以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1に示すように、第1の実施の形態に係る意識状態推定装置10は、推定対象者の心拍を検出する心拍検出装置12と、推定対象者の呼吸を検出する呼吸検出装置14と、心拍検出装置12から出力される心拍間隔の時系列データ及び呼吸検出装置14から出力される呼吸関連生体信号の時系列データに基づいて、推定対象者が意識低下状態であるか否かを推定し、推定結果を出力部18により出力させるコンピュータ16とを備えている。なお、心拍検出装置12及び呼吸検出装置14が、データ検出手段の一例である。
心拍検出装置12は、心拍センサ20、心拍間隔算出部22、及び心拍間隔リサンプリング部24を備えている。心拍センサ20は、人体より心拍に関連する生体信号を検出するセンサであり、心拍関連生体信号の時系列データを出力する。心拍センサ20として、例えば、心電計、心音計、脈波センサ、電気インピーダンス計測装置、電磁誘導的に電気インピーダンスを計測する装置、圧電素子を用いて心拍由来の生体振動を検出する装置、又は電磁波により心拍由来の生体振動を検出する装置等を用いればよい。
心拍間隔算出部22は、心拍センサ20により出力された心拍関連生体信号の時系列データに基づいて、心拍時刻を算出し、心拍間隔の時系列データを出力する。心拍間隔リサンプリング部24は、心拍間隔算出部22から出力された心拍間隔の時系列データを、後述する呼吸センサ26のサンプリング時刻に合わせてリサンプリングして出力する。
呼吸検出装置14は、呼吸センサ26及び低域遮断フィルタ28により構成される。呼吸センサ26は、人体から呼吸に関連する生体信号(例えば、呼吸動を示す呼吸波形)を検出するセンサであり、呼吸関連生体信号の時系列データを出力する。呼吸センサ26として、例えば、胸郭周囲長を測定する装置、電気インピーダンス計測装置、電磁誘導的に電気インピーダンスを計測する装置、圧電素子を用いて呼吸由来の生体振動を検出する装置、又は電磁波により呼吸由来の生体振動を検出する装置等を用いればよい。また、心拍センサ20が心電図を出力する場合、心電図R波の振幅より呼吸波形を推定する手法を用いてもよい。なお、呼吸関連生体信号が、呼吸に応じて変化する物理量を示す呼吸情報の一例である。
低域遮断フィルタ28は、呼吸関連生体信号の時系列データより直流成分を除去し、直流成分を除去した呼吸関連生体信号の時系列データを出力する。
コンピュータ16は、CPUと、RAMと、後述する意識状態推定処理ルーチンを実行するためのプログラムを記憶したROMとを備え、機能的には次に示すように構成されている。コンピュータ16は、心拍検出装置12から出力される心拍間隔の時系列データ及び呼吸検出装置14から出力される呼吸関連生体信号の時系列データを取得するデータ取得部30と、心拍間隔の時系列データと呼吸関連生体信号の時系列データとの相関係数を算出する相関係数算出部32と、呼吸関連生体信号の時系列データに基づいて、呼吸関連生体信号のパワースペクトル密度を算出するパワースペクトル密度算出部34と、算出されたパワースペクトル密度に基づいて、パワースペクトル密度特徴量を算出するパワースペクトル密度特徴量算出部36と、算出された相関係数及びパワースペクトル密度特徴量に基づいて、推定対象者が意識低下状態であるか否かを推定する意識状態推定部38とを備えている。なお、相関係数算出部32が、相関性判定手段の一例である。パワースペクトル密度算出部34及びパワースペクトル密度特徴量算出部36が、呼吸ばらつき判定手段の一例である。
データ取得部30は、心拍検出装置12から入力された心拍間隔の時系列データを取得し、メモリ(図示省略)に記憶する共に、呼吸検出装置14から出力される呼吸関連生体信号の時系列データを取得してメモリに記憶する。
ここで、本実施の形態の原理について説明する。
まず、人間の呼吸は、視床下部・橋などの呼吸中枢による無意識の制御を受けているが、大脳皮質より意識的に制御することが可能である。これにより、呼吸は意識的に深さや速さを変えたり、止めたりすることが可能となっている。ここで、意識状態が低下すると、意識による制御が弱まるため、呼吸は無意識の制御のみを受け、呼吸間隔が一定となると考えられる。
また、呼吸は副交感神経系を介して心臓の制御にも影響を与えている。具体的には、肺での換気効率を上げるため、吸気時には心拍数を上げ、呼気時には心拍数を下げるように心臓を制御している。このように心拍間隔には呼吸との相関性が存在するが、心拍間隔は他の要因の影響も受けているため、呼吸によって心拍間隔が一意に決まることはない。しかし、図2に示すように、意識状態が低下している時には、人体に対する外部刺激の多くが遮断されるため、呼吸以外の心拍変動要因が減少し、呼吸波形と心拍間隔の相関性が強まると考えられる。
