以下、本発明の各実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。本発明の実施の形態1は、本発明の基本的態様の例であり、本発明の実施の形態2〜実施の形態5は、本発明の具体的態様の例である。
なお、以下の各実施の形態において、補聴器の収音信号に含まれる音は、空気伝播音と固体伝播音とに大別される。
空気伝播音は、空気を媒介として補聴器のマイクロホンに伝達される音であり、例えば、補聴器を装着したユーザの会話相手の発話音声である。
固体伝播音は、補聴器自体を含む固体を媒介として補聴器のマイクロホンに伝達される音である。
本実施の形態において、収音信号の空気伝播音による成分は、「音成分」といい、収音信号の固体伝播音による成分は、「振動成分」という。
固体伝播音は、ユーザ自身の発話(以下「自発話」という)音声と、補聴器の脱着時における手と補聴器筐体との接触などに伴う接触振動による音とに分類される。すなわち、振動成分は、自発話によるもの(以下「自発話ノイズ」という)と、接触振動ノイズとに分類される。
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係る補聴器は、ユーザの左右いずれかの耳に装着し、収音と、所定の処理を行った音声を拡声して装用者の耳穴内への出力とを行う、耳掛け型の補聴器に適用した例である。以下に説明する音響処理装置の各部は、例えば、補聴器の内部に配置されたマイクロホン、レシーバ、およびCPU(central processing unit)、制御プログラムを格納したROM(read only memory)などの記憶媒体を含むハードウェアにより実現される。
図1は、本実施の形態に係る補聴器の構成を示すブロック図である。
図1において、補聴器100は、第1および第2のマイクロホン110−1、110−2(2つのマイクロホン110)、振動成分抽出部120、振動ノイズ識別部130、音響信号処理部140、およびレシーバ150を有する。
第1および第2のマイクロホン110−1、110−2は、補聴器100の内部の異なる位置に配置され、それぞれ収音を行って収音信号を取得する。
振動成分抽出部120は、第1および第2のマイクロホン110−1、110−2がそれぞれ取得した収音信号から、それら2つの収音信号間の相関性が低い成分(以下「無相関成分」という)を、帯域別に振動成分として抽出する。無相関成分は、空気伝播音以外の成分であり、主に、マイクロホン110の振動板を直接に駆動する振動成分か、マイクロホン110固有の熱雑音成分にあたる。熱雑音成分のレベルは低いため、レベルがある一定以上の無相関成分は、振動成分とほぼ等しい。
振動ノイズ識別部130は、振動成分抽出部120で抽出された帯域別の振動成分に基づいて、接触振動ノイズが発生したか否かを判断する。例えば、振動ノイズ識別部130は、帯域別の振動成分のうち、低周波数帯域の振動成分のみが検出された場合、当該振動成分を、自発話ノイズとして、接触振動ノイズと区別する。また、例えば、振動ノイズ識別部130は、振動成分の低周波数帯域のレベルに対して、振動成分の高周波数帯域のレベルが相対的に大きいことを条件として、接触振動ノイズが発生したと判断する。
音響信号処理部140は、上記2つの収音信号を補聴処理して音響信号を生成する際に、音響信号に対して、接触振動ノイズの発生の有無に応じた処理を行う。音響信号処理部140は、例えば、接触振動ノイズの発生の有無に応じて、音響信号の音量を制御する。
レシーバ150は、音響信号を音に変換する。
第1および第2のマイクロホン110−1、110−2は、上述の通り、位置が異なるため、2つの収音信号の振動成分の相関性は、2つの収音信号の音成分の相関性に比べて低い。したがって、補聴器100は、2つの収音信号間の無相関成分を抽出することにより、収音信号の振動成分を精度良く抽出することができる。
また、ユーザ200の自発話ノイズの高周波数帯域のレベルは、接触振動ノイズの高周波数帯域のレベルに比べて、非常に低い。したがって、補聴器100は、振動成分の低周波数帯域のレベルに対する振動成分の高周波数帯域のレベルの相対的な大きさに基づいて、その振動成分を精度良く識別することができる。具体的には、補聴器100は、その振動成分が、自発話ノイズおよび接触振動ノイズ(以下適宜「ノイズ」と総称する)のいずれであるかを、識別することができる。
すなわち、本実施の形態に係る補聴器100は、収音信号間の無相関成分を振動成分として抽出し、その高周波数帯域のレベルに基づいてノイズを識別するので、収音信号から接触振動ノイズを検出することができる。つまり、本実施の形態に係る補聴器100は、接触振動ノイズを発生初期の段階で検出することにより、結果としてハウリングを防止することできる。
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る補聴器は、補聴処理とハウリング抑制のための処理とを行う、耳掛け型の補聴器に適用した例である。
より具体的には、本実施の形態に係る補聴器は、収音信号から帯域別の振動成分を抽出し、これを自発話ノイズと接触振動ノイズとのいずれであるかを識別するものである。そして、本実施の形態に係る補聴器は、接触振動ノイズを検出した時に、補聴器の耳との脱着が行われており、音響系の変化に起因するハウリングが発生すると推定して、ハウリング抑制のための処理を行うものである。
以下に説明する音響処理装置の各部は、例えば、補聴器の内部に配置されたマイクロホン、レシーバ、CPU、および制御プログラムを格納したROMなどの記憶媒体を含むハードウェアにより実現される。
まず、本実施の形態に係る補聴器の構成について説明する。
図2は、本実施の形態に係る補聴器の構成を示すブロック図である。
図2において、補聴器100は、第1および第2のマイクロホン110−1、110−2(2つのマイクロホン110)、振動成分抽出部120、振動ノイズ識別部130、音響信号処理部140、およびレシーバ150を有する。
第1および第2のマイクロホン110−1、110−2は、補聴器100の内部の異なる位置に配置され、それぞれ収音を行って収音信号を取得する。第1のマイクロホン110−1は、取得した収音信号(以下「第1の収音信号」という)を、振動成分抽出部120および音響信号処理部140へ出力する。また、第2のマイクロホン110−2は、取得した収音信号(以下「第2の収音信号」という)を、振動成分抽出部120および音響信号処理部140へ出力する。
図3は、補聴器の外観の一例を示す図である。
図3に示すように、補聴器100は、補聴器本体310、音響管320、およびイヤチップ330を有する。補聴器本体310は、耳介に掛けられる。イヤチップ330は、補聴器本体310が耳介に掛けられた状態で、耳穴に埋め込まれた状態となる。
第1のマイクロホン110−1および第2のマイクロホン110−2は、それぞれ、補聴器100の補聴器本体310の中に収められた、無指向性マイクロホンである。第1のマイクロホン110−1および第2のマイクロホン110−2は、スリット等の穴を介して周囲音の収音を行う。
また、後述のレシーバ150は、補聴器100の補聴器本体310の中に収められたスピーカである。レシーバ150から拡声された音声は、音響管320を通り、イヤチップ330から、耳穴内に出力される。
このような2つの無指向性のマイクロホンを備えた補聴器は、広く普及している。これは、2つの収音信号から音声の指向性を合成し、簡易な装置で安価に指向性のある音響信号を出力することができるからである。
図4は、補聴器の装着状態を示す図である。
図4に示すように、補聴器100は、例えばユーザ200の左耳に装着されて、ユーザ200の頭部の左側に固定される。
振動成分抽出部120は、第1および第2のマイクロホン110−1、110−2がそれぞれ取得した収音信号から、それら2つの収音信号間の相関性が低い成分(以下「無相関成分」という)を、帯域別に振動成分として抽出する。ここでは、帯域別に振動成分として、低域振動成分と高域振動成分の2つの帯域で振動成分を抽出する例について、説明する。
