JP5969161B2 - エルデカルシトールを含有する前腕部骨折抑制剤 - Google Patents

エルデカルシトールを含有する前腕部骨折抑制剤 Download PDF

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Description

本発明は、エルデカルシトール(ED−71)を含んでなる、前腕部骨折を抑制するための医薬組成物、有効量のエルデカルシトールを投与することを含んでなる前腕部骨折の抑制方法、および該医薬組成物の製造におけるエルデカルシトールの使用に関する。
高齢者の骨折は、「高齢になると骨がもろくなるために自然で避けがたいもの」とされているが、高齢者の生命予後にも間接に影響するのみならず、生存期間中の自立を低下させ、QOL(生活の質)を直接に悪化させるため、その抑制もしくは予防が望まれている。特に高齢者の増加と平均寿命の延長が顕著となって高齢者の骨折増加が著しく多くなるに従い、それは強く求められている。
高齢者がほとんどまたは全くの外傷なしに骨折する(脆弱性骨折)基礎疾患のひとつとして骨粗鬆症がある。骨粗鬆症は、骨強度の低下により、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患である。わが国の骨粗鬆症患者は2002年時点で約1100万人と推計されており、80%以上が女性である。今後、人口の高齢化率が急激に高まることから、骨粗鬆症患者数は急激に増加すると推測されている。
骨粗鬆症では、骨の脆弱化により、主に脊椎(椎体)、大腿骨近位部、前腕部が骨折しやすく、特に、大腿部及び前腕部骨折は、交通事故などの高度な外力はもとより、一般的な日常生活で起こる転倒などによる軽微な外力によって起こる。
これら骨折の発生頻度は、大腿骨頸部は155人/10万人、前腕部はそれを上回る196人/10万人程度である。さらに、本邦の女性における前腕部骨折の場合、50歳から急激に増加し、55歳以降は年間300〜400人/10万人となり、80歳以降からさらに増加する傾向にある。
前腕部骨折の予後に関しては生命予後に影響は少ないとされているものの、大腿骨頸部骨折と同等以上の骨折発生数と、骨折期間中の著しいADL(Activities of daily living;日常生活動作)及びQOL(Quality of life;生活の質)の低下からみて、その骨折を予防することは極めて重要である。
一方、2006年骨粗鬆症の予防と治療GL作成委員会編のガイドラインによれば、本邦における骨粗鬆症の治療に際しては、カルシウム製剤、女性ホルモン製剤、活性型ビタミンD製剤、ビタミンK製剤、ビスホスホネート製剤、SERM製剤、カルトシトニン製剤、イソフラボン製剤、蛋白同化ホルモン製剤等が主に使用されている。海外における治療ではそれらに加え、PTH及びそのアナログ、RANKL阻害剤、ストロンチウム製剤などが使われている。
これら現行治療剤のうち、現在最も高い頻度で使用されているのがビスホスホネート製剤である。ビスホスホネートのひとつであるアレンドロネートは、10mg/日による継続的な治療で閉経後の骨粗鬆症患者の椎骨の骨折の危険性を減少し、BMDを増加させる。また、近年、非椎体骨折のリスクの減少や、大腿骨頚部骨折後における二次骨折の予防または低減化の効果も報告されている(特許文献1、特許文献2)。
しかしながら、ビスホスホネートは、骨粗鬆症の治療薬としてBMDを上昇させるものの、同時に、微小な骨損傷の蓄積など、骨質の低下をもたらす可能性が示唆されている。さらに、アレンドロネートでは厳しい服用規則や副作用のために患者のコンプライアンスが悪いという報告がある。一般に、ビスホスホネートは、食事中のカルシウムとのキレート形成によりその吸収が阻害されるため、空腹時に服用すべきことや、食道炎や食道潰瘍予防のために立位あるいは坐位で十分量の水とともに服用し服用後30分以上は横たわらないこと等の厳しい服薬規制がなされている。現在、それら規制が少なくなる新たなビスホスホネート剤が開発されてはいるものの、近年、ビスホスホネート服用時に歯科処置の際の顎骨壊死の問題がクローズアップされ、その外、骨関節痛などの筋骨格系副作用も報告されており、安全上の問題がある。
