JP5920904B2 - 新規抗がん剤およびそのスクリーニング方法 - Google Patents
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Description
本発明の第二の目的は、選択されたがん治療ターゲットとなり得るタンパク質を用いた、抗がん剤のスクリーニング方法を提供することである。
本発明の第三の目的は、選択されたがん治療ターゲットとなり得るタンパク質の発現もしくは機能を阻害し得る物質、並びに上記スクリーニング方法により選択された物質を有効成分とする抗がん剤を提供することである。
本発明の第四の目的は、選択されたがん治療ターゲットとなり得るタンパク質あるいはそれをコードする遺伝子の発現量を指標とする、がんの診断方法およびそのための診断剤を提供することである。
(1)哺乳動物由来の試験タンパク質をコードする核酸を導入した、細胞周期チェックポイント因子を欠損する変異酵母および対応する野生型酵母を培養し、変異酵母の増殖を阻害するが野生型酵母の増殖を阻害しない試験タンパク質を、がん治療標的タンパク質の候補として選択することを特徴とする、がん治療標的タンパク質のスクリーニング方法。
(2)細胞周期チェックポイント因子が紡錘体集合チェックポイント因子である、上記(1)記載の方法。
(3)紡錘体集合チェックポイント因子がMad2である、上記(2)記載の方法。
(4)試験タンパク質ががん細胞の増殖に関与するものである、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)哺乳動物がヒトである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)選択されたタンパク質を発現するがん細胞において該タンパク質の発現もしくは機能を阻害し、がん細胞の増殖が抑制されることを確認することをさらに含む、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法により得られたがん治療標的タンパク質をコードする核酸を導入した、細胞周期チェックポイント因子を欠損する変異酵母を、被験物質の存在下で培養し、該変異酵母の増殖を回復させた被験物質を、抗がん作用を有する物質の候補として選択することを特徴とする、抗がん作用を有する物質のスクリーニング方法。
(8)選択された物質を、該タンパク質を発現するがん細胞に接触させ、がん細胞の増殖が抑制されることを確認することをさらに含む、上記(7)記載の方法。
(9)該タンパク質がdynAPである、上記(7)または(8)記載の方法。
(10)dynAPとdynactin複合体を構成するタンパク質とを被験物質の存在下で接触させ、両タンパク質の結合を阻害した被験物質を、抗がん作用を有する物質の候補として選択することを特徴とする、抗がん作用を有する物質のスクリーニング方法。
(11)dynAPとdynactin複合体を構成するタンパク質とを発現する細胞を被験物質と接触させ、両タンパク質の結合をレポーター遺伝子の発現により測定し、該結合を阻害した被験物質を、抗がん作用を有する物質の候補として選択することを特徴とする、抗がん作用を有する物質のスクリーニング方法。
(12)dynactin複合体を構成するタンパク質がp150Gluedまたはdynamitinである、上記(10)または(11)記載の方法。
(13)dynAPとp150Gluedとを発現する細胞を被験物質と接触させ、p150Gluedのリン酸化を促進した被験物質を、抗がん作用を有する物質の候補として選択することを特徴とする、抗がん作用を有する物質のスクリーニング方法。
(14)dynAPを発現する細胞を被験物質と接触させ、以下の(a)〜(h)のいずれかの作用を示した被験物質を、抗がん作用を有する物質の候補として選択することを特徴とする、抗がん作用を有する物質のスクリーニング方法。
(a)散在したゴルジ装置を含む細胞数を増加させる
(b)Aktの発現および/またはリン酸化を阻害する
(c)GSK3βのリン酸化を阻害する
(d)β-カテニンの発現を阻害する
(e)サイクリンD1、c-MycおよびE-カドヘリンから選択される1以上の遺伝子の発現を阻害する
(f)p53および/またはp21のタンパク質レベルを上昇させる
(g)Mst1、カスパーゼ-8およびPARPから選択される1以上のタンパク質の切断を亢進させる
(h)血清刺激に対する細胞応答を減弱させる
(15)dynAPを発現する細胞がサイクリンD1遺伝子プロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子を含むものである、上記(14)記載の方法。
(16)以下の(a)〜(c)から選択されるdynAPの発現を阻害する物質を含有してなる、dynAPを発現するがんの治療または予防剤。
(a)dynAPをコードするRNAに対するアンチセンス核酸
(b)dynAPをコードするRNAに対するリボザイム核酸
(c)dynAPをコードするRNAに対してRNAi活性を有する核酸もしくはその前駆体
(17)以下の(a)および(b)から選択されるdynAPの機能を阻害する物質を含有してなる、dynAPを発現するがんの治療または予防剤。
(a)dynAPに対する中和抗体
(b)dynAPとdynactin複合体を構成するタンパク質との結合を阻害する化合物
(18)dynactin複合体を構成するタンパク質がp150Gluedまたはdynamitinである、上記(17)記載の剤。
(19)dynAPとdynactin複合体を構成するタンパク質との結合を阻害する化合物が、下記式(I)で表わされる、上記(17)記載の剤。
実線と破線は単結合もしくは二重結合を表す。)
(20)dynAPとdynactin複合体を構成するタンパク質との結合を阻害する化合物が、下記式(II)で表される、上記(18)記載の剤。
(21)下記式(III)で表される化合物。
(23)上記(22)記載の診断剤と組み合わせて使用される、上記(16)〜(20)のいずれかに記載の剤。
本発明は、変異酵母を利用したがん治療標的タンパク質の新規スクリーニング方法を提供する。がん細胞の増殖促進に関連するタンパク質が酵母の増殖を抑制することを利用して、酵母の増殖回復をモニタリングして該タンパク質の阻害剤を選択することによる抗がん剤のスクリーニング方法はいくつか報告されているが、それらのスクリーニング系には、これまで専ら野生型の酵母細胞が利用されていた。本発明者らは、細胞周期チェックポイント因子を欠損する変異酵母を用いて同様のスクリーニングを実施し、変異酵母の増殖を阻害するが野生型酵母の増殖を阻害しないタンパク質を選択することに成功した。従って、本スクリーニング方法は、従来の野生型酵母を用いたスクリーニング系では選択し得なかった新規ながん治療ターゲットを提供し得るものである。
これらの変異酵母は、例えば、対応する野生型酵母の標的遺伝子を、薬剤耐性遺伝子や栄養要求性を相補する遺伝子を用いた相同組換えにより破壊することにより調製することができる。Mad2欠損変異酵母については、サッカロミセス・ゲノム欠失プロジェクト(www-sequence.stanford.edu/group/yeast_deletion_project/project_desc.html)により野生型サッカロミセス・セレビシエBY4742株から調製された変異酵母を入手して用いることができる。
試験タンパク質をコードするDNAは、酵母細胞で機能的な発現ベクターに挿入される。発現ベクターとしては、例えば、酵母由来プラスミド(例、pSH19,pSH15)などが用いられる。プロモーターとしては、例えば、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどを用いることができる。
発現ベクターとしては、上記の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製オリジン(以下、SV40oriと略称する場合がある)などを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、アンピシリン耐性遺伝子(以下、Amprと略称する場合がある)、ネオマイシン耐性遺伝子(以下、Neorと略称する場合がある、G418耐性)等が挙げられる。