振動成分抽出部120は、帯域別に信号成分の抽出および振動成分の抽出を行う。振動成分抽出部120は、第1の帯域信号抽出部121−1および第2の帯域信号抽出部121−2(帯域信号抽出部)と、低域振動成分抽出部122−1および高域振動成分抽出部122−2(振動成分抽出部)とを有する。
図2の帯域信号抽出部121は、第1および第2のマイクロホン110−1、110−2の2つの収音信号のそれぞれから、低周波数帯域の信号および高周波数帯域の信号を抽出する。
なお、ここでは、低周波数帯域(以下、適宜「低域」という)とは、自発話音声の振動成分および接触振動の振動成分を含むような帯域であり、例えば、約1kHz以下の帯域である。また、高周波数帯域(以下、適宜「高域」という)とは、自発話音声の振動成分を含まず接触振動の振動成分を含むような帯域であり、例えば約1kHzを越える帯域である。
第1の帯域信号抽出部121−1は、第1の収音信号から、低周波数帯域の信号を抽出し、抽出した信号(以下「第1の低域信号」という)を、低域振動成分抽出部122−1へ出力する。また、第1の帯域信号抽出部121−1は、第1の収音信号から、高周波数帯域の信号を抽出し、抽出した信号(以下「第1の高域信号」という)を、高域振動成分抽出部122−2へ出力する。
第2の帯域信号抽出部121−2は、第2の収音信号から、低周波数帯域の信号を抽出し、抽出した信号(以下「第2の低域信号」という)を、低域振動成分抽出部122−1へ出力する。また、第2の帯域信号抽出部121−2は、第2の収音信号から、高周波数帯域の信号を抽出し、抽出した信号(以下「第2の高域信号」という)を、高域振動成分抽出部122−2へ出力する。
第1の帯域信号抽出部121−1および第2の帯域信号抽出部121−2は、例えば、同一の構成を有する。
図5は、第1および第2の帯域信号抽出部121−1、121−2の構成の一例を示すブロック図である。
図5に示すように、第1および第2の帯域信号抽出部121−1、121−2は、例えば、それぞれ、通過帯域が異なる2つの帯域フィルタを有する。具体的には、第1の帯域信号抽出部121−1は、低域フィルタ(LPF:Low Pass Filter)410−1、および、高域フィルタ(HPF:High Pass Filter))410−2を有する。また、第2の帯域信号抽出部121−2は、低域フィルタ(LPF)410−1、および、高域フィルタ(HPF)410−2を有する。
低域フィルタ410−1は、第1の収音信号(第2の収音信号)のうち低周波数帯域の成分のみを通過させ、第1の低域信号(第2の低域信号)として出力する。
高域フィルタ410−2は、第1の収音信号(第2の収音信号)のうち高周波数帯域の成分のみを通過させ、第1の高域信号(第2の高域信号)として出力する。
なお、第1および第2の帯域信号抽出部121−1、121−2は、時間波形を周波数スペクトルに変換するFFT(Fast Fourier Transform)により、低域信号および高域信号の抽出を行ってもよい。
図2の低域振動成分抽出部122−1は、第1の低域信号および第2の低域信号から、低周波数帯域の振動成分を抽出する。更に、低域振動成分抽出部122−1は、抽出した振動成分(以下「低域振動成分」という)のレベルを示す信号(以下「低域振動成分レベル信号」という)を、振動ノイズ識別部130へ出力する。
より具体的には、低域振動成分抽出部122−1は、まず、第1の低域信号のレベルを示す信号(以下「第1の低域レベル信号」という)と、第2の低域信号のレベルを示す信号(以下「第2の低域レベル信号」という)とを算出する。
本実施の形態において、第1の低域レベル信号は、第1の低域信号の二乗値を平滑化した信号とする。また、第2の低域レベル信号は、第2の低域信号の二乗値を平滑化した信号とする。
そして、低域振動成分抽出部122−1は、第1の低域レベル信号と第2の低域レベル信号との間の無相関成分を、低域振動成分レベルとして抽出する。
高域振動成分抽出部122−2は、第1の高域信号および第2の高域信号から、高周波数帯域の振動成分を抽出する。更に、高域振動成分抽出部122−2は、抽出した振動成分(以下「高域振動成分」という)のレベルを示す信号(以下「高域振動成分レベル信号」という)を、振動ノイズ識別部130へ出力する。
より具体的には、高域振動成分抽出部122−2は、まず、第1の高域信号のレベルを示す信号(以下「第1の高域レベル信号」という)と、第2の高域信号のレベルを示す信号(以下「第2の高域レベル信号」という)とを算出する。
本実施の形態において、第1の高域レベル信号は、第1の高域信号の二乗値を平滑化した信号とする。また、第2の高域レベル信号は、第2の高域信号の二乗値を平滑化した信号とする。
そして、高域振動成分抽出部122−2は、第1の高域レベル信号と第2の高域レベル信号との間の無相関成分を、高域振動成分として抽出する。
空気伝播音は、第1および第2のマイクロホン110−1、110−2間で相関が高い。また、固体伝播音は、第1および第2のマイクロホン110−1、110−2間で相関が低い。すなわち、低域振動成分抽出部122−1および高域振動成分抽出部122−2は、空気伝播音と固体伝播音(振動ノイズ)との間の相関の違いに着目して、振動ノイズをそれぞれ抽出する。
低域振動成分抽出部122−1および高域振動成分抽出部122−2は、入力される信号の周波数帯域が異なるが、同一の構成を有する。
図6は、低域振動成分抽出部および高域振動成分抽出部122−1、122−2の構成の一例を示すブロック図である。
図6に示すように、低域振動成分抽出部および高域振動成分抽出部122−1、122−2は、第1の二乗値算出部510−1、第2の二乗値算出部510−2、第1の平滑化部520−1、第2の平滑化部520−2、可変乗算器(振幅補正乗算器)530、加算器540、および絶対値算出部550を、それぞれ有する。
第1の二乗値算出部510−1は、第1の低域信号(第1の高域信号)の二乗値を示す信号を、第1の平滑化部520−1へ出力する。
第2の二乗値算出部510−2は、第2の低域信号(第2の高域信号)の二乗値を示す信号を、第2の平滑化部520−2へ出力する。
第1の平滑化部520−1は、例えば、LPFにより、第1の低域信号(第1の高域信号)の二乗値を示す信号を平滑化し、第1の低域レベル信号(第1の高域レベル信号)として、加算器540へ出力する。
第2の平滑化部520−2は、例えばLPFにより、第2の低域信号(第2の高域信号)の二乗値を示す信号を平滑化し、第2の低域レベル信号(第2の高域レベル信号)として、可変乗算器530へ出力する。
なお、平滑化における時定数は、第1のマイクロホン110−1と第2のマイクロホン110−2との間隔による、空気伝播音の到来時間差により、信号間の相関が低くなる影響を緩和するような値に設定される。なおかつ、平滑化における時定数は、後段の加算器540において、空気伝播音が好適にキャンセルされるような適切な値に設定される。
可変乗算器530は、加算器540の出力である差分値から補正乗算値を求め、求めた補正乗算値を、第2の低域レベル信号(第2の高域レベル信号)に乗じる。そして、可変乗算器530は、第2の低域レベル信号(第2の高域レベル信号)に補正乗算値を乗じて得られる信号を、加算器540へ出力する。
加算器540は、第1の低域レベル信号(第1の高域レベル信号)と、補正乗算値が乗じられて振幅補正が行われた第2の低域レベル信号(第2の高域レベル信号)との差分信号を、絶対値算出部550および可変乗算器530へ出力する。加算器540の出力信号は、第1の低域レベル信号(第1の高域レベル信号)と第2の低域レベル信号(第2の高域レベル信号)との間の、無相関成分(帯域ごとの無相関成分)を示す。
可変乗算器530および加算器540は、加算器540の差分信号から補正乗算値を算出し、これを第2の低域レベル信号(第2の高域レベル信号)に掛け合わせて音圧感度補正を行う。これにより、可変乗算器530および加算器540は、低周波数帯域(高周波数帯域)における無相関成分を抽出する。この音圧感度補正は、製造工程などに起因する、第1および第2のマイクロホン110−1、110−2の感度ばらつきの補正を含む。
また、この音圧感度補正は、耳などの影響により、第1および第2のマイクロホン110−1、110−2間で音響的な回りこみに差異が生じることにより発生する、感度ばらつきの補正を含む。この音圧感度補正により、第1および第2の収音信号中に多く含まれ、かつ、相関の高い空気伝播音の成分を、適切に打ち消して、無相関成分を抽出することができる。
