が一因として考えられる。MgO/CoFeBを有する素子、すなわちCoFeBからなる界面磁性層上にMgO層が設けられた素子を形成する場合においては、まず成膜時にアモルファスであるCoFeBからなる界面磁性層の上に良質な結晶性を有するMgO層が形成され、続いて行われるアニール処理によりMgO層の結晶をテンプレートとしてCoFeBからなる界面磁性層が結晶化すると考えられている。
この界面磁性層の結晶化促進のポイントは、2つ存在する。第1に、CoFeB層が成膜時に平坦でかつ完全なアモルファス状態になっていることが挙げられる。CoFeB層が成膜時に結晶化していると、直上のMgO層がきれいに(001)配向しない恐れがある。第2に、CoFeB層中のB元素の拡散が挙げられ、B元素が適切に拡散する道を用意することでアモルファス状態のCoFeB層から結晶化したCoFeへと成長する。このとき、B元素の一部はCoFe結晶中に介在する形で存在する。すなわち、アモルファス状態のCoFeB層から結晶化したCoFe(B)層に変化する。ここで、CoFe(B)とはCoおよびFeの他にBを含んでいても良い強磁性層を意味する。
図1(a)、1(b)に、バリア層/界面磁性層/下地層の積層構造の断面を示すTEM(Transmission Electron Microscope)像の一例を示す。図1(a)、1(b)はそれぞれ成膜時、300℃熱処理後のTEM像である。ここで、バリア層にはMgOを、界面磁性層にはCoFeBをそれぞれ用いている。図1(a)から分かるように、成膜時には、CoFeB層はアモルファス構造であり、かつMgO層は(001)配向している。更に図1(b)から分かるように、熱処理を施すことで、CoFeB層はMgO層との界面から結晶化が促進されている。
次に、MgOバリア層/CoFeB界面磁性層/結晶性磁性層の積層構造を例にとって考えてみる。ここで界面磁性層の下地に結晶性磁性層を用いた理由は、上述した低飽和磁化、低磁気摩擦定数、および高垂直磁気異方性を備えた磁性層は、一般的に結晶化材料であることに起因する。しかし、CoFeBの下地が結晶性材料であるとき、すなわちMgOバリア層/CoFeB界面磁性層/結晶性磁性層の積層構造では、CoFeBの結晶成長の様子が異なる。
図2(a)、2(b)に、バリア層/界面磁性層/結晶性磁性層/下地層の積層構造の断面を示すTEM像の一例を示す。図2(a)、2(b)はそれぞれ成膜時、300℃熱処理後のTEM像である。ここで、バリア層にはMgOを、界面磁性層にはCoFeBをそれぞれ用いている。図2(a)から分かるように、成膜時にCoFeBの界面磁性層はアモルファス状態であり、かつMgOのバリア層は(001)配向していることが分かる。更に図2(b)から分かるように、熱処理を施すことで、図1(b)の場合と同様に、CoFeBの界面磁性層はMgOのバリア層との界面から結晶化が促進されている。しかし、それと同時に、結晶性磁性層からも結晶化が促進されていることが分かる。実際の磁気抵抗素子において、界面磁性層は十分に薄い膜厚領域で作製することが望まれる。このため、これらの両界面からの結晶化は、界面磁性層の結晶成長に大きな悪影響を及ぼす。つまり、従来の高いTMR効果が得られているMgO/CoFeBの積層構造のメカニズムが、結晶化材料を用いたMTJ素子では適用できないことを示している。
以上のような課題に対し、本発明者達は鋭意研究に努めた結果、低い飽和磁化、低い磁気摩擦定数、かつ高い垂直磁気異方性を有し、かつ高い磁気抵抗比(MR比)を有する磁気抵抗素子およびそれを用いた磁気メモリを得ることができた。これらの磁気抵抗素子および磁気メモリを以下に実施形態として説明する。
(第1実施形態)
第1実施形態による磁気抵抗素子を図3に示す。図3は第1実施形態の磁気抵抗素子の断面図である。この実施形態の磁気抵抗素子1はMTJ素子であって、下地層100上に、強磁性層2、中間層5、界面磁性層3、非磁性層4(以下、トンネルバリア層4ともいう)、および強磁性層8がこの順序で積層された構造を有している。
下地層100は、強磁性層2および強磁性層2より上の層の結晶配向性、結晶粒径などの結晶性を制御するために用いられ、その詳細な性質については後述する。強磁性層2は、例えば、Mnと、Al、Ge、Gaから選択される少なくとも1つの元素と、を含む磁性層であり、界面磁性層3はCo、Fe、およびNiの群から選択される少なくとも1つの元素を含む磁性層である。
MTJ素子1の抵抗値はトンネルバリア層4を介して配置される二つの強磁性層2、8の磁化方向の角度により決まる。外部磁場あるいはMTJ素子1に流す電流により磁化方向の角度を制御することができる。その際、二つの強磁性層2、8の保磁力Hc、異方性磁界Hk、または磁気摩擦定数αの大きさに差をつけることにより、より安定的に磁化方向の角度を制御することが可能となる。ここでは保磁力Hc、異方性磁界Hk、または磁気摩擦定数αの大きい強磁性層を参照層と呼び、保磁力Hc、異方性磁界Hk、または磁気摩擦定数αの小さな強磁性層を記憶層と呼ぶ。したがって、一般的には強磁性層を参照層に用いる場合にはより大きな保磁力Hc、より大きな異方性磁界Hk、またはより大きな磁気摩擦定数αを持つことが望まれ、記憶層に用いる場合にはより小さな保磁力Hc、より小さな異方性磁界Hk、またはより小さな磁気摩擦定数αを持つことが望まれる。Mnと、Al、Ge、Gaから選択される少なくとも1つの元素と、を含む強磁性層は、後述するように含有元素によって飽和磁化、分極率、保磁力、および異方性磁界を調整できるうえに、低い磁気摩擦定数を有しているので記憶層として用いることに適している。
本実施形態の強磁性層2に用いられる磁性膜は、c軸が磁化容易軸となる。そのため、結晶化させる際にc軸が膜面に垂直方向を向くように配向制御することにより、垂直磁化を有するMTJ素子を作製することが可能となる。本明細書では、膜面とは、積層方向に直交する面を意味する。
第1実施形態においては、非磁性層4として、例えばMgOに代表されるような酸化物絶縁体を用いることが好ましい。更に、界面磁性層3として、例えばCoFeBに代表されるような非磁性層4とトンネル電子の選択性が良く、スピン分極率の高い材料を用いることが望ましい。非磁性層4や界面磁性層3の候補は後述する。
第1実施形態においては、中間層5として、強磁性層2を構成する元素と共通の元素を2種類以上含むアモルファス層を用いることが好ましい。作製方法は後述する。中間層5が強磁性層2の構成する元素と共通の元素を2種類以上含む層であると、中間層5と強磁性層2との界面の濡れ性が向上し、平坦性の良い中間層5が得られ、かつ直上の界面磁性層3や、非磁性層(トンネルバリア層)4も平坦性が向上するという利点がある。これにより、界面磁性層3とトンネルバリア層4との接合界面およびトンネルバリア層4とその直上に形成される磁性層との接合界面が乱れなく理想的に形成され、高い磁気抵抗比を得ることが可能となる。また、中間層5は、アモルファス層が層状に形成できる程度に厚く、強磁性層2と界面磁性層3との磁気的結合が切れない程度に薄いことが望まれる。そのような観点では、中間層5の厚さは0.1nm〜5nmの範囲にあることが好ましい。
次に、中間層5がアモルファス層である意義について説明する。中間層5がアモルファス層であると、直上に設けられる界面磁性層3は結晶性磁性層2からの結晶配向の影響を受けずにアモルファス層として成長する。更に、非磁性層4は強い自己配向性を有する材料であるために、アモルファス状態の界面磁性層3上に良質な結晶性非磁性層として成長する。その後、アニールにより、結晶性非磁性層をテンプレートとして、非磁性層4と界面磁性層3はエピタキシャル関係を構築しながら界面磁性層3の結晶化が促進される。もし、中間層5がアモルファス層でないとすると、直上の界面磁性層3は、成膜時やアニール処理後に、結晶性磁性層2および中間層5からの結晶配向の影響を受けて成長するために、所望の配向状態を実現できない可能性がある。更に、その影響を受けて成長する非磁性層4もトンネル電子の選択性の観点で、望ましくない結晶配向状態を一部含む状態で結晶化する可能性が生じてくる。以上のような理由により、中間層5はアモルファス層であることが望まれる。
