JP5945365B2 - Nmrスペクトルから物質を同定するための方法 - Google Patents

Nmrスペクトルから物質を同定するための方法 Download PDF

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Description

本発明は、請求項1の前文による試料中の物質の同定のための方法ならびに請求項10の前文によるそのような方法を実行するために適したソフトウェアを含有するソフトウェア製品に関する。
核磁気共鳴分光法(NMR分光法)の分野では、測定されたNMRスペクトルを用いて試料中に含まれる物質の自動同定を行うことができないという問題が数十年も存在してきた。今日でさえ、NMRスペクトルはなお、NMR分光法によって測定された物質の同定を可能とするには、手作業による大変な労力を伴って評価する必要がある。同定の成功は、ここでは、手動の物質同定を行う人の技術的専門知識にかなり依存する。さらに、NMR分光法によって測定される試料の構造(composition)の複雑さも重要である。こうして、複雑に構成された試料の個々の成分は、通常、結合NMRスペクトル(joint NMR spectrum)を用いて、明白、迅速、かつ簡単には同定できない。
プロトンおよび他のNMR活性原子核、例えば15Nまたは13Cなどは、確定した(defined)化学環境において(つまり、分子中の特定の分子群において)、基本的には確定したNMR信号を生じる。従って、各物質は、個々のNMRフィンガープリントを有する。しかし、これらのNMRフィンガープリントは、pH値、温度、磁場強度、塩濃度および多くの他のパラメータに応じて大いに変動する。さらに、試料中に含まれる様々な物質の個々のNMRフィンガープリントは、多くの場合、重なり合って複雑なパターンを形成する。個々のNMRフィンガープリントをそこから単離することはもはや容易ではない。
結果として、多くの物質からなる複雑な構造となると、これらの因子(factors)をすべて考慮に入れること、または個々の物質に関する上述のパラメータの様々な影響をデータベースに保存することが今までできなかった。この目的のため、様々なpH値、温度、塩濃度および他のパラメータを含む広範な一連の測定を各個々の物質について測定しなければならなくなるからである。さらに、1つの物質の挙動が、他の物質の存在に応じて変化し得ることを考慮に入れなければならないであろう。
特許文献1は、複数の値を有する少なくとも1つの分析結果を得る工程であって、該分析結果が、少なくとも1つの分析方法による試料の分析によって生成されたものである工程;該複数の値のうち少なくとも2つの値間の数学的関係の値を少なくとも1つ決定する工程;該少なくとも1つの数学的関係の値に基づいて試料の特性決定シグネチャー(characterizing signature)を生成する工程を含む、試料の特性を決定するための方法を開示する。従って、この方法は、試料それ自体の特性を決定すること、すなわち様々な物質の複雑な混合物の特性を決定することに関する。その際、試料に含まれる個々の物質を同定することとは関係がない(not relevant)。これは特許文献1のいくつかの箇所にはっきりと述べられている。
特許文献2は、ヒトの論理を模倣するパラメータフリーの解釈システムを利用するNMRスペクトルの自動分析のための方法を開示する。この方法は、人間の専門家が行うのと同じような方法でNMRスペクトルから情報を得る。それによって、異なるNMRスペクトルの特徴ならびに提案される化学構造の特徴を提供する様々な専門的システムが組み合わされる。いくつかの反復法が繰り返された後、確率が加重された仮説のリストが生成される。
非特許文献1は、従来のスペクトル適合方法を開示し、その方法では、基準スペクトルを修正によって試料スペクトルに適合させる。その際、階層クラスタによるピーク割り当てに基づくアルゴリズムが使用される。この方法は、NMR試料スペクトルおよびNMR基準スペクトルが記録された測定条件に強く依存する。
独国特許出願公開第102010038014A1号明細書 欧州特許出願公開第2161587A1号明細書
Vuらによる、「An integrated workflow for robust alignment and simplified quantitative analysis of NMR spectrometry data」, BMC Bioinformatics 2011 , 12: 405
本発明の根底にある目的は、NMRスペクトルの自動物質同定を行うことのできる方法を規定することである。この方法は、ここではもっとも広範に変動する基本的条件下で記録されたNMRスペクトルに適している。
この目的は、請求項1に記載の特徴を有する方法によって実現される。試料中の物質の同定のためのそのような方法は、後に説明する工程を有する。
第1に、少なくとも1つのNMR活性原子核を有する少なくとも1つの物質を含有する試料のNMRスペクトルを得る。適したNMR活性原子核は、例えばH、Cおよび15Nである。
その後、NMRスペクトルのライン分離が行われる。つまり、NMRスペクトルを別個のスペクトル値に例えば分割する。そのようなスペクトル値は、例えば、個々のNMR活性化学基に対応するスペクトルラインであってよい。各スペクトル値は、ここでは積分値および位置値を有する。積分値はNMRスペクトルの個々のラインの、そうでなければNMRスペクトルの個々のスペクトル部分の、高さおよび/もしくは面積を規定する。そのため、積分値は、検討されるラインまたは検討されるスペクトル部分の強度に関する情報を含むか、あるいはこの強度情報からなる。各位置値はNMRスペクトル中の検討されるラインまたは検討されるスペクトル部分の位置を規定する。位置値はここでは試料に含まれる物質の全分子中の個々の分子群/原子の磁気遮蔽を表す尺度(measure)である。積分値はNMRスペクトルにおける個々の分子群/原子の数を表す尺度である。
