JP5988455B2 - 新規乳酸菌 - Google Patents

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Description

本発明は、優れた乳酸生成能および高温耐性を有する新規乳酸菌およびその使用に関する。
乳酸菌は様々な機能を有していることが知られており、生ゴミ・汚泥などの堆肥原料の発酵させる堆肥化や食品加工、医療など、産業や工業上の様々な場面で利用されている。
これまでにも、例えば、特許文献1には、生ゴミを乳酸菌によって乳酸発酵させて乳酸を生成させる工程を含んだ肥料の製造方法が開示されている。
また、動物体内の病原菌に対し免疫増加作用を有する乳酸菌等も報告されている(特許文献2)。
しかしながら、これまでに高温耐性を有する乳酸菌は知られておらず、乳酸菌は一般的に高温に弱いことが知られている。そのため、乳酸菌を食品や医薬品の有効成分としたり、乳酸菌を様々な用途において(例えば、堆肥化など)プロセスの一部として使用したりする場合、温度制御が不可欠であるとされていた。通常の乳酸菌の至適温度は約30〜35℃とされており、食品加工などの現場では、雑菌などが混入した際にその雑菌が繁殖して食品が汚染されるリスクがある。
温度耐性を有するとされている下記特許文献2記載の乳酸菌も、図1を見れば、45℃付近で繁殖力が約半分となっており、50℃ではほぼ繁殖ができていない。
特許3438025号公報 特許4471355号公報
そこで本発明は、優れた乳酸生成能を有し、かつ高温耐性を有する新規な乳酸菌の菌株を提供することを目的とする。更に、本発明は、上記菌株の使用する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、日本の堆肥に含まれていた多種の乳酸菌の中から、優れた乳酸生成能を有し、かつ非常に優れた高温耐性を有する新規な菌株を見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に改良を重ねることにより完成したものである。
即ち、本発明に係る乳酸菌株は、乳酸生成能を有し、60℃でも死滅しない高温耐性を有する新規乳酸菌である。
このような本発明の乳酸菌を用いることにより、乳酸菌をより効率よく安全に様々な場面で利用することが可能となる。例えば、食品加工に用いる場合は、高温で処理することが可能となるので、食品汚染のリスクを低減できる。また、乳酸菌を用いた有機廃棄物の堆肥化等のプロセスにおいては、高温域でも生育する本発明の乳酸菌を用いることで、廃棄物分解プロセスを短縮することができる。
よって、本発明の乳酸菌によれば、従来の乳酸菌の用途をさらに広げることが可能となると考えられる。
図1は、試験例3の実施例の結果を示す写真である。 図2は、試験例3の比較例の結果を示す写真である。
以下、本発明を具体的な実施形態を示して詳細に説明する。
<乳酸菌>
本実施形態における乳酸菌は、乳酸生成能を有し、60℃でも死滅しない高温耐性を有することを特徴とする。
本実施形態において、乳酸生成能とは、グルコース、フルクトース、スクロースなどの糖類を発酵源として、乳酸(および酢酸)を生成する性能をさす。
また、60℃でも死滅しない高温耐性とは、60℃の条件下、約2時間曝されても死滅しないことをいう。死滅とは高温処理を行った後、微生物に適した培地・温度で培養した際に微生物が増殖できない状態となる事を言う。
なお、本発明の乳酸菌を有機物などの堆肥化に使用する場合は、上記の「60℃の条件下」は「60℃で有機物の堆肥化が進行している条件下」である。また、本発明の乳酸菌を有機物の減容、例えば、有機系廃棄物のゴミの減容に使用する場合は、上記の「60℃の条件下」は「60℃で有機物の減容が進行している条件下」である。
本実施形態に係る乳酸菌は、65℃でも死滅しない高温耐性を有することが好ましく、さらには70℃でも死滅しない高温耐性を有することが好ましい。
