[通信性能]
以下では、ターゲットのうちの、ICカードに注目して説明を行うが、本技術は、ICカード以外の、ICカードの機能を内蔵した携帯端末や、ICタグ、その他の、RF信号を負荷変調することで、データを送信するターゲットに適用することができる。
非接触通信を行うターゲットとしてのICカード等の通信性能としては、例えば、ICカードをR/Wにかざすように近づけて使用するケースにおいて、ICカードとR/Wとが非接触通信を行うことができる通信距離や、ICカードを、R/W上に直に置いて(密着させて)使用するケースにおいて、R/Wに対するICカードの理想的な位置からのICカードの位置ずれ(オフセット)に対する耐性を表すオフセット特性がある。
ICカードには、ある程度の通信距離を確保することと、ICカードが、理想的な位置から、ある程度オフセットした状態で、R/W上に置かれても、R/Wとの間で非接触通信を行うことができるオフセット特性が要求される。
ここで、オフセット特性が良いということは、ICカードが、理想的な位置から、ある程度オフセットした位置に置かれても、R/Wとの間で非接触通信を行うことができることを意味する。
図1は、強電界タイプのR/Wと、アンテナとしてのコイルの開口部分のアンテナ開口面積が異なるICカードとの通信距離を示す図である。
図1において、横軸は、ICカードのアンテナ開口面積を表し、縦軸は、通信距離を表す。
図1によれば、アンテナ開口面積を大にすることで、通信距離が大になることが分かる。
ここで、強電界タイプのR/Wとは、あるレベル以上の大レベルのRF信号を出力するR/Wであり、以下、強電界機器ともいう。
一方、オフセット特性は、ICカードが直に置かれるR/W(以下、オントップ機器ともいう)との間の非接触通信で、ある程度の性能を確保する必要がある通信性能であるが、オントップ機器では、前述したノートPCのように、R/Wモジュールのアンテナの近辺だけが、樹脂筐体になっており、他の部分が、金属筺体になっていることがある。
図2は、オントップ機器であるR/W上に、ICカードが置かれた状態を示す平面図である。
図2においては、オントップ機器であるR/W20上に、ICカード10が置かれた状態になっている。
ICカード10は、アンテナ11としての1つのコイルと、ICチップ12とを内蔵している。
なお、図2では、アンテナ11及びICチップ12が見えるように図示されているが、アンテナ11及びICチップ12は、ICカード10に内蔵されており、実際には、見えない。
オントップ機器であるR/W20は、図示せぬR/Wモジュールを内蔵している。
そして、図2において、R/W20では、R/Wモジュールのアンテナ21としての(1つの)コイルの近辺(コイルの開口部分、巻き線部分、及び、巻き線部分に接する、巻き線部分の外側(開口部分ではない側)の一部分)は、樹脂筐体22になっており、他の部分は、金属筐体23になっている。
なお、図2では、R/W20(のR/Wモジュール)のアンテナ21が見えるように図示されているが、アンテナ21は、樹脂筐体22の内側(R/W20の内部側)に設けられており、実際には、見えない。
図2に示すように、ICカード10のアンテナ11のアンテナ開口面積が、R/W20のアンテナ21のアンテナ開口面積よりも大きい場合には、ICカード10のアンテナ11のサイズ(アンテナ開口面積)と、R/W20のアンテナ21のサイズとの違いや、ICカード10のアンテナ11が、金属筐体23に重なることに起因して、アンテナ11及び12の相互結合が弱くなり、その結果、ICカード10とR/W20との間で、非接触通信を行うことができない、ICカード10とR/W20との位置関係が生じることがある。
ここで、非接触通信を行うことができない、ICカード10とR/W20との位置関係、すなわち、R/W20に対するICカード10の位置を、通信不感帯ともいう。
なお、オントップ機器であるR/W20には、ICカード10を置くときの位置の目安となる目安マークが描かれており、その目安マークの位置(目安マーク位置)(基準位置)に、ICカード10の所定の位置を合わせて、ICカード10をR/W20に置いた場合の、R/W20に対するICカード10の位置が、理想的な位置となる。
以下では、ICカード10の理想的な位置からの、ICカード10の位置ずれ(オフセット)の量を、オフセット量ともいい、オフセット量を、R/W20の目安マーク位置を原点とする2次元座標系のxy座標で表すこととする。
図3は、オフセット量を説明する図である。
R/W20の目安マーク位置は、ICカード10を、R/W20に対向させて置くときに、ICカード10の所定の位置を合わせるべき位置としてあらかじめ決められているR/W20の基準位置である。
ここで、コイルであるアンテナにおいて磁束が生じるコイルの開口部分の重心を、アンテナ中心ということとすると、R/W20の目安マーク位置に合わせるべきICカード10の所定の位置としては、例えば、ICカード10のアンテナ11のアンテナ中心が採用され、R/W20の目安マーク位置(基準位置)としては、例えば、R/W20のアンテナ21のアンテナ中心が採用される。
いま、図3に示すように、目安マーク位置を原点とし、横軸をx軸とするとともに、縦軸をy軸とする2次元座標系を定義する。
この場合、オフセット量は、ICカード10を、オントップ機器であるR/W20上に置いたときの、ICカード10の所定の位置としてのアンテナ中心の2次元座標形状の座標(x,y)で表される。
なお、本実施の形態では、説明を簡単にするため、ICカード10は、横方向が、R/W20の2次元座標系のx軸に平行になり、縦方向が、R/W20の2次元座標系のy軸に平行になるように、R/W20上に置かれ、R/W20の2次元座標系に垂直な方向の軸を中心として回転した状態では、R/W20上に置かれないこととする。
また、本実施の形態では、オフセット量(x,y)としてのx座標及びy座標の単位は、mm(ミリメートル)であることとする。
図4は、ICカード10の共振周波数foを各周波数に設定した場合の、ICカード10の各オフセット量(x,y)に対する通信正答率を示す図である。
ここで、通信正答率とは、ICカード10とR/W20との間で、データのやりとりが成功した割合を表す。
なお、ICカード10の共振周波数foは、例えば、ICカード10のアンテナ21に接続される図示せぬコンデンサの容量を調整することで、様々な周波数に設定することができる。
図4では、オフセット量(x,y)として、(5,0),(0,0),(-5,0),(0,5),(0,-5)の5種類のオフセット量(オフセット位置)が採用され、共振周波数foとして、13.6MHzないし14.4MHzの範囲のほぼ0.1MHz刻みの8種類の周波数が採用されている。
図4によれば、ICカード10の共振周波数foが13.9MHz以上になると、5種類のオフセット量のうちの、3種類以上のオフセット量で、通信不感帯が生じる(通信正答率が100%未満になること)ことを確認することができ、オフセット特性が良いとはいえない。
例えば、図2に示したように、ICカード10のアンテナ11のサイズ(図2では、アンテナ11としての1つのコイルの開口部分のサイズ)が、R/W20のアンテナ21のサイズよりも大きい場合には、ICカード10の通信距離に余裕があれば、ICカード10のアンテナ開口面積を小さくすることにより、オフセット特性を改善することができる。
