以下、添付図面を参照しながら本発明に係る放射性同位元素製造装置の一実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、本実施形態に係る放射性同位元素製造装置100の斜視図である。図2は、図1に示すII−II線に沿った断面図である。図3は、前面フランジ3を本体部2から離間させた状態における放射性同位元素製造装置100の斜視図である。図4は、前面フランジ3及び中間ホルダ4を本体部2から離間させた状態における放射性同位元素製造装置100の斜視図である。なお、説明のために、図3及び図4において前面フランジ3及び駆動部6の一部は二点鎖線で示されている。また、図3及び図4ではターゲット基板10を省略している。図5は、図3に示す状態における本体部2の張出部9及び中間ホルダ4をY軸正方向から見た図である。図6は、図4に示す状態における中間ホルダ4をY軸正方向から見た図である。図6では、中間ホルダ4と張出部9は離間しているため、張出部9は図示されていない。
本実施形態に係る放射性同位元素製造装置100は、荷電粒子線Bが照射されるターゲット材料11を有するターゲット基板10を保持するものである。ターゲット基板10は円板状に構成されており、表面10a上にターゲット材料11が形成されている(図2、図5及び図6参照)。ターゲット材料11は、表面10aにめっき処理によって金属層を形成することで設けられる。または、板状の金属層を貼り付けてもよい。なお、金属層は、純度の高い金属に限らず、金属酸化物の層であってもよい。ターゲット材料11は、ターゲット基板10の表面10aの中央位置に円形の金属層を形成することで設けられる。なお、図2では、ターゲット材料11の厚さを強調して示している。当該ターゲット基板10を放射性同位元素製造装置100にセットして、ターゲット材料11に荷電粒子線Bが照射されることによって、照射された部分に微量の放射性同位元素が生成される。ターゲット基板10の材料として、溶解液で溶解しない材料が採用され、例えば、Au、Ptなどが採用される。ターゲット基板10は円板状に形成されているが、形状や厚さは特に限定されない。ターゲット材料11として、例えば、64Ni、89Y、100Mo、89YO2などが挙げられる。当該ターゲット材料11に対応して生成される放射性同位元素として、64Cu、89Zr、99mTcなどが挙げられる。なお、ターゲット基板10の裏面10bには、表面10aのターゲット材料11に荷電粒子線Bが照射されるとき、冷却水などの冷却媒体が供給される。これにより、荷電粒子線Bの照射によるターゲット材料11(及びターゲット基板10)の発熱を、冷却水などで吸収することができる。なお照射される荷電粒子は、陽子、重陽子、アルファ粒子または3Heなどである。
図1〜図4に示すように、放射性同位元素製造装置100は、ターゲット基板10を冷却する本体部2と、本体部2よりも前面側(荷電粒子線Bに対する上流側)に設けられる前面フランジ(第1の部材)3と、本体部2と前面フランジ3との間に設けられる中間ホルダ(第2の部材)4と、本体部2に対して近接及び離間するように前面フランジ3を往復移動させる第1の駆動部6と、本体部2に対して近接及び離間するように中間ホルダ4を往復移動させる第2の駆動部7と、を備えている。なお、水平方向に延びる軸線CLを放射性同位元素製造装置100の基準線として以降の説明を行う。軸線CLと荷電粒子線Bの照射軸は略一致する。ただし、一致しなくともよい。また、説明の便宜上、各図には、XYZ座標系を示す。Y軸方向は、軸線CLが延びる方向であり、Y軸正方向が前面側(荷電粒子線Bに対する上流側)であって、Y軸負方向が後面側(荷電粒子線Bに対する下流側)である。X軸方向は、Y軸方向と直交する水平方向である。Z軸方向は、X方向とY方向とに直交する方向であって、Z軸正方向が上方向であって、Z軸負方向が下方向である。
