上記特許文献1に記載されているシャワー装置は、上記のように、吐出する気泡混入水に対し、ポンプ等を用いることなく自励的な脈動を与えるものである。このため、当該脈動の周波数は、シャワー装置に供給される水の流量や、シャワー装置の内部に形成された流路の構成のみによって定まる固有の値となり、調整することができない。また、上記特許文献1に記載されているような構成、すなわち、主水流の近傍に渦を形成し、渦の内部に生じる負圧により主水流の方向を変動させる構成のシャワー装置においては、気泡混入水に与えられる脈動の周波数が比較的高くなってしまう傾向がある。
特に、少ない吐出量としながらも水の流速を高くする必要のあるハンドシャワーにおいては、シャワー装置の内部の水圧が比較的高く、脈動の周波数は更に高くなりやすい。その理由は以下のように考えられる。シャワー装置の内部の水圧を高くすると、吐水部側から渦の方に向かう逆流水の流量が大きくなり、当該逆流水の影響で(低水圧の場合よりも)大きな渦が形成されてしまう。大きな渦が形成されると、渦の内部には大きな負圧が生じるため、主水流は大きな力を受けてその方向を素早く変化させる。その結果、主水流の方向が変化する周期は短くなり、気泡混入水に与えられる脈動の周波数が高くなってしまう。
このように、従来のシャワー装置においては、脈動が与えられた気泡混入水が使用者の肌に当たっても、使用者には脈動として感じられにくい場合があった。換言すれば、脈動の周波数が高すぎることにより、使用者が感じる刺激感及びそれによる心地よさが十分ではない場合があった。
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ポンプ等の複雑な機構を用いることなく、吐出する気泡混入水に脈動を与えるシャワー装置であって、当該脈動の周波数が高くなり過ぎることを抑制し、使用者が感じる刺激感を大きくすることのできるシャワー装置を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明に係るシャワー装置は、空気を混入させた気泡混入水を吐出するシャワー装置であって、水を供給する給水部と、前記給水部の下流側に設けられ、前記給水部よりも流路断面積を減少させ、通過する水の流速を高めて主水流として下流側に噴射する絞り部と、前記絞り部の下流側に設けられ、前記絞り部を通って噴射される水に空気を混入させて気泡混入水と成すための開口が形成されている空気混入部と、前記空気混入部の下流側に設けられ、前記気泡混入水を吐出するための複数の散水孔が形成されている吐水部と、前記主水流の進行方向を周期的に変化させることにより、前記主水流に混入させる空気の量を周期的に変化させて前記気泡混入水に脈動を付与する脈動付与手段と、を備え、前記脈動付与手段は、前記吐水部側から前記絞り部側へと戻ってくる逆流水を渦室に受け入れて、前記主水流の近傍に渦を形成し、当該渦の内部に生じる負圧により、前記主水流の進行方向を周期的に変化させるものであって、前記逆流水が前記渦室に到達する前に、その一部を前記吐水部側に戻すように構成された帰還手段を更に備えていることを特徴とする。
本発明に係るシャワー装置は、給水部と、絞り部と、空気混入部と、吐水部とを備えている。給水部は、外部から供給される水を受けて、当該水をその下流側に供給する部分である。絞り部は、給水部の下流側に設けられた部分であって、給水部よりも流路断面積を減少させた流路となっている。給水部から絞り部へと供給された水は、流路断面積の減少によりその流速が高められて、絞り部から下流側へと噴射される。絞り部からこのように噴射される水の流れを、以下では「主水流」とも称する。
空気混入部は、絞り部の下流側に設けられた部分であって、絞り部を通って噴射される水に空気を混入させて気泡混入水と成すための、開口が形成されている部分である。開口からシャワー装置の内部に空気が導入されて、主水流に当該空気が混入されることにより、空気混入部では気泡混入水が生成される。
吐水部は、空気混入部の下流側に設けられた部分であって、気泡混入水を吐出するための複数の散水孔が形成されている部分である。空気混入部で生成された気泡混入水は、吐水部に到達した後、複数の散水孔から外部へと吐出される。
このように、本発明に係るシャワー装置は気泡混入水を吐出するため、水の使用量を低減しながらも、使用者に量感のある吐水を享受させることが可能となっている。
本発明に係るシャワー装置は、脈動付与手段を更に備えている。脈動付与手段は、絞り部から噴射される主水流の進行方向を周期的に変化させることにより、空気混入部において主水流に混入される空気の量を周期的に変化させて、吐水部から吐出する気泡混入水に脈動を付与するものである。
