以下、実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。具体的には、まず第1実施形態と第2実施形態の共通点について図1〜3を参照して説明する。その後、図4〜6を参照して第1実施形態について説明し、図7〜9を参照して第2実施形態について説明する。最後にその他の実施形態について説明し、各種実施形態の効果についてまとめて説明する。
図1は、第1実施形態と第2実施形態に共通のシステム構成図である。図1(a)は主に電力系統に関する観点からシステム構成を示すものであり、図1(b)は主にデータの送受信と制御の観点からシステム構成を示すものである。
図1(a)において、電力系統1は、商用電力系統である。すなわち、電力系統1は、大規模電力会社の電力網であり、「大規模電力系統」とも言われる。つまり、電力系統1には、大規模電力会社の不図示の発電施設(例えば、原子力発電所、火力発電所、水力発電所など)によって発電された電力も供給される。
例えば、東日本における電力系統1からは、50Hzの周波数で、各電力需要家(例えば、一般家庭、オフィス、工場等)に電力が供給される。各電力需要家は、電力系統1に対する負荷としてはたらく。図1(a)では、各電力需要家の図示も省略されている。
電力系統1に対する負荷は随時変動する。そこで、周波数の変動を許容範囲内(例えば±0.2Hzの範囲内)に抑えるために、大規模電力会社側では、随時、電力系統1に供給する電力の調整が行われる。周波数の変動は、例えば、工場で使われるモータの回転数をはじめとして多方面に影響するため、ものづくりの精度を保つためには、周波数の変動を抑えることが有益である。そして、周波数の変動を抑えるためには、電力の需要と供給のバランスをとればよい。そのため、上記のとおり、大規模電力会社側では、随時、電力系統1に供給する電力の調整が行われる。
電力系統1へ供給する電力の調整のためには、様々な手法が組み合わされる。負荷変動は様々な周波数成分を含むため、多くの場合、周波数帯域に応じて異なる調整手法が採用される。
例えば、GF(Governor Free:ガバナフリー)制御は、発電機が回転数の変動を感知し、回転数を制御することで出力を制御する手法である。GF制御は、短周期の変動(例えば、1分未満の周期の変動)を対象とする。
また、LFC(Load Frequency Control:負荷周波数制御)は、主に1分〜20分程度(場合によっては5分〜20分程度)の中期的な周期の変動を対象とする。LFCは、需給不均衡を解消するために、発電設備の出力を制御する方法である。LFCのためには、具体的には火力発電所の出力が調整されることが多い。なぜなら、火力発電所の出力は、例えば原子力発電所の出力と比べると、調整が容易だからである。
なお、火力発電所の発電機が出力を変化させる応答速度は、それほど速くはない。よって、火力発電所の出力を変更する調整方法は、例えば1分未満といったごく短周期の変動を補償するのには向かない。しかし、例えば1分〜20分程度の中周期の変動に対しては、火力発電所の発電機の応答速度でも十分に追従可能である。よって、LFCでは火力発電所の出力が調整されることが多い。
さらに長周期の変動(例えば、20分から60分程度の周期の変動)に対しては、EDC(Economic Dispatching Control:経済負荷配分制御)による調整が行われる。大まかな傾向として、長周期の変動ほど、変動の振幅も大きい。そのため、長周期の変動に対しては、経済効率(例えば火力発電における燃料費など)が考慮されることが好ましい。EDCは、各発電設備の経済効率を考慮に入れて各発電設備の出力を決定する手法である。
ところで、図1(a)に示すように、電力系統1には、大規模電力会社の不図示の発電施設だけでなく、さらに、以下の発電設備も接続される。
・1台以上の再生可能エネルギー発電設備
・上記1台以上の再生可能エネルギー発電設備の発電出力の変動を補完するための、複数台の発電設備(以下「補完発電設備」ともいう)
以下では説明の便宜上、再生可能エネルギー発電設備として、図1(a)のように太陽光発電設備2が使われる場合について具体的に説明する。しかし、再生可能エネルギー発電設備の種類は限定されない。
実施形態に応じて、他の種類の再生可能エネルギー発電設備が使われてもよい。また、複数種類の再生可能エネルギー発電設備が電力系統1に接続されていてもよい。例えば、風力、波力、潮汐力、地熱、太陽熱、温度差、バイオマスなどを利用する、各種の再生可能エネルギー発電設備が利用可能である。
再生可能エネルギー発電設備の発電出力は、天気などの環境に左右される。例えば、太陽光発電設備の出力は、夜間はゼロになるし、昼間でも日射に左右される。また、風力発電設備の出力は風速に左右される。
また、以下では説明の便宜上、補完発電設備として、図1(a)のようにガスエンジン発電設備3(図中では「GE」と略す)が使われる場合について具体的に説明する。しかし、補完発電設備の種類は限定されない。
実施形態に応じて、他の種類の補完発電設備が使われてもよい。また、複数種類の補完発電設備が電力系統1に接続されていてもよい。例えば、ガスエンジン発電設備、ガスタービン発電設備、ディーゼルエンジン発電設備、燃料電池などの、各種の燃料発電設備が利用可能である。これらの発電設備が発電を行う仕組みは公知なので、説明を省略する。
なお、図1(a)には4台の太陽光発電設備2と2台のガスエンジン発電設備3が例示されているが、再生可能エネルギー発電設備の数は任意であり、補完発電設備の数も2以上であれば任意である。図1(b)では紙幅の都合上、図1(a)の4台の太陽光発電設備2のうち3台のみが図示されている。
ところで、太陽光発電設備2から電力系統1へと供給される電力は、天気などに応じて時刻とともに変動する。そこで、制御装置10が、その変動を監視する。
具体的には、制御装置10は、各太陽光発電設備2から、当該太陽光発電設備2が電力系統1に供給する電力に関する情報を収集する。情報の収集は、通信ネットワーク4を介してほぼリアルタイムに行われる。
そして、制御装置10は、収集した情報に基づいて上記変動を監視し、監視結果に応じて、各ガスエンジン発電設備3に発電させる電力を決定する。この決定の具体的方法は、第1実施形態と第2実施形態で異なるので、詳しいことは後述する。
制御装置10は、決定した電力を各ガスエンジン発電設備3に通知する。つまり、制御装置10は、決定した電力で発電するよう、各ガスエンジン発電設備3に対して、通信ネットワーク4を介して命令し、それにより各ガスエンジン発電設備3の発電出力を制御する。
通信ネットワーク4は、具体的には、例えば、インターネット、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、またはそれらの適宜の組み合わせでもよい。あるいは、通信ネットワーク4は、3GPP(3rd Generation Partnership Project)またはLTE(Long Term Evolution)などの通信規格にしたがった、モバイル通信ネットワークであってもよい。なお、通信ネットワーク4は、有線ネットワークでもよいし、無線ネットワークでもよいし、双方の組み合わせであってもよい。
なお、各太陽光発電設備2は、発電した電力の全てを電力系統1に供給してもよいし、一部のみを電力系統1に供給してもよい。同様に、各ガスエンジン発電設備3は、発電した電力の全てを電力系統1に供給してもよいし、一部のみを電力系統1に供給してもよい。
例えば、ある企業の工場内に設置されたガスエンジン発電設備3は、当該工場に一部の電力を供給するとともに、残りの電力を電力系統1に供給してもよい。いずれにせよ、電力系統1には、各太陽光発電設備2と各ガスエンジン発電設備3が系統連系している。
ところで、図1(b)は、図1(a)とは別の観点からシステム構成を示す図である。
図1(b)に例示するように、各太陽光発電設備2は、例えば、太陽光パネル2aとインバータ2bを有する。インバータ2bは、太陽光発電用インバータであり、PVセル(photovoltaic cell:光電池セル)の可変DC(direct current:直流)出力を、50Hzや60Hzなどの所定周波数のAC(alternating current:交流)電流に変換して出力する。インバータ2bからの出力の少なくとも一部が、電力系統1に供給される。
各太陽光発電設備2は、データ送信装置5を内蔵していてもよい。あるいは、外付けのデータ送信装置5が太陽光発電設備2に接続されていてもよい。いずれにしろ、図1(b)に示すように、データ送信装置5は、通信ネットワーク4に接続される。
データ送信装置5は、インバータ2bから電力系統1に供給される電力を計測し、通信ネットワーク4を介して計測結果を制御装置10に宛てて送信する。例えば、データ送信装置5は、所定の間隔(例えば1秒間隔)で計測を行い、計測のたびに計測結果を送信することが好ましい。
なお、データ送信装置5は、電力を計測するために電流計および電圧計を有してもよい。また、データ送信装置5は、通信ネットワーク4の種類に応じた適宜の通信規格にしたがった通信回路を有する。上記計測結果は、通信ネットワーク4で使われる通信プロトコルなどに応じた適宜のフォーマットで、制御装置10に送信される。
さて、制御装置10は、データ送受信装置6を内蔵していてもよい。あるいは、外付けのデータ送受信装置6が制御装置10に接続されていてもよい。いずれにしろ、図1(b)に示すように、データ送受信装置6も通信ネットワーク4に接続される。
したがって、制御装置10は、各太陽光発電設備2のデータ送信装置5から送信された計測結果を、通信ネットワーク4とデータ送受信装置6を介して受信することができる。よって、各データ送信装置5が計測を行う間隔を予め適切に設定しておく(例えば1秒程度の短めの間隔に設定しておく)ことにより、各太陽光発電設備2から電力系統1への供給電力を、ほぼリアルタイムに制御装置10が監視することが可能となる。
第1〜第2実施形態において制御装置10は、具体的には、各太陽光発電設備2から電力系統1へ供給される電力を示す情報を各太陽光発電設備2から収集する。そして、制御装置10は、収集した情報に基づいて、全ての太陽光発電設備2から電力系統1へ供給される電力の総和を算出し、算出した総和の変動を監視する。制御装置10は、変動に基づいて、各ガスエンジン発電設備3に発電させる電力を決定し、各ガスエンジン発電設備3に対して、決定した電力で発電するよう命令する。つまり、制御装置10は、データ送受信装置6と通信ネットワーク4を介して、各ガスエンジン発電設備3に命令を送信する。
詳しくは後述するが、制御装置10は、太陽光発電設備2から電力系統1に供給される電力の総和の変動を補完するように、各ガスエンジン発電設備3の発電出力を決定する。換言すれば、制御装置10は、太陽光発電設備2から電力系統1に供給される電力の総和の変動の少なくとも一部を打ち消すように、各ガスエンジン発電設備3に対して、当該ガスエンジン発電設備3から電力系統1に供給する電力を変更するよう命令する。
なお、「変動の少なくとも一部を打ち消す」ことは、より具体的には、「変動に含まれる複数の周波数成分のうち、少なくとも一部の周波数帯域に含まれる成分については、当該成分による変動を打ち消す」ことであってもよい。あるいは、「変動の少なくとも一部を打ち消す」ことは、例えば変動が大きい場合などにおいて、「大きさの面で、変動の全部ではなく一部だけを打ち消す」ことであってもよい。
例えば、太陽光発電設備2から電力系統1に供給される電力の総和の変動には、複数の周波数成分が含まれるが、これらの複数の周波数成分のうちの、ある1つの周波数成分の振幅が大きい場合があり得る。あるいは、2つ以上の周波数成分の合成波の振幅が大きい場合もあり得る。いずれにせよ、振幅が大きい場合などには、その振幅の一部に当たる部分だけでも打ち消すように、制御装置10が、各ガスエンジン発電設備3に発電させる電力を決定してもよい。
また、ガスエンジン発電設備3ごとに、その発電出力を変化させる能力(例えば変化の大きさや速さなど)は様々である。よって、制御装置10は、各ガスエンジン発電設備3の能力に応じて、各ガスエンジン発電設備3の発電出力を決定する。
各ガスエンジン発電設備3は、データ受信装置7を内蔵していてもよい。あるいは、外付けのデータ受信装置7がガスエンジン発電設備3に接続されていてもよい。いずれにしろ、図1(b)に示すように、データ受信装置7は、通信ネットワーク4に接続されるものであり、通信ネットワーク4の種類に応じた適宜の通信規格にしたがった受信装置である。
よって、ガスエンジン発電設備3は、通信ネットワーク4とデータ受信装置7を介して、制御装置10からの命令を受信することができる。ガスエンジン発電設備3は、受信した命令にしたがって、発電出力を変化させる。換言すれば、ガスエンジン発電設備3は、受信した命令にしたがって、電力系統1に供給する電力を変化させる。
その結果、太陽光発電設備2の発電出力の変動は、少なくとも部分的には打ち消される。したがって、太陽光発電設備2の発電出力の変動が電力系統1に与える影響は軽減される。つまり、電力系統1を運営する大規模電力会社側での調整(例えば、LFCにより火力発電所の出力を変更する調整)の負担が軽減される。
