JP4931135B2 - リボソームディスプレイ - Google Patents

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本発明は、リボソームディスプレイ(Ribosome display)に関する。
近年、ヒトをはじめとした各種生物のゲノム情報解析により、膨大な数の遺伝情報が蓄積されつつある。これらの情報は生命が作り上げてきた膨大な遺伝子ライブラリーである。ポストゲノム研究においては、その中から目的の機能を持つ蛋白質(ポリペプチド)の遺伝情報を高精度で迅速に選択する技術の構築が強く望まれている。そのための方法論の1つがディスプレイ技術である。ディスプレイ技術とは、機能を担うポリペプチド(表現型)とそれをコードする核酸(遺伝型)が対応付けられている状態において、遺伝子ライブラリーをスクリーニングし、標的物質と特異的に結合するなどの特定の機能を有するポリペプチドをコードしている核酸を選択する技術をいう。
ディスプレイ技術を実用化するための方法として、1985年にG. Smithらが報告したファージディスプレイ(非特許文献1)が主流である。ファージディスプレイは、主として繊維状ファージ(filamentous phage)のコート蛋白質に外来蛋白質を融合蛋白質として発現させ、目的の外来蛋白質をコードしている核酸を選択する技術である。本方法は、抗原分子に特異的に結合する抗体の選択等に現在最も広く用いられている(非特許文献2)。
しかしながら本方法は、ファージを増幅させる際に大腸菌の形質転換を行うステップが必要である。この過程で、ライブラリーの大きさは大腸菌によって維持しうる範囲に制限される。大腸菌によって増殖できるファージの数には限界があるので、例えば108を超える多様性を持ったライブラリーを増殖させることは困難と考えられている。また、蛋白質への翻訳を大腸菌に依存する限り、宿主である大腸菌に有害な蛋白質の発現効率は著しく低下する。さらに、選択の後に変異を導入する場合、一度遺伝子を取り出し変異を導入した後、再び大腸菌を形質転換する過程を経なければならない。このため、ファージディスプレイは1回の変異と選択のプロセスに1週間程度を必要とする。
上記の問題を改善するため、in vitro 翻訳系を利用したin vitro分子選択系が開発された。in vitro分子選択系は、ファージディスプレイに比べ、多くの利点を有している。in vitro分子選択系において期待できる利点を以下に示す。
(1) 生細胞を用いることによる制限がないため、分子種1013以上という多様性の高いライブラリーを使用することができる。
(2) 生細胞では発現が困難な細胞毒性のある蛋白質でも合成および提示することができる。
(3) 合成、提示もしくは選択する蛋白質(ポリペプチド)に非天然アミノ酸を容易に導入できる。このため、天然アミノ酸だけでは作ることのできない新しい機能分子を創出することができる。
(4) 分子シャペロンなどの外来性因子を添加することによって、提示する蛋白質の高次構造形成を促進し、活性を向上させることができる。
(5) スクリーニングに要する時間が短縮される。例えば、わずか1から2日で変異と選択のプロセスを行うことができる。
in vitro 翻訳系を利用したin vitro分子選択系として、リボソームディスプレイ(特許文献1-8, 非特許文献3)やmRNAディスプレイ(非特許文献4, 5)など、いくつかの方法が開発されている。そのうち、リボソームディスプレイは、翻訳反応中に形成されるmRNA-リボソーム-ポリペプチドから成る三者複合体の形でポリペプチド(蛋白質)を提示させる技術である。三者複合体の形成により、遺伝子産物と遺伝情報のリンクが実現される。そのため、リボソームディスプレイにおいては、目的のスクリーニングが終了するまで、このmRNA-リボソーム-ポリペプチド三者複合体が安定的に維持されることが重要である。
リボソームディスプレイは、分子進化工学の分野において理想的な特徴を、理論上は有しているにもかかわらず、現在まであまり一般化していない。主な理由として、細胞抽出液を用いたin vitro 翻訳系が、リボソームディスプレイに利用されていたことが挙げられる。例えば、大腸菌S30抽出液、もしくはウサギ網状赤血球ライセートを用いたin vitro 翻訳系が利用されてきた。これらの細胞抽出液には、蛋白質合成反応に無関係な夾雑物も多量に存在しているが、リボソームディスプレイでは、特に、核酸分解酵素(ヌクレアーゼ)の混入が大きな問題となった。すなわち、核酸分解酵素によって、翻訳反応前にmRNA(遺伝情報)が分解されると遺伝情報が失われてしまう。また、ポリペプチドへの翻訳後であっても、mRNAの分解によって遺伝子産物(ポリペプチド)と遺伝情報のリンクが失われることとなる。いずれにせよ、核酸分解酵素の存在は、リボソームディスプレイにおける重大な脅威である。
2004年、A. C. Forsterらは、前もってアミノアシル化した数種類のtRNAと精製した一部の翻訳因子から再構成した蛋白質合成系によるリボソームディスプレイを報告した(特許文献9、10、非特許文献6)。しかし、これはメチオニン、トレオニン、およびバリンのわずか三種類のアミノ酸からなるペプチドを提示させた系であった。そのため、この系は全く実用的ではなく、リボソームディスプレイとしての効率も非常に低いものだった。
さらに、2006年、D. Villemagneらは、本発明者らが開発したPURE(Protein synthesis Using Recombinant Elements)システム(特許文献11,12、非特許文献7)を利用したリボソームディスプレイで単鎖抗体(scFv、後述)の選択を行った(非特許文献8)。PUREシステムは、大腸菌において蛋白質合成に必要な因子及び酵素を個別に精製し、混合した再構成in vitro 翻訳系である。PUREシステムは、細胞抽出液に含まれるような夾雑物がほとんど含まれない、反応系の至適が容易である等の特長を有したin vitro 翻訳系である。
しかしながら、従来のPUREシステムは、蛋白質を試験管内で合成するために開発されたものである。したがって、各因子の組成などは、蛋白質の合成および合成産物の精製を効率よく行なえるようにデザインされている。また、核酸分解酵素などの夾雑物の排除は必ずしも完全とはいえなかった。上述のように、リボソームディスプレイにおいては、蛋白質の合成のみならずmRNA-リボソーム-ポリペプチドから成る三者複合体の安定的維持が要求される。そのため、さらなる系の改良や因子の最適化が必要であった。
米国特許第5658754号明細書 米国特許第5643768号明細書 特許第3127158号公報 国際公開第01/75097号パンフレット 米国特許第6348315号明細書 特表2001-521395号公報 米国特許第6620587号明細書 特表2002-500514号公報 米国特許第6977150号明細書 特表2004-531225号公報 米国特許第7118883号明細書 特表2003-102495号公報 G. P. Smith et al., Science (1985) vol.228, p.1315-1317 J. McCafferty et al., Nature (1990) vol.348, p.552-554 L.C. Mattheakis et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1994) vol.91, p.9022-9026 R. W. Roberts et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1997) vol.94, p.12297-12302 N. Nemoto et al., FEBS Lett. (1997) vol.414, p.405-408 A. C. Forster et al., Anal. Biochem. (2004) vol.333, p.358-364 Y. Shimizu et al., Nat. Biotechnol. (2001) vol.19, p.751-755 D. Villemagne et al., J. Immunol. Methods (2006) vol.313, p.140-148
本発明は、ライブラリーから目的の機能を持つ蛋白質をコードする核酸を選択するための新たな方法の提供を課題とする。さらには、該方法を提供するために必要なin vitro翻訳系(in vitro translation system)のための組成物を提供すること、および該方法並びに組成物に適したリボソームを製造する方法の提供を課題とする。
本発明者らは、リボソームディスプレイの最適化のためには、鋳型となるmRNA、およびmRNA-リボソーム-ポリペプチドから成る三者複合体の多様性の安定的維持が重要であろうと予測した。さらにmRNAを、それによってコードされるポリペプチド(蛋白質)の機能に基づいて効率的に回収するためには、両者の割合を考慮した蛋白質合成システムを構築する必要があると考えた。そして、これらの条件を最適化しうるリボソームの調製技術、及びポリペプチドへの翻訳条件を明らかにして本発明を完成した。すなわち本発明は、以下の方法並びに組成物に関する。
〔1〕次の工程を含む標的物質と結合するポリペプチドをコードする核酸の単離方法であって、in vitro翻訳系を構成するリボソームが、独立に精製されたリボソームである単離方法、
(a) in vitro 翻訳系においてmRNAをポリペプチドに翻訳し、当該mRNAとポリペプチドを含む複合体を形成する工程、
(b) (a)で形成された複合体を標的物質と接触させる工程、および、
(c) 標的物質に結合した複合体を回収し、回収された複合体を構成するmRNAまたはそのcDNAを、標的物質と結合するポリペプチドをコードする核酸として単離する工程。
〔2〕in vitro 翻訳系が、ヌクレアーゼ活性を実質的に含まない〔1〕に記載の方法。
〔3〕in vitro翻訳系が、独立に精製された因子のみからなるin vitro翻訳系である〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕in vitro翻訳系が、開始因子、伸長因子、解離因子、アミノアシルtRNA合成酵素、およびメチオニルtRNAトランスフォルミラーゼからなる群から選択される、少なくとも1つの成分を含むin vitro翻訳系である〔3〕に記載の方法。
〔5〕in vitro翻訳系を構成するリボソームが、ヌクレアーゼ活性を実質的に含まない精製リボソームである〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕in vitro翻訳系を構成するリボソームが、次の工程によって精製されたリボソームである〔5〕に記載の方法、
(a) 細胞を破砕し、粗抽出液を回収する工程、
(b) 回収された粗抽出液の塩析処理で生成する沈殿から上清を分離する工程、
(c) 分離された上清を疎水性相互作用カラムクロマトグラフィーで分画する工程、および
(d) 分画中、リボソームを含む分画から超遠心により、リボソームを沈殿として単離する工程。
〔7〕細胞が原核生物である〔6〕に記載の方法。
〔8〕細胞が大腸菌である〔7〕に記載の方法。
〔9〕mRNAとポリペプチドを含む複合体を、mRNAがポリペプチドコード配列の3'末端側に終止コドンを含み、かつ解離因子を含まないin vitro翻訳系においてmRNAをポリペプチドに翻訳する工程によって形成する〔1〕から〔8〕のいずれかに記載の方法。
〔10〕in vitro翻訳系を構成する翻訳すべきmRNAとリボソームのモル比が、1:5〜1:15である〔1〕から〔9〕のいずれかに記載の方法。
〔11〕in vitro翻訳系におけるmRNAの濃度が、0.01〜0.5μMである〔10〕に記載の方法。
