以下、本発明に係る電解質膜・電極構造体につき好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
図1は、固体高分子型の燃料電池10の要部概略縦断面図である。この燃料電池10は、本実施形態に係る電解質膜・電極構造体12が組み込まれて構成される。
先ず、燃料電池10の構成につき説明する。この燃料電池10では、電解質膜・電極構造体12と、アノード側セパレータ14と、カソード側セパレータ16とが、例えば、立位姿勢で積層される。この積層方向(図1の矢印A方向)に、燃料電池10が複数積層されることにより、例えば、車載用燃料電池スタック(不図示)が構成される。なお、アノード側セパレータ14及びカソード側セパレータ16としては、例えば、カーボンセパレータが使用されるが、これに代えて金属セパレータを用いてもよい。
アノード側セパレータ14の電解質膜・電極構造体12に臨む面14aには、水素含有ガス等の燃料ガスを供給するための燃料ガス入口連通孔(不図示)と、該燃料ガスを排出するための燃料ガス出口連通孔(不図示)とに連通する燃料ガス流路18が、水平方向(図1の紙面に直交する方向。以下、便宜的にB方向という)に延在して設けられる。
同様に、カソード側セパレータ16の電解質膜・電極構造体12に臨む面16aには、酸素含有ガス等の酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス入口連通孔(不図示)と、該酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス出口連通孔(不図示)とに連通する酸化剤ガス流路20が水平方向(前記B方向)に延在して設けられる。燃料電池10を複数積層した際にアノード側セパレータ14とカソード側セパレータ16とが互いに対向する面同士の間には、冷却媒体を供給するための冷却媒体入口連通孔(不図示)と、冷却媒体を排出するための冷却媒体出口連通孔(不図示)とに連通する冷却媒体流路22が一体的に形成されている。
電解質膜・電極構造体12は、固体高分子膜からなる電解質膜24と、該電解質膜24を挟持するアノード電極26及びカソード電極28とを備える。電解質膜24の外形寸法(表面積)は、アノード電極26及びカソード電極28の外形寸法よりも大きく設定される。
電解質膜24は、例えば、陽イオン交換樹脂に属してプロトン伝導性を備えるポリマーを、フィルム状に形成したものを用いることができる。陽イオン交換樹脂としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸等のビニル系ポリマーのスルホン化物や、パーフルオロアルキルスルホン酸ポリマー、パーフルオロアルキルカルボン酸ポリマー、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルエーテルケトン等の耐熱性高分子にスルホン酸基又はリン酸基を導入したポリマーや、フェニレン連鎖からなる芳香族化合物を重合して得られる剛直ポリフェニレンを主成分として、これにスルホン酸基を導入したポリマー等が挙げられる。
アノード電極26及びカソード電極28は、電解質膜24を挟持するように設けられる。そして、アノード電極26は、第1電極触媒層30と、第1ガス拡散層32と、第1多孔質層34とを有している。一方、カソード電極28は、第2電極触媒層38と、第2ガス拡散層40と、第2多孔質層42とを有している。
第1電極触媒層30は、触媒金属を担持した炭素粒子(触媒粒子)を含んで構成されている。炭素粒子としては、カーボンブラックを用いることができるが、この他にも、例えば、黒鉛、炭素繊維、活性炭等やこれらの粉砕物、カーボンナノファイバーやカーボンナノチューブ等の炭素化合物を採用することができる。一方、触媒金属としては、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスニウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属を単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
