ところで、上記特許文献1にも記載されるように、短時間リッチ低温燃焼を行なうと、触媒床温を上昇させて触媒活性を回復させることができるが、空燃比をリッチ化するとRaw HCが増大するという問題がある。
そこで、空燃比をリッチ化する方法以外の方法として、燃焼(点火)時期を大きくリタードさせることにより排気温度を急速上昇させて、触媒の活性化を促進することが考えられるが、燃焼時期を大幅にリタードさせると、エンジンの燃焼性が低下するおそれがある。より詳しくは、燃焼時期をリタードさせるべく、膨張行程においてピストンが下がった状態で点火を行った場合、火炎が燃え広がる速度よりも、ピストンが下降する速度の方が速いと、噴射された燃料が燃え切らず、エンジントルクの確保が困難になることから、車両走行状態において触媒活性化を促進できないという問題がある。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、燃焼室から排出される排気ガスを浄化するための触媒を備えた火花点火式直噴エンジンにおいて、エンジントルクを確保しつつ、触媒活性化を促進する技術を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明に係る火花点火式直噴エンジンでは、排気温度を上昇させるべく、燃料噴射開始時期をリタードさせるとともに、強い流動を利用して燃料の気化霧化を促進すべく、燃料噴射圧力を所定以上の高い燃料圧力に設定するようにしている。
具体的には、第1の発明は、頂部に燃焼室を形成する気筒を有し、ガソリンを主成分とする燃料が供給されるように構成されたエンジン本体と、上記燃焼室から排出される排気ガスを浄化するための触媒と、上記燃焼室内に上記燃料を噴射するように構成された燃料噴射弁と、上記燃料噴射弁が噴射する燃料の圧力を変更するように構成された燃圧可変機構と、上記燃焼室内に臨んで配設され、当該燃焼室内の混合気に点火をするように構成された点火プラグと、少なくとも上記燃料噴射弁、上記燃圧可変機構及び上記点火プラグを制御することによって、上記エンジン本体を運転するように構成された制御器と、を備えた火花点火式直噴エンジンを対象としている。
そして、上記制御器は、上記触媒が未活性状態にある所定の運転状態では、燃料噴射開始から点火までの時間が3msec以内となるように、上記燃圧可変機構を用いて上記燃料噴射弁の燃料噴射圧力を30MPa以上の所定圧力に設定するとともに、着火前の燃料噴射開始時期が、圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内となり、且つ、圧縮上死点よりも所定クランク角後に燃焼を開始するように、上記燃料噴射弁及び上記点火プラグを駆動させ、上記所定の運転状態では、触媒温度の上昇過程で、エンジン温度が所定温度以下である半暖機状態にある場合、燃料噴射開始から点火までの時間が3msec以内となるように、上記燃圧可変機構を用いて上記燃料噴射弁の燃料噴射圧力を30MPa以上の所定圧力に設定するとともに、上記着火前の燃料噴射開始時期を進角させて、圧縮行程内で噴射および点火を行うように、上記燃料噴射弁及び上記点火プラグを駆動させることを特徴とするものである。
第1の発明では、吸気行程において燃料噴射を開始する場合に比して燃焼時期を遅角(リタード)させることにより排気温度を急速上昇させて、吸気行程において燃料噴射を開始する場合に比して触媒の活性化を促進するようにしている。もっとも、燃焼時期をリタードさせるべく、膨張行程においてピストンが下がった状態で点火を行った場合、火炎が燃え広がる速度よりも、ピストンが下降する速度の方が速いと、噴射された燃料が燃え切らず、エンジントルクの確保が困難になるおそれがある。
そこで、第1の発明では、燃料噴射開始から点火までの時間が3msec以内となるように、30MPa以上の高い燃料圧力で燃料を噴射するとともに、着火前の燃料噴射開始時期が、圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内となり、且つ、圧縮上死点よりも所定クランク角後に燃焼を開始させるようにしている。より詳しくは、圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内は、ピストンが圧縮上死点付近に位置していることから燃焼室が極めて狭くなっているところ、かかる狭い領域において高い燃料圧力で燃料を噴射すると、燃焼室内の空気に強い乱れが生じ、燃料の気化霧化が促進される。もっとも、燃料噴射開始から点火までの時間が長すぎると、燃焼室内に生じた空気の強い乱れが減少することから、第1の発明では、燃料噴射開始から点火までの時間が3msec以内となるように、燃料噴射圧力を30MPa以上に設定している。このような高い燃料圧力で燃料を噴射することにより、所定量の燃料を短時間で噴き切ることができるとともに、燃焼室内に点火直前まで空気の強い乱れを残すことができ、これにより、燃料の気化霧化を一気に促進して、燃焼安定性が低下するのを抑えることができる。そうして、このように燃料の気化霧化が促進された状態で点火し、圧縮上死点よりも所定クランク角後に燃焼を開始させることから、燃焼ガスによってピストンがしっかりと押し下げられるので、エンジントルクを確保することが可能となり、その結果、車両走行状態においても触媒活性化を促進することが可能となる。
第1の発明では、燃焼時期を進角させて、エンジンの暖機に用いられる燃焼熱の割合を増やすことにより、吸気行程において燃料噴射を開始する場合に比して、エンジンの暖機を促進するようにしている。
より詳しくは、触媒温度の上昇過程においてエンジン温度が所定温度以下である半暖機状態にあるときは、着火前の燃料噴射開始時期を圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内とする場合に比して燃焼時期を進角させて、別の見方をすれば、吸気行程において燃料噴射を開始する場合に比して燃焼時期を遅角させて、圧縮行程内で噴射及び点火を行うことにより、燃焼室を区画するシリンダ壁部等の昇温に用いられる燃焼熱の割合を増大させて、エンジンの暖機を促進することができる。このように、燃焼熱を積極的にシリンダ壁部等の昇温に用いることから燃焼温度が下がるので、吸気行程において燃料噴射を開始する場合に比して、Raw HCの排出量を少なくできるとともに、吸気行程において燃
料噴射を開始する場合に比して、エンジンの暖機促進を図ることができる。
第2の発明は、頂部に燃焼室を形成する気筒を有し、ガソリンを主成分とする燃料が供給されるように構成されたエンジン本体と、上記燃焼室から排出される排気ガスを浄化するための触媒と、上記燃焼室内に上記燃料を噴射するように構成された燃料噴射弁と、上記燃料噴射弁が噴射する燃料の圧力を変更するように構成された燃圧可変機構と、上記燃焼室内に臨んで配設され、当該燃焼室内の混合気に点火をするように構成された点火プラグと、少なくとも上記燃料噴射弁、上記燃圧可変機構及び上記点火プラグを制御することによって、上記エンジン本体を運転するように構成された制御器と、を備えた火花点火式直噴エンジンを対象としている。
