本発明において、「ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト」とは、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-A(以下、単に「GC-A」と表記する場合もある(Chinkers M,et al.,Nature 338;78-83,1989))に結合し、そのグアニレートシクラーゼを活性化する作用(以下、「GC-Aアゴニスト活性」)を有する物質、を意味し、本明細書においては単に「GC-Aアゴニスト」と表記される場合もある。代表的なGC-Aアゴニストとしては、例えば、心房性ナトリウム利尿ペプチド(Atrial Natriuretic Peptide: ANP)や脳性ナトリウム利尿ペプチド(Brain Natriuretic Peptide: BNP)等が挙げられる。本発明のGC-Aアゴニストは、GC-Aアゴニスト活性を有するものであれば特に限定されず、ANP、BNP、それらの活性断片、それらの変異体、それらの誘導体並びにそれらの修飾体などを用いることができる。また、ANP及びBNPとは構造上の共通性を有しないペプチドや低分子化合物であっても、GC-Aアゴニスト活性を有するものであれば、本発明のGC-Aアゴニストに包含される。本発明の医薬等には、1種類又は2種類以上のGC-Aアゴニストが含まれていてもよいが、好ましくは5種類以下であり、より好ましくは3種類以下であり、さらに好ましくは1種類である。
本発明におけるANPとしては、28個のアミノ酸よりなるヒト由来ANP(SLRRSSCFGG RMDRIGAQSG LGCNSFRY:配列番号1、本明細書中、hANPともいう)、ラット由来ANP(SLRRSSCFGG RIDRIGAQSG LGCNSFRY:配列番号2)などが挙げられる。ヒト由来ANPについては、Biochem.Biophys.Res.Commun.,118巻,131頁,1984年に記載のα−hANPが、一般名カルペリチド(carperitide)として、日本において製造販売承認を取得し、販売(商品名:ハンプ、HANP)されている。α−hANPは、一般的にはHuman Pro-ANP [99-126]としても知られている。
本発明におけるBNPとしては、32個のアミノ酸よりなるヒト由来BNP(SPKMVQGSGC FGRKMDRISS SSGLGCKVLR RH:配列番号3、本明細書中、hBNPともいう)、ブタ由来BNP(SPKTMRDSGC FGRRLDRIGS LSGLGCNVLR RY:配列番号4)、ラット由来BNP(SQDSAFRIQE RLRNSKMAHS SSCFGQKIDR IGAVSRLGCD GLRLF:配列番号5)などを例示することができる。ヒトBNPは一般名ネシリチド(nesiritide)として、米国等で薬事承認を受けており、商品名:ナトレコール(Natrecor)として販売されている。
また、各種のANP及びBNPにおいて、配列中に含まれる2つのCys残基間のジスルフィド結合により形成されるリング構造(例えば、hANPでは、配列番号1の7位Cysと23位Cysの間でジスルフィド結合しリング構造を形成、hBNPでは、配列番号3の10位Cysと26位Cysの間でジスルフィド結合しリング構造を形成)に含まれる17個のアミノ酸からなる配列及びそのC末端に続くアミノ酸配列において、Cys -Phe -Gly -Xaa1 -Xaa2 -Xaa3 -Asp -Arg -Ieu -Xaa4 -Xaa5 -Xaa6 -Xaa7 -Xaa8 -Leu -Gly -Cys -Xaa9 -Xaa10 -Xaa11 -Arg(ここで、Xaa3はMet、Leu又はIleを示し、Xaa1〜Xaa2及びXaa4〜Xaa11は、それぞれ独立して、天然に存在するアミノ酸、又は人工的に合成されたアミノ酸類似体を示す)(配列番号6、以下「リング構造配列A」という)が、各種ペプチド間で良く保存されており、受容体の結合と活性発現に重要と考えられている(Silver, MA,, Curr. Opin. Nephrol. Hypertens. (2006), 15, p14-21、A. Calderone, Minerva Endocrinol.(2004), 29, p.113-127)。
本発明において、「ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニスト」とは、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-B(以下、単に「GC-B」と表記する場合もある(Suga S., et al., Endocrinology (1992), 130(1), p.229-239))に結合し、そのグアニレートシクラーゼを活性化する作用(以下、「GC-Bアゴニスト活性」)を有する物質、を意味し、本明細書においては単に「GC-Bアゴニスト」と表記される場合もある。代表的なGC-Bアゴニストとしては、例えば、C型ナトリウム利尿ペプチド(C-type Natriuretic Peptide: CNP)が挙げられる。本発明のGC-Bアゴニストは、GC-Bアゴニスト活性を有する物質であれば特に限定されず、CNP、その活性断片、それらの変異体、それらの誘導体並びにそれらの修飾体などを用いることができる。また、CNPとは構造上の共通性を有しないペプチドや低分子化合物であっても、GC-Bアゴニスト活性を有するものであれば、本発明のアゴニストに包含される。本発明の医薬等には、1種類又は2種類以上のGC-Bアゴニストが含まれていてもよいが、好ましくは5種類以下であり、より好ましくは3種類以下であり、さらに好ましくは1種類である。
本発明におけるCNPとしては、22個のアミノ酸よりなるヒト由来CNP-22(GLSKGCFGLK LDRIGSMSGL GC:配列番号7、本明細書中、hCNP-22ともいう、ブタ及びラット等哺乳類では共通のアミノ酸配列を有する)、53個のアミノ酸よりなるヒト由来CNP-53(DLRVDTKSRA AWARLLQEHP NARKYKGANK KGLSKGCFGL KLDRIGSMSG LGC:配列番号8、本明細書中、hCNP-53ともいう)、ニワトリ由来CNP(GLSRSCFGVK LDRIGSMSGL GC:配列番号9)、カエル由来CNP(GYSRGCFGVK LDRIGAFSGL GC:配列番号10)、などが挙げられる。
各種のCNPにおいて、配列中に含まれる2つのCys残基間のジスルフィド結合により形成されるリング構造(例えば、hCNP-22では、配列番号7の6位Cysと22位Cysの間でジスルフィド結合しリング構造を形成)がGC-B受容体への結合と活性発現に重要と考えられている(Furuya, M. Et al, Biochem. Biophys. Res. Commun.,(1992), 183, No 3, p.964-969, Silver, MA,, Curr. Opin. Nephrol. Hypertens. (2006), 15, p14-21、A. Calderone, Minerva Endocrinol.(2004), 29, p.113-127)。Furuyaらの報告によれば、リング構造のみからなるペプチドであるhCNP6-22(配列番号7のアミノ酸番号6乃至22からなるペプチド)、又はリング構造のN末端とC末端にそれぞれANPのN末端側、及びC末端側の配列を付加しても、hCNP-22とほぼ同程度のGC-Bアゴニスト活性を示すこと、hCNP-22の9位Leuと10位Lysに変異を有するペプチドでは活性が減弱するが、それ以外の部位(例えば、17位Ser、18位Met)に変異を有するペプチドやhANPの10乃至12位のアミノ酸配列を対応するhCNP-22の配列であるLeu-Lys-Leu(配列番号7の9位乃至11位)に置換したペプチドは、hCNP-22とほぼ同程度のGC-Bアゴニスト活性を示すこと、などが報告されている。これらの知見から、GC-Bアゴニスト活性に重要なリング構造のアミノ酸配列は、Cys -Phe -Gly -Leu -Lys -Leu -Asp -Arg -Ile -Gly -Xaa1 -Xaa2 -Ser -Gly -Leu -Gly -Cys(ここで、Xaa1は、Ser又はAla、Xaa2はMet、Phe又はGluを示す:配列番号11)であり、以下、この配列を「リング構造配列B」という。
本発明において、生物活性を有するペプチド又はタンパク質の「活性断片」とは、当該ペプチド又はタンパク質の生物活性に関連する部位からなり、且つ、当該ペプチド又はタンパク質の有する生物活性の少なくとも一部を保持するもの、を意味する。本発明におけるANP又はBNPの活性断片として、上述したGC-Aに結合し、そのグアニレートシクラーゼを活性化する作用を有するペプチドを用いることができる。そのような活性断片としては、上述のリング構造配列A(配列番号6のアミノ酸配列)を有するペプチド、好ましくはリング構造配列A(配列番号6のアミノ酸配列)からなるペプチドを挙げることができる。その具体例としては、配列番号1又は2の7乃至27位に記載されたアミノ酸配列、配列番号3又は4の10乃至30位に記載されたアミノ酸配列、或いは、配列番号5の23乃至43位に記載されたアミノ酸配列、からなるペプチド等が挙げられるが、これに限定されず、リング構造配列Aを有し、GC-Aアゴニスト活性を有するものは、本発明のANP又はBNPの活性断片として採用することができる。
本発明におけるCNPの活性断片として、例えば、配列番号7乃至10の何れかのアミノ酸配列の少なくとも一部のアミノ酸配列からなり、且つ、GC-Bアゴニスト活性を有するペプチドを好適に用いることができる。そのような活性断片としては、上述のリング構造配列B(配列番号11のアミノ酸配列)を有するペプチド、好ましくはリング構造配列B(配列番号11のアミノ酸配列)からなるペプチドを挙げることができ、その具体例としては、hCNP6-22、配列番号7、9又は10のアミノ酸配列の1位乃至5位において、1位を含む連続するアミノ酸が一部又は全て欠損したペプチド、配列番号8のアミノ酸配列の1位乃至36位において、1位を含む連続するアミノ酸が一部又は全て欠損したペプチド、などが挙げられるが、これに限定されず、リング構造配列Bを有し、GC-Bアゴニスト活性を有するものは、本発明のCNPの活性断片として採用することができる。
本発明のGC-Aアゴニスト及びGC-Bアゴニストとしては、上述した活性断片そのものを採用することもでき、また、活性断片のN末端、C末端又はその両方に1乃至複数のアミノ酸が付加したようなペプチド(活性断片の誘導体)であっても、所望のアゴニスト活性を保持する限り、採用することができる。このようなペプチドとしては、hCNP6-22のN末端、C末端及びその両方に、ANPのC末端、及びN末端に由来する配列を付加したペプチド(Furuya, M. Et al, Biochem. Biophys. Res. Commun.,(1992), 183, No 3, p.964-969)などを挙げることができる。