このような高温耐性を有する乳酸菌を用いることにより、堆肥化や食品加工のプロセスにおいて、乳酸菌を使用できる場面が増えると考えられる。従来から食品加工に多く用いられているペディオコッカス菌やラクトバチルス菌においては、このような高温耐性は知られていないため、本実施形態の乳酸菌は非常に有用である。
さらに、本実施形態における乳酸菌は、酸性条件に強く、pH4においても生存可能である。
このような乳酸菌としては、ペディオコッカス・アシディラクティシ TT12−G5菌株、ペディオコッカス・アシディラクティシ TT12−PG2菌株、ラクトバチルス・ファーメンタム TT12−18h1菌株、ラクトバチルス・ラムノサス TT12−S1菌株、ラクトバチルス・ゼアエ TT12−S4菌株、ラクトバチルス・カゼイ TT12−18h4菌株又はそれらの変異株から選択される。いずれの菌株も従来から安全性が確立されているペディオコッカス菌やラクトバチルス菌の近縁種であるため、安全面においても優れている。
前記各乳酸菌株は、いずれも日本の堆肥から得られた乳酸菌であり、それぞれ、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されている。寄託番号は、ペディオコッカス・アシディラクティシ TT12−G5菌株(NITE BP−1430)、ペディオコッカス・アシディラクティシ TT12−PG2菌株(NITE BP−1431)、ラクトバチルス・ファーメンタム TT12−18h1菌株(NITE BP−1448)、ラクトバチルス・ゼアエ TT12−S4菌株(NITE BP−1433)、ラクトバチルス・ラムノサス TT12−S1菌株(NITE BP−1432)、ラクトバチルス・カゼイ TT12−18h4菌株(NITE BP−1429)である。
本実施形態の乳酸菌のITS領域の塩基配列は、ペディオコッカス・アシディラクティシ TT12−G5菌株については配列番号1、ペディオコッカス・アシディラクティシ TT12−PG2菌株については配列番号2、ラクトバチルス・ファーメンタム TT12−18h1菌株については配列番号3、ラクトバチルス・ラムノサス TT12−S1菌株については配列番号4、ラクトバチルス・ゼアエ TT12−S4菌株については配列番号5、ラクトバチルス・カゼイ TT12−18h4菌株については配列番号6に示す通りである。
これら本実施形態に係る乳酸菌及びそれらの変異株は、優れた乳酸生成能および高温耐性を有するため、高温下での製品やプロセスに用いることが可能であり、従来の乳酸菌の用途をさらに広げ、かつプロセスの効率も向上させることが可能となると考えられる。これらの乳酸菌の中には、80℃という高温に2時間さらしても生存しているという極めて優れた高温耐性を有している菌株も存在する。
以下、本実施形態に係る菌株について、それぞれが上述した特徴以外に有する特徴を述べる。
(TT12−G5菌株およびTT12−PG2菌株)
・細胞形状:双球菌
・コロニー形状:円形、平滑
・コロニー色:乳白色
TT12−G5菌株およびTT12−PG2菌株は、グルコースを利用して乳酸を、フルクトースを利用して酢酸を生成する。いずれの菌株も、ホモ乳酸発酵を行うことで知られているペディオコッカス菌の近縁種であるが、本実施形態に係るTT12−G5菌株およびTT12−PG2菌株はヘテロ発酵を行うという特性を有する。
また、TT12−G5菌株およびTT12−PG2菌株は、生育温度については30℃〜60℃であり、至適温度は50℃である。すなわち、50℃において、代謝活性(発酵)を示して、かつ生育するという特徴を有する。このように高い温度において活性を示す乳酸菌はないため、TT12−G5菌株およびTT12−PG2菌株は堆肥化や食品加工など様々な用途に応用することが可能である。
さらに、TT12−G5菌株およびTT12−PG2菌株は、リン酸カルシウムを溶解する有機酸を分泌するという特徴を有する。これにより、動物の骨の主成分であるハイドロキシアパタイトを分解することができる。
