JP5973048B1 - ホイールアライメントの検査方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】ホイールアライメントの検査を走行時の安定性やタイヤの偏摩耗の抑制に繋げやすい。【解決手段】車両の直進状態を確認し(S1)、車両を直進状態でテスターに設置する(S2)。テスターで直進状態の車両のホイールアライメントを測定する(S3)。前輪及び後輪の個別トーを左右差がなくなるようにそれぞれ調整する(S4)。インクルデッドアングル等のホイールアライメントを再び測定し、その測定結果に基づいてホイールアライメントの不具合の原因を絞り込む(S5〜S7)。S3において測定した結果に基づき、ハンドル流れやタイヤの偏摩耗に影響を与えるホイールアライメントの不具合を評価する(S8)。【選択図】図6

Description

本発明は、ホイールアライメントの検査方法に関する。
自動車などの四輪を有する車両においてホイールアライメントを検査することは、走行時の安定性の確保やタイヤの偏摩耗の抑制のために重要である。特許文献1は、実走行に近い状態でスラスト角やトー角、キャンバー角を測定する装置に関する。実走行時のホイールアライメントの状況は走行時の安定性やタイヤの偏摩耗に強く影響する。
特開平9−243352号公報
ホイールアライメントを検査する目的は、ホイールアライメントを適切な状態にすることにより、走行時の安定性を確保したりタイヤの偏摩耗を抑制したりすることにある。従来技術によると、特許文献1のようなホイールアライメントの検査結果に基づき、キャンバー角等に異常がある場合には、これらの異常を解消するようにホイールアライメントを調整する。しかしながら、本発明者は、従来技術のようにホイールアライメントを調整しただけでは走行時の安定性やタイヤの偏摩耗の抑制に必ずしも繋がらないことに気付いた。
本発明の目的は、走行時の安定性やタイヤの偏摩耗の抑制に繋げやすいホイールアライメントの検査方法を提供することにある。
本発明者は、ホイールアライメントの調整(以下、アライメント調整とする)に係る長年の鋭意研究の結果、従来技術に係る以下の問題に気付いた。従来技術では、キャンバー等の測定値に異常がある場合、アライメント調整によりこれらの異常を一気に解消させる。これにより、一見適切にアライメント調整がなされたように見える。しかし、かかる従来技術によれば、ホイールアライメントが一見適切に調整されたように見えても、ホイールアライメントの不具合の原因を取り除けていないままであり、走行時の安定性の確保やタイヤの偏摩耗の抑制を十分に達成できない場合がある。
本発明者の知見では、従来技術の上記問題は以下の理由による。後輪の個別トーに左右差が生じていることにより、車両にスラスト角が生じることがある。この場合、直進走行時には前輪の個別トーに左右差が生じることになる。これにより、直進走行時のキャンバー等の値も正常値からずれた状態となる。キャンバー等がずれていると、ハンドルの流れやタイヤの偏摩耗につながるおそれがある。一方、キャンバーのずれ等のホイールアライメントの不具合の原因には、上記のようなスラスト角に由来するもの以外のものもある。例えば、操舵装置(ステアリング)や懸架装置(サスペンション)の部品に変形等の異常があることである。つまり、例えばキャンバーの測定値が正常値からずれていた場合、そのずれは、スラスト角とそれ以外との両方の原因が重畳することで生じているかもしれない。
これに対し、従来技術では、ハンドルの流れやタイヤの偏摩耗に繋がり得るホイールアライメントの不具合の原因を詳しく評価することなく、ただ徒に不具合を解消している。したがって、ホイールアライメントの検査結果を原因の把握に適切に繋げることができず、不具合の原因を適切に取り除くことができないおそれがある。このように、従来技術は、ホイールアライメントの検査結果が走行時の安定性やタイヤの偏摩耗の抑制に必ずしも繋がっていない。
以上の知見に基づき、本発明者は以下の発明に到達した。本発明におけるホイールアライメントの検査方法は、スラスト角が生じた車両の直進走行時の前輪の位置を基準として、前輪のキャンバー、前輪のキャスター、前輪のインクルデッドアングル、セットバック、及び、前輪を所定の状態まで回転させたときの切れ角のいずれか1つ以上を特定の測定対象としてホイールアライメントを測定する第1アライメント測定工程と、前記第1アライメント測定工程の後に、前記特定の測定対象にセットバックが含まれる場合には、前記車両の前輪及び後輪の両方に関して個別トーの左右差がなくなるように個別トーを調整し、前記特定の測定対象にセットバックが含まれない場合には、少なくとも前記車両の前輪に関して個別トーの左右差がなくなるように個別トーを調整する調整工程と、前記調整工程の後に、前記特定の測定対象に関してホイールアライメントを再度測定する第2アライメント測定工程と、前記第1アライメント測定工程の測定結果に少なくとも基づいて、前記調整工程前の前記車両におけるタイヤの摩耗及びハンドルの流れの少なくともいずれかに影響するホイールアライメントの不具合を評価する第1評価工程と、前記第2アライメント測定工程の測定結果に少なくとも基づいてホイールアライメントの不具合の原因を評価する第2評価工程と、を備えている。
本発明によると、まず第1アライメント測定工程において、スラスト角が生じている車両における前輪のキャンバー等のホイールアライメントを、直進走行時の前輪の位置を基準として測定する。これに基づき、第1評価工程において、ハンドルの流れやタイヤの偏摩耗に最も影響する実際の直進走行時のホイールアライメントの不具合を把握することができる。一方、第1アライメント測定工程後の調整工程において、前輪(又は、前後輪の両方)の個別トーを左右差がなくなるように調整する。つまり、スラスト角がない直進走行時の状態になるように個別トーを調整する。これにより、ホイールアライメントの不具合のうち、スラスト角由来のもののみを解消させる。したがって、その後の第2アライメント測定工程においてホイールアライメントを測定した際に、キャンバー等のいずれかに未だに異常がある場合には、スラスト角以外、例えば、操舵装置や懸架装置に異常があることがホイールアライメントの不具合の原因と考えられる。このように、スラスト角の発生以外によるホイールアライメントの不具合の原因を、第2評価工程において第2アライメント測定工程の測定結果に基づいて評価することができる。
以上のように、本発明では、スラスト角が生じた車両のホイールアライメントを、スラスト角がない直進走行時の状態になるように個別トーを調整する調整工程の前後のそれぞれにおいて測定する。したがって、ハンドルの流れやタイヤの偏摩耗に最も影響する実際の走行時のホイールアライメントの不具合を適切に評価できると共に、ホイールアライメントの不具合の原因を適切に評価することもできる。したがって、ホイールアライメントの検査結果を走行時の安定性やタイヤの偏摩耗の抑制に適切に繋げることができる。一方、調整工程前の測定しか行わない場合には、不具合の原因を適切に把握できないし、調整工程後の測定しか行わない場合にはハンドルの流れやタイヤの偏摩耗への不具合の影響を適切に評価できない。これらの評価には、本発明のように両方の測定を行うことで到達できる。
なお、第1評価工程は第1アライメント測定工程の後であれば、いずれのタイミングで実施してもよい。第2評価工程は第2アライメント測定工程の後であれば、いずれのタイミングで実施してもよい。また、第1アライメント測定工程においては、特定の測定対象のみに関してホイールアライメントを測定してもよいし、特定の測定対象以外の項目に関してもホイールアライメントを測定してもよい。また、第2アライメント測定工程においても、特定の測定対象のみに関してホイールアライメントを測定してもよいし、特定の測定対象以外の項目に関してもホイールアライメントを測定してもよい。また、「個別トーの左右差がなくなる」とは、個別トーの左右差がゼロとなることを示してもよいし、所定の基準値以下となることを示してもよい。
