しかしながら、特許文献1や特許文献2などに開示されているようなこれまでの技術では、粉体の形状または粉体の表面粗度を所望の状態に変更することや、粉体表面に異種の粉体を付着させて複合化することを、同程度に再現性良く続けることが難しかった。例えば、粉体が衝突するときの衝撃や粉体に生じる摩擦のエネルギーが原料粉体のロット差で変わってくることがあるため、粉体表面処理装置の設定条件を同一にして同じ時間だけ表面処理を実施したとしても、出来上がった表面処理粉体に施された表面処理の程度が異なることが多々あった。また、粉体表面処理装置の僅かな個体差でもそれら粉体に与えられるエネルギーは変わってくる。粉体表面処理装置の経時劣化(摩耗など)で粉体に付与されるエネルギーが徐々に変わってしまうことや、季節変動による粉体の温度や含水率、または粉体表面処理装置の周辺温湿度が変わってしまうこともしばしばあり、これらの場合にも出来上がった表面処理粉体に施された表面処理の程度が異なることがあった。
上記のような変動要素による仕上がり(表面処理された粉体の状態)の差を小さくする方法として、処理前の原料粉体を一定温湿度環境に保管する、粉体表面処理装置の周辺温湿度を一定に保つなどの方法もあるが、これらの方法は莫大なコストを要する。原料粉体のロット差、粉体表面処理装置の個体差や劣化に伴い、処理条件を設定し直すことも考えられるが、最近の多機能、高機能製品の場合、そのための評価コスト、時間などが増大しており、現実的ではないことが多い。
原料粉体に熱可塑性物質などが含まれる場合、温度上昇に伴い、その粉体表面の硬度が変わるため、表面処理の程度を制御することは難しい。また、原料粉体に3種類以上の粉体を用いる場合、たとえば、相対的に粒径の大きな母粉体に相対的に粒径の小さい2種類以上の処理粉体を付着させる場合は、表面処理される2種以上の粉体同士は当然、粒径や形状、比重などが異なるため、それぞれが母粒子へ所望の埋没度合で付着させたり、所望の離脱割合であったり、を再現性良く作り続けることは非常に難しかった。たとえば、電子写真用乾式トナーの場合、着色剤を分散含有した熱可塑性樹脂を主成分とする母粒子に疎水性シリカなど複数種類の処理粒子が付着されている。一部の処理粒子は母粒子に埋没し、一体化した複合粒子としての摩擦帯電性能を達成する。また、一部の処理粒子は母粒子から遊離し別体として機能することで所望の粉体流動性を確保したり、複合化した母粒子と摩擦することで母粒子の帯電を促進したり制御したりしている。ここで言う一部とは、同一種類処理粒子のある割合が付着、残りが遊離している場合もあれば、異なる処理粒子はそれぞれの添加目的上、異なる割合で付着や遊離している場合もある。処理粒子の母粒子への埋没程度でもそれら性能は異なってくる。
目的や機能が異なる複数の粒子の付着程度を変えるため、表面処理を複数回に分けて実施する場合もある。より強く一体化させたい複数の粉体の混合物による表面処理をまず実施し、弱く付着させたい粉体を後から添加し、表面処理を続ける場合もある。そうした複数段階による表面処理においても精密に表面処理状態を制御することは重要である。
そこで本発明は、表面処理をされる粉体について処理前の粒径、粒度分布、形状などの差がロット毎にある場合や、経年による磨耗などで粉体表面処理装置に個体差がある場合や、表面処理を行う環境(季節、時間、天気による温湿度など)が異なる場合などであっても、所望の表面処理を再現性良く実施できる、粉体表面処理装置、および表面処理粉体の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者は、粉体の表面処理の実質的原動力である衝突や摩擦によるエネルギーが熱エネルギーに置換され、表面処理される粉体あるいは粉体分散媒体(表面処理される粉体が空気中に分散している状態など。以下の本発明の説明において、「粉体」には、「粉体分散媒体」も含むものとする。)の温度変化として測定できることに着目した。また、粉体の表面処理の進行は表面処理される粉体そのものの温度にも依存することにも着目した。本発明者はこれらのことから、表面処理最中の粉体の時間温度曲線がいつも一定の軌跡を描くように制御することが、表面処理される粉体にとっては表面処理最中のそれぞれの温度領域でいつも同じ表面処理が行われていることになることを知見し、以下に示す本発明を完成させた。勿論、制御する対象の手段は、強制的に熱を加える手段ではなく、衝突や摩擦などによるエネルギーを粉体に与える手段である。たとえば、表面処理される粉体が投入された混合機内の回転羽根の回転数を制御したり、該混合機内で粉体に衝突する部材が粉体に与える衝撃を増減させたりすることが考えられる。
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図面の形態に限定されるものではない。
第1の本発明は、粉体の表面処理を行う粉体表面処理装置であって、粉体(5)を収容する容器(1、21)と、該容器内において、粉体に力学的作用を与える、一または複数の力学的作用付与手段(2a、2b、3、22)と、粉体の温度を測定する温度測定手段(4)と、温度測定手段による測定結果の推移が所望の時間温度曲線に近づくように、一または複数の力学的作用付与手段のうち少なくともいずれかの操作を決定する制御手段(17)と、を備える、粉体表面処理装置(10、20)を提供することにより、前記課題を解決する。