吐水部から単位時間あたりに吐出される水の量は常に一定であるから、主水流に混入された空気の量が多い状態では、吐水部から吐出される気泡混入水の流速は速くなる。一方、主水流に混入された空気の量が少ない状態では、吐水部から吐出される気泡混入水の流速は遅くなる。このように流速の異なる気泡混入水が交互に吐出される結果、気泡混入水には脈動が付与され、使用者は脈動的な刺激感を受けることとなる。
ところで、絞り部から噴射された水(主水流)は、上記のように気泡混入水となって吐水部に到達するのであるが、その一部は散水孔から吐出されることなく、絞り部側(上流側)へと戻ってくる。このように、シャワー装置の内部において逆流して戻ってくる水を、以下では「逆流水」とも称する。
脈動付与手段は、上記の逆流水をうまく利用することにより、主水流の進行方向を周期的に変化させる。具体的には、脈動付与手段は渦室を有しており、吐水部側から絞り部側へと戻ってくる逆流水を当該渦室に受け入れて、主水流の近傍に渦を形成するように構成されている。このように形成された渦の内部には負圧が生じるため、主水流は当該負圧によって引き寄せられる。
負圧により主水流の方向が変更された状態と、渦が小さくなり(その結果、負圧も小さくなり)主水流の方向が元に戻った状態とが、自励的且つ周期的に繰り返される。空気混入部においては、主水流の進行方向が周期的に変化することに伴い、主水流に混入される空気の量も周期的に変化する。主水流の進行方向が変化する周波数は、気泡混入水に付与される脈動の周波数に等しい。
本発明に係るシャワー装置は、帰還手段を更に備えている。帰還手段は、吐水部からの逆流水が渦室に到達する前に、その一部を吐水部側に戻すように構成されている。このような帰還手段により、渦室に到達する逆流水の流量が低減されるため、渦室で形成される渦の大きさ、及び当該渦の内部における負圧の大きさ(変動の最大値)が抑制される。吐水部内の水圧が高くなった場合であっても、逆流水の流量の増大に起因して負圧が大きくなり過ぎることがなく、脈動の周波数が高くなり過ぎることがない。その結果、脈動により使用者が感じる刺激感を大きくすることができる。
また、本発明に係るシャワー装置では、前記帰還手段は、前記逆流水の一部を分流させて、その流れの方向を変化させた後に前記逆流水に合流させることも好ましい。
この好ましい態様では、帰還手段は、逆流水の一部を分流させて、その流れの方向を変化させた後に逆流水に合流させるように構成されている。流れの方向が異なる水の合流により、逆流水の流速が減速し且つ局所的な水流の乱れが生じる。その結果、逆流水の一部が、吐水部側に向かう水の流れ(主水流)に合流して、渦室に到達する前に吐水部側に戻される。
このような態様の帰還手段は、逆流水の一部を壁面に衝突させたり、複雑な流路を通過させたりするのではなく、方向の異なる水流を合流させることによって、逆流水の一部を吐水部側に戻すものである。シャワー装置の内部の機構が比較的単純なものとなるため、シャワー装置の大型化を抑制することができる。
また、本発明に係るシャワー装置では、前記絞り部から前記吐水部までの流路を区画する内壁面の一部が、前記逆流水を前記渦室に導くためのガイド面となっており、前記帰還手段は、前記ガイド面の一部を後退させることによって形成された凹状空間であることも好ましい。
この好ましい態様では、絞り部から吐水部までの流路を区画する内壁面の一部が、逆流水を渦室に導くためのガイド面となっている。逆流水は、その大部分がガイド面に沿って流れるため、比較的乱れの少ない流れとなって渦室へと向かう。
帰還手段は、上記ガイド面の一部を後退させることによって形成された凹状空間となっている。ガイド面に沿って流れる逆流水の一部は、凹状空間の壁面に沿ってその流れの方向を変えて(分流して)、凹状空間の中に流入する。その後、当該水は凹状空間の壁面に沿って更にその流れの方向を変えて、元の逆流水の流れ(吐水部から渦室へと向かう方向の流れ)に合流する。
このように、この好ましい態様では、シャワー装置の内壁面(ガイド面及び凹状空間を区画する壁面)の形状を工夫することによって、逆流水の一部を内壁面に沿って滑らか分流させ、その流れの方向を変化させて、再度逆流水(の残部)に合流させている。ガイド面から突出するような部分が存在しないため、ガイド面に沿って渦室へと向かう逆流水の流れが大きく乱されてしまうことがなく、そのような乱れによって気泡混入水に付与される脈動が止まってしまうこともない。
つまり、逆流水の流れ全体を大きく乱すことなく維持しながらも、局所的な水流の乱れのみを生じさせることにより、逆流水の一部を吐水部側に戻すような構成となっている。このため、気泡混入水に付与される脈動を安定して発生させながら、その脈動の周波数を抑制することができる。
