以下、本発明の実施の形態による撮像装置の一例について図面を参照して説明する。なお、ここでは、撮像装置としてデジタルカメラ(以下単にカメラと呼ぶ)を例に挙げて説明する。
図示はしないが、本発明の実施の形態によるカメラは複数のレンズ(レンズ群)を備える撮影レンズユニットを有している。そして、撮影レンズユニットを通過した光学像は、CMOSイメージセンサなどの固体撮像素子に結像する。固体撮像素子は、光電変換によって光学像に応じたアナログ信号を出力する。このアナログ信号はA/D変換によってデジタル信号に変換されて、画像処理部に与えられる。画像処理部はデジタル信号に対して所定の画像処理を行って画像データを得る。この画像データは、例えば、記録媒体に記録されるとともに、表示部に画像として表示される。
ところで、本発明の実施の形態によるカメラは、撮影レンズユニットのレンズ群を偏芯させる光学防振機構(以下、偏芯防振機構と呼ぶ)を備えている。偏芯防振機構による防振効果を向上させるための手法の一つとして、防振の際に追従可能なレンズの光軸移動量を拡大する手法がある。一方、レンズ群の偏芯による光学防振の場合には次のような問題がある。
レンズの光軸移動範囲を拡大するためには、レンズ群(以下防振レンズ群とも呼ぶ)の偏芯量を増大させる必要がある。防振レンズ群の偏芯量が少ない範囲であれば偏芯収差の影響は少ないものの、偏芯量の増大によって不可避的に偏芯収差が増加してしまう。
そして、偏芯収差が増加すると、光学的な歪曲収差の非対称性が大きくなる。つまり、偏芯量が少なく共軸に近い場合には略光軸対称(同心円状)であった歪曲収差が、防振レンズ群の偏芯方向と偏芯量に依存してその非対称性を強める。
画像処理部による画像処理によって歪曲収差の補正(以下電子歪曲補正と呼ぶ)を行うとすると、光学設計上で残る歪曲収差量はある程度大きくなる。このため、防振レンズ群の偏芯によって非対称化する歪曲収差の変化も大きくなってしまう。
例えば、防振レンズ群が偏芯移動する径方向であるアジムス方向(光軸を中心とした方位:azimuth)のみに、広角側(つまり、広角光学系)において所謂樽型であった歪曲収差が所謂糸巻き型に変化する。また、逆方向のアジムス方向においては元々残存していた樽型の歪曲収差が一層強められてしまう。
このため、電子歪曲補正によって光軸に対して対称な補正を行うと、画像の歪曲と補正条件(補正パラメータ)とが一致しなくなって、画像内で局所的に不適当な歪曲状態が生じてしまう。
具体的には、樽型の歪曲収差を前提として歪曲補正を行う際、歪曲収差量に応じて画像を高い像高方向に引き伸ばす処理が行われる。ところが、糸巻き型の歪曲収差が生じている場合、結像している画像が既に高い像高側に引き伸ばされているので、さらに高い像高側に引き伸ばす画像処理が行われて、画像が一層引き伸ばされてしまう。
動画の場合には、上記の現象の影響が顕著になる。例えば、歩きながら動画撮影を行っている際には、防振レンズ群の偏芯状態が撮影時間内で大きく変化する。そして、歪曲の局所的な変動によって、電子歪曲補正が実際の歪曲収差量と整合しない状態が画像端部の各所でカメラブレに応じて周期的に発生して、これがユーザに対する違和感の原因となってしまう。
さらに、偏芯収差が増加すると、像面湾曲の非対称性が大きくなる。つまり、偏芯量が少なく共軸に近い場合には略光軸対称であった像面湾曲が、防振レンズ群の偏芯方向と偏芯量に依存し非対称性を強める。
例えば、防振レンズ群が偏芯移動するアジムス方向(光軸に垂直な平面内にて光軸中心から外周へ向かう方位角で定義される方向、つまり、方位角方向)のみにおいて、正の像面湾曲量はレンズ群偏芯量に応じてその量を増大又は減少させる。一方、防振レンズ群が偏芯移動するアジムス方向と直交するアジムス方向の像面湾曲量は変わらないという非対称性が強く発生する。
撮影レンズユニットに残存する色収差としての像面湾曲は撮影レンズを構成する硝材の分散に依存するので、非対称なレンズ群の偏芯によって色毎に異なった変化をもたらす。
このため、色光毎の像面湾曲は、防振レンズ群の偏芯量に依存して色毎に異なる非対称変化を呈し、画像周辺部の色にじみは局所的に異なった色について異なったにじみ量が生じる。この結果、従来のように、像高を補正パラメータとして色にじみを補正しようとすると正しく補正が難しい。
このような色にじみは静止画の画質を損なうばかりでなく、動画撮影中においても動的に変動するため視覚的に違和感が生じてしまう。
[第1の実施形態]
ここで、本発明の第1の実施形態によるカメラの基本構成について説明する。
本発明の実施の形態によるカメラは、所謂35m換算焦点距離にて28mm程度よりも広角の焦点距離を有する単焦点又はズーム撮影レンズ(撮影レンズユニット)を用いたカメラである。そして、広角領域において、当該撮影レンズユニットは所定量だけ樽型の歪曲収差を残存させるように光学設計されている。さらに、広角領域における撮影において、画像処理部は、撮影の結果得られた画像信号に対して幾何学的な座標変換を行って樽型歪曲収差を補正(所謂電子歪曲補正)する機能を備えている。また、前述のように、カメラはレンズ群の偏芯による光学防振機構を備えている。
一般に、歪曲収差は像高の関数として、次の式(1)で表される。
ここで、y’は理想像高(歪曲のない状態)であり、yは実際の像高である。
上記のdistは、一般的に像高に関する非線形関数である。
図1は歪曲収差の関数distを示す収差図である。そして、図1(A)は歪曲収差を最大像高において10数%〜30数%程度まで残存させた撮影レンズユニットを用いた場合の収差図であり、図1(B)は歪曲収差の少ない撮影レンズユニットを用いた場合の収差図である。また、図1(C)は歪曲収差のない撮影レンズユニットを用いた場合の収差図である。
電子歪曲補正を行う場合には、撮影レンズユニットを設計する際、歪曲収差を最大像高において、例えば、10数%〜30数%程度まで残存させる(図1(A)参照)。そして、画像処理部は撮影レンズユニットを用いた撮影の結果得られた画像信号を幾何学的座標変換によって歪曲収差を補正する。例えば、画像処理部は歪曲収差の少ない撮影レンズユニット(図1(B)参照)又は歪曲収差のない撮影レンズユニット(図1(C)参照)で撮影を行った場合に得られる画像信号と等価な状態に画像信号を変換することになる。
一般に、広角レンズにおいては、歪曲収差は樽型となり、ほぼ全ての像高において関数dist<0である。つまり、実際の像高yは理想像高y’と比較して小さく結像される。
従って、電子歪曲補正は、固体撮像素子から得られた画像信号を、像高毎に関数distに応じた量だけ拡大することによって行われる。
