本発明の実施形態に係る散乱波計算システム、散乱波計算方法及び散乱波計算プログラムについて添付図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
(構成および機能)
図1は本発明の第1の実施形態に係る散乱波計算システムの機能ブロック図である。
散乱波計算システム1は、誘電体に電磁波を入射させた場合に生じる散乱波によって形成される電磁界を計算するシステムである。従って、散乱波計算システム1は、散乱電磁界のシミュレーションシステムということもできる。より具体的には、図1に示す散乱波計算システム1では、不規則な凹凸加工が施された無限に大きな平板状の誘電体の表面に平面波が入射した場合に生じる散乱電磁界を計算することができる。
散乱波計算システム1は、入力装置2、表示装置3、記憶装置4及び演算装置5を備えたコンピュータ6に散乱波計算プログラムを読み込ませて構築することができる。散乱波計算プログラムは、汎用コンピュータを散乱波計算システム1として利用できるように情報記録媒体に記録してプログラムプロダクトとして流通させることができる。もちろん、情報記録媒体を介さずにネットワーク経由で散乱波計算プログラムをコンピュータ6にダウンロードすることもできる。但し、散乱波計算システム1を構成するために適宜回路を用いてもよい。
コンピュータ6の演算装置5は、散乱波計算プログラムによって誘電体構造定義部7、誘電体構造取得部8、構造特定部9及び電磁界計算部10として機能する。また、記憶装置4は、基準電磁界保存部11及び対象電磁界保存部12として機能する。換言すれば、散乱波計算システム1は、誘電体構造定義部7、誘電体構造取得部8、構造特定部9、電磁界計算部10、基準電磁界保存部11及び対象電磁界保存部12を有する。
また、散乱波計算システム1は、ネットワークを介して他のコンピュータ13や記録メディア駆動装置14等の所望の機器と接続することができる。もちろん記録メディア駆動装置14を散乱波計算システム1の構成要素としてもよい。
誘電体構造定義部7は、入力装置2から入力された情報に従って散乱電磁界の計算対象となる誘電体の構造を定義する機能を有する。誘電体構造定義部7では、有限又は半無限の誘電体を定義することができる。このため、例えば、不規則な凹凸加工が施された巨大な平板状の構造を誘電体の構造として定義することができる。
誘電体構造取得部8は、予め定義された誘電体の構造を散乱電磁界の計算対象としてネットワークを介して他のコンピュータ13から、或いは記録メディア駆動装置14から取得するする機能を有する。従って、散乱電磁界の計算対象となる誘電体の構造を誘電体構造定義部7において定義する代わりに散乱波計算システム1の外部から入力することもできる。
構造特定部9は、誘電体構造定義部7又は誘電体構造取得部8において取得された電磁界の計算対象となる誘電体の領域を、基準領域と互いに交差しない複数の有限領域とを合成した領域として表す機能を有する。基準領域は、有限又は半無限の領域とすることができる。
電磁界計算部10は、構造特定部9によって特定された基準領域に複数の有限領域を複数回に分けて順次追加し、追加された各有限領域によってそれぞれ生じる電磁界を基準領域によって形成される電磁界に順次加算する計算によって対象となる誘電体の散乱電磁界を解析的に求める機能を有する。すなわち、電磁界計算部10は、基準領域に複数の有限領域を複数回に分けて順次追加しながら差分界境界要素法による計算を繰返す機能を有する。
差分界境界要素法は、解析領域が変化した場合に生じる電磁界の差分を求め、変化前における解析領域によって形成される電磁界に加算することによって、変化後の解析領域により形成される電磁界を算出する手法である。
より具体的には、電磁界計算部10は、最初に基準領域を初期計算領域として単一又は複数の有限領域を追加し、領域の変化による電磁界分布の差分を差分界境界要素法により差分電磁界として計算する。そして、基準領域により形成される電磁界に差分電磁界を加算することによって、基準領域に単一又は複数の有限領域が追加された領域によって形成される電磁界を計算することができる。
次に、基準領域に単一又は複数の有限領域が追加された領域を初期領域として、別の単一又は複数の有限領域を追加する。そして、差分界境界要素法により同様に差分電磁界を計算し、別の単一又は複数の有限領域の追加によって生じる差分電磁界を既に計算した電磁界に加算する。これにより、基準領域に更に有限領域を追加した領域によって形成される電磁界を計算することができる。同様に、有限領域の追加、差分電磁界の計算及び差分電磁界の加算を有限領域の追加回数だけ繰返すことによって、目的とする分解前の誘電体によって形成される散乱電磁界を解析的に求めることができる。
つまり、電磁界計算部10は、基準領域に電磁波を入射させた場合に生じる散乱波によって形成される基準電磁界に、基準領域に複数の有限領域の少なくとも1つを順次合成して得られる互いに異なる複数の領域にそれぞれ電磁波を入射させた場合に生じる散乱波によって形成される電磁界の各変位量を順次加算することによって誘電体に電磁波を入射させた場合に生じる散乱波によって形成される電磁界を求めるように構成される。
尚、複数の有限領域を1つずつ順次基準領域に追加することにより、データ処理の簡易化を図ることができる。そこで、以降では、単一の有限領域を1つずつ順次基準領域に追加する例について説明する。但し、複数の有限領域を基準領域に順次追加する場合においても、計算式を適応させれば同様な方法によって誘電体からの散乱電磁界を解析的に求めることができる。
基準電磁界保存部11には、基準領域の形状及び誘電体の誘電率等のシミュレーションの条件に応じた基準領域による散乱電磁界が保存される。従って、所望の領域として定義された基準領域によって形成される散乱電磁界を一旦計算すれば、基準電磁界保存部11に記憶させることによって再利用することができる。
対象電磁界保存部12は、電磁界計算部10によって計算結果として取得された散乱波の電磁界を保存する機能を有する。保存された散乱波の電磁界は、ネットワークや記録メディアを介して外部出力することができる。
(動作および作用)
次に散乱波計算システム1の動作および作用について説明する。
図2は、図1に示す散乱波計算システム1における散乱電磁界の計算手順を示すフローチャートである。
まずステップS1において散乱電磁界の計算対象となる誘電体の構造が誘電体構造定義部7により定義される。尚、誘電体構造定義部7において誘電体の構造を定義せずに、予め定義した誘電体の構造をネットワーク又は記録メディアを介して誘電体構造取得部8に入力するようにしてもよい。
次にステップS2において構造特定部9は、構造が定義された誘電体の領域を、基準領域と、互いに交差しない複数の有限領域とを合成した領域として表す。ここでは、計算対象となる誘電体の構造が平面境界のみを有する単純な半無限の基準領域と、互いに交差しない複数の有限な閉領域とに分離して表される場合を例に説明する。
図3は、図1に示す散乱波計算システム1において散乱電磁界の計算対象となる誘電体の領域を、基準領域と互いに交差しない複数の有限領域とを合成した領域として表した例を示す断面図である。