そこで、本実施の形態では、相関係数算出部32によって、リサンプリングされた心拍間隔の時系列データ及び直流成分を除去した呼吸関連生体信号の時系列データのうち、予め定められた時間長における、心拍間隔の時系列データ及び呼吸関連生体信号の時系列データ間の相関係数を、以下のように算出する。
まず、ある時間窓に含まれるN点の心拍間隔の時系列データをX(n)とすると、X(n)は、以下の(1)式のように表される。
また、同じ時間窓に含まれるM点の呼吸波形データをY(m)とすると、Y(m)は以下の(2)式のように表される。
ただし、n=1,2,…N,m=1,2,…,Mとする。この時、X(n)をt2 mに合わせてスプライン補間したものをX'(m)とすると、X'(m)は、以下の(3)式のように表される。
以上より、求められたX'(m)とY(m)の相関係数γは、以下の(4)式で求められる。
ただし、 ̄x'は、心拍間隔の時系列データのスプライン補間X'(m)の平均値、 ̄yは,呼吸波形データY(m)の平均値を示す。上記(4)式によれば、心拍間隔の時系列データと呼吸波形データの類似度が高いほど、相関係数は大きくなる。
また、パワースペクトル密度算出部34は、予め定められた時間長分の、直流成分を除去した呼吸関連生体信号の時系列データに対して離散的フーリエ変換を行い、パワースペクトル密度を算出する。
ここで、呼吸または呼吸間隔のばらつきとパワースペクトル密度との関係の模式図を、図3に示す。睡眠深度が深い状態での呼吸間隔は、個体差や時間帯によって差があるものの、ある程度一定の範囲内に収まると考えられる。その範囲の最長間隔から求められた呼吸周波数をf1、最短間隔から求められた周波数をf2とすると、周波数f1からf2までのパワースペクトル密度の和が求められる。この和が全帯域のパワースペクトル密度の和に占める割合は、呼吸周波数がf1からf2までの間で安定しているかどうかの指標となり、呼吸の安定性を示すパワースペクトル密度の特徴量として使用できる。
そこで、パワースペクトル密度特徴量算出部36によって、算出されたパワースペクトル密度に基づいて、パワースペクトル密度特徴量として、予め定められた周波数帯域(f1からf2まで)におけるパワースペクトル密度の和が、パワースペクトル密度全体に占める割合を算出する。なお、パワースペクトル密度特徴量が、パワースクペクトル密度の周波数依存性の一例である。
意識状態推定部38は、算出された相関係数及びパワースペクトル密度特徴量に基づいて、以下に説明するように、推定対象者の意識低下状態を推定する。
まず、相関係数と意識低下状態との関連性について述べる。心拍と呼吸との関連については、吸気時に心拍数が上昇(心拍間隔が短縮)し、呼気時に心拍数が下降(心拍間隔が延長)することがわかっている(上記図2参照)。ここで、人間が覚醒状態にある時は、外部からの刺激、体動や発話等の能動的な活動の影響のため、心拍に対する副交感神経系を介した呼吸の寄与は低下すると考えられる。これに対して、人間の意識が低下している状態にある時(睡眠等)は、外部からの刺激は遮断され、体動や発話等の能動的な活動も消失するため、心拍に対する副交感神経系を介した呼吸の寄与は相対的に上昇すると考えられる。以上より、リサンプリングされた心拍間隔の時系列データに対する、直流成分を除去した呼吸関連生体信号の時系列データの、相関係数の絶対値が大きいほど、推定対象者となる人間の意識レベルは低下(睡眠に近い状態)し、相関係数の絶対値が小さいほど推定対象者となる人間の意識レベルは上昇(覚醒に近い状態)していると考えられる。
次に、呼吸のパワースペクトル密度特徴量と人間の意識状態との関係について述べる。人間が覚醒状態で安静にしている時、呼吸はある程度一定となるが、そこは意識の作用によりある程度の揺らぎが生じている。また、覚醒状態であっても活動状態(動作や発話等をしている状態)では、呼吸のばらつきは大きくなると考えられる。一方、覚醒状態から睡眠状態に至る過渡期においては、呼吸間隔が顕著にばらつくことが知られており、安静覚醒時に比べて呼吸がばらつく方向に変化すると考えられる。さらに、睡眠状態に至ると、意識による作用がなくなるため、呼吸間隔は一定となり、呼吸が安定化する方向に変化する。なお、パワースペクトル密度特徴量は、呼吸が安定するほど増加する。