本発明において、生物活性を有するペプチド又はタンパク質の「変異体」とは、当該ペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列の一箇所〜数箇所において、一つ〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は、付加(以下、「置換等」という)されたものであって、且つ、当該ペプチド又はタンパク質の有する生物活性の少なくとも一部を保持するもの、を意味する。「数箇所」とは、通常3箇所程度、好ましくは2箇所程度である。「数個」とは、通常10個程度、好ましくは5個程度、より好ましくは3個程度、さらに好ましくは2個程度である。複数箇所で置換等される場合には、置換、欠失、挿入及び付加の何れか一つであっても良く、二つ以上が組み合わされていても良い。また、置換等されるアミノ酸は、天然に存在するアミノ酸であってもよく、そのアシル化体等の修飾物であってもよく、人工的に合成されたアミノ酸類似体であってもよい。また、置換等される部位は、元となるペプチド又はタンパク質の活性の一部が保持される限り、どの部位を選択してもよいが、当該元となるペプチド又はタンパク質の活性部位又は受容体結合部位、以外の箇所が置換等されたものが好ましい。ANP及びBNPの変異体としては、GC-Aアゴニスト活性が保持される限り、所望の部位において置換等されたものが採用できるが、好ましくは、上述したリング構造配列Aが保持され、それ以外の部位で置換等されたアミノ酸配列を有するペプチドを挙げることができる。
例えば、ANPの変異体は、GC-Aアゴニスト活性を有する限り、例えば、配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列中の所望の1つ〜複数の箇所において1〜数個のアミノ酸が置換等されていても良いが、好ましくは、配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列中の配列番号6に表示されたアミノ酸以外のアミノ酸において1箇所〜数箇所で一つ〜数個のアミノ酸が置換等されたものであり、より好ましくは配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列の1乃至6位及び28位の何れか1箇所〜数箇所で一つ〜数個のアミノ酸が置換等されたものである。また、BNPの変異体は、GC-Aアゴニスト活性を有する限り、配列番号3、4又は5に記載のアミノ酸配列の所望の1つ〜複数の箇所において一つ〜数個のアミノ酸が置換等されていても良いが、好ましくは、配列番号3、4又は5に記載のアミノ酸配列中の配列番号6に表示されたアミノ酸以外のアミノ酸において1箇所〜数箇所で一つ〜数個のアミノ酸が置換等されたものであり、より好ましくは配列番号3又は4に記載のアミノ酸配列の1乃至9位、31位及び32位の何れか1箇所〜数箇所で一つ〜数個のアミノ酸が置換等されたもの、或いは、配列番号5に記載のアミノ酸配列の1位乃至22位、44位及び45位の何れか一箇所〜数箇所で一つ〜数個のアミノ酸が置換等されたペプチド等である。
ANPの変異体の具体例としては、例えば、hANPの12位のMetがIleに置換されたラットα−rANP(Biochem.Biophys.Res.Commun.,121巻,585頁,1984年)、N末のSer−Leu−Arg−Arg−Ser−Serが欠失したhANP等が挙げられる。この様なANP又はBNP変異体に関しては、例えば、Medicinal Research Review,10巻,115頁,1990年に記載されている一連のペプチド等が挙げられる。また、アミノ酸配列の1乃至複数のアミノ酸が欠失するとともにアミノ酸配列の1乃至複数のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された例としては、例えば、15アミノ酸残基から成るmini−ANP(Science,270巻,1657頁,1995年)等が挙げられる。
また、CNPの変異体としては、GC-Bアゴニスト活性が保持される限り、所望の部位において置換等されたものが採用できるが、好ましくは、上述したリング構造配列Bが保持され、それ以外の部位で置換等されたペプチドを挙げることができる。具体的なCNPの変異体としては、GC-Bアゴニスト活性を有する限り、配列番号7乃至10に記載のアミノ酸配列中の所望の1つ〜複数の箇所において1〜数個のアミノ酸が置換等されていても良いが、好ましくは、配列番号7乃至10の何れかに記載のアミノ酸配列中の配列番号11に表示されたアミノ酸以外のアミノ酸において1箇所〜数箇所で一つ〜数個のアミノ酸が置換等されたものであり、より好ましくは配列番号7、9又は10に記載のアミノ酸配列の1乃至5位の何れか1箇所〜数箇所で一つ〜数個のアミノ酸が置換等されたもの、又は、配列番号8に記載のアミノ酸配列の1乃至36位の何れか1箇所〜数箇所で一つ〜数個のアミノ酸が置換等されたものである。
CNPの変異体の具体例としては、hCNP-22の17位と18位に変異を有するペプチドがhCNP-22と同等のGC-Bアゴニスト活性を有すること、そのような変異体のリング構造部分のN末端とC末端をhANP由来の配列に置き換えた変異体の誘導体でもhCNP-22の活性の90%程度のGC-Bアゴニスト活性を示すこと、hCNP-22の9位から11位の何れか一箇所に変異を有するペプチドがhCNP-22の50%以上のGC-Bアゴニスト活性を示すこと、hCNP-22の10位と11位の両方に変異を有するペプチドがhCNP-22の40%以上のGC-Bアゴニスト活性を有することなどが報告されている(Furuya, M. Et al, Biochem. Biophys. Res. Commun.,(1992), 183, No 3, p.964-969)。また、別の文献では、hCNP-22の各種変異体が、GC-Bアゴニスト活性を保持することや、その中にはさらに、CNPの分解酵素である中性エンドペプチダーゼ(NEP)による切断への耐性を有することなどが記載されている(国際公開第WO2009/067639号パンフレット)。また、別のhCNP-22の誘導体として、CD-NP が知られている。これはhCNP-22のC末にヘビ毒由来のナトリウム利尿ペプチドであるDNP (dendroapsis natriuretic peptide)のC末配列が付与されたペプチドであり、GC-Aアゴニスト活性とGC-Bアゴニスト活性の両方を保持するものとして知られている(Deborah et al., J. Biol. Chem.,(2008), Vol. 289, No.50, pp.35003-35009)。
本発明において、生物活性を有するペプチド又はタンパク質の「誘導体」とは、通常、当該ペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列を含み、さらに別のペプチド又はタンパク質が付加された融合ペプチドであり、且つ、当該生理活性ペプチド又はタンパク質の有する生物活性の少なくとも一部を保持する融合ペプチドを意味する。このような生物活性(本発明においては、GC-A又はGC-Bに結合し、そのグアニレートシクラーゼを活性化する作用)の少なくとも一部を有する融合ペプチドを、生理活性ペプチドの誘導体ともいう。本発明の誘導体において、元となる生理活性ペプチド又はタンパク質の、C末端又はN末端の一方に付加ペプチドが融合されていてもよく、C末端及びN末端の両方に付加ペプチドが融合されたものであっても良い。付加されるペプチドとしては、特に限定されないが、そのペプチド自身が生理活性を有さないものが好ましい。また、付加ペプチドは直接結合していてもよく、1〜数個のアミノ酸からなるリンカー配列を介して結合していても良い。リンカー配列としては、様々なものが知られているが、Gly、Ser等を多く含むものが好ましく使用される。そのような付加ペプチドとしては、免疫グロブリン(好ましくはIgG)のFc部位、血清アルブミン、グレリンのC末端由来の部分配列などを挙げることができる(例えばANPを免疫グロブリンのFc部位と結合させた融合タンパク質(米国特許出願公開US2010-0310561等参照)、GLP-1を血清アルブミンと結合させた融合タンパク質(国際公開第WO2002/046227等参照))。本発明のGC-Aアゴニストとして用いられる誘導体としては、ANP又はBNPの誘導体、ANP又はBNPの活性断片の誘導体、ANP又はBNPの変異体の誘導体、などを例示することができ、好ましくはhANPの誘導体及びhBNPの誘導体である。本発明のGC-Bアゴニストとして用いられる誘導体としては、CNPの誘導体、CNPの活性断片の誘導体、CNPの変異体の誘導体などを例示することができ、好ましくはhCNP-22の誘導体、hCNP-53の誘導体又はhCNP6-22の誘導体である。
GC-Aアゴニストとして採用される誘導体の例としては、例えばANPを免疫グロブリンのFc部位と結合させた融合タンパク質(米国特許出願公開US2010-0310561等参照)がANPの生物活性を保持したまま、血中滞留性が改善されることが知られている。また、ANP及びBNPの各種誘導体に関しては、例えば、Medicinal Research Review,10巻,115頁,1990年に記載されている一連のペプチドが挙げられる。
また、ANP及びCNPの誘導体の具体例として、国際公開第WO2009/142307号公報(対応米国特許出願公開US2010-305031号公報)に開示された各種のANP誘導体、CNP誘導体などを挙げることができる。ここでは、ANP、CNP、モチリンなどの生理活性ペプチドに、グレリンのC末端に由来する、一般式(1):Wk-Xl-Y-Zm-Wn(ここで、WはLys、Arg等の塩基性アミノ酸、YはAsp、Glu等の酸性アミノ酸、XとZは同一でも、異なっていてもよく、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸を除くどのようなアミノ酸であっても良い。K及びnは互いに独立して、1又は2の整数を示し、l及びmは、互いに独立して0、1又は2の自然数を示す。このような配列として、好ましくは、RKESKK、RKDSKK、RKSEKK、RKSDKK等が挙げられる)で表されるアミノ酸配列を含む部分ペプチドを付加した誘導体において、元ペプチドの生理活性を保持したまま、血中滞留性が改善されたことが報告されている。本発明におけるグレリンのC末端由来の部分配列として、国際公開第WO2009/142307号公報(対応米国特許出願公開US2010-305031号公報)に記載されている前記一般式(1)で表される配列を含むアミノ酸配列が好ましい。国際公開第WO2009/142307号公報では、hANPのN末端又はC末端の何れか一方及びそれらの両方に前記のグレリンのC末端由来の部分ペプチドを付加した多様な誘導体のいずれにおいても、GC-Aアゴニスト活性が保持され、その血中半減期が延長された。このような複合ANP (A)、(B)、(C)(配列番号12乃至14)などは、本発明におけるANPの誘導体の好ましい具体例として例示できる。また、hCNP6-22のN末端又はC末端の何れか一方及びそれらの両方に前記のグレリンのC末端由来の部分ペプチドを付加した多様な誘導体のいずれにおいても、GC-Bアゴニスト活性が保持され、その血中半減期が延長された。このような、複合CNP (A)乃至(K)(配列番号15乃至25)は、本発明におけるCNPの誘導体の好ましい具体例として例示することができる。
