以下、本発明による電動機電力変換装置を、好適な実施の形態にしたがって図面を用いて説明する。なお、図面の説明においては、同一部分または相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、以下の実施の形態で説明を分かりやすくするために示される具体的な数値等は、一例に過ぎない。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における電動機制御装置1の概略構成図である。なお、図1では、電動機2、電動機電力変換装置3、モータ位置センサ4、直流電圧センサ5、電流センサ6および温度センサ7も併せて図示している。
図1において、電動機制御装置1は、電動機電力変換装置3の駆動を制御するための通電信号を電動機電力変換装置3に出力することで、電動機2を制御する。
電動機電力変換装置3は、電動機制御装置1から入力された通電信号に従って、直流電源(図示せず)の直流電圧を交流電圧に変換し、交流電圧を電動機2に出力する。すなわち、電動機電力変換装置3は、インバータに相当する。なお、直流電源としては、例えば、バッテリを用いればよい。
電動機2は、電動機電力変換装置3から入力された交流電圧によって駆動される。また、電動機2は、電機子巻線を有する固定子と、回転子とを備えて構成される。
なお、電動機2としては、例えば、三相同期電動機が挙げられ、以下の説明では、電動機2が三相同期電動機であるものとする。また、電動機2の電機子巻線の結線は、三相Y結線であるものとする。さらに、電動機2の回転子の界磁の方式としては、例えば、永久磁石を用いた永久磁石界磁方式、巻線界磁方式、およびこれら2つの方式を併用した併用方式が挙げられるが、以下の説明では、回転子の界磁の方式が永久磁石界磁方式であるものとする。
モータ位置センサ4、直流電圧センサ5、電流センサ6および温度センサ7は、電動機2の状態量を検知するために設けられている。モータ位置センサ4は、出力信号として、回転子位置信号を電動機制御装置1に出力する。直流電圧センサ5は、出力信号として、直流電圧信号を電動機制御装置1に出力する。電流センサ6は、出力信号として、電流信号を電動機制御装置1に出力する。温度センサ7は、出力信号として、温度信号を電動機制御装置1に出力する。
次に、電動機制御装置1についてさらに説明する。電動機制御装置1は、回転位置検出部11、直流電圧検出部12、温度検出部13、電気角周波数検出部14、電流指令生成部15、電流検出部20、減算器16、電圧指令生成部17および通電信号生成部18を備える。
回転位置検出部11は、モータ位置センサ4から入力された回転子位置信号に基づいて、回転子の回転位置を検出し、検出した回転位置を、電流検出部20、電気角周波数検出部14および電圧指令生成部17に出力する。
直流電圧検出部12は、直流電圧センサ5から入力された直流電圧信号に基づいて、直流電源の直流電圧値を検出し、検出した直流電圧値を、電流指令生成部15および通電信号生成部18に出力する。
温度検出部13は、温度センサ7から入力された温度信号に基づいて、電流センサ6の雰囲気の温度値を検出し、検出した温度値を電流検出部20に出力する。
電気角周波数検出部14は、回転位置検出部11から入力された回転位置に基づいて、電動機2の電気角周波数を算出し、算出した電気角周波数を電流検出部20に出力する。
電流指令生成部15は、電動機2の電機子巻線に流れる電流を定めるd軸電流指令値およびq軸電流指令値を生成し、生成した電流指令値を、電流検出部20および減算器16に出力する。
なお、電流指令生成部15によって出力される電流指令値はどのように定めてもよく、例えば、電動機2のトルクが所望のトルクとなるように電流指令値を定める方式、および電動機2の発電量が所望の発電量となるように電流指令値を定める方式が挙げられる。ここでは、電動機2のトルクが所望のトルクとなるように電流指令値を定めるものとする。また、ここでの電流指令値は、回転子の磁極位置の方向をd軸、d軸に直交する方向をq軸と定義した場合のdq軸座標系における値とする。
電流検出部20は、電流センサ6から入力された電流信号に基づいて、電動機2に流れる三相電流値を検出する。また、電流検出部20は、dq軸上の電流検出値を求めるために、一般的な三相−dq変換を用いることで、検出した三相電流値をd軸電流値およびq軸電流値に変換する。さらに、電流検出部20は、d軸電流値およびq軸電流値を減算器16に出力する。なお、電流検出部20の詳細については後述する。
減算器16は、電流指令生成部15から入力されたd軸電流指令値およびq軸電流指令値と、電流検出部20から入力されたd軸電流値およびq軸電流値との差分を算出し、算出結果を電圧指令生成部17に出力する。
電圧指令生成部17は、減算器16から入力された算出結果と、回転位置検出部11から入力された回転位置とに基づいて、三相交流の電圧指令値を生成する。
具体的には、電圧指令生成部17は、減算器16から入力された算出結果から、dq軸上の電圧指令値を生成する。なお、電圧指令生成部17がdq軸電圧指令値を生成する方法としては、例えば、電流指令値と電流検出値の差分に基づくPI制御を用いる方法が挙げられる。続いて、電圧指令生成部17は、生成したdq軸電圧指令値と、回転位置検出部11から入力された回転位置とに基づいて、一般的なdq−三相変換を用いることで、相交流の電圧指令を生成する。
このように、電圧指令生成部17は、電流指令生成部15によって生成されたdq軸上の電流指令値と、電流検出部20によって検出されたdq軸上の電流検出値と、回転位置検出部11によって検出された回転子の回転位置とを用いて、三相交流の電圧指令値を生成することとなる。また、電圧指令生成部17は、生成した電圧指令値を通電信号生成部18に出力する。
通電信号生成部18は、直流電圧検出部12から入力された直流電圧値と、電圧指令生成部17から入力された電圧指令値とに基づいて、PWM(Pulse Width Modulation)信号を通電信号として生成する。具体的には、通電信号生成部18は、入力された電圧指令値を入力された直流電圧値で除した数に0.5を加算することで、値の範囲を0から1までに規格化したデューティ指令値を生成する。続いて、通電信号生成部18は、生成したデューティ指令値と、搬送波とを比較することで、PWM信号を通電信号として生成する。なお、搬送波としては、例えば、値の範囲が0から1までである三角波を用いればよい。また、デューティ指令値を百分率で表す場合もある。