また、本発明に係るシャワー装置では、前記吐水部からの水の吐出方向に沿って見たときにおいて、前記凹状空間は、全ての前記主水流と交差するように形成されていることも好ましい。
この好ましい態様では、吐水部からの水の吐出方向に沿って見たときにおいて、凹状空間は、全ての主水流と交差するように形成されている。このような構成においては、絞り部から噴射される主水流が複数存在する場合であっても、凹状空間の上部を通過せずにいずれかの主水流の近傍(渦室)に到達するような逆流水は存在しない。換言すれば、帰還手段によって一部が吐水部側へと戻されることなく、大流量のまま渦室に到達するような逆流水は存在しない。
このため、一部の主水流の進行方向のみが高い周波数で振動してしまうようなことはなく、全ての主水流の進行方向が同様の周波数で振動することとなる。その結果、全ての散水孔から吐出される気泡混入水に対し、脈動がムラなく略均一に付与される。また、脈動が不安定になって止まってしまうようなことも防止される。
また、本発明に係るシャワー装置では、前記凹状空間は、全ての前記散水孔のうち最も絞り部側に形成されたものよりも、更に絞り部側となる位置に形成されていることも好ましい。
凹状空間(帰還手段)は、逆流水の一部を吐水部側に戻すものである。このため、シャワー装置の内部においては、凹状空間よりも下流側の水圧が僅かに高くなり、凹状空間よりも上流側の水圧が僅かに低くなる傾向がある。凹状空間の上流側及び下流側のいずれにも散水孔が形成されているような構成においては、それぞれの散水孔から吐出される水の流速が均一にならず、ムラが生じてしまうこととなる。
尚、ここでいう「上流側」とは、主水流の流れ方向における上流側のことである。また、「下流側」とは、主水流の流れ方向における下流側のことである。
そこで、この好ましい態様では、全ての散水孔のうち最も絞り部側(上流側)に形成されたものよりも更に絞り部側(上流側)となる位置に、凹状空間を形成している。このような構成においては、全ての散水孔が、凹状空間よりも下流側に位置することとなる。このため、それぞれの散水孔から吐出される水の流速を略均一にすることができる。
また、本発明に係るシャワー装置では、前記凹状空間は、前記ガイド面に複数形成されていることも好ましい。
この好ましい態様では、凹状空間は、ガイド面に複数形成されている。吐水部からの水の吐出方向に沿って見たときにおいては、それぞれの主水流が、上流から下流に至るまでの間に複数の凹状空間と交差している。
このような構成により、主水流は、それぞれの凹状空間との交差箇所において、その一部が吐水部側に戻されることとなる。一つの凹状空間において多量の水が戻される構成ではなく、複数の凹状空間においてそれぞれ少量の水が戻される構成とすることができるため、逆流水の流れ全体を乱してしまうようなことが更に抑制される。気泡混入水に付与される脈動を更に安定的に発生させながら、その脈動の周波数を抑制することができる。
また、本発明に係るシャワー装置では、前記凹状空間を区画する側壁面のうち前記吐水部側の側壁面は、隣接する前記ガイド面との間で成す角度が鈍角となるように、前記ガイド面に対して傾斜していることも好ましい。
凹状空間を区画する側壁面のうち吐水部側の側壁面が、ガイド面に対して垂直となっている場合には、ガイド面に沿って渦室へと向かう逆流水が、凹状空間の上部において側壁面から剥離してしまいやすい。その結果、凹状空間の内部に流入する水の流量が少なくなり、吐水部側へと戻される逆流水の量も少なくなってしまうことがある。
この好ましい態様では、凹状空間を区画する側壁面のうち吐水部側の側壁面が、隣接するガイド面との間で成す角度が鈍角となるように、ガイド面に対して傾斜している。このような構成により、ガイド面に沿って渦室へと向かう逆流水の一部が、傾斜した側壁面に沿ってスムーズにその流れ方向を変化させて、凹状空間の内部に流入する。その結果、逆流水の一部を確実に吐水部側へと戻すことができる。
本発明によれば、ポンプ等の複雑な機構を用いることなく、吐出する気泡混入水に脈動を与えるシャワー装置であって、当該脈動の周波数が高くなり過ぎることを抑制し、使用者が感じる刺激感を大きくすることのできるシャワー装置を提供することができる。
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
本発明の実施形態であるシャワー装置について図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態に係るシャワー装置F1を示す図であって、図1(A)は平面図を示しており、図1(B)は下面図を示している。シャワー装置F1は、略円盤状を成す本体部BDと、本体部BDの側面から側方に向けて伸びるように形成された把持部GRとを有している。