そこで、意識状態推定部38は、リサンプリングされた心拍間隔の時系列データに対する直流成分を除去した呼吸関連生体信号の時系列データの相関係数の絶対値と、パワースペクトル密度特徴量とに対し、任意の重み付けをした後の積を、意識レベルを推定する指標として算出する。本指標は意識レベルが低下する(睡眠方向に向う)ほど増加し、上昇する(覚醒方向に向う)ほど減少する。
意識状態推定部38は、算出した上記の指標が閾値以上である場合に、推定対象者が意識低下状態であると推定し、それ以外の場合には、推定対象者は意識低下状態ではないと推定する。また、意識状態推定部38は、出力部18により推定結果を出力させる。
なお、上記の閾値として、従来の医学的治験により、汎用性のある値をあらかじめ与えることができる。また、個人差に対応した閾値を設定するため、次に述べるような方法で定めることもできる。まず、対象となる人の就寝中の心拍間隔の時系列データ及び呼吸関連生体信号の時系列データを記録する。この時系列データには、安静覚醒状態、覚醒から睡眠への移行状態、睡眠状態の3状態の時系列データが少なくとも含まれている。そこで、就寝時のリサンプリングされた心拍間隔の時系列データに対する直流成分を除去した呼吸関連生体信号の時系列データの相関係数の絶対値、及びパワースペクトル密度特徴量を算出し、それを睡眠状態と睡眠状態以外の状態でクラスタリング等をすることにより、個人差に対応した閾値を定めることが可能である。
次に、第1の実施の形態に係る意識状態推定装置10の作用について説明する。
まず、心拍検出装置12によって推定対象者の心拍間隔を検出し、リサンプリングされた心拍間隔の時系列データをコンピュータ16に入力する。また、呼吸検出装置14によって、推定対象者の呼吸関連生体信号を検出し、直流成分を除去した呼吸関連生体信号の時系列データをコンピュータ16に入力する。また、コンピュータ16において、図4に示す意識状態推定処理ルーチンが繰り返し実行される。
まず、ステップ100で、直近の所定時間分の、リサンプリングされた心拍間隔の時系列データ及び直流成分を除去した呼吸関連生体信号の時系列データを取得する。
そして、ステップ102において、上記ステップ100で取得した心拍間隔の時系列データ及び呼吸関連生体信号の時系列データについて、相関係数を算出する。
次のステップ104では、上記ステップ100で取得した呼吸関連生体信号の時系列データについて、パワースペクトル密度を算出し、ステップ106において、パワースペクトル密度特徴量として、予め定められた周波数帯域(f1〜f2)におけるパワースペクトル密度の和の割合を算出する。
そして、ステップ108において、上記ステップ102で算出した相関係数、及び上記ステップ106で算出したパワースペクトル密度特徴量に基づいて、意識レベルを推定するための指標を算出する。次のステップ110では、上記ステップ108で算出された指標が、閾値以上であるか否かに基づいて、推定対象者が意識低下状態であるか否かを推定し、ステップ112において、出力部18によって推定結果を出力させて、意識状態推定処理ルーチンを終了する。
以上説明したように、第1の実施の形態に係る意識状態推定装置によれば、検出された心拍間隔の時系列データ及び呼吸関連生体信号の時系列データの間の相関係数を算出し、相関係数が高いほど意識状態が低下するように、推定対象者の意識低下状態を推定することにより、推定対象者の意識低下状態を精度良く推定することができる。また、呼吸のばらつき度合いを示すパワースペクトル密度特徴量を算出して、パワースペクトル特徴量が大きいほど意識状態が低下するように、推定対象者の意識低下状態を推定することにより、推定対象者の意識低下状態をより精度良く推定することができる。
本実施の形態では、呼吸関連生体信号の時系列データのパワースペクトル密度の周波数依存性を求め、呼吸のばらつき指標として計測している。呼吸が安定している時(≒睡眠時)は、パワースペクトル密度の周波数依存性のピークが呼吸の特徴帯域周辺に出現するが、呼吸にばらつきが多い時(≒覚醒時や居眠り時)は、より低周波帯域に周波数依存性のピークが移行し、またはピークが存在しなくなると考えられる。これにより、呼吸のピーク等を検出する必要がなくなり、検出のロバスト性が向上するため、推定対象者の意識低下状態を安定して精度良く推定することができる。また、電気インピーダンス法や電波式呼吸センサ、圧力式呼吸センサ等、いかなるセンサで呼吸を検出した場合であっても、本実施の形態の技術を容易に適用することができる。