MTJ素子が、例えば、MnGaからなる強磁性層2、非晶質MnGaからなる中間層5、CoFe(B)からなる界面磁性層3、結晶質MgOからなる非磁性層4、MnGaからなる強磁性層8がこの順序で積層された積層構造を有している場合を考える。この場合は、MnGa(001)/MgO(001)/CoFe(B)(001)/アモルファス中間層/MnGa(001)の配向関係を形成することができる。ここで、CoFe(B)とはCoおよびFeの他にBを含んでいても良い強磁性層を意味する。また、MnGa(001)、MgO(001)とはそれぞれの上面に(001)面が露出するように結晶配向しているという意味である。これにより、トンネル電子の波数選択性を向上させることができ、大きな磁気抵抗比を得ることが可能となる。
以上説明したように、第1実施形態によれば、低い飽和磁化、低い磁気摩擦定数かつ高い垂直磁気異方性を有する磁性層を用いた、高い磁気抵抗比を持った磁気抵抗素子を提供することができる。
強磁性層2および強磁性層8は、それらの結晶配向性、すなわち結晶配向の向きを制御することで、それらの容易磁化方向を膜面に対して垂直にすることが可能である。すなわち、強磁性層の結晶配向性を制御することにより、本実施形態の磁気抵抗素子は、磁化方向が膜面に平行な方向を向く面内磁化MTJ素子になり得るし、また強磁性層2および強磁性層8の磁化方向がそれぞれ膜面に対して垂直方向を向く垂直磁化MTJ素子にもなり得る。また、容易磁化方向とは、あるマクロなサイズの強磁性体を想定して、外部磁界のない状態で自発磁化がその方向を向くと最も内部エネルギーが低くなる方向である。これに対して、困難磁化方向とは、あるマクロなサイズの強磁性体を想定して、外部磁界がない状態で自発磁化がその方向を向くと最も内部エネルギーが大きくなる方向である。
そして、強磁性層2および強磁性層8のうちの一方の強磁性層は書き込み電流をMTJ素子に流したときに、書き込みの前後で磁化の方向が不変であり、他方の強磁性層は可変である。不変である強磁性層を参照層とも称し、可変である強磁性層を記憶層と称す。本実施形態においては、例えば、強磁性層2を記憶層、強磁性層8を参照層とする。なお、界面磁性層3は、スピン分極率を増大させるために設けられている。
書き込み電流は、強磁性層2と強磁性層8との間に膜面に垂直方向に流す。強磁性層2が記憶層、強磁性層8が参照層であってかつ強磁性層2の磁化の方向と強磁性層8の磁化の方向が反平行(逆の方向)な場合には、強磁性層2から強磁性層8に向かって書き込み電流を流す。この場合、電子は強磁性層8から非磁性層4を通って強磁性層2に流れる。そして、強磁性層8を通ることによりスピン偏極された電子は強磁性層2に流れる。強磁性層2の磁化と同じ方向のスピンを有するスピン偏極された電子は強磁性層2を通過するが、強磁性層2の磁化と逆方向のスピンを有するスピン偏極された電子は、強磁性層2の磁化にスピントルクを作用し、強磁性層2の磁化の方向が強磁性層8の磁化と同じ方向を向くように働く。これにより、強磁性層2の磁化の方向が反転し、強磁性層8の磁化の方向と平行(同じ方向)になる。ここで強磁性層2と界面磁性層3は中間層5を介して、磁気的に結合している状態が望ましく、その場合、強磁性層2と一体となって界面磁性層3の磁化方向が反転する。
これに対して、強磁性層2の磁化の方向と強磁性層8の磁化の方向が平行な場合には、強磁性層8から強磁性層2に向かって書き込み電流を流す。この場合、電子は強磁性層2から非磁性層4を通って強磁性層8に流れる。そして、強磁性層2を通ることによりスピン偏極された電子は強磁性層8に流れる。強磁性層8の磁化と同じ方向のスピンを有するスピン偏極された電子は強磁性層8を通過するが、強磁性層8の磁化と逆向きのスピンを有するスピン偏極された電子は、非磁性層4と強磁性層8との界面で反射され、非磁性層4を通って強磁性層2に流れ込む。これにより、強磁性層2の磁化にスピントルクを作用し、強磁性層2の磁化の方向が強磁性層8の磁化と反対方向に向くように働く。これにより、強磁性層2の磁化の方向が反転し、強磁性層8の磁化の方向と反平行になる。ここで強磁性層2と界面磁性層3は中間層5を介して、磁気的に結合している状態が望ましく、その場合、強磁性層2と一体となって界面磁性層3の磁化方向が反転する。
なお、本実施形態では、強磁性層2を記憶層、強磁性層8を参照層、界面磁性層3を記憶層側界面層として説明したが、限定する意味ではない。すなわち、強磁性層2を参照層、強磁性層8を記憶層、界面磁性層3を参照層側界面層としても良い。
(第2実施形態)
図4に、第2実施形態による磁気抵抗素子を示す。この磁気抵抗素子1Aは、図3に示す第1実施形態の磁気抵抗素子1において、非磁性層4と強磁性層8との間に界面磁性層6を設けた構成になっている。強磁性層2は、例えば、Mnと、Al、Ge、Gaから選択される少なくとも1つの元素と、を含む強磁性層であり、界面磁性層3はCo、Fe、およびNiの群から選択される少なくとも1つの元素を含む強磁性層である。中間層5は強磁性層2を構成する元素と共通の元素を2種以上含むアモルファス層である。界面磁性層6の詳細は後述する。
第1実施形態と同様に、強磁性層の結晶配向性を制御することで、強磁性層2および強磁性層8はそれぞれ、膜面に垂直な方向の磁気異方性を有し、それらの容易磁化方向は膜面に対して垂直とすることが可能である。すなわち、本実施形態の磁気抵抗素子1Aは、面内磁化MTJ素子のみならず、強磁性層2および強磁性層8の磁化方向がそれぞれ膜面に対して垂直方向を向く垂直磁化MTJ素子となり得る。そして、強磁性層2および強磁性層8のうちの一方の強磁性層は書き込み電流をMTJ素子1Aに流したときに、書き込みの前後で磁化の方向が不変であり、他方の強磁性層は可変である。本実施形態において、例えば、強磁性層2を記憶層、強磁性層8を参照層とする。なお、書き込み電流は、第1実施形態と同様に、強磁性層2と強磁性層8との間に膜面に垂直方向に流す。なお、界面磁性層3および界面磁性層6は、それぞれ強磁性層2および強磁性層8と磁気的に結合しており、スピン分極率を増大させるために設けられている。
MTJ素子が、例えば、MnGaからなる強磁性層2、非晶質MnGaからなる中間層5、CoFe(B)からなる界面磁性層3、結晶質MgOからなる非磁性層4、CoFe(B)からなる界面磁性層6、MnGaからなる強磁性層8がこの順序で積層された積層構造を有している場合に、MnGa(001)/CoFe(B)(001)/MgO(001)/CoFe(B)(001)/アモルファス中間層/MnGa(001)の配向関係を作ることができる。ここで、CoFe(B)とはCoおよびFeの他にBを含んでいてもよい強磁性層を意味する。また、MnGa(001)、MgO(001)とはそれぞれの上面に(001)面が露出するように結晶配向しているという意味である。これにより、トンネル電子の波数選択性を向上させることができ、大きな磁気抵抗比を得ることが可能となる。
以上説明したように、第2実施形態によれば、低い飽和磁化、低い磁気摩擦定数かつ高い垂直磁気異方性を有する磁性層を用いた、高磁気抵抗比を持った磁気抵抗素子を提供することができる。
なお、本実施形態では、強磁性層2を記憶層、強磁性層8を参照層、界面磁性層3を記憶層側界面層、界面磁性層6を参照層側界面層として説明したが、限定する意味ではない。すなわち、強磁性層2を参照層、強磁性層8を記憶層、界面磁性層3を参照層側界面層、界面磁性層6を記憶層側界面層としても良い。
(第3実施形態)
図5に、第3実施形態による磁気抵抗素子を示す。この実施形態の磁気抵抗素子1BはMTJ素子であって、下地層100上に、強磁性層2、中間層5、非磁性層4、および強磁性層8がこの順序で積層された構造を有している。強磁性層2は、例えば、Mnと、Al、Ge、Gaから選択される少なくとも1つの元素と、を含む磁性層である。この第3実施形態の磁気抵抗素子1Bも、第1、2実施形態と同様に、強磁性層の結晶配向性を制御することにより、面内磁化MTJ素子になり得るし、また垂直磁化MTJ素子になり得る。そして、強磁性層2および強磁性層8のうちの一方の強磁性層は書き込み電流をMTJ素子1Bに流したときに、書き込みの前後で磁化の方向が不変であり、他方の強磁性層は可変である。本実施形態において、例えば、強磁性層2を記憶層、強磁性層8を参照層とする。なお、書き込み電流は、第1実施形態と同様に、強磁性層2と強磁性層8との間に膜面に垂直方向に流す。