第1電極触媒層30は、電解質膜24に接合して設けられ、外形寸法が該電解質膜24に比して小さく設定される。
第1ガス拡散層32は、例えば、多数の繊維状カーボンがセルロース質に含有されることで構成されたカーボンペーパを基材とする。この基材に、例えば、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)等からなる撥水性樹脂を含有させた構成としてもよい。第1ガス拡散層32の外形寸法は、第1電極触媒層30に比して大きく設定される。
第1多孔質層34は、電子伝導性物質と撥水性樹脂とを含む多孔質性の層であり、該電子伝導性物質に基づいて導電性を示す。この電子伝導性物質の好適な例としては、ファーネスブラック(ケチェン・ブラック・インターナショナル社製「ケチェンブラックEC」及び「ケチェンブラックECP600JD」、Cabot社製「バルカンXC−72」、東海カーボン社製「トーカブラック」、旭カーボン社製「旭AX」等;いずれも商品名)、アセチレンブラック(電気化学工業社製「デンカブラック」等;商品名)、グラッシーカーボンの粉砕品、気相法炭素繊維(昭和電工社製「VGCF」及び「VGCF−H」等;いずれも商品名)、カーボンナノチューブ、及びこれらを黒鉛化処理した粉末を単独又は2種以上混合したものが挙げられる。
一方の撥水性樹脂の素材としては、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PVF(ポリフッ化ビニル)、ECTFE(クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEPをはじめとする結晶性フッ素樹脂や、旭硝子社製の「ルミフロン」及び「サイトップ」(いずれも商品名)等の非晶質フッ素樹脂、及びシリコーン樹脂等が例示され、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
第1多孔質層34の外形寸法は、第1ガス拡散層32の外形寸法と略同等に設定され、該第1多孔質層34と第1ガス拡散層32とが重畳されて第1重畳体35が構成されている。
この第1重畳体35は、最大細孔径や厚み、第1多孔質層34中の撥水性樹脂の種類や量等が適宜調整されることにより、その透水圧が10〜100kPa、水蒸気排出速度が18.0〜19.0mg/cm2・minとなるように設定されている。特に、第1重畳体35の最大細孔径を2.5〜25.0μmに設定することにより、透水圧を10〜100kPaの範囲内とすることが容易である。第1重畳体35の物性値をこのような範囲内に設定した場合、後述するように、燃料電池10の発電性能を向上させることができる。透水圧は、15〜80kPaであることが一層好ましい。
なお、第1重畳体35の最大細孔径及び透水圧は、例えば、PMI社(Porous Material,Inc)製のパームポロメータを用いて求めることができる。また、第1重畳体35の水蒸気排出速度は、例えば、後述する図3に示す測定装置50を用いて求めることができる。
第1電極触媒層30は、上記の通り、電解質膜24及び第1ガス拡散層32に比して外形寸法が小さく設定されている。このため、電解質膜24の外周縁部は、第1電極触媒層30の外周から外部に露呈するが、この露呈部分と、第1ガス拡散層32との間には、第1多孔質層34が介在する。すなわち、第1多孔質層34は、第1電極触媒層30と第1ガス拡散層32との間、及び電解質膜24と第1ガス拡散層32との間に介在する。これによって、第1ガス拡散層32を構成する繊維が、電解質膜24(特に電解質膜24の外周縁部)に突き刺さることを回避できるため、電解質膜24が物理的に変形することを抑制できる。
また、電解質膜24の外周縁部のうち、さらに第1重畳体35の外周から外部に露呈する部分のアノード側セパレータ14に臨む側の面14aには、額縁形状をなす第1絶縁シート36が当接するように設けられる。
第1絶縁シート36は、ガス不透過性を有し、例えば、PEN(ポリエチレンナフタレート)製の略平坦なフィルム等で構成される。また、第1絶縁シート36の厚みと第1重畳体35の厚みは略同等であるため、第1絶縁シート36及び第1重畳体35(第1ガス拡散層32)の面同士が面一の状態で、アノード側セパレータ14に当接している。