本体部BDは、その下面SAに複数の散水孔101が形成されており、それぞれの散水孔101からシャワー状の水を吐出するように構成された部分である。また、把持部GRは、使用者の手によって把持される部分である。把持部GRのうち、本体部BDとは反対側の端部には、図示しない給水ホースが接続されている。後に詳しく説明するように、給水ホースから供給された水は、把持部GRの内部に形成された内部流路210を通って本体部BDに到達し、本体部BDの下面SAに形成された複数の散水孔101からシャワー状に吐出される。シャワー装置F1は、所謂ハンドシャワーと称されるものである。
図1(A)に示したように、本体部BDの上面には円形の開口201が形成されている。シャワー装置F1の内部空間(水が通る空間)は、この開口201を通じて外気と連通している。シャワー装置F1に対して給水ホースから水が供給されると、エジェクタ効果が生じて、外部の空気が開口201からシャワー装置F1の内部空間へと流入する。内部空間の水は、空気が混入されて気泡混入水となった後、散水孔101から外部へと吐出される。
図1(B)に示したように、本体部BDの下面SAは略円形を成しており、当該下面SAにおいて、複数の散水孔101が同心円状且つ放射状に並んでいる。ただし、散水孔101は下面SAの全体に配置されているのではなく、中心の円形領域を除いた外周側の領域にのみ配置されている。従って、シャワー装置F1から吐出されるシャワー状の水流は、その流れ方向に対して垂直な断面がドーナツ状をなすような水流となる。
続いて、図1(A)のA−A断面図である図2を参照しながら、シャワー装置F1について説明を加える。図2に示されるように、シャワー装置F1は、キャビティ200と、シャワープレート100とによって構成されている。キャビティ200は、本体部BDの上方側部分と把持部GRとが一体的に成形されたものである。また、シャワープレート100は、本体部BDの下方側部分(水を吐出する部分)をなす円板状の部品である。先に説明した複数の散水孔101は、全てシャワープレート100に対して形成されている。
シャワープレート100の上面(底壁120)と、その上方にあるキャビティ200の下面(天壁220)とは、いずれも略平坦な面となっており、互いに平行且つ離間した状態で対向配置されている。底壁120と天壁220との間には、両者に挟まれた薄い円板形状の空間300が形成されている。シャワープレート100は、その外周部分においてキャビティ200と当接しており、その当接面には不図示のOリングが介挿されている。当該Oリングにより、シャワープレート100とキャビティ200との間が水密に保たれている。
既に説明したように、把持部GRの内部には内部流路210が形成されている。内部流路210は、把持部GRの中心軸に沿ってキャビティ200の内部に形成された第一流路211と、第一流路211の下流側端部からシャワープレート100の中心に向かって下方に延びるように形成された第二流路212とからなり、全体がL字形状の流路となっている。第二流路212の下流側端部は、円板形状である空間300の中心位置に接続されており、内部流路210と空間300とが互いに連通している。このような第一流路211及び第二流路212からなる内部流路210は、本発明の給水部に該当するものである。
図3は、図2に示した断面の一部を拡大して示す図である。図3に示したように、第二流路212の下流側端部とシャワープレート100との間には、絞り流路250が形成されている。絞り流路250は、上面視において空間300の中心から外周側に向かって放射状となるように形成された複数の流路である。内部流路210と空間300とは、これら複数の絞り流路250を介して互いに連通している。絞り流路250は、その流路方向が底壁120に対し平行な方向とはなっておらず、下流側に行くに従って底壁120側から天壁220側に向かうよう、底壁120に対して僅かに傾斜した方向となっている。
給水ホースからシャワー装置F1に水が供給されると、当該水は内部流路210を通って第二流路212の下流側端部に到達した後、絞り流路250から空間300に向けて放射状に噴射される。絞り流路250の流路断面積の合計は、第二流路212の流路断面積よりも小さい。このため、第二流路212から噴射される水の流速は、第二流路212を通る水の流速よりも高くなる。絞り流路250から空間300に噴射される水の流れを、以下では「主水流MF」とも称する。
キャビティ200の内部には、開口201から内部に導入される空気の流路として空気流路230が形成されている。天壁220のうち中心寄りの位置には、第二流路212の外周を円形に囲むように形成された開口231が形成されており、この開口231が空気流路230の下流側端部となっている。