従来、睡眠による人の意識状態の変化(あるいは睡眠段階等の睡眠の程度)の評価手法としては、心拍間隔の変動の低周波数成分(0.05〜0.15Hz程度)及び高周波数成分(0.15〜0.4Hz程度)のパワースペクトル密度により、自律神経活動を評価する手法が広く用いられていた。しかし、様々な要因で変動するため、評価の精度が低く、実用上の問題となっている。本実施の形態では、意識によって制御可能な呼吸、及び呼吸の影響を受けるが意識による制御は不可能な心拍と呼吸の比較により、より精度の高い意識状態推定装置を実現する。
心拍間隔の変動のうちの高周波数成分を用いた自律神経活動評価は、副交感神経系を介した呼吸による心拍制御を、心拍間隔を用いて間接的に評価しているものであり、間接的であるため、他の要因の影響を受けやすいのは自明である。本実施の形態では、呼吸及び呼吸と心拍の関係を直接的に評価するものであり、従来手法に比べて評価精度を向上させることができる。
本実施の形態では、時間軸上の相関性を見るため、必要とする時間窓が短く、意識低下状態を推定するときの時間分析能が短くなる。
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
第2の実施の形態では、心拍センサによって、心電図波形を示す心拍関連生体信号を検出している点と、心拍関連生体信号の時系列データ及び呼吸関連生体信号の時系列データの間の相互情報量を算出している点とが、第1の実施の形態と主に異なっている。
図5に示すように、第2の実施の形態に係る意識状態推定装置210の心拍検出装置212は、心拍センサ220、低域通過フィルタ222、及び心拍波形リサンプリング部224を備えている。心拍センサ220は、人体より心臓の拍動に関連する生体信号(心電図波形)を検出するセンサであり、心電図波形を示す心拍関連生体信号の時系列データを出力する。なお、心拍検出装置212が、信号検出手段の一例であり、心電図波形を示す心拍関連生体信号が、心臓の拍動に応じて変化する信号の一例である。呼吸検出装置14が、データ検出手段の一例である。
低域通過フィルタ222のカットオフ周波数は,平均的な心拍周波数及び呼吸周波数を考慮して決定されるが、心拍の周波数より高い周波数で設定することが望ましい。低域通過フィルタ222によって、呼吸に由来する成分が含まれる周波数帯域の信号が分離される。
心拍波形リサンプリング部224は、高域遮断された心拍関連生体信号の時系列データを、呼吸センサ26のサンプリング時刻に合わせてリサンプリングして出力する。
コンピュータ216は、心拍検出装置212から出力される心拍関連生体信号の時系列データ及び呼吸検出装置14から出力される呼吸関連生体信号の時系列データを取得するデータ取得部30と、心拍関連生体信号の時系列データと呼吸関連生体信号の時系列データとの間の相互情報量を算出する相互情報量算出部232と、パワースペクトル密度算出部34と、パワースペクトル密度特徴量算出部36と、算出された相互情報量及びパワースペクトル密度特徴量に基づいて、推定対象者が意識低下状態であるか否かを推定する意識状態推定部38とを備えている。なお、相互情報量算出部232が、相関性判定手段の一例であり、相互情報量が、相関性の一例である。
相互情報量算出部232は、リサンプリングされた心拍関連生体信号の時系列データ及び直流成分を除去した呼吸関連生体信号の時系列データのうち、予め定められた時間長における、心拍関連生体信号の時系列データ及び呼吸関連生体信号の時系列データ間の相互情報量を、以下のように算出する。
まず、ある時間窓に含まれるN点の心拍関連生体信号の時系列データをX(n)とすると、X(n)は、以下の(5)式のように表される。
また、同じ時間窓に含まれるM点の呼吸関連生体信号の時系列データをY(m)とすると、Y(m)は以下の(6)式のように表される。
ただし、n=1,2,…N、m=1,2,…,Mとする。このとき,X(n)をt2 mに合わせてスプライン補間したものをX'(m)とすると、X'(m)は以下の(7)式のように表される。
以上より求められたX'(m)とY(m)について、以下の処理を行う。
まず、X'(m)とY(m)をそれぞれ平均=0、標準偏差=1となるよう正規化した時系列データ ̄X'(m)と ̄Y(m)を求める。次に、 ̄X'(m)をP個の区間に分けた時にp番目の区間Xbin(p)に属する ̄X'(m)の点数をLpとする。 ̄Y(m)をQ個の区間に分けた時にq番目の区間Ybin(q)に属する ̄Y(m)の点数をLqとする。 ̄X'(m)がXbin(p)に属し、かつ ̄Y(m)がYbin(q)に属する点数をLp,qとする。このとき、X'とYの相互情報量I(X,Y')は、以下の(8)式のように求められる。