〔12〕in vitro翻訳系におけるmRNAの濃度が、0.015〜0.1μMである〔11〕に記載の方法。
〔13〕in vitro翻訳系におけるリボソームの濃度が、0.1〜2μMである〔10〕に記載の方法。
〔14〕in vitro翻訳系におけるリボソームの濃度が、0.15〜1μMである〔13〕に記載の方法。
〔15〕ポリペプチドをコードする核酸が、ライブラリーである〔1〕から〔14〕のいずれかに記載の方法。
〔16〕標的物質が、固相に結合しているか、または固相に捕捉される結合パートナーで標識されている〔1〕から〔15〕のいずれかに記載の方法。
〔17〕in vitro翻訳系のための組成物であって、独立に精製されたリボソームを含む組成物。
〔18〕ヌクレアーゼ活性を実質的に含まない〔17〕に記載の組成物。
〔19〕独立に精製された因子からなる〔18〕に記載の組成物。
〔20〕独立に精製された因子が、開始因子、伸長因子、解離因子、アミノアシルtRNA合成酵素、およびメチオニルtRNAトランスフォルミラーゼからなる群から選択される、少なくとも1つの成分を含む〔19〕に記載の組成物。
〔21〕in vitro翻訳系を構成するリボソームが、ヌクレアーゼ活性を実質的に含まない精製リボソームである〔17〕から〔20〕のいずれかに記載の組成物。
〔22〕in vitro翻訳系を構成するリボソームが、次の工程によって精製されたリボソームである〔21〕に記載の組成物、
(a) 細胞を破砕し、粗抽出液を回収する工程、
(b) 回収された粗抽出液の塩析処理で生成する沈殿から上清を分離する工程、
(c) 分離された上清を疎水性相互作用カラムクロマトグラフィーで分画する工程、および
(d) 分画中、リボソームを含む分画から超遠心により、リボソームを沈殿として単離する工程。
〔23〕細胞が原核生物である〔22〕に記載の組成物。
〔24〕細胞が大腸菌である〔23〕に記載の組成物。
〔25〕次の工程を含む精製リボソームの製造方法、
(a) 細胞を破砕し、粗抽出液を回収する工程、
(b) 回収された粗抽出液の塩析処理で精製する沈殿から上清を分離する工程、
(c) 分離された上清を疎水性相互作用カラムクロマトグラフィーで分画する工程、および
(d) 分画中、リボソームを含む分画から超遠心により、リボソームを沈殿として単離する工程。
〔26〕細胞が原核生物である〔25〕に記載の方法。
〔27〕細胞が大腸菌である〔26〕に記載の方法。
本発明によって、リボソームディスプレイに使用するin vitro翻訳系を構成するリボソームの製造方法が改良された。すなわち、本発明によって調製したリボソーム画分に残存するヌクレアーゼ活性が大幅に低減した。また、in vitro翻訳系を構成するリボソーム量と鋳型となる核酸の量比、濃度を最適化し、遺伝子ライブラリーから目的の蛋白質の遺伝情報を選択する方法に最適化されたin vitro翻訳系を確立した。この結果、特定の機能を有するポリペプチド(蛋白質)の遺伝情報を高精度かつ迅速に単離することができるようになった。
具体的には、まずin vitro翻訳系に混入する原料由来のヌクレアーゼ活性を排除したことによって、mRNAの分解を防ぐことができた。更に、in vitro翻訳系を構成するリボソーム量と鋳型となる核酸の量比や濃度の最適化によって、mRNA-リボソーム-ポリペプチド複合体に占める両者の割合を、mRNAの回収量が改善される範囲に調節することに成功した。
発明の詳細な説明:
リボソームディスプレイを用いて効率的な蛋白質(ポリペプチド)またはペプチドのスクリーニングシステムを構築するには、ヌクレアーゼ活性の影響を受けないin vitro 翻訳系を用いることが望ましい。この点において、本発明者らが開発したPUREシステムは、蛋白質合成に必須の因子のみから再構成されたin vitro 翻訳系であることから理想的なツールといえる。現在実用化されているPUREシステムにおけるヌクレアーゼ活性は、従来の大腸菌S30抽出液を使用したin vitro 翻訳系と比較して実質的に低減していたが、まだ少量のヌクレアーゼ活性が残存していた。しかし本発明者らは、さらなる分析により、残存ヌクレアーゼ活性は、主にリボソーム調製物に由来することを明らかにした。
in vitro翻訳系にヌクレアーゼ活性が残存していても、1種類のmRNAから蛋白質合成を行うことが目的である場合には、大きな問題とはならない。合成産物である蛋白質を回収することが目的であり、mRNAが完全に維持される必要は無いためである。無論、蛋白質の回収量を増やすためには、mRNAの分解は避けるべきである。しかし、蛋白質の生産を目的とする場合には、基本的に翻訳すべきmRNAは1種類であり、そのうちの一部が失われたとしても、蛋白質の合成量が低下するという量的な問題になる。そのため、十分量のmRNAを供給することによって、蛋白質の収量の低下を防ぐことが可能である。一方、リボソームディスプレイにおいては、通常、多様性(diversity)を有するmRNAの集団(ライブラリー)から蛋白質が合成される。つまりリボソームディスプレイにおいては、多数の異なるmRNAを維持しなければならないため、残存するヌクレアーゼ活性によるmRNAの分解は、スクリーニングの質の低下につながりかねない重要な問題である。
例えば、大規模なmRNAライブラリーにおいては、1010を超える高度な多様性が求められることも少なくない。このような大規模なライブラリーのスクリーニングにおいて、ヌクレアーゼによるmRNAの分解は、ライブラリーの多様性を損なう可能性がある。例えば、本来スクリーニングによって選択されるべき遺伝情報が、mRNAの分解によって失われるおそれがある。分解によって失われるmRNAの割合が大きければ、ライブラリーの多様性を有効に活かすことができない。このように、複数種類のmRNAを翻訳するときには、mRNAの分解は翻訳生成物の質的な問題につながる重要な問題である。
また、in vitro翻訳系内のmRNAとリボソームとの濃度比も、効率的なリボソームディスプレイを行なううえで重要な条件である。mRNA濃度に対するリボソーム濃度が高いin vitro翻訳系においては、一本のmRNAに複数のリボソームが連結したポリソームという構造が形成される。ポリソーム構造は、目的の蛋白質を得ることを目的とするときには本質的な問題とはならない。目的とする蛋白質を得ることさえできれば、mRNAとの量的な関係は無視しうるためである。しかし、リボソームディスプレイでは、リボソーム、mRNA、およびポリペプチドからなる複合体の形成および回収が目的である。すなわち、リボソームディスプレイにおいては、標的物質に結合するポリペプチドとリボソームを介して複合体を形成しているmRNAを回収しなければならない。複合体の回収にあたり、一本のmRNAに対し、多数のポリペプチドを形成するポリソーム構造は必ずしも良い影響を与えない。
具体的には、ポリソーム構造においては、三者複合体におけるmRNA一本あたりの提示蛋白質数が増える。その結果、mRNA-リボソーム-ポリペプチド三者複合体と、標的物質とのみかけの結合定数が大きくなる。すなわち、単独では結合が弱い蛋白質(ポリペプチド)をコードするmRNAも回収される可能性が大きくなる。リボソームディスプレイでは、結合が強い蛋白質をコードする核酸を選択、回収することを目的とすることが多いため、このように、見かけの結合定数が大きくなることは避けなければならない。また、ポリソームでは、隣接するリボソームからの新生ポリペプチドどうしの距離が近づくため、凝集する可能性が高くなると考えられる。これらのことから、リボソームディスプレイでは、できるだけポリソーム構造を避けるのが望ましいと考えられる。
これらの問題を解決するために、本発明者らは、まずin vitro翻訳系に混入するヌクレアーゼ活性の由来について検討した。その結果、ヌクレーゼ活性が、主にリボソーム画分によってin vitro翻訳系に持ち込まれていることを明らかにした。更に、ヌクレアーゼ活性を実質的に含まないリボソーム画分の使用により、in vitro翻訳系を利用するリボソームディスプレイにおけるヌクレーゼ活性の影響をきわめて小さくできることを見出した。すなわち本発明は、次の工程を含む標的物質と結合するポリペプチドをコードする核酸の単離方法であって、in vitro翻訳系を構成するリボソームが、独立に精製されたリボソームである単離方法に関する。
(a) in vitro 翻訳系においてmRNAをポリペプチドに翻訳し、当該mRNAとポリペプチドを含む複合体を形成する工程、
(b) (a)で形成された複合体を標的物質と接触させる工程、および、
(c) 標的物質に結合した複合体を回収し、回収された複合体を構成するmRNAまたはそのcDNAを、標的物質と結合するポリペプチドをコードする核酸として単離する工程。
本発明における「核酸」は、主としてデオキシリボヌクレオチド、およびリボヌクレオチドの重合体をいう。すなわち、デオキシリボ核酸(DNA)、または、リボ核酸(RNA)である。更に、本発明における核酸は、人工塩基を有するヌクレオチド誘導体を含むこともできる。また、ペプチド核酸(PNA)を含むこともできる。目的とする遺伝情報が保持される限り、核酸の構成単位は、これらの核酸のいずれか、あるいは混成であることができる。したがって、DNA-RNAのハイブリッドヌクレオチドは本発明における核酸に含まれる。あるいはDNAとRNAのような異なる核酸が1本鎖に連結されたキメラ核酸も本発明における核酸に含まれる。本発明における核酸の構造も、目的とする遺伝情報が維持できる限り限定されない。具体的には、一本鎖、二本鎖、あるいは三本鎖などの構造をとりうる。核酸の長さは、少なくとも3ヌクレオチド、あるいは6ヌクレオチドであり、好ましくは9ヌクレオチド以上である。核酸の長さは、通常10〜10000ヌクレオチド、あるいは100〜5000ヌクレオチドであり、例えば200〜3000ヌクレオチドである。
本明細書で「in vitro翻訳系」とは、細胞抽出液等の蛋白質合成に必要な因子を含む反応液を用いた蛋白質合成系のことで、無細胞蛋白質合成系ともいう。すなわち、in vitro翻訳系は、mRNAからポリペプチドへの翻訳に生細胞を必要としないことを特徴とする。本発明におけるin vitro翻訳系は、翻訳、または転写および翻訳を行なう翻訳系を含む。すなわち、本発明のin vitro翻訳系は、以下のいずれをも含む。
(1)mRNAからポリペプチドに翻訳するin vitro翻訳系
(2)DNAからmRNAに転写し、更にmRNAからポリペプチドに翻訳するin vitro翻訳系
本発明のin vitro翻訳系は、個別に精製された因子から構成された再構成型のin vitro翻訳系が好ましい。例えば、本発明者らが発明したPUREシステムをあげることができる。この再構成in vitro翻訳系は、細胞抽出液を使用するin vitro翻訳系よりもヌクレアーゼやプロテアーゼの混入を容易に防ぐことができる。このため、上記(a)工程でmRNAからポリペプチドへ翻訳する効率を高めることができる。したがって、当該mRNAとポリペプチドを含む複合体の形成および安定的な維持や、(b)工程および(c)工程も高い効率で行うことができる。最終的に、目的とするポリペプチドをコードする核酸を効率よく単離することができる。
本明細書において「因子」とは、独立して精製することができるin vitro翻訳系の構成単位を指す。因子は、単独の蛋白質や基質類を含む。更に、粗分画から単離できる各種の複合体や混合物も含む。例えば、複合体として精製される因子には、2量体の蛋白質、リボソームなどが含まれる。また、混合液としては、tRNA混合物等が含まれる。「独立に精製された因子」とは、他の因子から、それぞれ独立して精製された因子をいう。因子ごとに独立に精製された蛋白質合成に必要な因子類を、必要に応じて混合して再構成することによってin vitro翻訳系を構築することができる。細胞抽出液から単離されずに複数種類の因子が混合した画分中に存在する各因子は、独立に精製された因子とはいわない。一方、複数の成分からなる複合体であっても、単独の因子として精製された場合は、本発明における「独立に精製された因子」である。たとえば精製したリボソームは、いくつかの要素からなる複合体であるが、単独の因子として精製されるので「独立に精製された因子」である。