そのほかの骨粗鬆症治療薬に関しても、SERM製剤の有効成分である塩酸ラロキシフェンでは静脈血栓塞栓症の発作や梗塞といった血管運動症状リスクの増加、PTHでは動物での骨肉腫発生リスク増加の報告等、それぞれに重篤な安全上の問題を有している。さらに、PTH及びRANKL阻害剤は皮下あるいは静脈内注射剤であり、長期投与に不向きであるなどのコンプライアンス上の問題もある。
一方、ビスホスホネートのほかに、非椎体骨折予防の効果が認められている薬剤としてビタミンD化合物があり、カルシトリオールとアルファカルシドールはそれぞれ非椎体骨折に対して有意な抑制効果を示すことがメタアナリシスにより報告されている(非特許文献1)。ビタミンD化合物は、他の同効薬に見られるコンプライアンス低下や重篤な副作用等の問題がない点で、長期の服用が必要とされる骨粗鬆症治療剤のような薬剤として非常に優れていると言える。
そうしたビタミンD化合物の一種であるエルデカルシトールは、1985年に物質発明が出願されて以来、数多くの特許・非特許文献の報告があり、そのひとつにエルデカルシトールを有効成分として含有する「骨癒合促進剤」に関する特許第3789956号(特許文献3)がある。ここに言う骨癒合促進とは、骨延長、骨切り、骨折、骨移植などの後に必要な骨の再接合を伴う骨修復過程を促進するものであるから、そうした再接合を伴わないところの骨折の抑制又は予防とは異なる。また、「新規ビタミンD3誘導体を有効成分とする医薬」に関する特公平7−80773(特許文献4)は、エルデカルシトールを有効成分として含有するビタミンD代謝異常を伴う疾患の治療剤を開示する。その疾患に骨粗鬆症が含まれる。
前腕部は、人が転倒する際に最初に地面や床に接触して体重負荷を最も大きく受ける部位であるから、高齢者や骨粗鬆症患者など骨がもろくなっている人は転倒により骨折し易いところ、それが骨折せずに転倒による体重負荷を充分に受け止めることができれば、前腕部のみならず、転倒による体全体の損傷を最小限にすることができる。
特表平10−504839 特表2006−500402 特許第3789956号 特公平7−80773
J. Bone Miner. Metab., 2008, 26, 531
従って、本発明は、前腕部の骨折を既存薬剤の効果を上回って予防できる医薬組成物を提供することを目的とする。
本発明は、エルデカルシトールを含んでなる、前腕部骨折を抑制するための医薬組成物または前腕部骨折抑制剤を提供する。好ましくは、本医薬組成物は、原発性骨粗鬆症患者に投与され、更に好ましくは、大腿骨骨密度が若年者平均骨密度(Young Adult Mean, YAM)の80%未満、好ましくは70%未満、より好ましくは60%未満のヒトに投与される。好ましくは、原発性骨粗鬆症患者に、エルデカルシトールが0.75μg/日の用量で経口投与される。
上記のように、骨折の抑制又は予防は、骨の再接合を伴わない点で骨癒合促進とは異なるから、エルデカルシトールで前腕部骨折を抑制する用途は、本発明者らが初めて見出したものである。また、上記の、エルデカルシトールを骨粗鬆症の治療剤とすることは、前腕部という特定部分の骨折抑制の用途を示唆するものではないから、エルデカルシトールで前腕部骨折を抑制する用途は、やはり本発明者らが初めて見出したものである。
本発明により、従来から使用されている医薬品に比べ大きく前腕部骨折を抑制できる。本発明における前腕部骨折抑制効果は、同種同効薬であるアルファカルシドールより有意に上回り、当業者の常識から予想されるレベルをはるかに超えるものである。
図1は、カプラン−マイヤー(Kaplan-Meier)法によるエルデカルシトール/アルファカルシドール投与時の非外傷性前腕部骨折発生頻度の経時的推移を示す。
本明細書および請求の範囲全体に渡り、以下の定義が適用される。
エルデカルシトール(eldecalcitol)とは、開発コード「ED−71」の化合物であり、化学名:(1R,2R,3R,5Z,7E)−2−(3−ヒドロキシプロピルオキシ)−9,10−セココレスタ−5,7,10(19)−トリエン−1,3,25−トリオールを有する化合物である。
前腕部は、橈骨と尺骨からなる。