通電信号生成部18は、このようにPWM信号を通電信号として生成し、さらに、生成した通電信号を電動機電力変換装置3に出力する。
電動機電力変換装置3は、通電信号生成部18から入力された通電信号に従って、交流電圧を電動機2に出力することで、電動機2の電機子巻線に通電する。ここで、電動機電力変換装置3は、U相、V相およびW相の各相において、互いに直列に接続された上アームと下アームとを有する。また、各アームでは、通電素子と還流ダイオードとが逆並列に接続された構成となっている。
なお、通電素子としては、例えば、半導体スイッチング素子を用いればよく、より具体的には、例えば、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)またはIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等で構成された半導体スイッチング素子を用いればよい。
また、以降では、あるアームの通電素子がオンになることを単に「アームがオンになる」、オフになることを単に「アームがオフになる」というように表現することもある。
ここで、通電信号生成部18から入力された通電信号に従って、上アームの通電素子がオンになると、出力端子電圧は、ほぼ直流電圧レベルのHiとなり、下アームの通電素子がオンになると、出力端子電圧は、ほぼグラウンドレベルのLowとなる。
なお、出力端子電圧は、上アームと下アームとの接続点における電圧であり、電機子巻線のU相、V相およびW相の各相のラインに接続されている電圧に等しい。また、上アームの通電素子と下アームの通電素子とが同時にオンになると、直流電圧が短絡するので、これら2つの通電素子が同時にオンになることはない。
このように、電動機電力変換装置3は、通電信号生成部18から入力された通電信号に従って、直流電源の直流電圧を交流電圧に変換することとなる。
次に、電流検出部20の詳細を説明するにあたって、電流センサ6が出力する電圧値から電流検出値を算出するためのゲインおよびオフセットの概念について、図2を参照しながら説明する。図2は、本発明の実施の形態1において、電流センサ6が出力する電圧値から電流検出値を算出するためのゲインおよびオフセットを説明するための図である。なお、図2では、ゲイン誤差およびオフセットの影響によって、実電流値と電流検出値との間で生じる誤差の様子が示されている。
電流センサ6として、電流検出用抵抗を用いた場合、発熱量抑制の観点から、一般的に、電流検出用抵抗の抵抗値Rrが小さいことが多い。したがって、電流センサ6が出力する電圧値Vrも小さい。
具体例として、抵抗値Rrが0.5mΩであり、電流検出部20が電流検出値として算出する電流値Irの最大値が200Aであれば、オームの法則により、電圧値Vrの最大値が0.1Vとなり、電圧値Vrが小さいことが分かる。そこで、一般的には、差動アンプを使用し、差動アンプによって電圧値Vrを増幅する。この場合、電圧値Vrではなく、増幅後の電圧値Vraを用いて、電流検出値を算出する。
差動アンプの増幅率が例えば50倍であれば、電圧値Vraは、Vra=50×Vrより、電圧値Vraの最大値が5Vとなる。この場合、電流検出の感度は、25mV/Aとなり、ゲインK0は、K0=(電流値Irの最大値)/(電圧値Vraの最大値)=200/5より、40A/Vとなる。
理想的な状態であれば、電圧値VraにゲインK0を乗じることで、適切な電流検出値が算出され、算出された電流検出値と、電動機2に実際に流れる実電流値とが同等になる。しかしながら、実際には、電流センサ6の出力誤差が影響するので、図2に示すように、電流検出値と、実電流値とが異なる。
具体的には、抵抗値Rrに5%の誤差、すなわちゲインK0に5%の誤差があり、真値が50Aの場合、真値に対して、電流検出値には2.5Aの誤差が生じる。また、100mVのオフセットがある場合、真値に対して、電流検出値には4Aの誤差が生じる。
続いて、電動機2のU相、V相およびW相の各相に、オフセットが0Aであり、かつ振幅が50Aの交流電流が流れている場合を例に挙げて、図3A〜図5Bを参照しながら、d軸電流およびq軸電流のそれぞれに発生する脈動成分について説明する。
図3Aは、本発明の実施の形態1において、電流センサ6の出力誤差がないという理想的な状態を考えた場合の、各相電流値の時間変化を示す説明図である。図3Bは、本発明の実施の形態1において、電流センサ6の出力誤差がないという理想的な状態を考えた場合の、d軸電流値およびq軸電流値の時間変化を示す説明図である。
図4Aは、本発明の実施の形態1において、U相に対応する電流センサ6についてオフセット誤差が生じた場合の、各相電流値の時間変化を示す説明図である。図4Bは、本発明の実施の形態1において、U相に対応する電流センサ6についてオフセット誤差が生じた場合の、d軸電流値およびq軸電流値の時間変化を示す説明図である。
図5Aは、本発明の実施の形態1において、U相に対応する電流センサ6についてゲイン誤差が生じた場合の、各相電流値の時間変化を示す説明図である。図5Bは、本発明の実施の形態1において、U相に対応する電流センサ6についてゲイン誤差が生じた場合の、d軸電流値およびq軸電流値の時間変化を示す説明図である。
なお、図4Bおよび図5Bでは、図3Bのd軸電流値およびq軸電流値と比較するために、図3Bのd軸電流値およびq軸電流値の時間変化も併せて図示している。
図3Aに示すように、電流センサ6の出力誤差がないという理想的な状態において、誤差なく検出した各相電流から、一般的な三相−dq変換を用いて、d軸電流およびq軸電流を算出すると、d軸電流値およびq軸電流値の時間変化は、図3Bに示すとおりとなる。すなわち、図3Bに示すように、d軸電流値が0Aで一定となり、q軸電流値が61Aで一定となり、さらに、脈動成分が見られない。
しかしながら、電流検出においてオフセットがある場合、d軸電流およびq軸電流のそれぞれに脈動成分が含まれ、電流検出においてゲイン誤差がある場合、q軸電流に脈動成分が含まれる。