図2は画像上の座標変換を説明するための図である。そして、図2(A)は図1(A)に対応する画面を示す図であり、図2(B)は図1(B)に対応する画面を示す図である。また、図2(C)は図1(C)に対応する画面を示す図である。
図2において、実線の枠1は画面サイズに対応する理想像高を示し、破線の枠2は歪曲収差がある際の理想像高に対応する実際の像高を示している。偏芯防振機構による撮影レンズユニットにおける防振レンズ群の偏芯が小さい場合には、歪曲収差は略軸対称と看做して、関数distを光軸回りに回転させた同心円状とみなしても実質的な問題はない。つまり、即ち、全てのアジムス角(光軸を中心とした方位角)方向に対して同一の歪曲収差となる。なお、画面(画像)上においても光軸中心(画面中心)を原点として同様となる。
ところが、偏芯防振機構において所定の防振レンズ群を大きく偏芯させると、歪曲収差に非対称性が生じる。レンズ群の偏芯したアジムス方向に歪曲収差が非対称になって、例えば、レンズ軍の偏芯したアジムス方向における歪曲はプラス方向へ変化して、歪曲収差自体が減少しゼロに近づく。
また、180度逆方向のアジムス方向の歪曲は、マイナス方向にさらに樽型が強まる。防振レンズ群の偏芯量がさらに増えると、前述の方向の歪曲はゼロを過ぎて糸巻型に転ずる。防振レンズ群の偏芯方向と直交するアジムス方向はこれらの中間の状態となって、防振レンズ群の偏芯方向を軸とした線対称な歪曲収差を有する。
図3は歪曲収差の変化を説明するための図である。そして、図3(A)は防振レンズ群に偏芯がない状態の歪曲収差を示す図であり、図3(B)は防振レンズ群の偏芯量が小さい場合の歪曲収差を示す図である。また、図3(C)は防振レンズ群の偏芯量が大きい場合の歪曲収差を示す図である。
図3(B)および図3(C)は、防振レンズ群が画面対角方向に偏芯した場合の歪曲収差を示している。図3(A)、図3(B)、および図3(C)の順に防振レンズ群の偏芯量が増加している。また、矢印4および5は防振レンズ群の偏芯のアジムス方向を示す。そして、矢印4および5の長さは防振レンズ郡の偏芯の大きさを示している。
図3(A)においてはいずれのアジムス方向においても歪曲収差は同一であるが、図3(B)および図3(C)においてはアジムス方向毎に歪曲収差量が異なっている。なお、枠1は画面サイズに対応する理想像高を示し、枠2は歪曲収差がある際の理想像高に対応する実際の像高を示す。
図4は図3(C)に示す歪曲収差を詳細に示す図である。
図4において、防振レンズ群の偏芯方向5は画面対角方向6と一致している。直交方向7は防振レンズ群の偏芯方向5と直交する方向である。範囲8〜11はそれぞれ画面対角方向6および直交方向7の半画角分の範囲(画角範囲)を示す。
図5は、図4におけるアジムス方向毎の歪曲収差を説明するための収差図である。そして、図5(A)は第1の画角範囲8における収差図であり、図5(B)は第2のおよび第3の画角範囲10および11における収差図である。また、図5(C)は第4の画角範囲9における収差図である。
図5に示すように、防振レンズ群に偏芯が生じると、その偏芯量に応じて歪曲収差が変化して、偏芯方向6を軸として歪曲収差が線対称になる。
ここで、本発明の第1の実施形態によるカメラにおける歪曲収差の補正について説明する。
図6は、本発明の第1の実施形態によるカメラにおける歪曲収差の補正を説明するための図である。
図6において、画像が表示される画面は4つの領域12〜15に分割されている。いま、偏芯防振機構によって防振レンズ群が所定の偏芯状態にあるとする。この際、図4および図5で説明したように歪曲収差が生じているものとする。図6において領域12の中心となるアジムス方向では、図4に示す画角範囲8で示す歪曲収差の状態であり、収差図では図5(A)に該当する。
同様に、領域15においては図4に示す画角範囲9で示す歪曲収差の状態であり、収差図では図5(C)に該当する。領域13および14においては、それぞれ図4に示す画角範囲10および11で示す歪曲収差の状態であり、収差図ではともに図5(B)に該当する。
このように、防振レンズ群が偏芯するアジムス方向を基準として、画面を4つの領域12〜15に分割して、各領域の中心となる歪曲収差の状態を3通りに代表させることができる。この歪曲収差の変化の状態は、防振レンズ群が偏芯するアジムス方向と偏芯量に依存するが、防振レンズ群がいずれの方向に偏芯しても同様である。
ここで、図4〜図6を参照して、歪曲収差の補正について説明する。
前述のように、防振レンズ群の偏芯量に応じて画面上の歪曲収差の状態を代表する3通りの歪曲収差の状態が決定される(例えば、図5(A)〜図5(C)の状態)。そして、防振レンズ群についてその設計値に応じて偏芯量(以下レンズ偏芯量と呼ぶ)に対応した上記の3通りの歪曲収差量を求めて、カメラが備えるメモリ(図示せず)に記憶する。
歪曲収差量は、防振レンズ群の偏芯量に対応して変化するので、防振レンズ群の偏芯量を複数の段階に分けて、各段階で歪曲収差量を計算する。
まず、レンズ偏芯量が所定の量以下の場合には、歪曲収差が軸対称と見倣して補正パラメータを同心円状の補正パラメータとする。次に、歪曲収差の非対称性が無視できなくなり始めた際、レンズ偏芯量を最大偏芯状態まで3段階とし、偏芯状態3通り×アジムス方向3通り(偏芯方向と同逆方向及び直交方向)=9通りの歪曲収差を基準の補正パラメータとしてメモリに保持する。
レンズ偏芯量とアジムス方向が決定した際、3通りの歪曲収差が決定される。図4〜図6に示す状態であるとした場合、図6に示すアジムス範囲16は、図4に示す画角範囲8と画角範囲7および11(つまり、図5(A)と図5(B))との間の歪曲収差の状態である。
そこで、アジムス範囲16内においては、図5(A)および図5(B)に示す2つの歪曲収差を像高毎にアジムス方向に補間する。同様にして、図1に示すアジムス範囲17においては、図4に示す画角範囲9と画角範囲7および11(つまり、図5(C)と図5(B))によって同様に補間を行う。
このようにして得られたアジムス範囲16および17における歪曲収差の条件は、図4に示す画面対角線6を軸として線対称に折り返して使用できるので、画面全体の歪曲収差の状態が決定できる。この条件から、歪曲補正後の残存歪曲をどのようにするかに応じて歪曲補正パラメータが確定する。
図7は、補正後の残存歪曲をゼロとする場合のアジムス方向の補間を説明するための図である。
図7において、”A”〜”C”はそれぞれ図5(A)〜図5(C)に示す収差に対応し、レンズ偏芯方向と同逆方向および直交方向の3通りの歪曲収差を示している。アジムス方向が角度θである軸は、図6に示すアジムス方向18である。また、像高hは、図6に示す像高19である。図5(A)〜図5(C)(つまり、図6に示すアジムス方向以外の歪曲)は3通りの歪曲収差に基づいて補間計算によって求める。
