JP6029104B2 - 根圏温度制御によるトルコギキョウの葉先枯れ症抑制方法 - Google Patents
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Description
トルコギキョウ(別名:ユーストマ、リシアンサス)は周年需要があり、生産者にとっても収益性の高い品目の生花である。
ここで、トルコギキョウは、自然状態では長日条件で開花が促され、春に開花する植物であるため、春出しのトルコギキョウでは高い品質のものを生産することが比較的容易である。一方、秋から冬はトルコギキョウの開花期ではない。そのため、秋出しのトルコギキョウでは、婚礼業務のための高品質な切り花が必要とされ、高い経済性が期待される。
葉先枯れ症は、花芽分化時にカルシウムが欠乏した状態であると発生する生理障害と考えられていた。そこで、葉先枯れ症発生時や発生前に、カルシウム資材を葉面に散布する方法が行われていた(例えば、非特許文献1 参照)。
しかし、当該方法は、葉先枯れ症の発生の可能性のある植物個体にカルシウム資材の散布を一定期間の間毎週行うことが必要であるため、原理的に栽培している全個体の葉先枯れ症を抑制することが困難な方法であった。また、資材費が高価であることに加えてカルシウムを高濃度で散布する必要があるため、コストの点での課題が指摘されていた。また、散布する栽培者に多くの労力を課す方法でもあった。このため、当該方法は、生産業者においては、現実的に有用な葉先枯れ症抑制方法とは認められなかった。
しかし、これらの抑制技術は、原理的に生育量の減少や収穫に要する期間が長くなるなどの、品質や収穫効率に悪影響を及ぼすデメリットを包含する技術であった。さらに、送風による抑制技術では、栽培している全ての個体に好適条件の風をあてることが困難であり、栽培中の全個体の葉先枯れ症を抑制することは原理的に極めて困難であると認められていた。
[請求項1]に係る本発明は、気温が20℃を超える条件にてユーストマ属植物の栽培を行うにあたり、花芽分化期における根圏温度を実質的に10〜20℃に維持する根圏低温処理を行うことを特徴とする、ユーストマ属植物における葉先枯れ症の抑制方法に関するものである。
[請求項2]に係る本発明は、前記根圏低温処理が、草丈7〜20cmに達した時から14日以上行うものである、請求項1に記載の葉先枯れ症の抑制方法に関するものである。
[請求項3]に係る本発明は、前記低温処理を36日以内で行うものである、請求項2に記載の葉先枯れ症の抑制方法に関するものである。
[請求項4]に係る本発明は、前記根圏低温処理が、根圏温度を実質的に13〜20℃に維持するものである、請求項1〜4のいずれかに記載の葉先枯れ症の抑制方法に関するものである。
[請求項5]に係る本発明は、苗の定植から前記根圏低温処理を行うまでの根圏温度を、実質的に23〜32℃に維持することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の葉先枯れ症の抑制方法に関するものである。
[請求項6]に係る本発明は、前記根圏低温処理後の根圏温度を、実質的に18〜28℃に維持することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の栽培方法に関するものである。
[請求項7]に係る本発明は、前記根圏温度の維持が、水耕栽培又は養液栽培における養液の水温調整により制御して行うものである、請求項1〜6のいずれかに記載の葉先枯れ症の抑制方法に関するものである。
[請求項8]に係る本発明は、前記ユーストマ属植物がトルコギキョウである、請求項1〜7のいずれかに記載の葉先枯れ症の抑制方法に関するものである。
[請求項9]に係る本発明は、請求項1〜8のいずれかに記載の方法を用いて葉先枯れ症を抑制することを特徴とする、ユーストマ属植物の栽培方法に関するものである。
[請求項10]に係る本発明は、請求項9に記載の方法を用いて栽培することにより、葉先枯れ症が抑制された発蕾又は開花植物体を得、土壌を充填した容器に定植した状態にすることを特徴とする、容器植えユーストマ属植物の生産方法に関するものである。