例えば、配列番号12の複合ANP (A)などにおいて付加されたグレリンのC末端由来の部分ペプチドは、VQQRKESKKPPAKLQPR(配列番号12では、hANPのC末端側に結合した、23位乃至45位に記載のアミノ酸配列)である。また、配列番号23の複合CNP (I)では、この付加ペプチドのC末端のArgがアミド化されている。
配列番号14の複合ANP (C)などにおいて、付加されたグレリンのC末端由来の部分ペプチドは、RPQLKAPPKKSEKRQQV(配列番号14では、hANPのN末端側に結合した、1位乃至17位のアミノ酸配列)である。
配列番号19の複合CNP (E)では、CNPのN末端側とC末端側の両方に、VQQRKESKKPPAKLQPR、が、配列番号20の複合CNP (F)においては、CNPのN末端側にRPQLKAPPKKSEKRQQVが、そのC末端側にはVQQRKESKKPPAKLQPRが、それぞれグレリン由来の部分ペプチドとして付加されている。
配列番号24の複合CNP (J)においては、23位乃至39位に記載のアミノ酸からなる配列(VQQRKDSKKPPAKLQPR)が;配列番号25の複合CNP (K)においては、18位乃至36位のアミノ酸配列(AGSVDHKGKQRKVVDHPKR)が、それぞれ付加されたグレリンのC末端由来の部分ペプチドである。
国際公開第WO2009/142307号公報では、前記配列番号12〜25の複合ANP、複合CNP以外にも、同様のグレリンのC末端由来の部分配列を結合させた多数の複合モチリンについても試験し、ペプチドにおける付加されたグレリンのC末端由来の部分ペプチドの中に、血中半減期延長作用を発揮するコア配列として、上記一般式(1)で表される配列を特定した。このコア配列の具体例としては、RKESKK(例えば、配列番号12の26位乃至31位のアミノ酸配列)又はその逆配列(KKSEKR)、RKDSKK(配列番号24の26位乃至31位のアミノ酸配列)である。さらにこれらの知見によれば、上記一般式で表されるアミノ酸配列に含まれる部分ペプチド(例えば、RKSEKK、RKSDKK等)をコア配列として含む半減期延長ペプチドは、生理活性ペプチドの活性を保持したまま血中半減期を延長するものと考えられ、本発明においてペプチドの誘導体に付加される部分配列として用いることができる。
さらに、CNP又はその活性断片の誘導体の別の例として、hCNP-22のC末端にANPのC末端部分が付加したペプチド、及びhCNP6-22のN末端及びC末端にANPのN末端部分及びC末端部分が付加したペプチド(CNP活性断片の誘導体)においても、CNP-22と同程度のGC-Bアゴニスト活性が保持されていた(Furuya, M. Et al, Biochem. Biophys. Res. Commun.,(1992), 183, No 3, p.964-969)。さらに、別の文献において、hCNP-22及びhCNP-53の各種誘導体が、GC-Bアゴニスト活性を保持することや、その中の複数の誘導体がさらにNEP分解耐性を有することなどが記載されている(国際公開第WO2009/067639号パンフレット)。
これら、既知のナトリウム利尿ペプチドの誘導体は、本発明のGC-Aアゴニスト及び/又はGC-Bアゴニストとして採用することができる。
本発明において、生物活性を有するペプチド又はタンパク質の「修飾体」とは、当該ペプチド又はタンパク質に含まれるアミノ酸の1箇所から数箇所が、別の化学物質との化学反応により修飾されたもので、且つ、当該ペプチド又はタンパク質の有する生物活性の少なくとも一部を保持するもの、を意味する。修飾を受ける部位は、元となるペプチド又はタンパク質の活性を保持する限り、いずれの部位を選択してもよい。例えばポリマーのようなある程度大きな化学物質を付加する修飾では、ペプチド又はタンパク質の活性部位、又は、受容体結合部位以外の箇所において修飾されることが好ましい。また、分解酵素による切断を防止するための修飾の場合、当該切断を受ける箇所が修飾されたものも採用する事ができる。
化学修飾の方法としては、様々な方法が知られているが、例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)など製薬技術において利用される(薬理上用いられる)高分子ポリマーを付加する方法や、Lys残基等の側鎖のアミノ基にリンカーとなる化合物を付加させ、それを介して別のタンパク質等(例えば血清アルブミン)と結合させる方法などが知られているが、これらに限定されず、様々な方法を採用することができる。また、様々な生理活性ペプチドの修飾体の製造方法については、例えば、米国特許出願公開US2009-0175821号などを参考に、適宜作製することができる。修飾体は、好ましくは製薬上用いられる高分子ポリマーを付加することにより化学修飾されたものである。
例えば、ANPの修飾体は、GC-Aアゴニスト活性を有する限り、配列番号1又は2のアミノ酸配列中の所望の1つ〜複数の箇所において修飾されていても良いが、好ましくは、配列表の配列番号1又は2のアミノ酸配列を含み、その配列番号6に表示されたアミノ酸に相当するもの以外のアミノ酸の少なくとも一つにおいて、化学修飾を受けているものである。より好ましくは、配列番号1又は2のアミノ酸配列中の配列番号6に表示されたアミノ酸以外のアミノ酸において1箇所〜数箇所で修飾されたものであり、さらに好ましくは配列番号1又は2のアミノ酸配列の1乃至6位及び28位の何れか1箇所〜数箇所で修飾されたものである。また、BNPの変異体は、GC-Aアゴニスト活性を有する限り、配列番号3、4又は5のアミノ酸配列の所望の1つ〜複数の箇所において修飾されていても良いが、好ましくは、配列表の配列番号3、4又は5のアミノ酸配列を含み、その配列番号6に表示されたアミノ酸に相当するもの以外のアミノ酸の少なくとも一つにおいて、化学修飾を受けているものである。より好ましくは、配列番号3、4又は5のアミノ酸配列中の配列番号6に表示されたアミノ酸以外のアミノ酸において1箇所〜数箇所で修飾されたものであり、より好ましくは配列番号3又は4のアミノ酸配列の1乃至9位、31位及び32位の何れか1箇所〜数箇所で修飾されたもの、或いは、配列番号5に記載のアミノ酸配列の1位乃至22位、44位及び45位の何れか1箇所〜数箇所で修飾されたものである。さらに、上述したANP又はBNPの活性断片、変異体及びそれらの誘導体の修飾体も本発明に含まれる。このような各種修飾体もGC-Aアゴニスト活性を保持する限り、本発明に用いることができる。
このようなGC-Aアゴニストとして採用されうる修飾体の具体例としては、例えばhBNP、その変異体及びその活性断片に、PEG、PVA等の親水性ポリマー、又はアルキル基、アリール基などの炭化水素基に代表される疎水性基が結合された各種修飾体において、GC-Aアゴニスト活性を保持することが知られている(米国特許USP7,662,773号等参照)。
ANP又はBNPと、GC-A受容体との結合は、ANP及びBNPのリング構造とそのC末端テール部分が重要であるため、特にそのN末端部に別の配列又は物質が結合した誘導体及び修飾体は、その付加ペプチドや修飾物がリング構造に影響を与えることが少なく、GC-A受容体との結合を阻害することなくGC-Aアゴニスト活性を保持することになる。このことは、上述の多くの文献により実証されている。
また、CNPの修飾体は、GC-Bアゴニスト活性を有する限り、配列番号7乃至10の何れかのアミノ酸配列中の所望の1つ〜複数の箇所において修飾されていても良いが、好ましくは、配列表の配列番号7乃至10の何れかのアミノ酸配列を含み、その配列番号11に表示されたアミノ酸に相当するもの以外のアミノ酸の少なくとも一つにおいて、化学修飾を受けているものであり、より好ましくは、配列番号7乃至10の何れかのアミノ酸配列中の配列番号11に表示されたアミノ酸以外のアミノ酸において1箇所〜数箇所で修飾されたものであり、さらに好ましくは配列番号7、9又は10のアミノ酸配列の1乃至5位の何れか1箇所〜数箇所で修飾されたものである。また、例えば、酵素NEPによる切断への耐性を付与する修飾の場合は、各種CNPペプチドに含まれる、リング構造配列Bにおいて配列番号11の1位Cysと2位Pheの間で切断されることが知られている為、この間の結合を修飾することもできる。
さらに、上述したCNPの活性断片、変異体及びそれらの誘導体の修飾体も本発明に含まれる。このような各種修飾体もGC-Bアゴニスト活性を保持する限り、本発明に用いることができる。
このようなCNP、その活性断片、それらの変異体及びそれらの誘導体の修飾体の具体例としては、例えば国際公開WO2009/067639号パンフレットにおいて、hCNP-22及びhCNP-53にPEG等の各種親水性ポリマーを結合させた修飾体や、hCNP-22においてNEPによる切断部位であるCys6-Phe7のペプチド結合が(−CH2−NH−)、(−C(=O)−N(R)−:Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert-ブチル基などの低級アルキル基を表す)などの偽ペプチド結合に置換された修飾体の複数が、GC-Bアゴニスト活性を保持し、また、その多くがhCNP-22よりも改善された血中滞留性を有することが開示されている。また、様々な生理活性ペプチドの修飾体の製造方法については、例えば、米国特許出願公開US2009-0175821号などを参考に、適宜作製することができる。
CNPとGC-B受容体との結合は、CNPのリング構造が重要であるため、特にそのC末端及び/又はN末端部に別の配列又は物質が結合した誘導体及び修飾体は、その付加ペプチドや修飾物がリング構造に影響を与えることが少なく、GC-B受容体との結合を阻害することなくGC-Bアゴニスト活性を保持することになる。このことは、上述の多くの文献により実証されている。
上記のANP、BNP及びCNP、それらの活性断片、それらの変異体、それらの誘導体並びにそれらの修飾体は、天然の細胞又は組織から採取されたものでもよく、遺伝子工学的、細胞工学的な手法を用いて生産したものであってもよく、化学合成したものであってもよく、さらにはそれらを酵素処理や化学処理してアミノ酸残基を修飾又はアミノ酸配列の一部を除去したものであってもよい。このような製造は、本明細書に記載された文献を参考に、常法に従って適宜なし得るものである。