しかしながら、ICカード10のアンテナ開口面積を小さくすると、オフセット特性は改善されるが、通信距離は低下する(短くなる)。
ICカード10のオフセット特性は、ICカード10のアンテナ開口面積を小さくすることによって改善され、ICカード10の通信距離は、ICカード10のアンテナ開口面積を大きくすることによって改善されるため、すなわち、ICカード10のオフセット特性と通信距離とは、トレードオフの関係にあるため、ICカード10のアンテナ開口面積を調整することだけでは、ICカード10のオフセット特性と通信距離との両方を改善することは、困難である。
また、通信不感帯は、ICカード10の位置ずれ(オフセット)に起因して生じる他、R/W20の不要輻射ノイズに起因して生じることがある。
不要輻射ノイズに起因する通信不感帯は、ICカード10のアンテナ11としてのコイルの形状や、サイズ(アンテナ開口面積)、配置(位置)、インダクタンス等の調整によって改善する可能性があるが、そのような調整によって、通信距離、オフセット特性、及び、不要輻射ノイズ(に起因する通信不感帯)に対する耐性(不要輻射ノイズがあっても、非接触通信を行うことができる頑強さ)のすべてを改善することは、困難である。
図5は、各面積のアンテナ開口面積のICカード10において、通信不感帯が生じるかどうかを表す通信不感帯の有無を示す図である。
なお、図5では、ICカード10の共振周波数foを、14.3MHzとし、アンテナ開口面積として、39,36,34,30、及び、26mm2の6種類を採用した。
さらに、図5において、ICカード10と非接触通信を行うR/Wとしては、オントップ機器としてのR/W20の他、所定レベル以上の不要輻射ノイズを発生するR/W(以下、不要輻射機器ともいう)を採用した。
なお、オントップ機器の不要輻射ノイズは、存在しないか、存在していても、存在しないとみなせるレベルになっている。
また、図5では、通信不感帯の有無の他、ICカード10が、強電界機器であるR/Wと非接触通信を行う場合の通信距離も、図示してある。
図5において、アンテナ開口面積が、39,36,34,30、及び、26mm2それぞれのICカード10では、いずれも、強電界機器との間で、100mm以上の通信距離が確保されている。
ここで、ICカード10と不要輻射機器との間の非接触通信では、オフセット量として、(0,0),(10,0),(-10,0),(0,10)、及び、(0,-10)の5種類を採用して、通信不感帯の有無を調査した。
また、ICカード10とオントップ機器との間の非接触通信では、オフセット量として、(0,0),(5,0),(-5,0),(0,5)、及び、(0,-5)の5種類を採用して、通信不感帯の有無を調査した。
さらに、ICカード10と強電界機器との間の通信距離は、オフセット量として(0,0)を採用して測定した。
図5において、「有」は、通信不感帯が生じたことを表し、「無」は、通信不感帯が生じなかったことを表す。
図5によれば、強電界機器との間の通信距離として、100mm以上を確保することができる範囲で、ICカード10のアンテナ開口面積を小さくすることにより、オントップ機器との間の非接触通信については、オフセットに起因する通信不感帯が生じることが改善される(通信不感帯が生じなくなる)、つまり、オフセット特性が改善されるが、不要輻射機器との間の非接触通信については、不要輻射ノイズに起因する通信不感帯が改善されない(通信不感帯が生じる)ことを確認することができる。
以上のように、ICカード10のアンテナ開口面積を小さくすることによれば、通信距離をある程度犠牲にして、オフセット特性を改善することができるが、不要輻射ノイズに起因する通信不感帯が生じることを改善すること、すなわち、不要輻射ノイズに対する耐性を改善することは困難である。
なお、図2のICカード10のアンテナ11は、図5の(上から)1行目のレコードの、アンテナ開口面積が39mm2のコイルであり、図4の通信正答率は、そのアンテナ開口面積が39mm2のコイルを、ICカード10のアンテナ11として用いて測定した値である。
以上のように、アンテナ11として、1つのコイルを採用するICカード10では、通信距離を維持しつつ、オフセット特性、及び、不要輻射ノイズに対する耐性のすべてを改善することは、困難である。
そこで、本技術では、通信距離を維持しつつ、オフセット特性、及び、不要輻射ノイズに対する耐性のすべてを容易に改善するターゲットとしての非接触通信装置を提案する。
[本技術を適用した通信システムの一実施の形態]
図6は、本技術を適用した通信システム(システムとは、複数の装置が論理的に集合した物をいい、各構成の装置が同一筐体中にあるか否かは、問わない)の一実施の形態の構成例を示す図である。
図6において、通信システムは、非接触通信を行う非接触通信装置111と112とから構成されている。
なお、図6の実施の形態では、説明を簡単にするために、非接触通信装置111は、自身がRF信号を出力し、そのRF信号を変調することによりデータを送信するイニシエータとしてのみ機能し、非接触通信装置112は、イニシエータが出力するRF信号を負荷変調することによりデータを送信するターゲットとしてのみ機能することとする。
イニシエータである非接触通信装置111は、例えば、R/Wであり、ターゲットである非接触通信装置112は、例えば、ICカードである。
図7は、R/Wである図6の非接触通信装置111の電気的な構成例を示すブロック図である。
アンテナ121は、コイル等で構成され、コイルに流れる電流が変化することで、RF信号を出力する。また、アンテナ121としてのコイルを通る磁束が変化することで、アンテナ121に電流が流れる。
受信部122は、アンテナ121に流れる電流を受信し、復調部123に出力する。復調部123は、受信部122から供給される信号を復調(例えば、ASK(Amplitude Shift Keying)復調)し、その結果得られる復調信号を、デコード部124に供給する。デコード部124は、復調部123から供給される復調信号としての、例えばマンチェスタ符号などをデコードし、そのデコードの結果得られるデータを、データ処理部125に供給する。
データ処理部125は、デコード部124から供給されるデータに基づき、所定の処理を行う。また、データ処理部125は、非接触通信装置112等の他の装置に送信すべきデータを、エンコード部126に供給する。
エンコード部126は、データ処理部125から供給されるデータを、例えば、マンチェスタ符号などにエンコードし、変調部128に出力する。
RF信号出力部127は、アンテナ121から、所定の単一の周波数fcの搬送波(RF信号)を放射させるための電流を、アンテナ121に流す。変調部128は、RF信号出力部127がアンテナ121に流す電流としての搬送波を、エンコード部126から供給される信号にしたがって変調する。これにより、アンテナ121からは、データ処理部125がエンコード部126に出力したデータ(をエンコードしたマンチェスタ符号)にしたがって搬送波を変調した変調信号としてのRF信号が放射される。
ここで、変調部128における変調方式としては、例えば、ASK(Amplitude Shift Keying)を採用することができる。但し、変調部128における変調方式は、ASKに限定されるものではなく、PSK(Phase Shift Keying)やQAM(Quadrature Amplitude Modulation)その他を採用することが可能である。また、振幅の変調度についても8%から30%、50%、100%等の数値に限定されることはなく、好適な値を選択することができる。