なお、肥料の主成分の一つであるリンは枯渇が懸念されている資源であり、リン資源の有効利用が求められている。動物性の骨など(リン酸カルシウム)は、通常、脱油・乾燥・粉砕を行って肥料として利用されているが、リンは難溶性であるため、これまでの堆肥化などにおいては、分子レベルまでの分解が困難である事から有効利用されてこなかった。
本実施形態の乳酸菌は、上記の通りリン酸カルシウムを溶解する酸を分泌するため、従来の有機性廃棄物分解に比べて、処理できる廃棄物の品目を増やすことも可能である。
さらに、TT12−G5菌株およびTT12−PG2菌株は、酸性条件に非常に強く、pH1付近においても生存することができる。
(TT12−18h1菌株)
・細胞形状:双球菌
・コロニー形状:円形、平滑
・コロニー色:乳白色
TT12−18h1菌株は、グルコース、フルクトース、またはスクロースを利用して乳酸および酢酸を生成する。
また、TT12−18h1菌株は、生育温度については30℃〜50℃であり、至適温度は40℃である。
さらに、TT12−18h1菌株は、フルクトースを基質とした場合に、リン酸カルシウムを溶解する酸を分泌するという特徴を有する。これにより、動物の骨の主成分であるハイドロキシアパタイトを分解することができる。
(TT12−S1菌株およびTT12−S4菌株)
・細胞形状:桿菌
・コロニー形状:円形、少しざらざらしている
・コロニー色:乳白色
TT12−S1菌株およびTT12−S4菌株は、グルコースを利用して乳酸を生成するが、その乳酸生成能は非常に高い。
また、TT12−S1菌株およびTT12−S4菌株は、生育温度については30℃〜50℃であり、至適温度は40℃である。
さらに、TT12−S1菌株およびTT12−S4菌株も、リン酸カルシウムを溶解する酸を分泌するという特徴を有する。これにより、動物の骨の主成分であるハイドロキシアパタイトを分解することができる。
(TT12−18h4菌株)
・細胞形状:桿菌
・コロニー形状:円形、平滑
・コロニー色:乳白色
TT12−18h4菌株は、グルコースを利用して乳酸を生成するが、その乳酸生成能は非常に高い。
また、TT12−18h4菌株は、生育温度については30℃〜50℃であり、至適温度は40℃である。
(培養)
本実施形態の各乳酸菌は、生育温度を除いて、それぞれ従来公知のペディオコッカス菌、ラクトバチルス菌の場合と同様の培地及び培養条件で生育することができる。
具体的には、例えば、培養培地としては、BCP加寒天培地(酵母エキス 2.5g、ペプトン 5.0g、ブドウ糖 1.0g、ポリソルベート80 1.0g、L−システイン 0.1g、ブロムクレゾールパープル 0.06g、カンテン 15.0g蒸留水 1L)等を用いることができる。
本実施形態の乳酸菌は付着性を有するので、液体培地よりも固体培地を用いる方が、増殖率が向上するために好ましい。例えば、活性炭などの多孔質資材のような付着する足場があれば、固体培養でなくとも利用可能である。
好気性条件でも培養することはできるが、嫌気性条件下で培養することが好ましい。また、培養(生育)温度は、上述の通り、菌株によって若干異なるが、いずれも一般的な乳酸菌より高い温度で培養する。培養期間はいずれも1〜2日間で良好に生育させることができる。
本実施形態の乳酸菌は嫌気性条件下では、pH4.0〜8.0で生育しうるが、pHが低すぎると、微生物の生理活性機能が低下するという理由で生育できなくなるおそれがある。また、pHが高すぎると乳酸菌以外の嫌気性微生物が増殖しやすい環境になるという理由で生育できなくなる傾向がある。よって、好適にはpH6.0〜7.5、特に好ましくはpH6.8〜7.0程度の条件で培養することが望ましい。
また、本実施形態に係る乳酸菌には、ペディオコッカス・アシディラクティシ TT12−G5菌株、ペディオコッカス・アシディラクティシ TT12−PG2菌株、ラクトバチルス・ファーメンタム TT12−18h1菌株、ラクトバチルス・ラムノサス TT12−S1菌株、ラクトバチルス・ゼアエ TT12−S4菌株、ラクトバチルス・カゼイ TT12−18h4菌株の変異株も包含される。当該変異株は、例えば、前記乳酸菌を公知の変異処理に供すること、又は本実施形態に係る乳酸菌の経代培養による適応、自然変異等により作成され得る。
