本発明の実施形態である読取装置(測色装置)を有するインクジェットプリント装置について説明する。図1は装置の全体構成を示す断面図である。プリント装置100は、大きく、シート供給部1、搬送部2、プリント部3、カッタ部4、読取部200、制御部300を有する。
シート供給部1では、ロール状に巻かれた連続シートRを回転可能に保持する。ロールから引き出されたシートSは、搬送部2の搬送ローラ対でニップされ、下流に向けて搬送される。本明細書では、シートが搬送される経路の任意の位置において、シート供給部1に向う側を上流、その逆を下流という。
プリント部3は、複数の色に対応した複数のプリントヘッドを有し、第1方向に搬送されるシートSに対して、キャリッジを走査して1バンドずつプリントするシリアルプリント方式、もしくはラインヘッドによるラインプリント方式のいずれかで画像を形成する。本実施形態ではシリアルプリント方式の例を説明する。プリントヘッドは、インクジェット方式でノズルからインクを吐出するインクジェットプリントヘッドである。インクジェット方式は、ヒータを用いた方式、ピエゾ素子を用いた方式、MEMS素子を用いた方式、静電素子を用いた方式など、その方式は問わない。
プリント部3では、通常の所望の画像のほか、検査用の検査パターンをシートSに対してプリントすることができる。検査パターンとは、カラーキャリブレーション(色校正)用のカラーパッチなどのカラーパターン、ノズルの不吐検査用のパターンなどである。
プリント部3の下流には、読取部200が設けられている。読取部200は、シートSに形成された検査パターンをスキャナで読み取って色情報などを取得するためのユニットである。読取部200は、ユニットとしてプリント装置100から取り外すことが可能となっている。
プリント部3と読取部200の間には、連続シートを切断するためのカッタ部4が設けられている。カッタ部4は、シートSの検査パターンが形成された領域を切断して切り離す、もしくはシートSにプリントされた複数の画像を画像単位で切断するためのものである。
読取部200の先の装置下部には、バスケット形状のシート受け部があり、プリントまたは検査が済んで排出されたシートが、重力で落下して中に蓄積される。
プリント装置100には、さらに、装置内部の気体温度および湿度を計測する温湿度センサ24、ならびに、使用者がプリントに関する設定を行うための入力キーや表示器を有する操作部25が設けられている。
制御部300の制御により、本実施形態のプリント装置は、通常の画像プリントを行う通常モードの他に、キャリブレーション等のために検査パターンをプリントして検査する検査モードを実行することができる。通常モードでは、プリント部3で1つまたは複数の画像がプリントされたシートSは、カッタ部4にて画像単位で切断して排出する。一方、検査モードでは、プリント部3で1つまたは複数の検査パターンがプリントされたシートSは、読取部200でパターンを読み取った後に、検査パターンの後端をカッタ部4で切断してから排出する。
次に、本実施形態の特徴である、読取部200の構成および動作の詳細について説明する。図2は読取部200の内部構成を示す断面図、図3はその部分斜視図である。図3では図2に描かれている一部の部材は省略している。
読取部200は、スキャナ部Uと乾燥部を一体に含むユニットであり、ユニットの下に固定して設けられて固定ガイド16に対してユニットが上下に移動することができるようになっている。固定ガイド16は、その上面の支持面16aにシートSを支持するもので、支持面は第1方向の下流側(排出側)にいくほど重力方向で低くなるように下向きに傾斜している傾斜面である。支持面に支持されるシートSは、乾燥部でインク乾燥がなされ、さらにスキャナ部Uで読み取られる。
スキャナ部Uは、検査パターンの色情報を読み取るセンサユニット5、センサユニット5を保持しシートの面に沿って移動するキャリッジ6、ならびにシートが支持される固定ガイド16の支持面を押圧する押板7を有する。これらは一体のユニットとなっている。押板7の下面はフラットな押圧面7aとなっており、押圧面7aと支持面との間で読み取りを行うシートSを挟んで押圧することで、読み取り中のシートを固定する。
センサユニット5は、光源と受光素子を含むユニットである。プリント部3でシートSに形成された検査パターンに対して、光源により別の方向から光を照射し、反射して戻ってきた光を受光素子で受光する。受光素子の信号強度からパターンの濃度や色に関する情報が得られる。