続いて、図2を参照して、制御装置10のブロック構成と、制御装置10が利用する特性値の例について説明する。図1の制御装置10は、より具体的には、図2(a)に示すように、監視部11と特性値記憶部12と決定部13と命令部14を有する。
監視部11は、電力系統1に接続された1台以上の再生可能エネルギー発電設備(例えば、図1(a)の例では4台の太陽光発電設備2)から電力系統1に供給される電力の総和の、時刻に応じた変動を監視する。監視部11は、具体的には、図1(b)を参照して説明したように、各太陽光発電設備2のデータ送信装置5から送信される情報を、通信ネットワーク4とデータ送受信装置6を介して繰り返し受信することで、上記変動を監視する。
第1〜第2実施形態では、各太陽光発電設備2のデータ送信装置5と、制御装置10は、不図示の時計を有する。そして、各データ送信装置5と制御装置10の時計は、例えばNTP(Network Time Protocol)またはSNTP(Simple Network Time Protocol)などの適宜のプロトコルにしたがって、適宜時刻合わせされる。
例えば、各データ送信装置5は、インバータ2bから電力系統1へ供給される電力を所定のスケジュールにしたがって計測し、計測時刻を示すタイムスタンプを計測結果に付けて、タイムスタンプ付きの計測結果を制御装置10に宛てて送信する。例えば、各データ送信装置5が毎秒ちょうどに計測を行う場合、「2012年11月20日9時31分26.0秒」、「2012年11月20日9時31分27.0秒」などといったタイムスタンプが、それぞれの計測結果に付けられる。
監視部11は、同じタイムスタンプが付いた計測結果同士を加算することにより、当該タイムスタンプが示す時刻において全ての太陽光発電設備2から電力系統1へ供給される電力の総和を求める。監視部11は、通信ネットワーク4を介した通信にかかる遅延時間に応じて、適宜のスケジュールにしたがって、加算を実行する。
通信ネットワーク4を介した通信にかかる遅延時間は、予備実験により予め計測されてもよい。説明の便宜上、例えば、予備実験から「通信遅延時間は概ね1.5秒以内である」と判明したものとする。
この場合、監視部11は、例えば、2012年11月20日9時31分27.5秒になったら、各データ送信装置5から受信した2012年11月20日9時31分26.0秒のタイムスタンプ付きの計測結果同士を加算してもよい。同様に、監視部11は、例えば、2012年11月20日9時31分28.5秒になったら、各データ送信装置5から受信した2012年11月20日9時31分27.0秒のタイムスタンプ付きの計測結果同士を加算してもよい。
つまり、監視部11は、通信遅延に応じた所定時間(上記の例では1.5秒)だけ現在時刻よりも前の時刻を示すタイムスタンプが付いた計測結果同士を加算する処理を、各データ送信装置5による計測の間隔と同じ所定の間隔で、実行してもよい。すると、監視部11は、加算の結果として、通信遅延に応じた所定時間だけ現在時刻よりも前の時刻における、全ての太陽光発電設備2から電力系統1へ供給される電力の総和を認識することができる。監視部11は、所定の間隔で上記のごとき加算を繰り返すことにより、太陽光発電設備2から電力系統1へ供給される電力の、時刻に応じた変動を監視することができる。
実施形態に応じて、監視部11が加算を実行するスケジュールは適宜決められてよい。また、複数の太陽光発電設備2のデータ送信装置5がそれぞれ付けるタイムスタンプ同士の間の許容誤差などが、実施形態に応じて適宜決められていてもよい。通信障害などの理由で、あるデータ送信装置5から情報が受信されない場合には、適宜の代替値(例えば、直近の所定回数の計測結果から外挿される値)が利用されてもよい。例えば外挿を可能とするために、各計測結果には、タイムスタンプだけでなく、太陽光発電設備2を識別する識別情報が付けられていてもよいし、制御装置10は、各太陽光発電設備2について、直近の所定回数分の計測結果を保存していてもよい。いずれにしろ、監視部11は、各データ送信装置5から受信した情報を合成することにより、全ての太陽光発電設備2から電力系統1へ供給される電力の総和を認識することができ、その総和の変動を監視することができる。
なお、監視部11による上記のごとき認識および監視は、上記のとおり、通信ネットワーク4を介した通信に起因する遅延をともなう。しかし、この通信遅延の影響は、無視して差し支えない。なぜなら、詳しくは図3とともに後述するように、太陽光発電設備2から電力系統1へ供給される電力の変動に含まれる周波数成分のうち、通信遅延と同程度の短い周期の成分は、制御装置10による補完制御の対象外だからである。換言すれば、制御装置10による補完制御の対象になる変動の成分の周期は、通信遅延と比べて十分に長いので、通信遅延の影響は無視して差し支えない。
さて、特性値記憶部12は、電力系統1に接続された複数の補完発電設備(例えば、図1(a)の例では2台のガスエンジン発電設備3)それぞれについての、1つ以上の特性値を記憶する。各特性値は、当該補完発電設備が発電出力を変化させる能力に関する特性を示す。
より具体的には、当該補完発電設備が発電出力を変化させることが可能な変化の幅を示す特性値が使われてもよいし、当該補完発電設備が発電出力を変化させることが可能な速度を示す特性値が使われてもよいし、両者が使われてもよい。
例えば、特性値記憶部12は、各ガスエンジン発電設備3についての特性値として、当該ガスエンジン発電設備3の定格出力を示す定格出力値と、ガスエンジン発電設備3に発電させる電力の基準値を記憶していてもよい。特性値記憶部12は、各ガスエンジン発電設備3についての特性値として、上記定格出力値と上記基準値との差である変動最大値を記憶していてもよい。
または、特性値記憶部12は、各ガスエンジン発電設備3についての特性値として、当該ガスエンジン発電設備3が上記基準値から上記定格出力値へと発電出力を上昇させる際の、発電出力が変化する速度の平均値(例えば「10kW/秒」など)を記憶してもよい。発電出力が変化する速度は、ガスエンジン発電設備3の応答性能を示す。
より具体的には、例えば、特性値記憶部12には、図2(b)に示す特性値テーブル15a〜15cのようなテーブル形式で、各ガスエンジン発電設備3の1つ以上の特性値が記憶されていてもよい。
特性値テーブル15aの各エントリは、1台のガスエンジン発電設備3に対応し、当該ガスエンジン発電設備3を識別する識別番号と、当該ガスエンジン発電設備3の変動最大値を含む。特性値テーブル15aは、全部で2台のガスエンジン発電設備3が電力系統1に接続されて制御装置10により制御される例に対応する。図2(b)によれば、これら2台のガスエンジン発電設備3の識別番号は1番と2番であり、2台それぞれの変動最大値は、40kWと10kWである。
特性値テーブル15bの各エントリは、1台のガスエンジン発電設備3に対応し、当該ガスエンジン発電設備3を識別する識別番号と、当該ガスエンジン発電設備3の応答性能値を含む。図2(b)の例では、応答性能値は「高」、「中」、「低」のように離散的に表されている。特性値テーブル15bは、全部で3台のガスエンジン発電設備3が電力系統1に接続されて制御装置10により制御される例に対応する。図2(b)によれば、これら3台のガスエンジン発電設備3の識別番号は11〜13番であり、3台それぞれの応答性能値は、それぞれ「高」、「低」、「中」である。
例えば、「3kW/秒未満は『低』、3kW/秒以上5kW/秒未満は『中』、5kW/秒以上は『高』」などと、予め基準が決められていてもよい。そして、各ガスエンジン発電設備3について、予め、例えば基準値から定格出力値へと当該ガスエンジン発電設備3が発電出力を上昇させる際の、発電出力の変化速度が計測されてもよい。特性値テーブル15bには、計測された変化速度を上記基準に当てはめた結果が、上記のように「高」、「中」、または「低」という応答性能値として記憶されていてもよい。
特性値テーブル15cのエントリは、1台のガスエンジン発電設備3に対応し、当該ガスエンジン発電設備3を識別する識別番号と、当該ガスエンジン発電設備3の変動最大値と、当該ガスエンジン発電設備3の応答性能値を含む。特性値テーブル15cは、全部で5台のガスエンジン発電設備3が電力系統1に接続されて制御装置10により制御される例に対応する。図2(b)によれば、これら5台のガスエンジン発電設備3の識別番号は21〜25番であり、5台それぞれの変動最大値は、10kW、40kW、30kW、25kW、15kWであり、5台それぞれの応答性能値は、「高」、「低」、「中」、「中」、「高」である。
ここで図2(a)の説明に戻る。決定部13は、電力系統1に接続された複数の補完発電設備それぞれに発電させる電力を決定する。この決定は、特性値記憶部12に記憶されている特性値と、監視部11により監視される上記の変動とに基づいて行われる。また、決定部13は、上記の変動の少なくとも一部を打ち消すように、各補完発電設備に発電させる電力を決定する。
そして、命令部14は、複数の補完発電設備それぞれに、決定部13が決定した電力で発電するよう、命令する。命令部14は、具体的にはデータ送受信装置6を介して命令を送信する。
ところで、制御装置10は、例えば汎用的なコンピュータであってもよい。つまり、制御装置10は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサと、DRAM(Dynamic Random Access Memory)などのメモリと、不揮発性記憶装置を有するコンピュータであってもよい。不揮発性記憶装置は、具体的には、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid-State Drive)、ROM(Read Only Memory)、またはその組み合わせであってもよい。
コンピュータは、例えば、起動時にRTC(Real Time Clock)を参照して現在時刻を認識し、認識した時刻に基づきCPUの内部クロックを設定し、その後は内部クロックが刻む時刻を現在時刻として認識してもよい。コンピュータは、上記のとおりNTPまたはSNTPなどの適宜のプロトコルにしたがって、現在時刻を適宜補正することができる。
データ送受信装置6は、例えば、制御装置10としてのコンピュータに内蔵されるオンボード型のLANインタフェイス回路であってもよいし、外付けのNIC(Network Interface Card)であってもよい。いずれにせよ、データ送受信装置6は、通信ネットワーク4の種類に応じた適宜の通信規格にしたがった通信装置である。
制御装置10が汎用的なコンピュータである場合、CPUなどのプロセッサがプログラムを実行することにより、コンピュータは制御装置10として動作する。プロセッサが実行するプログラムは、例えば、コンピュータが有する不揮発性記憶装置に予めインストールされていてもよい。プログラムは、通信ネットワーク4を介してコンピュータにダウンロードされ、不揮発性記憶装置に記憶されてもよい。
あるいは、プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供されてもよい。コンピュータは、記憶媒体の駆動装置を内蔵していてもよいし、外付けの駆動装置と接続されてもよい。いずれにしろ、コンピュータは、駆動装置を介して記憶媒体からプログラムを読み取り、プログラムを実行することができる。記憶媒体としては、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disk)などの光ディスク、光磁気ディスク、磁気ディスク、半導体メモリカードなどが利用可能である。
制御装置10が以上のようなコンピュータである場合、監視部11は、データ送受信装置6から受信される情報を使いながらプログラムを実行するプロセッサにより実現されてもよい。データ送受信装置6から受信された情報は、監視部11が加算を実行するまで(あるいは、通信障害に起因するデータ欠損とその際の外挿に備えるために、さらに所定期間だけ)、コンピュータのメモリまたは不揮発的記憶装置に、一時的に記憶される。
特性値記憶部12は、コンピュータが有する不揮発的記憶装置、メモリ、またはその組み合わせにより実現されてもよい。実施形態によっては、特性値記憶部12が制御装置10の外部にあってもよい。
決定部13は、プログラムを実行するプロセッサにより実現されてもよい。そして、命令部14は、プログラムを実行してデータ送受信装置6に命令を送信させるプロセッサによって実現されてもよい。
もちろん、実施形態によっては、汎用的なコンピュータの代わりに(または汎用的なコンピュータとともに)、ASIC(Application-Specific Integrated Circuit)などの専用のハードウェア回路が、制御装置10を実現するために用いられてもよい。
図3は、再生可能エネルギー発電設備による発電出力の変動とその補完について模式的に説明する図である。図3のグラフの横軸は時間、縦軸は電力である。