加算器540において、第2の低域レベル信号(第2の高域レベル信号)の符号は逆転する。可変乗算器530は、この差分信号の値が0に近づくように、補正乗算値(可変乗算値)を更新する。
差分信号が負である場合、平滑化された第2の低域レベル信号(第2の高域レベル信号)は、平滑化された第1の低域レベル信号(第1の高域レベル信号)よりも大きい。したがって、可変乗算器530は、例えば、ゲイン(補正乗算値)を下げる。
一方、差分信号が正である場合、平滑化された第2の低域レベル信号(第2の高域レベル信号)は、平滑化された第1の低域レベル信号(第1の高域レベル信号)よりも小さい。
したがって、可変乗算器530は、例えば、ゲイン(補正乗算値)を上げる。これにより、通常使用時に収音されるマイクロホン110間で相関の高い空気伝播音を用いて、マイクロホン110間の音圧感度補正を行うことが可能となる。そして、これにより、無相関成分のみを抽出することが可能となる。
絶対値算出部550は、帯域ごとの無相関成分の絶対値を示す信号を、低域振動成分レベル信号(高域振動成分レベル信号)として算出し、出力する。
振動ノイズ識別部130は、振動成分の低周波数帯域のレベルに対して、振動成分の高周波数帯域のレベルが相対的に大きいことを条件として、接触振動ノイズが発生したと判断する。そして、振動ノイズ識別部130は、出力部160を介して、識別結果を、音響信号処理部140へ出力する。
より具体的には、振動ノイズ識別部130は、低域振動成分レベルに対する高域振動成分レベルの比が、所定の閾値を超えていることを条件として、接触振動ノイズが発生したと判断する。そして、振動ノイズ識別部130は、接触振動ノイズが発生したと判断したとき、音響系の変化に起因するハウリングが発生すると判断して、ハウリング抑制のための所定の処理の実行を、音響信号処理部140に対して指示する。
音響信号処理部140は、2つの収音信号を補聴処理して音響信号を生成する際に、音響信号に対して、接触振動ノイズの発生の有無に応じた処理を行う。音響信号処理部140は、補聴処理部141および抑制処理部142を有する。
補聴処理部141は、第1の収音信号および第2の収音信号から、拡声処理などの所定の補聴処理を行って、音響信号を生成し、抑制処理部142へ出力する。
抑制処理部142は、音響信号を、レシーバ150へ転送する。また、抑制処理部142は、振動ノイズ識別部130からの指示があったとき、音響信号に対して、ハウリング抑制のための所定の処理を実行する。
レシーバ150は、補聴処理が行われた音響信号を音に変換し、補聴音として出力する。
自発話音声は、音声の性質上、1kHz以上の帯域のエネルギーが元々少ない。また、自発話音声のうちマイクロホン110に伝わる振動成分は、骨伝導による影響により、1kHz以下の帯域に集中する。
一方、接触振動の振動成分は、パルス性の振動ノイズであるため、数ヘルツから1kHz以上の高い周波数に亘る広帯域に分布する。
このため、低域にのみ振動ノイズが存在する場合、その振動ノイズは、自発話ノイズである。また、低域だけでなく高域にも振動ノイズが存在する場合、その振動ノイズは、接触振動ノイズである。したがって、補聴器100は、上述の通り、約1kHz以下の帯域を低域とし、約1kHzを超える帯域を高域とし、それぞれの振動成分を解析することにより、自発話ノイズと接触振動ノイズとを識別することができる。具体的には、補聴器100は、振動ノイズ識別部130において、帯域別の振動成分のうち、低周波数帯域の振動成分のみが検出された場合、当該振動成分を、自発話ノイズとして、接触振動ノイズと区別することができる。
ところが、空気伝播音でも、波長の短い高域信号は、補聴器周囲環境である頭部および耳介の凹凸の影響を受け易く、また、マイクロホン位置による位相差の影響を受ける。このため、無相関成分抽出では、第1および第2の高域レベル信号の差分を取っても、振動成分以外の成分が、高域振動レベル信号として誤って出力されてしまう場合がある。
そこで、補聴器100は、単なる高域の振動ノイズの有無ではなく、振動ノイズのレベルが高く、かつ、低域の振動ノイズのレベルに対する高域の振動ノイズのレベルが相対的に大きいか否かに基づいて、接触振動ノイズの識別を行う。言い換えると、補聴器100は、接触振動ノイズおよび自発話ノイズの両方に含まれる低域の振動レベルの検出を行い、次に高域の振動レベルを検出する手順で、振動ノイズの識別を行う。
このような補聴器100は、収音信号間の無相関成分を振動成分として抽出し、その高周波数帯域のレベルに基づいてノイズを識別するので、収音信号から接触振動ノイズを検出することができる。また、補聴器100は、本来の補聴処理に加えて、接触振動ノイズを検出したときにはハウリング抑制のための処理を音響信号に対して行うので、ハウリングを低減することができる。
以上で、本実施の形態に係る補聴器の構成についての説明を終える。
次に、補聴器100の動作について説明する。
図7は、補聴器100の動作の一例を示すフローチャートである。補聴器100は、例えば、図7に示す動作を、電源スイッチあるいはハウリング抑制に関する機能がオンとなったときに開始し、電源スイッチあるいはハウリング抑制に関する機能がオフとなったときに終了する。また、補聴器100は、図7に示す動作を行っている間、継続的に、第1の収音信号および第2の収音信号を取得し、補聴処理を行って音響信号を生成し、補聴音を出力するものとする。
まず、ステップS1100において、第1の帯域信号抽出部121−1は、第1の収音信号から、第1の低域信号および第1の高域信号を抽出する。また、第2の帯域信号抽出部121−2は、第2の収音信号から、第2の低域信号および第2の高域信号を抽出する。
そして、ステップS1200において、低域振動成分抽出部122−1は、第1の低域信号の二乗値および第2の低域信号の二乗値を、平滑化前の第1の低域レベル信号および第2の低域レベル信号として算出する。また、高域振動成分抽出部122−2は、第1の高域信号の二乗値および第2の高域信号の二乗値を、平滑化前の第1の高域レベル信号および第2の高域レベル信号として算出する。
そして、ステップS1300において、低域振動成分抽出部122−1は、平滑化前の第1の低域レベル信号および第2の低域レベル信号をそれぞれ平滑化して、平滑化後の第1の低域レベル信号および第2の低域レベル信号を算出する。また、高域振動成分抽出部122−2は、平滑化前の第1の高域レベル信号および第2の高域レベル信号をそれぞれ平滑化して、平滑化後の第1の高域レベル信号および第2の高域レベル信号を算出する。
そして、ステップS1400において、低域振動成分抽出部122−1は、平滑化後の第1の低域レベル信号および第2の低域レベル信号から、低周波数帯域における無相関成分を、低周波数帯域の振動成分として抽出する。また、高域振動成分抽出部122−2は、平滑化後の第1の高域レベル信号および第2の高域レベル信号から、高周波数帯域における無相関成分を、高周波数帯域の振動成分として抽出する。
そして、ステップS1500において、低域振動成分抽出部122−1は、低周波数帯域における無相関成分の絶対値をとった信号を、低域振動成分レベル信号として算出する。また、高域振動成分抽出部122−2は、高周波数帯域における無相関成分の絶対値をとった信号を、高域振動成分レベル信号として算出する。すなわち、低域振動成分抽出部122−1および高域振動成分抽出部122−2は、低域の無相関成分および高域の無相関成分を、低域振動成分レベルlow_levおよび高域振動成分レベルhigh_levに、それぞれレベル変換する。
そして、ステップS1600において、振動ノイズ識別部130は、低域振動成分レベル信号が示す、低域振動成分レベルlow_levが、予め定めた第1の閾値thr1以上であるか否かを判断する。
なお、振動ノイズ識別部130は、低域振動成分レベルlow_levが第1の閾値thr1以上である状態が所定時間以上に継続したときに、低域振動成分レベルlow_levが第1の閾値thr1以上であると判断するようにしてもよい。