図3(A)に示すように、高さが一定の凸部又は深さが一定の凹部を平板状の基板の表面に不規則に設けた誘電体が計算対象である場合には、半無限の平板状の矩形領域からなる基準領域b0と、M個の有限の矩形領域b1, b2, b3, ..., bMに誘電体を分割することができる。この場合、各矩形領域b1, b2, b3, ..., bMの高さは一定となり、長さ及び間隔は不規則となる。半導体を製造する場合には、図3(A)に示すように凹凸の高さが一定の誘電体が用いられる。
一方、図3(B)に示すように、高さが一定でない凸部又は深さが一定でない凹部を平板状の基板の表面に不規則に設けた誘電体が計算対象であっても、半無限の矩形領域からなる基準領域b0と、M個の有限の矩形領域b1, b2, b3, ..., bMに誘電体を分割することができる。図3(B)に示す例では、各矩形領域b1, b2, b3, ..., bMの高さ、長さ及び間隔がいずれも不規則となっている。
更に、図3(C)に示すように、平板状の基板の表面に任意形状の凸部を不規則に設けた誘電体が計算対象であれば、半無限の矩形領域からなる基準領域b0と、M個の様々な形状を有する有限領域b1, b2, b3, ..., bMに誘電体を分割することができる。
このように、表面に凹凸のある誘電体を凹凸の底部に沿って分解すると、凸部の形状、高さ及び間隔に依らず、半無限の平板状の巨大な誘電体の基板領域と、其々閉曲線で囲まれた独立した微小な有限領域とに分割することができる。
尚、図3において紙面に垂直となる奥行き方向における基準領域b0及び各有限領域b1, b2, b3, ..., bMの長さは無限大として扱っている。つまり、図3は、誘電体の構造を複数の二次元(2D: two dimensional)領域を組合わせて表現した例を示している。従って、図3において凹部は誘電体に設けられた溝状の構造となる。
但し、同様に誘電体の構造を複数の三次元(3D: three dimensional)領域を組合わせて表現することもできる。誘電体を複数の3D領域に分割する場合には、誘電体が半無限の平板状の3D領域と直方体等の閉曲面で囲まれた独立した微小な3D領域とに分割されることとなる。すなわち、誘電体の領域を、3Dの基準領域と、互いに交差しない複数の3Dの有限領域とを合成した領域として表すことができる。誘電体を3D領域の合成領域として扱えば、多種多様な構造を有する誘電体の散乱電磁界を計算することが可能となる。
但し、以降では、計算簡易化のために図3(A)に示す構造を有する誘電体を散乱電磁界の計算対象とし、かつ誘電体を2D基準領域と複数の2D有限領域とに分割する場合について説明する。
誘電体が基準領域b0及びM個の有限の矩形領域b1, b2, b3, ..., bMに分割されると、電磁界計算部10において差分界境界要素法を用いた散乱電磁界の計算が可能となる。
図4は、図1に示す電磁界計算部10における散乱電磁界の計算方法を説明する図である。
まず、図2のステップS3において電磁界計算部10が図4(A)に示すような矩形領域b1, b2, b3, ..., bMが存在しない場合における平板状の基準領域b0からの散乱電磁界を計算する。単純な平面境界を有する半無限大の誘電体基板からの反射波及び透過波によって形成される散乱電磁界は、フレネルの公式から容易に解析的に計算することができる。これにより、電磁界分布の計算対象となる各位置rにおける電磁界分布f(r)が求められる。
次に、電磁界計算部10は、基準領域b0にM個の矩形領域b1, b2, b3, ..., bMを順次追加し、差分界境界要素法により各矩形領域b1, b2, b3, ..., bMの追加後における散乱電磁界を繰返し計算する。そして、全ての矩形領域b1, b2, b3, ..., bMが追加されると、目的とする誘電体の散乱電磁界を求めることができる。
そのために、図2のステップS4において電磁界計算部10が基準領域b0に最初に追加すべき1つの矩形領域bi(i=1, 2, 3, ..., M)をM個の矩形領域の中から選択する。有限領域の選択方法は任意であるが、最端部にある矩形領域b1から他端の矩形領域bMに向かって1つずつ順番に選択する方法が簡易であり計算も容易である。この場合、矩形領域b1が基準領域b0への初期追加領域として選択される。この結果、図4(B)に示すように基準領域b0に矩形領域b1を追加した領域が計算対象領域として定義される。
そうすると、電磁界計算部10において、差分界境界要素法により基準領域b0に矩形領域b1を追加した領域からの散乱電磁界を計算することが可能となる。
そのために、図2のステップS5において基準領域b0に矩形領域b1が付加されたことによって生じる差分電磁界が計算される。
差分電磁界を計算するためには、図4(B)に示すように、矩形領域b1の周囲における基準領域b0の所定の長さを有する表面境界C0、矩形領域b1と基準領域b0との間における境界C1及び矩形領域b1の表面境界C2が電磁界計算部10において特定される。これらの境界C0, C1, C2は差分界境界要素法における境界積分の積分経路として用いられる。そして、式(1)に示す積分方程式を解くことによって各境界C0上における差分電磁界fs1, fs2及び各境界C1, C2上における電磁界fs3が計算される。
但し、式(1)において式(2)のように定義されるものとする。
また、式(1)及び式(2)において、Gnは、図4に示す領域Snの自由空間グリーン関数、εnは領域Snの比誘電率、fは紙面に垂直な方向における磁場の成分である。尚、領域S1は、基準領域b0内の積分範囲となる領域、領域S2は、誘電体外部における積分範囲の領域、領域S3は、矩形領域b1内の領域である。
式(1)及び式(2)は、誘電体に電界成分の振動方向が入射面に平行なp(parallel)偏光が入射する場合における散乱電磁界を求めるための式である。電界成分の振動方向が入射面に垂直なs(senkrecht)偏光が誘電体に入射する場合には、式(1)中の比誘電率を透磁率に置き換えた式によって散乱電磁界を計算することができる。但し、s偏光の場合、式(1)及び式(2)中のfは紙面に垂直な方向における電場の成分となる。以降の式においても比誘電率を透磁率に置き換えれば、p偏光の式をs偏光の式に書き換えることができる。
式(1)に示す積分方程式を解くために、矩形領域b1の追加前における基準領域b0によって形成される電磁界分布の各境界C1, C2における値及び法線方向において基準領域b0側、つまり図4において下向きを正とする微係数が用いられる。これにより、基準領域b0に矩形領域b1を追加した領域における各境界C0上の差分電磁界fs1, fs2及び各境界C1, C2上における電磁界fs3を求めることができる。
次に、各電磁界fs1, fs2, fs3を用いて式(3)に示す積分表現を含む式により矩形領域b1外部の任意の位置rにおける差分電磁界を計算することができる。
式(3)によって求まるfs1(S1)は基準領域b0内部における差分電磁界、fs2(S2)は基準領域b0及び矩形領域b1の外部における差分電磁界、fs3(S3)は矩形領域b1の内部における差分でない電磁界となる。
積分方程式を解くに当たり、無限遠における電磁界の値が必要となる場合には、式(4)で示される極限値を用いることによって単位ベクトルip方向における遠方の電磁界を求めることができる。
そして、位置rを変えながら式(1)又は式(3)に示す計算を行うことによって矩形領域b1の外部における差分電磁界分布及び矩形領域b1の内部における電磁界分布を求めることができる。
上述した計算は、誘電体の境界を複数の境界要素に区分し、境界上における電磁界を離散化して計算することに相当する。従って、差分電磁界分布の計算に必要な計算量は、矩形領域b1を離散数Nで離散化したとすると、N3のオーダーとなる。