また、本発明においては、前記第2アライメント測定工程が、左前輪をその切れ角がフルロックに対応する角度より小さい第1角度となるように左方及び右方の一方である第1方向に回転させた状態で右前輪の第1切れ角を測定する工程と、右前輪をその切れ角が前記第1角度となるように前記第1方向とは逆の第2方向に回転させた状態で左前輪の第2切れ角を測定する工程とを含んでおり、前記第2評価工程において、前記第1切れ角及び前記第2切れ角に少なくとも基づいてホイールアライメントの不具合の原因を評価することが好ましい。これによると、調整工程後の第2アライメント測定工程において、第1方向及び第2方向のそれぞれについて測定された切れ角が互いに異なる場合、操舵装置の部品等に異常が生じている蓋然性が高い。したがって、第2評価工程において、第1切れ角及び第2切れ角に基づき、ホイールアライメントの不具合の原因を適切に評価できる。
また、本発明においては、前記第2アライメント測定工程が、左前輪をその切れ角が前記第1角度とは異なる第2角度となるかフルロックとなるように前記第1方向に回転させた状態で右前輪の第3切れ角を測定する工程と、右前輪をその切れ角が前記第2角度となるかフルロックとなるように前記第2方向に回転させた状態で左前輪の第4切れ角を測定する工程とをさらに含んでおり、前記第2評価工程において、前記第1切れ角〜前記第4切れ角に少なくとも基づいて、前輪の切れ角の大きさに対する切れ角のずれの変化を評価することにより、ホイールアライメントの不具合の原因を評価することが好ましい。本発明者の知見によると、ナックルアームに曲がりが生じている場合には切れ角が大きくなるほど切れ角のずれも大きくなる。このことから、第1切れ角と第2切れ角(又はフルロック)のように切れ角を変えた際のずれの変化を評価することでナックルアームに曲がりが生じているかどうかを適切に把握することができる。
また、本発明においては、前記第2アライメント測定工程において、セットバック並びに左前輪及び右前輪のキャスターを測定し、前記第2評価工程において、セットバックが所定の大きさ以上である場合に、前輪のキャスターに左右差が生じているか否かと、左前輪及び右前輪のいずれのキャスターに異常があるかとの少なくともいずれかに基づいてセットバックが生じていることの原因を評価することが好ましい。これによると、調整工程後の第2アライメント測定工程において、セットバックや左前輪又は右前輪のキャスターに異常がある場合には、懸架装置に不具合が生じている蓋然性が高い。したがって、第2評価工程において、セットバックの大きさが所定値以上である場合に、前輪のキャスターの左右差や、左右前輪のいずれにキャスターの異常が存在するかに基づいて、セットバックが生じていることの原因を適切に評価できる。
本発明の一実施形態に係るホイールアライメントの検査方法の検査対象となる自動車の概略構成図である。 スラスト角が生じた状態の自動車の概略構成図である。 図1の自動車の操舵装置の概略構成図であって、図3(a)はハンドルを左に切った場合を、図3(b)はハンドルを右に切った場合を示す。 右前輪を左方から見た図であって、キャスター角を示す図である。 右前輪を前方から見た図であって、キャンバー角及びインクルデッドアングルを示す図である。 本ホイールアライメントの検査方法の流れを示すフロー図である。 図6のS6において実行される工程の流れを示すフロー図である。 図1の自動車の操舵装置の概略構成図であって、図8(a)は左ナックルアームに内曲がりが生じている場合を、図8(b)は左ナックルアームに外曲がりが生じている場合を示す。 図1の自動車の操舵装置の概略構成図であって、ラックに位置ずれが生じている場合を示す。 図6のS7において実行される工程の流れを示すフロー図である。
本発明の一実施形態に係るホイールアライメント検査方法(以下、本検査方法とする。)について図1〜図6を参照しつつ説明する。図1は、本検査方法の対象となる自動車1の概略構成を示す。自動車1は、前輪2L(左前輪)及び2R(右前輪)、後輪3L及び3R、操舵装置10、前側懸架装置20、並びに、後側懸架装置30を有している。
操舵装置10は、ラック11、タイロッド12L及び12R、ナックルアーム13L及び13R、並びに、ハンドル14を有している。運転者がハンドル14を操作すると、ハンドル14の回転動作が図示しないピニオンギアを介してラック11に伝達され、ラック11が左右方向に移動する。ラック11の移動は、タイロッド12L及び12Rを通じてナックルアーム13L及び13Rに伝達され、ナックルアーム13L及び13Rが回転する。これにより、前輪2L及び2Rが回転する(図3(a)及び図3(b)参照)。自動車1にはエンジン、エンジンの駆動力を後輪3L及び3Rに伝達する伝達機構、ハンドル14以外の操作部など、運転者が自動車1を運転するための種々の構成が設けられている。
以下、フルロックとは、ハンドル14を左方及び右方のいずれかに最大限に切ること、又は切った状態を意味するものとする。外側前輪又は内側前輪とは、前輪2L及び2Rのうち、自動車1の走行中にハンドル14を左右いずれかに切った場合に生じる自動車1の旋回運動において外側又は内側に配置される前輪を意味するものとする。前輪の切れ角とは、図1に示す直進状態を基準にした前輪の回転角度を意味するものとする。例えば、前輪の切れ角は、図3(a)又は図3(b)のα又はβが示す角度を示す。図3(a)のαは、前輪を左方に切った場合の外側前輪(前輪2R)の切れ角を示す。図3(a)のβは、前輪を左方に切った場合の内側前輪(前輪2L)の切れ角を示す。図3(b)のαは、前輪を右方に切った場合の外側前輪(前輪2L)の切れ角を示す。図3(b)のβは、前輪を右方に切った場合の内側前輪(前輪2R)の切れ角を示す。なお、以下においては、αnは内側前輪の切れ角を、βnは外側前輪の切れ角を示すものとする。
前側懸架装置20は、例えば独立懸架式の懸架装置であり、前輪2L又は2Rを回転可能に支持するナックル、ナックルを車体フレームと接続して支持するアッパアームやロアアームなどからなる左右の車輪支持部、当該左右の車輪支持部同士を連結するスタビライザー、車輪支持部の左右それぞれに後端が接続されると共に、車体フレームに前端が接続されるテンションロッド等を有している。なお、このようにスタビライザーとテンションロッドが別体で構成されていてもよいし、これらが一体で構成され、1つの部材が両方の機能を兼ね備えていてもよい。上記ナックルアーム13L及び13Rは、左右のナックルの一部分である。
後側懸架装置30は、例えば車軸懸架式の懸架装置であり、後輪3L又は3Rに固定された車軸を車体フレームと接続して支持するトルクロッドやロアアームなどからなる左右の車軸支持部等を有している。後側懸架装置30を構成する部材は、サスペンションメンバーを介して車体フレームに支持されていてもよい。
左前輪2L及び右前輪2Rは、正常な状態において、前後方向に関して互いに同じ位置に配置されている。左後輪3L及び右後輪3Rも、正常な状態において、前後方向に関して互いに同じ位置に配置されている。一方、事故等が原因で前側懸架装置20や後側懸架装置30を構成する部品に変形が生じると、車輪が前後方向に位置ずれすることによるセットバックが生じることがある。例えば、図1の破線Aは前輪2Rが正常な位置から後方にずれることによるセットバックを、図1の破線Bは前輪2Rが正常な位置から前方にずれることによるセットバックをそれぞれ示している。これにより、自動車1の幾何学的中心線Cと直交する水平直線L0と、前輪2L及び2Rの同位置同士を結んだ直線L1又はL2との間に、図1に示すように角度Φ1又はΦ2(Φ1>0,Φ2>0)が生じる。以下、かかる角度をセットバック角とする。