制御部129は、非接触通信装置111を構成する各ブロックの制御等を行う。すなわち、制御部129は、例えば、CPU(Central Processing Unit)129Aや、EEPROM(Electrically and Erasable Programmable Read Only Memory)129B、その他図示せぬRAM(Random Access Memory)などで構成される。CPU129Aは、EEPROM129Bに記憶されているプログラムを実行し、これにより、非接触通信装置111を構成する各ブロックの制御、その他の各種の処理を行う。EEPROM129Bは、CPU129Aが実行すべきプログラムや、CPU129Aの動作上必要なデータを記憶する。
なお、CPU129Aがプログラムを実行することにより行う一連の処理は、CPU129Aに代えて専用のハードウェアを設けて、その専用のハードウェアによって行うことが可能である。また、CPU129Aに実行させるプログラムは、EEPROM129Bにあらかじめインストールしておく他、フレキシブルディスク、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory),MO(Magneto Optical)ディスク,DVD(Digital Versatile Disc)、磁気ディスク、半導体メモリなどのリムーバブル記録媒体に、一時的あるいは永続的に格納(記録)し、いわゆるパッケージソフトウエアとして提供することができる。さらに、プログラムは、近接通信等によって、非接触通信装置111に送信し、EEPROM129Bにインストールすることができる。
電源部130は、非接触通信装置111を構成する各ブロックに、必要な電源を供給する。
なお、図7では、制御部129が非接触通信装置111を構成する各ブロックを制御することを表す線の図示と、電源部130が非接触通信装置111を構成する各ブロックに電源を供給することを表す線の図示は、図が煩雑になるため、省略してある。
また、上述の場合には、デコード部124及びエンコード部126において、マンチェスタ符号を処理するようにしたが、デコード部124及びエンコード部126では、マンチェスタ符号だけでなく、例えば、モディファイドミラーや、NRZ(Non Return to Zero)などの複数種類の符号の中から1つを選択して処理するようにすることが可能である。
以上のように構成される非接触通信装置111では、制御部129が、非接触通信装置111の各ブロックを制御し、これにより、イニシエータであるR/Wとして機能する。
すなわち、R/Wである非接触通信装置111(以下、R/W111とも記載する)では、データ(フレーム)を送信する場合、RF信号出力部127が、アンテナ121から、所定の単一の周波数fcの搬送波を放射させるための電流を、アンテナ121に流し、これにより、アンテナ121からは、搬送波(無変調波)であるRF信号が放射される。
また、R/W111では、データ処理部125が、ターゲットに送信すべきデータを、エンコード部126に供給し、エンコード部126は、データ処理部125から供給されるデータをマンチェスタ符号にエンコードし、変調部128に出力する。変調部128は、RF信号出力部127がアンテナ121に流す電流としての搬送波を、エンコード部126から供給される信号にしたがって変調する。これにより、アンテナ121からは、データ処理部125がエンコード部126に出力したデータにしたがって搬送波を変調したRF信号が放射され、ターゲットにデータが送信される。
一方、R/W111において、ターゲットが負荷変調によって送信してくるデータ(フレーム)を受信する場合、受信部122が、ターゲットの負荷変調によって変化する、アンテナ121上の電流に対応する信号を、復調部123に出力する。復調部123は、受信部122から供給される信号を復調し、デコード部124に供給する。デコード部124は、復調部123から供給される信号としてのマンチェスタ符号などをデコードし、そのデコードの結果得られるデータを、データ処理部125に供給する。データ処理部125は、デコード部124から供給されるデータに基づき、所定の処理を行う。
図8は、ICカードである図6の非接触通信装置112の電気的な構成例を示すブロック図である。
アンテナ141は、コイル等で構成され、コイルに流れる電流が変化することで、RF信号を出力する。また、アンテナ141としてのコイルを通る磁束が変化することで、アンテナ141に電流が流れる。
受信部142は、アンテナ141に流れる電流を受信し、復調部143に出力する。復調部143は、受信部142から供給される信号をASK復調等し、デコード部144に供給する。デコード部144は、復調部143から供給される信号としての、例えばマンチェスタ符号などをデコードし、そのデコードの結果得られるデータを、データ処理部145に供給する。
データ処理部145は、デコード部144から供給されるデータに基づき、所定の処理を行う。また、データ処理部145は、非接触通信装置111等の他の装置に送信すべきデータを、エンコード部146に供給する。
エンコード部146は、データ処理部145から供給されるデータを、例えば、マンチェスタ符号などにエンコードし、負荷変調部147に出力する。
負荷変調部147は、外部からアンテナ141としてのコイルを見たときのインピーダンスを、エンコード部146から供給される信号にしたがって変化させる。他の装置が搬送波としてのRF信号を出力することにより、アンテナ141の周囲にRFフィールド(磁界)が形成されている場合、アンテナ141としてのコイルを見たときのインピーダンスが変化することにより、アンテナ141の周囲のRFフィールドも変化する。これにより、他の装置が出力しているRF信号としての搬送波が、エンコード部146から供給される信号にしたがって変調(負荷変調)され、データ処理部145がエンコード部146に出力したデータが、RF信号を出力している他の装置に送信される。
ここで、負荷変調部147における変調方式としては、例えば、振幅変調(ASK)を採用することができる。但し、負荷変調部147における変調方式は、ASKに限定されるものではなく、PSKやQAMその他を採用することが可能である。また、振幅の変調度についても8%から30%、50%、100%等の数値に限定されることはなく、好適な値を選択することができる。
電源部148は、アンテナ141の周囲に形成されたRFフィールドによってアンテナ141に流れる電流から電源を得て、非接触通信装置112を構成する各ブロックに電源を供給する。
制御部149は、非接触通信装置112を構成する各ブロックの制御等を行う。すなわち、制御部149は、例えば、CPU149Aや、EEPROM149B、その他図示せぬRAMなどで構成される。CPU149Aは、EEPROM149Bに記憶されているプログラムを実行し、これにより、非接触通信装置112を構成する各ブロックの制御、その他の各種の処理を行う。EEPROM149Bは、CPU149Aが実行すべきプログラムや、CPU149Aの動作上必要なデータを記憶する。
