JP6040506B2 - アルギン酸の分解方法とアルギン酸および/またはその誘導体からなる組成物 - Google Patents
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このアルギン酸は、低分子量化することで抗アレルギー性、抗炎症作用を示したり、コレステロール値を低下させる等の生理活性作用を有することが知られており、医療分野、バイオテクノロジー分野はもとより、食品等の分野においても広く利用がなされている。
なお、本明細書において、「アルギン酸」とは、一般式(C6H8O6)nで表わされるβ−D−マンヌロン酸(M)とα−L−グルロン酸(G)が1−4結合した直鎖状のポリマー組成物に限定されることなく、そのナトリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等のアルギン酸塩を包含する。また、「アルギン酸の誘導体」とは、アルギン酸の一部をその構造や性質を大幅に変えない程度に他の原子や官能基で置換した各種の化合物を意味する。以下、特にことわりの無い限り、「アルギン酸および/またはその誘導体」を単にアルギン酸と総称する。
かかる構成によると、アルギン酸を含む水溶液中で液中プラズマが発生されるため、液中プラズマにより発生されるラジカルや電子および正または負の電位を有するイオン等によりアルギン酸の結合が切断される。即ち、代表的には、質量平均分子量がおよそ15万〜150万程度といわれる天然の褐藻類から抽出されたアルギン酸の分子構造を切断して、その平均分子量を低減させることができる。
液中プラズマによるアルギン酸の分解量は、プラズマの発生時間、すなわち分解処理時間に伴って増大する。したがって、プラズマの発生時間を調整することでアルギン酸の分解度を調整することができ、延いては所望の平均分子量のアルギン酸を得ることができる。
なお、本願明細書において、アルギン酸の平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー法(Size Exclusion Chromatography Method:SEC法)で測定される分子量分布に基づいて算出される値とすることができる。サイズ排除クロマトグラフィー法とは、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)またはゲルろ過クロマトグラフィー法(GFC法)とも呼ばれる液体クロマトグラフィーの手法の1つであり、多孔質充填剤を詰めたカラム中における充填剤表面の細孔とポリマーとの「サイズ排除」(Size Exclusion)機構によって、測定試料の分子量に基づくふるい分けを行っている。有機化合物の平均分子量には、数平均分子量と重量平均分子量とが規定されるが、本明細書において、両者を特に区別する必要がない場合には、単に「平均分子量」とのみ記載する。
アルギン酸の中でも例えばアルギン酸ナトリウムは、冷水ないし温水に溶けて粘性のあるコロイド溶液となることから、乳化剤、安定剤、増粘剤等の食品添加物等として広く利用されている。この粘性の大小(すなわち粘度)はアルギン酸ナトリウムの分子量、より具体的にはアルギン酸を構成するウロン酸分子の重合度に応じて変化するため、高精度で粘性の調整を行うにはアルギン酸は低分子量であることが望ましい。また、その他にも低分子量のアルギン酸は様々な分野で多用されている。アルギン酸の分子量を所望のものとするには、従来は、γ線あるいは紫外線照射によりアルギン酸を低分子量化したり、所望の開き目の限外濾過膜でろ過する必要があった。
これに対し、このアルギン酸の分解方法によると、質量平均分子量が10×105以上(典型的には12×105以上)のいわゆる高分子量アルギン酸(典型的には、抽出され精製されたままのアルギン酸)を、質量平均分子量が7×105以下(典型的には5×105以下、例えば、3×105以下)のいわゆる低分子量アルギン酸に、比較的短時間で容易に分解することができる。具体的な処理時間については、アルギン酸含有水溶液の系にもよるため一概には言えないが、例えば一例として、アルギン酸含有水溶液の質量平均分子量を12×105以上から7×105以下程度にまで低減させるのに要する時間は、濃度が0.2%のアルギン酸含有水溶液の場合で15分程度、0.9%のアルギン酸含有水溶液の場合で25分程度と、短時間であり得る。
なお、本明細書においてアルギン酸含有水溶液の濃度の単位である「%」は、特にことわりの無い限り(w/v)基準であって、溶液100ml中に含まれるアルギン酸(溶質)のグラム数を示すものとする。
液中プラズマによるアルギン酸の分解においては、より大きい分子量を有するアルギン酸から優先的に分解される傾向がみられる。したがって、かかる構成によると、たとえ処理前の水溶液中のアルギン酸の分子量分布が二峰性を呈する場合であっても、より大きなピークを形成しているアルギン酸から優先的に分解されるため、分子量分布は徐々に単峰性へと推移してゆく。すなわち、二峰性の分子量分布を有するアルギン酸を単峰性の分子量分布を有するものへと調製することができる。