<乳酸菌の用途・利用方法>
上述したような本実施形態に係る乳酸菌及びその変異株は、様々な用途に用いることができる。
これまでの乳酸菌よりも高温にて生育が可能であり、かつ活性を失わないため、食品加工において有用である。
また、リン酸カルシウム分解能を有するため、動物の骨などの難分解性有機物を含む有機廃棄物を、溶解、分解、発酵することができ、廃棄物を堆肥化する用途にも非常に有用である。また、本発明微生物は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンなどの繊維質も効率よく分解でき、竹やもみ殻などの繊維質を多く含む有機物を分解するのにも適している。一般的に、微生物を用いた堆肥化においては、いったん高温処理をした後、低温にして発酵させて堆肥化する。そして、一般的な乳酸菌は活性を示さないため、乳酸菌による分解が行われるのは低温になってからである。これに対し、本実施形態の乳酸菌は40〜50℃(高温領域)においても分解プロセスを行うことが可能であるため、有機廃棄物の分解時間を大幅に短縮できるという利点もある。
その他、当該微生物は本発明の微生物は、有機酸を分泌し、酸性環境でも有機物を効率的に分解できるものであり人の体内での整腸等の効果も発生しうる。よって、健康食品等の食品分野や、医薬品等の医療分野にも使用できる。
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
本発明の一局面に係る乳酸菌株は、乳酸生成能を有し、60℃でも死滅しない高温耐性を有する新規乳酸菌である。
このような本発明の乳酸菌を用いることにより、乳酸菌をより効率よく安全に様々な場面で利用することが可能となる。例えば、食品加工に用いる場合は、高温で処理することが可能となるので、食品汚染のリスクを低減できる。また、乳酸菌を用いた有機廃棄物の堆肥化等のプロセスにおいては、高温域でも生育する本発明の乳酸菌を用いることで、廃棄物分解プロセスを短縮することができる。よって、本発明の乳酸菌によれば、従来の乳酸菌よりも用途をさらに広げることが可能となると考えられる。
上記乳酸菌においては、ペディオコッカス・アシディラクティシ TT12−G5菌株(NITE BP−1430)、ペディオコッカス・アシディラクティシ TT12−PG2菌株(NITE BP−1431)、ラクトバチルス・ファーメンタム TT12−18h1菌株(NITE BP−1448)、ラクトバチルス・ゼアエ TT12−S4菌株(NITE BP−1433)、ラクトバチルス・ラムノサス TT12−S1菌株(NITE BP−1432)、ラクトバチルス・カゼイ TT12−18h4菌株(NITE BP−1429)又はそれらの変異株から選択される乳酸菌であることが好ましい。
さらに、本発明の他の局面においては、乳酸生成能を有し、60℃でも死滅しない高温耐性を有するという特性以外に、50℃以上で代謝活性を有する乳酸菌が包含される。このような特性を有することにより、上記本発明の効果がより発揮される。
このような乳酸菌としては、ペディオコッカス・アシディラクティシ TT12−G5菌株(NITE BP−1430)、ペディオコッカス・アシディラクティシ TT12−PG2菌株(NITE BP−1431)又はそれらの変異株から選択されることが好ましい。
また、上記特性に加え、リン酸カルシウムを溶解する酸を分泌する乳酸菌であることが好ましい。このような特性を備えることにより、動物の骨などの難分解性有機物を含む廃棄物を分解し、また、貴重な資源であるリンを利用することができる。
このような乳酸菌としてはペディオコッカス・アシディラクティシ TT12−G5菌株(NITE BP−1430)、ペディオコッカス・アシディラクティシ TT12−PG2菌株(NITE BP−1431)、ラクトバチルス・ファーメンタム TT12−18h1菌株(NITE BP−1448)、ラクトバチルス・ゼアエ TT12−S4菌株(NITE BP−1433)、ラクトバチルス・ラムノサス TT12−S1菌株(NITE BP−1432)、ラクトバチルス・カゼイ TT12−18h4菌株(NITE BP−1429)又はそれらの変異株から選択されることが好ましい。
