JP5920835B2 - 無細胞翻訳系でFabを提示しうるポリヌクレオチド構築物ならびにそれを用いたFabの製造方法およびスクリーニング方法 - Google Patents
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Description
(Fab無細胞系ディスプレイ法に供するポリヌクレオチド構築物)
[1]Fab 第1鎖コード配列とFab 第2鎖コード配列を含み、リボゾームを含む無細胞翻訳系に導入されたときに自身がコードするFabを解離させることなく発現し、該Fabとの複合体を維持しうるポリヌクレオチド構築物。
(ポリヌクレオチド構築物(モノシストロニック))
[2]リボゾーム結合配列、Fab 第1鎖コード配列、リンカーペプチドをコードする配列、Fab 第2鎖コード配列、および足場コード配列をこの順にモノシストロニックに含む[1]に記載のポリヌクレオチド構築物であって、その3’末端に自身がコードするFabとの複合体を維持するために必要な構造を有するポリヌクレオチド構築物。
(ポリヌクレオチド構築物(バイシストロニック))
[3]リボゾーム結合配列、Fab 第1鎖コード配列またはFab 第2鎖コード配列、および足場コード配列をこの順に含む、Fab 第1鎖発現シストロンおよびFab 第2鎖発現シストロンを含む[1]に記載のポリヌクレオチド構築物であって、Fab 第1鎖発現シストロンはその3’末端にリボゾームストール配列を有し、Fab 第2鎖発現シストロンはその3’末端に自身がコードするFabとの複合体を維持するために必要な構造を有するポリヌクレオチド構築物。
(リボゾーム/mRNA/CISディスプレイ法に供するポリヌクレオチド構築物)
[4]自身がコードするFabとの複合体を維持するために必要な構造が、リボゾームストール配列、ピューロマイシンもしくはその誘導体、またはDNA結合蛋白質コード配列と該DNA結合蛋白質の結合配列である、[2]または[3]に記載のポリヌクレオチド構築物。
(リボゾームディスプレイ法に供するポリヌクレオチド構築物)
[5]自身がコードするFabとの複合体を維持するために必要な構造が、リボゾームストール配列である、[4]に記載のポリヌクレオチド構築物。
[6]リボゾームストール配列がSecM配列、ジプロリン配列、またはこれらの両方である、[5]に記載のポリヌクレオチド構築物。
[7] リボゾームストール配列がSecM配列の2〜4個の繰り返しである、[5]〜[6]のいずれかに記載のポリヌクレオチド構築物。
[8]リボゾームストール配列の3’側に終止コドンが存在する、[4]〜[7]のいずれかに記載のポリヌクレオチド構築物。
(mRNAディスプレイ法に供するポリヌクレオチド構築物)
[9]自身がコードするFabとの複合体を維持するために必要な構造が、ピューロマイシンもしくはその誘導体である[4]に記載のポリヌクレオチド構築物。
(CISディスプレイ法に供するポリヌクレオチド構築物)
[10]自身がコードするFabとの複合体を維持するために必要な構造が、DNA結合蛋白質コード配列と該DNA結合蛋白質の結合配列である、[4]に記載のポリヌクレオチド構築物。
[11]DNA結合蛋白質が、転写翻訳時に鋳型となったDNA分子と、転写翻訳反応中に一度も解離することなく、同一DNA分子上に存在する該DNA結合蛋白質の結合配列と結合するシス型結合蛋白質である、[10]に記載のポリヌクレオチド構築物。
[12]DNA結合蛋白質が大腸菌R1 Plasmid にコードされるRepAであり、該DNA結合蛋白質の結合配列が同ポリヌクレオチド上でRepAコード配列の下流に存在するCIS-ori配列である、[10]に記載のポリヌクレオチド構築物。
[13]Fab 第1鎖コード配列およびFab 第2鎖コード配列がランダム配列を含むライブラリーである、[1]〜[12]のいずれかに記載のポリヌクレオチド構築物。
[14]ランダム配列を含むライブラリーが、(i)ナイーブライブラリーまたは(ii) フォーカスドライブラリーである[13]に記載のポリヌクレオチド構築物。
[15]ランダム配列を含むライブラリーが、Fab 第1鎖および/またはFab 第2鎖の相補性決定領域(CDR)内に1アミノ酸置換を含むライブラリーである、[13]または[14]に記載のポリヌクレオチド構築物。
[16](i)[1]〜[15]のいずれかに記載のポリヌクレオチド構築物を無細胞翻訳系に導入してFabを合成し、合成されたFabをそれをコードするポリヌクレオチド上に提示する工程、
(ii)ポリヌクレオチド上に提示されたFabと抗原を接触させる工程、
(iii)抗原と反応する目的Fabを選択する工程、および
(iv)目的Fabをコードするポリヌクレオチドを増幅する工程を含む、Fabのスクリーニング方法。
[17](I)Fab 第1鎖コード配列またはFab 第2鎖コード配列が、親抗体のFab 第1鎖またはFab 第2鎖のアミノ酸配列においてCDR内の1つの位置に対して1アミノ酸置換を含むアミノ酸配列をコードする、[15]に記載のポリヌクレオチド構築物を、Fab 第1鎖およびFab 第2鎖のCDR内の複数の位置に対して1アミノ酸置換が含まれるように複数種類用意する工程、
(II)該複数種類のポリヌクレオチド構築物を用いて前記[16]に記載の工程(i)〜(iv)を繰り返して高親和性Fabを複数スクリーニングする一次スクリーニング工程、
(III)一次スクリーニング工程で選択された複数のFabにおけるFab 第1鎖およびFab 第2鎖のCDR内の各位置での1アミノ酸置換の頻度を解析する工程、
(IV)Fab 第1鎖コード配列およびFab 第2鎖コード配列が、親抗体のFab 第1鎖およびFab 第2鎖の配列においてCDR内の各位置に一次スクリーニングで同定された1アミノ酸置換の組み合わせを含むアミノ酸配列をコードする、[15]に記載のポリヌクレオチド構築物を用意する工程、
(V)該ポリヌクレオチド構築物を用いて前記[16]に記載の工程(i)〜(iv)を繰り返して高親和性Fabをスクリーニングする二次スクリーニング工程
を含む、[16]に記載のFabのスクリーニングを行う方法。
[18]インビトロ翻訳系が、独立に精製された因子からなる、[16]または[17]に記載の方法。
[19]インビトロ翻訳系が、開始因子、伸長因子、アミノアシルtRNA合成酵素、およびメチオニルtRNAトランスフォルミラーゼからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む、[18]に記載の方法。
[20]インビトロ翻訳系が解離因子を含まない、[18]または[19]に記載の方法。
[21]インビトロ翻訳系が、リボゾームを含む細胞抽出液である、[16]または[17]に記載の方法。
[22][1]〜[15]のいずれかに記載のポリヌクレオチド構築物をインビトロ翻訳系に導入してFabを生成させる工程を含む、Fabの製造方法。
[23][1]〜[15]のいずれかに記載のポリヌクレオチド構築物を含む、Fabを製造またはスクリーニングするためのキット。
[24](I)標的物質結合蛋白質における標的物質結合部位を構成する全アミノ酸ポジションについて、1アミノ酸ポジションごとに天然アミノ酸全20種類にランダム化する1ポジションライブラリーを、アミノ酸ポジションの数だけ構築する工程、
(II)これらの1ポジションライブラリーを全てあるいは適当な単位で統合して1次ライブラリーを構築する工程、
(III)蛋白質ディスプレイ系を用いて1次ライブラリーを標的親和性で濃縮する工程、
(IV)工程(III)で得られた1次ライブラリー濃縮サンプルのポリヌクレオチド配列情報を決定する工程、
(V)塩基配列情報から高頻度に観察される1アミノ酸置換を抽出する工程、
(VI)高頻度に観察される1アミノ酸置換の組み合わせを含む2次ライブラリーを構築する工程、および
(VII)蛋白質ディスプレイ系を用いて2次ライブラリーを標的親和性で濃縮する工程、
を含む、標的物質結合蛋白質の標的物質親和性を最大化する方法。
[25]1次ライブラリー濃縮サンプルのポリヌクレオチド配列情報を決定する工程が次世代シークエンサーを用いて行われる、[24]の方法。
[26]標的物質結合蛋白質が完全長抗体あるいはscFv、Fab、scFab等の抗体断片であり、標的物質結合部位が天然の抗体で多様性に富む配列が認められる、いわゆるCDR領域である[24]または[25]の方法。
[27]蛋白質ディスプレイ系が、リボゾームディスプレイ、CISディスプレイ、mRNAディスプレイ、ファージディスプレイ、バクテリア表面ディスプレイ、酵母細胞表面ディスプレイ、高等真核生物の細胞表面ディスプレイ、である[24]〜[26]のいずれかの方法。
「VL」:FabのL鎖可変領域のコード配列;
「CL」:FabのL鎖定常領域のコード配列;
「VH」:FabのH鎖可変領域のコード配列;
「CH1」:FabのH鎖定常領域のコード配列;
「Linker」:リンカーペプチドのコード配列;
「RBS(○)」:リボゾーム結合部位;
「Pu」:ピューロマイシン、若しくはその誘導体;
「Pro △」:プロモーター;
「RNAP」:RNAポリメラ−ゼ
「RSS(S)」:リボゾームストール配列
「LP(P)」:分泌発現用リーダーペプチド配列
本発明のポリヌクレオチド構築物は、Fab 第1鎖コード配列とFab 第2鎖コード配列を含み、リボゾームを含む無細胞翻訳系に導入されたときに自身がコードするFabを解離させることなく発現し、該Fabとの複合体を維持しうるポリヌクレオチド構築物である。ここで、Fab 第1鎖およびFab 第2鎖とは、Fabを構成する2つの鎖を意味し、通常は一方がFab H鎖であり、他方がFab L鎖であるが、それぞれH鎖とL鎖のキメラ鎖であってもよい。なお、Fab H鎖とはH鎖可変領域(VH)およびH鎖定常領域1(CH1)を含む蛋白質を意味し、Fab L鎖とはL鎖可変領域(VL)およびL鎖定常領域(CL)を含む蛋白質を意味する。
また、「Fabとの複合体を維持する」とは、Fabがポリヌクレオチド構築物とリンクした状態で発現され、その複合体が維持されることを意味する。なお、「ポリヌクレオチド上にFabが提示される」ともいう。
本発明の第1の態様にかかるポリヌクレオチド構築物は、リボゾーム結合配列、Fab 第1鎖コード配列、リンカーペプチド配列、Fab 第2鎖コード配列、および足場コード配列をこの順にモノシストロニックに含む。そして、該ポリヌクレオチド構築物はコード領域(シストロン)の3’末端に、自身がコードするFabとの複合体を維持するために必要な構造を有する。
なお、特定のFabを発現させる場合は目的の鋳型から配列を増幅して用いればよい。また、目的抗原に対するFabをスクリーニングする場合はランダムなFab鎖コード配列を含むライブラリーを使用すればよい。目的抗原に結合するFabを新規に取得したい場合は、ナイーブライブラリーを使用することができる。また既に取得済みの特定のFabを何らかの目的で最適化したい場合は、フォーカスドライブラリーを使用することができる。