レンズ偏芯量が比較的少ない場合など歪曲収差の変化が少ない場合には、直線補間を用いるようにしてもよいが、歪曲収差の変化が大きい場合には、直線補間では図5(A)〜図5(C)に該当する境界付近における連続性がよくない。直線補間では画像に境界線が現れる場合がある。
図8は、図7に示す像高hにおける歪曲収差とアジムス方向の断面を示す図である。
図8において、破線20は歪曲収差を直線補間した状態を示す。特に、”C”の辺りなどで歪曲収差の変化が急峻になって、画像にスジのような境界線が現れてしまうことがある。このため、実線21で示すように滑らかに補間を行う。
このように、本発明の第1の実施形態では、画像処理部における画像処理の負荷の増大を抑えつつ、防振レンズ群の偏芯状態に応じて歪曲補正条件(補正パラメータ)を設定するようにしたので、防振レンズ群の偏芯による歪曲収差の非対称性を効果的に補正することができ、特に、動画撮影の際の視覚的な違和感を低減することができる。
[第2の実施形態]
続いて、本発明の第2の実施形態によるカメラにおける歪曲収差補正の一例について説明する。なお、第2の実施形態によるカメラの構成は第1の実施形態と同様である。
図9は、本発明の第2の実施形態によるカメラにおいて歪曲収差の変化を説明するための図である。そして、図9(A)は防振レンズ群に偏芯がない状態の歪曲収差を示す図であり、図9(B)は防振レンズ群の偏芯量が小さい場合の歪曲収差を示す図である。また、図9(C)は防振レンズ群の偏芯量が大きい場合の歪曲収差を示す図である。
図9では、図3に示す例と異なり、防振レンズ群が最も大きく偏芯した際にレンズ移動方向であるアジムス方向の歪曲が0を通り越してプラス、つまり、糸巻型の歪曲収差になってしまう。
いま、図9(C)に示す状態において、図4に示す画角範囲8〜11について、アジムス方向毎の歪曲収差を求めると、図10に示す収差図が得られる。
図10は、図9(C)についてアジムス方向毎の歪曲収差を説明するための収差図である。そして、図10(A)は第1の画角範囲8における収差図であり、図10(B)は第2のおよび第3の画角範囲10および11における収差図である。また、図10(C)は第4の画角範囲9における収差図である。
図10に示すように、図10(C)のアジムス方向においては、固体撮像素子に光学像が結像する際、像の端部が固体際像素子外にはみ出してしまっていることがわかる。
この場合、当然樽型の歪曲補正のように拡大する補正は意味をなさない。仮に、糸巻型の歪曲を完全に補正しようとする場合には、像の有効範囲外を撮像する一回り大きな固定撮像素子を使用するなどの方策が考えられるが現実的ではない。
糸巻型の歪曲によって固体撮像素子の外にはみ出した像は欠落することになるが、歪曲収差量に合わせてそのまま歪曲補正を行おうとすると、画像を縮小する方向に座標変換を行うことになる。その結果、画像端部に暗くケラレた箇所が発生してしまう。
第2の実施形態では、特定のアジムス方向について、偏芯により歪曲収差がゼロに達した時点でそれ以上は歪曲補正なしの状態をメモリに保持する。例えば、歪曲がゼロに達したアジムス方向において、その部分ではそのまま画像を使用すればそのアジムス方向に関しては歪曲のない画像が得られる。歪曲がゼロを越えた時点で、当該アジムス方向の画像をそのまま固体撮像素子の有効画面範囲で切り取られたまま使用すれば、糸巻型の歪曲による影響は若干残るものの、画像を縮小する歪曲補正をして画面端部が暗くなることを防止することができる。
[第3の実施形態]
続いて、本発明の第3の実施形態によるカメラにおける歪曲収差補正について説明する。なお、第3の実施形態によるカメラの構成は第1の実施形態と同様である。
第1の実施形態では歪曲収差を保持するアジムス方向を直交2方向としていたのに対し、第3の実施形態においては45°間隔で3方向のアジムス方向において歪曲収差を保持する。
図11は、本発明の第3の実施形態によるカメラにおける歪曲収差の補正を説明するための図である。なお、図11において、図6に示す要素と同一の要素については同一の参照番号を付す。
図12は、本発明の第3の実施形態におけるアジムス方向毎の歪曲収差を説明するための収差図である。そして、図12(A)は第1の画角範囲8における収差図であり、図12(B)は第2のおよび第3の画角範囲10および11と第7および第8の画角範囲24および25における収差図である。また、図12(C)は第5および第6の画角範囲22および23における収差図であり、図12(D)は第4の画角範囲9における収差図である。
図11においては、図6と同様に、画像が表示される画面は4つの領域に分割されている。いま、偏芯防振機構によって防振レンズ群が所定の偏芯状態にあるとする。図11に示す画角範囲8においては、その収差図は図12(A)に該当する。同様に、図11に示す画角範囲9においては、その収差図は図12(D)に該当する。また、図11に示す画角範囲10および11と画角範囲24および25においては、その収差図はともに図12(B)に該当する。そして、図11に示す画角範囲22および23においては、その収差図はともに図12(C)に該当する。
第3の実施形態のように、45°間隔で3方向のアジムス方向において歪曲収差を保持するようにすれば、補正のための演算量は増加するものの、歪曲収差の補正精度が向上する。
[第4の実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態によるカメラについて説明する。
第4の実施形態によるカメラは、所謂単焦点又はズーム撮影レンズを有するデジタルカメラである。そして、カメラはカメラブレが生じた際、防振レンズ群を光軸に垂直な方向に平行偏芯(シフト)して、固体撮像素子上の像の移動を抑制してブレを防止する機構(偏芯防振機構)を備えている。
一般に、撮影レンズユニット(以下撮影レンズ系ともいう)には像面湾曲が残存する。そして、当該像面湾曲は固体撮像素子のRGB色チャネル毎の分光分布に依存する色光成分毎にそれぞれ異なった湾曲を有している。
図13は、防振レンズ群の偏芯がない場合の像面湾曲を模式的に示す図である。
図13において、カメラで被写体1306を撮影する際には、被写体1306からの光線が撮影レンズ系(撮影光学系)1303を通過して、固体撮像素子1301に結像する。この際、色チャネル毎に異なる像面湾曲がある場合には、R又はBの光線1307とGの光線1309とは異なる位置に結像し、それぞれ像面1308および1310を規定する。
固定撮像素子1301上の結像のエッジ部分には像面湾曲に起因する色にじみ1302が生ずる。つまり、像面上のある像高において、色光成分毎に異なったデフォーカスが生ずるので、色チャネル成分によってはエッジ部分がボケた状態になるなど各色の像が正確に重ならないために色にじみが生じる。