キャリッジ6はシートが搬送される第1方向と交差(直交)する第2方向に沿って往復移動する。往復移動は例えば60インチのシート幅をカバーできるだけの移動範囲を持っている。キャリッジ6は、その底面に設けられた複数の当接部材8が、押板7の上面に当接しながら移動する。当接部材8は車輪のような従動回転する回転体、または接触する部位の摩擦抵抗が小さな摺動体である。駆動ベルト9、モータ10、駆動プーリ11、アイドラプーリ12が、キャリッジ6を往復移動させる駆動手段となっている。駆動ベルト9は、第2方向に沿って駆動プーリ11とアイドラプーリ12の間に亘って帳架されており、駆動ベルト9の一部がキャリッジ6に固定されている。この駆動手段により、モータ10の回転はキャリッジ6の直進運動に変換される。また、ガイドシャフト30と押板7が、キャリッジの第2方向の移動をガイドするガイド手段となっている。キャリッジ6の往復移動の際、当接部材8と押板7の上面、ならびにキャリッジ6のガイド穴内面とガイドシャフト30の円筒表面がそれぞれ当接して、センサユニット5の姿勢が維持される。押板7は、結合部材19を介してユニットの筐体に所定の調整ストローク(遊び)を持った状態で取付けられている。ユニットに対する押板7の面の姿勢が、結合部材19の調整ストロークの範囲で変位することができるようになっている。
押板7の中間には、第2方向に沿って細長い開口であるスリット7bが形成されている。スリット7bは、検査パターン読取のために光を通過させるための開口である。キャリッジ6はスリット7bの長手方向に沿って移動し、センサユニット5は、移動しながらスリットの開口からシートSの表面に光を照射して反射光を検出する。つまり、スリット7bの直下が検査パターンの読取位置(読取領域)となる。
以上のように、押板7は、センサユニット5の読取位置を挟んだ両側それぞれに、キャリッジ6の移動方向と平行な方向に所定の範囲に渡って延びた長尺形状の第1部位および第2部位を有する。第1部位と第2部位は1枚の押板の異なる部位であっても、2つに分割された板のそれぞれの部位であってもよい。そして、センサユニット5の下部には、キャリッジ6が移動する際に前記第1部位の表面に接触する第1当接部材と、前記第2部位の表面に接触する第2当接部材が設けられている。
スリット7bの一方の端部の外側には、色校正板15が設けられている。色校正板15は、温度変化や経年変化に伴うセンサユニット5の経時的な読取特性の変化に対して、校正を行うための読取基準として機能する。校正を行う場合には、キャリッジ6はセンサユニット5が色校正板15と対向する位置に移動して、センサユニット5で検出を行うことで、検出器の出力から色校正板15の色または明るさに関する情報を取得する。
読取部200のユニットは、移動機構17により、センサユニット5よりも上流に設けられた回転軸18を中心に回動することができる。移動機構17は、モータとウォームギア等からなる駆動手段を持っている。ユニットの回動により、押板7の押圧面7aと固定ガイド16の支持面の間に、ワニ口のように下流側がが開閉する開口が形成される。開口の最も下流側の間隔(または角度)Hと定義すると、Hはゼロから所定の最大値までの範囲を可変となる。
読取部200は、読み取りの際には押板7が支持面を押圧する押圧位置(Hがゼロ、第1位置と称する)にある。一方、読取部200は、シート送り動作や乾燥動作の際には押板7の押圧が解除されるよう退避する退避位置(Hがゼロよりも大きい)に、移動機構17によって移動する。退避位置は1つに限らず、シートのステップ送りに適した第2位置(Hがゼロよりも大きい最小値H1)、シート乾燥時に適した第3位置(Hが最大と最小の中間値H3)、シート先端の導入時に適した第4位置(Hが最大値H4)、の複数をとり得る。つまり、押板7は4種類のポジション(姿勢)をとるよう制御される。検査パターンを読み取るときには、押板7が支持面に押圧されるので、スリット7bは固定ガイド16で完全に覆われ、外光やインクミストがスリット7bからスキャナ部Uの内部に侵入することが防止される。このため、精度の高い読取を行うことが可能となる。
センサユニット5において、高い読取精度を維持するためには、センサユニット5とこれと対向するシートSの表面との間の相対距離および相対角度は所定範囲内に保つことが望ましい。現実には、シートSはインクや空気中の水分を吸収し波打ち(コックリング)が生じたり、シートSがロール紙である場合にはカール癖を有していたりする場合がある。つまりシートSの表面は必ずしも平らではない。そこで、読み取りの際には、押板7でシートを固定ガイド16の支持面に押し付けて平らに馴らす。押板7に形成されたスリットは開口であるために、その部分ではシートを押さえることはできないが、スリットの幅(第1方向の幅)は非常に狭いので、スリット両脇でシートを押さえることで、読取領域でのシートの浮きは十分に矯正される。
