JP6026715B2 - iNOSの発現制御作用を有する組成物 - Google Patents

iNOSの発現制御作用を有する組成物 Download PDF

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Description

本発明は、iNOS(誘導型一酸化窒素合成酵素;inducible nitric oxide synthase)の発現制御を目的とする担子菌培養物由来の組成物に関する。
生体内における一酸化窒素(NO)は、マクロファージ、血管内皮細胞、神経領域等各所から産生するとされ、その作用としては殺菌作用、血管弛緩作用、あるいは神経情報伝達物質としても作用している。
一酸化窒素が産生する際に介在しているのが、一酸化窒素合成酵素(NOS;nitric oxide synthase)であり、NOSは体内の作動場所により誘導型NOS(iNOS;inducible NOS)、神経型NOS(nNOS;neuronal NOS)、及び血管内皮型NOS(eNOS;endothelial NOS)の3つに分類され、特にiNOSによるNO産生はその他のNO合成システムである神経型NOS及び血管内皮型NOSに比較すると、長時間その活性が持続し、より多量のNO(1μM以上)が産生されることが知られている。
iNOSは主に、マクロファージ、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、消化管上皮細胞、気管支上皮細胞、肝細胞、ミクログリア細胞等において、細胞毒素や感染や炎症性病巣で産生されるIL−1β(Interleukin - 1β)、TNF−α(Tumor Necrosis Factor - α)、IFN−γ(Interferon - γ)等の炎症性サイトカインの攻撃をうけて発現し、NOを産生する。過剰に生成するNOは、生体の感染防御反応での主要な炎症性メディエーターとして機能している。
iNOSの発現は、炎症反応や細菌、真菌、ウイルス、原虫など多様な病原体の感染に伴いもたらされる。例えば、グラム陰性菌の普遍的な構成成分であるリポポリサッカライド(LPS)やグラム陽性菌の細胞壁の成分であるリポタイコ酸(LTA)の刺激により、あるいは炎症性サイトカインの間接的な産生誘導を介して、iNOSの誘導がもたらされることが知られている。また最近では、各種ウイルスの生体内増殖でも、NO合成の亢進が明らかにされており、この場合のiNOSの誘導は、主にIL−1β、IFN−γなどの炎症性サイトカインの産生を介していることが分かっている。
iNOS由来のNOは殺菌、抗ウイルス、抗寄生虫、抗腫瘍作用を示し、生体系の生命維持においてなくてはならない存在である。しかし一方、炎症反応等によってiNOSが活性化され過剰なNOを産生すると、活性酸素と反応して生じた強いパーオキシナイトライト(ペルオキシ亜硝酸、過酸化亜硝酸)はDNAを損傷し、突然変異や発がんを惹起する等の負の作用が起こる。
種々の要因によりiNOSが過剰に発現し、過剰なNOを産生することにより、毒性ショックやある種のサイトカインによる治療等による全身性血圧低下、血圧応答低下、自己免疫疾患、炎症、関節炎、リウマチ性関節炎、糖尿病、炎症性腸疾患、血管機能不全、病因性血管拡張、組織損傷、心臓血管系虚血、痛感過敏症、脳虚血、悪液質、がん等の種々の疾病を引き起こすことが明らかになっている。
従って、iNOSの発現を制御することは生体防御やNOの過剰産生が関与する疾患、例えば、発がんや炎症性疾患、細菌感染等によるエンドトキシンショックなどの治療・予防の面において非常に重要である。
従来、RNAi(RNA干渉:RNA interference)と呼ばれる、二本鎖のRNAで標的となるmRNAを切断して転写を抑制する方法が知られているが、通常RNAiは20塩基対程度の塩基長であり(特許文献1:特開2005−13224号公報)、その二本鎖オリゴヌクレオチド及びそのアンチセンスRNAのスクリーニング方法が開示されている。また、小核酸分子、例えば短干渉核酸(siNA)、短干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、マイクロRNA(miRNA)、および短ヘアピンRNA(shRNA)分子を用いるRNA干渉(RNAi)により、インターロイキン遺伝子、インターロイキンスーパーファミリー遺伝子、または遺伝子発現および/または活性のインターロイキン経路に関与する遺伝子の発現及び活性を調節するのに有用な化合物に関して開示されている(特許文献2:特開2005−524393号公報)。
