特許文献1に開示された接合方法では、セラミックス成形体同士の接合面に、接合材としてのスラリーを塗布する際に、塗布量が過剰であると接合面からスラリーがはみ出して液垂れする虞があり、逆に塗布量が不足すると未接合箇所が発生して接合強度が低下する虞もある。また、接合面でのスラリーの塗布量が不均一であると、焼結時に割れや裂けが生じて接合不良を招く虞もあり、スラリーの塗布量の管理が難しいという問題があった。
特許文献2に開示された接合方法のように、一対の対向する端面間に複数の流体通流孔が貫通形成されたセラミックス成形体同士を、各流体通流孔が連通するように多段に接合することによって、セラミックス構造体の一例としてのフィルタ用の膜エレメントを製造する場合に、接合面に塗布したペーストが流体通流孔側にはみ出すと、流体通流孔内で流体の通流抵抗となり、所期の機能が発揮されなくなるという問題もあった。
このように、焼成前のセラミックス成形体に接合材を塗布する工程では、接合部に接合材を均一に過不足なく塗布する必要があり、そのために厳格な工程管理が要求されて作業効率が低下するという問題もあった。
一方、特許文献3に開示されたセラミックス部材の接合方法では、このような問題が解消されるが、セラミックスグリーンシートは強度が低いため、セラミックス成形体同士の接合作業時にセラミックスグリーンシートが変形したり破損したりしないように慎重に作業する必要があり、作業効率の改善という観点、機械による自動化という観点でも更なる改良の必要性に迫られている。
また、セラミックス成形体同士の接合端面の形状が複雑な場合、確実にセラミックス成形体同士を接合するためには、被接合面とセラミックスグリーンシートの双方に成形精度が要求される。
特許文献4に開示された接合中間層も薄膜の場合には、特許文献3と同様の課題があった。また、第1及び第2の加圧成形体のみならず接合中間層の成形体を成形するための設備が必要なため設備費が嵩む。
本発明の目的は、製造時の作業性がよく、製造工程を削減することができるセラミックス成形体、膜エレメント、セラミックス成形体の製造方法、セラミックス構造体の製造方法、及び膜エレメントの製造方法を提供する点にある。
上述の目的を達成するため、本発明によるセラミックス成形体の第一の特徴構成は、特許請求の範囲の書類の請求項1に記載した通り、焼成により他のセラミックス成形体と接合される接合材成形体層がセラミックス成形体層に一体に成形され、前記セラミックス成形体層は、一対の対向する端面間を貫通する複数本の流体通流孔が形成され、焼成により多孔質セラミックスとなる点にある。
接合材成形体層を介して他のセラミックス成形体と位置決めして接触させた状態で両者を焼成すれば、当該接合材成形体層が一体に成形されたセラミックス成形体と他のセラミックス成形体とが接合される。このような接合材成形体層が予めセラミックス成形体層に一体に成形されているため、破損しやすいグリーンセラミックスシートや接合中間層をセラミックス成形体同士の接合端面に慎重に位置決めするような注意を要する作業から解放される。さらには、スラリーやペーストを塗布する作業も不要となり、スラリーやペーストの過剰塗布、過少塗布、不均一塗布の問題も解消される。従って、製品の歩留まりを大きく向上させることができ、製造工程も削減できるようになる。
このような多孔質セラミックスは微細な空隙を有し、例えば流体フィルタや触媒の担体等様々な用途に用いることができる。一対の対向する端面間に形成された複数の流体通流孔に被処理流体を供給することで、被処理流体を多孔質セラミックスの空隙を通過できるものと通過できないものに効率よく分離することができる。このようなセラミックス成形体層に接合材成形体層が一体に成形されていれば、当該接合材成形体層を介して、複数のセラミックス成形体を接合することによって、任意の規模の多孔質セラミックスを容易に構成することができる。
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述の第一特徴構成に加えて、前記接合材成形体層は、前記セラミックス成形体層の他のセラミックス成形体に対向する端面に、当該端面形状に対応した形状で一体に成形されている点にある。
セラミックス成形体層の接合端面が複雑な平面形状であっても、立体形状であっても、それに対応して予め接合材成形体層が一体に成形されているので、接合のための位置決めも容易になる。尚、接合材成形体層の厚み等も成形時に容易に調整できるので、焼成時に溶けた接合材が接合端面の周囲にはみ出すような事態も解消される。端面形状に対応した形状とは、セラミックス成形体層の接合端面の形状と同一の形状に限らず、セラミックス成形体同士を適切に接合するために必要な形状であればよい。接合材成形体層は、セラミックス成形体層の一方の端面に成形する場合に限らず、他方の端面に形成したり、さらには両方の端面に成形してもよい。