図3の線20は、制御装置10が電力の変動を監視する対象に含まれる全ての再生可能エネルギー発電設備から電力系統1に供給される電力の総和を示す。当該総和は時刻とともに変動するが、変動には様々な周波数成分が含まれる。実際の変動は線20よりも複雑であるが、説明の便宜上、監視対象の全ての再生可能エネルギー発電設備から電力系統1に供給される電力の総和が線20のように変動するものとする。
線21は、上記総和の変動に含まれる周波数成分のうち、決められた閾値未満の低い周波数の成分による変動を示す。具体的には、線21が示す変動は、大規模電力会社がEDCによって対処する対象であるような、長周期の変動(例えば、周期が約20分以上の変動)である。
ところで、紙幅の都合上、図1(a)と図1(b)にはわずかな台数の太陽光発電設備2しか例示されていないが、電力系統1には、多数の再生可能エネルギー発電設備が連系されていてよい。大まかな傾向としては、電力系統1に連系される再生可能エネルギー発電設備の台数が増えるほど、全ての再生可能エネルギー発電設備から電力系統1に供給される電力の総和においては、短周期(例えば1分未満の周期)の変動の成分が小さくなる。なぜなら、個々の再生可能エネルギー発電設備の出力における短周期の変動同士が打ち消しあうからである。このような打ち消し合いを「均し(ならし)効果」ともいう。
大まかな傾向としては、均し効果は、ある程度地理的に離れた所に個々の再生可能エネルギー発電設備が設置されている方が、より顕著に現れる。なぜなら、地理的に離れた場所同士の環境はある程度異なり、再生可能エネルギー発電設備の出力は天気などの環境に依存するからである。例えば、数十km以上離れて設置された複数の太陽光発電設備2が利用されてもよい。
図3の線20は、均し効果によって短周期の変動がほとんど打ち消されている例を示す。つまり、全ての再生可能エネルギー発電設備から電力系統1に供給される電力の総和の変動(すなわち線20が示す変動)の大部分は、線21が示す長周期の変動と、LFCの対象となるような中周期(例えば、1〜20分程度の周期)の変動である。
発電設備の応答速度という観点から見れば、これらの長周期および中周期の変動は、火力発電所の出力変化によって追従することが可能な速さでもあり、ガスエンジン発電設備3などの分散型の発電設備の出力変化によって追従することが可能な速さでもある。均し効果により、ガスエンジン発電設備3の応答速度では追従しにくいようなごく短周期の変動の成分が小さくなるので、ガスエンジン発電設備3の出力制御による補完が容易となる。
ところで、制御装置10は、線20が示す変動を補完するために、上記のとおり各ガスエンジン発電設備3の出力を制御する。補完は、換言すれば補償であり、変動を打ち消すことを意味する。
しかし、制御装置10は、必ずしも、線20が示す変動の全てを補完するようにガスエンジン発電設備3の出力を制御する必要はない。制御装置10は、線20が示す変動の少なくとも一部を打ち消すように、各ガスエンジン発電設備3の出力を制御するだけでもよい。なお、「変動の少なくとも一部」とは、「周波数帯域と振幅の一方または双方の観点から見て、変動全体のうちの少なくとも一部」という意味である。
具体的には、第1〜第2実施形態では、制御装置10は、全ての再生可能エネルギー発電設備から電力系統1に供給される電力の総和の変動のうち、中周期の変動を打ち消すための制御を行い、短周期と長周期については特に制御しない。理由は以下の二つである。
第一に、全ての再生可能エネルギー発電設備から電力系統1に供給される電力の総和の変動のうちの短周期の成分の大きさは、均し効果によって、小さく抑えられるからである。小幅な変動に対処するために大規模電力会社側にかかる負担は小さいので、短周期(例えば1分未満程度の周期)の変動は、あまり問題ではない。
また、多くのガスエンジン発電設備3の応答速度は、短周期の変動に追従するには不十分である。よって、第1〜第2実施形態では、短周期の変動は、制御装置10による補完制御の対象外である。
第二に、長周期の変動ほど(換言すれば低周波数の変動ほど)変動の振幅が大きい傾向があり、かつ、長周期の変動には大規模電力会社のEDCによる調整能力で十分に対処可能だからである。
もちろん、複数のガスエンジン発電設備3がそれぞれ発電出力を変えることのできる変動幅の総和が十分に大きければ、線20が示す変動を全て打ち消す(つまり線20と線22の差を全て打ち消す)ような補完も可能である。そして、実施形態によっては、そのような補完が行われてもよい。
しかしながら、複数のガスエンジン発電設備3がそれぞれ発電出力を変えることのできる変動幅の総和を十分に大きくするためには、例えば、非常に多数のガスエンジン発電設備3が必要になる可能性がある。あるいは、大きな変動幅を確保するために、個々のガスエンジン発電設備3を、定格出力に比べてかなり低いレベルで運転することが求められる可能性もある。
一方で、補完発電設備として使われるガスエンジン発電設備3は、必ずしも、太陽光発電設備2から電力系統1に供給される電力の変動を補完することを主目的として設置されているとは限らない。例えば、あるガスエンジン発電設備3が、もともとは工場内のコージェネレーション用に設置されている場合もあり得る。この場合、ガスエンジン発電設備3の所有者は、「ガスエンジン発電設備3の発電能力を、なるべく有効に、本来の目的(例えば工場内での使用)のために使いたい」と考えるであろう。
例えば、ガスエンジン発電設備3の所有者は、ある程度のインセンティブと引き換えに、「太陽光発電設備2から電力系統1に供給される電力の変動の補完のために、ガスエンジン発電設備3の余剰発電能力を提供するのは構わない」と考えるかもしれない。しかし、一方で、太陽光発電設備2に起因する大きな変動を補完するために、ガスエンジン発電設備3の普段の出力を過度に下げておかなくてはならないのなら、ガスエンジン発電設備3の所有者にとっては、不経済を押し付けられることになる。よって、ガスエンジン発電設備3の所有者は、「そういう不経済を押し付けられたくないから、補完発電設備としてガスエンジン発電設備3の利用を許すのは嫌だ」と考えるかもしれない。
つまり、全ての再生可能エネルギー発電設備から電力系統1に供給される電力の総和の変動を全て打ち消すような補完を実現するには、現実的には、いくつかの障害がある。具体的には、非常に多数のガスエンジン発電設備3を確保するための各種コストや、ガスエンジン発電設備3の所有者に対して強いる不経済などが、障害となり得る。
そして、そのような障害をあえて苦労して克服しなくても、「再生可能エネルギー発電設備の増加にともなって大規模電力会社にかかる調整の負担を軽減する」という目的自体は、達成可能である。なぜなら、長周期の変動(例えば、20分〜60分程度、あるいはそれ以上の周期の変動)に対しては、大規模電力会社は、例えば適宜の火力発電所の運転を止めるなどして、EDCによる調整を行うことが多く、EDCによる調整能力は十分にあるからである。今後の再生可能エネルギー発電設備の普及とともに懸念されるのは、むしろ、「LFCによる調整の対象となるような中周期の変動が、大規模電力会社の調整能力を超えてしまう」という事態である。
よって、あえて苦労して障害を克服してまで、変動幅の大きな長周期の変動の補完を実現する必要性は、あまり高くないのである。むしろ、上記のように懸念される事態を防ぐためには、LFCによる調整の対象となるような中周期(例えば、1〜20分程度の周期)の変動を補完することが有効である。
そして、大まかな傾向としては、長周期の変動に比べれば中周期の変動の振幅は小さいことがほとんどである。よって、中周期の変動を補完するためには、上記のごとき障害(例えば、非常に多数のガスエンジン発電設備3を確保するためのコストや、ガスエンジン発電設備3の所有者に対して強いる過度の不経済など)は、あまり心配する必要がない。つまり、長周期の変動を補完の対象外とし、中周期の変動を補完の対象とすることには、「実現のための障害が少ないので現実的である」という利点もあるし、「電力会社の調整負担を軽減する効果に実効性がある」という利点もある。
よって、第1〜第2実施形態の制御装置10は、全ての再生可能エネルギー発電設備から電力系統1に供給される電力の総和の変動のうちの中周期の変動を打ち消すための制御を行い、短周期と長周期については特に制御しない。中周期の変動の成分は、図3の例では、全ての再生可能エネルギー発電設備から電力系統1に供給される電力の総和の変動を示す線20と、長周期の変動を示す線21との差に相当する。
例えば、上向き矢印23は、補完の対象たる中周期の変動の成分が正の場合に対応する。この場合、制御装置10は、上向き矢印23が示す正の成分を打ち消すように、少なくとも1台のガスエンジン発電設備3の出力を下げる制御を行う。
逆に、下向き矢印24は、補完の対象たる中周期の変動の成分が負の場合に対応する。この場合、制御装置10は、下向き矢印24が示す負の成分を打ち消すように、少なくとも1台のガスエンジン発電設備3の出力を上げる制御を行う。
続いて、図4〜6を参照して第1実施形態について説明する。第1実施形態では、図2に関して説明した特性値として、特性値テーブル15aに例示した変動最大値が使われる。
具体的には、決定部13は、太陽光発電設備2から電力系統1に供給される電力の変動のうちの少なくとも一部を打ち消すための値を、各ガスエンジン発電設備3の変動最大値に応じて、制御対象に含まれる全てのガスエンジン発電設備3間に案分(すなわち比例配分)する。そして、決定部13は、案分した値に基づいて、各ガスエンジン発電設備3に発電させる電力を決定する。
さて、図4は、第1実施形態の制御方法について模式的に説明する図である。図4(a)〜(c)のグラフも、図3と同様、横軸が時間、縦軸が電力を示す。
図4(a)の線30は、全ての太陽光発電設備2から電力系統1に供給される電力の変動から、補完の対象外の低周波成分を取り除いた残りの変動を示す。つまり、線30は、図3の線20と線21の差に対応する。よって、線30を上下反転させた線31は、太陽光発電設備2からの出力に起因する変動を打ち消すために、制御装置10が複数のガスエンジン発電設備3の出力に生じさせようとする変化を示す。
より具体的には、第1実施形態では、各ガスエンジン発電設備3について、制御装置10は、当該ガスエンジン発電設備3の発電出力の基準値を予め認識する。以下では、この基準値を「ベース出力値」ともいう。第1実施形態では、説明の簡単化のため、ベース出力値がガスエンジン発電設備3ごとに決められた定数値であるものとする。
よって、制御装置10は、各ガスエンジン発電設備3のベース出力値を予め記憶装置に記憶し、認識することができる。例えば、制御装置10がコンピュータである場合、ベース出力値は、コンピュータが有する不揮発性記憶装置(例えばHDDやSSDなど)に記憶されてもよい。
図4(a)の線31は、より具体的には、制御装置10が出力を制御する対象の全てのガスエンジン発電設備3のベース出力値の総和を基準として、全てのガスエンジン発電設備3の発電出力をどのように変化させるかを示す。
ここで、説明の便宜上、例えば図1(a)のように2台のガスエンジン発電設備3が電力系統1に連系されており、制御装置10がこれら2台のガスエンジン発電設備3の出力を制御するものとする。また、これら2台のガスエンジン発電設備3の特性値が、図2(b)の特性値テーブル15aに示すとおりであるとする。
この場合、図2(b)によれば、1番のガスエンジン発電設備3の変動最大値は40kWであり、2番のガスエンジン発電設備3の変動最大値は10kWである。すなわち、図2(b)の特性値テーブル15aは、以下のことを表す。
・1番のガスエンジン発電設備3は、ベース出力値を中心として±40kWの範囲で出力を変化させることができる。
・2番のガスエンジン発電設備3は、ベース出力値を中心として±10kWの範囲で出力を変化させることができる。
この場合、決定部13は、特性値記憶部12に記憶された特性値テーブル15aを参照して各ガスエンジン発電設備3の変動最大値を読み出す。そして、線30が示す変動を打ち消すための値(すなわち線31により示される値)を、変動最大値に応じて2台のガスエンジン発電設備3の間で案分(つまり比例配分)する。図4(b)は、以上のような案分を示す。
図4(b)には、図4(a)の線31が参考用に点線で示されており、さらに、1番と2番のガスエンジン発電設備3にそれぞれ対応する線32と線33が示されている。また、図4(b)では線31〜33が重なりあっているので、理解の助けとするために、図4(c)では線32と線33を離して図示してある。
線32は、1番のガスエンジン発電設備3のベース出力値を基準として、1番のガスエンジン発電設備3の発電出力をどのように変化させるかを示す。線32が示す変動は、線31が示す変動の4/5(=40/(10+40))である。
同様に、図4(b)の線33は、2番のガスエンジン発電設備3のベース出力値を基準として、2番のガスエンジン発電設備3の発電出力を、どのように変化させるかを示す。線33が示す変動は、線31が示す変動の1/5(=10/(10+40))である。
さて、続いて、図4に模式的に示した案分制御について、図5と図6を参照してさらに詳しく説明する。図5は、第1実施形態における決定部13の詳細を例示する図である。図5に示す決定部40は、決定部13の例の一つであり、より具体的には、制御装置10が出力を制御する対象のガスエンジン発電設備3が2台である場合の、決定部13の例である。