形質転換体の培養は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。培養に使用される培地としては液体培地が好ましく、形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機物などを含有することが好ましい。ここで、炭素源としては、例えば、グルコース、デキストリン、可溶性澱粉、ショ糖などが;窒素源としては、例えば、アンモニウム塩類、硝酸塩類、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などの無機または有機物質が;無機物としては、例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウムなどがそれぞれ挙げられる。また、培地には、酵母エキス、ビタミン類、生長促進因子などを添加してもよい。好適な培地としては、例えば、バークホールダー(Burkholder)最小培地〔Bostian, K. L. ら、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),77巻,4505(1980)〕や0.5%カザミノ酸を含有するSD培地〔Bitter, G. A. ら、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),81巻,5330(1984)〕などが挙げられる。培地のpHは、好ましくは約5〜8である。培養は、通常約20℃〜35℃で、約24〜72時間行なわれる。必要に応じて、通気や撹拌を行ってもよい。
本発明はまた、上記の方法により得られたがん治療標的タンパク質をコードする核酸を導入した、細胞周期チェックポイント因子を欠損する変異酵母を用いた、抗がん作用を有する物質のスクリーニング方法を提供する。
本スクリーニング方法は、当該酵母を被験物質の存在下で培養し、該変異酵母の増殖を回復させた被験物質を、抗がん作用を有する物質の候補として選択することを特徴とする。変異酵母の培養は上記と同様に行うことができる。
即ち、好ましい実施態様において、dynAPをコードする核酸を導入した、細胞周期チェックポイント因子、好ましくは紡錘体集合チェックポイント因子、特に好ましくはMad2を欠損する変異酵母を、被験物質の存在下で培養し、該変異酵母の増殖を回復させた被験物質を、抗がん作用を有する物質の候補として選択することを特徴とする、抗がん作用を有する物質のスクリーニング方法が提供される。
dynAPはdynactin複合体を構成するタンパク質と相互することによりその生理学的作用を発揮していると考えられることから、当該相互作用を阻害する物質は、dynAPを発現するがんに対して抗がん作用を示すはずである。従って、本発明はまた、dynAPとdynactin複合体を構成するタンパク質とを被験物質の存在下で接触させ、両タンパク質の結合を阻害した被験物質を、抗がん作用を有する物質の候補として選択することを特徴とする、抗がん作用を有する物質のスクリーニング方法を提供する。
dynactin複合体を構成するタンパク質としては、例えば、p150Glued、dynamitin(p50)、p24、p62などが挙げられるが、好ましくはp150Gluedまたはdynamitinである。p150Gluedやdynamitinも実施例に示されるdynAPを発現するがん細胞(例えば、ACHN細胞など)から、自体公知のタンパク質分離精製技術により単離することができる。あるいは、例えば、ヒトp150GluedをコードするcDNA(Refseq No. NM_004082.3)、ヒトdynamitinをコードするcDNA(Refseq No. NM_006400.3)を含む発現ベクターを適当な宿主に導入し、得られる形質転換体を培養し、当該タンパク質を回収することによっても調製することができる。
結合量の測定は、例えば、標識した抗dynAP抗体およびdynactin複合体を構成するタンパク質に対する抗体を用いたイムノブロット解析、dynAPまたはdynactin複合体を構成するタンパク質のいずれかを標識(例えば、〔3H〕、〔125I〕、〔14C〕、〔35S〕などで)しての結合アッセイやゲルシフトアッセイ、あるいは表面プラズモン共鳴(SPR)などにより行うことができる。
上記のスクリーニング方法において、dynAPとdynactin複合体を構成するタンパク質との結合を阻害した被験物質を、抗がん作用を有する物質の候補として選択することができる。
本実施態様においては、dynAPをコードするcDNA、あるいはdynactin複合体を構成するタンパク質をコードするcDNAの一方を、GAL4等の転写因子のDNA結合ドメイン(BD)との融合蛋白質として発現するように含む発現ベクターと、他方のcDNAを、VP16等の転写因子の転写活性化ドメイン(AD)との融合蛋白質として発現するように含む発現ベクターとを宿主細胞に導入し、得られる形質転換体を被験物質の存在下及び非存在下に培養して、得られる培養物におけるレポーター遺伝子の発現量を測定・比較する。当該宿主細胞は、BDが認識・結合し得るシスエレメント(BD応答エレメント)をプロモーター領域に含むレポーター遺伝子を担持するものである。細胞内で発現したBD融合蛋白質はBD応答エレメントに結合するが、dynAPとdynactin複合体を構成するタンパク質とが相互作用すれば、BD応答エレメント上にBDとADのhybridが形成され、その下流に位置するレポーター遺伝子の転写が活性化される。
したがって、被験物質の存在下において、非存在下に比べて当該レポーター遺伝子の転写活性が有意に抑制されれば、被験物質を抗がん作用を有する物質の候補として選択することができる。
宿主細胞としては、ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター等の細胞、就中ヒト由来細胞であることが好ましい。具体的には、COP、L、C127、Sp2/0、NS-1、NIH3T3、ST2等のマウス由来細胞、ラット由来細胞、BHK、CHO等のハムスター由来細胞、COS1、COS3、COS7、CV1、Vero等のサル由来細胞、およびHeLa、293T等のヒト由来細胞などの宿主哺乳動物細胞が例示される。形質転換は、リン酸カルシウム共沈殿法、PEG法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポフェクション法などにより行うことができる。例えば、細胞工学別冊8 新細胞工学実験プロトコール,263-267 (1995)(秀潤社発行)、ヴィロロジー(Virology),52巻,456 (1973)に記載の方法を用いることができる。形質転換細胞は、例えば、約5〜20%の胎仔牛血清を含む最小必須培地(MEM)〔Science,122巻,501(1952)〕,ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)〔Virology,8巻,396(1959)〕,RPMI 1640培地〔The Journal of the American Medical Association,199巻,519(1967)〕,199培地〔Proceeding of the Society for the Biological Medicine,73巻,1(1950)〕などの培地中で培養することができる。培地のpHは約6〜8であるのが好ましい。培養は通常約30〜40℃で行ない、必要に応じて通気や撹拌を加える。
また、宿主細胞として酵母を用いた酵母Two-Hybrid Systemを用いることもできる。
(a)散在したゴルジ装置を含む細胞数を増加させる
(b)Aktの発現および/またはリン酸化を阻害する
(c)GSK3βのリン酸化を阻害する
(d)β-カテニンの発現を阻害する
(e)サイクリンD1、c-MycおよびE-カドヘリンから選択される1以上の遺伝子の発現を阻害する
(f)p53および/またはp21のタンパク質レベルを上昇させる
(g)Mst1、カスパーゼ-8およびPARPから選択される1以上のタンパク質の切断を亢進させる
(h)血清刺激に対する細胞応答を減弱させる
本発明はまた、dynAPの発現を阻害する物質を含有してなる、dynAPを発現するがんの治療または予防剤を提供する。
dynAP mRNAからタンパク質への翻訳を特異的に阻害する(あるいはmRNAを分解する)物質として、好ましくは、該mRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸が挙げられる。mRNAの塩基配列と実質的に相補的な塩基配列とは、哺乳動物の生理的条件下において、該mRNAの標的配列に結合してその翻訳を阻害し得る(あるいは該標的配列を切断する)程度の相補性を有する塩基配列を意味し、具体的には、例えば、該mRNAの塩基配列と完全相補的な塩基配列(すなわち、mRNAの相補鎖の塩基配列)と、オーバーラップする領域に関して、約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上、特に好ましくは約97%以上の相同性を有する塩基配列である。
本発明における「塩基配列の相同性」は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。