本発明において「表面処理」とは、処理対象となる粉体の表面形状または表面粗度を変更することや、処理対象となる粉体に他の粉体を付着させて複合化することなどを意味する。また、「力学的作用」とは、力学的エネルギーや、衝撃、圧縮、剪断、摩擦などを意味する。「力学的作用を与える」とは、上記力学的作用の少なくともいずれか一つを与えることを意味する。なお、「力学的エネルギー」とは、運動エネルギーおよび位置エネルギーの和を意味する。「力学的作用付与手段」とは、表面処理の対象となる粉体に上記力学的作用を与えるものであれば特に限定されない。力学的作用付与手段の具体例は後に詳述する。また、「時間温度曲線」とは、粉体に表面処理を施す時間に対する該粉体の温度変化を示す曲線であり、「所望の時間温度曲線」とは、粉体に表面処理を施す時間に対する表面処理中の該粉体の好ましい温度を示す曲線(単調増加の直線に近いケースも含む。)である。
第1の本発明の粉体表面処理装置(10)において、一または複数の力学的作用付与手段が処理対象となる粉体(5)に少なくとも力学的エネルギーを与える手段(2a、2b)を含み、制御手段(17)が該力学的エネルギーを与える手段の操作を決定することが好ましい。本発明において、「少なくとも力学的エネルギーを与える手段」とは、少なくとも力学的エネルギーを処理対象となる粉体に与える手段であって、力学的エネルギーを与えると同時に他の力学的作用を与えることもできる手段も含む意味である。
第1の本発明の粉体表面処理装置(10)において、一または複数の力学的作用付与手段が処理対象となる粉体(5)に少なくとも衝撃を与える手段(3)を含み、制御手段(17)が該衝撃を与える手段の操作を決定することが好ましい。本発明において、「少なくとも衝撃を与える手段」とは、少なくとも衝撃を処理対象となる粉体に与える手段であって、衝撃を与えると同時に他の力学的作用を与えることもできる手段も含む意味である。
第1の本発明の粉体表面処理装置(10、20)は、表面処理される粉体が、複数種類の粉体からなる場合に好適に用いることができる。
第1の本発明の粉体表面処理装置(10、20)は、表面処理される粉体が3種以上の粉体からなる場合にも好適に用いることができる。
第1の本発明の粉体表面処理装置(10、20)は、表面処理される粉体が熱可塑性物質を含む場合にも好適に用いることができる。
第1の本発明の粉体表面処理装置(10、20)において、制御手段(17)が、温度測定手段(4)による測定結果が、該測定結果と同時期における所望の時間温度曲線上の温度より低い場合に、力学的作用付与手段(2a、2b、3、22)によって粉体(5)に与える力学的作用の程度を増大させるように、力学的作用付与手段の操作を決定し、温度測定手段による測定結果が、該測定結果と同時期における所望の時間温度曲線上の温度より高い場合に、力学的作用付与手段によって粉体に与える力学的作用の程度を低減させるように、力学的作用付与手段の操作を決定する手段であることが好ましい。
第1の本発明の粉体表面処理装置(10、20)において、制御手段が、温度測定手段(4)による測定結果の変化の傾きが、現時点の測定結果と同温度における所望の時間温度曲線の傾きより小さい場合に、力学的作用付与手段(2a、2b、3、22)によって粉体(5)に与える力学的作用の程度を増大させるように、力学的作用付与手段の操作を決定し、温度測定手段による測定結果の変化の傾きが、現時点の測定結果と同温度における所望の時間温度曲線の傾きより大きい場合に、力学的作用付与手段によって粉体に与える力学的作用の程度を低減させるように、力学的作用付与手段の操作を決定する手段であることも好ましい。後に説明するように、「温度測定手段による測定結果の変化の傾き」は、現時点(最新)の測定結果及び過去の測定結果から求められる。「現時点の測定結果」とは、温度測定手段による測定結果の変化の傾きを求めるときに用いた測定結果のうち、最新の測定結果を意味する。
第2の本発明は、表面処理された粉体を製造する表面処理粉体の製造方法であって、容器(1、21)内に粉体(5)を収容する工程と、該容器内において、一または複数の力学的作用付与手段(2a、2b、3、22)によって、粉体に力学的作用を与える工程と、温度測定手段(4)によって粉体の温度を測定する工程と、温度測定手段による測定結果の推移が所望の時間温度曲線に近づくように、制御手段(17)によって、一または複数の力学的作用付与手段のうち少なくともいずれかの操作を決定する工程と、を含む、表面処理粉体の製造方法を提供することにより、前記課題を解決する。
第2の本発明の表面処理粉体の製造方法において、一または複数の力学的作用付与手段が粉体(5)に少なくとも力学的エネルギーを与える手段(2a、2b)を含み、制御手段(17)によって、該力学的エネルギーを与える手段の操作を決定する工程を含むことが好ましい。
第2の本発明の表面処理粉体の製造方法において、一または複数の力学的作用付与手段が粉体(5)に少なくとも衝撃を与える手段(3)を含み、制御手段(17)によって、該衝撃を与える手段の操作を決定する工程を含むことが好ましい。
第2の本発明の表面処理粉体の製造方法は、表面処理される粉体(5)が複数種類の粉体からなる場合に好適に用いることができる。
第2の本発明の表面処理粉体の製造方法は、表面処理される粉体(5)が3種以上の粉体からなる場合にも好適に用いることができる。