具体的には、図4Aに示すように、U相電流検出値にie(=4A)のオフセット誤差がある場合、d軸電流およびq軸電流は、以下の式(1)のように表すことができる。
ただし、idおよびiqは、それぞれd軸実電流値およびq軸実電流値を示し、iu’、iv’およびiw’は、それぞれU相電流検出値、V相電流検出値およびW相電流検出値を示す。また、CTは、回転座標系αβ軸からdq軸への変換行列を示し、Cは、UVW相からαβ軸への変換行列を示す。
ここで、式(1)において、CTおよびCは、線形変換をするための行列であることから、式(1)の右辺については、(iu’,iv’,iw’)と(ie,0,0)との二項に分けることができる。また、(iu’,iv’,iw’)の項は、これらの値を用いて電流制御が行われるので、そのdq軸換算値には脈動成分が含まれない。したがって、トルクリプルをもたらすdq軸電流の脈動成分は、以下の式(2)のように表すことができる。
ただし、ideおよびiqeは、それぞれdq軸電流の脈動成分を示す。
また、式(2)を整理すると、以下の式(3)のように表すことができる。
ただし、θは、U相から見たd軸の電気角を示す。
式(3)から分かるように、電流検出においてオフセットがある場合、d軸電流およびq軸電流のそれぞれには、電気角周期θの脈動が発生し、その脈動の大きさ(すなわち、脈動の振幅値)は、(√2)×ieとなる。通常、トルクは、q軸電流に比例するので、このような電流脈動によってトルク脈動が引き起こされる。
したがって、電動機2の各相に実際にはオフセットが0Aであり、かつ振幅が50Aの交流電流が流れている場合であっても、電流検出においてオフセットがあれば、図4Bに示すように、d軸電流およびq軸電流のそれぞれに振幅が約6Aであり、かつ電気角周期の脈動が生じる。
また、図5Aに示すように、U相電流検出値とV相電流検出値との間に、ke(=1.05)のゲイン誤差がある場合、U相電流およびV相電流は、以下の式(4)のように表すことができる。
ただし、iuおよびivは、それぞれU相実電流値およびV相実電流値を示し、iu’およびiv’は、それぞれU相電流検出値およびV相電流検出値を示す。
式(4)において、両辺を変換行列CTおよびCによって、dq軸上の電流値で表した後、左辺の変換行列を右辺に寄せれば、以下の式(5)のように表すことができる。
ただし、idおよびiqは、それぞれd軸実電流値およびq軸実電流値を示し、id’およびiq’は、それぞれ、U相、V相およびW相の各相電流検出値を変換することで得られるd軸電流値およびq軸電流値である。
また、Ke=1+eとして、式(5)を整理すると、以下の式(6)のように表すことができる。
ただし、sは、sinθを示し、cは、cosθを示し、θは、U相から見たd軸の電気角を示す。
以上より、例えばd軸電流零制御が行われる場合、電流検出においてゲイン誤差があるとき、実際のq軸電流は、式(6)を整理することで、以下の式(7)のように表すことができる。
式(7)から分かるように、電流検出においてゲイン誤差がある場合、q軸電流には、電気角の倍周期2θの脈動が発生し、その脈動の大きさ(すなわち、脈動の振幅値)は、のe/√3であることが分かる。
したがって、電動機2の各相に実際にはオフセットが0Aであり、かつ振幅が50Aの交流電流が流れている場合であっても、電流検出においてゲイン誤差があれば、図5Bに示すように、q軸電流に振幅が約2Aであり、かつ電気角の倍周期の脈動が生じる。
以上のように、オフセット誤差またはゲイン誤差に起因した電流センサ6の出力誤差があれば、それぞれの誤差に起因した脈動が発生する。したがって、脈動成分を抽出し、抽出した脈動の振幅値を確認すれば、オフセット誤差またはゲイン誤差が発生していることが分かる。また、オフセット誤差またはゲイン誤差を補正する際に、補正前後における脈動の振幅値の変化を確認すれば、その補正が正しく行われているか誤って行われているかを確認することができる。
すなわち、補正が正しく行われていれば、脈動が抑制される方向に変化するので、補正前の脈動の振幅値に対して、補正後の脈動の振幅値が小さくなることとなる。一方、補正が誤って行われていれば、脈動が抑制される方向ではなく、脈動が促進される方向に変化するので、補正前の脈動の振幅値に対して、補正後の脈動の振幅値が大きくなることとなる。本実施の形態1では、本発明者が見出したこのような特性を利用して、電流センサの出力誤差に対する補正誤りを検出している。
次に、電流検出部20の詳細について説明する。図1の説明に戻り、電流検出部20は、センサ出力取込部21、電流算出部22、センサ換算係数算出部23、センサ補正結果判定部24およびdq軸座標変換部25を有する。
センサ出力取込部21は、設定された取込タイミングで、電流センサ6が出力する電流信号を取り込む。また、センサ出力取込部21は、電流センサ6から取り込んだ電流信号を電流算出部22に出力する。
なお、センサ出力取込部21が電流センサ6から電流信号を取り込む取込タイミングは、使用する電流センサ6のタイプに適したタイミングとなるように、あらかじめ設定しておけばよい。
具体的には、例えば、電流検出用抵抗を用いて上アームの通電素子に流れる電流を検知するように電流センサ6を構成した場合、取込タイミングを、上アームがオンとなるタイミングとする。また、電流検出用抵抗を用いて下アームの通電素子に流れる電流を検知するように電流センサ6を構成した場合、取込タイミングを、下アームがオンとなるタイミングとする。
また、電動機2に流れる相電流を直接検知するように電流センサ6を構成した場合、電動機2に通電する際には、常に電流が流れていることとなるので、取込タイミングを、上アームがオンのタイミングおよび下アームがオンのタイミングのいずれのタイミングとしてもよい。
なお、一般的には、PWM信号の搬送波周期に同期させて電流の検出を行う場合が多い。ここでは、下アームの通電素子に流れる電流、または電動機2に流れる相電流を検知するように電流センサ6を構成するとともに、取込タイミングを下アームがオンとなるタイミングとするものとする。すなわち、センサ出力取込部21は、下アームがオンとなるタイミングで、電流センサ6から電流信号を取り込むものとする。
