以下、本発明の第1の実施の形態に係る電動工具の一例であるインパクトレンチ1について、図1から図7に基づき説明する。図1に示されるインパクトレンチ1は、ハウジング2と、モータ3と、ギヤ機構4と、インパクト機構5とから主に構成されている。ハウジング2は樹脂製であってインパクトレンチ1の外郭を成しており、略筒状の胴体部21と、胴体部21から延出されるハンドル部22とから主に構成されている。
図1に示されるように、胴体部21内には、その長手方向がモータ3の軸方向と一致するようにモータ3が配置されると共に、モータ3の軸方向一端側に向かってギヤ機構4、インパクト機構5が並んで配置されている。以下の説明においてはモータ3からギヤ機構4、インパクト機構5に向かう方向を前側として、モータ3の軸方向と平行な方向を前後方向と定義する。また胴体部21からハンドル部22が延びる方向を下側として上下方向を定義し、インパクトレンチ1の後ろから見た左右を左右方向として定義する。
胴体部21には、後述のファン34により胴体部21内に外気を吸入・排出する図示せぬ吸気口及び排気口が形成されている。
ハンドル部22は、胴体部21の前後方向略中央位置から下側に向けて延出し胴体部21と一体に構成されている。ハンドル部22の内部にはスイッチ機構6が内蔵されると共に、その延出方向先端位置に図示せぬ商用電源に接続可能な電源ケーブル23が延出している。ハンドル部22において、胴体部21からの根元部分であって前側位置には、作業者の操作箇所となるトリガ24が設けられている。ハンドル部22の下部には、電源ケーブル23からの交流を直流に変換するための整流回路25が収容されている。
図1に示されるように、モータ3は、出力軸31と永久磁石32Aを備えるロータ32と、ロータ32と対向する位置に配置されるステータ33とから主に構成されるブラシレスモータであり、出力軸31の軸方向が前後方向と一致するように胴体部21内に配置されている。出力軸31はロータ32の前後に突出しており、その突出した箇所でベアリングにより胴体部21に回転可能に支承されている。出力軸31において、前側に突出している箇所には、出力軸31と同軸一体回転するファン34が設けられている。前側に突出している箇所の最前端位置にはピニオンギヤ31Aが出力軸31と同軸一体回転するように設けられている。
モータ3の後方には、複数のホール素子35Aを備えた基板35が設けられている。複数のホール素子35Aは、永久磁石32Aに対して前後方向において対向する位置に、出力軸31の円周方向に所定の間隔毎、例えば60度毎に3つ配置されている。
モータ3の半径方向外方には、3軸加速度センサ36を備えた制御基板37が設けられている。3軸加速度センサ36は、XYZ軸方向の加速度を検出可能である。本実施の形態では、出力軸31のスラスト方向(軸方向)の加速度をZ軸方向の加速度として検出し、出力軸31の回転方向(円周方向)の加速度をX、Y軸方向の加速度として検出する。これにより、インパクト機構5のインパクト動作の衝撃を軸方向だけでなく回転方向においても検出することができる。制御基板37は、配線によって基板35及び整流回路25と電気的に接続されている。モータ3の詳細な制御については、後述する。3軸加速度センサ36はモータ3の近傍かつインパクト機構5の軸方向の延長線上に設けられているため、インパクト機構5で発生した衝撃を的確に検出することができる。
ギヤ機構4は、ピニオンギヤ31Aと噛合している一対の遊星ギヤ41と、遊星ギヤ41と噛合しているアウターギヤ42と、遊星ギヤ41を保持しているスピンドル43とを備えている。遊星ギヤ41はピニオンギヤ31Aを太陽ギヤとする遊星歯車機構であり、ピニオンギヤ31Aからの回転を減速してスピンドル43に伝達している。遊星ギヤ41は、前後方向に延びる回転軸41Aを備えており、回転軸41Aはスピンドル43に回転可能に支承されている。スピンドル43は、図2に示すように、ギヤ支持部43Aと軸部43Bとから構成されており、ギヤ支持部43Aで遊星ギヤ41を支持している。遊星ギヤ41がピニオンギヤ31Aの周囲を回転することにより、当該回転によってスピンドル43が回転する。以下の説明において、軸方向、回転方向、半径方向、とは、出力軸31に対する方向をいう。