液中プラズマによるアルギン酸の分解においては、より大きい分子量を有するアルギン酸から優先的に分解される傾向がみられる。また、その分子量分布は分解と共に広大化することがない。したがって、かかる構成によると、より狭い分子量分布を有するアルギン酸、すなわちより分子量の揃ったアルギン酸へと分解することができる。例えば、多分散度が1.8〜1.9程度のアルギン酸を、多分散度1.4〜1.7程度に、より典型的には1.4〜1.5程度に分解することができる。
かかる構成とすることで、水溶液中のアルギン酸の状態を液中プラズマによる分解に適した状態とすることができ、より短時間で高効率な分解を行うことができる。
かかる構成とすることで、液中プラズマを発生させるのに必要な電力量を抑え、より安定した液中プラズマを発生させることができるため、より効率よく安定した条件でアルギン酸の分解を行うことができる。
かかる構成によると、ジュール熱により水溶液中に発生する気泡を水面に向かって浮上させることなく、水溶液中に安定した状態で維持することができ、かかる気泡中に安定した状態でプラズマを発生させることもが可能となる。これにより、より効率よく安定した状態でアルギン酸の分解を行うことが可能となる。
液中で発生されるプラズマは、火花放電、コロナ放電、グロー放電、アーク放電の形態であり得る。なかでも、本態様の分解方法では、液中プラズマのより好ましい形態としてグロー放電プラズマをアルギン酸の分解に利用しており、非平衡な低温プラズマを発生させることができ、より安定的にアルギン酸の分解を行うことができる。
液中のグロー放電プラズマは、液中に配置した電極間に高周波数の電圧を印加することを発生させることができる。かかる構成によると、電極間に発生するジュール熱により液相中に発生される気相の内部に、グロー放電プラズマを定常的に発生させることができる。すなわち、液相/気相/プラズマ相の界面が安定に形成され、プラズマ相で発生された活性種が気相を介して気液界面に供給されるため、液相に含まれるアルギン酸を高効率に分解することが可能となる。
上記のとおり、本発明のアルギン酸の分解方法によると、アルギン酸を分解して低分子量化することができ、また、そのアルギン酸の分解物の分子量はばらつきの少なく比較的揃ったものとすることができる。これにより、その平均分子量に応じた諸特性がより明瞭に発現され得るアルギン酸が提供される。
すなわち、上記のアルギン酸の分解方法は、多分散度が上記の範囲内で所望の平均分子量を有するアルギン酸を製造する方法として利用することが可能である。これにより、例えば所望の特性を強く有するアルギン酸を簡便かつ高効率に製造することが可能とされる。
ここに開示されるアルギン酸の分解方法は、アルギン酸および/またはその誘導体を含む水溶液中でプラズマを発生させることにより、該水溶液中のアルギン酸および/またはその誘導体の平均分子量を低減させることを特徴としている。
ここで、液中プラズマは、液体中に発生された気体(気相)にマイクロ波や高周波を印加して当該気体を構成する分子を部分的ないしは完全に電離させることで、形成することができる。つまり、液中プラズマにおいては、プラズマ相を取り囲む気相はさらに液相に取り囲まれており、プラズマを構成する上記のイオン、電子およびラジカル等の活性種は制限された気相中において自由に運動し得る状態であり、解放された気相中に発生される気相プラズマとは異なる物理的および化学的性質を示す。例えば、気相プラズマは、気体の温度を上げて行った際にこの気体を構成する中性分子が電離してプラズマ化することで発生する。このとき、固体・液体・気体間の相転移とは異なり気体からプラズマへの転移は徐々に起こるため、構成分子のごく一部が電離した電離度が非常に低い状態でも充分にプラズマであり得る。これに対し液中プラズマは、典型的には、まず液中での放電により当該液体がジュール加熱により気化されて気相を形成し、さらにこの気相においてプラズマが発生することで形成される。すなわち、液中プラズマは、プラズマという高エネルギー状態が液中(すなわち凝縮相)に閉じ込められており、閉鎖系の物理が実現するとともに、解放されない高密度なプラズマ反応場が形成されているといえる。
これらのことから、本発明のアルギン酸の分解方法では、アルギン酸を簡便かつ高効率に分解することが可能とされる。
図1は、アルギン酸を含む水溶液中でプラズマを発生させるためのソリューションプラズマ発生装置10の概略を示す図である。この実施形態において、アルギン酸を含む水溶液2は、ガラス製のビーカーなどの容器5に入れられている。また、プラズマを発生させるための一対の電極6は所定の間隔を以て水溶液2中に配設され、絶縁部材9を介して容器5に保持されている。電極6は外部電源8に接続されており、この外部電源8から所定の条件のパルス電圧が印加される。これによって、一対の電極6間に、定常的にソリューションプラズマ4を発生させることができる。