なお、図13においては、説明が煩雑となることを避けるため、便宜上RおよびBを同一の例としてR又はBとして示しているが、実質的にはR成分およびB成分はそれぞれ異なる像面湾曲を呈している。
撮影レンズ系1303において防振レンズ群1304が偏芯していないとすると、RGB色チャネル毎の像面湾曲形状と当該像面湾曲形状に基づく像周辺部分における色にじみ量とは光軸1305に略対称である。但し、僅かに非対称成分を含むとしても製造誤差分程度の少ない量である。
撮影レンズ系1303において防振レンズ群1304が偏芯すると、像面湾曲は偏芯のない状態から非対称に変形する。そして、変形量は防振レンズ群1304の偏芯量が大きくなる程大きくなる。これによって、像面湾曲に依存して変化する色にじみも同様に非対称に変化する。
図14は、防振レンズ群の偏芯がある場合の色チャネル毎の像面湾曲を模式的に示す図である。
図14において、像面湾曲が非対称に変化すると、防振レンズ群1304が偏芯するアジムス方向(図中実線矢印1405で示す)の断面において非対称性(軸非対称性)が現れる。一方、当該偏芯方向を軸として線対称となる。なお、図14においては、防振レンズ群1304が偏芯するアジムス方向の断面が示されている。
従って、この断面では像面(防振レンズ群偏芯後のR又はBの像面)1401は、図中実線矢印1404で示すように変化し、光軸1305に対して非対称に変形する。この結果、結像のエッジ部分には像面湾曲に起因する色にじみ1402および1403が生ずる。因みに像面1401の形状は紙面に対しては対称な形状となる。
本発明の第4の実施形態によるカメラでは、撮影レンズ系1303において防振レンズ群1304が大きく偏芯した際、発生する像面湾曲の非対称変化量又はそれに起因する色にじみの変化量を、画像上の各位置座標に対応して補正情報として予めメモリに保持している。又は、上記の変化量を防振レンズ群偏芯量の関数として、画像上の各位置座標について算出可能な演算式および必要な係数をメモリに予め保持する。
つまり、防振レンズ群1304の偏芯量と色チャネル毎の各像高の像面湾曲量の変化量(例えば、非線形な変位量)とをテーブルなどで保持する。又は偏芯量および変化量を防振レンズ群偏芯量の関数として算出可能な演算式と必要な係数として保持する。
防振レンズ群1304が偏芯するアジムス方向に応じて上記の非対称な変化の方向(軸)も光軸1305回りに回転するので、この回転を考慮したテーブルおよび演算装置を備える。つまり、1つの方向に偏芯した状態のテーブル又は計算を行って、実際の防振レンズ群1304の偏芯のアジムス方向に合わせてその結果を光軸1305回りに回転させることによってメモリのサイズおよび計算負荷を低減する。
また、前述のように、像面湾曲は防振レンズ群1304の偏芯のアジムス方向に対して線対称であるので、テーブルのサイズ又は計算は当該方向に対して半分の領域のみで必要となる。このため、計算結果などを線対称な座標位置にコピーするだけでよい。
さらに、色チャネル毎の像面湾曲量の像高毎の変化を、被写体距離、ズーム位置(焦点距離)毎にテーブルとして保持する。又は、色チャネル毎の像面湾曲量の像高毎の変化を、被写体距離、ズーム位置(焦点距離)の関数として算出可能な演算式と必要な係数として保持する。
なお、データ数や計算負荷を低減するために画像上の各位置は、画像上を所定の領域に分割して当該領域毎に同一の値を使用するようにしてもよい。この場合には、領域の境界付近では急激な変化を避けるため、連続的に接続するような補間処理を行う。
図15は、画像を複数の領域に分割する際の一例を示す図である。
図15に示す例では、アジムス方向と像高方向とに応じて画像を複数の分割領域1501の分割している。
図16は、本発明の第4の実施形態によるカメラにおける像面湾曲の補正を説明するための図である。
ここでは、静止画撮影の際に、カメラは露光時間中において防振のため防振レンズ群を偏芯動作(平行シフトすること)する。そして、この移動軌跡が撮影レンズ系の動径方向成分のみ又は動径方向成分に支配的である場合について説明する。また、移動軌跡が露光時間中心時刻付近において、撮影レンズ系の光軸中心近傍の所定の範囲を通過しない場合について説明する。この状態は、図16に防振レンズ偏芯軌跡1601として示されている。
具体的には、防振レンズ群の可動偏芯範囲1602の中心10%の範囲1604を露光時間の中心時刻から±10%の時間内に通過する場合は、ここでは補正の対象としない。この状態は、図16において、防振レンズ偏芯軌跡1603として示されている。
なお、図16において、画像(画面ともいう)1605の中心(画面中心)1606は光軸に対応し、この画面中心1606は防振レンズ偏芯ゼロの位置である。また、レンズ偏芯位置1607は露光時間の中心時刻における防振レンズ群1304の偏芯位置を示し、レンズ偏芯位置1608は露光開始時刻における防振レンズ群1304の偏芯位置を示す。また、レンズ偏芯位置1609は露光終了時刻における防止レンズ群1304の偏芯位置を示す。そして、方位角1610は画面1605の水平線に対するアジムス方向の角度を示す。
第4の実施形態では、防振レンズ群1304の偏芯軌跡(つまり、動径方向偏芯)1601に対応して、次の補正行う。
まず、露光時間中において、防振レンズ群偏芯量動径方向成分が最小から最大となる時間中に、防振レンズ群1304が偏芯する特定のアジムス方向において像面湾曲の時間的変化(図14に実線矢印1404で示す像面の非対称変化)が発生する。防振レンズ群1304の非偏芯の際には略光軸対称であった像面湾曲1308(図13)は非対称な変形(図14に実線矢印1404で示す変形)を連続的に発生する。
従って、露光時間中において、画像内では特定の色チャネル成分におけるデフォーカスが局所的に変化する。その結果、画像内に局所的な色にじみの変動が発生することになる(図14に示す色にじみ1402および1403)。
第4の実施形態において、カメラが備える画像処理部は、防振レンズ群1304が偏芯するアジムス方向と露光開始時刻および露光終了時刻の偏芯量とに応じて像面湾曲の変化する状態から色にじみの補正量に重み付けをした補正処理を行う。この補正処理では、画像上の位置毎又は所定の領域毎に、像面上の位置毎又は所定の領域毎にデフォーカスの符号と変動量とに応じて重み付けをした(RBチャネル毎の補正の強さ)色にじみ補正が行われる。
従来、色にじみ補正を行う際には、主にGチャネルの画像から生成される輝度信号成分に対してRBチャネルの色成分毎のデフォーカス(デフォーカス量)などによるボケが原因のずれを補正している。Gチャネルにおけるエッジ像に対して、RB各色成分のボケによって色がはみ出している部分についてその彩度を下げるなどの処理を行う。