この第3実施形態においては、中間層5として、磁性層2を構成する元素と共通の元素を2種類以上含むアモルファス層を用いることが好ましい。中間層5が磁性層2の構成元素と共通の元素を2種類以上含むと、中間層5と磁性層2との界面の濡れ性が向上し、平坦性の良い中間層5が得られ、更に非磁性層4の平坦性も良くなるという利点がある。また、中間層5の厚さは、アモルファス層が層状に形成できる程度に厚いほうが好ましく、例えば0.1nm以上が好ましい。一方、中間層5はアモルファス層であり、第3実施形態では非磁性層4に隣接する層となる。従って、中間層5の厚さが厚すぎると、たとえ強磁性層2が高スピン分極率材料で構成されていても、高いトンネル電子選択性が得られずに、結果として高磁気抵抗比を得られない可能性がある。すなわち、強磁性層2のバンド構造を反映できる程度に中間層5の厚さは薄い方が好ましく、例えば1nm以下が好ましい。
次に、アモルファス層である中間層5を極薄で挿入する意義について説明する。まず、中間層5を挿入しない場合、例えば、MTJ素子として、MnGaからなる強磁性層、結晶質MgOからなる非磁性層、MnGaからなる強磁性層がこの順序で積層された積層構造であるとした場合に、MnGa(001)/MgO(001)/MnGa(001)の配向関係を作製することができる。しかし、MnGaとMgOの膜面内方向におけるバルクの格子定数から格子ミスマッチを求めると約8%と大きい。格子ミスマッチは以下の式で定義される。
(a(MgO)−a(MnGa))/a(MnGa)×100
ここでa(MgO)、a(MnGa)はそれぞれ膜面内方向のMgOおよびMnGaの格子定数である。格子ミスマッチが大きいと、格子歪みによる界面エネルギーを低減させるために界面に転位などが生成される。その場合、結晶粒の間でエピタキシャル関係が成立し、膜面内にわたって均一にエピタキシャル成長させることは困難である。MTJ素子に電流を流すと転位が電子の散乱源になるために磁気抵抗比は低減されてしまう。したがって、転位を発生させず膜面内に均一にエピタキシャル成長させるためには、格子ミスマッチがより小さい材料で積層することが重要である。
次に、極薄のアモルファス中間層5を挿入した場合、例えば、MTJ素子として、MnGaからなる強磁性層2、非晶質MnGaからなる極薄のアモルファス中間層5、結晶質MgOからなる非磁性層4、MnGaからなる強磁性層8がこの順序で積層された積層構造を有している場合に、MnGa(001)/MgO(001)/極薄アモルファス中間層/MnGa(001)の配向関係を作ることができる。また、MnGa(001)、MgO(001)とはそれぞれの上面に(001)面が露出するように結晶配向しているという意味である。極薄のアモルファス中間層5は上述しているように非常に平坦性の良い層であるために、この中間層5の直上に設けられるMgO層4は非常に平坦でかつ自己配向的に良質な(001)結晶配向膜となって成長する。更に、結晶であるがゆえに発生していた格子ミスマッチの概念そのものがなくなるために、界面における転位などが生成されないという利点がある。ここで、極薄のアモルファス中間層5は成膜時にアモルファス構造になっていることが重要な点として挙げられる。すなわち、その後の過程で熱処理を施した際に、極薄層が結晶化していても良い。
以上により、第3実施形態では、理想的な界面を有し結晶性の良い非磁性層4を形成でき、そのためトンネル電子の波数選択性を向上させることができるため、大きな磁気抵抗比を得ることが可能となる。
以上説明したように、第3実施形態によれば、低い飽和磁化、低い磁気摩擦定数かつ高い垂直磁気異方性の磁性層を用いた、高磁気抵抗比の磁気抵抗素子を提供することができる。
なお、本実施形態では、強磁性層2を記憶層、強磁性層8を参照層として説明したが、限定する意味ではない。すなわち、強磁性層2を参照層、強磁性層8を記憶層としても良い。
(第4実施形態)
図6に、第4実施形態による磁気抵抗素子を示す。この実施形態の磁気抵抗素子1CはMTJ素子であって、下地層100上に、強磁性層2、中間層5、非磁性層4、界面磁性層6、および強磁性層8がこの順序で積層された構造を有している。強磁性層2は、例えば、Mnと、Al、Ge、Gaから選択される少なくとも1つの元素と、を含む磁性層である。中間層5は強磁性層2を構成する元素と共通の元素を2種類以上含むアモルファス層である。界面磁性層6の詳細は後述する。この第4実施形態の磁気抵抗素子1Cも、第1乃至3実施形態と同様に、強磁性層の結晶配向性を制御することにより、面内磁化MTJ素子にもなり得るし、垂直磁化MTJ素子になり得る。そして、強磁性層2および強磁性層8のうちの一方の強磁性層は書き込み電流をMTJ素子に流したときに、書き込みの前後で磁化の方向が不変であり、他方の強磁性層は可変である。本実施形態において、例えば、強磁性層2を記憶層、強磁性層8を参照層とする。なお、書き込み電流は、第1実施形態と同様に、強磁性層2と強磁性層8との間に膜面に垂直方向に流す。なお、界面磁性層6は、強磁性層8と磁気的に結合しており、スピン分極率を増大させるために設けられている。
MTJ素子1Cが、例えば、MnGaからなる強磁性層2、非晶質MnGaからなる極薄の中間層5、結晶質MgOからなる非磁性層4、CoFe(B)からなる界面磁性層6、MnGaからなる強磁性層8がこの順序で積層された積層構造を有している場合に、MnGa(001)/CoFe(B)(001)/MgO(001)/極薄アモルファス中間層/MnGa(001)の配向関係を作ることができる。ここで、CoFe(B)とはCoおよびFeの他にBを含んでいてもよい強磁性層を意味する。また、MnGa(001)、MgO(001)とはそれぞれの上面に(001)面が露出するように結晶配向しているという意味である。これにより、第3実施形態と同様の理由により、理想的な界面を有し結晶性の良いMgO層を形成することが可能となり、そのためトンネル電子の波数選択性を向上させることができ、大きな磁気抵抗比を得ることが可能となる。
以上説明したように、第4実施形態によれば、低い飽和磁化、低い磁気摩擦定数かつ高い垂直磁気異方性を有する磁性層を用いた、高い磁気抵抗比を持った磁気抵抗素子を提供することができる。
なお、本実施形態では、強磁性層2を記憶層、強磁性層8を参照層、界面磁性層6を参照層側界面層として説明したが、限定する意味ではない。すなわち、強磁性層2を参照層、強磁性層8を記憶層、界面磁性層6を記憶層側界面層としても良い。
(第5実施形態)
図7に、第5実施形態による磁気抵抗素子を示す。この磁気抵抗素子は、図4に示す第2実施形態の磁気抵抗素子において、強磁性層8上に非磁性層10、強磁性層11を積層した構成となっている。なお、本実施形態においては、例えば界面磁性層6と強磁性層8が参照層となっている。強磁性層11はバイアス層またはシフト調整層とも呼ばれ、強磁性層8とは、磁化の向きが反平行(逆向き)の磁化を有している。強磁性層11は、非磁性層10を介して強磁性層8と反強磁性結合(Synthetic Anti-Ferromagnetic結合;SAF結合)していてもよい。これにより、界面磁性層6と強磁性層8より成る参照層からの漏れ磁場による界面磁性層3と強磁性層2より成る記憶層の磁化を反転する電流のシフトを緩和および調整することが可能となる。非磁性層10は、強磁性層8と強磁性層11とが熱工程によって混ざらない耐熱性、および強磁性層11を形成する際の結晶配向を制御する機能を具備することが望ましい。
さらに、非磁性層10の膜厚が厚くなると強磁性層11と記憶層(本実施形態では例えば強磁性層2)との距離が離れるため、強磁性層11から記憶層に印加されるシフト調整磁界が小さくなってしまう。このため、非磁性層10の膜厚は、5nm以下であることが望ましい。また、上述したように強磁性層11は非磁性層10を介して強磁性層8とSAF結合していてもよく、その場合、非磁性層10の膜厚が厚すぎると磁気的結合が切れてしまう恐れがある。そのような観点から非磁性層10の膜厚は5nm以下であることが望ましい。強磁性層11は、膜面に垂直方向に磁化容易軸を有する強磁性材料から構成される。強磁性層11は、参照層に比べて記憶層から離れているため、記憶層に印加される漏れ磁場を強磁性層11によって調整するためには、強磁性層11の膜厚、あるいは飽和磁化Msの大きさを参照層のそれらより大きく設定する必要がある。すなわち、本発明者達の研究結果によれば、参照層の膜厚、飽和磁化をそれぞれt2、Ms2、強磁性層11の膜厚、飽和磁化をそれぞれt3、Ms3、とすると、以下の関係式を満たす必要がある。
Ms2×t2<Ms3×t3
なお、第5実施形態で説明した強磁性層11は、第1乃至第4実施形態のいずれかの磁気抵抗素子にも適用することができる。この場合、参照層となる強磁性層上に非磁性層10を間に挟んで積層される。