細胞内にアンチセンスRNAが存在すると、それと相補的なmRNAとハイブリダイズし、mRNAからタンパク質への翻訳が阻害されるために遺伝子の発現を阻害することができる。人為的にアンチセンスRNAを細胞内に導入すれば、ターゲット遺伝子の発現を阻害することができるので、現在、遺伝子の機能を解明する技術として使われており、医薬品への応用も検討されている。iNOS遺伝子に関してはこれまで、アンチセンスRNAの存在は確認されていなかった。また、これまで、mRNAからの転写に際してmRNAの安定化に寄与しているタンパク質の存在が示唆されていた(非特許文献1:Eur. J. Pharmacol. 500: 255-266 (2004))が、その詳細については不明であり、iNOSの発現制御に関しては不明な点が多かった。
特開2005−13224号公報 特開2005−524393号公報 Eur. J. Pharmacol. 500: 255-266 (2004)
本発明は、iNOS(誘導型一酸化窒素合成酵素;inducible nitric oxide synthase)の発現制御を目的とする担子菌培養物由来の組成物を提供する。
本発明者らは、iNOSの発現制御に関して鋭意研究を重ねた結果、細胞内において、mRNAに相補的な配列を持つ一本鎖RNA(アンチセンス転写物(アンチセンストランスクリプト))が存在し、それが従来のアンチセンスRNAとは異なり、mRNAの安定化に寄与しているケースがあることを見出し、さらに、この一本鎖RNA(アンチセンス転写物)に相補的な配列を持つセンスオリゴヌクレオチドを用いて、アンチセンス転写物にハイブリダイズしてそのはたらきを抑制することでmRNAの安定性に干渉し、その結果iNOSの発現を抑制し、NOの過剰産生を抑制する方法を見出し、同日付けで特許出願している。
本発明者らはまた、担子菌菌糸体を植物組織原料存在下で液体培養し酵素反応を経て得られる組成物について、サイトカイン産生能回復剤組成物(特開2001−106637号公報)、抗癌剤の副作用軽減剤(特開平11−158080号公報)、サイトカイン産生能増強(国際公開第02/062813号パンフレット)などの生理活性を見いだし特許出願している。
本発明者らはさらに前記特許出願に鑑み、iNOSmRNAの安定化に関与する物質に関して鋭意研究を重ねた結果、担子菌菌糸体を植物組織原料存在下で液体培養し酵素反応を経て得られる組成物に、このS化センスオリゴと同様に、すなわちアンチセンストランスクリプトによるiNOSmRNAの安定化を阻害し、iNOSの発現を抑制し、その結果NOの産生を抑制する働きがあることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の担子菌菌糸体培養抽出物を含むNO産生抑制活性を有する組成物、及びiNOS産生量の抑制方法に関する。
1.担子菌(キノコ類)菌糸体の培養抽出物を含有することを特徴とするiNOS(誘導型一酸化窒素合成酵素)mRNAの分解を促進するNO産生抑制活性を有する組成物。
2.担子菌が、レンチニュラ・エドデス(Lentinulla edodes,シイタケ)、グリフォラ・フロンドサ(Grifola frondosa、マイタケ)、ガノデルマ・ルシダム(Ganoderma lucidum,マンネンタケ)、ガノデルマ・アパラナタム(Ganoderma applanatum,コフキサルノコシカケ)、シゾフィラム・コミュネ(Schizophyllum commune,スエヒロタケ)から1種以上選ばれる前記1に記載のNO産生抑制活性を有する組成物。
3.担子菌(キノコ類)菌糸体の培養抽出物が、AHCC(Active Hexose Correlated Compound)である前記1または2に記載のNO産生抑制活性を有する組成物。
本発明の担子菌菌糸体培養抽出物は、NOの過剰産生が関与する疾患である、炎症性疾患や、細菌感染によるエンドトキシンショック、発がん等に対して有効な医薬組成物、すなわち医薬として、あるいはそれらに対して有効な健康食品組成物、すなわち健康食品として用いることが出来る。
本発明のiNOS(誘導型一酸化窒素合成酵素)mRNAの分解を促進するNO産生抑制活性を有する組成物(以下、「本発明組成物」とする。)は、担子菌(キノコ類)を培養した菌糸体から抽出物される成分を含有する。菌種、培養条件、抽出条件、及び本発明組成物を含有する剤の形状及びその処方等の詳細は以下の通りである。