第2の本発明の表面処理粉体の製造方法は、表面処理される粉体(5)が熱可塑性物質を含む場合にも好適に用いることができる。
第2の本発明の表面処理粉体の製造方法において、制御手段(17)によって、温度測定手段(4)による測定結果が、該測定結果と同時期における所望の時間温度曲線上の温度より低い場合に、力学的作用付与手段(2a、2b、3、22)によって粉体(5)に与える力学的作用の程度を増大させるように、力学的作用手段の操作を決定し、温度測定手段による測定結果が、該測定結果と同時期における所望の時間温度曲線上の温度より高い場合に、力学的作用付与手段によって粉体に与える力学的作用の程度を低減させるように、力学的作用手段の操作を決定する工程を含むことが好ましい。
第2の本発明の表面処理粉体の製造方法において、制御手段(17)によって、温度測定手段(4)による測定結果の変化の傾きが、現時点の測定結果と同温度における所望の時間温度曲線の傾きより小さい場合に、力学的作用付与手段(2a、2b、3、22)によって粉体(5)に与える力学的作用の程度を増大させるように、力学的作用手段の操作を決定し、温度測定手段による測定結果の変化の傾きが、現時点の測定結果と同温度における所望の時間温度曲線の傾きより大きい場合に、力学的作用付与手段によって粉体に与える力学的作用の程度を低減させるように、力学的作用手段の操作を決定する工程を含むことが好ましい。
第1の本発明によれば、表面処理される粉体について表面処理前の粒径、粒度分布、形状などの差がロット毎にある場合や、経年による磨耗などで粉体表面処理装置に個体差がある場合や、表面処理を行う環境(季節、時間、天気による温湿度など)が異なる場合などであっても、所望の表面処理を再現性良く粉体に実施できる、粉体表面処理装置を提供することができる。
第2の本発明によれば、表面処理をされる粉体について表面処理前の粒径、粒度分布、形状などの差がロット毎にある場合や、経年による磨耗などで粉体表面処理装置に個体差がある場合や、表面処理を行う環境(季節、時間、天気による温湿度など)が異なる場合などであっても、所望の表面処理が再現性良く実施された表面処理粉体を得られる、表面処理粉体の製造方法を提供することができる。
本発明の粉体表面処理装置は、表面処理される粉体を収容する容器と、該容器内において、粉体に力学的作用を与える、一または複数の力学的作用付与手段と、粉体の温度を測定する温度測定手段と、温度測定手段による測定結果の推移が所望の時間温度曲線に近づくように、一または複数の力学的作用付与手段のうち少なくともいずれかの操作を決定する制御手段とを備えている。
図1(a)は、一実施形態にかかる本発明の粉体表面処理装置10の一部の断面を概略的に示す図である。図1(b)は、図1(a)に示したb−bでの断面を概略的に示す図である。
図1(a)に示すように、粉体表面処理装置10は、表面処理される粉体5を収容する容器1と、混合回転羽根2a、2bと、デフレクタ3と、粉体5の温度を測定できる温度測定手段4とを備えている。さらに、図示していないが、粉体表面処理装置10は、混合回転羽根2a、2bの回転速度、および/またはデフレクタ3の設置角度を決定する制御手段を備えている。なお、後に説明するように、粉体表面処理装置10においては、混合回転羽根2a、2bおよびデフレクタ3がそれぞれ力学的作用付与手段である。
容器1は、表面処理される粉体5を収容する容器であり、容器1としては、従来の粉体表面処理装置に備えられるものを特に限定することなく用いることができる。
混合回転羽根2a、2bは、シャフト2を介して動力を伝えられ、回転することによって粉体5に力学的エネルギーを与える手段である。なお、混合回転羽根2a、2bは少なくとも力学的エネルギーを与える手段であって、衝撃などを与えることもある。混合回転羽根2a、2bの大きさ、形状、数、材質などは、従来の粉体表面処理装置と同様とすることができる。
デフレクタ3は、混合回転羽根2a、2bによって力学的エネルギーを与えられて容器1内で運動している粉体5と衝突し、粉体5に衝撃を与える手段である。デフレクタ3の大きさ、形状、数、材質などは、従来の粉体表面処理装置と同様とすることができる。
温度測定手段4は、粉体5の温度を測定する手段である。温度測定手段4は、表面処理中の粉体5の温度を測定できるものであれば特に限定されない。温度測定手段4としては、例えば、熱電対を使用することができる。熱電対を用いる場合、図1(a)に示すように、デフレクタ3の下端から先端を数mm突出させ、その他の部分をデフレクタ3及びデフレクタを固定する軸内などに収容することが好ましい。一般に容器1は金属でできており、粉体5に比べると容器1の質量、熱容量が大きいので、温度測定手段4(熱電対)の先端を、容器1の壁面より粉体5内へ突起した状態にして、粉体5の温度を測定することが好ましい。また、図1には温度測定手段4を一つだけ示しているが、温度測定手段4は複数設置して複数個所の温度を測定した方が、測定誤差を減らす意味で好ましい。