[請求項11]に係る本発明は、請求項9に記載の方法を用いて栽培することにより、葉先枯れ症が抑制された発蕾又は開花植物体を得、花茎又は花茎を含む地上部を切断して収穫することを特徴とする、ユーストマ属植物の切り花の生産方法に関するものである。
[請求項12]に係る本発明は、請求項11に記載の方法により生産した切り花を用いることを特徴とする、切り花加工品の生産方法に関するものである。
これにより、本発明は、葉先枯れ症が発生しやすい環境の栽培においても、高品質のトルコギキョウを効率良く栽培することを可能とする。また、本発明は、経済性の高いトルコギキョウの切り花や容器植えを、効率良く生産することを可能とする。
本発明は、ユーストマ属植物の葉先枯れ症の発生を顕著に抑制する方法に関する。ユーストマ属植物(Eustoma)とは、リンドウ科に属する一年生草本であり、野生種としてはE. grandiforum(ユーストマ・グランディフロラム)、E. exaltatum(ユーストマ・エグザルタトゥム)の2種が知られている。アメリカ大陸北部からメキシコ北部にかけて分布する。いずれの種も、自然状態ではロゼット状態で越冬し、長日条件で開花が促され春〜初夏に開花する性質を有する。
本発明は、トルコギキョウの如何なる品種に対しても施用可能な技術である。ここで、トルコギキョウの品種としては、例えば、ボヤージュピンク、レイナホワイト、ピッコローサスノー、セレブピンク、ボレロホワイト、コレゾライトピンク、ミンク、雪てまり、マリアホワイト、エンゲージイエロー、マイテレディ、ポーラスホワイト等を挙げることができる。本発明は、特に葉先枯れ症が発生しやすい品種(ボヤージュピンク等)に対して有用な技術である。
本発明におけるユーストマ属植物の栽培においては、生育段階によって初期生育と後期生育に分けることができる(図5 参照)。
発芽した苗は、本葉2〜3対で節間がほとんど伸長していない状態(自然状態ではこの状態で越冬する)となる。その後、苗は高温や長日条件により節間細胞が伸長して抽苔し、草丈が所定の大きさに至って花芽分化が起こる。花芽分化した花芽は発蕾の後開花に至る。
ここで、‘初期生育’とは、最初の花芽が花芽分化期に入るまでの栄養成長期の生育を指す。また、‘後期生育’とは、最初の花芽が花芽分化期に入った以降の生育段階を指す。即ち、花芽分化期、発蕾期、及び開花期を合わせた栽培後半の期間を指す。
本発明において、根圏温度を制御する手段としては、(A) 養液水温を調整して制御する手段、(B) 固形支持体下に温度制御機構を設けて制御する手段、などを挙げることができる。
本発明においては、これらの根圏温度制御手段のうち、大規模栽培でも容易に温度の均一化が可能であり、設備的にも低コストであるという観点から、(A)に記載の手段を採用することが好適である。特には、水耕栽培、最も好ましくはNFT水耕システム、を採用することが好適である。
ここで、水耕栽培としては、養液を循環させる方式を採用することが好適である。当該方式では、均一な水温制御を容易に行うことが可能であり、多数の植物個体の栽培が同時に可能となる。養液循環の手段としては、水中ポンプ、エアーポンプによるエアリフトなどを採用することができるが、特に、NFT水耕システムを採用することが最も好適である。
ここで、NFT水耕システムとは、チャンネルと呼ばれるわずかに勾配をつけたベッドの上方から培養液を流し、流落ちた養液を一旦タンクに貯めて、ポンプで汲み上げて再び循環させる方式の水耕栽培システムを指すものである。
また、水耕栽培としては、タンク、水槽、容器等に養液を張り、湛水状態にて水耕栽培する方法を採用することもできる。当該湛水式の水耕栽培は、栽培規模が小さい場合には温度が不均一になりにくいため、十分に採用可能な方法である。
当該方法は、栽培規模が小さい場合には適用が可能である。但し、規模が大きい場合には、温度の均一維持が難しい方法と認められる。
本発明の方法では、根圏温度を操作して花芽分化期の根圏温度を所定範囲の低温に維持することにより、葉先枯れ症を顕著に抑制することが可能となる。