軸部43Bは前後方向に延びるとともに、略V字状の2つの溝43aが軸部43Bの回転軸に対して互いに対向するように形成されている。各溝43aは、V字の開口部が後方に向くように形成されている。溝43aには、後述のボール51が当該溝に沿って移動可能に設けられている。略V字状の溝43aは、斜め後下方向に延びる2つの辺を組み合わせて構成されており、スピンドル43が正回転しているときにはボール51は一方の辺のみを往復し、スピンドル43が逆回転しているときにはボール51は他方の辺のみを往復する。溝43aが本発明の第1溝部に相当し、ボール51が本発明の係止部材に相当する。
インパクト機構5は、ボール51と、ストッパ52と、スプリング53と、ワッシャ54と、球55と、ハンマ56と、アンビル57と、を備えている。ストッパ52は略円筒形状であって、前後方向に貫通し軸部43Bが挿入される孔52aが形成されている。ストッパ52の前端面はハンマ56と当接可能であり、ハンマ56が所定量以上に後退することを防止している。
スプリング53はコイルスプリングであって、軸部43Bに外装されている。スプリング53の後端部はストッパ52に当接し、前端部はワッシャ54に当接している。これにより、スプリング53はワッシャ54を介してハンマ56を前方に付勢している。ワッシャ54は略円板形状であって、ハンマ56とスプリング53との間に設けられている。ワッシャ54とスプリング53との間には球55が設けられている。
ハンマ56は、図3に示すように、略円筒形状であって、前後方向に貫通し軸部43Bが挿入される貫通孔56aが形成されている。貫通孔56aには、半径方向内方に突出した段差部56Aが形成されていて、段差部56Aとストッパ52の前端面とが当接可能である。段差部56Aの前方には、段差部56Aよりもさらに半径方向内方に突出しワッシャ54を受ける受け部56Bが設けられている。受け部56Bには、前方に凹んだ凹部56bが形成されている。球55は、凹部56bに回転可能に支持されているため、ワッシャ54及びスプリング53はハンマ56に対して相対回転可能である。
受け部56Bの前方には、半径方向内方に窪んだ2つの溝部56cが形成されている。各溝部56cは、各溝43aに対向する位置に形成されていて、溝43aとともにボール51を支持している。これにより、ハンマ56がスピンドル43に対して保持されるとともに、ボール51が溝43aを移動することによりハンマ56がスピンドル43に対して相対的に前後方向かつ円周方向に移動することができる。ハンマ56が所定量以上に後方に移動すると、ハンマ56の前端面が溝43aよりも後方に位置してしまうため、ボール51が溝43aから離脱してしまう。しかし、段差部56Aとストッパ52の前端面とが当接することによりハンマ56の所定量以上の後退が防止されるため、ボール51の離脱が防止される。ハンマ56の前端面には、前方に突出する2つの係合突起56Cが貫通孔56aに対して互いに対向する位置に設けられている。溝部56cは、本発明の第2溝部に相当する。
アンビル57は略円柱形状をなし、前後方向に延びている。アンビル57は、半径方向外方に突出する2つの被係合突起57Aが設けられている。アンビル57の先端部分には、図示せぬ先端工具を着脱可能な工具保持部57Bが設けられている。2つの被係合突起57Aは、アンビル57の回転軸に対して互いに対向する位置に設けられている。
スピンドル43がモータ3によって回転されると、ボール51と、ハンマ56と、スプリング53と、ストッパ52と、がスピンドル43と共に回転する。これによって、係合突起56Cと被係合突起57Aとが係合して、ハンマ56とアンビル57とが一体で回転し、ボルト等の締付作業が行われる(回転モード)。締付作業が進むにつれてアンビル57の負荷が重くなり、当該負荷が所定値を超えると、ハンマ56がスプリング53の付勢力に抗して後退する。このとき、ボール51は、溝43a内を後方に移動する。ハンマ56が係合突起56Cの前後方向の高さ以上に後退すると、係合突起56Cは係合していた被係合突起57Aを乗り越える。スピンドル43の回転力はボール51を介してハンマ56に伝達されているため、ハンマ56は回転を続け、各係合突起56Cは係合していた被係合突起57Aと対向している被係合突起57Aをそれぞれ打撃する(打撃モード)。これにより、アンビル57が回転して、図示せぬ先端工具に回転力が伝達される。