ある物質が、GC-Aアゴニスト活性を有するか否かについては、当業者であれば従来知られている方法により容易に測定を実施することができる。具体的には、例えば、GC-A(Chinkers M,et al.,Nature 338;78−83,1989)を強制発現させた培養細胞に物質を添加し、細胞内cGMPレベルを測定することで可能である。GC-Aアゴニスト活性の一部が保持されるとは、同一の試験系を用いて、GC-Aアゴニスト物質とANP又はBNP(当該アゴニスト物質がANP又はBNPの配列を参考にして作製されたものである場合は、当該参考としたペプチド)とを並べてGC-Aアゴニスト活性を測定した場合に、該アゴニスト物質によるcGMP上昇活性のピークが、少なくともANP又はBNPが示すcGMP上昇活性ピークの約10%以上を保持することを通常意味するが、好ましくは約30%以上を保持することであり、さらに好ましくは約50%以上を保持することであり、さらにより好ましくは約70%以上を保持することを意味する。また、ピークにおいて活性の上昇が大きくなくても、生体に投与した場合の活性持続時間が長いものは、本発明に用いることができる。
ある物質が、GC-Bアゴニスト活性を有するか否かについては、当業者であれば従来知られている方法により容易に測定を実施することができる。具体的には、例えば、GC-B(Chinkers M,et al.,Nature 338;78−83,1989)を強制発現させた培養細胞に物質を添加し、細胞内cGMPレベルを測定することで可能である。GC-Bアゴニスト活性の一部が保持されるとは、同一の試験系を用いて、GC-Bアゴニスト物質とCNPとを並べてGC-Bアゴニスト活性を測定した場合に、該アゴニスト物質によるcGMP上昇活性のピークが、少なくともCNPが示すcGMP上昇活性ピークの約10%以上を保持することを通常意味するが、好ましくは約30%以上を保持することであり、さらに好ましくは約50%以上を保持することであり、さらにより好ましくは約70%以上を保持することを意味する。また、ピークにおいて活性の上昇が大きくなくても、生体に投与した場合の活性持続時間が長いものは、本発明に用いることができる。
また、このような評価系に対して、低分子の化合物を添加し、cGMP産生能が向上するような化合物であれば、ナトリウム利尿ペプチドと共通する構造を有しないもの(例えば、低分子化合物)であっても、GC-Aアゴニスト又はGC-Bアゴニストとして、本発明に用いることができる。
本発明におけるGC-Aアゴニストとして好ましいものは、ANP、BNP、そのリング構造配列Aを有する活性断片、若しくは、そのリング構造配列A以外において置換等された変異体、それらの誘導体又は修飾体であり、より好ましくはhANP、hBNP 、それらの誘導体又はそれらの修飾体であり、さらにより好ましくは、hANP又はhBNPである。
本発明におけるGC-Bアゴニストとして好ましいものは、CNP、そのリング構造配列Bを有する活性断片、若しくは、そのリング構造配列B以外において置換等された変異体、それらの誘導体又は修飾体であり、より好ましくはhCNP-22、hCNP-53、その活性断片であるhCNP6-22、それらの誘導体又はそれらの修飾体であり、さらにより好ましくは、hCNP-22、hCNP-53又はhCNP6-22である。
本発明に係る医薬の有効成分として用い得る物質は、上述したGC-Aアゴニスト又はGC-Bアゴニストの薬学的に許容される塩、好ましくはhANP、hBNP又はhCNP-22、hCNP-53若しくはhCNP6-22の薬学的に許容される塩であってもよい。すなわち、本発明においては、上述した物質の、無機酸、例えば塩酸、硫酸、リン酸、又は有機酸、例えばギ酸、酢酸、酪酸、コハク酸、クエン酸等の酸付加塩を、有効成分として使用することもできる。あるいは、本発明においては、上述した物質の、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム等の金属塩、有機塩基による塩の形態を有効成分として使用することもできる。また、本発明に係る医薬における有効成分は、その有効成分に係る物質の遊離形としても、又はその医薬的に許容し得る塩であってもよい。
また、本発明の医薬の有効成分としては、単一の物質中にGC-AアゴニストとGC-Bアゴニストとしての性質を両方併せ持つ物質(本発明では、「両活性物質」ともいう)を用いることもできる。このような両活性物質を有効成分として含む場合、当該物質のみを有効成分として含んでいても本発明の効果が達せられるが、その活性の程度によっては、別途上述したGC-Aアゴニスト又はGC-Bアゴニストを組み合わせて投与してもよい。このような両活性物質としては、GC-Aアゴニスト活性とGC-Bアゴニスト活性を両方保持する物質であれば特に限定されない。そのような物質としては、例えば、リング構造配列A(配列番号6)とリング構造配列B(配列番号11)の両方を同一分子中に含む物質(例えば、両方の配列を含む融合ペプチドや、両方の配列からなるペプチドがリンカー化合物を介して連結された修飾体など)や、リング構造配列Aとリング構造配列Bの特徴を融合して併せ持つアミノ酸配列を含む物質などを挙げることができる。このような、両活性物質の具体例としては、CD-NP が知られている。これはhCNP-22のC末にヘビ毒由来のナトリウム利尿ペプチドであるDNP (dendroapsis natriuretic peptide)のC末配列が付与されたペプチドであり、GC-Aアゴニスト活性とGC-Bアゴニスト活性の両方を保持するものとして知られている(Deborah et al., J. Biol. Chem.,(2008), Vol. 289, No.50, pp.35003-35009)。また、別の例としては、hANP(配列番号1)の9位乃至11位を、Leu- Lys- Lueに置換したペプチドにおいて、GC-Aアゴニスト活性とGCB−アゴニスト活性の両方が保持されていた(Furuya, M. Et al, Biochem. Biophys. Res. Commun.,(1992), 183, No 3, p.964-969)。
図11に示されるように、生体の実際の悪性腫瘍における腫瘍組織は癌細胞だけで構成されているわけではなく、癌間質と癌細胞が混在した形で塊として存在している。癌間質は、癌関連線維芽細胞(CAF)、炎症性マクロファージ、血管内皮細胞などで構成されており、CAFは癌間質の大半を占めている。
GC-Aアゴニストは、癌細胞の悪性化のきっかけとなるEMTを抑制する効果を有する。しかしながら、GC-Aアゴニストは、図12に示されるように悪性腫瘍の腫瘍組織において癌細胞と混在している癌関連線維芽細胞(CAF)に代表される癌間質に対しては作用しないため、悪性腫瘍患者に単独で投与した場合には、CAFが産生する成長因子、サイトカイン等により癌細胞が刺激を受ける為、GC-AアゴニストによるEMT抑制効果は減弱する場合がある。
一方で、GC-Bアゴニストは、CAFのTGF−β等の刺激に応じたVEGFやPDGFなどの成長因子や、TNF-α、IL-6などのサイトカインの産生亢進を抑制する作用がある。しかしながら、癌細胞自体に対しては作用しないため、実際の悪性腫瘍の腫瘍組織においては十分な治療効果が得られないと考えられる。
本発明は、これらのGC-AアゴニストとGC-Bアゴニストを組み合わせて投与することにより、図12に模式的に表されるように、癌細胞とCAFの活性を同時に抑制し、腫瘍組織全体に作用することで悪性腫瘍を効果的に治療し、又は、腫瘍の悪性化を効果的に抑制又は予防することを可能とするものである。本発明は、そのようなナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト、及び、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストを組み合わせた悪性腫瘍の治療又は悪性化の抑制若しくは予防方法、それに用いられる医薬等を提供する。
複数の有効成分又は薬剤が「組み合わせて投与される医薬」とは、該有効成分又は薬剤が組み合わせて投与されることを想定された医薬である。この場合、それぞれの有効成分が単一の製剤中に配合されていてもよく、キットとして1製品中に両方が含まれていてもよい。また、ぞれぞれの有効成分が、異なる製剤として製品化され、その一方の有効成分を含む製品に添付された書類に、他方の有効成分と組み合わせて投与できることが記載されていてもよい。「組み合わせて投与される」の文言は、例えば、「組み合わせてなる」、「組み合わせて使用される」、「組み合わせて服用される」、「同一期間中に投与される」、「同一の治療に用いられる」などの文言と置き換えることもできる。
本発明において、複数の有効成分又は薬剤が「組み合わせて投与される」とは、ある一定期間において、被投与対象が、組み合わせられる全ての有効成分又は薬剤をその体内に取り込むことを意味する。全ての有効成分が単一製剤中に含まれた製剤が投与されてもよく、またそれぞれの有効成分が別々に製剤化され、別々にそれらの全てが投与されても良い。別々に製剤化される場合、その投与の時期は特に限定されず、同時に投与されてもよく、時間を置いて異なる時間に、又は、異なる日に、投与されても良い。なお、複数の有効成分又は薬剤が「組み合わせて投与される」には、GC-Aアゴニスト及びGC-Bアゴニストとして作用する両活性物質が単独で投与されることも含まれる。複数の有効成分が、それぞれ異なる時間又は日に投与される場合、有効成分の投与の順番は特に限定されない。通常、それぞれの製剤は、それぞれの投与方法に従って投与されるため、それらの投与は、同一回数となる場合もあり、異なる回数となる場合もある。また、それぞれの有効成分が別々に製剤化される場合、各製剤の投与方法(投与経路)は同じであってもよく、異なる投与方法(投与経路)で投与されてもよい。また、全ての有効成分が同時に体内に存在する必要は無く、ある一定期間(例えば一ヶ月間、好ましくは1週間、さらに好ましくは数日間、さらにより好ましくは1日間)の間に、全ての有効成分が体内に取り込まれていればよく、一つの有効成分の投与時に別の有効成分が体内から消失していてもよい。
