JP5966683B2 - 圧電材料、圧電部材、圧電素子及び圧力センサ - Google Patents

圧電材料、圧電部材、圧電素子及び圧力センサ Download PDF

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Description

本発明は、高温環境でも使用可能な圧電材料、圧電部材、圧電素子及び圧力センサに関する。
圧電素子を用いたセンサやアクチュエータが様々な用途に用いられている。そして、数百℃以上の高温環境においても使用可能な圧電材料は、例えば、エンジンの燃焼圧センサ、火力発電所の高温プラントを常時監視する超音波センサ等の応用が期待されている。
高温環境で使用可能な圧電材料に求められる特性としては、(A)相転移やキュリー点を持たないこと、(B)融点が高いこと、(C)高温でも電気絶縁性を持つこと、が挙げられる。更に、(D)原材料となる資源が豊富であること、(E)従来の結晶育成技術が適用できること、(F)結晶の大型化が容易であること、が好ましい。
高温環境で動作可能な圧電材料としてこれまで提供されている代表例を挙げると、(1)水晶(SiO)、(2)リン酸ガリウム(GaPO)(例えば、特許文献1参照)、(3)含希土類ランガサイト(LaGaSiO14,LaTa0.5Ga5.514,LaTa0.5Ga5.5−xAl14)(例えば、特許文献2〜特許文献4参照)、(4)4成分ランガサイト型結晶(CaTaGaSi14)(例えば、特許文献4参照)、(5)希土類カルシウムオキソボレート(YCaO(BO)がある。
特開平6−326552号公報 特開平10−54773号公報 特開2005−16984号公報 特開2010−185852号公報
しかしながら、前記した圧電材料には以下のような特徴と問題点がある。
(1)水晶
圧電定数が安定しているが、580℃付近に相転移があり、この温度を境として圧電定数が半分以下になる。
(2)リン酸ガリウム
高い絶縁性と安定した圧電特性とを有するが、結晶の作製方法として水熱合成が用いられるため作製自体が難しく、安定した供給が望みにくい。また、原材料として希少金属であるガリウムが用いられる。
(3)含希土類ランガサイト
安定した圧電特性を有するが、高温で絶縁性が著しく劣化する。また、原材料として希土類と、希少金属であるタンタル及びガリウムとが用いられる。
(4)4成分系ランガサイト
高い絶縁性と安定した圧電特性とを有するが、原材料として希少金属であるタンタル及びガリウムが用いられる。
(5)希土類カルシウムオキソボレート
高い絶縁性を有するが、圧電特性の温度変化量が大きい。また、原材料として希土類が用いられる。
このように、従来から圧電材料として提供されている結晶には一長一短があり、高温で使用可能であり、原料となる資源が豊富であり、安定供給が可能な圧電材料は見つかっていない。
そこで、本発明は、高温で使用可能であり、原料となる資源が豊富であり、安定供給が可能な圧電材料、その圧電材料を用いた圧電部材、その圧電部材を用いた圧電素子、及びその圧電素子を用いた圧力センサを提供することを課題とする。
本発明は、前記課題を解決するために創案されたものであり、請求項1に記載の圧電材料は、組成式がCaAlSiOで表わされるゲーレン石からなる。
かかる構成によれば、圧電材料は、室温から800℃以上の高温環境まで、圧電定数の温度安定性に優れ、かつ高い電気抵抗率を維持することができる。
請求項2に記載の圧電部材は、請求項1に記載の圧電材料を主成分として含有することを特徴とする。
かかる構成によれば、圧電部材は、請求項1に記載の圧電材料を主成分として含有するため、前記した圧電材料の圧電特性によって支配されるものとなる。従って、この圧電部材は、室温から高温環境まで温度安定性に優れたものとなる。
なお、圧電部材は、請求項1に記載された圧電材料以外の材料を副成分として含有してもよいし、製造上不可避の不純物を含有していてもよい。
請求項3に記載の圧電素子は、請求項2に記載の圧電部材と、前記圧電部材の応力作用面と直交し、互いに対向する面に設けられた少なくとも一対の電極と、を有するように構成した。
かかる構成によれば、圧電素子は、圧電横効果を利用した圧電素子として機能する。
請求項4に記載の圧電素子は、請求項3に記載の圧電素子において、前記電極が、前記応力作用面と直交する面のほぼ全面に設けられることを特徴とする。
かかる構成によれば、圧電素子は、圧電横効果によって生じた電荷を効率的に検知することができる。
請求項5に記載の圧電素子は、請求項3又は請求項4に記載の圧電素子において、前記圧電部材が、前記圧電材料の結晶から(XYt)45°カットで切出されたことを特徴とする。