係合突起56Cが被係合突起57Aを打撃したことによる反発力によって、ハンマ56はスプリング53の付勢力に抗して後方に移動する。このとき、ボール51は溝43aを後方に移動する(図4C)。ハンマ56は後方に移動しつつ回転しているため、係合突起56Cが打撃した被係合突起57Aを乗り越える。ハンマ56の後方への移動量は、加工部材の硬度や先端工具の形状などによって異なる。ハンマ56は、アンビル57と最も前後方向に離間した離間位置に位置した後、スプリング53の付勢力によって再び前進し(図4D)、ボール51は溝43aを前方に移動する。そして、ボール51が溝43aの最前位置に位置すると(図3)、各係合突起56Cは先ほど打撃した被係合突起57Aと対向する位置にある被係合突起57Aを打撃する。このとき、ハンマ56の前側端面であって係合突起56Cが設けられていない部分と被係合突起57Aの後面とが当接するのと同時に、係合突起56Cの回転方向側面と被係合突起57Aの回転方向側面とが当接するように、スプリング53のバネ定数やハンマ56及びアンビル57の質量、形状などが設計されている。このときの打撃状態を最適打撃状態といい、図4Aに示す。ボール51が最前位置にあるときのハンマ56の位置が、本発明の打撃位置に相当する。これにより、ハンマ56の回転エネルギーを効率的にアンビル57に伝達することができる。
インパクトレンチ1での締付作業中に、先端工具とボルト等の止具とが互いに噛み合ってしまって相対的に回転不能となることがある。そうすると、アンビル57は回転不能のままハンマ56がアンビル57を打撃するため、ハンマ56の回転エネルギーの大部分が反発力となってハンマ56に戻ってきてしまい、最適打撃状態と比べてハンマ56が大きく後退する。これにより、ボール51が溝43aの後端に衝突し、図4Bに示すような、いわゆるカムエンド衝突が発生する。カムエンド衝突によって、インパクトレンチ1に発生する振動が大きくなるとともに、回転エネルギーのロスとなり打撃力が低下する。
また、ハンマ56とアンビル57との打撃タイミングがずれてしまい、プレヒットやオーバーシュートといった現象が起きることがある。プレヒットの状態を図4Eに示し、オーバーシュートの状態を図4Fに示す。ハンマ56のアンビル57に対する反発力が小さい場合、ハンマ56は最適打撃状態と比較して早いタイミングで前方に移動するため、係合突起56Cの前端面と被係合突起57Aの後面とが衝突してプレヒットが発生する。プレヒットは、特に締付作業の途中で急激に先端工具の負荷が小さくなった場合や、商用電源の電圧が不安な場合に発生し易い。その後、ハンマ56は回転を続けてボール51は溝43aの最前位置に位置する。打撃タイミングがずれているため、ボール51が最前位置にあるときには係合突起56Cと被係合突起57Aとは互いに離間している。ハンマ56のさらなる回転によってボール51は、現在往復動している略V字状の溝43aの辺の一方の辺から他方の辺へと乗り上げてしまい、オーバーシュートとなる。そして、オーバーシュートによってハンマ56はわずかに後退し、後退した状態で係合突起56Cが被係合突起57Aを打撃するため、ハンマ56の回転エネルギーがアンビル57に十分に伝達されない。このように、一度、打撃タイミングがずれると、連続的にプレヒット、オーバーシュートが発生して打撃力が低下するため早急に打撃タイミングを最適打撃状態に戻す必要がある。なお、カムエンド衝突、プレヒット、オーバーシュート等の不具合は、上述した場合だけでなく、加工部材や用いる先端工具などによってさまざまな状況下で発生する。
次にモータ3の駆動制御系の構成を図5に基づき説明する。本実施例では、モータ3は3相のブラシレスDCモータで構成される。このブラシレスDCモータのロータ32は複数組(本実施例では2組)のN極とS極を含む永久磁石32Aを含んで構成され、ステータ33はスター結線された3相の固定子巻線U,V,Wから成る。永久磁石32Aに対向配置されたホール素子35Aからの位置検出信号に基づいて固定子巻線U、V、Wへの通電方向と時間が制御される。