上記(8)式によれば、心拍関連生体信号の時系列データをスプライン補完したものと呼吸関連生体信号の時系列データとの相関性(線形・非線形含む)が完全に独立な場合、相互情報量は0となり、相関性が高くなるほど、相互情報量は増加する。
意識状態推定部38は、リサンプリングされた心拍関連生体信号の時系列データに対する、直流成分を除去した呼吸関連生体信号の時系列データの相互情報量と、パワースペクトル密度特徴量とに対し、任意の重み付けをした後の積を、意識レベルを推定する指標として算出する。
意識状態推定部38は、算出した上記の指標が閾値以上である場合に、推定対象者が意識低下状態であると推定し、それ以外の場合には、推定対象者は意識低下状態ではないと推定する。
なお、第2の実施の形態に係る意識状態推定装置の他の構成は、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
以上説明したように、第2の実施の形態に係る意識状態推定装置によれば、推定対象者の心臓の拍動に応じて変化する心拍関連生体信号から分離された、呼吸に由来する成分が含まれる周波数帯域の信号、及び呼吸関連生体信号の時系列データの相互情報量を算出し、相互情報量が大きいほど意識状態が低下するように、推定対象者の意識低下状態を推定することにより、推定対象者の意識低下状態を安定して精度良く推定することができる。また、呼吸のばらつき度合いを示すパワースペクトル密度特徴量を算出して、パワースペクトル特徴量が大きいほど意識状態が低下するように、推定対象者の意識低下状態を推定することにより、推定対象者の意識低下状態をより精度良く推定することができる。
また、呼吸と心拍の相関性に注目しており、その指標の一つである相互情報量は心拍及び呼吸間の非線形の相関性も反映できる指標である。本指標を用いることにより、心拍及び呼吸がいかなる検出手段で検出されたものであっても、その相関性を数値化することが可能になる。
なお、上記の第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、パワースペクトル密度特徴量として、睡眠状態でパワースペクトル密度が大きくなる周波数帯域のパワースペクトル密度の和が、パワースペクトル密度全体に占める割合を算出する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。
例えば、パワースペクトル密度特徴量として、パワースペクトル密度のピーク周波数を求めてもよい。上記図3に示すように、呼吸にばらつきがある状態では呼吸のパワースペクトル密度がピークとなる周波数は直流成分に極めて近いが、呼吸が安定している状態では呼吸ピークはより高周波側に存在することがわかる。以上より、呼吸パワースペクトル密度のピーク周波数を、呼吸の安定性を示すパワースペクトル密度特徴量として用いることができる。
また、上記のピーク周波数が周波数f1及びf2の間にあるとき、上記のピーク周波数におけるパワースペクトル密度が、パワースペクトル密度全体に占める割合を、パワースペクトル特徴量として算出するようにしてもよい。呼吸にばらつきがある状態では、全帯域のパワースペクトル密度に占める、ピーク周波数におけるパワースペクトル密度の割合が、呼吸が安定している状態に比べて低下すると考えられる。以上より、上記のピーク周波数におけるパワースペクトル密度が全帯域のパワースペクトル密度に占める割合を、呼吸の安定を示すパワースペクトル密度特徴量として用いることができる。
また、上記の実施の形態では、心拍と呼吸との相関性として、自己相関関数を算出する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、上記の第1の実施の形態と同様に、心拍と呼吸との相関性として、相互情報量を算出しても良い。
次に、第3の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
第3の実施の形態では、呼吸関連生体信号の時系列データから、呼吸のばらつき度を算出している点が、第1の実施の形態と異なっている。
図6に示すように、第3の実施の形態に係る意識状態推定装置310のコンピュータ316は、データ取得部30と、相関係数算出部32と、呼吸関連生体信号の時系列データに基づいて、呼吸のばらつき度を算出する呼吸ばらつき度算出部334と、算出された相関係数及び呼吸ばらつき度に基づいて、推定対象者が意識低下状態であるか否かを推定する意識状態推定部338とを備えている。
