JP5987539B2 - 摩擦材組成物、これを用いた摩擦材及び摩擦部材 - Google Patents

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Description

本発明は、自動車等の制動に用いられるディスクブレーキパッド、ブレーキライニング等の摩擦材に適した摩擦材組成物、この摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材に関する。特に、鳴き特性、耐摩耗性、耐クラック性、ペダルフィーリング性に優れる摩擦材組成物、この摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材に関する。
自動車等には、その制動のためにディスクブレーキパッドやブレーキライニング等の摩擦材が使用されている。摩擦材は、制動のために対面材、例えばディスクローターやブレーキドラム等と摩擦することにより制動の役割を果たしている。そのため摩擦材には高い摩擦係数と摩擦係数の安定性が求められるだけでなく、対面材であるディスクローターを削り難いこと(耐ローター摩耗性)、鳴きが発生しにくいこと(鳴き特性)、パッド寿命が長いこと(耐摩耗性)、乗員がブレーキをかけたときに瞬時に自動車の制動力が発現すること(ペダルフィーリング性)等が要求される。また、高負荷の制動時に剪断破壊を起こさないこと(剪断強度)や、高温の制動履歴によって摩擦材に亀裂を生じないこと(耐クラック性)等の耐久性能も要求される。
摩擦材は、一般的に結合材、繊維基材、無機充填材等からなっており、前記特性を発現させるために、それぞれ1種もしくは2種以上のものの組み合わせによりなる。
例えば、鳴き特性を改善するために、結合材としてアクリルエラストマー分散フェノール樹脂を用いる方法が提案されている(特許文献1)。しかし、アクリルエラストマー分散フェノール樹脂を用いた摩擦材は、圧縮変形量が大きくなるため、ペダルフィーリング性が悪化する。また、アクリルエラストマー分散フェノール樹脂を用いた摩擦材は、高温での耐クラック性が低下する傾向があった。
一方、高い温度域における耐クラック性改善の目的で、繊維基材として、金属繊維や無機繊維等の繊維を摩擦材に含有させる方法が提案されている(特許文献2)。しかし、十分な耐クラック性を得るために、多量の繊維を用いれば耐クラック性は改善できるものの、耐摩耗性やペダルフィーリング性が悪化してしまうという問題がある。
また、耐摩耗性を改善する方法として、無機充填剤として黒鉛を含有する方法が提案されている。しかし、黒鉛を含有した摩擦材であっても、高温のブレーキ温度では耐摩耗性を十分に発現することは困難であった(特許文献3)。
特開平3−17149号公報 国際公開第2007/080975号 特開2002−138273号公報
上述のように、従来の摩擦材では、鳴き特性、耐摩耗性、耐クラック性、ペダルフィーリング性の全てを満足する摩擦材を得ることはできなかった。
このような背景を鑑みて、本発明では、鳴き特性、耐摩耗性、耐クラック性、ペダルフィーリング性の全てに優れる摩擦材を与える摩擦材組成物を提供することを課題とする。
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、結合材として耐熱温度が異なる特定のフェノール樹脂を含有し、また無機充填材として特定の黒鉛を含有することで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
<1> 結合材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、
上記結合材として耐熱温度が異なる2種以上のフェノール樹脂を含有し、かつ上記フェノール樹脂の少なくとも1種がアクリルエラストマー分散フェノール樹脂であり、
上記無機充填材として粒子径が90μm以下の黒鉛を含有し、かつ粒子径が90μmを超える黒鉛を実質的に含有しない摩擦材組成物。
<2>前記黒鉛の平均粒子径が1〜20μmである前記1に記載の摩擦材組成物。
<3>前記黒鉛の含有量が1〜10質量%である前記1又は2に記載の摩擦材組成物。