ここで、CPU149Aがプログラムを実行することにより行う一連の処理は、CPU149Aに代えて専用のハードウェアを設けて、その専用のハードウェアによって行うことが可能である。また、CPU149Aに実行させるプログラムは、EEPROM149Bにあらかじめインストールしておく他、フレキシブルディスク、CD-ROM,MOディスク,DVD、磁気ディスク、半導体メモリなどのリムーバブル記録媒体に、一時的あるいは永続的に格納(記録)し、パッケージソフトウエアとして提供することができる。さらに、プログラムは、近接通信等によって、非接触通信装置112に送信し、EEPROM149Bにインストールすることができる。
なお、図8では、制御部149が非接触通信装置112を構成する各ブロックを制御することを表す線の図示と、電源部148が非接触通信装置112を構成する各ブロックに電源を供給することを表す線の図示は、図が煩雑になるため、省略してある。
また、図8では、電源部148において、アンテナ141に流れる電流から電源を得るようにしたが、その他、例えば、非接触通信装置112には、電池(バッテリ)を内蔵させ、その電池から、非接触通信装置112を構成する各ブロックに電源を供給することもできる。
さらに、上述の場合には、デコード部144及びエンコード部146において、マンチェスタ符号を処理するようにしたが、デコード部144及びエンコード部146では、マンチェスタ符号だけでなく、例えば、モディファイドミラーや、NRZなどの複数種類の符号の中から1つを選択して処理するようにすることが可能である。
以上のように構成される非接触通信装置112では、制御部149が、非接触通信装置112の各ブロックを制御し、これにより、ターゲットとして機能する。
すなわち、ICカードである非接触通信装置112(以下、ICカード112ともいう)では、データ(フレーム)を送信する場合、データ処理部145が、イニシエータに送信すべきデータを、エンコード部146に供給し、エンコード部146は、データ処理部145から供給されるデータをマンチェスタ符号にエンコードし、負荷変調部147に出力する。負荷変調部147は、外部からアンテナ141としてのコイルを見たときのインピーダンスを、エンコード部146から供給される信号にしたがって変化させる。
このとき、ICカード112が、R/W111に近接しており、R/W111が、搬送波としてのRF信号を出力することにより、アンテナ141の周囲にRFフィールドを形成していれば、アンテナ141としてのコイルを見たときのインピーダンスが変化することにより、アンテナ141の周囲のRFフィールドも変化する。これにより、R/W111が出力しているRF信号が、エンコード部146から供給される信号にしたがって変調(負荷変調)され、データ処理部145がエンコード部146に出力したデータが、RF信号を出力しているR/W111に送信される。
一方、ICカード112において、R/W111が、自身が出力している搬送波としてのRF信号を変調することにより送信してくるデータ(フレーム)を受信する場合、受信部142が、そのデータによって変調されたRF信号に応じてアンテナ141に流れる電流に対応する信号を、復調部143に出力する。復調部143は、受信部142から供給される信号を復調し、デコード部144に供給する。デコード部144は、復調部143から供給される信号としてのマンチェスタ符号などをデコードし、そのデコードの結果得られるデータを、データ処理部145に供給する。データ処理部145は、デコード部144から供給されるデータに基づき、所定の処理を行う。
[ICカードの物理的な構成例]
図9は、ICカードである図6の非接触通信装置112の物理的な構成例を示す平面図である。
なお、図中、図2のICカード10と対応する部分については、同一の符号を付してあり、以下では、その説明は、適宜省略する。
図9において、ICカード112は、略長方形のカード形状をしており、ICチップ12と、アンテナ141とを内蔵している。
したがって、ICカード112は、ICチップ12を内蔵する点で、図2のICカード10と共通するが、アンテナ11に代えて、アンテナ141を有する点で、図2のICカード10と相違する。
なお、図9では、ICチップ12及びアンテナ141が見えるように図示されているが、ICチップ12及びアンテナ141は、ICカード112に内蔵されており、実際には、見えない。
また、図9において、ICチップ12は、図8の受信部142ないし制御部149に相当する。
アンテナ141は、複数である、例えば、3つのコイル200、並びに、201U及び201Dを有する。
コイル200としては、開口部分が、ICカード112よりやや小さい所定のサイズのコイル(標準コイル)が採用され、コイル201U及び201Dとしては、コイル200より小さいサイズのコイル(小コイル)が採用されている。
コイル200,201U、及び、201Dは、電気的に直列、又は、並列に接続されている。
いま、アンテナ141全体に要求されるインダクタンスをLと表すとともに、コイル200,201U、及び、201Dのインダクタンスを、それぞれ、L200,L200U、及び、L200Dと表すこととすると、コイル200,201U、及び、201Dが、直列に接続される場合には、式L=L200+L200U+L200Dを満たすように、インダクタンスL200,L200U、及び、L200Dが決定される。
また、コイル200,201U、及び、201Dが、並列に接続される場合には、式1/L=1/L200+1/L200U+1/L200Dを満たすように、インダクタンスL200,L200U、及び、L200Dが決定される。
なお、フレキシブル基板等に、アンテナ141としてのコイル200,201U、及び、201Dを形成して、ICカード112を製造する場合には、一般には、コイル200,201U、及び、201Dを、直列に接続する方が、並列に接続するよりも、ICカード112の製造が容易である。
標準コイルであるコイル200は、開口部分が、ICカード112よりやや小さいサイズのコイルであり、巻き線部分が、ICカード112の縁の少し内側に沿うように配置されている。
一方、小コイルであるコイル201U及び201Dは、ICカード112と非接触通信を行うR/W111(図6)として、例えばオントップ機器であるR/W20(図2)、不要輻射機器、強電界機器等のR/Wが想定され、その想定されたR/W(以下、想定R/Wともいう)のアンテナであるコイルとの位置関係が、所定の位置関係になるように配置されている。
すなわち、ICカード112を、想定R/Wに対向させて置くときに、ICカード112の所定の位置としての、例えば、アンテナ中心(ICカード112では、アンテナ141において磁束が生じるコイル200,201U、及び、201Dの開口部分の重心)を合わせるべき位置としてあらかじめ決められている想定R/Wの基準位置である目安マーク位置に、ICカード112のアンテナ中心を合わせて、ICカード112を想定R/Wに対向させて置いたときに、コイル201U及び201Dそれぞれの開口部分が、想定R/Wのアンテナであるコイルの巻き線部分と重なるように、コイル201U及び201Dが配置されている。
図9では、小コイルであるコイル201U及び201Dは、ICカード112を横方向に2等分する位置に、縦方向に並ぶように配置されている。
図10は、オントップ機器であるR/W20上に、ICカード112が置かれた状態を示す平面図である。