そして、上記制御器は、上記触媒が未活性状態にある所定の運転状態では、燃料噴射開始から点火までの時間が3msec以内となるように、上記燃圧可変機構を用いて上記燃料噴射弁の燃料噴射圧力を30MPa以上の所定圧力に設定するとともに、着火前の燃料噴射開始時期が、圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内となり、且つ、圧縮上死点よりも所定クランク角後に燃焼を開始するように、上記燃料噴射弁及び上記点火プラグを駆動させ、上記所定の運転状態では、アクセル踏込時は分割噴射を行う一方、アクセル踏込がないときは一括噴射を行うように、上記燃料噴射弁を駆動させ、上記分割噴射の後段噴射又は一括噴射における、燃料噴射開始から点火までの時間が、3msec以内となるように、上記燃圧可変機構を用いて上記燃料噴射弁の燃料噴射圧力を30MPa以上の所定圧力に設定するとともに、上記分割噴射の後段噴射又は一括噴射の燃料噴射開始時期を、上記着火前の燃料噴射開始時期とすることを特徴とするものである。
第2の発明では、吸気行程において燃料噴射を開始する場合に比して燃焼時期を遅角(リタード)させることにより排気温度を急速上昇させて、吸気行程において燃料噴射を開始する場合に比して触媒の活性化を促進するようにしている。もっとも、燃焼時期をリタードさせるべく、膨張行程においてピストンが下がった状態で点火を行った場合、火炎が燃え広がる速度よりも、ピストンが下降する速度の方が速いと、噴射された燃料が燃え切らず、エンジントルクの確保が困難になるおそれがある。
そこで、第2の発明では、燃料噴射開始から点火までの時間が3msec以内となるように、30MPa以上の高い燃料圧力で燃料を噴射するとともに、着火前の燃料噴射開始時期が、圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内となり、且つ、圧縮上死点よりも所定クランク角後に燃焼を開始させるようにしている。より詳しくは、圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内は、ピストンが圧縮上死点付近に位置していることから燃焼室が極めて狭くなっているところ、かかる狭い領域において高い燃料圧力で燃料を噴射すると、燃焼室内の空気に強い乱れが生じ、燃料の気化霧化が促進される。もっとも、燃料噴射開始から点火までの時間が長すぎると、燃焼室内に生じた空気の強い乱れが減少することから、第2の発明では、燃料噴射開始から点火までの時間が3msec以内となるように、燃料噴射圧力を30MPa以上に設定している。このような高い燃料圧力で燃料を噴射することにより、所定量の燃料を短時間で噴き切ることができるとともに、燃焼室内に点火直前まで空気の強い乱れを残すことができ、これにより、燃料の気化霧化を一気に促進して、燃焼安定性が低下するのを抑えることができる。そうして、このように燃料の気化霧化が促進された状態で点火し、圧縮上死点よりも所定クランク角後に燃焼を開始させることから、燃焼ガスによってピストンがしっかりと押し下げられるので、エンジントルクを確保することが可能となり、その結果、車両走行状態においても触媒活性化を促進することが可能となる。
ところで、触媒が未活性状態であり且つエンジン温度が所定温度以下である場合に、エンジンを始動する際には、触媒が活性化されるまでに所定時間を要するが、運転者の中には所定時間を待たずに走行を開始する運転者もいるところ、このような場合にはエンジントルクが不足するおそれがある。
そこで、第2の発明では、触媒が未活性状態にある所定の運転状態において、運転者に所定時間を待たずに走行を開始する意思がない場合、換言すると、アクセル踏込がないときは一括噴射を行うとともに、触媒活性化を図るべく、吸気行程において燃料噴射を開始する場合に比して燃焼時期をリタードさせて、触媒の活性化を促進する一方、運転者に所定時間を待たずに走行を開始する意思がある場合、換言すると、アクセル踏込時は分割噴射を行うようにしている。
このように、エンジントルクが要求される場合に分割噴射を行うことにより、より具体的には、例えば吸気行程において前段噴射を行うことにより、燃料の気化時間を十分にとることができる。そうして、かかる十分に燃料が気化された混合気に対して、燃料噴射開始から点火までの時間が3msec以内となるような30MPa以上の高い燃料圧力をもって、燃料噴射開始時期が圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内となり、且つ、圧縮上死点よりも所定クランク角後に燃焼を開始するように、後段噴射を行うことにより、燃料の気化霧化がより一層促進されて燃焼安定性がよくなり、燃焼ガスによってピストンがしっかりと押し下げられるので、触媒活性化を促進しつつ走行に必要なエンジントルクを確保することが可能となる。
第3の発明は、上記第1の発明において、上記制御器は、上記所定の運転状態では、アクセル踏込時は分割噴射を行う一方、アクセル踏込がないときは一括噴射を行うように、上記燃料噴射弁を駆動させ、上記分割噴射の後段噴射又は一括噴射における、燃料噴射開始から点火までの時間が、3msec以内となるように、上記燃圧可変機構を用いて上記燃料噴射弁の燃料噴射圧力を30MPa以上の所定圧力に設定するとともに、上記分割噴射の後段噴射又は一括噴射の燃料噴射開始時期を、上記着火前の燃料噴射開始時期とすることを特徴とするものである。
ところで、触媒が未活性状態であり且つエンジン温度が所定温度以下である場合に、エンジンを始動する際には、触媒が活性化されるまでに所定時間を要するが、運転者の中には所定時間を待たずに走行を開始する運転者もいるところ、このような場合にはエンジントルクが不足するおそれがある。
そこで、第3の発明では、触媒が未活性状態にある所定の運転状態において、運転者に所定時間を待たずに走行を開始する意思がない場合、換言すると、アクセル踏込がないときは一括噴射を行うとともに、触媒活性化を図るべく、吸気行程において燃料噴射を開始する場合に比して燃焼時期をリタードさせて、触媒の活性化を促進する一方、運転者に所定時間を待たずに走行を開始する意思がある場合、換言すると、アクセル踏込時は分割噴射を行うようにしている。
このように、エンジントルクが要求される場合に分割噴射を行うことにより、より具体的には、例えば吸気行程において前段噴射を行うことにより、燃料の気化時間を十分にとることができる。そうして、かかる十分に燃料が気化された混合気に対して、燃料噴射開始から点火までの時間が3msec以内となるような30MPa以上の高い燃料圧力をもって、燃料噴射開始時期が圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内となり、且つ、圧縮上死点よりも所定クランク角後に燃焼を開始するように、後段噴射を行うことにより、燃料の気化霧化がより一層促進されて燃焼安定性がよくなり、燃焼ガスによってピストンがしっかりと押し下げられるので、触媒活性化を促進しつつ走行に必要なエンジントルクを確保することが可能となる。
なお、第3の発明によれば、30MPa以上の高い燃料圧力をもって、噴射開始時期が圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内となるように燃料噴射を行うことにより、触媒が部分的に活性し始め、HC浄化率が急速に上昇し始める状態までの期間は相当短縮されることから、所定時間を待たずに走行を始めても、排気ガスを浄化することは可能である。
第4の発明は、上記第1〜第3のいずれか1つの発明において、上記所定の運転状態は、エンジンの低速域における運転状態であることを特徴とするものである。
エンジンの低速域では高速域に比して吸気流動が弱いところ、かかるエンジンの低速域における運転状態において、高圧噴射且つリタード燃焼を行うことにより、燃焼安定性が低下するのを抑えることができる。