このように、第1絶縁シート36を設けることによって、アノード電極26とカソード電極28との間で反応ガスが移動して混在してしまうことや、電解質膜・電極構造体12からその外部へ反応ガスが漏れること(アウトリーク)を効果的に回避できる。
カソード電極28における第2電極触媒層38、第2ガス拡散層40、第2多孔質層42、第2重畳体43及び第2絶縁シート44は、上記した第1電極触媒層30、第1ガス拡散層32、第1多孔質層34、第1重畳体35及び第1絶縁シート36と同様に構成されている。このため、カソード電極28の構成についての詳細な説明は省略する。
また、上記の通り、電解質膜24の外周縁部のうち、第1重畳体35及び第2重畳体43の外周から外部に露呈する部分と、アノード側セパレータ14及びカソード側セパレータ16との間に、それぞれ第1絶縁シート36及び第2絶縁シート44が介装されている。これによって、アノード電極26及びカソード電極28の周囲をシールして、アウトリークを有効に防止することができる。
さらに、アノード側セパレータ14及びカソード側セパレータ16には、それぞれ、第1ガス拡散層32、第2ガス拡散層40の縁部を囲繞するようにしてシール部材46、48が設けられる。これらシール部材46、48により、アウトリークを有効に防止することができる。
次に、上記した電解質膜・電極構造体12を作製する方法について説明する。電解質膜・電極構造体12を作製するに際しては、はじめに、前述した陽イオン交換樹脂に属してプロトン伝導性を備えるポリマーから選択したポリマーを長方形のシート形状として電解質膜24を作製する。
そして、この電解質膜24の一方の面に第1電極触媒層30を形成し、且つ他方の面に第2電極触媒層38を形成する。具体的には、先ず、前記触媒粒子と、アイオノマー溶液とを混合することにより触媒ペーストを調製する。
次に、この触媒ペーストを、PTFE等から形成したフィルムの一方の面上に所定量塗布する。そして、前記フィルムにおける触媒ペーストを塗布した面を電解質膜24の一方の面に対して熱圧着する。その後、フィルムを剥離すれば、触媒ペーストが電解質膜24の一方の面に転写される。これによって、第1電極触媒層30を形成することができる。また、電解質膜24の他方の面に対しても同様にして前記触媒ペーストを転写することで、第2電極触媒層38を形成することができる。
これとは別に、第1ガス拡散層32上に第1多孔質層34を形成して第1重畳体35を得るとともに、第2ガス拡散層40上に第2多孔質層42を形成して第2重畳体43を得る。
具体的には、例えば、前記電子伝導性物質と、前記撥水性樹脂とを、エタノール、プロパノール、エチレングリコール等の有機溶媒中で混合することにより多孔質層用ペーストを調製する。そして、この多孔質層用ペーストの所定量を、第1ガス拡散層32上に塗布した後、熱処理することで第1多孔質層34を形成する。これによって、第1重畳体35を得ることができる。
同様に、前記多孔質層用ペーストの所定量を、第2ガス拡散層40上に塗布した後、熱処理することで第2多孔質層42を形成する。これによって、第2重畳体43を得ることができる。なお、第1重畳体35と第2重畳体43とは、互いに異なるように調整された多孔質層用ペーストから形成されることで、互いに異なる特性を有していてもよい。
ここで、例えば、第1ガス拡散層32及び第2ガス拡散層40上に塗布する多孔質層用ペーストの塗布量や、該多孔質層用ペーストの有機溶媒に対する電子伝導性物質及び撥水性樹脂の濃度(固形分濃度)等を調整することにより、第1重畳体35及び第2重畳体43の最大細孔径、透水圧及び水蒸気排出速度を上記の範囲内に調整することができる。さらには、第1重畳体35及び第2重畳体43の物性値を調整するべく、第1ガス拡散層32及び第2ガス拡散層40を構成する基材の物性値や、該基材に含浸させる撥水性樹脂の濃度等を調整してもよい。
上記の作製方法に代えて、第1多孔質層34及び第2多孔質層42を、シート状成形体として得るようにしてもよい。この場合、有機溶媒に対する電子伝導性物質及び撥水性樹脂の濃度(固形分濃度)が高くなるように前記多孔質層用ペーストを調製した後、溶媒を抽出して延伸処理等を行うことによって、第1多孔質層34及び第2多孔質層42をシート状成形体として形成する。