独立に精製された因子は、種々の細胞の抽出液から精製することによって得ることができる。因子を精製するための細胞は、例えば原核細胞、または真核細胞を挙げることができる。原核細胞としては、大腸菌細胞、高度好熱菌細胞、または枯草菌細胞を挙げることができる。真核細胞としては、酵母細胞、植物細胞、昆虫細胞、または哺乳動物細胞を挙げることができる。特に、独立に精製された因子が蛋白質のみからなる場合には、各因子を以下のような方法によって得ることができる。
(1)各因子(蛋白質)をコードする遺伝子を単離し、発現ベクターに導入後、適当な宿主細胞に形質転換して発現させ、回収する。
(2)各因子をコードする遺伝子を単離し、in vitro翻訳系で合成し、回収する。
(1)では、はじめに発現制御領域を含む発現ベクターに、該領域の制御により目的とする因子が発現されるように各因子の遺伝子を組み込んだ発現プラスミドを作成する。ベクターを構成する発現制御領域とは、例えば、エンハンサー、プロモーター、およびターミネーターなどを指す。発現ベクターは、薬剤耐性マーカーなどを含むこともできる。次に、この発現プラスミドで宿主細胞を形質転換し、各因子を発現させる。
宿主細胞として、例えばJM109、DH5α、HB101、XL1-Blueなどの大腸菌を使用する場合には、lacZプロモーター(Ward et al., Nature (1989) vol.341, p.544-546, FASEB J. (1992) vol.6, p.2422-2427)、araBプロモーター(Better et al., Science (1988) vol.240, p.1041-1043)、及びT7プロモーターなどを例示できる。このようなプロモーターを持つ発現ベクターとしては、pGEX(GE Healthcare Biosciences製)、pQE(Qiagen製)、またはpET(Novagen製)を例示することができる。各因子をコードする遺伝子を導入した発現プラスミドは、例えば、塩化カルシウム法またはエレクトロポレーション法によって大腸菌に導入することができる。
目的とする因子に相互に付着し合う関係にある物質の一方でラベルをすることで、発現(合成)した目的の因子を容易に精製することができる。例えばニッケルイオンなどを保持した金属アフィニティ樹脂カラムに付着するヒスチジンタグ、グルタチオン−セファロース樹脂カラムに付着するグルタチオンS-トランスフェラーゼ、または抗体等のアフィニティ樹脂カラムに付着するエピトープタグで因子をラベルする。ラベルの方法は、たとえば、これらのラベルをコードする塩基配列を含む発現ベクターに、目的とする因子をコードする遺伝子を組み込んで、両者の融合蛋白質を発現させることによって行なうことができる。両者の間にプロテアーゼの認識配列を介在させておくこともできる。融合蛋白質をラベルに結合する固相に補足し、更に当該認識配列を切断するプロテアーゼを作用させて、目的とする因子を回収することもできる。このようにして因子を精製する方法は公知である(K. Boon et al., Eur. J. Biochem. (1992) vol.210, p.177-183、K. S. Wilson et al., Cell (1998) vol.92, p.131-139、Yu-Wen Hwang et al., Arch. Biochem. Biophy. (1997) vol.348, p.157-162)。
本発明において「独立に精製されたリボソーム」とは、in vitro翻訳系を構成する因子のうち、リボソーム以外の因子とは別に精製されたリボソームをいう。リボソームは、リボソームRNAと種々のリボソーム蛋白質とで構成される巨大な複合体である。細胞内においては、リボソームがタンパク質合成の場となっている。基本的には大小2つのサブユニットからなり、原核生物と真核生物とでは、リボソームの成分の構成や大きさが相違している。リボソームやそれを構成するサブユニットは、ショ糖密度勾配などによって相互に分離することができ、その大きさは、沈降係数によって表される。具体的には、原核生物においては、リボソームとそれを構成するサブユニットは、それぞれ次のような大きさを有する。大腸菌などの原核生物は容易に大量培養することができる。したがって、大腸菌などの原核生物は、リボソームを大量に調製するうえで、好ましい生物である。
リボソーム(70S)=大サブユニット(50S)+小サブユニット(30S)
分子量: 約2.5x106 約1.6x106 約0.9x106
更に細かく見ると、50Sサブユニットと30Sサブユニットは、それぞれ次のような成分で構成されていることが明らかにされている。
50Sサブユニット;
L1〜L34の34種類の蛋白質(リボソーム蛋白質)
23S RNA(約3200ヌクレオチド)
5S RNA(約120ヌクレオチド)
30Sサブユニット;
S1〜S21の21種類の蛋白質(リボソーム蛋白質)
16S RNA(約1540ヌクレオチド)
つまり各サブユニットは、これらの成分からなる複合体として単離されうる。更にリボソームは、各サブユニットの複合体として単離されうる。したがって本発明における独立して精製されたリボソームとは、たとえば原核生物由来のリボソームにおいては、大小のサブユニットからなる70Sリボソームとして精製された複合体、または、それぞれ精製された50Sサブユニットと30Sサブユニットを混合してできた複合体を指す。
一方、真核細胞においては、リボソームとそれを構成するサブユニットは、それぞれ次のような大きさを有する。
リボソーム(80S)=大サブユニット(60S)+小サブユニット(40S)
したがって、本発明におけるin vitro翻訳系を真核細胞由来のリボソームで構成する場合には、80Sリボソームとして精製されたリボソームを利用することができる。
例えば、後述する方法で精製されたリボソームは、本発明における「独立に精製されたリボソーム」として好ましい。上述のように、リボソームディスプレイによる効率的な蛋白質またはペプチドスクリーニングシステムを構築するためには、ヌクレアーゼ活性を実質的に含まないin vitro翻訳系を用いることが望ましい。従来のPUREシステムに混入していたヌクレアーゼ活性は、大腸菌S30抽出液を使用するin vitro 翻訳系と比較した場合には大幅に低減していたが、本発明者らは、検出できる程度のヌクレアーゼ活性が残存していることを確認し、この残存ヌクレアーゼ活性が、主にリボソーム調製物に由来することを明らかにした。したがって、ヌクレアーゼ活性を実質的に含まないリボソームが本発明では求められる。リボソームが「ヌクレアーゼ活性を実質的に含まない」ことは、たとえば後に述べるような方法によって確認することができる。
本発明で「リボソームディスプレイ」とは、in vitro翻訳系においてmRNA-リボソーム-ポリペプチドからなる三者複合体を形成させ、特定の機能を持ったポリペプチド(蛋白質)をコードする核酸を選択する手法である。複合体と標的物質を結合させ、他の複合体から分離することにより、目的の結合特性を有する(ポリ)ペプチドをコードするmRNAを得ることができる。リボソームディスプレイでは、in vitro翻訳系を利用するため、生物を傷害する活性を持つポリペプチド、あるいは生物の増殖を阻害する可能性のあるポリペプチドをコードする核酸であっても選択することができる。
本発明の、標的物質と結合するポリペプチドをコードする核酸を単離する方法は、まずin vitro翻訳系においてmRNAをポリペプチドに翻訳し、当該mRNAと新生ポリペプチド、およびリボソームを含む複合体を形成する工程を含む。この工程では、鋳型となるmRNAをin vitro翻訳系の反応液に加え、一定時間翻訳反応させることで、mRNA、リボソームおよび新生ポリペプチドからなる複合体を形成させることができる。
本発明に好適に用いられるin vitro翻訳系は精製された因子からなる。本発明において、in vitro翻訳系は、例えば、以下のような因子を精製された状態で含むことができる。これらの因子は、大腸菌等の原核細胞由来のものに限らず、真核細胞由来のものも使用できる。精製された状態とは、因子が単一の蛋白質の場合、好ましくは、電気泳動によって各因子がほぼ単一のバンドとして確認できることを言う。また、リボソームなどの複合体についても、電気泳動によって構成因子のみがバンドとして確認できることを言う。なお、リボソーム以外のこれらの因子および因子の精製方法は公知である(特開2003-102495)。
開始因子 (Initiation Factor; IF)、
伸長因子 (Elongation Factor; EF)、
解離因子 (Release Factor; RF)、
アミノアシルtRNA合成酵素、
リボソーム、
アミノ酸、
ヌクレオシド三リン酸、
tRNA、
塩類、
緩衝液、
さらに、大腸菌等の原核細胞由来の反応系である場合は、メチオニルtRNAトランスフォルミラーゼおよび、10-フォルミル5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸(FD)を含む。本発明における好ましいin vitro翻訳系は、解離因子以外の上記成分の全てを含む。
本発明のin vitro翻訳系で使用される開始因子には、翻訳開始複合体の形成に必須であるか、又は、これを著しく促進する因子であり、大腸菌由来のものとして、IF1、IF2及びIF3が知られている(Claudio O et al. (1990) Biochemistry, vol.29, p.5881-5889)。開始因子IF3は、翻訳の開始に必要な段階である、70Sリボソームの30Sサブユニットと50Sサブユニットへの解離を促進し、また、翻訳開始複合体の形成の際に、フォルミルメチオニルtRNA以外のtRNAのP部位への挿入を阻害する。開始因子IF2は、フォルミルメチオニルtRNAと結合し、30SリボソームサブユニットのP部位へフォルミルメチオニルtRNAを運び、翻訳開始複合体を形成する。開始因子IF1は開始因子IF2,IF3の機能を促進する。本発明において用いられる開始因子の好ましい例は、大腸菌由来のものであり、例えば大腸菌K12株から得られるものを挙げることができるが、真核細胞由来のものも使用できる。大腸菌由来の開始因子を使用した場合、例えば、0.01μM-300μM、好ましくは、0.04μM-60μMで使用できる。開始因子としてIF1、IF2、およびIF3の全てを用いる場合には、各因子の使用量は、いずれも、先に例示した範囲から選択することができる。
本発明のin vitro翻訳系で使用される伸長因子には、大腸菌由来のものとして、EF-Tu、EF-Ts及びEF-Gが知られている。伸長因子EF-Tuは、GTP型とGDP型の2種類があり、GTP型はアミノアシルtRNAと結合してこれをリボソームのA部位へ運ぶ。EF-Tuがリボソームから離れる際にGTPが加水分解され、GDP型へ転換する。(Pape T et al, (1998) EMBO J, vol.17, p.7490-7497)。伸長因子EF-Tsは、EF-Tu(GDP型)に結合し、GTP型への転換を促進する(Hwang YW et al. (1997) Arch. Biochem. Biophys., vol.348, p.157-162)。伸長因子EF-Gは、ペプチド鎖伸長過程において、ペプチド結合形成反応の後の転位(translocation)反応を促進する(Agrawal RK et al, (1999) Nat. Struct. Biol., vol.6, p.643-647, Rodnina MW. et al, (1999) FEMS Microbiology Reviews, vol.23, p.317-333)。本発明において用いられる伸長因子の好ましい例は、大腸菌由来のものであり、例えば大腸菌K12株から得られるものを挙げることができるが、真核細胞由来のものも使用できる。大腸菌由来の伸長因子を使用した場合、例えば、0.005μM-200μM、好ましくは、0.02μM-50μMで使用できる。伸長因子としてEF-Tu、EF-Ts、およびEF-Gの全てを用いる場合には、各因子の使用量は、いずれも、先に例示した範囲から選択することができる。