また、基準領域b0の表面境界C0の長さは、積分範囲に対応する長さとなる。積分方程式では、基準領域b0から十分遠方における基準領域b0の表面境界が無視され、積分範囲の外部では電磁界がゼロとみなされる。従って、表面境界C0の長さを長くする程、積分範囲が広くなり高精度に散乱電磁界を計算することができる。このため、基準領域b0の表面境界C0の長さは、要求される散乱電磁界の計算精度に応じて適切な距離に決定すればよい。
尚、電磁波の照射位置に応じて使用に適した電磁波の波長が変化し、波長によって散乱電磁界の計算精度が変化する。従って、電磁波の波長等の他の条件によっても適切な表面境界C0の長さが変わることとなる。
次に、図2のステップS6において電磁界計算部10は、矩形領域b1を基準領域b0に追加することによって生じた矩形領域b1の外部の各位置rにおける差分電磁界分布f1(r)を、基準領域b0のみによって生じる散乱電磁界分布f(r)に加算する。この結果、基準領域b0に矩形領域b1のみを追加した領域によって生じる各位置rにおける電磁界分布が得られる。そして、電磁界計算部10は、図4(B)に示すように差分電磁界分布f1(r)の加算前における電磁界分布f(r)を、差分電磁界分布f1(r)の加算後における電磁界分布f(r)+f1(r)に更新する。
次に、図2のステップS7において電磁界計算部10は、M個の全ての矩形領域b1, b2, b3, ..., bMが基準領域b0に追加されたか否かを判定する。この判定は、図2に例示されるように、直前に基準領域b0に追加された矩形領域biの識別情報iが最後の矩形領域bMの識別情報Mであるか否かの判定とすることができる。
ステップS7において全ての矩形領域b1, b2, b3, ..., bMが基準領域b0に追加されていないと判定された場合には、ステップS8において次の矩形領域biが追加対象として決定される。矩形領域biを順番に追加する場合には、i=i+1とすればよい。そして、再びステップS5及びステップS6における処理が電磁界計算部10において実行される。
より具体的には、基準領域b0に追加されているのが1番目の矩形領域b1のみであれば、2番目の矩形領域b2が次の追加領域となる。そして、基準領域b0に1番目の矩形領域b1を追加した領域を初期領域として再びステップS5における差分界境界要素法による計算が実施される。
2番目の矩形領域b2が追加される場合には、図4(C)に示すように、基準領域b0に1番目の矩形領域b1を追加した領域の表面境界がC0、2番目の矩形領域b2と基準領域b0との間における境界がC1、2番目の矩形領域b2の表面境界がC2となる。すなわち、表面境界C0は1番目の矩形領域b1及び基準領域b0の表面に沿う境界として定義される。
そして、基準領域b0に1番目の矩形領域b1を追加した場合と同様な計算によって、2番目の矩形領域b2の外部の各位置rにおける差分電磁界分布f2(r)を求めることができる。そして、図4(C)に示すように、2番目の矩形領域b2による差分電磁界分布f2(r)を電磁界分布f(r)に加算することによって電磁界分布f(r)を更新する。これにより、基準領域b0に2つの矩形領域b1, b2を追加した領域によって生じる各位置rにおける電磁界分布f(r)が得られる。
そして、図2及び図4の(D), (E)に示すように最後の矩形領域bMが追加され、i=Mと判定されるまで差分界境界要素法によるステップS5及びステップS6の計算が繰り返される。そして、図2のステップS7において全ての矩形領域b1, b2, b3, ..., bMが基準領域b0に追加されたと判定されると、差分界境界要素法により計算された最後の電磁界分布f(r)が誘電体により生じた散乱電磁界分布ftotal(r)となる。
そして、ステップS9において誘電体により生じた散乱電磁界分布を表示装置3又はメディアや他のコンピュータ13等の所望の出力先に出力することができる。また、必要に応じて対象電磁界保存部12に保存することができる。
図5は、図1に示す散乱波計算システム1によるシミュレーション結果の一例を示す図である。
図5(A), (B)において各縦軸は電磁界の相対強度を示し、各横軸は散乱電磁界の放射角度を示す。また、図5(A)は誘電体に反射した散乱光の遠方界における相対強度を示し、図5(B)は誘電体を透過した散乱光の遠方界における相対強度を示す。すなわち、図5(A)は、誘電体に反射した散乱光の角スペクトルであり、図5(B)は、誘電体を透過した透過光の角スペクトルである。尚、角スペクトルとして得られる散乱光の強度は、誘電体近傍における電磁界をフーリエ変換した結果となる。
矩形領域biの数M=12、誘電体内部における屈折率を2.5、矩形領域biの相対長さ及び相対間隔を0.4lから2.4l、矩形領域biの相対高さを0.8l、誘電体に入射させる電磁波を入射角45度の平面波、観測位置を無限遠点として、散乱波計算システム1により誘電体から放射される散乱光の放射方向に対する強度をプロットするシミュレーションを行った結果、図5(A), (B)に示す解析結果が得られた。
また、矩形領域biのない基準領域b0に入射角45度の平面波を入射させると反射光及び透過光はいずれも出射角が一定の平面波となる。これらの平面波は、それぞれ角スペクトルにデルタ関数で表される成分として含まれる。そこで、これらの平面波の各成分を図5(A), (B)中に矢印で示した。一方、各差分電磁界f1(r), f2(r), f3(r), ..., fM(r)は、式(3)で示される有限な連続関数となる。そこで、各差分電磁界f1(r), f2(r), f3(r), ..., fM(r)の成分は図5(A), (B)中に実線で示した。
図5(A), (B)に示すシミュレーション結果によれば、不規則な凹凸構造を有する誘電体からの散乱電磁界の強度を、散乱波計算システム1により、良好な精度で計算できることが確認できる。
つまり以上のような散乱波計算システム1は、不規則な凹凸を有する誘電体の構造を単純な構造に局所的な変化を複数回加えた構造として扱い、単純な構造に変化を加えながら差分界境界要素法による計算を繰返すことによって散乱波のベクトル電磁界を求めるシステムである。すなわち、散乱波計算システム1では、誘電体構造の変化に起因する差分電磁界が差分界境界要素法により逐次計算され、差分電磁界を順次加算することによって目的とする構造を有する誘電体からの散乱電磁界を求めることができる。
(効果)
このため、散乱波計算システム1によれば、多種多様な構造を有する誘電体からの散乱波によって形成される電磁界を、より少ないデータ処理量で高精度に計算することができる。特に、差分界境界要素法において計算対象となるベクトル散乱電磁界の差分電磁界は、境界積分を用いた積分方程式で高速に計算することができる。このため、より小規模な計算資源で高精度にベクトル散乱電磁界を計算することができる。
例えば、図5に示す角スペクトルの計算に必要な計算量は、各矩形領域biの追加に伴う各差分電磁界f1(r), f2(r), f3(r), ..., fM(r)の算出に要する計算量の合計となる。また、各矩形領域biをそれぞれ離散数Nで離散化したとすると、各差分電磁界f1(r), f2(r), f3(r), ..., fM(r)の算出に要する計算量は、それぞれN3のオーダーとなる。従って、図5に示す角スペクトルの計算に必要な計算量は、N3のオーダーの計算量の計算をM回行う場合における計算量、すなわちMN3のオーダーになると見積もることができる。