骨折を抑制するための医薬組成物は、骨折を予防することができるので、骨折を予防するための医薬組成物とも言うことができる。抑制あるいは予防は、骨粗鬆症に罹患していない者あるいは骨粗鬆症患者のいずれにおいても、新たな骨折が発生しないことを意味する。
骨粗鬆症は、原発性骨粗鬆症と続発性骨粗鬆症に分類される。原発性骨粗鬆症は、更に、特発性骨粗鬆症、I型骨粗鬆症、及びII型骨粗鬆症を含む。
特発性骨粗鬆症は、小児や正常の性腺機能のある男女の青年に起こり、I型骨粗鬆症(閉経後骨粗鬆症)は、51〜75歳の間に発生し、女性は男性の6倍ほどかかりやすいが、性腺摘除後または血清中のテストステロン濃度の低い男性にも発生する。II型骨粗鬆症(退行性または老人性骨粗鬆症)は、老化の正常な経過などに関連し、一般的に60歳以上の患者に発症する。高齢女性ではI型とII型がしばしば一緒に起こる。
本発明の医薬組成物の投与対象は、高齢者、好ましくは骨減少症患者および骨粗鬆症患者、より好ましくは骨粗鬆症患者、さらに好ましくは原発性骨粗鬆症患者である。
高齢とは、年齢が60以上であることを意味する。
本発明の医薬組成物が投与されるべき対象の骨密度は、好ましくはYAMの80%より低く、より好ましくはYAMの70%より低く、特に好ましくはYAMの60%より低い。
骨密度(BMD:Bone Mineral Density)とは、レントゲンや超音波測定により、骨に沈着しているカルシウムが若年成人(骨密度が最大に達する20〜44歳)の平均(Young Adult Mean, YAM)と比べどのくらいあるかを数値化(%)したものである。
現在の日本の骨粗鬆症の診断基準では、脆弱性骨折がない場合、骨密度がYAMの80%以上なら「正常」、70〜80%なら骨がもろくなってきている状態「骨減少症」、そして70%以下なら「骨粗鬆症」で骨が折れやすい状態とされている(骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会編、代表:折茂肇)。
また、世界保健機構(WHO:World Health Organization)の診断基準によれば、骨粗鬆症の重症度は、骨密度及び脆弱性骨折数によって定義される。この基準において、YAMに対して骨密度のTスコアが−1SD以内なら「正常」、骨密度のTスコアが−1〜−2.5SDなら「低骨量(骨量減少)」、骨密度のTスコアが−2.5SD以下なら「骨粗鬆症」、そして、骨密度のTスコアが−2.5SD以下で、かつ1箇所以上の脆弱性骨折を有するなら「重症骨粗鬆症」と定義される。ここで、SDは標準偏差値である。
骨密度の測定には複数の方法があり、具体的にはDXA(Dual Energy X-ray Absorptiometry)法:二重エネルギーX線吸収法、QCT(quantitative computed tomograghy)法:定量的コンピューター断層撮影法、pQCT(peripheral quantitative computed tomograghy)法:末梢型定量的コンピューター断層法、QUS(Quantitative ultrasound)法:定量的超音波法等が挙げられる。このうち、DXA法では、2つの異なるエネルギーのX線ビームを使い、パルス高の解析によって、骨と軟部組織を区別して、骨塩量(単位:g)が測定される。さらにX線を照射した方向からみた骨の投影面積(cm2)が計測されて、この骨塩量を投影された骨の面積で除することにより、DXA法の骨密度(g/cm2)が得られる。本発明における骨密度は、好ましくはDXA法、QCT法、pQCT法、QUS法、RA/MD法、より好ましくはDXA法、QUS法により測定される。測定部位は、腰椎、大腿骨、全身骨、橈骨、踵骨、脛骨、手骨、指骨等が挙げられ、好ましくは、躯幹骨DXA法で腰椎、大腿骨、全身骨を測定し、末梢骨DXA法で橈骨、踵骨を測定し、あるいはQUS法で踵骨を測定する。
Tスコアとは、骨密度のいわゆる「偏差値」のことであり、YAMの骨密度を基準としたとき、どの程度そこからずれているかを示す標準偏差値(SD)である。Tスコアは、次のようにして計算される:
Figure 0005969161