呼吸ばらつき度算出部334は、予め定められた時間長分の、直流成分を除去した呼吸関連生体信号の時系列データに基づいて、以下に説明するように、呼吸関連生体信号の時系列データの自己相関関数を算出し、呼吸ばらつき度とする。
まず、ある時間窓におけるM点の呼吸関連生体信号の時系列データY(m)を以下の(9)式のように定義する。
ただし、m=1,2,…,Mとする。この時、自己相関関数R(i)は、以下の(10)式に従って算出される。
ただし、−M<i<Mとする。上記(10)式によれば、呼吸が均一である時は、自己相関関数R(i)のi-=0以外の最大のピーク値は大きくなり、呼吸が不均一な時は、自己相関関数R(i)のi-=0以外の最大のピーク値は小さくなる。また、自己相関関数R(i)のi-=0以外の最大のピーク値が大きいほど、呼吸ばらつき度が小さくなる。
意識状態推定部338は、リサンプリングされた心拍間隔の時系列データに対する、直流成分を除去した呼吸関連生体信号の時系列データの相関係数の絶対値と、算出された自己相関関数とに対し、任意の重み付けをした後の積を、意識レベルを推定する指標として算出する。本指標は意識レベルが低下する(睡眠方向に向う)ほど増加し、上昇する(覚醒方向に向う)ほど減少する。
意識状態推定部338は、算出した上記の指標が閾値以上である場合に、推定対象者が意識低下状態であると推定し、それ以外の場合には、推定対象者は意識低下状態ではないと推定する。また、意識状態推定部38は、出力部18によって、推定結果を出力させる。
なお、第3の実施の形態に係る意識状態推定の他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
以上説明したように、第3の実施の形態に係る意識状態推定装置によれば、呼吸のばらつき度合いを示す指標として、呼吸関連生体信号の時系列データの自己相関関数R(i)のi-=0以外の最大のピーク値を算出して、自己相関関数R(i)のi-=0以外の最大のピーク値が大きいほど意識状態が低下するように、推定対象者の意識低下状態を推定することにより、推定対象者の意識低下状態を精度良く推定することができる。
次に、第4の実施の形態について説明する。なお、第4の実施の形態に係る意識状態推定装置は、第3の実施の形態と同様の構成となっているため、同一符号を付して説明を省略する。
第4の実施の形態では、呼吸のばらつき度合いとして、変動係数を算出している点が、第3の実施の形態と主に異なっている。
第4の実施の形態に係る意識状態推定装置310では、呼吸ばらつき度算出部334によって、予め定められた時間長分の、直流成分を除去した呼吸関連生体信号の時系列データに基づいて、以下に説明するように、呼吸間隔の変動係数を、呼吸ばらつき度として算出する。
図7に示すような呼吸波形(呼吸関連生体信号の時系列データ)を考えると、ある時間窓の中にn+1点の呼吸ピークがあるとき、n個の呼吸点間の間隔(呼吸間隔)が得られる。ここで、n個の呼吸間隔の標準偏差をSDnとし、平均をMEANnとすると、変動係数CVnは、以下の(11)式に従って算出される。
上記(11)式によれば、呼吸間隔がばらつくとSDnが増加するため、変動係数CVnは増加する。すなわち、変動係数CVnが大きいほど、呼吸ばらつき度が大きくなる。
なお、第4の実施の形態に係る意識状態推定の他の構成及び作用については、第1の実施の形態及び第3の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
以上説明したように、第4の実施の形態に係る意識状態推定装置によれば、呼吸のばらつき度合いを示す指標として、変動係数を算出して、変動係数の値が小さいほど意識状態が低下するように、推定対象者の意識低下状態を推定することにより、推定対象者の意識低下状態を精度良く推定することができる。
なお、呼吸のばらつき度合いを示す指標として、変動係数を算出する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、呼吸のばらつき度合いを示す指標として、呼吸関連生体信号の時系列データの標準偏差を算出してもよい。この場合には、標準偏差の値が小さいほど意識状態が低下するように、推定対象者の意識低下状態を推定すればよい。
次に、第5の実施の形態について説明する。なお、第5の実施の形態に係る意識状態推定装置の構成は、第1の実施の形態と同様の構成となるため、同一符号を付して説明を省略する。