位置に関して、通常、検討されるラインまたは検討されるスペクトル部分の中央もしくは平均位置がここでは使用される。専門用語では、そのようなスペクトル部分は、「ビン(bin)」とも呼ばれる。従ってNMRスペクトルを、1または複数のラインを含むいずれの場合においても、様々な別個のスペクトル部分に分離または切断することは、「ビン化する(to bin)」という専門用語でも当業者に公知である。
ライン分離は、基本的に、一般に当業者に公知の方法に従って行われ得る。基本的に、NMRスペクトルからの個々の分子群または原子に関する情報を得るのに適したどんな方法を用いてもよい。この場合、規定されるライン分離は、可能な限り完璧にローレンツ曲線(またはローレンツ曲線とガウス曲線の合計)の重なりとしてNMRスペクトルを示す。ここで追求される目的は、ライン分離の後に、確定した(defined)積分値および対応する位置値を各個々のNMR活性基に好ましく割り当てることである。つまり、NMRスペクトルの各ラインをNMRスペクトルの他の各ラインから分離することが好ましい。
その後、いずれのラインまたはスペクトル部分の場合も、NMRスペクトルの少なくとも2つの積分値に基づいて、多数の積分比値を計算する。好ましくは、NMRスペクトルの各個々の積分値は、NMRスペクトルの他の各積分値と対比(set off)される。各積分比値は、ここでは基礎をなす(underlying)スペクトル値の高さおよび/もしくは面積の比を規定する。例えば、20個の積分値を有する20個のスペクトル値がライン分離によって得られる。その後、いずれのラインまたはスペクトル部分の場合も、2つだけの積分値が互いに対比されて積分比値を作る場合、20×20=400個の積分比値が得られる。これらの積分比値の内の20個は、1の値を有し(同じ積分値で互いに除算するため)、それらは意味のある情報を含んでいないので、積分比値として考慮されないことが好ましい。
さらに、いずれのラインまたはスペクトル部分の場合も、NMRスペクトルの少なくとも2つの位置値から多数の距離値が計算される。好ましくは、この場合でも、NMRスペクトルの個々の位置値は、NMRスペクトルの他の各位置値と対比される。各距離値は、ここでは基礎をなすスペクトル値間のスペクトル距離を反映する。上の例によれば、20個のスペクトル値と相応して20個の位置値も得られ、いずれの場合も2つだけの位置値が互いに対比され、20×20=400個の距離値が得られる。これらの距離値の内の20個は1の値を有し(同じ位置値で互いに除算するため)、それらは意味のある情報を含んでいないので距離値として考慮されないことが好ましい。
スペクトル距離は、NMRスペクトルの個々のラインが互いにどのくらい離れているかの尺度である。この距離が小さい場合、ラインは互いに近接している。この距離が大きい場合、ラインは遠く離れている。スペクトル距離は、例としてHzまたはppmなどの様々な単位で与えられ得る。
本実施形態の方法では、計算したNMRスペクトルの積分比値と、対応するNMR基準スペクトルの積分比値との比較がここで行われる。NMR基準スペクトルは、ここでは少なくとも1つの基準物質のNMRスペクトルである。NMR基準スペクトルの積分比値の計算に関して、調査したNMRスペクトルの積分比値の計算を同様に進めることが好ましい。つまり、複数の、好ましくはすべてのスペクトル値の積分値を得るために、最初に特にライン分離を行う。
積分比値を比較した後、NMRスペクトルの積分比値から第1の適切なサブセットの選択が行われる。第1のサブセットは、ここでは、それぞれの場合において設定可能である第1の許容限界内のNMR基準スペクトルの積分比値に対応する積分比値を含む。そこに対応関係があるか否かは、基本的に、それぞれの個々の場合に依存する。例えば検討するNMRスペクトル中のラインの数や、それらの互いからの距離および検討される積分比値の絶対値などの因子(factors)を考慮に入れなければならない。つまり、互いに比較されるデータの質は、対応関係があるか否かの決定的な因子の1つである。比較するのに良質のデータ(少ない干渉、小さい測定誤差、良好な信号対雑音比、互いに十分分離可能なライン、有意な積分比など)であれば、許容限界は質の劣るデータよりも低く設定される。好ましくは、許容限界、すなわちまだ許容される誤差は、正しい候補が誤って除外されないような方法で選択される。つまり、偽陰性結果は回避される。
例えば、NMR基準スペクトルの1つの積分比値を除いてすべての積分比が約1となる範囲内にあり、唯一残っている積分比値が10の範囲内にある場合、試料のNMRスペクトルでも同様に1つの積分比値を除いてすべての積分比値が約1となる範囲内にあり(そしてNMR基準スペクトルの積分比値から意味のあるずれがなく)、残りの積分比値が20である場合に、対応があると言える。一方、そのような100%のずれは、比較的有意でない積分比値をもつ他の事例群(case constellations)では、もはや対応があるとしての分類はできない。
言い換えれば、対応関係があるか否かの決定は、個々の判定基準を用いて行われる。好ましくは、これらの判定基準は、既知物質を含有する試料のNMRスペクトルと既知物質のNMR基準スペクトルとの比較が行われた場合に、NMRスペクトルにおいて既知物質が実際にその物質として同定されるか否かによって決定される。