押板7は、シートSの表面(とくに検査パターンPが形成された部位)に傷が付きにくいように、厚さ1〜3mm程度のABSやPC等の樹脂からなる材質でできた変形が容易な可撓性の部材でできている。これに対して、固定ガイド16は剛体で作られており、その支持面も押板7よりも高い剛性を有している。シートSを押板7により押圧した際には、シートSと押板7は共に固定ガイド16の表面形状(平面)に倣った状態になる。
シートSに、強いカールや波打ち(コックリング)が生じている場合には、可撓性の押板7がシートの浮いた箇所に部分的に持ち上げられて、シートの密着が不完全になる可能性がある。この場合でも、押板7の上面で当接部材8が乗っている部位の近傍では、センサユニット5とキャリッジ6の合計重量の力で、当接部材8が押板7を集中的に押圧するので、読取位置の近傍では支持面からのシートの浮きは解消される。したがって、高い読み取り精度が維持される。
なお、本実施形態は、読取部200を回動軸の周りに回動させ姿勢を変えることで、押板7と支持面との間隔を変化させるものであるが、本発明はこれに限定されない。読取部200の姿勢を一定に保ったまま読取部200を昇降させる形態、すなわち、押板7は常に固定ガイド16の支持面との平行状態を保ちながら上下方向または斜め方向に移動して、押圧と退避を行うような形態であってもよい。図8は変形例の一例を示すもので、読取部200の全体が、押圧する第1位置(実線)と押圧解除の第2位置(破線)の間で矢印に示す斜めに方向に昇降する。
乾燥部は、読取部200での読み取りの前にシートに付与されたインクの乾燥を促進させるためのユニットである。乾燥部は、ヒータと乾燥ファンを含む送風器14と、送風器14で生成された温風をシートSの表面に向けて送るダクト13を有する。なお、乾燥部はヒータと乾燥ファンの両方を含む形態に限らず、必要な乾燥能力を発揮するのであればどちらか一方がなくてもよい。ダクト13は、ガイドシャフト30とともに、読取部200のユニットを構成する基本構造体としてユニットの全体の剛性を高める補強体としての役割も担っている。ダクト13の終端は吹出口13aとなっている。吹出口13aは乾燥させるシートSのシート幅以上の幅の口から温風を吹き出し、直下にあるシートSの幅全域を同時に乾燥させることができる。
図4は、乾燥部の内部構成を示す断面図である。図中の左右方向はシート幅方向である第2方向である。吹出口13aは、使用するシートの幅をカバーする範囲に渡って風を吹き出す長孔を有し、長孔には、第2方向における風量を均一に近づけ且つ風の向きを安定させるため、複数のフィン20が一定間隔で設けられている。送風器14により発生した温風は、フィン20によって吹き出し方向がほぼ一方向で且つ各々が均一風量(図中の多数の矢印)になるよう整流され、固定ガイド16の上に支持されるシートSの表面にシート幅をカバーする範囲で一律に吹きつけられる。
吹出口13aからの風は、押板7と固定ガイド16の支持面との間の上下方向間の閉空間に下流から上流に向けて流れる。温風を固定ガイド16と押板7の間の上下方向の閉空間に吹きこむことで風速の減少を押さえ効率良い送風が可能である。とくに、くさび形の空間は上流側ほど間隔が狭くなるので、風速の減少を押さえる効果がある。
加えて、下流から上流に向けての温風の流れは、シートSが固定ガイド16から垂れ下がる前の固定ガイド16の支持面の上が乾燥領域となるので、効果的に乾燥がなされる。本明細書では、温風がシート表面に沿って下流から上流に流れ所望の乾燥効果が得られる領域を「有効乾燥領域」と呼ぶものとする。シート搬送方向において、有効乾燥領域の長さは、後述するステップ送りの送り量の整数倍(N倍)である。
また、スキャナ部Uの下流から上流に向けての温風の流れは、さらに上流のプリント部3で発生したインクミストがスキャナ部Uに流れ込むことを抑制し、センサユニット5の光源や受光素子がインクミストの汚れることが抑制される。