振動ノイズ識別部130は、低域振動成分レベルlow_levが第1の閾値thr1以上ではない場合(S1600:NO)、ステップS1700へ進む。また、振動ノイズ識別部130は、低域振動成分レベルlow_levが第1の閾値thr1以上である場合(S1600:YES)、ステップS1800へ進む。
ステップS1700において、振動ノイズ識別部130は、振動ノイズはないと判断して、ステップS2100へ進む。
ステップS1800において、振動ノイズ識別部130は、低域振動成分レベルlow_levに対する高域振動成分レベルhigh_levの比(high_lev/low_lev、以下「帯域レベル比」という)を求める。そして、振動ノイズ識別部130は、求めた帯域レベル比が、予め定めた第2の閾値thr2以上であるか否かを判断する。
振動ノイズ識別部130は、帯域レベル比(high_lev/low_lev)が第2の閾値thr2以上ではない場合(S1800:NO)、ステップS1900へ進む。また、振動ノイズ識別部130は、帯域レベル比(high_lev/low_lev)が第2の閾値thr2以上である場合(S1800:YES)、ステップS2000へ進む。
ステップS1900において、振動ノイズ識別部130は、振動ノイズがあり、その振動ノイズは自発話ノイズであると判断して、ステップS2100へ進む。
ステップS2000において、振動ノイズ識別部130は、振動ノイズがあり、その振動ノイズは接触振動ノイズであると判断して、ステップS2100へ進む。
ステップS2100において、振動ノイズ識別部130は、「振動ノイズなし」、「自発話ノイズあり」、および「接触振動ノイズあり」のいずれかを示す識別結果を、出力部160を介して、抑制処理部142へ出力する。これにより、振動ノイズ識別部130は、抑制処理部142に対して、ハウリング抑制のための所定の処理の実行を命令する。識別結果は、例えば、vib_noi_type=0:振動ノイズなし、1:自発話ノイズあり、2:接触振動ノイズあり、というように、数値で表すことができる。
そして、ステップS2200において、抑制処理部142は、識別結果に基づいて、ハウリング抑制のための所定の処理を実行し、ステップS1100へ戻る。ここで、ハウリング抑制のための所定の処理とは、例えば、識別結果が「接触振動ノイズあり」である間、音響信号の音量を下げる処理である。
なお、抑制処理部142は、識別結果が「接触振動ノイズあり」である場合、音量抑圧を大きめに行い、抑圧制御における抑圧および復帰の動作が緩やかに行われるように、音量をコントロールすることが望ましい。これにより、補聴器100は、ハウリングを十分に抑え、補聴器100の脱着時の大きな音響系変動によるハウリングに備えることができる。
このような動作により、補聴器100は、収音信号から接触振動ノイズを検出し、ハウリング抑制のための所定の処理を実行することができる。
以上で、補聴器100の動作についての説明を終える。
以下、自発話ノイズと接触振動ノイズとの信号状態の違いを例示して、本実施の形態に係る補聴器100が収音信号から接触振動ノイズを検出することができることについて説明する。
図8は、自発話ノイズが含まれる場合における各信号の状態の一例を示す図である。ここでは、第1および第2の帯域信号抽出部121−1、121−2の低域フィルタの通過域カットオフ周波数帯域が50〜180Hz、高域フィルタの通過域カットオフ周波数帯域が2000〜3000Hzの場合の、実験データを示す。
図8Aは、第1の収音信号および第2の収音信号の波形を示す。図8Bは、低域振動成分レベル信号および高域振動成分レベル信号の波形と第1の閾値とを示す。図8Cは、識別結果の値の変化を示す。
図8Aに示すように、振動成分抽出部120は、相手話者の発話音声(以下「他発話音声」という)611と、自発話音声612とを含む、第1の収音信号613および第2の収音信号614を入力したとする。
図8Bに示すように、他発話音声611の区間において、低域振動成分レベル615(low_lev)は、平均的に小さい。また、このとき、低域振動成分レベル615(low_lev)は、第1の閾値617(thr1)を超えることはない。
また、他発話音声611の区間の一部区間において、高域振動成分レベル616は大きくなる。これは、高域振動成分レベル616(high_lev)については、補聴器周囲環境による影響や位相差の影響によって、マイクロホン出力間の相関関係が崩れるためである。
一方、図8Bに示すように、自発話音声612の区間において、低域振動成分レベル615(low_lev)は大きくなり、第1の閾値617(thr1)を超える。これは、自発話音声612が、発話された音声の骨伝導による固体伝播音を含むためである。
また、自発話音声612の区間において、高域振動成分レベル616(high_lev)は低い。これは、発話された音声の高域成分が、低域成分と比較して、骨伝導が少なく、また、音声中における成分も少ないため、補聴器のマイクロホンに振動として伝わりにくいためである。
これらにより、自発話音声612の区間では、帯域レベル比high_lev/low_levは、低くなり、第2の閾値(thr2)を超えない。
すなわち、高域の振動成分においては、低域の振動成分と比較して、自発話音声の成分に対する他発話音声の成分の比が、相対的に大きくなる。したがって、図8Cに示すように、識別結果618(vib_noi_type)は、自発話音声612の区間では「自発話ノイズあり」(vib_noi_type=1)となる。また、識別結果618(vib_noi_type)は、他の区間では「振動ノイズなし」(vib_noi_type=0)となる。
図9は、接触振動ノイズが含まれる場合における各信号の状態の一例を示す図であり、図8に対応するものである。
図9Aに示すように、振動成分抽出部120は、自発話音声621と、接触振動ノイズ(ここでは補聴器100を外すときのこすれ音)622とを含む、第1の収音信号623および第2の収音信号624を入力したとする。
図9Bに示すように、接触振動ノイズ622の区間では、低域振動成分レベル625(low_lev)および高域振動成分レベル626(high_lev)のいずれも高い。したがって、低域振動成分レベル625(low_lev)は、第1の閾値627(thr1)を超える。また、帯域レベル比high_lev/low_levは、高くなり、第2の閾値(thr2)を超える。
したがって、図9Cに示すように、識別結果628(vib_noi_type)は、接触振動ノイズ622の区間では、「接触振動ノイズあり」(vib_noi_type=2)となる。また、識別結果628(vib_noi_type)は、自発話ノイズ621の区間では、「自発話ノイズあり」(vib_noi_type=1)となる。そして、これら以外の区間において、識別結果628(vib_noi_type)は、「振動ノイズなし」(vib_noi_type=0)となる。
このように、本実施の形態に係る補聴器100は、収音信号から接触振動ノイズを精度良く検出することができる。
このように、本実施の形態に係る補聴器100は、収音信号間の無相関成分を帯域別に振動成分として抽出し、その高周波数帯域のレベルに基づいてノイズを識別するので、収音信号から接触振動ノイズを検出することができる。
また、これにより、本実施の形態に係る補聴器100は、マイクロホン以外の新たなセンサを設けることなく、補聴器100に元々備えられている2つの収音用のマイクロホン110を用いて、ハウリングを発生初期から抑制することができる。
更に、これにより、本実施の形態に係る補聴器100は、補聴器の小型化、軽量化、省電力化などを図りつつ、ハウリングの抑制を図ることができる。
また、本実施の形態に係る補聴器100は、上述の通り、帯域別に振動成分を解析することにより、自発話ノイズと接触振動ノイズとを識別することができる。これにより、補聴器100は、収音信号から、自発話ノイズを検出することができ、自発話の音響信号に対して、ハウリング検出時よりは比較的軽めの抑圧をかけることができるので、過度な抑圧を掛ける等の悪影響を回避することができる。