(1)菌種
本発明に用いる担子菌の例としては、例えば、レンチニュラ・エドデス(Lentinulla edodes,シイタケ)、アガリクス・ビスポラス(Agaricus bisporus,マッシュルーム)、グリフォラ・フロンドサ(Grifola frondosa,マイタケ)、フォリオタ・ナメコ(Pholiota nameko,ナメコ)、プリュロタス・オストレアタス(Pleurotus ostreatus,ヒラタケ)、フラムリナ・ヴェラチペス(Flammulina velutipes,エノキタケ)、ガノデルマ・ルシダム(Ganoderma lucidum,マンネンタケ)、アウリカラリア・アウリカラ(Auricularia auricula,キクラゲ)、ガノデルマ・アパラナタム(Ganoderma applanatum,コフキサルノコシカケ)、コリオラス・ルシダム(Corioluslucidum,カワラタケ)、グリフォラ・アンベラッタ(Grifola umbellate,チョレイマイタケ)、シゾフィラム・コミュネ(Schizophyllum commune,スエヒロタケ)、ヴォルヴァリエラ・ヴォルヴァセアエ(Volvariella volvaceae,フクロタケ)等が挙げられる。これらは単独で、または数種類組み合わせて用いることができる。これらの中でも、レンチニュラ・エドデス(Lentinulla edodes,シイタケ)、グリフォラ・フロンドサ(Grifola frondosa、マイタケ)、ガノデルマ・ルシダム(Ganoderma lucidum,マンネンタケ)、ガノデルマ・アパラナタム(Ganoderma applanatum,コフキサルノコシカケ)、シゾフィラム・コミュネ(Schizophyllum commune,スエヒロタケ)が好ましい。
(2)培養条件
本発明においては、上記の菌を植物組織原料の存在下において培養する。植物組織原料は、植物組織に由来するものであれば特に制限されず、おがくず等を用いることも可能であるが、草本類植物由来の材料、例えば、米ぬか、ふすま、バガス、とうもろこしの根茎、稲藁、麦藁、大豆かす等が好ましい。これらは単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。かかる原料を用いることにより、効率的に有効成分を得ることができる。これらの原料において熱水に溶解する成分が特に有用であり、従って、熱水で抽出した抽出液が好適に用いられる。
培地には、上記植物組織原料の他に各種の炭素源あるいは窒素源を添加してもよい。炭素源の例としては、ブドウ糖、ショ類、マルトース、サッカロース、上白糖、黒糖、糖蜜、廃糖蜜、マルツエキス等が挙げられる。窒素源の例としては、肉エキス、ペプトン、グルテンミール、大豆粉、乾燥酵母、酵母エキス、硫酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム塩、尿素等が挙げられる。その他、必要に応じて、ナトリウム塩、マグネシウム塩、マンガン塩、鉄塩、カルシウム塩、リン酸塩等の無機塩類や、イノシトール、ビタミンB1塩酸塩、L−アスパラギン、ビオチン等のビタミン類を添加してもよい。培養は、通常の中温菌の培養に準じればよく、pH2〜6、10〜45℃、好ましくは15〜30℃の温度で行なう。培養を継続する時間は、菌の量や植物組織原料の形態にもよるが、通常は4〜20日間、好ましくは6〜12日間程度である。
(3)抽出条件
抽出は、上記混合物にセルラーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ペクチナーゼ、キチナーゼ等の酵素を加え、至適温度条件にて2〜20時間反応を行なって菌体を破砕し、その後、加熱処理して酵素反応を失活させ、該処理物から遠心分離等により菌糸体残渣を除去して行なう。得られる液部分が本発明の有効成分を含有している。有効成分の具体的な構造等は不明であるが、置換基を有する多糖類を主成分とし、その他に、植物組織原料由来の物質、菌糸体由来の物質、菌の代謝産物等を含有し、これらが相乗的に作用しているものと考えられる。
(4)本発明組成物を含有する剤の形状及びその処方