図5は、制御部300を中心とする本実施形態のプリント装置のシステム構成図である。制御部の中心となるのは、CPU301、入出力インターフェイス303、RAM304、ROM305からなるコンピュータシステムである。これらはASICとして構成してもよい。CPU301は、ROM305に記憶された制御プラグラムに従って、プリント動作、乾燥動作、読取動作、キャリブレーション動作の全体の制御を行う。RAM304はその際のワークエリアとして使用される。CPU301には、ホストコンピュータ302からプリントデータ、各種の設定情報等が入出力インターフェイス303を介して入力される。CPU301は、操作部25との間でも入出力がなされる。また、CPU301は、搬送部2(駆動モータ)、送風器14のヒータやファンの駆動、移動機構17(駆動モータ)、プリントキャリッジ用のモータ306、センサキャリッジ用のモータ307、プリントヘッド308をそれぞれ個別に制御する。さらにCPU301には、センサユニット5で取得された信号、ならびに温湿度センサ24で取得された信号が入力され、入力された信号に基づいてキャリブレーション処理等を行う。
次に、以上の構成を有するプリント装置において、検査パターンを読み取ってキャリブレーション(色校正)を行う動作について説明する。図6は動作中の装置の状態を示す説明図、図7は制御部300により司られる動作シーケンスを示すフローチャート図である。
本実施形態のプリント装置で使用することができるシートは、ロール紙またはカット紙である。ステップ1では、読取部200を退避位置である第4位置(最大間隔H4)にして押圧解除し、シートが搬送できるようにする。そして、シート供給部1のロールRから巻き出したシートSを、搬送部2によってプリント部3の下まで搬送する。
ステップS2では、シートに検査パターンである画像Pをプリントする。シートSの画像形成領域の先頭がプリント部3の下まで搬送されたら、プリント部のキャリッジを走査しながらプリントヘッドからインクを吐出し、シートSに1バンド分のプリントを行う。シートSの1バンド分のステップ送りと、1バンドのプリントを交互に繰り返すシリアルプリント方式で、複数列のパターンからなる画像P(キャリブレーションのための検査パターン)をシートSに形成していく。具体的には、シートSを順方向に移動させながらプリント部3で検査パターンに含まれるパッチ列を1列ごとに順にプリントしていく。
こうして、検査パターンが形成され読取部200に導入されたシートSは、固定ガイド16の支持面の上にガイドされながら下流に向けて移動していく。シートSの先端が固定ガイド16を通り過ぎると、重力により下方向に曲がり落下する方向に進行する(図6(a)の状態)。
搬送されるシートSのシート先端が強いカールを持っている場合(図6(a)の破線)がある。また、シート剛性が高いシートSが固定ガイド16に倣わずに支持面から離れてほぼ水平方向に進行する場合(図6(a)の一点鎖線)があり得る。とくに、インクが付与された直後で乾燥してないときにはインクの付与量によってはカールが大きくなる傾向がある。図6(a)の破線に示す例では下向きのカールであるが、逆に上向きのカールの場合もある。カールが下向きの場合あるいはシートSが水平に進行した場合は、シートSのカールした部位が押板7の押圧面7aに強く擦れて、乾燥が不十分な検査パターンのインクが押圧面7aに付着して汚したり、検査パターン自体がダメージを受けたりする可能性がある。また、カールが上向きの場合あるいはシートSが水平に進行した場合は、導入されたシート先端がスリット7bに入り込んで搬送ジャムを引き起こす可能性がある。
この問題に対して本実施形態では、読取部200を第4の位置とすることで、固定ガイド16の支持面と押板7の押圧面7aとの間隔を最大間隔H4に拡げている。これにより、図6(a)に破線や一点鎖線に示すようなシートSであっても、上述した擦れや搬送ジャムの問題が起ににくくなる。もちろん、実線に示すような通常のシートSであれば、上述の問題は起きない。
ステップS3では、画像Pのプリントの済んだシート領域を乾燥部の有効乾燥領域まで搬送する。画像Pのプリント工程を終えたら、シートに付与されたインクの乾燥を促進させるために、画像の読取工程の前に乾燥工程に移行する。強制乾燥させるのは、シートSに形成された画像Pの色が安定するまでの時間を短縮させるためである。
上述したように、読取部200には、スキャナ部Uとその下流側に乾燥部が配置されている。シートSに形成された画像Pの後端領域(最後のパッチ列)が、スキャナ部Uをスキップして乾燥部の有効乾燥領域にくるまでシートSを搬送する(図6(b)の状態)。上述したように、有効乾燥領域は乾燥時に温風が当たり、所望の乾燥効果が得られる領域である。シート搬送方向において、有効乾燥領域の長さは、後述するステップ送りの送り量の整数倍(N倍)である。整数倍とすることで、一回の乾燥で複数列のパッチをまとめて乾燥させることができる。