決定部40は、ローパスフィルタ41と、減算部42と、PIDコントローラ(proportional-integral-derivative controller)43を有する。また、決定部40は、1台目のガスエンジン発電設備3に対応する乗算部44aおよび加算部45aを有し、さらに、2台目のガスエンジン発電設備3に対応する乗算部44bおよび加算部45bを有する。
決定部40への入力は、図5では「PV発電出力値」と書かれている(「PV」はphotovoltaicの略である)。具体的には、PV発電出力値は、監視部11による監視結果であり、図3の線20に対応する。つまり、PV発電出力値は、各データ送信装置5から同じタイムスタンプ付きで送信されてきた計測結果の総和である。例えば上記の例のように1秒間隔で各データ送信装置5が計測を行う場合、監視部11から決定部40に入力されるPV発電出力値も、1秒間隔で更新される。
図5に示すように、PV発電出力値はローパスフィルタ41に入力される。ローパスフィルタ41は、具体的には、EDCの対象となるような長周期の成分(つまり低周波数の成分)を通過させる。例えば、PV発電出力値が図3の線20のように変化する場合、ローパスフィルタ41の出力は、図3の線21のように変化する。
ローパスフィルタ41のカットオフ周波数は、制御装置10による補完制御の対象として予め決められた周波数帯域の下限値に設定されてもよい。例えば、図3に関して説明したように、補完制御の対象が1〜20分程度の周期の成分である場合、20分周期の波の周波数は1/1200Hzであるから、ローパスフィルタ41のカットオフ周波数が1/1200Hzと設定されてもよい。なお、ローパスフィルタ41の具体的詳細は、実施形態に応じて適宜決められてよく、例えば、1次遅れ系のローパスフィルタが使われてもよい。
また、PV発電出力値は、減算部42にも入力される。そして、減算部42には、ローパスフィルタ41からの出力も、入力される。減算部42は、ローパスフィルタ41からの出力から、PV発電出力値を減じて、得られた差を出力する。例えば、PV発電出力値が図3の線20のように変化する場合、減算部42の出力は、上向き矢印23に対応する時点では、上向き矢印23の大きさを持った負の値である。また、下向き矢印24に対応する時点では、減算部42の出力は、下向き矢印24の大きさを持った正の値である。つまり、減算部42の出力は、図4(a)の線31に対応する。
そして、減算部42からの出力は、PIDコントローラ43に入力される。第1実施形態では、PIDコントローラ43は、入力値をそのまま出力する。よって、PIDコントローラ43は省略されてもよいが、制御の柔軟性を高めるために、図5のようにPIDコントローラ43が使われてもよい。例えば、PIDコントローラ43に設定される各種ゲインの値が、実施形態に応じて適宜調整されてもよい。
PIDコントローラ43からの出力は、乗算部44aと44bの双方に入力される。上記のとおり第1実施形態では、PIDコントローラ43は入力値をそのまま出力するので、乗算部44aと44bへの入力も、図4(a)の線31に対応する。
図5には、1番目のガスエンジン発電設備3の変動最大値がAであり、2番目のガスエンジン発電設備3の変動最大値がBである場合が例示されている。例えば、図2(b)の特性値テーブル15aの例では、A=40kW、B=10kWである。
図5に示すように、乗算部44aは、入力値にA/(A+B)を乗じ、乗算結果を出力する。また、乗算部44bは、入力値にB/(A+B)を乗じ、乗算結果を出力する。つまり、乗算部44aの出力は図4(b)の線32に対応し、乗算部44bの出力は図4(b)の線33に対応する。乗算部44aと44bにより、PIDコントローラ43の出力値は、2台のガスエンジン発電設備3の間で、それぞれの変動最大値に応じて案分される。
さて、乗算部44aの出力は、加算部45aに入力される。加算部45aには、1台目のガスエンジン発電設備3のベース出力値も入力される。加算部45aは2つの入力値を加算し、得られた和を図2(a)の命令部14に出力する。命令部14は、データ送受信装置6と通信ネットワーク4を介して、1台目のガスエンジン発電設備3に対して、指定した値で発電するように命令するが、ここで指定される値として、加算部45aからの出力値が使われる。以下では、加算部45aの出力値を「出力指令値」ともいう。
同様に、乗算部44bの出力は、加算部45bに入力される。加算部45bには、2台目のガスエンジン発電設備3のベース出力値も入力される。加算部45bは2つの入力値を加算し、得られた和(すなわち2台目のガスエンジン発電設備3用の出力指令値)を命令部14に出力する。
なお、図5には、図示の便宜上、制御装置10による制御対象のガスエンジン発電設備3が2台の場合が例示されているが、制御装置10による制御対象のガスエンジン発電設備3の台数は、2以上であれば任意である。どの台数に対応する決定部13の構成も、図5から明らかに理解されるであろう。
また、第1実施形態では、制御装置10は、具体的にはコンピュータにより実現される。よって、図5に示す各構成要素は、プログラムを実行するCPUにより実現される。例えば、公知の数値解析ソフトウェアのライブラリモジュールをCPUが実行することによって、ローパスフィルタ41やPIDコントローラ43が実現されてもよい。減算部42、乗算部44a、乗算部44b、加算部45a、および加算部45bも、プログラムを実行するCPUにより実現される。
なお、乗算部44aは、特性値記憶部12を参照することによって、入力値に乗じる乗数A/(A+B)を決定する。同様に、乗算部44bも、特性値記憶部12を参照することによって、入力値に乗じる乗数B/(A+B)を決定する。
また、加算部45aと45bにそれぞれ入力されるベース出力値も、上記のとおり予め制御装置10に記憶されている。例えば、制御装置10を実現するコンピュータが有するHDDまたはSSDに、2台のガスエンジン発電設備3それぞれのベース出力値が記憶されていてもよい。
この場合、加算部45aは、HDDまたはSSDからベース出力値を読み取り、読み取ったベース出力値を乗算部44aからの出力値に足す。同様に、加算部45bも、HDDまたはSSDからベース出力値を読み取り、読み取ったベース出力値を乗算部44bからの出力値に足す。
さて、図6は、第1実施形態の制御方法のフローチャートである。第1実施形態では、制御装置10が所定の間隔で(すなわち、図1(b)の各データ送信装置5が太陽光発電設備2の発電出力に関する情報を送信する間隔と同じ間隔で)、図6の処理を実行する。
例えば、図2(a)に関して説明した例では、所定の間隔が1秒間隔である。よって、この場合、監視部11は、通信遅延に応じた所定時間(例えば1.5秒)だけ現在時刻よりも前の時刻を示すタイムスタンプが付いた計測結果同士を加算することでPV発電出力値を得て、PV発電出力値を決定部13に入力する。つまり、この場合、決定部13には1秒間隔で次々とPV発電出力値が入力され、新たなPV発電出力値が決定部13に入力されるたびに、図6の処理が行われる。
以下では、制御装置10が出力を制御する対象のガスエンジン発電設備3の台数をnとする。図1(a)と図1(b)はn=2の例に対応し、図2(b)の特性値テーブル15aもn=2の例に対応する。また、図4と図5もn=2の例に対応する。しかし、nは2以上の任意の整数でよい。
また、以下では、全ての太陽光発電設備2から電力系統1へと供給される電力の総和をP[kW]とする。この供給電力Pは、図5のPV発電出力値のことであり、例えば図3の線20により示されるように、時刻とともに変動する。
ところで、図3に関して説明したように、第1実施形態における制御装置10による補完制御の目標は、線20のような変動と線21のような変動の差を補完する(すなわち打ち消す)ことである。そこで、以下では、線21で表されるような低周波成分を「目標値」とも言い、目標値をQ[kW]とする。
また、以下では、全ての太陽光発電設備2から電力系統1への出力Pと目標値Qとの差をΔP[kW]とする。差ΔPは式(1)のように表すことができる。例えば図3において、上向き矢印23は、差ΔPが正の場合を例示しており、下向き矢印24は、差ΔPが負の場合を例示している。
ΔP=P−Q (1)
さて、図6の処理が開始されると、まずステップS10で、決定部13が追加出力値ΔEを決定する。追加出力値ΔEは、全ての太陽光発電設備2から電力系統1への出力Pと目標値Qとの差ΔPを打ち消すために、n台のガスエンジン発電設備3に追加的に出力させる電力を示す。つまり、追加出力値ΔEは、式(2)のように表される。
ΔE=−ΔP (2)
なお、ここで「n台のガスエンジン発電設備3に追加的に出力させる」とは、n台のガスエンジン発電設備3に、各ベース出力値を基準としてさらに出力させることを意味するが、追加出力値ΔEは、正の場合もあり得るし、負の場合もあり得る。つまり、追加出力値ΔEが負の場合は、各ガスエンジン発電設備3の出力をベース出力値よりも下げることを意味する。
なお、図5は上記のとおりn=2の場合の例を示す。図5において、PV発電出力値が上記の出力Pに相当し、ローパスフィルタ41の出力が目標値Qに相当する。したがって、減算部42の出力が追加出力値ΔEに相当する。図5のPIDコントローラ43は入力値をそのまま出力するので、PIDコントローラ43の出力も追加出力値ΔEに相当する。
続いて、ステップS11で決定部13は、追加出力値ΔEを、各ガスエンジン発電設備3の変動最大値にしたがって、n台のガスエンジン発電設備3に案分する。案分により、決定部13は、1≦j≦nなる各jについて、j番目のガスエンジン発電設備3の追加出力値ΔEjを決定する。
以下では、j番目のガスエンジン発電設備3の変動最大値をCj[kW]とする。
また、例えば、図2(b)の特性値テーブル15aはn=2の場合に対応し、特性値テーブル15aではC1=40、C2=10である。図5もn=2の場合に対応し、図5の例ではC1=A、C2=Bである。
ステップS11での案分は、式(3)のように表される。例えば図5の例では、ステップS11の案分は乗算部44aと44bにより実行される。乗算部44aの出力が追加出力値ΔE1であり、乗算部44bの出力が追加出力値ΔE2である。
次に、ステップS12で決定部13は、1≦j≦nなる各jについて出力指令値を決定し、各出力指令値を命令部14に出力する。以下では、j番目のガスエンジン発電設備3のベース出力値と出力指令値を、それぞれBjとEjとする。明らかに、0<Cj<Bjである。
ステップS12で決定部13は、具体的には、1≦j≦nなる各jについて、追加出力値ΔEjとベース出力値Bjを足すことにより、出力指令値Ejを決定する。つまり、出力指令値Ejは式(4)のように表される。
Ej=ΔEj+Bj (4)
ステップS12での出力指令値Ejの決定は、例えば図5の例では、加算部45aと45bにより実行される。加算部45aの出力が出力指令値E1であり、加算部45bの出力が出力指令値E2である。
最後に、ステップS13で命令部14は、1≦j≦nなる各jについて、j番目のガスエンジン発電設備3に対して、出力指令値Ejで運転するよう、命令する。ステップS13での命令は、データ送受信装置6、通信ネットワーク4、および各データ受信装置7を介して、各ガスエンジン発電設備3に受信される。
そして、各ガスエンジン発電設備3は、受信した命令にしたがって、発電出力を変化させる。その結果、PV発電出力値Pの変動のうちの中周期成分が補完されるので、大規模電力会社にかかる調整の負担が軽減される。
また、補完にあたっては、各ガスエンジン発電設備3の変動最大値が考慮されるので、各ガスエンジン発電設備3の能力に応じた効率的な補完が可能である。そして、「個々の太陽光発電設備2ごとにガスエンジン発電設備3を設ける必要がない」という点でも、第1実施形態の補完は効率的である。
なお、第1実施形態によれば、大規模電力会社にかかる調整の負担が軽減されるため、大規模電力会社は、たとえ電力系統1に連系される太陽光発電設備2が増加しても、その増加に応じて調整能力を増強するための過度の設備投資などをする必要はない。したがって、第1実施形態は、再生可能エネルギー発電設備の普及を推進するうえでも有益である。
続いて、図7〜9を参照して第2実施形態について説明する。第2実施形態では、図2に関して説明した特性値として、特性値テーブル15bに例示した応答性能値が使われる。
具体的には、制御装置10の決定部13は、太陽光発電設備2から電力系統1に供給される電力の総和の変動に含まれる複数の周波数成分のうち、所定個数の周波数帯域の成分それぞれについて、以下のような処理を行う。すなわち、決定部13は、当該周波数帯域の成分による変動に追従することが可能な速度を応答性能値が示している補完発電設備に発電させる電力を、当該周波数帯域の成分による変動の少なくとも一部を打ち消すための値に基づいて、決定する。
さて、図7は、第2実施形態の制御方法について模式的に説明する図である。図7(a)〜(c)のグラフも、図3と同様、横軸が時間、縦軸が電力を示す。