絞り流路250から水が噴射されると、エジェクタ効果により、開口231からの空気(開口201から流入した外気)が主水流MFに混入して、気泡混入水が生成される。具体的には、絞り流路250よりも下流側(外周側)に気液界面が形成され、その気液界面に噴射された水が突入し空気を巻き込むことで気泡混入水が形成される。空間300のうち開口231の近傍の部分を、以下では「空気混入部310」とも称する。
空気混入部310において生成された気泡混入水は、空間300の内部を外周側(図3では左側)に向かって流れた後、それぞれの散水孔101から外部へと吐出される。シャワープレートのうち複数の散水孔101が形成されている部分(外周側部分)と、その直上である空間300の外周側部分とを合わせて、以下では「吐水部320」とも称する。
シャワー装置F1では、絞り流路250から噴射される水(主水流)の進行方向を周期的に変動させることで、空気混入部310で生成される気泡混入水の空気混入率を周期的に変動させている。この空気混入率の周期的な変動によって、吐水部320からの吐水が脈動状態となり、使用者は刺激感を得ることができる。
続いて、図4及び図5を参照しながら、空気混入率を周期的に変動させる原理について説明する。図4及び図5は、絞り流路250近傍の拡大図であり、空気混入率が変動する様子を模式的に示している。図4は、絞り流路250から水を噴射し始めた初期段階を示す図である。図5は、図4に示した状態から空気混入率が変化して最も高まった状態を示す図である。
最初に、図4に示すように、絞り流路250から空気混入部310に向けて噴射された水は、絞り流路250に沿って上方側に向かって進行し、主水流MFを形成する。このとき、空気混入部310における主水流MFの進行方向は、絞り流路250の内部を流れる水の進行方向(点線LNに沿った方向)と一致している。すなわち、絞り流路250の流路方向と一致している。
絞り流路250から噴射される主水流MFによって、空気混入部310は、開口231の近傍の部分を除く殆どの部分が満水状態となる。空気混入部310においては、開口231の近傍の空気で満たされた部分と、それよりも下流側(空間300の外周側)であって水で満たされた部分との間に、図示しない気液境界面が形成される。
空間300の外周側は上記のように水で満たされており、そこへ絞り流路250から噴射される水が供給されるため、吐水部320の水圧は上昇する。当該水圧により、それぞれの散水孔101からは高速の水流が吐出される。但し、絞り流路250から噴射された水の全てが散水孔101から吐出されるのではない。吐水部320又はその近傍にまで到達した水の一部は、底壁120に沿って絞り流路250側に向かい逆流する。このように、空間300の内部を逆流して戻ってくる水を、以下では「逆流水CF」とも称する。
図4に示したように、底壁120のうち中心寄りの位置には渦室150が形成されている。渦室150は、底壁120の一部を後退させることにより形成された溝であって、上面視において絞り流路250を円形に囲むように形成されている。
渦室150は、外側面151、底面152、及び内側面153によって区画されている。外側面151は、凹状の空間である渦室150の外周側を区画する面であって、図4に示したように底壁120に対して傾斜した面となっている。底面152は、凹状の空間である渦室150の底部を区画する面であって、図4に示したように底壁120に対して平行な面となっている。内側面153は、凹状の空間である渦室150の内周側を区画する面であって、図4に示したように底壁120に対して垂直な面となっている。
底壁120に沿って絞り流路250側に戻る逆流水CFは、外側面151に沿って渦室150の内部に流入し、その後は底面152及び内側面153に沿って順に流れる。また、渦室150の上方側(天壁220側)には、既に述べたように主水流MFが存在している。逆流水CFが渦室150の内部に流入する流れと主水流MFとの影響によって、渦室150においては渦状の流れ(以下、「渦水流VF」と称する)が発生する。
絞り流路250から水を噴射し始めた初期段階である図4の状態においては、主水流MFの進行方向は天壁220側に向かう方向となっている。このため、図4に示したように、渦室150においては比較的大きな渦水流VFが形成される。
渦水流VFの内部に存在する水には、外側に向かう力(遠心力)が働く、その結果、渦水流VFの内部の水圧は、その周囲の水圧よりも低くなる(負圧となる)。また、そのような水圧の低下は、渦水流VFが大きいほど顕著に生じる。換言すれば、渦水流VFが大きいほど、当該渦水流VFの内部に生じる負圧も大きくなる。従って、図4のように比較的大きな渦水流VFが形成された状態においては、主水流MFの下方側(底壁120側)には大きな負圧が生じている。