第5の発明は、上記第1〜第4のいずれか1つの発明において、空燃比をλ=1±0.1の範囲内に設定していることを特徴とするものである。
第5の発明では、空燃比を実質的にλ≒1とすることから、Raw HC、COの排出
量を少なくしつつ、暖機促進を図ることができる。換言すると、高圧噴射且つリタード燃焼を行うことにより、HC浄化率及びCO浄化率が急速に上昇し始める状態までの期間を短縮するとともに、空燃比を実質的にλ≒1とすることにより、この間にエンジンから出るRaw HC、CO自体を低減することができる。
本発明に係る火花点火式直噴エンジンによれば、触媒が未活性状態にある所定の運転状態では、着火前の燃料噴射開始時期が、圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内になるように燃料噴射を行うとともに、燃料噴射開始から点火までの時間が3msec以内となるように燃料噴射圧力を30MPa以上の所定圧力に設定することから、ピストンが上昇することにより極めて狭くなっている燃焼室に、高い燃料圧力で燃料を噴射することにより、所定量の燃料を短時間で噴き切ることができるとともに、燃焼室内に点火直前まで空気の強い乱れを残すことができ、これにより、燃料の気化霧化を一気に促進して、燃焼安定性が低下するのを抑えることができる。
加えて、このように燃料の気化霧化が促進された状態で点火し、圧縮上死点よりも所定クランク角後に燃焼を開始させることから、燃焼ガスによってピストンがしっかりと押し下げられるので、触媒活性化を促進しつつエンジントルクを確保することが可能となり、その結果、車両走行状態においても触媒活性化を促進することが可能となる。
以下、本実施形態に係る火花点火式直噴ガソリンエンジンの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(全体構成)
図1は、本実施形態に係る火花点火式直噴ガソリンエンジンの構成を示す概略図であり、図2は、火花点火式直噴ガソリンエンジンの制御に係るブロック図である。このエンジン(エンジン本体)1は、車両に搭載される、ガソリンを主成分とする燃料が供給される火花点火式直噴ガソリンエンジンである。エンジン1は、各々頂部に燃焼室19を形成する、複数の気筒18が設けられたシリンダブロック11と、このシリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯留されるオイルパン13と、を有している。なお、図1では、1つの気筒18のみを図示するが、シリンダブロック11には例えば4つの気筒が直列に設けられている。
各気筒18内には、コンロッド142を介してクランクシャフト15と連結されているピストン14が往復動可能に嵌挿されている。ピストン14の頂面(冠面)には、図3に拡大して示すように、ディーゼルエンジンにおけるリエントラント型のようなキャビティ141が形成されており、このキャビティ141は、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するときには、後述する直噴インジェクタ67に相対するようになっている。そうして、シリンダヘッド12と、気筒18と、キャビティ141を有するピストン14とによって、燃焼室19が区画されている。なお、燃焼室19の形状は、図示する形状に限定されるものではなく、例えば、キャビティ141の形状、ピストン14の頂面形状、及び、燃焼室19の天井部の形状等は、適宜変更することが可能である。
このエンジン1は、理論熱効率の向上や、後述する圧縮着火燃焼の安定化等を目的として、15以上の比較的高い幾何学的圧縮比に設定されている。なお、幾何学的圧縮比は15以上20以下程度の範囲で、適宜設定すればよい。
シリンダヘッド12には、気筒18毎に、吸気ポート16及び排気ポート17が形成されており、これら吸気ポート16及び排気ポート17には、燃焼室19側の吸気ポート開口及び排気ポート開口の周縁部に固定されたバルブシート(図示せず)に当接することによって各ポート開口を開閉する吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ配設されている。
これら吸気弁21及び排気弁22をそれぞれ駆動する動弁系のうち、排気側の動弁系には、排気弁22の作動モードを通常モードと特殊モードとに切り替える、例えば油圧作動式の可変機構(Variable Valve Lift、以下、VVLともいう)71が設けられている(
図2参照)。VVL71は、その構成の詳細な図示は省略するが、カムプロファイルの異なる2種類のカム(カム山を一つ有する第1カム及びカム山を2つ有する第2カム)、並びに、その第1及び第2カムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的に排気弁22に伝達するロストモーション機構を含んで構成されている。排気弁22は、第1カムの作動状態が伝達されているときには、排気行程において一度だけ開弁される通常モードで作動するのに対し、第2カムの作動状態が伝達されているときには、排気行程において開弁するのみならず吸気行程においても開弁する、所謂「排気二度開き」を行う特殊モードで作動し、これらの通常モードと特殊モードとは、エンジンの運転状態に応じて切り替えられる。
以上に対し、動弁系の吸気側には、図2に示すように、クランクシャフト15に対する吸気カムシャフトの回転位相を変更することが可能な位相可変機構(Variable Valve Timing、以下、VVTともいう)72と、吸気弁21のリフト量を連続的に変更することが可能なリフト量可変機構(Continuously Variable Valve Lift、以下、CVVLともいう)73とが設けられている。VVT72は、液圧式、電磁式又は機械式の公知の構造を適宜採用すればよく、また、CVVL73も、公知の種々の構造を適宜採用することが可能であり、これらの詳細な構造は図示省略する。これらVVT72及びCVVL73によって、吸気弁21はその開弁タイミング及び閉弁タイミング、並びに、リフト量をそれぞれ変更することが可能となっている。
また、シリンダヘッド12には、燃焼室19内に燃料を直接噴射する直噴インジェクタ(燃料噴射弁)67が、気筒18毎に取り付けられている。直噴インジェクタ67は、図3に拡大して示すように、その噴口が燃焼室19の天井面の中央部分から、当該燃焼室19内に臨むように配設されている。直噴インジェクタ67は、後述するPCM10の指令に従って、エンジン1の運転状態に応じて設定された噴射タイミングで、且つ、エンジン1の運転状態に応じて設定された量だけ、燃料を燃焼室19内に直接噴射する。この例では、直噴インジェクタ67は、詳細な図示は省略するが、複数の噴口を有する多噴口型の直噴インジェクタであり、これによって、燃料噴霧が、燃焼室19の中心位置から放射状に拡散されるように、燃料を噴射するようになっている。図3に矢印で示すように、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するタイミングで、燃焼室19の中央部分から放射状に広がるように噴射された燃料噴霧は、ピストン14の頂面に形成されたキャビティ141の壁面に沿って流動する。換言すると、キャビティ141は、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するタイミングで噴射された燃料噴霧を、その内部に収めるように形成されている。この多噴口型の直噴インジェクタ67とキャビティ141との組み合わせは、燃料の噴射後、混合気形成期間を短くするとともに、燃焼期間を短くする上で有利な構成である。なお、直噴インジェクタ67は、多噴口型の直噴インジェクタに限定されず、外開弁タイプの直噴インジェクタを採用してもよい。