図7(a)の線50は、全ての太陽光発電設備2から電力系統1に供給される電力の変動から、補完の対象外の低周波成分を取り除いた残りの変動を示す。つまり、線50は、図3の線20と線21の差に対応し、式(1)の差ΔPに相当する。よって、線50を上下反転させた線51は、太陽光発電設備2からの出力に起因する変動を打ち消すために、制御装置10が複数のガスエンジン発電設備3の出力に生じさせようとする変化を示し、式(2)の追加出力値ΔEに相当する。
より具体的には、第2実施形態においても第1実施形態と同様に、制御装置10は、各ガスエンジン発電設備3のベース出力値を予め認識する。第2実施形態でも説明の簡単化のため、ベース出力値がガスエンジン発電設備3ごとに決められた定数値であるものとする。
図7(a)の線51は、より具体的には、制御装置10が出力を制御する対象の全てのガスエンジン発電設備3のベース出力値の総和を基準として、全てのガスエンジン発電設備3の発電出力をどのように変化させるかを示す。
ここで、説明の便宜上、例えば図1(a)のように2台のガスエンジン発電設備3が電力系統1に連系されており、制御装置10がこれら2台のガスエンジン発電設備3の出力を制御するものとする。そして、2台のガスエンジン発電設備3の応答性能は互いに異なっているものとする。具体的には、1台目のガスエンジン発電設備3の応答速度は遅く、2台目のガスエンジン発電設備3の応答速度は速いものとする。
この場合、決定部13は、特性値記憶部12を参照して各ガスエンジン発電設備3の応答性能値を読み出す。そして、線50が示す変動に含まれる周波数成分のうち、相対的に低い周波数帯域の成分による変動の少なくとも一部を打ち消すための値に基づいて、決定部13は、応答速度が遅い方の(つまり1台目の)ガスエンジン発電設備3に発電させる電力を決定する。同様に、線50が示す変動に含まれる周波数成分のうち、相対的に高い周波数帯域の成分による変動の少なくとも一部を打ち消すための値に基づいて、決定部13は、応答速度が速い方の(つまり2台目の)ガスエンジン発電設備3に発電させる電力を決定する。
図7(b)には、図7(a)の線51が参考用に点線で示されている。また、図7(b)の線52は、線50が示す変動に含まれる周波数成分のうち、相対的に低い周波数帯域の成分による変動を打ち消すための値を示す。そして、図7(b)の線53は、線50が示す変動に含まれる周波数成分のうち、相対的に高い周波数帯域の成分による変動を打ち消すための値を示す。線51が示す値は、線52が示す値と線53が示す値の和である。
線52は、「応答速度の遅い方の(つまり1台目の)ガスエンジン発電設備3の発電出力をどのように変化させるか」ということを示す。これは、相対的に低い周波数帯域の成分による比較的緩やかな変動にならば、応答速度が遅い1台目のガスエンジン発電設備3であっても、追従してゆくことが可能だからである。線52は、1台目のガスエンジン発電設備3による追従の様子を示しているとも言える。
逆に、線53は、「応答速度の速い方の(つまり2台目の)ガスエンジン発電設備3の発電出力をどのように変化させるか」ということを示す。これは、相対的に高い周波数帯域の成分による比較的急な変動にも、応答速度の速い2台目のガスエンジン発電設備3ならば追従してゆくことが可能だからである。線53は、2台目のガスエンジン発電設備3による追従の様子を示しているとも言える。
つまり、第2実施形態では、各ガスエンジン発電設備3の応答速度に応じて、「どのガスエンジン発電設備3にどの周波数帯域の成分の変動を補完させるか」という分担が決められており、応答速度に応じた効率的な補完が行われる。
なお、図7(b)では線51〜53が重なりあっているので、理解の助けとするために、図7(c)では線52と線53を離して図示してある。
線52は、1台目のガスエンジン発電設備3のベース出力値を基準として、1台目のガスエンジン発電設備3の発電出力をどのように変化させるかを示す。線52は、線51が示す変化のうち、相対的に低い周波数帯域の成分を示す。
同様に、線53は、2台目のガスエンジン発電設備3のベース出力値を基準として、2台目のガスエンジン発電設備3の発電出力をどのように変化させるかを示す。線53は、線51が示す変化のうち、相対的に高い周波数帯域の成分を示す。
さて、続いて、図7に模式的に示した制御について、図8と図9を参照してさらに詳しく説明する。図8は、第2実施形態における決定部13の詳細を例示する図である。図8に示す決定部60は、決定部13の例の一つであり、より具体的には、制御装置10が出力を制御する対象のガスエンジン発電設備3が3台であり、かつ、3台の応答性能が互いに異なる場合の、決定部13の例である。
決定部60は、バンドパスフィルタ61a〜61cと、符号反転部62a〜62cと、PIDコントローラ63a〜63cと、加算部64a〜64cを有する。決定部60への入力は、第1実施形態と同様に、PV発電出力値である。上記のとおり、PV発電出力値は、監視部11による監視結果であり、図3の線20に対応する。
バンドパスフィルタ61aの通過帯域は、制御装置10による補完制御の対象として予め決められた周波数帯域を、上記3台のガスエンジン発電設備3それぞれの応答速度に応じて適宜3つに分割した周波数帯域のうち、最も低い周波数帯域である。換言すれば、バンドパスフィルタ61aの通過帯域は、3台中で最も応答速度の遅いガスエンジン発電設備3が追従可能な程度の比較的緩やかな変化に対応する、相対的に低い周波数帯域である。
逆に、バンドパスフィルタ61cの通過帯域は、上記の3つに分割した周波数帯域のうち、最も高い周波数帯域である。換言すれば、バンドパスフィルタ61cの通過帯域は、3台中で最も応答速度の速いガスエンジン発電設備3にとっては追従可能な(しかし、残りの2台にとっては追従不能または追従困難であるような)比較的急な変化に対応する、相対的に高い周波数帯域である。
そして、バンドパスフィルタ61bの通過帯域は、上記の3つに分割した周波数帯域のうち、真ん中の周波数帯域である。換言すれば、バンドパスフィルタ61bの通過帯域は、3台中で応答速度が2番目のガスエンジン発電設備3が追従可能な(しかし、最も応答速度が遅いガスエンジン発電設備3にとっては追従不能または追従困難であるような)変化に対応する、中程度の周波数帯域である。
例えば、図3に関して説明したように、制御装置10による補完制御の対象は、大規模電力会社が火力発電所について行うLFCによる調整の対象と同様の、1〜20分程度の周期の成分であってもよい。つまり、1/1200〜1/60Hzという周波数帯域が、補完制御の対象として予め決められていてもよい。この場合、バンドパスフィルタ61a〜61cそれぞれの通過帯域は、1/1200〜1/60Hzという周波数帯域を3つに分割した各帯域である。
なお、制御装置10による制御の対象である上記3台のガスエンジン発電設備3それぞれの応答速度は、仕様から判明する場合もあり得るし、予備実験の結果として判明する場合もあり得る。いずれにせよ、応答速度を表す特性値が、例えば図2(b)の特性値テーブル15bのように、予め特性値記憶部12に記憶される。
また、ガスエンジン発電設備3の応答速度と、その応答速度で追従することが可能な変動の周波数との関係も、予めシミュレーションまたは予備実験などから判明しているものとする。バンドパスフィルタ61a〜61cそれぞれの通過帯域は、シミュレーションまたは予備実験などから判明する当該関係に基づいて定められる。
さて、図8に示すとおり、決定部60に入力されたPV発電出力値は、具体的には、バンドパスフィルタ61a〜61cの各々に入力される。そして、バンドパスフィルタ61aの出力は符号反転部62aに入力され、バンドパスフィルタ61bの出力は符号反転部62bに入力され、バンドパスフィルタ61cの出力は符号反転部62cに入力される。
符号反転部62aは、バンドパスフィルタ61aから入力された値の正負の符号を反転させて、符号反転後の値をPIDコントローラ63aに出力する。同様に、符号反転部62bは、バンドパスフィルタ61bから入力された値の正負の符号を反転させて、符号反転後の値をPIDコントローラ63bに出力する。また、符号反転部62cは、バンドパスフィルタ61cから入力された値の正負の符号を反転させて、符号反転後の値をPIDコントローラ63cに出力する。
第2実施形態のPIDコントローラ63a〜63cも、第1実施形態のPIDコントローラ43と同様に、それぞれ、入力値をそのまま出力する。よって、PIDコントローラ63a〜63cは省略されてもよいが、制御の柔軟性を高めるために、図8のようにPIDコントローラ63a〜63cが使われてもよい。例えば、PIDコントローラ63a〜63cに設定される各種ゲインの値が、実施形態に応じて適宜調整されてもよい。
PIDコントローラ63aからの出力は、加算部64aに入力される。加算部64aには、3台のガスエンジン発電設備3のうち、応答速度が最も遅いガスエンジン発電設備3のベース出力値も入力される。加算部64aは、2つの入力値を加算し、得られた和(すなわち出力指令値)を図2(a)の命令部14に出力する。
同様に、PIDコントローラ63bからの出力は、加算部64bに入力される。加算部64bには、3台のガスエンジン発電設備3のうちで応答速度が2番目に速いガスエンジン発電設備3のベース出力値も入力される。加算部64bは、2つの入力値を加算し、得られた和(すなわち出力指令値)を図2(a)の命令部14に出力する。
また、PIDコントローラ63cからの出力は、加算部64cに入力される。加算部64cには、3台のガスエンジン発電設備3のうちで応答速度が最も速いガスエンジン発電設備3のベース出力値も入力される。加算部64cは、2つの入力値を加算し、得られた和(すなわち出力指令値)を図2(a)の命令部14に出力する。
なお、図8には、図示の便宜上、制御装置10による制御対象のガスエンジン発電設備3が3台の場合が例示されている。しかし、制御装置10による制御対象のガスエンジン発電設備3の台数は、2以上であれば任意である。どの台数に対応する決定部13の構成も、図8から明らかに理解されるであろう。
また、第2実施形態では、制御装置10は、具体的にはコンピュータにより実現される。よって、図8に示す各構成要素は、プログラムを実行するCPUにより実現される。例えば、公知の数値解析ソフトウェアのライブラリモジュールをCPUが実行することによって、バンドパスフィルタ61a〜61cやPIDコントローラ63a〜63cが実現されてもよい。符号反転部62a〜62cおよび加算部64a〜64cも、プログラムを実行するCPUにより実現される。
加算部64a〜64cにそれぞれ入力されるベース出力値も、上記のとおり予め制御装置10に記憶されている。例えば、制御装置10を実現するコンピュータが有するHDDまたはSSDに、3台のガスエンジン発電設備3それぞれのベース出力値が記憶されていてもよい。
この場合、加算部64aは、HDDまたはSSDからベース出力値を読み取り、読み取ったベース出力値を、PIDコントローラ63aからの出力値に足す。同様に、加算部64bは、HDDまたはSSDからベース出力値を読み取り、読み取ったベース出力値を、PIDコントローラ63bからの出力値に足す。また、加算部64cは、HDDまたはSSDからベース出力値を読み取り、読み取ったベース出力値を、PIDコントローラ63cからの出力値に足す。
さて、図9は、第2実施形態の制御方法のフローチャートである。第1実施形態と同様に、第2実施形態においても、制御装置10は所定の間隔で(すなわち、図1(b)の各データ送信装置5が太陽光発電設備2の発電出力に関する情報を送信する間隔と同じ間隔で)、図9の処理を実行する。
例えば、図2(a)に関して説明した例では、所定の間隔が1秒間隔である。よって、この場合、監視部11は、通信遅延に応じた所定時間(例えば1.5秒)だけ現在時刻よりも前の時刻を示すタイムスタンプが付いた計測結果同士を加算することでPV発電出力値を得て、PV発電出力値を決定部13に入力する。つまり、この場合、決定部13には1秒間隔で次々とPV発電出力値が入力され、新たなPV発電出力値が決定部13に入力されるたびに、図9の処理が行われる。
以下、図9の説明においては、図6の説明と同様の、「n」および「P」なる記号を用いる。すなわち、nは、制御装置10が出力を制御する対象のガスエンジン発電設備3の台数である。Pは、全ての太陽光発電設備2から電力系統1へと供給される電力の総和(すなわち図8のPV発電出力値)である。
説明の簡単化のため、n台のガスエンジン発電設備3それぞれの応答速度が互いにある程度異なるものとする。例えば、図2(b)の特性値テーブル15bは、n=3であり、かつ、3台のガスエンジン発電設備3それぞれの応答速度が、互いにある程度異なる場合に対応する。図8も、そのような場合に対応する。しかし、もちろんnは2以上の任意の整数でよい。
さて、図9の処理が開始されると、まずステップS20で、決定部13が、1≦j≦nなる各jについて、以下の処理を行う。すなわち、決定部13は、全ての太陽光発電設備2から電力系統1への出力を示す値Pをj番目のバンドパスフィルタに入力することにより、全ての太陽光発電設備2から電力系統1への出力の変動のうち、j番目の変化速度に対応する成分を求める。