本体部2は、軸線CLを中心線とする略円筒状の部材である。本体部2の外周面2eの一部には、上端側で水平方向に広がる上平面2cが形成され、下端側で水平方向に広がる下平面2dが形成される。上平面2cには駆動部6が設けられ、下平面2dには駆動部7が設けられる(駆動部6,7の詳細な構成は後述)。なお、外周面2eの径は、ターゲット基板10の径よりも大きい。また、図2に示すように、上平面2cは、放射性同位元素製造装置100にセットされた状態(ターゲット基板10の中心線が軸線CLと略一致するように配置された状態)におけるターゲット基板10の上端よりも上側に配置される。下平面2dは、放射性同位元素製造装置100にセットされた状態におけるターゲット基板10の下端よりも下側に配置される。なお、本体部2の形状は、駆動部6,7の構造などに応じて適宜変更してもよい。
本体部2の前面2aには、Y軸正方向へ張り出す張出部9が形成されている。図4及び図5に示すように、張出部9は、Y軸方向から見て逆U字状の形状をなしており、軸線CLより上側は当該軸線CLを中心線とする半円状に構成され、下側は下方へ向かって延びる矩形状に構成される。張出部9の半円状の部分の径は、ターゲット基板10の径より小さく、ターゲット材料11の径より大きい。張出部9は、上側に向かって湾曲する外周面9bと、当該外周面9bのX軸方向における両端からZ軸負方向(下方)へ延びる側面9cと、各側面9cの下端を連結するようにX軸方向に延びる下面9dと、を有している。なお、下面9dは、本体部2の下平面2dと同一面となる。張出部9の下端部には、Y軸正方向へ突出する顎部20が設けられている。当該顎部20は、ターゲット基板10の下側面を支持する。なお、顎部20の詳細な構造については後述する。張出部9の前端面9aには、軸線CLを中心線とした円形の溝部が形成されており、当該溝部には、ターゲット基板10の裏面10bに押圧される(図2参照)封止部材12が設けられている。封止部材12として、Oリングなどが適用される。なお、張出部9の形状は、ターゲット基板10を支持することができる形状であれば特に限定されない。
図2に示すように、本体部2は、ターゲット基板10の裏面10bを冷却するための冷却水循環孔13を有する。冷却水循環孔13は、軸線CLを中心線として前端面9aから本体部2の後面2b側へ延びる円形の有底孔である。なお、冷却水循環孔13の前端面9aでの開口部は、封止部材12より径が小さく、当該封止部材12に取り囲まれる。当該開口部の径は、ターゲット材料11の径より大きい。後面2b側の冷却水循環孔13の端部は、後面2b側に延びるように形成された冷却水排出孔14及びエアブロー冷却水排出孔16と連通されている。また、冷却水循環孔13内には、冷却水をターゲット基板10に向けて導出するための冷却水導出管17が設けられている。後面2b側の冷却水導出管17の端部は、後面2b側に延びるように形成された冷却水導入孔18及びエア導入孔19と連通されている。
冷却水排出孔14には冷却水排出管21が接続され、エアブロー冷却水排出孔16には高圧空気排出管22が接続される。冷却水導入孔18には冷却水供給管23が接続され、エア導入孔19には高圧空気供給管24が接続される。このような構成により、ターゲット材料11に荷電粒子線Bが照射されているときは、冷却水供給管23から冷却水導出管17を介してターゲット基板10の裏面10bに冷却水が供給され、冷却水循環孔13を介して冷却水排出管21から冷却水が排出される。また、照射後に残存した冷却水は、高圧空気供給管24及び高圧空気排出管22による高圧空気によって、強制排出される。
図1及び図2に示すように、前面フランジ3は、軸線CLを中心線とする略円板状の部材である。前面フランジ3は、本体部2の前面2a及び張出部9の前端面9aと対向するように配置される。前面フランジ3は、駆動部6の駆動力によって、本体部2に対して近接及び離間する往復移動が可能である。具体的には、前面フランジ3は、軸線CLが延びる方向、すなわちY軸方向と平行に往復移動可能である。前面フランジ3は、Y軸正方向へ移動することによって本体部2から離間し、Y軸負方向へ移動することによって本体部2へ近接する。