図外の燃料タンクと直噴インジェクタ67との間は、燃料供給経路によって互いに連結されている。この燃料供給経路上には、直噴インジェクタ67に比較的高い燃料圧力で燃料を供給することが可能な、燃料ポンプ63とコモンレール64とを含む高圧燃料供給システム(燃圧可変機構)62が介設されている。燃料ポンプ63は、燃料タンクからコモンレール64に燃料を圧送し、コモンレール64は、圧送された燃料を比較的高い燃料圧力で蓄えることが可能に構成されている。そうして、直噴インジェクタ67が開弁することによって、コモンレール64に蓄えられている燃料が直噴インジェクタ67の噴口から噴射される。ここで、燃料ポンプ63は、図示は省略するが、プランジャー式のポンプであり、エンジン1によって駆動される。このエンジン駆動のポンプを含む構成の高圧燃料供給システム62は、30MPa以上の高い燃料圧力の燃料を、直噴インジェクタ67に供給することを可能にし、その燃料圧力は最大で120MPa程度に設定することができる。直噴インジェクタ67に供給される燃料の圧力は、後述するように、エンジン1の運転状態に応じて変更される。なお、高圧燃料供給システム62は、この構成に限定されるものではない。
さらに、シリンダヘッド12には、図3に示すように、燃焼室19内の混合気に点火するための点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、この例では、エンジン1の排気側から斜め下向きに延びるように、シリンダヘッド12内を貫通するとともに、その先端が、圧縮上死点に位置するピストン14のキャビティ141内に臨むように配置されている。
図1に示すように、エンジン1の一側面には、各気筒18の吸気ポート16に連通するように吸気通路30が接続されている一方、エンジン1の他側面には、各気筒18の燃焼室19からの既燃ガス(排気ガス)を排出する排気通路40が接続されている。
吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ31が配設されている一方、吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク33が配設されており、このサージタンク33よりも下流側の吸気通路30は、各気筒18毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒18の吸気ポート16にそれぞれ接続されている。
吸気通路30におけるエアクリーナ31とサージタンク33との間には、空気を冷却又は加熱する、水冷式のインタークーラ/ウォーマ34と、各気筒18への吸入空気量を調節するスロットル弁36とが配設されている。また、吸気通路30には、インタークーラ/ウォーマ34をバイパスするインタークーラバイパス通路35が接続されており、このインタークーラバイパス通路35には、当該通路35を通過する空気流量を調整するためのインタークーラバイパス弁351が配設されている。このインタークーラバイパス弁351の開度調整を通じて、インタークーラバイパス通路35の通過流量とインタークーラ/ウォーマ34の通過流量との割合を調整することにより、気筒18に導入する新気の温度を調整することが可能となっている。
排気通路40の上流側の部分は、各気筒18毎に分岐して排気ポート17の外側端に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。この排気通路40における排気マニホールドよりも下流側には、燃焼室19から排出される排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置として、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42とがそれぞれ接続されている。直キャタリスト41及びアンダーフットキャタリスト42はそれぞれ、筒状ケースと、そのケース内の流路に配置した三元触媒とを備えて構成されている。
吸気通路30におけるサージタンク33とスロットル弁36との間の部分と、排気通路40における直キャタリスト41よりも上流側の部分とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するためのEGR通路50を介して接続されている。このEGR通路50は、排気ガスをエンジン冷却水によって冷却するためのEGRクーラ52が配設された主通路51と、EGRクーラ52をバイパスするためのEGRクーラバイパス通路53と、を含んで構成されている。主通路51には、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するためのEGR弁511が配設され、EGRクーラバイパス通路53には、EGRクーラバイパス通路53を流通する排気ガスの流量を調整するためのEGRクーラバイパス弁531が配設されている。
このように構成されたエンジン1は、パワートレイン・コントロール・モジュール(以下、PCMという)10によって制御される。PCM10は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。このPCM10が本発明で言うところの制御器を構成する。
PCM10には、図1及び図2に示すように、各種のセンサSW1〜SW16の検出信号が入力される。この各種のセンサには、次のセンサが含まれる。すなわち、エアクリーナ31の下流側で、新気の流量を検出するエアフローセンサSW1及び新気の温度を検出する吸気温度センサSW2、インタークーラ/ウォーマ34の下流側に配置され、インタークーラ/ウォーマ34を通過した後の新気の温度を検出する第2吸気温度センサSW3、EGR通路50における吸気通路30との接続部近傍に配置され、外部EGRガスの温度を検出するEGRガス温センサSW4、吸気ポート16に取り付けられ、気筒18内に流入する直前の吸気の温度を検出する吸気ポート温度センサSW5、シリンダヘッド12に取り付けられ、気筒18内の圧力を検出する筒内圧センサSW6、排気通路40におけるEGR通路50の接続部近傍に配置され、それぞれ排気温度及び排気圧力を検出する排気温センサSW7及び排気圧センサSW8、直キャタリスト41の上流側に配置され、排気中の酸素濃度を検出するリニアO2センサSW9、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42との間に配置され、排気中の酸素濃度を検出するラムダO2センサSW10、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW11、クランクシャフト15の回転角を検出するクランク角センサSW12、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW13、吸気側及び排気側のカム角センサSW14,SW15、及び、高圧燃料供給システム62のコモンレール64に取り付けられ、直噴インジェクタ67に供給する燃料圧力を検出する燃圧センサSW16である。
PCM10は、これらの検出信号に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定し、これに応じて直噴インジェクタ67、点火プラグ25、吸気弁21側のVVT72及びCVVL73、排気弁22側のVVL71、高圧燃料供給システム62、並びに、各種の弁(スロットル弁36、インタークーラバイパス弁351、EGR弁511、及びEGRクーラバイパス弁531)のアクチュエータへ制御信号を出力する。こうしてPCM10は、エンジン1を運転する。