かかる構成によれば、圧電素子は、高い圧電効果を利用することができる。
請求項6に記載の圧電素子は、請求項3乃至請求項5の何れか一項に記載の圧電素子において、前記電極が、Pt、Pd又はAg−Pd合金から選択される材料からなることを特徴とする。
かかる構成によれば、圧電素子は、800℃以上の高温環境でも機能する。
請求項7に記載の圧力センサは、ダイアフラムと、請求項3乃至請求項6の何れか一項に記載の圧電素子と、を有して構成した。
かかる構成によれば、圧力センサは、前記ダイアフラムを介して作用する圧力に起因する応力が前記圧電部材の応力作用面に伝達され、前記応力に起因して前記圧電部材に発生する電荷を検知することで、圧力の測定を行う。
請求項1に記載の発明によれば、ゲーレン石を圧電材料として用いるため、豊富な資源を原材料として作製でき、高温環境でも使用可能な圧電部材の材料とすることができる。
請求項2に記載の発明によれば、圧電部材がゲーレン石を主成分として構成されるため、圧電部材は、豊富な資源を原材料として作製でき、高温環境でも使用可能とすることができる。
請求項3に記載の発明によれば、圧電横効果を利用した高温環境でも使用可能な圧電素子を提供することができる。
請求項4に記載の発明によれば、圧電効果で発生した電荷を効率的に検知するため、感度の高い圧電素子を提供することができる。
請求項5に記載の発明によれば、高い圧電効果を利用するため、感度の高い圧電素子を提供することができる。
請求項6に記載の発明によれば、融点の高い材料で電極を構成したため、800℃以上の高温環境でも使用可能な圧電素子を提供することができる。
請求項7に記載の発明によれば、ゲーレン石を用いて構成した圧電素子で圧力を測定するため、高温環境でも使用可能な圧力センサを提供することができる。
本発明の第1実施形態に係る圧電素子の構成を示す模式図である。 本発明の第1実施形態に係る圧電素子に用いる圧電部材のカット方位を説明するための図である。 本発明の第1実施形態に係る圧電素子の製造方法の流れを示すフローチャートである。 本発明の第1実施形態に係る圧電素子に用いられる圧電材料の結晶育成装置の構成を示す模式図である。 本発明の第2実施形態及びその変形例に係る圧電素子の構成を示す模式図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線における断面図であり、(c)は変形例に係る圧電素子の平面図である。 本発明の第3実施形態に係る圧力センサの構成を示す模式図であり、(a)は縦断面図、(b)は(a)のB−B線における横断面図、(c)は(a)のC−C線における横断面図である。 実施例及び比較例の圧電素子の電気抵抗率の温度依存性を示すグラフである。 実施例及び比較例の圧電素子の圧電定数の温度安定性を示すグラフである。
以下、本発明の実施形態について適宜図面を参照して説明する。
本発明では、高温環境でも使用可能な圧電素子用の圧電材料として、メリライト型結晶であるゲーレン石を用いるものである。
なお、ゲーレン石は、前記した条件(A)〜(F)を踏まえ、(a)圧電性を有する結晶構造を有し、(b)地殻に豊富に存在する(クラーク数が高い)元素からなり、(c)共有結合とイオン結合とからなる化学結合性が高い材料であり、(d)大型結晶が得られるチョクラルスキー法が適用できること、を条件として見出した材料である。
ゲーレン石は、組成式がCaAlSiOで表わされる。すなわち、組成元素として、Ca(カルシウム:クラーク数5位)、Al(アルミニウム:同3位)、Si(ケイ素:同2位)及びO(酸素:同1位)というクラーク数が10位以内の元素のみから構成され、チョクラルスキー法により大型結晶が作製可能である。また、ゲーレン石は、Pb(鉛)などの環境負荷の大きな元素も含有していない。
詳細は後記するが、圧電材料としてのゲーレン石は、高温でも圧電定数(圧電特性)の変化量が小さく安定しており、かつ高温でも高い電気抵抗率を維持する。すなわち、ゲーレン石を圧電材料として用いることで、高温環境でも使用可能な圧電素子を構成することができる。
[圧電素子の構成]
次に、図1及び図2を参照して、本発明の第1実施形態に係る圧電素子の構成について説明する。図1に示した第1実施形態に係る圧電素子1は、圧電部材2と、電極3、4とから構成される。