ナイーブライブラリーは目的抗原に結合するFabを新規に取得するために、非常に広範な探索空間を提供することを目的とし、以下に例を示すように様々な形式のものを構築することができる。例えばB細胞から採取したmRNAを出発材料とした逆転写PCRでFabを構成するVH領域および/またはVL領域のcDNA断片を増幅して使用することで、天然B細胞が作り出す抗体多様性を利用した天然ナイーブライブラリー(Clackson et al., Nature (1991) vol.352, p.624-628)を構築できる。また、VH領域および/またはVL領域のうちフレームワーク部分を人工的に合成し、CDR領域に多様な天然のCDR配列を組み込むことで半合成ナイーブライブラリー(Soderlind et al., Nat. Biotechnol. (2000) vol.18, p.852-856)を構築できる。あるいはFabのL鎖(VL-CL)に天然配列、H鎖のCDR1-2に人工配列、CDR3に天然配列を組み込むことで半合成ナイーブライブラリー(Hoet et al., Nat. Biotechnol. (2005) vol.23, p.344-348)を構築することもできる。さらにCDRに多様性を与えつつコード配列の全領域を人工合成する完全人工ナイーブライブラリー(Knappik et al., J. Mol. Biol. (2000) vol.296, p.57-86)を構築することもできる。CDR配列を人工合成する場合は、天然のCDR配列の解析結果に基づき、CDRの長さごとに、各アミノ酸ポジションに出現するアミノ酸の頻度を調整することもできる。
例えばVH領域および/またはVL領域全体に、ランダムかつ散発的に1個〜数個程度の1アミノ酸置換を導入するためにエラープローンPCR(Error-Prone PCR)を用いることができる(Boder et al., Proc Natl Acad Sci U S A (2000) vol.97, p.10701-10705)。エラープローンPCRは、基質である4種類のデオキシヌクレオチドの濃度や、添加する二価カチオンの種類や濃度を調節することによってエラーが起こり易くなる現象を利用している。人工的に設計した変異導入プライマーを用いて、Fabを構成する特定のアミノ酸だけを狙って、アミノ酸組成に考慮しながら1個〜数個程度の1アミノ酸置換を導入することもできる(Rajpal et al., Proc Natl Acad Sci U S A (2005) vol.102, p.8466-8471)。また人工的に設計した変異導入プライマーを用いて、合計6個のCDRのうち、3〜5個程度のCDR配列を維持したまま、1〜3個程度のCDRの配列を、1アミノ酸単位ではなくCDR配列単位でランダム化することもできる(Lee et al., Blood (2006) vol.108, p.3103-3111)。またL鎖とH鎖のうち片方を固定し、多様な天然配列を利用して他方をランダム化することもできる(Kang et al., Proc Natl Acad Sci U S A (1991) vol.88, p.11120-11123)。
このようなポリヌクレオチド構築物のライブラリーを用いてスクリーニングを行うことにより、目的の抗原に対する抗体を得ることができる。
前記リンカーペプチドをコードする配列はプロテアーゼ認識配列に挟まれていてもよく、それにより、前記ポリヌクレオチド構築物がアミノ酸配列に翻訳された後にプロテアーゼによってリンカーペプチドが切断され、天然型Fabが提示される。プロテアーゼ認識配列としては、エンテロキナーゼ認識配列であるDDDDK(配列番号31)、ファクターXa認識配列であるIEGR(配列番号32)などが例示される。
リボゾームストール配列としては、大腸菌のSecMをコードする配列が例示される。SecM配列は、SecM stall配列とも呼ばれ、リボゾーム内部で翻訳アレストを起こすと報告されている配列である(FXXXXWIXXXXGIRAGP:配列番号30)。この配列を導入することで、mRNA、リボゾーム、融合蛋白質の複合体を効率よく維持できる(Nakatogawa et al., Mol.Cell (2006) vol.22, p.545-552)ので、Fab鎖とそれをコードする塩基配列の対応付けができる。SecM配列は2個以上連結してもよく、2〜4個が好ましく、2個がより好ましい。
また、ジプロリンなどのポリプロリン配列もリボゾームストール配列として使用することができ、単独で用いてもよいし、SecM配列と組み合わせてもよい。
リボゾームストール配列の3’側には終止コドンが読み枠を合わせて配置されることが好ましい。
なお、リボゾームストール配列を採用する代わりに単に終止コドンを欠落させてリボゾームディスプレイを行うことも可能である。
配列番号19に、プロモーター配列(塩基番号9〜31)と、リボゾーム結合配列(SD配列;塩基番号81〜87)と、抗Her2 Fab L鎖コード配列、FLAGタグ、リンカー配列(GSリンカー)、FLAGタグ、抗Her2 Fab H鎖コード配列、Hisタグ、足場配列(GSリンカー)およびリボゾームストール配列(secM+ジプロリン)を含む抗Her2 Fab L+H鎖発現シストロン(塩基番号94〜2220;アミノ酸配列は配列番号20)を含むポリヌクレオチド構築物の塩基配列を示す。
配列番号21に、プロモーター配列(塩基番号9〜31)と、リボゾーム結合配列(SD配列;塩基番号81〜87)と、抗TNFαR Fab L鎖コード配列、FLAGタグ、リンカー配列(GSリンカー)、FLAGタグ、抗TNFαR Fab H鎖コード配列、Hisタグ、足場配列(GSリンカー)およびリボゾームストール配列(secM+ジプロリン)を含む抗TNFαR Fab L+H鎖発現シストロン(塩基番号94〜2226;アミノ酸配列は配列番号22)を含むポリヌクレオチド構築物の塩基配列を示す。
ただし、本発明のポリヌクレオチド構築物はこれらに限定されないことは言うまでもない。
また、リボゾームストール配列の代わりに、ピューロマイシンまたはその誘導体を利用してFabとポリヌクレオチドとの複合体を形成させ、アミノ酸配列とそれをコードする塩基配列の物理的対応付けをしてもよい(mRNAディスプレイ)。すなわち、ポリヌクレオチド構築物の3’末端にスペーサーを介してピューロマイシンまたはその誘導体を結合させ、翻訳産物のC末端がピューロマイシンまたはその誘導体に共有結合することによりFabとポリヌクレオチドとの複合体が形成され、Fab鎖のアミノ酸配列とそれをコードする塩基配列の対応付けが可能となる。
ここで、ピューロマイシンまたはその誘導体としては、ピューロマイシン、リボシチジルピューロマイシン、デオキシシチジルピューロマイシン、デオキシウリジルピューロマイシンなどのピューロマイシン誘導体が特に好ましい。
なお、mRNAディスプレイの別の態様として、ポリヌクレオチド構築物の3’末端側にストレプトアビジンコード配列を連結させ、さらに、3’末端にビオチンを結合させて、翻訳された蛋白質のストレプトアビジン部分がビオチンと結合することにより、Fabとポリヌクレオチドとの複合体を形成させ、アミノ酸配列とそれをコードする塩基配列の物理的対応付けをしてもよい。
また、リボゾームストール配列の代わりに、DNA結合蛋白質コード配列と該DNA結合蛋白質の結合配列を利用してFabとポリヌクレオチドとの複合体を形成させ、アミノ酸配列とそれをコードする塩基配列の物理的対応付けをしてもよい(CISディスプレイ: WO2004/22746)。具体的には、ポリヌクレオチド構築物の足場配列の下流にDNA結合蛋白質コード配列と該DNA結合蛋白質の結合配列を連結させ、Fabと足場配列とDNA結合蛋白質との融合蛋白質として発現させ、DNA結合蛋白質が3’側シストロン下流のDNA結合蛋白質結合配列に結合することによりFabとポリヌクレオチドとの複合体が形成されFab鎖のアミノ酸配列とそれをコードする塩基配列の対応付けが可能となる。ここで、DNA結合蛋白質としては、DNA結合蛋白質が転写翻訳時に鋳型となったDNA分子と転写翻訳反応中に一度も解離することなく同一DNA分子上に存在する該DNA結合蛋白質の結合配列と結合する、シス型の結合様式をもつRepA蛋白質が挙げられ、RepA結合配列としてはCIS配列とそれに続くori配列が挙げられる(Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., vol.101, p.2806-2810, 2004および特表2005-537795)。シス型の結合様式をもつ他のDNA結合蛋白質として、大腸菌Ti plasmid にコードされるRecC蛋白質(Pinto, et al., Mol. Microbiol. (2011) vol.81, p.1593-1606)、φX174ファージのA蛋白質(Francke, et al., Proc Natl Acad Sci U S A (1972) vol.69, p.475-479)、λファージのQ蛋白質(Echols, et al., Genetics (1976) vol.83, p.5-10)等を、該DNA結合蛋白質それぞれに対する結合配列と組み合わせて用いてもよい。また、転写と翻訳がよく共役する無細胞翻訳系を用いる場合は、合成された蛋白質が転写終結部位の近傍でリリースされるため、エストロゲン受容体などの核内受容体のDNA結合ドメイン、Two-Hybrid Systemに使用されるLexAやGal4のDNA結合ドメインのように、一般的にトランス型の結合様式を持つDNA蛋白質と考えられているものを、該DNA結合蛋白質それぞれに対する結合配列と組み合わせて用いてもよい。
配列番号70に、プロモーター配列(塩基番号612〜639)と、リボゾーム結合配列(SD配列;塩基番号672〜675)と、抗Her2 Fab L鎖コード配列、FLAGタグ、リンカー配列(GSリンカー)、FLAGタグ、抗Her2 Fab H鎖コード配列、Hisタグ、足場配列(GSリンカー)およびRepAコード配列を含む抗Her2 Fab L+H鎖発現シストロン(塩基番号689〜3322;アミノ酸配列は配列番号71)、CIS-ori(塩基番号3326〜4100)を含むポリヌクレオチド構築物の塩基配列を示す。
配列番号72に、プロモーター配列(塩基番号612〜639)と、リボゾーム結合配列(SD配列;塩基番号672〜675)と、抗TNFαR Fab L鎖コード配列、FLAGタグ、リンカー配列(GSリンカー)、FLAGタグ、抗TNFαR Fab H鎖コード配列、Hisタグ、足場配列(GSリンカー)およびRepAコード配列を含む抗TNFαR Fab L+H鎖発現シストロン(塩基番号689〜3328;アミノ酸配列は配列番号73)、CIS-ori(塩基番号3332〜4106)を含むポリヌクレオチド構築物の塩基配列を示す。
ただし、本発明のポリヌクレオチド構築物はこれらに限定されないことは言うまでもない。