上記乳酸菌は、有機物の堆肥化または食品加工に好適に用いられる。
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(試験例1)乳酸菌株のスクリーニングと選択菌株のHAPおよびタンパク質分解能
日本の堆肥に含まれる乳酸菌(ペディオコッカス菌およびラクトバチルス菌)を候補菌株として48菌株を単離した。単離は、乳酸菌を選択する培地を用いて培養することによって行った。
次に、単離した乳酸菌を遺伝し解析し、第1次スクリーニングを行った。具体的には、糸状菌のITS領域(Internal Transcribed Spacer領域)と呼ばれる特異性の高い領域の塩基配列を比較することで同定を行った。そして、分離源として用いた堆肥資料中の存在比率が多かった以下の8菌株を選択した。
ペディオコッカス・アシディラクティシ TT12−G5菌株、
ペディオコッカス・アシディラクティシ TT12−PG2菌株、
ラクトバチルス・ファーメンタム TT12−18h1菌株、
ラクトバチルス・ゼアエ TT12−S4菌株、
ラクトバチルス・ラムノサス TT12−S1菌株、
ラクトバチルス・カゼイ TT12−18h4菌株
バチルス・コアグランス BC1菌株
バチルス・スミシル BS1菌株
次に、1次選抜した8菌株において、微生物機能による有機物分解特性を観察することを目的に分解性試験(halo test)を実施した。一般的な対象分解物としてタンパク質(スキムミルク、和光純薬)、また、堆肥化反応の特徴である骨片の溶解を観察するためにハイドロキシアパタイト(Apatite HAP,monoclinic、和光純薬)を含む培地を作成した。培地の組成は以下の通りである。
酵母エキス 2.5g
ペプトン 5.0g
ブドウ糖 1.0g
ポリソルベート80 1.0g
L−システイン 0.1g
寒天 15.0g
スキムミルク 5g
または
HAP 0.5g
(pH7.0、1L)
なお、タンパク質分解性試験は以下のようにして行った:
1.スキムミルクを含む培地上に、微生物を塗布する。
2.プロテアーゼ活性のある微生物はスキムミルク(主にタンパク質)を分解し、透明帯を形成する。
3.形成された透明帯の大きさからタンパク質分解能力を評価する。
そして、骨成分分解性試験においては、スキムミルクを白色不溶粉末であるアパタイト(リン酸カルシウム、骨の主成分)に置き換えることで、骨の分解(酸による溶解)能力を評価した。
作成した寒天培地上に滅菌した吸収パッド(φ13mm,Millipore)を配置し、各候補菌株を含むPBS buffer(pH7.4)50μLを浸み込ませた。吸収パッドには108cells程度の微生物が含まれるように調製した。40℃または50℃で静置培養し、24時間後に分解帯(halo)の観察を行った。
結果を表1にまとめた。ネガティブコントロールとして菌体を含まないPBS buffer (pH7.4および4.0)を用いた。
Figure 0005988455
このようにHAP分解能およびタンパク質(スキムミルク)分解能を評価して、各乳酸菌サンプルの中で、高い分解能を示す乳酸菌株として、TT12−G5菌株、TT12−PG2菌株、TT12−18h1菌株、TT12−S4菌株、TT12−S1菌株及びTT12−18h4菌株を選択した。
(試験例2)乳酸および酢酸生成能
試験例1で選択した6菌株、及び、比較として用いた近縁株の乳酸および酢酸生成能を調べた。
比較対象とした近縁株は、分譲可能な近縁株で、本実施例に係る菌株の16rRNS遺伝子配列情報を基に遺伝子相同性が99%以上の分譲株を検索し、微生物寄託機関(ATCC、NBRC、JCM)から最近縁株を3つ選定した(Pediococcus acidilactici NBRC 12218、Lactobacillus fermentum JCM 1137及びLactobacillus reuteri JCM 8652)。分譲された凍結乾燥状態の菌株は、指定培地により復元したうえで用いた。