そして、シート状成形体として得られた第1多孔質層34及び第2多孔質層42を、第1ガス拡散層32、第2ガス拡散層40の各々に重畳する。この状態で、加圧及び加熱(ホットプレス)することにより、第1ガス拡散層32と第1多孔質層34とを熱圧着して第1重畳体35を得ることができ、第2ガス拡散層40と第2多孔質層42とを熱圧着して第2重畳体43を得ることができる。
以上のようにして得られた第1重畳体35及び第2重畳体43を、第1多孔質層34、第2多孔質層42の各々が第1電極触媒層30、第2電極触媒層38に対向するように重畳して熱圧着等により一体化する。これにより、電解質膜・電極構造体12が得られるに至る。
この際、上記した通り、第1多孔質層34が、第1ガス拡散層32と第1電極触媒層30の間、第1ガス拡散層32と電解質膜24との間に介在する。これによって、前記第1重畳体35及び第2重畳体43に熱圧着による荷重が付加されても、第1ガス拡散層32の繊維が電解質膜24に突き刺さることを回避でき、電解質膜24が物理的に変形することを抑制できる。
そして、アノード側セパレータ14とカソード側セパレータ16で電解質膜・電極構造体12を挟持することにより、燃料電池10が構成される。
本実施形態に係る電解質膜・電極構造体12を組み込んだ燃料電池10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果につき説明する。
燃料電池10を発電させるに際しては、酸化剤ガス入口連通孔に酸素含有ガス等の酸化剤ガスが供給されるとともに、燃料ガス入口連通孔に水素含有ガス等の燃料ガスが供給される。さらに、冷却媒体入口連通孔に純水やエチレングリコール等の冷却媒体が供給される。
冷却媒体入口連通孔に供給された冷却媒体は、アノード側セパレータ14及びカソード側セパレータ16間に形成された冷却媒体流路22に導入される。この冷却媒体流路22では、冷却媒体が重力方向(図1中矢印C方向)に移動する。従って、冷却媒体は、電解質膜・電極構造体12の発電面全面にわたって冷却した後、冷却媒体出口連通孔に排出される。
酸化剤ガスは、酸化剤ガス入口連通孔からカソード側セパレータ16の酸化剤ガス流路20に導入される。酸化剤ガスは、酸化剤ガス流路20に沿って矢印B方向に流通し、電解質膜・電極構造体12のカソード電極28に沿って移動する。
一方、燃料ガスは、燃料ガス入口連通孔からアノード側セパレータ14の燃料ガス流路18に導入される。この燃料ガス流路18では、燃料ガスが矢印B方向に流通することにより、電解質膜・電極構造体12のアノード電極26に沿って移動する。
従って、電解質膜・電極構造体12では、アノード電極26に供給されて第1ガス拡散層32、第1多孔質層34を通過した燃料ガスと、カソード電極28に供給されて第2ガス拡散層40、第2多孔質層42を通過した酸化剤ガスとが、第1電極触媒層30及び第2電極触媒層38内で電気化学反応(電極反応)によりそれぞれ消費され、発電が行われる。
一層詳細には、燃料ガス流路18を介して、アノード電極26に供給された燃料ガスが第1ガス拡散層32及び第1多孔質層34を通過した後、該燃料ガス中の水素ガスが第1電極触媒層30で電離し、プロトン(H+)と電子が生成される。電子は、燃料電池10に電気的に接続された外部負荷(図示せず)を付勢するための電気エネルギとして取り出され、一方、プロトンは、電解質膜・電極構造体12を構成する電解質膜24を介してカソード電極28に到達する。なお、プロトンは、電解質膜24に含まれる水を伴って、アノード電極26側からカソード電極28側へ移動する。
カソード電極28の第2電極触媒層38では、前記プロトンと、外部負荷を付勢した後に該カソード電極28に到達した電子と、該カソード電極28に供給されて第2ガス拡散層40及び第2多孔質層42を通過した酸化剤ガス中の酸素ガスとが結合する。この結果、水が生成される。以下、この水を生成水ともいう。
電解質膜・電極構造体12においては、上記したように電解質膜24と第1ガス拡散層32との間に第1多孔質層34が介在して第1重畳体35を形成し、且つ電解質膜24と第2ガス拡散層40との間に第2多孔質層42が介在して第2重畳体43を形成している。第1多孔質層34及び第2多孔質層42の存在により、上記の電極反応の最中、アノード電極26及びカソード電極28における保水性と排水性との均衡を適切に図ることができる。