本発明による膜エレメントの特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述の第一または第二の特徴構成を備えたセラミックス成形体が、各流体通流孔が連通するように前記接合材成形体層を介して接合された、焼成体で構成される点にある。
本発明によるセラミックス成形体の製造方法の第一の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、セラミックス原料を所定形状の型に充填した後にプレスするセラミックス成形体層成形工程と、焼成により他のセラミックス成形体と接合される接合材原料を前記型に充填した後にプレスする接合材成形体層成形工程とを含み、少なくとも一方の成形工程によりプレス成形された成形体層が前記型に存在する状態で他方の成形工程が実行されることにより、接合材成形体層がセラミックス成形体層に一体に成形される点にある。
例えば、先にセラミックス成形体層をプレス成形して、その後接合材成形体層をプレス成形する場合は、セラミックス成形体層の端面に合うように接合材成形体層が形成され、セラミックス成形体層と接合材成形体層の二層が一体となったセラミックス成形体が容易に得られる。先に接合材成形体層をプレス成形して、その後セラミックス成形体層をプレス成形する場合は、接合材成形体層の端面の形状に合うようにセラミックス成形体層が形成され、セラミックス成形体層と接合材成形体層の二層が一体となったセラミックス成形体が容易に得られる。
同第二の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、上述の第一特徴構成に加えて、前記接合材成形体層成形工程で用いられる接合材原料は、少なくとも前記セラミックス成形体層の主となるセラミックス材料よりも融点が低いセラミックス材料が含まれている点にある。
焼成時に融点の低いセラミックス材料がセラミックス成形体層のセラミックス材料より溶け易いので、セラミックス成形体同士の良好な接合が促される。
同第三の特徴構成は、同請求項6に記載した通り、上述の第一または第二特徴構成に加えて、所定のセラミックス微粒子に有機バインダを添加したスラリーを、スプレードライ法を用いて所定の粒径に造粒したセラミックス粒状体を前記セラミックス原料として生成するセラミックス原料生成工程をさらに含む点にある。
スプレードライ法によって、所定の粒径に造粒したセラミックス粒状体を用いれば、セラミックス原料の型への充填を容易に行なうことができる。
同第四の特徴構成は、同請求項7に記載した通り、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記セラミックス成形体層成形工程は、複数のピンが立設された型に原料を充填した後にプレスすることにより、一対の対向する端面間を貫通する複数本の流体通流孔が形成されたセラミックス成形体層を得る工程である点にある。
プレスによってセラミックス成形体層を成形するのと同時に複数の流体通流孔を形成することができる。流体通流孔を形成するための後加工が不要となる。
本発明によるセラミックス構造体の製造方法の第一の特徴構成は、同請求項8に記載した通り、一対の対向する端面間を貫通する複数本の流体通流孔が形成されたセラミックス成形体層の少なくとも一方の端面に、焼成により他のセラミックス成形体と接合される接合材成形体層が当該端面形状に対応した形状で一体に成形されている複数のセラミックス成形体を、各流体通流孔が連通し、且つ、少なくとも隣接するセラミックス成形体間に前記接合材成形体層が位置するように配列する配列工程と、前記配列工程で配列された複数のセラミックス成形体を所定温度で焼成して、セラミックス成形体を接合するとともに多孔質化する焼成工程と、を含む点にある。
接合材成形体層が一体に成形されているセラミックス成形体層は接合工程で接合材成形体層を介して配列され、その状態で焼成される。このようなセラミックス構造体の製造方法によれば、一度の焼成工程で簡単に複数のセラミックス成形体を接合できるようになる。従って、製造工程の削減と、製品の歩留まりを大きく向上させることができる。
そして、接合工程で、一対の対向する端面間を貫通する複数本の流体通流孔を備えたセラミックス成形体層を、各流体通流孔同士が連通するよう配置して焼成する。接合材成形体層は、セラミックス成形体層の端面形状に対応した形状に成形されているので、接合材が流体通流孔を閉塞するようなことがない。
同第二の特徴構成は、同請求項9に記載した通り、上述の第一の特徴構成に加えて、前記焼成工程は、複数のセラミックス成形体が所定圧力で加圧された状態で行なわれる点にある。