圧電素子1は、所定の結晶方位で切出された(カットされた)直方体形状の圧電部材2の互いに対向する2面に、一対の電極3及び電極4が設けられている。そして、圧電部材2に応力が作用して変形すると、圧電効果(ピエゾ効果)によって、応力、すなわち変形量に応じて圧電部材2の表面に電荷が発生する。そして、この電荷により電極3及び電極4間に電圧Eが生じる。また、電極3及び電極4間に電圧Eを印加すると、逆圧電効果(逆ピエゾ効果)によって、印加された電圧に応じて圧電部材2が変形する。
この圧電素子1は、圧電効果を利用することで、圧力センサや超音波センサなどの各種センサに適用することができる。また、圧電素子1は、逆圧電効果を利用することで、振動子やアクチュエータなどに適用することもできる。
また、圧電素子1を、センサとして用いる場合は、圧電部材2の表面に発生した電荷を電極3及び電極4を介して検知する。なお、ここで「電荷を検知する」とは、圧電部材2に応力が作用することで発生した電荷に起因する物理量を検出(測定)することをいうものとする。例えば、発生した電荷の電気量を検出(測定)することや、発生した電荷に基づいて電極3と電極4との間に生じた電圧を検出(測定)することである。
また、ゲーレン石を圧電部材2として用いる場合は、圧電横効果(d31モード)を利用した圧電素子1を構成する。圧電横効果とは、応力が作用される方向と、応力の作用によって発生する電荷の分極方向とが直交する圧電効果である。本実施形態では、直方体形状の圧電部材2の長手方向の端面(図1において、前面又は背面)が応力作用面である。従って、応力作用方向である応力作用面の法線と直交する方向(図1において、上下方向)の圧電部材2の表面に電荷が分極して発生する。また、電極3,4は、電荷が発生する面に設けられている。
なお、圧電横効果では、応力作用方向と直交する他の方向(図1において、左右方向)の圧電部材2の表面にも電荷が分極して発生する。このため、上下面に設けた電極3,4に代えて、又はこれに加えて、圧電部材2の側面(図1において、左右の側面)に、対向する一対の電極を設けるようにしてもよい。
(圧電部材)
圧電部材2は、ゲーレン石の結晶バルク体から、所定の結晶方位でカットされた直方体形状(板状)の結晶片である。図2に示すように、正方晶系のゲーレン石の結晶について、単位格子の2つのa軸をそれぞれX軸及びY軸とし、c軸をZ軸として座標系を定める。このとき、X軸を法線とする面(YZ平面)に平行な面と、Y軸をX軸回りに45°回転した軸を法線とする面に平行な面と、Z軸をX軸回りに45°回転した軸を法線とする面に平行な面と、で切出す「(XYt)45°カット」(図2において、II又はIIIで示したカット)と呼ばれる直方体形状の結晶片が好ましい。このカットによる圧電部材2は、大きな圧電効果を利用することができるため好ましい。このとき、圧電部材2に、Y軸をX軸回りに45°回転させた軸(応力印加軸)の方向から応力が印加されると、印加された応力の大きさに応じて、X軸方向に分極するように圧電部材2の表面に、すなわち、XY平面に平行な面を電荷発生面として、正負の電荷が発生する。電極3,4は、この電荷発生面であるXY平面に平行な2つの面にそれぞれ設けられる。
なお、前記したように圧電横効果では、応力印加軸の方向から応力が印加されると、応力印加軸と直交する他の方向であるZ軸をX軸回りに45°回転した軸の方向にも分極した電荷が発生する。従って、この軸を法線とする面に電極を設けて圧電素子を構成することもできる。
また、他の結晶方位のカットで切出した結晶片を圧電部材2として用いるようにしてもよい。また、圧電部材2は、直方体形状に限定されず、用途に応じて、円板状、棒状など種々の形状であってもよい。
(電極)
電極3,4は、それぞれ、直方体形状の圧電部材2の電荷発生面に設けられる。電極3,4としては、圧電素子1が使用される高温環境よりも高い融点を有する金属材料を用いることができる。特に800℃以上の高温環境でも使用可能な材料としては、例えば、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag−Pd合金を挙げることができる。また、比較的低温で使用する場合は、Agペーストを用いることもできる。
電極3,4は、前記した材料を用いて、圧電部材2のそれぞれ表面及び裏面に、塗布法、蒸着法、メッキ法、スパッタ法などの方法で形成することができる。
また、圧電部材2が、(XYt)45°カットで切出された結晶片である場合は、電極3,4は、YZ平面に平行な2つの面にそれぞれ設けることが好ましい。
[圧電素子の製造方法]
次に、図3を参照(適宜図1及び図2参照)して、圧電素子1の製造方法について説明する。