(変形例)
なお、第5実施形態では、下地層100上に、強磁性層2、中間層5、界面磁性層3、非磁性層4、界面磁性層6、強磁性層8、非磁性層10、および強磁性層11がこの順序で積層された、上バイアス構造を有している。しかし、強磁性層11は下地層100の下に積層されていてもよい。すなわち、図8に示す第5実施形態の一変形例による磁気抵抗素子1Eのように、強磁性層11上に、下地層100、強磁性層2、中間層5、界面磁性層3、非磁性層4、界面磁性層6、および強磁性層8がこの順序で積層された下バイアス構造であってもよい。この場合、強磁性層2を参照層として用いることが好ましい。
また、図9に示す第5実施形態の他の変形例による磁気抵抗素子1Fのように、積層順序は逆であってもよい。すなわち、下地層100、強磁性層11、非磁性層10、強磁性層2、中間層5、界面磁性層3、非磁性層4、界面磁性層6、および強磁性層8の順序で積層されていてもよい。
上記いずれの変形例においても、第5実施形態で記述したように、記憶層に印加される強磁性層11による漏れ磁場量と参照層による漏れ磁場量を同程度に設定する必要がある。すなわち、記憶層とシフト調整層の距離が、記憶層と参照層との距離に比べて短い場合は、シフト調整層の総磁化量<参照層の総磁化量の関係式を満たす必要がある。一方、記憶層とシフト調整層の距離が、記憶層と参照層との距離に比べて長い場合は、シフト調整層の総磁化量>参照層の総磁化量の関係式を満たす必要がある。
第5実施形態およびその変形例によれば、第2実施形態と同様に、低い飽和磁化、低い磁気摩擦定数かつ高い垂直磁気異方性を有する磁性層を用いた、高い磁気抵抗比を持った磁気抵抗素子を提供することができる。
(単結晶構造の磁性膜を有するMTJ素子)
次に、単結晶構造の磁性膜を有するMTJ素子(以下、単結晶MTJ素子ともいう)の製造方法について説明する。第1乃至第5実施形態およびそれらの変形例のいずれかの磁気抵抗素子(MTJ素子)は、強磁性層2、強磁性層8、界面磁性層3、および界面磁性層6のうちの少なくとも一つが単結晶構造を備えていることが好ましい。これは、膜面内方向の結晶配向が一方向にそろった単結晶構造の磁性膜を形成することにより、膜面内の磁気結合が強くなることで磁気特性のばらつきを大幅に抑制できるからである。また、結晶粒界の形成が抑制されるので原子レベルで平坦であり且つ結晶性の良い磁性膜や絶縁層を形成できるので従来のMTJ素子に比べより大きな磁気抵抗比(MR比)が得られることも期待できる。したがって数十Gbitの大容量MRAMの実現のためには単結晶MTJ素子の製造が必要となる。
しかし、基板上に形成された回路の配線は一般に多結晶或いはアモルファス構造を有するために、回路が形成された基板上に単結晶膜を成長させることはできない。したがって、トランジスタが組み込まれた基板上に単結晶MTJ素子を形成することは難しい。
しかし、単結晶MTJ素子とトランジスタが形成された基板をそれぞれ準備し、上記単結晶基板上に形成したMTJ素子とトランジスタ等を作製した基板とを貼り合わせた後、不要な単結晶基板を除去することにより単結晶MTJ素子を備えたMRAMを構築することができる。これを図10(a)乃至図11(c)を参照して説明する。
具体的には、まず上記第1乃至第5実施形態のいずれかのMTJ素子を適切な成膜条件の下でSi単結晶基板上に形成する。例えば、第1実施形態のMTJ素子1を製造する場合を例にとって説明する。まず、図10(a)に示すように、Si単結晶基板200上に、下地層100、強磁性層2、中間層5、界面磁性層3、非磁性層4、および強磁性層8を、スパッタ法またはMBE(Molecular Beam Epitaxy)法を用いてこの順序で形成し、図3に示すMTJ素子1を得る。このとき、Si単結晶基板200の結晶性が下地層100、強磁性層2に伝わり、形成されたMTJ素子1は単結晶層を少なくとも1つ含む単結晶MTJ素子となる。その後、強磁性層8上に金属接着層20aを形成する(図10(a))。同様に、トランジスタ回路および配線が形成された基板220を用意し、この基板220上に金属接着層20bを形成する(図10(a))。金属接着層20a、20bとしてはAl、Au、Cu、Ti、Taなどの金属層が挙げられる。
次に、単結晶MTJ素子1が形成された基板200と、トランジスタ回路が形成された基板220とを、金属接着層20a、20bが対向するように配置する。その後、図10(b)に示すように、金属接着層20a、20bを接触させる。このとき、加重を加えることで金属接着層20a、20bを貼り合わせることができる。接着力を上げるために加重を加える際に加熱しても良い。
次に、図11(a)に示すように、単結晶MTJ素子1が形成された単結晶基板200を除去する。この除去は、まず、例えばBSG(Back Side Grinder)法を用いて、薄くする。その後、図11(b)に示すように、薄くした単結晶基板200をCMP(Chemical Mechanical Polishing)法などにより機械的に研磨し、除去する。これにより、MTJ素子1を完成する(図11(c))。
このように、単結晶基板200上に形成された上記第1乃至第5実施形態のいずれかの単結晶MTJ素子と、トランジスタ回路が形成された基板220をそれぞれ準備し、単結晶MTJ素子1上にトランジスタ等を作製した基板を貼り合わせ、その後、不要な単結晶基板200を除去する一連の製造方法を用いることにより、上記第1乃至第5実施形態のいずれかの単結晶MTJ素子を作製することができる。
次に、第1乃至第5実施形態およびそれらの変形例によるMTJ素子に含まれる各層の具体的な構成を、強磁性層2、中間層5、強磁性層8、下地層100、非磁性層4、界面磁性層3、界面磁性層6の順に説明する。ここで、強磁性層2は記憶層、強磁性層8は参照層、界面磁性層3は記憶層側界面層、界面磁性層6は参照層側界面層として具体例を説明する。しかし、必ずしも記憶層が積層構造の下側に配置されるとは限らない。すなわち、強磁性層2を参照層、強磁性層8を記憶層、界面磁性層3を参照層側界面層、界面磁性層6を記憶層側界面層としても良い。
(強磁性層2)
強磁性層2は垂直磁化を有し、かつ高い熱擾乱耐性と低電流での磁化反転とを両立するためには、飽和磁化Msが小さく、熱擾乱指数Δを維持するに足る高い磁気異方性エネルギーKuを持ち、また、強磁性層8で用いる磁性材料よりも低い、保磁力や異方性磁界あるいは磁気摩擦定数を示す磁性材料であることが好ましい。更に高分極率を示す磁性材料であることが好ましい。
以下により具体的に説明する。
強磁性層2の第1具体例としては、Mnと、Al、Ge、Gaから選択される少なくとも1つの元素と、を含む磁性層が挙げられる。具体的には、MnGa、MnAl、MnGe、MnAlGeなどが挙げられる。
第2具体例としては、MnおよびGaと、Al、Ge、Ir、Cr、Co、Pt、Ru、Pd、Rh、Ni、Fe、Re、Au、Cu、B、C、P、Gd、Tb、Dyの群から選択される少なくとも1つの元素と、を含む磁性層が挙げられる。具体的には、MnGaAl、MnGaGe、MnGaIr、MnGaCr、MnGaCo、MnGaPt、MnGaRu、MnGaPd、MnGaRh、MnGaNi、MnGaFe、MnGaRe、MnGaAu、MnGaCu、MnGaB、MnGaC、MnGaP、MnGaGd、MnGaTb、MnGaDyなどが挙げられる。
上記の材料の垂直磁気異方性を発現させるためには、c軸を膜面に垂直方向、すなわち(001)配向成長させる必要がある。具体的には下地層100を適切に選択することにより、強磁性層2の結晶配向成長を制御することが可能である。下地層100の詳細については後述する。
第3具体例としては、例えば、Fe、Co、Niから選択される少なくとも1つ以上の元素と、Ru、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Auから選択される少なくとも1つ以上の元素と、を含む合金あるいは積層体である磁性膜が挙げられる。積層体の具体例として、Co/Pt人工格子、Co/Pd人工格子、Co/Ru人工格子、Co/Au人工格子などが挙げられる。これらの人工格子は、強磁性層への元素の添加、強磁性層と非磁性層の膜厚比を調整することで、垂直磁気異方性、および飽和磁化を調整することができる。また、合金の具体例として、FeRh、FePt、FePd、CoPtなどの強磁性合金が挙げられる。