<4>前記無機充填材として、粒子径が30μm以下の酸化ジルコニウムを含有し、かつ粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムを実質的に含有しない前記1〜3のいずれかに記載の摩擦材組成物。
<5>前記粒子径が30μm以下の酸化ジルコニウムの含有量が5〜20質量%である前記4に記載の摩擦材組成物。
<6>前記1〜5のいずれかに記載の摩擦材組成物を成形してなる摩擦材。
<7>前記1〜5のいずれかに記載の摩擦材組成物を成形してなる摩擦材と裏金とを用いて形成される摩擦部材。
本発明によれば、鳴き特性、耐摩耗性、耐クラック性、ペダルフィーリング性の全てに優れる乗用車用ブレーキパッド等を与える摩擦材組成物、これを用いた摩擦材及び摩擦部材を提供できる。
以下、本発明の摩擦材組成物、これを用いた摩擦材及び摩擦部材について詳述する。
なお、本発明において摩擦材組成物及び摩擦材とは、アスベストを含まないノンアスベスト摩擦材組成物及びノンアスベスト摩擦材を指す。
本発明の摩擦材組成物は、結合材、無機充填材及び繊維基材を含み、結合材として耐熱温度が異なる2種以上のフェノール樹脂を含有し、かつフェノール樹脂の少なくとも1種がアクリルエラストマー分散フェノール樹脂であり、無機充填材として粒子径が90μm以下の黒鉛を含有し、かつ粒子径が90μmを超える黒鉛を実質的に含有しない摩擦材組成物である。
上記構成により、従来品と比較して良好な鳴き特性、耐摩耗性、耐クラック性、ペダルフィーリング性を発現する。
(結合材)
結合材は、一般的に摩擦材組成物に含まれる有機充填材、無機充填材及び繊維基材等を一体化し、強度を与えるものである。本発明の摩擦材組成物に含まれる結合材としては特に制限はなく、通常、摩擦材の結合材として用いられる熱硬化性樹脂を用いることができる。
本発明の摩擦材組成物は、結合材として耐熱温度が異なる2種以上のフェノール樹脂を含有し、かつ該フェノール樹脂の少なくとも1種がアクリルエラストマー分散フェノール樹脂である。つまり耐熱温度が異なる2種以上のフェノール樹脂のうち、少なくとも1種がアクリルエラストマー分散フェノール樹脂であれば良い。
ここでいう耐熱温度とは、熱重量分析(TGA)で重量減少量20%の温度を示す。耐熱温度の測定は、例えば、示差熱分析計((株)島津製作所製「DTG−60A」)を使用し、試料採取量:8〜12mg、温度範囲:室温〜1000℃、昇温速度:20℃/minの条件で行うことができる。
上記2種以上のフェノール樹脂全てを混合した樹脂の耐熱温度は、450℃以上であることが好ましく、480℃以上であることがより好ましく、500℃以上であることが更に好ましい。一般路上走行で行う車両の制動において、前記混合した樹脂の耐熱温度を450℃以上にすることで、良好な耐クラック性、耐摩耗性を発現できる。
アクリルエラストマー分散フェノール樹脂とは、アクリルエラストマーをフェノール樹脂中に分散させたものである。上記アクリルエラストマー分散フェノール樹脂としては、例えば、三井化学(株)製、商品名ミレックスRN−2830MB、RN−2830MR、RN−2410MB等が挙げられ、これらは商業的に入手できる。
上記アクリルエラストマー分散フェノール樹脂の含有量は、混合した全てのフェノール樹脂含有量を100質量%とした場合、30〜70質量%であることが好ましい。30質量%以上とすることで良好な鳴き特性、耐摩耗性が発現し、70質量%以下とすることで摩擦材の圧縮変形量が高くなることによるペダルフィーリング性の悪化、弾性率が高くなることによる鳴き特性等音振性能悪化が避けられる
アクリルエラストマー分散フェノール樹脂の耐熱温度は他のフェノール樹脂に比べて低いため、前記アクリルエラストマー分散フェノール樹脂に比べて高い耐熱温度を有するフェノール樹脂を含有することが好ましい。