本実施形態において使用されるアライメントテスター装置(以下、テスターという。)は、ハンドル14を所定の状態まで回転させたときの前輪2L及び2Rの各切れ角、セットバック角、スラスト角、前輪2L及び2Rの各個別トー、後輪3L及び3Rの各個別トー、並びに、前輪2L及び2Rの各キャンバー角及び各キャスター角を測定可能である。
本テスターの切れ角の測定における上記所定の状態とは、ハンドル14をフルロックとした状態、及び、外側前輪の切れ角20°の状態のそれぞれである。外側前輪の切れ角20°の状態とは、外側前輪の切れ角が20°(第1角度)になった状態をいう。なお、アライメントテスター装置が、ハンドル14を内側前輪の切れ角20°の状態としたときの前輪2L及び2Rのそれぞれの切れ角を計測可能であってもよい。この場合、以下においてハンドル14を外側前輪の切れ角20°の状態としたときの前輪2L又は2Rの切れ角は、ハンドル14を内側前輪の切れ角20°の状態としたときの切れ角に代えてもよい。
また、本テスターは、以下のようにセットバック角Ψを測定する。本テスターは、前輪2L及び2R並びに後輪3L及び3Rのいずれが前後方向にずれている場合であっても、右前輪2Rのみの前後方向に関するずれとしてセットバック角Ψを出力する。具体的には、本テスターは、左前輪2Lと左後輪3Lの間の前後方向に関する離隔距離Wを基準として、右前輪2Rと右後輪3Rの間の前後方向に関する離隔距離がこれより長いか短いかを判定する。そして、右前輪2Rと右後輪3Rの間の前後方向に関する離隔距離がWよりΔW1(>0)だけ短い場合には、仮想的に、右前輪2RのみがΔW1だけ後方にずれた仮想位置にあるとした上で、右前輪2Rのセットバック角Ψを出力する。このとき、テスターは、出力値を負の値で出力する。例えば、右前輪2Rの仮想位置が図1の破線Aに示す位置である場合、Ψ=−Φ1を出力する。また、右前輪2Rと右後輪3Rの間の前後方向に関する離隔距離がWよりΔW2(>0)だけ長い場合には、仮想的に、右前輪2RのみがΔW2だけ前方にずれた仮想位置にあるとした上で、右前輪2Rのセットバック角を出力する。このとき、テスターは、出力値を正の値で出力する。例えば、右前輪2Rの仮想位置が図1の破線Bに示す位置である場合、Ψ=+Φ2を出力する。
このように、本実施形態のテスターが出力するセットバック角Ψの大きさは、前輪2L及び2R並びに後輪3L及び3Rのいずれかのずれの大きさを示す。また、セットバック角Ψの正負は、左前輪2L及び左後輪3L間の距離と右前輪2R及び右後輪3R間の距離とのいずれが大きいかを示す。一方、本実施形態のテスターが出力するセットバック角Ψの測定値のみでは、前輪2L及び2R並びに後輪3L及び3Rのいずれにずれが発生しているのかまでは特定できない。例えば、セットバック角Ψが正であることのみからは、左前輪2L及び左後輪3L間の距離が右前輪2R及び右後輪3R間の距離より短いことが把握される。この状態は、左前輪2Lのみが後方にずれている状態、左後輪3Lのみが前方にずれている状態、右前輪2Rのみが前方にずれている状態、及び、右後輪3Rのみが後方にずれている状態のいずれでも成立する。また、セットバック角Ψが負であることのみからは、左前輪2L及び左後輪3L間の距離が右前輪2R及び右後輪3R間の距離より長いことが把握される。この状態は、左前輪2Lのみが前方にずれている状態、左後輪3Lのみが後方にずれている状態、右前輪2Rのみが後方にずれている状態、及び、右後輪3Rのみが前方にずれている状態のいずれでも成立する。
本テスターは、この他、前輪2L及び2Rに関して、個別トーTf1及びTf2、各キャスター角γ、キャンバー角η、並びに、インクルデッドアングルζを、後輪に関して個別トーTr1及びTr2を測定可能である。個別トーTf1及びTf2は、図1に示すように、前輪2L及び2Rの前端と幾何学的中心線との間の距離である。また、個別トーTr1及びTr2は、後輪3L及び3Rの前端と幾何学的中心線との間の距離である。後輪3L及び3Rの個別トーの左右差Tr1−Tr2がゼロでない場合、図2に示すように、スラスト角ξが生じていることになる。本テスターは、このスラスト角ξを測定することもできる。スラスト角ξが生じていると、直進走行時、スラストラインに沿って前輪2L及び2Rが転がるように(スラストラインに沿って直進走行するように)自動車1を操舵することとなる。したがって、図2に示すように、前輪2L及び2Rの個別トーの左右差Tf1−Tf2もゼロでなくなる。なお、前輪2L及び2Rに個別トーの左右差が生じているということは、かかる左右差がない状態と比較して、直進走行時の状態における切れ角α及びβ、セットバック角Ψ、キャスター角γ、キャンバー角η、並びに、インクルデッドアングルζにもずれが生じているということである。
キャスター角γは、車輪を横方向(左右方向)から見た場合に、キングピンの中心軸と鉛直軸の間の角に相当する。キングピンは、実際には設けられていないことが多い。例えば、ストラット式の懸架装置が採用されている場合には、図4に示すように、ストラットの中心軸と鉛直軸の間の角がキャスター角γに相当する。また、ダブルウィッシュボーン式等の懸架装置が採用されている場合には、ハンドルを切ることで車輪を回転させる際の回転中心軸と鉛直軸の間の角がキャスター角γに相当する。
キャンバー角ηは、図5に示すように、車輪を前方から見た場合の車輪の幅方向に関する中心線と鉛直軸とがなす鋭角の角度である。インクルデッドアングルζは、上記中心線とキングピンの中心軸とがなす鋭角の角度である。キングピンの中心軸と鉛直軸とがなす鋭角の角度をキングピン角とすると、インクルデッドアングルζは、キャンバー角ηとキングピン角との和に相当する。キングピン角は、例えば、ストラット式の懸架装置が採用されている場合には、図5に示すように、ストラットの中心軸と鉛直軸の間の角である。また、ダブルウィッシュボーン式等の懸架装置が採用されている場合には、ハンドルを切ることで車輪を回転させる際の回転中心軸と鉛直軸の間の角である。
以下、本検査方法の流れについて図6を参照しつつ説明する。まず、S1において、自動車1の直進走行時の状態を確認する。直進走行時の状態の確認は、実際に自動車1を直進走行させてみることにより行われる。直進走行している時のハンドル14の位置を、後で再現できるようにマーカを付す等により確認しておく。次に、自動車1をテスターに設置する(S2)。このとき、マーカ等に基づいてハンドル14の位置をS1において確認した位置にすることにより、直進走行時のハンドル14の状態を再現する。次に、ホイールアライメントを測定する(S3;第1アライメント測定工程)。S2においてハンドル14を直進走行時の状態としてあるため、S3におけるホイールアライメントの測定値は直進走行時の値となる。また、S3において測定対象となるのは、前輪2L及び2Rの個別トーTf1及びTf2、キャスター角γ、キャンバー角η及びインクルデッドアングルζ、ハンドル14を左右のそれぞれに切りつつフルロックとした状態における内側前輪の切れ角α及び外側前輪の切れ角β、セットバック角Ψ、後輪3L及び3Rの個別トーTr1及びTr2、並びに、スラスト角ξである。これらのうちの一部の測定項目は、特定の測定対象として、後述のS5〜S7において、ホイールアライメントの不具合の原因を絞り込む際に再び測定される。本実施形態において、かかる特定の測定対象は、キャスター角γ、キャンバー角η、インクルデッドアングルζ、フルロック時の切れ角α及びβ、並びに、セットバック角Ψである。
次に、S3において測定された個別トーTf1、Tf2、Tr1及びTr2に基づき、前輪及び後輪のそれぞれに関して個別トーの左右差がなくなるように個別トーを調整する(S4;調整工程)。つまり、Tf1=Tf2及びTr1=Tr2を満たすように前輪及び後輪の個別トーを調整する。あるいは、個別トーの左右差が所定の値未満となるように個別トーを調整してもよい。例えば、|Tf1−Tf2|≧0.5mmとなっている場合、|Tf1−Tf2|<0.5mmを満たすように前輪2L及び2Rの個別トーを調整してもよい。後輪3L及び3Rについても同様である。これにより、スラスト角ξがほぼゼロとなると共に、前輪2L及び2Rも、スラスト角ξがほぼゼロとなった状態における直進走行時の位置を取る。