基板35上に搭載される電子素子には、3相ブリッジ形式に接続されたFETなどの6個のスイッチング素子Q1〜Q6を含む。ブリッジ接続された6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートは、制御信号出力回路61に接続され、6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ドレインまたは各ソースは、スター結線された固定子巻線U、V、Wに接続される。これによって、6個のスイッチング素子Q1〜Q6は、制御信号出力回路61から入力されたスイッチング素子駆動信号(H4,H5,H6等の駆動信号)によってスイッチング動作を行い、整流回路25によって全波整流された直流電圧を3相(U相、V相及びW相)電圧Vu、Vv,Vwとして固定子巻線U、V、Wに電力を供給する。
6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートを駆動するスイッチング素子駆動信号(3相信号)のうち、3個の負電源側スイッチング素子Q4,Q5,Q6をパルス幅変調信号(PWM信号)H4,H5,H6として供給し、制御基板37に備えられた演算部62によって、トリガ24の操作量(ストローク)の検出信号に基づいてPWM信号のパルス幅(デューティー比)を変化させることによってモータ3への電力供給量を調整し、モータ3の起動/停止と回転速度を制御する。
ここで、PWM信号は、基板35の正電源側スイッチング素子Q1〜Q3又は、負電源側スイッチング素子Q4〜Q6の何れか一方に供給され、スイッチング素子Q1〜Q3又はスイッチング素子Q4〜Q6を高速スイッチングさせることによって整流回路25の直流電圧から各固定子巻線U、V、Wに供給する電力を制御する。なお、負電源側スイッチング素子Q4〜Q6にPWM信号が供給されるため、PWM信号のパルス幅を制御することによって各固定子巻線U、V、Wに供給する電力を調整してモータ3の回転速度を制御することができる。
制御基板37は、制御信号出力回路61と、演算部62と、電圧検出回路63と、電流検出回路64と、印加電圧設定回路65と、3軸加速度検出回路66と、回転子位置検出回路67と、トルク検出回路72と、を有する。演算部62は、回転条件判定部68と、回転数検出部69と、補正用パラメータ導出部70と、予測部71と、図示していないが、処理プログラムとデータに基づいて駆動信号を出力するための中央処理装置(CPU)と、処理プログラムや制御データ、各種閾値等を記憶するためのROMと、データを一時記憶するためのRAMと、を含んで構成される。制御基板37及び演算部62が本発明の制御部に相当する。
演算部62は、回転子位置検出回路67の出力信号に基づいて所定のスイッチング素子Q1〜Q6を交互にスイッチングするための駆動信号を形成し、その制御信号を制御信号出力回路61に出力する。これによって固定子巻線U,V,Wの所定の巻線に交互に通電し、ロータ32を設定された回転方向に回転させる。この場合、負電源側スイッチング素子Q4〜Q6に印加する駆動信号は、印加電圧設定回路65の出力制御信号に基づいてPWM変調信号として出力される。モータ3に供給される電圧値及び電流値は、電圧検出回路63及び電流検出回路64によって測定され、その値が演算部62にフィードバックされることにより、設定された駆動電力及び電流となるように調整される。電流検出回路64によって検出された電流を図6(B)に示す。なお、PWM信号は正電源側スイッチング素子Q1〜Q3に印加してもよい。電流検出回路64は、本発明の負荷検出部の一例である。
印加電圧設定回路65は、トリガ24の操作に基づいて、演算部62に制御信号を出力している。3軸加速度検出回路66は、3軸加速度センサ36からの信号に基づいてスラスト方向及び回転方向の各加速度を演算部62に出力している。
トルク検出回路72は、先端工具の締付トルクを検出するためのトルクセンサ26からの信号に基づいて、締付トルクを演算部62に出力している。