電流算出部22は、センサ出力取込部21から入力された電流信号と、センサ換算係数算出部23から入力されたセンサ換算係数とに基づいて、電動機2に流れる三相電流値を算出する。また、電流算出部22は、算出した三相電流値をdq軸座標変換部25に出力する。なお、ここでいうセンサ換算係数とは、ゲインおよびオフセットの少なくとも一方を意味する。
dq軸座標変換部25は、三相電流値をd軸電流値およびq軸電流値に変換し、d軸電流値およびq軸電流値を、減算器16およびセンサ補正結果判定部24に出力する。
センサ換算係数算出部23は、センサ換算係数推定部231、センサ換算係数目標値算出部232、減算器233およびセンサ補正量調整部234を有する。
センサ換算係数推定部231は、電流算出部22に設定すべき最適なセンサ換算係数を推定し、推定したセンサ換算係数をセンサ換算係数推定値として、センサ換算係数目標値算出部232およびセンサ補正量調整部234に出力する。なお、電流算出部22に設定すべき最適なセンサ換算係数を推定する方法については、公知の技術を適用すればどのような方法であってもよい。ここでは、温度検出部13から入力された温度値を用いて、センサ換算係数を推定する方法を採用している。
すなわち、センサ換算係数推定部231は、温度値が高くなるほどセンサ換算係数が小さくなるようにあらかじめ定められた関連付けに従って、温度検出部13から入力された温度値に対応するセンサ換算係数を算出し、算出したセンサ換算係数をセンサ換算係数推定値として出力する。なお、温度値とセンサ換算係数との関連付けは、例えば、電流センサ6が使用される前の初期状態(具体的には、例えば、製品出荷時)に調整を行い、実測することで、あらかじめ定めればよい。
センサ換算係数目標値算出部232は、センサ換算係数推定部231の出力と、センサ出力誤差判定部242の出力と、減算器233の出力とに応じて、センサ換算係数目標値を算出する。減算器233は、センサ換算係数目標値算出部232の出力の今回値と、センサ補正量調整部234の出力の前回値との差分を算出し、算出した差分をセンサ補正量調整部234およびセンサ換算係数目標値算出部232に出力する。
センサ補正量調整部234は、減算器233から入力された差分が0である場合には、センサ換算係数目標値算出部232から入力されたセンサ換算係数目標値の補正を行わずに、そのままセンサ換算係数目標値をセンサ換算係数設定値として電流算出部22に出力する。一方、センサ補正量調整部234は、減算器233から入力された差分が0でない場合には、差分が0に近づくようにセンサ換算係数目標値の補正を行い、補正後のセンサ換算係数目標値をセンサ換算係数設定値として電流算出部22に出力する。
センサ補正結果判定部24は、特定周波数成分抽出部241およびセンサ出力誤差判定部242を有する。
特定周波数成分抽出部241は、電気角周波数検出部14から入力された電気角周波数を用いて、dq軸座標変換部25から入力されたd軸電流およびq軸電流のそれぞれに発生する脈動成分を特定周波数成分として抽出する。また、特定周波数成分抽出部241は、抽出した脈動成分を、センサ出力誤差判定部242に出力する。
なお、特定周波数成分抽出部241の構成例として、一般的なローパスフィルタとハイパスフィルタとを組み合わせて構成する場合には、電気角周波数を抽出中心とするフィルタ定数を設定する。このように構成することで、特定周波数成分抽出部241は、オフセット誤差に起因した脈動成分を抽出することができる。
また、特定周波数成分抽出部241の構成例として、一般的なローパスフィルタとハイパスフィルタとを組み合わせて構成する場合には、電気角の半分の周波数を抽出中心とするフィルタ定数を設定する。このように構成することによって、特定周波数成分抽出部241は、ゲイン誤差に起因した脈動成分を抽出することができる。
センサ出力誤差判定部242は、特定周波数成分抽出部241から今回、特定周波数成分値として入力された脈動成分の振幅値と、特定周波数成分抽出部241から前回、特定周波数成分値として入力された脈動成分の振幅値とを比較することで、センサ補正量調整部234が適切なセンサ換算係数設定値を出力しているか否かを判定する。
ここで、今回入力された脈動成分の振幅値が、前回入力された脈動成分の振幅値よりも大きくなる方向に変化していれば、電流センサ6の出力誤差に対して行った補正が誤っていると判断できる。すなわち、センサ補正量調整部234は、適切なセンサ換算係数設定値を電流算出部22に出力していないこととなる。
一方、今回入力された脈動成分の振幅値が、前回入力された脈動成分の振幅値よりも小さくなる方向に変化していれば、電流センサ6の出力誤差に対して行った補正が正しいと判断できる。すなわち、センサ補正量調整部234は、適切なセンサ換算係数設定値を電流算出部22に出力していることとなる。
このように、特定周波数成分抽出部241から今回入力された脈動成分の振幅値と、特定周波数成分抽出部241から前回入力された脈動成分の振幅値とを比較することで、電流センサ6の出力誤差に対して誤った補正が行われているか否かを判定することができる。なお、センサ出力誤差判定部242は、あらかじめ設定された回数だけ、今回入力された脈動成分の振幅値が、前回入力された脈動成分の振幅値よりも大きくなる方向に連続して変化していれば、誤った補正が行われていると判定するように構成してもよい。
また、センサ出力誤差判定部242は、判定結果を補正誤り判定結果としてセンサ換算係数目標値算出部232に出力する。
センサ換算係数目標値算出部232は、センサ出力誤差判定部242によって誤った補正が行われていないと判定された場合には、センサ換算係数推定部231から入力されたセンサ換算係数推定値をセンサ換算係数目標値として出力する。
また、センサ換算係数目標値算出部232は、センサ出力誤差判定部242によって誤った補正が行われていると判定され、かつ減算器233から入力された差分が負値の場合、センサ換算係数推定部231から入力されたセンサ換算係数推定値を増方向に修正し、修正した値をセンサ換算係数目標値として出力する。