ステップS4では、読取部200を第4位置(最大間隔H4)から、第3位置(中間間隔H3)に切り替える。第3位置の間隔H3は、次に行う乾燥動作に適したものである。吹出口13aは、搬送経路の上流側に向けて温風を吹き出す向きになっている。つまり、乾燥部よりも上流側のスキャナ部Uの直下を含む領域が乾燥領域となっている。こうすることで、下流側に乾燥領域を取った場合に比べて温風の逃げが少なくなり、広い領域を一度に効率よく乾燥させることができる(図6(a)の状態)。
ステップS5では、検査パターンが形成された領域を強制乾燥させる。送風器14が有する乾燥ファンおよびヒータをONにする。送風器14によって温風が生成され、ダクト13を通り吹出口13aからシートSに向けて温風が吹きつけられる。有効乾燥領域に位置する1ブロックの領域(例えばパッチ3列分)の画像Pが強制乾燥される。乾燥に要する時間が経ったら、乾燥ファンをOFFにしてファンの出力を低下させる。ヒータはONを維持する。ここでいうOFFとは、完全にファンを回転停止させる形態に限らず、振動が十分に小さくなる程度までファン回転数を落とす形態も含む。
ステップS6では、画像Pの読取を行うために、シートSをこれまでと逆方向にバックフィードして送り戻す。画像Pの領域後端(最後に形成したパッチ列)がスキャナ部Uのスリット7bの直下である読取位置に到達するまで、シートSを逆方向に搬送して送り戻す。なお、読取位置が有効乾燥領域の中に含まれ、後端領域が読取位置にある場合は、このバックフィードは不要である。
以上のステップS1からステップS6までは、読取部200は退避状態であり、間隔の差はあれ押板7が固定ガイド16の支持面から離れているので、その隙間をシートは自由に移動することができる。
ステップS7では、測色のための読み取りを行う前にセンサユニット5の読み取り特性のセンサ校正を行う。センサユニット5は、環境や経時変化により読み取った値が変化して測色値が変動する場合がある。そのため、ステップS9での実際の読み取りに先立って、センサユニット5の校正を行う。
具体的には、キャリッジ6を色校正板15が設けられている側の端部に移動させ、色校正板15の光学特性(色)をセンサユニット5で検出する。そして、その測定結果を元にセンサ校正を行う。センサ校正は、色校正板15を測色したときの測定結果が本来の基準値となるように、検出結果をデータ補正する。あるいは、本来の出力値が得られるように、センサユニット5に含まれる光源の発光強度や受光素子のゲインを調整するようにしてもよい。
ステップS7でのセンサ校正を行う際には、乾燥部で乾燥ファンの出力が低下している。そのため、色校正板を読み取る際にはファンの振動がなく、精度の良い色校正板の読み取りが可能となっている。ステップS6のバックフィードの最中に、ステップS7のセンサ校正を同時に行うようにすれば、トータルスループットがより向上する。なお、読取部200の第1位置への移動は、ステップS7の前に行ってもよい。
ステップS8では、読取部200を第3位置(中間間隔H3)から、第1位置(間隔ゼロ)に切り替える。パターン読み取りを行うシートSは、押板7と固定ガイド16の支持面との間で押圧され、動かないように読取位置に固定される(図6(d)の状態)。
ステップS8では、読取部200は上流側の回転軸18を中心に回動して下降する。押板7の押圧面7aは上流側が先にシートSに接触し、下流に向けて順次接触面が広がっていく。そのため、シートSに弛みやしわが発生することなく、押圧面7aと固定ガイド16の支持面との間にシートSが固定される。加えて、結合部材19の調整ストロークの範囲で押圧面7aは支持面に倣って姿勢が微小変化するので、両者はシートSを挟んで面同士が完全に密着する。
ステップS9では、スキャナ部UによりシートSの検査パターンの一部(一列)を読み取る。キャリッジ6の第2方向への移動と共にセンサユニット5も移動して、センサユニット5はシート表面の検査パターンの一列分を読み取って色情報を取得する。
ステップS10では、読取部200を第1位置(間隔ゼロ)から、第2位置(最小間隔H2)に切り替える。読取部200は、押圧状態から退避状態に移行して、押板7によるシートSの押圧は解除される(図6(e)に示す状態)。第2位置の間隔H2は、シートを搬送することが可能な最小間隔である。