複数のセラミックス成形体を所定の圧力で加圧した状態で焼成すると、溶けた接合材が隣接するセラミックス成形体の端部に効率よく密着するので、隣接するセラミックス成形体同士を確実に接合することができる。
本発明による膜エレメントの製造方法の特徴構成は、同請求項10に記載した通り、一対の対向する端面間を貫通する複数本の流体通流孔が形成されたセラミックス成形体層の少なくとも一方の端面に、焼成により他のセラミックス成形体と接合される接合材成形体層が当該端面形状に対応した形状で一体に成形されている複数のセラミックス成形体を、各流体通流孔が連通し、且つ、少なくとも隣接するセラミックス成形体間に前記接合材成形体層が位置するように配列する配列工程と、前記配列工程で配列された複数のセラミックス成形体を所定温度で焼成して、セラミックス成形体を接合するとともに多孔質化する焼成工程と、
を含むセラミックス構造体で構成される点にある。
以上説明した通り、本発明によれば、製造時の作業性がよく、製造工程を削減することができるセラミックス成形体、膜エレメント、セラミックス成形体の製造方法、セラミックス構造体の製造方法、及び膜エレメントの製造方法を提供することができるようになった。
以下に、本発明によるセラミックス成形体、膜エレメント、セラミックス成形体の製造方法、セラミックス構造体の製造方法、及び膜エレメントの製造方法について説明する。
図1(a)には本発明によるセラミックス成形体20の一例が示されている。当該セラミックス成形体20は、セラミックス成形体層6と接合材成形体層11とを備えて構成され、これらセラミックス成形体層6と接合材成形体層11が一体に成形されている。
接合材成形体層11は、当該セラミックス成形体層6と他のセラミックス成形体とを接合するための接合剤として機能する層であり、図1(a)では直方体形状に成形されたセラミックス成形体層6の上下の端面6a,6bのうち、上方の端面6aに、当該端面6aと同じ平坦な形状で均一な厚みに形成されている。
図1(b)に示すように、このようなセラミックス成形体20の接合材成形体層11を、他のセラミックス成形体20のセラミックス成形体層6と接するように位置決めして配列した状態で焼成すると、接合材成形体層11が溶融して隣接するセラミックス成形体層6同士が接合され、一体化される。
図1(b)では、二つのセラミックス成形体20を接合する例が示されているが、三個以上の複数のセラミックス成形体20を接合する場合も同様で、一対のセラミックス成形体層6の間に接合材成形体層11が位置するように複数のセラミックス成形体20を位置決めして配列した状態で焼成すればよい。
接合材成形体層11は、セラミックス成形体層6の端面6aの全面にわたり、均一な厚さに形成され、セラミックス成形体層6及び接合材成形体層11の組成、接合のための焼成の温度、接合強度等により予め好ましい厚さに設定されている。
図1(a)に示す二つのセラミックス成形体20を、接合材成形体層11同士が対向するように配置して接合することも可能である。
このようなセラミックス成形体20であれば、セラミックス成形体層6同士を接合する際に、スラリーやペースト状の接合材を接合面に注意深く均一に塗布するといった煩雑な作業が不要となり、接合材の過剰塗布、過少塗布または不均一塗布により接合不良が発生することもない。また、破損しやすいグリーンセラミックスシート等でなる接合材を注意深く接合面に位置決め配置する煩雑な作業も不要となる。従って、製品の歩留まりを大きく向上させることができ、製造工程も削減できるようになる。
セラミックス成形体層6の端面全域を接合する必要がない場合には、端面の一部分にのみ接合材成形体層11を形成してもよい。一対のセラミックス成形体層6の端面の双方に部分的に接合材成形体層11を形成し、一対の接合材成形体層11によってセラミックス成形体層6の端面の全域が覆われるような態様で接合材成形体層11を形成してもよい。
一対のセラミックス成形体層6の接合端面に単一または複数の孔部等の開口が形成されている場合には、当該開口を除く端面に接合材成形体層11を一体に形成すれば、焼成による接合時に溶融した接合材により孔部が閉塞される虞がない。
セラミックス成形体層6の接合端面に形成された開口と接合材成形体層11の開口とは物理的に必ずしも同一寸法である必要は無く、接合時に溶融した接合材により孔部が閉塞されるような不都合な事態が発生しなければ、多少の相違があってもよい。
つまり、接合材成形体層11は、他のセラミックス成形体に対向する端面に、当該端面形状に対応した形状で一体に成形されていればよい。セラミックス成形体層6の接合端面に凹凸が形成されている場合には、当該凹凸形状に対応する形状の接合材成形体層11を一体に形成すればよい。