なお、帯域ごとのマイクユニット間の音圧感度補正の処理は、空気伝播音を収音中(つまり固体伝播音が少ないとき)に行われることが望ましい。したがって、補聴器100は、低域および高域の無相関成分のレベルが一定以上となったときに、補正乗算値の更新を停止するようにしてもよい。これにより、補聴器100は、相関の高い空気伝播音が入力しているときにのみ感度補正を行うことになり、より高精度に無相関成分を抽出することができる。
また、補聴器100は、低域信号および高域信号の二乗値ではなく、二乗値の平方根をとった値を、低域レベル信号および高域レベル信号として算出してもよい。
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3は、実施の形態2よりもより細かに分割した複数の帯域のそれぞれから(帯域別の)振動ノイズ成分を抽出し、振動ノイズ成分のスペクトルパターンに基づいて接触振動ノイズを検出する補聴器の例である。本実施の形態において、補聴器は、予め定められた、N個(Nは3以上の整数)の中心周波数の異なる分割帯域ごとに、振動ノイズ成分を抽出するものとする。
まず、本実施の形態に係る補聴器の構成について説明する。
図10は、本実施の形態に係る補聴器の構成の一例を示すブロック図であり、実施の形態2の図2に対応するものである。図2と同一部分には同一符号を付し、これについての説明を省略する。
図10において、補聴器100aは、図2に示す振動成分抽出部120に代えて、振動成分抽出部120aを有する。
振動成分抽出部120aは、図2に示す構成に代えて、第1の帯域信号抽出部121a−1、第2の帯域信号抽出部121a−2、および、上述の分割帯域に対応した第1〜第Nの振動成分抽出部122a−1〜122a−Nを有する。
また、補聴器100aは、図2に示す振動ノイズ識別部130に代えて、振動ノイズ識別部130aを有する。
第1の帯域信号抽出部121a−1は、第1の収音信号から、上述のN個の分割帯域ごとに信号を抽出する。更に、第1の帯域信号抽出部121a−1は、抽出した信号を、分割帯域に対応する第1〜第Nの振動成分抽出部122a−1〜122a−Nにそれぞれ出力する。
第2の帯域信号抽出部121a−2は、第2の収音信号から、上述のN個の分割帯域ごとに信号を抽出する。更に、第2の帯域信号抽出部121a−2は、抽出した信号を、分割帯域に対応する第1〜第Nの振動成分抽出部122a−1〜122a−Nにそれぞれ出力する。
第1の帯域信号抽出部121a−1および第2の帯域信号抽出部121a−2は、例えば、同一の構成を有し、N分割フィルタバンクあるいはFFTを用いることができる。
図11は、N分割フィルタバンクを用いた第1および第2の帯域信号抽出部121a−1、121a−2の構成の一例を示すブロック図であり、実施の形態2の図5に対応するものである。
図11に示すように、第1および第2の帯域信号抽出部121a−1、121a−2は、例えば、上述の分割帯域に対応した、第1〜第Nのバンドパスフィルタ710a−1〜710a−Nで構成される。第1〜第Nのバンドパスフィルタ710a−1〜710a−Nは、それぞれ対応する分割帯域を通過帯域として、収音信号に対するフィルタリングを行う。
図12は、FFTを用いた第1および第2の帯域信号抽出部121a−1、121a−2の構成の一例を示すブロック図である。
図12に示すように、第1および第2の帯域信号抽出部121a−1、121a−2は、例えば、分析窓部720aおよびFFT部730aを有する。
分析窓部720aは、第1の収音信号に対して、分析窓を掛ける。この分析窓としては、スペクトルリーク防止と周波数分解能の観点から、後段の抽出・識別などの目的に適合した窓関数(例えばハニング窓)が選択される。
FFT部730aは、分析窓部720aの出力信号を、上述の分割帯域ごとの周波数スペクトルに分解する。すなわち、FFT部730aは、分析窓を掛けて得られる信号を、時間波形から周波数信号へと変換し、複素周波数スペクトルを生成する。
FFT部730aのスペクトル分解能は、分割帯域の数(N個)でもよいし、より高い数としてもよい。後者の場合、FFT部730aは、高分解能でスペクトル(スペクトルビン)を算出し、分割帯域ごとに複数のスペクトルビンをまとめた(グルーピングした)情報を出力してもよい。スペクトルビンのグルーピング構成は、識別する振動成分の相違が周波数軸上で出易いような構成とすることが望ましい。すなわち、FFT部730aは、振動成分が出易い帯域ごとに、グルーピングを行うことが望ましい。
以下、第1の帯域信号抽出部121a−1が出力する分割帯域ごとの信号は、「第1の帯域別信号」という。また、第2の帯域信号抽出部121a−2が出力する分割帯域ごとの信号は、「第2の帯域別信号」という。
図10の第1〜第Nの振動成分抽出部122a−1〜122a−Nは、それぞれに入力される第1の帯域別信号および第2の帯域別信号から、対応する分割帯域の振動成分を抽出する。更に、第1〜第Nの振動成分抽出部122a−1〜122a−Nは、抽出した振動成分のレベルを示す信号を、振動ノイズ識別部130へ出力する。なお、第1〜第Nの振動成分抽出部122a−1〜122a−Nは、例えば、実施の形態2の図6に示す低域振動成分抽出部122−1および高域振動成分抽出部122−2と、同様の構成を有する。
なお、各振動成分抽出部122aは、第1および第2の帯域信号抽出部121a−1、121a−2がFFTを用いる場合、上述の二乗値の演算は、複素スペクトルを用いたパワスペクトルの算出とする。また、各振動成分抽出部122aは、帯域別信号として、グルーピングされた複数のスペクトルビンの値が入力される場合には、例えば、それらの値(パワスペクトル)の平均をとればよい。
以下、第1〜第Nの振動成分抽出部122a−1〜122a−Nがそれぞれ出力する分割帯域ごとの信号は、「帯域別振動成分レベル信号」という。
振動ノイズ識別部130aは、自発話ノイズの振動成分のスペクトルパターン(以下「自発話テンプレート」という)と、接触振動ノイズの振動成分のスペクトルパターンとを、それぞれ正規化された状態で、予め格納する。なお、接触振動ノイズの振動成分のスペクトルパターンは、以下「接触振動テンプレート」という。なお、本実施の形態において、スペクトルパターンの正規化とは、分割帯域ごとの値の最大値を1とすることを意味し、例えば、全ての分割帯域の値を、前述の最大値で割ることを意味する。振動ノイズ識別部130aは、第1〜第Nの帯域別振動成分レベル信号が示す、収音信号の振動成分のスペクトルパターン(以下「検出ノイズパターン」という)を取得する。そして、振動ノイズ識別部130aは、検出ノイズパターンが、自発話テンプレートよりも接触振動テンプレートに似ていることを条件として、接触振動ノイズが発生したと判断する。
以上で、本実施の形態に係る補聴器の構成についての説明を終える。
次に、本実施の形態に係る補聴器100aの動作について説明する。
図13は、補聴器100aの動作の一例を示すフローチャートであり、実施の形態2の図7に対応するものである。図7と同一部分には同一符号を付し、これについての説明を省略する。
まず、ステップS1100aにおいて、第1の帯域信号抽出部121a−1は、第1の収音信号から、分割帯域ごとに、第1の帯域別信号を抽出する。また、第2の帯域信号抽出部121a−2は、第2の収音信号から、分割帯域ごとに、第2の帯域別信号を抽出する。
そして、ステップS1400aにおいて、第1〜第Nの振動成分抽出部122a−1〜122a−Nは、分割帯域ごとに、第1の帯域別信号と第2の帯域別信号との間の無相関成分を、振動成分として抽出する。
そして、ステップS1500aにおいて、振動ノイズ識別部130aは、実施の形態2で説明した低域振動成分レベルlow_levを取得する。例えば、振動ノイズ識別部130aは、実施の形態2で説明した低域に含まれる全ての分割領域の帯域別振動成分レベル信号の平均値を、低域振動成分レベルlow_levとして算出する。
そして、ステップS1600において、振動ノイズ識別部130は、低域振動成分レベルlow_levが第1の閾値thr1以上であるか否かを判定する。
振動ノイズ識別部130は、低域振動成分レベルlow_levが第1の閾値thr1以上である場合(S1600:YES)、ステップS1750aへ進む。
ステップS1750aにおいて、振動ノイズ識別部130aは、第1〜第Nの帯域別振動成分レベル信号が示す検出ノイズパターンを正規化する。