ステップS10で設定する第2位置(図6(e)の例)では、読取部200を第1位置から第2位置に移行させるための回動に要する時間が短時間であるので、繰り返しの読み取る列数が多いほどスループットの向上に寄与する。もし、使用するシートSが強いカールを持ちやすい特性であることが判っている場合には、ステップS10において、図6(f)に示すように、読取部200を、第2位置よりも大きな間隔となる第3位置に設定してもよい。カールの生じやすさを反映したパラメータには、使用するシートの種類(操作部25からユーザが入力する)、温湿度センサ24により測定されたプリント内部の温度・湿度情報を用いることができる。その他にも、記録デューティ、プリントモード(インクをより多く付与する高品位モードではノーマルモードよりもカールが大きくなる)、パッチ配置等もパラメータとして使用することができる。制御部300はそれらパラメータに応じて、退避状態での間隔を設定する。
ステップS11では、ステップS5において一度に乾燥された1ブロックの検査パターンに含まれる複数のパッチ列の読み取りがすべて完了したか(Yes)否か(No)を判断する。1ブロックの検査パターンの中に未だ読み取りがされていないパッチ列が残っていれば、判断はNoとなる。判断がYesの場合はステップS12に移行し、判断がNoの場合はステップS13に移行する。
ステップS13では、直前に読み取った1列のパッチの次のパッチが読取位置にくるように、シートSを一列分、逆方向にステップ送り(バックフィード)する。そして、ステップS8に戻って、同様のシーケンスを繰り返す。このように、パターン読み取り際しては、複数列に渡って形成された検査パターンに対して、センサユニットによる列ごとの読み取りとシートのステップ送り(バックフィード)と繰り返して読み取りを行うものである。そして、列ごとの読取では押板7と固定ガイド16の支持面とが押圧された状態とし、ステップ送りでは押圧が解除された状態とする。
このように、押板7を含めて読取部200はユニット全体がシートから退避してシート搬送を可能とするので、キャリッジ6がどこにあろうとも、シート搬送の動作に移ることができる。ステップ9で往復移動するキャリッジ6の往路で読み取りを行った後、キャリッジのホームポジション戻し動作を、続く読取部200の移動(ステップS10)からステップS13(ステップ送り)の最中に行うようにすれば、トータルスループットは大幅に向上する。別法として、キャリッジが往復移動する際の往路と復路でそれぞれ読み取りを行うようにして、往路で一列のパターンの読み取りを行った後にステップ送りを行い、次いで、復路で次の列のパターンの読み取りを行うようにしてもよい。
ステップS12では、検査パターン全体を構成する複数のブロックのパターンの読み取りがすべて完了したか(Yes)否か(No)を判断する。判断がYesの場合はステップS15に移行し、判断がNoの場合はステップS14に移行する。
ステップS14では、次のブロックのパターンが有効乾燥領域にくるまで、シートSを送る。そして、ステップS4に戻って、次のブロックのパターンの乾燥から同様のシーケンスを繰り返す。2回目以降の乾燥においては、前工程で費やした時間分だけ自然乾燥が付加されるため、それを見込んで乾燥時間あるいは乾燥能力を小さくするのが好ましい。
ステップS15では、すべてのパターン読み取りが完了したシートSを、カッタ部4で切断し、順方向に送ってプリント装置から排出する。
ステップS16では、色に関するキャリブレーション処理を行う。ステップS8でのパターン読み取りで得られたデータを元にパターンの色に関する情報を取得する。そして、を制御部では、最終的なプリント結果物で所望の色が再現されるように、各色のプリントヘッドで付与するインク量を調整するカラーキャリブレーションを行う。
ところで、ステップS13のステップ送りによって読取位置に送られる次のシート領域は、当該シート領域の読み取りの前に、乾燥部により乾燥が促進させられる。乾燥部は振動を減らすため乾燥ファンの出力は低減させているものの、ヒータは作動しているのである程度の乾燥能力は持っている。すなわち、検査パターンに含まれるある列の読み取りを行っている最中、およびステップ送りの最中にも、後に読み取られる別の列が含まれるシート領域の強制乾燥はなされる。
乾燥ファンの振動が影響を与え得るのは読み取り時である。そこで、乾燥ファンの出力を低減させるのを、スキャナ部Uがスキャンを行っている最中に限定し、ステップ送りのときには乾燥ファンの出力を上げるようにすれば、トータルスループットをより向上させることができる。さらにスループット向上を目指すのであれば、スキャナ部Uがスキャンを行っている最中にも最大能力で乾燥を行うようにしてもよい。この場合、乾燥部は、低振動の乾燥ファンを使用する、もしくは振動を発生しない赤外線ヒータによってシート表面を直接照射するなど形態とすることが好ましい。