これに対して、従来の単純な差分界境界要素法により散乱電磁界を計算する場合には、M個の矩形領域biをそれぞれN点で離散化することとなる。従って、総離散数はMNとなる。差分界境界要素法では、各点における2つの未知数を連立方程式で求めることになる。このため、連立方程式を解くために必要な計算量は、およそ(MN)3のオーダーになると考えられる。従って、従来の単純な差分界境界要素法による計算と比較すると、散乱波計算システム1によれば、計算量を1/M2に低減することができる。
次に散乱波計算システム1による散乱波計算方法と従来のFDTD法を比較する。
図6は、図1に示す散乱波計算システム1と散乱電磁界の計算精度と従来のFDTD法による散乱電磁界の計算精度とを比較した図である。
図6において縦軸は散乱電磁界の相対誤差[%]を示し、横軸は散乱電磁界の計算時間[s]を示す。図6において三角印は、従来のFDTD法による散乱電磁界の相対誤差と計算時間の関係を示している。また、図6において丸印は散乱波計算システム1により差分界境界要素法を繰返して計算した場合における散乱電磁界の相対誤差と計算時間の関係を示している。
従来のFDTD法では、解析領域を長くする程、散乱電磁界の計算精度が向上する。そこで、解析領域の長さを変えながら従来のFDTD法における計算時間と相対誤差との関係をプロットした。
一方、散乱波計算システム1により差分界境界要素法を繰返す方法では、上述したように基準領域b0の表面境界C0の長さを長く設定する程、各矩形領域biから遠方における微弱な差分電磁界が考慮される。このため、基準領域b0の表面境界C0の長さを長く設定する程、差分電磁界とともに散乱電磁界の計算精度が向上する。そこで、表面境界C0の長さを変えながら計算時間と相対誤差との関係をプロットした。
尚、相対誤差は、計算時間の増加に伴って収束する散乱電磁界の収束値からの誤差である。また、散乱電磁界の収束値は、散乱電磁界の計算値を指数関数でフィッティングすることによって求めることができる。
図6によれば、計算時間を同じにすれば散乱波計算システム1による計算精度が従来のFDTD法における計算精度に比べて5桁程度高精度であることが確認できる。逆に、散乱波計算システム1において散乱電磁界の相対誤差を0.1%にするために必要な計算時間は、従来のFDTD法において必要となる計算時間の約1/360となる。従って、散乱波計算システム1の計算速度は、従来のFDTD法における計算速度の約360倍であるということができる。
このため、散乱波計算システム1によれば、従来の手法では計算することが非現実的であったな不規則かつ大規模な構造を有する誘電体であっても、厳密なベクトル場として散乱電磁界を良好な精度で計算することができる。特に、入射させる電磁波の波長と同程度又は入射させる電磁波の波長よりも小さな微細な構造を有する誘電体からのベクトル散乱電磁界を計算する場合に有効である。
例えば、図3に示す各種構造を従来の境界要素法の解析領域にしようとすると、解析領域を限定することができないため、無限に長い誘電体の境界を入射電磁波の波長の数分の一の長さの境界要素で離散化することが必要となる。従って、計算量が無限大となり境界要素法による計算は不可能となる。すなわち、従来の境界要素法では、境界長又は境界面積が大きい場合には事実上計算が不可能となる。
また、FDTD法においても、入射電磁波の波長の数分の一の間隔で解析領域を離散化しなければならない。しかも、計算時には全ての離散点における電磁界の値を記憶する必要がある。このため、FDTD法には、膨大なメモリ量と計算時間が必要となる場合がある。この結果、誘電体が入射電磁波の波長に対して非常に大きい場合には、FDTD法では計算できない場合が多い。また、FDTD法において解析領域を狭い範囲に限定することによって必要なメモリ量を低減させることも可能であるが、図6に示すように計算精度劣化の原因となる。
また、従来の差分界境界要素法では、基準領域と単一の有限領域に誘電体が分解され、単一の有限領域による差分電磁界を計算することによって誘電体からの散乱電磁界が計算される。従って、複数の有限領域に分解される誘電体からの散乱電磁界を計算することができない。
このような従来法と異なり、散乱波計算システム1によれば、複数の有限領域に分解される誘電体や境界長が非常に長い誘電体であっても、誘電体による散乱電磁界を計算することができる。すなわち、散乱波計算システム1によれば、誘電体の形状に依らず散乱電磁界を計算することができる。
加えて、散乱波計算システム1によれば、任意の偏光状態を有する入射波によって生じる散乱電磁界を計算することができる。
(第2の実施の形態)
第2の実施形態における散乱波計算システムでは、構造特定部及び電磁界計算部の詳細機能が第1の実施形態における散乱波計算システム1と異なる。このため、第2の実施形態における構造特定部及び電磁界計算部の詳細機能についてのみ説明する。
第2の実施形態における散乱波計算システムの構造特定部は、散乱電磁界の計算対象となる誘電体の領域を、平板状の基準領域と、互いに交差しない複数の有限の空間とを合成した領域として表す機能を有する。すなわち、複数の有限領域は、誘電体が占める領域に限らず、誘電体が存在しない空隙とすることもできる。換言すれば、各有限領域は、誘電体の一部又は空間で構成することができる。
図7は、第2の実施形態における散乱波計算システムにおいて散乱電磁界の計算対象となる誘電体の領域を、基準領域と互いに交差しない複数の有限空間とを合成した領域として表した例を示す断面図である。
図7に示すように高さが一定の凸部又は深さが一定の凹部を平板状の基板の表面に不規則に設けた誘電体が計算対象である場合には、半無限の平板状の矩形領域からなる基準領域b0と、M個の有限の矩形空間領域b1, b2, b3, ..., bMとの合成領域として誘電体が占める領域を表すことができる。この場合、各矩形空間領域b1, b2, b3, ..., bMの深さは一定となり、長さ及び間隔は不規則となる。
また、図3(B), (C)に示す例と同様に、複数の有限空間領域b1, b2, b3, ..., bMについても、深さを変えたり、形状を矩形以外の所望の形状とすることができる。つまり、図3に示すような凸部に代えて、所望の形状を有する複数の凹部を複数の有限領域b1, b2, b3, ..., bMとすることができる。
尚、図7は、閉曲線で囲まれた面積が有限の2D空間を各有限空間領域b1, b2, b3, ..., bMとした例を示しているが、閉曲面で囲まれた体積が有限の3D空間を各有限空間領域b1, b2, b3, ..., bMとしてもよい。
第2の実施形態における電磁界計算部は、第1の実施形態と同様な手法により、図7に示すような基準領域に複数の矩形空間を複数回に分けて順次追加しながら差分界境界要素法による計算を繰返すことによって対象となる誘電体の散乱電磁界を解析的に求めるように構成される。従って、誘電体の散乱電磁界の算出フローは、図2に示すフローチャートに示されたフローと同様なフローになる。
図8は、第2の実施形態における電磁界計算部による散乱電磁界の計算方法を説明する図である。
図8に示すように平板状の基準領域b0に複数の矩形空間b1, b2, b3, ..., bMを順次追加する場合においても、図4に示す第1の実施形態と同様な流れで誘電体の散乱電磁界を計算することができる。