次に、S5〜S7において、キャンバー角η及びインクルデッドアングルζ、前輪2L及び2Rを所定の状態にしたときの切れ角α及びβ、並びに、セットバック角Ψを、特定の測定対象としてあらためて測定すること(第2アライメント調整工程)により、ホイールアライメントの不具合の原因を絞り込む(第2評価工程)。上記の通りS4においてスラスト角ξをほぼゼロに調整したので、それでもキャンバー角η等に正常値からのずれがあるとすれば、操舵装置や懸架装置に問題がある可能性がある。ここでいう正常値とは、例えば、製造時の初期設定値として、自動車1のメーカーによって提供される値である。以下においても、特に断りのない限り同様である。正常値は、上限値及び下限値からなる範囲を持った値として設定されてもよい。この場合、正常値からのずれがあることは、上記範囲外であることに対応する。
S5〜S7において、キャンバー角η等をあらためて測定すると共に、その測定結果に基づいて、操舵装置や懸架装置の部品に不具合の原因があるかどうかを判定する。S5においてはキャンバー角η及びインクルデッドアングルζを、S6においては前輪2L及び2Rをフルロックを含む所定の状態にしたときの切れ角α及びβを、S7においてはセットバック角Ψをそれぞれ再測定する。これにより、操舵装置や懸架装置のどの部品にどのような原因があるかを評価することができる。S5〜S7における測定及び評価の詳細については後述する。
次に、S3及びS5〜S7におけるホイールアライメントの測定結果に基づき、走行時の安定性及びタイヤの偏摩耗に与えるホイールアライメントの不具合の影響を総合評価する(S8;第1評価工程)。S8においては、まず、S3において測定されたホイールアライメントの測定結果に基づき、自動車1のハンドルの流れやタイヤの偏摩耗に関して評価する。直進走行時の状態において、キャスター角γ、キャンバー角η又はインクルデッドアングルζに正常値からのずれがあることは、ハンドルの流れやタイヤの偏摩耗をもたらすおそれがある。また、直進走行時の状態において、セットバック角Ψに正常値からのずれがあることはハンドルの流れをもたらすおそれがあり、フルロック時の切れ角α若しくはβに正常値からのずれがあることはタイヤの偏摩耗をもたらすおそれがある。したがって、S3におけるこれらの測定値を正常値と比較することにより、これらの測定値における正常値からのずれが、本検査方法を施す直前の自動車1においてどの程度、ハンドルの流れやタイヤの偏摩耗の原因となっていたかを評価できる。
次に、S5及びS7におけるキャスター角γ、キャンバー角η及びインクルデッドアングルζの測定値に基づき、S3の測定値における正常値からのずれのうち、スラスト角ξ以外の原因に由来するずれがどの程度かを評価する。また、S6及びS7におけるセットバック角Ψ並びにフルロック時の切れ角α及びβの測定値に基づき、S3の測定値における正常値からのずれのうち、スラスト角ξ以外を原因とするずれがどの程度かを評価する。S4においてスラスト角ξをほぼゼロとしているため、S5〜S7における測定値は、スラスト角以外を原因とするホイールアライメントの不具合を示している。これにより、ハンドルの流れやタイヤの偏摩耗をもたらすホイールアライメントの不具合のうち、スラスト角に由来する部分とスラスト角以外を原因とする部分とを切り分けて評価することができる。
以下、S5〜S7における工程の詳細についてそれぞれ説明する。S5においては、まず、前輪2L及び2Rそれぞれについて、キャンバー角η及びインクルデッドアングルζを再測定する。そして、その測定値の正常値からのずれに基づき、不具合の原因が何であるかを判定する。具体的には、下記表1に基づいて判定する。前輪2Lに関する判定は、前輪2Lにおける測定値を表1に照らすことで行う。また、前輪2Rに関する判定は、前輪2Rにおける測定値を表1に照らすことで行う。表1の第1列のキングピン角は、インクルデッドアングルζからキャンバー角ηを減算することで求められる。なお、キングピン角も実際に測定することによって取得してもよい。表1におけるキングピン角、キャンバー角η及びインクルデッドアングルζの各値は正常値からのずれ量を示している。正値は正常値より大きいことを示し、負値は正常値より小さいことを示す。正常値は、自動車1のメーカーが公表している初期設定値に基づいて取得する。初期設定値を正常値としてそのまま用いてもよいが、自動車1の製造時点から判定時までの経過年数に応じて初期設定値を補正した値を正常値として用いてもよい。
表1によると、例えば、前輪2Lについて再測定されたキャンバー角ηにおける正常値からのずれ量が+1°であり、前輪2Lについて再測定されたインクルデッドアングルζにおける正常値からのずれ量が±0°であるときには、車両左側のロアアーム、ストラット及びナックルアームの少なくともいずれかの変形や損傷等が疑われる。また、前輪2Rについて再測定されたキャンバー角ηにおける正常値からのずれ量が+1°であり、前輪2Rについて再測定されたインクルデッドアングルζにおける正常値からのずれ量が+1°であるときには、車両右側のストラット及びナックルアームの少なくともいずれかの変形や損傷等が疑われる。
S6においては、図7に示す工程を実行する。まず、T1に示すように、自動車1に前調整を施す。S6の工程では、ハンドル14がセンターにあるときに前輪2L及び2Rが直進走行時の状態を取ることを想定している。このため、T1の前調整では、ハンドル14がセンターにあるときに前輪2L及び2Rが直進走行時の状態を取らない場合に、ハンドル14がセンターにあるときに前輪2L及び2Rが直進走行時の状態を取るようにタイロッド12L及び12Rの長さを調整する。なお、ハンドル14のセンターと直進走行時の状態とを対応させなくてもよい。この場合、直進走行時のハンドル14の状態を確認しておき、その状態をセンターの状態の代わりに基準状態として取り扱えばよい。
次に、ハンドル14を外側前輪の切れ角20°の状態になるように左方(第2方向)に切った状態における外側前輪(前輪2R)及び内側前輪(前輪2L)のそれぞれの角度をテスターによって測定する(T2)。そして、このときの内側前輪の切れ角β1(第2切れ角)と外側前輪の切れ角α0(=20°)の差β1―α0を算出する(T3)。次に、ハンドル14を外側前輪の切れ角20°の状態になるように右方(第1方向)に切った状態における外側前輪(前輪2L)及び内側前輪(前輪2R)のそれぞれの角度をテスターによって測定する(T4)。そして、このときの内側前輪の切れ角β2(第1切れ角)と外側前輪の切れ角α0(=20°)の差β2―α0を算出する(T5)。
次に、ハンドル14をフルロックとなるように左方に切った状態における外側前輪(前輪2R)及び内側前輪(前輪2L)のそれぞれの角度をテスターによって測定する(T6)。そして、このときの内側前輪の切れ角β3(第4切れ角)と外側前輪の切れ角α1の差β3―α1を算出する(T7)。次に、ハンドル14をフルロックとなるように右方に切った状態における外側前輪(前輪2L)及び内側前輪(前輪2R)のそれぞれの角度をテスターによって測定する(T8)。そして、このときの内側前輪の切れ角β4(第3切れ角)と外側前輪の切れ角α2の差β4―α2を算出する(T9)。
次に、T1〜T9において測定及び算出した値に基づき、ホイールアライメントに不具合が生じているか否か、及び、不具合が生じている場合にはその原因を判定する(T10)。