回転条件判定部68は、3軸加速度検出回路66からの出力信号に基づいて、ハンマ56とアンビル57との打撃が最適打撃状態であるか否かを判断している。回転数検出部69は、回転子位置検出回路67からの信号に基づいてモータ3の回転数を検出している。回転数検出部69により検出された回転数を、図6(D)に示す。補正用パラメータ導出部70は、回転条件判定部68の判断結果に応じて、モータ3の制御のPWMデューティを調整するための補正用パラメータを導出している。予測部71は、図6(A)に示すような、電流検出回路64によって検出された電流の傾きを算出している。
次に、インパクトレンチ1の動作について、図6及び図7に基づいて説明する。
電源ケーブル23を図示せぬ商用電源に接続し、トリガ24を引くことにより、モータ3が動作する(図6のt0)。これにより、図7のフローチャートがスタートする(S1)。次に、電流検出回路64がモータ3に流れる電流の検出する(S2)。本実施の形態では、モータ負荷の一例として電流を検出している。止具の締付作業の初期では、先端工具(アンビル57)にかかる負荷が小さいため、ハンマ56とアンビル57とが共に回転し、先端工具(アンビル57)にかかる負荷が大きくなると、スプリング53の付勢力に抗してハンマ56が後退し、ハンマ56がアンビル57への打撃を開始する(図6のt1)。これにより、インパクトレンチ1は、回転モードから打撃モードへと移行する。時刻t1で1回目の打撃が発生すると、図6(B)に示すように、電流検出回路64によって検出された電流は、打撃のタイミングで最小値となる。具体的には、打撃のタイミングで下降から上昇に転じる。図6(D)に示すように、回転数は打撃のタイミングで上昇から下降に転じる。図6(E)及び図6(F)に示すように、時刻t1で締付トルク及び加速度がピークとなる。打撃後は、ハンマ56はスピンドル43の溝43aに沿って後退する。このとき、スピンドル43とハンマ56とが相対的に回転することとなるため、モータ3の負荷が上昇する。これにより、図6(B)に示す電流は上昇し、図6(D)に示す回転数は下降する。時刻t2においては、ハンマ56が離間位置に位置し、図6(A)に示すように、電流の傾きはゼロになる。これに伴い、図6(D)に示す回転数の傾きもゼロになる。このときはカムエンド衝突が発生していないため、ボール51と溝43aの後端とは離間している。その後、ハンマ56は溝43aに沿って前進する。このとき、ハンマ56はスピンドル43の回転方向と同方向に回転しながら前進するため、モータ3の負荷が低下する。これにより、図6(B)に示す電流は下降し、図6(D)に示す回転数は上昇する。
図6に示す時刻t3において、プレヒットが発生し、電流、回転数が一時的に脈動している。さらに、わずかに締付トルクが発生している。プレヒットが発生したことにより打撃タイミングが狂い、引き続きオーバーシュートが時刻t4で発生している。このときも、同様に電流、回転数が一時的に脈動し、わずかに締付トルクが発生している。
図6に示す時刻t5で再びハンマ56がアンビル57を打撃する。このときは、図6(A)に示す電流の傾きが閾値より小さいため、検出値は適正となる(S3:YES)。時刻t6において再びハンマ56がアンビル57を打撃すると、電流が下降から上昇に転じた後、図6(A)に示す電流の傾きが閾値を超える(S3:NO)。このことは、時刻t6における打撃の際にハンマ56のアンビル57から受ける反発力が大きいため、ハンマ56が急激に後退したことにより、モータ3の負荷が急上昇したことを意味している。つまり、このままの状態だと、ハンマ56の急激な後退により、図6(B)の仮想点線で示すようなカムエンド衝突が発生することが予想される。仮想点線では、ハンマ56が離間位置に達した時刻t8においてカムエンド衝突が起こっている。また、図6(F)では、時刻t8において、仮想点線で示すようにカムエンド衝突により発生した振動が表れている。そこで、本発明では、時刻t6において、予測部71が図6(B)の太線で示すような最適打撃状態となるようなデューティ比を算出し、時刻t7でデューティ比を低下させ低デューティモードに移行する(S4)。つまり、モータ3の負荷がt6において上昇し始めて、ハンマ56が離間位置に位置する前(t6後のピークに位置する前)に低デューティモードに移行している。本発明の「負荷が上昇し始めた後、且つ負荷が下降に転じる前」とは、図6(B)の時刻t6後且つ時刻t8の前に相当する。t6とt7との間の期間が、予測部71がデューティ比を算出するための時間遅れ分となる。