すなわち、最初にフレネルの式を用いて図8(A)に示すような矩形空間b1, b2, b3, ..., bMのない平板状の基準領域b0によって生じる位置rにおける電磁界f(r)を計算する。続いて図8の(B)から(E)に示すように、矩形空間b1, b2, b3, ..., bMが順次加算される。そして、差分界境界要素法により、順次各矩形空間b1, b2, b3, ..., bMの追加に伴う各差分電磁界f1(r), f2(r), f3(r), ..., fM(r)が計算される。
但し、図8に示すように矩形空間b1, b2, b3, ..., bMが追加される場合には、図8(B), (C)に示すように積分経路が定義される。すなわち、矩形空間biの周囲における誘電体領域の所定の長さを有する表面境界C0、矩形空間biの表面境界C1及び矩形空間biと基準領域b0との間における境界C2が境界積分の積分経路として定義される。更に、領域S1が、誘電体領域内の積分範囲となる領域、領域S2が、基準領域b0外部における積分範囲の領域、領域S3が、追加対象となる矩形空間b1, b2, b3, ..., bM内の領域としてそれぞれ定義される。
また、凹部として複数の矩形空間b1, b2, b3, ..., bMが順次追加される場合には、積分方程式として式(1)の代わりに式(5)が用いられる。
また、式(3)の代わりに式(6)が用いられる。
そして、図8に示すように、積分方程式によって計算される各差分電磁界f1(r), f2(r), f3(r), ..., fM(r)を位置rにおける電磁界f(r)に順次加算して更新することによって目的とする構造を有する誘電体により生じた散乱電磁界分布ftotal(r)を求めることができる。
このような第2の実施形態における散乱波計算システムによれば、第1の実施形態における散乱波計算システムと同様な効果を得ることができる。
図9は、図8に示すような誘電体の領域分割法に適した構造例を示す図である。
図9(A)に示すように誘電体を平板状の基準領域b0と凸部としての矩形領域b1, b2, b3, ..., bMとに分割すると、端部における矩形領域b1, bMが有限とならないような場合が起こり得る。そこで、図9(B)に示すように誘電体を平板状の基準領域b0と凹部としての有限の矩形空間b1, b2, b3, ..., bMとに分割すれば、差分界境界要素法による計算を繰返すことによって誘電体の散乱電磁界を求めることができる。
(第3の実施の形態)
第3の実施形態における散乱波計算システムでは、構造特定部及び電磁界計算部の詳細機能が第1の実施形態における散乱波計算システム1と異なる。このため、第3の実施形態における構造特定部及び電磁界計算部の詳細機能についてのみ説明する。
第3の実施形態における散乱波計算システムの構造特定部は、散乱電磁界の計算対象となる誘電率が一定でない誘電体の領域を、平板状の基準領域と、互いに交差しない複数の有限領域とを合成した領域として表す機能を有する。このため、第3の実施形態における電磁界計算部は、互いに異なる複数の誘電率を有する誘電体に電磁波を入射させた場合に生じる散乱波によって形成される電磁界を求めるように構成される
互いに異なる複数の誘電率を有する誘電体の代表例としては、フォトリソグラフィに使用されるレチクルが挙げられる。そこで、ここではレチクルに電磁波を入射させた場合に生じる散乱波によって形成される電磁界を求める場合について説明する。
図10は、第3の実施形態における散乱波計算システムにおいて散乱電磁界の計算対象となるレチクルの構造例を示す断面図である。
レチクル20は、平板状のガラス基板21上に金属薄膜22を蒸着し、金属薄膜22に複数の開口部23を設けて構成される。開口部23の長さ及び間隔は不規則であり、開口部23ではガラス基板21の表面が露出している。ガラス基板21と金属薄膜22の誘電率は互いに異なる。従って、レチクル20は、2つの誘電率を有する2層の半無限の誘電体板とみなすことができる。
そこで、2層の誘電体構造を有するレチクル20の散乱電磁界についても第1又は第2の実施形態と同様に計算することができる。すなわち、レチクル20を基準領域と複数の有限領域の合成領域として表し、単一又は複数の有限領域を基準領域に追加しながら差分界境界要素法による計算を繰返すことによって、散乱電磁界をベクトル場として計算することができる。
ここでは、計算容易化のためにレチクル20の各開口部23をそれぞれ空間で構成される有限領域とし、有限領域を1つずつ平板状の基準領域に追加する場合を例に説明する。
図11は、第3の実施形態における電磁界計算部による散乱電磁界の計算方法を説明する図である。
各開口部23をそれぞれ基準領域b0に順次追加する有限領域b1, b2, b3, ..., bMとすると、基準領域b0は図11(A)に示すように誘電率が厚さ方向に2値の2層の平板状の領域となる。従って、開口部23がない場合の位置rにおける電磁界分布f(r)は、ガラス、金属薄膜及び空気の3層の誘電体多層膜によって生じる電磁界分布に相当する。
誘電体多層膜によって生じる電磁界分布f(r)は任意の手法によって計算することができる。計算量及び精度の観点からは、例えば透過行列法による計算が適している。
次に、図11(B)に示すように、1番目の開口部23が有限領域b1として基準領域b0に追加される。また、境界積分の積分経路として、ガラス基板21と金属薄膜22と間における所定の長さの境界C0、ガラス基板21と有限領域b1(開口部23)との境界C1、有限領域b1と金属薄膜22との境界C2、有限領域b1の表面境界C3及び基準領域b0(金属薄膜22)の表面境界C4が定義される。すなわち、境界C0、C4の長さは積分範囲に応じて設定される。すなわち、有限領域b1から十分遠方の境界が無視される。
更に、領域S1が、ガラス基板21内の積分範囲となる領域、領域S2が、金属薄膜22内の積分範囲となる領域、領域S3が、基準領域b0外部において積分範囲となる領域、領域S4が、追加対象となる矩形空間b1内の領域としてそれぞれ定義される。
そうすると、定義された各境界C0, C4上における差分電磁界及び各境界C1, C2, C3上における電磁界は、式(7)に示す積分方程式を解くことによって求めることができる。
また、式(7)によって算出された各境界C0, C4上における差分電磁界及び各境界C1, C2, C3上における電磁界を用いて式(8)により矩形空間b1の外部の任意の位置rにおける差分電磁界f1(r)及び矩形空間b1の内部における電磁界を計算することができる。
そして、矩形空間b1の追加によって生じる差分電磁界f1(r)と基準領域b0によって生じる電磁界分布f(r)とが加算される。そして、電磁界分布f(r)が差分電磁界f1(r)との加算値に更新される。これにより、図11(B)に示すような基準領域b0に矩形空間b1を追加した領域によって形成される電磁界分布f(r)を求めることができる。
続いて同様に、2番目以降の有限領域biが順次追加される。そして、同様な流れで追加された有限領域biに対応する差分電磁界fi(r)の計算及び差分電磁界f1(r)と電磁界分布f(r)との加算による電磁界分布f(r)の更新が繰り返される。
但し、基準領域b0の誘電率が2値である場合には、積分範囲に追加済の有限領域biが含まれるか否かによって積分方程式等の計算式が異なる。そこで、積分範囲に追加済の有限領域biが含まれるか否かが電磁界計算部において判定される。その結果、図11(C)に示すように積分範囲に既に追加済の有限領域bi-1が含まれない場合と、図11(D)に示すように積分範囲に既に追加済の有限領域bi-1が含まれる場合に場合分けすることができる。