好ましくは、これは、NMRスペクトルの積分比値がNMR基準スペクトルの積分比値から100%以下、特に50%以下、特に40%以下、特に30%以下、特に20%以下、特に15%以下、特に10%以下、特に5%以下、特に4%以下、特に3%以下、特に2%以下、特に1%以下、特に0.5%以下で、ずれる場合に対応があるという想定に基づいて進める。NMR基準スペクトルの対応する積分比値のそれぞれの特定のずれは、ここでは、比較するNMRスペクトルの各積分比値の基礎として取り入れることができる。理想的には、NMRスペクトルの積分比値が、NMR基準スペクトルの積分比値と同一である場合に対応関係がある。しかし、それぞれの測定精度範囲では、通常、少なくとも上で述べた許容値を考慮に入れる必要がある。
本方法の範囲では、NMRスペクトルの距離値とNMR基準スペクトルの対応する距離値との比較も行われる。NMR基準スペクトルの距離値は、ここでは好ましくは検討される試料のNMRスペクトルの距離値と同じ方法で計算される。
距離値を比較することは、NMRスペクトルの距離値から第2の適切なサブセットを選択する役割がある。第2のサブセットは、ここでは、それぞれの場合において設定可能である第2の許容限界内のNMR基準スペクトルの距離値に対応する距離値を含む。好ましくは、これは、ここでは積分比値の比較に関して説明した同じ必要条件下で対応があるという想定に基づいて進める。相対誤差で表すと、これは、好ましくは、NMRスペクトルの距離値とNMR基準スペクトルの距離値との間のずれが100%以下、特に50%以下、特に40%以下、特に30%以下、特に20%以下、特に15%以下、特に10%以下、特に5%以下、特に4%以下、特に3%以下、特に2%以下、特に1%以下、特に0.5%以下である場合に対応があるという想定に基づいて進める。この場合もまた、NMR基準スペクトルの対応する距離値からのそれぞれの特定のずれは、比較するNMRスペクトルの各距離値の基礎として取り入れることができる。好ましくは、NMRスペクトルの距離値がNMR基準スペクトルの距離値と同一である場合に距離値間に対応関係がある。しかしこの場合もまた、測定精度の範囲では、通常、少なくとも上述の許容値を考慮に入れる必要がある。
第1のサブセットと第2のサブセットが形成されたら、それらを互いに比較する。その後、すべてのそれらの積分比値および距離値は、同じスペクトル値に基づく両方のサブセットから選択される。この選択が、第3の適切なサブセットを表す。
一例として、より詳細な説明のために、以下の事例群が想定される。第1のサブセットは、第1および第2のスペクトル値の積分値から形成された第1の積分比値を含む。第1のサブセットは、さらに、第3および第4のスペクトル値の積分値から形成された第2の積分比値を含む。第2のサブセットは、第1のスペクトル値および第2のスペクトル値から形成された第1の距離値を含む。第2のサブセットは、さらに、第5のスペクトル値および第6のスペクトル値から形成された第2の距離値を含む。次に、第1の積分比値および第1の距離値は、同じスペクトル値から形成され、一方、第2の距離値は、第1のサブセットで積分比値が形成されないスペクトル値から形成される。この例では、第3のサブセットは、従って第1の積分比値または第1の距離値からなる。しかし、第2の積分比値および第2の距離値は、第3のサブセットに含まれない。第3のサブセットは、従って第1のサブセットと第2のサブセットとの間の交わりを表す。
最後に、第3のサブセットに含まれる上記の各値の質判定基準を決定し、当該判定基準は第3のサブセットに含まれるこれらの各値とNMR基準スペクトルの積分比値および/または距離値との比較から得られる。この質判定基準を用いて、次に、試料に含まれる物質が基準物質として同定されるか否かについて決定できる。
質判定基準は、例えば、NMR基準スペクトルの積分比値とNMRスペクトルの積分比値とのずれおよび/またはNMR基準スペクトルの距離値とNMRスペクトルの距離値とのずれの尺度(measure)から成るか、または前記尺度そのものであってもよい。
さらなる実施形態では、質判定基準は、NMR基準スペクトルの積分比値または距離値の数と比較した第3のサブセットに含まれる値の数から成るか、または前記値の数そのものであってよい。積分比値および距離値を計算するために、いずれの場合も同じ数のスペクトル値を使用すると、積分比値の数と距離値の数は同一である。積分比値の計算が、例えば、いずれの場合も、2つだけのスペクトル値に基づくか、またはこれらのスペクトル値に割り当てられた積分値に基づく場合、n個のスペクトル値が存在する場合にはn個の積分比値が得られる。これらのn個の積分比値のうち、n個の積分比値は1だけの値を有する(2つの同一の積分値で互いに除算するため)。好ましくは、これらの積分比値は、対応する距離値としてもまた、積分比値または距離値の数を決定する時に考慮されない。この規則は、分析した試料の検討されるNMRスペクトルに対しても、NMR基準スペクトルに対しても適用される。
第3のサブセットに含まれる値の数が、NMR基準スペクトルの積分比値または距離値の数と同一であるか、または、それが少なくとも予め決定できる下側閾値を上回る場合、試料に含まれる物質は、一実施形態においては基準物質と同定できる。しかし、第3のサブセットに含まれる値が、NMR基準スペクトルに含まれる積分比値または距離値よりも著しく小さい場合、試料に含まれる物質は、一実施形態においては基準物質と同定できない。しかし、第3のサブセットに含まれる値の数によっては、例えば試料に含まれる物質が少なくとも基準物質ではないと述べることはできる。そのような場合に試料に含まれる物質を明白に同定できるために、本方法の上述の工程の一部を好ましくは新しいNMR基準スペクトルを用いて再び行うべきである。