本発明は、葉先枯れ症が発生する(特には、葉先枯れ頻発し発症度合が重度になる)環境条件にてユーストマ属植物を栽培する際に極めて有用な技術である。
ここで、‘葉先枯れ症’(別名:チップバーン, tipburn)とは、新葉や成長点など生理活性の高い部位のカルシウム濃度が相対的に不足することにより、新芽や成長点が枯死する生理障害を指す。症状の度合いにより、(i) 葉先端部が軽微に枯死する状態(葉先枯れ状態)と、(ii) より重度の主茎先端部が枯死した状態(芯枯れ状態)に分けることができる。
また、上記気温条件を充足した上で、さらに多湿条件が重なった場合、葉先枯れ症の発生頻度はさらに増加し、発症度合も重度になる。ここで、多湿条件としては、例えば、相対湿度が70%以上、特には80%以上、さらに特には90%以上、さらに特には95%以上を挙げることができる。
また、上記気温条件を充足した上で、高窒素条件(養液や肥料の窒素含量が高いものを施した条件)での栽培を行った場合にも、葉先枯れ症の発生頻度がさらに増加し、発症度合も重度になる。ここで高窒素条件とは、例えば、総窒素濃度5mM以上, 好ましくは7mM以上, より好ましくは9mM以上の養液又は液肥を用いて栽培する条件を指す。窒素濃度が高いほど葉先枯れ症の発生頻度はさらに増加し、発症度合も重度になる。
このような葉先枯れ症が頻発しやすい環境としては、具体的には、夏場のビニールハウスで肥料を多く施肥した環境を挙げることができる。
本発明の根圏低温処理は、花芽分化期をカバーするように行うことを特徴とする技術である。ここで、‘花芽分化期’とは、芽が栄養成長から生殖成長に切り変わって「最初の花芽」の分化形成が始まってから、発蕾に至る直前までの期間を指す(図5 参照)。ここでの花芽分化期という用語は、花芽単位ではなく個体単位で判断する生育段階を指す用語である。
栄養成長している個体が花芽分化期に入ったかどうかの指標としては、栽培状態の外観から直接判断することはできない。一方、組織学的に観察した場合には、萼片原基が形成された時期をもって判断できる。また、遺伝子発現を指標とした場合では、FT(Flowering Locus T)遺伝子、LFY(LEAFY)遺伝子、AP1(APETALA1)遺伝子等の花芽形成遺伝子の発現量が上昇する時期をもって判断することができる。
花芽分化が起こった花芽では、萼片、花弁、雄蕊及び雌蕊などの花器官の原基が形成される。花芽が約5mmに達すると肉眼での視認が可能となり外観から発蕾したと判定することができる。なお、胚珠や葯等の生殖器官が形成されるのは、発蕾に達した以降のステージである。
花芽分化が始まってから発蕾に至るまでの期間は10〜21日程度、通常の栽培条件では12〜18日程度である。
根圏低温処理は、10〜20℃の温度帯で実質的に維持して行うことが必要である。当該処理における根圏温度は、20℃以下で行う必要がある。好ましくは19℃以下、より好ましくは18℃以下を挙げることができる。根圏温度が高すぎる場合、葉先枯れを起こす個体の発生頻度が増加し、その症状も重度化する傾向が見られる。即ち、葉先枯れ症の抑制効果を十分に期待することができず好ましくない。
一方、当該処理温度の下限温度としては、10℃以上を挙げることができる。好ましくは11℃以上、より好ましくは12℃以上、さらに好ましくは13℃以上、さらに好ましくは14℃以上、さらに好ましくは15℃以上を挙げることができる。根圏温度が低すぎる場合、葉先枯れ症の発生を抑制することは可能であるが、低温による生育抑制の影響が強まるため好ましくない。具体的には、新葉の黄化や矮化する傾向が見られる。
これらを総合的に勘案すると、当該根圏低温処理は、好ましくは13〜20℃、より好ましくは15〜20℃、最も好ましくは15〜18℃で行うことが、葉先枯れ症の抑制と生育抑制の両方を回避できる点で好適である。
なお、ここで「実質的に維持して行う」とは、完全に当該温度帯を外れないことを意味するものではなく、例えば、若干の温度範囲(例えば、2℃以内, 好ましくは1℃以内)で、2日以内、好ましくは1日以内、であれば、当該温度帯に維持する条件を満たすことを意味する。