図4の状態の後、主水流MFは、渦水流VFの内部に生じる大きな負圧に引き寄せられて、開口231から遠ざかるようにその進行方向を変化させる。主水流MFの進行方向が開口231から遠ざかるように(渦室150側に近づくように)変化するに従って、渦水流VFは次第に小さくなる。図5は、主水流MFの進行方向が変化して、開口231から最も遠ざかった状態を示している。
図5の状態においては、主水流MFと開口231との距離が大きくなったことにより、空気混入部310において形成された気液境界面(不図示)の位置が、図4の状態における気液境界面の位置よりもより外周側(図5では左側)となっている。開口231から空気混入部310に導入された空気は、主水流MFによって加速されながら気液境界面に向かうが、上記のように気液境界面の位置が外周側に変化したことにより、その加速距離が大きくなっている。その結果、図5の状態においては、開口231から導入されて水に巻き込まれる空気の量(空気混入量)が最大となっている。換言すれば、散水孔101から吐出される気泡混入水の空気混入率が最も高まっている。
図5の状態においては、主水流MFの進行方向は渦室150側に最も近づいている。このため、渦室150側に形成された渦水流VFの大きさは最小となっており、渦水流VFの内部に生じる負圧は最も小さくなっている。従って、図5の状態の後においては、負圧によって引き寄せられていた主水流MFの進行方向は元に戻り、図4のように、絞り流路250の内部を流れる水の進行方向(点線LNに沿った方向)と一致した状態となる。
図4の状態においては、主水流MFと開口231との距離が小さいため、空気混入部310において形成された気液境界面(不図示)の位置が、図5の状態における気液境界面の位置よりも内周側に変化している。開口231から空気混入部310に導入された空気は、主水流MFによって加速されながら気液境界面に向かうが、上記のように気液境界面の位置が内周側に変化したことにより、その加速距離が小さくなっている。その結果、図5の状態においては、開口231から導入されて水に巻き込まれる空気の量(空気混入量)が最少となっている。換言すれば、散水孔101から吐出される気泡混入水の空気混入率が最も低くなっている。
以上の説明で明らかなように、本実施形態に係るシャワー装置F1においては、図4に示した状態と図5に示した状態とが交互に繰り返されることにより、散水孔101から吐出される気泡混入水の空気混入率が周期的に変化する。吐水部320から単位時間あたりに吐出される水の量は常に一定であるから、主水流MFに混入された空気の量が多い状態(図5の状態)では、それぞれの散水孔101から吐出される気泡混入水の流速は速くなる。一方、主水流MFに混入された空気の量が少ない状態(図4の状態)では、それぞれの散水孔101から吐出される気泡混入水の流速は遅くなる。このように、散水孔101からは流速の異なる気泡混入水が交互に吐出される。散水孔101から吐出される水には粗密が発生し、シャワー装置F1の使用者の肌に対して断続的に着水することとなる。これにより、シャワー装置F1の使用者は脈動的な刺激感を受ける。
ところで、上記脈動の周波数は、シャワー装置F1に供給される水の流量や、シャワー装置F1の内部に形成された流路の構成のみによって定まる固有の値となっている。また、シャワー装置F1のように吐水部320の水圧が比較的高くなるようなハンドシャワーにおいては、脈動の周波数は更に高くなりやすい。
その理由は以下のように考えられる。吐水部320の水圧が高くなると、吐水部320から渦水流VFの方に向かう逆流水CFの流量が大きくなり、大きな渦水流VFが形成される。渦水流VFの内部には大きな負圧が生じ、主水流MFは大きな力を受けてその方向を素早く変化させる。その結果、主水流MFの方向が変化する周期は短くなり、気泡混入水に与えられる脈動の周波数が高くなってしまう。
気泡混入水に与えられる脈動の周波数が高くなり過ぎると、脈動が与えられた気泡混入水が使用者の肌に当たっても、使用者には脈動として感じられにくい。換言すれば、脈動の周波数が高すぎることにより、使用者が感じる刺激感及びそれによる心地よさが十分ではない場合が生じ得る。
そこで、シャワー装置F1では、脈動の周波数が高くなり過ぎないように、渦水流VFの方に向かう逆流水CFの流量を抑制するように構成されている。具体的には、底壁120のうち吐水部320と渦室150との間に複数の凹状空間160、170、180が形成されており、これら凹状空間160、170、180によって逆流水CFの流量が抑制される構成となっている。
凹状空間160、170、180は、いずれも底壁120の一部を後退させることにより形成された溝内の空間であって、上面視において絞り流路250を円形に(同心円状に)囲むように形成されている。凹状空間160はこれらのうち最も外周側に形成されており、凹状空間180はこれらのうち最も内周側に形成されており、凹状空間170は凹状空間160と凹状空間180との間に形成されている。