ステップ送りと読み取りの最中に、後続のパッチ列が適切な乾燥状態となるようにするため、あるステップ送りから次のステップ送りまでの時間間隔が、シートの乾燥に適した所定時間Tとなるようタイマーで管理することが好ましい。この所定時間の決定方法と読み取り動作の処理シーケンスについて説明する。
1回のステップ送りの距離M、有効乾燥領域の搬送方向の長さL、1つのパッチを強制乾燥させる合計時間をKとする。上述したとおり、LはMの整数倍、すなわちL/M=N(N=1以上の整数)である。これらのパラメータを用いて、所定時間TはT=K/Nと決定される。こうして決定した所定時間Tを用いて、繰り返しの読み取り処理を行う。
図7のステップS13では、ステップ送り(バックフィード)の前に、タイマーが計測する時間が所定時間Tに到達するまでウェイトする(ウェイト処理)。具体的には、制御部300が有するタイマーを用いて、ステップS8の処理を開始と同時にタイマーのカウントを開始する。そして、ステップS9〜ステップS11の処理を経てステップS13に分岐したら、タイマーの計測値が所定時間Tに到達するまで待つ。到達したら、ステップ送りを開始する。このような処理の結果、検査パターンに含まれる個々のパッチは合計乾燥時間Kとなって、適切な乾燥状態で読み取りが行われる。なお、読み取りとステップ送りの最中における乾燥部の乾燥能力を適切に設定すれば、読み取りとステップ送りの1サイクルで必要な乾燥を行うことができる。この場合は上述のウェイト処理は必要ない。
このように、タイマー管理を導入して、ステップ送りと読み取りの最中に後続のパッチ列は適切な乾燥状態が得られる形態であれば、図7のステップS5の事前の乾燥処理、ステップS12の判断、ステップS14の送り処理は省略することができる。
図9は、シートに形成された検査パターンの例を示す図である。多数のカラーパッチ42と、カラーキャリブレーション前後の比較用のサンプル画像41が混在するように形成されている。カラーパッチ42とサンプル画像41のレイアウトはユーザが自由に設定することができる。
この例では、カラーパッチ42は、シートSの搬送方向A(バックフィード方向)において、a列〜f列の6列を有する。f列が最も下流側(シート先端側)のパッチ列であり、プリント部3で検査パターンを形成していくのは、f列〜a列の順である。a列、b列は、シート幅のほぼ全域であるBからDの範囲に形成されている。続くc列、d列、e列、f列は、シート幅の約半分のBからCの範囲にプリントされている。残り約半分のCからDの範囲には、サンプル画像41が形成されている。
このようなレイアウトで形成されたカラーパッチ42は、バックフィードのステップ送りを繰り返しながら、a列からf列の順に一列ずつ読み取りがなさる。B側がキャリッジ6のホームポジションである。
プリント部3でこれらの検査パターンが形成されたシートSは、最初のa列がスリット7bの直下の読取位置にくるまでバックフィードされる。このとき、読取部200は第2位置(押圧解除)にある。次いで、読取部200を第1位置(押圧)に移行させ、押板7と支持面16aの間にシートSを挟んで押圧する。キャリッジ6をBからDに走査移動させながら、センサユニット5でa列のパッチ列をBからDの順にパッチ1つずつ読み取っていく。次いで、読取部200を第2位置に移行させ、シートSをバックフィード方向にパッチ一列分の距離だけステップ送りする。そして、読取部200を再び第1位置に移行させ、こんどはキャリッジ6をDからBに走査移動させながら、センサユニット5でb列のパッチ列をDからBの順にパッチ1つずつ読み取っていく。b列の読み取りが終わったら、読取部200を第2位置に移行させ、シートSをバックフィード方向にステップ送りする。
このように、読み取りの走査方向は列ごとに交互に切り替わる。なお、上述したように、各パッチ列の読み取りの走査方向は常に同じ方向(BからD)としてもよい。この場合は、シートSをステップ送りしている最中にキャリッジ6をホームポジション(B側)に戻す動作を行う。
続いて、c列、d列のパッチ列を読み取る場合には、走査の範囲をパッチ列のシート幅方向の長さに応じた距離とする。読取部200を第1位置に移行させ、キャリッジ6をBからCに走査移動させながら、センサユニット5でc列のパッチ列をBからCの順にパッチ1つずつ読み取っていく。次いで、読取部200を第2位置に移行させ、シートSをバックフィード方向にステップ送りする。そして、読取部200を第1位置に移行させ、キャリッジ6をCからBに走査移動させながら、センサユニット5でd列のパッチ列をCからBの順にパッチ1つずつ読み取っていく。d列の読み取りが終わったら、読取部200を第2位置に移行させ、シートSをバックフィード方向にステップ送りする。