本発明の医薬の投与形態を例示すると、例えば、少なくとも一種類のナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト、及び、少なくとも一種類のナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストが、組み合わせて投与される医薬であれば、1)少なくとも一種類のナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト、及び、少なくとも一種類のナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストを含む単一の製剤の投与、2)少なくとも一種類のナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストと、少なくとも一種類のナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストとを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での同時投与、3)少なくとも一種類のナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストと、少なくとも一種類のナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での時間差をおいての投与、4)少なくとも一種類のナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストと、少なくとも一種類のナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での同時投与、5)少なくとも一種類のナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストと、少なくとも一種類のナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストとを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での時間差をおいての投与(例えば、まずナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストを有効成分とする製剤を投与し、一定時間経過後、次に少なくとも一種類のナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストを有効成分とする製剤を投与する、という順序での投与、あるいはその逆の順序での投与)などが挙げられる。
本発明において「有効成分」とは、医薬品に含まれる組成の一つであり、当該医薬品が目的とする薬理作用の少なくとも一部の作用を有する組成を意味する。医薬品に対する含有量/含有割合は特に限定されず、当該組成の有する薬理作用の程度に依存して、様々な割合で配合されうる。
本発明の医薬は、本発明の効果を奏することになる限り、有効成分以外の成分を含んでもよい。好ましくは、有効成分以外に、公知の薬理学的に許容し得る担体、賦形剤、希釈剤などとを含む組成物とする。
本発明に係る医薬の有効成分として用い得る物質又はその薬理学的に許容し得る塩は、公知の薬理学的に許容し得る担体、賦形剤、希釈剤などと混合して医薬に一般に使用されている投与方法、即ち経口投与方法、又は、経粘膜投与、静脈内投与、筋肉内投与もしくは皮下投与等の非経口投与方法によって個体に投与するのが好ましい。
有効成分がペプチド性物質の場合、消化管内で分解を受けにくい製剤、例えば活性成分であるペプチドをリボゾーム中に包容したマイクロカプセル剤として経口投与することも可能である。また、直腸、鼻内、舌下などの消化管以外の粘膜から吸収せしめる投与方法も可能である。この場合は坐剤、点鼻スプレー、吸入薬、舌下錠といった形態で個体に投与することができる。また、デキストランなどの多糖類、ポリアミン、PEG等に代表される生分解性高分子をキャリアとした各種の放出制御製剤、持続化製剤等を採用することにより、ペプチドの血中滞留性を改善させた製剤についても、本発明において用いることができる。
本発明に係る医薬の有効成分として用い得る物質の投与量は、疾患の種類、個体(患者)の年齢、体重、症状の程度及び投与経路などによっても異なるが、一般的に、一種類の有効成分につき、1日当りの合計の投与量の上限としては、例えば約100mg/kg以下であり、好ましくは約50mg/kg以下であり、さらに好ましくは1mg/kg以下である。また、一種類の有効成分の一日あたりの合計の投与量の下限としては、例えば約0.1μg/kg以上であり、好ましくは0.5μg/kg以上であり、より好ましくは、1μg/kg以上である。
本発明に係る薬剤(医薬)の投与頻度は、使用する有効成分、投与経路、及び処置する特定の疾患に依存しても変動する。例えばナトリウム利尿ペプチドを経口投与する場合、一日当たり4回以下の投与回数で処方することが好ましく、また非経口投与、例えば静脈内投与する場合にはインフュージョンポンプ、カテーテル等を利用して持続的に投与することが好ましい。
ANP、BNP、CNP等のペプチド又はそれらの塩を投与する場合には、例えば凍結乾燥製剤を注射用水に溶解して微量輸液ポンプ(それがない場合には、小児用微量輸液セット)等を用いて連続投与(継続投与ともいう)すればよい。連続投与する場合の投与期間としては、通常数時間〜数日間であり、例えば、1乃至14日間であり、好ましくは3〜7日間程度である。この場合の投与量の有効成分としての上限は、各有効成分につき例えば約50μg/kg/分(一日当たり、約72mg/kg)以下の濃度を適宜採用することができ、約5μg/kg/分(一日当たり、約7.2mg/kg)以下であってもよく、好ましくは約0.5μg/kg/分(一日当たり、約720μg/kg)以下であり、より好ましくは約0.2μg/kg/分以下であり、更に好ましくは約0.1μg/kg/分以下であり、更により好ましくは約0.05μg/kg/分以下である。また下限としては、通常約0.0001μg/kg/分(一日あたり約0.144μg/kg)以上であり、好ましくは約0.001μg/kg/分(一日あたり約1.44μg/kg)以上、より好ましくは約0.01μg/kg/分(一日あたり約14.4μg/kg)以上である。具体的な投与方法としては、例えば、3乃至4日間程度、約0.025μg/kg/分を採用することができ、この場合の1日当りの投与量は、有効成分として、約36μg/kgとなる。
ナトリウム利尿ペプチドは、前述のように血管を弛緩・拡張し血圧を低下させる作用を有することから、悪性腫瘍の治療又は悪性化の抑制若しくは予防に当たっては、血圧を必要以上に低下させない速度で投与することが好ましく、投与時及び投与直後には血圧をモニターすることが好ましい。また、この場合のhANP等の投与期間は、通常数時間以上、好ましくは1日間以上である。この期間、継続投与することが好ましく、その期間は通常1日以上であり、好ましくは1〜14日間程度であり、より好ましくはは、1〜5日間程度である。長期間に亘って悪性腫瘍を制御する場合、上記の投与方法を適宜繰り返したり、患者の状態に応じて投与量や投与期間を適宜変更したりすることができる。
具体的にANPを例えば静脈に投与する場合には、例えば、hANPの1000μg(例えば、ハンプ注射用1000(商品名)、第一三共(株)製)を注射用水10mLに溶解し、“体重×約0.06mL/時間”の速度(約0.1μg/kg/分)又はそれ以下の投与速度で投与することが好ましい。投与速度は、上記の速度に限られることなく、病状により、約0.2 μg/kg/分以下の速度(好ましくは、約0.01μg/kg/分以上)で、血圧や心拍数をモニターしながら適宜調整することが好ましい。特に、hANPを、約0.025μg/kg/分の用量で3又は4日間程度継続投与しても、血圧、心拍等の血行動態を大きく変動させないことが確認されており、この用量用法を採用することも好ましい。
hBNPを例えば静脈に投与する場合には、例えば、約0.01μg/kg/分を連続投与することが好ましく、更にその連続投与前に、約2μg/kgのhBNPをボーラス投与することを組み合わせた投与方法を採用することもできる。この場合にも、血圧を必要以上に低下させない速度で投与することが好ましく、投与時及び投与直後には血圧をモニターすることが推奨される。ANP及びBNPが上記の投与速度で血圧や心拍数等に大きな影響を与えない場合には、さらに投与速度を上げてもよい。
本発明では上述したような現在臨床上で適用されているhANP、又は、hBNP等の投与に、CNP等のナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストを上乗せして投与することもできる。この場合、CNPの投与量はANP、BNPの投与量を参考に設定することもできるし、病状に応じて適宜変更して投与することもできる。例えば、hCNP-22を連続投与する場合、例えば静脈に0.01乃至1.0μg/kg/分の速度で、血圧や心拍数をモニターしながら適宜調整して投与することが好ましい。
天然型(hANP、hBNP、hCNP-22など)ではなく、ANP、BNP、CNPの活性断片、変異体、誘導体、修飾体等を用いる場合、その活性の強さ、体内における持続性、分子量等、その物質の特徴を考慮して、投与量、投与方法、投与速度、投与頻度等を適宜決定することができる。また、hANP又はhBNP、及び、CNP(hCNP-22)等の有効成分について、放出制御製剤技術又は持続化製剤技術、ペプチドの分解を受けにくくした各種の変異体、誘導体又は修飾体等を採用することにより、連続投与又はボーラス投与に限定されず、より患者への負担の少ない投与方法、投与頻度等の選択が可能となる。
本発明の医薬の投与対象は、通常悪性腫瘍患者である。悪性腫瘍患者は、他の基礎疾患のない患者であってもよく、また、例えば心不全リスクが高い患者であってもよい。悪性腫瘍の種類としては、特に限定されず、様々な腫瘍に適用することができる。そのような対象として好ましいのは、腫瘍組織における癌細胞においてナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aが発現している悪性腫瘍であり、例えば、肺癌、膵臓癌、甲状腺癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、大腸癌、食堂癌、腎癌、骨腫瘍、脳腫瘍などを挙げることができる。また、後述する別の抗腫瘍剤(ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト及びナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストとは別の抗腫瘍剤)の少なくとも一つが投与されている悪性腫瘍患者等も、本発明における好ましい投与対象である。患者における腫瘍は原発性の腫瘍であっても、転移性の腫瘍であっても良い。原発性腫瘍の場合、腫瘍組織の切除手術と併せて投与することが好ましい。転移性の腫瘍の場合除去手術が可能であれば、同様に手術に併せて術中から数日間投与されることが好ましい。除去が困難、又は他臓器への転移が疑われる場合には、定期的又は継続的に投与することで、癌細胞の悪性化を抑制し、増殖や転移を制御することが好ましい。この場合、従来使用される抗腫瘍剤による治療と本発明の医薬を組み合わせて投与することにより、より効果的な悪性腫瘍の制御が可能となる。一定期間抗腫瘍剤と併用した後は、GC-AアゴニストとGC-Bアゴニストのみを定期的又は継続的に使用することもできる。また、本発明の医薬の投与対象を選別するにあたっては、投与前に腫瘍組織を採取し、癌細胞におけるGC-A受容体の発現、及び/又は、癌関連線維芽細胞におけるGC-B受容体の発現、を確認し、受容体の発現が確認された対象に対して投与することもできる。