凹状空間160、170、180の具体的な形状及び機能について、図6を参照しながら説明する。図6は、凹状空間160の形状及びその近傍における水の流れを模式的に示す図である。尚、凹状空間170、180の形状及びそれぞれの近傍における水の流れは、いずれも凹状空間160の場合と同様であるから、以下では凹状空間160についてのみ説明する。
凹状空間160は、外側面161、底面162、及び内側面163によって区画されている。外側面161は、凹状空間160の外周側を区画する面であって、図6に示したように底壁120に対して傾斜した面となっている。外側面161は、これと隣接する底壁120との間で成す角度(図6において符号AGで示した角度)が鈍角となるように、底壁120に対して傾斜している。底面162は、凹状空間160の底部を区画する面であって、図6に示したように底壁120に対して平行な面となっている。内側面163は、凹状空間160の内周側を区画する面であって、図6に示したように底壁120に対して垂直な面となっている。
既に説明したように、シャワー装置F1の散水孔101から気泡混入水を吐出している状態においては、吐水部320側から渦室150側へと向かう逆流水CFが底壁120に沿って流れている。このため、逆流水CFは、凹状空間160の上方側、凹状空間170の上方側、凹状空間180の上方側を順に通過することとなる。凹状空間160の上方側を通過する逆流水CFの流れを、図6では符号CF1を付した矢印で示している。
逆流水CFが凹状空間160の上方側を通過する際には、逆流水CFの一部はその方向を変化させて、外側面161に沿って凹状空間160の内部に流入する。その後、底面162、内側面163に沿って順に流れながらその方向を更に変化させて、最終的には凹状空間160の外部に流出する。このような逆流水CFの(一部の)流れを、図6では符号CF2を付した矢印で示している。
凹状空間160の内壁面に沿って流れた逆流水CF(CF2)は、凹状空間160の上方側を通過して流れる逆流水CF(CF1)に合流する。この合流箇所においては、流れが互いに異なる水流の衝突に伴って局所的な水流の乱れが生じるため、渦室150側へと向かう逆流水CF(CF1)の一部がその流れ方向を変えて、その上方側にある主水流MFに向かうこととなる。このように主水流MFに向かう水の流れを、図6では符号CF3を付した矢印で示している。主水流MFに向かってその方向を変化させた逆流水CF(CF3)は、主水流MFに合流して吐水部320へと向かう。換言すれば、逆流水CF(CF1)の一部が、渦室150に到達する前に吐水部320側に戻される。
その結果、凹状空間160よりも渦室150側を流れる逆流水CFは、凹状空間160よりも吐水部320側(図6では左側)を流れる逆流水CFに比べて、その流量が僅かに小さくなっている。すなわち、凹状空間160の上方側を通過した際にその一部(CF3)が吐水部320側へと戻された分、その流量が小さくなった状態で渦室150側へと流れる。このように流量が小さくなった逆流水CFの流れを、図6では符号CF4を付した矢印で示している。
その後、逆流水CF(CF4)は凹状空間170の上方側を通過するのであるが、その際にも、上記と同様の現象が生じてその流量が僅かに小さくなる。また、凹状空間180の上方側を通過する際にも、流量が僅かに小さくなる。このように、吐水部320から渦室150へと流れる逆流水CFは、凹状空間160、170、180の上方側を順に通過することで、その流量が段階的に小さくなっていく。渦室150に到達する逆流水CFの流量は、凹状空間160等が形成されていない場合に比べて抑制される。その結果、渦水流VFは小さくなり、主水流MFの方向が変化する周期は長くなるため、気泡混入水に与えられる脈動の周波数が高くなり過ぎてしまうことが防止される。
以上に説明したように、本実施形態に係るシャワー装置F1では、吐水部320からの逆流水CFが渦室150に到達する前に、その一部が吐水部320側に戻るよう、凹状空間160、170、180が形成されている。凹状空間160、170、180は、本発明の帰還手段に該当するものである。
このような帰還手段により、渦室150に到達する逆流水CFの流量が低減されるため、渦室150で形成される渦水流VFの大きさ、及び当該渦水流VFの内部における負圧の大きさ(変動の最大値)が抑制される。吐水部320内の水圧は比較的高いのであるが、逆流水CFの流量の増大に起因して渦水流VF内の負圧が大きくなり過ぎるようなことがなく、吐出される気泡混入水の脈動の周波数が高くなり過ぎることがない。その結果、脈動により使用者が感じる刺激感を大きくすることが可能となっている。