以下では、j番目の変化速度に対応する成分をPjとする。成分Pjは、換言すれば、PV発電出力値Pの変動に含まれる種々の周波数成分のうち、制御装置10による補完制御の対象の範囲をn個に分割した周波数帯域のうち、j番目の周波数帯域に対応する成分である。
例えば、図8の例ではn=3である。図8の例では、PV発電出力値Pが、3つのバンドパスフィルタ61a〜61cにそれぞれ入力される。
図8の例では、PV発電出力値Pの変動のうち、最も遅い変化速度(つまり1番目の変化速度)に対応する成分P1が、バンドパスフィルタ61aの出力としてステップS20で得られる。つまり、成分P1は、3台のガスエンジン発電設備3のうちで最も応答速度が遅いガスエンジン発電設備3でも追従可能な、比較的遅い変化速度に対応する成分である。換言すれば、成分P1は、PV発電出力値Pの変動のうち、バンドパスフィルタ61aの通過帯域に含まれる周波数成分である。
また、PV発電出力値Pの変動のうち、2番目に遅い変化速度に対応する成分P2が、バンドパスフィルタ61bの出力としてステップS20で得られる。つまり、成分P2は、3台のガスエンジン発電設備3のうちで応答速度が2番目に遅いガスエンジン発電設備3でも追従可能な変化速度に対応する成分である。換言すれば、成分P2は、PV発電出力値Pの変動のうち、バンドパスフィルタ61bの通過帯域に含まれる周波数成分である。
そして、PV発電出力値Pの変動のうち、最も速い変化速度(つまり3番目の変化速度)に対応する成分P3が、バンドパスフィルタ61cの出力としてステップS20で得られる。つまり、成分P3は、3台のガスエンジン発電設備3のうちで最も応答速度が速いガスエンジン発電設備3ならば追従可能な、比較的速い変化速度に対応する成分である。換言すれば、成分P3は、PV発電出力値Pの変動のうち、バンドパスフィルタ61cの通過帯域に含まれる周波数成分である。
なお、上記のとおり第2実施形態においても、制御装置10による補完制御の対象は、例えば1〜20分程度の中周期の変動である。つまり、図3に関して説明したように、線21が示すような長周期の変動は補完制御の対象外である。よって、ステップS20で得られる上記のn個の成分P1〜Pnの和は、全ての太陽光発電設備2から電力系統1への出力Pと目標値Qとの差ΔP(式(1)参照)に等しいと見なせる。すなわち、「制御装置10による補完制御の対象外の短周期の変動は、均し効果によってほとんど打ち消されている」と見なせるため、式(5)の等号が成り立つと見なせる。
さて、以上のようにしてn個の成分P1〜Pnが得られると、次に、ステップS21で決定部13は、1≦j≦nなる各jについて、成分Pjを打ち消すための追加出力値ΔEjを、式(6)のように決定する。
ΔEj=−Pj (6)
例えば、図8の例では、n=3であり、ステップS21における追加出力値ΔE1〜ΔE3の決定は、3つの符号反転部62a〜62cにより行われる。つまり、符号反転部62aは、成分P1の値を入力として受け取って追加出力値ΔE1を出力する。同様に、符号反転部62bは、成分P2の値を入力として受け取って追加出力値ΔE2を出力する。また、符号反転部62cは、成分P3の値を入力として受け取って追加出力値ΔE3を出力する。
また、図8の例では、PIDコントローラ63a〜63cは、いずれも、入力された値をそのまま出力する。よって、PIDコントローラ63a〜63cの出力は、それぞれ、追加出力値ΔE1、ΔE2、ΔE3である。
なお、以上の説明から明らかなように、決定部13の具体的構成は、必ずしも図8のような構成である必要はない。
例えば、決定部13は、図5と同様のローパスフィルタ41と減算部42を有していてもよく、n=3の場合、ローパスフィルタとバンドバスフィルタとハイパスフィルタを有していてもよい。
この場合、減算部42からの出力である追加出力値ΔEが、ローパスフィルタとバンドバスフィルタとハイパスフィルタに入力される。したがって、これら3つのフィルタのカットオフ周波数が適宜定められていれば、ローパスフィルタからは上記と同様の追加出力値ΔE1が出力され、バンドバスフィルタからは上記と同様の追加出力値ΔE2が出力され、ハイパスフィルタからは上記と同様の追加出力値ΔE3が出力される。このように決定部13が構成される場合、符号反転部62a〜62cは省略される。
さて、続くステップS22〜S23は、図6のステップS12〜S13と同様である。具体的には、ステップS22では、決定部13は、1≦j≦nなる各jについて出力指令値Ejを決定し、出力指令値Ejを命令部14に出力する。つまり、決定部13は、以下に再掲する式(4)に示すごとく、追加出力値ΔEjとベース出力値Bjを足すことにより、出力指令値Ejを決定する。
Ej=ΔEj+Bj (4)
ステップS22での出力指令値Ejの決定は、例えば図8の例では、加算部64a〜64cにより実行される。加算部64a、64b、64cからは、それぞれ、出力指令値E1、E2、E3が出力される。
最後に、ステップS23で命令部14は、1≦j≦nなる各jについて、j番目のガスエンジン発電設備3に対して、出力指令値Ejで運転するよう、命令する。ステップS23での命令は、データ送受信装置6、通信ネットワーク4、および各データ受信装置7を介して、各ガスエンジン発電設備3に受信される。
そして、各ガスエンジン発電設備3は、受信した命令にしたがって、発電出力を変化させる。その結果、PV発電出力値Pの変動のうちの中周期成分が補完されるので、大規模電力会社にかかる調整の負担が軽減される。調整負担を軽減する効果は、再生可能エネルギー発電設備の普及を推進するうえで有益である。
また、第2実施形態の補完にあたっては、各ガスエンジン発電設備3の応答速度が考慮されるので、各ガスエンジン発電設備3の能力に応じた効率的な補完が可能である。つまり、第2実施形態によれば、「応答速度の遅いガスエンジン発電設備3の出力を変化させたが、結果的には急な変動に追従しきれず、所望の補完が達成されなかった」などといった事態が防止され、補完の確実性が向上する。
さらに、第1実施形態と同様に第2実施形態でも、複数のガスエンジン発電設備3に対する群制御が行われる。そのため、第2実施形態にも、もちろん、「個々の太陽光発電設備2ごとにガスエンジン発電設備3を設ける必要がない」という意味での「効率の良さ」という利点がある。
ところで、本発明は上記の第1〜第2実施形態に限られるものではない。上記の説明においてもいくつかの変形について説明したが、上記実施形態は、さらに例えば下記の観点から様々に変形することもでき、各種の変形は、相互に矛盾しない限り、任意に組み合わせることが可能である。
第1実施形態の案分制御と第2実施形態の周波数帯域別制御を組み合わせる実施形態も可能である。この場合、具体的には、図2(b)の特性値テーブル15cに例示するように、各ガスエンジン発電設備3の特性値として、変動最大値と応答性能値の双方が使われる。
例えば、特性値テーブル15cは、補完発電設備として全部で5台のガスエンジン発電設備3が使われる場合に対応する。特性値テーブル15cの例では、ガスエンジン発電設備3の応答性能は、「高」・「中」・「低」の3つのレベルに分類される。そして、応答性能値が「高」のガスエンジン発電設備3が2台あり、応答性能値が「中」のガスエンジン発電設備3が2台あり、応答性能値が「低」のガスエンジン発電設備3が1台ある。
ここで、補完発電設備の台数をnとし、応答性能のレベル数をrとする。第2実施形態ではn=rであるが、特性値テーブル15cの例ではn=5、r=3である。このようにr<nの場合、決定部13は、r種類のバンドパスフィルタを含み、図9の処理は次のように変更される。
まず、決定部13は、1≦j≦rなる各jについて、PV発電出力値Pをj番目のバンドパスフィルタに入力することにより、PV発電出力値Pの変動のうち、j番目の変化速度に対応する成分Pjを求める。1≦j≦rなる各jについての成分Pjの総和は、全ての太陽光発電設備2から電力系統1への出力Pと目標値Qとの差ΔP(式(1)参照)に等しいと見なせる。このように各成分Pjを求める処理は、ステップS20と類似である。
次に、決定部13は、1≦j≦rなる各jについて、成分Pjを打ち消すための追加出力値ΔEjを決定する。追加出力値ΔEjは、具体的には、以下に再掲する式(6)のとおりである。この追加出力値ΔEjは、応答性能値別の追加出力値を示す。
ΔEj=−Pj (6)
例えば、特性値テーブル15cに示すような5台のガスエンジン発電設備3が使われるとする。この場合、決定部13内の1番目の符号反転部が、決定部13内の1番目のバンドパスフィルタの出力の正負の符号を反転させることで、追加出力値ΔE1を求める。追加出力値ΔE1は、PV発電出力値Pの変動に含まれる成分のうち、最も遅い変化速度(つまり1番目の変化速度)に対応する成分P1を打ち消すための値である。
同様に、2番目の符号反転部が、2番目のバンドパスフィルタの出力の正負の符号を反転させることで、追加出力値ΔE2を求める。追加出力値ΔE2は、PV発電出力値Pの変動に含まれる成分のうち、2番目に遅い変化速度に対応する成分P2を打ち消すための値である。
また、3番目の符号反転部が、3番目のバンドパスフィルタの出力の正負の符号を反転させることで、追加出力値ΔE3を求める。追加出力値ΔE3は、PV発電出力値Pの変動に含まれる成分のうち、最も速い変化速度(つまり3番目の変化速度)に対応する成分P3を打ち消すための値である。
なお、第2実施形態と同様に、PIDコントローラが使われてもよい。つまり、決定部13はr個のPIDコントローラを含んでいてもよい。そして、1≦j≦rなる各jについて、j番目の符号反転部から出力された追加出力値ΔEjは、j番目のPIDコントローラに入力されてもよい。
各PIDコントローラは、第2実施形態のPIDコントローラ63a〜63cと同様に、入力された値をそのまま出力してもよい。もちろん、入力値と異なる値が出力されるように、各PIDコントローラの各種ゲインの値が調整されていてもよい。以下では説明の簡単化のため、第2実施形態と同様に、j番目のPIDコントローラの出力が、j番目の符号反転部から出力された追加出力値ΔEjそのものであるとする。
以上のような追加出力値ΔE1〜ΔErの決定は、図9のステップS21と類似である。
ところで、以下では説明の便宜上、j番目の応答性能値を持つガスエンジン発電設備3の台数を、njとする。台数n1〜nrの総和はnである。例えば、特性値テーブル15cの例では、「低」という1番目の応答性能値を持つガスエンジン発電設備3は1台なので、n1=1である。一方、「中」という2番目の応答性能値を持つガスエンジン発電設備3は2台なので、n2=2であり、「高」という3番目の応答性能値を持つガスエンジン発電設備3は2台なので、n3=2である。
決定部13は、1≦j≦rなる各jについて、追加出力値ΔEjを、j番目の応答性能値を持つnj台のガスエンジン発電設備3の間で、各ガスエンジン発電設備3の変動最大値にしたがって案分する。ここで、nj台のガスエンジン発電設備3のうちのk台目のものの変動最大値および追加出力値をCj,kおよびΔEj,kとする。すると、j番目の応答性能値を持つnj台のガスエンジン発電設備3のうちのk台目のガスエンジン発電設備3に対応する追加出力値ΔEj,kは、式(7)のとおりである。
例えば、1≦j≦rなる各jについて、決定部13は、j番目のPIDコントローラからの出力をそれぞれ受け取るnj個の乗算部を含んでいてもよい。そして、nj個の乗算部により、nj個の追加出力値ΔEj,1〜ΔEj,njが求められてもよい。以上のような案分は、図6のステップS11と類似である。
例えば、特性値テーブル15cの例では、「低」という1番目の応答性能値を持つガスエンジン発電設備3は1台なので、当該ガスエンジン発電設備3に対する出力指令値は式(8)のとおりである。
ΔE1,1=ΔE1×40/40=ΔE1 (8)
そして、特性値テーブル15cの例では、「中」という2番目の応答性能値を持つガスエンジン発電設備3は2台あり、これら2台の変動最大値はそれぞれ30kWと25kWである。よって、これら2台のガスエンジン発電設備3に対する出力指令値は式(9)と(10)のとおりである。
ΔE2,1=ΔE2×30/(30+25) (9)
ΔE2,2=ΔE2×25/(30+25) (10)
また、特性値テーブル15cの例では、「高」という3番目の応答性能値を持つガスエンジン発電設備3は2台あり、これら2台の変動最大値はそれぞれ10kWと15kWである。よって、これら2台のガスエンジン発電設備3に対する出力指令値は式(11)と(12)のとおりである。
ΔE3,1=ΔE3×10/(10+15) (11)
ΔE3,2=ΔE3×15/(10+15) (12)
そして、全てのガスエンジン発電設備3についてそれぞれ追加出力値ΔEj,kが得られると、次に、決定部13は、追加出力値ΔEj,kとベース出力値から、出力指令値を計算する。以下では、j番目の応答性能値を持つnj台のガスエンジン発電設備3のうちのk台目のガスエンジン発電設備3のベース出力値と出力指令値を、それぞれBj,kとEj,kとする。決定部13は、具体的には式(13)にしたがって、各ガスエンジン発電設備3の出力指令値を決定する。