ユーストマ属植物では、ロゼット状態から抽苔による節間細胞の伸長成長が起こった後、草丈が約10〜18cm(±2cm)に達すると葉芽が花芽分化し始めることが経験的に知られている(非特許文献2 参照)。そこで、本発明では、草丈が7〜20cmに達した時に根圏低温処理を開始することで、最初の花芽が花芽分化に入る時期をカバーするように当該処理を行うことが可能となる。
ここで、草丈の上限としては、20cm以下、好ましくは18cm以下、さらに好ましくは16cm以下、さらに好ましくは14cm以下、さらに好ましくは12cm以下、さらに好ましくは11cm以下、さらに好ましくは10cm以下であることが好適である。草丈が大きくなり過ぎてから根圏低温処理を開始した場合処理開始時が遅すぎる傾向がある。即ち、植物個体の全部又は一部が花芽分化期に入ってしまい、葉先枯れ症の発生が十分に抑制することができず好ましくない。なお、早生の品種を対象とする場合は、花芽分化が早く起こる傾向があるため、好ましくは12cm以下、さらに好ましくは11cm以下、さらに好ましくは10cm以下であることが好適である。
一方、草丈の下限としては、7cm以上、好ましくは8cm以上であることが望ましい。草丈が下限より小さい時に根圏低温処理を開始した場合、葉先枯れ症の発生を抑制することは可能であるが、低温による生育抑制の影響がでるため好ましくない。
本発明における根圏低温処理を行う期間としては、最初の花芽が花芽分化する時期から発蕾に至る時期を含むようにして行うことが必要である。
ここで、通常のユーストマ属植物においては、最初の花芽が分化すると2番目以降の花芽も連続して起こるが、本発明においては最初の花芽分化のみに着目することが必要である。最初の花芽分化から発蕾までの時期(花芽分化期)にある当該植物体は、栄養成長から生殖成長に切り替わる生育段階にある。そのため、当該時期をカバーするように根圏低温処理を行うことで、葉先枯れ症の原因となる生理障害が回避できるためと推測される。
そのため、本発明においては、最初の花芽の発蕾以降の生育段階(花芽分化期が終了した生育段階)に関しては、必ずしも根圏低温処理を継続する必要はない。但し、根圏低温処理を継続した方が葉先枯れ症の抑制効率は若干向上する傾向は認められる。
特に根圏低温処理を18℃未満で行う場合には、低温による生育抑制の影響が大きくなる傾向があるため、当該期間の上限値を考慮することが特に重要となる。また、18℃未満での根圏低温処理後は、根圏温度を18℃以上にして栽培して生育量を回復させることが望ましい。
本発明においては、上記根圏低温処理を行うことによって、ユーストマ属植物の栽培における葉先枯れ症の発生を顕著に抑制することが可能となる。そのため、栽培植物体の‘品質’及び‘生産効率’を大幅に向上させることが可能となる。
これにより、葉先枯れ症が発生しやすい時期の栽培(春季や夏季から栽培開始して、秋季や冬季の出荷する栽培態様)においても、高品質なユーストマ属植物を効率的に栽培することが可能となる。
本発明においては、‘初期生育期間’及び/又は‘根圏低温処理後の後期生育期間’について中高温での根圏温度帯での栽培を行うことにより、生育量と生育速度をさらに向上させることが可能となる。即ち、生産効率をさらに向上させることが可能となる。
なお、本発明においては、これらの期間の生育で根圏温度が下記所定温度範囲を外れた場合であっても、生産効率の減少傾向が認められるものの、高品質のユーストマ属植物を効率良く生産することは十分に可能である。即ち、本発明では、これらの期間の生育において、根圏温度が下記所定温度範囲を外れて栽培する態様を除外するものではない。
本発明においては、初期生育(具体的には、苗の定植から前記低温根圏処理を行うまで)の根圏温度を、実質的に23〜32℃に維持して栽培することが好ましい。当該根圏温度は、23℃以上、好ましくは25℃以上、より好ましくは27℃以上、より好ましくは28℃以上、より好ましくは29℃以上にして栽培することが好適である。初期生育においては、根圏温度をこのような高温に設定した場合でも、葉先枯れ症の発生は起こらずに、生育量及び生育速度を向上させることが可能となる。