すなわち、本実施形態では、第1重畳体35及び第2重畳体43の透水圧を10kPa〜100kPa、水蒸気排出速度を18.0〜19.0mg/cm2・minの範囲内に設定するようにしている。この場合、アノード電極26では燃料ガスに含まれる水蒸気、カソード電極28では生成水が、第1多孔質層34又は第2多孔質層42を過剰に透過することや、過剰に堰止されることが回避されるからである。
従って、電解質膜24を湿潤状態に保つための保水性が十分となり、なお且つ反応ガスを迅速に拡散させるための排水性も十分となる。このため、電解質膜24においてプロトン伝導が容易に進行するとともに、アノード電極26及びカソード電極28においてフラッディングが生じることが回避されて反応ガスが容易に拡散する。すなわち、電解質膜24に良好なプロトン伝導性を発現させることができるとともに、反応ガスの拡散性を向上させて電極反応を促すことができる。その結果、燃料電池10の端子間電圧が大きくなる。換言すれば、良好な発電特性が得られる。
以上のように、本実施形態によれば、アノード電極26及びカソード電極28における保水性と排水性との均衡を適切に図ることができるので、電解質膜・電極構造体12を備える燃料電池10の発電性能を向上させることができる。この効果は、第1重畳体35及び第2重畳体43の透水圧が15kPa〜80kPaの範囲内にあるときに一層顕著である。
なお、本発明は、上記した実施形態に特に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
例えば、上記の実施形態では、第1多孔質層34及び第2多孔質層42を有する電解質膜・電極構造体12を例示しているが、第1多孔質層34及び第2多孔質層42の双方を設ける必要は特になく、いずれか一方のみを設けるようにしてもよい。特に、電極反応によって水が生成するカソード電極28側の第2多孔質層42を設けることが好ましい。
[実施例1]
(1) 第1ガス拡散層及び第2ガス拡散層は、互いに同一の構成となるように、それぞれ同様に作製した。具体的には、嵩密度が0.31g/m2、厚さが190μmのカーボンペーパに、三井・デュポンフロロケミカル社製のテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)の分散液「FEP 120−JRB Dispersion」(商品名)を含浸させ、120℃で30分間乾燥させることで、撥水処理を行った。この際、カーボンペーパは、該カーボンペーパに対するFEPの乾燥重量が、2.4重量%となるように分散液に含浸させた。
(2) 多孔質層用ペーストは、昭和電工社製の気相成長カーボン「VGCF」(商品名)を12gと、三井・デュポンフロロケミカル社製のFEP分散液(固形分濃度54%)「FEP120JRB」(商品名)を20gと、エチレングリコールを200gとをボールミルで撹拌して混合することにより調製した。
(3) 前記(1)で作製した第1ガス拡散層上及び第2ガス拡散層上のそれぞれに、前記(2)で調製した多孔質層用ペーストを、多孔質層の厚みが25.2μmとなるようにブレード塗工器を利用して塗布した。そして、380℃で30分間の熱処理を行うことによって第1多孔質層及び第2多孔質層を形成し、第1重畳体及び第2重畳体の各々を得た。
(4) 触媒ペーストは、デュポン社製のイオン伝導性ポリマー溶液「DE2020CS」(商品名)に対し、BASF社製の白金触媒「LSA」(商品名)の重量比が0.1となるように添加し、さらに、ボールミルで撹拌して混合することにより調製した。
(5) PTFEシート上に、前記(4)で調製した触媒ペーストを白金の重量が0.4mg/cm2となるように塗布した後、120℃で60分間の熱処理を行うことにより、第1電極触媒層を電解質膜の一方の面に転写するためのシートを作製した。
(6) PTFEシート上に、前記(4)で調製した触媒ペーストを白金の重量が0.1mg/cm2となるように塗布した後、120℃で60分間の熱処理を行うことにより、第2電極触媒層を電解質膜の他方の面に転写するためのシートを作製した。