本発明の摩擦材組成物で用いるアクリルエラストマー分散フェノール樹脂以外のフェノール樹脂としては、熱硬化性樹脂が挙げられ、例えば、ストレートフェノール樹脂;シリコーンエラストマー分散フェノール樹脂等の各種エラストマー分散フェノール樹脂;アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、カシュー変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂等の各種変性フェノール樹脂等が挙げられる。特にストレートフェノール樹脂、アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂を用いることが好ましく、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。特に、良好な耐熱性、成形性及び摩擦係数を与えることから、ストレートフェノール樹脂、アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂等を用いることが好ましく、ストレートフェノール樹脂を用いることが更に好ましい。これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
上記結合材の総含有量は、アクリルエラストマー分散フェノール樹脂を含め、摩擦材組成物中5〜15質量%であることが好ましく、6〜12質量%であることがより好ましく、6〜10質量%であることが更に好ましい。この範囲とすることで、摩擦材の強度低下をより抑制でき、また、摩擦材の気孔率が減少し、弾性率が高くなることによる鳴き特性の悪化等をより抑制できる。
(無機充填材)
無機充填材は、摩擦材の耐熱性の悪化を避けるための摩擦調整剤として含まれるものである。本発明の摩擦材組成物は、無機充填材として粒子径が90μm以下の黒鉛を含有し、かつ粒子径が90μmを超える黒鉛を実質的に含有しない。
本発明の摩擦材組成物に用いられる黒鉛は、粒子径が90μm以下であれば特に制限はなく、天然黒鉛、人造黒鉛ともに用いることができる。上記黒鉛の粒子径は90μmを超えると耐摩耗性が悪化する。上記黒鉛の粒子径は、88μm以下であることが好ましく、85μm以下であることがより好ましい。
また、本発明の摩擦材組成物は、耐摩耗性の観点から、粒子径が90μmを超える黒鉛を実質的に含有しない。
「実質的に含有しない」とは、本発明の摩擦材組成物に含有される黒鉛のうち、粒子径が90μmを超える黒鉛の割合が1.0質量%以下、好ましくは0.5質量%以下であることをいう。特に好ましくは粒子径が90μmを超える黒鉛を含有しないことである。
また、粒子径が90μm以上の黒鉛を実質的に含有するかどうかは、レーザー回折粒度分布測定などの方法を用いて、粒子径の分布を測定することでも求めることができる。具体的には、粒子径分布積算曲線を描いた時に粒子径の最も小さい粒子から順次積算して全体の99%に達するところの粒子径が90μmより小さければ、粒子径が90μm以上の黒鉛を実質的に含有しないといえる。
粒子径分布は例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置 LA・920(堀場製作所製)で測定することができる。
更に、上記黒鉛の平均粒子径は1〜20μmであることが好ましく、2〜20μmであることがより好ましく、5〜20μmであることが更に好ましい。黒鉛の平均粒子径を1μm以上とすることで良好な耐クラック性、耐摩耗性が発現し、20μm以下とすることで鳴き特性、耐摩耗性の悪化を避けることができる。
なお、黒鉛の粒子径及び平均粒子径は、レーザー回折粒度分布測定等の方法を用いて測定することができる。例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置 LA・920((株)堀場製作所製)で測定することができる。
また、本発明の摩擦材組成物に用いられる黒鉛の含有量は、摩擦材組成物中1〜10質量%であることが好ましく、2〜8質量%であることがより好ましく、2〜7質量%であることが更に好ましい。含有量を1質量%以上とすることで良好な耐クラック性、耐摩耗性が発現し、10質量%以下とすることで良好な摩擦係数を発現させ、かつ、摩擦材成形時のフクレ等による成形性の悪化を避けることができる。
本発明の摩擦材組成物は、摩擦係数、及び耐摩耗性の観点から、粒子径が30μm以下の酸化ジルコニウムを含有し、かつ粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムを実質的に含有しないことが好ましい。「実質的に含有しない」とは、本発明の摩擦材組成物に含有される酸化ジルコニウムのうち、粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムの割合が1.0質量%以下、好ましくは0.5質量%以下であることをいう。特に好ましくは30μmを超える酸化ジルコニウムを含有しないことである。