本発明の第2の態様にかかるポリヌクレオチド構築物は、リボゾーム結合配列、Fab 第1鎖コード配列またはFab 第2鎖コード配列、および足場コード配列をこの順に含むFab 第1鎖発現シストロンおよびFab 第2鎖発現シストロンを含む。そして、Fab 第1鎖発現シストロン(5'側のFab鎖発現シストロン)はその3’末端にリボゾームストール配列を有し、Fab 第2鎖発現シストロン(3'側のFab鎖発現シストロン)はその3’末端側に自身がコードするFabとの複合体を維持するために必要な構造を有する。ここで、自身がコードするFabとの複合体を維持するために必要な構造としては、上記のようなリボゾームストール配列、DNA結合蛋白質コード配列と該DNA結合蛋白質の結合配列、またはピューロマイシンもしくはその誘導体が例示される。
なお、Fab 第1鎖発現シストロンとFab 第2鎖発現シストロンとの間の長さは、Fab 第1鎖発現シストロンで翻訳が一旦終了し、リボゾームがストールされている状態で、Fab 第2鎖発現シストロンのリボゾーム結合配列にリボゾームが結合できる程度の間隔があればよいが、好ましくは50〜200bpである。
本発明の第2の態様にかかるポリヌクレオチド構築物においては、リボゾーム上で、mRNAとポリペプチド(Fabの第1鎖または第2鎖)の複合体を形成させるため、Fab 第1鎖発現シストロンの3’末端に上述したようなリボゾームストール配列を配置する。なお、リボゾームストール配列の3’側には終止コドンが読み枠を合わせて配置されることが好ましい。リボゾームストール配列を採用する代わりに単に終止コドンを欠落させてリボゾームディスプレイを行うことも可能である。
配列番号13に、プロモーター配列(塩基番号9〜31)と、リボゾーム結合配列(SD配列;塩基番号81〜87)と、抗Her2 Fab L鎖コード配列、FLAGタグ、足場配列(GSリンカー)およびリボゾームストール配列(secM+ジプロリン)を含む抗Her2 Fab L鎖発現シストロン(塩基番号94〜1158;アミノ酸配列は配列番号14)と、リボゾーム結合配列(SD配列;塩基番号1191〜1197)と、抗Her2 Fab H鎖コード配列、Hisタグ、足場配列(GSリンカー)およびリボゾームストール配列(secM+ジプロリン)を含む抗Her2 Fab H鎖発現シストロン(塩基番号1264〜2364;アミノ酸配列は配列番号15)を含むポリヌクレオチド構築物の塩基配列を示す。
配列番号16に、プロモーター配列(塩基番号9〜31)と、リボゾーム結合配列(SD配列;塩基番号81〜87)と、抗TNFα受容体(TNFαR) Fab L鎖コード配列、FLAGタグ、足場配列(GSリンカー)およびリボゾームストール配列(secM+ジプロリン)を含む抗TNFαR Fab L鎖発現シストロン(塩基番号94〜1158;アミノ酸配列は配列番号17)と、リボゾーム結合配列(SD配列;塩基番号1191〜1197)と、抗TNFαR Fab H鎖コード配列、Hisタグ、足場配列(GSリンカー)およびリボゾームストール配列(secM+ジプロリン)を含む抗TNFαR Fab H鎖発現シストロン(塩基番号1264〜2370;アミノ酸配列は配列番号18)を含むポリヌクレオチド構築物の塩基配列を示す。
ただし、本発明のポリヌクレオチド構築物はこれらに限定されないことはいうまでもない。
なお、Fab 第2鎖発現シストロン(3'側のFab鎖発現シストロン)については、ピューロマイシンまたはその誘導体を利用してFab鎖とポリヌクレオチドの複合体を形成させ、アミノ酸配列とそれをコードする塩基配列の物理的対応付けをしてもよい(mRNAディスプレイ)。すなわち、3'側のシストロンの末端、すなわち、ポリヌクレオチド構築物の3’末端にスペーサーを介してピューロマイシンまたはその誘導体を結合させ、3'側のシストロンが翻訳されたときに、翻訳産物のC末端がピューロマイシンまたはその誘導体に共有結合することによりFab鎖とポリヌクレオチドの複合体を形成させ、Fab鎖のアミノ酸配列とそれをコードする塩基配列の対応付けが可能となる。
また、Fab 第2鎖発現シストロン(3'側のFab鎖発現シストロン)については、DNA結合蛋白質コード配列と該DNA結合蛋白質の結合配列を利用してFab鎖とポリヌクレオチドの複合体を形成させ、アミノ酸配列とそれをコードする塩基配列の物理的対応付けをしてもよい(CISディスプレイ: WO2004/22746)。具体的には、Fab 第2鎖発現シストロンの3'末端側、すなわち、Fab 第2鎖発現シストロンのFab第2鎖コード配列と足場配列の下流にDNA結合蛋白質コード配列と該DNA結合蛋白質の結合配列を連結させ、Fab 第2鎖発現シストロンをFab第2鎖と足場配列とDNA結合蛋白質との融合蛋白質として発現させ、DNA結合蛋白質がFab 第2鎖発現シストロン下流のDNA結合蛋白質結合配列に結合することによりFab第2鎖とポリヌクレオチドの複合体を形成させ、Fab第2鎖のアミノ酸配列とそれをコードする塩基配列の対応付けが可能となる。ここで、DNA結合蛋白質としては、DNA結合蛋白質が転写翻訳時に鋳型となったDNA分子と転写翻訳反応中に一度も解離することなく同一DNA分子上に存在する該DNA結合蛋白質の結合配列と結合する、いわゆるシス型の結合様式をもつRepA蛋白質などが挙げられ、RepA結合配列としてはCIS配列とそれに続くori配列が挙げられる(Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., vol.101, p.2806-2810, 2004および特表2005-537795)。シス型の結合様式をもつ他のDNA結合蛋白質として、大腸菌Ti plasmid にコードされるRecC蛋白質(Pinto, et al., Mol. Microbiol. (2011) vol.81, p.1593-1606)、φX174ファージのA蛋白質(Francke, et al., Proc Natl Acad Sci U S A (1972) vol.69, p.475-479)、λファージのQ蛋白質(Echols, et al., Genetics (1976) vol.83, p.5-10)等を、該DNA結合蛋白質それぞれに対する結合配列と組み合わせて用いてもよい。また、転写と翻訳がよく共役する無細胞翻訳系を用いる場合は、合成された蛋白質が転写終結部位の近傍でリリースされるため、エストロゲン受容体などの核内受容体のDNA結合ドメイン、Two-Hybrid Systemに使用されるLexAやGal4のDNA結合ドメインのように、一般的にトランス型の結合様式を持つDNA蛋白質と考えられているものを、該DNA結合蛋白質それぞれに対する結合配列と組み合わせて用いてもよい。
本発明のFabの製造方法は上記ポリヌクレオチド構築物をリボゾームを含む無細胞翻訳系に導入してFabを生成させる工程を含む。無細胞翻訳系としては大腸菌、酵母、哺乳動物細胞等の細胞から得られた無細胞翻訳系が例示されるが、大腸菌由来の無細胞翻訳系が好ましい。
上記CISディスプレイの場合は遺伝媒体として細胞抽出液中でも比較的安定な二本鎖DNAを用いるのでリボゾームを含む画分を細胞から抽出して得られる細胞抽出液を用いることも可能である。
リボゾームディスプレイの場合は、細胞抽出液中に大量に存在するRNA分解酵素により遺伝媒体であるRNAが分解される危険性があるため、個別に精製された因子から構成された再構成型の無細胞翻訳系が好ましい。このようなPUREシステムを用いたリボゾームディスプレイは「PURE ribosome display(PRD)」と呼ばれている。
リボゾームは、リボゾームRNAと種々のリボゾーム蛋白質とで構成される巨大な複合体であり、大小2つのサブユニットからなる。リボゾームやそれを構成するサブユニットは、ショ糖密度勾配などによって相互に分離することができ、その大きさは、沈降係数によって表される。具体的には、原核生物においては、リボゾームとそれを構成するサブユニットは、それぞれ次のような大きさを有する。大腸菌などの原核生物は容易に大量培養することができるので、大腸菌などの原核生物は、リボゾームを大量に調製するうえで、好ましい生物である。
リボゾーム(70S)=大サブユニット(50S)+小サブユニット(30S)
分子量: 約2.5x106約1.6x106 約0.9x106
50Sサブユニット;L1〜L34の34種類の蛋白質(リボゾーム蛋白質)
23S RNA(約3200ヌクレオチド)
5S RNA(約120ヌクレオチド)
30Sサブユニット;
S1〜S21の21種類の蛋白質(リボゾーム蛋白質)
16S RNA(約1540ヌクレオチド)
つまり各サブユニットは、これらの成分からなる複合体として単離されうる。更にリボゾームは、各サブユニットの複合体として単離されうる。精製されたリボゾームとは、たとえば原核生物由来のリボゾームにおいては、大小のサブユニットからなる70Sリボゾームとして精製された複合体、または、それぞれ精製された50Sサブユニットと30Sサブユニットを混合してできた複合体を指す。
開始因子 (Initiation Factor; IF)、
伸長因子 (Elongation Factor; EF)、
アミノアシルtRNA合成酵素、
メチオニルtRNAトランスフォルミラーゼ(MTF)
なお、解離因子も含んでよいが、リボゾーム上で蛋白質とポリヌクレオチドの複合体を安定に維持するためには解離因子を含まないことが好ましい。
T7 RNAポリメラーゼ
T3 RNAポリメラーゼ
SP6 RNAポリメラーゼ
T7RNAポリメラーゼを使用した場合、例えば、0.01μg/ml〜5000μg/ml、好ましくは、0.1μg/ml〜1000μg/mlで使用できる。またCISディスプレイにおいて再構築型の無細胞翻訳系を用いることで、FabとDNAの複合体形成の効率を追及する場合には、Nucleic Acid Research 2010, vol. 38, No. 13, e141に記載されているように、精製された大腸菌の内因性RNAポリメラーゼを添加することもできる。また、Nucleic Acid Research 1988, vol. 16, No. 14, 6493に記載されているように、精製された大腸菌の転写終結因子であるrho蛋白質を添加することもできる。
反応系においてエネルギーを再生するための酵素:
クレアチンキナーゼ;
ミヨキナーゼ;および
ヌクレオシドジフォスフェートキナーゼなど
転写・翻訳で生じる無機ピロリン酸の分解のための酵素:
無機ピロフォスファターゼなど
上記酵素は、例えば、0.01μg/ml〜2000μg/ml、好ましくは、0.05μg/ml〜500μg/mlで使用できる。
本発明のスクリーニング方法は、(i)Fabのライブラリーをコードするポリヌクレオチド構築物を無細胞翻訳系に導入してFabを合成し、合成されたFabをそれをコードするポリヌクレオチド上に提示する工程、(ii)ポリヌクレオチド上に提示されたFabを抗原と接触させる工程、(iii)抗原と反応する目的Fabを選択する工程、および(iv)目的Fabをコードするポリヌクレオチドを増幅する工程を含む。
Fab遺伝子ライブラリーの規模は、通常1×108以上、好ましくは1×109以上、より好ましくは1×1010以上、さらに好ましくは1×1012以上である。
標的物質(抗原)に前記Fab遺伝子ライブラリーから発現したFabライブラリーを接触させ、Fabライブラリーから標的物質に結合するFabを選択し、それをコードするポリヌクレオチドを増幅する。