ストリンジェントな条件とは、例えば、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons,6.3.1-6.3.6, 1999に記載される条件、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)/45℃でのハイブリダイゼーション、次いで0.2×SSC/0.1% SDS/50〜65℃での一回以上の洗浄等が挙げられるが、当業者であれば、これと同等のストリンジェンシーを与えるハイブリダイゼーションの条件を適宜選択することができる。
(a)dynAPをコードするRNAに対するアンチセンス核酸
(b)dynAPをコードするRNAに対するリボザイム核酸
(c)dynAPをコードするRNAに対してRNAi活性を有する核酸もしくはその前駆体
本発明における「dynAPをコードするRNAに対するアンチセンス核酸」とは、該mRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸であって、標的mRNAと特異的かつ安定した二重鎖を形成して結合することにより、タンパク質合成を抑制する機能を有するものである。
アンチセンス核酸は、2-デオキシ-D-リボースを含有しているポリデオキシリボヌクレオチド、D-リボースを含有しているポリリボヌクレオチド、プリンまたはピリミジン塩基のN-グリコシドであるその他のタイプのポリヌクレオチド、非ヌクレオチド骨格を有するその他のポリマー(例えば、市販のタンパク質核酸および合成配列特異的な核酸ポリマー)または特殊な結合を含有するその他のポリマー(但し、該ポリマーはDNAやRNA中に見出されるような塩基のペアリングや塩基の付着を許容する配置をもつヌクレオチドを含有する)などが挙げられる。それらは、二本鎖DNA、一本鎖DNA、二本鎖RNA、一本鎖RNA、DNA:RNAハイブリッドであってもよく、さらに非修飾ポリヌクレオチド(または非修飾オリゴヌクレオチド)、公知の修飾の付加されたもの、例えば当該分野で知られた標識のあるもの、キャップの付いたもの、メチル化されたもの、1個以上の天然のヌクレオチドを類縁物で置換したもの、分子内ヌクレオチド修飾のされたもの、例えば非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメートなど)を持つもの、電荷を有する結合または硫黄含有結合(例、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を持つもの、例えばタンパク質(例、ヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ・インヒビター、トキシン、抗体、シグナルペプチド、ポリ-L-リジンなど)や糖(例、モノサッカライドなど)などの側鎖基を有しているもの、インターカレント化合物(例、アクリジン、ソラレンなど)を持つもの、キレート化合物(例えば、金属、放射活性をもつ金属、ホウ素、酸化性の金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾された結合を持つもの(例えば、αアノマー型の核酸など)であってもよい。ここで「ヌクレオシド」、「ヌクレオチド」および「核酸」とは、プリンおよびピリミジン塩基を含有するのみでなく、修飾されたその他の複素環型塩基をもつようなものを含んでいて良い。このような修飾物は、メチル化されたプリンおよびピリミジン、アシル化されたプリンおよびピリミジン、あるいはその他の複素環を含むものであってよい。修飾されたヌクレオシドおよび修飾されたヌクレオチドはまた糖部分が修飾されていてよく、例えば、1個以上の水酸基がハロゲンや、脂肪族基などで置換されていたり、またはエーテル、アミンなどの官能基に変換されていてよい。
dynAP RNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸の他の好ましい例としては、該mRNAをコード領域の内部で特異的に切断し得るリボザイム核酸が挙げられる。「リボザイム」とは、狭義には、核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、本明細書では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いるものとする。リボザイム核酸として最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。ハンマーヘッド型は約40塩基程度で酵素活性を発揮し、ハンマーヘッド構造をとる部分に隣接する両端の数塩基ずつ(合わせて約10塩基程度)をmRNAの所望の切断部位と相補的な配列にすることにより、標的mRNAのみを特異的に切断することが可能である。このタイプのリボザイム核酸は、RNAのみを基質とするので、ゲノムDNAを攻撃することがないというさらなる利点を有する。
本明細書においては、dynAPのmRNAに相補的なオリゴRNAとその相補鎖とからなる二本鎖RNA、いわゆるsiRNAもまた、dynAPのmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸に包含されるものとして定義される。
siRNAは、標的遺伝子のcDNA配列情報に基づいて、例えば、Elbashirら(Genes Dev., 15, 188-200 (2001))の提唱する規則に従って設計することができる。siRNAの標的配列としては、例えばAA+(N)19、AA+(N)21もしくはNA+(N)21(Nは任意の塩基)等が挙げられるが、それらに限定されない。標的配列の位置も特に制限されるわけではない。選択された標的配列の候補群について、標的以外のmRNAにおいて16-17塩基の連続した配列に相同性がないかどうかを、BLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)等のホモロジー検索ソフトを用いて調べ、選択した標的配列の特異性を確認する。例えば、AA+(N)19、AA+(N)21もしくはNA+(N)21(Nは任意の塩基)を標的配列とする場合、特異性の確認された標的配列について、AA(もしくはNA)以降の19-21塩基にTTもしくはUUの3’末端オーバーハングを有するセンス鎖と、該19-21塩基に相補的な配列及びTTもしくはUUの3’末端オーバーハングを有するアンチセンス鎖とからなる2本鎖RNAをsiRNAとして設計してもよい。また、siRNAの前駆体であるショートヘアピンRNA(shRNA)は、ループ構造を形成しうる任意のリンカー配列(例えば、5-25塩基程度)を適宜選択し、上記センス鎖とアンチセンス鎖とを該リンカー配列を介して連結することにより設計することができる。
このようにして構築したsiRNAもしくはshRNA発現カセットを、次いでプラスミドベクターやウイルスベクターに挿入する。このようなベクターとしては、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルスなどのウイルスベクターや、動物細胞発現プラスミドなどが用いられる。
さらに、体内動態の改良、半減期の長期化、細胞内取り込み効率の改善を目的に、前記核酸を単独またはリポソームなどの担体とともに製剤(注射剤)化し、静脈、皮下等に投与してもよい。
実線と破線は単結合もしくは二重結合を表す。)
本明細書中の「(C2−C6)アルケニル基」としては、例えば、ビニル、アリル、プロペニル、イソプロペニル、ブタ−3−エン−1−イル、ペンタ−4−エン−1−イル、へキサ−5−エン−1−イルなどが挙げられる。
本明細書中の「(C2−C6)アルキニル基」としては、例えば、エチニル、プロパ−2−イン−1−イル、ブタ−3−イン−1−イル、ペンタ−4−イン−1−イル、へキサ−5−イン−1−イルなどが挙げられる。
本明細書中の「(C3−C6)シクロアルキル基」としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルが挙げられる。
本明細書中の「(C1−C6)アルコキシ基」としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、tert−ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、2−エチルブトキシなどが挙げられる。
本明細書中の「(C1−C6)アルキルチオ基」としては、例えば、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、イソプロピルチオ、ブチルチオ、sec−ブチルチオ、tert−ブチルチオなどが挙げられる。