また、粒子径が30μm以上の酸化ジルコニウムを実質的に含有するかどうかは、レーザー回折粒度分布測定などの方法を用いて、粒子径の分布を測定することでも求めることができる。具体的には、粒子径分布積算曲線を描いた時に粒子径の最も小さい粒子から順次積算して全体の99%に達するところの粒子径が30μmより小さければ、粒子径が30μm以上の酸化ジルコニウムを実質的に含有しないといえる。
酸化ジルコニウムの粒子径を30μm以下とすることで、良好な摩擦係数が発現し、耐摩耗性の悪化を避けることができる。酸化ジルコニウムの粒子径は、28μm以下であることが好ましく、26μm以下であることがより好ましい。
上記酸化ジルコニウムの平均粒子径は、1〜7μmであることが好ましく、1〜6.5μmであることがより好ましい。酸化ジルコニウムの平均粒子径を1μm以上とすることで良好な摩擦係数、耐摩耗性が発現し、7μm以下とすることで、耐摩耗性の悪化を避けることができる。
なお、酸化ジルコニウムの粒子径及び平均粒子径は、レーザー回折粒度分布測定等の方法を用いて測定することができる。例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置 LA・920((株)堀場製作所製)で測定することができる。
また、本発明の摩擦材組成物に用いられる酸化ジルコニウムの含有量は、摩擦材組成物中5〜20質量%であることが好ましく、5〜18質量%であることがより好ましく、6〜18質量%であることが更に好ましい。含有量を5質量%以上とすることで良好な摩擦係数、耐摩耗性、耐クラック性が発現し、20質量%以下とすることで耐摩耗性の悪化を避けることができる。
また、本発明の効果を損なわない程度であれば、本発明の摩擦材組成物に、上記黒鉛及び酸化ジルコニウム以外の、通常、摩擦材に用いられる無機充填材を組み合わせて用いることができる。上記黒鉛及び酸化ジルコニウム以外の無機充填材としては、例えば三硫化アンチモン、硫化錫、硫化銅、二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化ビスマス、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭化ケイ素、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、ドロマイト、マイカ、コークス、バーミキュライト、粒状チタン酸カリウム、板状及び柱状及び粒状のチタン酸カルシウム、タルク、クレー、ゼオライト、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸ジルコニウム、ムライト、クロマイト、酸化鉄、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、シリカ、α−アルミナ、γ−アルミナ等の活性アルミナ等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。対面材への攻撃性低下の観点から、硫酸バリウム、チタン酸カルシウム、酸化カルシウム及びケイ酸ジルコニウムから選ばれる1種又は2種類以上を組み合わせて含有することが好ましい
無機充填材の含有量は、摩擦材組成物中30〜90質量%であることが好ましく、40〜85質量%であることがより好ましく、50〜80質量%であることが更に好ましい。30〜90質量%とすることで、耐熱性の悪化を避けることができ、摩擦材のその他成分の含有量バランスの点でも好ましい。
(繊維基材)
繊維基材は、摩擦材において補強作用を示すものである。本発明の摩擦材組成物は、通常、繊維基材として用いられ、無機繊維、金属繊維、有機繊維、炭素系繊維等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
金属繊維としては、銅又は銅合金の繊維として銅繊維、アルミニウム、鉄、亜鉛、錫、チタン、ニッケル、マグネシウム、シリコン等の金属単体又は合金形態の繊維や、鋳鉄等の金属を主成分とする繊維等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのなかでも耐摩耗性の観点から銅繊維を用いることが好ましい。