(1)標的物質にFabライブラリーを接触させる。ビーズ、プレートやカラム等の担体に標的物質を結合させ、ここにFabとポリヌクレオチドの複合体を含む試料を接触させてもよい(固相選択)。また、標的物質をビオチン化し、これをFabと結合させ、標的物質とFabの複合体をストレプトアビジン磁気ビーズビーズで回収するような、液相での選択も可能である。また、固相選択と液相選択を組み合わせてもよい。スクリーニングを複数ラウンド行い、前半は固相選択、後半は液相選択を行うことで、高親和性抗体を効率よく選択することができる。
(2)標的物質に結合しなかった、ライブラリーに含まれていたその他のFabを除去する。例えば、洗浄により除去することができる。洗浄は通常の抗原抗体反応の洗浄に使用される洗浄液を使用することができるが、後述するような親Fabより親和性の高いFabを得るためのスクリーニングを行う場合には、親Fabと抗原との結合が維持され、それより弱い結合が除かれるような条件で洗浄を行うことが好ましい。
(3)除去されなかったFab、すなわち標的物質に特異的に結合していたFabを回収する。
(4)必要に応じ(1)から(3)の操作を複数回繰り返す。
すなわち、本発明においては、
(I)Fab 第1鎖コード配列またはFab 第2鎖コード配列が、親抗体のFab 第1鎖またはFab 第2鎖のアミノ酸配列においてCDR内の1つの位置に対して1アミノ酸置換を含むアミノ酸配列をコードする、本発明のポリヌクレオチド構築物を、Fab 第1鎖およびFab 第2鎖のCDR内の複数の位置に対して1アミノ酸置換が含まれるように複数種類用意する工程、
(II)該複数種類のポリヌクレオチド構築物を用いて前記工程(i)〜(iv)を繰り返して高親和性Fabを複数スクリーニングする一次スクリーニング工程、
(III)一次スクリーニング工程で選択された複数のFabにおけるFab 第1鎖およびFab 第2鎖のCDR内の各位置での1アミノ酸置換を解析する工程、
(IV)Fab 第1鎖コード配列およびFab 第2鎖コード配列が、親抗体のFab 第1鎖およびFab 第2鎖の配列においてCDR内の各位置に一次スクリーニングで同定された1アミノ酸置換の組み合わせを含むアミノ酸配列をコードする、本発明のポリヌクレオチド構築物を用意する工程、
(V)該ポリヌクレオチド構築物を用いて前記工程(i)〜(iv)を繰り返して高親和性Fabをスクリーニングする二次スクリーニング工程
を含む、Fabのスクリーニングを行う方法が提供される。
なお、工程(I)における複数とは2以上であればよいが、好ましくはCDR内の全てのアミノ酸である。
ただし、本発明のスクリーニング方法はこの態様に限定されない。
まず、目的の抗原に対する抗体(親抗体)のアミノ酸配列(親配列)を用意する。そして、図24のように、このアミノ酸配列において、H鎖のCDRのアミノ酸(CDR-H1 8個、CDR-H2 11個、CDR-H3 12個、合計31個)のうちの1つにおいて1アミノ酸置換(好ましくは親アミノ酸を含めた天然20アミノ酸全てが出現する1アミノ酸置換)を有するようなH鎖コード配列と親抗体のL鎖コード配列を含む本発明のポリヌクレオチド構築物をH鎖のCDRのアミノ酸(合計31個)の数だけ用意する(H鎖ライブラリー)。
また、親抗体のアミノ酸配列において、L鎖のCDRのアミノ酸(CDR-L1 7個、CDR-L2 6個、CDR-L3 6個、合計19個)のうちの1つにおいて、1アミノ酸置換(好ましくは親アミノ酸を含めた天然20アミノ酸全てが出現する1アミノ酸置換)を有するようなL鎖コード配列と親抗体のH鎖コード配列を含むポリヌクレオチド構築物をL鎖のCDRのアミノ酸(合計19個)の数だけ用意する(L鎖ライブラリー)。
上記H鎖ライブラリーとL鎖ライブラリーを一次ライブラリーとし、これを用いて工程(i)〜(iv)を繰り返し、高親和性抗体のスクリーニングを行う(1次スクリーニング)。
1次スクリーニングによって高親和性抗体をコードするポリヌクレオチド配列が濃縮されているので、濃縮された複数の配列を解析し、H鎖およびL鎖のCDRの各位置について高頻度に観察されるアミノ酸置換を、親和性向上のために好ましいアミノ酸置換として選択する。
ここで、Sanger シークエンシング法を利用した蛍光キャピラリーシークエンサーに代表される第1世代シークエンサーと対比させて使われている次世代シークエンサーという用語は、実際には多様な機器や技術を含み、今後も様々な形態のものが考案されると考えられる(Mardis, Annu. Rev. Genom. Human Genet. (2008) vol.9, p.387-402およびPersson et al., Chem. Soc. Rev. (2010) vol.39, p.985-999)。
第1世代シークエンサーが一般にベクター宿主システムを用いてクローン化したDNAの配列決定に利用されるのに対し、次世代シークエンサーは多様な配列をもつDNAサンプルを解析対象としながらも、ベクター宿主システムを用いてDNAのクローン化をすることなく、サンプル中に存在するDNA配列を高速に解読できる。
第1世代シークエンサーを用いたDNA配列決定では、
(i)プラスミド等のベクターへのDNA断片の組み込みと大腸菌等の宿主の形質転換、
(ii)宿主コロニーの単離によるクローン化、
(iii)解析規模に応じた数のクローンの培養およびプラスミドの抽出、
(iv)プラスミド等を鋳型としたPCR等によるシークエンス反応、
(v)キャピラリー電気泳動等を用いたシークエンス反応産物の分離・検出・解析、
という過程を経て個々のクローンのDNA配列を決定する。多数のクローンのDNA配列を一度に決定する場合は、クローン化以降の(ii)〜(v)の工程で、クローンごとに独立した反応・処理が必要となり、解析クローン数の規模に比例した作業量が必要となる。
一方、次世代シークエンサーを用いたDNA配列決定では、多様な配列を含むDNA断片を、Emulsion PCRやBridge PCR といった単分子PCR法等の増幅技術、あるいは1分子観察等の高感度検出技術、を応用することで解析用基板上に大規模数存在する個々の解析スポット上にクローン化して超並列的に配列解析する。このため、解析クローン数の規模に関わらず単一の反応・処理で、例えば1つの解析用基板上に形成された106〜109のクローンの配列を決定できる。
(I)標的物質結合蛋白質における標的物質結合部位を構成する全アミノ酸ポジションについて、1アミノ酸ポジションごとに天然アミノ酸全20種類にランダム化する1ポジションライブラリーを、アミノ酸ポジションの数だけ構築する工程、
(II)これらの1ポジションライブラリーを全てあるいは適当な単位で統合して1次ライブラリーを構築する工程(1次ライブラリーポリヌクレオチド構築物を用意する工程)、
(III)蛋白質ディスプレイ系を用いて1次ライブラリーを標的親和性で濃縮する工程、
(IV)(III)で得られた1次ライブラリー濃縮サンプルのポリヌクレオチド配列情報を決定する工程、
(V)塩基配列情報から高頻度(好ましくは2以上)に観察される1アミノ酸置換を抽出する工程、
(VI)高頻度に観察される1アミノ酸置換の組み合わせを含む2次ライブラリーを構築する工程(2次ライブラリーポリヌクレオチド構築物を用意する工程)、および
(VII)蛋白質ディスプレイ系を用いて2次ライブラリーを標的親和性で濃縮する工程、
を含む、標的物質結合蛋白質の標的物質親和性を最大化する方法(標的物質親和性が向上した変異型標的物質結合蛋白質を得る方法)が提供される。
なお、工程(II)で適当な単位で統合して1次ライブラリーを構築する場合、工程(I)で構築した1ポジションライブラリーを2群以上に分けて、1次ライブラリーを2種類以上使用してもよい。また(VI)で構築する2次ライブラリーには、高頻度に観察される1アミノ酸置換に加え、親抗体がコードしていた親アミノ酸を追加してもよい。
抗原結合蛋白質としては、Fab、scFv、完全長抗体などの抗体が挙げられるが、抗原に特異的に結合するものである限り、抗体に分類されない蛋白質であってもよい。
また、サイトカインに変異を導入し、受容体に対する結合性を高めることもできる。
例えば、標的物質結合蛋白質(野生型)において、標的物質結合部位が10アミノ酸からなる領域である場合、1〜10のうちの1つのポジションに20アミノ酸が出現する1ポジションライブラリーを合計10種類用意する。
この10種類の1ポジションライブラリーを合わせて1次ライブラリーとし、これを用いて、標的物質親和性で濃縮する。具体的には、下記の工程(i')〜(iv')を繰り返して標的物質に高親和性の配列を濃縮する。
(i')ライブラリーを蛋白質ディスプレイ系に導入して標的物質結合蛋白質を発現させ、該標的物質結合蛋白質をコードするポリヌクレオチド上で提示させる工程、
(ii')標的物質と標的物質結合蛋白質を接触させる工程、
(iii')標的物質と反応する目的標的物質結合蛋白質を選択する工程、および
(iv')目的標的物質結合蛋白質をコードするポリヌクレオチドを増幅する工程、を繰り返す(1次スクリーニング)。
これらの工程は、通常の蛋白質ディスプレイにおける操作と同様にして行うことができる。
工程(ii')は、ビーズ、プレートやカラム等の担体に標的物質を結合させ、ここに標的物質結合蛋白質とポリヌクレオチドの複合体を含む試料を接触させてもよい(固相選択)。また、標的物質をビオチン化し、これを標的物質結合蛋白質と結合させ、標的物質と標的物質結合蛋白質の複合体をストレプトアビジン磁気ビーズビーズで回収するような、液相での選択も可能である。また、固相選択と液相選択を組み合わせてもよい。スクリーニングを複数ラウンド行い、前半は固相選択、後半は液相選択を行うことで、高親和性蛋白質を効率よく選択することができる。
非特異的結合を除くため、(ii')と(iii')の間に洗浄項操作を行うことが好ましい。洗浄は、野生型標的物質結合蛋白質と標的物質との結合が維持され、それより弱い結合が除かれるような条件で行うことが好ましい。
ポリヌクレオチドの配列解析は通常のシークエンシングによって行ってもよいが、スクリーニングによって増幅された標的物質結合蛋白質コード配列をクローン化することなく、大量に網羅的に配列解析でき、スクリーニング時間が大幅に短縮できるという点で、次世代シークエンサーを用いることが好ましい。
ここで、Sanger シークエンシング法を利用した蛍光キャピラリーシークエンサーに代表される第1世代シークエンサーと対比させて使われている次世代シークエンサーという用語は、実際には多様な機器や技術を含み、今後も様々な形態のものが考案されると考えられる(Mardis, Annu. Rev. Genom. Human Genet. (2008) vol.9, p.387-402およびPersson et al., Chem. Soc. Rev. (2010) vol.39, p.985-999)。