一方、同様に、センサ換算係数目標値算出部232は、センサ出力誤差判定部242によって誤った補正が行われていると判定され、かつ減算器233から入力された差分が正値の場合、センサ換算係数推定部231から入力されたセンサ換算係数推定値を減方向に修正し、修正した値をセンサ換算係数目標値として出力する。
このように構成することで、センサ換算係数目標値算出部232は、センサ換算係数推定部231の出力に基づいたセンサ換算係数目標値の算出を停止することなく、補正を継続することができる。
なお、センサ換算係数目標値算出部232は、センサ出力誤差判定部242によって誤った補正が行われていると判定された場合には、センサ換算係数推定値の修正をせずに、誤った補正が行われていないと判定されていた場合にセンサ換算係数推定部231から入力されたセンサ換算係数推定値を、センサ換算係数目標値として出力するようにしてもよい。
次に、センサ換算係数算出部23およびセンサ補正結果判定部24の動作について、図6Aおよび図6Bを参照しながら説明する。図6Aは、本発明の実施の形態1において、センサ換算係数算出部23およびセンサ補正結果判定部24の動作を説明するための図である。図6Bは、図6Aと比較するための説明図である。
なお、図6Aでは、本制御を用いてゲインを補正した場合の一例を示し、図6Bでは、本制御を用いずにゲインを補正した場合の一例を示す。換言すると、図6Bでは、図6Aと比較するために、センサ補正結果判定部24が設けられていない場合に、ゲインを補正したときの一例を示す。また、図6Bでは、本制御を用いていないので、補正誤りが発生してもゲインを補正し続けたときに示す特定周波数成分値および補正判定結果を、図6Aとの比較のために記載している。
なお、本実施の形態1では、センサ換算係数目標値算出部232は、センサ補正量調整部234と同じサンプリングで動作する。また、センサ換算係数目標値算出部232は、センサ換算係数推定部231の出力を一定の周期でセンサ換算係数目標値として出力する一方、センサ出力誤差判定部242によって誤った補正が行われていると判定された場合には、減算器233の出力の正負に応じて、センサ換算係数推定部231の出力を減方向または増方向に修正し、修正した値を、センサ換算係数目標値として出力する。
図6Aおよび図6Bから分かるように、センサ換算係数目標値算出部232の出力であるセンサゲイン推定値と、センサ補正量調整部234の出力であるセンサゲイン設定値の前回値との差分を減算器233で算出し、差分が0ではない場合に、センサ補正量調整部234は、差分が小さくなるようゲインを徐々に補正していく。なお、ここでは、あらかじめ設定した一定のレートで、ゲインを補正するものとする。
センサ換算係数推定部231において、誤りなくゲインを算出できている場合には、経時変化等が電流センサに生じても、電流センサ6の出力誤差を低減し、電動機2の電流制御を精度良く実行できる。
しかしながら、図6Bに示すように、補正の誤りに気付かず、補正を継続すると補正前よりも電流センサの出力誤差が次第に大きくなり、電動機2の電流制御の精度を悪化させるおそれがある。
そこで、センサ補正結果判定部24を設けることで、図6Aに示すように、センサ補正結果判定部24の出力である補正誤り判定結果が誤った補正が行われていることを示す場合には、ゲイン目標値を修正し、正しい補正が行われる方向に訂正する。
また、図6Aに示すように、センサ補正結果判定部24の出力である補正誤り判定結果が誤っていない(すなわち、正しい)補正が行われていることを示す場合には、センサ補正量調整部234は、センサ換算係数目標値算出部232から今回入力されたセンサ換算係数目標値の補正を行い、補正後のセンサ換算係数目標値を今回の出力値として、電流算出部22に出力する。ただし、センサ補正量調整部234は、減算器233から入力された差分が0である場合には、センサ換算係数目標値算出部232から入力されたセンサ換算係数目標値の補正を行わずに、そのままセンサ換算係数目標値を今回の出力値として電流算出部22に出力する。
次に、センサ換算係数算出部23およびセンサ補正結果判定部24の動作について、図6Aを参照しながら、時系列で詳細に説明する。
まず、時刻tx1において、電流センサゲインの真値が変化し、特定周波数成分抽出部241の出力である、q軸電流の脈動成分の振幅値が大きくなる方向に変化する。この時、センサ換算係数推定部231は、正しくセンサゲインを推定しているので、ゲインの真値と、センサ換算係数推定部231の出力であるゲイン推定値と、センサ換算係数目標値算出部232の出力であるゲイン目標値とは、全て等しい。この場合、センサ補正量調整部234は、ゲイン設定値とゲイン目標値との間の差分が小さくなるようにゲイン設定値の出力を徐々に下げていく。
時刻tx2では、時刻tx1におけるゲイン設定値の変更が反映されることでゲイン設定値がゲインの真値に近づくので、q軸電流の脈動成分の振幅値が小さくなる方向に変化する。ここで、q軸電流の脈動成分の振幅値が大きいほど、センサ換算係数設定値と、センサ換算係数の真値との誤差が大きいことを示す。したがって、時刻tx1に比べて、時刻tx2におけるq軸電流の脈動成分の振幅値が減少していることから、センサ出力誤差判定部242は、時刻tx1におけるゲイン補正が正しい方向になされたと判定することができる。
なお、センサ出力誤差判定部242は、時刻tx1のようにゲイン推定値が変化した時刻では、補正誤りの判定を行わない。このように構成することで、ゲイン推定値が変化した時刻に検出される特定周波数成分値が、ゲイン推定値が変化する前の時刻に検出される特定周波数成分値(=0)に対して増加する等の変化をする場合、補正誤りが発生していないにもかかわらず、ゲイン推定値が変化した時刻に、補正誤り有りと判定する信号がセンサ出力誤差判定部242から出力されることのないようにすることができる。
時刻tx3では、ゲイン設定値とゲイン目標値とが等しくなるので、センサ補正量調整部234は、ゲイン設定値の変更を停止する。
また、時刻tx4において、q軸電流の脈動成分の振幅値が0となり、さらに、時刻tx5において、時刻tx4に対して、q軸電流の脈動成分の振幅値の増減が0となる。