無機繊維としては、セラミック繊維、生分解性セラミック繊維、鉱物繊維、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、シリケート繊維、ウォラストナイト等を用いることができ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも耐摩耗性の観点から鉱物繊維を用いることが好ましい。また、環境物質低減の観点で、吸引性のチタン酸カリウム繊維やセラミック繊維を含有しないことが好ましい。
なお、ここでいう鉱物繊維とは、スラグウール等の高炉スラグ、バサルトファイバー等の玄武岩、その他の天然岩石等を主成分として溶融紡糸した人造無機繊維であり、Al元素を含む天然鉱物であることがより好ましい。具体的には、SiO2、Al23、CaO、MgO、FeO、Na2O等が含まれるもの、又はこれら化合物が単独で又は2種類以上含有されるものを用いることができ、より好ましくはこれらのうちAl元素を含むものを、鉱物繊維として用いることができる。摩擦材組成物中に含まれる鉱物繊維全体の平均繊維長が大きくなるほど摩擦材組成物中の各成分との接着強度が低下する傾向があるため、鉱物繊維全体の平均繊維長は500μm以下が好ましい。より好ましくは100〜400μmである。ここで、平均繊維長とは、該当する全ての繊維の長さの平均値を示した数平均繊維長のことをいう。例えば200μmの平均繊維長とは、摩擦材組成物原料として用いる鉱物繊維を無作為に50個選択し、光学顕微鏡で繊維長を測定し、その平均値が200μmであることを示す。
本発明で用いられる鉱物繊維は、人体有害性の観点で生体溶解性であることが好ましい。ここでいう生体溶解性の鉱物繊維とは、人体内に取り込まれた場合でも短時間で一部分解され体外に排出される特徴を有する鉱物繊維である。具体的には、化学組成がアルカリ酸化物、アルカリ土類酸化物総量(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウムの酸化物の総量)が18質量%以上で、かつ呼吸による短期バイオ永続試験で、20μm以上の繊維の質量半減期が40日以内又は腹膜内試験で過度の発癌性の証拠がないか又は長期呼吸試験で関連の病原性や腫瘍発生がないことを満たす繊維を示す(EU指令97/69/ECのNota Q(発癌性適用除外))。このような生体分解性鉱物繊維としては、SiO2−Al23−CaO−MgO−FeO−Na2O系繊維等が挙げられ、SiO2、Al23、CaO、MgO、FeO、Na2O等を任意の組み合わせで含有した繊維が挙げられる。市販品としてはLAPINUS FIBERS B.V製のRoxulシリーズ等が挙げられる。「Roxul」には、SiO2、Al23、CaO、MgO、FeO、Na2O等が含まれる。
有機繊維としては、アラミド繊維、セルロース繊維、アクリル繊維、フェノール樹脂繊維(架橋構造を有する)等を用いることができ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。有機繊維としては、耐摩耗性の観点からアラミド繊維を用いることが好ましい。
炭素系繊維としては、耐炎化繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、活性炭繊維等を用いることができ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
繊維基材の含有量は、摩擦材組成物中5〜40質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましく、8〜30質量%であることが更に好ましい。5〜40質量%とすることで、摩擦材としての最適な気孔率が得られ、鳴き防止ができ、適正な材料強度が得られ、耐摩耗性を発現し、成形性をよくすることができる。
(その他の材料)
また、本発明の摩擦材組成物は、前記の材料以外に、必要に応じてその他の材料を配合することができる。その他の材料としては例えば、有機充填材、金属粉末、有機添加剤が挙げられる。