尚、セラミックス成形体層6の厚みが薄い場合には、孔部を覆う状態で接合材成形体層11が一体に形成されていても、孔部が閉塞されることはない。
次に、本発明によるセラミックス成形体20の製造方法の一例を説明する。セラミックス成形体20は、セラミックス成形体層6の原料であるセラミックス原料を所定形状の金型に充填した後にプレスしてセラミックス成形体層6を成形するセラミックス成形体層成形工程と、セラミックス成形体層6が金型に存在する状態でセラミックス成形体層6の上に接合材原料を充填した後にプレスする接合材成形体層成形工程とを経て製造される。尚、先に接合材成形体層成形工程を実行して、その後セラミックス成形体層成形工程を実行してもよい。成形されるセラミックス成形体層6や接合材成形体層11の厚みは、原料の金型への充填量を調整することで容易に調整できる。
セラミックス原料は、ムライト(3Al2O3・2SiO2)系セラミックスや、アルミナ(Al2O3)やコージュライト等のセラミックス微粒子によって構成されている。
接合材原料は、セラミックス成形体層6の主となるセラミックス材料よりも融点が低いセラミックス材料を含むものが望ましい。このような接合材原料を用いて成形された接合材成形体層11は、焼成時に融点の低いセラミックス材料がセラミックス成形体層6のセラミックス材料より溶け易いので、セラミックス成形体20同士の接合が促される。
セラミックス成形体20のセラミックス成形体層6を、焼成により多孔質セラミックスとなるような材料で構成すると、焼成後のセラミックス成形体20は、多孔質セラミックスの微細な空隙を利用して、例えば被処理流体に含まれる微小な濁度成分等の固形異物を分離するフィルタや、触媒の担体等様々な用途に用いることができる。
以下に、被処理流体に含まれる微小な濁度成分等の固形異物を分離するフィルタの一例である膜エレメント2について説明する。図2に示すように膜エレメント2は、セラミックス成形体20で構成される膜エレメントブロックが複数個連なったセラミックス構造体で構成されている。膜エレメント2を構成する膜エレメントブロックの個数は任意である。
膜エレメントブロックは、接合材成形体層11がセラミックス成形体層6に一体に成形されたセラミックス成形体20を焼成することで得られるので、以下の説明では、焼成前をセラミックス成形体20として、焼成後を膜エレメントブロック20として表記する。セラミックス成形体層6は、焼成により多孔質体セラミックスとなる材料で構成されているが、説明の便宜上、セラミックス成形体層6は、焼成後であってもセラミックス成形体層6との表記を用いる場合がある。
各セラミックス成形体20には、一対の対向面を貫通する複数の流体通流孔3と、一対の対向面とは異なる側面に開放されたスリット5が形成されており、各セラミックス成形体20は、各流体通流孔3同士が連通するように接合されている。このような膜エレメント2の最上段の膜エレメントブロック20の流体通流孔3に被処理流体である被処理水を通流すると、被処理水に含まれる固形異物は各膜エレメントブロック20で濾過され、各膜エレメントブロック20の周囲から濾過水が排出される。
図3(a),(b)に基づいて、膜エレメントブロック20を構成するセラミックス成形体20について説明する。セラミックス成形体20は、縦50mm、横50mm、高さ40mmの直方体形状をし、その高さ方向のうち約39mm分がセラミックス成形体層6で構成され、残りの約1mm分が焼成により他のセラミックス成形体20のセラミックス成形体層6と接合される接合材成形体層11で構成されている。
セラミックス成形体20には、一対の対向する端面20a,20b間を貫通するように高さ方向に沿って81本の流体通流孔3が形成されている。各流体通流孔3は直径が3.6mmの開口で構成されている。
さらに、セラミックス成形体20には、端面20bと側面20cに開放された複数のスリット5が形成されている。平面視で中心部に位置する1本の流体通流孔3を除いて、中心から横方向に延びるように形成された2本のスリット5と、当該2本のスリット5と直交するように縦方向に延びるように形成された3本のスリット5によって、流体通流孔3が10本ずつの8ブロックに区画されている。
セラミックス成形体層6は所定のセラミックス材料をプレス成形することで得られ、接合材成形体層11はプレス成形後のセラミックス成形体層6とともに、所定の接合材料をプレス成形することでセラミックス成形体層6と一体に成形される。