(7) 前記(5)及び(6)で作製したシートの触媒ペースト塗布側を、厚さ24μm、イオン交換容量1.05meq/gとしたフッ素系の電解質膜の面に熱圧着させた後、PTFEシートを剥離した。すなわち、デカール法により、電解質膜の一方の面に第1電極触媒層を形成するとともに、他方の面に第2電極触媒層を形成した。
(8) 前記(7)で作製した電解質膜に形成された第1及び第2電極触媒層に、前記(3)で作製した第1ガス拡散層上の第1多孔質層及び第2ガス拡散層上の第2多孔質層を120℃で面圧15kgf/cm2の条件で熱圧着させた。これによって、電解質膜・電極構造体を作製した。これを実施例1とする。
[実施例2]
前記(2)の工程に代えて、多孔質層用ペーストを、ケチェン・ブラック・インターナショナル社製の「ケチェンブラックEC300J」(商品名)を5gと、昭和電工社製の気相成長カーボン「VGCF」(商品名)を2.5gと、アイオノマーとしてデュポン社製の「Nafion DE2020CS」(商品名)30gと、N−メチル−2−ピロリドン125gとをボールミルで撹拌して混合することにより調製した。
そして、得られた多孔質層用ペーストを、前記(1)で作成した第1ガス拡散層上及び第2ガス拡散層上のそれぞれに、厚みが23.4μmとなるようにブレード塗工器を利用して塗布した。それ以外は実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを実施例2とする。
[実施例3]
前記(1)で作成した第1ガス拡散層上及び第2ガス拡散層上のそれぞれに、前記(2)で作成した多孔質層用ペーストを、厚みが28.3μmとなるようにブレード塗工器を利用して塗布した。それ以外は、実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを実施例3とする。
[実施例4]
前記(2)の工程に代えて、多孔質層用ペーストを、Cabot社製のカーボン「Vulcan XC72R」(商品名)を12gと、三井・デュポンフロロケミカル社製のFEP分散液(固形分濃度54%)「FEP120JRB」(商品名)を20gと、エチレングリコールを155gとをボールミルで撹拌して混合することにより調製した。
そして、得られた多孔質層用ペーストを、前記(1)で作製した第1ガス拡散層上及び第2ガス拡散層上のそれぞれに、厚みが12.0μmとなるようにブレード塗工器を利用して塗布した。それ以外は実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを実施例4とする。
[実施例5]
前記(1)で作成した第1ガス拡散層上及び第2ガス拡散層上のそれぞれに、前記(2)で作成した多孔質層用ペーストを、厚みが31.7μmとなるようにブレード塗工器を利用して塗布した。それ以外は、実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを実施例5とする。
[比較例1]
前記(1)で作成した第1ガス拡散層上及び第2ガス拡散層上のそれぞれに、前記(2)で作成した多孔質層用ペーストを、厚みが12.4μmとなるようにブレード塗工器を利用して塗布した。それ以外は、実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを比較例1とする。
[比較例2]
実施例4において作製した多孔質層用ペーストを、前記(1)で作製した第1ガス拡散層上及び第2ガス拡散層上のそれぞれに、厚みが28.1μmとなるようにブレード塗工器を利用して塗布した。それ以外は実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを比較例2とする。
[比較例3]
前記(1)で作成した第1ガス拡散層上及び第2ガス拡散層上のそれぞれに、前記(2)で作成した多孔質層用ペーストを、厚みが34.5μmとなるようにブレード塗工器を利用して塗布した。それ以外は、実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを比較例3とする。