この場合分けのための判定処理は、任意のアルゴリズムによって行うことができる。例えば、積分範囲の長さを閾値として有限領域bi間の距離を閾値と比較する閾値処理によって場合分けを行うことができる。
図11(C)に示すようにガラス基板21と金属薄膜22との間において所定の長さの境界C0を設定できる場合、つまり境界C0が隣接する有限領域bi-1に跨らない場合には、上述した計算式で計算を行うことができる。一方、図11(D)に示すように、隣接する有限領域bi-1の存在によって積分範囲ガラス基板21と金属薄膜22との間における境界C0が3つ以上存在する場合には、上述した計算式で計算を行うことができない。また、ガラス基板21と金属薄膜22との間における境界C0が積分範囲の端部とならない場合も同様である。
すなわち、図11(D)に示すようにガラス基板21と金属薄膜22との間における有長の境界C0が隣接する有限領域bi-1に跨がる場合には、積分方程式等の計算式が異なる式となる。従って、有限領域biに対応する差分電磁界fi(r)を求める計算式を、境界及び境界で囲まれる領域に対応する計算式とすることが必要である。例えば、図11(C)に示す領域S2が図11(D)に示す例では、領域S2aと領域S2bとに分断されている。従って、差分電磁界fi(r)を求めるための計算式は、各領域S2a, S2bを囲む領域別の積分方程式及び積分を用いた式となる。
ガラス基板21と金属薄膜22との間における境界C0が隣接する有限領域bi-1に跨がる場合には、積分経路の種類が増えるだけで、計算量は境界C0が有限領域bi-1に跨がらない場合とほぼ同じである。また、境界C0が追加済の複数の有限領域bi-1, bi-2, bi-3, ...と跨がる場合においても、同様に境界要素及び境界で囲まれる領域を定義し、対応する計算式で計算することができる。
基準領域b0が2値の誘電率を有する場合には、このような判定処理及び境界に応じた計算式による差分電磁界fi(r)の算出が繰返される。また、基準領域b0が多値の誘電率を有する場合においても、同様に誘電率の数に応じた判定処理及び計算式を用いて有限領域biに対応する差分電磁界fi(r)を順次計算することができる。
そして、最後の有限領域bMについての計算が終了すると、図11(E)に示すような目的とする不規則な複数の開口部23を有するレチクル20により生じた散乱電磁界分布ftotal(r)を求めることができる。
尚、金属薄膜22をそれぞれ複数の凸形状の有限領域とし、金属薄膜22で構成される有限領域を平板状の基準領域に順次追加する計算を行ってもよい。この場合には、基準領域の誘電率と有限領域の誘電率が互いに異なる値となる。従って、誘電率が異なる場合に対応する積分方程式を解けばよいことになる。また、計算式は第1の実施形態の計算式を誘電率が2値である場合に書換えた式となる。
このように第3の実施形態における散乱波計算システムによれば、単一の誘電率を有する誘電体に限らず、複数の誘電率を有する有限又は半無現の誘電体であっても散乱電磁界を計算することができる。
このため、第3の実施形態における散乱波計算システムによれば、従来手法では困難であったフォトリソグラフィの結像シミュレーションを良好な精度で高速に行うことができる。すなわち、半導体産業において重要なフォトリソグラフィに使用されるレチクル20に電磁波を入射させた場合に生じる散乱波によって形成される電磁界を良好な精度で求めることができる。
特に、従来の差分界境界要素法による計算では、単一の開口部によって生じる差分電磁界と、基準領域によって生じる電磁界とを加算することによって散乱電磁界が計算される。ここで、仮に全ての開口部によって生じる差分電磁界を計算して基準領域によって生じる電磁界と加算しようとすると、開口部による散乱の効果が微弱な場合には、差分電磁界と差分電磁界の加算対象となる電磁界との間に大きさ強度差が生じる。このため、従来の差分界境界要素法による計算を1回行う方法では、微弱な散乱光成分が欠落し、結像パターンが正確に求められない場合がある。
これに対し、第3の実施形態における散乱波計算システムによれば、強度が相対的に大きい電磁界f(r)と強度が微弱な差分電磁界fi(r)とが個別に計算される。従って、微弱な散乱光成分を正確に反映させた結像パターンを求めることができる。この結果、微細化が進むフォトマスクを、より小さい誤差となるように設計したり、フォトマスクの設計時間を短縮することが可能となる。そして、半導体の微細加工技術を発展させることができる。
尚、第3の実施形態においても基準領域b0及び各有限領域b1, b2, b3, ..., bMを3D領域として扱うことができる。その場合、レチクル20の開口部23又は金属薄膜22を閉曲面で囲まれる各有限領域b1, b2, b3, ..., bMとして散乱電磁界を計算することができる。
また、第3の実施形態における散乱電磁界のシミュレーションを、フォトマスクに混入した異物や欠陥の検出に用いることもできる。具体的には、異物や欠陥が存在する領域の誘電率及び位置を複数通り仮定してそれぞれ散乱電磁界を求め、各散乱電磁界と異物や欠陥が存在する状態とを関連付けることができる。そうすると、実物のフォトマスクの散乱電磁界の実測値と散乱電磁界のシミュレーション結果とを比較することによって異物や欠陥の存在や位置を推測することができる。
(第4の実施の形態)
第4の実施形態における散乱波計算システムでは、構造特定部及び電磁界計算部の詳細機能が第1の実施形態における散乱波計算システム1と異なる。このため、第4の実施形態における構造特定部及び電磁界計算部の詳細機能についてのみ説明する。
第4の実施形態における散乱波計算システムの構造特定部は、散乱電磁界の計算対象となる誘電体の領域を、平板状でない形状を有する基準領域と、互いに交差しない複数の有限領域とを合成した領域として表す機能を有する。このため、第4の実施形態における電磁界計算部は、平板状でない形状を有する基準領域に誘電体の一部又は空間で構成される複数の有限領域を順次追加しながら差分界境界要素法による計算を繰返す機能を備えている。
散乱電磁界を求めるために平板状でない形状を有する基準領域を定義することが好適な誘電体の代表例として、回折格子が挙げられる。そこで、ここでは電磁界計算部が回折格子に電磁波を入射させた場合に生じる散乱波によって形成される電磁界を求める場合について説明する。
図12は、第4の実施形態における散乱波計算システムによる回折格子からの散乱電磁界の計算方法を説明する図である。
図12(A)は、矩形の回折格子30の断面図である。図12(A)に示す回折格子30には、不規則な異物及び欠陥の例としてそれぞれ単純な形状の誘電体及び空間が付加されている。例えば、最も左側の凸形状部分には、半円形状の異物31Aが、左から2番目の凸形状部分の右側には、三角形状の異物31Bが、それぞれ付加されている。また、最も左側の凹形状部分には、半円形状の欠陥32Aが、左から2番目の凸形状部分の左側には、三角形状の欠陥32Bが、それぞれ付加されている。
図12(A)に示す回折格子30のように、周期性を持って同じ形状を繰返す構造を有する誘電体又はそのような誘電体に形状変化を付与した誘電体が散乱電磁界の計算対象である場合には、周期性を持って繰返す構造を基準領域b0とすることが好適である。