T10の判定方法について詳細に説明する。この判定には、外側前輪の切れ角20°の状態で測定された切れ角に関する内外差の左右差Δ1の絶対値と、フルロックの状態で測定された切れ角に関する内外差の左右差Δ2の絶対値とを利用する。内外差とは、内側前輪での測定値と外側前輪での測定値との差を意味する。左右差とは、ハンドル14を左方に切ったときの値と右方に切ったときの値との差を意味する。つまり、T3の算出結果とT5の算出結果との差の絶対値|Δ1|=|β1−β2|と、T7の算出結果とT9の算出結果との差の絶対値|Δ2|=|α1−α2−β3+β4|とを用いる。|Δ2|が閾値未満、例えば1°未満である場合にはホイールアライメントが正常な範囲と判定し、|Δ2|が1°以上である場合にはホイールアライメントが正常でない範囲(ホイールアライメントに不具合がある)と判定する。そして、ホイールアライメントが正常でない範囲と判定した場合には、さらにその原因を以下のように判定する。
まず、|Δ1|が閾値以上、例えば30′以上であるか否かを判定する。|Δ1|が30′未満である場合には、ホイールアライメントに不具合がある原因がナックルアーム13L及び13R以外にあると判定する。例えば、その原因は、ラック11の位置ずれやサイドメンバー、サスペンションメンバーの位置ずれ等、ナックルアーム13L及び13R以外のいずれかにあると考えられる。一方、|Δ1|が30′以上である場合、つまり、|Δ1|≧30′且つ|Δ2|≧1°のときには、ナックルアーム13L又は13Rに曲がりが生じている蓋然性が高いと判定する。
そこで、|Δ1|≧30′且つ|Δ2|≧1°となる場合には、さらに、T6及びT8において取得したα1、α2、β3及びβ4の少なくともいずれか1つに基づいて、ナックルアーム13L及び13Rの不良状態を表2に示すように判定する。また、ナックルアーム13L又は13Rの不良によって前輪の切れ角にずれが生じている場合、タイヤに偏摩耗が生じやすくなる。そこで、α1、α2、β3及びβ4の値に応じて表2に示すようにタイヤの偏摩耗を判定する。
表2の1列目におけるLi及びLoは、ハンドル14をフルロックとなるように左方に切った状態における当該車両の内側前輪(前輪2L)の切れ角の正常値及び外側前輪(前輪2R)の切れ角の正常値である。Ri及びRoは、ハンドル14をフルロックとなるように右方に切った状態における当該車両の内側前輪(前輪2R)の切れ角の正常値及び外側前輪(前輪2L)の切れ角の正常値である。
表2の1列目は、フルロック時の切れ角のずれ状況に関する条件を示す。例えば、「β4−Ri≧2°」との条件は、「ハンドル14を前輪がフルロックになるまで右方に切った場合の内側前輪(前輪2R)の切れ角における正常値からのずれが正、具体的には2°以上である」という条件に対応する。また、「α1−Lo≦−2°」との条件は、「ハンドル14を前輪がフルロックになるまで左方に切った場合の外側前輪(前輪2R)の切れ角における正常値からのずれが負、具体的には−2°以下である」という条件に対応する。このように、表2の1列目の条件は、切れ角のずれを測定した際における前輪の回転方向が左右どちらであるか、測定されたずれが前輪2L及び2Rのいずれに関するずれであるか、ずれの正負がどちらであるか、及び、ずれの大きさがある程度以上であるかに関する。
表2の2列目は、ナックルアーム13L(左)又は13R(右)のいずれに不良(曲がり)があるかを示す。3列目は、不良のあるナックルアームにおいて内側向き及び外側向きのいずれの曲がりが生じているかを示す。図8(a)は、ナックルアーム13Lに内側向きの曲がりが生じている場合の一例である。ナックルアーム13Lの後部が内側(図中右方)に折れ曲がっている。図8(b)は、ナックルアーム13Lに外側向きの曲がりが生じている場合の一例である。ナックルアーム13Lの後部が外側(図中左方)に折れ曲がっている。これらの図に示すように、ナックルアーム13Lに曲がりが生じている場合には、ハンドル14がセンターにあるときに前輪2L及び2Rが正しく直進状態を向くように、タイロッド12Lの長さが調整される。これにより、図8におけるタイロッド12L及び12Rの少なくともいずれかの長さが、図3における長さと一致しなくなっている。なお、ナックルアーム13Rに曲がりが生じているときも上記と同様である。この場合、内外と左右の関係がナックルアーム13Lの場合から逆転する。表2の4列目及び5列目は、左右いずれのタイヤの内側及び外側いずれに偏摩耗が生じやすいかを示す。表3は各変数の内容を示す。
表2に基づく判定の一例は以下のとおりである。前輪を右方にフルロックまで回転させた際に測定される内側前輪(前輪2R)の切れ角から基準角度を引いた差β4−Riが負であって、且つ、−2°以下である場合には、右側にあるナックルアーム13Rに外側への曲がりが生じている蓋然性が高い。この場合、右タイヤの外側に偏摩耗が生じやすい。また、前輪を右方にフルロックまで回転させた際に測定される左(外側)前輪の切れ角から基準角度を引いた差α2−Roが正であって、且つ、2°以上である場合には、左側にあるナックルアーム13Lに外側への曲がりが生じている蓋然性が高い。この場合、右タイヤの外側に偏摩耗が生じやすい。
以上のようにホイールアライメントの不具合の原因を判定できる理由について説明する。当該判定は右の知見に基づいている:ラック11の位置ずれ等が原因でホイールアライメントに不具合が生じている場合には、フルロック時の切れ角にずれが生じやすい一方、フルロックでない時の切れ角にずれが生じにくい。これに対し、ナックルアーム13L又は13Rの曲がりが原因でホイールアライメントに不具合が生じている場合には、フルロック時及びフルロックでない時のいずれの切れ角にもずれが生じやすい。
例えば、車体に対するラック11の設置位置にずれがあることで、ラック11に左右方向に関する位置ずれが生じているとする。この場合、上記のとおり、ハンドル14がセンターにあるときに前輪が直進方向に正しく向くように、タイロッド12L及び12Rの長さが調節されることになる。図9は、一例としてラック11が右にずれている場合において、タイロッド12L及び12Rの長さを調節することにより、ナックルアーム2L及び2R並びに左前輪2L及び右前輪2Rが直進方向を向いている状態を示す。この状態からハンドル14を左右いずれかに切っていくと、ラック11の移動に応じ、タイロッド12L及び12Rを介してナックルアーム13L及び13Rが回転する。ナックルアーム12L及び12Rに異常がない場合には、ラック11の移動に伴ってほぼ正常にナックルアーム12L及び12Rが回転していく。このため、例えば、前輪がフルロック近くに至るまでのいずれかの切れ角にあるときには、前輪の切れ角に正常な角度からのずれが生じにくい。しかしながら、前輪がフルロックになるまでハンドル14を回転させると、ラック11の当初位置にずれがあることから、このずれの分、フルロックのときのラック11の位置も正常位置からずれることになる。したがって、前輪がフルロック近くにあるときは切れ角が正常な角度からずれやすい。
これに対し、ナックルアーム13L又は13Rに図8に示すような曲がりが生じている場合には、ラック11の所定量の移動に対するナックルアーム13L又は13Rの回転量(回転角の変化量)に、ナックルアームが正常である場合の回転量からのずれが生じる。そして、この回転量のずれは、ハンドル14を切り始める当初から生じると共に、前輪がフルロックの状態に近づくほど大きくなっていく。したがって、ナックルアーム13L又は13Rに曲がりが生じている場合には、前輪2L又は2Rの切れ角におけるナックルアームが正常である場合からのずれが、ハンドル14を切り始めてから前輪がフルロックになるまでの途中の切れ角、例えば、20°切れ角のときにもある程度大きい。そして、前輪の切れ角が大きくなるほどそのずれは大きくなる。