上記の実施例1〜5及び比較例1〜3の電解質膜・電極構造体について、第1多孔質層の物性値として、厚さ[μm]をそれぞれ求め、第1重畳体の物性値として、最大細孔径[μm]、透水圧[kPa]、水蒸気排出速度[mg/cm2・min]をそれぞれ求めた。その結果を図2に示す。なお、第2多孔質層は第1多孔質層と同様にして形成されているため、その物性値を示すことを省略する。また、以下では、第1多孔質層及び第2多孔質層を特に区別せず単に「多孔質層」と表記し、第1ガス拡散層及び第2ガス拡散層について同様に「ガス拡散層」と表記し、第1重畳体及び第2重畳体について同様に「重畳体」と表記し、第1電極触媒層と第2電極触媒層について同様に「電極触媒層」と表記する。
ここで、多孔質層の厚さは、一般的なマイクロメータを用いて求めた。具体的には、ガス拡散層の厚さは上記のカーボンペーパの厚さと同様であるため、マイクロメータを用いて求めた重畳体の厚さと、カーボンペーパの厚さとの差分から多孔質層の厚さを求めることができる。
重畳体の最大細孔径の測定は、PMI社(Porous Material,Inc)製のパームポロメータを用いたバブルポイント法によって行った。ここで、バブルポイント法とは、表面張力と毛管現象により、細孔中に満たされた液体を押し出すのに必要な圧力を測定することで、試料の最大細孔径等を求めることができる手法である。
具体的には、先ず、重畳体を直径1インチの円形状に打ち抜いて測定試料を作製する。この測定試料に、空気を加圧しつつ流通させることによって、空気の圧力と、測定試料を流通した空気の流量との関係を示す曲線(乾き曲線)を得る。次いで、測定試料に標準液としてガルウィック(商品名)を滴下することによって、該標準液を測定試料に吸収させる。このように標準液を吸収させた状態で、測定試料に空気を加圧しつつ流通させて、同様に圧力と流量との関係を示す曲線(濡れ曲線)を得る。そして、得られた乾き曲線と濡れ曲線との差分が0より大きくなるときの圧力から、測定試料の最大細孔径が算出される。
重畳体の透水圧の測定は、前記PMI社製のパームポロメータを用いて行った。具体的には、先ず、重畳体を直径1インチの円形状に打ち抜いて測定試料を作製する。この測定試料の多孔質層上に、純水を滴下することによって水膜を形成し、パームポロメータにより、この水膜に対して徐々に空気圧を付加する。そして、純水が測定試料を透過し始めるのに必要な最低圧力を測定することで、重畳体の透水圧が算出される。
重畳体の水蒸気排出速度は、図3に示す測定装置50を用いて求めた。測定装置50は、乾性空気を供給する空気供給部52と、測定試料53を収容する試料収容容器54と、該試料収容容器54に純水を供給する水供給部56とから構成される。なお、以下の説明では、乾性空気を空気ともいい、純水を水ともいう。
空気供給部52は、空気を貯蔵するボンベ58と、該ボンベ58から試料収容容器54にわたって設けられた供給配管59とを有する。この供給配管59にはレギュレータ60と、空気の質量流量を調整するマスフローコントローラ(MFC)62とが介装される。
試料収容容器54は、収容槽64と、該収容槽64の開口上端を閉塞する蓋部材66とを有し、この中の収容槽64の底部に給水孔68が形成される。前記水供給部56は、この給水孔68を介して試料収容容器54内に水を供給する。
収容槽64には貯留水Wが貯留されるとともに、該貯留水Wの上方にパンチングメタル70、不織布72、測定試料53がこの順で積層される。
パンチングメタル70には、複数の貫通孔74が形成されている。また、パンチングメタル70上には、不織布72を介して測定試料53が載置されている。この測定試料53は、重畳体を、1辺が4.2cmの正方形状に打ち抜いて作製されたものである。
蓋部材66は、収容槽64の開口上端を覆うとともに、測定試料53に接する面に流路部76が形成されている。流路部76は、上記の燃料電池10を構成するアノード側セパレータ14に形成された燃料ガス流路18、又はカソード側セパレータ16に形成された酸化剤ガス流路20を模したものであり、供給配管59、及び排出管78に連通するようにして設けられる。また、蓋部材66は、不図示のヒータ等によって加熱され、温度が70℃に維持されている。