続いて、時刻ty1において、電流センサゲインの真値が変化し、特定周波数成分抽出部241の出力である、q軸電流の脈動成分の振幅値が大きくなる方向に変化する。この時、センサ換算係数推定部231による推定誤りが発生しており、具体的には、センサ換算係数推定部231は、ゲインの真値よりも小さな値を、ゲイン推定値として出力している。この場合、センサ換算係数目標値算出部232は、誤ったゲイン推定値をゲイン目標値として出力し、センサ補正量調整部234は、ゲイン設定値とゲイン目標値との間の差分が小さくなるようにゲイン設定値の出力を徐々に下げていく。
時刻ty2では、時刻ty1におけるゲイン設定値の変更が反映されることでゲイン設定値がゲインの真値に近づくので、q軸電流の脈動成分の振幅値が小さくなる方向に変化する。また、時刻ty1に比べて、時刻ty2におけるq軸電流の脈動成分の振幅値が減少していることから、センサ出力誤差判定部242は、時刻ty1におけるゲイン補正が正しい方向になされたと判定することができる。そして、ゲイン設定値がゲインの真値を下回るまでは正しい補正が継続されることとなる。
時刻ty3において、ゲイン設定値がゲインの真値と等しくなるので、時刻ty4では、q軸電流の脈動成分の振幅値が0になる。
しかしながら、前述したように、センサ換算係数推定部231は、ゲインの推定を誤っているので、ゲイン目標値は、ゲインの真値よりも小さい。したがって、センサ補正量調整部234は、ゲイン設定値とゲイン目標値との間の差分が小さくなるようにゲイン設定値の出力を更に下げる。このため、時刻ty5におけるq軸電流の脈動成分の振幅値は、時刻ty4におけるq軸電流の脈動成分の振幅値と比べて増加していることから、センサ出力誤差判定部242は、時刻ty4におけるゲイン補正が誤った方向になされたと判定することができる。
時刻ty5以降、センサ補正量調整部234は、ゲイン設定値とゲイン目標値との間の差分が小さくなるようにゲイン設定値の出力を更に下げるので、q軸電流の脈動成分の振幅の前回値に比べて今回値の増加する区間が継続される。
センサ出力誤差判定部242によってゲイン補正が誤った方向になされたとはじめて判定された時刻ty5から、このような判定があらかじめ設定された判定時間だけ継続した時刻ty6において、センサ換算係数目標値算出部232は、『補正誤り警告』が発生したと認識する。この場合、センサ換算係数目標値算出部232は、現在の補正方向が負方向であることを考慮して、ゲイン目標値の更新を行う。
具体的には、センサ換算係数目標値算出部232は、ゲイン目標値の更新として、センサ換算係数推定部231から出力されたゲイン推定値を上方修正した値を、ゲイン目標値として出力する。
なお、ゲイン推定値に対してどのぐらい上方修正するかは、あらかじめ設定しておけばよい。また、ここでは、センサ換算係数目標値算出部232は、時刻ty6で『補正誤り警告』が発生したと認識するように構成する場合を例示するが、センサ換算係数目標値算出部232は、時刻ty5で『補正誤り警告』が発生したと認識するように構成してもよい。さらに、ここでは、具体例として、センサ換算係数目標値算出部232は、ゲイン目標値をゲイン真値と等しい値に上方修正できたものとする。
時刻ty7では、時刻ty6におけるゲイン設定値の変更が反映されることでゲイン設定値がゲインの真値に近づく。したがって、時刻ty6に比べて、時刻ty7におけるq軸電流の脈動成分の振幅値が減少していることから、センサ出力誤差判定部242は、時刻ty6におけるゲイン補正が正しい方向になされたと判定することができる。
時刻ty8において、ゲイン設定値がゲインの真値と等しくなるので、センサ補正量調整部234は、ゲイン設定値の変更を停止する。
また、時刻ty9において、q軸電流の脈動成分の振幅値が0となり、補正が終了したことが分かる。
続いて、時刻tz1では、電流センサゲインの真値が変化していないが、センサ換算係数推定部231による推定誤りが発生しており、センサ換算係数推定部231は、ゲインの真値よりも大きな値を、ゲイン推定値として出力している。この時点では、ゲインの真値とゲイン設定値との間に誤差はないので、特定周波数成分抽出部241は、q軸電流の脈動成分の振幅値として0を出力する。
また、センサ換算係数目標値算出部232は、誤ったゲイン推定値をゲイン目標値として出力し、センサ補正量調整部234は、ゲイン設定値とゲイン目標値との間の差分が小さくなるようにゲイン設定値の出力を徐々に上げていく。
時刻tz2では、時刻tz1におけるゲイン設定値の変更が反映されることでゲイン設定値がゲインの真値から遠ざかるので、q軸電流の脈動成分の振幅値が大きくなる方向に変化する。また、時刻tz1に比べて、時刻tz2におけるq軸電流の脈動成分の振幅値が増加していることから、センサ出力誤差判定部242は、時刻tz1におけるゲイン補正が誤った方向になされたと判定することができる。
センサ出力誤差判定部242によってゲイン補正が誤った方向になされたとはじめて判定された時刻tz2から、このような判定があらかじめ設定された判定時間だけ継続した時刻tz3において、センサ換算係数目標値算出部232は、『補正誤り警告』が発生したと認識する。この場合、センサ換算係数目標値算出部232は、現在の補正方向が正方向であることを考慮して、ゲイン目標値の更新を行う。
具体的には、センサ換算係数目標値算出部232は、ゲイン目標値の更新として、センサ換算係数推定部231から出力されたゲイン推定値を下方修正した値を、ゲイン目標値として出力する。
なお、ゲイン推定値に対してどのぐらい下方修正するかは、あらかじめ設定しておけばよい。また、ここでは、センサ換算係数目標値算出部232は、時刻tz3で『補正誤り警告』が発生したと認識するように構成する場合を例示するが、センサ換算係数目標値算出部232は、時刻tz2で『補正誤り警告』が発生したと認識するように構成してもよい。さらに、ここでは、具体例として、センサ換算係数目標値算出部232は、ゲイン目標値をゲイン真値と等しい値に下方修正できたものとする。
時刻tz4では、時刻tz3におけるゲイン設定値の変更が反映されることでゲイン設定値がゲインの真値に近づく。したがって、時刻tz3に比べて、時刻tz4におけるq軸電流の脈動成分の振幅値が減少していることから、センサ出力誤差判定部242は、時刻tz3におけるゲイン補正が正しい方向になされたと判定することができる。