ここで低電流の磁化反転を実現するためには、強磁性層2の膜厚を出来るだけ薄くする必要がある。そのような観点では、1nm〜5nmの範囲にあることが好ましい。しかし、結晶磁気異方性により高い熱擾乱指数Δを得ることができる結晶系材料においては、薄膜化することで異方性低下の問題点も浮上する。そのような観点では、薄膜の膜厚は、結晶化臨界膜厚以上10nm以下の膜厚であることが望ましい。
(中間層5)
中間層5として、磁性層2を構成する元素と共通の元素を2種類以上含むアモルファス層を用いることが好ましい。作製方法は後述する。ここでのアモルファス(非晶質)構造とは、結晶のように長距離秩序(周期的構造)がないことを意味する。ただし、短距離秩序はあっても良い。また、本発明の一実施形態では、直径が2nm以下の平均結晶粒を有する多結晶膜も含むこととする。これは厳密に構造が結晶質かアモルファス構造かを決定できない場合が多いからである。そのような観点により、本発明の一実施形態では、中間層5の結晶性が磁性層2よりも低い場合も含むこととする。ここで結晶性を判断する指標として、例えば、規則系の金属間化合物の場合、規則度などが挙げられる。結晶分析方法については後述する。
中間層5の適当な膜厚は、磁気抵抗素子の積層構造によって異なる。例えば、第1および第2実施形態のように非磁性層4/界面磁性層3/中間層5/強磁性層2の積層構造を有する場合は、中間層5はアモルファス層が層状に形成できる程度に厚く、強磁性層2と界面磁性層3との磁気的結合が切れない程度に薄いことが望まれる。そのような観点では、0.1nm〜5nmであることが好ましい。
一方、第3および第4実施形態のように非磁性層4/中間層5/強磁性層2の積層構造を有する場合は、中間層5はアモルファス層が層状に形成できる程度に厚いほうが好ましく、強磁性層2のバンド構造を反映できる程度に薄いことが望まれる。そのような観点では0.1nm〜1nmであることが好ましい。
中間層5が強磁性層2を構成する元素と共通の元素を2種類以上含むと、中間層5と強磁性層2との界面の濡れ性が向上し、平坦性の良い中間層5が得られる利点がある。その結果、中間層5の直上に設けられる界面磁性層3または非磁性層(トンネルバリア層)4の平坦性も向上する。これにより、これらの中間層5または界面磁性層3と、トンネルバリア層4との接合界面およびトンネルバリア層とその直上に形成される磁性層との接合界面が乱れなく理想的に形成され、それにより高い磁気抵抗比を得ることができる。
中間層5がアモルファス構造である意義は磁気抵抗素子の積層構造によって異なる。例えば、第1および第2実施形態のように非磁性層4/界面磁性層3/中間層5/強磁性層2の積層構造を有する場合は、中間層5がアモルファス層であると、界面磁性層3は結晶性磁性層2からの結晶配向の影響を受けずにアモルファス層として成長する。更に、非磁性層4は強い自己配向性を有する材料であるために、アモルファス状態の界面磁性層3上に良質な結晶性非磁性層として成長する。その後、アニールにより、結晶性非磁性層4をテンプレートとして、非磁性層4と界面磁性層3はエピタキシャル関係を構築しながら界面磁性層3の結晶化が促進される。
もし、中間層5がアモルファス層でないとすると、界面磁性層3は、成膜時やアニール処理後に、結晶性磁性層2および中間層5からの結晶配向の影響を受けて成長するために、所望の配向状態を実現できない可能性がある。更に、その影響を受けて成長する非磁性層4もトンネル電子の選択性の観点で、望ましくない結晶配向状態を一部含む状態で結晶化する可能性が生じてくる。
以上の理由により、第1および第2実施形態のような積層構造を有する場合は、中間層5はアモルファス層であることが望ましい。
一方、第3および第4実施形態のように非磁性層4/中間層5/強磁性層2の積層構造を有する場合は、極薄のアモルファス中間層5は上述しているように非常に平坦性の良い層であるために、非磁性層4は非常に平坦でかつ自己配向的に良質な結晶配向膜となって成長する。更に、結晶であるがゆえに発生していた格子ミスマッチの概念そのものがなくなるために、界面における転位などが生成されないという利点がある。ここで、極薄のアモルファス中間層5は成膜時にアモルファス構造になっていることが重要な点として挙げられる。すなわち、その後の過程で熱処理を施した際に、極薄のアモルファス層が結晶化していても良いこととする。
以上説明したように、強磁性層2を構成する元素と共通の元素を2種類以上含むアモルファス中間層5の適用により、理想的な界面を有し結晶性の良い非磁性層4を形成でき、かつ結晶性の良い界面磁性層を形成できる。そのためトンネル電子の波数選択性を向上させることができるため、大きな磁気抵抗比を得ることが可能となる。すなわち、低い飽和磁化、低い磁気摩擦定数かつ高い垂直磁気異方性を有する磁性層を用いた、高磁気抵抗比の磁気抵抗素子を提供することができる。
以下に、中間層5の構成材料をより具体的に説明する。中間層5は、基本的には強磁性層2を構成する元素と共通の元素を2種類以上含む。なお、上述しているように、強磁性層2と界面磁性層3は中間層5を介して磁気的に結合していることが望ましいが、中間層5は磁性層または非磁性層のいずれでも構わない。特に以下に挙げる具体例は合金の組成比により磁性層または非磁性層のいずれにもなり得る。強い磁気的結合を得るという観点では非磁性層である方が、より好ましい。
中間層5の第1具体例としては、MnとAl、Ge、Gaから選択される少なくとも1つの元素を含む合金が挙げられる。具体的には、MnGa、MnAl、MnGe、MnAlGeなどが挙げられる。
第2具体例としては、MnおよびGaと、Al、Ge、Ir、Cr、Co、Pt、Ru、Pd、Rh、Ni、Fe、Re、Au、Cu、B、C、P、Gd、Tb、Dyの群から選択される少なくとも1つの元素と、を含む合金が挙げられる。具体的には、MnGaAl、MnGaGe、MnGaIr、MnGaCr、MnGaCo、MnGaPt、MnGaRu、MnGaPd、MnGaRh、MnGaNi、MnGaFe、MnGaRe、MnGaAu、MnGaCu、MnGaB、MnGaC、MnGaP、MnGaGd、MnGaTb、MnGaDyなどが挙げられる。
第3具体例としては、例えば、Fe、Co、Niから選択される少なくとも1つ以上の元素と、Ru、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Auから選択される少なくとも1つ以上の元素を含む合金あるいは積層体が挙げられる。積層体の具体例として、Co/Pt人工格子、Co/Pd人工格子、Co/Ru人工格子、Co/Au人工格子などが挙げられる。また、合金の具体例として、FeRh、FePt、FePd、CoPtなどが挙げられる。
(結晶分析方法)
中間層5はアモルファス構造を有していることが好ましい。このアモルファス構造の分析方法の一例について説明する。以下に記載する分析方法を用いることで、中間層5がアモルファス構造を有しているか判断が可能である。
分析方法の第1具体例としては、TEM(Transmission Electron Microscope)による構造解析法が挙げられる。TEMにより、結晶パターン、格子欠陥の存在および結晶の配向方位などの情報が得られる。また、電子線回折パターンも併せて取得することで、原子レベルでの組織構造や結晶構造を得ることが可能である。
分析方法の第2具体例としては、HAADF−STEM(High-angle Annular Dark Field Scanning TEM)が挙げられる。この分析方法は原子に照射し散乱した電子を検出するために、原子量に比例したコントラストが得られる。
第3具体例としては、XAFS(X-ray Absorption Fine Structure)法、EXAFS(Extended X-ray Absorption Fine Structure)法、XANES(X-ray Absorption Near Edge Structure)法が挙げられる。これらの分析方法では、化学状態分析や構造解析が可能である。また、この第3具体例において検出方式を変更し、分析深さ(表面、バルク)を選択することで、非破壊で深さ方向の化学状態分析が可能である。
(作製方法)
中間層5はアモルファス構造を有し、かつ平坦性に優れた層であることが好ましい。その作製方法について説明する。以下に記載する作製方法を用いることで、強磁性層2上に所望の中間層5を作製することが可能である。