また、帰還手段(凹状空間160、170、180)は、逆流水CF(CF1)の一部(CF2)を分流させて、その流れの方向を変化させた後に逆流水CF(CF1)に合流させるように構成されている。すなわち、逆流水CFの一部を壁面に衝突させたり、複雑な流路を通過させたりするのではなく、方向の異なる水流を合流させることによって、逆流水CFの一部を吐水部320側に戻すような構成となっている。その結果、シャワー装置F1の内部の機構は比較的単純なものとなっており、シャワー装置F1の大型化が抑制されている。
また、底壁120(ガイド面)には突起のようなものが形成されておらず、凹状空間160、170、180のみが形成されているため、底壁120に沿って渦室150へと向かう逆流水CFの流れが大きく乱されてしまうことがなく、そのような乱れによって気泡混入水に付与される脈動が止まってしまうこともない。つまり、逆流水CFの流れ全体を大きく乱すことなく維持しながらも、局所的な水流の乱れのみを生じさせることにより、逆流水CFの一部(CF3)を吐水部320側に戻すような構成となっている。このため、気泡混入水に付与される脈動を安定して発生させながら、その脈動の周波数を抑制することが可能となっている。
凹状空間160、170、180はいずれも、上面視において絞り流路250を円形に囲むように形成されている。このため、散水孔101からの水の吐出方向に沿って見たときにおいて、凹状空間160、170、180はいずれも、全ての主水流MFと交差している。このような構成であるから、凹状空間160、170、180の上部を通過せずにいずれかの主水流MFの近傍(渦室150)に到達するような逆流水CFは存在しない。換言すれば、帰還手段によって一部が吐水部320側へと戻されることなく、大流量のまま渦室150に到達するような逆流水CFは存在し得ない。
このため、一部の主水流MFの進行方向のみが高い周波数で振動してしまうようなことはなく、全ての主水流MFの進行方向が同様の周波数で振動することとなる。その結果、全ての散水孔101から吐出される気泡混入水に対し、脈動がムラなく略均一に付与される。また、脈動が不安定になって止まってしまうようなことも防止される。
ところで、凹状空間160等は、逆流水CFの一部を吐水部320側に戻すものである。このため、シャワー装置F1の内部においては、凹状空間160等よりも外周側の水圧が僅かに高くなり、凹状空間160等よりも内周側の水圧が僅かに低くなる傾向がある。仮に、凹状空間160等の外周側及び内周側のいずれにも散水孔101が形成されているような構成においては、それぞれの散水孔101から吐出される水の流速が均一にならず、ムラが生じてしまうこととなる。
そこで、シャワー装置F1では、全ての散水孔101のうち最も内周側(絞り流路250側)に形成されたものよりも更に内周側(絞り流路250側)となる位置に、凹状空間160、170、180の全てを形成している。つまり、全ての散水孔101が、凹状空間160、170、180よりも外周側(主水流MFにおける下流側)に位置している。このため、それぞれの散水孔101から吐出される水の流速が略均一となっている。
本実施形態においては、散水孔101からの水の吐出方向に沿って見たときにおいて、それぞれの主水流MFが、上流から下流に至るまでの間に3つの凹状空間160、170、180と交差している。
このような構成により、主水流MFは、凹状空間160、170、180との交差箇所において、その一部が吐水部320側に戻される。一つの凹状空間において多量の水が戻される構成ではなく、複数の凹状空間においてそれぞれ少量の水が戻される構成となっているため、逆流水CFの流れ全体を大きく乱してしまうようなことが抑制されている。その結果、気泡混入水に付与される脈動を更に安定的に発生させながら、その脈動の周波数を抑制している。
尚、凹状空間160等の数は、本実施形態においては3つであるが、空間300の形状や大きさ等によってその数を適宜設定することが望ましい。シャワー装置のサイズが小さければ、凹状空間の数は一つでも十分な場合がある。
凹状空間160を区画する側壁面のうち外側面161は、これと隣接する底壁120との間で成す角度(図6において符号AGで示した角度)が鈍角となるように、底壁120に対して傾斜している。このような構成により、底壁120に沿って渦室150へと向かう逆流水CFの一部(CF2)が、傾斜した外側面161に沿ってスムーズにその流れ方向を変化させて、凹状空間160の内部に流入する。その結果、逆流水CFの一部(CF3)が確実に吐水部320側へと戻される。
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。