図3に示すように、圧電素子1の製造方法は、圧電材料であるゲーレン石の結晶バルク体を作製する結晶育成工程S10と、結晶バルク体から圧電部材2を所定の結晶方位で切出す結晶切出工程S11と、切出した圧電部材2の電荷発生面となる所定の面に電極3,4を形成する電極形成工程S12とを含み、この順で行われる。
(結晶育成工程)
まず、結晶育成工程S10において、圧電材料であるゲーレン石の結晶バルク体を作製する。結晶バルク体は、チョクラルスキー法によって棒状の単結晶として作製することができる。チョクラルスキー法は、半導体材料の作製方法として利用されており、本発明に用いられる結晶バルク体も同様の結晶育成装置を用いて作製することができる。
ここで、図4を参照して、チョクラルスキー法による結晶育成装置の例について説明する。図4に示すように、結晶育成装置10は、ルツボ11と、ルツボ12と、アルミナバブル13と、石英管14と、上蓋15と、下蓋16と、結晶引き上げ棒17と、ロードセル18と、ガス導入部19と、排気口20と、加熱部21と、を備えて構成されている。
ルツボ11は、原材料を投入し、加熱部21によって加熱されて熔融した原材料の融液23を溜める容器である。本実施形態では、高温で熔融するゲーレン石(融点は約1780℃)を保持するために、ゲーレン石よりも融点の高い金属であるIr(イリジウム)製(融点は約2460℃)のものを用いる。
ルツボ12は、ルツボ11及び結晶引き上げ領域を囲むように構成され、良好な保温性が得られるように一部が2重構造となっている。本実施形態では、ルツボ12は、ジルコニア(ZrO)製のものを用いる。
また、ルツボ11及びルツボ12の隙間には、アルミナバブル13が充填されている。
アルミナバブル13は、中空の球形アルミナ(Al)粒子である。アルミナバブル13を、ルツボ11とルツボ12の隙間に充填することで、Ir製のルツボ11の変形を防止するとともに、ルツボ11近傍の保温性を高めることができる。
石英管14は、反応部であるルツボ11,12の外側を覆い、外気を遮断して反応雰囲気を保持するための容器である。石英管14の上下は、上蓋15及び下蓋16で封止されている。
上蓋15及び下蓋16は、石英管14の、それぞれ上端及び下端に設けられ、石英管14とともに、反応雰囲気を保持するためのものである。
上蓋15には、中央に結晶引き上げ棒17を、結晶引き上げ棒17の中心軸周りに回転自在に、かつ、軸方向に移動可能に保持する軸受けを有している。また、上蓋15の一部には、反応雰囲気を制御するためのガス導入部19が設けられ、Ar(アルゴン)ガスや窒素ガスなどを供給するように構成されている。
また、下蓋16には、排気口20が設けられている。
結晶引き上げ棒17は、先端(図では下端)に種結晶22を把持し、ルツボ11に保持されている原材料の融液23から結晶を引き上げるためのものである。結晶引き上げ棒17の上部はロードセル18に把持され、不図示のモータなどの駆動手段によって、中心軸周りに回転、及び上下方向に移動できるように構成されている。
ロードセル18は、結晶引き上げ棒17の上部を把持し、結晶引き上げ棒17及びその下端に成長する結晶の重量を測定する荷重計である。ロードセル18によって成長した結晶の重量が所定の重量に達したところで、結晶成長を停止するように結晶育成装置10が制御される。
ガス導入部19は、上蓋15に設けられ、反応雰囲気を制御するためのガスを石英管14の内部に導入する弁などのガスの導入制御手段である。
なお、反応雰囲気として導入されるガスとしては、不活性ないし反応性の低いArガスや窒素ガスを用いることができる。また、作製する結晶に酸素欠陥が発生するのを抑制するために、前記したガスに少量の酸素ガスを混ぜて石英管14内部に導入するようにしてもよい。
また、下蓋16には、ガス導入部か19から導入されるガス流の出口となる排気口20が、設けられている。
加熱部21は、ルツボ11に投入された原材料を熔融させるための加熱手段である。本実施形態では、加熱部21としてRF(高周波)コイルが、石英管14のルツボ11が配置された領域の外側を取り囲むように設けられている。RFコイルに電力を供給することにより、RFコイルの内部に磁場が生じ、この磁場によって金属であるルツボ11に誘導電流が生じてルツボ11が高温に加熱されるように構成されている。これによって、ルツボ11内に保持された原材料を熔融させる。
なお、加熱部21は、高周波誘導加熱する手段に限定されず、ヒータなど他の加熱手段を用いてもよい。
種結晶22は、融液23から結晶を引き上げる際に、結晶成長の核となるものである。種結晶22は、成長させる結晶の単結晶であることが好ましいが、成長させる結晶と同じ組成のセラミックス(多結晶体)を用いることもできる。また、Pt(白金)棒やIr棒などで代用することもできる。