図10においては、図2の場合と同様に、想定R/Wの1つであるR/W20上に、ICカード10が置かれている。
なお、図10では、ICチップ12及びアンテナ141が見えるように図示されているが、ICチップ12及びアンテナ141は、ICカード112に内蔵されており、実際には、見えない。
また、図10では、R/W20(のR/Wモジュール)のアンテナ21が見えるように図示されているが、アンテナ21は、樹脂筐体22の内側に設けられており、実際には、見えない。
図10では、図2の場合と同様に、ICカード112のアンテナ141としてのコイル200が、金属筐体23に重なっている。但し、アンテナ141としての他のコイル201U及び201Dは、金属筐体23に重ならず、樹脂筐体22のみと重なっている。
このため、ICカード112では、アンテナ141全体に対する、金属筐体23の影響が低減される。その結果、アンテナ141が、金属筐体23に重なり、R/W20のアンテナ21とICカード112のアンテナ141との相互結合が弱くなることによって、R/W20とICカード112との間で、非接触通信を行うことができなくなることを防止し、安定した非接触通信を行うことができる。
また、(0,0)でない、ある程度のオフセット量(例えば、x座標及びy座標がそれぞれ-10mmないし+10mm程度の範囲のオフセット量)のオフセットが生じている場合でも、アンテナ141としてのコイル201U及び201Dのうちの少なくとも一方が、金属筐体23に重ならず、樹脂筐体22のみと重なるので、通信不感帯が生じずに、非接触通信を行うことができる。
なお、ICカード112のアンテナ141の構成は、図9及び図10に示した構成に限定されるものではなく、想定R/Wのアンテナの構成に応じて、アンテナ141の小コイル(図9及び図10では、コイル201U及び201D)と、想定R/Wのアンテナとしてのコイルとの位置関係が、図9で説明した所定の位置関係になるような構成とすることができる。
すなわち、図10では、想定R/WとしてのR/W20(のR/Wモジュール)のアンテナ21は、1つのコイルで構成されているが、アンテナ21は、複数のコイルを平面上に並べて構成することができる。
また、図10(及び図9)では、ICカード112のアンテナ141は、3つのコイル200、並びに、201U及び201Dで構成され、そのうちの小コイルであるコイル201U及び201Dは、ICカード112を横方向に2等分する位置に、縦方向に並ぶように配置されているが、アンテナ141を構成するコイルの数や小コイルの配置は、上述した数や配置に限定されるものではなく、想定R/WとしてのR/W20のアンテナ21の構成に応じて、図9で説明した所定の位置関係を満たす構成とすることができる。
具体的には、所定の位置関係を満たすアンテナ21と141との組の第1の構成例としては、図10に示した構成を採用することができる。
図11は、所定の位置関係を満たすアンテナ21と141との組の第2の構成例を示す平面図である。
図11は、図10の場合と同様に、オントップ機器であるR/W20上に、ICカード112が置かれた状態を示している。
図11では、R/W20のアンテナ21は、横方向に並べて配置された2つのコイル301L及び301Rで構成されている。
また、図11では、ICカード112のアンテナ141は、図9及び図10の場合と同様に、3つのコイル200、並びに、201U及び201Dで構成されている。
図11でも、図10の場合と同様に、ICカード112を、想定R/WとしてのR/W20に対向させて置くときに、ICカード112のアンテナ中心を合わせるべき位置としてあらかじめ決められているR/W20の基準位置である目安マーク位置に、ICカード112のアンテナ中心を合わせて、ICカード112をR/W20に対向させて置いたときに、コイル201U及び201Dそれぞれの開口部分が、R/W20のアンテナ21であるコイル301L及び301Rのうちの少なくとも一方の巻き線部分と重なるように、コイル201U及び201Dが配置されている。
また、ICカード112のアンテナ141の小コイルであるコイル201U及び201Dは、図9で説明したように、ICカード112を横方向に2等分する位置に、縦方向に並ぶように配置されているが、このコイル201U及び201Dの配置は、オントップ機器である図11のR/W20上に置かれたICカード112に、((0,0)以外の)所定のオフセット量のオフセットがある場合であっても、コイル201Uや201Dの開口部分が、R/W20のアンテナ21であるコイル301L及び301Rのうちの少なくとも一方の巻き線部分と重なる配置になっている。
すなわち、図11には(後述する図12及び図13でも同様)、オフセットがない状態(オフセット量が(0,0)のオフセットがある状態)(R/W20の基準位置である目安マーク位置に、ICカード112のアンテナ中心を合わせた状態)で、R/W20上に置かれたICカード112の他、オフセット量が(10,0)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112、オフセット量が(-10,0)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112、オフセット量が(0,10)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112、及び、オフセット量が(0,-10)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112が示されている。
図11によれば、オフセット量が(10,0)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112、オフセット量が(-10,0)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112、オフセット量が(0,10)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112、及び、オフセット量が(0,-10)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112のすべてにおいて、コイル201Uや201Dの開口部分が、R/W20のアンテナ21であるコイル301Lや301Rの巻き線部分と重なっていることを確認することができる。
なお、図11では、ICチップ12及びアンテナ141が見えるように図示されているが、ICチップ12及びアンテナ141は、ICカード112に内蔵されており、実際には、見えない。さらに、図11では、R/W20のアンテナ21が見えるように図示されているが、アンテナ21は、R/W20に内蔵されており、実際には、見えない。後述する図12及び図13においても、同様である。
図12は、所定の位置関係を満たすアンテナ21と141との組の第3の構成例を示す平面図である。
図12は、図10の場合と同様に、オントップ機器であるR/W20上に、ICカード112が置かれた状態を示している。
図12では、R/W20のアンテナ21は、図10の場合と同様に、1つのコイルで構成されている。
また、図12では、ICカード112のアンテナ141は、5つのコイル200,211,212,213、及び、214で構成されている。