本発明のin vitro翻訳系で使用される解離因子には、大腸菌由来のものとして、RF1、RF2及びRF3が知られている。解離因子はタンパク質合成の終結、翻訳されたペプチド鎖の解離、更に次のmRNAの翻訳開始へのリボソームの再生に必須である。解離因子RF1及びRF2は、リボソームのA部位が終止コドン(UAA,UAG,UGA)に達した時、A部位に入ってぺプチジルtRNA(P部位にある)からのペプチド鎖の解離を促進する。RF1は終止コドンのうちUAAおよびUAGを認識し、RF2はUAAおよびUGAを認識する。解離因子RF3は、RF1,RF2によるペプチド鎖の解離反応後の、RF1,RF2のリボソームからの解離を促進する。リボソーム再生因子(RRF)は、タンパク質合成の停止後、P部位に残っているtRNAの脱離と、次のタンパク質合成へのリボソームの再生を促進する。本発明においては、RRFも解離因子の一つとして取扱うことにする。なお、解離因子RF1,RF2,RF3及びRRFの機能については、Freistroffer DV et al, (1997) EMBO J., vol.16, p.4126-4133、Pavlov MY et al. (1997) EMBO J., vol.16, p.4134-4141に解説されている。本発明において用いられる解離因子の好ましい例は、大腸菌由来のものであり、例えば大腸菌K12株から得られるものを挙げることができるが、真核細胞由来のものも使用できる。大腸菌由来の解離因子を使用した場合、例えば、0.005μM-200μM、好ましくは、0.02μM-50μMで使用できる。解離因子として、RF1、RF2、RF3、およびRRFの全てを用いる場合には、各因子の使用量は、いずれも、先に例示した範囲から選択することができる。
アミノアシルtRNA合成酵素(aminoacyl-tRNA synthetases; AARS)は、ATPの存在下でアミノ酸とtRNAを共有結合させ、アミノアシルtRNAを合成する酵素であり、各アミノ酸に対応したアミノアシルtRNA合成酵素が存在している(Francklyn C et al, (1997) RNA, vol.3, p.954-960, 蛋白質核酸酵素, vol.39, p.1215-1225 (1994))。本発明において用いられるアミノアシルtRNA合成酵素の好ましい例は、大腸菌由来のものであり、例えば大腸菌K12株から得られるものを挙げることができるが、真核細胞由来のものも使用できる。また、非天然アミノ酸を認識する人工アミノアシルtRNA合成酵素(特許2668701号など)を用いることもできる。大腸菌由来のアミノアシルtRNA合成酵素を使用した場合、例えば、1 U/ml-1,000,000 U/ml、好ましくは、5 U/ml-500,000 U/mlで使用できる。もしくは、0.01μg/ml-10,000μg/ml、好ましくは、0.05μg/ml-5,000μg/mlで使用できる。ここに例示したAARSの使用量は、いずれも、各アミノ酸に対応したアミノアシルtRNA合成酵素に適用することができる。ここで、1分間に1 pmolのアミノアシルtRNAを形成する活性を1 Uとする。
メチオニルtRNAトランスフォルミラーゼ(MTF)は、原核生物における蛋白質合成においてメチオニル開始tRNAのアミノ基にフォルミル基がついたN-フォルミルメチオニル(fMet)開始tRNAを合成する酵素である。即ち、メチオニルtRNAトランスフォルミラーゼは、FDのフォルミル基を、開始コドンに対応するメチオニル開始tRNAのアミノ基に転移させ、fMet-開始tRNAにする(Ramesh V et al, (1999) Proc.Natl.Acad.Sci.USA, vol.96, p.875-880)。付加されたフォルミル基は開始因子IF2により認識され、タンパク質合成の開始シグナルとして作用する。真核生物の細胞質における蛋白質合成系にはMTFが存在していないが、真核生物のミトコンドリア及び葉緑体における蛋白質合成系には存在する。本発明において用いられるMTFの好ましい例は、大腸菌由来のものであり、例えば大腸菌K12株から得られるものである。大腸菌由来のMTFを使用した場合、例えば、100 U/ml-1,000,000 U/ml、好ましくは、500 U/ml-400,000 U/mlで使用できる。ここで、1分間に1 pmolのfMet-開始tRNAを形成する活性を1 Uとする。また、MTFの基質であるフォルミルドナー(FD)は、例えば、0.1μg/ml-1000μg/ml、好ましくは、1μg/ml-100μg/mlで使用できる。
更に反応液に添加される核酸がDNAの場合には、mRNAに転写するためのRNAポリメラーゼを含むことができる。具体的には、次のようなRNAポリメラーゼを本発明に利用することができる。これらのRNAポリメラーゼは市販されている。
T7 RNAポリメラーゼ
T3 RNAポリメラーゼ
SP6 RNAポリメラーゼ
T7RNAポリメラーゼを使用した場合、例えば、0.01μg/ml-5000μg/ml、好ましくは、0.1μg/ml-1000μg/mlで使用できる。
in vitro翻訳系は、転写や翻訳のための因子に加え、更に付加的な成分を含むことができる。付加的な成分として、たとえば、次のような成分を示すことができる。
反応系においてエネルギーを再生するための酵素:
クレアチンキナーゼ;
ミヨキナーゼ;および
ヌクレオシドジフォスフェートキナーゼなど
転写・翻訳で生じる無機ピロリン酸の分解のための酵素:
無機ピロフォスファターゼなど
上記酵素は、例えば、0.01μg/ml-2000μg/ml、好ましくは、0.05μg/ml-500μg/mlで使用できる。
アミノ酸としては、天然型アミノ酸に加え、非天然型アミノ酸も用いることができる。これらのアミノ酸は、in vitro翻訳系を構成するアミノアシルtRNA合成酵素の作用によってtRNAに保持される。あるいは、予めアミノ酸をtRNAにチャージしてin vitro翻訳系に加えることができる。本発明において、tRNAへのアミノ酸のチャージとは、tRNAにアミノ酸を保持(carry)させ、リボソームにおける翻訳反応に利用される状態にすることを言う。非天然アミノ酸を認識する人工アミノアシル合成酵素存在下で非天然アミノ酸を添加したり、非天然アミノ酸でチャージされたtRNAを用いたりすることで、蛋白質の特定のコドンの部位に非天然アミノ酸を導入することが可能となる。天然のアミノ酸を使用した場合、例えば、0.001 mM-10 mM、好ましくは、0.01 mM-2 mMで使用できる。
tRNAとしては、大腸菌、酵母等の細胞から精製したtRNAを用いることができる。またアンチコドンやその他の塩基を任意に変更した人工tRNAも用いることができる(Hohsaka, T et al. (1996) J. Am. Chem. Soc., vol.121, p.34-40, Hirao I et al (2002) Nat. Biotechnol., vol.20, p.177-182)。例えば、CUAをアンチコドンとして持つtRNAに非天然のアミノ酸をチャージすることで、本来終止コドンであるUAGコドンを非天然アミノ酸に翻訳することが可能である。また,4塩基コドンをアンチコドンとして持つtRNAに非天然アミノ酸をチャージした人工アミノアシルtRNAを用いることにより、天然には存在しない4塩基コドンを非天然アミノ酸に翻訳することが可能である(Hohsaka et al. (1999) J.Am.Chem.Soc., vol.121, p.12194-12195)。このような人工tRNAを作製する方法としては,RNAを用いる方法も使用できる(特表2003-514572)。これらの方法により部位特異的に非天然アミノ酸を導入した蛋白質を合成することができる。大腸菌tRNA混合液を使用した場合、例えば、0.1A260/ml-1000 A260/ml、好ましくは、1 A260/ml-500 A260/mlで使用できる。
上記in vitro翻訳系を構成する各因子は、転写や翻訳に好適なpH7-8を維持する緩衝液に加えることによって、in vitro翻訳系とすることができる。本発明に用いられる緩衝液としては、リン酸カリウム緩衝液(pH 7.3)、Hepes-KOH(pH 7.6)などをあげることができる。Hepes-KOH(pH 7.6)を使用した場合、例えば、0.1 mM-200 mM、好ましくは、1 mM-100 mMで使用できる。
in vitro翻訳系には、因子の保護や活性の維持を目的として塩類を加えることもできる。具体的には、グルタミン酸カリウム、酢酸カリウム、塩化アンモニウム、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムなどがあげられる。これらの塩類は、通常、0.01 mM-1000 mM、好ましくは、0.1 mM-200 mMで使用される。
in vitro翻訳系には、酵素の基質として、および/もしくは、活性の向上、維持を目的として、その他の低分子化合物を添加できる。具体的には、ヌクレオシド三リン酸(ATP, GTP, CTP, UTPなど)などの基質、プトレシン(putrescine)、スペルミジン(spermidine)などのポリアミン類、ジチオトレイトール(DTT)などの還元剤、およびクレアチンリン酸などのエネルギー再生のための基質などをin vitro翻訳系に加えることができる。これらの低分子化合物は、通常、0.01 mM-1000 mM、好ましくは、0.1 mM-200 mMで使用できる。
in vitro翻訳系の具体的な組成は、Shimizuら(Shimizu et al., Nat. Biotechnol. (2001) vol.19, p.751-755、Shimizu et al., Methods (2005) vol.36, p.299-304)、あるいはYingら(Ying et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. (2004) vol.320, p.1359-1364)の記載を元に調製することができる。具体的には、たとえば次のような組成を例示することができるが、上述のとおり、因子の濃度は、精製した因子の比活性や目的などに応じて適宜増減できる。たとえば、エネルギー消費が大きくなる場合はATPを増やすことができる。また、翻訳されるmRNAのコドンの使用頻度に応じて、特定のtRNAを添加することも可能である。
1.2 μM Ribosome、
2.70 μM IF1、
0.40 μM IF2、
1.50 μM IF3、
0.26 μM EF-G、
0.92 μM EF-Tu、
0.66 μM EF-Ts、
0.25 μM RF1、
0.24 μM RF2、
0.17 μM RF3、
0.50 μM RRF、
1900 U/ml AlaRS、
2500 U/ml ArgRS、
20 μg/ml AsnRS、
2500 U/ml AspRS、
630 U/ml CysRS、
1300 U/ml GlnRS、
1900 U/ml GluRS、
5000 U/ml GlyRS、
630 U/ml HisRS、
2500 U/ml IleRS、
3800 U/ml LeuRS、
3800 U/ml LysRS、
6300 U/ml MetRS、
1300 U/ml PheRS、
1300 U/ml ProRS、