この際、はみ出している画像上の画素数(サイズ、幅など)、はみ出している色の彩度をどの程度下げるかなどの補正の強さが設定されている。従来の補正処理では、一定の条件を定めて、常にいずれの撮影条件で撮影された画像に対しても当該一定の条件に従って補正を行うようにしている。
第4の実施形態では、色にじみ補正の強さを、次に説明する手法によって画像内で局所的に設定する。まず、画像処理部は露光開始時刻における防振レンズ群偏芯によって発生する像面湾曲の非対称変化に基づいて、画像内の色にじみの局所的な分布を取得する。この局所的な分布は、前述のようにテーブルを用いて算出するようにしてもよい。
防振レンズ群1304の偏芯量と偏芯するアジムス方向とに応じて、画像内のいずれのアジムス方向およびいずれかの像高において、R又はBの色にじみがどのように強くなるか又は弱くなるかという状態が判る。続いて、画像処理部は露光終了時刻における色にじみの局所的な分布を取得する。
これら局所的な分布に応じて、露光時間における画像内の色にじみの局所的な変化が露光時間の両端の条件において明確となる。次に、画像処理部は局所的な変化量の平均を求めて、当該平均値をもって色にじみ補正処理の重み付けとして用いる。
なお、露光時間の両端における平均によって補正処理の重み付けを行う場合には、露光時間中の防振レンズ群の偏芯の速度変化が考慮されていない。
防振レンズ群1304の偏芯の速度はカメラブレの条件によって一定速とは限らない。偏芯の軌跡が直線上であったとしても、露光開始時刻から暫くは余り移動せず、途中から高速で移動し露光を終了する場合もある。
このような場合には、実際の露光時間中において、露光開始時刻近傍の像面湾曲の状態であった時間が長く、後半防振レンズ群偏芯量が大きくなった時間には短い時間しか露光されていないということもある。
図17は露光時間中における防振レンズ群の偏芯を説明するための図である。そして、図17(A)は露光時間中における防振レンズ群の移動軌跡を示す図であり、図17(B)は露光時間中における防振レンズ群の移動速度を示す図である。
図17(A)に示すように、防振レンズ群1304は動径方向に直線状の軌跡をもって偏芯する。一方、図17(B)に示す例では、防振レンズ群1304の移動速度は一定ではなく、露光時間の後半程、その移動速度が速くなっている。
なお、図17において、点1701は露光開始の際の防振レンズ群1304の位置を示し、点1702は露光終了の際の防振レンズ群1304の位置を示す。また、点1703は露光開始時刻を示し、点1704は露光終了時刻を示す。
図17に示す例の場合には、露光開始時刻と露光終了時刻の像面湾曲の条件を等しく平均するのは適切ではない。従って、移動速度に応じて、防振レンズ群偏芯量(位置)と時刻に対して重み付けを行うことによって、より正確な補正処理が可能になる。
図18は、図17(B)に示す移動速度の変化と略等価な色にじみ量の変化を示す図である。
防振レンズ群移動量は、画像上のある位置における像面湾曲量に対応し、その位置の色にじみ量に対応した量である。従って、図17(B)に示す移動速度は、図3に示す画像上のある箇所の色にじみ量の露光時間中の変化を示すものと略等価である。
よって、露光時間中の移動量を時間積分して積分値1801を得て、当該積分値を時間平均すれば、露光時間中の速度変化に対応した重み付けを行うことができる。
なお、防振レンズ群1304が、露光時間の中心時刻付近に光軸中心近傍を通過すると、その前後での像面湾曲変化は互いに逆方向の符号を有することになる。つまり、防振レンズ群1304の偏芯量がゼロの状態は、所謂基準としての状態であるが、これを跨いで像面湾曲変動が起こるため、画像上のある位置で見ると、露光時間中に像面湾曲変化が逆符号で発生する。
この場合、これらの影響は、特定の符号を有することなく、且つ露光時間中に積分されるため、一定方向の色にじみ補正では対処することができない。
例えば、露光時間中の前半ではR成分がはみ出していて徐々に減少し、露光時間中の後半ではB成分のはみ出しが徐々に増加するという現象である。露光時間中にはこれらが積分されて、画像上は特定の色にじみの少ない単にボケた状態になる。
上述のように、光軸中心を跨ぐような防振レンズ群偏芯の場合は、光軸中心から大きく外れて偏芯する場合と比較して、露光時間が同一であれは、露光時間内の偏芯量の絶対量自体が小さい。このため、画像に対する影響も少ない。従って、光軸中心を跨ぐような防振レンズ群偏芯の場合には、補正対象としなくとも色にじみ自体の絶対量が少なく問題はない。
このように、本発明の第4の実施形態では、手ぶれ補正を行いつつ、画像周辺部の像面湾曲による画質劣化の確実に低減することができる。
[第5の実施形態]
続いて、本発明の第5の実施形態によるカメラにおける像面湾曲の補正について説明する。
図19は、本発明の第5の実施形態によるカメラにおける像面湾曲補正の一例を説明するための図である。
第5の実施形態では、防振レンズ群1304の移動軌跡が円周/動径方向成分の双方を含む場合についてその動径方向成分に対応した補正を行う。
露光時間中における防振レンズ群1304の偏芯軌跡は必ずしも直線成分が支配的なものとは限らない。図19に示すように、防振レンズ偏芯軌跡1901が露光時間中に曲線を描く軌跡となることがある。この場合、防振レンズ群偏芯軌跡1901の動径方向への射影成分1902を主たる移動軌跡として、第4の実施形態で説明したようにして補正を行う。
この際、防振レンズ群偏芯軌跡1901の円周方向への射影成分が所定の範囲1903内であることが必要である。なお、円周方向射影成分アジムス範囲1903はアジムス方向の角度範囲で表されているが、直交座標系の射影成分によって当該範囲を判定するようにしてもよい。
例えば、防振レンズ群偏芯量の動径方向成分が円周方向偏芯量の1/2以下である場合に、動径方向成分に基づいて補正が行われる。
なお、図19においては、防振レンズ群偏芯軌跡1901は露光開始時刻における防振レンズ偏芯位置1904から曲線を描いて露光終了時刻における防振レンズ偏芯位置1905に達する。
このように、本発明の第5の実施形態では、防振レンズ群の移動軌跡が円周/動径方向成分の双方を含む場合について補正を行って、手ぶれ補正を行いつつ、画像周辺部の像面湾曲による画質劣化の確実に低減することができる。
[第6の実施形態]
続いて、本発明の第6の実施形態によるカメラにおける像面湾曲の補正について説明する。
図20は、本発明の第6の実施形態によるカメラにおける像面湾曲補正の一例を説明するための図である。