粉体表面処理装置10のような回転混合機タイプの粉体表面処理装置の場合、粉体5を容器1内に投入し、混合回転羽根2a、2bを高速で回転させることによって、粉体5を混合することができる。また、このとき混合回転羽根2a、2bは粉体5に少なくとも力学的エネルギーを与える。そして、混合回転羽根2a、2bによって力学的エネルギーを与えられた粉体5は容器1内で運動し、粉体同士や粉体と容器1の壁面との摩擦や衝突によって、粉体5の表面処理が進行する。さらに、粉体5がデフレクタ3に衝突し、デフレクタ3から衝撃を与えられることによっても粉体5の表面処理が進行する。このように、混合回転羽根2a、2bおよびデフレクタ3が粉体5に力学的作用を与えることによって、粉体5の表面処理が進行する。すなわち、粉体表面処理装置10においては、混合回転羽根2a、2bおよびデフレクタ3が力学的作用付与手段である。
上記のように、衝撃や摩擦などの力学的作用は、粉体5の表面処理の実質的原動力である。この力学的作用によるエネルギーは、熱エネルギーに置換される。よって、粉体5に与えられた力学的作用の程度は、粉体5の温度変化として測定することができる。また、粉体5の表面処理の進行具合は表面処理される粉体5そのものの温度にも依存する。粉体表面処理装置10は、後に説明するように、表面処理最中の粉体5の時間温度曲線が、所望の時間温度曲線に追従するように、混合回転羽根2a、2bおよび/またはデフレクタ3の操作を決定する制御手段を備えており、表面処理される粉体5に、表面処理最中のそれぞれの温度領域でいつも同じ表面処理を行うことができる。また、粉体表面処理装置10を用いた表面処理粉体の製造方法によれば、表面処理をされる粉体5について表面処理前の粒径、粒度分布、形状などの差がロット毎にある場合や、経年による磨耗などで粉体表面処理装置10に個体差がある場合や、表面処理を行う環境(季節、時間、天気による温湿度など)が異なる場合などであっても、所望の表面処理が再現性良く実施された表面処理粉体を得ることができる。
よって、粉体表面処理装置10によれば、表面処理される粉体5について表面処理前の粒径、粒度分布、形状などの差がロット毎にある場合や、経年による磨耗などで粉体表面処理装置10に個体差がある場合や、表面処理を行う環境(季節、時間、天気による温湿度など)が異なる場合などであっても、粉体5に所望の表面処理を再現性良く粉体に実施することができる。
所望の時間温度曲線とは、表面処理時間(X軸)に対する表面処理中の粉体の好ましい温度(Y軸)を示す曲線(勿論、単調増加の直線に近いケースも含む。)である。所望の時間温度曲線を定める方法としては、より理想に近い粉体処理を行う際の時間温度曲線に基づいて定めることが考えられる。例えば、既存の表面処理粉体を得たときの時間温度曲線を、これから製造する表面処理粉体の所望の時間温度曲線として定めることができる。また、既存の表面処理粉体とこれから製造する表面処理粉体の原料粉体の物性の違いから、既存の表面処理粉体を得たときの時間温度曲線の温度をどの程度上下にシフトすればより理想に近い粉体処理を行うことができるかを想定したり、該時間温度曲線の時間軸をどの程度伸ばしたり縮めたりすればより理想に近い粉体処理を行うことができるかを想定したりして、所望の時間温度曲線を定めることもできる。また、後に説明するようにして、表面処理中の粉体温度が所望の時間温度曲線に追従するようにしつつ表面処理粉体を複数回製造し、それら表面処理粉体を得たときの時間温度曲線が所望の時間温度曲線からずれていた場合、最も性能が良い表面処理粉体を得られたときの実際の時間温度曲線を、新たな所望の時間温度曲線に定めることもできる。さらには、ある時間温度曲線で得られた表面処理粉体の性能から、研究者の知見を元に意識的にずらした時間温度曲線を設定し、後に説明するようにして、表面処理中の粉体温度がそのずらした時間温度曲線に追従するようにしつつ表面処理粉体を製造することを繰り返し、最終的に最も性能が良い表面処理粉体を得たときの時間温度曲線を、所望の時間温度曲線に定めることもできる。ただし、温度測定手段による実測値には誤差が含まれるため、表面処理粉体を得たときの実際の時間温度曲線に誤差による凹凸が含まれることもある。その場合は、スムージング処理した曲線を持って所望の時間温度曲線としても良い。
次に、制御手段について詳細に説明する。図2に、制御手段の構成の具体例を概略的に示した。図2に示すように、制御手段17は、温度測定手段4による測定結果の推移が所望の時間温度曲線に近づくように、混合回転羽根2a、2bおよび/またはデフレクタ3(力学的作用付与手段)の操作を決定するCPU11、並びに、CPU11に対する記憶装置等を備えている。CPU11は、マイクロプロセッサユニット及びその動作に必要な各種周辺回路を組み合わせて構成され、CPU11に対する記憶装置は、例えば、混合回転羽根2a、2bおよび/またはデフレクタ3の操作を決定するのに必要な制御プログラムや各種データ(例えば、所望の時間温度曲線のデータ)を記憶するROM12と、CPU11の作業領域として機能するRAM13等を組み合わせて構成されている。当該構成に加えて、さらに、CPU11が、ROM12に記憶された制御プログラムと組み合わされることにより、制御手段17が機能する。