下記に示した培地成分中のHAPおよび寒天を除外した成分を用いて液体培地とした。培地はねじ口試験管内に入れ、気相を窒素ガスで十分に置換し密閉した。寒天培地上で増殖させた各微生物をPBS buffer(pH4.0)に均一に懸濁し、菌体数が10 cells/mlになるようにねじ口試験管に接種した。窒素ガスを用いて試験管内を陽圧(1.2気圧程度)にし、40℃または50℃にて振とう培養(120rpm)を行った。培養24時間後にサンプリングを行い、各種有機酸およびpHの測定を実施した。
(halo test の培地組成)
酵母エキス 2.5g
ペプトン 5.0g
ブドウ糖 1.0g
ポリソルベート80 1.0g
L−システイン 0.1g
寒天 15.0g
HAP 0.5g
(pH7.0、1L)
なお、本実施例に係る選択株については、グルコース以外に、堆肥中の糖類主成分であるスクロース及びフルクトースを用いた場合の乳酸および酢酸生成能についても調べたが、その場合、上記培地成分中のブドウ糖をそれぞれスクロースまたはフルクトースに代えて試験を行った。
乳酸、酢酸およびpHの測定結果を表2に示す。
Figure 0005988455
表中、定量下限値は50mg/Lであるため、それ以下の数値は参考定量値である。また、表中の「−」は、増殖不能であったため、測定値なし、あるいは未測定であることを示す。
(結果)
Pediococcus acidilacticiに近縁な単離菌株TT12−G5およびTT12−PG2はフルクトースを利用した場合に酢酸を生成し、さらにグルコース利用時に比べても乳酸の生成量が多いことが示された。一般的にPediococcus属はホモ乳酸発酵とされ、発酵産物としては乳酸のみを生成することが知られているが、本実施例のTT12−G5およびTT12−PG2は両株ともフルクトースの利用時に酢酸を生成した。また、両株とも50℃における乳酸生成量が多いことも示された。培養液のpHもグルコース利用時に比べ低くなっており、特に培養温度50℃においてフルクトースの有効性が高いと考えられる。
Lactobacillus fermentumに近縁な単離菌株TT12−18h1も同様にフルクトース利用時に乳酸生成量が多く、酢酸の生成も観察された。フルクトースの有効性が高いとともにスクロースでも有機酸発酵を進行させる能力があることが示された。
Lactobacillus rhamnosusに近縁な単離菌株TT12−S1は、酢酸生成能は低いが、フルクトース利用時の乳酸生成能が非常に高いことが示された。Lactobacillus zeaeに近縁な単離菌株TT12−S4に同様の傾向がある。
Lactobacillus caseiに近縁な単離菌株TT12−18h4はグルコースおよびスクロースではあまり有機酸生成能がなく、フルクトース利用時に高い乳酸生成能を示した。
単離乳酸菌6株のうち、スクロース利用性を示したのはLactobacillus fermentumに近縁な単離菌株TT12−18h1のみ、グルコース利用性を示したのはLactobacillus caseiに近縁な単離菌株TT12−18h4以外の5株、フルクトース利用性を示したのは全6株であり、生成乳酸量が高いのはフルクトース利用時であった。フルクトース利用時には、Pediococcus acidilacticiに近縁な単離菌株TT12−G5およびTT12−PG2およびLactobacillus fermentumに近縁な単離菌株TT12−18h1といった、堆肥中に優占的に存在する乳酸菌種によって酢酸が生成されている可能性が高いと推察される。
比較例であるPediococcus acidilactici NBRC 12218(分譲株)は、同じPediococcus acidilacticiであるTT12−G5およびTT12−PG2株と比較して、40℃では乳酸および酢酸の生成能を示したが、50℃では全く示さなかった。