接合材成形体層11は、セラミックス成形体層6の一対の対向する端面6a,6bのうち端面6aに、端面6aに対応するように各流体通流孔3に対応する箇所に開口が形成された形状で一体に成形されている。端面形状に対応した形状とは、セラミックス成形体層6の端面6aの形状と同一の形状に限らず、端面6aと隣接するセラミックス成形体20のセラミックス成形体層6の端面6bとを適切に接合するために必要な形状であればよい。セラミックス成形体層6の端面6aが平坦な面であれば、均一な厚みの接合材成形体層11を形成しておけばよい。
セラミックス成形体層6の端面形状、つまり、他のセラミックス成形体20のセラミックス成形体層6の端面6b及び、当該端面6bに対向する端面6aが複雑な平面形状であっても、立体形状があっても、それに対応して予め接合材成形体層11を形成しておくことで、セラミックス成形体層6同士を接合するための位置決めも容易になる。尚、接合材成形体層11の厚み等も成形時に容易に調整できるので、焼成時に溶けた接合材が接合端面の周囲にはみ出すような事態も解消される。
尚、図3(a),(b)に示すセラミックス成形体20では、端面20aは接合材成形体層11であり、端面20bはセラミックス成形体層6の端面6bとなっている。接合材成形体層11は、セラミックス成形体層6の一方の端面6aに成形される場合に限らず、図8(a),(b)に示すように、セラミックス成形体層6の端面6bに成形されてもよい。この場合、セラミックス成形体20の端面20aはセラミックス成形体層6の端面6aであり、端面20bは接合材成形体層11となる。さらには、セラミックス成形体層6の対向する一対の端面6a,6bの両方に成形されてもよい。
図2に示した膜エレメント2の最下段の膜エレメントブロック20は、端面20bが接合材成形体層11であるセラミックス成形体20で構成され、他の膜エレメントブロック20の配列姿勢と上下反対姿勢で配置されている。最下段のセラミックス成形体20は、端面20bが隣接するセラミックス成形体20に接合される。尚、接合材成形体層11がセラミックス成形体層6の一方の端面6aに成形された膜エレメントブロック20、または、接合材成形体層11がセラミックス成形体層6の一方の端面6bに成形された膜エレメントブロック20の何れかを複数個用いて、全ての膜エレメントブロック20を同じ方向に配列してもよい。
最上段の膜エレメントブロック20の流体通流孔3に被処理水が供給されるので、端面20aには、端面20aから被処理水が浸入しないように、焼成工程前に釉薬を塗布したり、焼成工程後に樹脂を塗布したりする等の処理をして閉塞することが好ましい。釉薬や樹脂に替えて端面20aに接合材成形体層11を形成し、焼成により溶けた接合材成形体層11で端面20aが閉塞されるように構成してもよい。また、釉薬や樹脂による端面20aの目封じに替えて、端面20aに濾過膜層を形成してもよい。
このように本発明によるセラミックス成形体20を膜エレメントブロック20に適用すると、個々のセラミックス成形体20に形成される流体通流孔3が短くても、セラミックス成形体20を多段に配列して焼成することによって、長い流体通流孔3を備えた膜エレメント2を容易に得ることができる。
次に、セラミックス成形体20の製造方法について説明する。
セラミックス成形体20の製造方法は、セラミックス原料生成工程と、接合材原料生成工程と、セラミックス成形体層成形工程と、接合材成形体層成形工程と、を含んでいる。
セラミックス原料生成工程では、所定のセラミックス微粒子として数μmから数十μmのムライト(3Al2O3・2SiO2)系セラミックスに水と有機バインダ等を添加してスラリーを生成し、このスラリーをスプレードライすることにより100μm前後の粒径のセラミックス粒状体が得られる。このセラミックス粒状体がセラミックス原料となる。
セラミックス原料は、ムライト(3Al2O3・2SiO2)系セラミックスを採用した例を示したが、これに限るものではなく、アルミナ(Al2O3)やコージュライト等、セラミックス成形体層6が形成可能なセラミックス微粒子であれば適宜用いることができる。
接合材原料生成工程では、セラミックス原料を構成する主となるセラミックス材料よりも融点が低いセラミックス材料を含むセラミックス微粒子に水と有機バインダ等を添加してスラリーを生成し、このスラリーをスプレードライすることにより100μm前後の粒径の接合材粒状体が得られる。この接合材粒状体が接合材原料となる。
接合材原料は、インド長石、ソーダライムガラス、ムライトの混合比(重量%)を所定の混合比で配合し、それに結合材を加えて得られる。