時刻tz5において、ゲイン設定値がゲインの真値と等しくなるので、センサ補正量調整部234は、ゲイン設定値の変更を停止する。
また、時刻tz6において、q軸電流の脈動成分の振幅値が0となり、補正が終了したことが分かる。
このように、電流センサの出力誤差に対して誤った補正が行われた場合には、センサ補正量調整部234は、センサ補正結果判定部24による補正誤り判定結果に従って、正しい補正が行われる方向に訂正することができる。したがって、電流センサの出力誤差に対して誤った補正による電動機2の電流制御への悪影響を抑制することができる。
以上、本実施の形態1によれば、電流センサの出力から電動機の各相に流れる電流を検出する電流検出部は、電流センサの出力と、検出電流を算出するためセンサ換算係数設定値とから、検出電流を算出し、検出電流を出力する電流算出部と、センサ換算係数設定値を出力するセンサ換算係数算出部と、d軸電流値およびq軸電流値のうちの少なくとも一方から脈動成分を抽出し、抽出した脈動成分の振幅値の変化から、センサ換算係数設定値を用いて電流センサの出力誤差に対して行った補正が誤っているか否かを判定するセンサ補正結果判定部とを有し、センサ換算係数算出部は、センサ補正結果判定部によって補正が誤っていると判定された場合、誤った方向への補正を停止する。
これにより、電流センサの出力誤差に対して誤った補正が行われた場合であっても、その補正誤りによる電動機の電流制御への悪影響を抑制することができる。
なお、本実施の形態1では、センサ換算係数目標値算出部232は、センサ出力誤差判定部242によって補正が誤っていると判定された場合、減算器233の出力が正値であれば、センサ換算係数推定部231の出力を下方修正し、減算器233の出力が負方向であれば、センサ換算係数推定部231の出力を上方修正し、修正した値をセンサ換算係数目標値として出力するように構成した。
しかしながら、前述したように、センサ換算係数目標値算出部232は、センサ出力誤差判定部242によって補正が誤っていると判定された場合、センサ換算係数推定値の修正をせずに、補正が誤っていないと判定されていた場合にセンサ換算係数推定部231から入力されたセンサ換算係数推定値を、センサ換算係数目標値として出力するように構成してもよい。これにより、簡易な構成で補正誤りによる電動機の電流制御への悪影響を抑制することができる。
実施の形態2.
先の実施の形態1では、センサ補正結果判定部24は、d軸電流値およびq軸電流値のうちの少なくとも一方から脈動成分を抽出し、抽出した脈動成分の振幅値の変化から、補正が誤っているか否かを判定するように構成する場合について説明した。これに対して、本発明の実施の形態2では、センサ補正結果判定部24は、先の実施の形態1とは異なる手法で、補正が誤っているか否かを判定するように構成する場合について説明する。
なお、本実施の形態2では、先の実施の形態1と同様である点の説明を省略し、先の実施の形態1と異なる点を中心に説明する。
図7は、本発明の実施の形態2における電動機制御装置1の概略構成図である。図7に示すように、本実施の形態2における電動機制御装置1は、先の実施の形態1に対して、センサ補正結果判定部24の構成が異なり、センサ補正結果判定部24以外の構成については同様である。
図7において、センサ補正結果判定部24は、センサ出力誤差判定部242、電動機特性同定部243および減算器244を有する。また、電圧指令生成部17は、減算器16から入力された算出結果から、dq軸上の電圧指令値を生成するdq軸電圧指令生成部171と、dq軸電圧指令生成部171によって生成されたdq軸電圧指令値と、回転位置検出部11から入力された回転位置とに基づいて、一般的なdq−三相変換を用いることで、三相交流の電圧指令値を生成する三相軸座標変換部172とを有する。
電動機特性同定部243は、電圧指令生成部17から入力された電圧指令値に対して電動機2の電機子巻線に流れるべき電流目標値を、公知の電動機特性モデルに基づいて算出し、算出した電流目標値を減算器244に出力する。具体的には、図7に示すように、dq軸電圧指令生成部171によって生成されたdq軸電圧指令値を、電動機特性同定部243に、電圧指令値として入力するように構成する。この場合、電動機特性同定部243は、入力されたdq軸電圧指令値に対して、dq軸電流目標値を電流目標値として算出することとなる。なお、電動機特性モデルは、一般的な状態方程式に基づいて算出してもよく、あらかじめ電動機2を動作させることで取得した入出力特性から算出してもよい。
減算器244は、電動機特性同定部243から入力されたdq軸電流目標値と、dq軸座標変換部25から入力されたdq軸電流値との差分を算出し、算出した差分をセンサ出力誤差判定部242に出力する。
ここで、電動機特性同定部243から入力されたdq軸電流目標値と、dq軸座標変換部25から入力されたdq軸電流値との差分が大きくなるほど、電流センサの出力誤差が大きいことが分かる。そこで、このような特性を利用して、センサ出力誤差判定部242を構成する。
すなわち、センサ出力誤差判定部242は、センサ換算係数設定値を用いて電流センサの出力誤差に対して行った補正が誤っているか否かを判定する。具体的には、センサ出力誤差判定部242は、減算器244から入力された差分があらかじめ設定された閾値以上であれば、補正が誤っていると判定し、この差分がこの閾値未満であれば、補正が誤っていないと判定する。
なお、三相軸座標変換部172によって生成された三相交流の電圧指令値を、電動機特性同定部243に、電圧指令値として入力するように構成してもよい。この場合、電動機特性同定部243は、入力された三相交流の電圧指令値に対して、三相電流目標値を電流目標値として算出し、減算器244は、電動機特性同定部243から入力された三相電流目標値と、電流算出部22から入力された三相電流値との差分を算出することとなる。ただし、サンプリングの制約を考慮すると、図7に示すように、dq軸電圧指令生成部171によって生成されたdq軸電圧指令値を、電動機特性同定部243に、電圧指令値として入力するように構成することが好ましい。