種結晶22は、角柱形状とすることができるが、これに限定されるものではない。種結晶22の大きさは、融液23を保持するルツボ11の大きさや成長させる結晶の大きさによって適宜決めることができる。例えば、ルツボ11の大きさが、内径50mm、高さ50mmの円筒形の場合には、種結晶22の断面が3mm×3mm〜5mm×5mm、長さが20〜50mmの角柱形状とすることができる。
次に、ゲーレン石の結晶バルク体を作製する結晶育成工程S10について説明する。結晶育成工程S10は、図4に示した結晶育成装置10を用いて行うことができる。
まず、原材料として、粉末状の炭酸カルシウム(CaCO)、酸化アルミニウム(Al)及び酸化ケイ素(SiO)を、ゲーレン石(CaAlSiO)の組成となるように、すなわちモル比で2:1:1となるように秤量して混合する。
次に、前記した原材料の混合粉末を、ルツボ11に入れ、結晶育成装置10の中に設置する。そして、Arガス又は窒素ガスをガス導入部19から導入し、反応雰囲気を整える。このとき、少量の酸素ガスを混ぜてガス導入部19から導入するようにしてもよい。ゲーレン石のように酸化物の結晶では、結晶中に酸素欠陥があると電気抵抗が低下し、圧電材料としては好ましくない。そこで、少量の酸素ガスを混ぜることによって、作製されるゲーレン石の結晶中に酸素欠陥が生じるのを抑制することができる。
また、結晶引き上げ棒17の先端には、種結晶22を取り付けておく。
なお、種結晶22は、前記したように、ゲーレン石の単結晶が好ましいが、同じ組成のセラミックス(多結晶体)でもよく、Pt棒やIr棒などを用いてもよい。
次に、加熱部21のRFコイルに不図示の電源から電力を供給し、ルツボ11を高周波誘導加熱して、ルツボ11内の原材料を熔融させる。
次に、結晶引き上げ棒17を降下させ、種結晶22を原材料の融液23中に浸漬させる。そして、結晶引き上げ棒17を、所定の方向に所定の回転速度でゆっくりと回転させながら、所定の速度で上方にゆっくりと引き上げる。なお、結晶引き上げ棒17の回転速度及び引き上げ速度は、成長させる結晶の大きさに応じて適宜に設定する。
以上の操作により、ゲーレン石の棒状の単結晶バルク体が作製される。
(結晶切出工程)
次に、結晶切出工程S11において、結晶育成工程S10で作製した結晶バルク体から、所定の結晶方位のカット、例えば、図2にII又はIIIで示した(XYt)45°カットの結晶片を圧電部材2として切出す。圧電材料2の切出しは、半導体ウエハの切出しに用いられるワイヤソー、ブレードソーなどを用いて行うことができる。
また、必要に応じて、切出した圧電部材2の表面を鏡面研磨するようにしてもよい。
(電極形成工程)
次に、電極形成工程S12において、結晶切出工程S11で切出した圧電部材2の表面に電極3を、裏面に電極4を形成する。
圧電部材2への電極3,4は、粉末状の金属材料のペーストを形成面に塗布することで形成することができる。塗布後に更に焼付け処理を施すようにしてもよい。また、用途に応じて、蒸着法、メッキ法、スパッタ法などを用いて電極3,4を形成してもよい。
以上の工程により、圧電素子1が作製される。
<第2実施形態>
次に、図5(a)及び図5(b)を参照して、本発明の第2実施形態に係る圧電素子について説明する。
図5(a)及び図5(b)に示す第2実施形態に係る圧電素子1Aは、ほぼ正四角柱形状の圧電部材2と、二対の電極3A,4A及び電極3A,4Aと、から構成される。本実施形態に係る圧電素子1Aは、圧電横効果(d31モード)の利用に適した構造を有するものである。
圧電素子1Aは、ゲーレン石の結晶片を圧電部材2として備え、圧電部材2の上面に垂直な方向(図5(a)において紙面に垂直方向であり、図5(b)において、縦方向)を応力印加軸とするものである。圧電横効果を利用する圧電素子1Aは、応力印加軸に直交する方向に、すなわち、図5(a)において、横方向及び縦方向にそれぞれ分極するように正負の電荷が発生する。このため、圧電素子1Aは、図5(a)における横方向に分極する電荷を検知するための一対の電極3A,4Aと、図5(a)における縦方向に分極する電荷を検知するための一対の電極3A,4Aと、を備えている。
なお、各電極3A,3A,4A,4Aは互いに離間して設けられているが、電極間で短絡が生じない範囲で、圧電部材2の側面のほぼ全面に設けることが好ましい。これによって、発生した電荷を効率的に検知でき、圧電素子としての感度を向上させることができる。
また、電荷を検知する際には、同極性の電荷を検知する電極同士である電極3A及び電極3Aと、電極4A及び電極4Aとを、それぞれ電気的に接続し、圧電部材2に発生する電荷をまとめて検知するようにしてもよい。