但し、接合材原料は、上述の例示に限るものではなく、ケイ酸塩鉱物(シリカ)を含むものであればよい。また、アルミナを含むものであってもよい。尚、浄水処理用の膜エレメントとして使用する場合、有害な重金属成分が溶出しないように、鉛等の重金属を含まないものが望ましい。無アルカリ、アルカリ、アルカリ土類金属及びアルミナ等を含む材料で、単独或いは混合物であってもよい。天然材料であれば、カオリン、ベントナイト、ケイ砂等の粘土鉱物や、ソーダ長石、カリ長石、リチア長石等の長石類が例示できる。人工材料(フリット)であれば、焼成ムライト、アルミナ等の粉砕物や、ソーダ灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、スポジュメン、溶融シリカ等の粉砕物が例示できる。その混合比も接合対象のセラミックス成形体に応じて適宜設定すればよく、特に制限されるものではない。セラミックス成形体層6を構成する材料の収縮率に近い収縮率の材料であればより好ましい。
結合剤として、PVB(ポリビニルブチラール)やPVA(ポリビニルアルコール)等のポリビニル系のバインダ樹脂やアクリル系のバインダ樹脂等を用いることができる。比較的低温で容易にガス化するバインダ樹脂を用いることが好ましい。
図4(a)から(e)に基づいて、セラミックス成形体層成形工程と、接合材成形体層成形工程について説明する。セラミックス成形体層成形工程と、接合材成形体層成形工程は、プレス成形装置を用いて実行される。プレス成形装置は、図4(a)から(e)に示すように、原料が充填される金型30と、金型30に充填された原料を上下からプレスする上パンチ31、下パンチ32を備えている。
セラミックス成形体層成形工程では、図4(a)に示すように、金型30に、セラミックス原料Sを充填した後、図4(b)に示すように上パンチ31と下パンチ32を押圧することで、セラミックス成形体層6がプレス成形される。
次に、セラミックス成形体層成形工程によりプレス成形されたセラミックス成形体層6が金型30に存在する状態で、接合材成形体層成形工程が実行される。接合材成形体層成形工程は、図4(c)に示すように、セラミックス成形体層6の上に接合材原料Gを投入し、図4(d)に示すようにパンチ31,32を押圧することで、接合材成形体層11がセラミックス成形体層6に一体に成形される。その後、図4(e)に示すように、その後上パンチ31と下パンチ32を上げると、接合材成形体層11がセラミックス成形体層6に一体に成形されたセラミックス成形体20が得られる。
尚、金型30の内部空間に、各流体通流孔3に対応する形状の複数のピンを立設したり、各スリット5に対応する形状の複数のプレートを立設すれば、セラミックス成形体層6や接合材成形体層11の成形と同時に、セラミックス成形体20に複数の流体通流孔3と複数のスリット5を形成することができる。
先にセラミックス成形体層6をプレスして、その後接合材成形体層11をプレスする場合は、セラミックス成形体層6の端面に合うように接合材成形体層11が形成され、セラミックス成形体層6と接合材成形体層11の二層が一体となったセラミックス成形体20が得られる。先に接合材成形体層11をプレスして、その後セラミックス成形体層6をプレスする場合は、接合材成形体層11の端面の形状に合うようにセラミックス成形体層6が形成され、接合材成形体層11とセラミックス成形体層6の二層が一体となったセラミックス成形体20が得られる。
また、先に接合材成形体層11をプレスして、その後セラミックス成形体層6をプレスし、その後さらに接合材成形体層11をプレスすると、セラミックス成形体層6の一対の対向する端面6a,6bの両面に接合材成形体層11が一体成形されたセラミックス成形体20を得ることができる。
尚、予め別々にプレス成形したセラミックス成形体層6と接合材成形体層11を接着剤により接合することで、接合材成形体層11とセラミックス成形体層6の二層が一体となったセラミックス成形体20を得るようにしてもよい。
セラミックス成形体20をプレス成形法で成形すると、流体通流孔3やスリット5をセラミックス成形体20の成形と同時に形成できるため、製造工程を削減して簡素化することができ、成形精度がよいために高い歩留まりで製造することができるようになる。プレス成形法で成形されたセラミックス成形体20は、比較的含水率を低く抑えることができるため、押出成形法で成形された含水率が数%と高いセラミックス成形体のように保形性のための仮焼成が不要であり、直ちに接合工程を実行することができるため、製造工程を簡素化できるようになる。
以上のように、膜エレメントブロック20を構成するセラミックス成形体20が製造される。
次に、上述のセラミックス成形体20の製造方法で製造されたセラミックス成形体20を用いて膜エレメント2を構成するセラミックス構造体の製造方法を説明する。
セラミックス構造体の製造方法は、配列工程と、焼成工程を、含んで構成されている。図5に示すように、本実施形態では、最上段と、最下段を除いて図3(a),(b)に示すセラミックス成形体20が複数個配列される。最上段には、接合材成形体層が形成されていないセラミックス成形体層6のみのセラミックス成形体20が用いられ、最下段には、図8(a),(b)に示すセラミックス成形体20が用いられ、接合材成形体層11が上になるように配置される。