時刻t7で低デューティモードに移行したため、図6(A)の電流の傾きは太線で示すように急激に低下し、図6(B)の電流も太線で示す最適打撃状態となる。また、図6(D)に示す回転数も、デューティ比の低下に伴い低下する。次の打撃では、電流の傾きは閾値を超えていないため検出値が適正となり(S3:YES)、デューティ比はそのままとなる(図6(C))。図6には示していないが、さらに次の打撃で電流の傾きが閾値を超えた場合は検出値が適正でないと判断し(S3:NO)、予測部71は再びデューティ比を算出、低下させる。トリガ24がオフされまで、上記のS2からS4の作業を繰り返す(S5:NO)。トリガ24がオフされることにより(S5:YES)、締付作業が終了する。これにより、一旦設定された低デューティモードが解除されるため、再びトリガ24がオンされた場合はデューティ比が100%となる。
本実施の形態では、低デューティモードに移行した後は、低デューティモードが継続されるが、所定時間経過後にデューティを100%に戻してもよい。例えば、先端工具と止具とが一時的にロックしたような状態の場合は、カムエンド衝突が起こる可能性があるため低デューティモードが好ましいが、ロックが解除されればカムエンド衝突が起こる可能性が低くなるため、デューティ比を戻すことにより効率的な作業を行うことができる。
このような構成によると、ハンマ56がアンビル57を打撃が後に電流が上昇し始めた後、且つ電流が下降に転じる前にモータ3の駆動電力のデューティ比を低下させているため、カムエンド衝突が発生して電流負荷が上昇し(図6(B)の点線)この電流の上昇を検出してモータのデューティ比を低下させる場合と比較すると、カムエンド衝突の発生自体を抑制することができる。これにより、カムエンド衝突の際にインパクトレンチ1に発生する振動やエネルギー損失を防止することができる。
このような構成によると、電流検出回路64により検出された電流に基づいて、予測部71が算出したで電流の変化率が所定の閾値を超えた場合に低デューティモードに移行するため、変化率が大きくなることによりカムエンド衝突の発生する可能性を予測し、低デューティモードに移行することにより、カムエンド衝突の発生を抑制することができる。これにより、カムエンド衝突の際にインパクトレンチ1に発生する振動やエネルギー損失を防止することができる。
次に、本発明の第1の実施の形態の第1の変形例について図6を参照して説明する。上述の実施の形態では負荷検出部の一例として電圧検出回路63を用いたが、第1の変形例では負荷検出部として回転数検出部69を用いる。
予測部71は、図6(D)に示す回転数の傾きを算出している。また、演算部62の図示せぬROMには、回転数の傾きの閾値が記憶されている。図7のフローチャートにおいて、モータ負荷として回転数検出部69がモータ3の回転数を検出する(S2)。時刻t6において、ハンマ56のアンビル57から受ける反発力が大きくなると、モータ3の負荷が急激に大きくなるため、時刻t6直後における回転数の傾きも急激に低くなる。回転数の傾きが閾値を下回ると検出値が適正でないと判断して(S3:NO)、時刻t7で低デューティモードに移行する(S4)。
このような構成によると、モータ3の回転数を検出することにより、カムエンド衝突が発生する前にモータ3の駆動電力のデューティ比を低下させて、カムエンド衝突の発生自体を抑制することができる。これにより、カムエンド衝突の際にインパクトレンチ1に発生する振動やエネルギー損失を防止することができる。
次に、本発明の第1の実施の形態の第2の変形例について図6を参照して説明する。第2の変形例では負荷検出部としてトルク検出回路72を用いる。
予測部71は、図6(E)に示す締付トルクの傾きを算出している。また、演算部62の図示せぬROMには、締付トルクの傾きの閾値が記憶されている。図7のフローチャートにおいて、S2でトルク検出回路72が締付トルクを検出する。時刻t6において、ハンマ56のアンビル57から受ける反発力が大きくなると、電流の傾きと同様に、時刻t6直後における締付トルクの傾きも急激に大きくなる。トルクの傾きが閾値を超えると検出値が適正でないと判断して(S3:NO)、時刻t7で低デューティモードに移行する(S4)。