なお、図2では理解を容易にするために、液相2と気相3、気相3とプラズマ相4の間の各界面が略球状に明確に形成されたような様子を示しているが、かかる界面は必ずしも明確に形成されることに限定されない。例えば、気相3とプラズマ相4の間の界面に臨界的なものがなく、かかる界面は空間的な広がりを持っていても良い。
例えば、食品分野で広く利用されているアルギン酸ナトリウムは、その分子量特性が製品の品質、保存性に大きな影響を与えることが知られている。例えば、アルギン酸ナトリウム水溶液の粘度は、アルギン酸ナトリウムの分子量、より具体的にはアルギン酸を構成するウロン酸分子の重合度に応じて変化する。すなわち、多分散度の小さいアルギン酸とすることで、その分子量特性に応じた諸特性がより明瞭に発現され得るアルギン酸を得ることができる。そしてまた、本発明の方法で得られる単峰性で多分散度が小さく所定の平均分子量のアルギン酸を複数配合することで、各々の分子量特性に応じた特性をバランス良く備えたアルギン酸を調整することも可能となる。
処理対象であるアルギン酸溶液を、以下の手順で用意した。すなわち、(a)0.3mg、(b)0.75mgおよび(c)1.35mgのアルギン酸ナトリウム(関東化学株式会社製)を超純水に溶解させて150mLにメスアップすることで、濃度がそれぞれ(a)0.2%、(b)0.5%および(c)0.9%の3通りのアルギン酸水溶液(a)〜(c)を用意した。なお、このアルギン酸ナトリウムの質量平均分子量は約12.4×105、多分散度は約18であった。
なお、粘度の測定は、音叉型振動式粘度計(株式会社エー・アンド・デイ製、SV−10)を用い、20℃の環境にて測定した。また、電気伝導度は、電気伝導率計を用いて室温(25℃)にて測定した。
図1に、本実施形態で用いたアルギン酸の分解に用いたソリューションプラズマ発生装置10を模式的に示した。この装置10は、ビーカーからなる容器5に処理対象である上記で用意したアルギン酸水溶液2を入れ、この溶液中に2本のタングステン電極6を配置することで構成したものである。タングステン電極6としては、外周を絶縁材で被覆した直径5mmのタングステン線材を用い、先端部においてタングステン線材が絶縁材から1mm程度露出するようにした。また、2本のタングステン電極6は、同様のものを0.7mmの間隔を保つように対向して配置した。アルギン酸水溶液2は、攪拌装置7にて系の均質が保てる程度(例えば、200rpm程度)で撹拌した。
上記で用意したアルギン酸溶液(a)〜(c)中において、表1に示した条件でソリューションプラズマを所定の時間発生させた際の、処理時間と溶液の温度との関係を調べ、その結果を図3に示した。また、処理時間と溶液の粘度との関係を調べ、その結果を図4に示した。
電圧印加によって上記の電極間にはジュール熱が発生し、水溶液の温度はプラズマ処理時間の経過と共に80℃程度まで上昇した。水溶液の温度が高くなるほど、系の反応性は高められ傾向がある。ここで、図4に示されたように、アルギン酸の濃度が高い水溶液ほど粘度が高くなることから、水溶液中に蓄積される発熱量も多く、図3のアルギン酸水溶液(a)〜(c)の温度を示す曲線はその濃度の順に並ぶことが予想された。しかしながら、ここに示す例では、中間の濃度の水溶液(b)の温度が最も低い結果となり、アルギン酸含有水溶液の濃度を調整することで反応(例えば反応速度)に影響を与え得ることがわかった。
また、図4の処理時間と粘度との関係からは、水溶液の粘度が極めて高い状態にある処理開始初期の水溶液(c)において、粘度の低下の度合いが極めて大きくなっていることがわかる。これは、アルギン酸が高い濃度で存在し、その分子が互いに絡み合って高粘性を示す状態においては、その絡み合う点においてアルギン酸の結合が破壊され易く、アルギン酸の分解と絡み合いの解消、すなわち粘度の低減とが同時に起こっているものと考えられる。
ソリューションプラズマはマゼンタ色の発光を生じる。光ファイバープローブに連結した分光装置(AvaSpec/3648−USB2)を用いて、ソリューションプラズマの時間分解発光分光分析を行い、プラズマ中に発生した化学活性種の分析を行った。その結果を図5A〜5Cおよび図6に示した。図5A〜5Cは、それぞれアルギン酸溶液(a)〜(c)中においてソリューションプラズマを発生させた際の、所定の処理時間における発光スペクトルである。図6は、処理時間45分におけるアルギン酸水溶液(a)〜(c)の発光スペクトルである。
上記で用意したアルギン酸水溶液(a)〜(c)中において、表1に示した条件でソリューションプラズマを所定の時間発生させた際の、処理時間と平均分子量との関係を調べた。その結果を図7Aおよび7Bに示した。図7Aは処理時間と質量平均分子量との関係を、図7Bは処理時間と数平均分子量との関係を示している。また、図8A〜8Cに、アルギン酸溶液(a)〜(c)のそれぞれについて得られた微分分子量分布曲線の時間変化を示した。
なお、平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法により、下記の条件にて測定した。
カラム :Shodex OHpak SB-806M(昭和電工株式会社製)
溶離液 :0.1M NaNO3 aq.