第6の実施形態では、防振レンズ群1304の移動軌跡が円周方向成分のみ又は円周方向成分が支配的で且つ所定量を越える(方位角の範囲、アジムス方向の範囲として大きい)場合ついて補正を行う。また、動径方向の防振レンズ群偏芯量は露光時間中に大きく変わらないものとする。但し、動径方向には所定量以上の偏芯量があるものとする。
第6の実施形態では、防振レンズ群1304の偏芯によって、防振レンズ群偏芯軌跡2001は円周方向に沿って描かれている。偏芯軌跡2001は動径方向に所定量以上(つまり、所定の範囲以上)の偏芯量(動径方向の距離)2003を維持しつつ円周方向の範囲1903に渡って偏芯する。
露光時間中に動径方向に保つ偏芯量2003が所定量よりも大きいので、像面湾曲は常に所定量発生している。これを維持した状態で円周方向に所定のアジムス方向の方位角範囲1903で偏芯が生ずる。このため、像面湾曲は光軸周りに回転する。なお、点2002は露光時間の中心時刻における防振レンズ群1304の偏芯位置を示す。
第4の実施形態と同様にして、露光時間中における像面湾曲変動に伴う色にじみの局所性に対応した補正を行うことになるが、第6の実施形態では像面湾曲の光軸周りの回転が伴うので、効果的に補正できる範囲が限られる。
第6の実施形態において、補正可能な範囲としては、動径方向において防振レンズ群1304の可動中心からの偏芯量が最大偏芯範囲の10%に相当する範囲1604を越える場合で且つ円周方向の偏芯の範囲がアジムス方位角範囲で45°以内(45°以下)の範囲である。
このように第6の実施形態では、防振レンズ群の移動軌跡が円周方向成分のみ又は円周方向成分が支配的で且つ所定量を越える場合ついて補正を行って、手ぶれ補正を行いつつ、画像周辺部の像面湾曲による画質劣化の確実に低減することができる。
上述のようにして、第4〜第6の実施形態では、防振レンズ群の偏芯による像面湾曲非対称変動に起因する色にじみの非対称性を良好に補正することができ、静止画の画質および動画撮影の際の視覚的な違和感を低減することができる。
[第7の実施形態]
続いて、本発明の第7の実施形態によるカメラについて説明する。
前述のように、防振レンズ群の偏芯量が増大すると偏芯収差が増加して、歪曲収差の非対称性が大きくなる。そして、波長に依存する歪曲収差である倍率色収差も同様に非対称性が大きくなる。
歪曲収差は、撮像レンズ系の横倍率の特性が、式(2)に応じて像高が高くなる程徐々にずれる。
ここで、yは像高、fは焦点距離、θは半画角を表す。
このずれ方は、撮影レンズ系の設計上の特性に依存し、画角に対し非線形な特性を有している。そして、像高が小さくなれば樽型、大きくなれば糸巻型となる。前述のように、歪曲収差は光軸周りに回転対称であるので、画像の中心に対して回転対称な補正を行うことで対応することが可能である。倍率色収差の補正も同様に光軸周りに回転対称な補正によって対応することが可能である。
ところが、防振レンズ群が偏芯すると、歪曲収差および倍率色収差が光軸回りに非対称に変形する。前述したように、歪曲収差はアジムス方向に沿った方向に非対称化する。一方、偏芯方向と直交するアジムス方向の歪曲収差は、偏芯方向に関して線対称になる。そして、この非対称性は防振レンズ群の偏芯量に依存する。
撮影レンズ系に残存する色収差としての倍率色収差は、撮影レンズ系を構成する硝材の分散に依存するので、防振レンズ群の偏芯によって色毎にその変化が異なる。この結果、倍率色収差は非対称に変化して、特に、色チャネル毎の歪曲収差の状態が局所的に異なって、防振レンズ群の偏芯に伴う時間的な変動も影響を及ぼす。従って、像高を補正パラメータとして、光軸回りに回転対称として倍率色収差補正を行うと正しく補正することが困難となって、静止画の画質を損なうばかりでなく、動画撮影においては動的に変動するため視覚的に違和感が生じる。
第7の実施形態におけるカメラの構成は、第4の実施形態で説明したカメラの構成と同様である。
一般に、撮影レンズ系には歪曲収差が残存する。そして、当該歪曲収差は固体撮像素子のRGBの色チャネル毎の分光分布に依存する色光成分毎にそれぞれ異なっている。
図21は、防振レンズ群の偏芯がない場合の倍率色収差を模式的に示す図である。なお、図21において、図13に示す要素と同一の要素について同一の参照番号を付す。
図21において、色チャネル毎に異なる歪曲収差を有する場合には、固体撮像素子上の被写体の明暗の境界(エッジ)の像には倍率色収差2101に起因する色ずれが顕著に現れる。色光成分毎に異なった結像倍率を有するので、色チャネル成分によってエッジの位置がずれて結像する。このため、色ずれが像面2102上のある像高において各色の像が正確に重ならないため生じる。
倍率色収差2101において、R又はBの像の方がGの像よりも拡大されているため、画像中心を基準としてGの像の画像外側方向にR又はBのはみ出した画像の色ずれが現れることになる。
なお、図21においては、説明が煩雑となることを避けるため、便宜上RおよびBを同一の光線としてR又はBとして示しているが、一般にはR成分およびB成分はそれぞれ異なる横倍率を有している。
また、横倍率が像高に応じて、式(2)で示すように一般的に非線形にずれる収差が歪曲収差である。これが色成分により異なる場合が倍率色収差である。
但し、図21に示す例では、撮影レンズ系1303において防振レンズ群1304は偏芯していない。このため、RGB色チャネル毎の歪曲収差は光軸1305を中心点として回転対称である。つまり、倍率色収差も光軸1305を中心点として回転対称/同心円状である。従って、像高、つまり、半径方向に対応した一種類の補正条件(補正パラメータ)を用いて360度方向の全てのアジムス方向に対して同一の補正を行えば、倍率色収差を改善することができる。
撮影レンズ系1303において防振レンズ群1304が大きく偏芯すると、倍率色収差は偏芯のない状態から光軸回りに回転非対称な形状に変形する。つまり、倍率色収差は同心円状ではなくなる。
図22は防振レンズ群の偏芯がある場合の倍率色収差を模式的に示す図である。なお、図22は防振レンズ群1304が偏芯するアジムス方向の断面として示されている。
図22において、倍率色収差の非対称変化は、防振レンズ群1304が偏芯するアジムス方向(防振レンズ群偏芯方向)2204に沿った方向については非対称であるが、当該アジムス方向2204を軸として線対称となる。
図示の例では、倍率色収差2201、2202、および2203が生じ、倍率色収差2201の量は光軸1305に対して非対称な変形を示している。この倍率色収差2201の量は、倍率色収差2201に対応する反対側の画角における倍率色収差2202の量とは異なる。因みに、倍率色収差は紙面に対しては対称な形状となる。