また、ナックルアーム13L又は13Rに曲がりが生じている場合には、上記のとおり、前輪がフルロック近くに至るまでの途中の切れ角にあるときにも切れ角のずれが大きい。したがって、前輪2L又は2Rが正常な切れ角からずれていることにより、自動車1がカーブを走行するときなどに前輪のタイヤに掛かる荷重は正常な場合より内側又は外側にずれやすい。このため、タイヤには内側寄りの偏摩耗(いわゆる内減り)又は外側寄りの偏摩耗(いわゆる外減り)が生じやすい。
S7においては、図10に示す工程を実行する。まず、テスターにより、前輪2Lのキャスター角γ1及び前輪2Rのキャスター角γ2を再測定する(U1)と共に、セットバック角Ψを再測定する(U2)。そして、U1及びU2の測定結果に基づき、セットバックが生じている場合にはその原因を判定する(U3)。
U3の判定方法について詳細に説明する。まず、U2で測定されたセットバック角Ψの大きさが10′(所定の大きさ)以上であるか否かに基づいて、セットバックが生じているか否かを判定する。なお、セットバックが生じているか否かの判定には、10′以外の別の値が用いられてもよい。セットバックが生じていると判定した場合には、キャスター角の左右差の大きさが30′以下であるか否か、つまり、|γ1−γ2|≦30′が成立するか否かに基づいて、セットバックが生じている原因が前側懸架装置20にあるのか後側懸架装置30にあるのかを判定する。|γ1−γ2|>30′が成立する場合には前側懸架装置20に原因がある蓋然性が高いと判定し、|γ1−γ2|≦30′が成立する場合には後側懸架装置30に原因がある蓋然性が高いと判定する。かかる条件を採用した理由は以下のとおりである。本発明者が過去に実施した多数の自動車整備の経験によると、(i)|γ1−γ2|が30′を超える車両は、30′を2〜3′超えるに過ぎない場合でも前側懸架装置20に問題がある。(ii)|γ1−γ2|が30′以下である場合には前側懸架装置20に問題がない。(iii)前側懸架装置20に問題がない車両でも|γ1−γ2|が30′に近接することがある。以上より、セットバックが生じている原因が前側懸架装置20にあるのか後側懸架装置30にあるのかを判定する条件として、|γ1−γ2|が30′を超えるか否かが採用されている。
前側懸架装置20に問題がある場合、セットバックの原因として、前側懸架装置20を構成するテンションロッドやスタビライザー等の右側部位や左側部位に伸びや損傷が生じていることが考えられる。前側懸架装置20に問題がある場合には、左前輪2L及び右前輪2Rのいずれのキャスター角が正常値から大小いずれにずれているかに基づいてセットバックの原因を取得する。具体的には、下記表4に基づいてセットバックの原因を取得する。
表4の1列目はセットバック角Ψの測定値の正負を示している。表4の2列目は、左前輪2L及び右前輪2Rのいずれのキャスターに異常があるかを示している。
キャスターに異常があるか否かは、以下のように判定される。キャスター角は、製造時点において、自動車1のメーカーが公表している初期設定値になっているはずである。したがって、キャスターの異常判定の時点が自動車1の製造時点に近いほど、正常なキャスター角は初期設定値と近い値になる。一方、自動車1の製造時点からの経過年数が大きいと、前側懸架装置20等に問題がなかったとしても、キャスター角が初期設定値とは異なる値に変化していることが想定される。例えば、自動車1の使用期間が長くなると、サスペンションの経年劣化等によって車体が低くなってくるのに伴い、キャスターが大きくなることがある。このため、キャスターの異常判定の時点が自動車1の製造時点からどの程度、経過しているかに応じ、キャスター角の正常値も初期設定値より大きいものとして捉える必要がある。したがって、このような経年劣化等に応じたキャスター角の変化を考慮した上で、前輪2L及び2Rのいずれのキャスター角が正常な値に相当するかを判定する。キャスター角が正常な前輪とは異なる前輪が、キャスター角に異常がある前輪である。
本発明者が過去に実施した多数の自動車整備の経験によると、経年劣化等による通常のキャスター角の変化では、キャスター角の左右差にして30′もの違いを生むほどキャスターが大きく変化することはない。したがって、|γ1−γ2|が30′を超える場合には、左前輪2L及び右前輪2Rのいずれかのキャスターが、経年劣化等による通常のキャスター角の変化を大きく上回る値を示すことになる。よって、仮に、経年劣化等による正常値の予測精度がそれほど高くなかったとしても、左前輪2L及び右前輪2Rのいずれのキャスターに異常があるかは、おのずと明らかになりやすい。このことは、30′という基準値が経年劣化等による通常のキャスターの変化より大きいことによる。
表4の3列目は、異常がある方のキャスターが正常値より大きいか小さいかを示している。表4の4列目は、前側懸架装置20の部品における左右いずれの部位にセットバックの原因があるかを示している。表4の5列目は、当該原因による前輪のずれ方向を示している。
表4に基づく判定は以下のとおりである。セットバック角Ψの測定値が負である場合、表4に示すように、右前輪2Rのキャスター角が正常値より小さい場合と、左前輪2Lのキャスター角が正常値より大きい場合とのいずれかが考えられる。前者が成立する場合、セットバックの原因としてテンションロッドやスタビライザー等の右側部位の伸びや損傷等により、右前輪2Rが後方にずれた蓋然性が高い。後者が成立する場合、セットバックの原因としてテンションロッド等の左側部位の曲りや損傷等により、左前輪2Lが前方にずれた蓋然性が高い。セットバック角Ψの測定値が正である場合、表4に示すように、左前輪2Lのキャスター角が正常値より小さい場合と、右前輪2Rのキャスター角が正常値より大きい場合とが考えられる。前者が成立する場合、セットバックの原因としてテンションロッド等の左側部位の伸びや損傷等により、左前輪2Lが後方にずれた蓋然性が高い。後者が成立する場合、セットバックの原因としてテンションロッド等の右側部位の曲りや損傷等により、右前輪2Rが前方にずれた蓋然性が高い。以上は、前側懸架装置20に問題がある場合の判定方法である。
一方、後側懸架装置30に問題がある場合、セットバックの原因として、後側懸架装置30を構成するトルクロッドやロアアーム、サスペンションメンバー等の左側部位又は右側部位に伸びや損傷が生じていることが考えられる。後側懸架装置30に問題がある場合には、セットバック角Ψの測定値の正負に基づいてセットバックの原因を取得する。セットバック角Ψの測定値が負である場合は、その原因として、トルクロッド等の左側部位の伸びや損傷により左後輪3Lが後方にずれたか、トルクロッド等の右側部位の曲りや損傷により右後輪3Rが前方にずれたかのいずれかである蓋然性が高い。セットバック角Ψの測定値が正である場合は、その原因として、トルクロッド等の右側部位の伸びや損傷により右後輪3Rが後方にずれたか、トルクロッド等の左側部位の曲りや損傷により左後輪3Lが前方にずれたかのいずれかである蓋然性が高い。
以上説明した本実施形態に係るホイールアライメントの検査方法によると、図6のS3とS5〜S7とのそれぞれにおいてホイールアライメントを測定する。S3とS5〜S7とは、スラスト角が解消するようにホイールアライメントを調整するS4の前後に実行される。したがって、S8においてハンドルの流れやタイヤの偏摩耗に最も影響する実際の走行時のホイールアライメントの状況をS3の測定結果に基づいて適切に評価できると共に、S5〜S7においてホイールアライメントの不具合の原因を適切に評価することもできる。仮に、S3の工程しか行わず、その測定結果に基づき、ホイールアライメントの不具合を全て解消させてしまう場合には、ホイールアライメントの不具合の原因を適切に把握できない。また一方で、S3の工程を行わずS5〜S7の工程しか行わない場合には、ハンドルの流れやタイヤの偏摩耗へのホイールアライメントの影響を適切に評価できない。