NMRスペクトルの積分比値または距離値の数の情報価値のある値を歪めないために、NMR基準スペクトルの積分比値および距離値は、いずれの場合も、検討される試料のNMRスペクトルの積分比値および距離値としてスペクトル値の同じ数(例、いずれの場合も2つだけのスペクトル値)から計算されるべきである。
質判定基準は、好ましくは様々なパラメータを考慮に入れることができる。従って、第3のサブセットの値の数とNMR基準スペクトルの積分比値または距離値の数との間に対応関係がほとんどない場合に、比較した積分比値および/または距離値間にほんのわずかなずれのみが同時に確認されると、それにも関わらず物質の同定が行われることが考えられる。同様に、第3のサブセットの値の数とNMR基準スペクトルの積分比値または距離値の数との間に高い対応がある場合には、比較した積分比値および/または距離値のより大きいずれを埋め合わせることができる。第3のサブセットの値の質は、従って値の質的および量的な面を考慮に入れることができる。
本方法は、分子の互いに独立した2つの特性を同じ測定方法を用いて測定することに基づく。一方、本明細書において、NMRシグナルをどの分子群の数およびそれらのプロトン比に割り当てることができるかは、全分子中の分子群の数およびそれらのプロトン比である。この特性は、積分値で表される。他方で、ここではそれは全分子中の個々の分子群の磁気遮蔽である。この特性は、各スペクトル値の位置値で表される。
本方法に関して特別な点は、本方法がそれぞれの測定条件と独立に行うことができることである。つまり、pH値、温度、塩濃度または磁場強度などの、NMR測定が行われる際に本発明が適用されなければ最も重要となるパラメータが、本方法では、実際上、評価には重要でなく、したがって、自動的に処理されうる。また、同定する物質を含有する試料のNMRスペクトルではなく、NMR基準スペクトルを他のパラメータとともに記録することも可能である。このことは、個々の計測器に依存することなく、本方法の包括的な適用性を確実にする。従って、本方法を適用し、基準物質のNMR基準スペクトルを用いて、データベースを一度準備すれば、NMR分光法による試料中の物質の明白な同定を行うことができる。
あるいは、その物質の個々の分子群が本方法によって同定されている限り、理論的基礎に基づいて物質をその分子構造によって同定することもできる。
本方法ではユーザーの介入はここでは必要でない。むしろ、本方法は完全に自動的に行われるので、複雑な物質の混合物中でさえ、自動的または自動化された物質の同定が可能である。
NMR基準スペクトルは、様々な物質のスペクトルであってよいが、本方法の好ましい実施形態では、NMR基準スペクトルは、1つだけの基準物質のスペクトルである。
1つの変形例では、試料に含まれる物質が基準物質として同定されるのは、NMR基準スペクトルの積分比値または距離値の少なくとも60%が第3のサブセットに含まれている場合である。さらに好ましい実施形態では、70%、特に75%、特に80%、特に85%、特に90%、特に95%、特に99%の値が、対象の物質を基準物質として明白に同定するために、下側閾値として選択される。本方法のさらに好ましい実施形態では、NMR基準スペクトルの積分比値または距離値の40%未満、特に30%未満、特に20%未満、特に10%未満、特に5%未満が第3のサブセットに含まれる場合に、対象の物質は基準物質ではないと明白に同定される。上で説明したように、質判定基準に関して、第3のサブセットの値についてさらなる情報が考慮される限り、上述の限界は上へまたは下へ超える可能性がある。
本方法の上述の個々の工程は、ここでは、必ずしも上記に述べた順序で行う必要はない。むしろ、例えば、積分比を比較して第1のサブセットを選択する工程は、多数の積分比値を決定した後に直接行うことも可能である。同様に、例えば、距離値を比較して第2のサブセットを選択する工程は、多数の距離値を決定した後に直接行うことができる。当業者には、第1のサブセットと第2のサブセットを比較する工程は、第1のサブセットおよび第2のサブセットが形成された時にだけ行うことができることは言うまでもない。
さらなる変形例では、上に述べた工程である積分比値を比較し、第1のサブセットを選択し、距離値を比較し、第2のサブセットを選択し、第1のサブセットと第2のサブセットを比較し、試料に含まれる物質が基準物質として同定されるか否かを決定する工程は、試料に含まれるすべての物質が基準物質を用いて明白に同定されるまで、そうでなければさらなるNMR基準スペクトルが存在しなくなるまで繰り返される。ここで、この繰り返しの各工程において、好ましくは別の基準物質の別のNMR基準スペクトルをそれぞれの比較目的に使用する。このように、対応する反復法によって試料に含まれる様々な物質を異なる基準物質に割り当てることができる。これの唯一の必要条件は、個々の基準物質に対してNMR基準スペクトルがすでに存在することである。NMR基準スペクトルは、測定によって、シミュレーションによって、または他の方法によって生成できる。これらのNMR基準スペクトルは、好ましくはデータベースに保存される。
距離値は、基本的に、検討されるスペクトル値の共鳴特性を特徴づけることを可能にするのに適したどんな方法によっても決定できる。
好ましくは、距離値は、位置値の直接の差として、位置値の標準化された差として、または位置値の商として計算される。絶対位置値を考慮すると、共鳴周波数の直接の差(ν=T+Δν)を用いることができる。Tは、ここでは使用するNMRスペクトロメーターのキャリア周波数(動作周波数またはプロトン共鳴周波数とも呼ばれる)をさす。Δνは、物質Aに属するそれぞれのシグナルの自然周波数の割当分をさす。