また、同じく比較例であるLactobacillus fermentum JCM 1137及びLactobacillus reuteri JCM 8652(いずれも分譲株、入手:独立行政法人理化学研究所、バイオリソースセンター、微生物材料開発室より入手)は、実施例の菌株よりも乳酸あるいは酢酸生成能に劣っていた。
(試験例3)HAP分解能(骨成分分解性試験)
試験例1で選択した6菌株、及び、比較として用いた近縁株のHAP分解性能を調べた。
比較対象とした近縁株は、試験例2でも用いたPediococcus acidilactici NBRC12218およびLactobacillus fermentum JCM1137と、並びに、単離菌株の近縁種である一般的な乳酸菌として、Lactobacillus plantarum subsp.plantarum 1923 NRBC 3070を用いた。微生物寄託機関から分譲された凍結乾燥状態の菌株は、指定培地により復元したうえで試験に用いた。
骨成分分解性試験は試験例1と同様の方法で行った。結果を表3および図1〜2に示す。
Figure 0005988455
表中の「−」は、分解帯が形成されなかったためデータがないことを示す。
表3および図1より、実施例に係る選択菌株はいずれもhalo(分解帯)を形成しており、有効なHAP分解能を有していることがわかった。
また、表3から、Pediococcus acidilactici NBRC12218は50℃ではHAP分解能を示さなかったにも関わらず、本実施例のTT12−G5およびTT12−PG2は両株とも50℃においても40℃培養と同程度のHAP分解能を示すことがわかった。
Lactobacillus plantarum subsp. plantarum 1923 NRBC 3070はグルコースおよびフルクトース利用したときにHAP分解性を示したが、図2に示すように、形成されたhalo(分解帯)の透明度は不十分であるためHAP分解能力が低いことが示唆された。
(試験例4)骨分解試験
本実施例に係るTT12−G5菌株と、試験例3でも用いた近縁種である一般的な乳酸菌(Pediococcus acidilactici NBRC12218およびLactobacillus plantarum subsp. plantarum 1923 NRBC 3070)の、骨分解能を比較した。
下記に示す培地に、予め下処理し秤量した豚骨片を加えた。本培地を用いて上記対象微生物を40℃および50℃にて培養した。そして、培養24時間後における骨片の存在を確認し、秤量し被分解率を測定した。
なお、豚骨の前処理は以下のように行った。
まず、水道水で表面を洗浄後、豚骨を豆粒大(1〜2cm角大)を目安に破砕した。再度水道水で洗浄し内部の髄液等を除去した。100℃で30分煮沸し油分および蛋白分を除去した。水道水および蒸留水で洗浄し乾燥した。乾燥した骨片はオートクレーブ滅菌(121℃,20分)を行い、乾燥させた。滅菌済シャーレおよび滅菌済ピンセットを用いて骨片ごとの秤量を行った。また、分解試験後の秤量は、骨片を試験管から取り出し水道水で十分にすすぎ、十分に乾燥させた後に行った。
(培地組成)
酵母エキス 2.5g
ペプトン 5.0g
グルコース 1.0g
ポリソルベート80 1.0g
L−システイン 0.1g
(pH7.0、1L)
骨片の秤量結果と培養24時間後の培養液のpHおよび濁度(OD660)を、表4(40℃培養)および表5(50℃培養)に示す。
Figure 0005988455
Figure 0005988455
(結果)
豚骨片は、試験例3で用いた単結晶体であるHAPより難分解性であると思われるが、その重量の減少が観察された。このことにより微生物活性により骨片が溶解していることが強く示唆される。微生物のない条件においても若干の溶解が観察されているが、これは、洗浄乾燥した骨片中には完全に除去されなかったタンパク質等の物質が存在し、これらが、試験開始後に溶液(培地)中に溶解したためと考えられる。