本発明の第7の実施形態によるカメラでは、撮影レンズ系1303において防振レンズ群1304が大きく偏芯した際、発生する歪曲収差、つまり、倍率色収差の非対称変化量又はそれに起因する色にじみの変化量を、画像上の各位置座標に対応して補正情報として予めメモリに保持している。又は、上記の変化量を防振レンズ群偏芯量の関数として、画像上の各位置座標について算出可能な演算式および必要な係数をメモリに予め保持する。
つまり、防振レンズ群1304の偏芯量と色チャネル毎の各像高の歪曲収差の変化量(例えば、非線形な変位量)とをテーブルなどで保持する。又は偏芯量および変化量を防振レンズ群偏芯量の関数として算出可能な演算式と必要な係数として保持する。
防振レンズ群1304が偏芯するアジムス方向に応じて上記の非対称な変化の方向(軸)も光軸1305回りに回転するので、この回転を考慮したテーブルおよび演算装置を備える。つまり、1つの方向に偏芯した状態のテーブル又は計算を行って、実際の防振レンズ群1304の偏芯のアジムス方向に合わせてその結果を光軸1305回りに回転させることによってメモリのサイズおよび計算負荷を低減する。
また、前述のように、歪曲収差は防振レンズ群1304の偏芯のアジムス方向に対して線対称であるので、テーブルのサイズ又は計算は当該方向に対して半分の領域のみで必要となる。このため、計算結果などを線対称な座標位置にコピーするだけでよい。
さらに、色チャネル毎の歪曲収差の量の像高毎の変化を、被写体距離、ズーム位置(焦点距離)毎にテーブルとして保持する。又は、色チャネル毎の歪曲収差の量の像高毎の変化を、被写体距離、ズーム位置(焦点距離)の関数として算出可能な演算式と必要な係数として保持する。
なお、データ数や計算負荷を低減するために画像上の各位置は、画像上を所定の領域に分割して(図15参照)、当該領域毎に同一の値を使用するようにしてもよい。この場合には、領域の境界付近では急激な変化を避けるため、連続的に接続するような補間処理を行う。
ここで、本発明の第7の実施形態によるカメラにおける倍率色収差の補正を説明するための図である。なお、倍率色収差の補正について、図16で説明した像面湾曲の補正と同様である。
図16を参照して、露光時間中において、防振レンズ群1304の偏芯量の動径方向成分が最小から最大となる時間中に防振レンズ群1304が偏芯するアジムス方向において歪曲収差の時間的変化が発生する。
防振レンズ群1304が非偏芯の際には、倍率色収差2101(図21)は光軸に対し対称である。防振レンズ群1304が偏芯した状態では、倍率色収差2201、2203、および2202(図22)のように倍率色収差は光軸1305に対して非対称となる。
図22に示す倍率色収差2201は、図21に示す倍率色収差2101と同等の像高である。図22に示す倍率色収差2202は、防振レンズ群1304が偏芯していない状態では、倍率色収差2101と対称で等量である。
ところが、防振レンズ群1304が偏芯した状態では、倍率色収差2201および2202は互いに異なった量となって、光軸1305に対して非対称となる。また、中間的な像高の倍率色収差2203も光軸1305に対して対称な位置の倍率色収差とは異なった状態となる。
これらの非対称性は、防振レンズ群1304の偏芯量に応じて、非対称変化し且つその量が変化する。その結果、画像内に局所的で且つ露光時間中に時間的な倍率色収差の変動が発生することになる。そして、この非対称変化は防振レンズ群1304の移動時間中に連続的な変化となる。露光時間中に防振レンズ群1304の偏芯が発生する際、これらの影響は積分された状態で画像に記録される。
第7の実施形態では、防振レンズ群1304が偏芯するアジムス方向と露光開始時刻および露光終了時刻における偏芯量とに基づいて倍率色収差の変化する状態から倍率色収差補正の補正量に前述のテーブル又は算出装置によって重み付けをした補正処理を行う。倍率色収差補正は、所謂歪曲収差補正と同様に、歪曲収差曲線に基づいた像高画像の引き伸ばし又は縮小処理であっって、この処理が色毎に個別に行われる。
つまり、像面上の位置毎又は所定の領域毎に、色毎の引き伸ばし量又は縮小量に重み付け、言い換えると、RBチャネル毎に強さ(拡大、縮小の程度)を変えた補正行うことになる。
従来、倍率色収差の補正を行う際には、主にGチャネルの画像から生成される輝度信号成分に対して、RB各チャネルの各色成分のずれを補正するようにしている。Gチャネルにおけるエッジ像に対して、RB各成分のエッジ像のずれによって色がはみ出している場合には、像高に応じて倍率を変化させることによってRB成分のエッジ像位置をずらす処理が行われる。この際、はみ出している画像上の画素数(サイズ、幅など)、はみ出している色をどの程度ずらすかなどの補正の強さが設定されている。
このような処理は、防振レンズ群1304の偏芯のない場合の同心円状の歪曲収差であることを前提とした補正である。第7の実施形態では、倍率色収差補正の強さを、次の手法によって画像内で局所的に設定する。
まず、画像処理部は露光開始時刻における防振レンズ群偏芯によって発生する倍率色収差の非対称変化に基づいて、画像内の色ずれの局所的な分布を決定する。この局所的な分布は、前述のようにテーブルを用いて算出するようにしてもよく、又は防振レンズ群のアジムス方向と偏芯量に基づいて算出するようにしてもよい。
防振レンズ群1304の偏芯量と偏芯するアジムス方向とに応じて、画像内のいずれのアジムス方向およびいずれかの像高において、R又はBの歪曲収差がGの歪曲収差に対してどのように強くなるか又は弱くなるかという状態が判る。続いて、画像処理部は露光終了時刻における色ずれの局所的な分布を決定する。
これら局所的な分布に応じて、露光時間における画像内の倍率色収差の局所的な変化が露光時間の両端の条件において明確となる。次に、画像処理部は局所的な変化量の平均を求めて、当該平均値をもって倍率色収差補正処理の重み付けとして用いる。
なお、露光時間の両端における平均によって補正処理の重み付けを行う場合には、露光時間中の防振レンズ群の偏芯の速度変化が考慮されていない。
防振レンズ群1304の偏芯の速度はカメラブレの条件によって一定速とは限らない。偏芯の軌跡が直線上であったとしても、露光開始時刻から暫くは余り移動せず、途中から高速で移動し露光を終了する場合もある。
このような場合には、実際の露光時間中において、露光開始時刻近傍の色倍率雌雄差の状態であった時間が長く、後半防振レンズ群偏芯量が大きくなった時間には短い時間しか露光されていないということもある。
ここで、前述の図17を参照すると、ここでは、露光開始時刻と露光終了時刻の2つの倍率色収差の条件を等しく平均するのは適切ではない。従って、移動速度に応じて、防振レンズ群1304の偏芯量(位置)と時刻とに対して重み付けを行って補正処理を行う。