そして、ステップS1800aにおいて、振動ノイズ識別部130aは、正規化された検出ノイズパターン(以下単に「検出ノイズパターン」という)が、自発話テンプレートよりも接触振動テンプレートに似ているか否かを判断する。
具体的には、振動ノイズ識別部130aは、検出ノイズパターンと自発話テンプレートとの類似の度合い、および検出ノイズパターンと接触振動テンプレートとの類似の度合いを、それぞれ数値化し、類似の度合いを比較する。
例えば、振動ノイズ識別部130aは、平均自乗誤差を、類似の度合いを示す値として用いる。この場合、振動ノイズ識別部130aは、例えば以下の式(1)を用いて、m番目のテンプレート(例えば、m=0は自発話テンプレートであり、m=1は接触振動テンプレート)との間の平均自乗誤差μm(μ0、μ1)算出する。なお、k番目の分割帯域では、検出ノイズパターンの値をxk、m番目のテンプレートの値をym,kとおく。
そして、振動ノイズ識別部130aは、算出した自発話テンプレートとの間の平均自乗誤差μ0と、接触振動テンプレートとの間の平均自乗誤差μ1とを比較し、値が小さいほうに検出ノイズパターンがより類似していると判断する。すなわち、振動ノイズ識別部130aは、μ1>μ0であれば、検出ノイズパターンが、自発話テンプレートよりも接触振動テンプレートに似ていると判断する。
振動ノイズ識別部130aは、検出ノイズパターンが、自発話テンプレートよりも接触振動テンプレートに似ていない場合(S1800a:NO)、ステップS1900へ進む。また、振動ノイズ識別部130は、検出ノイズパターンが、自発話テンプレートよりも接触振動テンプレートに似ている場合(S1800a:YES)、ステップS2000へ進む。
このような動作により、補聴器100aは、多数の分割帯域のそれぞれから振動ノイズ成分を抽出し、振動ノイズ成分のスペクトルパターンに基づいて接触振動ノイズを検出することができる。
以上で、補聴器100aの動作についての説明を終える。
このように、本実施の形態に係る補聴器100aは、実施の形態2に比べて、より細かく抽出された帯域別の振動ノイズ成分を用いて、接触振動ノイズの検出を行うことができる。これにより、補聴器100aは、例えば、周囲環境や装用状態に応じて帯域レベル比の変動が多いような場合に好適である。すなわち、補聴器100aは、より高精度な振動の抽出・識別が可能となる。
なお、本実施の形態に係る補聴器100aは、実施の形態2のように2つの分割帯域について処理を行う場合に比べて機能部が増えるため、信号処理を行うハードウェア上の制約がより大きくなる場合がある。したがって、本実施の形態に係る補聴器100aは、信号処理を行うハードウェア上の制約が実施の形態2より少ない状況や、特に高精度な振動ノイズ識別が求められる場合に好適である。
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4は、実施の形態2の抑制処理部にオーディオリミッタを適用した例である。
まず、本実施の形態に係る補聴器の構成について説明する。
図14は、本実施の形態に係る補聴器の構成の一例を示すブロック図であり、実施の形態2の図2に対応するものである。図2と同一部分には同一符号を付し、これについての説明を省略する。
図14において、補聴器100bは、図2の音響信号処理部140に代えて、音響信号処理部140bを有する。音響信号処理部140bは、図2の抑制処理部142の具体例として、オーディオリミッタ142bを有する。
オーディオリミッタ142bは、上述のハウリング抑制のための所定の処理として、識別結果が「接触振動ノイズあり」である間、音響信号に対して、ある設定した出力レベルを超えないようにする音量抑圧処理を行う。すなわち、オーディオリミッタ142bは、一定レベル以上の音量にならないように,音量を適応的に下げる(制限する)処理を行う。
この際、オーディオリミッタ142bは、具体的には、振動ノイズの状態が変化するごとに、そのリミッタパラメータを変更する。
リミッタパラメータは、リミッタポイントおよびリリースタイムを含む。リミッタポイントは、出力レベルの抑制の目標値であり、より低いほど、音響信号の音量はより小さくなる。リリースタイムは、出力レベルの抑制を解除(復帰)させるまでの時間長さであり、より長いほど、音響信号の音量が抑制された状態がより長く続く。
本実施の形態では、オーディオリミッタ142bは、「接触振動ノイズあり」という識別結果に対応して、リミッタポイントP1とリリースタイムt1との組を保持しているものとする。
また、オーディオリミッタ142bは、「自発話ノイズあり」という識別結果に対応して、リミッタポイントP2とリリースタイムt2との組を保持しているものとする。
更に、オーディオリミッタ142bは、「振動ノイズなし」という識別結果に対応して、リミッタポイントP3とリリースタイムt3との組を保持しているものとする。
また、これらのリミッタパラメータには、以下の式(2)、(3)に示す関係があるものとする。
t3<t2<t1 ・・・・・・(2)
P1<P2<P3 ・・・・・・(3)
なお、リリースタイムt3は、リリースタイムのデフォルト値かつ上限値である。また、リミッタポイントP3は、リミッタポイントのデフォルト値かつ下限値である。
図15は、オーディオリミッタ142bの入出力特性の一例を示す図である。図15において、横軸は、オーディオリミッタ142bへの入力信号のレベル(音量レベル)を示し、縦軸は、オーディオリミッタ142bからの出力信号のレベル(音量レベル)を示す。
図15において、第1〜第3の入出力特性631〜633は、この順序で、リミッタポイントP1〜P3に対応している。リミッタポイントP1〜P3は、例えば、式(3)に示す関係を有する。
すなわち、リミッタポイントP1が設定されているとき、リミッタポイントP1以下の音量レベルの信号は、そのまま出力されるが、リミッタポイントP1を超える音量レベルの信号は、リミッタポイントP1の音量レベルに抑制される。
そして、オーディオリミッタ142bは、入力される識別結果に応じて、対応するリミッタパラメータに切り替える。
すなわち、オーディオリミッタ142bは、例えば、「振動ノイズなし」の場合、音響信号の音量は特に小さくせず、小さくしたとしてもこれをすぐに解除する。
また、オーディオリミッタ142bは、例えば、「自発話ノイズあり」の場合、リミッタポイントを少し下げて音響信号の音量を小さくするが、比較的短い時間で解除する。
また、オーディオリミッタ142bは、「接触振動ノイズあり」の場合、リミッタポイントをできるだけ下げて音響信号の音量を小さくし、ゆっくりとこれを解除する。
例えば、補聴器100bの脱着時には、上述のとおりハウリングが発生し易い。したがって、補聴器100bは、上述のリミッタパラメータ切り替えにより、オーディオレシーバ150とマイクロホン110との間の音響的発振(ハウリング)ができるだけ起こりにくくすることができる。
また、補聴器100bは、例えば、他発話音声などを聞く際に、自発話音声が聞き取り難くなることがある。したがって、補聴器100bは、上述のリミッタパラメータ切り替えにより、自発話音声を抑圧しつつ、相手話者の話頭切れの発生を抑制して、収音・拡声することができる。
以上で、補聴器100bの構成についての説明を終える。
次に、補聴器100bの動作について説明する。
補聴器100bの動作は、実施の形態2の図7に示すフローチャートのうち、ステップ2200のみが異なる。そこで、補聴器100bが図7のステップS2200において実行する処理(つまり、音量抑圧処理)について説明する。
図16は、補聴器100bが実行する音量抑圧処理の一例を示すフローチャートである。
まず、ステップS2210bにおいて、オーディオリミッタ142bは、識別結果が「振動ノイズなし」であるか否かを判断する。
オーディオリミッタ142bは、識別結果が「振動ノイズなし」である場合(S2210b:YES)、ステップS2220bへ進む。また、オーディオリミッタ142bは、識別結果が「振動ノイズなし」ではない場合(S2210b:NO)、ステップS2230bへ進む。
ステップS2220bにおいて、オーディオリミッタ142bは、リミッタパラメータを、「振動ノイズなし」に対応するリミッタパラメータ(リミッタポイントP3、リリースタイムt3)へ変更して、図7の処理へ戻る。