培養温度40℃の試験では、微生物なしの場合3%程度の骨分解が観察されるのに対し、微生物を含んだ場合に5%以上の分解度が観察された。特に、本実施例に係るTT12−G5菌株は8%程度の分解度を示した。全ての微生物は良好に増殖していたことから、TT12−G5菌株の持つ骨の分解能力が他の微生物より高いことが示された。
一方、培養温度50℃の試験では、微生物なしの場合においても4%程度の骨分解が観察された。高温であるために溶液中への溶解が進行しやすいものと思われる。本実施例に係る菌株であるTT12−G5は40℃での試験同様に8%程度の分解度を示した。一方、他の微生物は増殖がなされず結果として分解度も微生物なしと変わりない結果であった。単離菌株TT12−G5の近縁種であるPediococcus acidilactici NBRC 12218は若干の増殖を示したが分解度は微生物なしと同程度であった。これらのことはTT12−G5菌株が高温環境下においても増殖能を維持し、骨分解に大きく寄与していることを裏付けるものである。
(考察)
以上の試験例の結果より、本実施例に係る選択菌株は、いずれも優れた乳酸および/または酢酸生成能を有し、かつ骨分解能を有していることが明らかとなった。さらに、一部の菌株においては、50℃という高温においても増殖能、乳酸および/または酢酸生成能並びに骨分解能を有していることがわかった。このように高温で活発な乳酸菌は従来の乳酸菌よりもさらに広い用途で使用することが可能となると考えられる。
本発明を表現するために、前述において図面等を参照しながら実施形態を通して本発明を適切かつ十分に説明したが、当業者であれば前述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易になし得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
本発明は、乳酸菌およびその利用に関する技術分野において、広範な産業上の利用可能性を有する。
Figure 0005988455
Figure 0005988455

Claims (5)

  1. ペディオコッカス・アシディラクティシ TT12−G5菌株(NITE BP−1430)、ペディオコッカス・アシディラクティシ TT12−PG2菌株(NITE BP−1431)、ラクトバチルス・ファーメンタム TT12−18h1菌株(NITE BP−1448)、ラクトバチルス・ゼアエ TT12−S4菌株(NITE BP−1433)、ラクトバチルス・ラムノサス TT12−S1菌株(NITE BP−1432)、ラクトバチルス・カゼイ TT12−18h4菌株(NITE BP−1429)又は乳酸生成能及びリン酸カルシウム溶解能を有し、かつ、50℃以上で代謝活性を有する、それらの変異株から選択される乳酸菌。
  2. ペディオコッカス・アシディラクティシ TT12−G5菌株(NITE BP−1430)、ペディオコッカス・アシディラクティシ TT12−PG2菌株(NITE BP−1431)、ラクトバチルス・ファーメンタム TT12−18h1菌株(NITE BP−1448)、ラクトバチルス・ゼアエ TT12−S4菌株(NITE BP−1433)、ラクトバチルス・ラムノサス TT12−S1菌株(NITE BP−1432)、ラクトバチルス・カゼイ TT12−18h4菌株(NITE BP−1429)から選択される乳酸菌。
  3. ペディオコッカス・アシディラクティシ TT12−G5菌株(NITE BP−1430)、ペディオコッカス・アシディラクティシ TT12−PG2菌株(NITE BP−1431)から選択される、請求項1又は2に記載の乳酸菌。
  4. 有機物の堆肥化に用いられる、請求項1〜のいずれかに記載の乳酸菌。
  5. 食品加工に用いられる、請求項1〜のいずれかに記載の乳酸菌。
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