また、圧電素子1Aにおける圧電部材2は、第1実施形態と同様に、(XYt)45°カットが好ましい。このとき、圧電部材2の応力印加軸(応力作用方向)は、図2において、Y軸をX軸回りに45°回転した軸であり、電荷発生軸(電荷分極方向)は、X軸及びZ軸をX軸回りに45°回転した軸の2軸である。
なお、本実施形態における圧電部材2のゲーレン石のカット方位は、(XYt)45°に限定されず、他のカット方位であってもよい。また、圧電部材2の形状は、正四角柱形状に限定されず、一般に直方体形状とすることができ、円柱形状や多角柱形状とすることもできる。このとき正負の電極は、正電極と負電極とが短絡しない範囲で、それぞれ対応する極性の電荷の発生領域のほぼ全域に設けることが好ましい。
<変形例>
図5(c)に、第2実施形態の変形例に係る圧電素子を示す。図5(c)に示すように、本変形例に係る圧電素子1Bは、図5(a)に示した第2実施形態に係る圧電素子1Aにおいて、同極性の電荷を検知するための電極3A及び電極3Aを一体化して電極3Bとし、電極4A及び電極4Aを一体化して電極4Bとするものである。また、圧電素子1BのA−A線における断面は、図5(b)に示した圧電素子1AのA−A線における断面と同様である。なお、電極構成以外の構成は、第2実施形態に係る圧電素子1Aと同様であるから、説明は省略する。
図5(c)に示すように、圧電素子1Bは、平面視において、圧電材料2の角部(図5(c)において、左下の角及び右上の角)まで電極が設けられている。すなわち、第2実施形態に係る圧電素子1Aよりも、圧電部材2の側面の広い領域に電極3B及び電極4Bが設けられているため、更に電荷を効率的に検出することができる。従って、圧電素子としての感度を更に向上することができる。
なお、第2実施形態に係る圧電素子1A及び第2実施形態の変形例に係る圧電素子1Bは、第1実施形態に係る圧電素子1と同様の材料及び製造方法を用いて作製することができるため、製造方法の説明は省略する。
<第3実施形態>
[圧力センサの構成]
次に、図6を参照して、本発明の第3実施形態に係る圧力センサについて説明する。
第3実施形態に係る圧力センサ30は、図6(a)に示すように、ケース材31と、ダイアフラム32と、絶縁スリーブ33と、台座34と、圧電素子1と、アルミナ板35と、封止材36と、固定ネジ37と、電線38,39と、から構成されている。
本実施形態に係る圧力センサ30は、例えば、エンジンの燃焼室圧を測定するために燃焼室に直接取り付けられる。すなわち、圧力センサ30は、高温環境で使用可能なセンサである。そのため、圧力センサ30を構成する各部材は、数百℃以上の耐熱性を有する材料を用いて形成されている。
圧力センサ30は、ダイアフラム32に加えたれた圧力により生じた応力を、台座34を介して圧電素子1の圧電部材2に伝達し、圧電部材2に伝達された応力の大きさに応じて圧電素子1の電極3,4が設けられた電荷発生面に発生する電荷を、電線38,39に接続される電気量測定器や電圧測定器などの電荷検知手段(不図示)によって検知することで、圧力を測定するものである。
本実施形態では、圧電素子1は、圧電横効果を利用して圧電部材7に加えられた応力(圧力)を電荷量に変換する。すなわち、図6(a)において圧電部材2に対して下方向から加えられた応力によって、応力印加方向と直交する横方向及び紙面に垂直方向に分極するように圧電部材2の側面に正負の電荷が発生する。そして、発生した電荷を、圧電部材2の側面に、正負の電荷の分極方向に互いに対向するように設けられた電極3,4を介して電荷を検知する。本実施形態に係る圧力センサ30は、この圧電素子1の電極3,4を介して検知した電荷量に基づいて、ダイアフラム32に加えられた圧力を測定するものである。
ケース材31は、ステンレス製の円筒形のケースである。ケース材31の下端には、ダイアフラム32が設けられている。ダイアフラム32は、ステンレス製の円板状の部材であり、下面が測定対象の圧力を受ける受圧面である。ダイアフラム32の上面側にはガラス製の台座34を介して、圧電素子1が設けられている。
また、圧電素子1及び台座34と、ケース材31の内周面との間には、アルミナ製の絶縁スリーブ33が設けられている。
本実施形態における圧電素子1は、図1に示した第1実施形態に係る圧電素子1、図5(a)に示した第2実施形態に係る圧電素子1A又は図5(c)に示した第2実施形態の変形例に係る圧電素子1Bなど、ゲーレン石からなる圧電結晶を圧電部材2として用いた圧電素子を用いるものである。また、圧電素子1は、台座34の上面に設けられ、ダイアフラム32が受圧面に受けた圧力により生じた応力が、台座34を介して圧電部材2の応力作用面に伝達されるように構成されている。