本発明組成物は、上記のようにして得られた混合物に必要に応じ乾燥等の処理を行ない、種々の形状、形態となし得るが、例えば薬理学的、製剤学的に認容される製造助剤を加えることにより常法に従って製造される。製造助剤の例としては、ショ糖、でんぷん、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、グルコース、セルロース、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤の他、慣用の結合剤、崩壊剤、滑沢剤、保存剤、安定化剤、分散剤、希釈剤、香料、甘味料等が挙げられる。経口投与剤および非経口投与剤のいずれも可能である。経口投与剤としては、散剤、顆粒剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、錠剤、トローチ剤などの固形製剤、あるいはドリンク剤、シロップ剤、エリキシル剤などの液状製剤とすることができる。また、非経口投与剤としては注射剤、軟膏剤あるいは座薬等とすることができる。本発明の抗癌剤の副作用軽減剤の投与量は、治療すべき個々の患者の年令、体重および症状、剤形等によっても増減されるが、一般的には薬剤0.1〜6g、好ましくは0.2〜1.8gを一日1〜3回投与される。
(5)急性毒性
本発明組成物は、非常に毒性の低いものであり、医薬として使用するためには十分安全であると判断できる。
本発明組成物としては、上記の方法で得られるもの以外にも、iNOS(誘導型一酸化窒素合成酵素)mRNAの分解を促進するNO産生抑制活性を有するものであれば、市販の担子菌(キノコ類)菌糸体の培養抽出物をも含む。具体的にはAHCC(Active Hexose Correlated Compound)が好適に用いられる。
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
実施例1:
以下の方法により、ラットiNOSのmRNAに対して、遺伝子のアンチセンス鎖から転写された「アンチセンス転写物」が存在するかどうか調べ、この「アンチセンス転写物」がセンス遺伝子産物の産生の制御にどのように関わっているかを調べた。なお、ラットiNOSのmRNAの塩基配列は、DDBJ/EMBL/GenBank 国際塩基配列データベース(http://www.ddbj.nig.ac.jp/、http://www.ebi.ac.uk/embl/、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Genbank/)によって既知である。
(1)iNOSmRNAに相補的な配列であるアンチセンス転写物の配列と領域(塩基長)の決定方法
サイトカインや急性期タンパク質など、誘導的発現の起こる遺伝子のmRNAの3'非翻訳領域(3'UTR)には、AU-rich element(ARE)と呼ばれる配列、すなわち5’−AUUUA−3’または5’−AUUUUA−3’という配列が存在している(Proc Natl Acad Sci USA 83: 1670-1674 (1986)参照)。AREはヒト、ラットおよびマウスのiNOSmRNAの3'UTRにも存在しているので、このAREを含む3'UTRに対応する(配列が相補的な)アンチセンス転写物が存在するかどうかを、鎖特異的RT−PCR法により調べた。本法はオリゴdTプライマーのように、mRNAだけにハイブリダイズする(ストランド(鎖)特異的な)プライマーを使って逆転写を行って相補的DNA(cDNA)を合成した後、PCR法を行ってcDNAを増幅し、mRNAの量を測定する方法である。
すなわち、以下に示すiNOS遺伝子のセンス鎖のプライマー:
5’−TGCCCCTCCCCCACATTCTCT−3’(配列番号2)
を用い、培地にIL−1βを添加してiNOS mRNAを誘導したラット初代培養肝細胞の全RNAに対してRT−PCRを行ないcDNAを合成した。
ラット初代培養肝細胞から調製したRNA(1μg)と2pmolのプライマーを混ぜてから、70℃、10分間加熱後、0℃に急冷した。これにReverTra Ace反応バッファー(東洋紡)、dNTP(N=A,C,G,T)(最終濃度1mMになるように)、20 units RNase inhibitor(東洋紡)、及び200 units ReverTra Ace逆転写酵素(東洋紡)を加え、全量を25μlとした。47℃で60分間保温して逆転写した後、70℃、15分間加温して逆転写酵素を失活させた。次に、5 unitsのTth RNase H(東洋紡)を加えて、37℃、20分間加温して鋳型RNAを分解した。合成したcDNAはエタノール沈澱を行なって回収し、20μlのTEバッファーで溶解した。
