JP5984859B2 - シール材およびそれを備えた圧縮機 - Google Patents

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本発明は、シール材およびそれを備えた圧縮機に関し、特に、二酸化炭素を冷媒として用いる圧縮機において二酸化炭素の漏れ防止のために用いられるシール材、および、それを備えた圧縮機に関する。
地球温暖化防止の目的のために、給湯用機器、冷凍冷蔵機器もしくは空気調和器などの冷凍サイクルを構成する装置(圧縮機)の冷媒(作動流体)として、現在特に冷凍空調用途で主として使用されているハイドロフルオロカーボン(HFC−410A、HFC−134a)等の冷媒を、それよりも地球温暖化係数(GWP:Global Warming Potential)が低い冷媒へ代替することが検討されている。
二酸化炭素のGWP値は1であり、ハイドロフルオロカーボンのGWP値(例えば、HFC−410AのGWP値は2090)よりも低いため、二酸化炭素がハイドロフルオロカーボンの代替冷媒の一つとして既に使用されている。
従来の冷媒を用いた圧縮機では、冷凍機油としてポリオールエステル油、ポリビニルエーテル油、アルキルベンゼン油、鉱油、もしくはポリアルキレングリコール油を用い、シール材として耐油性の高いアクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)などのニトリルゴム、水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(HNBR)などの水素化ニトリルゴム、もしくはフッ素ゴムを用いていた。
しかしながら、二酸化炭素はO−リング等の高分子系シール材へ溶解しやすく、高圧雰囲気下でシール材中に溶解した大量の二酸化炭素は、圧力が急激に低下すると膨張し、シール材の破裂を引き起こすことが知られている。このため、二酸化炭素を冷媒として用いた圧縮機は、二酸化炭素の漏れ防止の観点からメカニカルシール材を用いたものがほとんどであった。
近年では、高分子シール材の開発が進められており二酸化炭素への耐性の高いシール材が開発されている。二酸化炭素への耐性の高いシール材については、例えば、特許文献1(特開2002−146342号公報)に、二酸化炭素漏れ防止用の密封体として使用されるシール材であって、有機過酸化物で架橋された水素化ニトリルゴムを主体とするゴム成形物を有し、該ゴム成形物のシェアA硬度が75〜95であることを特徴とするシール材が開示されている。該シール材は、例えば、冷媒として二酸化炭素を用いる冷凍機用コンプレッサにおける、該冷媒漏れ防止用の密封体として使用される。
その他にも、二酸化炭素を冷媒として用いた圧縮機のシール材に関する技術は、例えば、特許文献2(特開2002−338945号公報)、特許文献3(特開2002−31242号公報)、特許文献4(特開2003−13041号公報)、特許文献5(特開平11−293075号公報)、特許文献6(特開2001−108108号公報)に開示されている。
特開2002−146342号公報 特開2002−338945号公報 特開2002−31242号公報 特開2003−13041号公報 特開平11−293075号公報 特開2001−108108号公報
このように、二酸化炭素への耐性が高いシール材の開発が進められており、現在では二酸化炭素を冷媒として用いた圧縮機についても、高分子シール材を使用することが可能になりつつある。
しかしながら、特許文献1の技術は、圧力が10MPa〜15MPaの高圧条件下で二酸化炭素を冷媒として用いた場合、不所望な変形を起こしにくく、シール性の劣化を抑制できると記載されるように10MPa以上でのシール性には若干の課題があった。二酸化炭素を冷媒として用いた圧縮機での最大圧力は12MPa前後であり、その圧力において冷媒漏れが生じると圧縮機の効率が大幅に低減してしまう。このため、10MPa以上の高圧環境下においても優れたシール性が必要となる。
したがって、本発明では二酸化炭素を冷媒として用いた圧縮機の最大圧力である10MPa以上(特に12MPa以上)の高圧環境下において優れたシール性を有するシール材を提供することを目的とする。
本発明は、二酸化炭素を冷媒として用いる圧縮機用のシール材であって、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、または、これらの混合物からなり、架橋密度が400mol/g以上である、シール材である。
また、本発明は、二酸化炭素を冷媒として用いる圧縮機であって、
水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、または、これらの混合物からなり、架橋密度が400mol/g以上であるシール材を備える、圧縮機である。
