JP6052134B2 - エンジンの冷却装置 - Google Patents
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Description
燃焼室に近いピストン上死点側は、燃焼サイクルによって燃焼熱を直接的に受けるため、温度が上昇し易く、燃焼室から離れたピストン下死点側は、温度が上昇し難い。
アルミニウム合金製のシリンダブロックの場合、200℃を超える部分では材料強度が劣化する虞があり、周囲との温度差が原因で熱歪が生じる虞もある。
そこで、ウォータジャケット内にシリンダボアを囲繞するスペーサを設け、シリンダボアの冷却性が求められているピストン上死点側の冷却水の流量と流速を確保し、シリンダボアの保温効果が求められているピストン下死点側の冷却水の流量と流速を低下することが行われている。
これにより、ウォータジャケット内のピストン上死点側部分に冷却水を多く流してシリンダボアの軸心方向の均一冷却を図り、冷却水をシリンダライナ回りに所望の一方向(以下、特定配列方向という)に流してシリンダボアの配列方向の均一冷却を図っている。
しかし、特許文献1のエンジンの冷却装置では、スペーサに沿ってシリンダボアの配列方向に流れる冷却水のみに着目し、冷却水導入口からウォータジャケット内に導入された冷却水がスペーサから跳ね返った後の挙動について一切考慮されていないため、ウォータポンプの大容量化等に伴うエンジンの大型化を招く虞がある。
特許文献1のエンジンの冷却装置では、特定配列方向と反対方向に進行する冷却水の流れを仕切体を用いて強制的に遮断することにより、特定配列方向に進行する冷却水のみを許容しているため、冷却水導入口からウォータジャケット内に導入された冷却水に圧力損失が生じる虞がある。
そこで、本発明者は、冷却水導入口からウォータジャケット内に導入された冷却水について、スペーサから跳ね返った冷却水の流れ分布の流体解析を行った。
解析の前提条件として、冷却水がスペーサの壁面に衝突して特定配列方向へ進行する冷却水と反特定配列方向へ進行する冷却水とが生じるように、冷却水導入口をスペーサの冷却水導入口に対応した部分における接線方向と冷却水の導入方向とが交差する位置に配設した。
図15は、スペーサの冷却水導入口に対応した部分の縦断面図を示し、矢印は冷却水の進行方向を示している。
スペーサAから跳ね返った冷却水Wは、シリンダボアの軸心方向において上下方向夫々に分流する。その結果、スペーサの冷却水導入口に対応した部分の上部と下部とに分流した冷却水Wによって流体剥離に伴う渦流が夫々発生し、水平軸回りの上側旋回流F1と下側旋回流F2との2つの旋回流が夫々形成されていることが判明した。
この解析結果によって、これら上側旋回流F1と下側旋回流F2が、特定配列方向へ進行する冷却水Wの進行を阻害する乱れを発生させるため、特定配列方向へ進行する冷却水Wに対して圧力損失の要因になることを知見した。即ち、特許文献1のエンジンの冷却装置では、スペーサの冷却水導入口に対応した部分の上部と下部とに分流した冷却水によって水平軸回りの上側旋回流と下側旋回流とが発生する虞があり、特定配列方向へ進行する冷却水について圧力損失が生じる虞がある。
前記スペーサが、前記スペーサの上端近傍部に沿って全周に亙って延び且つシリンダボアと反対側へ張り出す上側フランジ部と、前記スペーサの下部に沿って全周に亙って延び且つシリンダボアと反対側へ張り出す下側フランジ部と、前記上側フランジ部と下側フランジ部との間に形成され且つ前記スペーサの外周を流れる冷却水をシリンダボア間に流通させる流通部とを備え、前記上側フランジ部と下側フランジ部とで前記スペーサの外周を流れる冷却水の流路面積を制限することを特徴としている。
冷却水の水平軸回りの上側旋回流を所定の容積を用いて確実に堰き止めるため、冷却水の流れに生じる上側の乱れを抑制することができ、冷却水の上側の流れを安定化することができる。また、スペーサの上端部からシリンダボア側へ回り込む冷却水を防止することができる。