Ej,k=ΔEj,k+Bj,k (13)
例えば、決定部13は、追加出力値ΔEj,kとベース出力値Bj,kを足すための加算部を、各jとkの組に対応して有していてもよい。以上のような出力指令値Ej,kの決定は、図6のステップS12や図9のステップS22と類似である。決定部13は、決定した各出力指令値Ej,kを命令部14に出力する。
最後に、命令部14は、各ガスエンジン発電設備3に対して、決定部13により決定された出力指令値Ej,kで運転するよう、命令する(1≦j≦r;1≦k≦nj)。この命令は、データ送受信装置6、通信ネットワーク4、および各データ受信装置7を介して、各ガスエンジン発電設備3に受信される。以上のような命令の送信は、図6のステップS13や図9のステップS23と類似である。
以上説明したように、第1実施形態と第2実施形態を組み合わせた実施形態も可能である。また、第2の実施形態に第1実施形態のような案分制御を組み合わせる代わりに、次のように第2実施形態を変形することも可能である。すなわち、決定部13は、式(7)のような比例配分を行う代わりに、式(14)にしたがって、応答性能値別の追加出力値ΔEjをnj台のガスエンジン発電設備3の間で等分してもよい。この場合、nj個の乗算部の代わりに、決定部13は、1つの除算部を含んでいてもよい。
ΔEj,k=ΔEj/nj (14)
ところで、ここまでの説明は、暗黙裡に「全ての太陽光発電設備2から電力系統1へ供給される電力Pと目標値Qの差ΔPは、制御装置10による制御対象のn台の補完発電設備の出力を変化させることで補完しきることが可能である」ということを前提としている。この前提条件は、十分な台数のガスエンジン発電設備3があれば、実質的には満たされることが保証されるであろう。
しかし、必ず前提条件が成り立つとは限らない。そこで、上記の各実施形態は、適宜変形されてもよい。具体的には、n台の補完発電設備の出力を変化させることで補完可能な範囲内で、差ΔPの全部ではなく一部のみが補完されてもよい。なお、差ΔPの少なくとも一部を補完することは、換言すれば、電力Pの変動の少なくとも一部を打ち消すことでもある。上記の各実施形態は、詳しくは、以下のように変形されてもよい。
例えば、第1実施形態では、前提条件は式(15)のように表すことができる(式(2)と(3)も参照されたい)。
式(15)の前提条件が満たされることが保証されない場合、第1実施形態は次のように変形されてもよい。すなわち、決定部13は、図6のステップS10の前に、まず、式(15)の条件が満たされるか否かを判断する。そして、式(15)の条件が満たされる場合、決定部13は、図6のステップS10のとおりに追加出力値ΔEを決定する。逆に、式(15)の条件が満たされない場合、決定部13は、次のように追加出力値ΔEを決定する。
・PV発電出力値Pと目標値Qとの差ΔPが、変動最大値C1〜Cnの総和より大きな正の値の場合、決定部13は、変動最大値C1〜Cnの総和の正負の符号を反転させた負数を、追加出力値ΔEとする。
・PV発電出力値Pと目標値Qとの差ΔPが負であり、その絶対値|ΔP|が変動最大値C1〜Cnの総和より大きい場合、決定部13は、変動最大値C1〜Cnの総和を、追加出力値ΔEとする。
例えば以上のようにして決定部13が追加出力値ΔEを決定することにより、「各ガスエンジン発電設備3に対して変動最大値Cjの範囲を超える出力変更の命令が下される」といった事態は防止される。
また、第2実施形態での前提条件は、1≦j≦nなる各jについて式(16)のように表すことができる(式(6)も参照されたい)。
|Pj|=|ΔEj|≦Cj (16)
なお、第2実施形態の説明において参照した特性値テーブル15bは変動最大値Cjを含まず、第2実施形態では上記のとおり変動最大値Cjが補完制御に使われない。このように第2実施形態において変動最大値Cjを度外視することができる理由は、式(16)の前提条件が満たされるためである。
1≦j≦nなる各jについて式(16)の前提条件が満たされることが保証されない場合、決定部13は、第2実施形態の図9のステップS21のように追加出力値ΔEjを決定する代わりに、次のようにして追加出力値ΔEjを決定すればよい。
・|Pj|≦Cjのとき、ΔEj=−Pj
・Cj<Pjのとき、ΔEj=−Cj
・Pj<−Cjのとき、ΔEj=Cj
例えば、図8の符号反転部62a〜62cのそれぞれは、以上のようにして追加出力値ΔEjを決定するモジュールに置き換えられてもよい。以上のようにして決定部13が追加出力値ΔEjを決定することにより、「各ガスエンジン発電設備3に対して変動最大値Cjの範囲を超える出力変更の命令が下される」といった事態は防止される。
そして、第1実施形態と第2実施形態を組み合わせた上記の実施形態での前提条件は、1≦j≦rなる各jについて式(17)のように表すことができる(式(6)と(7)も参照されたい)。
式(17)の前提条件が満たされることが保証されない場合、決定部13は、次のようにして追加出力値ΔEj,kを決定してもよい。
すなわち、決定部13は、1≦j≦rなる各jについて、まず「式(6)のように定義される追加出力値ΔEjが、式(17)の条件を満たすか否か」を判断する。そして、式(17)の条件が満たされる場合、決定部13は、当該jに関しては、上記のとおり式(7)により追加出力値ΔEj,kを決定する(1≦k≦nj)。逆に、式(17)の条件が満たされないようなjに関しては、決定部13は、次のように追加出力値ΔEj,kを決定する(1≦k≦nj)。
・成分Pjが、変動最大値Cj,kの総和(1≦k≦nj)より大きな正の値の場合、決定部13は、変動最大値Cj,kの総和の正負の符号を反転させた負数を、応答性能値別の追加出力値ΔEjとする。そして、決定部13は、このようにして決めた追加出力値ΔEjを使って、式(7)の比例配分により、各追加出力値ΔEj,kを決定する(1≦k≦nj)。
・成分Pjが負であり、その絶対値|Pj|が変動最大値Cj,kの総和(1≦k≦nj)より大きい場合、決定部13は、変動最大値Cj,kの総和を、応答性能値別の追加出力値ΔEjとする。そして、決定部13は、このようにして決めた追加出力値ΔEjを使って、式(7)の比例配分により、各追加出力値ΔEj,kを決定する(1≦k≦nj)。
また、特性値記憶部12が記憶するデータという観点からも、様々な変形が可能である。例えば、図2(b)には特性値テーブル15a〜15cが例示されているが、実施形態によっては、特性値記憶部12にテーブル以外のデータ形式で特性値が記憶されていてもよい。
特性値記憶部12は、特性値として変動最大値そのものを記憶してもよいし、変動最大値そのものの代わりに、ベース出力値と定格出力値を記憶してもよい。決定部13は、定格出力値からベース出力値を引くことで、変動最大値を認識することができる。
また、実施形態によっては、特性値記憶部12は、1台のガスエンジン発電設備3につき1つの変動最大値を記憶する代わりに、次の2種類の変動最大値をガスエンジン発電設備3ごとに記憶してもよい。
・ベース出力値を基準として、正の方向にガスエンジン発電設備3が出力を変化させることの可能な変動幅(以下「正の方向の変動最大値」という)
・ベース出力値を基準として、負の方向にガスエンジン発電設備3が出力を変化させることの可能な変動幅(以下「負の方向の変動最大値」という)
このように正と負の両方向の変動最大値を特性値記憶部12が記憶している場合、PV発電出力値Pが目標値Qより大きければ、決定部13は、負の方向の変動最大値に基づいて、各ガスエンジン発電設備3の出力を制御する。逆に、PV発電出力値Pが目標値Qより小さければ、決定部13は、正の方向の変動最大値に基づいて、各ガスエンジン発電設備3の出力を制御する。
また、理解を容易にするために、図2(b)では、応答性能値が「高」・「中」・「低」と表現されているが、応答性能値が具体的にどのような値で表現されるかは実施形態に応じて任意であり、応答性能のレベル数rも、実施形態に応じて任意である。
例えば、各補完発電設備の応答性能値は、補完発電設備の応答速度の数値そのものであってもよいし、応答速度を上記のように「高」・「中」・「低」などと離散化した値であってもよい。あるいは、各補完発電設備の応答性能値は、当該補完発電設備の応答速度で追従することの可能な変動のうち、最も速い変動の周波数で表されてもよい。
例えば、全部でr個のバンドパスフィルタが使われる実施形態において、あるガスエンジン発電設備3の応答性能値がf[Hz]と表されているとする。この場合、当該ガスエンジン発電設備3への出力指令値は、r個のバンドパスフィルタのうちで、f[Hz]を通過帯域の中に含むバンドパスフィルタからの出力に基づいて決められる。
なお、応答性能値の計測の仕方や、各応答性能値とフィルタとの間の対応関係は、実施形態に応じて適宜決められてよい。例えば、応答性能値は、補完発電設備が、例えば以下のように第1の所定の値から第2の所定の値まで出力を変化させる際の、平均応答速度または応答時間によって計測されてもよい。
・ベース出力値から定格出力値まで
・ゼロから定格出力値まで
・定格出力値に対する第1の所定の割合から、定格出力値に対する第2の所定の割合まで(例えば「定格出力値の80%から95%まで」など)
なお、第2実施形態や、第1実施形態と第2実施形態を組み合わせた実施形態における周波数帯域別制御は、次のように変形されてもよい。すなわち、各ガスエンジン発電設備3は、当該ガスエンジン発電設備3が本来担当する周波数帯域よりも低い周波数帯域の変動の成分を補完するために利用されることがあってもよい。
例えば、上記の式(16)が成立しない場合や、式(17)が成立しない場合があり得る。つまり、ある周波数帯域の成分を、当該周波数帯域を担当するガスエンジン発電設備3の出力変化だけでは補完しきれない場合があり得る。その場合に、たまたま、当該周波数帯域よりも高周波の1つ以上の周波数帯域を担当する1台以上のガスエンジン発電設備3に、出力を変化させる余地がまだ残っていることがあり得る。このとき、本来の担当のガスエンジン発電設備3だけでは補完しきれない成分を補完するのに、より高周波の周波数帯域を担当するガスエンジン発電設備3が使われてもよい。
例えば、応答性能値が「高」・「中」・「低」という3つのレベルで表される場合に、「低」に対応する成分P1の大きさが大きく、応答性能値が「低」のガスエンジン発電設備3の出力を変化させるだけでは成分P1を補完しきれない場合があり得る。この場合、応答性能値が「高」のガスエンジン発電設備3に、「高」に対応する成分P3を補完してもまだなお出力を変化させる余地が残っていれば、当該ガスエンジン発電設備3は、成分P1の残りの部分を補完するのに利用されてもよい。
つまり、決定部13は、成分P3を補完するための追加出力値と、成分P1のうちの残りの部分を補完するための追加出力値とに基づいて、応答性能値が「高」のガスエンジン発電設備3の出力指令値を決定してもよい。応答性能値が「中」のガスエンジン発電設備3も、同様に、「中」に対応する成分P2を補完してもまだなお出力を変化させる余裕があれば、成分P1の残りの部分を補完するのに利用されてもよい。
なお、ガスエンジン発電設備3が、本来担当する周波数帯域よりも低周波の変動の補完にも流用可能な理由は、以下のとおりである。
PV発電出力値の変動に含まれる成分を補完するために、制御装置10が出力指令値を変化させても、出力指令値を受け取ったガスエンジン発電設備3が、当該ガスエンジン発電設備3自身の出力を指定された出力指令値まで変化させるには、何らかの時間がかかる。そして、その時間は、当該ガスエンジン発電設備3の応答速度に依存する。したがって、応答速度の遅いガスエンジン発電設備3では、出力指令値に応じた出力の変化が、補完対象たる速い変化に追いつかない(つまり、補完対象の成分のうちの一部しか補完することができない)可能性がある。第2実施形態などの周波数帯域別制御は、このような可能性を低減するための制御方法である。
しかし、以上の考察を別の観点から捉えなおしてみると、次のように言える。
すなわち、応答速度の速いガスエンジン発電設備3では、出力指令値を受信してからの実際の出力の変化が速く、その速さは、たとえ補完対象の変化が速い変化であっても追従可能な程である。よって、応答速度の速いガスエンジン発電設備3では、当然、補完対象の変化が遅い変化であっても、その変化に追従することが可能である。
つまり、応答速度が速いガスエンジン発電設備3は、速い変化成分の補完に利用可能なだけでなく、当然、遅い変化成分の補完にも利用可能である。この性質を利用して、上記のように、本来の担当のガスエンジン発電設備3だけでは補完しきれない成分を補完するのに、より高周波の周波数帯域を担当するガスエンジン発電設備3が使われてもよい。
ところで、個々の太陽光発電設備2は、発電した全ての電力を電力系統1に供給するとは限らない。同様に、個々のガスエンジン発電設備3は、発電した全ての電力を電力系統1に供給するとは限らない。しかし、上記で説明した制御装置10による様々な制御は、いずれも、太陽光発電設備2やガスエンジン発電設備3が発電した全ての電力を電力系統1に供給するか否かによらずに適用可能な制御である。