本明細書中の「(C1−C6)アルキルスルフィニル基」としては、例えば、メチルスルフィニル、エチルスルフィニル、プロピルスルフィニル、イソプロピルスルフィニル、ブチルスルフィニル、sec−ブチルスルフィニル、tert−ブチルスルフィニルなどが挙げられる。
本明細書中の「(C1−C6)アルキルスルホニル基」としては、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、イソプロピルスルホニル、ブチルスルホニル、sec−ブチルスルホニル、tert−ブチルスルホニルなどが挙げられる。
このような置換基としては、例えば、
(1)ハロゲン、
(2)ヒドロキシ基、
(3)アミノ基、
(4)ニトロ基、
(5)シアノ基、
(6)置換基を有していてもよいイミノ基、
(7)置換基を有していてもよい(C1−C3)アルキリデン基、
(8)ハロゲン化されていてもよい(C1−C6)アルコキシ基、
(9)(C3−C6)シクロアルキルオキシ基、
(10)(C6−C14)アリールオキシ基、
(11)(C7−C16)アラルキルオキシ基、
(12)(C1−C6)アルキルアミノ基、
(13)ジ(C1−C6)アルキルアミノ基、
(14)(C6−C14)アリールアミノ基、
(15)ジ(C6−C14)アリールアミノ基、
(16)(C7−C16)アラルキルアミノ基、
(17)ジ(C7−C16)アラルキルアミノ基、
(18)N−(C1−C6)アルキル−N−(C6−C14)アリールアミノ基、
(19)N−(C1−C6)アルキル−N−(C7−C16)アラルキルアミノ基、
(20)(C1−C6)アルキル−カルボニルアミノ基、
(21)(C1−C6)アルキルチオ基、
(22)(C1−C6)アルキルスルフィニル基、
(23)(C1−C6)アルキルスルホニル基、
(24)(C1−C6)アルキルスルホニルオキシ基、
(25)エステル化されていてもよいカルボキシ基、
(26)置換基を有していてもよい(C1−C6)アルキル−カルボニル基、
(27)(C1−C6)アルキル−カルボニルオキシ基、
(28)(C3−C10)シクロアルキル−カルボニル基、
(29)置換基を有していてもよい(C6−C14)アリール−カルボニル基、
(30)(C7−C16)アラルキル−カルボニル基、
(31)(C1−C6)アルコキシ−カルボニル基、
(32)複素環−カルボニル基、
(33)カルバモイル基、
(34)チオカルバモイル基、
(35)(C1−C6)アルキル−カルバモイル基、
(36)ジ(C1−C6)アルキル−カルバモイル基、
(37)1から3個の(C1−C6)アルコキシ基で置換されていてもよい(C6−C14)アリール−カルバモイル基、
(38)ジ(C6−C14)アリール−カルバモイル基、
(39)スルファモイル基、
(40)(C1−C6)アルキルスルファモイル基、
(41)ジ(C1−C6)アルキルスルファモイル基、
(42)(C6−C14)アリールスルファモイル基、
(43)ジ(C6−C14)アリールスルファモイル基、
(44)(C1−C6)アルキル基、
などからなる群が挙げられる。
(1)ヒドロキシ基;または
(2)(i)カルボキシ基、
(ii)(C6−C14)アリール基(例、フェニル)、
(iii)(C1−C6)アルコキシ−カルボニル基(例、エトキシカルボニル)、および
(iv)(C1−C3)アルキリデン基(例、メチリデン)
からなる群から選択される1から3個の置換基で置換されていてもよい(C1−C6)アルコキシ基(例、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ);
で置換されていてもよいイミノ基が挙げられる。
該「(C1−C3)アルキリデン基」は、置換可能な位置に1から3個の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、例えば、エステル化されていてもよいカルボキシ基などが挙げられる。
(1)ハロゲン;
(2)ヒドロキシ基;
(3)(i)ハロゲン(例、フッ素)、
(ii)ヒドロキシ基、
(iii)(C3−C6)シクロアルキル基(例、シクロプロピル)、および
(iv)ジ(C1−C6)アルキルアミノ基(例、ジメチルアミノ)、
からなる群から選択された1から3個の置換基で置換されていてもよい(C1−C6)アルコキシ基;
(4)アミノ基;
(5)(C1−C6)アルキルアミノ基;
(6)ジ(C1−C6)アルキルアミノ基;
(7)(C1−C6)アルキルチオ基;
(8)(C1−C6)アルキルスルホニル基;
(9)(C3−C6)シクロアルキル基;
(10)(C1−C6)アルキル−カルボニル基;
(11)(C1−C6)アルキル−カルボニルオキシ基;
(12)エステル化されていてもよいカルボキシ基;
などが挙げられる。
(1)ハロゲン(例、フッ素);
(2)ヒドロキシ基;
(3)ハロゲン化されていてもよい(C1−C6)アルキル基;
(4)(i)ハロゲン(例、F)、
(ii)ヒドロキシ基、
(iii)(C3−C6)シクロアルキル基(例、シクロプロピル)、および
(iv)ジ(C1−C6)アルキルアミノ基(例、ジメチルアミノ)
からなる群から選択された1から3個の置換基で置換されていてもよい(C1−C6)アルコキシ基;
(5)アミノ基;
(6)(C1−C6)アルキルアミノ基;
(7)ジ(C1−C6)アルキルアミノ基;
(8)(C1−C6)アルキルチオ基;
(9)(C1−C6)アルキルスルホニル基;
(10)(C3−C6)シクロアルキル基;
(11)(C1−C6)アルキル−カルボニル基;
(12)(C1−C6)アルキル−カルボニルオキシ基;
(13)エステル化されていてもよいカルボキシ基;
などが挙げられる。
本発明はまた、dynAPのN末端領域を認識する抗体を含有してなる、dynAPを発現するがんの診断剤を提供する。dynAPのC末端領域を認識する抗体は公知であるが、本発明で提供されるdynAPのN末端領域を認識する抗体は、がん細胞におけるdynAPの発現をより高感度・高精度に検出することができる。より好ましくは、本発明の診断用抗体は、配列番号:2で表されるヒトdynAPの19-32位のアミノ酸配列を特異的に認識するものである。
さらに、dynAPは神経芽細胞腫、前立腺がんおよび腎細胞がんで特に高頻度に発現することから、これらのがんの診断に特に有用である。従来、dynAPがこれらのがんで高頻度に発現しているとの報告はない。したがって、本発明はまた、被験者由来の生体試料におけるdynAPの発現量を測定することを特徴とする、神経芽細胞腫、前立腺がんまたは腎細胞がんの診断方法を提供する。
本発明によれば、dynAPはC末端領域が細胞膜から突出している。従って、例えばPET診断などの抗dynAP抗体のインビボ投与によるdynAP高発現組織の検出を目的とする場合、抗dynAP抗体としてはdynAPのC末端領域を認識する抗体がむしろ好ましい。
競合法では、被験試料中の抗原と標識抗原とを抗体に対して競合的に反応させた後、未反応の標識抗原(F)と、抗体と結合した標識抗原(B)とを分離し(B/F分離)、B,Fいずれかの標識量を測定し、被験試料中の抗原量を定量する。本反応法には、抗体として可溶性抗体を用い、B/F分離をポリエチレングリコール、前記抗体に対する第2抗体などを用いる液相法、および、第1抗体として固相化抗体を用いるか、あるいは、第1抗体は可溶性のものを用い第2抗体として固相化抗体を用いる固相化法とが用いられる。
イムノメトリック法では、被験試料の抗原と固相化抗原とを一定量の標識化抗体に対して競合反応させた後固相と液相を分離するか、あるいは、被験試料中の抗原と過剰量の標識化抗体とを反応させ、次に固相化抗原を加え未反応の標識化抗体を固相に結合させた後、固相と液相を分離する。次に、いずれかの相の標識量を測定し被験試料中の抗原量を定量する。
また、ネフロメトリーでは、ゲル内あるいは溶液中で抗原抗体反応の結果生じた不溶性の沈降物の量を測定する。被験試料中の抗原量が僅かであり、少量の沈降物しか得られない場合にもレーザーの散乱を利用するレーザーネフロメトリーなどが好適に用いられる。