そして、冷却水導入方向とスペーサとの交差角度に応じて吸気側と排気側への冷却水の分流比率を整流部を介して設定することができる。
図1,図2に示すように、本実施例に係る多気筒エンジン(以下、エンジンという)Eは、4つのシリンダがクランク軸方向に直列状に配設され、吸気系と排気系とが気筒配列方向に対して互いに向かい合うように配設された直列4気筒エンジンである。このエンジンE1は、車両前部のエンジンルーム(図示略)内に、気筒配列方向が車幅方向と平行になるように配置され、吸気系が車体前方に面し、各気筒のシリンダ軸が上下方向に向くように搭載されている。尚、以下の説明では、左側から順に第1〜第4気筒C1〜C4として説明する。
図1〜図3に示すように、シリンダブロック1は、アルミニウム合金製オープンデッキ型シリンダブロックで構成され、ピストン(図示略)を摺動自在に夫々収容する4つのシリンダライナ12が左右方向(気筒配列方向)に直線状に隣接したサイアミーズ型シリンダライナと、各シリンダライナ12によって夫々形成された4つのシリンダボア13を備えている。サイアミーズ型シリンダライナは、鋳鉄により一体形成され、環状のウォータジャケット11によって囲繞されている。ウォータジャケット11は、平面視にて隣り合うシリンダボア13の間、所謂サイアミーズ部に対応した3ヶ所にくびれを備えた略長円形状を形成している。
冷却水導入口14は、スペーサ4の冷却水導入口14に対応した部分における接線方向と冷却水の導入方向とが交差する位置、具体的には、第1気筒C1の中段部相当位置に対応したスペーサ4の壁部に対して左斜め前側から冷却水を導入可能な位置に設けられている。
尚、スペーサ4の冷却水導入口14に対応した部分における接線方向と冷却水の導入方向との交差角度は、エンジンEの仕様に基づく吸気側と排気側への冷却水の分流比率に応じて適宜設定可能である。つまり、冷却水導入口14から整流部51に導入される冷却水の導入方向がスペーサ4と交差する交差角度に応じて整流部51を介して上記の分流比率を設定可能である。
図1〜図3に示すように、シリンダヘッド2は、アルミニウム合金で形成され、各気筒C1〜C4毎に吸排気ポート22,23、プラグポート26、動弁機構及びインジェクタ(何れも図示略)等を備えている。
ウォータジャケット21は、各気筒C1〜C4の吸排気ポート22,23やプラグポート26等の周囲を覆うように左端部分から右端部分に亙って気筒配列方向全体に形成されている。シリンダヘッド2には、左端部にシリンダブロック1のウォータジャケット11からシリンダヘッド2のウォータジャケット21内へ冷却水を導入するための冷却水導入口24が設けられ、右端部にウォータジャケット21からシリンダヘッド2の外部へ冷却水を導出するための冷却水導出口25が設けられている。
図2に示すように、板金製のガスケット3は、シリンダブロック1のウォータジャケット11にスペーサ4が挿入された状態でシリンダブロック1の上端部分に重ね合わせられ、シリンダブロック1とシリンダヘッド2とを締結ボルト(図示略)により締結することで固定される。
これにより、前後1対の冷却水開口部33と3組の前後1対の第1連通部34と複数の第2連通部35とを介してウォータジャケット11の冷却水をウォータジャケット21へ流すため、シリンダヘッド2の冷却性能を維持することができる。また、前後1対の冷却水開口部33から第1連通部34や第2連通部35よりも大量の冷却水を流すため、ウォータジャケット11内の冷却水を所望の進行方向である右方へ誘導することができる。
図1に示すように、スペーサ4は、シリンダボア13の外周を囲繞してウォータジャケット11の外側壁との間に冷却水を流すための流路S(隙間)を形成している。
スペーサ4は、高温に耐え得る耐熱性と、冷却水の水圧によって変形や破損が生じない剛性を備えた合成樹脂、例えばポリアミド系熱可塑性樹脂(PA66,PPA等)、オレフィン系熱可塑性樹脂(PP)等の樹脂を1つ又は複数種類組み合わせて射出成形可能であり、必要に応じてガラス繊維を配合しても良い。