前面フランジ3の径は、ターゲット基板10の径よりも大きく、本実施形態では本体部2の外周面2eの径と略同一である。また、前面フランジ3には、円板状の部分の上端から上方へ延びる連結部25が形成されている。連結部25には、駆動部6が連結される。図2に示すように、前面フランジ3の後面3bには、本体部2へ向かってY軸負方向へ張り出す張出部26が形成されている。張出部26は、軸線CLを中心線とする円筒状に構成されており、張出部26の径は、ターゲット基板10の径よりも小さく、ターゲット材料11の径より大きい。本実施形態では、張出部26の径は、本体部2の張出部9の半円状の部分の径と略同一である。また、前面フランジ3には、前面3aから張出部26の後端面26aまで貫通する貫通孔32が形成されている。貫通孔32は、荷電粒子線Bをターゲット基板10まで通過させるための孔である。貫通孔32は、軸線CLを中心線とした円形の孔である。貫通孔32の径は、ターゲット材料11の径より大きく、本実施形態では冷却水循環孔13の径と略同一である。
張出部26の後端面26aには、貫通孔32の開口部を取り囲むように軸線CLを中心線とした円形の溝部が形成されており、当該溝部には、ターゲット基板10の表面10aに押圧される封止部材33が設けられている。前面フランジ3は、本体部2に近接するように移動することによって、本体部2に対してターゲット基板10を押圧する。従って、前面フランジ3は、封止部材33をターゲット基板10の表面10aに対して押圧する。また、この際、本体部2の張出部9の前端面9aの封止部材12もターゲット基板10の裏面10bに押圧される。ターゲット基板10は、本体部2の張出部9の前端面9aと前面フランジ3の張出部26の後端面26aとの間で挟持される。
前面フランジ3の前面3aには、貫通孔32の開口部を取り囲むように軸線CLを中心線とした円形の溝部が形成されており、当該溝部には、粒子加速器の受面に押圧される封止部材34が設けられている。なお、粒子加速器として、図7に示すような従来の放射性同位元素製造装置300において用いられる粒子加速器200と同趣旨のものを採用することができ、マニホールド201の受面201aに封止部材34を押圧することができる。封止部材33,34として、Oリングなどが適用される。
図2に示すように、駆動部6は、Y軸方向にスライドするスライド部材36と、スライド部材36をガイドするガイド部材37と、スライド部材36を駆動させるエアシリンダ38と、を備えている。ガイド部材37は、Y軸方向に延びて、本体部2の上平面2c上に固定される部材である。スライド部材36は、ガイド部材37の上面側でY軸方向に延びており、前端部で下方に屈曲する屈曲部36aを有する。スライド部材36は、屈曲部36aにて前面フランジ3の連結部25と連結される。また、ガイド部材37内にはエアシリンダ38が設けられており、ガイド部材37の前端面からエアシリンダ38のロッドが延びている。当該ロッドの前端はスライド部材36の屈曲部36aに固定されている。エアシリンダ38は、X軸方向に並ぶように一対設けられている。一対のエアシリンダ38を用いることにより、前面フランジ3をバランス良く往復移動させることができる。ガイド部材37の後端面には、エアシリンダ38にエアを供給する供給管41が接続されている。なお、前面フランジ3のX軸負方向における端部付近には、Y軸負方向へ延びて本体部2内へ挿入されるガイドバー42が固定されている(図3及び図4参照)。このような構成により、エアシリンダ38が伸縮することによってスライド部材36がガイド部材37にガイドされながらY軸方向に往復移動を行い、それに伴って前面フランジ3も往復移動を行う。
図1〜図4に示すように、中間ホルダ4は、前面フランジ3の移動方向、すなわちY軸方向におけるターゲット基板10の移動を規制する部材である。また、中間ホルダ4は、駆動部7の駆動力によって、本体部2に対して近接及び離間する往復移動が可能である。具体的には、中間ホルダ4は、軸線CLが延びる方向、すなわちY軸方向と平行に往復移動可能である。中間ホルダ4は、Y軸正方向へ移動することによって本体部2から離間し、Y軸負方向へ移動することによって本体部2へ近接する。なお、ここでの「ターゲット基板10の移動の規制」とは、中間ホルダ4に対する相対的な移動を規制することである。