1900 U/ml SerRS、
1300 U/ml ThrRS、
630 U/ml TrpRS、
630 U/ml TyrRS、
3100 U/ml ValRS、
10 μg/ml T7 RNA polymerase、
4500 U/ml Methionyl-tRNA transformylase (MTF)、
4.0 μg/ml Creatine kinase(クレアチンキナーゼ)、
3.0 μg/ml Myokinase(ミヨキナーゼ)、
1.1 μg/ml Nucleoside-diphosphate kinase(ヌクレオシドジフォスフェートキナーゼ)、
1.3 μg/ml Pyrophosphatase(ピロホスファターゼ)、
0.3 mM 各アミノ酸、
56 A260/ml tRNA、
50 mM Hepes-KOH, pH 7.6、
100 mM Potassium glutamate(グルタミン酸カリウム)、
13 mM Magnesium acetate(酢酸マグネシウム)、
2 mM Spermidine(スペルミジン)、
1 mM DTT、
2 mM ATP、
2 mM GTP、
1 mM CTP、
1 mM UTP、
20 mM Creatine phosphate(クレアチンリン酸)、
10 μg/ml 10-formyl-5,6,7,8-tetrahydrofolic acid (FD)。
in vitro翻訳系の組成は、上記基本組成に加え、合成(提示)するポリペプチド(蛋白質)に合わせて、適宜調節可能である。例えば、高次構造を形成しにくい蛋白質の場合、分子シャペロンと呼ばれる一群の蛋白質を添加したin vitro翻訳系を使用することもできる。具体的には、Hsp100、Hsp90、Hsp70、Hsp60、Hsp40、Hsp10、低分子量Hspおよび、それらのホモログ、さらに大腸菌のトリガーファクターなどを添加したin vitro翻訳系があげられる。分子シャペロンは、細胞内で蛋白質の高次構造形成を助け、蛋白質の凝集を防ぐことが知られている蛋白質である(Bukau and Horwich, Cell (1998) vol.92, p.351-366、Young et al., Nat. Rev. Mol. Cell Biol (2004) vol.5, p.781)。
また、抗体分子のように、分子内でジスルフィド結合を形成する蛋白質(ポリペプチド)の場合は、反応液の酸化還元電位が重要である。そのため、反応液から、還元剤であるDTTを除去したり、さらには、グルタチオンを添加したin vitro翻訳系を使用することもできる。さらには、ジスルフィド結合を促進したり、正しい結合に組み替える酵素を添加したin vitro翻訳系を使用することができる。具体的には、このような酵素としては、真核細胞のERに存在するプロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)や、大腸菌のDsbA、DsbC等があげられる。
本発明において好適なin vitro翻訳系である、精製された因子からなるin vitro翻訳系は、上記の分子シャペロンやPDI等の蛋白質を全く、もしくはほとんど含まない。そのため、上記分子シャペロン、ジスルフィドイソメラーゼなどの蛋白質を最適な種類、濃度で添加することが可能である。従来用いられてきた細胞抽出液によるin vitro 翻訳系では、系内に蛋白質合成に必要な蛋白質以外に上記のような蛋白質ももともと含んでいるため、系の調節を行なうことが難しかった。この点も、精製された因子からなるin vitro翻訳系が、本発明において好適なin vitro翻訳系であることを示している。
翻訳反応は、例えば以下の工程によって実施することができる。
(1)in vitro翻訳系の反応液に鋳型となるmRNAを加えてインキュベートする;
(2)氷冷した緩衝液を加えて翻訳反応を停止させる;そして
(3)ポリペプチドとmRNAを含む複合体を回収する;
in vitro翻訳系を構成する因子類が、結合性パートナーでラベルされている場合には、翻訳反応終了後に、リガンドを有する固相に捕捉することによって反応液から除去することができる。その結果、形成した三者複合体を、in vitro翻訳系を構成するその他の因子類から容易に回収することができる。従って、本発明の酵素・因子キットは、相互に付着し合う関係にある物質の一方でラベルされている蛋白質性成分を捕捉するための吸着体を含むことができる。
本発明において、in vitro翻訳系によってポリペプチドに翻訳されるmRNAは、リボソームディスプレイによる選択効率を上げるために以下のような配列を含むことが好ましい。
(1)開始コドンの上流にSD配列(大腸菌由来のリボソームを使用する場合)
(2)目的遺伝子下流のスペーサーをコードする配列
(3)スペーサーの下流のSecMの部分配列
例えば、in vitro翻訳系として大腸菌由来のリボソームを利用する場合には、通常の蛋白質合成と同様、開始コドンの上流にリボソーム結合配列であるShine-Dalgarno(SD)配列を含むことにより、翻訳反応の効率が上昇する。さらに、リボソームディスプレイでは、目的遺伝子の下流にスペーサーをコードする配列を含む必要がある。スペーサーは、翻訳されたポリペプチドが、リボソームの外側で正確に折り畳まれるための十分な空間を提供することによって、新生ポリペプチドとリボソームとのあいだの立体障害を防止する。ここで、十分な長さのスペーサーがないと、目的のポリペプチドがリボソームの外に完全に出ることができず、リボソームディスプレイによる選択を効率よく行なうことができない。スペーサーは、少なくとも30アミノ酸からなり、好ましくは、50アミノ酸以上の長さからなる。具体的には、ファージのgeneIIIの部分配列などを用いることができる。さらに、mRNA-リボソーム-ポリペプチド三者複合体を安定化するために、大腸菌SecMの翻訳反応伸長停止配列(アミノ酸残基148〜170)をコードする配列をスペーサー配列の下流に配置したmRNAも使用することができる。この翻訳伸長停止配列は、リボソームのペプチドトンネルと堅固に相互作用することが示されており(Nakatogawa et al., Cell (2002) vol.108, p.629-636)、PUREシステムを用いた場合、効率よく翻訳の伸長を停止させることが証明されている(Nakatogawa et al., Mol. Cell (2006) vol.22, p.545-552)。
このような構造を備えたmRNAは、例えば、プロモーター配列およびSD配列を含む5'UTR配列や、3'側のスペーサー配列を備えた発現ベクターに目的の遺伝子を挿入し、RNAポリメラーゼにより転写することにより得ることができる。一般に、RNAポリメラーゼは、プロモーターと呼ばれる特定の配列を含む領域を認識し、その下流に配置されたDNAの塩基配列に基づいてmRNAを合成する。発現ベクターを使用せずに、PCRを利用して目的の構造を有する転写鋳型を構築することもできる(Split-Primer PCR法、Sawasaki et al., PNAS (2002) vol.99, p.14652-14657)。この方法は、目的のDNAにPCRによって5'UTR配列およびスペーサー配列を付加した鋳型DNAを構築する。DNAライブラリーからmRNAのライブラリーを調製するにあたり、上記のようなベクターにクローニングする必要がない。このため、時間と労力を節約することができる。
PCRによって、鋳型DNAを構築する方法を具体的に例示する。
(1)適当なライブラリーなどから、目的のポリペプチドをコードするDNA領域を、5'UTR配列(プロモーター及びSD配列を含む)を含むプライマーと、スペーサー配列の一部を含むプライマーを使用したPCRで増幅する。
(2)増幅したDNAを、5'UTR部分のプライマーと、スペーサー部分とSecM配列を含むプライマーで再度増幅する。
このように構築したDNAを必要に応じてさらに増幅し、それを鋳型としてRNAポリメラーゼで転写することにより、翻訳反応の鋳型となるmRNAを得ることができる。
RNAポリメラーゼによって転写されたmRNAを必要に応じて回収し、本発明におけるin vitro翻訳系に利用することができる。転写されたmRNAは、フェノール処理後、エタノール沈殿により回収することができる。また、mRNAの回収には、RNeasy(Qiagen製)などの市販のRNA抽出用キットを利用することもできる。
また、遺伝子に転写および翻訳に必要な塩基配列を組み込んだ上記DNA自体を鋳型として用いることもできる。この場合、RNAポリメラーゼを含むin vitro翻訳系においてmRNAに転写したうえ、翻訳を行って三者複合体を形成させる。
本発明においては、ポリペプチドをコードする核酸として、核酸のライブラリーを用いることができる。本発明において、「ライブラリー」とは、複数のクローン化された核酸からなる多様性をもった集団をいう。リボソームディスプレイ等のin vitro選択系によって、ライブラリーから、所望の性質を有する蛋白質(ポリペプチド)をコードする核酸を得ることができる。本発明における核酸のライブラリーとしては、cDNAライブラリー、mRNAライブラリー、またはゲノムDNAライブラリーを挙げることができる。原核細胞や酵母細胞においては、通常、ほとんどの遺伝子にイントロンが存在しない。したがって、原核細胞や酵母細胞の場合、当該細胞由来の蛋白質から所望の性質を有する蛋白質をコードする核酸を直接スクリーニングするために、ゲノムDNAライブラリーを利用することができる。ほ乳類等の高等真核生物では、逆にほとんどの遺伝子にイントロンが存在するため、通常はcDNAライブラリーを利用する。
ライブラリーを構成する核酸の塩基配列は、天然由来の配列のみならず、人為的に導入された配列を含むこともできる。たとえば、変異を導入されたライブラリーは、本発明におけるライブラリーに含まれる。あるいは、天然由来の配列に人為的な配列を連結した配列を含むライブラリーも、本発明におけるライブラリーに含まれる。
ライブラリーを構成する核酸がコードする蛋白質は任意である。具体的には、抗体、リガンド、接着因子、ポンプ、チャンネル、あるいは受容体などの、細胞外に分泌される蛋白質や細胞膜上の蛋白質、シグナル伝達因子、核内受容体、転写因子などの細胞内の蛋白質、あるいはそれらの部分配列をコードする核酸をライブラリーに利用することができる。あるいは、特定の機能に限らず、複数種類の蛋白質をコードする核酸をライブラリーとして利用することもできる。その他、ランダムなアミノ酸配列からなる、多様なランダムペプチドをコードする核酸をライブラリーとして利用することもできる。ランダムペプチドは、そのアミノ酸配列および長さのいずれか、または両方に違いを有するペプチドを含む。
抗体ライブラリーには、ナイーブライブラリーや免疫ライブラリーが含まれる。ナイーブライブラリーは、特定の抗原で免疫していない動物の抗体産生細胞を材料とする。抗体産生細胞は、例えば末梢血リンパ球、骨髄リンパ球、および脾臓を挙げることができる。ナイーブライブラリーは、特定の抗原に特異的なライブラリーではないが、種々の抗原に対する多様な抗体を含むライブラリーである。また、多数の動物から抗体遺伝子を集めることにより、抗体の多様性を向上させることができる。したがって、仮に十分に多様なナイーブライブラリーを作成すれば、様々な抗原に対する抗体を得ることができる、汎用性のあるライブラリーとして使用することができる。
一方、免疫ライブラリーは、特定の抗原で免疫された動物の抗体産生細胞を材料とする。免疫ライブラリーは、免疫抗原を認識する抗体の遺伝子を多く含むと予測される。そのため、一般に、ライブラリーのサイズが小さくても特異性の高い抗体を容易に得ることができる。しかし、目的とする抗原ごとにライブラリーを作成する必要がある。