ガイド部52は、板状に形成されている。これにより、上下方向の旋回流を簡単な構造で堰き止めることができるため、右方へ流れる冷却水の乱れの発生を抑えることができる。
図6〜図11に示すように、導入部53のシリンダボア13側端部には、スペーサ4の外周を流れる冷却水を隣り合うシリンダボア13の間のくびれ部に向けて流通させるための流通部53aが設けられている。流通部53aは、ガスケット3に形成された第1連通部34の直下方位置において導入部53のシリンダボア13側端部の上端部分を一部切り欠いて形成している。これにより、スペーサ4の外周側から流通部53aを通過した冷却水はシリンダボア13間のサイアミーズ部(くびれ部)へ水平状に流れ、その後、第1連通部34を介してサイアミーズ部を冷却した冷却水はシリンダヘッド2へ流れるように案内される。
これにより、スペーサ4の外周側の冷却水の流れをスペーサ4の内周側の冷却水の流れよりも促進できるため、スペーサ4の外周側を流れる冷却水の流速を確保し、スペーサ4の外周側の下端からスペーサ4の内周側へ回り込む冷却水を抑制することができる。
これにより、ウォータジャケット11に導入された冷却水は、本体壁部41とウォータジャケット11の外壁部と上側フランジ部42と下側フランジ部43とによって形成された流路Sを流れる。また、右方に流れる大半の冷却水は、流路面積が前側傾斜部43cによって可及的に絞られるため、冷却水の流速が増加され、これにより流通部53aに誘導される冷却水量が増加されている。
この段付壁部44は、本体壁部41の下端部からウォータジャケット11の外壁部に接近するようにシリンダボア13に対して反対方向へ延びて本体壁部41とウォータジャケット11の外壁部との隙間を狭くするように形成されている。
段付壁部44は、前側部分に、複数の縦リブ71と、貫通孔72とを備えている。
貫通孔72は、寒冷地用エンジンヒータ(図示略)を挿入するための開口である。この貫通孔72は、第4気筒C4の前側下部に対応した位置に形成されている。
この冷却水経路は、シリンダヘッド2の冷却水導出口25とシリンダブロック1の冷却水導入口14へ冷却水を供給するウォータポンプ81とを接続する経路L1と、経路L1の途中部に接続されたバルブユニット82と、バルブユニット82よりも下流側の経路L1に配設された温度センサ84aと、バルブユニット82とラジエータ83の導入部とを接続する経路L2と、ラジエータ83の導出部と温度センサ84aよりも下流側の経路L1とを接続する経路L3と、経路L3に配設された温度センサ84bと、バルブユニット82と温度センサ84bよりも下流側の経路L3とを接続する経路L4と、経路L4の途中部に配設されたATFウォーマ85と、経路L4の途中部にATFウォーマ85と並列状に配設された補助ウォータポンプ86及び空調用ヒータユニット87等を備えている。ATFウォーマ85は、冷却水と自動変速機用オイル(ATF)との熱交換機構である。
第1,第2流量制御弁88,89は、制御装置(図示略)によって制御され、温度センサ84aの検出値に基づいて流通する冷却水量を制御している。
サーモスタット弁90は、冷却水温度が高温となったとき開作動するように設定され、バルブユニット82の第1,第2流量制御弁88,89が全閉状態で故障したときのフェルセーフ機構を構成している。第1流量制御弁88の導出部とサーモスタット弁90の導出部とは、経路L2に接続され、第2流量制御弁89の導出部は、経路L4に接続されている。
半暖機モードでは、第1流量制御弁88及びサーモスタット弁90を閉作動し、第2流量制御弁89を開作動して冷却水の早期昇温を促進している。
完全暖機モードでは、第1,第2流量制御弁88,89及びサーモスタット弁90を開作動して冷却水温度の安定維持を図っている。
図14の冷却水の流れ分布の流体解析結果に示すように、このエンジンEの冷却装置によれば、スペーサ4の冷却水導入口14に対応した部分の上部と下部に生じる水平軸回りの旋回流の発生を簡単な構造で防止できるため、右方及び左方に進行する冷却水の流れに生じる乱れを抑制して冷却水の流れを安定化し、ウォータジャケット11内に導入された冷却水の圧力損失を抑制することができる。