なお、オーディオリミッタ142bは、「振動ノイズなし」に対応するリミッタパラメータに既に設定されている場合には、その設定を維持する。また、リミッタパラメータを「振動ノイズなし」に対応する値に変更する際、オーディオリミッタ142bは、積分器などを用いて、リミッタポイントおよびリリースタイムを徐々に変化させることが望ましい。これにより、本実施の形態の補聴器100bは、周囲音の耳穴への拡声を自然に行うことができる。
ステップS2230bにおいて、オーディオリミッタ142bは、識別結果が「自発話ノイズあり」であるか否かを判断する。
オーディオリミッタ142bは、識別結果が「自発話ノイズあり」である場合(S2230b:YES)、ステップS2240bへ進む。また、オーディオリミッタ142bは、識別結果が「自発話ノイズあり」ではない場合、つまり識別結果が「接触振動ノイズあり」である場合(S2230b:NO)、ステップS2250bへ進む。
ステップS2240bにおいて、オーディオリミッタ142bは、リミッタパラメータを、「自発話ノイズあり」に対応するリミッタパラメータ(リミッタポイントP2、リリースタイムt2)へ変更して、図7の処理へ戻る。なお、オーディオリミッタ142bは、「自発話ノイズあり」に対応するリミッタパラメータに既に設定されている場合には、その設定を維持する。
ステップS2250bにおいて、オーディオリミッタ142bは、リミッタパラメータを、「接触振動ノイズあり」に対応するリミッタパラメータ(リミッタポイントP1、リリースタイムt1)へ変更して、図7の処理へ戻る。なお、オーディオリミッタ142bは、「接触振動ノイズあり」に対応するリミッタパラメータに既に設定されている場合には、その設定を維持する。
補聴器100bの状態は、主に、装着時とその直後、使用中、取り外し時およびその直後と変化する。
補聴器100bは、装着時とその直後には、手や耳との接触により、「接触振動ノイズあり」と判定するため、比較的強めにリミッタを掛けることになる。
そして、補聴器100bは、使用中にユーザが黙っている間は、「振動ノイズなし」と判定するため、比較的軽めにリミッタを掛けることになる。
また、補聴器100bは、使用中にユーザが発話をする場合には、「自発話ノイズあり」と判定するため、中程度にリミッタを掛けることになる。
そして、補聴器100bは、取り外し時およびその直後には、手や耳との接触により、「接触振動ノイズあり」と判定するため、再び比較的強めにリミッタを掛けることになる。
このような動作により、補聴器100bは、使用勝手をできるだけ損なうことなく、ハウリングを抑制することができる。
このように、本実施の形態に係る補聴器100bは、補聴処理部141の補聴処理出力(音響信号)に対する出力レベル制限の制御を行うオーディオリミッタ142bを導入した。
これにより、本実施の形態に係る補聴器100bは、振動ノイズの識別結果に応じた音量制御を行うことができる。すなわち、本実施の形態に係る補聴器100bは、振動ノイズを検出しないときは通常通りの使用とし、接触振動ノイズ検出時には音量を抑制することができる。
そして、本実施の形態に係る補聴器100bは、自発話ノイズ検出時には、相手話者の話頭切れを防ぎつつ自発話音声を抑圧することができる。
なお、補聴器100bは、装着時のリリースタイムよりも、取り外し時のリリースタイムを、より長く設定(例えばt1)してもよい。これにより、補聴器100bは、音量の抑圧を行う時間が長くなるため、ハウリングが発生する前に、余裕を持って電源を切ることができる。
装着時であるか取り外し時であるかは、例えば、接触振動ノイズの長さから判断することができる。これは、耳掛け型の補聴器100bでは、手探りで耳穴にイヤチップ330を装着することから、通常、装着時のほうが、取り外し時よりも振動ノイズの継続時間が長いためである。
また、補聴器100bのオーディオリミッタ142bは、実施の形態3のように、3つ以上の周波数帯域から抽出され振動ノイズ成分に基づいて振動ノイズの識別を行う補聴器に適用してもよい。また、補聴器100bのオーディオリミッタ142bは、より多くの振動ノイズの種類が識別結果として入力され得る場合には、より多くの種類の抑圧処理を行うことが望ましい。
なお、本実施の形態では、リミッタを掛ける系統が1系統で済むという簡易性から、オーディオリミッタを補聴処理部の後段に配置したが、目的に応じて、オーディオリミッタを補聴処理の前段に配置してもよい。この場合には、第1の収音信号および第2の収音信号に対して、個別に抑圧処理を行うことが可能となる。
(実施の形態5)
本発明の実施の形態5は、実施の形態2の抑制処理部にハウリングキャンセラを適用した例である。
図17は、本発明の実施の形態5に係る補聴器の構成の一例を示すブロック図であり、実施の形態2の図2に対応するものである。図2と同一部分には同一符号を付し、これについての説明を省略する。
図17において、補聴器100cは、図2の音響信号処理部140に代えて、音響信号処理部140cを有する。音響信号処理部140cは、図2の抑制処理部142の具体例として、補聴処理部141の前段に配置されたハウリングキャンセラ142cを有する。
ハウリングキャンセラ142cは、上述のハウリング抑制のための所定の処理として、第1および第2の収音信号のそれぞれから、擬似的なハウリング信号を引くことにより、ハウリング音の音量抑圧処理を行う。擬似的なハウリング信号とは、レシーバ150とマイクロホン110との間で生じるハウリング信号を模擬した信号である。
ハウリングキャンセラ142cは、補聴処理部141から出力される補聴処理出力(音響信号)を元に、この擬似的なハウリング信号を生成する。ハウリングキャンセラ142cは、ハウリング音の音量抑圧処理を行った第1および第2の収音信号を、補聴処理部141へ出力する。
図18は、ハウリングキャンセラ142cの構成の一例を示すブロック図である。
ハウリングキャンセラ142cは、例えば、第1の収音信号用の系統と、第2の収音信号用の系統との、2系統の構成を有する。これら2系統は、同一の構成であるため、一方の系統の構成についてのみ図示及び説明する。また、図18は、説明の便宜のため、周囲の機能部についても併せて図示する。
図18に示すように、ハウリングキャンセラ142cは、遅延操作部810c、加算器820c、適応フィルタ830c、係数更新制御部840c、およびハウリング検知部850cを有する。
遅延操作部810cは、補聴処理部141から出力される補聴処理出力(音響信号)に対して遅延を施した信号を、遅延補聴処理出力として、適応フィルタおよび係数更新制御部840cへ出力する。
加算器820cは、マイクロホン110の収音信号と、適応フィルタ830cの擬似ハウリング信号との差を示す信号を、ハウリングキャンセラ出力信号として、補聴処理部140および係数更新制御部840cへ出力する。
適応フィルタ830cは、遅延操作部810cの遅延補聴処理出力に対し、係数更新制御部840cから出力されるフィルタ係数を用いてフィルタリングを行った信号を、擬似ハウリング信号として、加算器820cへ出力する。
係数更新制御部840cは、遅延操作部810cの遅延補聴処理出力と、加算器820cのハウリングキャンセラ出力と、振動ノイズ識別部130の識別結果と、ハウリング検知部850cのハウリング検知信号とを取得する。係数更新制御部840cは、遅延補聴処理出力、ハウリングキャンセラ出力、識別結果、およびハウリング検知信号を用いて、適応フィルタ830cのフィルタ係数の更新を行う。
なお、フィルタ係数の更新は、係数更新制御部840cが設定するステップゲインα(0<α≦1)に応じた速度で行われる。
そして、係数更新制御部840cは、接触振動ノイズの発生の有無に応じて、フィルタ係数更新処理に関係するパラメータを制御する。ここでは、一例として、適応フィルタの係数更新速度を制御する例を示す。
ハウリング検知部850cは、マイクロホン110の収音信号を監視して、ハウリング波形を検知し、検知結果を、係数更新制御部840cへ出力する。
以上で、補聴器100cの構成についての説明を終える。
次に、補聴器100cの動作について説明する。