配列工程では、複数のセラミックス成形体20は、隣接するセラミックス成形体20の対向面の一方に接合材成形体層11が位置するように配列される。このとき、最下段を除いたセラミックス成形体20はスリット5が下方に向けて開口するように配列され、最下段のセラミックス成形体20はスリット5が上方に向けて開口するように配列される。また、図示していないが各セラミックス成形体20は、各流体通流孔が連通するように配列される。各セラミックス成形体20の一方の端面に形成された接合材成形体層11を隣接するセラミックス成形体20と接合することで、複数のセラミックス成形体20を接合することができる。
尚、多数のセラミックス成形体20を配列する作業は、手作業で行なってもよいし、機械を用いて自動配列してもよい。
隣接するセラミックス成形体20を接合するときの位置決めと同時に接合材成形体層11が適切に隣接するセラミックス成形体層6の被接合部間に配置されるので作業工程の簡素化が図れ、自動化によるコスト低減が可能となる。また、各セラミックス成形体層6の接合端面間に接合材成形体層11が配列されるので、セラミックス成形体層6の一対の対向する端面6a,6bの両面に接合材成形体層11を一体に成形しなくてもよい。
焼成工程では、配列工程で配列された複数のセラミックス成形体を、所定温度、約1000〜1400℃程度の温度で約1時間から数時間焼成する。当該焼成工程により、隣接するセラミックス成形体層6が接合材成形体層11を介して接合され、複数の膜エレメントブロック20が接合された膜エレメント2が得られる。各膜エレメントブロック20のセラミックス成形体層6は、焼成により多孔質セラミックスとなる。
接合材成形体層11を介して他のセラミックス成形体層6と位置決めして接触させた状態で両者を焼成すれば、当該接合材成形体層11が一体に成形されたセラミックス成形体層6と他のセラミックス成形体20のセラミックス成形体層6とが接合される。接合材成形体層11が予めセラミックス成形体層6に一体に成形されているため、従来のように破損しやすいグリーンセラミックスシートや接合中間層をセラミックス成形体同士の接合端面に慎重に位置決めするような注意を要する作業から解放される。さらには、スラリーやペーストを塗布する作業も不要となり、スラリーやペーストの過剰塗布、過少塗布、不均一塗布の問題も解消される。従って、製造工程の削減と、製品の歩留まりを大きく向上させることができる。
焼成工程で、複数のセラミックス成形体20を所定の圧力で加圧した状態で焼成すれば、溶けた接合材が隣接するセラミックス成形体20に効率よく密着するので、隣接するセラミックス成形体20同士を確実に接合することができる。尚、所定の圧力で加圧とは、焼成時に溶けた接合材成形体層11が隣接するセラミックス成形体20に密着するのに適した圧力をいい、この加圧は、セラミックス成形体20の自重によるものに限らず、最上段のセラミックス成形体20に錘を置くなどして、下方に所定の圧力で加圧するように構成してもよい。
また、配列工程で配列された複数のセラミックス成形体20の複数組を二次元的に配列し、その状態で同時に焼成することにより、一回の焼成工程で同時に複数組の膜エレメント2を得ることができる。量産性を飛躍的に向上させることができる。
さらに、流体通流孔3の内周面に、被処理水に含まれる分離対象物の分離精度の高い濾過膜層を形成することもできる。膜成形工程では、粒径0.1μm〜1μmのアルミナに水とバインダを添加したスラリーを、膜エレメント2の流体通流孔3に一端側から圧入する等して流体通流孔3の内周面に厚みが約20μm程度となるように塗布し、その後、約1時間、約1000〜1300℃程度の温度で焼成処理して、濾過膜層4を形成する。この場合、膜エレメント2(セラミックス構造体)は、濾過膜層4の支持体として機能する。
上述の製造方法で製造された膜エレメント2は、図6(a)に示すような膜モジュール1に組み込んで使用することができる。膜モジュール1は、水処理装置に用いられる装置であり、複数本の膜エレメント2を収容するケース7を備えている。ケース7には、各膜エレメント2に被処理水を供給する流体供給部(以下、「給水部」と記す。)8と、流体排出部(以下、「排水部」と記す。)9と、各膜エレメント2で濾過された濾過水を排出する濾過流体排出部(以下、「濾過水排出部」と記す。)10が設けられている。給水部8及び排水部9にはそれぞれ流路を開閉するバルブ8b,9bが設置されている。ケース7内部には、縦横に3本ずつ合計9本の膜エレメント2が並設されている。本実施形態では、9個の膜エレメントブロック20が膜エレメント2を構成し、各膜エレメント2の一端部にヘッダ8aを介して給水部8が接続され、他端部にヘッダ9aを介して排水部9が接続されている。