このようにして得られたcDNA 2μlに、PCR反応バッファー(ニッポンジーン社)、dNTP(N=A,C,G,T;ニッポンジーン社)(最終濃度125μMになるように)、下記2種類のプライマー、順方向(Forward)プライマー40pmol、逆方向(Reverse)プライマー40pmol、1 unit Gene Taq DNAポリメラーゼ(ニッポンジーン社)、及びanti-Taq high(=抗Taqポリメラーゼ抗体,東洋紡)#を加えて、全量を40μlとしてさらにPCRを行なった。
順方向:
5’−ACCAGGAGGCGCCATCCCGCTGC−3’(配列番号3)
逆方向:
5’−CTTGATCAAACACTCATTTTATTAAA−3’(配列番号4)
PCRの温度プロトコールには公知の方法、すなわちステップダウン法(Nishizawa M, Nakajima T, Yasuda K, Kanzaki H, Sasaguri Y, Watanabe K, and Ito S. Close kinship of human 20a-hydroxysteroid dehydrogenase gene with three aldo-keto reductase genes. Genes Cells (2000) 5, 111-125)参照)に従って行った。PCR産物のアガロースゲル電気泳動を行った結果、186塩基対(bp)のバンドの増幅が見られた。
このバンドをゲルから切り出して精製し、塩基配列を決定したところ、上記のプライマー配列に挟まれた、ラットiNOSmRNAの3’−UTRの配列に相補的な配列であることを確認した。すなわち、iNOS遺伝子のセンスプライマーを用いた鎖特異的RT−PCR法により、アンチセンス転写物の存在を証明した。
さらにiNOS遺伝子のアンチセンス転写物の全構造を調べるために、RACE法(Frohman MA. Rapid amplification of complementary DNA ends for generation of full-length complementary DNAs: thermal RACE. Methods Enzymol. (1993) 218: 340-356参照)による解析を試みた。RACE法は既知のcDNA配列から鎖特異的なプライマーを作製して逆転写を行い、5'側および3'側のcDNAの配列を決定する方法である。
[5’側のcDNAの配列決定]
ラット初代培養肝細胞にIL−1βを添加して、iNOS mRNAを誘導し、Trizol試薬(インビトロジェン)でRNAを調製した。このRNAを鋳型とし、配列番号2のプライマー(iNOSのセンス(forward)プライマー;5'-TGCCCCTCCCCCACATTCTCT-3')を使って二本鎖cDNAを合成した。このcDNAにCAカセットアダプター(cDNA PCR Library Kit(タカラバイオ(株))に添付)を連結した後、配列番号3のプライマー(iNOS mRNAの3’−UTRに対するセンス(forward)プライマー)とCAプライマー(cDNA PCR Library Kit(タカラバイオ(株))に添付)を使ってPCRを行なった。反応液をアガロースゲル電気泳動したところ、約250bpのサイズのバンドが増幅していた。このバンドを切り出して、pGEM-T Easyベクター(プロメガ)にクローニングして、塩基配列を決定した。
[3’側のcDNAの配列決定]
上記と同様に、IL−1βで誘導したラット初代培養肝細胞からRNAを調製した。PolyATract mRNA Isolation System(プロメガ)を使って、PolyA-画分のRNAを精製し、このRNAを鋳型とし、アンカー配列(下線部)を付けたランダムプライマー(アンカーランダムプライマー;5'-TTCCCTCCCGTTTTCTCTGCCACTAGAATTCTCGAGCGGCCGCNNNNNNN-3'(配列番号5))を使って二本鎖cDNAを合成した。このcDNAにCAカセットアダプターを連結した後、配列番号4のプライマー(iNOS mRNAの3’−UTRに対するアンチセンス(reverse)プライマー)とCAプライマーを使ってPCRを行なった。この反応液を精製して鋳型とし、iNOS mRNAの3’−UTRに対するアンチセンス(reverse)プライマー(5'-ATATTAGAGCAGCGGGATGGCGCCTC-3'(配列番号6))とアンカープライマー(上記の「アンカーランダムプライマー」のアンカー配列に対するプライマー;5'-ACTAGAATTCTCGAGCGGCCGC-3'(配列番号7))を使って2次PCRを行なった。反応液をアガロースゲル電気泳動したところ、200〜500bpのサイズのバンドが増幅していた。このバンドを切り出して、pGEM-T Easyベクターにクローニングして、塩基配列を決定した。