中間ホルダ4は、移動方向、すなわちY軸方向に対向する前側規制部材43及び後側規制部材44と、規制部材43、44を接続する接続部46と、を備えている。規制部材43,44は、本体部2の前面2a及び前面フランジ3の後面3bと平行に対向する。ターゲット基板10は、放射性同位元素製造装置100にセットされる際は、中間ホルダ4の前側規制部材43と後側規制部材44との間に配置される。従って、前側規制部材43によってターゲット基板10のY軸正方向、すなわち前方への移動が規制され、後側規制部材44によってターゲット基板10のY軸負方向、すなわち後方への移動が規制される。
規制部材43,44は、所定の形状に形成された板部材によって構成されている。Y軸方向から見たときの規制部材43,44の外形は、本体部2の外形(外周面2e、上平面2c及び下平面2dによって描かれる外形)と略同一である。ただし、後側規制部材44の下端部には、駆動部7を連結させるための連結部47が設けられている。前側規制部材43には、前面フランジ3の張出部26を通過させるために、Y軸方向へ貫通する貫通部51が形成されている。後側規制部材44には、本体部2の張出部9を通過させるために、Y軸方向へ貫通する貫通部52が形成されている。なお、図2に示すように、前側規制部材43の厚さは前面フランジ3の張出部26の張出量よりも小さく、後側規制部材44の厚さは本体部2の張出部9の張出量よりも小さい。接続部46の厚さは、ターゲット基板10の厚さよりも大きい。また、前側規制部材43の前面43aと後側規制部材44の後面44bとの間の寸法は、張出部9,26でターゲット基板10が挟持されている状態における本体部2の前面2aと前面フランジ3の後面3bとの間の寸法よりも小さくなるように設定される。以上のような構成により、中間ホルダ4は、ターゲット基板10を挟持している状態における本体部2及び前面フランジ3と干渉しない。
図3及び図4に示すように、接続部46は、X軸正方向側の領域であって、前側規制部材43の下端部付近に設けられる第1の接続部材57と、X軸負方向側の領域に設けられる第2の接続部材58と、を備える。
ここで、図5及び図6を参照して、中間ホルダ4の構成について、更に詳細に説明する。前側規制部材43の貫通部51は、前側規制部材43を構成する板材に対して下端面43dから上方へ延びるような逆U字状の切欠きを形成することによって、構成される。具体的には、貫通部51は、軸線CLより上側の領域に形成されて当該軸線CLを中心線とする半円状の内周面51aと、当該内周面51aのX軸方向における両端からZ軸負方向(下方)へ延びる側面51bを有している。側面51bは、前側規制部材43の下端面43dまで延びている。内周面51aの径は、張出部9の外周面9b及び張出部26の径よりも大きく、ターゲット基板10の径より小さい。側面51bは、張出部9の側面9cよりもX軸方向における外側に配置され、セットされた状態におけるターゲット基板10のX軸方向における端部より内側に配置される。
後側規制部材44の貫通部52も、Y軸方向から見て貫通部51と同一形状の内周面52a及び側面52bを有する。ただし、後側規制部材44は下端側に連結部47を有しているため、貫通部52は、連結部47の上端側に形成され、両側の側面52bの下端同士を連結する下面52cを有する。下面52cは、本体部2の張出部9の下面9dよりも下側に配置される。以上のような構成により、張出部9,26は、貫通部51,52の内側の領域に設けられる構成となるため、張出部9,26でターゲット基板10を挟持する際に、当該張出部9,26と規制部材43,44とは干渉しない。一方、貫通部51,52はターゲット基板10よりも径が小さい部分を有するため、規制部材43,44は、貫通部51,52に沿った縁部でターゲット基板10のY軸方向の移動を規制することができる。なお、規制部材43,44のX軸負方向側の端部には、前面フランジ3用のガイドバー42と干渉しないように、切欠き50が形成されている。