100%YAM骨密度値とその標準偏差(SD)は、測定に使用した機器によりそれぞれ定められている。本発明においては大腿骨近位部骨密度測定に際し、Hologic社の骨密度測定器であるQDRを使用した場合は、100%YAM値として0.863g/cm2を、標準偏差として0.110を(いずれも原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版)折茂肇; 林泰史 他 :日本骨代謝学会雑誌18(3):76-82,2001 に記載)それぞれ用い上式に当てはめてTスコアを計算する。一方、Lunar社の骨密度測定器であるDPXを使用した場合は、その測定器により得られる値を、やはり原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版)折茂肇; 林泰史 他 :日本骨代謝学会雑誌18(3):76-82,2001 に記載の下式に当てはめれば、QDR測定近似値へ変換できる。これを上式に当てはめればTスコアが得られる。
前述のように、日本では、骨密度がYAMの80%以上なら「正常」、YAMの70%以下なら「骨粗鬆症」で骨が折れやすい状態と定義されているが、日本の基準である「YAMの80%」および「YAMの70%」は、それぞれ、海外の基準である「骨密度のTスコアがYAM値に対して約−1SD」および「骨密度のTスコアがYAM値に対して約−2.5SD」に相当し、日本の基準が、骨密度がYAMの何%であるかを表記するのに対し、海外の基準は、YAMから何SD単位が低下しているかで表記する違いがあるが、基本的に大きな違いはない(http://www.ebm-library.jp/osteo/guideline/guide02.html)。
本発明の重症骨粗鬆症患者とは、海外での診断基準に照らし、大腿骨近位部骨密度のTスコアが−2.5SD以下でかつ脆弱性骨折を持つ患者、さらに限定的には、大腿骨近位部骨密度のTスコアが−2.5SD以下でかつ脆弱性骨折を2箇所以上持つ患者を示すが、骨密度に関しては日本での診断基準を利用し、大腿骨近位部骨密度がYAMの70%以下でありかつ脆弱性骨折を持つ患者、さらに限定的には大腿骨近位部骨密度がYAMの70%以下かつ脆弱性骨折を2箇所以上持つ患者に置き換えてもよい。
外傷性骨折とは、交通事故などの大きな外力により生じた骨折を示し、非外傷性骨折とは、転倒などの一般的な日常生活で起こる軽微な外力により生じた骨折を示す。脆弱性骨折とは、低骨量(骨密度がYAMの80%未満、あるいは脊椎X線像で骨粗鬆化がある場合)が原因で、軽微な外力によって発生した非外傷性骨折をいう。
骨強度とは、骨密度と骨質の2つの要因からなり、単位体積当たりの骨の量である骨密度は、骨強度のほぼ70%の要素を説明するとされており、残り30%の要素は、微細構造、骨代謝回転、微小骨折、石灰化の要因からなる骨質が説明するとされている。
本発明の化合物を有効成分として含有する医薬組成物は、当分野において通常用いられている薬剤用添加剤を用いて、通常用いられている各種製剤の調製方法によって調製することができる。上記添加剤としては、一般に医薬に使用される、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、矯味矯臭剤、乳化剤、界面活性剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤、吸収促進剤等を挙げることができ、これらを適宜組み合わせて使用することもできる。剤形は、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等の経口投与に適する剤形であっても、注射剤、外用剤、吸入剤等の、関節内、静脈内、筋肉内等の非経口投与に適する剤形のいずれであってもよい。