このような構成によると、トルクセンサ26によって締付トルクを検出することにより、カムエンド衝突が発生する前にモータ3の駆動電力のデューティ比を低下させて、カムエンド衝突の発生自体を抑制することができる。これにより、カムエンド衝突の際にインパクトレンチ1に発生する振動やエネルギー損失を防止することができる。
次に、本発明の第1の実施の形態の第3の変形例について図6を参照して説明する。第3の変形例では負荷検出部として3軸加速度検出回路66を用いる。3軸加速度検出回路66は、3軸方向の加速度を検出することにより、インパクトレンチ1に発生する振動を検知している。
予測部71は、図6(F)に示す加速度の傾きを算出している。また、演算部62の図示せぬROMには、加速度の傾きの閾値が記憶されている。図7のフローチャートにおいて、S2でトルク検出回路72が締付トルクを検出する。時刻t6において、ハンマ56のアンビル57から受ける反発力が大きくなると、インパクトレンチ1に発生する振動が大きくなり加速度の傾きが大きくなる。この場合には、ハンマ56が急激に後退しカムエンド衝突が発生することが予想される。加速度の傾きが閾値を超えると検出値が適正でないと判断して(S3:NO)、時刻t7で低デューティモードに移行する(S4)。
このような構成によると、加速度の傾きが所定の閾値を超えた場合、カムエンド衝突が起こる可能性があると判断し、低デューティモードに移行することによりカムエンド衝突の発生を抑制することができる。これにより、カムエンド衝突の際にインパクトレンチ1に発生する振動やエネルギー損失を防止することができる。
次に、本発明の第1の実施の形態の第4の変形例について図6及び図8を参照して説明する。第4の変形例ではハンマ56とアンビル57との打撃間におけるハンマ56の挙動に応じて低デューティモードに移行している。具体的には、各打撃間の周期を算出することにより、カムエンド衝突の発生を予測している。
予測部71は、図6(B)に示す電流に基づいて打撃の周期を算出している。つまり、予測部71は、打撃のタイミングで前回の打撃の周期を算出する。詳細には、2回目の打撃である時刻t5において(S11:YES)、時刻t1から時刻t5までの周期T1を算出し(S12)、閾値と比較することにより算出値が適正であるか否かを判断する(S13)。つまり、予測部71は、打撃毎にS12〜S5を繰り返し実行し、算出した周期と閾値との比較を行う。3回目の打撃である時刻t6において(S11:YES)、時刻t5から時刻t6までの周期T2を算出し、閾値と比較する(S13)。時刻t6で算出したT2は、時刻t5で算出した周期T1よりも長い。これは、ハンマ56の後退量が増加したためであり、この状態で前進してアンビル57を打撃すると、反発力が大きくなってカムエンド衝突が起こる可能性がある。そこで、周期T2が閾値を超えると算出値が適正でないと判断して(S13:NO)、時刻t7で低デューティモードに移行する(S4)。
このような構成によると、周期が所定の閾値を超えた場合、カムエンド衝突が起こる可能性があると判断し、低デューティモードに移行することによりカムエンド衝突の発生を抑制することができる。これにより、カムエンド衝突の際にインパクトレンチ1に発生する振動やエネルギー損失を防止することができる。
次に、本発明の第1の実施の形態の第5の変形例について図6及び図8を参照して説明する。第5の変形例ではハンマ56とアンビル57との打撃間におけるハンマ56の挙動に応じて低デューティモードに移行している。具体的には、各打撃間の周期の電流の積分値を算出することにより、カムエンド衝突の発生を予測している。