アジムス方向に対する防振レンズ群1304の偏芯量は、画像上のある位置における倍率色収差量に対応した量であり、図18に示すように、画像上のある箇所の倍率色収差量の露光時間中の変化を示すものと略等価である。よって、露光時間中の移動量に対応して、局所的な倍率色収差量を時間積分して時間平均すれば、露光時間中の速度変化に対応した重み付けを行うことができる。
なお、防振レンズ群1304が、露光時間の中心時刻付近に光軸中心近傍(光軸の中心位置の近傍)を通過すると、その前後の時間における倍率色収差は互いに逆方向の符号を有することになる。つまり、防振レンズ群1304の偏芯量がゼロの状態は、所謂基準としての状態であるが、これを跨いで逆向きの(つまり、逆転する)倍率色収差が生じるため、画像上のある位置で見ると、露光時間中に倍率色収差の変化が逆符号で発生する。
この場合、これらの影響は、同一の符号ではない倍率色収差の変動が露光時間中に積分されるため、一定方向の倍率色収差補正では対処することができない。
例えば、露光時間中の前半ではR成分がはみ出していて徐々に減少し、露光時間中の後半ではB成分のはみ出しが徐々に増加するという現象である。露光時間中にはこれらが積分されて、画像上は特定の色ずれの少ない単にボケた状態になる。
但し、このケースはレンズの設計上の特性に依存するため、全ての撮影レンズ光学系に当てはまるわけではない。
上述のように、光軸中心を跨ぐような防振レンズ群偏芯の場合は、光軸中心から大きく外れて偏芯する場合と比較して、露光時間が同一であれは、露光時間内の偏芯量の絶対量自体が小さい。このため、画像に対する影響も少ない。従って、光軸中心を跨ぐような防振レンズ群偏芯の場合には、補正対象としなくとも倍率色収差自体の絶対量が少なく問題はない。
一方、光軸中心を跨いで防振レンズ群1304が偏芯しても、倍率色収差の符号が反転しない特性の撮影レンズの場合には、光軸中心を跨いで偏芯する場合でも、倍率色収差補正の方向は相殺しない。この場合には、光軸中心を跨ぐ偏芯であっても、アジムス方向と偏芯量のみに応じた補正を行うようにすればよい。
このように、本発明の第7の実施形態では、手ぶれ補正を行いつつ、画像周辺部の倍率色収差による画質劣化の確実に低減することができる。
[第8の実施形態]
次に、本発明の第8の実施形態によるカメラにおける倍率色収差の補正について説明する。なお、第8の実施形態における倍率色収差の補正については、図19で説明した像面湾曲の補正と同様である。
図19を参照して、第8の実施形態では、防振レンズ群1304の移動軌跡が円周/動径方向成分の双方を含む場合についてその動径方向成分に対応した補正を行う。
露光時間中における防振レンズ群1304の偏芯軌跡は必ずしも直線成分が支配的なものとは限らない。図19に示すように、防振レンズ偏芯軌跡1901が露光時間中に曲線を描く軌跡となることがある。この場合、防振レンズ群偏芯軌跡1901の動径方向への射影成分1902を主たる移動軌跡として、第7の実施形態で説明したようにして補正を行う。
この際、防振レンズ群偏芯軌跡1901の円周方向への射影成分が所定の範囲1903内であることが必要である。なお、円周方向射影成分アジムス範囲1903はアジムス方向の角度範囲で表されているが、直交座標系の射影成分によって当該範囲を判定するようにしてもよい。
例えば、防振レンズ群偏芯量の動径方向成分が円周方向偏芯量の1/2以下である場合に、動径方向成分に基づいて補正が行われる。
このように、本発明の第8の実施形態では、防振レンズ群の移動軌跡が円周/動径方向成分の双方を含む場合について補正を行って、手ぶれ補正を行いつつ、画像周辺部の倍率色収差による画質劣化の確実に低減することができる。
[第9の実施形態]
続いて、本発明の第9の実施形態によるカメラにおける倍率色収差の補正について説明する。なお、第9の実施形態における倍率色収差の補正については、図20で説明した像面湾曲の補正と同様である。
図20を参照して、第9の実施形態では、防振レンズ群1304の移動軌跡が円周方向成分のみ又は円周方向成分が支配的で且つ所定量を越える場合ついて補正を行う。また、動径方向の防振レンズ群偏芯量は露光時間中に大きく変わらないものとする。但し、動径方向には所定量以上の偏芯量があるものとする。
第9の実施形態では、防振レンズ群1304の偏芯によって、防振レンズ群偏芯軌跡2001は円周方向に沿って描かれている。偏芯軌跡2001は動径方向に所定量以上の偏芯量2003を維持しつつ円周方向の範囲1903に渡って偏芯する。
露光時間中に動径方向に保つ偏芯量2003が所定量よりも大きいので、倍率色収差の非対称性は常に所定量発生している。これを維持した状態で円周方向に所定のアジムスの方位角範囲1903で偏芯が生ずる。このため、倍率色収差の非対称は光軸回りに回転する。
第7の実施形態と同様にして、露光時間中における倍率色収差変動に伴う色ずれの局所性に対応した補正を行うことになるが、第9の実施形態では倍率色収差が光軸回りの回転が伴うので、効果的に補正できる範囲が限られる。
第9の実施形態において、補正可能な範囲としては、動径方向の防振レンズ群偏芯量が最大偏芯範囲の10%の範囲1604を越える場合で且つ円周方向の偏芯の範囲がアジムス方位角範囲で45°以内の範囲である。
このように第9の実施形態では、防振レンズ群の移動軌跡が円周方向成分のみ又は円周方向成分が支配的で且つ所定量を越える場合ついて補正を行って、手ぶれ補正を行いつつ、画像周辺部の倍率色収差による画質劣化の確実に低減することができる。
上述のようにして、第7〜第9の実施形態では、防振レンズ群の偏芯による倍率色収差の非対称変動に起因する色ずれの非対称性を良好に補正することができ、静止画の画質および動画撮影の際の視覚的な違和感を低減することができる。
上述の説明から明らかなように、本発明による撮像装置は、CPUなどの画像処理装置を備えており、この画像処理装置が補正手段および変更手段として機能する。
以上、本発明について実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。
例えば、上記の実施の形態の機能を制御方法として、この制御方法を撮像装置に実行させるようにすればよい。また、上述の実施の形態の機能を有するプログラムを制御プログラムとして、当該制御プログラムを撮像装置が備えるコンピュータに実行させるようにしてもよい。なお、制御プログラムは、例えば、コンピュータに読み取り可能な記録媒体に記録される。
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記録媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。