第1の接続部材57は、前側規制部材43の下端面43d付近(X軸正方向側の下端面43d)の一部に設けられる。第1の接続部材57の上端側には、X軸正方向へ向かうに従って上方へ向かうように傾斜する傾斜面57aが形成されている。また、第1の接続部材57のX軸負方向における端部側には、傾斜面57aからZ軸負方向(下方)に延びる側面57bが形成されている。第2の接続部材58は、規制部材43,44のX軸負方向側の領域における外周縁の略全域に設けられる。第2の接続部材58の内周側には、X軸負方向に向かって順番に、傾斜面57aと平行となるように傾斜する傾斜面58aと、軸線CLを中心線としてターゲット基板10より大きな径の円弧を描く円弧面58bと、円弧面58bのX軸負方向における端部からZ軸負方向(下方)に延びる側面58cと、が形成されている。
このような接続部材57,58の構成により、規制部材43,44との間の空間において接続部材57,58が設けられていない領域には、ターゲット基板10を配置するためのターゲット基板配置部53と、当該ターゲット基板配置部53へターゲット基板10を挿入するための挿入部54と、ターゲット基板配置部53からターゲット基板10を排出する排出部56と、が形成される。
ターゲット基板配置部53は、軸線CL周りの空間によって構成される。なお、中間ホルダ4を本体部2に近接させた図5の状態においては、ターゲット基板配置部53の下側には、張出部9から突出した顎部20が設けられる(なお、図5には、顎部20に該当する部分に梨地模様を付している)。当該顎部20の上面20aは、軸線CLを中心線としてターゲット基板10と同径の円弧面となっている。また、円弧面58b及び側面58cは、挿入部54から挿入されて来たターゲット基板10を受け止めて、ターゲット基板配置部53に配置することができる。従って、ターゲット基板配置部53に挿入されたターゲット基板10は、下側面を顎部20の上面20aに支持されると共に位置決めされる。
挿入部54は、第1の接続部材57の傾斜面57aと第2の接続部材58の傾斜面58aとの間の空間によって構成される。傾斜面57aと傾斜面58aとの間にはターゲット基板10を挿入可能な大きさの隙間が確保されている。挿入部54は、規制部材43,44のX軸正方向側の外周部において開口しているため、ターゲット基板10は当該開口部分から挿入部54に挿入される。挿入部54に挿入されたターゲット基板10は、第2の接続部材57の傾斜面57a上を斜め下側へ向かって転がることによって、ターゲット基板配置部53へ導かれる。なお、顎部20の上面20aのX軸正方向側の一部は、傾斜面57aに連続するような傾斜面となっている。これによって、ターゲット基板10がスムーズにターゲット基板配置部53へ導かれる。このように、X軸方向からターゲット基板10を挿入可能であるため、上側に設けられる駆動部6(図1〜図4参照)と干渉することなくターゲット基板10をセットすることができる。なお、駆動部6,7の配置に基づいてターゲット基板10の挿入方向を変更してもよく、例えば駆動部6が上側に設けられていない場合は、上方からターゲット基板10を挿入可能な挿入部を設けてもよい。
排出部56は、第1の接続部材57の側面57bと第2の接続部材58の側面58cとの間の空間によって構成される。側面57bと側面58cとの間にはターゲット基板10を排出可能な大きさの隙間が確保されている。排出部56は、前側規制部材43の下端側の外周部において開口しているため、ターゲット基板10は排出部56を通過して当該開口部分から中間ホルダ4の外側へ排出される。また、連結部47のX軸方向の両端部には、ガイド部材63,64が設けられている。ガイド部材63の内側の側面63aは、側面57bと連続するようにZ軸負方向(下方)に延びている。ガイド部材64の内側の側面64aは、側面58cと連続するようにZ軸負方向(下方)に延びている。