以上、本実施の形態2によれば、先の実施の形態1に対して、電圧指令生成部の出力に対して電動機の電機子巻線に流れるべき電流目標値を、電動機特性モデルに基づいて算出し、算出した電流目標値と電流検出部による検出値との差分に応じて、センサ換算係数設定値を用いて電流センサの出力誤差に対して行った補正が誤っているか否かを判定するように構成している。これにより、先の実施の形態1と同様の効果が得られる。
なお、本実施の形態1、2では、センサ補正量調整部234における前回の出力値から今回の出力値への変化量に上下限リミットをかけ、ゲインを徐々に補正するように構成したが、このように構成することで、補正による電動機電流制御の変動を抑えることができる。一方、センサ換算係数推定部231の出力値をセンサ補正量調整部234の出力値として即時に反映することとしてもよい。この場合、補正による電動機電流制御の変動が生じるものの、電動機の電流制御をより精度良く行うことができる。これらは、システムに応じて調整し使い分けるべきである。
また、本実施の形態1では、特定周波数成分抽出部241は、d軸電流およびq軸電流のそれぞれからDC成分を抽出するように構成してもよい。この場合、特定周波数成分抽出部241の構成例としては、一般的なローパスフィルタを用いればよく、DC成分を抽出するためのフィルタ定数を設定すればよい。
ここで、d軸電流およびq軸電流のそれぞれのDC成分が大きいほど、ゲイン誤差に起因した脈動成分の振幅が大きくなる。そこで、センサ出力誤差判定部242は、d軸電流およびq軸電流のそれぞれのDC成分と、電気角の半分の周波数成分との比に応じて、誤った補正が行われているか否かを判定する。これにより、補正誤り判定の判定精度をより向上させることができる。
また、本実施の形態1、2では、センサ補正量調整部234は、三相のうち一相ずつセンサ換算係数の補正を行うように構成してもよい。このように、一相ずつ、センサ換算係数の補正を行うことで、補正誤り判定の判定精度をより向上させることができる。さらに、この場合、減算器233の出力である、センサ換算係数推定値とセンサ換算係数設定値の前回値との差分が大きい相から順に変更してもよい。このように、センサ換算係数の誤差が大きい相から補正を行うことで、補正にかかる時間を短縮することができる。
また、センサ出力誤差判定部242は、電流指令生成部15の出力があらかじめ決められた許容変化量の範囲内で一定の時に判定を行うこととしてもよい。これにより、補正誤り判定の判定精度をより向上させることができる。
また、センサ換算係数算出部23は、電流センサ6が初期状態のセンサ換算係数の初期値をあらかじめ記憶しておき、記憶した初期値と、センサ換算係数推定部231の出力との差分が、あらかじめ設定された閾値以上の場合、電流センサ6が故障していると判定するように構成してもよい。
また、本実施の形態1、2のように、電機子巻線が三相Y結線の場合、三相の電流総和が0であり、この関係を利用すると、ある一相の電流を残り二相の電流から算出することができる。したがって、このような特性を利用し、センサ換算係数算出部23は、ある一相に対応するセンサ換算係数設定値と、残り二相に対応するセンサ換算係数設定値との差分がそれぞれあらかじめ設定された閾値以上の場合、ある一相に対応する電流センサ6が故障していると判定するとともに、残りの二相の電流からある一相に流れる電流を推定するように構成してもよい。これにより、ある一相に対応する電流センサ6が故障した場合であっても、電動機2の制御を継続することができる。
また、本実施の形態1、2では、電動機制御装置1の制御対象である電動機2の電機子巻線が三相Y結線である場合を例示したが、検出電流または線電流を検出可能な構成であれば、他の結線でもよく、例えば、三相Δ結線でもよい。なお、三相Δ結線の線電流の総和は、やはり0である。
また、本実施の形態1、2では、回転子の界磁の方式が永久磁石界磁方式である場合を例示したが、巻線界磁方式、およびこれら2つの方式を併用した併用方式であってもよい。この場合、通電信号生成部18は、界磁巻線に通電するための通電信号を生成して出力し、電動機電力変換装置3は、その通電信号に基づいて界磁巻線に通電するように構成される。さらに、通電信号生成部18は、電流算出部22の出力値が許容電流値を超える場合には、界磁巻線に対する通電を停止するように通電信号を生成する構成としてもよい。
また、本実施の形態1、2では、電動機2の回転子位置を参照していたが、回転子位置を参照せずに、交流位相を内部で生成して通電する方式であってもよい。
また、本実施の形態1、2では、電圧指令に基づいて通電信号を生成していたが、電流算出部22の電流値に基づいて通電信号を直接生成する構成であってもよい。
また、本実施の形態1、2では、三相−dq変換、dq−三相変換を用いて制御していたが、交流を直接制御してもよい。
また、本実施の形態1、2では、通電信号をPWM方式により生成していたが、これに限らず、三相交流電流をヒステリシス制御する方式に基づいて生成してもよい。この場合、通電信号生成部18は、三相交流の電流指令と、電流算出部22で算出される三相交流電流値とに基づき、電流リップルが許容範囲内に収まるように通電素子をスイッチングする通電信号を生成する。
また、本実施の形態1、2では、デューティ指令の範囲を固定的に設定することが考えられるが、運転条件によって変えるようにしてもよい。例えば、PWMのキャリア周波数が可変である場合、デューティ比が同一でもキャリア周波数が高くなるほどパルス幅が短くなるので、同一のデューティ指令でも電流検出精度が低下する可能性が考えられる。このような場合、キャリア周波数が高くなるほど、デューティ指令の範囲を広げるようにすることで、電流検出精度の低下を軽減することができる。
また、本実施の形態1、2では、あらかじめ設定された時間以上スイッチング状態の変化がない区間で電流を検出するようにする際、その時間を固定的に設定することが考えられるが、運転条件によって変えるようにしてもよい。例えば、スイッチングによるノイズの持続時間が、電流またはキャリア周波数などの運転条件によって変わる場合は、あらかじめ設定された時間を可変とすることで、運転条件が変化してもノイズの影響を軽減して電流を検出することができる。