経口投与のための固体組成物としては、錠剤、散剤、顆粒剤等が用いられる。このような固体組成物においては、1種又は2種以上の有効成分が、少なくとも1種の不活性な賦形剤、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、白糖、ショ糖等の糖類、結晶セルロース、デンプン、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等の無機物等と混合される。本医薬組成物は、常法に従って、さらなる添加剤、例えばステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤やカルボキシメチルセルロースカルシウムやアルギン酸ナトリウム等のような崩壊剤、安定化剤、ポリエチレングリコール等の溶解補助剤、ポリビニルアルコール等の結合剤、ココア末等の矯味矯臭剤、ラウリル硫酸ナトリウムのような乳化剤または界面活性剤等を含有してもよい。錠剤又は丸剤は必要により糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質のフィルムで被膜してもよい。経口投与のための液体組成物は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤又はエリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば精製水又はエタノールを含む。液体医薬組成物は、不活性な希釈剤以外に可溶化剤、湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤を含有してもよい。
非経口投与のための注射剤は、無菌の水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤又は乳濁剤を含有する。水性の溶剤としては、例えば注射用蒸留水又は生理食塩液が含まれる。非水性の溶剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール又はオリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、又はポリソルベート80(局方名)等がある。このような医薬組成物は、さらなる上記添加物、例えば、等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、抗酸化剤、緩衝剤、吸収促進剤又は溶解補助剤を含んでもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。また、これらは無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解又は懸濁して使用することもできる。これらの補助剤等を含むこともある溶液を容器に収納後、凍結乾燥等によって固形製剤として用時調製の製剤としてもよい。また、一回投与量を一の容器に収納してもよく、また複数回投与量を一の容器に収納してもよい。
外用剤は、坐剤、経皮用液剤、経皮用貼付剤、経粘膜貼付剤、軟膏剤、硬膏剤、クリーム剤、ゼリー剤、パップ剤、噴霧剤、ローション剤、点眼剤、眼軟膏等を包含する。一般に用いられる軟膏基剤、ローション基剤、水性又は非水性の液剤、懸濁剤、乳剤等を含有する。例えば、軟膏又はローション基剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、白色ワセリン、パラフィン、サラシミツロウ、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸グリセリン、ステアリルアルコール、セチルアルコール、ラウロマクロゴール等が挙げられる。
吸入剤や経鼻剤等の経粘膜剤は、固体、液体又は半固体状のものが用いられ、従来公知の方法に従って製造することができる。例えば公知の賦形剤や、更に、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、安定剤や増粘剤等が適宜添加されていてもよい。投与は、適当な吸入又は吹送のためのデバイスを使用することができる。例えば、計量投与吸入デバイス等の公知のデバイスや噴霧器を使用して、化合物を単独で又は処方された混合物の粉末として、もしくは医薬的に許容し得る担体と組み合わせて溶液又は懸濁液として投与することができる。乾燥粉末吸入器等は、単回又は多数回の投与用のものであってもよく、乾燥粉末又は粉末含有カプセルを利用することができる。あるいは、適当な気体を用いて駆出する加圧エアゾールスプレー等の形態であってもよい。