ここで、抗体には、完全長の抗体だけでなく、Fabなどの部分断片、もしくは重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)をリンカーペプチドでつないだ単鎖抗体(scFv)(Hudson et al, J Immunol. Methods (1999) vol.231, p.177-189)なども含む。一般にリンカーペプチドには、5〜20残基程度のアミノ酸配列が利用される。水溶性を与えるためにArgを導入したアミノ酸配列などがリンカーとして利用されている。あるいはグリシン(Gly)やセリン(Ser)で構成されるアミノ酸配列を利用したGSリンカーも、scFvの構築においてよく利用されている。たとえば、(GGGGS)3/配列番号:13などのアミノ酸配列は、代表的なGSリンカーの一つである。
scFvをコードするライブラリーは、抗体産生細胞のmRNAからcDNAを合成し、可変領域をランダムに組み合わせて作成することができる。具体的には以下の工程で行うことができる。
(1)抗体産生細胞からmRNAを抽出してcDNAを合成する。
(2)cDNAを鋳型としてVH遺伝子領域およびVL遺伝子領域をそれぞれPCRにより増幅する。
(3)増幅したVH遺伝子領域とVL遺伝子領域をアセンブリPCRにより連結させ、scFvをコードするDNAを調製する。
(4)調製したscFvをコードするDNAをベクターに組み込み、ライブラリーを構築する。
抗体の可変領域のクローニング用プライマーは公知である(Marks et al., J. Mol. Biol. (1991) vol.222, p.581, Welschof et al., J. Immunol. Methods (1995) vol.179, p.203, Campbell et al., Mol. Immunol. (1992) vol.29, p.193)。GSリンカーによってscFvを構築するためには、VH遺伝子領域とVL遺伝子領域を増幅する際にGSリンカーをコードする塩基配列を付加したプライマーを利用すればよい。通常、scFvにおけるVHとVLの組み合わせはランダムである。
本発明においては、最終的に得られたscFvをコードするcDNAをmRNAに転写し、更にin vitro翻訳系によってscFvに翻訳する。したがって、cDNAのベクターへの組み込みは必須ではない。たとえば、scFvをコードするcDNAの5'UTRにプロモーターやSD配列などの転写・翻訳に必要な構造を有していれば、そのままmRNAへ転写することもできる。たとえば、アセンブリPCRの後に、PCR産物にプロモーターやSD配列を含む2本鎖DNAをライゲーションすることによって、転写に必要な構造を与えることができる。ライゲーションに先立ち、必要に応じて、PCR産物の末端を平滑化したり、あるいは制限酵素で消化したりすることもできる。あるいは、プロモーターやSD配列を含むプライマーを用いてPCRを行なうことにより、5'UTRを付加することも可能である。
抗体ライブラリーの構築に当たり、遺伝子に変異を導入することもできる。抗体の可変領域遺伝子全体、あるいは可変領域を構成するCDR特異的に、ランダムに変異を導入するための手法が公知である。具体的には、エラープローンPCR(Error-Prone PCR)やCDRシャフリングなどの試みが報告されている。エラープローンPCRは、基質である4種類のデオキシヌクレオチドの濃度や、添加する二価カチオンの種類や濃度を調節することによってエラーが起こり易くなる現象を利用している。あるいはCDRシャフリングにおいては、異なる抗体分子に由来するCDRがランダムに組みかえられる。このようにして変異を導入された抗体ライブラリーは、合成抗体ライブラリーと呼ばれる。合成抗体ライブラリーにおいては、ライブラリーの多様性が、変異の導入によって人為的に高められる。
ヒトの抗体産生細胞から構築された抗体ライブラリーは、ヒト抗体ライブラリーとすることができる。上記のナイーブライブラリーや免疫ライブラリーについても、ヒトの抗体産生細胞を材料として作成した場合にはヒト抗体ライブラリーとなる。言うまでもなく、倫理上、ヒトをライブラリーの構築を目的として免疫することはできない。しかし、たとえば感染症患者、癌患者、自己免疫疾患の患者などの抗体産生細胞を利用することによって、特定の抗原に対する免疫ライブラリーを構築することができる。
抗体ライブラリーの他、ランダムペプチドライブリーをコードする核酸ライブラリーも、本発明におけるライブラリーとして利用することができる。ランダムペプチドライブラリーとは、ペプチドを構成するアミノ酸配列の一部、あるいは全てが、無作為に異なるアミノ酸残基に置換されているペプチドの集合である。たとえば酵母 two-hybrid アッセイ用のランダムペプチドライブラリーが市販されている(Matchmaker Random Peptide Library)。このライブラリーは107個のランダムペプチドをコードする核酸を含むライブラリーである。あるいは任意の長さのランダムペプチドをコードする核酸の合成方法も公知である。
本発明は、mRNAとポリペプチドを含む複合体を標的物質と接触させる工程を含む。本発明において「標的物質」とは、目的とするポリペプチドが結合することができる物質をいう。いいかえると、ライブラリーの中から選択すべきポリペプチドが結合する物質が標的物質である。本発明においては、ポリペプチドが結合する可能性のあるあらゆる物質を標的物質として利用することができる。本発明の標的物質には、例えば核酸、ポリペプチド、有機化合物、無機化合物、低分子化合物、糖鎖、脂肪、脂質、あるいは標的物質を提示する細胞を挙げることができる。更に具体的には、抗原やハプテンとして機能する物質を標的物質として利用することができる。この場合は、抗体ライブラリーから目的とする抗体をスクリーニングすることができる。あるいは受容体を標的物質として、そのリガンドをスクリーニングすることができる。受容体を発現する細胞や、当該細胞の膜分画を標的物質として利用することもできる。
更に、標的物質、および核酸ライブラリーとして、それぞれ、抗体、およびランダムペプチドライブラリーをコードする核酸ライブラリーを用いることにより、抗体のエピトープを決定することができる。エピトープとは、抗原上の抗体が結合する部分のことである。抗原が蛋白質の場合、通常、5〜10残基程度のペプチドがエピトープとなりうる。特定の抗体に対するエピトープを決定することをエピトープマッピング(Epitope mapping)という。従来のリボソームディスプレイをエピトープマッピングに応用できることは既に報告されている(L.C. Mattheakis et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1994) vol.91, p.9022-9026)。リボソームディスプレーライブラリーを本発明によって構築することによって、本発明に基づいてエピトープマッピングを実施することもできる。
mRNA、リボソーム、および翻訳されたポリペプチドからなる複合体と標的物質を接触させ、結合を可能にする条件は公知であり(WO95/11922、WO93/03172、WO91/05058)、当業者にとって過度の負担なしに確立することができる。標的物質に結合した複合体を回収するには、標的物質と結合した複合体を、標的物質と結合していない複合体の中からスクリーニングする必要がある。これはパニングとよばれる既知の方法に従って行う(Coomber, Method Mol. Biol. (2002) vol.178, p.133-145)。パニングの基本的なプロトコルは以下のとおりである。
(1)固相に固定化した標的物質に複合体を接触させる。もしくは、固相に捕捉される結合パートナーで標識されている標的物質に複合体を接触させ、その後に複合体と結合した標的物質を固相に固定化する。
(2)標的物質に結合しなかった複合体を除去する。例えば、洗浄により除去することができる。
(3)除去されなかった複合体を回収する。
(4)必要に応じ(1)から(3)の操作を複数回繰り返す。
一連の工程を繰り返す場合には、(1)の工程の前に、回収された複合体を構成するmRNAを増幅することもできる。mRNAは、たとえばRT-PCRによって増幅することができる。RT-PCRによって、mRNAを鋳型としてDNAが合成される。DNAを再びmRNAに転写し、複合体の形成のために利用することができる。mRNAの転写のためには、DNAをベクターに挿入することができる。あるいは、転写に必要な構造をDNAに連結することによって、mRNAに転写することもできる。
本明細書において、「スクリーニング」とは合成された化合物、または天然物より所望の性質を有するものを選び出すことをいう。また、「クローニング」とは特定の遺伝子を単離することをいう。
本発明は、標的物質と結合するポリペプチドをコードする核酸の単離方法であって、当該ポリペプチドと結合する標的物質が、固相に結合しているか、または固相に捕捉される結合パートナーで標識されている方法を含む。標的物質と結合して保持し、スクリーニングに用いる媒体から分離できる素材を固相として利用することができる。固相は標的物質と結合できる物であればよく、固相の形状は板状、棒状、粒子状、またはビーズ状のいずれをも含む。固相は、スクリーニングに用いる媒体である水や有機溶媒に不溶な素材を用いることができる。例えばプラスチック、ガラス、ポリスチレン等の樹脂、金薄膜などの金属を固相に利用する素材として挙げることができる。
標的物質は、直接的または間接的に固相に結合する。直接的な結合とは、例えば化学的結合、または物理的吸着をいう。間接的な結合とは、例えば結合パートナーとリガンドを利用した結合をいう。たとえば、蛋白質などの親水性物質は、プラスチック表面に吸着される。このような結合を物理的吸着と呼ぶ。したがって、蛋白質が標的物質の場合、プラスチックからできているプレートやチューブの内壁に、物理吸着によって結合することができる。あるいは、熱処理による蛋白質の固相への吸着も物理吸着に含まれる。標的物質は、固相に化学的に結合することもできる。化学的な結合とは、たとえば、共有結合などによる結合を含む。具体的には、カルボキシル基やアミノ基などの官能基を表面に有する固相が知られている。これらの官能基に、ポリペプチド、糖、または脂質などを共有結合によって結合させることができる。一般に、物理吸着に比べて、化学結合の結合は強固である。
標的物質は、物理吸着や化学結合などの直接的な結合の他に、間接的に固相と結合することもできる。間接的な結合に利用する「結合パートナー」とは、相互に付着しあう関係にある物質の一方であり、標的物質を標識する物質をいう。また、「リガンド」とは、相互に付着しあう関係にある物質の他方をいう。すなわち、相互に付着しあう関係にある物質をそれぞれ[A]、[B]としたとき、標的物質を標識する物質が[A]であれば[A]を「結合パートナー」といい、[B]は「リガンド」である。これらの物質の関係を次の一般式で表すことができる。
[固相]-[リガンド]-[結合パートナー][標的物質]
標的物質が結合パートナーで標識されているときは、当該結合パートナーのリガンドを有する固相を利用することができる。すなわち、標的物質を、結合パートナーとそのリガンドの結合を介して固相に保持することができる。以下に本発明に利用することができる結合パートナーとそのリガンドの組み合わせを例示する。
His tag とニッケル錯体、コバルト錯体等の金属錯体(Bornhorst and Falke, Methods Enzymol. (2000), vol.326, p.245-254)
thioredoxin とPAO(Alejo et al., J. Biol. Chem. (1997) vol.272, p.9417-9423)
T7-tagとT7-tagに特異的なモノクローナル抗体(Deora et al., J. Bacteriol. (1997) vol.179, p.6355-6359)