また、圧電素子1は、圧電横効果を利用するために、圧電部材2の側面において、電極3,4が、圧電部材2が受ける応力作用方向と直交する方向である横方向、又は横方向及び紙面に垂直方向に対向して設けられている。
なお、圧電素子1の形状は、図1又は図5に示したように、角柱形状でもよく、ケース材31の形状に合わせて、円柱形状としてもよい。また、複数の板状の圧電素子を用い、各圧電素子の同極性の電極を、対応する極性の電線38,39と電気的に接続するように構成してもよい。
また、圧電素子1の電極3及び電極4は、それぞれ電線38及び電線39の一端と電気的に接続されている。電線38,39は、高温環境で使用可能な耐熱性を有するセラミックフェルトで被覆された電線が好ましい。また、電線38,39は、図6(a)、図6(b)及び図6(c)に示すように、アルミナ板35及び封止材36に設けられた貫通孔を貫通して、他端が封止材36の上面から露出しており、外部の電荷検知手段(不図示)に接続される。
圧電素子1の上面側には、絶縁部材であるアルミナ板35が設けられ、更にその上部にステンレス製の封止材36が設けられている。また、ケース材31は、図6(a)に「白抜きの×印」で示した箇所で、ダイアフラム32及び封止材36と接合されている。また、ダイアフラム32と台座34の間も、中央部で接合されている。
また、平面視で封止材36の中央部には固定ネジ37が設けられ、封止材36を貫通し、先端がアルミナ板35の厚さ方向の中ほどまでねじ込まれている。この固定ネジ37によって、ケース材31の内部に配置される各部材の位置が固定される。固定ネジ37は、例えば、Fe−Ni系合金製のものを用いることができる。
なお、ケース材31は、円筒形に限定されず、四角柱形、多角柱形などにすることもできる。また、圧力センサ30は、例えば、ケース材31の先端部の外周にネジ山を設け、点火プラグの装着と同様の方法で、エンジン燃焼室に連通する所定の取付孔にねじ込むことで装着するように構成することもできる。
[圧力センサの動作]
次に、引き続き図6を参照して、圧力センサ30の動作について説明する。
圧力センサ30は、エンジンの燃焼室等の圧力をダイアフラム32の下面である受圧面で受ける。ダイアフラム32が受けた圧力により生じた応力は、台座34を介して、圧電素子1の圧電部材2に伝達される。圧電部材2は、伝達された応力により変形し、圧電横効果により変形量に応じた電荷を発生する。圧電部材2で発生した正負の電荷は、電極3,4及び電線38,39を介して接続された電荷検知手段(不図示)により、発生した電荷に起因する電圧や電気量などの物理量が測定される。ダイアフラム32が受けた圧力は、測定された電圧や電気量などに基づいて求めることができる。
次に、本発明の実施例として作製した圧電素子について説明する。
実施例として作製した圧電素子に用いた圧電材料は、図4に示した結晶育成装置10を用いてチョクラルスキー法により作製した。このとき、原材料として、それぞれ純度が99.99%の粉末状の、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム及び酸化ケイ素を用いた。これらの原材料を、ゲーレン石(CaAlSiO)の組成となるように秤量して混合した。
次に、原材料の混合粉末をIr製ルツボ(図4のルツボ11)に入れ、図4に示した結晶育成装置10内に設置した。なお、Ir製ルツボは、底面の内径が50mm、高さが50mmの円筒形である。また、種結晶としてゲーレン石の単結晶を用いた。
結晶育成装置10を用い、前記した操作手順により、直径が約20mm、長さが約80mmの棒状の結晶バルク体を得た。
次に、作製した結晶バルク体から、(XYt)45°カットの平面視で矩形状の板状の結晶片を、圧電部材として切出した。
そして、切出した圧電部材の表面及び裏面に、粉末状のPtを塗布して電極を形成した。
以上の手順により、圧電素子を作製した。
次に、実施例として作製した圧電素子の試料、及び比較例として他の圧電材料を用いて作製した圧電素子の試料について、圧電素子の特性値として圧電定数d31と電気抵抗率とを、温度を変化させて測定した。
比較例に用いた圧電材料は、GaPO(リン酸ガリウム)、LTG(含希土類ランガサイト:LaTa0.5Ga5.514)、LTGA(含希土類ランガサイト:LaTa0.5Ga5.5−xAl14)、LGS(ランガサイト:LaGaSiO14)、YCOB(希土類カルシウムオキソボレート:YCaO(BO)である。