本発明の化合物は、哺乳類、特にヒトの前腕部骨折予防に用いることができる。投与量および投与間隔は、患者の身長、体重、年齢、性別または医学的症状、治療すべき症状の重篤度、投与経路、患者の腎肝機能、病歴、並びに用いられる特定の化合物又はその塩を含む多様な要素に応じて、医師の判断により適宜選択される。
通常ヒトへの経口投与の場合、1日の投与量は0.01〜1.0μg、好ましくは0.5〜1.0μg、更に好ましくは0.75μgが適当であり、これを1回であるいは2乃至4回に分けて投与する。非経口投与の場合、1日の投与量は0.01〜1.0μg、好ましくは0.25〜1.0μgが適当であり、投与量は症状、年令、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定され、それには用量を一定期間中に変えることも含む。あるいは低用量をより長期に渡って投与し、同様な治療効果を得てもよい。
観測しうる効果を得るためには、患者は実質的に毎日相当な期間エルデカルシトールの投与を受けるのが好ましい。患者が、少なくとも24週、好ましくは48週、さらに好ましくはそれより長い144週以上の期間継続する治療期間中、ときにエルデカルシトールの投与を受けない期間もありうると考えられるが、その期間は計測した補正血清カルシウム値および補正尿中カルシウム値から、休薬中もエルデカルシトールの効果が十分に続いていると確認できるため、そのような休薬期間を含むケースも本発明の範囲に含まれる。
有効量とは、少なくとも骨折のリスク率を減少させるのに必要な量であるが、但し毒性量未満のエルデカルシトールの量を意味する。
相当な期間とは、患者の骨密度および骨強度を増大させて骨折しにくくさせるのに十分な長さの時間量を意味する。本発明における相当な期間とは、好ましくは24週以上、より好ましくは48週以上、さらに好ましくは144週以上である。
実質的に毎日とは、投与は毎日が原則であるが、全効果が、患者が毎日投与を受けた場合に認められるものと変わらない程度に、患者がうっかり投与を抜かしたりする日も含まれうることを意味する。
本発明の化合物は、前述の本発明の化合物が有効性を示すと考えられる疾患の種々の治療剤又は予防剤と併用あるいは循環使用することができる。併用とは、2以上の薬剤を同時に服用することと、同服用期間中、時間をずらして服用することの両方を含む。循環使用とは、患者が所定の期間、エルデカルシトールの投与を受け、次いで第二期にはエルデカルシトールの投与を休み(追加の骨形成促進剤若しくは骨吸収抑制剤及び/またはホルモン療法を受けても受けなくてもよい)、次いで、エルデカルシトール療法に戻ることである。一般に、骨粗鬆症の病因は多岐にわたるので、ある患者においてどのような病因で、どのような病態をとっているのかを解析することは困難なことが多い。また、病期も多様であり、骨粗鬆症は未だ多様な状態の患者の集団として一括して取り上げられて治療が行われている。そのため、臨床の場では作用機序の異なる2剤若しくは3剤以上を組み合わせた多剤併用療法あるいは循環使用療法が行なわれることもある。この併用療法あるいは循環使用療法は、作用機序の異なる薬剤の組み合わせによる、副作用の軽減や骨折抑制作用の増強を目的とする。当該併用あるいは循環使用は、所望の時間間隔をおいてもよい。同時投与製剤は、配合剤であっても別個に製剤化されていてもよい。
併用あるいは循環使用しうる薬剤としては、エストロゲン若しくはエストロゲン誘導体、ビスホスホネート、抗エストロゲンまたは選択的エストロゲン受容体モジュレーター、αvβ3インテグリン阻害剤、カテプシンK阻害剤、HMG−CoA還元酵素阻害剤、破骨細胞液胞型ATPアーゼ阻害剤、破骨細胞受容体とのVEGF結合のアンダゴニスト、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ、カルシトニン、カルシウム受容体アンタゴニスト、副甲状腺ホルモン若しくは副甲状腺ホルモン誘導体、成長ホルモン分泌促進物質、ヒト成長ホルモン、インスリン様成長因子、p−38プロテインキナーゼ阻害剤、骨形態形成タンパク質、BMPアンタゴニズムの阻害剤、プロスタグランジン誘導体、ビタミンKまたはビタミンK誘導体、イプリフラボン、フッ化物塩、カルシウム栄養補助食品、およびアンドロゲン受容体モジュレーター、から、1またはそれ以上選択される薬剤を挙げることができ、具体的には、L−アルパラギン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、エストリオール、17βエストラジオール、メナテトレノン、アレンドロネート、エチドロネート、リセドロネート、イバンドロネート、塩酸ラロキシフェン、エルカトニン、サケカルシトニン、イプリフラボン、デカン酸ナンドロロン、テリパラチド等の薬剤を挙げることができる。