(エンジン制御の概要)
上述の如く、本実施形態のエンジン1は、主に冷間時のHC及びCOを浄化するための直キャタリスト41及び主にNOxを浄化するためのアンダーフットキャタリスト42を備えているところ、これらに備えられている三元触媒は所定温度以上にならないと浄化機能を発揮することができないことから、エンジンの始動時には、触媒の床温を上昇させるために暖機運転を行うことが多い。しかし、エンジンを始動した後、停車したままアイドリング程度の回転数を維持し、エンジン各部が適度な温度に達するまで待つという暖機運転では、エンジンにほとんど負荷がかからないため発熱量も少なく、なかなか触媒が所定温度以上にならない。そこで、触媒床温を短時間で上昇させるために、空燃比をリッチ化することが考えられるが、空燃比をリッチ化すると、燃費が悪化する上、Raw HCが
増大することから好ましくない。このため、本実施形態では、Raw HCの増大を抑え
るべく、実質的に理論空燃比となるように、空燃比をλ=1±0.1の範囲内に設定している。
そうして、触媒床温を短時間で上昇させるべく、燃焼(点火)時期を大きく遅角(リタード)させることにより排気温度を急速上昇させて、三元触媒の活性化を促進するようにしている。もっとも、燃焼時期を大幅にリタードさせるべく、膨張行程においてピストン14が下がった状態で点火を行った場合、火炎が燃え広がる速度よりも、ピストン14が下降する速度の方が速いと、噴射された燃料が燃え切らず、エンジントルクの確保が困難になり、車両走行状態において触媒活性化を促進することが困難となる。そこで、本実施形態では、単に燃焼時期をリタードさせるだけではなく、燃料噴射圧力を30MPa以上の所定圧力に設定するようにしている。具体的に、この燃料噴射形態は、従来と比較して大幅に高圧化した燃料圧力でもって、圧縮行程から膨張行程初期までの期間内に、気筒18内に燃料噴射を実行するものであり、この特徴的な燃料噴射形態を、以下においては「高圧リタード噴射」又は単に「リタード噴射」と呼ぶ。
もっとも、本実施形態では、常に高圧リタード噴射を実行する訳ではなく、触媒の活性状態や車両の状態に応じて、以下に説明する、様々な燃料噴射形態を使い分けるようにしている。
先ず、図4(a)は、吸気行程噴射を行う場合の燃料噴射時期の一例と、それに伴う熱発生率の例示である。この燃料噴射形態は、吸気行程中に燃焼室19内に所定量の燃料噴射を実行することから、燃料噴射後、気筒18内ではピストン14が圧縮上死点に至るまでの間に、比較的均質な混合気が形成される。そして、この例では、圧縮上死点近傍の所定タイミングで点火が実行され、それによって燃焼が開始し、熱発生率のピークを経て燃焼が終了する。以下、この燃料噴射形態を「均一燃焼モード」と称する。均一燃焼モードは、理論空燃比による均質燃焼によって、高い燃焼効率とエンジントルクの確保を図ることができるが、触媒床温を上昇させるには不向きである。
次に、図4(b)は、触媒未活性時において高圧リタード噴射を行う場合の燃料噴射時期及び点火時期の一例と、それに伴う熱発生率の例示である。この燃料噴射形態は、触媒が未活性状態にあるエンジン低速域で実行されるものであり、触媒活性化を促進すべく、図4(b)に示すように、燃料噴射時期を均一燃焼モードよりも大きくリタードさせて、着火前の燃料噴射開始時期を圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内としている。そうして、圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内は、ピストン14が圧縮上死点付近に位置していることからが極めて狭くなっているところ、この燃料噴射形態では、かかる狭い領域(燃焼室19)において、燃料噴射開始から点火までの時間が3msec以内となるように、燃料噴射圧力を30MPa以上の所定圧力に設定して燃料を噴射する。これにより、燃焼室19内の空気に強い乱れが生じ、燃料の気化霧化が促進されるとともに、燃料噴射開始から点火までの時間が3msec以内と短いことから、燃焼室19内に生じた空気の強い乱れを点火直前まで残して、燃焼安定性が低下するのを抑えることができる。また、この燃料噴射形態では、圧縮上死点よりも所定クランク角後に燃焼を開始させる。こうすることにより、燃焼ガスによってピストン14がしっかりと押し下げられるので、エンジントルクを確保することが可能となる。
以上のように、この燃料噴射形態によれば、均一燃焼モードに比して、排気温度を高めて触媒活性化を促進することができるとともに、エンジン1を運転するのに必要なある程度のエンジン回転数(例えば1000rpm)を維持できる位のエンジントルクを確保することができる。以下、この燃料噴射形態を「触媒未活性モード」と称する。
次いで、図4(c)は、エンジン未暖機時において高圧リタード噴射を行う場合の燃料噴射時期及び点火時期の一例と、それに伴う熱発生率の例示である。この燃料噴射形態は、触媒未活性モードと同様に、触媒が未活性状態にあるエンジン低速域で実行されるものであるが、触媒未活性モードとは異なり、触媒温度の上昇過程で(触媒が活性化された後に)、エンジン温度が所定温度以下である未暖機時(半暖機状態)に実行されるものであり、図4(b)に示すように、燃料噴射時期を均一燃焼モードよりも大きくリタードさせているものの、エンジンの暖機に用いられる燃焼熱の割合を増やすべく、触媒未活性モードよりも着火前の燃料噴射開始時期を進角させて、圧縮行程内で噴射及び点火を行うようにしている。そうして、この燃料噴射形態では、触媒未活性モードと同様に、ピストン14が圧縮上死点付近に位置することで極めて狭くなった燃焼室19において、燃料噴射開始から点火までの時間が3msec以内となるように、燃料噴射圧力を30MPa以上の所定圧力に設定して燃料を噴射することから、燃焼室19内の空気に強い乱れが生じ、燃料の気化霧化が促進されるとともに、燃料噴射開始から点火までの時間が短いことから、燃焼室19内に生じた空気の強い乱れを点火直前まで残して、燃焼安定性が低下するのを抑えることができる。のみならず、この燃料噴射形態では、触媒未活性モードとは異なり、圧縮行程において上昇しているピストン14が圧縮上死点付近に位置しているときに、換言すると、気筒18内が高圧且つ高温に達したときに、噴射及び点火を行うことから、図4(c)に示すように、触媒未活性モードよりも熱発生率を高めることができる。
以上のように、この燃料噴射形態では、触媒未活性モードに比して燃焼時期を進角させて、別の見方をすれば、均一燃焼モードに比して燃焼時期をリタードさせて、圧縮行程内で噴射及び点火を行うことにより、燃焼室19を区画するシリンダ壁部等の昇温に用いられる燃焼熱の割合を増大させて、均一燃焼モードよりもエンジンの暖機を促進することができる。また、燃焼熱を積極的にシリンダ壁部等の昇温に用いることから、燃焼温度が下がるので、均一燃焼モードよりもRaw HCの排出量を少なくできる。以下、この燃料
噴射形態を「エンジン未暖機モード」と称する。
ところで、触媒が未活性状態である場合に、エンジンを始動する際には、触媒が活性化されるまでに所定時間(例えば20秒程度)を要するが、運転者の中には所定時間を待たずに走行を開始する運転者もいるところ、このような場合にはエンジントルクが不足するおそれがある。そこで、このような場合には、エンジントルクを高めるような燃料噴射形態を採ることが必要となる。