流速 :0.4mL/min
カラム温度 :30℃
インテグレータ:807-IT(日本分光株式会社製)
上記で用意したアルギン酸水溶液(a)〜(c)中において、表1に示した条件でソリューションプラズマを所定の時間発生させた際の、処理時間と各水溶液の色との関係を、目視で観察するとともに、可視・紫外分光法(UV/VIS:Ultraviolet・Visible Absorption Spectroscopy)により吸収スペクトルおよび透過率の測定を行った。アルギン酸水溶液(a)〜(c)の分解処理時間ごとのUV/VIS法による吸収スペクトルをそれぞれ図9A〜9Cに示した。
目視観察では、アルギン酸水溶液(a)および(b)については、未処理の状態のものから60分間の処理を施したものまで、いずれも水溶液の色は無色透明で変化は見られなかった。これに対し、アルギン酸水溶液(c)については、処理時間が45分以上となるあたりから透明の褐色に変色し始め、処理時間が長くなるにつれてその色が濃く変化していくのが確認できた。
目視観察と図9A〜9Cの吸収スペクトルとから、アルギン酸水溶液の変色は、極大吸収波長λmaxが265nmにおける吸収に由来していることがわかった。この吸収は、アルギン酸が架橋したことに因るものであると推察される。
3 気相
4 プラズマ(プラズマ相)
5 容器
6 電極
7 攪拌装置
8 外部電源
9 絶縁部材
10 ソリューションプラズマ発生装置
Claims (11)
- アルギン酸および/またはその誘導体を含む水溶液中でプラズマを発生させることにより、該水溶液中のアルギン酸および/またはその誘導体の平均分子量を低減させる、アルギン酸の分解方法。
- 前記プラズマの発生時間を調整することで、前記平均分子量が所定の値にまで低減された前記アルギン酸および/またはその誘導体の分解物を得る、請求項1に記載のアルギン酸の分解方法。
- 質量平均分子量が10×105以上の前記アルギン酸および/またはその誘導体を分解することにより、質量平均分子量が7×105以下の前記分解物を得る、請求項1または2に記載のアルギン酸の分解方法。
- サイズ排除クロマトグラフィー法により測定される分子量分布が二峰性を示す前記アルギン酸および/またはその誘導体を、該分子量分布が単峰性を呈する分解物に分解する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルギン酸の分解方法。
- 前記分解物についてサイズ排除クロマトグラフィー法により測定される単峰性の分子量分布において、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で表される多分散度(Mw/Mn)が1.4〜1.7の範囲である、請求項4に記載のアルギン酸の分解方法。
- プラズマ発生前の前記アルギン酸および/またはその誘導体を含む水溶液の濃度を、w/v%基準で、0.1%〜1%の範囲とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のアルギン酸の分解方法。
- 前記水溶液の電気伝導度を、300μS・cm−1〜2500μS・cm−1の範囲とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のアルギン酸の分解方法。
- 前記プラズマは、前記水溶液中で線状電極間にパルス幅が1〜10μsで、周波数が103〜105Hzの直流パルス電圧を印加することで発生させる、請求項1〜7のいずれか1項に記載のアルギン酸の分解方法。
- 前記プラズマが、グロー放電プラズマである、請求項1〜8のいずれか1項に記載のアルギン酸の分解方法。
- 前記グロー放電プラズマは、前記水溶液中に発生した気相中に形成される、請求項1〜9のいずれか1項に記載のアルギン酸の分解方法。
- 請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法を行うことを特徴とする、質量平均分子量(Mw)が0.1×105〜7×105の範囲のいずれかであって、多分散度(Mw/Mn)が1.4〜1.7の範囲である、アルギン酸および/またはその誘導体からなる組成物の製造方法。
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