コイル200は、図9で説明したように、開口部分が、ICカード112よりやや小さい所定のサイズの標準コイルであり、巻き線部分が、ICカード112の縁の少し内側に沿うように配置されている。
コイル211ないし214は、標準コイルであるコイル200より小さいサイズのコイル(小コイル)であり、ICカード112の四隅であって、コイル200の巻き線部分より内側(略長方形状のコイル200の開口部分の四隅)に配置されている。
なお、コイル200、及び、211ないし214それぞれは、電気的に直列、又は、並列に接続されている。
図12でも、図10の場合と同様に、オフセット量を(0,0)にして、つまり、R/W20の基準位置である目安マーク位置に、ICカード112のアンテナ中心を合わせて、ICカード112をR/W20に対向させて置いたときに、コイル211ないし214それぞれの開口部分が、R/W20のアンテナ21としてのコイルの巻き線部分と重なるように、小コイルであるコイル211ないし214が配置されている。
また、ICカード112のアンテナ141の小コイルであるコイル211ないし214は、上述したように、ICカード112の四隅に配置されているが、このコイル211ないし214の配置は、オントップ機器である図12のR/W20上に置かれたICカード112に、((0,0)以外の)所定のオフセット量のオフセットがある場合であっても、コイル211や、212,213,214の開口部分が、R/W20のアンテナ21としてのコイルの巻き線部分と重なる配置になっている。
すなわち、図12には、図11の場合と同様に、オフセットがない状態(オフセット量が(0,0)のオフセットがある状態)で、R/W20上に置かれたICカード112の他、オフセット量が(10,0)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112、オフセット量が(-10,0)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112、オフセット量が(0,10)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112、及び、オフセット量が(0,-10)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112が示されている。
図12によれば、オフセット量が(10,0)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112、オフセット量が(-10,0)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112、オフセット量が(0,10)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112、及び、オフセット量が(0,-10)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112のすべてにおいて、コイル211や、212,213,214の開口部分が、R/W20のアンテナ21としてのコイルの巻き線部分と重なっていることを確認することができる。
図13は、所定の位置関係を満たすアンテナ21と141との組の第4の構成例を示す平面図である。
図13は、図10の場合と同様に、オントップ機器であるR/W20上に、ICカード112が置かれた状態を示している。
図13では、R/W20のアンテナ21は、横×縦が2×2になるように並べて配置された4つのコイル311,312,313、及び、314で構成されている。
また、図13では、ICカード112のアンテナ141は、2つのコイル200及び221で構成されている。
コイル200は、図9で説明したように、開口部分が、ICカード112よりやや小さい所定のサイズの標準コイルであり、巻き線部分が、ICカード112の縁の少し内側に沿うように配置されている。
コイル221は、標準コイルであるコイル200より小さいサイズのコイル(小コイル)であり、ICカード112のアンテナ中心となる位置に配置されている。
なお、コイル200、及び、221それぞれは、電気的に直列、又は、並列に接続されている。
図13でも、図10の場合と同様に、R/W20の基準位置である目安マーク位置に、ICカード112のアンテナ中心を合わせて、ICカード112をR/W20に対向させて置いたときに、コイル221それぞれの開口部分が、R/W20のアンテナ21としてのコイル311ないし314の少なくとも1つの巻き線部分と重なるように、小コイルであるコイル221が配置されている。
また、ICカード112のアンテナ141の小コイルであるコイル221は、上述したように、ICカード112のアンテナ中心に配置されているが、このコイル221の配置は、オントップ機器である図13のR/W20上に置かれたICカード112に、((0,0)以外の)所定のオフセット量のオフセットがある場合であっても、コイル221の開口部分が、R/W20のアンテナ21としてのコイル311ないし314の少なくとも1つの巻き線部分と重なる配置になっている。
すなわち、図13には、図11の場合と同様に、オフセットがない状態(オフセット量が(0,0)のオフセットがある状態)で、R/W20上に置かれたICカード112の他、オフセット量が(10,0)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112、オフセット量が(-10,0)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112、オフセット量が(0,10)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112、及び、オフセット量が(0,-10)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112が示されている。
図13によれば、オフセット量が(10,0)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112、オフセット量が(-10,0)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112、オフセット量が(0,10)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112、及び、オフセット量が(0,-10)のオフセットがある状態でR/W20上に置かれたICカード112のすべてにおいて、コイル221の開口部分が、R/W20のアンテナ21としてのコイル311ないし314の少なくとも1つの巻き線部分と重なっていることを確認することができる。
以上のように、オントップ機器である想定R/W上に置かれたICカード112に、オフセットがない(オフセット量(0,0)のオフセットがある)場合の他、所定のオフセット量のオフセットがある場合であっても、ICカード112のアンテナ141を構成する小コイルの開口部分が、想定R/Wのアンテナとしてのコイルの巻き線部分と重なるように、ICカード112のアンテナ141を構成する小コイルを配置することにより、オントップ機器である想定R/W上に置かれたICカード112に、((0,0)以外の)所定のオフセット量のオフセットがある場合であっても、ICカード112が想定R/Wに置かれたときの相互結合を弱め(ひいては、不要輻射ノイズを低減し)、その結果、不要輻射ノイズに対する耐性を改善することができる。