尚、ケース7内部に収容する膜エレメント2の本数の9本とは例示であり、例えば、図7に示すように、ケース7内部に1本の膜エレメント2を収容する構成であってもよい。その他2本以上の複数本の膜エレメント2を収容する構成であってもよい。ケース7の形状は収容される膜エレメント2の本数や配置に応じた適当な大きさに設定され、ケース7内部に収容される膜エレメント2が複数本である場合の各膜エレメント2のケース7内での配列方法は任意である。
膜モジュール1による被処理水の濾過について説明する。図6(a)に示すように、給水部8のバルブ8bを開放し、バルブ9bを閉塞した状態で、給水部8から被処理水を加圧供給すると、被処理水が各膜エレメント2の流体通流孔3に案内され、その内周面の濾過膜層4で濾過される。
各流体通流孔3の濾過膜層4を透過した濾過水は、膜エレメントブロック20のセラミックス成形体層6の細孔を通過して、膜エレメントブロック20の外表面から外部空間のケース7内に排出される。ケース7内に排出された濾過水は、その後濾過水排出部10から膜モジュール1外へと排出される。
複数本のスリット5は、膜エレメントブロック20の内部のセラミックス成形体層6の微細な空隙を流れる濾過水に、大きな流動抵抗がかかって濾過速度が低下することを回避するために設けられている。複数本のスリット5によって、複数本の流体通流孔3が均等に分散するように区画形成されているため、膜エレメントブロック20の内部を流れる濾過水にかかる流動抵抗が全域で偏ることなく低減させることができ、これにより濾過速度が確保される。
ある程度の期間濾過処理を行なうと、流体通流孔3の内周面に形成された濾過膜層4にファウリング物質が付着し、このファウリング物質が濾過膜層4を閉塞して濾過性能が低下する。このようなファウリング物質を取り除き濾過性能を回復させるため、濾過流体の通流方向と逆方向に洗浄水を強制的に通流して濾過膜層4に付着したファウリング物質を除去する逆洗浄工程が実行される。
図6(b)に示すように、逆洗浄工程では、給水部8のバルブ8bが閉塞され、排水部9のバルブ9bは開放された状態で濾過水排出部10から洗浄水が圧入され、濾過工程とは逆の経路に沿って濾過膜層4に到達した洗浄水が、濾過膜層4の表面に付着した固形分を剥離しながら流体通流孔3から排水部9を介して排水される。尚、洗浄水に代えて空気等の気体を洗浄用流体に用いてもよい。
上述した実施形態では、本発明による膜エレメント2で処理される対象となる被処理流体が上水用の被処理水であり、被処理流体から分離する分離対象物が固形異物である場合を例に説明したが、本発明による膜エレメント2は、上水以外の下水や産業廃水等の水を対象としてもよく、被処理流体として水以外の水溶液や油等の液体を対象としてもよい。また、排ガス等の任意の気体を対象としてもよい。さらに、分離対象物も固形異物に限らず、複数種類の混合液体に含まれる特定の液体や、複数種類の混合気体に含まれる特定種類の気体であってもよい。つまり、本発明による膜エレメント2は、上水、下水、汚水当の液体や排ガス等の気体を浄化する処理や、食品等の製造過程で必要となる各種の固液分離処理、有用物の回収処理等の様々な分野で使用することができる。
流体通流孔3の内周面に形成した濾過膜層4の細孔径や層厚は、被処理流体に含まれる分離対象物の大きさや性状に応じて適宜設定されるものである。濾過膜層4とセラミックス成形体層6との間に、濾過膜層4の細孔径より大きくセラミックス成形体層6を焼成した多孔質セラミックスの細孔径よりも小さな細孔径となる多孔質セラミックスの中間層を設けてもよい。また、流体通流孔3の内周面に濾過膜層4を形成しなくてもよい。
膜エレメントブロック20の一対の対向する端面20a,20b間に貫通形成された各流体通流孔3の端部に面取りを施してもよい。流体通流孔同士が連通するように複数のセラミックス成形体20を配列する際に、流体通流孔に多少の位置ズレがあっても、面取り部によってズレが吸収されるので、高精度な位置決め工程が不要となり製造工程がより簡略化できる。膜エレメントブロック20の形状は、上述した実施形態で説明した形状、寸法、組成等に限定されるものではなく、プレス成形する機械の性能に応じて適宜設計可能である。
本発明によるセラミックス成形体、セラミックス成形体の製造方法、セラミックス構造体の製造方法、及び膜エレメントの具体的構成は、上述した実施形態で説明した態様に限定されるものではなく、本発明による作用効果を奏する範囲において適宜変更設計可能であることはいうまでもない。