第1世代シークエンサーが一般にベクター宿主システムを用いてクローン化したDNAの配列決定に利用されるのに対し、 次世代シークエンサーは、多様な配列をもつDNAサンプルを解析対象としながらも、ベクター宿主システムを用いてDNAのクローン化をすることなく、サンプル中に存在するDNA配列を高速に解読できる。
第1世代シークエンサーを用いたDNA配列決定では、
(i)プラスミド等のベクターへのDNA断片の組み込みと大腸菌等の宿主の形質転換、
(ii)宿主コロニーの単離によるクローン化、
(iii)解析規模に応じた数のクローンの培養およびプラスミドの抽出、
(iv)プラスミド等を鋳型としたPCR等によるシークエンス反応、
(v)キャピラリー電気泳動等を用いたシークエンス反応産物の分離・検出・解析、
という過程を経て個々のクローンのDNA配列を決定する。多数のクローンのDNA配列を一度に決定する場合は、クローン化以降の(ii)〜(v)の工程で、クローンごとに独立した反応・処理が必要となり、解析クローン数の規模に比例した作業量が必要となる。
一方、次世代シークエンサーを用いたDNA配列決定では、多様な配列を含むDNA断片を、Emulsion PCRやBridge PCR といった単分子PCR法等の増幅技術、あるいは1分子観察等の高感度検出技術、を応用することで解析用基板上に大規模数存在する個々の解析スポット上にクローン化して超並列的に配列解析する。このため、解析クローン数の規模に関わらず単一の反応・処理で、例えば1つの解析用基板上に形成された106〜109のクローンの配列を決定できる。
この二次ライブラリーを用いて、工程(i')〜(iv')を繰り返し、2次スクリーニングを行うことにより、親蛋白質よりも標的物質に対する親和性が顕著に向上した蛋白質を多数取得することができる。親蛋白質よりも標的物質に対する親和性が顕著に向上したことは、SPRやELISAなどによって解析することができる。
無細胞Fabディスプレイ系で用いるFabのフレームワークとして、ヒトにおける主要な抗体サブクラスのひとつであり、大腸菌での発現効率に優れ(Kanappik et al., J Mol Biol. (2000) vol.296, p.57-86)、無細胞scFvディスプレイ系での実績が報告された(Shibui et al., Appl Microbiol Biotechnol. (2009) vol.84, p.725-732)、VL k subgroup IおよびVH subgroup IIIの組合せを選択した。無細胞Fabディスプレイ系の動作確認に用いる上記フレームワークをもつモデルFabとして、Carterらが報告したヒトEGFR-2(Her-2)反応性のFab(Carter et al., Proc Natl Acad Sci U S A. (1992) vol. 89, p.4285-4289)を選択し、Fab-HHとした。
もうひとつのモデルFabとしてFab-HHのL鎖およびH鎖のCDR1-3領域を、渋井らの無細胞scFvディスプレイ系で見出されたTNFαR反応性scFvの配列(Shibui et al., Biotechnol. Lett. (2009) vol.31, p.1103-1110)で置換し、Fab-TTとした。
これら2種類のモデルFabのVLドメインおよびVHドメインをコードするcDNAを人工合成した。またCLドメイン、CH1ドメインをコードするcDNAをヒト癌細胞株のゲノムDNAを鋳型としたPCRで取得した。得られたcDNA断片を、大腸菌発現ベクターpTrc99Aに組み込み、モデルFabをBicistronicに分泌発現するベクターとして、pTrc Fab-HH、pTrc Fab-TTを構築した。また本来のL鎖とH鎖の組合せを意図的に変更してFab-HT(Her-2反応性のL鎖とTNFαR反応性のH鎖の組合せ)およびFab-TH(TNFαR反応性のL鎖とHer-2反応性のH鎖の組合せ)とし、これらを発現するpTrc Fab-HTおよびpTrc Fab-THを合わせて構築した。このとき、L鎖のC末端にmycタグを、H鎖のC末端に2連続FLAGタグおよびHisタグを付加した。pTrc Fabベクター中のBicistronicに Fabを発現するユニットの概略構造を図9に示す。
モデルFabの抗原蛋白質である、Her-2およびTNFαR(R&D systems社)をPBSで1μg/mlに希釈した。これをELISAプレートに添加し4℃で一晩放置することでプレートに固定した。ウェルを洗浄後、モデルFabを添加し抗原に結合させた。ウェルを洗浄後、検出用抗体として1000倍希釈したHRP標識抗FLAG抗体(シグマ社)を添加し、モデルFabに付加したFLAGタグに結合させた。ウェルを洗浄後、HRP用発色基質を添加した。適度な発色が得られたところで停止液を添加し、OD405nmにて吸光度を測定した。抗原蛋白質にHer-2を用いて4種類のモデルFabを広い濃度域でタイトレーションした結果を図11に示す。Fab-HHがHer-2に強く結合(ED50=2nM)することがわかる。次に2種類の抗原蛋白質に4種類のモデルFabを高濃度(HH、TT、HT、THの順に7.1、1.8、2.9、5.8μM)で接触させた結果を図12に示す。Fab-HHがHer-2には結合するがTNFαRには結合しないこと、またFab-TTがTNFαRには結合するがHer-2には結合しないことがわかる。さらにハイブリッドFab であるFab-HTおよびFab-THがどちらの抗原にも結合しないことから、Fab-HHのHer-2に対する結合およびFab-TTのTNFαRに対する結合は、L鎖H鎖相互依存的であり、正しいL鎖とH鎖の組み合わせが抗原蛋白質との結合に必要であることがわかる。
上記のFab-HHと酷似したアミノ酸配列をもち、Fellouseら(Fellouse et al., J. Mol.Biol. (2007) vol.373, p.924-940)により大腸菌での発現効率がさらに向上すると報告された配列をFab-SSとした。この配列を無細胞ディスプレイ系で提示するために、大腸菌最適化コドンを用いてBicistronic型Fab-PRD用のDNA断片を人工合成した。これを汎用ファージミドベクターpBluescript SK(+)に組み込むことでpGAv2-SSを構築した。次にpGAv2-SSのL鎖CDR1-3領域およびH鎖CDR1-3領域を、pTrc Fab-HHの対応する領域と置換することでpGAv2-HHを構築した。同様にpGAv2-SSとpTrc Fab-TTを用いてpGAv2-TTを構築した。次にpGAv2-HHのL鎖下流のGSリンカー最下流部位にアミノ酸配列を変えずにXhoI認識部位を導入することでpGAv2-HH xhoIを構築した。Bicistronic型Fab-PRD用のDNA断片の概略構造を図13に示す。
Bicistronic型Fab-PRD用のpGAv2-HH xhoIとpGAv2-TTの中の、L鎖下流のリボゾームストール配列の先頭アミノ酸からH鎖の最初のメチオニンまでの領域を、FLAGタグをコードする配列に置換し、FLAGタグを介してL鎖下流GSリンカーのC末端をインフレームでH鎖と接続した構造をもつ、Monocistronic型Fab-PRD用のベクター、pGAv6-HH xhoIとpGAv6-TTを構築した。Monocistronic型Fab-PRD用のDNA断片の概略構造を図14に示す。
Bicistronic型Fab-PRD用にpGAv2-HH xhoIおよびpGAv2-TT 、Monocistronic型Fab-PRD用にpGAv6-HH xhoIおよびpGAv6-TTを鋳型として、PCR反応によりin vitro転写用鋳型DNA断片を増幅した。PCR用酵素としてPrimeStarMax(タカラ社)を使用し、プライマーとしてPURE-rt-1FおよびPURE-3Rの組合せ、またはSL-1FおよびSL-2Rの組合せを使用した。増幅したin vitro転写用鋳型DNA断片はフェノール・クロロホルム抽出、イソプロパノール沈殿で精製した。in vitro転写用鋳型DNAの濃度は260nmの吸光度から1 OD=5 0μg/mlとして算出した。4種類のベクターからSL-1FおよびSL-2R のプライマーセットで増幅したin vitro転写用鋳型DNA断片の配列は以下のとおりである。
Bicistronic型Fab-PRD用
pGAv2-HH xhoI 配列番号13(アミノ酸配列は配列番号14(L),15(H))
pGAv2-TT 配列番号16(アミノ酸配列は配列番号17(L),18(H))
Monocistronic型Fab-PRD用
pGAv6-HH xhoI 配列番号19(アミノ酸配列は配列番号20)
pGAv6-TT 配列番号21(アミノ酸配列は配列番号22)
PURE-rt-1F:(caatttcggtaatacgactcactatagggagaatttaggtgacactatagaagtg)(配列番号23)
PURE-3R:(caggtcagacgattggccttg)(配列番号24)
SL-1F:(caatttcggtaatacgactcactatagggagaccacaacggtttcccatttaggtgacactatagaagtg)(配列番号25)
SL-2R:(ccgcacaccagtaaggtgtgcggcaggtcagacgattggccttgatattcacaaacg)(配列番号26)
mRNA合成は500ngの鋳型DNA断片と2.7μgの精製T7 RNA polymeraseを用いて50μlスケールで実施した。37度60分の合成反応の後、RNase free DNase(Promega社)を1μl添加し、37度10分の反応で鋳型DNAを分解した。mRNAはフェノール・クロロホルム抽出、イソプロパノール沈殿で精製した後、30μlのNuclease free water(Promega社)で溶解した。mRNAの濃度は260nmの吸光度から1 OD=40 μg/mlとして算出した。
PUREシステムを構成する翻訳因子群およびリボゾームは、清水(Shimizu et al., Nat Biotechnol. (2001) vol.19, p.751-755)や大橋(Ohashi et al., Biochem Biophys Res Commun. (2007) vol.352, p.270-276)らの報告に記載の方法で調製した。翻訳反応は2 p moleのmRNAと20 p moleのリボゾームを用いて20μlスケールとした。酸化還元条件に関しては、酸化型および還元型グルタチオン、蛋白質ジスルフィドイソメラーセを除き、1mMのDTTを添加し還元条件下での翻訳反応とした。37度20分の翻訳反応の後に終濃度2.5mMの酸化型グルタチオンを添加してDTTを中和した。