このうち、特に好ましい薬剤はビスホスホネート、抗エストロゲンまたは選択的エストロゲン受容体モジュレーター、カルシトニンであり、具体的にはアレンドロネート、エチドロネート、リセドロネート、イバンドロネート、塩酸ラロキシフェン、エルカトニン、サケカルシトニンである。
臨床試験データの解析により、有効量のエルデカルシトールを相当な期間、実質的に毎日投与すると、前腕部骨折のリスクを減少させうることが示された。
以下に示す実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、これらはいかなる意味においても限定的に解釈されない。
実施例1
原発性骨粗鬆症患者を対象として、エルデカルシトールの有効性を、アルファカルシドールを対照とした無作為割付二重盲検群間比較試験により検討した。
患者数:
エルデカルシトール(ED−71)投与:526人
アルファカルシドール(ALF)投与:523人
診断及び包含基準:46〜92歳の原発性骨粗鬆症患者
用量及び投与:
エルデカルシトール(ED−71):0.75μg/日、経口投与
アルファカルシドール(ALF):1.0μg/日、経口投与
試験に使用した製剤は、それぞれWO2005/074943、及び特許4070459号に基づいて調製された。
投与期間:エルデカルシトール(ED−71)、アルファカルシドール(ALF)ともに144週継続投与(後観察4週間)
検討方法:X線撮影により既存椎体骨折個数を測定し、DXA法により大腿部骨密度を測定した。患者大腿部骨密度は以下のように計算および表示した。すなわち、大腿部骨密度測定にHologic社の骨密度測定器であるQDRを用いた場合は、100%YAM値として原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版)折茂肇; 林泰史 他 :日本骨代謝学会雑誌18(3):76-82,2001 に記載されている0.863g/cm2を使用した。また、Lunar社の骨密度測定器であるDPXを用いた場合は、その測定器により得られる値を、やはり原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版)折茂肇; 林泰史 他 :日本骨代謝学会雑誌18(3):76-82,2001 に記載の下記換算式により、QDRを用いた場合の測定近似値へ変換したのち、100%YAM値として0.863g/cm2を使用した。これらの患者測定値を0.863g/cm2を100%として%表示した。以下の表1にYAMに相対させて示した大腿骨骨密度は、QDRまたはDPXのいずれかを使用して得られたものである。
Figure 0005969161
そして、血液検査によりにより25(OH)D値及びCa摂取量を測定した。投与開始時から投与終了時に認められた前腕部、椎体部について、骨折時期、骨折原因等のインタビュー聴取、X線撮影、発生頻度計測を行い、統計解析を行った。尚、発生頻度はカプラン−マイヤー推定による。
表1は、エルデカルシトール/アルファカルシドールを投与するにあたり、各投与グループの患者背景を示したものである。
Figure 0005969161
交通事故などの大きな外力により起こった外傷性の骨折を除く、転倒などによる非外傷性の前腕部骨折の3年間の発生頻度は、既存の活性型ビタミンD3製剤であるアルファカルシドール投与群では523例中17例(3.63%)に発生したが、エルデカルシトール投与群では526例中5例(1.07%)であった。
表2は、エルデカルシトール/アルファカルシドールを投与することによる非外傷性前腕部骨折頻度を層化ログランク検定および層化コックス回帰により比較したものである。
Figure 0005969161