有機充填材は、摩擦材の音振性能や耐摩耗性等を向上させるための摩擦調整剤として摩擦材組成物に含有させてもよい。充填材としては、通常、摩擦材に有機充填材として用いられるカシューダストやゴム成分等を用いることができる。
上記カシューダストは、カシューナッツシェルオイルを硬化させたものを粉砕して得られる、通常、摩擦材に用いられるものであればよい。
上記ゴム成分としては、例えば、タイヤゴム、天然ゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、ポリブタジエンゴム(BR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)スチレンブタジエンゴム(SBR)、シリコーンゴム等が挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。また、カシューダストとゴム成分とを併用してもよく、カシューダストをゴム成分で被覆したものを用いてもよい。有機充填材としては、音振性能の観点から、カシューダストとゴム成分とを併用することが好ましい。また、音振性能の観点から、ゴム成分としてSBRを含有させることが更に好ましい。
有機充填材の含有量は、摩擦材組成物中1〜20質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましく、5〜10質量%であることが更に好ましい。有機充填材の含有量を1〜20質量%の範囲とすることで、摩擦材の弾性率が高くなることや、鳴き等の音振性能の悪化を避けることができ、また耐熱性の悪化、熱履歴による強度低下を避けることができる。
また、カシューダストとゴム成分とを併用する場合、カシューダストとゴム成分とは、質量比で1:4〜10:1の割合であることが好ましく、1:3〜9:1であることがより好ましく、1:2〜8:1であることが更に好ましい。
金属粉末としては、銅粉、黄銅粉、青銅粉、鉄粉、錫粉等を配合することができる。また有機添加剤としては、耐摩耗性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系ポリマー等を配合することができる。
[摩擦材及び摩擦部材]
また、本発明は、上述の摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材を提供する。
本発明の摩擦材組成物は、これを成形することにより、自動車等のディスクブレーキパッドやブレーキライニング等の摩擦材として使用することができる。
本発明の摩擦材は良好な摩擦係数、耐クラック性及び耐摩耗性を示すため、制動時に負荷の大きいディスクブレーキパッドの摩擦材に好適である。
更に、上記摩擦材を用いることにより、該摩擦材を摩擦面となるように形成した摩擦部材を得ることができる。摩擦材を用いて形成することができる摩擦部材としては、例えば、下記の構成等が挙げられる。
(1)摩擦材のみの構成。
(2)裏金と、該裏金の上に摩擦面となる本発明の摩擦材組成物からなる摩擦材とを有する構成。
(3)上記(2)の構成において、裏金と摩擦材との間に、裏金の接着効果を高めるための表面改質を目的としたプライマー層、及び、裏金と摩擦材との接着を目的とした接着層を更に介在させた構成。
上記裏金は、摩擦部材の機械的強度の向上のために、通常、摩擦部材として用いるものであり、材質としては、金属又は繊維強化プラスチック等を用いることができ、例えば、鉄、ステンレス、無機繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック等が挙げられる。プライマー層及び接着層としては、通常、ブレーキシュー等の摩擦部材に用いられるものであればよい。
本発明の摩擦材は、一般に使用されている方法を用いて製造することができ、本発明の摩擦材組成物を成形して、好ましくは加熱加圧成形して製造される。
具体的には、本発明の摩擦材組成物を、レディーゲミキサー、加圧ニーダー、アイリッヒミキサー等の混合機を用いて均一に混合し、この混合物を成形金型にて予備成形し、得られた予備成形物を成形温度130〜160℃、成形圧力20〜50MPaの条件で2〜10分間で成形し、得られた成形物を150〜250℃で2〜10時間熱処理する。必要に応じて塗装、スコーチ処理、研磨処理を行うことによって摩擦材を製造することができる。