中間ホルダ4が本体部2に近接した状態(図5に示す状態)では、排出部56には顎部20が配置されている。従って、ターゲット基板10は排出部56から排出されることなく顎部20の上面20aで支持される。一方、中間ホルダ4が本体部2から離間するように移動し、排出部56から顎部20が除かれた状態(図6に示す状態)では、顎部20による支持が解除されてターゲット基板10は、排出部56の側面57b,58c及びガイド部材63,64の側面63a,64aにガイドされながら落下する。
図2に示すように、駆動部7は、Y軸方向にスライドするスライド部材66と、スライド部材66をガイドするガイド部材67と、スライド部材66を駆動させるエアシリンダ68と、を備えている。ガイド部材67は、Y軸方向に延びて、本体部2の下平面2d上に固定される部材である。スライド部材66は、ガイド部材67の下面側でY軸方向に延びており、前端部で上方に屈曲する屈曲部66aを有する。スライド部材66は、屈曲部66aにて中間ホルダ4の連結部47と連結される。また、ガイド部材67内にはエアシリンダ68が設けられており、ガイド部材67の前端面からエアシリンダ68のロッドが延びている。当該ロッドの前端はスライド部材66の屈曲部66aに固定されている。エアシリンダ68は、X軸方向に並ぶように一対設けられている。一対のエアシリンダ68を用いることにより、中間ホルダ4をバランス良く往復移動させることができる。ガイド部材67の後端面には、エアシリンダ68にエアを供給する供給管71が接続されている。なお、中間ホルダ4の後側規制部材44のX軸負方向における端部付近には、Y軸負方向へ延びて本体部2内へ挿入されるガイドバー61が固定されている(図4及び図5参照)。このような構成により、エアシリンダ68が伸縮することによってスライド部材66がガイド部材67にガイドされながらY軸方向に往復移動を行い、それに伴って中間ホルダ4も往復移動を行う。
次に、放射性同位元素製造装置100の動作手順について説明する。
まず、放射性同位元素製造装置100が図3に示す状態となっているときから動作手順の説明を行う。このとき、中間ホルダ4は本体部2に近接した状態となっており、前面フランジ3は本体部2及び中間ホルダ4から離間した状態となっている。本体部2の張出部9の顎部20は、中間ホルダ4の下側を塞いだ状態となる。ターゲット基板10は、中間ホルダ4の挿入部54から挿入される。これによって、図5に示すように、ターゲット基板10は挿入部54に導かれると共に、顎部20の上面20aに支持されることによって、ターゲット基板配置部53に配置される。当該状態では、ターゲット基板10は中間ホルダ4の規制部材43,44によってY軸方向の移動が規制されている。なお、X軸方向及びZ軸方向についてのターゲット基板10の位置決めは、完了した状態となっている。
次に、駆動部6の駆動により前面フランジ3がY軸負方向へ移動することによって、放射性同位元素製造装置100は図1及び図2に示す状態となる。このとき、ターゲット基板10は、本体部2の張出部9と前面フランジ3の張出部26とに挟持されることによって、Y軸方向についての位置決めが完了する。また、封止部材12がターゲット基板10の裏面10bに押圧され、封止部材33がターゲット基板10の表面10aに押圧される。当該状態における放射性同位元素製造装置100全体を移動させることによって、粒子加速器に取り付ける。このとき、前面フランジ3の前面3aを粒子加速器側の受面に押圧することにより、当該受面に封止部材34を押圧する。取り付けが完了したら、ターゲット基板10のターゲット材料11に荷電粒子線Bが照射されると共に、ターゲット基板10の裏面10bが冷却水で冷却される。
照射及び冷却が終了したら、放射性同位元素製造装置100を粒子加速器から離間させる。また、前面フランジ3をY軸正方向へ移動させることによって、放射性同位元素製造装置100は図3に示す状態となる(ただし、図3ではターゲット基板10は省略されている)。このとき、ターゲット基板10は中間ホルダ4の前側規制部材43によってY軸正方向への移動が規制され、前面フランジ3は駆動部6の機械力でY軸正方向へ移動する。従って、前面フランジ3の封止部材33がターゲット基板10に張り付いていた場合であっても、容易に剥がすことができる。