あるいは、共鳴周波数の標準化された差の使用が、距離値を計算するのに推奨され、この際、位置値はもはやHzで表さず、ppmで表す。最後に、商を求めることによって2つのピークまたはライン間の距離を明白に決定することも可能である。この場合キャリア周波数は個々のシグナルの自然周波数の割当分よりもはるかに大きいので、比による距離の明白な割当てが可能である(T>>Δν)。
1つの変形例では、積分比は、いずれの場合もNMRスペクトルの2つだけの積分値から形成される。あるいは、またはこれに補足して、好ましくは距離値も、いずれの場合もNMRスペクトルの2つだけの位置値から計算される。物質Aにn個の異なるラインが存在する場合、いずれの場合も2つのライン間に(n−n)/2個の意味のある積分比が存在し、そして、いずれの場合も2つのライン間にそれと同じ数の意味のある距離値が確実に存在する。n個の積分比または距離値に基づいて、好ましくは1の値を有するn個の前記値が上で説明した検討事項に従って減算される。値の残りの群のその後の除算は、前記値の半数のそれぞれが前記値の他の半分の逆数値に対応するので、2で割られる。結果的に、(前式に見られるように)意味のある積分比値または距離値の数は、すべての積分比値または距離値の数の半分未満にすぎない。距離値は、ピーク距離またはライン距離と呼ぶこともできる。
対応する積分比値または距離値を決定するために、2つだけの積分値または2つだけの位置値を使用することは、この例では、積分比値および距離値に含まれる情報が、あまり複雑でなく、しかし比較的簡単な方法で、基礎をなすスペクトル値になお起因しうるという利点を有する。このことは本方法の実行を容易化し促進(facilitate)する。
さらなる変形例では、試料に含まれる物質は、具体的な物質として質的に同定されるだけでなく、定量もされる。つまり、この変形例では、試料に含まれる物質の濃度が検出される。そのような定量化を可能にするために、物質は、まず、質的な方法で同定されなければならない。これが行われれば、試料に含まれる物質を定量化するためにどのNMR基準スペクトルが使用できるかも分かる。例えば、NMRスペクトルの積分値を、NMR基準スペクトルと同じスペクトル値の対応する積分値と比較できる。NMR基準スペクトルの基礎となる物質の濃度が分かる限り、試料中の物質の濃度をこのような方法で決定できる。積分値に対するプロトン濃度が分かる場合、他のすべての積分値は、その積分値からプロトン濃度に変換できる。分子群が積分値または対応するスペクトル値に割り当てられている場合、その濃度はそこから計算できる。
測定精度を高めるために、ここでは、NMRスペクトルの個々の積分値とNMR基準スペクトルの対応する個々の積分値を比較するだけでなく、それぞれの検討される物質に特有のNMRスペクトルのすべての積分値と、NMR基準スペクトルの対応する積分値とを比較することも推奨され得る。理想的には、それぞれの検討される物質の同じ濃度を、NMRスペクトルのすべてのスペクトル値またはスペクトル値の対応する積分値から検出できるはずである。しかし、実際は、測定精度に起因して、異なる積分値に基づいて得られた濃度間のより小さいずれが検出されることがある。このずれは、正規分布に従う周波数分布または頻度分布(frequency distribution)で説明できる。
できる限り簡単な方法で先行技術に従って従来の評価方法を行うことができるように、通常、デカップリングしたNMRスペクトルを用いて作業する。本方法は、デカップリングしたNMRスペクトルに基づいて行うこともできる。しかし、これは必要な条件ではない。むしろ、本方法に従って物質の同定を行うことができるように、デカップリングしないNMRスペクトルを用いてもよい。好ましい変形例では、本方法は、最初にデカップリングしたNMRスペクトルを用いることにより行われる。このように、試料に含まれる物質の明白な物質同定がまだ可能でないならば、同じ試料のデカップリングしないNMRスペクトルを用いて本方法をその後再び行う。デカップリングしないNMRスペクトルはデカップリングしたものに比べると複雑であり、従って従来の方法に従って評価するのは、より困難であるが、しかしデカップリングしたNMRスペクトルよりも多くの情報を含有することを考慮に入れる必要がある。このように、余剰な情報は、好ましい方法で、より困難な場合においてさえも物質同定を確実かつ首尾よく行うことができるように本方法において利用できる。好ましくは、デカップリングしたNMRスペクトルを分析する場合には、デカップリングしたNMR基準スペクトルも用いる。好ましくは、デカップリングしないNMRスペクトルを分析する場合には、デカップリングしないNMR基準スペクトルも用いる。
本発明の根底にある目的はまた、コンピュータで実行されたときに上で述べた説明に従う方法を行うようコーディングされたプログラムを含むソフトウェアを有するソフトウェア製品によって実現される。そのようなソフトウェアは、試料中に含まれる様々な物質をNMRスペクトルに基づいて具体的な物質として自動的に同定できる方法のこれまで未解決であった技術的問題に対する技術的解決を提示する。このソフトウェアを実行するために、様々な条件下で記録されたNMRスペクトルを含む利用可能な広範囲のデータベースを保持する必要はないため、対応するソフトウェアを使用した際の計算量はかなり減少する。非常に有利な方法では、対応する物質同定を用いることにより資源、時間および金を節約できる。さらに、自動物質同定はこのように様々な条件下でおよび様々な計測器で測定されたNMRスペクトルに利用可能となる。