層化ログランク検定とは、結果に影響を与えそうな因子(予後因子)の偏りを防ぐため、比較する2群でそのような因子が均等になるように割り付けることであり、用いた予後因子で層の中で群間差を計算しこれを重みつき平均することで層別調整し、その上でログランク検定を行うことをいう。ログランク検定とは、基本的にはすべての日にわたる相対危険度を平均して、この平均相対危険度(RR)の統計学的に有意かどうかカイ二乗検定を行うものである。
層化コックス回帰とは、イベントが起こるまでの期間に何らかの別の要因が与える効果を調べたいときに用いる方法であり、それらが基準となる個体のハザードに対して、比例定数の形でかかるとする比例ハザード性を仮定する方法である。ハザードとは、ある時点まで前腕部を骨折していなかった者が、その時点において前腕部骨折する確率(瞬間前腕部骨折確率)を表す。ハザード比とは、2群のハザードの比をいう。すなわち、一方を基準にした場合に他方が何倍の前腕部骨折確率であるかを表している。
層化ログランク検定の結果、アルファカルシドール投与群に対するエルデカルシトール投与群の明らかな優越性が認められた(ハザード比:0.29、90%信頼区間(confidence interval(CI):0.13−0.67、片側p=0.0048)。すなわち、アルファカルシドール投与群の骨折確率を1とすると、エルデカルシトール投与群のそれは0.29であり、前腕部骨折危険率は71%減少したことが判明した。
図1は、エルデカルシトール/アルファカルシドールを投与することによる経時的な非外傷性前腕部骨折割合をカプラン−マイヤー(Kaplan-Meier)法により表したものである。この方法は、観察開始よりエンドポイント(前腕部骨折)まで、前腕部骨折発生時点ごとにリスク集合に対する前腕部骨折者数を計算し積算して前腕部骨折の累積発生率を計算することで、薬剤の効果を解析するものである。ここに、リスク集合とは、前腕部骨折が発生する直前の、その事象が起きていない時の個体数(患者数)を指す。
図1の経時的な解析によれば、エルデカルシトールの前腕部骨折抑制効果は投与初期より認められ、144週間に渡り持続したことが判明した。
表3は、図1に示した未骨折患者数と前腕部骨折発生数の数値を示したものである。
Figure 0005969161
表4は、エルデカルシトール/アルファカルシドール投与前大腿部骨密度背景別に患者群をグループ化後の薬剤投与後前腕部骨折発生率を比較したものである。
Figure 0005969161
表4の薬剤投与前大腿骨骨密度背景別の前腕部骨折発生件数比較によれば、エルデカルシトールの前腕部骨折抑制効果は、大腿骨骨密度が70%より低いグループにおいてアルファカルシドールよりもさらに著しく高いという結果が得られた。すなわち、アルファカルシドール投与群では157例中、7例に前腕骨骨折が見られたのに対し、エルデカルシトール投与群182例では前腕部骨折の発生は全く見られなかった。
比較例
層化ログランク検定および層化コックス回帰を非外傷性椎体骨折について行った結果、アルファカルシドール投与群に対するエルデカルシトール投与群の椎体骨折発生の危険性は、前腕部骨折発生の危険性ほど低いものではなかった(層化ログランク検定:p=0.046、ハザード比:0.74、90%信頼区間(CI:0.56−0.97)。すなわち、アルファカルシドール投与群の骨折確率を1とすると、エルデカルシトール投与群のそれは0.74であり、椎体骨折の危険率は26%減少に留まることが判明した。

Claims (4)

  1. エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部骨折を抑制するための医薬組成物。
  2. 投与される対象が原発性骨粗鬆症患者である、請求項1に記載の組成物。
  3. 投与される対象が、若年者平均骨密度(YAM)の80%より低いか、またはTスコアがYAM値に対して−1SD以下である大腿部骨密度を有する、請求項1または2に記載の組成物。
  4. エルデカルシトールが0.75μg/日の用量で経口投与される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
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