なお、上限温度としては、32℃以下、好ましくは31℃以下が好適である。当該根圏温度が高すぎる場合、生育全般に悪影響が出て好ましくないからである。
なお、ここで「実質的に維持して行う」とは、完全に当該温度帯を外れないことを意味するものではなく、例えば、若干の温度範囲(例えば、2℃以内, 好ましくは1℃以内)で、2日以内、好ましくは1日以内、であれば、当該温度帯に維持する条件を満たすことを意味する。
本発明においては、根圏低温処理後の後期生育の生育温度を、実質的に18〜28℃に維持して栽培することが好ましい。当該根圏温度は、18℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは23℃以上、より好ましくは24℃以上にして栽培することが好適である。根圏低温処理後の後期生育においては、根圏温度をこのような高温に設定した場合でも、葉先枯れ症の発生は起こりにくく生育量及び生育速度を向上させることができる。
なお、上限温度としては、28℃以下、好ましくは27℃以下、より好ましくは26℃以下が好適である。当該根圏温度が高すぎる場合、根の生育に悪影響が出て好ましくないからである。
ここで、当該温度範囲よりも高温で行った場合、葉先枯れ症の発生が増加するため好ましくない。また、根腐れが起こりやすくなり、根量が減少する点でも好ましくない。
なお、ここで「実質的に維持して行う」とは、完全に当該温度帯を外れないことを意味するものではなく、例えば、若干の温度範囲(例えば、2℃以内, 好ましくは1℃以内)で、2日以内、好ましくは1日以内、であれば、当該温度帯に維持する条件を満たすことを意味する。
本発明においては、‘初期生育期間’及び/又は‘根圏低温処理後の後期生育期間’について中高温での根圏温度帯での栽培を行うことにより、生育量及び生育速度を向上させることが可能となる。即ち、低温根圏処理における生育抑制を相殺する効果を得ることができる。特に、根圏低温処理を18℃未満の低温で行った場合において、好適な栽培条件と認められる。
特に、これら両方の期間(初期生育及び根圏低温処理後の後期生育)において、中高温根圏温度帯での生育を行うことで、生育量及び生育速度をさらに向上させることができる。例えば、図5に示す根圏温度制御での栽培を行った場合、約10〜16週という極めて短い栽培期間で、高品質のユーストマ属植物(トルコギキョウ)の周年栽培が可能となる。このような態様を採用した場合では、年間3作の高品質ユーストマ属植物(トルコギキョウ)の生産が可能となる。
なお、通常の自然状態でユーストマ属植物(トルコギキョウ)を栽培した場合は、9〜10月に種子を撒くと開花するのは翌年の7月である。
上記のように根圏温度を制御した葉先枯れ症の抑制技術を用いて、ユーストマ属植物を栽培することによって、高品質のユーストマ属植物を効率良く栽培することが可能とする。本発明では、具体的には、経済性が高いトルコギキョウを生産することが可能となるが、特にトルコギキョウの特定品種(例えば、八重フリンジ系の品種であるボヤージュピンク、ボヤージュホワイト、コサージュ等)においては、極めて経済性の高いものを生産することが可能となる。栽培後の出荷製品形態としては、容器植え、切り花、切り花加工品等を挙げることができる。
また、根圏低温処理を当該容器に定植した状態にて行った場合には、植物体が発蕾期又は開花期に入った状態で最終製品とすることができる。商品としては、花茎1本につき花1つ及び蕾1つをつけた状態の花茎の状態が望ましい。
トルコギキョウの栽培において、高気温条件や多肥条件が葉先枯れ症の発生を促すことが知られている。そこで、トルコギキョウの花芽分化期以降の生育において、根圏温度が葉先枯れ症発生に与える影響を検討した。
トルコギキョウ(ボヤージュピンク:葉先枯れ症が発生しやすい品種)の種子をセルトレーに詰めた育苗培土に播種し、十分に給水した後に10℃にて5週間の冷蔵処理を行った。その後、人工気象器内で12時間日長の光条件、明期28℃及び暗期18℃の気温条件にて栽培し、本葉2対が展開した苗を得た。