本発明を、図面および実施例を用いてこれからさらに説明する。
物質AのNMRスペクトルを示す図である 距離値の計算を説明するための、NMRスペクトルの2つのラインのグラフによる説明を示す図である。 試料のNMRスペクトルと図1の物質AのNMRスペクトルの比較を示す図である。 (a)はアデノシンを含まない複合材料(composite)試料B1のNMRスペクトルを示す図であり、(b)はアデノシンを含む複合材料試料B1のNMRスペクトルを示す図である。 図4(b)のNMRスペクトルに基づいて検出されたアデノシン濃度の頻度分布の、グラフによる説明を示す図である。
次の図面の説明は、以下に詳しく述べる方法の例示的実施形態として理解されるべきであり、該方法の個々の工程は、他の構成部分よりも詳細に述べられる。
図1は、基準物質の役割を果たす物質AのNMRスペクトルを示す。このスペクトルは、化学シフト(ppmで表される)に対してプロットしており、個々のシグナルの強度を示す。図1のスペクトルは、5本のラインすなわちピークP1、P2、P3、P4およびP5を有する。これらのピークのうちの各個々のピークは、物質Aの全分子中の分子群の特性である。図1のNMRスペクトルの個々のピークは互いに十分離れているので、特別のライン分離を行う必要はない。むしろ、個々のピークのスペクトル値はNMRスペクトルから直接推測できる。各スペクトル値は、個々のピークにおけるピーク面積を規定する積分値、およびそれぞれの検討されるピークの化学シフトを規定する位置値からなる。次の表1は、物質AのNMRスペクトルに含まれる5つのスペクトル値の個々の積分値および位置値を列挙する。
表1:物質AのNMRスペクトルに含まれる個々のピークの積分値および位置値
Figure 0005945365
すでに説明したように、物質Aにn個の異なるピークがある場合、(n−n)/2の意味のある積分比、およびピーク距離または距離値が存在する。距離値は、どのスケーリングを使用するかに応じて、(i)共鳴周波数の直接の差として、または(ii)共鳴周波数の標準化された差として、または(iii)比として、キャリア周波数に関して記載される共鳴周波数を使用して計算できる。
図2は、NMRスペクトルの個々のピークの位置値から距離値を求めるための様々な計算方法を説明する。軸1は、スケーリングをヘルツ(Hz)で規定し、軸2はスケーリングをppmで示す。ヘルツスケーリングに基づいて、個々の共鳴周波数の直接の差または共鳴周波数の商を求めることができる。ppmスケールに基づいて、共鳴周波数の標準化された差が検出できる。
距離値を計算する方法の3つの可能性を、対応する式を用いて下で再び説明する:
Figure 0005945365
Figure 0005945365
Figure 0005945365
ここで、表1に基づいて、最初にすべての可能性のある積分比が、いずれのピークの場合も2つの積分値から生成される。つまり、各積分値を他の全ての積分値の1つ1つで除算する。対応する計算の根拠となる式(basis)、ならびに表1の積分値に対する具体的な計算結果を次の表2に示す。
表2:積分値から積分比値を計算する計算の根拠式、および表1の積分値に対応する計算結果
Figure 0005945365
ここで、表1の位置値に基づいて、いずれの場合も2つのピークの対応する距離がピーク距離または距離値として計算される。これはその後、上で述べた第2の変形例(共鳴周波数の標準化された差としての距離値)に従う例として例示される。
表3:共鳴周波数の標準化された差として距離値を計算するための計算の根拠式、および表1の位置値に対する計算結果
Figure 0005945365
あるいは、共鳴周波数の標準化された差の代わりに、個々の共鳴周波数の商を用いて、いずれの場合も2つのピークの距離を計算してもよい。これのための計算の根拠式、ならびに表1の位置値に対応する計算結果を次の表4に示す。
表4:商に基づいて距離値を計算するための計算の根拠式、および表1の位置値に対する具体的な計算結果
Figure 0005945365
図3は、図1ですでに説明した物質AのNMRスペクトルを、NMR基準スペクトル(上側の曲線、破線)として示し、さらに試験スペクトルと呼ばれる試料のNMRスペクトルを示す(下側の曲線、実線)。前記試料は同定する物質を含有する。先行技術で公知の手作業による評価方法によれば、目視比較によって、同定する物質を含む試料のNMRスペクトル中において、物質AのNMR基準スペクトルに含まれるピークを探す。この場合では、試料のNMRスペクトルの複雑さが比較的低いので、この方法は実際にまだ可能である。
しかし、一例として説明される本方法は、異なるアプローチをとる。従って、試料のNMRスペクトルに含まれるピークを物質AのNMR基準スペクトル中の対応するピークに割り当てることをパターンマッチングによって行わない。むしろ、表2〜4で説明されたマトリックスにおける積分比値および距離値を互いに比較する。この目的のため、全ての可能な積分比の積分比値が、いずれの場合も試料のNMRスペクトルの2つの積分値からここで計算される。さらに、いずれの場合も2つのピークのすべての距離値が、試料のNMRスペクトルの対応する位置値に基づいて計算される。これは、物質AのNMR基準スペクトルについて上ですでに説明した方法で行われる。
その後、試料のNMRスペクトルの積分比値をNMR基準スペクトルの積分比値と比較する。同様のやり方で、試料のNMRスペクトルの距離値をNMR基準スペクトルの距離値と比較する。
次の表5は、そのような方法で計算された試料のNMRスペクトルの積分比値を示す。表中、NMR基準スペクトルの積分比値に対応する積分比値にはマーキングが施されている。