1〕前記実施例においては、スペーサの冷却水導入口に対応した部分の上部に整流部を設けると共に下部に整流部としてのガイド部を設けた例を説明したが、上部と下部のうち冷却水の圧力損失が大きい一方のみに整流部を設けても良い。この場合、整流部を直方体状に形成しても良く、また、板状に形成することも可能である。
2 シリンダヘッド
4 スペーサ
11 ウォータジャケット
13 シリンダボア
14 冷却水導入口
21 (シリンダヘッド側)ウォータジャケット
25 冷却水導出口
42 上側フランジ部
43 下側フランジ部
51 整流部
51b 連通孔
52 ガイド部
53a 流通部
84a 温度センサ
E エンジン
Claims (5)
- シリンダブロックに設けられた複数のシリンダボアの周囲を囲むように形成されたウォータジャケットと、このウォータジャケット内に配置されたスペーサとを備えたエンジンの冷却装置において、
前記シリンダブロックの外部から前記ウォータジャケット内に冷却水を導入する冷却水導入口と、
前記スペーサの前記冷却水導入口に対応した部分の上部と下部のうちの一方から前記冷却水の導入方向上流側に延びる整流部であって、導入された冷却水が前記スペーサに沿って流れることで生じる水平軸回りの旋回流を発生させないように整流する整流部とを備え、
前記上部に設けられた整流部が、直方体状に形成され且つ上下方向に連通した連通孔を備えることを特徴とするエンジンの冷却装置。 - シリンダブロックに設けられた複数のシリンダボアの周囲を囲むように形成されたウォータジャケットと、このウォータジャケット内に配置されたスペーサとを備えたエンジンの冷却装置において、
前記シリンダブロックの外部から前記ウォータジャケット内に冷却水を導入する冷却水導入口であって気筒配列方向の一端側に形成された冷却水導入口と、
前記スペーサの前記冷却水導入口に対応した部分の上部と下部のうちの一方から前記冷却水の導入方向上流側に延びる整流部であって、導入された冷却水が前記スペーサに沿って流れることで生じる水平軸回りの旋回流を発生させないように整流する整流部とを備え、
前記冷却水導入口から前記整流部に導入される冷却水の導入方向がスペーサと交差すると共に、前記導入方向とスペーサとの交差角度に応じて吸気側と排気側への冷却水の分流比率を前記整流部を介して設定可能に構成されていることを特徴とするエンジンの冷却装置。 - 前記下部に設けられた整流部が、前記下部から前記冷却水の導入方向上流側に延びる板状のガイド部からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジンの冷却装置。
- 前記ウォータジャケットは、平面視にて隣り合うシリンダボアの間のサイアミーズ部に対応したくびれ部を備え、
前記スペーサが、前記スペーサの上端近傍部に沿って全周に亙って延び且つシリンダボアと反対側へ張り出す上側フランジ部と、前記スペーサの下部に沿って全周に亙って延び且つシリンダボアと反対側へ張り出す下側フランジ部と、前記上側フランジ部と下側フランジ部との間に形成され且つスペーサの外周を流れる冷却水を前記くびれ部に流通させる流通部とを備え、
前記上側フランジ部と下側フランジ部とで前記スペーサの外周を流れる冷却水の流路面積を制限することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のエンジンの冷却装置。 - 前記ウォータジャケットに連通されたシリンダヘッド側ウォータジャケットと、このシリンダヘッド側ウォータジャケットから外部に冷却水を導出する冷却水導出口と、この冷却水導出口の下流側に設けられた冷却水温検出手段とを備え、
前記冷却水温検出手段によって検出された冷却水温に応じて前記ウォータジャケット内に導入する冷却水量を切換えることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のエンジンの冷却装置。
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