そして、PPFD 400μmol/m2・sの光強度12時間の明期、明期28℃及び暗期18℃の気温条件、;湿度 70%(RH)、;根圏温度(養液水温) 28℃、;の条件で、湛水環境での水耕栽培を4週間行った。
定植後4週間の栽培を行った株は、本葉6対が展開されたステージに達し(平均草丈8.5cmに達し)、葉先枯れ症が高発生する直前の生育ステージとなった。そこで、定植後4週経過後、上記(1)に記載の栽培条件の一部(根圏温度、養液窒素含量、気温条件)を表1に示す条件にした各処理区(1処理区あたり18個体)を設定し、さらに4週間の水耕栽培を行った。
栽培後の各処理区の生育状態を観察し、(A) 生育が正常な個体、(B) 葉先枯れ(葉先端部の軽微な枯死)を起こしている個体、(C) 芯枯れ(主茎先端部の枯死)を起こしている個体、の各処理区の個体頻度(%)を算出した。なお、(B)及び(C)と判定された個体は、葉先枯れ症(チップバーン)が発生している個体と判定される。結果を表1及び図1に示した。
それに対して、花芽分化期以降の根圏温度を低温(15℃)にした処理区では、高気温条件(処理区1-4)又は高窒素条件(処理区1-2)で栽培した場合でも、全て(100%)の個体が正常に生育していた。特に、高気温条件と高窒素の条件が重なった条件(処理区1-6)においても、大部分(82%)の個体が正常に生育し、芯枯れを起こした個体は1つも見られなかった。
以上の結果から、花芽分化期以降の根圏温度を低温に維持することによって、葉先枯れ症の発生を顕著に抑制できることが示された。また、葉先枯れ症が極めて発生しやすい高気温条件と高窒素の条件が重なった条件においても、大部分の株が健常に生育可能となることが示された。
トルコギキョウの花芽分化期以降の生育において、葉先枯れ症抑制に有効な根圏温度の範囲を検討した。
実施例1(1)に記載の方法と同様にして、トルコギキョウ(レイナホワイト)の本葉2対が展開した苗を定植して水耕栽培を4週間行い、花芽分化期に入る直前の株(平均草丈が約10cmに達した株)を準備した。
上記(1)で準備した株について、定植後5週目以降の根圏温度を表2に示す温度にした各処理区(1処理区あたり12個体)を設定し、さらに4週間の水耕栽培を行った。
栽培後の各処理区の生育状態を観察し、実施例1(3)に記載の方法と同様にして、(A) 生育が正常な個体、(B) 葉先枯れを起こしている個体、(C) 芯枯れを起こしている個体、の個体頻度(%)を算出した。結果を表2に示した。
それに対して、根圏温度を20℃に維持した場合では(処理区2-4)、芯枯れを起こした個体は僅か1割弱(8%)に激減し、半数弱(42%)もの個体が正常に生育していた。即ち、根圏温度20℃にすることで、葉先枯れ症の発生が顕著に防止されることが示された。
根圏温度を18℃に維持した場合では(処理区2-3)、芯枯れ個体の発生は全く見られず、7割強(75%)もの個体が正常に生育していた。
根圏温度を13℃に維持した場合では(処理区2-2)、葉先枯れ症の発生自体が全く起こらず、全ての個体を正常に生育していた。
根圏温度が10℃に維持した場合では(処理区2-1)、全ての個体で葉先枯れ症の発生は起こらなかった。但し、低温の影響に起因する新葉黄化傾向(下位葉は通常の緑化葉となる)が見られた。これは、根圏低温による肥料分の吸収力の低下に起因する現象と推測された。
以上の結果から、夏場で高窒素条件という極めて葉先枯れ症が発生しやすい環境においても、花芽分化期以降の根圏温度を20℃以下に維持して栽培することによって、葉先枯れ症の発生を顕著に抑制できることが示された。また、当該防止効果は、根圏温度を低くするにつれ顕著に奏される効果と認められた。
但し、根圏温度が低過ぎる条件(例えば10℃)で生育を継続すると、葉先枯れ症の発生は皆無となるものの、低温に起因する成長抑制の影響が見られた。この点、葉先枯れ症が栄養成長から生殖成長に切り替わる時の生理障害であることを踏まえると、全ての花芽が形成されて一定期間が経過した株(花芽分化期を完全に経過した株)については、根圏温度を上昇させた方が低温に起因する生育抑制が起こりにくいと推測された。