例えば、本発明者の知見によると、10′のスラスト角が発生している場合、直進走行時の状態において、前輪2L及び2Rの個別トーには1.2mmの左右差が生じていることになる。この個別トーの左右差により、ホイールアライメントの各値にはスラスト角由来のずれとして、表5に示す大きさのずれが生じることになる。このずれの大きさは、10′のスラスト角が生じているときの直進走行時の各値とスラスト角が生じていないときの直進走行時の各値との差の絶対値に対応する。
つまり、例えば本検査方法の実施前の自動車1にスラスト角10′が生じていた場合には、S3の工程を行わず、S4をすぐに実行したとすると、ホイールアライメントの不具合に関する表5に示す情報を取得できないことになる。この場合、本検査方法の実施前の自動車1におけるハンドルの流れやタイヤの偏摩耗の程度を正確に説明するようなホイールアライメントの不具合に関する情報を十分に把握できないおそれがある。例えば、図6のS6において、表2に基づいて判定したタイヤの偏摩耗の状況と実際に自動車1に表れているタイヤの偏摩耗の状況との整合が取れなくなるおそれがある。これに対し、S4の工程の前後にS3の工程とS5〜S7の工程とを実行する本実施形態によると、ハンドルの流れやタイヤの偏摩耗に最も影響する実際の走行時のホイールアライメントの状況を適切に評価できると共に、ホイールアライメントの不具合の原因を適切に評価することもできる。
また、図6の工程のうち、S6の工程によると、|Δ1|の算出により外側前輪の切れ角20°の状態における切れ角のずれ状況を評価でき、|Δ2|の算出によりフルロック時の切れ角のずれ状況を評価できる。例えば、フルロック時の切れ角のずれ状況を|Δ2|≧1°を満たすか否かによって評価する。これにより、ホイールアライメントに不具合があるかどうかの評価が可能である。一方、|Δ2|による評価のみでは、ホイールアライメントの不具合の原因がラック11の位置ずれ等にあるのかナックルアーム13L又は13Rの曲がりにあるのかまで区別できないおそれがある。そこで、|Δ2|≧1°を満たすか否かのみならず、|Δ1|≧30′を満たすか否かによって外側前輪の切れ角20°の状態における切れ角のずれ状況をさらに評価する。これにより、ナックルアーム13L又は13Rに曲がりが生じている蓋然性の高さを評価する。つまり、Δ1及びΔ2の両方の評価により、ラックの位置ずれ等が原因であるかナックルアームの曲がりが原因であるかを区別することができる。
さらに、表2の条件、つまり、前輪の回転方向、測定されたずれが前輪2L及び2Rのいずれに関するずれであるか、及び、ずれの正負がいずれであるかに関する条件に基づいて、ナックルアーム13L及び13Rのいずれにどのような曲がりが生じているかを評価する。したがって、ナックルアーム13L又は13Rの不良状態を詳細に判定することができる。
また、図6の工程のうち、S7の工程によると、セットバックが生じている(セットバック角が所定の大きさ(10′)以上である)場合に、さらに前輪2L及び2Rのキャスター角に左右差が生じている(|γ1−γ2|≧30′が成立する)か否かに基づいて、セットバックが生じていることの原因が前側懸架装置20及び後側懸架装置30のいずれにあるのかを評価する。また、前輪2L及び2Rのいずれのキャスター角に異常があるかに基づいて、前側懸架装置20に含まれる部品の左側部位及び右側部位のいずれに問題があるかを取得する。
このように、S4の工程により、前輪2L及び2Rのトー並びに後輪3L及び3Rのトーについては左右差が発生していない状態を前提とするが、S7の工程においては、セットバック及びキャスターについていたずらに調整せず、現状そのままを測定することにより、セットバックが生じている原因を適切に把握することができる。
以下、上述の実施形態の変形例について説明する。上述の実施形態では、S5〜S7において、特定の測定対象として、キャスター角γ、キャンバー角η、インクルデッドアングルζ、フルロック時の切れ角α及びβ、並びに、セットバック角Ψを再測定している。しかし、これらのうちの一部を測定してもよい。例えば、S6のみを実行してもよい。この場合、前輪2L及び2Rの切れ角のみの測定となる。この測定においては、S4の調整のうち、前輪2L及び2Rの個別トーの調整のみが測定値に直接影響を与える。よって、図6のS4の工程において、後輪については個別トーの調整を行わず、前輪のみについて個別トーの調整を行ってもよい。上述の実施形態において、S5〜S7で行われるホイールアライメントの測定のうち、後輪の個別トーの調整が関わるのは、S7のセットバック角Ψの測定のみである。セットバック角Ψを測定しないのであれば、S4の工程において、前輪のみについて個別トーの調整を行ってもよい。一方、S4の工程後の測定にセットバック角Ψの工程が含まれる場合には、S4において、前輪及び後輪の両方に関して個別トーを調整する必要がある。
また、図6のS6の工程では、|Δ1|≧30′を満たすか否かと|Δ2|≧1°を満たすか否かにより、外側前輪の切れ角20°の状態における切れ角のずれ状況とフルロック時の切れ角のずれ状況を評価している。しかし、切れ角のずれ状況の評価はその他の条件に基づいて行われてもよい。例えば、30′や1°以外の数値が用いられてもよい。また、Δ1やΔ2を用いず、α1、α2、β1〜β4が所定の条件を満たすか否かによって評価してもよい。一例として、α1やβ2をそれぞれに関する正常値と比較することで正常値からのずれとして切れ角のずれ状況を評価してもよい。要は、外側前輪の切れ角20°の状態における切れ角にずれがどの程度生じているかと、フルロック時の切れ角にずれがどの程度生じているかとをそれぞれ評価できる方法であれば、どのような方法が採用されてもよい。
また、図6のS6の工程では、外側前輪の切れ角20°の状態における内側前輪の切れ角をα1及びα2として測定している。しかし、内側前輪の切れ角20°の状態における外側前輪の切れ角を測定してもよい。また、切れ角を20°とせず、フルロック時の角度より小さいその他の角度としてもよい。
また、図6のS6の工程では、外側前輪の切れ角20°の状態で測定された各前輪の切れ角とフルロックの状態で測定された各前輪の切れ角とに基づいてホイールアライメントの不具合の原因を判定している。しかし、外側前輪の切れ角θ1(θ1<フルロック時の角度)の状態で測定された各前輪の切れ角と外側前輪の切れ角θ2(θ2>θ1)の状態で測定された各前輪の切れ角とに基づいてホイールアライメントの不具合の原因を判定してもよい。
例えば、切れ角θ1(第1角度)まで左前輪を右方(第1方向)に回転させた状態で測定された右前輪の切れ角(第1切れ角)と、切れ角θ1まで右前輪を左方(第2方向)に回転させた状態で測定された左前輪の切れ角(第2切れ角)との差Δaを算出する。また、切れ角θ2(第2角度)まで左前輪を右方に回転させた状態で測定された右前輪の切れ角(第3切れ角)と、切れ角θ2まで右前輪を左方に回転させた状態で測定された左前輪の切れ角(第4切れ角)との差Δbを算出する。θ2はθ1より大きいが、フルロックの状態の切れ角であるか否かは問わない。そして、Δaの絶対値が第1閾値より大きく、且つ、Δbの絶対値が第1閾値より大きい第2閾値より大きい場合には、ナックルアーム13L又は13Rに曲がりが生じている蓋然性が高いと判定する。このように、切れ角が変わった場合における切れ角のずれの変化を評価することで、ナックルアーム13L又は13Rに曲がりが生じていると判定してもよい。さらに、表1に基づく上述の実施形態と同様の方法で、前輪の切れ角が基準角度からどのようにずれているかに基づき、ナックルアーム13L及び13Rのいずれにどのような曲がりが生じているかをより詳細に把握することも可能である。