例えば、入江 寛編「ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和49年発行)、入江 寛編「続ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和54年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(医学書院、昭和53年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第2版)(医学書院、昭和57年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、「Methods in ENZYMOLOGY」 Vol. 70 (Immunochemical Techniques (Part A))、同書 Vol. 73 (Immunochemical Techniques (Part B))、同書 Vol. 74 (Immunochemical Techniques (Part C))、同書 Vol. 84 (Immunochemical Techniques (Part D: Selected Immunoassays))、同書 Vol. 92 (Immunochemical Techniques (Part E: Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods))、同書 Vol. 121 (Immunochemical Techniques (Part I: Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies)) (以上、アカデミックプレス社発行)などを参照することができる。
1.プラスミド、細胞培養およびトランスフェクション
出芽酵母におけるヒトcDNAのスクリーニングに使用したプラスミドはGatewayクローニングシステム(Invitrogen)を用いて構築した。エントリーベクター上の約10,000クローンをpYES-DEST52(Invitrogen)に導入した。GFPもしくはV5でタグ化したdynAPのヒト細胞における発現用に、pcDNA-DEST53もしくはpcDNA-DEST54(Invitrogen)ベースのプラスミドを、同システムを用いて構築した。標準的なPCR法を用いて、dynAP、Akt1、サイクリンD1、Mst1の全長cDNA、活性化Mst1(N末端の326アミノ酸)をコードするDNA断片をそれぞれpFLAG-CMV2(Sigma)にサブクローニングし、pFLAG-dynAP、pFLAG-Akt1、pFLAG-cyclinD1、pFLAG-Mst1 FullおよびpFLAG-Mst1N WTを得た。機能欠損型Mst1N発現用ベクター(pFLAG-Mst1N KD)は、pFLAG-Mst1N WTをテンプレートとし、Quikchange (Stratagene) キットを用いて、K59R変異を導入することにより作製した。サイクリンD1およびAktの安定発現株の作製用ベクターには、pEGFP-N1(Clonetech)のKan/Neo耐性遺伝子をPCR増幅してpFLAG-CMV2に導入した。安定発現HeLa細胞株は終濃度750μg/mlのG418含有培地で選択した。本発明で使用した酵母変異株は野生型BY4742株から派生したものであり、サッカロミセス・ゲノム欠失プロジェクト(www-sequence.stanford.edu/group/yeast_deletion_project/project_desc.html)により構築された。出芽酵母に標準的な技術と培地を用いた。ヒト細胞株:ACHN, Caki-1, CoLo205, DLD-1, Kato III, KB, LNCap.FGC, MCF-7, MKN7, SW480およびWiDr-TCはthe Cell Resource Center for Biomedical Research, Institute of Development, Aging and Cancer, Tohoku Universityから;HCC38, HCT-116, MDA-MB-231, MDA-MB-468およびSH-SY5Yはthe American Type Culture Collectionから;A549, HEK293, HT1080, HUC-Fm, KMST-6, NB-1, NH-12, SK-MEL-26, VA-13およびWI-38はthe RIKEN Bioresource Centerから;KYSE150, SW13およびU-251MGはthe Japanese Collection of Research Bioresourcesから;Saos2はR. Takahashi (Doshisha Women’s College of Liberal Arts)から;HeLaはT. Nishio (Kinki University) から、それぞれ分与された。ヒト細胞は、10% FCS, 100 U/ml ペニシリンおよび100 μg/ml ストレプトマイシン (Nacalai Tesque) を添加したRPMI1640, MEM, DMEM (Nacalai Tesque), MEM-ALPHAまたはMcCoy’s 5A (Gibco) 中で維持した。ネオマイシン耐性細胞の選択用には、上記培地に400-750 μg/ml ジェネティシン(Wako) をさらに添加した。Lipofectamine 2000またはLTX (Invitrogen) を製造者のプロトコールに従って用い、細胞をプラスミドでトランスフェクトした。
図1に使用した8種の化合物の構造式を示す。化合物#5は、冬虫夏草菌Isaria sp. NBRC 104353(独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE) バイオテクノロジー本部 生物遺伝資源部門(NBRC)、〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8から購入した)の培養抽出液から、活性を指標にして単離した。Isaria sp. NBRC 104353をポテト-デキストロース培地(24 g/l ポテト-デキストロース;BD Biosciences, San Jose, CA, USA)15 mlを含む50 ml試験管中で培養した。該試験管を往復振とう培養機(355 rpm)を用いて27℃で3日間振とうした。培養液(1 ml)をオートミール(Quaker, Chicago, IL, USA)3 gおよびV8 Mix Juice (Campbell Soup Company, Camden, NJ, USA) 10 mlからなる固形培地を含む100 ml三角フラスコに移し、27℃で14日間静置培養した。培養物(20フラスコ)を80%アセトンで抽出した。減圧濃縮後、水性濃縮物を酢酸エチル100 mlで3回抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、蒸発乾固させた。乾燥残渣(0.58 g)を順相中圧液体クロマトグラフィー(MPLC; Purif-Pack SI 60 μm, size:60, Moritex, Tokyo, Japan)に供し、n-ヘキサン-酢酸エチルおよびクロロホルム-メタノールでステップワイズに連続的に溶出し、クロロホルム-メタノール(19:1)溶出液中に活性フラクション(73.0 mg)を得た。活性フラクションを、クロロホルム-メタノール (99 : 1, 49 : 1, 連続的) を用い、順相カラムで再クロマトグラフした。最後に、活性フラクション(9.5 mg)を、0.1% 蟻酸を含む80%メタノール-水を展開したSenshu Pak PEGASIL ODS column (20 i.d. × 150 mm; Senshu Scientific, Tokyo, Japan) を用いた分取逆相HPLC(流速:10 ml/min)によって精製し、化合物#5(3.4 mg、保持時間19.7分)を得た。
化合物#5は無色不定形の固体として得られ(([α]24 D+4.0°, c 0.12, in MeOH; UV λ240 nm, sh, in MeOH)、HR-エレクトロスプレーイオン化(ESI)-MSにより、その分子式はC28H42O6と決定された(m/z 475.3078, C28H43O6の理論値:475.3060)。化合物#5のIR(νmax 1714 cm-1)スペクトルからカルボニル基の存在が示唆された。各プロトンおよび炭素間の直接結合性を、異核単一量子相関(HSQC)スペクトルより決定した。化合物#5の13Cおよび1H NMRスペクトルデータを表1に示す。
[α]D+115 (c 0.013, MeOH); CD (MeOH) Δε302 +0.58, Δε201 +5.6; 1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δH0.62 (3H, s, H3-18), 0.77 (3H, d, J= 7.0 Hz, H3-21), 0.78 (3H, d, J= 7.0 Hz, H3-26), 0.85 (3H, d, J= 7.0 Hz, H3-27), 0.87 (3H, d, J= 7.0 Hz, H3-28), 1.02 (3H, s, H3-19), 2.23 (1H, d, J = 12.1 Hz, H-12), 2.48 (1H, ddd, J = 13.5, 3.5, 3.5 Hz, H-9), 2.52 (1H, d, J = 12.1 Hz, H-12), and 3.57 (1H, m, H-3); HRESITOFMS m/z 439.3559 [M+Na]+ (Calcd for C28H48O2Na: 439.3552)