なお、各特性値の測定には、ヒューレット・パッカード社製インピーダンス・アナライザ(HP4294A)を用いた。なお、圧電定数d31は、共振・反共振法により、各試料の電気機械結合係数(k31及びk)を測定し、算出して求めた。また、電気抵抗率は、三端子法により測定した。
図7に実施例及び比較例として作製した圧電素子の試料について測定した圧電定数の温度安定性を示す。但し、図7に示したグラフは、横軸が温度(摂氏)を示し、縦軸が相対圧電定数(Relative piezoelectric constant)dを示す。ここで、相対圧電定数dとは、室温(Room Temperature)における圧電定数d31に対する相対値であり、式(1)で算出される。
=(各温度におけるd31)/(室温におけるd31)・・・式(1)
なお、室温とは15〜35℃の範囲の温度をいうものとする。
また、図8に実施例及び比較例として作製した圧電素子の試料について測定した電気抵抗率の温度依存性を示す。但し、図8に示すグラフは、横軸が絶対温度Tの逆数に正比例(1000/T)する座標軸を示している。参考のため、グラフの上段に摂氏での温度を示している。また、縦軸は、電気抵抗率(Resistivity)を対数表示で示している。
図7に示すように、実施例であるゲーレン石を用いた試料は、室温から高温領域に至るまで圧電定数d31の変化量は±2%以内と小さく、安定した圧電特性が得られることが分かる。この圧電特性の温度安定性は、温度変化の大きいYCOBを除いた他の比較例と比べても、同等か、それ以上の優れた安定性を示している。
なお、図5において、YCOBの圧電特性は計算値を示している。
一方、図8に示すように、実施例であるゲーレン石を用いた試料は、高温領域においても高い電気抵抗率を示している。特に400℃以上における実施例の試料は、YCOB以外の比較例の試料よりも高い電気抵抗率を示しており、800℃においても優れた絶縁性が維持されていることが分かる。
以上説明したように、圧電材料としてゲーレン石を用いることで、高温環境で使用可能な圧電素子を作製することができる。
また、作製された圧電素子は、圧力センサや超音波センサなどのセンサとして用いることができる。このような圧力センサは、前記したエンジンの燃焼室の燃焼圧センサとしての用途が考えられる。また、超音波センサは、例えば、火力発電所の高温プラントにおいて、ボイラー、蒸気の配管、タービンなどの外壁などに設置して、高温プラントを監視する用途が考えられる。
なお、本発明による圧電素子の用途はこれらに限定されるものではない。ゲーレン石は融点に至るまで相転移及びキュリー点を持たないため、ゲーレン石を圧電材料として用いた圧電素子は、原理的には室温からゲーレン石の融点未満の広い温度環境で使用可能な素子として広い用途に用いることができる。
1、1A、1B 圧電素子
2 圧電部材
3、3A、3A、3B 電極
4、4A、4A、4B 電極
10 結晶育成装置
30 圧力センサ
31 ケース材
32 ダイアフラム
33 絶縁スリーブ
34 台座
35 アルミナ板
36 封止材
37 固定ネジ
38、39 電線

Claims (7)

  1. 組成式がCaAlSiOで表わされるゲーレン石からなる圧電材料。
  2. 請求項1に記載の圧電材料を主成分として含有していることを特徴とする圧電部材。
  3. 請求項2に記載の圧電部材と、
    前記圧電部材の応力作用面と直交し、互いに対向する面に設けられた少なくとも一対の電極と、を有することを特徴とする圧電素子。
  4. 前記電極は、前記応力作用面と直交する面のほぼ全面に設けられたことを特徴とする請求項3に記載の圧電素子。
  5. 前記圧電部材は、前記圧電材料の結晶から(XYt)45°カットで切出されたことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の圧電素子。
  6. 前記電極が、Pt、Pd又はAg−Pd合金から選択される材料からなることを特徴とする請求項3乃至請求項5の何れか一項に記載の圧電素子。
  7. ダイアフラムと、
    請求項3乃至請求項6の何れか一項に記載の圧電素子と、を有し、
    前記圧電素子は、前記ダイアフラムを介して作用する圧力に起因する応力が前記圧電部材の応力作用面に伝達され、前記応力に起因して前記圧電部材に発生する電荷が前記電極を介して検知可能に設けられたことを特徴とする圧力センサ。
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