作製方法の第1具体例としては、スパッタ法もしくはMBE法が挙げられる。中間層5は0.1nm〜5nm程度と非常に薄い膜厚でかつ、平坦な膜質が望ましいために、成膜レートが重要な意味を持つ。すなわち、例えばスパッタ法では、成膜中の投入電力やガス圧を調整することにより、0.4Å/sec以下の成膜レートに調整することが望ましい。また、中間層5はアモルファス構造を有することが好ましい。下地となる強磁性層2は中間層5と少なくとも2種以上の元素が共通し、結晶性であるため、出来るだけ低エネルギーで成膜しなければアモルファス構造にならない。すなわち、加熱成膜よりも室温成膜が望ましい。
一例として、強磁性層2がMnGaである場合、中間層5は非晶質MnGaであることが好ましい。そこで、MnGaの非晶質層の作製方法を記述する。MnGaは上述した低エネルギー成膜方法に加え、その組成領域も結晶化に大きな影響を与える。本発明者達の研究によると、MnリッチかつGaプアーな組成領域において結晶化が生じやすい。すなわち、成膜によりMnGaの非晶質層を得るという観点では、MnプアーかつGaリッチな組成領域がより適している。更にアモルファスの熱的安定性という観点でも、MnプアーかつGaリッチな組成領域の方が結晶化しにくいので適している。ただし、これらの記載は組成範囲を限定するわけではなく、上述したように成膜条件を工夫することで他の組成領域においても非晶質膜を得ることは可能である。
他の例として、強磁性層2がFePdである場合、中間層5はFeとPdを含んだ非晶質層であることが好ましい。そこでFePd非晶質膜の作製法を記述する。FePdは結晶化し易い材料であるため、上述した低エネルギー成膜方法で非晶質層を得ることは困難な材料である。このような結晶化し易い材料をアモルファス化させたい場合、ある一定以上の軽元素を含有させることが有効である。具体例として、B、C、P等の軽元素を含むことが好ましく、例えばFePdB、FePdC、FePdPなどが挙げられる。軽元素の含有量として20%程度以上あることがより望ましい。以上のように、FePdに軽元素を含有させることで、より効果的にアモルファス中間層を得ることが出来る。ここで、FePdと同等の効果が得られる材料として、Co/Pt人工格子、Co/Pd人工格子、Co/Ru人工格子、Co/Au人工格子や、FeRh、FePt、CoPt、CoPdなども挙げられる。
作製方法の第2具体例としては、強磁性層2をエッチングする方法が挙げられる。中間層5は、強磁性層2の構成元素のうち2種以上が共通しているため、強磁性層2をエッチングすることで中間層5を得ることが可能である。中間層5のアモルファス構造は、エッチングダメージにより強磁性層2の結晶構造を崩すことで得られる。また、中間層5の膜厚の制御はエッチング時の加速電圧の制御により可能である。このとき得られる中間層5は、選択エッチングの影響で強磁性層2と組成比が変化することもあり得る。具体的には、例えば、スパッタリング収率が影響する。例えば、スパッタリング収率が大きい元素Aと小さい元素Bとからなる合金膜ABから構成された強磁性層2をエッチングする場合、選択的エッチングの影響で中間層5は強磁性層2の組成比に比べて元素Aが相対的に少ない側へ、元素Bが相対的に多い側へ組成が変化する。より具体的には、強磁性層2がMnGaで構成されている場合、エッチングにより形成した中間層5は、MnのほうがGaよりもスパッタリング収率が大きいため、Mn1−xGa1+x(x>0)という、MnがプアーでGaがリッチな組成に変化し得る。なお、スパッタリング収率は、構成する元素で決定されるわけでなく、エッチングするときの加速電圧、雰囲気ガス種などによって変化するので、構成する元素から一意的に決まらないことに注意が必要である。
以上の作製方法により、得られた中間層/磁性層/下地層の積層構造の断面のTEM像の一例を図12に示す。ここでの中間層の膜厚は1nm程度である。図12からも明らかに分かるように、下地層および磁性層は結晶性であるのに対し、中間層はアモルファス構造でかつ非常に平坦な膜が得られている。
(強磁性層8)
強磁性層8は膜面に対して垂直方向に磁化容易軸を有し、熱擾乱指数Δを維持するに足る高い磁気異方性エネルギーKuを持ち、かつ、強磁性層2で用いる材料よりも高い、保磁力、異方性磁界、あるいは磁気摩擦定数を示す磁性材料であることが好ましい。また、参照層からの漏れ磁場の影響を低減するために、低飽和磁化Msな材料ほど好ましく、更に高分極率を示す磁性材料であることが好ましい。以下に、より具体的に説明する。
強磁性層8の第1具体例としては、Mnと、Al、Ge、Gaから選択される少なくとも1つの元素とを含む磁性層が挙げられる。具体的には、MnGa、MnAl、MnGe、MnAlGeなどが挙げられる。
第2具体例としては、MnおよびGaと、Al、Ge、Ir、Cr、Co、Pt、Ru、Pd、Rh、Ni、Fe、Re、Au、Cu、B、C、P、Gd、Tb、Dyの群から選択される少なくとも1つの元素と、を含む磁性層が挙げられる。具体的には、MnGaAl、MnGaGe、MnGaIr、MnGaCr、MnGaCo、MnGaPt、MnGaRu、MnGaPd、MnGaRh、MnGaNi、MnGaFe、MnGaRe、MnGaAu、MnGaCu、MnGaB、MnGaC、MnGaP、MnGaGd、MnGaTb、MnGaDyなどが挙げられる。
上記の材料の垂直磁気異方性を発現させるためには、c軸を膜面に垂直方向、すなわち(001)配向成長させる必要がある。具体的には非磁性層4や界面磁性層6を適切に選択することにより、強磁性層8の結晶配向成長を制御することが可能である。非磁性層4や界面磁性層6の詳細については後述する。
強磁性層8に用いられる材料としては、例えば、面心立方構造(FCC)の(111)あるいは六方最密充填構造(HCP)の(0001)に結晶配向した金属、または人工格子を形成しうる金属、を含む合金が用いられる。FCCの(111)あるいはHCPの(0001)に結晶配向した金属としては、Fe、Co、Ni、およびCuからなる群から選ばれる1つ以上の元素と、Pt、Pd、Rh、およびAuからなる群から選ばれる1つ以上の元素とを含む合金が挙げられる。具体的には、CoPd、CoPt、NiCo、NiPtなどの強磁性合金が挙げられる。
また、強磁性層8に用いられる人工格子としては、Fe、Co、およびNiの群から選択された1つの元素を含む合金(強磁性膜)と、Cr、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Os、Re、Au、およびCuの群から選択された1つの元素を含む合金(非磁性膜)と、が交互に積層された構造が挙げられる。例えば、Co/Pt人工格子、Co/Pd人工格子、CoCr/Pt人工格子、Co/Ru人工格子、Co/Os人工格子、Co/Au人工格子、Ni/Cu人工格子などが挙げられる。これらの人工格子は、強磁性膜への元素の添加、強磁性膜と非磁性膜の膜厚比を調整することで、垂直磁気異方性や飽和磁化を調整することができる。
また、強磁性層8に用いられる材料としては、遷移金属Fe、Co、Niの群と、希土類金属Tb、Dy、Gdの群からそれぞれ選択された少なくとも1つの元素を含む合金が挙げられる。例えば、TbFe、TbCo、TbFeCo、DyTbFeCo、GdTbCoなどが挙げられる。また、これらの合金を交互に積層させた多層構造であってもよい。具体的にはTbFe/Co、TbCo/Fe、TbFeCo/CoFe、DyFe/Co、DyCo/Fe、DyFeCo/CoFeなどの多層膜が挙げられる。これらの合金は、膜厚比や組成を調整することで垂直磁気異方性や飽和磁化を調整することができる。
また、強磁性層8に用いられる材料としては、Fe、Co、Ni、およびCuからなる群から選ばれる1つ以上の元素と、Pt、Pd、Rh、およびAuからなる群から選ばれる1つ以上の元素とを含む合金が挙げられる。具体的には、FeRh、FePt、FePd、CoPtなどの強磁性合金が挙げられる。
(下地層100)
下地層100は、強磁性層2および強磁性層2より上の層の結晶配向性、結晶粒径などの結晶性を制御するために用いられる。そのため、下地層100の材料の選択が重要となる。以下に下地層100の材料および構成について説明する。なお、下地層としては、導電性および絶縁性のいずれでもよいが、下地層に通電する場合には導電性材料を用いることが好ましい。