Z-VAD-FMKはBioMolから、LY294002はCayman Chemical Co.からそれぞれ購入した。化合物#5およびZ-VAD-FMK はDMSOに溶解し、他の化合物はエタノールに溶解した。これらの化合物の細胞に及ぼす効果を試験する際は、DMSOまたはエタノールの終濃度をそれぞれ1%および0.25%となるように調整した。コントロール実験はこれらの濃度の溶媒のみで実施した。
合成14-merペプチド(dynAPの19-32位のアミノ酸に相当)に対するウサギポリクローナル抗体を、旭硝子に委託して作製した。抗体は、抗原ペプチドを固定化したアフィニティーカラムを用いて精製した。dynAPのC末端領域(143-210位のアミノ酸に相当)に対するウサギポリクローナル抗体(HPA011148)はSigmaから購入した。
回収した細胞をPBS(Sigma)で1回リンスし、1 mM PMSFおよびプロテアーゼ阻害剤カクテル(Nacalai Tesque)を含む溶解バッファー(CytoBuster Protein Extract Reagent; Novagen)中で溶解した。細胞溶解物を氷上で15分間インキュベートし、13,000×gで15分間遠心分離した。
以下の一次抗体を用いた:抗α-チューブリン抗体(Dr. Andrea Baines, Sir William Dunn School of Pathology, UNIVERSITY OF OXFORDより供与された);抗カスパーゼ-8抗体および抗PARP抗体(BD PharMingen);抗E-カドヘリン抗体、抗p150Glued抗体、抗dynamitin抗体および抗GM130抗体(BD Transduction Laboratories);抗Mst1抗体(Cell Signaling Technology);抗GFP抗体(Roche);抗V5抗体(MBL);抗Akt抗体(Epitomics Inc.);抗リン酸化Akt抗体(Epitomics Inc.);抗GSK3β抗体(Calbiochem);抗リン酸化GSK3β抗体(Epitomics Inc.);抗β-カテニン抗体(MBL);抗サイクリンD1抗体(Santa cruz biotechnology Inc.);抗p53抗体(Santa cruz biotechnology Inc.);抗p21抗体(Cell signaling technology);抗S6K抗体(Epitomics Inc.);抗リン酸化S6K抗体(Epitomics Inc.)。
二次抗体として、HRP標識したヤギ抗マウスまたは抗ウサギIgG抗体((BioSource)を用いた。IgGバンドの強度を減弱する必要のある場合は、TrueBlot抗マウスまたは抗ウサギIgG-HRP(eBioscience)を二次抗体として用いた。
抗c-myc抗体 (Covance)、p150Glued、dynamitinおよびdynAP、あるいはpreimmune serumを、ExtraCruz IP Matrix (Santa Cruz Biotechnology Inc.)を用いて2時間予備インキュベーションした。溶解バッファーで3回洗浄後、100-500 μgの細胞抽出液を加え、さらに2時間インキュベートした。免疫沈降物を溶解バッファーで3回洗浄後、イムロブロット解析に供した。
基本的にJ Biol Chem 275: 32482-32490 (2000)に記載の方法に従った。約1×106 のACHN細胞を用いた。超遠心処理はHimac CS-150GXL (Hitachi) とS140AT ローターを用いて行った。
RNeasy Mini Kit (Qiagen) を製造者のプロトコルに従って用い、全RNAを単離した。RT-PCRは、全RNA各0.8 mgとdynAP cDNA全長を増幅するプライマーを用い、ReverTra Ace-α (Toyobo) にて行った。内部標準としてGAPDH mRNAを用いた。使用したプライマーは以下の通りである。
dynAP
5'-ATGGTTGCAGATATAAAGGG-3' (forward)(配列番号:3)
5'-TTATAAATGATCGGTAGGTG-3' (reverse)(配列番号:4)
GAPDH
5'-ACCACAGTCCATGCCATCAC-3' (forward)(配列番号:5)
5'-TCCACCACCCTGTTGCTGTA-3' (reverse)(配列番号:6)
サイクリンD1
5’- CCTCTGTGCCACAGATGTGAAGTTCATTTC -3’ (forward)(配列番号:7)
5'- TTAGATGTCCACGTCCCGCA -3' (reverse)(配列番号:8)
E-カドヘリン
5’- TTGAGCACGTGAAGAACAGC -3’ (forward)(配列番号:9)
5'- GGCGTTGTCATTCACATCAG -3' (reverse)(配列番号:10)
poly-L-Lys-コーティングしたスライドガラス(IWAKI)上で増殖させたヒト細胞を、70%メタノールまたは3%パラホルムアルデヒドで10分間固定し、1% BSAおよび0.1% Triton X-100 (Nacalai Tesque)を含むPBSで、30分間ブロッキング、浸透した。不透過条件では、上記バッファーからTriton X-100を除いた。次いで、細胞をバッファーで適当に希釈したα-tubulin、β-tubulin (Lab Vision)、β-actin、FLAG、GM130およびp150Gluedに対する抗体と1時間インキュベートした。二次抗体として、Cy3もしくはAlexa488 (Invitrogen) 標識したロバ抗ウサギもしくは抗マウス抗体(Jackson ImmunoResearch)を用い、上記バッファーで希釈して1時間反応させた。V5でタグ化したdynAPの染色には、Cy3標識した抗V5抗体を用いた。最後にDNAを4’6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で染色した。Axioskop 2 plus microscope (Carl Zeiss)を用いて画像化した。
トリプシン処理後、細胞を遠心してペレット状にし、氷冷70%エタノールで固定した。エタノールを除去した後、細胞を2.5 μg/ml propidium iodideおよび0.5 mg/ml RNaseA (Nacalai Tesque)を含有するPBSに再懸濁し、JSAN Cell Sorter (Bay Bioscience)を用いて分析した。
Anal Chem 74: 4725-4733 (2002)に記載の方法に従った。FLAGでタグ化したdynAPを一過的に発現するHeLa細胞およびHEK293細胞から調製した抽出液を、抗FLAG抗体を用いて免疫沈降させた後、FLAGペプチドで溶出した。Lys-Cエンドペプチダーゼで溶出タンパク質を消化した後、得られたペプチドを高感度ダイレクトナノフローLC-MS/MS法を用いて解析した。配列決定したペプチドをデータベースで検索して、dynamitinをHeLa細胞およびHEK293細胞におけるdynAPの結合パートナーとして予測した。
下記のセンスおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドをアニーリングさせ、pcDNA 6.2-GW/EmGFP-miR(Invitrogen)にクローニングし、pdynAP_shRNA_1を得た。
センス:5’-TGCTGTTGAGCTGCCAGTATCACAAGGTTTTGGCCACTGACTGACCTTGTGATTGGCAGCTCAA-3’
(配列番号:11)
アンチセンス:5’-CCTGTTGAGCTGCCAATCACAAGGTCAGTCAGTGGCCAAAACCTTGTGATACTGGCAGCTCAAC-3’
(配列番号:12)
pcDNA 6.2-GW/EmGFP-miRに導入したpcDNA 6.2-GW/EmGFP-miR-neg control(Invitrogen)を対照として用いた。得られたプラスミドを常法によりHeLa細胞に導入した後、細胞抽出液をイムノブロット分析に供した。
血清不含培地で細胞を24時間培養した後、10% FBSを添加し、30分後に細胞をメタノールで固定し、抗α-tubulin抗体、抗β-actin抗体で染色した。
1.酵母を用いたヒトタンパク質と低分子化合物のスクリーニング