FLAGペプチドtag(Sigma)とanti-FLAG抗体(Sigma)(Woodring and Garrison, J. Biol. Chem. (1997) vol.272, 30447-30454)
Staphylococal Protein A (SPA)と抗体(IgG)(Nilsson and Abrahmsen, Methods Enzymol. (1990) vol.185, p.144-161)
Strep-Tag とストレプトアビジン(Skerra and Schmidt, Methods Enzymol. (2000) vol.326, p.271-311)
ビオチンとアビジン(または、ストレプトアビジンあるいはそれらの誘導体)(Alche and Dickinson, Prot. Express. Purif. (1998) vol.12, p.138-143)
したがって、標的物質が「結合パートナーで標識されている」とは、例えば、標的物質が結合パートナーであるビオチンで標識されていることを挙げることができる。このとき、リガンドであるアビジン、ストレプトアビジン、あるいはそれらの誘導体を固相に固定化しておく。ビオチンとアビジン、ストレプトアビジン、あるいはそれらの誘導体を結合させることにより、ビオチンを介して間接的に標的物質を不溶性担体に固定することができる。アビジンやストレプトアビジンの誘導体には、ニュートラアビジン(Neutraavidin、Pierce社)やストレプタクチン(Strep-Tactin、IBA社)などが知れており、購入して使用することが可能である。
標的物質が直接的もしくは間接的に固定化された固相は、本発明の標的物質と結合するポリペプチドをコードする核酸の単離方法に用いることができる。あるいは、標的物質と標的物質と結合するポリペプチドを接触させた後に、標的物質を固相に補足して、単離することもできる。これらの方法は、上記のいずれの方法によっても本発明に適用することができる。
特に、標的物質を固相に間接的に固定化する態様においては、標的物質とポリペプチドの接触後に固相に補足する場合にも、特異的なスクリーニングが期待できる。結合パートナーとそのリガンドとの結合が選択的であることに加え、強固なので、十分に洗浄することができる。一方、標的物質と固相を直接結合させる場合には、予め標的物質を結合させ、固相表面を不活性蛋白質などでコートすることによって、ポリペプチドの非特異的な結合を防ぐことができる。
ファージディスプレイにおいては、標的物質と結合しなかったファージを洗浄により除去した後に、標的物質に結合するポリペプチドを提示するファージを溶出し、大腸菌へ感染させ、ファージを増殖させる工程が必要になる。パニングを繰り返す場合であれば、大腸菌への感染およびファージの増殖の工程も繰り返し行う必要がある。しかし、本発明においては、これらの工程を必要としない。パニングを繰り返す場合であっても、標的物質と結合した複合体のmRNAからcDNAを合成し、PCRにより増幅させた後、再び転写・翻訳反応を行なって、mRNA-リボソーム-ポリペプチド三者複合体を作成すればよい。したがって、本発明による方法は、ファージディスプレイによる方法よりも迅速にスクリーニングを実施することができる。
目的のポリペプチドを提示する複合体を選択した後、ポリペプチドをコードする核酸の配列を同定することができる。複合体を選択した段階では、ポリペプチドをコードする核酸はmRNAである。このmRNAを鋳型として逆転写酵素によりcDNAを合成し、シーケンサーで塩基配列を読み取ることによって、その塩基配列を決定することができる。これらの手法は公知である。
本発明において、mRNAとポリペプチドを含む複合体を形成するためのin vitro翻訳系は、好ましくはヌクレアーゼ活性を実質的に含まない。すなわち本発明は、標的物質と結合するポリペプチドをコードする核酸の単離方法であって、in vitro翻訳系が、ヌクレアーゼ活性を実質的に含まない核酸の単離方法に関する。特に、in vitro翻訳系を構成する独立に精製されたリボソームが、ヌクレアーゼ活性を実質的に含まない核酸の単離方法に関する。
本発明において「ヌクレアーゼ活性を実質的に含まない」とは、ヌクレアーゼ活性を測定した場合に、ヌクレアーゼ活性を示す数値が一定程度以下であることをいう。本発明においてヌクレアーゼ活性とは、特にRNase活性をいう。本発明においては、独立に精製されたリボソーム、およびin vitro翻訳系のいずれにおいてもヌクレアーゼ活性を実質的に含まないことが望ましい。
RNaseは熱に安定な酵素であり、100℃の煮沸あるいはオートクレーブでは不活化されない。しかし、例えば以下の方法により超純水を処理することにより、RNaseフリー水を作成することができる。
(1)180℃、8時間以上加熱する。
(2)以下の工程により滅菌ジエチルピロカーボネート(DEPC)処理水を作成する。DEPCはRNaseの阻害剤であり不活性化剤である。
(a)水に終濃度が0.1%になるようにDEPCを加える。
(b)37℃で12時間放置する。
(c)121℃、20分間のオートクレーブにかける(DEPCの除去のため)。
(3)超純水製造装置に限外ろ過フィルターを設置し、超純水を製造する。
リボソームあるいはin vitro翻訳系がヌクレアーゼ活性を実質的に含まないことは、そのヌクレアーゼ活性を測定することにより確認することができる。ヌクレアーゼ活性の測定方法は公知である。例えば、蛍光標識したRNA基質のRNaseによる分解を蛍光強度の変化を指標として検出することができる。蛍光強度の変化が、RNaseを含まないことが明らかな試料と比較してほとんど差がないとき、対象試料がRNase活性を実質的に含まないと確認できる。あるいは、RNaseインヒビターを加えた場合と比較して蛍光強度の変化がほとんど観察されなかったとき、そのサンプルにRNase活性が実質的に含まれないと判定することができる。このような、ヌクレアーゼ活性を測定する方法は公知であり、蛍光基質、ヌクレアーゼフリーバッファー、ヌクレアーゼフリーウォーター、もしくはヌクレアーゼインヒビターなどは市販されており、入手は容易である。また、市販のキットを用いてヌクレアーゼ活性を測定することもできる。市販のキットとしては、RNaseAlert(登録商標)Lab Test Kit(Ambion)などがある。
RNaseAlert (登録商標) Lab Test Kit(Ambion)を用いたRNase活性の測定方法を以下に示す。
(1) 対象試料およびヌクレアーゼフリーウォーター(ネガティブコントロール)、およびRNase含有試料(ポジティブコントロール)45μlを、キットに添付されている反応液5μlに加える。
(2) 混合液を37℃で1時間インキュベートする。
(3) UVトランスイルミネーター上で、蛍光強度を目で比較する。もしくは、混合液の蛍光強度を、490 nm/520 nmの励起/蛍光波長で測定する。
上記の方法でコントロールと比較してヌクレアーゼ活性を検出できないときに、「ヌクレアーゼ活性を実質的に含まない」ということができる。混入量の目安としては、1 pmolのリボソームあたり、RNaseA約0.1 pgに相当するRNase活性以下のときに「ヌクレアーゼ活性を実質的に含まない」ということができる。
本発明は、mRNAとポリペプチドを含む三者複合体を形成する工程を含む。複合体は、上述したとおり、in vitro翻訳系においてmRNAをポリペプチドに翻訳することにより形成される。複合体を形成するためには、翻訳後、ポリペプチドがリボソームから離れないことが必要である。具体的には、複合体を形成するためのmRNAの構成とin vitro翻訳系について、以下の2通りを挙げることができる。
(1)mRNAのポリペプチドコード配列の3'末端領域に終止コドンを含む場合、解離因子を含まないin vitro翻訳系を使用する。
(2)mRNAのポリペプチドコード配列の3'末端領域に終止コドンを含まない場合、解離因子を含む、あるいは含まないin vitro翻訳系を使用する。
本発明におけるリボソームディスプレイにおいては、後述するように上記(1)の方法が特に好ましい。すなわち本発明は、mRNAとポリペプチドを含む複合体を、mRNAがポリペプチドコード配列の3'末端領域に終止コドンを含み、かつ解離因子を含まないin vitro翻訳系においてmRNAをポリペプチドに翻訳する工程によって形成することを含む、標的物質と結合するポリペプチドをコードする核酸の単離方法に関する。
細胞内では、ポリペプチドを伸長する反応はリボソーム内で進む。具体的には、リボソームのA部位で、mRNA上のコドンに対応したアンチコドンを持つアミノアシルtRNAが結合し、P部位でペプチド結合が形成される。伸長反応は、終止コドンが現れるまで連続して行われる。終止コドンがA部位に入ると、翻訳の終結反応が始まる。すなわち、A部位に解離因子が入り込み、翻訳されたポリペプチドをリボソームから解離させ、その後、tRNA、mRNA、およびリボソームが解離して終結反応が完了する。従って、解離因子は蛋白質合成反応の終結、ポリペプチドの解離に必須である。大腸菌においては、解離因子RF1は、UAAおよびUAGの終止コドンを認識し、RF2はUAAおよびUGAを認識する。解離因子RF3は、RF1およびRF2のリボソームからの解離を促進する。リボソーム再生因子(RRF)は、蛋白質合成の停止後、P部位に残っているtRNAの脱離と、次の蛋白質合成へのリボソームの再生を促進する。本発明においては、RRFも終結因子類の一つとして取扱うことにする。解離因子を含むin vitro翻訳系においては、mRNA上に終止コドンが存在する場合、そこで、翻訳伸長反応が停止し、新生ポリペプチドがリボソームから解離する。他方、解離因子を含まない系においては、mRNAの翻訳が終止コドンに到達しても、リボソームのA部位に解離因子が入り込まないため翻訳されたポリペプチドがリボソームから解離できない。その結果、mRNA、合成されたポリペプチド、およびリボソームを含む三者複合体が安定的に維持されることが予想される。
本発明に好適な、精製された因子からなるin vitro翻訳系では、上記の解離因子を含まない系を容易に確立することができる。そこで、本発明者らは、解離因子を添加したin vitro翻訳系と、添加していないin vitro翻訳系を用いた場合のmRNAの回収量を比較検討した。その結果、終止コドンが存在する鋳型mRNAを使用した場合は、解離因子を含まないin vitro翻訳系を使用すると、解離因子を含むin vitro翻訳系を使用したときよりもmRNAの回収量が2倍以上増大した。この結果は、上述のように、終止コドンを含むmRNAを使用する場合においては、解離因子を含まないin vitro翻訳系では、mRNA、合成されたポリペプチド、およびリボソームを含む三者複合体が安定的に維持されるため、mRNAの回収量が増大することを示している。すなわち、本発明は、mRNAがポリペプチドコード配列の3'末端側に終止コドンを含み、かつ解離因子を含まないin vitro翻訳系を用いて、上記の標的物質と結合するポリペプチドをコードする核酸の単離方法を含む。
更に本発明者らは、複合体を形成するためのin vitro翻訳系におけるリボソームやmRNAの使用量を、本発明に好適な範囲に最適化することに成功した。すなわち本発明は、in vitro翻訳系を構成する翻訳すべきmRNAとリボソームのモル比が、1:5〜1:15である上記の標的物質と結合するポリペプチドをコードする核酸の単離方法を含む。本発明者らは、mRNA回収に及ぼすリボソーム調製法、リボソーム濃度、リボソーム濃度とmRNA濃度の比率を検討した。結果を表1に示す。なお、リボソーム調製法の比較については後述する。
この結果は、リボソーム量とmRNAの回収率の関係を示した図3に基づいている。