そこで、図12(B)に示すように、構造特定部は、理想的な回折格子30の周期構造を基準領域b0として定義する。すなわち、一定の長さ及び間隔で一定の高さの矩形の凹凸が繰返される理想的な回折格子30の領域が基準領域b0として定義される。
次に、構造特定部は、対象となる回折格子30の表面の境界と、基準領域b0とによって囲まれる閉領域を抽出する。この結果、回折格子30の異物31A、31B及び欠陥32A,32Bは、複数の有限領域b1, b2, b3, ..., bMとして回折格子30から分離される。
次に、電磁界計算部は、いずれの有限領域b1, b2, b3, ..., bMも付加されていない基準領域b0、つまり異物及び欠陥のない理想的な回折格子30により生じる散乱電磁界を計算する。回折格子30は、周期的な構造を有する。このため、回折格子30の周期境界条件を適用した厳密結合波解析法等の従来の手法により、回折格子30のサイズが無限大であっても容易に基準領域b0に対応する電磁界f(r)を求めることができる。
次に、図12(C)に示すように、異物31Aに対応する1番目の有限領域b1が基準領域b0に付加される。そうすると、1番目の有限領域b1は、基準領域b0に追加された誘電体の凸部となる。従って、第1の実施形態と同様な手法で積分経路及び領域を定め、差分界境界要素法により1番目の有限領域b1に対応する差分電磁界f1(r)を計算することができる。
すなわち、図12(C)に示すように、所定の長さを有する基準領域b0の表面境界C0、基準領域b0と1番目の有限領域b1との間における境界C1及び1番目の有限領域b1の表面境界C2が積分経路として定義される。また、基準領域b0内の領域S1、誘電体の外部領域S2及び有限領域b1内の領域S3が定義される。基準領域b0の表面境界C0は、必要な計算精度に応じて決定される。
そして式(1)及び式(2)により差分電磁界f1(r)を計算することができる。求められた差分電磁界f1(r)は、基準領域b0に対応する電磁界f(r)に加算され、電磁界f(r)が更新される。この結果、電磁界f(r)は、基準領域b0に1番目の有限領域b1を付加した領域、つまり理想的な回折格子に異物31Aのみが追加された領域により生じる電磁界となる。
続いて、図12(D)に示すように、欠陥32Aに対応する2番目の有限領域b2が基準領域b0に1番目の有限領域b1を合成した領域に付加される。そうすると、2番目の有限領域b2は、基準領域b0に有限空間として追加された誘電体の凹部となる。従って、第2の実施形態と同様な手法で積分経路及び領域を定め、差分界境界要素法により2番目の有限領域b2に対応する差分電磁界f2(r)を計算することができる。
すなわち、図12(D)に示すように、所定の長さを有する基準領域b0の表面境界C0、2番目の有限領域b2の表面境界C1及び基準領域b0と2番目の有限領域b2との間における境界C2が積分経路として定義される。また、基準領域b0内の領域S1、基準領域b0の外部領域S2及び2番目の有限領域b2内の領域S3が定義される。
そして式(5)及び式(6)により差分電磁界f2(r)を計算することができる。求められた差分電磁界f2(r)は電磁界f(r)に加算され、電磁界f(r)が更新される。この結果、電磁界f(r)は、基準領域b0に1番目及び2番目の各有限領域b1, b2を付加した領域、つまり理想的な回折格子に異物31A及び欠陥32Aのみが追加された領域により生じる電磁界となる。
更に同様に有限領域biの追加、差分電磁界fi(r)の計算及び差分電磁界fi(r)の電磁界f(r)への加算が繰返される。これにより、図12(A)に示す構造を有する回折格子30により生じる散乱電磁界分布ftotal(r)を求めることができる。
尚、有限領域b1, b2, b3, ..., bMの形状を適切に定義することによって回折格子30以外の周期構造を有する誘電体からの散乱電磁界を計算することも可能である。例えば、三角形の異物31B又は欠陥32Bを有限領域b3, b4として定義することによってメサ構造の散乱電磁界を計算することができる。
このような第4の実施形態における散乱波計算システムによれば、異物、欠陥、製造誤差等の特異な形状が不規則に付加した回折格子等の周期構造を有する誘電体からの散乱電磁界を現実的なデータ処理量で高精度に計算することができる。このため、散乱波計算システムを回折格子等の光学素子における異物や欠陥の検出に利用できる。
すなわち、光学素子に異物や欠陥が存在する典型的な複数の条件で散乱電磁界をシミュレートし、異物や欠陥の影響による散乱電磁界の変化を調べることができる。そして、実際に製造された光学素子の散乱電磁界とシミュレーション結果とを比較することにより、異物や欠陥の位置及び大きさを検出することができる。
理想的な回折格子の回折波は従来手法の1つである厳密結合波解析によって計算することもできる。一方で、回折格子に異物や欠陥が付着または混入した場合、回折格子の回折特性がどのように劣化するかという性質を解析するニーズがある。しかしながら、不規則な異物や欠陥の混入によって回折格子の構造の周期性が失われると、厳密結合波解析を適用することができなくなる。
また、欠陥を有する回折格子の解析に従来のFDTD法を適用し、計算範囲を欠陥付近の領域に限定すると、計算範囲の大きさによって回折格子からの回折波が変動する。このため、欠陥を有する回折格子の解析にFDTD法を用いると、計算範囲の限定による影響が生じ、回折格子からの回折波を正確に求めることが困難となる。
これに対して、第4の実施形態における散乱波計算システムによれば、上述したように不規則な異物や欠陥を含む、構造の空間的周期性が乱れた回折格子からの回折波であっても短時間で高精度に計算することができる。
尚、回折格子上に異物等の異常個所がM個ある場合について、従来の差分界境界要素法で散乱電磁界を計算しようとすると、離散化する点の数をNとすれば、およそ(MN)3のオーダーの計算量を要する。これに対して、第4の実施形態における散乱波計算システムの場合には、MN3のオーダーの計算量になると見積もることができる。従って、従来の単純な差分界境界要素法による計算と比較すると、第4の実施形態における散乱波計算システムによれば、計算量を1/M2に低減することができる。
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
例えば、上記の随所において示唆したように、各実施形態における誘電体の分解方法及び散乱電磁界の計算方法を組み合わせることができる。例えば、第1の実施形態と第2の実施形態を組み合わせる場合には、単純に有限領域が誘電体の一部であるか空間であるかに応じて対応する計算式を使い分ければよい。そして、誘電体又は空間で構成される各有限領域に対応する差分電磁界を単純に加算すれば、目的とする構造を有する誘電体からの散乱電磁界を計算することができる。すなわち、誘電体の誘電率が一定であれば、第3の実施形態において説明したような積分範囲に応じた場合分けが不要である。
一方、誘電体の誘電率が一定でなければ、積分範囲内に同一の誘電率を有する閉じた領域が存在するか否かに応じて対応する積分方程式等の計算式を使い分ければよい。従って、第3の実施形態において示したような単純な2層の誘電体に限らず、多層の誘電体や誘電率の異なる異物が局所的に付着又は内部に混入した誘電体であっても、各誘電率が既知である限り条件に応じた計算式を用いて散乱電磁界の計算を行うことができる。