10MPa以上の高圧環境下において、二酸化炭素への耐性が優れ、優れたシール性を有するシール材を適用した二酸化炭素を冷媒として用いた圧縮機を提供できる。
試験例におけるシール材のシェアA硬度と体積増加率との関係を示すグラフである。 実施形態2の圧縮機を説明するための縦断面模式図である。
(実施形態1)
本実施形態は、冷媒として二酸化炭素を用いた圧縮機において、O−リングなどに成型して適用されるシール材である。10MPa以上の条件下で好適に使用できるシール材について説明する。本実施形態のシール材は、冷凍機油と二酸化炭素に対して優れた耐性を有し、特に高圧(10〜15MPa)の二酸化炭素雰囲気下での耐性に優れる。
冷凍機油への耐性に優れたゴムとしては、水素化ニトリルゴムおよびフッ素ゴムが知られているが、本実施形態のシール材は、これらのゴムのうち高圧(10〜15MPa)の二酸化炭素雰囲気下において優れた耐性を有する特定のシール材である。なお、高圧の二酸化炭素雰囲気下における優れた耐性とは、発泡(ブリスター)による破壊が生じないこと(耐ブリスター性)、および、膨潤によるシール材の変形が生じないこと(耐膨潤性)の両者を満たすことを意味する。
具体的に、本実施形態のシール材は、耐油性に優れた水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、または、これらの混合物からなる。
水素化ニトリルゴムとしては、例えば、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合ゴム、イソプレン−アクリロニトリル共重合ゴムなどを水素化したものや、ブタジエン−メチルアクリレート−アクリロニトリル共重合ゴム、ブチルアクリレート−エトキシエチルアクリレート−ビニルクロロアセテート−アクリロニトリル共重合ゴム、ブチルアクリレート−エトキシエチルアクリレート−ビニルノルボルネン−アクリロニトリル共重合ゴムが挙げられる。後述する二酸化炭素雰囲気下での耐ブリスター性及び耐膨潤性の観点から、特に水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(HNBR)を用いることが好ましい。
フッ素ゴムとしては、例えば、フッ化ビニリデン系(FKM)ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系(FEPM)ゴム、テトラフルオロエチレン−パーフルオロビニルエーテル系(FFKM)ゴムが挙げられる。後述する二酸化炭素雰囲気下での耐ブリスター性及び耐膨潤性の観点から、特にテトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴムを用いることが好ましい。
例えば、シール材が水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴムなどの水素化ニトリルゴムから構成される場合、該シール材は、架橋密度が400mol/g以上であり、シェアA硬度が78度以上であることが好ましい。架橋密度が400mol/g以上のときに耐ブリスター性に優れ、シェアA硬度が78度以上のときに耐膨潤性に優れる。
また、シール材がテトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴムなどのフッ素ゴムで構成される場合、該シール材は、架橋密度が400mol/gで、シェアA硬度が71度以上であることが好ましい。架橋密度が400mol/g以上であるときに耐ブリスター性に優れ、シェアA硬度が71度以上であるときに耐膨潤性に優れる。
シール材の架橋密度は、種々公知の方法によって求めることができるが、例えば、膨潤法によって算出できる。膨潤法は、ゴムを良溶媒で膨潤させたときの体積又は重量の変化に基づいて架橋密度を測定する方法である。
膨潤法では、例えば、重量測定によって(重量の変化に基づいて)架橋密度を算出する場合、まず、シール材を良溶媒(例えば、水素化ニトリルゴムに対してはアセトンやクロロホルム等が良溶媒であり、フッ素ゴムに対してはヘキサン等が良溶媒である。)に浸漬し、十分(膨潤平衡に達するまで)膨潤させた後のシール材の重量を測定する。この重量から、これを乾燥したときの重量(あるいは良溶媒に浸漬する前の重量)に対する変化量を算出する。その後、ゴムの密度と溶媒密度から重量をシール材の体積分率(体積変化率v)に換算する。なお、体積変化率vは、膨潤前のシール材の体積を1としたときの膨潤後のシール材の体積の数値から1を引いた値である。架橋密度γは、下記の式1により算出することができる(参考文献:新版 ゴム技術の基礎 改訂版 日本ゴム協会編)。