混合回転羽根2a、2bおよび/またはデフレクタ3の操作を決定する際、まず、温度測定手段4による測定結果を制御手段17へと入力していく。温度測定手段4からの入力信号は、入力ポート14を介して、入力信号としてCPU11へと到達する。CPU11は、温度測定手段4からの信号、及び、ROM12に記憶された制御プログラムに基づいて、温度測定手段4による測定結果の推移が所望の時間温度曲線に近づくように、混合回転羽根2a、2bおよび/またはデフレクタ3の操作を決定し、出力ポート15を介して決定した結果に関する信号を出力手段(例えば、パソコンの画面等)16へと出力し、混合回転羽根2a、2bおよび/またはデフレクタ3について行うべき操作などが出力手段17に表示される。混合回転羽根2a、2bおよび/またはデフレクタ3について行うべき操作とは、例えば、混合回転羽根2a、2bの回転速度や、デフレクタ3の設置角度などである。なお、出力手段16に代えて、CPU11による決定に基づいて、混合回転羽根2a、2bの回転速度や、デフレクタ3の設置角度などを自動で制御する形態とすることもできる。
このような制御手段17を備えた粉体表面処理装置10を用いた本発明の表面処理粉体の製造方法について、図3および図4を参照しつつ以下に説明する。図3は、本発明の表面処理粉体の製造方法の一例を概略的に示すフローチャートである。図4は、本発明の表面処理粉体の製造方法の他の例を概略的に示すフローチャートである。
図3に示した本発明の表面処理粉体の製造方法は、容器1内に粉体5を収容する工程S10と、該容器1内において粉体の表面処理を開始するとともに、表面処理を行う時間の測定を開始する工程S11と、温度測定手段4によって表面処理を開始して所定の時間経過後の粉体5の温度Trを測定する工程S12と、工程S12での温度測定手段4による粉体5の温度の測定結果(温度Tr)が該測定結果と同時期における所望の温度曲線上の温度Tiより低いかを判定する工程S13と、工程S13においてTi>Trである場合に、混合回転羽根2a、2bおよび/またはデフレクタ3が表面処理中の粉体5に与える力学的作用が増大するように、制御手段17によって混合回転羽根2a、2bおよび/またはデフレクタ3の操作を決定する工程S16と、工程S12での温度測定手段4による粉体5の温度の測定結果(温度Tr)が該測定結果と同時期における所望の温度曲線上の温度Tiより高いかを判定する工程S14と、工程S14においてTi<Trである場合に、混合回転羽根2a、2bおよび/またはデフレクタ3が表面処理中の粉体5に与える力学的作用が低減するように、制御手段17によって混合回転羽根2a、2bおよび/またはデフレクタ3の操作を決定する工程S17と、表面処理の終了条件を満たしているかを判定する工程S15と、を備えている。
なお、工程S12での温度測定手段4による温度測定には誤差が含まれるので、図3に示した方法で混合回転羽根2a、2bおよび/またはデフレクタ3についての操作を決定する場合、1点の測定結果ではなく、複数の測定結果の平均をもって、温度Trを決定してもよい。
工程S13は、Ti>Trを判定する工程であるが、ここで温度Tiは、厳密に所望の温度曲線上の温度としなくとも、所定の幅をもたせた温度範囲であってもよい。すなわち、温度測定手段4によって温度Trを測定した時点での所望の温度曲線上の温度が厳密にはTi’であった場合、工程S13においてTi’±Ti’×5%程度をTiとすることもできる。
工程S14は、Ti<Trを判定する工程であるが、工程S13と同様に、温度Tiを厳密に所望の温度曲線上の温度としなくとも、所定の幅をもたせた温度範囲であってもよい。すなわち、温度測定手段4によって温度Trを測定した時点での所望の温度曲線上の温度が厳密にはTi’であった場合、工程S14においてTi’±Ti’×5%程度をTiとすることもできる。
上記のように、工程S16は、混合回転羽根2a、2bおよび/またはデフレクタ3が表面処理中の粉体5に与える力学的作用が増大するように、制御手段17によって混合回転羽根2a、2bおよび/またはデフレクタ3の操作を決定する工程である。また、工程S17は、混合回転羽根2a、2bおよび/またはデフレクタ3が表面処理中の粉体5に与える力学的作用が低減するように、制御手段17によって混合回転羽根2a、2bおよび/またはデフレクタ3の操作を決定する工程である。
混合回転羽根2a、2bは、回転することによって粉体5に力学的エネルギー(力学的作用)を与えており、混合回転羽根2a、2bの回転速度が速い程、粉体5に多くの力学的エネルギーを与える。したがって、混合回転羽根2a、2bが粉体5に与える力学的作用の程度を増大させる具体的な方法としては、混合回転羽根2a、2bの混合回転羽根の回転速度を上げることが考えられる。一方、混合回転羽根2a、2bが粉体5に与える力学的作用の程度を減少させる具体的な方法としては、混合回転羽根2a、2bの混合回転羽根の回転速度を下げることが考えられる。このように混合回転羽根2a、2bの回転速度で粉体5に与えられる力学的作用の程度を調整する場合は、混合回転羽根2a、2bの回転速度を監視し、インバーター等により混合回転羽根2a、2bの回転速度を正確に制御することが好ましい。
また、デフレクタ3が粉体5に与える力学的作用の程度を増大させる具体的な方法としては、デフレクタ3を図1(b)示すように、デフレクタ3を容器1の壁面に対して垂直に近い角度で設置(容器1の壁面に近づけて設置)することが考えられる。容器1内で混合されている粉体5は、容器1の壁面に近いほど、密度が濃くて運動速度も速いのでデフレクタ3を容器1の壁面に近づける方向へ動かすと、粉体5とデフレクタ3との衝突による衝撃が大きくなる。一方、デフレクタ3が粉体5に与える力学的作用の程度を減少させる具体的な方法としては、デフレクタ3を図1(b)に示した矢印xの方向に回転させ、デフレクタ3を容器1の壁面に対して平行に近い角度で設置することが考えられる。デフレクタ3は、設置角度を手動で調整して固定されるようになっていてもよいが、設置角度を自動で変えられるように駆動制御機構(不図示)を設けてもよい。