このように、測色の必要が無いサンプル画像41の領域を走査することなく次の列に移行できるので、読み取りスループットの向上が図れる。また、サンプル画像41上をキャリッジ6が走行しないので、当接部材8が可撓性の押板7を介してサンプル画像41を強く押圧することがなく、サンプル画像41のダメージが少ない。
続いて、e列、f列のパッチ列を読み取る場合も同様に、走査の範囲をパッチ列のシート幅方向の長さに応じた距離とする。ただし、この例では、e列の読み取りの後に、温度によって変化する可能性があるセンサの読み取り特性を一定に維持するためのセンサ校正処理を割り込ませる。センサ校正は、センサユニット5で色校正板15の表面の色情報を読み取って、正しい読み取り結果が得られるようにセンサを調整またはセンサ出力を補正するものである。
読取部200を第1位置に移行させ、キャリッジ6をBからCに走査移動させながら、センサユニット5でe列のパッチ列をBからCの順にパッチ1つずつ読み取っていく。ここで、f列の読み取りの前に、センサ校正処理を行う。色校正板15はB側に設けられているので、センサユニット5をそこまで移動させる必要がある。読取部200を第2位置に移行させ、シートSをバックフィード方向にステップ送りする最中に、キャリッジ6をCからBに移動させ、さらにその外側に色校正板15の上まで移動させる。そして、スキャナユニット50を第1位置に移行させ、センサユニット5で色校正板15の表面を読み取って色情報を取得する。制御部300は、取得した色情報に基づいてセンサ校正処理を行う。センサ校正処理が終わったら、上述の手順と同様にして、最後のf列のパッチ列をBからCの順に読み取り、キャリッジをホームポジションに戻したら、一連の処理を終了する。
こうしてすべてのパッチ列の読み取りが済んだら、制御部300では、最終的なプリント結果物で所望の色が再現されるように、各色のプリントヘッドで付与するインク量を調整するカラーキャリブレーションを行う。
以上の実施形態によれば、複数列の検査パターンを順次読み取る際のトータルスループットおよび読み取り精度が向上する。つまり、装置のキャリブレーションに要する総時間の短縮と精度向上の両立が実現される。ひいては、装置の使用者にとっては非生産的な時間であるキャリブレーションの時間が短縮され、本来の画像プリントにより多くの時間を割り当てることができ、プリント作業における生産性が向上する。
とくに本実施形態では、読み取りとバックフィードのステップ送りの繰り返しにおいて、ある列の読み取りおよびステップ送りを行っている最中に、後に読み取られる別の列が含まれるシート領域を乾燥部で乾燥させることが特徴の一つとなっている。乾燥、読取、ステップ送りの3つを繰り返して検査パターンを読み取るシーケンスにおいて、読取およびステップ送りの処理と、乾燥処理とが時間的にオーバーラップして並行処理となるので、トータルスループットが大きく向上する。
さらに本実施形態では、プリント部3よりも下流には搬送ローラが無く、且つバックフィードのステップ送りを繰り返して読取を行うことが特徴の一つとなっている。プリント部3でプリントされた検査パターンは、少なくともスキャナ部Uでの読み取りが完了するまで、搬送ローラにニップされることがない。そのため、形成する検査パターンが搬送方向にどれだけ長くなろうとも、読み取りの前にパターンに傷が付与されたり、搬送ローラにインク汚れが付着したりすることが無く、長期間に渡って高い精度での読み取りを行うことができる。
さらに本実施形態では、読取部200は、シートが支持される支持面を押圧する押板7と、センサユニット5を保持し押板7の上を往復移動するキャリッジ6とが一体のユニットとなっていることが構成上の特徴の一つとなっている。これにより、押板7を含めて読取部200はユニット全体がシートから退避してシート搬送を可能とするので、押板7の上のキャリッジ6がどこにあろうとも、シート搬送の動作に移ることができる。これは、読み取りとステップ送りを繰り返して検査パターンを読み取るシーケンスにおけるトータルスループットの向上に大きく貢献する。加えて、キャリッジ6は段差のない押板7の上に常にあるので、走行に際して衝撃が発生することが無い。そのため、センサユニット5の取り付け付け精度の劣化のセンサ故障は起きにくく、長期間に渡って高い読み取りの精度が維持される。