ここで、図14は、ICカードとR/Wとの(アンテナとしてのコイルの)距離、及び、結合係数の関係を示す図である。
図14において、ひし形のマークは、図11に示した2つのコイル301L及び301Rで構成されるアンテナ21を有するR/W20(以下、2コイルR/W20とも記載する)と、図2に示した1つのコイルで構成されるアンテナ11を有するICカード10(以下、1コイルカード10とも記載する)との間の結合係数を示している。
また、図14において、三角形のマークは、図11に示した2コイルR/W20と、同じく図11に示した3つのコイル200,201U、及び、201Dで構成されるアンテナ141を有するICカード112(以下、3コイルカード112とも記載する)との間の結合係数を示している。
なお、図14において、オフセット量は、(0,0)である。また、1コイルカード10のアンテナ11としての1つのコイルと、3コイルカード112の標準コイルであるコイル200とは、配置とサイズが同様のコイルである。
図14によれば、2コイルR/W20との距離が遠い場合(例えば、距離が50mmである場合)には、1コイルカード10、及び、3コイルカード112の結合係数が、同様の値になっていることを確認することができる。
したがって、3コイルカード112は、1コイルカード10と同程度の通信距離を維持することができる。
また、図14では、例えば、2コイルR/W20上に、1コイルカード10や3コイルカード112が置かれている状態に等しい程度に、2コイルR/W20との距離が近い場合(例えば、距離が10mmである場合)、3コイルカード112の結合係数が、1コイルカード10の結合係数よりも小さくなっていることを確認することができる。
したがって、R/W20上に置かれている状態では、3コイルカード112は、1コイルカード10よりも、R/W20との相互結合が弱く、そのため、R/W20が不要輻射ノイズを発生していても、3コイルカード112が受ける不要輻射ノイズの影響は、1コイルカード10が受ける影響よりも小さい。
以上のように、(1コイルカード10のアンテナとしてのコイルと同様の)コイル200の他、コイル200よりサイズが小さいコイル201U、及び、201Dを、アンテナ141として有する3コイルカード112の結合係数は、2コイルR/W20との距離が遠い位置では、1コイルカード10と同程度の値となり、2コイルR/W20との距離が近い位置では、1コイルカード10よりも小さい値になる。
したがって、3コイルカード112によれば、1コイルカード10と同程度の通信距離を維持しつつ、2コイルR/W20上に置かれた場合に2コイルR/W20から受ける不要輻射ノイズの影響を低減することができる。
なお、1コイルカード10(図2)において、アンテナ11としての1つのコイルの開口部分(アンテナ開口面積)を小さくした場合、不要輻射ノイズの影響を低減することはできるが、通信距離は、維持することができなくなる(短くなる)。
図15は、2コイルR/W20との距離が比較的近い20mmの位置で、各オフセット量だけオフセットした1コイルカード10、及び、3コイルカード112それぞれの結合係数を示す図である。
図15では、オフセット量にかかわらず、3コイルカード112の結合係数(横線を付してある部分)の方が、1コイルカード10の結合係数(斜線を付してある部分)よりも小さくなっている。
図15において、オフセット量は、(0,0),(10,0),(-10,0),(0,10)、及び、(0,-10)の5種類であり、したがって、2コイルR/W20との距離が近い場合には、3コイルカード112は、オフセットの有無にかかわらず、1コイルカード10よりも、不要輻射ノイズの影響を低減することができることを確認することができる。
オフセットがある場合の不要輻射ノイズの影響の低減(不要輻射ノイズに対する耐性の改善)には、ICカード112のアンテナ141としての標準コイルと小コイルとを適切な位置に配置することが効果的である。
図16は、3コイルカード112の共振周波数foを各周波数に設定した場合の、3コイルカード112の各オフセット量(x,y)に対する通信正答率を示す図である。
ここで、図16の通信正答率とは、3コイルカード112と2コイルR/W20との間で、データのやりとりが成功した割合を表す。
なお、3コイルカード112の共振周波数foは、例えば、3コイルカード112のアンテナ141に接続される図示せぬコンデンサの容量を調整することで、様々な周波数に設定することができる。
図16では、図4の場合と同様に、オフセット量(x,y)として、(5,0),(0,0),(-5,0),(0,5),(0,-5)の5種類のオフセット量(オフセット位置)が採用され、共振周波数foとして、13.6MHzないし14.4MHzの範囲のほぼ0.1MHz刻みの8種類の周波数が採用されている。
1コイルカード10では、図4で説明したように、共振周波数foが13.9MHz以上になると、5種類のオフセット量のうちの、3種類以上のオフセット量で、通信不感帯が生じるが、3コイルカード112によれば、図16に示すように、1コイルカード10で生じる通信不感帯(斜線を付してある部分)が生じておらず、したがって、オフセット特性が改善していることを確認することができる。
図17は、3コイルカード112において、通信不感帯が生じるかどうかを表す通信不感帯の有無を示す図である。
ここで、図17において、(上から)1ないし5行目のレコードは、図5の1ないし5行目のレコードと同一のレコード(但し、図5では、アンテナを構成するコイルの数であるアンテナのコイル数の図示が省略されている)であり、したがって、1コイルカード10の通信不感帯の有無を示している。
また、図17において、6行目のレコード(最下行のレコード)は、3コイルカード112の通信不感帯の有無を示している。
なお、図17では、図5の場合と同様に、3コイルカード112と非接触通信を行うR/Wとして、オントップ機器としてのR/W20(2コイルR/W20)、及び、不要輻射機器を採用した。
また、図17では、図5の場合と同様に、通信不感帯の有無の他、3コイルカード112が、強電界機器であるR/Wと非接触通信を行う場合の通信距離も、図示してある。
図17によれば、3コイルカード112と強電界機器との間の通信距離としては、アンテナ開口面積が、39,36,34,30、及び、26mm2それぞれのICカード10(1コイルカード10)それぞれと強電界機器との間の通信距離と同様に、100mm以上が確保されている。
ここで、3コイルカード112と不要輻射機器との間の非接触通信では、図5の場合と同様に、オフセット量として、(0,0),(10,0),(-10,0),(0,10)、及び、(0,-10)の5種類を採用して、通信不感帯の有無を調査した。
また、3コイルカード112とオントップ機器との間の非接触通信では、図5の場合と同様に、オフセット量として、(0,0),(5,0),(-5,0),(0,5)、及び、(0,-5)の5種類を採用して、通信不感帯の有無を調査した。
さらに、3コイルカード112と強電界機器との間の通信距離は、オフセット量として(0,0)を採用して測定した。
また、3コイルカード112のアンテナ141(の標準コイルであるコイル200)のアンテナ開口面積としては、不要輻射機器、及び、オントップ機器のいずれとの非接触通信でも、通信不感帯が生じた1コイルカード10のアンテナ開口面積と同様の39cm2を採用した。