次に、中間ホルダ4をY軸正方向へ移動させて本体部2から離間させることにより、放射性同位元素製造装置100は図4に示す状態となる。このとき、ターゲット基板10は中間ホルダ4の後側規制部材44によってY軸負方向への(相対的な)移動が規制され、中間ホルダ4は駆動部7の機械力でY軸正方向へ移動する。従って、本体部2の封止部材12がターゲット基板10に張り付いていた場合であっても、容易に剥がすことができる。
また、図4に示すように、本体部2の張出部9の顎部20は、中間ホルダ4の下側から引き抜かれた状態となる。従って、図6に示すように、ターゲット基板10は、ターゲット基板配置部53から排出部56を介して下方へ落下する。このとき、ターゲット基板10は封止部材33,12には張り付いていないため、スムーズに落下することができる。落下したターゲット基板10は、例えば図7に示すような回収部250で回収される。ターゲット基板10の排出が完了したら、中間ホルダ4をY軸負方向へ移動させることで図3に示す状態とする。以降、同様の手順が実行される。
次に、本実施形態に係る放射性同位元素製造装置100の作用・効果について説明する。
まず、図7及び図8を参照して、従来の放射性同位元素製造装置300について説明する。図7に示すように、放射性同位元素製造装置300は、粒子加速器200に対してターゲット基板10をセットするための本体部301を備えている。本体部301の前面301aには、粒子加速器200の受面201aに押圧される封止部材(Oリング)303と、ターゲット基板10を支持するための凹部302とが形成されている。当該凹部302には、ターゲット基板10に押圧される封止部材304,305が設けられている。また、封止部材304と封止部材305の間の領域には、空気を吸引・供給することのできる配管306が連通されている。ターゲット基板10をセットする際は、ターゲット基板10を凹部302に取り付けて吸引することで保持し、粒子加速器200のマニホールド201の受面201aと本体部301の前面301aとの間でターゲット基板10を挟持する。また、ターゲット基板10の排出時は、配管306で高圧の空気を供給することにより、ターゲット基板10を凹部302から排出する。
しかしながら、熱や放射線等の影響によってターゲット基板10に押圧される封止部材304,305が劣化していると、当該封止部材304,305に粘りが発生する。これによって、ターゲット基板10が封止部材304,305に張り付いてしまう。当該状態で高圧の空気の供給を行っても、封止部材304,305とターゲット基板10の当り面の一部で剥がれ、当該一部で空気が抜けることによって、ターゲット基板10全体を剥がすことができない場合がある。具体的には、図8に示すように、ターゲット基板10の裏面10bは、封止部材304による当り面E1と封止部材305による当り面E2を有する。当り面E1と当り面E2との間の領域に高圧の空気が供給されることで、例えば、剥がれ位置P1のみにて封止部材304が剥がれたものとする。この場合、剥がれ位置P1から空気が逃げてしまうことにより、他の部分においては、張り付きを剥がすのに十分な圧力が得られない。高圧の空気の供給でターゲット基板10を排出できない場合は、作業者の手作業によってターゲット基板10を剥がす必要がある。以上によって、ターゲット基板10を放射性同位元素製造装置300から自動的に排出することができない場合がある。