誘導性GAL1プロモーターの制御下にある約10,000のヒトcDNAを、野生型酵母および紡錘体集合チェックポイントの主要調節因子であるMad2を欠失する変異酵母に導入した。次に、本発明者らは、該変異酵母の増殖を阻害するが野生型酵母の増殖を阻害しないcDNAを調査した。いくつかのポジティブなcDNAの中から、本発明者らは、C18orf26遺伝子座にコードされる推定上のタンパク質を調べることに決定した。他の紡錘体チェックポイント因子Mad1, Mad3およびBub3を欠損する変異酵母におけるこのタンパク質(以下、dynAPと略記する)の発現は、Mad2欠損細胞と同じ表現型を示した(図1A)。酵母の増殖が阻害される分子機構は大部分が不明のままであるが、dynAP起因性の増殖阻害を回復させ得る低分子化合物は、治療薬の候補になり得るだけでなく、ヒト細胞におけるdynAPの機能に関する研究にも有用であろうから、本発明者らはそのような化合物の探索を試みた。即ち、dynAPを発現するMad2欠損細胞の増殖を回復させる低分子を得るべく、真菌および細菌の培養から調製された培養液をスクリーニングした。その結果、主たるヒット化合物として、新規なエルゴステロール関連化合物 (3β,12β,14β,16β)-22,23-epoxy-3,12,14,16-tetrahydroxyergosta-5,7-dien-11-one (BIR-14と命名; 図1Bの#5) が同定された。その類縁体をさらに研究した結果、化合物#4、#7および#8が酵母の増殖を回復させることができた(図1Bおよび1C)。
dynAP cDNAのヌクレオチド配列から、分子量22.5 kDaの、膜貫通ドメイン(アミノ酸113-133)およびスレオニンリッチドメイン(アミノ酸172-207)を含む210アミノ酸残基のタンパク質をコードするmRNAが予測される(図2A)。アミノ酸配列のアライメントから、これらのドメインは哺乳動物間で高度に保存されていることが分かった(図2B)。酵母、ハエおよび線虫では相同性のある遺伝子は見出されなかった。
dynAP中のペプチド(図2A)に対するポリクローナル抗体と、GFP標識したdynAPを安定発現するHeLa細胞とを用いて、dynAPの発現を試験した。抗dynAP抗体によりGFPタグ化dynAPに相当する70 kDaのバンドと、内因性dynAPと思われる45 kDaのバンドが検出され、一方、抗GFP抗体によってもGFPタグ化dynAPに相当する70 kDaのバンドが検出された(図3A)。尚、市販の抗dynAP抗体(HPA011148)について、FLAG標識したdynAPを一過的に発現させたHeLa細胞を用いて同様の実験を行ったところ、当該抗体を用いた場合ラダー状の多数のバンドが検出され、抗FLAG抗体によるバンドパターンと一致しなかったことから、以後の実験では、すべて新規に作製したN末端側を認識する抗dynAP抗体を使用した。
次に、抗dynAP抗体を用いて、種々のヒトがん細胞株におけるdynAPの発現を調べた。その結果、試験した40のヒトがん細胞株のうち、ACHNやHeLaを含む19細胞株(47.5%)が45 kDaのサイズのdynAPを発現していた(図3B、表2)。
次に、GFP標識したdynAPを発現するHeLaおよびKMST-6細胞を用いて、dynAPの局在化を調べた。アミノ酸配列に基づく予測と一致して、GFP標識タンパク質は原形質膜に局在していた(図4A)。特に、dynAPは細胞と細胞の境界に非常に密に集中していた。さらに、GFP標識タンパク質の局在は、ゴルジマーカータンパク質であるGM130の局在と重複しており、dynAPが核周辺のゴルジ膜にかなり集中していることがわかった(図4B)。
dynAPの細胞での機能に関する手掛りを得るべく、本発明者らは、FLAGでタグ化したdynAPを発現するHeLaおよびHEK293細胞由来の免疫沈降物を分析することにより、dynAPと結合し得るタンパク質を探索した。dynAPとβ-チューブリンおよびp150Gluedとの共局在が観察されたことは(図4CおよびD)、dynAPが後述するようにdynactin構成成分と相互作用するという観察結果と一致した。p150Gluedは細胞質dyneinモーター、微小管およびオルガネラ間の相互作用に介在するdynactin多タンパク質複合体のサブユニットである。細胞内分布の生化学的分析により、dynAPが膜タンパク質であるとの顕微鏡観察の結果が確認された(図4E)。
dynamitin(dynactin 2またはp50としても知られる)はどちらの細胞種でもdynAPと相互作用すると予測された。dynamitinはdynactin複合体の主要な構成成分である。dynactinはdynein複合体を形成し、細胞内カーゴを輸送するマイナス端指向性微小管モーターとして機能する。dynactin複合体と微小管との相互作用はまた、ゴルジ装置を核周辺領域に維持するのにも必要である。dynAPと2つのdynactin構成成分(dynamitinおよびp150Glued)との物理的相互作用が免疫化学的に実証された(図5)。dynAPとdynactin構成成分との共免疫沈降は他の細胞株でも観察された(図6)。GFP-dynAPはp150Gluedと共局在するので(図4D参照)、dynAPは細胞内でこれらのdynactin構成成分と結合している可能性が高い。
次に、本発明者らは、選択された化学物質のヒト癌細胞に及ぼす効果を試験した。ACHN細胞を化合物#4または#8の存在下で培養すると細胞数が減少したが、その他の化合物では影響がなかった(図7A)。
フローサイトメトリー分析の結果、アポトーシスにおけるDNA断片化の指標であるsub-G1フラクションが、化合物#4の存在下で培養した後に増加することが明らかとなった(図7Bおよび図8)。プロカスパーゼとPARPの切断はアポトーシス細胞死の分子的特徴である。ACHN細胞を化合物#4または#8で処理すると、切断された形態のカスパーゼ-8とPARPを生じるが、これらはその他の化合物で処理した後では検出されなかった(図7C)。
化合物#4により誘導されるアポトーシスがdynAPレベルに依存するか否かを調べるために、ACHN、HeLaおよびDLD-1細胞(それぞれdynAPを高発現、低発現および非常に低発現している、図3B参照)を化合物#4で処理した。ACHN細胞のsub-G1フラクションは、低用量(5 μM)の化合物#4で増加したのに対し、DLD-1細胞のsub-G1フラクションは、高用量(25 μM)の化合物#4でも非常に低いままであった(図7Dおよび図9)。HeLa細胞は、化合物#4に対する感受性に関してACHN細胞とDLD-1細胞との中間であり、dynAPレベルとよく相関した。同様に、カスパーゼ-8とPARPの切断を検出することによっても、dynAPレベルと化合物#4に対する感受性との間の密接な相関が認められた(図7E)。スタウロスポリンはDLD-1細胞においてカスパーゼ-8を活性化したことから(図10)、この細胞においてカスパーゼ-8の切断が検出されないのは、このアポトーシス経路の欠失によるものではない。
カスパーゼ-8介在性のアポトーシスに関与する既存の分子の中で、本発明者らは、化合物#4がACHNおよびHeLa細胞においてMst1の切断を引き起こすが、DLD-1細胞では引き起こさないことを見出した(図11A)。Mst1はユビキタスに発現するセリン−スレオニンキナーゼであり、出芽酵母のSte20と相同性を有する。カスパーゼが介在するMst1の切断によりC末端調節ドメインが除去され、高活性のMst1が得られる。全てのカスパーゼの阻害剤であるZ-VAD-FMKは、カスパーゼ-8およびPARPの切断だけでなくMst1の切断も減弱させた(図11B)。プロカスパーゼ-8およびMst1の切断は、HeLa細胞内のGFP-dynAPの発現により刺激され(図11CおよびD)、一方、dynAPをshRNAによりノックダウンすると、化合物#4依存的なカスパーゼ-8およびPARPの切断が抑制された(図11E)。これらの結果は、dynAPレベルが細胞を化合物#4に対してより感受性にするという仮説とよく一致する。タイムコース実験により、Mst1の切断はプロカスパーゼ-8およびPARPの切断と同時に起こることが示された(図11F)。
ゴルジ装置の核周辺部への位置決めは、dynein-dynactin複合体を含む、微小管細胞骨格および微小管モータータンパク質によって高度に制御されている。dynAPがdynactin構成成分と相互作用し、ゴルジ装置に局在することから、本発明者らは、上記化合物のゴルジの位置決めに及ぼす効果を試験した。ACHN細胞を化合物#4または#8で処理すると、散在したゴルジ装置を含むACHN細胞が有意に増加したが、その他の化合物で処理した場合は増加は認められなかった(図12Aおよび図13A)。化合物#4により誘導されるアポトーシスと一致して、ゴルジ断片化はdynAPの発現レベルに依存し、dynAPの発現が高いほど化合物#4に対する感受性が高くなった(図12Bおよび図13B)。