トルコギキョウの栽培において、根圏温度が初期生育に与える影響を検討した。
トルコギキョウ(ピッコローサスノー:早生八重品種)の種子を用いて、実施例1(1)に記載の方法と同様にして、本葉2対が展開した苗を得た。
養液の水温を表3に示す温度に設定し、上記栽培した苗を12苗ずつ発泡スチロール板に定植して水槽水面に設置した。
そして、自然光型人工気象室において、6〜18時が30℃及び17〜7時が25℃の気温条件、;湿度自然状態、;根圏温度(養液水温)が表3に示す各温度、;の条件で、湛水環境での水耕栽培を23日間行った。
栽培後、処理区ごとの生育量を評価した。具体的には、第4葉身長(mm)を計測し平均値を求めることで評価した。結果を表3に示した。
一方、根圏温度を30℃より低温にした場合、根圏温度が低くなるにつれて、第4身長が小さくなり、生育量が小さくなる傾向があることが示された(処理区3-1〜3-3)。
また、根圏温度を35℃にした場合、根圏温度30℃よりも第4身長が小さくなることを目視にて確認した(処理区3-4, 3-5)。
なお、いずれの処理区においても、葉先枯れ症の発生は確認されなかった。
これらの結果から、トルコギキョウの初期生育においては、根圏温度を25〜30℃付近に調整して栽培することが好適であると判断された。なお、初期生育においては、根圏温度を高く設定しても、葉先枯れ症の発生に影響しないことが示された。
トルコギキョウの栽培において、根圏温度が花芽分化期以降の生育に与える影響を検討した。
実施例3で初期生育した各処理区(処理区3-1〜3-5)の株(ピッコローサスノーの花芽分化期に入る直前の株)について、そのまま栽培を継続し、定植後9週間が経過するまで同条件にて水耕栽培を行った(それぞれを処理区4-1〜4-5とした。)。
栽培後、処理区ごとの茎葉及び根の生育状態について目視にて観察し評価を行った。図4に花芽分化期以降の根圏温度15℃(処理区4-1)、根圏温度20℃(処理区4-2)、根圏温度25℃(処理区4-3)、根圏温度30℃(処理区4-4)の生育における平均的な個体の草姿を対比し写真像図として示した。
根圏温度25℃(処理区4-3)で栽培を継続した場合では、茎葉の生育量および根の生育量ともに極めて良好であった。但し、芯枯れによる分枝と草姿の乱れが若干見られた。
根圏温度20℃(処理区4-2)で栽培を継続した場合、芯枯れによる分枝は全くおこらず綺麗な草姿となった。茎葉量は30℃の場合に比べて減少したが、商品としては十分な生育状態と認められた。
また、根圏温度35℃(処理区4-5)で栽培を継続した場合、根量が著しく少なくなり褐変も悪化することを目視にて観察された。
以上の結果から、葉先枯れ症抑制効果には注目せずに‘茎葉及び根の生育量’という観点だけから判断すると、トルコギキョウの花芽分化期以降の生育量は、根圏温度20〜25℃付近(特に25℃付近)で栽培することが好適であると判断された。
実施例1〜4での試験結果を総括する。
トルコギキョウの生育において、苗の定植から花芽分化期に至る前までの初期生育においては、根圏温度を25〜30℃付近(境界温度の±を考慮すると23〜32℃)に維持して栽培することによって、茎葉と根の生育量を十分に増加し好適であることが示された。
花芽分化期に至る直前から当該期間を経過するまでの生育段階について、根圏温度を低温(10〜20℃)に維持することによって、葉先枯れ症の発生を顕著に抑制できることが示された。
花芽分化期が完全に経過した後の生育段階においては、根圏温度を20〜25℃付近(境界温度の±を考慮すると18〜28℃)に維持することによって、葉先枯れ症を抑制しつつ茎葉と根の生育量を増加し好適であることが示された。
葉先枯れ症の発生しやすい秋出し栽培において、葉先枯れ症の抑制された高品質トルコギキョウの切り花の生産を行った。
トルコギキョウ(品種ボヤージュホワイト:早生種)の種子を用いて、実施例1(1)に記載の方法と同様にして、本葉4対が展開した大苗(200株)を得た。