図4(d)は、触媒未活性時において吸気行程噴射と高圧リタード噴射との分割噴射を行う場合の燃料噴射時期及び点火時期の一例と、それに伴う熱発生率の例示である。この燃料噴射形態は、触媒未活性モードと同様に、触媒が未活性状態にあるエンジン低速域で実行されるものであるが、触媒未活性モードとは異なり、アクセル踏込時には分割噴射を行う。より詳しくは、後段噴射(前段噴射の残り)は、触媒未活性モードと同様に、着火前の燃料噴射開始時期を圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内とし、燃料噴射開始から点火までの時間が3msec以内となるように、燃料噴射圧力を30MPa以上の所定圧力に設定して燃料を噴射するとともに、圧縮上死点よりも所定クランク角後に燃焼を開始させるが、前段噴射は、図4(d)に示すように、吸気行程期間内に行うようにしている。なお、前段噴射の噴射時期は吸気行程期間内に限定されないし、3段以上の多段分割噴射としてもよい。このように、エンジントルクが要求される場合に分割噴射を行うことにより、燃料の気化時間を十分にとることができ、かかる十分に燃料が気化された混合気に対して、高圧リタード噴射による後段噴射を行うことにより、燃料の気化霧化がより一層促進されて燃焼安定性がよくなり、触媒活性化を促進しつつ走行に必要なエンジントルクを確保することが可能となる。以下、この燃料噴射形態を「第1分割噴射モード」と称する。
なお、第1分割噴射モードでは、所定時間を待たずに走行を開始することを想定しているが、空燃比を実質的にλ≒1とすることから、Raw HC、COの排出量を少なくで
きるとともに、高圧リタード噴射を行うことにより、触媒が部分的に活性し始め、HC浄化率が急速に上昇し始める状態までの期間は相当短縮されることから、所定時間を待たずに走行を始めても、排気ガスを浄化することは可能である。
図4(e)は、エンジン未暖機時において吸気行程噴射と高圧リタード噴射との分割噴射を行う場合の燃料噴射時期及び点火時期の一例と、それに伴う熱発生率の例示である。この燃料噴射形態は、エンジン未暖機モードと同様に、エンジン温度が所定温度以下である未暖機時に実行されるものであるが、エンジン未暖機モードとは異なり、アクセル踏込時には分割噴射を行う。より詳しくは、後段噴射(前段噴射の残り)は、エンジン未暖機モードと同様に、燃料噴射開始から点火までの時間が3msec以内となるように、燃料噴射圧力を30MPa以上の所定圧力に設定して燃料を噴射するとともに、着火前の燃料噴射開始時期を進角させて、圧縮行程内で噴射及び点火を行うが、前段噴射は、図4(e)に示すように、吸気行程期間内に行うようにしている。なお、前段噴射の噴射時期は吸気行程期間内に限定されないし、3段以上の多段分割噴射としてもよい。このように、エンジントルクが要求される場合に分割噴射を行うことにより、燃料の気化時間を十分にとることができ、かかる十分に燃料が気化された混合気に対して、高圧リタード噴射による後段噴射を行うことにより、燃料の気化霧化がより一層促進されて燃焼安定性がよくなり、エンジンの暖機を促進しつつ走行に必要なエンジントルクを確保することが可能となる。以下、この燃料噴射形態を「第2分割噴射モード」と称する。
高圧リタード噴射についての詳細な説明は後述するが、触媒未活性モード等において高圧リタード噴射を行った場合の効果について説明する。図5(a)は、着火前の燃料噴射開始時期を圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内とした場合の熱発生率を示す概略図であり、同図(b)は、各サイクルにおける圧力と体積の関係を示す概略図である。図5(a)中の実線は、高圧リタード噴射を行った場合の熱発生率であり、図5(b)中の実線は、高圧リタード噴射を行った場合の圧力−体積線図である。一方、図5(a)中の破線は、従来の吸気行程噴射を行った場合の熱発生率であり、図5(b)中の破線は、従来の吸気行程噴射を行った場合の圧力−体積線図である。なお、触媒活性およびエンジンの暖機のための高圧リタード噴射は、主としてエンジンの低速域において且つ空燃比がλ=1±0.1の範囲内で実行されることに鑑み、図5の圧力−体積線図は、比較的低回転速度(図示の例では1500rpm)で、且つ空気過剰率λ=1のものを示す。また、高圧リタード噴射を行った場合の圧縮比は18とし、従来の吸気行程噴射を行った場合の圧縮比は14とした。
従来の吸気行程噴射を行った場合には、図5(a)に示すように、燃焼期間(点火によって開始された燃焼が終了するまでの期間)が長く、熱発生率の低い燃焼となったことから、図5(b)に示すように、圧縮上死点付近(TDC)で燃焼を開始し、なだらかに圧力が上昇しながら膨張した後、圧力が減少しながら膨張して膨張下死点(BDC)に至った。それ故、実線の場合において、仮に高圧リタード噴射を行わず単に燃焼噴射時期を遅角させた場合には、燃焼開始が遅れる分だけ圧縮上死点(TDC)から急激に圧力が下がった後、燃焼を開始し、図5(b)中の二点鎖線のようになだらかに圧力が上昇しながら膨張することが推測される。
しかしながら、高圧リタード噴射を行った場合には、図5(a)に示すように、燃焼期間が短く、熱発生率の高い燃焼を実現できることから、図5(b)に示すように、燃焼開始が遅れる分だけ圧縮上死点(TDC)から急激に圧力が下がった後、燃焼を開始し、良好な圧力上昇を伴いながら膨張し、それ故に、図5(b)の斜線を付した面積の分だけ仕事量が増大した。これらにより、触媒未活性モード等において高圧リタード噴射を行った場合には、触媒活性化を促進しつつ走行に必要なエンジントルクを確保することが可能となることが分かる。
次に、図6を参照しながら、高圧リタード噴射について説明する。図6は、前述した高圧リタード噴射によるSI燃焼(実線)と、吸気行程中に燃料噴射を実行する従来のSI燃焼(破線)とにおける、熱発生率(上図)及び未燃混合気反応進行度(下図)の違いを比較する図である。図6の横軸はクランク角である。この比較の前提として、噴射する燃料量は、高圧リタード噴射によるSI燃焼と従来のSI燃焼との場合で互いに同じである。
先ず、従来のSI燃焼では、吸気行程中に気筒18内に所定量の燃料噴射を実行する(上図の破線)。気筒18内では、その燃料の噴射後、ピストン14が圧縮上死点に至るまでの間に、比較的均質な混合気が形成される。そして、この例では、圧縮上死点以降の、白丸で示す所定タイミングで点火が実行され、それによって燃焼が開始する。燃焼の開始後は、図6の上図に破線で示すように、熱発生率のピークを経て燃焼が終了する。燃料噴射の開始から燃焼の終了までの間が未燃混合気の反応可能時間(以下、単に反応可能時間ともいう)に相当し、図6の下図に破線で示すように、この間に未燃混合気の反応は次第に進行する。同図における点線は、未燃混合気が着火に至る反応度である、着火しきい値を示しており、従来のSI燃焼は、低速域であることと相俟って、反応可能時間が非常に長く、その間、未燃混合気の反応が進行し続けてしまうことから、点火の前後に未燃混合気の反応度が着火しきい値を超えてしまい、過早着火又はノッキングといった異常燃焼を引き起こす。
これに対し、高圧リタード噴射は反応可能時間の短縮を図り、そのことによって異常燃焼を回避することを目的とする。すなわち、反応可能時間は、図6にも示しているように、直噴インジェクタ67が燃料を噴射する期間((1)噴射期間)と、噴射終了後、点火プラグ25の周りに可燃混合気が形成されるまでの期間((2)混合気形成期間)と、点火によって開始された燃焼が終了するまでの期間((3)燃焼期間)と、を足し合わせた時間、つまり、(1)+(2)+(3)である。高圧リタード噴射は、噴射期間、混合気形成期間及び燃焼期間をそれぞれ短縮し、それによって、反応可能時間を短くする。このことについて、順に説明する。