このようにして表面処理中の粉体5の温度が所望の時間温度曲線に追従するよう逐次制御し、粉体5の温度が所定の温度に達するか、表面処理を行った時間が時間に達したら、表面処理の終了条件を満たしたと判断して(工程S15YES)、粉体5の表面処理を終了する。
粉体表面処理装置10による粉体5の表面処理を行うに当たり、容器1全体の温度は一定に保つことが好ましい。容器1全体の温度を一定に保った上で粉体5の表面処理を行うことによって、該表面処理の再現性が向上するためである。容器1全体の温度を一定に保つ方法としては、容器1の外周面に接するように設けられ、流体を流通させられる流路を備えたジャケット(不図示)に、温度調整された熱媒体を流すことが考えられる。例えば、暖めたい場合は温度調整された温水を、なるべく冷やしながら長時間処理したい場合は温度調整された冷却水を流す。以下、温度調整された冷却水で容器1を冷やしながら粉体5の表面処理した場合を想定し、さらに説明する。粉体5の発熱がそれ程激しくなく、一方早く粉体5を高温にして、表面処理を速やかに行いたい場合は、温度調整された温水を流す場合もある。
図3に示した方法によって粉体5の表面処理を行った場合に想定される時間温度曲線を図5(a)に示す。図5(a)において、実線で示された曲線が「所望の時間温度曲線」、プロットで示されたものが、表面処理中の粉体5の温度を示している。所望の時間温度曲線は33℃から温度上昇していくものである。図5(a)は粉体5の温度が30℃のときから表面処理が開始されている場合を示している。
表面処理の開始直後は、粉体5の温度が測定結果と同時期における所望の時間温度曲線上の温度より低いため、粉体5により大きな力学的作用を与える必要がある。そのため、混合回転羽根2a、2bの回転速度を調整するならば、混合回転羽根2a、2bをより高速で回転させる。デフレクタ3の設置角度を調整するならば、デフレクタ3の設置角度を容器1の内壁に対してより直角に近い角度になるように調整する。このように混合回転羽根2a、2bおよび/またはデフレクタ3を操作して粉体5の表面処理を行う。
この操作によって、所望の時間温度曲線より急勾配で粉体5の温度は上昇し、表面処理を開始して25秒前後で粉体5の温度が所望の時間温度曲線上の温度より高くなる。そのため、次は粉体5に与えられる力学的作用の程度を低減させる必要がある。具体的には、混合回転羽根2a、2bの回転速度を調整するならば、混合回転羽根2a、2bをより低速で回転させる。デフレクタ3の設置角度を調整するならば、デフレクタ3の設置角度を容器1の壁面に対してより平行に近い角度になるように調整する。このように混合回転羽根2a、2bおよび/またはデフレクタ3を操作することによって、粉体5の温度上昇の角度が少しずつ小さくなり始め、表面処理を開始して50秒前後で粉体5の温度の低下が始まっている。これは容器1のジャケットによく冷えた冷却水が流れていて、粉体5に与えられた力学的作用が熱エネルギーに変換することによる粉体5の温度上昇より、ジャケット内壁からの吸熱が上回っていることを想定している。実際には、粉体5と容器1の壁面との接触面積や接触機会は小さく、粉体5の温度上昇の角度が小さくなる程度であると考えられる。
表面処理を開始して70秒前後で今度は、所望の時間温度曲線より粉体5の温度が低くなるので、また上記のように、粉体5により大きな力学的作用を与えるように混合回転羽根2a、2bおよび/またはデフレクタ3を操作する。このようにして、所望の時間温度曲線の上下を行き来しながら、表面処理を開始して300秒後に表面処理を終了する。かかる方法によれば、所望の時間温度曲線より多少の上下はあるものの表面処理の過程全体を通してみれば、各温度域で粉体5に所望の力学的作用を与えたことになる。
次に、図4に示した本発明の表面処理粉体の製造方法について説明する。図4に示した本発明の表面処理粉体の製造方法は、工程S22、工程S23、および工程S24以外は、図3に示した方法と同様であるため、既に説明した工程については説明を省略する。
工程S22は、温度測定手段4による粉体5の温度の測定結果の変化の傾きIrを測定する工程である。温度測定手段4による測定結果の変化の傾きIrを求める方法としては、現時点の測定結果と直前の測定時の測定結果から決定しても良いが、温度測定手段4による温度測定には誤差が含まれるため、一定時間間隔で粉体5の温度を測定し、現時点を含む直近の3点以上の測定データにより近似を行い、傾きIrを求める方が好ましい。近似の際には、直近を重視し現時点より遠い値の重み付けは小さくするなどしても良い。
工程S23は、工程S22で求めた温度測定手段4による測定結果の変化の傾きIrが現時点の測定結果と同温度における所望の時間温度曲線の傾きIiより小さいかを判定する工程である。Ii>Irである場合は、上記工程S16に進む。工程S23においてIi>Irでないと判断された場合は、上記工程S24に進む。なお、工程S23において、Iiは、厳密に所望の温度曲線の傾きとせずに、所定の幅をもたせてもよい。すなわち、工程S22で求めた傾きIrの測定時と同時期における所望の時間温度曲線の傾きがが厳密にはIi’であった場合、工程S23においてIi’±Ii’×5%程度をIiとすることもできる。