Her-2およびTNFαR(R&D systems社)をPBSで各々0.5mg/mlに溶解した。ビオチン化試薬としてSulfo-NHS-SS-Biotin(サーモサイエンティフィック社)をPBSで0.6 mg/ml (Her-2用)および4.0 mg/ml(TNFαR用)にて調製し、1.1μl(Her-2用)および3.6μl(TNFαR用)を抗原溶液100μlに添加して室温で1時間反応させた。反応産物をゲル濾過スピンカラムに通して未反応のビオチン化試薬を除去した。アビジン(カルビオケム社)をPBSで2μg/mlに希釈した。これをELISAプレートに添加し4℃で一晩放置することでプレートに固定した。ウェルを洗浄後、ビオチン化抗原を添加しアビジンに結合させた。ウェルを洗浄後、実施例1で調製した高純度モデルFabを添加しビオチン化抗原に結合させた。ウェルを洗浄後、検出用抗体として1000倍希釈したHRP標識抗FLAG抗体(シグマ社)を添加し、モデルFabに付加したFLAGタグに結合させた。ウェルを洗浄後、HRP用発色基質を添加した。適度な発色が得られたところで停止液を添加し、OD405nmにて吸光度を測定した。得られた結果を図15に示す。2種類のビオチン化抗原がアビジンと対応するモデルFabに同時反応性をもつことがわかる。
大橋らが報告した方法(Ohashi et al., Biochem Biophys Res Commun. (2007) vol.352, p.270-276)を参考に、PUREシステムによるribsome display法(PRD)によるFabのin vitro選択を実施した。M-280ストレプトアビジン磁気ビーズ(DYNAL社)30μlを洗浄し、実施例8で調製したビオチン化抗原蛋白質を5 p mole加えて室温で30分反応させ、磁気ビーズにベイト蛋白質を固定した。磁気ビーズを洗浄し選択用ビーズとした。同様の操作でベイト蛋白質を固定しないプレクリア用ビーズを調製した。
PURE-2R:(gacgattggccttgatattcacaaacg)(配列番号27)
L-CDRex-1F:(attaaacgtaccgttgcagcaccgagc)(配列番号28)
H-CDRex-2R:(tgagcctccaggctgaaccagaccac)(配列番号29)
選択前と選択後のDNAサンプルをXhoIで消化し、1%アガロースゲルで分離後、エチジウムブロマイドで染色した。選択前のDNAサンプルはFab-TT が主成分となるためXhoIでほとんど切断されないが、選択後のDNAサンプルはFab-HH xhoの含有率が上がるため、XhoI感受性が増すと考えられる。このようにDNAサンプルのXhoI感受性の増加によりFab-HHの濃縮を確認した。以下、Her-2をベイト蛋白質としたシングルラウンドのBicistronic型あるいはMonocistronic型Fab-PRDでFab-HHを選択した結果を示す。
実施例7に記載した方法でMonocistronic型Fab-PRD用のmRNAを用いて無細胞翻訳産物を調製した。翻訳産物を5-20%グラジエントゲルSDS-PAGEで分離後、PVDF膜に転写し、検出用抗体として1000倍希釈したHRP標識抗FLAG抗体(シグマ社)を用いてウエスタンブロッティングを実施した。結果を図19に示す。scFab-TTの全長翻訳産物が確認できるが、全長翻訳産物の比率が陽性対照に使用したscFv-TTの翻訳量に比べて極端に少ないことがわかる。
pGAv6-HH xhoIを鋳型としたPCRでリボゾームストール配列(SecM配列)を2コピーに増やしたDNA断片を合成し、v6.5断片とした。同様のPCRで、SecM配列を3コピーもつv6.5-S3断片、SecM配列を4コピーもつv6.5-S4断片を調製した。調製した鋳型DNA断片(100% Fab-HH)を用いて、Monocistronic型Fab-PRDによるFab-HHの回収率を測定した。Monocistronic型Fab-PRDは実施例9に記載の固相選択にて実施し、回収した逆転写産物の定量は、濃度既知の鋳型DNA断片を検量線用サンプルとした定量PCRにて実施した。定量PCRに用いる検出用プライマーとして上流域プライマーと下流域プライマーの2種類を準備し、CDR-L1付近の上流域とCDR-H3付近の下流域における回収率(1st strand cDNAの分子数/投入したRNAの分子数)をそれぞれ求めた。結果を図20に示す。SecM配列を2コピーに増やすことでFab-PRDによるFab-HHの回収率が約10倍向上した。本実験ではSecM配列を3コピー以上に増やしても更なる回収率の向上は認められなかったが、翻訳反応時間を長くするなど実験条件を変更した場合は、SecMを 3コピー以上にすることで回収率が更に上昇する可能性もあると考えられる。
定量PCRで使用したプライマーを以下に示す。
FabHH用上流域プライマー
RT-1F:gatattcagatgacccagagcccgagc(配列番号33)
RT-1R:cagcttcggggcttttcctgg(配列番号34)
FabHH用下流域プライマー
HH-4F:ccagggaactttggttactgtttc(配列番号35)
Model-4R:ctttaaccagacaacccagtgc(配列番号36)
Fab-PRDに使用した、v6.5、v6.5-S3、v6.5-S4、DNA断片のSecM領域以降の配列を、それぞれ配列番号37、40、44に示す。
Monocistronic型Fab-PRDで使用する鋳型DNAにはL鎖-H鎖間とH鎖-SecM間に計2つのリンカー配列が存在し、実施例12のv6.5断片ではL鎖-H鎖間リンカー長が128アミノ酸、 H鎖-SecM間リンカー長が123アミノ酸となっている。Monocistronic型Fab-PRDの濃縮倍率に与えるリンカー長の影響を検討するために、Fab-HH xhoIとFab-TTについてSecM配列を2コピーもつv6.5断片を基本構造とし、H鎖-SecM間リンカー長を最小化したv7断片と、L鎖-H鎖間リンカー長を最小化したv8.1断片を調製した。
v7断片におけるH鎖-SecM間リンカー長は、H鎖の最終アミノ酸のシステインからSecMの先頭アミノ酸のアラニンの間のアミノ酸数を20とした。v8.1断片におけるL鎖-H鎖間リンカー長はL鎖のC末端のシステインからH鎖のN末端のグルタミン酸の間のアミノ酸数を30とした。それぞれの構造で鋳型DNAをTT/HH比=100で混合し、実施例9に記載の固相選択によるFab-PRDでFab-HH xhoIを選択した。得られた逆転写産物をサンプルとしてFab-HHおよびFab-TTの回収率をそれぞれ定量PCRで測定し、濃縮倍率(Fab-HHの回収率/Fab-TTの回収率)を求めた。定量PCRに用いる検出用プライマーはCDR-H3付近の下流域プライマーを使用した。結果を図21に示す。H鎖-SecM間リンカーおよびL鎖-H鎖間リンカーのいずれを最小化した場合でも、実用的な濃縮倍率が確認されたことから、リンカー長に関しては状況に応じて幅広い選択が可能と考えられる。
定量PCRで使用したプライマーを以下に示す。
FabHH用下流域プライマー
HH-4F:ccagggaactttggttactgtttc(配列番号35)
Model-4R:ctttaaccagacaacccagtgc(配列番号36)
Fab-TT用下流域プライマー
TT-5F:gcaccctggttaccgtgag(配列番号49)
Model-4R:ctttaaccagacaacccagtgc(配列番号36)
Fab-PRDに使用した、v7、v8.1、DNA断片のリンカー部分の配列をそれぞれ配列番号50、52に示す。
Fab-HH xhoIとFab-TTのv7断片(実施例13)を鋳型DNAとして調製し、0.125mg/ml yeast RNAと7 x 109分子/μlのFab-HH鋳型DNAを含むキャリア溶液でFab-TT鋳型DNAの10倍希釈系列を調製した。1 x 106 Fab-TT分子の鋳型DNA /μlから1 x 10-5Fab-TT分子の鋳型DNA /μlのDNAサンプルをFab-TT特異的プライマーを用いた1分子PCRで増幅し、PCR産物を5-20%グラジエントPAGEで分離した。鋳型DNAとしてFab-TT分子が1分子以上含まれるPCRからはFab-TT特異的なバンドが検出され、Fab-TT分子が0.1分子以下のPCRからはFab-TT特異的なバンドが検出されないことを確認した。
1分子PCRによる品質確認済みFab-TT鋳型DNAの希釈サンプルから400分子相当を分取し、1x1012分子のFab-HH鋳型DNAに加えた。ここからRNAを合成し、選択前RNAとした。選択前RNAをFab-PRDに投入し、400分子相当のFab-TTの回収を試みた。翻訳反応は20μlスケールで30℃40分とし、反応後1μMのビオチン化TNFαRを含むWBTBR buffer(50mM Tris-HCl pH=7.6, 90mM NaCl, 50mM Mg(OAc)2, 5mg/ml BSA, 1.25mg/ml yeast RNA, 0.5% Tween20, 0.04U/μl RNase Inhibitor)を等量混合し、4℃で一晩静置した。これに25μl分のM-280ストレプトアビジン磁気ビーズビーズペレットを添加しFab-TTを回収した。M-280ビーズからDTTで溶出したRNAを選択後RNAとした。Fab-PRDによる選択前と選択後のRNAを逆転写し、Fab-TT特異的なCDR-H3付近のプライマーでFab-TT断片(図22のレーン1と2)を、さらにFab-HHとFab-TT双方の共通DNA配列を認識するプライマーで CDR-L1からCDR-H3までの重要な遺伝情報を含むコア断片(図22のレーン4と5)を、それぞれRT-PCRで増幅した。コアDNA断片のバンドを5-20%グラジエントゲルから回収し2nd PCRで再増幅した(図22のレーン7と8)。
2nd PCRで得たコアDNA断片を鋳型とし、Fab-TT特異的プライマーを用いたPCRでFab-TT断片を増幅したところ、選択前サンプルのみならず、選択後サンプルからもFab-TT断片が検出されたことから、400分子のFab-TTからコア断片の回収に成功したと考えた。次にこの回収がFab−PRDによる特異的なものであることを確認するために、Fab-TTの濃縮倍率を定量PCRで測定した。Fab-TT断片とコア断片を独立して定量し、濃縮倍率(選択後サンプル中Fab-TT相対量/選択前サンプル中Fab-TT相対量)を算出した結果、選択後コアDNA断片(図22のレーン7)では選択前コアDNA断片(図22のレーン8)に対しFab-TTの含量が582倍上昇していた(濃縮倍率=582倍)。これらの結果から、ライブラリー中に存在する標的結合クローンは少なくとも400分子以上あればFab-PRDで特異的に回収できることが示唆された。この回収率はファージディスプレイ系に匹敵すると考えられる。
使用したプライマーを以下に示す。
Fab-TT特異的プライマー
T1P-F:gttttactattgaacgttatgcgatgggt(配列番号54)
T1P-R:cgtagtacataccgttcgggtagttag(配列番号55)
Fab-HHとFab-TTに共通のコア領域増幅用プライマー
Core-1F:gcgcaagcgttggtgatc(配列番号56)
Core-1R:gctcggacctttggtgcttg(配列番号57)
Fab-PRDの応用例として、モデルFabの一つであるFab-TTの親和性成熟を試みた。抗原抗体の結合界面は100個以上のファンデルワールス力、数個の水素結合や塩橋が存在する。これらの相互作用ネットワークの全体最適化を実現するために、第一段階で親和性向上に有用と思われるCDR中の変異を検索し、第二段階でこれらの変異の最適な組み合わせを検索する、Ymacsと呼ぶ本来的二段階戦略を採用した。