先ず、高い燃料圧力は、単位時間当たりに直噴インジェクタ67から噴射される燃料量を相対的に多くする。このため、燃料噴射量を一定とした場合に、燃料圧力と燃料の噴射期間との関係は概ね、燃料圧力が低いほど噴射期間は長くなり、燃料圧力が高いほど噴射期間は短くなる。従って、燃料圧力が従来に比べて大幅に高く設定された高圧リタード噴射は、噴射期間を短縮する。
また、高い燃料圧力は、気筒18内に噴射する燃料噴霧の微粒化に有利になると共に、燃料噴霧の飛翔距離を、より長くする。このため、燃料圧力と燃料蒸発時間との関係は概ね、燃料圧力が低いほど燃料蒸発時間は長くなり、燃料圧力が高いほど燃料蒸発時間は短くなる。また、燃料圧力と点火プラグ25の周りに燃料噴霧が到達するまでの時間は概ね、燃料圧力が低いほど到達までの時間は長くなり、燃料圧力が高いほど到達までの時間は短くなる。混合気形成期間は、燃料蒸発時間と、点火プラグ25の周りへの燃料噴霧到達時間とを足し合わせた時間であるから、燃料圧力が高いほど混合気形成期間は短くなる。従って、燃料圧力が従来に比べて大幅に高く設定された高圧リタード噴射は、燃料蒸発時間及び点火プラグ25の周りへの燃料噴霧到達時間がそれぞれ短くなる結果、混合気形成期間を短縮する。これに対し、同図に白丸で示すように、従来の、低い燃料圧力での吸気行程噴射は、混合気形成期間が大幅に長くなる。なお、多噴口型の直噴インジェクタ67とキャビティ141との組み合わせは、燃料の噴射後、点火プラグ25の周りに燃料噴霧が到達するまでの時間を短くする結果、混合気形成期間の短縮に有効である。
このように、噴射期間及び混合気形成期間を短縮することは、燃料の噴射タイミング、より正確には、噴射開始タイミングを、比較的遅いタイミングにすることを可能にする。そこで、高圧リタード噴射では、図6の上図に示すように、圧縮行程後期から膨張行程初期にかけてのリタード期間内に燃料噴射を行う。高い燃料圧力で気筒18内に燃料を噴射することに伴い、その気筒18内の乱れが強くなり、気筒18内の乱れエネルギが高まるところ、この高い乱れエネルギは、燃料噴射のタイミングが比較的遅いタイミングに設定されることと相俟って、燃焼期間の短縮に有利になる。
すなわち、燃料噴射をリタード期間内に行った場合、燃料圧力と燃焼期間内での乱流エネルギとの関係は概ね、燃料圧力が低いほど乱流エネルギが低くなり、燃料圧力が高いほど乱流エネルギは高くなる。ここで、仮に高い燃料圧力で燃焼室19内に燃料を噴射するとしても、その噴射タイミングが吸気行程中にある場合は、点火タイミングまでの時間が長いことや、吸気行程後の圧縮行程において気筒18内が圧縮されることに起因して、気筒18内の乱れは減衰してしまう。その結果、吸気行程中に燃料噴射を行った場合、燃焼期間内での乱流エネルギは、燃料圧力の高低に拘わらず比較的低くなってしまう。
燃焼期間での乱流エネルギと燃焼期間との関係は概ね、乱流エネルギが低いほど燃焼期間が長くなり、乱流エネルギが高いほど燃焼期間が短くなる。従って、燃料圧力と燃焼期間との関係は、燃料圧力が低いほど燃焼期間は長くなり、燃料圧力が高いほど燃焼期間は短くなる。すなわち、高圧リタード噴射は、燃焼期間を短縮する。これに対し、従来の、低い燃料圧力での吸気行程噴射は、燃焼期間が長くなる。なお、多噴口型の直噴インジェクタ67は、気筒18内の乱れエネルギの向上に有利であって、燃焼期間の短縮に有効であるとともに、その多噴口型の直噴インジェクタ67とキャビティ141との組み合わせによって、燃料噴霧をキャビティ141内に収めることもまた、燃焼期間の短縮に有効である。
このように高圧リタード噴射は、噴射期間、混合気形成期間、及び、燃焼期間をそれぞれ短縮し、その結果、図6に示すように、燃料の噴射開始タイミングSOIから燃焼終了時期θendまでの、未燃混合気の反応可能時間を、従来の吸気行程中での燃料噴射の場合と比較して大幅に短くすることを可能にする。この反応可能時間を短縮する結果、図6の上段に示す図のように、従来の低い燃料圧力での吸気行程噴射では、白丸で示すように、燃焼終了時における未燃混合気の反応進行度が、着火しきい値を超えてしまい、異常燃焼が発生してしまうのに対し、高圧リタード噴射は、黒丸で示すように、燃焼終了時における未燃混合気の反応の進行を抑制し、異常燃焼を回避することが可能になる。なお、図6の上図における白丸と黒丸とで、点火タイミングは互いに同じタイミングに設定している。
燃料圧力は、例えば30MPa以上に設定することによって、燃焼期間を効果的に短縮化することが可能である。また、30MPa以上の燃料圧力は、噴射期間及び混合気形成期間も、それぞれ有効に短縮化することが可能である。なお、燃料圧力は、ガソリンを主成分とする、使用燃料の性状に応じて適宜設定するのが好ましい。その上限値は、一例として、120MPaとしてもよい。
高圧リタード噴射は、気筒18内への燃料噴射の形態を工夫することによって異常燃焼の発生を回避する。これとは異なり、異常燃焼の回避を目的として点火タイミングを遅角することが、従来から知られている。点火タイミングの遅角化は、未燃混合気の温度及び圧力の上昇を抑制することによって、その反応の進行を抑制する。しかしながら、点火タイミングの遅角化は熱効率及びトルクの低下を招くのに対し、高圧リタード噴射を行う場合は、燃料噴射の形態の工夫によって異常燃焼を回避する分、点火タイミングを進角させることが可能であるから、熱効率及びトルクが向上する。つまり、高圧リタード噴射は、異常燃焼を回避するだけでなく、その回避可能な分だけ、点火タイミングを進角することを可能にして、燃費を良くするのに有利になる。
(具体的な制御手順)
次に、エンジン制御の具体的な手順を図7に示すフローチャートに基づいて説明する。
先ず、フローのスタート後のステップS1では、排気温センサSW7、リニアO2センサSW9、ラムダO2センサSW10、アクセル開度センサSW13、水温センサSW11等の各種センサからの信号がPCM10に入力される。そうして、PCM10は、排気温センサSW7から入力された信号に基づき、演算等により触媒の温度を求める。なお、各種センサからの信号は、これ以降のステップにおいても随時PCM10に入力される。
次のステップS2では、PCM10が、算出した触媒の温度(またはラムダO2センサSW10により検出された排気中の酸素濃度)に基づき、触媒が未活性状態であるか否かを判定する。このステップS2の判定がNOの場合、すなわち、触媒が活性状態にある場合には、ステップS10に進んで均一燃焼モード制御を行い、換言すると、PCM10が、吸気行程噴射を行うように直噴インジェクタ67を駆動し且つ点火プラグ25を用いて点火を行った後、リターンする。一方、ステップS2の判定がYESの場合には、ステップS3に進む。
次いで、ステップS3では、運転者が、触媒が活性化されるまでに必要な所定時間を待たずに走行を開始しようとしているか否か、具体的には、アクセルが踏み込まれたか否かを、アクセル開度センサSW13から入力された信号に基づいてPCM10が判定する。このステップS3の判定がNOの場合、すなわち、運転者が所定時間を待たずに走行を開始しようとしている場合には、ステップS11に進む。一方、ステップS3の判定がYESの場合には、ステップS4に進む。