本発明の摩擦材組成物は、摩擦係数、耐クラック性及び耐摩耗性に優れるため、ディスクブレーキパッドやブレーキライニング等の摩擦部材の「上張り材」として有用であり、更に摩擦材として高い耐クラック性を有するため、摩擦部材の「下張り材」として成形して用いることもできる。
なお、「上張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材であり、「下張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材と裏金との間に介在する、摩擦材と裏金との接着部付近の剪断強度、耐クラック性向上を目的とした層のことである。
本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明によって何ら制限を受けるものではない。
なお、実施例及び比較例に示す評価は次のように行った。
(鳴き特性の評価)
鳴き特性は、JASO C402に従って実車試験を行い、試験中のブレーキ鳴きと異音を測定し、70dB以上のブレーキ鳴きの発生率を下記式(1)より求めた。
鳴き発生率は値が小さいほど好ましく、5%未満であることが好ましい。
Figure 0005987539
(ペダルフィーリング性の評価)
ペダルフィーリング性は、実車官能試験(車速50km/h、初期減速度0.3G狙いのペダル踏力)を行い、下記に従い、2段階評点にて評価した。
水準1 : ペダル踏力を一定にした場合、時間の経過とともに車両制動力が高まり、乗員が安心感を覚える。
水準2 : ペダル踏力を一定にした場合、時間の経過とともに車両制動力が変化せず、一定である。
(耐クラック性の評価)
耐クラック性は、JASO C427に示されるブレーキ温度400℃の制動(初速度50km/h、終速度0km/h、減速度0.3G、制動前ブレーキ温度100℃)を摩擦材が半分の厚みとなるまで繰り返し、摩擦材側面及び摩擦面のクラックの生成を測定した。クラックの生成は、下記に従い、2段階評点にて評価した。
水準1 : クラックの発生無し。
水準2 : 摩擦材の摩擦面及び/又は側面にクラックが生成する。
(耐摩耗性の評価)
耐摩耗性は、自動車技術会規格JASO C427に基づき測定し、ブレーキ温度100℃及び300℃の制動1000回相当の摩擦材の摩耗量を評価した。
耐摩耗性は、値が小さいほど好ましく、0.70未満であることが好ましい。
なお、上記鳴き特性及びペダルフィーリング性の評価は、排気量2500ccクラスのFF車(日産自動車(株)製)を用いた。上記JASO C427による耐摩耗性及び耐クラック性の評価は、ダイナモメータを用い、イナーシャ7gkf・m・s2で評価を行った。また、上記鳴き特性及びペダルフィーリング性及び耐クラック性及び耐摩耗性の評価は、材質FC190((株)キリウ製)のベンチレーテッドディスクロータ、一般的なピンスライド式のコレットタイプのキャリパを用いて実施した。
[実施例1〜7及び比較例1〜4]
(ディスクブレーキパッドの作製)
表1に示す配合比率に従って材料を配合し、実施例1〜7及び比較例1〜4の摩擦材組成物を得た。この摩擦材組成物をレディーゲミキサー((株)マツボー製、商品名:レディーゲミキサーM20)で混合し、この混合物を成形プレス(王子機械工業(株)製)で予備成形し、得られた予備成形物を成形温度145℃、成形圧力30MPaの条件で5分間成形プレス(三起精工(株)製)を用いて日立オートモティブシステムズ(株)製の裏金と共に加熱加圧成形し、得られた成形品を200℃で4.5時間熱処理し、ロータリー研磨機を用いて研磨し、500℃のスコーチ処理を行って、実施例1〜7及び比較例1〜4のディスクブレーキパッドを得た。
なお、実施例及び比較例では、摩擦材の厚さ11mm、摩擦材投影面積52cm2のディスクブレーキパッドを作製した。
作製したディスクブレーキパッドについて、前記の評価を行った結果を表1に示す。
なお、表1における各構成成分の詳細は以下の通りである。
(結合材)
・ストレートフェノール樹脂A:日立化成工業(株)製(商品名:HP491UP、耐熱温度:520℃)
・ストレートフェノール樹脂B:昭和電工(株)製(商品名:SPR8760、耐熱温度:540℃)