第5の実施の形態では、意識低下状態の推定方法が、第1の実施の形態と異なっている。
第5の実施の形態に係る意識状態推定装置10では、意識状態推定部338によって、相関係数の絶対値と、パワースペクトル密度特徴量との2軸で張られる座標上の位置に基づいて、推定対象者が意識低下状態であるか否かを推定する。この時に張られる座標の模式図を図8に示す。なお、意識低下状態(睡眠状態)とそれ以外の状態との境界は、上記の第1の実施の形態で説明した方法と同様の方法により、定めることができる。
なお、第5の実施の形態に係る意識状態推定の他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
次に、第6の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
第6の実施の形態では、推定対象者の体動及び発話を検出し、検出結果を更に考慮して、意識状態を推定している点が、第1の実施の形態と主に異なっている。
図9に示すように、第6の実施の形態に係る意識状態推定装置610は、心拍検出装置12と、呼吸検出装置14と、推定対象者の体動を検出する体動検出装置612と、推定対象者の発話を検出する発話検出装置614と、コンピュータ16とを備えている。
体動検出装置612としては、例えば、人間に装着するセンサとしての加速度センサを用いることができ、あるいは、人間の周辺環境に装着するセンサとしての、人間と接触する部位の圧力を計測するセンサ、カメラ、電波式距離センサ、電波式速度センサ、音波式距離センサ、音波式速度センサ等を用いることができる。また、心拍センサ20及び呼吸センサ26とセンサを共有することも可能である。
また、発話検出装置614としては、マイクロフォンなどを用いることができる。
コンピュータ16のデータ取得部30は、心拍検出装置12から入力された心拍間隔の時系列データを取得し、メモリ(図示省略)に記憶する共に、呼吸検出装置14から出力される呼吸関連生体信号の時系列データを取得してメモリに記憶する。また、データ取得部30は、体動検出装置612から入力された体動検出結果の時系列データを取得し、メモリ(図示省略)に記憶する共に、発話検出装置614から出力される発話検出結果の時系列データを取得してメモリに記憶する。
ここで、本実施の形態の原理について説明する。
上記の実施の形態では、睡眠状態と睡眠以外の状態のみを判別する場合を例に示したが、睡眠以外の状態には覚醒状態と覚醒から睡眠に移行する過渡状態が含まれており、これを判別することができればさらに有用である。しかし、呼吸のばらつきには、体動や発話等の人間の能動的活動に起因するものと、覚醒から睡眠に移行する過渡状態において意図せず生じるものの2種類があり、睡眠以外の状態を覚醒状態と覚醒から睡眠に移行する過渡状態に分けるためには、呼吸のばらつきが能動的活動によるものかどうかを判別する必要がある。
そこで、本実施の形態では、意識状態推定部38によって、リサンプリングされた心拍間隔の時系列データに対する、直流成分を除去した呼吸関連生体信号の時系列データの相関係数の絶対値と、パワースペクトル密度特徴量とに基づいて、意識レベルを推定する指標を算出し、算出した上記の指標が閾値以上である場合に、推定対象者が意識低下状態であると推定する。算出した上記の指標が閾値未満である場合には、体動検出結果の時系列データ及び発話検出結果の時系列データに基づいて、体動及び発話の少なくとも一方が一定以上の強度であるか否かを判定する。体動及び発話の少なくとも一方が一定以上の強度である場合(体動及び発話の少なくとも一方が検出された場合)、呼吸のばらつきは覚醒状態の体動または発話に起因するものであると判断し、推定対象者の意識状態が覚醒状態であると推定する。
また、意識状態推定部38は、算出した上記の指標が閾値未満である場合であって、かつ、体動検出結果の時系列データ及び発話検出結果の時系列データに基づいて体動及び発話の何れもが検出されない場合、推定対象者の意識状態が、覚醒から睡眠の過渡状態であると推定する。
なお、第6の実施の形態に係る意識状態推定の他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
このように、体動又は発話の検出結果を考慮することにより、睡眠以外の状態として、覚醒状態と、覚醒から睡眠に移行する過渡状態とを区別して推定することができる。
次に、第7の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態及び第3の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