第一段階前半の作業として、Fab-TTのCDRを構成する全50のアミノ酸の1つ1つを20種類のアミノ酸にランダム化しながら、50アミノ酸分のCDRポジションをマトリクススキャンするためのライブラリー(Ymacs-1次ライブラリー)を構築した。
まずFab-TTのCDRを構成する全50のアミノ酸を1つずつNNKコドンで置換するための1アミノ酸置換導入forwardプライマーを全50種類合成した。これら1アミノ酸置換導入forwardプライマーはNNKコドンの上流に15bp、下流に12bpのアニーリング領域をもつよう設計した。例として50箇所の1アミノ酸置換導入部位の最上流部位と最下流部位に対応するプライマーを以下に示す。
FabTT Ymacs-1 L1-1:tgtcgtgcaagccagNNKattaaaaattat(配列番号58)(L鎖CDR1の1番目のアミノ酸に1アミノ酸置換を入れるためのプライマー)
FabTT Ymacs-1 H3-12:atgtactacgttatgNNKtattggggtcag(配列番号59)(H鎖CDR3の12番目のアミノ酸に1アミノ酸置換を入れるためのプライマー)
pGAv6.5-Fab-TTを鋳型とし上記50種類の1アミノ酸置換導入forwardプライマーをPURE-3Rプライマーと組み合せたPCRで50種類の変異導入下流DNA断片を独立して合成した。PCR産物を1%アガロースゲルで分離後、エチジウムブロマイド染色でバンドを確認した。次に変異導入下流DNA断片のreverse鎖を上流方向に伸長させて全長化する反応で鋳型となる、共通の定常配列上流DNA断片をPCRで合成した。定常配列上流DNA断片は、自身のforward鎖が全長化するのを回避する目的で3末端側にミスアニール領域をもつよう、PURE-rt-1F とH3checkR Not TA6をプライマーとしたPCRで合成し、PCR産物を1%アガロースゲルで分離後、エチジウムブロマイド染色でバンドを確認した。
PURE-rt-1F:caatttcggtaatacgactcactatagggagaatttaggtgacactatagaagtg(配列番号60)
H3checkR Not TA6:tatatatatatagcggccgcagaactgccggaaaggtatg(配列番号61)
1ポジション1アミノ酸置換ライブラリーをL鎖とH鎖にグループ化して等量混合し、L鎖Ymacs-1次ライブラリー、H鎖Ymacs-1次ライブラリーとした。図24に示すように、Ymacs-1次ライブラリーはそれぞれL鎖は19種類、H鎖は31種類の1ポジション1アミノ酸置換ライブラリーから構成される。
第一段階後半の作業として、L鎖とH鎖のYmacs-1次ライブラリーを独立してFab-PRDで濃縮し、得られたDNAサンプルの次世代シークエンス解析結果から、CDR中の有用と思われる変異を同定した。
Fab-PRDによるYmacs-1次ライブラリーの濃縮は実施例9で示した固相選択と実施例14で示した液相選択を併用した。ラウンド1では固相選択を実施し、ラウンド2では固相選択後、長時間(13h)の洗浄を実施した。最終ラウンドのラウンド3ではベイト濃度1nMで液相選択を実施した。全ラウンド1x1012分子のRNAを20μlスケールで翻訳した。逆転写PCRでは実施例14で示したコアDNA断片を回収した。コアDNA断片に適当な上流断片、下流断片を加え、PURE-rt-1FとPURE-3Rをプライマーとしたoverlapping extension-PCRで全長DNA断片を合成し、これを精製後に次のラウンドの鋳型DNAとして使用した。
ラウンド3で得られたコアDNA断片のL鎖、H鎖それぞれのCDR1-3領域の塩基配列をRoche GS FLX次世代シークエンサーで解析し、L鎖ライブラリー由来サンプルからL鎖CDR1-3配列1812リード、H鎖ライブラリー由来サンプルからH鎖CDR1-3配列2288リードの塩基配列データを回収した。この中から、CDR1-3領域において連続したORFをもつ、L鎖468リード、H鎖1293リードを有効リードとして選抜し、CDRを構成するL鎖19アミノ酸、H鎖31アミノ酸、合計50アミノ酸分のCDRポジションにおける変異を集計した。各変異のカウント数を、20種類のアミノ酸を縦方向、合計50のCDRポジションを横方向に配したマトリクス表にまとめ図25に示した。各CDRポジションにおける親アミノ酸は除外し、カウント数が大きい変異をポテンシャルな有用変異とした。
第二段階前半の作業として、実施例16で同定した有用変異を組み合わせることで、Ymacs-2次ライブラリーを構築した。有用変異として計12のCDRポジションにおける計21の変異を採用し、各CDRポジションで親アミノ酸と有用変異アミノ酸をコードできる混合塩基コドンを決定した。混合塩基コドンによっては、親アミノ酸と有用変異アミノ酸以外の意図しないアミノ酸が入る。採用した有用変異と混合塩基コドンを図26にまとめた。Ymacs-2次ライブラリーの理論多様性は核酸レベルで1.9 x 107、蛋白質レベルで4.9 x 106となる。12のCDRポジションは6つのCDR全てに分散したため、1つのCDRごとに計6つの変異導入forwardプライマーを合成した。これらを用いて図27に示す断片2から断片7の計6本の変異導入DNA断片を合成し、これに断片1を加えた計7本のDNA断片をoverlapping extension反応による連結で全長化し、PCR反応で増幅した。得られたPCR産物を精製後、設計通りの混合塩基で変異導入部位がランダム化されていることを確認し、Ymacs-2次ライブラリーとした。
以下に変異導入forwardプライマーを示した。
FabTT Ymacs-2 L1-Fwd : tgtcgtgcaagccaggatattaaaaattatttgWCTtggtatcaacaacaa(配列番号62)(L鎖CDR1)
FabTT Ymacs-2 L2-Fwd : gccccgaagccactgatttatGSTggttctaaccgccaatctggagttcct(配列番号63)(L鎖CDR2)
FabTT Ymacs-2 L3-Fwd : acctattattgccaacaaactKMTRNMtaccctatcacctttggccag(配列番号64)(L鎖CDR3)
FabTT Ymacs-2 H1-Fwd : agctgtgcagcaagcggttttASAattGRGcgttatgcgatgRSTtgggtgcgtcaggct(配列番号65)(H鎖CDR1)
FabTT Ymacs-2 H2-Fwd : ggcctggaatgggttggtacgatttatcctKDSRSCgattatRBYgattatgccgatagc(配列番号66)(H鎖CDR2)
FabTT Ymacs-2 H3-Fwd : tactactgcgctcgctctaactacccgaacggtMTGKRCtacgttatggaatat(配列番号67)(H鎖CDR3)
第二段階後半の作業として、Ymacs-2次ライブラリーをFab-PRDで濃縮し、得られたDNAを大腸菌の分泌発現ベクターにクローン化した。ELISAおよびSPR(ProteOn XPR36、BioRad社)で高親和性クローンを絞込み、Fab-TT変異体の代表2クローン(図29〜32中のYmacs#10、 #19)のKDをKinExA(KinExA3200、Sapidyne社)で測定した。
Fab-PRDによるYmacs-2次ライブラリーの濃縮は全5ラウンドを液相選択にて実施した。ラウンド1から5にかけてベイト濃度を、100nM、60nM、20nM、1nM、100pMまたは10pMと徐々に下げることで、選択圧を上げていった。ラウンド5で回収したコアDNA断片を、monocistronicなscFab-HH発現ベクター中のFab-HHのコア領域と置換する形でクローン化した(図28)。ランダムにピックアップした48クローンの培養上清を用いてTNFαR を抗原としたELISAを実施した。ELISAのヒット率が50%程度であることを確認した後、残りの数百コロニーをポリクローナルな状態で一括して回収しプラスミドを精製した。このプラスミドがコードするscFab-TT変異体のL鎖-H鎖間のGSリンカーの領域を、Bicistronic発現用の非翻訳配列-分泌シグナル断片で置換することで、発現様式をmonocistronic 型からBicistronic型に変換した(図28)。この操作によりscFabではなく天然型FabとしてFab-TT変異体を発現するベクターを構築し、再度クローン化した。ランダムにピックアップした96クローンの培養上清を用いてTNFαR を抗原としたELISAを実施し、ELISAのヒットクローンについてCDRの配列を決定した(図29)。ELISAヒットクローンについては結合時間1分、解離時間30分のSPRによるスクリーニングを実施し、Koffを指標に高親和性クローンを絞り込んだ(図30)。親FabのFab-TTと、親和性向上変異体であるYmacs #10について、SPRによる親和性測定を試みた結果、Fab-TTがKD = 7.28 x 10-9、Ymacs #10がKD < 1.57 x 10-11とそれぞれ算出され、約460倍の親和性向上が観察された(図31)。次に高度に親和性が向上しているYmacs#10およびYmacs #19の2クローンについてKinExAでの親和性測定を試みた結果、Ymacs #10がKD = 1.87 x 10-11、Ymacs #19がKD = 3.45 x 10-12とそれぞれ算出され、Ymacs #19で約2100倍の親和性向上が観察された(図32)。
KinExAによるYmacs #19のKD測定実験は、35pMと350pMの2つのFab濃度で実施した。抗原であるTNFαRの濃度は35pMのFabに対し2nMから976fMまでの2倍希釈系列、また350pMのFabに対し5nMから2.44pMまでの2倍希釈系列とした。抗原抗体反応が平衡に達するまでサンプルを室温で48時間インキュベートし、TNFαR 固相化アズラクトンビーズを用いたKinExAで平衡到達後のフリーのFabの存在率を定量した。フリーのFabの存在率(縦軸)を抗原濃度(横軸)に対してプロットし、Fabの濃度ごとに2本の用量-反応曲線を描いた。これをKinExA Pro Softwareでグローバルフィッティング処理しKDを算出した。