水供給部56は、水を貯留し且つ収容槽64の給水孔68と給水管79を介して接続されるタンク80と、タンク80内の水位を検出する水位センサ82と、水位センサ82の検出結果に基づいて、タンク80内の水位を一定に保つべく不図示の純水供給源からタンク80内に水を供給するポンプ84とを備えている。
上記のように構成された測定装置50では、先ず、ボンベ58に貯蔵された空気が供給配管59を介して供給される。空気は、レギュレータ60を経由することで圧力調整された後、MFC62によって5L/minの流量に調整され、さらに、不図示のヒータ等によって温度が70℃に調整された後、試料収容容器54の流路部76内に供給される。
このように、流路部76に70℃の空気が供給されるとともに、蓋部材66の温度が70℃に維持されているため、収容槽64内の貯留水Wに熱が伝達される。その結果、貯留水Wが蒸発し、水蒸気が発生する。発生した水蒸気は、パンチングメタル70の貫通孔74を介して上昇し、不織布72によって拡散された後、測定試料53の一方の面に供給される。
水蒸気は、さらに、測定試料53を膜厚方向に沿って透過し、測定試料53の他方の面から排出された後、流路部76に到達する。流路部76に到達した水蒸気は、空気供給部52から供給された空気とともに、排出管78から試料収容容器54の外部へ排出される。
この際、貯留水Wが水蒸気として測定試料53の細孔内を透過して外部へと排出されるごとに、水蒸気として失われた分と同量の水が、タンク80から給水管79及び給水孔68を介して、収容槽64内に供給される。この供給に対応し、タンク80内の水位が、水蒸気が測定試料53から排出される速度に応じて降下する。
タンク80内の水位が、水位センサ82に予め設定された所定の閾値を下回ると、シーケンス制御が機能し、ポンプ84が付勢される。これによりタンク80内に新たな水が供給される。この際の水の供給量は、測定試料53の水蒸気排出量に応じた量である。従って、前記供給量と、空気の供給を開始してからタンク80への水の供給が開始されるまでの時間とに基づき、測定試料53の水蒸気排出速度が算出される。
また、実施例1〜5及び比較例1〜3の電解質膜・電極構造体について、燃料電池(標準セル)を作製した。そして、作製した各燃料電池の50℃における端子間電圧[V]と、95℃における端子間電圧[V]とを測定した。その結果を、図4に併せて示す。なお、この燃料電池の運転条件は、出力電流密度:1.25A/cm2、加湿:燃料ガスの相対湿度(RH)50%、酸化剤ガスのRH73%とした。
ここで、図2及び図4に基づいて、実施例1〜5及び比較例1〜3の電解質膜・電極構造体について、透水圧と端子間電圧との関係を図5に示し、水蒸気排出速度と端子間電圧との関係を図6に示す。
図5から、重畳体の透水圧が10kPaより小さい範囲及び100kPaより大きい範囲では、端子間電圧が低下していることが分かる。また、図6から、重畳体の水蒸気排出速度が18.0より小さい範囲及び19.0より大きい範囲では、端子間電圧が低下していることが分かる。
すなわち、図5及び図6から、重畳体の透水圧が10〜100kPaの範囲内であり且つ水蒸気排出速度が18.0〜19.0mg/cm2・minの範囲内であるときに端子間電圧が大きくなること、すなわち、発電特性が良好となることが分かる。この理由は、透水圧及び水蒸気排出速度を上記の範囲内とすることにより、アノード電極及びカソード電極における保水性と排水性の均衡が良好となり、電解質膜に十分なプロトン伝導性が発現し、且つ反応ガスが十分に拡散しているためであると考えられる。
また、図5から、重畳体の透水圧が15〜80kPaであると、発電特性が一層良好となることが分かる。
以上から、電極触媒層とガス拡散層との間に多孔質層を介在させ、ガス拡散層と多孔質層からなる重畳体の透水圧を10〜100kPa、より好ましくは15〜80kPaとし、且つ水蒸気排出速度を18.0〜19.0mg/cm2・minとすることによって、電解質膜を湿潤状態に維持しつつ、余剰水を効率的に排出して反応ガスを良好に拡散させることができ、その結果、この電解質膜・電極構造体を備える固体高分子型燃料電池の発電特性を向上させることができることが諒解される。
図2に示すように、重畳体の最大細孔径の範囲を2.5〜25.0μmに設定することによって、重畳体の透水圧を10〜100kPaの範囲内に設定することが容易になる。