一方、本実施形態に係る放射性同位元素製造装置100は、ターゲット基板10を冷却する本体部2と、ターゲット基板10を押圧する前面フランジ3との間に中間ホルダ4を備えている。また、中間ホルダ4は、前面フランジ3の移動方向(Y軸方向)におけるターゲット基板10の移動を規制することができる。本実施形態に係る放射性同位元素製造装置100では、前面フランジ3がターゲット基板10をY軸方向に押圧することによって、ターゲット基板10に本体部2側の封止部材12及び前面フランジ3側の封止部材33が張り付く場合がある。このような場合であっても、中間ホルダ4でターゲット基板10の移動を規制した状態で、本体部2と中間ホルダ4とを離間させることで、封止部材12をターゲット基板10の裏面10bから容易に剥がすことができる。また、前面フランジ3と中間ホルダ4とを離間させることで、封止部材33をターゲット基板10の表面10aから容易に剥がすことができる。以上によって、ターゲット基板10の排出性能を向上できる。また、排出性能を向上させることにより、作業者が手作業でターゲット基板10を剥がす必要性を無くすことができるため、ターゲット基板10の排出工程の自動化をより確実にすることができる。
本実施形態に係る放射性同位元素製造装置100において、本体部2には、ターゲット基板10の下側面を支持する顎部20が設けられている。例えば、ターゲット基板10の下側面を支持し、排出時に当該支持を解除するような機構を、中間ホルダ4自体に設けた場合、中間ホルダ4の構造が複雑になる。また、ターゲット基板10の支持を解除する動作が別途必要となる。一方、本体部2に顎部20を設けた場合、ターゲット基板10の排出時には、中間ホルダ4と本体部2とを離間させることで、顎部20によるターゲット基板10の支持が解除され、ターゲット基板10を落下させて排出することができる。すなわち、封止部材12をターゲット基板10から剥がす動作と、ターゲット基板10の支持を解除する動作とを同時に行うことができる。これによって、効率よくターゲット基板10を排出することができる。また、ターゲット基板10排出のための構造をシンプルにすることができる。
本実施形態に係る放射性同位元素製造装置100において、中間ホルダ4は、前面フランジ3の移動方向(Y軸方向)に対向する一対の規制部材43,44と、一対の規制部材43,44を接続する接続部46と、を備えている。また、中間ホルダ4は、ターゲット基板10を排出可能な排出部56を下側に有している。規制部材43,44でターゲット基板10を挟み込むことでY軸方向の移動を規制することができ、排出時は排出部56からターゲット基板10を排出することができる。これによって、シンプルな構造にてターゲット基板10の排出性能を向上することができる。
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
例えば、前面フランジ3、中間ホルダ4及び本体部2の形状は上述のものに限定されず、本発明の作用・効果を奏する限りあらゆる形状を採用してもよい。
例えば、駆動部6,7ではそれぞれ一対のエアシリンダ38,68を用いたが、一本でもよく三本以上でもよい。また、駆動部6,7の位置も特に限定されず、X軸方向における端部に設けてもよい。また、中間ホルダ4用の駆動部7も上側に設けてよい。また、上述の実施形態に係る駆動部6,7では、駆動力を発生するものとしてエアシリンダを採用したが、前面フランジ3及び中間ホルダ4を移動させることができるものであれば特に限定されず、ボールねじ、リニアモータ、油圧シリンダ、歯付ベルトなどを採用してもよい。
また、上述の実施形態では本体部2に顎部20が設けられていたが、前面フランジ3に設けてもよい。この場合、荷電粒子線Bの照射後は、前面フランジ3と中間ホルダ4を同時に本体部2から離間させる。その後、前面フランジ3と中間ホルダ4とを離間させることで、顎部による支持を解除してターゲット基板10を排出する。また、本体部2と前面フランジ3の両方に顎部を設けてもよい。
また、本体部2や前面フランジ3に設けた顎部によって中間ホルダ4内のターゲット基板10を支持する構造に代えて、中間ホルダ4自体がターゲット基板10の支持機構を有していてもよい。
また、中間ホルダ4は、一対の規制部材及びそれらを接続する接続部によって構成されていなくともよく、前面フランジ3の移動方向におけるターゲット基板10の移動を規制できる構造であればよい。例えば、図9に示すように、中間ホルダ4の内側にU字状やV字状の溝を設け、当該溝でターゲット基板10の縁部を点支持する構成を採用してもよい。これにより、ターゲット基板10のY軸方向の移動を規制することができる。