タイムコース実験の結果、散在したゴルジ装置を含むACHN細胞数の増加は、HeLa細胞に比べて早い時間に起こるのに対し、散在したゴルジ装置を含むDLD-1細胞は観察されなかった(図12C)。特に、ゴルジ断片化は10時間以内に最大に達したのに対し、カスパーゼ-8の活性化は当該期間内ではほとんど検出されなかったことから、ゴルジ装置の断片化は化合物#4により誘導されるカスパーゼの活性化に先行していた。カスパーゼ阻害剤(Z-VAD-FMK)は化合物#4により誘導されるアポトーシス事象を阻害したが(図11B参照)、ゴルジ断片化は阻害せず(図14)、当該断片化がカスパーゼ活性化の開始前に起こるという上記観察結果と一致した。
本発明者らはまた、ACHN細胞ではp150Gluedが化合物#4で処理した後にリン酸化されるのに対し、DLD-1細胞ではそのような効果が観察されないことを見出した(図12D)。当該リン酸化に対応して、p150GluedとdynAPとの間の相互作用が消失した(図12E)。p150Gluedのリン酸化は微小管へのそのアフィニティーを低下させることが示されており、そのことがゴルジ断片化に寄与しているかもしれない。p150GluedとdynAPとの相互作用が、化合物#4により誘導されるp150Gluedのリン酸化を何らかの形で促進し、それによってゴルジ断片化を誘発する可能性がある。
本発明者らは、2つの正常線維芽細胞株(臍帯由来のHUC-fmおよび肺由来のWI-38)並びにSV-40でトランスフォームしたWI-38VA-13細胞株を試験した。正常細胞は非常に低レベルでしかdynAPを発現していなかったが、トランスフォームされた細胞では実質的なdynAP発現が観察された(図15A)。癌細胞での観察結果と一致して、正常細胞は、カスパーゼ活性化およびゴルジ断片化に関して化合物#4に抵抗性であったのに対し、トランスフォームされた細胞はこれらの効果に対して感受性であった(図15B、CおよびD)。
ACHN、HeLaおよびDLD-1細胞を化合物#4で24hr処理し、化合物#4添加によるサイクリンD1レベルへの影響をイムノブロットにて調べた(図16A)。アポトーシスが起きる細胞(ACHN、HeLa)では、サイクリンD1レベルの減少が観察された。HeLa細胞を同一条件(化合物#4添加24hr後)で処理したところ、サイクリンD1の制御に関与しているAkt/PKBレベルの減少、Akt/PKBによりリン酸化されるGsk3βのSer9リン酸化レベルの減少(Gsk3βの活性化)、Gsk3βの活性化によると考えられるβ-カテニン(c-Myc、サイクリンD1の転写活性化に関与)レベルの減少、c-Mycレベルの減少が起こっていた(図16B、上段)。また、同一条件で、HeLa細胞よりtotal RNAを抽出し、RT-PCRを行った。実際、サイクリンD1の転写が抑えられていた(図16B、下段)。HeLa細胞で活性化型のMst1を過剰発現させると、化合物#4で処理した場合と同様の、Akt、リン酸化Gsk3β、β-カテニンおよびサイクリンのレベルの減弱が認められた(図16CおよびD)。FLAGでタグ化したサイクリンD1(FL-cyclinD1)を過剰発現(β-カテニンおよびLef/Tcfの発現制御を受けない)させたHeLa細胞株を化合物#4で処理すると、内因性のサイクリンD1だけでなくFL-cyclinD1レベルも減少することから(図16E)、化合物#4依存的なサイクリンD1レベルの減弱は、転写抑制だけでなく、サイクリンD1タンパク質の不安定化によっても誘導されることがわかった。化合物#4処理したHeLa細胞におけるp53およびp21レベルを調べた結果、化合物#4は濃度依存的にp53およびp21レベルを上昇させた(図16F)。p21の蓄積は活性化型Mst1の過剰発現によっても誘導された(図16G)。これらの結果は、化合物#4の種々の効果はカスパーゼによるMst1の切断・活性化を促進することによりもたらされることを示唆している。dynAPを高発現しているACHN細胞および低発現しているHeLa細胞を化合物#4で処理した際のE-カドヘリン遺伝子の転写レベルを調べた結果、化合物#4は該遺伝子の転写を減弱させることがわかった(図16H)。
さらに、dynAP過剰発現HeLa細胞株では、対照HeLa細胞に比べて、抗アポトーシス作用を示すAktの活性化(ser473のリン酸化は活性化に必須)が見られた(図17A)。また、WI-38をSV-40により癌化させたVA-13株(VA-13株ではdynAPの発現が亢進している)でも、Aktのリン酸化が亢進していた(図17B)。一方、shRNAを用いてdynAPをノックダウンすると、Aktのリン酸化が抑制された(図17C)。さらに、HeLa細胞、ACHN細胞およびDLD-1を10 μMの化合物#4で処理すると、ser473のリン酸化が消失するか顕著に抑制されていた(図17D)。FLAGでタグ化したAktを安定発現するHeLa細胞株を化合物#4で処理した際のプロカスパーゼ-8およびMst1の切断を調べた結果、化合物#4の濃度依存的にAktのリン酸化が抑制される一方、カスパーゼ-8、PARPおよび活性化Mst1の生成が促進された(図17E)。
以上より、dynAPの発現とdynAP阻害剤の効果はAktの発現および活性化に影響を与えていることが分かった。
HeLa細胞およびGFPでタグ化したdynAPを過剰発現するHeLa細胞をFBSを含まない培地で培養すると、dynAP依存的なAktのリン酸化が減弱した(図18A)。N末端にFLAGを、あるいはC末端にV5をそれぞれ連結したdynAP融合タンパク質を発現させたHeLa細胞をパラホルムアルデヒドで固定した後、透過処理をした場合としない場合とで、dynAPのN末端を認識する抗体とC末端を認識する抗体とを用いて免疫染色を行った。その結果、C末端を認識する抗体では透過処理の有無を問わず細胞が染色されたのに対し、N末端を認識する抗体では透過処理した場合にのみ染色されたことから(図18B)、dynAPはC末端側を細胞外に露出していることがわかった。dynAPをshRNAノックダウンしたHeLa細胞をFBSを含まない培地で24時間培養するか、HeLa細胞を25 μMの化合物#4を含むFBS不含培地で24時間培養した後、10% FBSを添加して30分後にα-tubulinおよびβ-actinを免疫染色すると、これらの細胞は、dynAPをノックダウンしていないHeLa細胞や化合物#4に曝露されていないHeLa細胞に比べて、血清刺激後の細胞形態の戻りが遅れることがあわかった(図18CおよびD)。
Claims (5)
- dynAPと、p150Gluedおよびdynamitinから選択されるdynactin複合体を構成するタンパク質とを被験物質の存在下で接触させ、両タンパク質の結合を阻害した被験物質を、抗がん作用を有する物質の候補として選択することを特徴とする、抗がん作用を有する物質のスクリーニング方法。
- dynAPと、p150Gluedおよびdynamitinから選択されるdynactin複合体を構成するタンパク質とを発現する細胞を被験物質と接触させ、両タンパク質の結合をレポーター遺伝子の発現により測定し、該結合を阻害した被験物質を、抗がん作用を有する物質の候補として選択することを特徴とする、抗がん作用を有する物質のスクリーニング方法。
- dynAPとp150Gluedとを発現する細胞を被験物質と接触させ、p150Gluedのリン酸化を促進した被験物質を、抗がん作用を有する物質の候補として選択することを特徴とする、抗がん作用を有する物質のスクリーニング方法。
- dynAPを発現する細胞を被験物質と接触させ、以下の(a)〜(h)のいずれかの作用を示した被験物質を、抗がん作用を有する物質の候補として選択することを特徴とする、抗がん作用を有する物質のスクリーニング方法。
(a)散在したゴルジ装置を含む細胞数を増加させる
(b)Aktの発現および/またはリン酸化を阻害する
(c)GSK3βのリン酸化を阻害する
(d)β-カテニンの発現を阻害する
(e)サイクリンD1、c-MycおよびE-カドヘリンから選択される1以上の遺伝子の発現を阻害する
(f)p53および/またはp21のタンパク質レベルを上昇させる
(g)Mst1、カスパーゼ-8およびPARPから選択される1以上のタンパク質の切断を亢進させる
(h)血清刺激に対する細胞応答を減弱させる - 以下の(a)〜(d)から選択されるdynAPの発現または機能を阻害する物質を含有してなる、dynAPを発現するがんの治療または予防剤。
(a)dynAPをコードするRNAに対するアンチセンス核酸
(b)dynAPをコードするRNAに対するリボザイム核酸
(c)dynAPをコードするRNAに対してRNAi活性を有する核酸もしくはその前駆体
(d)dynAPに対する中和抗体
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