表5:NMR基準スペクトルの積分比値に対応する所にマーキングが施された、試料のNMRスペクトルのピークの積分比値
Figure 0005945365
表では、それぞれの積分比値が互いに±0.002未満の範囲内で異なる場合に、試料のNMRスペクトルの積分比値とNMR基準スペクトルの対応する積分比値との対応があると想定した。表5中で斜線の網掛けでマーキングしたこれらの値は、積分比値からの第1のサブセットを表す。自分自身による除算から得られる意味のない値は、以降のすべての表においてもそうであるように、この表において水平線の網掛けをつけられる。
次の表6では、試料のNMRスペクトルのピークに対応する位置値に基づき、いずれの場合も2つのピーク間のすべての可能な距離値が示されている。上で説明したように、距離値の計算は、差または商に基づいて行うことができる。物質AのNMR基準スペクトルの距離値に対応する試料のNMRスペクトルの距離値に、この場合もマーキングを施している。それは、試料のNMRスペクトルの距離値が、NMR基準スペクトルの距離値と±0.005未満の範囲内で異なる場合に、ここでは対応があるという想定で進められた。
表6:NMR基準スペクトルの距離値に対応する所にマーキングを施した、いずれの場合も試料のNMRスペクトルの2つのピーク間の距離値
Figure 0005945365
表6中で斜線の網掛けでマーキングした距離値は、値の第2のサブセットを表す。
ここで、表5の値と表6の値を比較して、同じスペクトル値から生成され、表5と表6との両方でマーキングされた値をすべてフィルタにかけると、表7に示される結果が得られる。
表7:同じスペクトル値から形成された第1のサブセットおよび第2のサブセットの値の箇所の視覚化
Figure 0005945365
表7中で斜線の網掛けをつけた値の箇所は、第1のサブセットと第2のサブセットとの間の交わりを表し、第3のサブセットと呼ぶことができる。マーキングしていないすべての列および行がここで表7から削除される場合には、試料のNMRスペクトルの個々のピークをNMR基準スペクトルの個々のピークと直接相関付けることができる。この相関すなわち割り当てを次の表8で示す。
表8:試料のNMRスペクトル中の物質Aのピークの、NMR基準スペクトル中の物質Aのピークへの割り当て
Figure 0005945365
物質同定のための方法の本例示的実施形態でも、NMR基準スペクトル中の物質Aのピークまたはスペクトル値の100%を、試料のNMRスペクトル中に再び見出すことができた。結果的に、物質Aとして試料の成分を明白に同定することができる。試料のさらなる構造を明らかにするためには、上で詳説した方法をさらに実行する必要がある。その時には別のNMR基準スペクトルが比較用途で使用される。
物質Aとして試料に含まれる物質の定性的判断のほかに、さらに、測定されたNMRスペクトルに基づいて、試料に含まれる物質Aの濃度について定量的に述べることが可能である。
上で試料Pj’のNMRスペクトルからのピークを基準物質Pi(i=1、2、…、5)の各ピークに割り当てたが、ここでこれらの割り当てられたピークの1つを個々にそれぞれ用いて、試料のNMRスペクトル中の物質Aの濃度を次式によって計算できる。
Figure 0005945365
図4(a)は、7つの異なる個々の物質で構成される複合材料試料B1のNMRスペクトルを示す。複合材料試料B1は、ここではアデノシンを含まない。図4(b)は、同じ複合材料試料B1のNMRスペクトルを示すが、しかし、これには8番目の物質として0.5mg/mlのアデノシンが添加されている。アデノシンに起因すると思われるピークは、実線で図示され、残りの7つの物質に起因すると思われるピークは、破線で図示される。図4の両方のNMRスペクトルにおいて、強度を再び化学シフト(ppmで表される)に対してプロットする。
複合材料試料B1において、前に説明した物質同定の方法を行うことにより、アデノシンに起因するピークをアデノシンのNMR基準スペクトルを使用して同定した。複合材料試料B1中のアデノシン濃度を、その後に、前記物質たるアデノシンに割り当てられた各ピークから決定した。この目的のため、上で説明した式を使用し、アデノシンのNMR基準スペクトルを作るために用いたアデノシン溶液のアデノシン濃度は既知とした。
図5は、このように検出された複合材料試料B1中のアデノシン濃度の頻度分布を示す。ここで注目すべきは、最も多く検出された0.5075mg/mlの測定値が0.5mg/mlの上で設定した値からわずか1.5%しか離れていなかったことである。このことは、ここで説明した方法による定量的な物質同定が極めて高い精度で可能であることを示す。
アデノシンについてだけでなく精度を検出できるように、複合材料試料B1の7つすべての物質を個々に、前に説明した方法によって、最初は定性的に、その後は定量的に決定した。対応する定量化の結果を次の表9に示す。表9の「設定値」とは、ここでは複合材料試料B1中に実際に含まれていたそれぞれの物質の濃度をさす。前記濃度は複合材料試料B1の組成に関し、正確に検出され、本定量化法の精度について述べることが可能となる。
表9:複合材料試料B1(アデノシンなし)に存在する個々の物質すべての定量化の結果
Figure 0005945365
表10:複合材料試料B1(アデノシンあり)に存在する個々の物質すべての定量化の結果
Figure 0005945365