Odegripらの報告(Odegrip et al., Proc Natl Acad Sci U S A. (2004) vol. 101, p. 2806-2810)を参考にCISディスプレイ法によるFabの選択を試みた。図8のように、v7断片中のscFabコード領域の上流および下流にそれぞれ、大腸菌RNAポリメラーゼ用プロモータ配列およびRepA-CIS-ori配列をoverlapping extension-PCRで付加しv10.1断片とした。RepAコード配列はOdegripらが報告した配列とGenBank V00351の配列が異なっていたため、V00351の配列を採用した。Fab-HH xhoI とFab-TTのv10.1断片をTT/HH比=10で混合したものをin vitro転写翻訳反応の鋳型DNAとした。精製済み鋳型DNA(1.2μg)を大腸菌由来S30ベースの転写翻訳系(25μL、大腸菌SL119株由来、直鎖DNA用、L1030、Promega社)に投入し、30℃40分でディスプレイ分子複合体を合成した。翻訳反応後はOdegripらの報告を参考に、実施例14と同様の液相選択でFab-HHを回収し、溶出したDNAを鋳型とし、Cis-1FとCis-6RをプライマーとしたPCRで全長断片を増幅した。XhoI感受性を指標とした実施例10と同様の評価系で、CISディスプレイ法によるFab-HH選択系の動作確認を実施した。結果を図33に示す。選択前のDNAサンプルと比較し、ビオチン化Her-2を添加せずに選択を実施した場合はXhoI感受性の増加が認められなかった。一方で、ビオチン化Her-2を添加して選択を実施した場合、XhoI感受性の増加が認められた。これらの結果から、Fab-HHが特異的に濃縮されたことがわかる。
さらに、Fab-HH xhoIとFab-TTのv10.1断片をTT/HH比=100で混合したものを用いて同様の実験を実施し最適な転写翻訳時間を検討した。結果を図34に示す。検討した全ての転写翻訳時間においてFab-HHの特異的な濃縮は認められたが、転写翻訳時間10分では不十分であった濃縮倍率が転写翻訳時間20分〜40分にかけて十分高まり、転写翻訳時間80分〜120分にかけて次第に低下する傾向を示した。これらの結果から、転写翻訳時間として20分〜40分が最適と考えられた。
v10.1断片の全長増幅用プライマーの配列を以下に示す。
Cis-1F
cagttgatcggcgcgagatttaatcgccgc(配列番号68)
Cis-6R
cgtaagccggtactgattgatagatttcaccttacccatc(配列番号69)
Claims (27)
- Fab第1鎖コード配列とFab第2鎖コード配列を含み、リボゾームを含む無細胞翻訳系に導入されたときに自身がコードするFabを解離させることなく発現し、該Fabとの複合体を維持しうるポリヌクレオチド構築物であって、リボゾーム結合配列、Fab 第1鎖コード配列、リンカーペプチドコード配列、Fab 第2鎖コード配列、および足場コード配列をこの順にモノシストロニックに含み、その3’末端に自身がコードするFabとの複合体を維持す
るために必要な構造を有し、当該自身がコードするFabとの複合体を維持するために必要
な構造は、2個以上繰り返されたSecM配列、またはDNA結合蛋白質コード配列と該DNA結合蛋白質の結合配列であり、当該DNA結合蛋白質が配列番号71のアミノ酸番号595〜8
78のアミノ酸配列を有するRepAである、前記ポリヌクレオチド構築物。 - 2個以上繰り返されたSecM配列の3’側に終止コドンが存在する、請求項1に記載のポリヌクレオチド構築物。
- Fab第1鎖コード配列とFab第2鎖コード配列を含み、リボゾームを含む無細胞翻訳系に導入されたときに自身がコードするFabを解離させることなく発現し、該Fabとの複合体を維持しうるポリヌクレオチド構築物であって、リボゾーム結合配列、Fab 第1鎖コード配列またはFab 第2鎖コード配列、および足場コード配列をこの順に含む、Fab 第1鎖発現シストロンおよびFab 第2鎖発現シストロンを含み、Fab 第1発現シストロンはその3’末端にリボゾームストール配列を有し、Fab 第2鎖発現シストロンはその3’末端に自身がコードするFabとの複合体を維持するために必要な構造を有するポリヌクレオチド構築物
。 - 自身がコードするFabとの複合体を維持するために必要な構造は、リボゾームストール配
列、ピューロマイシンもしくはその誘導体、またはDNA結合蛋白質コード配列と該DNA結合蛋白質の結合配列である、請求項3に記載のポリヌクレオチド構築物。 - 自身がコードするFabとの複合体を維持するために必要な構造は、リボゾームストール配
列である、請求項3または4に記載のポリヌクレオチド構築物。 - リボゾームストール配列がSecM配列、ジプロリン配列、またはこれらの両方である、請求項3〜5のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド構築物。
- リボゾームストール配列がSecM配列の2〜4個の繰り返しである、請求項3〜6のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド構築物。
- リボゾームストール配列の3’側に終止コドンが存在する、請求項3〜7のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド構築物。
- 自身がコードするFabとの複合体を維持するために必要な構造が、ピューロマイシンもし
くはその誘導体である、請求項4に記載のポリヌクレオチド構築物。 - 自身がコードするFabとの複合体を維持するために必要な構造が、DNA結合蛋白質コード配列と該DNA結合蛋白質の結合配列である、請求項4に記載のポリヌクレオチド構築物。
- DNA結合蛋白質が、転写翻訳時に鋳型となったDNA分子と、転写翻訳反応中に解離することなく、同一DNA分子上に存在する該DNA結合蛋白質の結合配列と結合するシス型結合蛋白質である、請求項10に記載のポリヌクレオチド構築物。
- DNA結合蛋白質がRepAである、請求項10に記載のポリヌクレオチド構築物。
- Fab 第1鎖コード配列およびFab 第2鎖コード配列がランダム配列を含むライブラリーである、請求項1〜12のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド構築物。
- ランダム配列を含むライブラリーが、(i)ナイーブライブラリーまたは(ii) フォーカスドライブラリーである、請求項13に記載のポリヌクレオチド構築物。
- ランダム配列を含むライブラリーが、Fab 第1鎖および/またはFab 第2鎖の相補性決定領域(CDR)内に1アミノ酸置換を含むライブラリーである、請求項13または14に記
載のポリヌクレオチド構築物。 - (i)請求項1〜15のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド構築物を、Fabを該ポリヌクレオチドから解離させることなく発現し、該Fabと該ポリヌクレオチドとの複合体を維
持させうる無細胞翻訳系に導入してFabを合成し、合成されたFabをそれをコードするポリヌクレオチド上に提示する工程、
(ii)ポリヌクレオチド上に提示されたFabを抗原と接触させる工程、
(iii)抗原と反応する目的Fabを選択する工程、および
(iv)目的Fabをコードするポリヌクレオチドを増幅する工程を含む、Fabのスクリーニング方法。 - (I)Fab 第1鎖コード配列またはFab 第2鎖コード配列が、親抗体のFab 第1鎖またはFab 第2鎖のアミノ酸配列においてCDR内の1つの位置に対して1アミノ酸置換を含むアミ
ノ酸配列をコードする、請求項15に記載のポリヌクレオチド構築物を、Fab 第1鎖およびFab 第2鎖のCDR内の複数の位置に対して1アミノ酸置換が含まれるように複数種類用意する工程、
(II)該複数種類のポリヌクレオチド構築物を用いて前記工程(i)〜(iv)を繰り返し
て高親和性Fabを複数スクリーニングする一次スクリーニング工程、
(III)一次スクリーニング工程で選択された複数のFabにおけるFab 第1鎖およびFab 第
2鎖のCDR内の各位置での1アミノ酸置換を解析する工程、
(IV)Fab 第1鎖コード配列およびFab 第2鎖コード配列が、親抗体のFab 第1鎖およびFab 第2鎖の配列においてCDR内の各位置に一次スクリーニングで同定された1アミノ酸置換の組み合わせを含むアミノ酸配列をコードする、請求項15に記載のポリヌクレオチド構築物を用意する工程、
(V)該ポリヌクレオチド構築物を用いて前記工程(i)〜(iv)を繰り返して高親和性Fabをスクリーニングする二次スクリーニング工程
を含む、請求項16に記載のFabのスクリーニングを行う方法。 - 無細胞翻訳系が、独立に精製された因子からなる、請求項16または17に記載の方法。
- 無細胞翻訳系が、開始因子、伸長因子、アミノアシルtRNA合成酵素、およびメチオニルtRNAトランスフォルミラーゼからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む、請求項18に記載の方法。
- 無細胞翻訳系が解離因子を含まない、請求項18または19に記載の方法。
- 無細胞翻訳系が、リボゾームを含む細胞抽出液である、請求項16または17に記載の方法。
- 請求項1〜15のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド構築物を、Fabを該ポリヌクレ
オチドから解離させることなく発現し、該Fabと該ポリヌクレオチドとの複合体を維持さ
せうる無細胞翻訳系に導入してFabと前記ポリヌクレオチド構築物の複合体を生成させる
工程を含む、Fabとポリヌクレオチド構築物の複合体の製造方法。 - 請求項1〜15のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド構築物を含む、Fabを製造また
はスクリーニングするためのキット。 - (I)標的物質結合蛋白質における標的物質結合部位を構成する全アミノ酸ポジションに
ついて、1アミノ酸ポジションごとに天然アミノ酸全20種類にランダム化する1ポジショ
ンライブラリーを、アミノ酸ポジションの数だけ構築する工程、
(II)これらの1ポジションライブラリーを全てあるいは適当な単位で統合して1次ライブラリーを構築する工程、
(III)蛋白質ディスプレイ系を用いて1次ライブラリーを標的親和性で濃縮する工程、
(IV)1次ライブラリー濃縮サンプルのポリヌクレオチド配列情報を決定する工程、
(V)塩基配列情報から高頻度に観察される1アミノ酸置換を抽出する工程、
(VI)高頻度に観察される1アミノ酸置換の組み合わせを含む2次ライブラリーを構築する工程、および
(VII)蛋白質ディスプレイ系を用いて2次ライブラリーを標的親和性で濃縮する工程、
を含む、標的物質結合蛋白質の標的物質親和性を最大化する方法。 - 1次ライブラリー濃縮サンプルのポリヌクレオチド配列情報を決定する工程が次世代シー
クエンサーを用いて行われる、請求項24に記載の方法。 - 標的物質結合蛋白質が完全長抗体あるいは抗体断片であり、標的物質結合部位がCDR領域
である、請求項24または25に記載の方法。 - 蛋白質ディスプレイ系が、リボゾームディスプレイ、CISディスプレイ、mRNAディスプレ
イ、ファージディスプレイ、バクテリア表面ディスプレイ、酵母細胞表面ディスプレイ、または高等真核生物の細胞表面ディスプレイである、請求項24〜26のいずれか一項に
記載の方法。
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