この結果、アンチセンス転写物の全長はほぼ600塩基以上と推定された。以下にその配列を示した(配列番号1;但し、cDNA配列として示す。)。すなわち、アンチセンス転写物はiNOS mRNAの3'UTRに対応し、転写開始点(5'側)はiNOS mRNAのポリA付加部位の相補鎖にあった。
(2)iNOSmRNAに相補的なアンチセンス転写物(以下、単にアンチセンスと略す)によるiNOSmRNAの安定化
アンチセンスがiNOSmRNAを安定化しているかどうかを明らかにするために、アンチセンスに相補的な配列を持ち、アンチセンスにハイブリダイズする性質を持つiNOSのセンスオリゴヌクレオチド(以下、センスオリゴと略す)をラット初代培養肝細胞に導入しiNOSmRNA量を調べた。センスオリゴはオリゴヌクレオチドにおけるホスホジエステル結合のリン酸の酸素原子の一つを硫黄原子に置換(S化)することによって、細胞内における核酸分解酵によるオリゴヌクレオチドの分解を防いだ。IBA社(Gottingen, Germany)のMagnet assisted transfection法による遺伝子導入試薬キット(MATra-A Reagent)により、S化センスオリゴをラット初代培養肝細胞に導入した。
ラット初代培養肝細胞は公知の方法(J. Hepatol. 40, 616-623, 2004)で調製し、6穴プレートに(1ウェルあたり3×105細胞)蒔いた。2時間後に、1ウェルあたり1.5mlの新しい培地(Williams' E培地(WE)に、10%ウシ胎児血清、10nMデキサメタゾンおよび10nMインスリンを含む培地。WES−DIと略す)と交換した。さらに4時間後、オリゴ(2μg)とWE(200μl)を混合し、次に2μlのMATra-A Reagent(IBA社)を混ぜて室温で20分間静置した後、肝細胞の入っているウェルに全量を滴下した。6穴プレートを磁石盤(IBA社)の上に載せ、室温で15分間静置してオリゴを細胞に導入した。10%ウシ胎児血清を含むWE(1ウェルあたり1.5ml)と交換してから、一晩37℃に置いた。翌朝、1nMのIL−1βを含むWEに培地交換し、4時間、37℃に置いた後、全RNAを調製した。
肝細胞をIL−1βで刺激すると、iNOSmRNAの量が顕著に増加するが、上記のS化センスオリゴを導入してIL−1βで刺激して、RT−PCR法およびリアルタイムPCR法によるmRNA量の測定を行った。
ここで用いたiNOS遺伝子のセンス鎖配列、すなわちiNOSmRNAと同じ配列を持つS化オリゴヌクレオチドは以下の配列で示される。実験ではS2、S4とS5に相当する。
S2:5’−G*C*C*TCATACTTCCTCAG*A*G*C−3’
S4:5’−T*A*G*CTGCATTGTGTACA*G*A*T−3’
S5:5’−G*T*G*TATAATTCCTTGAT*G*A*A−3’
(S化した部分は*で示した。)
一方、陰性対照として塩基組成が同じでありながら配列が異なるため、iNOSmRNAやその転写物、あるいは他のRNAとハイブリダイズしないことが確認されている配列を持つ「スクランブルオリゴ」を導入した。スクランブルオリゴの配列を以下に示す。
Scr2:5’−G*G*T*ATTGCCCACCCAAC*T*C*T−3’
Scr4:5’−G*G*C*TCCATATGATTAGA*T*G*T−3’
Scr5:5’−G*A*T*TGTTACTTAGAGAC*T*A*T−3’
これらのスクランブルオリゴもセンスオリゴと同様、細胞内での分解を防ぐために、S化して用いた。「スクランブルオリゴ」についてはラットゲノムとの相同性検索により、類似の配列が存在しないことを確認してある。
センス鎖(mRNAと同じ配列を持つ鎖)と同じ配列のプライマーを用いて鎖特異的RT−PCR法を行うと、「アンチセンス転写物」に対するcDNAのみが逆転写されるので、「アンチセンス転写物」の量を測定することができる。