ガラス温室内に設置した長さ3m、幅0.6mのNFT水耕装置2台を使用し、8月下旬に当該大苗を定植し、養液水温(根圏温度)30℃で自然日長にて初期生育を行った。養液としては実施例1(1)で用いた組成の養液を用いてECを100〜150 ms/mとし、ポンプを用いてNFTベッド内を循環させた。
定植後25日間、根圏温度30℃で生長を促進させ、草丈約10cmに達した株を得た。
花芽分化期以降の生育について、100株を根圏温度20℃(実施区)に3週間維持して栽培を行うことにより葉先枯れ症発生の抑制を図った。その後、根圏温度25℃にして栽培を継続した。なお、定植後平均で29日が経過した日には平均発蕾日となった。発蕾後においては、主茎頂花と一次小花の蕾を摘蕾することで、切り花長の確保と複数輪の同時開花を促した。蕾及び花の数については、分枝1本につき花1輪と蕾1つとなるように芽整理して仕立てた。なお、定植から72日が経過した日が平均開花日であった。
対照として、残りの100株を花芽分化期以後の根圏温度を30℃(対照区)に3週間維持し、その後25℃にして栽培を継続した。
実施区及び対照区ともに、11月中下旬に切り花長70cm以上のトルコギキョウの切り花を収穫することができた。なお、栽培に要した期間は、NFT水耕装置への定植から収穫までわずか約3ヵ月(81日)という短期間であった。
収穫時の各項目の測定値及び観察結果を算出し表4に示した。なお、各数値は100個体の平均値で示し、対照区に対して有意水準がある項目は「*」を記した。また、整切り花重は、切り花として整えて切り花とした時の重量を指す。総蕾数とは、収穫するまでに発蕾した蕾の数を指す。
従って、本発明は、トルコギキョウの栽培現場において、栽培業者にとって極めて有効に利用できる技術となることが期待される。
2: 分枝伸長した側芽
3: 芯止まりにより枯死した頂芽
Claims (12)
- 気温が20℃を超える条件にてユーストマ属植物の栽培を行うにあたり、花芽分化期における根圏温度を実質的に10〜20℃に維持する根圏低温処理を行うことを特徴とする、ユーストマ属植物における葉先枯れ症の抑制方法。
- 前記根圏低温処理が、草丈7〜20cmに達した時から14日以上行うものである、請求項1に記載の葉先枯れ症の抑制方法。
- 前記低温処理を36日以内で行うものである、請求項2に記載の葉先枯れ症の抑制方法。
- 前記根圏低温処理が、根圏温度を実質的に13〜20℃に維持するものである、請求項1〜4のいずれかに記載の葉先枯れ症の抑制方法。
- 苗の定植から前記根圏低温処理を行うまでの根圏温度を、実質的に23〜32℃に維持することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の葉先枯れ症の抑制方法。
- 前記根圏低温処理後の根圏温度を、実質的に18〜28℃に維持することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の栽培方法。
- 前記根圏温度の維持が、水耕栽培又は養液栽培における養液の水温調整により制御して行うものである、請求項1〜6のいずれかに記載の葉先枯れ症の抑制方法。
- 前記ユーストマ属植物がトルコギキョウである、請求項1〜7のいずれかに記載の葉先枯れ症の抑制方法。
- 請求項1〜8のいずれかに記載の方法を用いて葉先枯れ症を抑制することを特徴とする、ユーストマ属植物の栽培方法。
- 請求項9に記載の方法を用いて栽培することにより、葉先枯れ症が抑制された発蕾又は開花植物体を得、土壌を充填した容器に定植した状態にすることを特徴とする、容器植えユーストマ属植物の生産方法。
- 請求項9に記載の方法を用いて栽培することにより、葉先枯れ症が抑制された発蕾又は開花植物体を得、花茎又は花茎を含む地上部を切断して収穫することを特徴とする、ユーストマ属植物の切り花の生産方法。
- 請求項11に記載の方法により生産した切り花を用いることを特徴とする、切り花加工品の生産方法。
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