工程S24は、工程S22で求めた温度測定手段4による測定結果の変化の傾きIrが現時点の測定結果と同温度における所望の時間温度曲線の傾きIiより大きいかを判定する工程である。Ii<Irである場合は、上記工程S17に進む。工程S24においてIi>Irでないと判断された場合は、上記工程S15に進む。なお、工程S24においては、工程S23と同様に、Iiを、厳密に所望の温度曲線の傾きとせずに、所定の幅をもたせてもよい。すなわち、工程S22で求めた傾きIrの測定時と同時期における所望の時間温度曲線の傾きがが厳密にはIi’であった場合、工程S24においてIi’±Ii’×5%程度をIiとすることもできる。
このようにして表面処理中の粉体5の温度が所望の時間温度曲線に追従するよう逐次制御し、粉体5の温度が所定の温度に達するか、表面処理を行った時間が所定の時間に達したら、表面処理の終了条件を満たしたと判断して(工程S15YES)、粉体5の表面処理を終了する。
図4に示した方法によって粉体5の表面処理を行った場合に想定される時間温度曲線を図5(b)に示す。図5(b)において、実線で示された曲線が「所望の時間温度曲線」、プロットで示されたものが、表面処理中の粉体5の温度を示している。表面処理の開始時は、所望の時間温度曲線の開始温度より粉体5の温度が低いので、予め定めた混合回転羽根2a、2bの回転速度や平均的なデフレクタ3の設置角度で表面処理を開始する。勿論、所望の時間温度曲線をもっと低温から引いたものを設定し、後述の制御を行っても良い。
表面処理を開始して10秒後に粉体5の温度は33℃に達し、さらに数秒後に、制御手段17は、粉体5の温度の上昇勾配(℃/秒)を計算し、たとえば、所望の時間温度曲線の(0秒、33℃)と(4秒、35.5℃)の勾配より小さいと判断し、混合回転羽根2a、2bの回転速度を上げたり、デフレクタ3を壁面に近づけたりする操作の決定を行う。
図5(b)のケースの場合は、その後も制御手段17による計算を続けるが、しばらく所望の時間温度曲線の勾配までは追いつかず、表面処理を開始して75〜85秒後、42〜43℃付近で、所望の時間温度曲線の30秒後、42℃前後での勾配に追いついてきている。その後は、50秒ほど前の所望の時間温度曲線の勾配と比べながら、混合回転羽根2a、2bの回転速度であったり、デフレクタ3の設置角度であったりを調整しながら、所望の時間温度曲線から約50秒程度遅れながら、同じような履歴を描いて、表面処理を開始して350秒後に所定の温度に達し、表面処理を終了する。
図5(b)に示したのは、表面処理を開始してから80秒後の間のカーブは所望の時間温度曲線と多少異なるものの、その後は粉体5の温度変化が所望の時間温度曲線によく一致した例である。たとえば、粉体5に熱可塑性成分を含んでいて、高温程表面が柔らかく処理が進行し易い場合、高温域において粉体5の温度が所望の時間温度曲線に追従することが、より重要である。熱電対などの温度測定手段4で測定される温度とミクロに見た場合の粉体5が衝突した場所の瞬間的温度は異なり、温度測定手段4で測定される温度で推定される以上に熱可塑性成分を含んだ粉体5の表面処理は進行し易いことがある。本発明によれば、上記のように高温域において粉体5の温度を所望の時間温度曲線に追従させることができるため、表面処理される粉体5が熱可塑性物質を含む場合であっても、所望の表面処理を再現性良く粉体5に実施できる。
図3に示した方法は、比較的制御プログラムが単純であるというメリットがある。一方、図4に示した方法は、制御プログラムが複雑にはなるが、より高精度に表面処理中の粉体の温度を所望の時間温度曲線に追従させることができる。例えば、所望の時間温度曲線に対し、実際の粉体の温度が低めで推移した際、図3に示した方法の場合は、所望の温度に近づくよう粉体に大きな力学的作用を与えることになり、所望の温度に達するまでの間の温度上昇の傾きが急になる。即ち、その温度領域を通過する間に粉体に与えた力学的作用は、表面処理される粉体の温度が所望の時間温度曲線に追従する場合よりも大きくなったことになる。一方、図4に示した方法の場合は、温度測定を行った時点の温度とその傾きを基準に粉体に与える力学的作用の程度を決定するので、表面処理を行う過程全体を通してみた場合、各温度領域でそれぞれ所望の力学的作用(粉体の温度が所望の時間温度曲線に追従するために必要な力学的作用)に近い力学的作用を粉体に与えたことになる。表面処理される粉体に熱可塑性物質が含まれる場合などは、温度により粉体の硬さが変わるため、それぞれの温度領域で粉体に与える力学的作用を所望の力学的作用に近づけることが特に重要である。
勿論、図3に示した方法や図4に示した方法の両方の制御の中間をとるような制御を行っても良い。例えば、原料粉体のロット差や粉体表面処理装置の個体差によって、粉体表面開始時点では、表面処理中の粉体の温度を所望の時間温度曲線に追従させるために丁度良い力学的作用の程度が、予想とずれてしまう場合がある。そのような場合は、まず図4に示した方法で制御しつつ表面処理を開始し、温度測定手段による測定値の変化の勾配が所望の時間温度曲線の勾配に近づいた時点で図3に示した方法に切り替えて制御する方法もある。この場合、所望の時間温度曲線の時間軸に対して、実際の表面処理開始時間を早めたり遅らせたりすることで実際の表面処理時間をずらして読み替えて、図3に示した方法を実行すれば良い。