また、本発明の医薬は、さらに他の通常用いられる抗腫瘍剤の少なくとも一つと併用することにより、効率的に癌の治療を行うことができ、本発明はこのような別の抗腫瘍剤との併用療法も提供する。本発明の医薬は、癌細胞と癌関連線維芽細胞の活性化、悪性化を同時に制御することができる為、他の抗腫瘍剤治療中にさらに組み合わせて適宜投与することで、当該抗腫瘍剤等による治療の効率を上げること及び治療予後を改善できる。さらに、当該別の抗腫瘍剤の投与量を、当該抗腫瘍剤の通常の投与量より低用量で投与しても、優れた治療効果を得ることができる。組み合わせる別の抗腫瘍剤を低用量で使用することにより、投薬量を低減することができる。これに関連して、投薬量が少量で済むだけでなく、適用頻度が少なくできる又は副作用の発生を減らし得るという利点がある。
併用される抗腫瘍剤としては、例えば、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗腫瘍抗生物質、抗腫瘍性植物成分、BRM(生物学的応答性制御物質)、ホルモン、ビタミン、抗腫瘍性抗体、分子標的薬、その他の抗腫瘍剤等が挙げられる。
より具体的に、アルキル化剤としては、例えば、ナイトロジェンマスタード、ナイトロジェンマスタードN − オキシドもしくはクロラムブチル等のアルキル化剤;カルボコンもしくはチオテパ等のアジリジン系アルキル化剤;ディブロモマンニトールもしくはディブロモダルシトール等のエポキシド系アルキル化剤;カルムスチン、ロムスチン、セムスチン、ニムスチンハイドロクロライド、ストレプトゾシン、クロロゾトシンもしくはラニムスチン等のニトロソウレア系アルキル化剤;ブスルファン、トシル酸インプロスルファン又はダカルバジン等が挙げられる。
各種代謝拮抗剤としては、例えば、6−メルカプトプリン、6−チオグアニンもしくはチオイノシン等のプリン代謝拮抗剤;フルオロウラシル、テガフール、テガフール・ウラシル、カルモフール、ドキシフルリジン、ブロクスウリジン、シタラビン若しくはエノシタビン等のピリミジン代謝拮抗剤;メトトレキサートもしくはトリメトレキサート等の葉酸代謝拮抗剤等が挙げられる。
抗腫瘍性抗生物質としては、例えば、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ペプロマイシン、ダウノルビシン、アクラルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、THP−アドリアマイシン、4’−エピドキソルビシンもしくはエピルビシン等のアントラサイクリン系抗生物質抗腫瘍剤;クロモマイシンA3又はアクチノマイシンD等が挙げられる。
抗腫瘍性植物成分としては、例えば、ビンデシン、ビンクリスチン若しくはビンブラスチン等のビンカアルカロイド類;パクリタキセル、ドセタキセル等のタキサン類;又はエトポシドもしくはテニポシド等のエピポドフィロトキシン類が挙げられる。
BRMとしては、例えば、腫瘍壊死因子又はインドメタシン等が挙げられる。
ホルモンとしては、例えば、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プラステロン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、オキシメトロン、ナンドロロン、メテノロン、ホスフェストロール、エチニルエストラジオール、クロルマジノン又はメドロキシプロゲステロン等が挙げられる。
ビタミンとしては、例えば、ビタミンC又はビタミンA等が挙げられる。
抗腫瘍性抗体、分子標的薬としては、トラスツズマブ、リツキシマブ、セツキシマブ、ニモツズマブ、デノスマブ、ベバシズマブ、インフリキシマブ、メシル酸イマチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、スニチニブ、ラパチニブ、ソラフェニブ等が挙げられる。
その他の抗腫瘍剤としては、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、タモキシフェン、カンプトテシン、イホスファミド、シクロホスファミド、メルファラン、L−アスパラギナーゼ、アセクラトン、シゾフィラン、ピシバニール、プロカルバジン、ピポブロマン、ネオカルチノスタチン、ヒドロキシウレア、ウベニメクス又はクレスチン等が挙げられる。
さらに、近年ではバイアグラ(登録商標)に代表されるPDE5阻害剤が悪性腫瘍に対する抑制効果を有することが報告されており(Das et al., Proc. Natl. Acad. Sci. (2010), vol/107, No. 42, pp.18202-18207)、本発明の医薬はこれらPDE5阻害剤と併用することもできる。PDE5阻害剤としては、PDE5酵素によるcGMPの分解を阻害する活性を有する物質であれば、特に限定されず、様々な薬剤を採用することができる(例えば、M. P. Govannoni, et al.(Curr. Med. Chem.(2010) 17, pp. 2564-2587)等参照)。好ましくは、シルデナフィル(sildenafil)、バルデナフィル(vardenafil)、タダラフィル(tadalafil)、ウデナフィル(udenafil)、ミロデナフィル(mirodenafil)、SLx-2101、ロデナフィル(lodenafil)、 Lodenafil carbonate、Exisulindなど、及びそれらの誘導体、ならびにそれらの薬理学的に許容される塩であり、より好ましくは、シルデナフィル、バルデナフィル、タダラフィル、ウデナフィル、ミロデナフィル又はそれらの薬理学上許容される塩であり、更に好ましくは、クエン酸シルデナフィル、塩酸バルデナフィル、タダラフィル、ウデナフィル又はミロデナフィルであり、最も好ましくは、クエン酸シルデナフィルである。これらの薬剤については、上記の参考文献(その引用文献を含む)の記載及び周知の技術により、製造及び製剤化することができる。
本発明において、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト、及び、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストの併用に加えて、さらに別の抗腫瘍剤を組み合わせて投与する場合、組み合わせて投与される該GC-Aアゴニスト、GC-Bアゴニスト及び別の抗腫瘍剤は、上述したように単一製剤中に含有されていてもよく、それぞれ異なる製剤の有効成分として含有されていてもよい。GC-Aアゴニスト、GC-Bアゴニスト及び別の抗腫瘍剤を投与する順番等も特に限定されない。
さらに、本発明におけるGC-Bアゴニストは、これら別の抗腫瘍剤と併用することにより、当該抗腫瘍剤の治療効果を高めることができる。即ち、抗腫瘍剤が癌細胞及び腫瘍組織に作用し、GC-Bアゴニストが癌関連線維芽細胞に作用することで、腫瘍組織全体の活性化、悪性化を抑制することができる。この場合、GC-Aアゴニストは、必ずしも組み合わせて投与されなくてもよい。
本発明は、少なくとも一種類のナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストを有効成分として含有し、別の抗腫瘍剤と組み合わせて投与される、悪性腫瘍の治療又は悪性化の抑制若しくは予防のための医薬、そのような治療または予防方法等も包含する。
本発明は、少なくとも一種類のナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストを有効成分として含有し、別の抗腫瘍剤と組み合わせて投与される、該抗腫瘍剤による悪性腫瘍の治療又は悪性化の抑制若しくは予防作用を増強するための医薬、そのような方法等も包含する。
上記医薬等においては、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト及びナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストとは別の抗腫瘍剤の投与量を、当該抗腫瘍剤の通常定められた投与量より低用量で投与することが好ましい。当該別の抗腫瘍剤は特に限定されず、上述したもの等を使用することができる。又、GC-Bアゴニストと当該抗腫瘍剤とは、別の製剤として別々に投与されていてもよく、単一の製剤に配合されていてもよく、キット製剤の形態であっても良い。
また、本発明は、GC-AアゴニストとGC-Bアゴニストを組み合わせて含有する悪性腫瘍の治療又は悪性化の抑制若しくは予防のためのキットをも提供する。そのようなキットとしては、hANPやhBNP等のGC-Aアゴニスト又はそれらの塩とhCNP-22やhCNP-53等のGC-Bアゴニスト又はそれらの塩、の両方を凍結乾燥製剤として封入したバイアル(単一バイアルに封入されていても良く、別々のバイアルに封入されていても良い)とそれを溶解するための注射用水を組み合わせてキットとしたもの等が挙げられ、また溶解及び投与に使用する注射用シリンジをそれらに組み合わせてもよく、さらには微量輸液ポンプ、小児用微量輸液セット等を組み合わせてもよい。
また、本発明のGC-Aアゴニスト又はGC-Bアゴニストがペプチド性の物質の場合、それをコードする遺伝子導入により患者の体内で、GC-Aアゴニストペプチド及び/又はGC-Bアゴニストペプチドを発現させることによる遺伝子治療を行うこともできる。この場合、両方のアゴニストを遺伝子治療により発現させてもよいし、一方のみを遺伝子治療として発現させ、他方は体外から投与するように製剤化されたものを用いることもできる。
例えば、ANPの遺伝子としては、配列番号1又は2のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子(例えば、Science,226巻,1206頁,1984年に記載されているもの)を用いればよい。また、BNPの遺伝子としては、配列番号3、4又は5のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子(例えば、Biochem.Biophys.Res.Commun.,165巻,650頁,1989年に記載されているもの)を用いればよい。また、CNPの遺伝子としては、配列番号7乃至10のいずれかのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子(例えば、Biochem.Biophys.Res.Commun.,165巻,650頁,1989年に記載されているもの)を用いればよい。上記の遺伝子を用いて治療を行う場合には、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスあるいは人工ベクターをベクターとして用いて、筋肉注射や局所注射により遺伝子を導入すればよい。また、上記のようなベクターを使用せず、プラスミドの形で遺伝子を導入してもよい。具体的な遺伝子治療の方法については、実験医学,12巻,303頁,1994年に記載の方法又はそれに引用されている文献の方法等を用いればよい。