尚、誘電体が多層の場合には、異物が誘電体のいずれかの層と同じ材質からなる場合が多い。従って、異物の誘電率を誘電体のいずれかの層の誘電率と仮定することができる。このため、散乱波計算システムを、異なる誘電率を有する異物の付着や混入の検出に役立てることができる。
図13は、本発明の一実施形態に係る散乱波計算システムにより単一の誘電率を有する第1の誘電体に異なる誘電率を有する第2の誘電体が部分的に埋め込まれた場合における散乱電磁界の計算方法を説明する断面図である。
図13(A)に示すように半無限の板状の第1の誘電体40に円柱状の第2の誘電体42の下半分が埋め込まれた単純なケースを例に説明する。この場合、図13(B)に示すように、第1の誘電体40に第2の誘電体42が埋め込まれていない平坦な半無限の矩形領域を基準領域b0とする一方、円柱状の第2の誘電体42を有限領域b1と定義することができる。
従って図13(A)に示すように第1の誘電体40の所定の長さの表面境界をC0、基準領域b0と第2の誘電体41との交線に相当する境界をC1、第2の誘電体41の表面境界をC2、第1の誘電体40と第2の誘電体41との間における境界をC3、第1の誘電体40内の積分範囲内における領域をS1、第1の誘電体40及び第2の誘電体42の外部の積分範囲内における領域をS2、第2の誘電体41の内部の領域をS3として定義することができる。
この場合、式(1)に対応する積分方程式は、式(9)となる。
また、式(3)に対応する積分表現を含む式は、式(10)となる。
図14は、本発明の一実施形態に係る散乱波計算システムにより単一の誘電率を有する第1の誘電体に異なる誘電率を有する第2の誘電体が完全に埋め込まれた場合における散乱電磁界の計算方法を説明する断面図である。
図14(A)に示すように半無限の板状の第1の誘電体40の内部に円柱状の第2の誘電体42が完全に埋め込まれた単純なケースについても一部が埋め込まれた場合と同様な方法で散乱電磁界を計算することができる。すなわち、図14(B)に示すように、第1の誘電体40に第2の誘電体42が埋め込まれていない平坦な半無限の矩形領域を基準領域b0とする一方、円柱状の第2の誘電体42を有限領域b1と定義することができる。
従って図14(A)に示すように第1の誘電体40の所定の長さの表面境界をC0、第1の誘電体40と第2の誘電体41との間における境界をC1、第1の誘電体40内の積分範囲内における領域をS1、第1の誘電体40及び第2の誘電体42の外部の積分範囲内における領域をS2、第2の誘電体41の内部の領域をS3として定義することができる。
この場合、式(9)に対応する積分方程式は、式(11)となる。
また、式(10)に対応する積分表現を含む式は、式(12)となる。
図13及び図14において複数の第2の誘電体42が等間隔又は不等間隔に存在する場合には、それぞれ有限領域b1として順次追加し、同様な計算を行えばよい。そして、単一又は複数の第2の誘電体42を異物と仮定すれば、散乱電磁界のパターンを参照することによって異物の検出を支援することができる。すなわち、シミュレートされた散乱電磁界と同様な傾向を示す散乱電磁界が測定された場合には、異物が存在すると判断することができる。
この他、積分方程式を含む計算式を適応させることによって、様々な条件を変えることができる。例えば、上述した各実施形態では、平面波として電磁波が誘電体に入射する場合について説明したが、球面波等の非平面波として電磁波が誘電体に入射する場合についても計算式を対応させることによって同様に散乱電磁界を計算することができる。
他方、誘電体についても球面、楕円面或いは円柱の側面等の曲面を表面形状とする基準領域b0を定義することができる。このため、レンズ等の光学素子に生じた欠陥の検出等に上述した散乱波計算システムを適応させることができる。
また、上述したように、誘電率が一定であるか複数の誘電率を有するかを問わず、基準領域及び有限領域を2D領域又は3D領域として扱うことができる。3D領域を定義して散乱電磁界を計算する場合には、3Dの基準領域と互いに交差しない複数の3Dの有限領域とを合成した領域として誘電体の領域を表すこととなる。そして、誘電率が一定又は複数値の立体又は3D空間を、誘電率が一定又は複数値の3D基準領域に順次追加して差分電磁界を計算することとなる。
図15は、本発明の一実施形態に係る散乱波計算システムによる3D誘電体からの散乱電磁界の計算方法の一例を説明する斜視図である。
図15に示すように計算対象となる誘電体を、2軸方向に半無限の平板状の基準領域b0と複数の直方体の有限領域b1, b2, b3, ..., bMとに分解できる場合を例に説明する。これは、図4に示す例を3Dに拡張した場合に相当する。
3D領域からの散乱電磁界を計算する場合には、数式中の変数が全て3D電場ベクトル又は3D磁場ベクトルとなる。また、式(1)に対応する積分方程式及び式(3)に対応する積分表現を含む式は2重積分の式となる。従って、積分経路となる境界要素は、2Dの場合のように線要素ではなく面積要素となる。
具体例として、図15に示すように、2番目の有限領域b2を追加して計算を行う場合であれば、1番目の有限領域b1を基準領域b0に追加して得られる所定の広さの3D領域の表面をC0、1番目の有限領域b1を基準領域b0に追加して得られる3D領域と有限領域b2との界面をC1、有限領域b2の表面をC2としてそれぞれ定義することによって積分方程式を含む計算を行うことができる。この場合、各境界面C1, C2, C3及び積分範囲で区分けされる各領域についてもパラメータを用いてそれぞれ定義されることとなる。
上述のような例の他、散乱電磁界の計算対象となる実際の誘電体の構造を厳密に模擬して基準領域及び複数の有限領域を定義せずに、近似的に基準領域及び複数の有限領域を定義するようにしてもよい。例えば、散乱電磁界への影響が相対的に小さいと判断できる有限領域を無視して散乱電磁界を計算することもできる。この場合、散乱電磁界の計算に要する時間を短縮することができる。散乱電磁界への影響が相対的に小さいか否かの判断は、有限領域の誘電率、面積、体積、境界長、形状等の散乱電磁界に対する寄与度を示す指標に対する閾値処理によって画一的に行うことができる。
従って、電磁界計算部が、ある有限領域についての散乱電磁界への寄与度を示す指標が閾値未満又は閾値以下となる場合には、その有限領域の追加によって生じる差分電磁界を加算せずに散乱電磁界を求めるようにすればよい。これは、構造特定部が、散乱電磁界への寄与度を示す指標が閾値以上となる又は閾値を超える複数の有限領域を用いて近似的に誘電体の領域を基準領域と複数の有限領域とを合成した領域として表すようにすることと実質的に同じである。このような閾値処理により、誘電体表面における僅かな凹凸を省略してより高速に散乱電磁界を計算することが可能となる。
そして、上述したような様々な条件に散乱波計算システムを適応させることによって、レチクル、回折格子、基板上に加工された光導波路、粗面からの光散乱、生体組織等の様々な構造を有する誘電体からの散乱電磁界を、必要な精度で短時間に計算することができる。
尚、散乱波計算システムは、入射させる電磁波の波長程度又は電磁波の波長以下の微細な構造を有する誘電体により生じる散乱波の電磁界を計算する場合に特に有用性が高い。但し、入射させる電磁波の波長に対して十分に大きい構造を有する誘電体であっても散乱波計算システムにより散乱波の電磁界を計算することができる。