図17において、「有」は、通信不感帯が生じたことを表し、「無」は、通信不感帯が生じなかったことを表す。
図17によれば、3コイルカード112については、不要輻射機器との非接触通信時にも、オントップ機器との非接触通信時にも、オフセットにかかわらず、通信不感帯が生じておらず、したがって、通信距離を維持しつつ、オフセット特性、及び、不要輻射ノイズに対する耐性のすべてが改善されていることを確認することができる。
ところで、図11ないし図13においては、ICカード112のアンテナ141を構成する小コイルの数と配置を調整することによって、通信不感帯を改善する(ICカード112に通信不感帯が生じることを改善する)こととしたが、その他、例えば、アンテナ141を構成するコイルの巻き線の線幅(線径)や、巻き線として使用する導体金属によって、巻き線の抵抗値を調整すると、通信不感帯の改善を、さらに効果的に行うことができる。
図18は、3コイルカード112のアンテナ141を構成するコイル200,201U、及び、201Dの線径を、各値の線径にした場合に、3コイルカード112において、通信不感帯が生じるかどうかを表す通信不感帯の有無を示す図である。
なお、図18の通信不感帯の有無の確認においては、通信不感帯が生じやすくなるように、小コイルであるコイル201Uと201Dとの間隔を、適正な間隔(2コイルR/W20との非接触通信において、通信不感帯が最も生じない間隔)よりも狭い間隔にした3コイルカード112を用いた。
また、図18では、3コイルカード112と非接触通信を行うR/Wとして、図5や図17と同様に、オントップ機器としてのR/W20(2コイルR/W20)と、不要輻射機器とを採用した。
さらに、図18では、通信不感帯の有無の他、ICカード10が、強電界機器であるR/Wと非接触通信を行う場合の通信距離も、図示してある。
図18において、3コイルカード112と強電界機器との間の通信距離は、100mm以上が確保されている。
また、3コイルカード112と不要輻射機器との間の非接触通信では、オフセット量として、(0,0),(10,0),(-10,0),(0,10)、及び、(0,-10)の5種類を採用して、通信不感帯の有無を調査した。
さらに、3コイルカード112とオントップ機器との間の非接触通信では、オフセット量として、(0,0),(5,0),(-5,0),(0,5)、及び、(0,-5)の5種類を採用して、通信不感帯の有無を調査した。
また、3コイルカード112と強電界機器との間の通信距離は、オフセット量として(0,0)を採用して測定した。
図18において、「有」は、通信不感帯が生じたことを表し、「無」は、通信不感帯が生じなかったことを表す。
図18によれば、3コイルカード112のアンテナ141を構成するコイル200,201U、及び、201Dの線径を0.045mmまで細くして、抵抗値を大にすると、強電界機器との通信距離を維持しつつ、オントップ機器との間の非接触通信の通信性能を劣化させずに(通信不感帯を生じさせずに)、不要輻射機器との間の非接触通信の通信性能を改善する(通信不感帯を生じさせなくする)ことができることを確認することができる。
したがって、3コイルカード112のアンテナ141の小コイル(コイル201U、及び、201D等)を、想定R/Wとの非接触通信において通信不感帯が生じにくい(生じない)位置に配置し、さらに、アンテナ141としての標準コイル(コイル200)、及び、小コイルの線径、ひいては、抵抗値を調整することで、通信距離、オフセット特性、及び、不要輻射ノイズに対する耐性のすべてを改善することができる。
なお、アンテナ141としてのコイル200,201U、及び、201Dの線径を細くし、抵抗値を大きくしすぎると、通信距離が低下するので、コイル200,201U、及び、201Dの線径の調整は、3コイルカード112に要求される通信距離を確保することができる範囲内で行うことが重要である。
また、アンテナ141としてのコイル200,201U、及び、201Dの抵抗値は、線径を変えることの他、コイル200,201U、及び、201Dの導体金属を変えることによっても調整することができる。例えば、導体金属を、銅からアルミニウムに変更することにより、抵抗値を低下させることができる。
ここで、ICカード112に、共振周波数を調整するための同調用のコンデンサが設けられておらず、コイル200,201U、及び、201Dのみで同調が行われている場合には、ICカード112のアンテナ141全体のインダクタンスがほぼ一定になるが、この場合、ICカード112の通信性能の改善には、コイル200,201U、及び、201Dそれぞれのインダクタンスのバランスを調整することが効果的である。
なお、ICカード112は、複数のコイル200,201U、及び、201Dが電気的に接続され、いずれも、ICカード112のアンテナ141を構成する要素である点で、複数のコイルが電気的に接続されていない特許文献1に記載の技術や、2つのコイルのうちの1つのコイルが、カードIC機能部のアンテナであり、残りの1つのコイルが、リーダ/ライタ機能部のアンテナである特許文献2に記載の技術と異なる。
また、本技術は、標準コイル(例えば、ICカード112のコイル200)が、想定R/Wのアンテナとしてのコイルのサイズ(アンテナ開口面積)以上のサイズである場合に、特に有用であり、小コイル(例えば、ICカード112のコイル201U及び201D)としては、想定R/Wのアンテナとしてのコイルのサイズ(想定R/Wのアンテナが、図11や図13に示したように、複数のコイルで構成される場合には、アンテナを構成する個々のコイルのサイズ)以下のコイルが採用される。
なお、本技術の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
すなわち、本技術は、非接触通信のみを行う通信装置の非接触通信の他、非接触通信と接触通信との両方を行う通信装置の非接触通信にも適用可能である。
また、本技術は、以下のような構成をとることもできる。
[1]
R/W(Reader/Writer)からのRF信号を負荷変調することによりデータを非接触通信で送信するためのアンテナを備え、
前記アンテナは、
開口部分が所定のサイズのコイルである標準コイルと、
開口部分が、前記標準コイルより小さいサイズのコイルである小コイルと
を有し、
前記標準コイルと小コイルとは、直列、又は、並列に接続され、
非接触通信装置を、R/Wに対向させるときに、前記非接触通信装置の所定の位置を合わせるべき位置としてあらかじめ決められているR/Wの基準位置に、前記非接触通信装置の前記所定の位置を合わせて、前記非接触通信装置をR/Wに対向させたときに、前記小コイルの開口部分が、R/Wのアンテナであるコイルの巻き線部分と重なるように、前記小コイルが配置されている
前記非接触通信装置。
[2]
前記標準コイルは、R/Wのアンテナであるコイルのサイズ以上のサイズのコイルであり、
前記小コイルは、R/Wのアンテナであるコイルのサイズ以下のサイズのコイルである
[1]に記載の非接触通信装置。
[3]
前記標準コイルと小コイルとは、直列に接続されている
[1]又は[2]に記載の非接触通信装置。
[4]
前記アンテナは、複数の小コイルを有する
[1]ないし[3]のいずれかに記載の非接触通信装置。