予測部71は、2回目の打撃である時刻t5において(S11:YES)、時刻t1から時刻t5までの周期T1の電流の積分値I1を算出し(S12)、閾値と比較することにより算出値が適正であるか否かを判断する(S13)。つまり、予測部71は、打撃毎にS12〜S5を繰り返し実行し、算出した積分値と閾値との比較を行う。3回目の打撃である時刻t6において(S11:YES)、時刻t5から時刻t6までの積分値I2を算出し、閾値と比較する(S13)。図6(B)に示すように、時刻t6で算出したI2は時刻t5で算出した積分値I1よりも大きい。これは、ハンマ56の後退量が増加したためであり、この状態で前進してアンビル57を打撃すると、反発力が大きくなってカムエンド衝突が起こる可能性がある。そこで、積分値I2が閾値を超えると算出値が適正でないと判断して(S13:NO)、時刻t7で低デューティモードに移行する(S4)。第5の変形例の場合には、グラフの横軸の時間だけでなく、縦軸の電流値の増加も併せて検出することができるため、時間のみを検出する第4の変形例と比較すると、カムエンド衝突の発生予測の精度を高めることができる。
このような構成によると、電流の積分値が所定の閾値を超えた場合、カムエンド衝突が起こる可能性があると判断し、低デューティモードに移行することによりカムエンド衝突の発生を抑制することができる。これにより、カムエンド衝突の際にインパクトレンチ1に発生する振動やエネルギー損失を防止することができる。
次に、本発明の第2の実施の形態について、図9及び図10に基づいて説明する。第1の実施の形態と同様の構成については、同一の符号を付し説明を省略する。
図9に示すように、時刻t6の直後に図9(A)に示す電流の傾きが閾値を超えた場合に検出値が適正でないと判断して(図10のS3:NO)、時刻t6´においてモータ3にブレーキをかける。具体的には、図9(C)に示すようにデューティ比をtmsecの間(時刻t6´から時刻t7までの間)、ゼロにする。時刻t6´でモータ3を一時的に停止したため、図9(A)の電流の傾きは太線で示すように低下し、図9(B)の電流も太線で示す状態となる。また、図9(D)に示す回転数も、モータ3の一時停止に伴い低下する。これにより、カムエンド衝突を回避することができる。モータ3を一時的に停止したため、図9(E)に示すように、時刻t9における締付トルクが低下しているが、次の打撃である時刻t10の際の締付トルクは最適打撃状態となっている。
なお、第2の実施の形態においても、第1の実施の形態の変形例と同様に、S3の検出値を電流の傾きに変えて、図9(D)に示す回転数の傾き、図9(E)に示すトルクの傾き、図9(F)に示す加速度の傾き、打撃の周期、電流の積分値、のいずれかを採用しても良い。
このような構成によると、予測部71にてデューティ比を算出する必要がないため、第1の実施の形態に比べて時間遅れ分が短い。つまり、第1の実施の形態の時間遅れ分である時刻t6〜時刻t7よりも、第2の実施の形態の時間遅れ分である時刻t6〜時刻t6´のほうが短い。これにより、打撃の周期が早い場合であっても、確実にカムエンド衝突を回避することができる。
次に、本発明の第2の実施の形態の変形例について説明する。第2の実施の形態ではモータ3を一時的に停止させていたが、変形例では、演算部62はモータ3を積極的に逆回転させるように制御する。このとき、逆回転させるように制御する時間は、第2の実施の形態でモータ3を停止させる時間tmsecよりも短い。これにより、時間遅れ分が第2の実施の形態よりさらに短くなるため、確実にカムエンド衝突を回避することができる。
なお、本発明のインパクトレンチは、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。
上述した実施の形態及び変形例において、S3の検出値を電流の傾きに変えて、図6(D)又は図9(D)に示す回転数の傾き、図6(E)又は図9(E)に示すトルクの傾き、図6(F)又は図9(F)に示す加速度の傾き、打撃の周期、電流の積分値、のいずれかを採用したが、これらのうちの少なくとも2つを組み合わせても良い。これにより、カムエンド衝突が発生する予測精度を上げることができる。
また、上述の実施の形態では、電動工具の一例としてインパクトレンチを用いたが、インパクトドライバを用いてもよい。インパクトレンチの打撃周期は約30msecであるのに対し、インパクトドライバの打撃周期は15〜20msecとなる。従って、本発明をインパクトドライバに適用する場合には、時間遅れ分の影響が大きくなることを考慮して、第2の実施の形態を適用することが好ましい。なお、第1の実施の形態を適用した場合であっても、本発明の効果を得ることができる。
また、上述の実施の形態では、モータ3として電動モータを用いたが、エアモータを用いてもよい。