・アクリルエラストマー分散フェノール樹脂:三井化学(株)製(商品名:RN−2830MB、アクリルエラストマー量:30質量%、耐熱温度:430℃)
(有機充填材)
・カシューダスト:東北化工(株)製(商品名:FF−1056、最大粒子径500μm)
(無機充填材)
・硫酸バリウム:堺化学(株)製(商品名:硫酸バリウムBA)
・チタン酸カリウム:(株)クボタ製(商品名TAXA−MA)
・酸化カルシウム:近江化学工業(株)製(商品名:CML−31)
・ケイ酸ジルコニウム:第一稀元素化学工業(株)製(商品名:MZ1000B)
・黒鉛A:TIMCAL社製(商品名:KS15、平均粒子径8μm、最大粒子径30μm)
・黒鉛B:TIMCAL社製(商品名:KS44、平均粒子径19μm、最大粒子径80μm)
・黒鉛C:TIMCAL社製(商品名:KS75、平均粒子径23μm、最大粒子径120μm)
・酸化ジルコニウムA:第一稀元素化学工業(株)製(商品名:BR−3QZ、平均粒子径2.0μm、最大粒子径15μm)
・酸化ジルコニウムB:第一稀元素化学工業(株)製(商品名:BR−QZ、平均粒子径6.5μm、最大粒子径26μm)
・酸化ジルコニウムC:第一稀元素化学工業(株)製(商品名:BR−12QZ、平均粒子径8.5μm、最大粒子径45μm)
(繊維基材)
・アラミド繊維:東レ・デュポン(株)製(商品名:1F538)
・銅繊維:Sunny metal製(商品名SCA−1070)
・鉱物繊維:LAPINUS FIBERS B.V製(商品名:RB240Roxul 1000、平均繊維長300μm)
表1に示した混合した全てのフェノール樹脂の耐熱温度は、配合に用いた全てのフェノール樹脂を混合し、示差熱分析計((株)島津製作所製「DTG−60A」)を使用し、試料採取量:8〜12mg、温度範囲:室温〜1000℃、昇温速度:20℃/minの条件で測定した。また、平均粒子径及び最大粒子径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置 LA・920((株)堀場製作所製)で測定した。
Figure 0005987539
実施例1〜7では、鳴き特性、ペダルフィーリング性、耐クラック性、耐摩耗性の全てに優れる摩擦材を得ることができた。アクリルエラストマー分散フェノール樹脂を含まない比較例1では、鳴き特性が悪化し、フェノール樹脂を1種しか用いていない比較例2では、ペダルフィーリング性、耐クラック性及び耐摩耗性が悪化した。また、粒子径90μmを超える黒鉛を実質的に含有する比較例3及び4は、耐摩耗性及び鳴き特性が悪化した。
本発明の摩擦材組成物は、従来品と同条件で生産することで生産性を悪化させることなく、良好な鳴き特性、耐摩耗性、耐クラック性、ペダルフィーリング性を発現することが可能である。そのため本明の摩擦材組成物、これを用いた摩擦材及び摩擦部材は、とりわけ自動車用ブレーキパッドに好適である。

Claims (6)

  1. 結合材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、
    上記結合材として耐熱温度が異なる2種以上のフェノール樹脂を含有し、かつ上記フェノール樹脂の少なくとも1種がアクリルエラストマー分散フェノール樹脂であり、
    上記無機充填材として粒子径が90μm以下の黒鉛と粒子径が30μm以下の酸化ジルコニウムとを含有し、かつ粒子径が90μmを超える黒鉛と粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムとを実質的に含有しない摩擦材組成物。
  2. 前記黒鉛の平均粒子径が1〜20μmである請求項1に記載の摩擦材組成物。
  3. 前記黒鉛の含有量が1〜10質量%である請求項1又は2に記載の摩擦材組成物。
  4. 前記粒子径が30μm以下の酸化ジルコニウムの含有量が5〜20質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の摩擦材組成物。
  5. 請求項1〜のいずれかに記載の摩擦材組成物を成形してなる摩擦材。
  6. 請求項1〜のいずれかに記載の摩擦材組成物を成形してなる摩擦材と裏金とを用いて形成される摩擦部材。
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