当該変形例においても、ΔaやΔbを用いず、切れ角の測定値が所定の条件を満たすか否かを直接判定することによって評価してもよい。一例として、切れ角θ1まで右前輪を左方に回転させた状態で測定された左前輪の切れ角を正常値と比較することで、切れ角が正常値からのどの程度ずれているかをずれ状況として評価してもよい。要は、外側前輪の切れ角θ1の状態における切れ角にずれがどの程度生じているか、外側前輪の切れ角θ2の状態における切れ角にずれがどの程度生じているかをそれぞれ評価できる方法であれば、どのような方法が採用されてもよい。
なお、切れ角を変化させて測定しなくても、外側前輪をフルロックでない切れ角で左方に回転させた場合の内側前輪(前輪2L)の切れ角と、外側前輪を同じ切れ角で右方に回転させた場合の内側前輪(前輪2R)の切れ角とにずれがある場合に、操舵装置の部品(ラック11やナックルアーム13L、13R等)に何らかの異常があると判定してもよい。ただし、この2つの切れ角の測定値のみでは、切れ角を変化させたときの切れ角のずれの変化を把握できない。このため、ホイールアライメントの不具合の原因をより詳細に絞り込むためには、切れ角を変化させたうえでの切れ角の測定値を取得することが好ましい。
また、図6のS7の工程では、キャスターの大きさを取得するためにキャスター角を測定している。しかし、それ以外の方法でキャスターの大きさを取得してもよい。例えば、キャスタートレールと車軸中心位置の高さを測定することにより、キャスターの大きさを取得してもよい。(キャスタートレール)/(車軸中心位置の高さ)を正接とする三角形の角度からキャスター角を取得できる。なお、(キャスタートレール)/(車軸中心位置の高さ)を直接用いて前輪2L及び2Rのキャスターに左右差が生じていること等を判定してもよい。この場合、判定に用いる基準値(上述の実施形態における30′等)は(キャスタートレール)/(車軸中心位置の高さ)に応じた値に代わる。
また、図6のS7の工程では、前輪2L及び2Rのキャスターに左右差が生じている場合に、さらにいずれのキャスターに異常があるかに基づいて前側懸架装置20の部品の左右いずれの部位に問題があるかを評価している。しかし、前輪2L及び2Rのキャスターに左右差が生じているか否かに基づいて前側懸架装置20及び後側懸架装置30のいずれに問題があるかを評価することが単独で実施されてもよい。また、左右いずれのキャスターに異常があるかに基づいて前側懸架装置20の部品の左右いずれの部位に問題があるかを評価することが単独で実施されてもよい。なお、キャスター角と正常値との比較により、前輪2L及び2Rのいずれかのキャスターに異常があると判定した場合に、前側懸架装置20に問題があると評価してもよい。また、キャスター角と正常値との比較により、前輪2L及び2Rのいずれのキャスターにも異常がないと判定した場合に、後側懸架装置30に問題があると評価してもよい。
また、上述の実施形態では、個別トーは各車輪と幾何学的中心線との距離である。しかし、個別トーが各車輪の角度で表されてもよい。この場合、個別トーに基づく判定に用いられる基準値(例えば、上述の実施形態における0.5mm)は、車輪の角度に応じた値に代わる。
また、上述の実施形態では、S2において、マーカ等に基づいてハンドル14の位置をS1において確認した位置にすることにより、直進走行時のハンドル14の状態を再現する。この工程の際に、ハンドル14の位置が真に直進状態にあるか否かを判定してもよい。そして、判定の結果、ハンドル14が真に直進状態にないとなった場合には、前輪が真に直進状態になるようにハンドル14の位置を修正してもよい。このような判定を可能にするため、上述の実施形態のテスターが、各前輪の前端位置及び各前輪の後端位置をそれぞれ取得できるように構成されていてもよい。例えば、前輪2Rの前端位置は、図2の前輪2Rの外形線と二点鎖線との2つの交点のうち、前方にある交点の位置である。また、前輪2Rの後端位置は、図2の前輪2Rの外形線と二点鎖線との2つの交点のうち、後方にある交点の位置である。このような前端位置及び後端位置を取得できることにより、平面視における前輪の向き(二点鎖線に沿った方向)を取得できる。このため、前輪の向きが真にスラストラインと平行かどうかを判定できる。これを用いて、ハンドル14の位置が真に直進状態にあるか否かを判定できる。また、前端位置及び後端位置を取得することで、前輪の向きがスラストラインからどちらにどれだけずれているかを取得できる。よって、そのずれの状況に基づき、前輪が真に直進状態になるようにハンドル14の位置を修正できる。
1 自動車
2L 前輪(左前輪)
2R 前輪(右前輪)
3L 後輪(左後輪)
3R 後輪(右後輪)
10 操舵装置
20 前側懸架装置
30 後側懸架装置
C 幾何学的中心線

Claims (4)

  1. スラスト角が生じた車両の直進走行時の前輪の位置を基準として、前輪のキャンバー、前輪のキャスター、前輪のインクルデッドアングル、セットバック、及び、前輪を所定の状態まで回転させたときの切れ角のいずれか1つ以上を特定の測定対象としてホイールアライメントを測定する第1アライメント測定工程と、
    前記第1アライメント測定工程の後に、前記特定の測定対象にセットバックが含まれる場合には、前記車両の前輪及び後輪の両方に関して個別トーの左右差がなくなるように個別トーを調整し、前記特定の測定対象にセットバックが含まれない場合には、少なくとも前記車両の前輪に関して個別トーの左右差がなくなるように個別トーを調整する調整工程と、
    前記調整工程の後に、前記特定の測定対象に関してホイールアライメントを再度測定する第2アライメント測定工程と、
    前記第1アライメント測定工程の測定結果に少なくとも基づいて、前記調整工程前の前記車両におけるタイヤの摩耗及びハンドルの流れの少なくともいずれかに影響するホイールアライメントの不具合を評価する第1評価工程と、
    前記第2アライメント測定工程の測定結果に少なくとも基づいてホイールアライメントの不具合の原因を評価する第2評価工程と、を備えていることを特徴とするホイールアライメントの検査方法。
  2. 前記第2アライメント測定工程が、
    左前輪をその切れ角がフルロックに対応する角度より小さい第1角度となるように左方及び右方の一方である第1方向に回転させた状態で右前輪の第1切れ角を測定する工程と、右前輪をその切れ角が前記第1角度となるように前記第1方向とは逆の第2方向に回転させた状態で左前輪の第2切れ角を測定する工程とを含んでおり、
    前記第2評価工程において、前記第1切れ角及び前記第2切れ角に少なくとも基づいてホイールアライメントの不具合の原因を評価することを特徴とする請求項1に記載のホイールアライメントの検査方法。
  3. 前記第2アライメント測定工程が、
    左前輪をその切れ角が前記第1角度とは異なる第2角度となるかフルロックとなるように前記第1方向に回転させた状態で右前輪の第3切れ角を測定する工程と、右前輪をその切れ角が前記第2角度となるかフルロックとなるように前記第2方向に回転させた状態で左前輪の第4切れ角を測定する工程とをさらに含んでおり、
    前記第2評価工程において、前記第1切れ角〜前記第4切れ角に少なくとも基づいて、前輪の切れ角の大きさに対する切れ角のずれの変化を評価することにより、ホイールアライメントの不具合の原因を評価することを特徴とする請求項2に記載のホイールアライメントの検査方法。
  4. 前記第2アライメント測定工程において、セットバック並びに左前輪及び右前輪のキャスターを測定し、
    前記第2評価工程において、セットバックが所定の大きさ以上である場合に、前輪のキャスターに左右差が生じているか否かと、左前輪及び右前輪のいずれのキャスターに異常があるかとの少なくともいずれかに基づいてセットバックが生じていることの原因を評価することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のホイールアライメントの検査方法。
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