本発明はさらに、少なくとも一種類のナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストを有効成分として含有し、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストと組み合わせて投与される、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストによる悪性腫瘍の治療又は悪性化の抑制若しくは予防作用を増強するための医薬、及び該医薬をナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストと組み合わせて投与するナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストによる悪性腫瘍の治療又は悪性化の抑制若しくは予防作用を増強する方法も包含する。前記医薬の投与対象は、例えば、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストによる治療を受けている対象である。ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストによる治療を受けている対象は、通常、上述した悪性腫瘍患者である。
本発明はさらに、少なくとも一種類のナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストを有効成分として含有し、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストと組み合わせて投与される、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストによる悪性腫瘍の治療又は悪性化の抑制若しくは予防作用を増強するための医薬、及び該医薬をナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストと組み合わせて投与するナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストによる悪性腫瘍の治療又は悪性化の抑制若しくは予防作用を増強する方法等も包含する。前記医薬の投与対象は、例えば、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストによる治療を受けている対象である。ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストによる治療を受けている対象は、通常、上述した悪性腫瘍患者である。
有効成分であるナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト、及びナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニスト、並びにこれらの投与方法等は、上述した医薬におけるものと同様である。
以下、実施例を用いて、本発明を具体的に説明する。実施例に示されたものは、本発明の実施形態の一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
以下の実施例において使用される実験材料の入手方法及び調製方法は次の通りである。
hANP(配列番号1)、及びhCNP-22(配列番号7)は公知の方法に従い製造し、hBNP(配列番号3)はペプチド研究所(大阪)より入手した。それぞれの凍結乾燥品を、IBMX(3-isobutyl-1-methylxanthine)を含む生理食塩水で溶解し、これを適宜濃度を調節してIBMXの終濃度が5×10-4Mとなるようにして、以下の実験に用いた。
肺腺癌由来細胞株A549細胞は、ATCC(Manassas, VA)より入手した。細胞培養は、10%FCSを含むDMEM(Invitrogen社、Carlsbad、VA)培養液を用い、37℃、5%CO2の条件下で行った。培養液量は、6-well dishでは1.5 ml、24-well dishでは400 μl、96-well dishでは150 μl、とした。以下の実施例中では、特に指定が無い限りこの培養液及び培養条件を採用した。
CAF(Cancer Associated Fibroblast)は、肺癌手術施行患者より摘出した組織を、本人の同意の下、初期培養を行い、10%FCSを含むDMEM培養液を用いて37℃、5%CO2の条件下で細胞培養を行ったもので、5継代までのものを使用した。
TGF-β1 (Transforming growth factor β1)は、R&D systems社(Minneapolis, MN)より購入したものを用い、生理食塩水を用いて適宜希釈して以下の実験に用いた。
<実施例1>ナトリウム利尿ペプチド刺激による細胞内cGMPレベルの変動
A549細胞を、24-well dishに4×104 cell/wellで加えて培養し、翌日FCS freeのDMEM培養液へ交換した。CAFは24-well dishに1×104 cell/wellで加えて培養し、翌日1%FCSを含むDMEM培養液へ交換した。
これらの培養液中に、hANP、hBNP及びhCNP-22溶液(最終濃度:1×10-11Mから1×10-6Mの10倍希釈系列、コントロールには同量の生理食塩水)を添加し、その10分後に400μLの冷却70%エタノール(0.1N 塩酸含有)を加え、素早く超音波処理した。処理後の溶液を凍結乾燥し、Cyclic GMP Assay kit(ヤマサ社製)を用いてcGMPレベルを測定した。cGMPレベルの測定結果を図1のA及び図1のBに示した。
図1のAに示すようにA549細胞に対しては、GC-AアゴニストであるhANPとhBNPは、細胞内cGMPを濃度依存的に亢進させたが、GC-B受容体アゴニストで、GC-A受容体には結合しないhCNP-22では、このような亢進は観察されなかった。逆に、図1のBから分かるようにCAFに対しては、hCNP-22が濃度依存的にcGMPレベルを亢進したのに対し、hANPとhBNPではこのような作用は観察されなかった。
このことから、A549細胞ではGC-A受容体、CAFではGC-B受容体、からの刺激に、それぞれ特異的に応答してシグナル伝達が起こることが示された。
<実施例2>TGF-β1によるEMT誘導に対するANPの効果
A549細胞を、6-well dishに、1×105 cell/wellで加えて培養し、翌日FBS freeのDMEMの培養液へ交換し、24時間培養したものを、以下の実験に用いた。
ANP群(hANP 溶液添加(終濃度:1μM))及びコントロール群(同量の生理食塩水添加)を作製し、それぞれ(hANP 溶液又は生理食塩水)をA549細胞に添加した2時間後にTGF-β1を終濃度が0.125、0.25、0.5、1.0及び2.0 ng/mlとなるように添加し、24時間後に顕微鏡下で細胞の形態変化を観察し、写真撮影した(図2)。
その後、TRIZOL total RNA isolation reagent (Invitrogen社)を用いて、上記で作製したANP群及びコントロール群からtotal RNAを回収し、逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、定量RT-PCR法によって、E-cadherin(E-カドヘリン)、N-cadherin(N-カドヘリン)、VEGF-A、PDGF-B、TNF-α及びIL-6のmRNAレベルを測定した。mRNAレベル測定の結果を図3に示す。ここで、対象遺伝子のmRNAレベルは、同時に測定したハウスキーピング遺伝子である36B4遺伝子のmRNA量に対する相対的な比率として算出した値である。以下の実施例における、mRNAレベルは、特に別の記載がない限り、同様に算出した値を用いている。
また、EMTにおいては、E-カドヘリンの発現が減少し、N-カドヘリンの発現が亢進することが知られており、この2種類のカドヘリンの発現比率(N-cad/E-cad)は、EMTの程度を示す指標として有用と考えられる。この比率を図4に示した。
図2に示すように、1 μMのhANP(図2のC)は、TGF-β1刺激により誘導されたEMTによる細胞の形態変化(図2のBのように間葉系成分と同様な紡錘形へ変化する)を顕著に抑制した。また、図3に示されるように、hANPは、TGFβ-1刺激で誘導されたEMTにより発現が亢進する成長因子(VEGF-A、PDGF-B)や炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6)の遺伝子発現を顕著に抑制した。また、TGF-β1刺激によるN-cadherinの発現亢進は、hANPにより顕著に抑制され、同刺激によるE-cadherinの発現減少が阻害された。その結果、図4に示されるようにEMTの重要な指標であるN-cad/E-cadの発現比率は、1 μMのhANP存在下で顕著に低下した。また、肺大細胞癌由来のH460細胞を用いた同試験でも同様の結果が得られた。
さらに、同様の試験において、被験物質としてhANPに代えてhBNP(最終濃度:1 μM)、CD-NP(最終濃度:10 μM(Deborah et al., J. Biol. Chem.,(2008), Vol. 289, No.50, pp.35003-35009参照))、LKL-ANP(最終濃度:1 μM(hANPの10〜12位のアミノ酸がLKLに置換された変異体。(Furuya, M. Et al, Biochem. Biophys. Res. Commun.,(1992), 183, No 3, p.964-969参照))を用いた試験を行った、その結果、E-cad/N-cadの値において、TGF-β1に誘導されるEMTの抑制率は、BNPで44.8%、CD−NPで37.7%、LKL-ANPで52.9%であった。このように、各種のGC-Aアゴニストが、腫瘍細胞のEMTを抑制する作用を示した。
一方、hANPの代わりにhCNP-22を添加して同試験を行ったところ、細胞の形状、各サイトカイン、成長因子、カドヘリンの発現量について、コントロールと全く差が見られなかった。
このように、GC-AアゴニストであるhANP、hBNP等は、1 μMの濃度において、癌の転移、悪性化のきっかけとなる重要な現象であるEMTを顕著に抑制する効果を示した。このような作用はGC-B特異的なアゴニストであるhCNP-22では全く観察されなかった。