γ=ln(1−v)+v+cv /2V(v 1/3−v/2) ・・・式1

V :溶媒の分子容(mL/mol)
:シール材の体積変化率
c :溶媒とゴムとの相互作用係数。
一方、シール材のシェアA硬度は、例えば、JIS K 6253に規定される測定方法に従って測定することができる。
本実施形態のシール材を、二酸化炭素を冷媒として用いた圧縮機に使用することで、冷媒の漏れのない圧縮機を提供することができる。
(実施形態2)
実施形態2は、実施形態1のシール部材を備えた圧縮機(ロータリー圧縮機)である。図2に、実施形態2の圧縮機を説明するための縦断面模式図を示す。本発明の圧縮機は、冷媒として二酸化炭素を用いた圧縮機であり、密閉容器1の内部に冷媒を圧縮する圧縮機構部11と、圧縮機構部11を駆動する電動機構部12とを備えている。そして、例えば冷凍サイクルの低圧側の低温の蒸気冷媒をマフラー2に接続された吸入管3から吸入して圧縮し、高圧・高温の蒸気冷媒にして吐出管4から吐出する機構を有している。この時に冷媒漏れが発生すると圧縮機の効率が大幅に低減される。
駆動軸5の下端部は冷凍機油6の中に浸漬されている。冷凍機油6としては、例えば、ポリアルキレングリコール(PAG)油、ポリオールエステル(POE)油、ポリビニルエーテル(PVE)油、アルキルベンゼン(HABまたはLAB)油または鉱油が挙げられる。
圧縮機構部11には、冷媒の漏れ防止のため、実施形態1のシール材をシール材7として設置する。実施形態1のシール材を、二酸化炭素を冷媒として用いた圧縮機に使用することで、冷媒の漏れのない圧縮機を提供することができる。
(シール材A〜E)
水素化ニトリルゴムである水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(HNBR)を原料とする5種類の市販品のゴムを購入し、シール材A〜Eとして用意した。
(シール材F〜J)
フッ素ゴムであるテトラフルオロエチレン−プロピレン系(FEPM)ゴムを原料とする5種類の市販品のゴム購入し、をシール材F〜Jとして用意した。
<試験例>
(シェアA硬度の測定)
上記のシール材A〜Jについて、シェアA硬度をJIS K 6253に規定される測定方法に従って測定した。その結果、シール材JのシェアA硬度が67度、シール材E及びIのシェアA硬度が70度、シール材G及びHのシェアA硬度が72度、シール材C、D及びFのシェアA硬度が75度、シール材A及びBのシェアA硬度が80度であった。結果を表1に示す。
(架橋密度の測定)
実施形態1で説明した膨潤法を用い、重量測定によってシール材A〜Jの架橋密度を算出した。なお、良溶媒として、HNBR(シール材A〜E)についてはアセトンを、FEPMゴム(シール材F〜J)についてはヘキサンを使用した。結果を表1に示す。
(膨潤試験)
実施例および比較例のシール材(シール材A〜J)について、膨潤法を用いて架橋密度を算出し、膨潤後の発砲(ブリスター)の発生の有無を目視で確認した。
シール材の膨潤には、超臨界流体抽出装置(SUPPER-200型:日本分光株式会社製)を用いた。該装置付属の圧力容器に冷媒(CO)及び冷凍機油(ポリアルキレングリコール油)を一定の流速(冷媒の流速:1mL/min、冷凍機油の流速:0.5mL/min)で流し込み、圧力容器内を満たした。圧力容器内の圧力を14MPaに、温度を140℃に設定した。この条件で、シール材A〜Jを圧力容器内に24時間静置した。
試験後、すぐにシール材を取り出し、シール材のブリスターの発生の有無を目視で確認した。また、試験前後のシール材の厚みをノギスで測定し、試験前のシール材の厚みに対する試験後のシール材の厚みの割合(試験前のシール材の厚みを1としたときの試験後のシール材の厚み)を算出し、その割合を3乗した値から1を引いた値を百分率で表したものをシール材の体積増加率とした。膨潤試験の結果を表1に示す。
Figure 0005984859
表1に示されるように、シール材の架橋密度が400mol/g未満であった場合(シール材B,D,H)、原料ゴムによらずブリスターが発生してシール材が破壊された。このことから、14MPaの二酸化炭素雰囲気下でシール材を使用するには、架橋密度が400mol/g以上でなければならないことが分かった。
次に、シール材のシェアA硬度と体積増加率の関係を図1に示す。なお、図1では、HNBRからなるシール材A、B、CおよびEと、FEPMからなるシール材F、G、IおよびJについてプロットとしている。図1に示すように、原料ゴムによって体積増加率は異なるものの、どちらのシール材においてもシール材のシェアA硬度が高くなるにしたがって、体積増加率が低くなることが分かった。このことから、シール材のシェアA硬度が高くなることによって、シール材の耐膨潤性も高くなることが分かった。
(実機試験)
シール材A〜Jをロータリー圧縮機に設置して、圧縮機の運転を(2000時間)実施した。その結果、上記膨潤試験において、ブリスターが発生したシール材B、D、及びHと、体積増加率が10%以上であるシール材C、D、E、及びJについては、運転後に二酸化炭素の漏れが確認された。
図1の検量線を用いて、シール材の体積増加率が10%未満となるシェアA硬度を算出した結果、HNBRの場合のシェアA硬度は78度、FEPMゴムの場合のシェアA硬度は71度であった。このことから、特定のシェアA硬度以上の硬度を有するシール材を、二酸化炭素を冷媒として用いる圧縮機に使用することで、漏れのない圧縮機を提供できることが分かった。
今回開示された実施形態及び実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 密閉容器、2 マフラー、3 吸入管、4 吐出管、5 駆動軸、6 冷凍機油、7 シール材(O−リング)、11 圧縮機構部、12 電動機構部。

Claims (6)

  1. 二酸化炭素を冷媒として用いる圧縮機用のシール材であって、
    水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、または、これらの混合物からなり、架橋密度が400mol/g以上である、シール材。
  2. 水素化ニトリルゴムからなり、シェアA硬度が78度以上である、請求項1に記載のシール材。
  3. 前記水素化ニトリルゴムは、水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴムである、請求項1または2に記載のシール材。
  4. フッ素ゴムからなり、シェアA硬度が71度以上である、請求項1に記載のシール材。
  5. 前記フッ素ゴムは、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴムである、請求項1または4に記載のシール材。
  6. 二酸化炭素を冷媒として用いる圧縮機であって、
    水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、または、これらの混合物からなり、架橋密度が400mol/g以上であるシール材を備える、圧縮機。
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