上記の各実施形態の説明から分かるように、制御装置10が、ガスエンジン発電設備3の発電出力の制御によって補完しようとする変動は、太陽光発電設備2により発電される電力のうちで電力系統1へ供給される電力についての変動である。1つまたは複数の太陽光発電設備2が、電力系統1以外の供給先へも電力を供給していても、制御装置10による制御方法には特に影響しない。
また、上記の各実施形態の説明から分かるように、制御装置10は、各ガスエンジン発電設備3に対して、当該ガスエンジン発電設備3が電力系統1に供給する電力について予め取り決められた範囲内で、当該ガスエンジン発電設備3に対して出力を変化させるよう命令する。各ガスエンジン発電設備3の出力自体は、当該ガスエンジン発電設備3が電力系統1に供給する電力と、ガスエンジン発電設備3が電力系統1以外の供給先に供給する電力との総和である。
例えば、定格出力値の70%の電力を電力系統1以外の供給先に供給するガスエンジン発電設備3について、「ベース出力値が定格出力値の85%であり、変動最大値が定格出力値の15%である」と予め取り決められていてもよい。同様に、定格出力値の50%の電力を電力系統1以外の供給先に供給するガスエンジン発電設備3については、「ベース出力値が定格出力値の75%であり、変動最大値が定格出力値の25%である」と予め取り決められていてもよい。
例えば、各ガスエンジン発電設備3のベース出力値は、各ガスエンジン発電設備3に応じた固定値でもよい。しかし、少なくとも1台のガスエンジン発電設備3のベース出力値が、当該ガスエンジン発電設備3から制御装置10へ通信ネットワーク4を介して通知される可変値であってもよい。通知は、定期的に行われてもよいし、不定期に行われてもよい。
例えば、工場に設置されたガスエンジン発電設備3は、工場の稼働状況に合わせて、ベース出力値を適宜の間隔で変更してもよい。変更の間隔は、例えば、「1日1回」、「1時間に1回」、などの定期的な間隔でもよいし、不定期の間隔でもよい。ガスエンジン発電設備3は、ベース出力値の変更のたびに、ベース出力値を制御装置10に通知してもよい。その場合、ガスエンジン発電設備3には、図1(b)のデータ受信装置7の代わりに、送信機能を有するデータ送受信装置が、内蔵または接続される。
なお、ガスエンジン発電設備3の仕様または経済上の理由などから、一定以上の出力(例えば定格出力値の50%以上の出力)を維持して運転することが要求される場合もあり得る。この場合、ベース出力値から変動最大値を引いた値が、維持したい一定の出力値以上となるように、ガスエンジン発電設備3のベース出力値が適宜定められることが望ましい。
また、各ガスエンジン発電設備3のベース出力値は、ガスエンジン発電設備3の所有者側の事情だけでなく、天気や全般的な電力需要などの要因に応じて、適宜の間隔で(例えば1日1回、あるいは不定期に)変更されてもよい。
例えば、「電力系統1を運用する電力会社の管内のほとんどの地域において、一日中晴れが続く」という予報が出されているような日には、全ての太陽光発電設備2から電力系統1に供給される電力の変動は、ごく緩やかであると予測される。つまり、そのような日には、全ての太陽光発電設備2から電力系統1に供給される電力の変動は、太陽が昇って沈むのに伴う、ごく緩やかな変動成分がほとんどを占めると予測される。このような日には、電力会社のEDCとLFCによる調整能力だけでも十分であろう。
他方、天気がころころ変わる日には、全ての太陽光発電設備2から電力系統1に供給される電力の変動は、激しくなりがちである。すると、その変動は、電力会社のLFCによる調整能力を超えてしまう懸念がある。特に、ゴールデンウィークなどの閑散期には、全般的な電力需要が低いため、電力会社も火力発電所のベース出力をかなり下げている可能性がある。この場合、火力発電所は火力最低出力を維持するため、太陽光発電設備2からの供給電力の上振れに対する電力会社の調整能力が低くなっているので、上記懸念は特に危惧されるところである。
よって、例えば、閑散期で天気の移り変わりが激しいようなときには、変動最大値が大きめになるように、一部または全部のガスエンジン発電設備3のベース出力値が変更されてもよい。もちろん、閑散期で天気の移り変わりが激しいようなときでも対処可能な程度に十分な台数のガスエンジン発電設備3が既に電力系統1に接続されている場合は、特に天気や電力需要に応じてベース出力値が変更されなくても構わない。
ところで、実施形態によっては、制御装置10は、出力指令値の代わりに追加出力値を各ガスエンジン発電設備3に通知してもよい。つまり、決定部13は追加出力値を命令部14に出力してもよく、命令部14は追加出力値を各ガスエンジン発電設備3に通知してもよい。この場合、各ガスエンジン発電設備3は、通知された追加出力値と、当該ガスエンジン発電設備3自体のベース出力値とを足すことにより、発電出力を何kWに変化させればよいのかを決定し、決定にしたがって発電出力を変化させる。
制御装置10が追加出力値を各ガスエンジン発電設備3に通知する場合、「制御装置10は、各ガスエンジン発電設備3に対して、当該ガスエンジン発電設備3の発電出力を間接的に命令している」と見なせる。つまり、追加出力値と出力指令値のどちらを制御装置10がガスエンジン発電設備3に通知しようとも、制御装置10が発電出力をガスエンジン発電設備3に命令する点は変わらない。
また、制御装置10がガスエンジン発電設備3に対して当該ガスエンジン発電設備3の発電出力を指定することは、別の観点から換言すれば、当該ガスエンジン発電設備3が電力系統1へ供給する電力を指定することである。
例えば、あるガスエンジン発電設備3の定格出力が370kWであり、当該ガスエンジン発電設備3は、工場内での使用などの何らかの目的のために、330kWの電力を電力系統1以外に供給するものとする。当該ガスエンジン発電設備3のベース出力値は、例えば350kWと定められていてもよい。この場合、制御装置10の命令部14が当該ガスエンジン発電設備3に対して「360kWで発電せよ」と命じることは、「30kWの電力を電力系統1に供給せよ」と命じることと同じ意味を持つ。
例えば以上の例からも分かるように、制御装置10がガスエンジン発電設備3に対して発電出力を指定することは、換言すれば、当該ガスエンジン発電設備3が電力系統1へ供給する電力を間接的に指定することだと言える。
以上、様々な実施形態について説明したが、いずれの実施形態でも、再生可能エネルギー発電設備による発電出力の変動が商用電力系統に与える影響を、効率よく軽減することができる。したがって、各実施形態によれば、大規模電力会社の負担を軽減することができ、再生可能エネルギー発電設備と商用電力系統の系統連系における問題を小さくすることができるので、結果として、再生可能エネルギー発電設備の普及にも資する。これらの効果について詳しく述べると以下のとおりである。
太陽光発電設備2などの各種の再生可能エネルギー発電設備の発電出力は、上述のとおり、天気などの環境に応じて変化する。しかし、「再生可能エネルギー発電設備の出力の変動に起因して、電力系統1の周波数の変動が許容範囲を超えてしまう」といった事態を防ぐための調整を、電力会社にばかり求めるのは、現実的には難しい。
なぜなら、今後ますます再生可能エネルギー発電設備の普及が進むと予測され、より多くの再生可能エネルギー発電設備が電力系統1に系統連系されれば、その分だけ、電力系統1が被る変動の振幅も大きくなるからである。大きな変動の全てを電力会社が補完(つまり補償)しきることは、例えば発電所の運用コストなどの面から、現実的には困難である。
一方、個々の再生可能エネルギー発電設備の所有者が、当該再生可能エネルギー発電設備の出力変動を補完して、連系線潮流を一定の値に保つことも、現実的には困難である。なぜなら、そのような補完のために、個々の再生可能エネルギー発電設備の所有者が、蓄電池設備や自家発電設備等を設置および運用するには、費用・設置場所・保守管理の手間など、種々のコストがかかるからである。再生可能エネルギー発電設備の所有者の中には、そのようなコストを負担することが難しい小規模事業者や一般家庭なども含まれる。
しかも、個々の再生可能エネルギー発電設備に対応して、当該再生可能エネルギー発電設備の出力変動を補完するための蓄電池設備や自家発電設備等を設けることには、無駄も多い。なぜなら、均し効果によって複数の再生可能エネルギー発電設備の出力の合計においては互いに打ち消されてしまうような変動までも、個々の蓄電池設備や自家発電設備等で補完することになるからである。
このように、個々の再生可能エネルギー発電設備の出力変動を個別に補完する方法は、種々のコストも大きく、しかも非効率的である。
一方で、最近では、再生可能エネルギー発電設備だけでなく、ガスエンジン発電設備、ガスタービン発電設備、ディーゼルエンジン発電設備、燃料電池などの、各種の分散型電源の普及も進みつつある。これらの分散型電源をビル内等の自家発電設備として採用することは、災害時の電源確保などの観点から、好ましいからである。そのため、分散型電源を用いた電力供給システムは、今後ますます広く普及してゆくものと予測される。
ここで、各再生可能エネルギー発電設備の所有者と、ガスエンジン発電設備などの各分散型電源の所有者は、必ずしも同じではない。しかし、例えば、各再生可能エネルギー発電設備の所有者と制御装置10の所有者の間で適宜の契約を結ぶとともに、各分散型電源の所有者と制御装置10の所有者の間で適宜の契約を結ぶことで、例えば図1のようなシステムを構築することが可能である。つまり、各分散型電源は、例えば適宜の契約のもとでは、補完発電設備(すなわち、再生可能エネルギー発電設備の出力変動の少なくとも一部を補完するために、出力を変化させることのできる発電設備)として、利用可能となる。
そして、例えば図1のように複数の再生可能エネルギー発電設備と複数の補完発電設備が電力系統1に接続されるシステムにおいては、以下のように様々な利点がある。
・個々の再生可能エネルギー発電設備の所有者にとっては、上記のごとき種々のコストがかからないので、メリットがある。仮に上記のような契約にともなって多少の金銭コストが生じるとしても、個別に蓄電池設備や自家発電設備等を設置および管理するよりは、低コストで済むであろう。
・個々の再生可能エネルギー発電設備から電力系統1に供給される電力の変動同士の一部は打ち消し合うので、補完の対象となる変動は、ある程度限定される。したがって、効率の良い補完が可能となる。
・個々の補完発電設備の所有者にとっては、余剰発電能力の範囲内で、電力系統1に電力を供給すればよいし、その範囲内での電力の調整さえ受容すればよい。つまり、分散型発電設備の所有者が当該分散型発電設備を補完発電設備として提供するにあたっての障害が小さい。障害が小さければ、多くの所有者たちが、所有する分散型発電設備を補完発電設備として提供する契約に同意する見込みも高まる。
・その結果として、システムに多数の補完発電設備が接続されることになれば、たとえ個々の補完発電設備の変動最大値が小さくても、多数の再生可能エネルギー発電設備に起因する大幅な変動にも対処可能となる。つまり、上記の各実施形態では、複数の補完発電設備を利用した群制御が行われるので、いわば「ちりも積もれば山となる」方式で、多数の再生可能エネルギー発電設備に起因する大幅な変動にも対処可能となる。
・たとえ電力系統1に接続される再生可能エネルギー発電設備の台数がシステムの運用開始後に増えたとしても、それに応じて補完発電設備の台数を適宜増やすことにより、再生可能エネルギー発電設備の増加に応じて大きくなった変動を補完することが可能である。換言すれば、上記の各実施形態によれば、スケーラブルで柔軟性のあるシステムが提供される。
・各補完発電設備が発電出力を変化させる能力(例えば、変動最大値や応答性能値で表される能力)を有効活用することで、多様な変動に効率よく対処することが可能である。例えば、上記のようなスケーラビリティがあるので、適宜の台数の補完発電設備を利用することで、多様な振幅の変動に対処可能である。また、応答性能値を使った実施形態においては、補完対象の中周期(例えば1分〜20分程度の周期)の変動の中でも様々な周期の(つまり様々な周波数の)変動に対して、それぞれ適した補完発電設備を利用することで、一層効率の良い補完が可能となる。
・再生可能エネルギー発電設備の出力変動による電力系統1への影響を、低コストで効率良く抑制することができる。つまり、上記各実施形態によれば、再生可能エネルギー発電設備の出力変動は、補完によって、大規模電力会社側の調整能力の範囲内に十分収まるレベルにまで抑えられる。その結果、大規模電力会社の調整負担を軽減することができ、再生可能エネルギー発電設備と商用電力系統の系統連系における問題を小さくすることができるので、再生可能エネルギー発電設備の普及にも資する。
なお、電力系統1に接続される再生可能エネルギー発電設備が仮に1台であったとしても、複数の補完発電設備によって補完を行うことの利点は得られる。つまり、「個々の補完発電設備が電力系統1に提供する電力を変化させるそれぞれの能力を活かして、電力会社側の調整の負担を軽減し、効率の良い補完を実現する」という利点は変わらない。