まず、下地層100の第1具体例として、(001)配向したNaCl構造を有し、かつTi、Zr、Nb、V、Hf、Ta、Mo、W、B、Al、およびCeからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む窒化物の層が挙げられる。
下地層100の第2具体例として、ABO3からなる(002)配向したペロブスカイト系酸化物の層が挙げられる。ここで、サイトAはSr、Ce、Dy、La、K、Ca、Na、Pb、およびBaからなる群から選択された少なくとも1つの元素を含み、サイトBはTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Nb、Mo、Ru、Ir、Ta、Ce、およびPbからなる群から選択された少なくとも1つの元素を含む。
下地層100の第3具体例として、(001)配向したNaCl構造を有し、かつMg、Al、およびCeからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物の層が挙げられる。
下地層100の第4具体例として、(001)配向した正方晶構造または立方晶構造を有し、かつAl、Cr、Fe、Co、Ni、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Mo、およびWからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む層が挙げられる。
下地層100の第5具体例として、上記第1乃至第4の例のいずれかの層を組み合わせて2層以上積層した積層構造が挙げられる。このように、下地層の構成を工夫することにより強磁性層2および強磁性層2よりも上の層の結晶性を制御でき磁気特性の改善が可能となる。
(非磁性層4)
非磁性層4は、導電性および絶縁性のいずれでもよいが、絶縁材料から形成されたトンネルバリア層を用いることが好ましい。非磁性層4は、隣接する強磁性層または界面磁性層との適切な組み合わせにより、選択的なトンネル伝導と高い磁気抵抗比が実現できる。そのため、非磁性層4の材料の選択が重要となる。以下に非磁性層4の材料について説明する。
トンネルバリア層4の第1具体例としては、Mg、Ca、Ba、Al、Be、Sr、Zn、Ti、V、およびNbからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物が挙げられる。具体的には、MgO、AlO、ZnO、SrO、BaO、またはTiOなどが挙げられる。特に結晶構造として、NaCl構造を有する酸化物が好ましい。具体的にはMgO、CaO、SrO、BaO、TiO、VO、またはNbOなどが挙げられる。これらのNaCl構造を有する酸化物は、Fe、Co、およびNiのいずれか、あるいはその2種以上を主成分として含む合金上、あるいは体心立方構造で(001)優先配向する金属のいずれか、あるいはその2種以上を主成分として含む合金上、あるいはMnと、Al、Ge、Gaから選択される少なくとも1つの元素を含む合金の(001)面上で結晶成長させると、(001)面を優先配向面として成長しやすい。特に、B、C、N、Ti、Ta、P、Mo、Si、W、およびNbのいずれかの元素を微量に添加してアモルファス性を促進させたCoFe−Xアモルファス合金上では、非常に容易に(001)面を優先配向させることが可能である。ここで、Xは、添加したB、C、N等の元素を示す。
トンネルバリア層4は、上述の酸化物の群から選択される2つ以上の材料の混晶物あるいはこれらの積層構造であってもよい。混晶物の例としては、MgAlO、MgZnO、MgTiO、MgCaOなどである。二層積層構造の例としては、MgO/ZnO、MgO/AlO、TiO/AlO、MgAlO/MgOなどが挙げられる。三層積層構造の例としては、AlO/MgO/AlO、ZnO/MgO/ZnO、MgAlO/MgO/MgAlOなどが挙げられる。
トンネルバリア層4の第2具体例として、ABO3からなる(002)配向したペロブスカイト系酸化物が挙げられる。ここで、サイトAはSr、Ce、Dy、La、K、Ca、Na、Pb、およびBaからなる群から選択された少なくとも1つの元素を含み、サイトBはTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Nb、Mo、Ru、Ir、Ta、Ce、およびPbからなる群から選択された少なくとも1つの元素を含む。具体的には、SrTiO3、SrRuO3、SrNbO3、BaTiO3、またはPbTiO3などが挙げられる。これらの酸化物は[100]面の格子定数が3.7Å〜4.0Å程度であり、例えばMnGa合金の[100]面の格子定数3.9Å程度との格子整合が良いことから、良質な界面を形成し、大きな磁気抵抗比を得るという観点で適している。
トンネルバリア層4の第3具体例として、スピネル系酸化物MgAlOが挙げられる。スピネル構造を有するMgAl2O4は格子定数が4.05Å程度であり、例えばMnGa合金の[100]面の格子定数3.9Å程度との格子ミスマッチが比較的小さい。そのため、良質な界面を形成し、大きな磁気抵抗比を得るという観点で適している。
トンネルバリア層4は、結晶質およびアモルファスのいずれであっても構わない。しかし、トンネルバリア層4が結晶化している場合、トンネルバリア中での電子の散乱が抑制されるため電子が強磁性層から波数を保存したまま選択的にトンネル伝導する確率が増え、磁気抵抗比を大きくすることができる。したがって、大きな磁気抵抗比を得るという観点においては、トンネルバリア層は、結晶質トンネルバリアである方が望ましい。
(界面磁性層3)
界面磁性層3は垂直磁化膜であり、かつ低電流での磁化反転を両立するためには、熱擾乱指数Δを維持するに足る高い磁気異方性エネルギーKuを持ち、また、高分極率を示す材料であることが好ましい。更に低い磁気摩擦定数を有することが好ましい。このような要請を満たす材料を以下に、より具体的に説明する。
界面磁性層3の具体例は、FeおよびCoからなる群から選択された少なくとも1つの金属よりなる合金が挙げられる。このとき、例えば、CoFeからなる界面磁性層、MgOからなる非磁性層、CoFeからなる界面磁性層とした場合に、CoFe(001)/MgO(001)/CoFe(001)の配向関係を作ることができる。この場合、トンネル電子の波数選択性を向上させることができるため、大きな磁気抵抗比を得ることが可能となる。なお、界面磁性層3の飽和磁化を制御するために、界面磁性層3にNi、B、C、P、Ta、Ti、Mo、Si、W、Nb、Mn、およびGeからなる群から選択された少なくとも1つの元素を添加してもよい。すなわち、界面磁性層3は、FeおよびCoからなる群から選択された少なくとも1つの元素と、Ni、B、C、P、Ta、Ti、Mo、Si、W、Nb、Mn、およびGeからなる群から選択された少なくとも1つの元素とを含む合金であってもよい。例えば、CoFeBの他に、CoFeSi、CoFeP、CoFeW、CoFeNb等が挙げられ、これらの合金は、CoFeBと同等のスピン分極率を有している。
一般に、磁気摩擦定数(ダンピングファクタ)は材料のスピン軌道相互作用の大きさと相関があり、原子番号の大きな元素を有する材料ではスピン軌道相互作用が大きく、磁気摩擦定数も大きい。FeおよびCoからなる群から選択された少なくとも1つの金属よりなる合金は軽元素で構成されている材料であるため磁気摩擦定数が小さい。したがって、磁化反転に必要なエネルギーが少なくて済み、スピン偏極した電子によって磁化を反転させるための電流密度を大幅に低減できることから、特に界面磁性層3へ効果的に適用可能である。
なお、界面磁性層3が非磁性層4に対してエピタキシャル成長していれば大きな磁気抵抗比を得ることができるので、非磁性層4と接する界面磁性層3は膜面に垂直方向に伸び縮みしていてもよい。
(界面磁性層6)
界面磁性層6は垂直磁化膜であり、かつ高い熱擾乱指数Δを維持するに足る高い磁気異方性エネルギーKuを持ち、また、高分極率を示す材料であることが好ましい。更に、参照層側界面磁性層として機能する場合には、記憶層への漏れ磁場低減の観点から、低飽和磁化であることが望ましく、記憶層側界面磁性層として機能する場合には、低電流での磁化反転の観点から、低磁気摩擦定数であることが望ましい。このような要請を満たす材料を以下に、より具体的に説明する。