また、過剰な力学的作用の付与を避けるため、あるいは粉体表面処理装置の能力範囲内で運転する目的で混合回転羽根の回転数やデフレクタの角度の上下限などを設定しても良い。
なお、小さい力学的作用で時間をかけて表面処理をすることと、大きな力学的作用で短時間に表面処理をすることは同じではない。粉体が衝突した瞬間に塑性変形などで熱エネルギーが発生し、ミクロな領域においては温度が急上昇し、それが全体温度に拡散する。ミクロな領域で温度が急上昇している内に粉体の表面処理が進行する。小さな力学的作用ではそのミクロ領域の温度上昇が小さくなってしまうので、大きな力学的作用で短時間に表面処理した場合と、表面処理の全過程を通して粉体に与えた力学的作用の程度が同じであったとしても実際の粉体の表面処理の仕上がりは異なってくる。
例えば、相対的に粒径の大きい母粒子に相対的に粒径の小さい2種類以上の処理粒子を固定させる場合、それぞれの粒子は、粒径や形状、真比重が異なる。2種類それぞれの処理粒子の母粒子への固定程度(埋没深さ)や固定された処理粒子とまだ遊離状態の処理粒子の比率を所望にコントロールしたい時、粒子種が増えるとミクロにみると衝突する組合せが増えるため、実際の処理進行が複雑となり、温度履歴が違ってしまうと同じ処理ができたとは言い難い状態となる。本発明によれば、表面処理中の粉体の温度が所望の時間温度曲線に追従するようにするので、上記のように表面処理される粉体が3種以上の粉体からなる場合であっても、所望の表面処理を再現性良く該粉体に実施することができる。
また、表面処理を複数段階に分けて実施する場合もある。母粒子と1種類目の処理粒子で処理を行い、ある程度処理が進み、ある程度粉体の温度が上がった時点で2種類目の処理粒子を添加し、さらに表面処理を行う場合もある。このような場合であっても同様に精密な表面処理程度を再現性良く実施するために、本発明が有効である。
繰り返しになるが、本発明の思想は、表面処理される粉体に与えられる力学的作用の程度は表面処理中の粉体の温度上昇の傾き(℃/秒)にほぼ比例することに着目して、各温度領域で粉体に与える力学的作用の程度を調整し、表面処理中の粉体の温度が所望の時間温度曲線に追従するようにすることで常に一定の表面処理を再現性よく実施することにある。
これまでに説明した図1に示した形態の粉体表面処理装置10は、いわゆる回転混合機タイプの粉体表面処理装置である。このような形態の粉体表面処理装置としては、日本コークス工業社製のFMミキサ(旧名称:三井鉱山社製の三井FMミキサ、および三井三池化工機社製のヘンシェルミキサFM20B/Iと同様の装置。)やメカノハイブリッドなどを挙げることができる。これらに上記制御手段などを備えることによって、本発明の粉体表面処理装置とすることができる。
なお、本発明の粉体表面処理装置は、かかる形態に限定されない。ホソカワミクロン社製の循環型メカノフュージョンシステム AMSや奈良機械製作所社製のハイブリダイゼーションシステム(NHS)などのような粉体表面処理装置に上記制御手段などを備えることによっても、本発明の粉体表面処理装置とすることができる。
例えば、図6に示したメカノフュージョン(粉体表面処理装置)20は、モータ(不図示)からの動力により回転する容器21と、位置が固定されたインナーピース22およびスクレーパー23とを備えている。粉体表面処理装置20では、インナーピース22およびスクレーパー23に対して矢印Yの方向に回転する容器21とインナーピース22との間で粉体5が圧縮、剪断、摩擦等の力学的作用を受ける。この際、容器21とインナーピース22との間で圧密された粉体5がスクレーパー23により容器21の内壁から掻き取られ、容器21の回転による遠心力で容器21の壁面に押しつけられ、再度容器21とインナーピース22との間で力学的作用を受ける。このようにして粉体5に力学的作用を与え、表面処理が施される。粉体表面処理装置20のような、所定の間隙iを粉体5がすり抜ける際に、該粉体5が与えられる力学的作用を利用するタイプの粉体表面処理装置であれば、インナーピース22が力学的作用付与手段であり、制御手段によってインナーピース22の位置を決定し、間隙iの幅を増減させることで、粉体5に与える力学的作用の程度を調製し、表面処理中の粉体5の温度を所望の時間温度曲線に追従させることができる。
また、ノズルなどから粉体を吹き出し、該粉体同士の衝突や該粉体の衝突板への衝突によるエネルギーを利用するタイプの粉体表面処理装置では、粉体を吹き出すノズルおよび衝突板が力学的作用付与手段であり、制御手段によってノズルから吹き出される粉体に加えられる圧力や衝突板の設置位置などを決定することで、粉体に与える力学的作用の程度を調製し、表面処理中の粉体の温度を所望の時間温度曲線に追従させることができる。
以上、現時点において実践的で好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う粉体表面処理装置および表面処理粉体の製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。