この結果、S化センスオリゴを導入した場合にはiNOSmRNAの量が減少した。これは、S化センスオリゴが、iNOSのアンチセンス転写物とハイブリダイズして、アンチセンス転写物が分解されたために、iNOSmRNAも分解されたことを示している。一方、スクランブルオリゴを導入した場合には、iNOSmRNAの量は大きく変動しなかった。
iNOSと同様に、CINC1は肝細胞においてIL−1β刺激下で顕著なmRNAの誘導を起こす。そして、CINC1のmRNAの3'非翻訳領域(3’UTR)にも、iNOSmRNAと同様にARE配列が存在する。iNOSのセンスオリゴを肝細胞に導入した際に、CINC1のmRNA量を測定したところ、オリゴを入れない場合とmRNA量に差がなかった。すなわち、iNOSのセンスオリゴの働きはiNOSに限定されるものであることを示していた。
以上の結果を併せると、iNOSのセンスオリゴはiNOSアンチセンス転写物と特異的にハイブリダイズしてiNOSmRNAの分解を促進して、その結果としてiNOSmRNAの量を特異的に減少させることが示された。
実施例2:AHCCによるiNOSmRNAの発現抑制のデータ、実験方法
マルツエキス(2%)、酵母エキス(0.25%)、酒石酸アンモニウム(0.2%)を含む液体培地でシイタケ菌(Lentinulla edodes)を24℃で10日間通気培養して担子菌培養液300Lを調整した。
米糠6kgを30Lの水に分散して液温120℃で20分間撹拌して抽出した後、α−アミラーゼ、ペクチナーゼからなる酵素剤を適量加えて60℃で120分間反応させ、デカンターにより固液分離して液部を回収して米糠抽出・酵素反応液を調整した。
得られた担子菌培養液:米糠抽出・酵素反応液を混合して、60℃で20時間撹拌して反応させ、次いで液全体を120℃以上に20分間加熱して液中の酵素などを失活させ、反応液を減圧濃縮し、得られた濃縮液に賦型剤としてサイクロデキストリン含有デキストリン製剤を17kg(固形分比として約20%になるように)加えて凍結乾燥粉末としたものをAHCCサンプルとした。
常法(Prostaglandins 1993; 45: 459-474. 参照)に従って、ラット初代培養肝細胞をWistar雄性ラット(200〜220g)より調製した。この培養肝細胞(1×106cells/dish;35mm)を炎症性サイトカイン IL−1β 1nMで刺激し、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)遺伝子の発現誘導をAHCC(8mg/ml)の存在および非存在下で検討した。Total RNA抽出はacid guanidinium-phenol-chloroformの方法(Anal Biochem 1987; 162: 156-159.)に従った。Total RNA(10μg)を用いてiNOS mRNAのレベルをノーザンブロット分析にて解析した(図1)。cDNAプルーブとしてはrandam-primed法にて[α−32P]dCTPでラベルしたrat iNOS DNA(830bp)(Biochem Biophys Res Commun 1993; 191: 89-94. 参照)を用いた。内部標準としてglyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)(Gene 1990; 91: 185-191. 参照)を用いて比較した。
その結果、IL−1β刺激によるiNOSmRNAレベルにおいても、3時間後からiNOSmRNAが発現してくるのに対し、AHCC投与群において有意にiNOS mRNAの発現の抑制が認められた。
AHCCのiNOSmRNA誘導に対する効果を示すノーザンブロット分析による電気泳動像。

Claims (1)

  1. レンチニュラ・エドデス(Lentinulla edodes,シイタケ)の菌糸体を培養して得られた培養液に植物組織原料としての米糠および酵素としてのα−アミラーゼ、ペクチナーゼを混合して反応させた後、失活させ、その液部を濃縮してなるAHCC(Active Hexose Correlated Compound)を含むことを特徴とする、iNOS(誘導型一酸化窒素合成酵素)mRNAとその塩基配列に相補的な配列を有するアンチセンスRNAとのハイブリダイズ阻害剤。
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