ここで具体的に述べた定量化方法の精度について広範な言明(extensive statements)ができるように、多数の個々の物質を各々0.1mg/mlの濃度をもつ溶液として準備し、NMR分光法によって測定した。その後、このように検出されたNMRスペクトルと他の濃度の同じ物質の対応するNMR基準スペクトルとの比較を行った。このように検出された測定値を、その後、設定値と比較して測定誤差を計算した。ここで注目すべきは、測定誤差が定常的に1桁台前半のパーセント範囲にあり、常に10%よりもかなり下にとどまることである。このことは、本実施形態の定量化法の高い精度を証明している。
表11:様々な個々の物質の定量化の結果
Figure 0005945365
したがって定量化法を上に説明した同定方法と組み合わせることによって、個々の物質を特定の物質として明白に同定できるだけでなく、複合材料試料中のこれらの物質の濃度について正確に述べることも可能である。
例として説明されている、本方法の例示的実施形態は、上の説明の範囲内でいかようにでも変更可能であり、また、特許請求の範囲に記載された発明を制限すると解釈されるものではない。

Claims (9)

  1. 試料中の物質の同定のための方法であって、
    a)少なくとも1つのNMR活性原子核を有する少なくとも1つの物質を含有する試料のNMRスペクトルを得る工程と、
    b)前記NMRスペクトルを別個のスペクトル値に変換する工程であって、各スペクトル値が、前記NMRスペクトルの個々のラインまたは前記NMRスペクトルの個々のスペクトル部分の高さおよび/もしくは面積を規定する積分値と、前記NMRスペクトルにおける検討されるラインまたは検討されるスペクトル部分の位置を規定する位置値とを有する工程と、
    c)多数の積分比値を、いずれの場合も前記NMRスペクトルの2つの積分値から求める工程であって、各積分比値が、基礎をなすスペクトル値の高さおよび/もしくは面積の比を規定する工程と、
    d)多数の距離値を、いずれの場合も前記NMRスペクトルの2つの位置値から求める工程であって、各距離値が、前記基礎をなすスペクトル値間のスペクトル距離を規定する工程と、
    e)前記NMRスペクトルの前記積分比値と、少なくとも1つの基準物質のNMR基準スペクトルの対応する積分比値とを比較する工程と、
    f)第1の適切なサブセットを前記NMRスペクトルの前記積分比値から選択する工程であって、前記第1のサブセットが、それぞれの場合において設定可能である第1の許容限界内の前記NMR基準スペクトルの積分比値に対応する積分比値を含む工程と、
    g)前記NMRスペクトルの前記距離値と、前記NMR基準スペクトルの対応する距離値とを比較する工程と、
    h)第2の適切なサブセットを前記NMRスペクトルの前記距離値から選択する工程であって、前記第2のサブセットが、それぞれの場合において設定可能である第2の許容限界内の前記NMR基準スペクトルの距離値に対応する距離値を含む工程と、
    i)第1のサブセットと第2のサブセットを比較し、同じスペクトル値から形成した、両方のサブセットからのそれら積分比値および距離値を第3の適切なサブセットとして選択する工程と、
    j)前記第3のサブセットの前記各値の質判定基準を用いて、前記試料中に含まれる前記物質が、前記基準物質として同定されるか否かを決定する工程であって、前記判定基準が、これらの各値と、前記NMR基準スペクトルの前記積分比値および/または前記距離値とを比較することにより決定される工程と
    を含む方法。
  2. 請求項1に記載の方法において、前記NMR基準スペクトルが、1つだけの基準物質のNMRスペクトルであることを特徴とする方法。
  3. 請求項1または2に記載の方法において、前記質判定基準が、前記NMR基準スペクトルの前記積分比値と前記NMRスペクトルの前記積分比値とのずれ、および/または前記NMR基準スペクトルの前記距離値と前記NMRスペクトルの前記距離値とのずれの尺度を含むことを特徴とする方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法において、前記質判定基準が、前記NMR基準スペクトルの積分比値または距離値の数と比較した、前記第3のサブセットの値の数の尺度を含むことを特徴とする方法。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法において、前記工程e)〜j)が、前記試料中に含まれる前記物質が基準物質として同定されるまで、または、NMR基準スペクトルがもうそれ以上存在しなくなるまで他の基準物質のさらなるNMR基準スペクトルを用いて繰り返されることを特徴とする方法。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法において、前記距離値が、前記位置値の直接の差として、前記位置値の標準化された差としてまたは前記位置値の商として計算されることを特徴とする方法。
  7. 請求項1〜のいずれか一項に記載の方法において、前記試料中に含まれる前記物質が、量的に同定されることを特徴とする方法。
  8. 請求項1〜のいずれか一項に記載の方法において、前記方法が、デカップリングしたNMRスペクトルを用いて行われ、前記物質が明白に同定されていない場合には、同じ試料のデカップリングしないNMRスペクトルを用いることにより再度行われることを特徴とする方法。
  9. コンピュータで実行されたとき、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法を行うようコーディングされたプログラムを含むソフトウェアを有するソフトウェア製品。
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