第7の実施の形態では、呼吸関連生体信号の時系列データに基づいて、推定対象者が意識低下状態であるか否かを推定している点が、第1の実施の形態と異なっている。
図10に示すように、第7の実施の形態に係る意識状態推定装置710は、呼吸検出装置14と、呼吸検出装置14から出力される呼吸関連生体信号の時系列データに基づいて、推定対象者が意識低下状態であるか否かを推定し、推定結果を出力部18により出力させるコンピュータ716とを備えている。
コンピュータ716は、呼吸検出装置14から出力される呼吸関連生体信号の時系列データを取得するデータ取得部30と、呼吸関連生体信号の時系列データに基づいて、呼吸のばらつき度合いを算出する呼吸ばらつき度算出部334と、算出された呼吸ばらつき度合いに基づいて、推定対象者が意識低下状態であるか否かを推定する意識状態推定部738とを備えている。
意識状態推定部738は、呼吸ばらつき度として算出された自己相関関数R(i)のi-=0以外の最大のピーク値を、意識レベルを推定する指標として、算出した上記の指標(自己相関関数R(i)のi-=0以外の最大のピーク値)が閾値以上である場合に、推定対象者が意識低下状態であると推定し、それ以外の場合には、推定対象者は意識低下状態ではないと推定する。また、意識状態推定部38は、出力部18によって、推定結果を出力させる。
次に、第7の実施の形態に係る意識状態推定装置710の作用について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の処理については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
まず、呼吸検出装置14によって、推定対象者の呼吸関連生体信号を検出し、直流成分を除去した呼吸関連生体信号の時系列データをコンピュータ716に入力する。また、コンピュータ716において、図11に示す意識状態推定処理ルーチンが繰り返し実行される。
まず、ステップ750で、直近の所定時間分の、直流成分を除去した呼吸関連生体信号の時系列データを取得する。
そして、ステップ752において、上記ステップ750で取得した呼吸関連生体信号の時系列データについて、上記(10)式に従って自己相関関数R(i)のi-=0以外の最大のピーク値を算出して、意識レベルを推定するための指標とする。
次のステップ754では、上記ステップ752で算出された自己相関関数R(i)のi-=0以外の最大のピーク値が、閾値以上であるか否かに基づいて、推定対象者が意識低下状態であるか否かを推定し、ステップ112において、出力部18によって推定結果を出力させて、意識状態推定処理ルーチンを終了する。
以上説明したように、第7の実施の形態に係る意識状態推定装置によれば、呼吸のばらつき度合いを示す指標として、呼吸関連生体信号の時系列データの自己相関関数R(i)のi-=0以外の最大のピーク値を算出して、自己相関関数R(i)のi-=0以外の最大のピーク値が大きいほど意識状態が低下するように、推定対象者の意識低下状態を推定することにより、推定対象者の意識低下状態を精度良く推定することができる。
なお、上記の第7の実施の形態において、呼吸のばらつき度合いを示す指標として、呼吸関連生体信号の時系列データの自己相関関数R(i)のi-=0以外の最大のピーク値を算出する場合を例に説明したが、上記の第1の実施の形態と同様に、パワースペクトル密度の周波数依存性を示す特徴量を算出するようにしてもよい。
また、上記の第6の実施の形態と同様に、推定対象者の体動又は発話を検出し、検出結果を更に考慮して、推定対象者の意識低下状態を推定するようにしてもよい。
また、上記の第1の実施の形態〜第7の実施の形態では、推定対象者が人間である場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、動物などを推定対象として、動物の意識低下状態を推定するようにしてもよい。
また、上記の第1の実施の形態〜第7の実施の形態で説明した、心拍と呼吸との相関性を示す指標、呼吸のばらつき度合いを示す指標を組み合わせて、推定対象者の意識低下状態を推定するようにしてもよい。
また、相関関数の値として、リサンプリングされた心拍間隔の時系列データに対する、直流成分を除去した呼吸関連生体信号の時系列データの位相遅れが任意値を取る時の相関係数の絶対値を使用するようにしてもよい。
なお、本発明のプログラムは、記録媒体に格納して提供することができる。