<実施例3>CAFの癌増悪因子産生に対するCNPの効果
CAFを、6-well dishに、5×104 cell/wellで加えて培養し、翌日1%FBS を含むDMEMの培養液へ交換し、24時間培養したものを、以下の実験に用いた。
CNP群(hCNP-22溶液添加(終濃度:1μM))及びコントロール群(同量の生理食塩水添加)を作製し、それぞれ(hCNP-22溶液又は生理食塩水)をCAFに添加した2時間後にTGF-β1を終濃度が0.125、0.25、0.5、1.0及び2.0 ng/mlとなるように添加し、24時間後にTRIZOL total RNA isolation reagentを用いてtotal RNAを回収し、逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、定量RT-PCR法によって、VEGF-A、TGF-β1、 TNF-α及びIL-6のmRNAレベルを測定した。mRNAレベル測定の結果を図5に示す。図5に示されるように、TGFβ1刺激で発現が亢進する成長因子(VEGF-A、TGF-β1)や炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6)の遺伝子発現は、hCNP-22の添加により顕著に抑制された。
一方、hCNP-22の代わりにhANP又はhBNPを用いて同試験を行ったところ、hANP及びhBNP存在下と非存在下で全く差が認められず、hANP及びhBNPはCAFに対しては作用が無かった。
このように、GC-BアゴニストであるhCNP-22は、1 μMの濃度において、癌間質の代表格であるCAFの癌細胞へ与える正の制御を抑制する効果を示した。このような作用はGC-A特異的なアゴニストであるhANPやhBNPでは認められなかった。
実施例1〜3の結果から、癌細胞にはGC-A受容体への特異的な刺激により、EMTによる癌細胞の悪性化が抑制されること、CAFに対しては、GC-B受容体への特異的な刺激により、癌増悪因子の産生が抑制されることが示された。
<実施例4>癌細胞とCAFの共培養系に対するANPとCNPの効果
上記の結果を踏まえて、実際の腫瘍組織と同様に、同一の培養系に腫瘍細胞とCAFが共存する、共培養系における、GC-Aアゴニスト、及びGC-Bアゴニストの効果を調べた。
A549細胞は、6-well dishに、1×105 cell/wellで加えて培養し、翌日FBS freeのDMEMの培養液へ交換し、24時間培養した。CAFは、6-well dishにcell culture insert(1.0μm pore size, BD社)を挿入した上に、5×104 cell/wellで加えて培養し、翌日1%FBS を含むDMEMの培養液へ交換し、24時間培養した。これらの細胞の培養液に各種被験物質を添加した群と無添加のコントロール群とを作製し、2時間培養後に共培養に供した。被験物質の添加群は、両方の細胞培養液に、hANP を最終濃度1μMで添加したものをANP群、hCNP-22を最終濃度1μMで添加したものをCNP群、hANPとhCNP-22の両方を最終濃度1μMずつとなるように添加したものをANP+CNP群、とした。
上述の処理をしたA549細胞の6-well dish上に上記のCAFのcell culture insertをのせ、培養液だけが行き来できる共培養実験モデルを作製した。その後24、48及び72時間培養後のA549細胞のみのtotal RNAを回収し、cDNAを合成した後、定量RT-PCR法によって、E-cadherin、N-cadherin、VEGF-A、PDGF-B及びIL-6のmRNAレベルを測定した(図6〜図8)。ANP単独試験(ANP群:図6)、CNP単独試験(CNP群:図7)及びANPとCNPの併用試験(ANP+CNP群:図8)は別の実験として、夫々にコントロール群をおいて実施した。
ANP単独及びCNP単独では、共培養により発現が亢進する成長因子(VEGF-A、PDGF-B)又は炎症性サイトカイン(IL-6)の遺伝子発現を抑制できなかった(図6、図7)。しかし、ANPとCNPを同時に添加することで、図8の通り、24、48及び72時間後のいずれも各種成長因子及びサイトカインの発現が抑制された。また、EMTの指標であるN-cadherinとE-cadherinの発現比率(N-cad/E-cad)についても、単独試験では被験物質の効果が認められなかったが、ANPとCNPを併用することで比率の低下が認められ、EMTが抑制されたことが示された。
即ち、hANPはA549細胞に対してのみ効果を発揮するため、CAFとの共培養実験ではCAFが産生する成長因子やサイトカインの刺激によって、その効果が減弱したものと考えられる。同様にhCNP-22はCAFのみに対して効果を発揮するため、A549細胞との共培養実験では、A549細胞が産生する成長因子及びサイトカインの刺激によりその効果が減弱したものと考えられる。
一方で、hANPとhCNP-22の併用では、A549細胞とCAFの両方に対して効果を発揮することによって共培養実験でも成長因子・サイトカイン産生抑制効果とEMT抑制効果を発揮した。
<実施例5>癌細胞とCAFのマウス移植モデルに対するANPとCNPの効果
本実施例及び実施例6では、マウスは5週齢の雄の免疫不全マウス(KSNマウス、日本SLC)を使用した。また、Osmotic pumpはALZET(Cupertino, CA)のMODEL2004(28日間投与用)を使用した。
免疫不全マウスの背部皮下に、生理食塩水を入れたOsmotic pumpを埋め込んだものをコントロール群とした。同様に、hANPとhCNP-22の両方が0.125μg/kg/分(低用量ANP+CNP群)又は0.5μg/kg/分(高用量ANP+CNP群)の投与量で投与されるように調製されたOsmotic pumpをマウスの皮下に埋め込んだ群を作製した。
A549細胞とCAFの細胞混合懸濁液を、FBS freeのDMEMを用いて、A549細胞が1×106 cell/100 μl、CAFが0.5×106 cell/100 μlになるように調製した。この混合懸濁液を、上記マウスに1匹当たり100μl、背部皮下に注入した。1週毎に、細胞注入部の腫瘍の大きさを計測し、腫瘍ボリュームを以下の推定式で算出した(図9)。
腫瘍ボリューム(mm3)=(π/6)×d3
d=縦と横の平均径(mm)
図9に示されるように、コントロールと比較して、hANPとhCNP-22の併用投与により腫瘍の増殖が顕著に抑制された。また、このとき低用量投与群において、高用量投与群と同程度の抑制効果が観察された。
<実施例6>癌細胞とCAFのマウス移植モデルに対するANPとCNPの効果(2)
実施例5と同じ腫瘍移植モデルにおいて、腫瘍組織の定着後からhANPとhCNPの投与を開始した場合の効果を確認した。
A549細胞とCAFの細胞混合懸濁液を、FBS freeのDMEMを用いて、A549細胞が1×106 cell/100 μl、CAFが0.5×106 cell/100 μlになるように調製した。この混合懸濁液を、免疫不全マウスに1匹当たり100μl、背部皮下に注入した。また、全体の比較対照として、A549細胞の懸濁液のみを注入(1.5×106 cell/mouse)した群(A549群)も併せて実験を行った。
細胞液注入から2週間観察した後、混合懸濁液を注入したマウスを無作為に4群(コントロール群、ANP群、CNP群、ANP+CNP群)に群分けし、以下の通り、それぞれの群に応じた投与に調整したOsmotic pumpをマウス皮下に埋め込み、投与を開始した。
コントロール群、及びA549群;生理食塩水投与
ANP群;hANPを0.5μg/kg/分の投与量で投与
CNP群;hCNP-22を2.5μg/kg/分の投与量で投与
ANP+CNP群;hANPを0.5μg/kg/分、hCNP-22を2.5μg/kg/分の投与量で投与
投与開始後さらに4週間観察を続け、1週毎に、細胞注入部の腫瘍の大きさを計測し、腫瘍ボリュームを実施例5と同じ方法で算出した(図10)。
図10に示されるように、腫瘍細胞のみを移植したA549群に比較して、A549細胞とCAFを混合して移植したコントロール群では、腫瘍ボリュームが顕著に増大しており、腫瘍細胞とCAFの相互作用が腫瘍の増殖を加速させることを示している。
hANPとhCNP-22は、それぞれの単独投与によっても、コントロール群と比較して、腫瘍増殖を抑制する効果が示された。さらに、それらを併用投与した場合(ANP+CNP群)には腫瘍増殖が最も顕著に抑制され、この場合の腫瘍ボリュームの増大程度はA549細胞のみを移植した場合よりもさらに低いものであった。このように、腫瘍細胞とCAFの活性を同時に抑制し、それらの間の悪循環を断ち切ることは、悪性腫瘍の増殖や悪性化を抑制する上で、すなわち悪性腫瘍の治療において、非常に有効であることが示された。
これら実施例の結果から、図12において模式的に示されるようなGC-AアゴニストとGC-Bアゴニストの併用効果が示された。即ち、癌細胞が産生するVEGF、PDGF-B、IL-6などの液性因子が、CAFを刺激し、CAFからのVEGF、bFGF、TNF-α、IL-6などの産生を亢進する。CAFから産生されたこれらの液性因子が癌細胞をさらに刺激する。腫瘍組織では、このような悪循環により腫瘍の悪性化が進行すると考えられている。ANP等のGC-Aアゴニストは、癌細胞に作用し、これら液性因子の産生を抑制する効果を有する。一方、CNP等のGC-Bアゴニストは、CAFに作用し、これら液性因子の産生を抑制する効果を有する。このため本発明においては、腫瘍組織に対してGC-AアゴニストとGC-Bアゴニストを組み合わせて作用させることで、癌細胞とCAFの間の悪循環を断ち切ることにより、悪性腫瘍の効果的な治療が達成される。即ち、癌細胞とCAFが混在する腫瘍組織に対して、癌細胞のEMTを抑制するGC-AアゴニストとCAFの形質転換を抑制するGC-Bアゴニストを同時に作用させることで、癌細胞とCAFの間に形成される腫瘍の悪性化を進行させる悪循環を断ち切り、癌を効果的に治療又は予防することが可能となる。
本明細書の実施例では、代表的な腫瘍細胞として、ヒト肺癌由来のA549細胞、H460細胞を採用した。これら肺癌由来の細胞に限らず、膵癌由来 (epithelioid carcinoma)のPANC1、前立腺癌由来(adenocarcinoma)のPC3、胃癌由来(adenocarcinoma)のGCIY、大腸癌由来(colorectal adenocarcinoma)のCaCo2、卵巣癌由来(adenocarcinoma)のOVCAR-3等多くの腫瘍細胞において、GC-A受容体の発現を確認できたことから、GC-AアゴニストとGC-Bアゴニストの組み合わせによる治療は広範な種類の腫瘍に対して作用効果を奏するものである。