界面磁性層6の第1具体例として、MnGa合金が挙げられる。更に、飽和磁化、垂直磁気異方性、磁気摩擦定数、スピン分極率制御の観点から、Al、Ge、Ir、Cr、Co、Pt、Ru、Pd、Rh、Ni、Fe、Re、Au、Cu、B、C、P、Gd、Tb、Dyの群から選択される少なくとも1つの元素を添加しても良い。すなわち、MnとGaと、Al、Ge、Ir、Cr、Co、Pt、Ru、Pd、Rh、Ni、Fe、Re、Au、Cu、B、C、P、Gd、Tb、Dyの群から選択される少なくとも1つの元素を含むMnGaX磁性膜が挙げられる。具体的には、MnGaAl、MnGaGe、MnGaIr、MnGaCr、MnGaCo、MnGaPt、MnGaRu、MnGaPd、MnGaRh、MnGaNi、MnGaFe、MnGaRe、MnGaAu、MnGaCu、MnGaB、MnGaC、MnGaP、MnGaGd、MnGaTb、およびMnGaDyなどが挙げられる。
界面磁性層6の第2具体例として、MnGe合金が挙げられる。MnGe合金は(001)方向に上向きスピン、あるいは下向きスピンのどちらか一方のスピンバンドに対してエネルギーギャップが存在するためにハーフメタリックな特性を持ち、高スピン分極率を有し、これにより大きな磁気抵抗比を得ることが可能となる。
界面磁性層6の第3具体例として、Mn、Fe、Co、およびNiからなる群から選択される1つの元素と、Zn、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、As、Sb、およびBiからなる群から選択される2つ以上の元素とを含む合金でもよい。具体的には、MnAlGeやMnZnSbなどが挙げられる。
界面磁性層6の第4具体例として、MnAl合金が挙げられる。MnAl合金は軽元素で構成されている材料であるため磁気摩擦定数が小さい。したがって、磁化反転に必要なエネルギーが少なくて済むため、スピン偏極した電子によって磁化を反転させるための電流密度を大幅に低減できる。また、MnAl合金は(001)方向に上向きスピン、あるいは下向きスピンのどちらか一方のスピンバンドに対してエネルギーギャップが存在するためにハーフメタリックな特性を持ち、高スピン分極率を有し、これにより大きな磁気抵抗比を得ることが可能となる。
上述したMnGa、MnGaX、MnGe、MnAlGe、MnZnSb、およびMnAlなどは適切な組成範囲において、磁化膜としての特性を発現する。垂直磁気異方性を発現させるためには、c軸を膜面に垂直方向、すなわち(001)配向成長させる必要がある。具体的には非磁性層4を適切に選択することにより、界面磁性層6の結晶配向成長を制御することが可能である。
界面磁性層6の第5具体例として、FeおよびCoからなる群から選択された少なくとも1つの金属よりなる合金が挙げられる。なお、界面磁性層6の飽和磁化を制御するために、界面磁性層6にNi、B、C、P、Ta、Ti、Mo、Si、W、Nb、Mn、Al、およびGeからなる群から選択された少なくとも1つの元素を添加してもよい。すなわち、界面磁性層6は、FeおよびCoからなる群から選択された少なくとも1つの元素と、Ni、B、C、P、Ta、Ti、Mo、Si、W、Nb、Mn、Al、およびGeからなる群から選択された少なくとも1つの元素とを含む合金であってもよい。例えば、CoFeBの他に、CoFeSi、CoFeP、CoFeW、CoFeNb等が挙げられ、これらの合金は、CoFeBと同等のスピン分極率を有している。また、Co2FeSi、Co2MnSi、Co2MnGe、Co2MnAl、Co2FeAl、Co2(Fe、Mn)Si、Co2(Fe、Mn)Al等のホイスラー金属でもよい。ホイスラー金属はCoFeBと同等かあるいはより高いスピン分極率を有しているため、界面磁性層に適している。
一般に、磁気摩擦定数は材料のスピン軌道相互作用の大きさと相関があり、原子番号の大きな元素を含む材料ではスピン軌道相互作用が大きく、磁気摩擦定数も大きい。上述した具体例は軽元素で構成されている材料であるため磁気摩擦定数が小さい。したがって、磁化反転に必要なエネルギーが少なくて済むため、スピン偏極した電子によって磁化を反転させるための電流密度を大幅に低減できることから、界面磁性層6へ効果的に適用可能である。
なお、界面磁性層6が非磁性層4に対してエピタキシャル成長していれば大きな磁気抵抗比を得ることができるので、非磁性層4と接する界面磁性層6は膜面に垂直方向に伸び縮みしていてもよい。
(第6実施形態)
次に、第6実施形態によるスピン注入書き込み型の磁気メモリ(MRAM)について説明する。
この第6実施形態のMRAMは複数のメモリセルを有している。本実施形態のMRAMの1つのメモリセルの主要部の断面を図13に示す。各メモリセルは、第1乃至第5実施形態およびそれらの変形例のいずれかの磁気抵抗素子を記憶素子として備えている。この第6実施形態では、記憶素子が第1実施形態の磁気抵抗素子(MTJ素子)1である場合を例にとって説明する。
図13に示すように、MTJ素子1の上面は、上部電極31を介してビット線32と接続されている。また、MTJ素子1の下面は、下部電極33、引き出し電極34、およびプラグ35を介して、半導体基板36の表面のソース/ドレイン領域のうちドレイン領域37aと接続されている。ドレイン領域37aは、ソース領域37b、基板36上に形成されたゲート絶縁膜38、ゲート絶縁膜38上に形成されたゲート電極39と共に、選択トランジスタTrを構成する。選択トランジスタTrとMTJ素子1とは、MRAMの1つのメモリセルを構成する。ソース領域37bは、プラグ41を介してもう1つのビット線42と接続されている。なお、引き出し電極34を用いずに、下部電極33の下方にプラグ35が設けられ、下部電極33とプラグ35が直接接続されていてもよい。ビット線32、42、電極31、33、引き出し電極34、プラグ35、41は、W、Al、AlCu、Cu等から形成されている。
本実施形態のMRAMにおいては、図13に示す1つのメモリセルが例えば行列状に複数個設けられることにより、MRAMのメモリセルアレイが形成される。図14は、本実施形態のMRAMの主要部を示す回路図である。
図14に示すように、MTJ素子1と選択トランジスタTrとからなる複数のメモリセル53が行列状に配置されている。同じ列に属するメモリセル53の一端子は同一のビット線32と接続され、他端子は同一のビット線42と接続されている。同じ行に属するメモリセル53の選択トランジスタTrのゲート電極(ワード線)39は相互に接続され、さらにロウデコーダ51と接続されている。
ビット線32は、トランジスタ等のスイッチ回路54を介して電流ソース/シンク回路55と接続されている。また、ビット線42は、トランジスタ等のスイッチ回路56を介して電流ソース/シンク回路57と接続されている。電流ソース/シンク回路55、57は、書き込み電流を、接続されたビット線32、42に供給したり、接続されたビット線32、42から引き抜いたりする。
ビット線42は、また、読み出し回路52と接続されている。読み出し回路52は、ビット線32と接続されていてもよい。読み出し回路52は、読み出し電流回路、センスアンプ等を含んでいる。
書き込みの際、書き込み対象のメモリセルと接続されたスイッチ回路54、56および選択トランジスタTrがオンされることにより、対象のメモリセルを介する電流経路が形成される。そして、電流ソース/シンク回路55、57のうち、書き込まれるべき情報に応じて、一方が電流ソースとして機能し、他方が電流シンクとして機能する。この結果、書き込まれるべき情報に応じた方向に書き込み電流が流れる。
書き込み速度としては、数ナノ秒から数マイクロ秒までのパルス幅を有する電流でスピン注入書込みを行うことが可能である。
読み出しの際、書き込みと同様にして指定されたMTJ素子1に、上記読み出し電流回路によって磁化反転を起こさない程度の小さな読み出し電流が供給される。そして、読み出し回路52のセンスアンプは、MTJ素子1の磁化の状態に応じた抵抗値に起因する電流値あるいは電圧値を、参照値と比較することで、その抵抗状態を判定する。
なお、読み出し時は、書き込み時よりも電流パルス幅が短いことが望ましい。これにより、読み出し時の電流での誤書込みが低減される。これは、書き込み電流のパルス幅が短い方が、書き込み電流値の絶対値が大きくなるということに基づいている。
以上説明したように、本実施形態によれば、低い飽和磁化、高い垂直磁気異方性を有し、かつ高磁気抵抗比を持った磁気抵抗素子を備えた磁気メモリを得ることができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。