補聴器100cの動作は、実施の形態2の図7に示すフローチャートのうち、ステップ2200のみが異なる。そこで、補聴器100cが、図7のステップS2200において、実行する処理(つまり、音量抑圧処理)について説明する。
図19は、補聴器100cが実行する音量抑圧処理の一例を示すフローチャートである。
まず、ステップS2210cにおいて、ハウリングキャンセラ142cは、識別結果が「接触振動ノイズあり」であるか否かを判断する。
ハウリングキャンセラ142cは、識別結果が「接触振動ノイズあり」である場合(S2210c:YES)、ステップS2220cへ進む。また、ハウリングキャンセラ142cは、識別結果が「接触振動ノイズあり」ではない場合(S2210c:NO)、ステップS2230cへ進む。
ステップS2220cにおいて、ハウリングキャンセラ142cは、フィルタ係数更新のステップゲインαを、ステップゲインαのデフォルト値αdよりも高いステップゲインの最大値αhまで徐々に上げる、または、最大値αhを維持する。すなわち、ハウリングキャンセラ142cは、フィルタ係数の更新が高速に行われるようにする。
具体的には、ハウリングキャンセラ142cの係数更新制御部840cは、例えば、以下の式(4)を用いて、ステップゲインαを、最大値αhに徐々に近付くように更新する。但し、nは、現在時刻を表し、γは、1よりも十分に小さい固定値である。すなわち、α(n)は、現在設定すべきステップゲインであり、α(n−1)は、1つ前の時刻に設定されたステップゲインである。また、αvarは、ステップゲインαの目標値(ここでは最大値αh)を格納する変数である。
また、ステップS2230cにおいて、ハウリングキャンセラ142cは、フィルタ係数更新のステップゲインαvarを、ステップゲインαvarのデフォルト値αdまで徐々に下げる、または、デフォルト値αdを維持する。すなわち、ハウリングキャンセラ142cは、フィルタ係数の更新が通常の速度で行われるようにする。
具体的には、ハウリングキャンセラ142cの係数更新制御部840cは、例えば、αvarにデフォルト値αdを格納した上述の式(4)を用いて、ステップゲインαvarを、デフォルト値αdに徐々に近付くように更新する。
そして、ステップS2240cにおいて、ハウリングキャンセラ142cは、第1および第2の収音信号中のハウリング成分を抑圧し、ハウリングキャンセル出力を得るための、ハウリングキャンセル処理を行う。
ハウリングキャンセル処理の具体的内容の一例について説明する。
具体的には、ハウリングキャンセラ142cは、補聴処理後の音響信号に対して、遅延操作部810cにより因果性を満たす程度の遅延を施す。その後、ハウリングキャンセラ142cは、適応フィルタ830cにより、フィルタ処理を施し、擬似ハウリング信号を生成する。
そして、ハウリングキャンセラ142cは、加算器820cにより、第1および第2の収音信号のそれぞれ擬似ハウリング信号との差分をとり、ハウリングがキャンセルされた音響信号を出力する。
また、ハウリングキャンセラ142cは、適応フィルタ830cのフィルタ係数を、例えばNLMS(学習同定法)を用いて、設定されているステップゲインで更新する。
NLMSを用いる場合、ハウリングキャンセラ142cは、例えば、以下の式(5)を用いて、適応フィルタの係数の係数ベクトルwを更新する。但し、xは、ハウリングキャンセラの出力信号ベクトルであり、eは、キャンセラ出力サンプルであり、βは、分母が0になるのを防ぐための微小係数である。
ステップゲインαは、上述の通り、接触振動ノイズが検出されたときに高い値となり、その結果、係数ベクトルの収束速度は高くなる。これにより、擬似ハウリング信号は、音響系の急激な変動に対して、素早く追従することができる。したがって、ハウリングキャンセラ142cは、上述のステップゲインの制御と、ハウリングキャンセル処理とによって、補聴器100cの脱着時の音響系の変動によるハウリング発生を、効果的に抑制(キャンセル)することができる。
また、ステップゲインαは、上述の通り、接触振動ノイズが検出されていないときに低い値となり、その結果、収束速度は低くなる。これにより、補聴器100cは、本来の音響信号に対する影響を最小に抑えつつ、上述のハウリング抑制を行うことができる。
そして、ハウリングキャンセラ142cは、ハウリングキャンセル処理を終えると、図7の処理へ戻る。
このように、本実施の形態に係る補聴器100cは、補聴処理部141の補聴処理出力(音響信号)に対するハウリングキャンセル処理を行うハウリングキャンセラ142cを導入した。
これにより、本実施の形態に係る補聴器100cは、振動ノイズの識別結果に応じたハウリングキャンセル処理を行うことができる。すなわち、本実施の形態に係る補聴器100cは、接触振動ノイズを検出しないときは通常通りの使用とし、接触振動ノイズ検出時にはハウリングを効果的に抑制することができる。言い換えると、本実施の形態に係る補聴器100cは、脱着時にはハウリングにすばやく追従することができる。
そして、本実施の形態に係る補聴器100cは、音響系の変動が少なくなったときには、安定した音量抑圧量を提供することができる、ハウリングキャンセラ処理を実現することができる。
なお、本実施の形態では、接触振動ノイズを検出して、適応フィルタの係数更新部パラメータを制御する一例について説明したが,検出結果の適用は、これに限らない。接触振動ノイズの検出は、マイクロホン110−1(110−2)のゲインを下げたりするなどの抑圧処理等に利用してもよく、ハウリングを制御するための各種パラメータ制御に適用することができる。
なお、補聴器100cは、振動ノイズの継続時間を利用して、装着時であるか取り付け時であるかを判断し、取り外し時よりも装着時の方を、ステップゲインをより高く設定したり、ステップゲインを下げる制御の速度を遅くしてもよい。これにより、補聴器100cは、耳から外した直後に生じるハウリングを、最も効果的に抑圧しつつ、装着後の安定性を確保することができる。
なお、以上説明した実施の形態1〜実施の形態5では、実施の形態4を除き、副次的に検出される自発話ノイズを利用した制御について、特に説明していないが、実施の形態4と同様に、これを利用してもよい。
この場合、補聴器は、接触振動ノイズ検出時のハウリング抑圧と比較して、浅めの音量抑制とし、抑圧制御における抑圧および復帰の動作が素早く行われるように、音量をコントロールすることが望ましい。これにより、補聴器は、耳障りにならない程度の音量調整に抑え、相手話者の話頭切れを防ぐことができる。
また、両耳装用の補聴器は、両耳のうち反対側の耳に装着された他の補聴器と同期して、ハウリング抑制処理を行ってもよい。すなわち、両耳装用の補聴器は、両耳の2つの補聴器のうち、少なくとも一方が振動ノイズを検出したとき、その補聴器だけでなく、他方の補聴器においても、振動ノイズの検出に応じた所定の処理を開始してもよい。
この場合、補聴器は、他の補聴器と通信を行う通信部を更に有する必要がある。そして、振動ノイズ識別部は、少なくとも、接触振動ノイズが発生したと判断したとき、その旨を示す情報を、通信部を用いて他の補聴器へ送信する必要がある。また、音響信号制御部は、他の補聴器から接触振動ノイズが発生したと判断した旨を示す情報が送信されてきたとき、通信部を用いてこれを受信し、自装置で接触振動ノイズが発生したと判断したときと同一の処理を行う必要がある。
両耳装用の補聴器の場合、ユーザは、通常、片方を装着した直後に、もう片方を装着する。したがって、後から装着される補聴器は、ハウリングの発生を事前に回避し、より確実にハウリングの発生を防ぐことができる。また、このような補聴器は、装着後、左右の聞こえ方が異なることによる違和感を緩和することができる。
また、以上説明した各実施の形態では、接触振動ノイズの発生の有無に応じた所定の処理は、ハウリング抑制のための処理としたが、これに限定されない。また、本発明の振動検出方法の適用は、補聴器に限定されず、例えば、ヘッドセットのように、拡声のためのスピーカと収音のための複数のマイクロホンとが備えられているような各種音響機器に適用することができる。
2011年4月11日出願の特願2011−087399の日本出願に含まれる明細書、図面および要約書の開示内容は、すべて本願に援用される。