次のステップS4では、PCM10が直噴インジェクタ67、点火プラグ25及び高圧燃料供給システム62を駆動して触媒未活性モード制御を行う。具体的には、燃焼室19内の空気に強い乱れを生じさせるべく、PCM10が、高圧燃料供給システム62を用いて、燃料噴射開始から点火までの時間が3msec以内となるように、直噴インジェクタ67の燃料噴射圧力を30MPa以上の所定圧力に設定する。そうして、上記図4(b)に示すように、PCM10が、着火前の燃料噴射開始時期が、圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内となるように直噴インジェクタ67を駆動させるとともに、圧縮上死点よりも所定クランク角後に燃焼を開始するように点火プラグ25を駆動させ、その後ステップS5に進む。
次のステップS5では、PCM10が、排気温度から算出した触媒の温度(またはラムダO2センサSW10により検出された排気中の酸素濃度)に基づき、触媒が活性化したか否かを判定する。このステップS5の判定がNOの場合、すなわち、触媒が未だ未活性である場合には、ステップS3に戻り、(前回の)触媒未活性モード制御が実行された後にアクセルが踏み込まれたか否かを再度判定した後、触媒の活性化を図るべく、触媒未活性モード制御を継続して行う。一方、ステップS5の判定がYESの場合、すなわち、触媒が活性化された場合には、ステップS6に進む。
次のステップS6では、PCM10が、水温センサSW11によって検出されたエンジン冷却水の温度に基づき、エンジンが未暖機状態であるか否か、より詳しくは、エンジン温度が所定温度以下である半暖機状態であるか否かを判定する。このステップS6の判定がNOの場合、すなわち、エンジンの暖機が完了している場合には、ステップS10に進んで均一燃焼モード制御を行った後、リターンする。一方、ステップS6の判定がYESの場合、すなわち、エンジンが半暖機状態である場合には、ステップS7に進む。
次いで、ステップS7では、運転者がエンジンの暖機完了を待たずに走行を開始しようとしているか否か、具体的には、アクセルが踏み込まれたか否かを、アクセル開度センサSW13から入力された信号に基づいてPCM10が判定する。このステップS7の判定がNOの場合、すなわち、運転者が暖機完了を待たずに走行を開始しようとしている場合には、ステップS14に進む。一方、ステップS7の判定がYESの場合には、ステップS8に進む。
次のステップS8では、PCM10が直噴インジェクタ67、点火プラグ25及び高圧燃料供給システム62を駆動してエンジン未暖機モード制御を行う。具体的には、触媒未活性モード制御と同様に、PCM10が、高圧燃料供給システム62を用いて、燃料噴射開始から点火までの時間が3msec以内となるように、直噴インジェクタ67の燃料噴射圧力を30MPa以上の所定圧力に設定する。そうして、排気温度の上昇に用いていた燃焼熱を、燃焼室19内でシリンダに対して放熱すべく、PCM10が、上記図4(c)に示すように、着火前の燃料噴射開始時期をエンジン未暖機モード制御よりも進角させて、圧縮行程内で噴射及び点火を行うように直噴インジェクタ67及び点火プラグ25を駆動させ、その後ステップS9に進む。
次のステップS9では、PCM10が、エンジン水温に基づき、エンジンの暖機が完了したか否かを判定する。このステップS9の判定がNOの場合、すなわち、未だ未暖機状態である場合には、ステップS7に戻り、(前回の)エンジン未暖機モード制御が実行された後にアクセルが踏み込まれたか否かを再度判定した後、エンジンの暖機を図るべく、エンジン未暖機モードを継続して行う。一方、ステップS9の判定がYESの場合、すなわち、暖機が完了した場合には、ステップS10に進み、均一燃焼モード制御を行った後、リターンする。
これらに対し、上述の如く、ステップS3の判定がNOの場合、すなわち、運転者が所定時間を待たずに走行を開始しようとしている場合には、ステップS11に進む。このステップS11では、PCM10が、直噴インジェクタ67、点火プラグ25及び高圧燃料供給システム62を駆動して第1分割噴射モード制御を行う。具体的には、後段噴射については触媒未活性モード制御と同様の制御を行うが、前段噴射については、PCM10が、燃料噴射開始時期が吸気行程期間内となるように直噴インジェクタ67を駆動させて、走行に必要なエンジントルクを確保し、その後、ステップS12に進む。
次のステップS12では、PCM10が、排気温度から算出した触媒の温度(またはラムダO2センサSW10により検出された排気中の酸素濃度)に基づき、触媒が活性化したか否かを判定する。このステップS12の判定がNOの場合には、ステップS11に戻り、第1分割噴射モード制御を継続して行う。一方、ステップS12の判定がYESの場合、すなわち、触媒が活性化された場合には、ステップS13に進む。
次のステップS13では、PCM10が、水温センサSW11によって検出されたエンジン冷却水の温度に基づき、エンジンが未暖機状態であるか否かを判定する。このステップS6の判定がNOの場合、すなわち、エンジンの暖機が完了している場合には、ステップS10に進んで均一燃焼モード制御を行った後、リターンする。一方、ステップS6の判定がYESの場合、及び、上述の如くステップS7の判定がNOの場合には、共にステップS14に進む。
次いで、ステップS14では、PCM10が、直噴インジェクタ67、点火プラグ25及び高圧燃料供給システム62を駆動して第2分割噴射モード制御を行う。具体的には、後段噴射についてはエンジン未暖機モード制御と同様の制御を行うが、前段噴射については、PCM10が、燃料噴射開始時期が吸気行程期間内となるように直噴インジェクタ67を駆動させて、走行に必要なエンジントルクを確保し、その後、ステップS15に進む。
次のステップS15では、PCM10が、エンジン水温に基づき、エンジンの暖機が完了したか否かを判定する。このステップS15の判定がNOの場合、すなわち、未だ未暖機状態である場合には、ステップS14に戻りエンジン未暖機モードを継続して行う。一方、ステップS15の判定がYESの場合、すなわち、暖機が完了した場合には、ステップS10に進み、均一燃焼モード制御を行った後、リターンする。
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。すなわち、前述したエンジン構成への適用に限定されるものではない。例えば、吸気行程期間内における燃料噴射は、気筒18内に設けた直噴インジェクタ67ではなく、別途、吸気ポート16に設けたポートインジェクタを通じて、吸気ポート16内に燃料を噴射してもよい。
また、エンジン1は、直列4気筒エンジンに限らず、直列3気筒、直列2気筒、直列6気筒エンジン等に適用してもよい。また、V型6気筒、V型8気筒、水平対向4気筒等の各種のエンジンに適用可能である。
さらに、高圧リタード噴射は、必要に応じて分割噴射にしてもよく、同様に、吸気行程噴射もまた、必要に応じて分割噴射にしてもよい。これらの分割噴射では、吸気行程と圧縮行程とのそれぞれにおいて燃料を噴射してもよい。
また、上記実施形態では、排気温センサSW7により検出された排気ガス温度に基づき演算等により触媒の温度を求めるようにしたが、これに限らず、触媒温度センサを直キャタリスト41に設け、かかる触媒温度センサにより触媒の温度を直接的に検出するようにしてもよい。また、エンジン1の運転状態(回転速度及び負荷)や外気温等に基づいて、演算のみによって触媒の温度を求めてもよい。
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。