1 pmol の mRNA(0.033μM)を含むin vitro翻訳系の反応液30μlにおいて、10 pmol (0.33μM)のリボソームを使用した場合に、mRNAの回収量が最大となった。つまり、大腸菌S30抽出液を用いる方法よりも250倍高い効率でmRNAを回収することができた。さらに、従来のPURE システム(特開2003-102495)を用いた方法(比較例1)よりも6倍以上高い効率でmRNAを回収することができた。
さらに本発明の方法では、従来の PURE システム(特開2003-102495)を用いた方法(比較例1)よりも75%程度リボソーム濃度を低くして用いた。通常のin vitro翻訳系では、目的の蛋白質を多量に翻訳させるため、リボソーム濃度を高く設定している。しかし、本発明の目的であるポリペプチドをコードする核酸の単離については、濃度を低くすることにより、比較例1よりも6倍以上高い効率でmRNAを回収することができた。
mRNA濃度に対するリボソーム濃度が高いin vitro翻訳系においては、一本のmRNAに複数のリボソームが連結したポリソームという構造をとる。ポリソーム構造は、目的の蛋白質を多量に合成する場合には有効である。しかし、リボソームディスプレイでは、mRNAとポリペプチドを含む三者複合体の回収が重要である。複合体の回収におけるポリソーム構造の不利益は既に指摘したとおりである。すなわち、ポリソームの形成を抑制し、複合体を構成するmRNAとポリペプチドの比を1:1に近づけることによって、mRNAの回収率を改善することができる。
複合体におけるmRNAとポリペプチドの比を望ましい範囲とするには、上記のin vitro翻訳系を構成する翻訳すべきmRNAとリボソームのモル比は1:5〜1:15が好ましい。このモル比において、mRNAの濃度は、通常0.01〜0.5μM、好ましくは0.015〜0.1μM、より好ましくは0.02〜0.05μMである。同様に、リボソームの濃度は、通常0.1〜2μM、好ましくは0.15〜1μM、より好ましくは0.02〜0.05μMである。
既に述べたように、本発明におけるin vitro翻訳系は、ヌクレアーゼを実質的に含まないことが好ましい。本発明者らは、リボソームがヌクレアーゼ活性の主たる汚染源であることを明らかにし、さらに、ヌクレアーゼ活性を実質的に含まないリボソーム調製法を開発した。すなわち本発明は、以下の工程を含む精製リボソームの製造方法に関する。
(a) 細胞を破砕し、粗抽出液を回収する工程、
(b) 回収された粗抽出液の塩析処理で生成する沈殿から上清を分離する工程、
(c) 分離された上清を疎水性相互作用カラムクロマトグラフィーで分画する工程、および
(d) 分画中、リボソームを含む分画から超遠心により、リボソームを沈殿として単離する工程。
本発明において、リボソームはあらゆる生細胞から回収することができる。細胞は、超音波、フレンチプレス、ホモジナイザー、ビーズなどにより破砕することができる。破砕された細胞から遠心分離によって上清を回収し、更に塩析とクロマトグラフィーによって不純物が除去される。本発明者らは、特に塩析と特定のクロマトグラフィーの組み合わせを利用した不純物の除去によって、リボソームに混入するヌクレアーゼ活性が効果的に除去されることを見出した。
塩析処理とは、高濃度の塩の存在により蛋白質などの溶解度を減少させ、析出および沈澱させる処理をいう。リボソームを含む細胞の抽出液を塩析処理すると沈殿物が生じる。この沈殿は不要な蛋白質、デグラドソーム複合体、および膜会合ヌクレアーゼなどを含む。沈殿物を遠心により除去することにより、不要な蛋白質から上清を分離することができる。塩析後の上清にはリボソームが含まれる。
塩析処理に用いる塩は、例えば塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、または硫酸アンモニウム(硫安)を挙げることができる。なかでも、硫酸アンモニウムは水に対する溶解度が高く、溶解度の温度変化が少ないため、特に本発明に適している。室温での硫酸アンモニウムの飽和濃度は水に対して約4.0 Mである。したがって、リボソームの精製に用いる硫酸アンモニウムの最終濃度は、10%飽和から70%飽和の間の濃度で処理することが好ましい。例えば、0.4 M-4.0 M、あるいは0.8 M-3.8 M、通常1.2 M-2.0 M、具体的には1.5 Mの濃度で処理することができる。塩析後、沈殿から上清を回収し、必要に応じてメンブレンフィルターでろ過することもできる。フィルターの好ましいポアサイズは、0.2-0.5μm、より具体的には0.45μmである。フィルターでろ過することによって、不純物の混入を確実に防ぐことができる。ろ過された上清は、更にクロマトグラフィーによって脱塩、および精製される。
塩析後の上清は、例えばイオン交換カラムクロマトグラフィー、等電点カラムクロマトグラフィー、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー、吸着カラムクロマトグラフィー、アフィニティーカラムクロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、または疎水性相互作用カラムクロマトグラフィーなどによって更に精製することができる。たとえば、疎水性相互作用カラムクロマトグラフィーは、本発明のリボソームの精製に好適である。疎水性相互作用カラムクロマトグラフィーは、蛋白質等の物質表面の疎水性度によって分離を行なうカラムクロマトグラフィーである。溶液のイオン強度が高いと、表面の疎水性は上昇する。通常は、高いイオン強度の環境で樹脂に結合させた後、段階的にイオン強度を下げていき結合している物質を溶出する。本発明においては、塩析後の上清をカラムクロマトグラフィーによって分画するため、高いイオン強度で使用できる疎水性相互作用カラムクロマトグラフィーが好適である。
塩析後のクロマトグラフィー処理は、例えば以下のように行うことができる。
(1)塩析後の細胞抽出液(1.5 M硫安を含む)を試料として疎水性基をもつゲル(担体、固定相)を充填したカラムにロードする。
(2)1.2 M硫安を含む緩衝液でカラムを洗浄する。
(3)0.75 M硫安を含む緩衝液によってリボソームを含む画分を溶出する。
細胞は、リボソームを有する細胞であれば、種々の生物由来の細胞を用いることができる。例えば原核細胞、真核細胞を挙げることができる。原核細胞では、大腸菌細胞、高度好熱菌細胞、枯草菌細胞を挙げることができる。真核細胞では、酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞、および植物細胞を供することができる。好ましくは原核細胞である。さらに好ましくは大腸菌細胞である。
本発明者らは、mRNA回収に及ぼすリボソーム調製法について検討した。結果を表1に示す。本願発明は、大腸菌S30抽出液を用いる方法(比較例2)よりも250倍高い効率でmRNAを回収することができた。さらに、従来のPURE システム(特開2003-102495)を用いた方法(比較例1)よりも6倍以上高い効率でmRNAを回収することができた。
従来のPURE システムを用いた方法(比較例1)では、リボソームの調製にショ糖密度勾配遠心法を用いていた。この方法は、高分子量のリボソーム画分を回収する方法であるため、デグラドソーム複合体または膜会合ヌクレアーゼのような他の高分子量複合体を完全に除去することが難しい。このため、ヌクレアーゼ活性が最終的なリボソーム調製物に含まれることになる。このヌクレアーゼ活性を除くため、本発明者らは、上述したように大腸菌抽出物に硫酸アンモニウムを加えた上、疎水性相互作用カラムクロマトグラフィーによってリボソームを分離した。詳細な内容は図1に記載した。今回の方法で調製したリボソームによって、従来の方法よりも高い効率でmRNAを回収することができたと推測できる。
さらに本発明は、in vitro翻訳系を構成するリボソームが、独立に精製されたリボソームであるin vitro翻訳系のための組成物を提供する。
当該組成物は、上述の核酸の単離方法に用いることができる。当該組成物は、例えば以下の成分より構成することができる。
開始因子(IF1、IF2、IF3)
伸長因子(EF-G、EF-Tu、EF-Ts)
解離因子(RF1、RF2、RF3、RRF)
アミノアシルtRNA合成酵素
メチオニルtRNAトランスフォルミラーゼ
本発明の組成物には、翻訳や転写に有用な付加的な成分を含むことができる。具体的には、まず翻訳に必要な基質類を含むことができる。またエネルギー再生を目的として各種のキナーゼ類を加えることもできる。更に転写のためには、RNAポリメラーゼを含むことができる。さらに、分子シャペロン類や、ジスルフィドイソメラーゼ類も含むことができる。本発明の組成物をin vitro翻訳系に好適な緩衝液に配合することもできる。緩衝液には、保護剤や塩類を加えることができる。あるいは、本発明のin vitro翻訳用の組成物と、in vitro翻訳系に好適な緩衝液とを組み合わせたキットとして供給することもできる。in vitro翻訳系を構成する因子が、リガンドで補足するための結合パートナーで標識されている場合には、リガンドを有する固相担体をキットに組み合わせることもできる。
さらに、上記組成物は、以下の工程により他の因子とは独立に精製されたリボソームを構成要素に含むことができる。本発明の組成物に配合される、独立に精製されたリボソームとその調製については既に述べたとおりである。本発明に基づいてリボソームを精製することにより、ヌクレアーゼ活性を実質的に含まないリボソームを精製することができる。更に、このようにして精製されたリボソームの利用により、ヌクレアーゼ活性を実質的に含まないin vitro翻訳系のための組成物を提供することができる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
〔実施例1〕
鋳型の構築:卵白リゾチームに対するscFv(scFv-HyHEL10)の遺伝子を、上田宏博士より提供されたプラスミドpCANTAB5E-HyHEL-10(Ueda et al., J. Mol. Catal., B Enzym. (2004) vol.28, p.173-180)から増幅して、発現ベクターpET20b(Novagen製)のSD配列の下流にサブクローニングした。一方、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子をpET17b(Novagen製)にサブクローニングした(Shimizu et al. Nat. Biotechnol. (2001) vol.19 p.751-755)。M13ファージのgeneIIIの部分配列(アミノ酸残基220〜326位)をpCANTAB-5E(GE Healthcare Biosciences製)から増幅した後、scFv-HyHEL10およびDHFRのORFの下流にそれぞれ挿入した。得られたプラスミドを鋳型として、プライマーT7p(aattaatacg actcactata gggagaccac aacggtttcc ctctag(配列番号:1))およびgeneIII-SecMp(agttaaacgt tgaggaccag cacgaatacc ttgagcttga gaaatccaaa caggagtaga aaatttggcg ccggaaacgt caccaatgaa accatcgata gcagc(配列番号:2))を用いてPCRを行なった。ゲル電気泳動によって精製したPCR産物を鋳型として、プライマーT7pおよびSecMp(ctaagttaaa cgttgaggac cagcacgaat acc(配列番号:3))を用い、二段階目のPCRを行なった。このPCR産物をゲル電気泳動によって精製して、その後のin vitro転写のための鋳型として用いた。また、3'末端が異なるSecM(+)、mSecM(+)、mSecM(−)を構築するため、以下のプライマーを用いて、PCRを行った。SecM(+):5'-ctaagttaaa cgttgaggac cagcacgaat acc-3'(配列番号:4)(下線は、amber終止コドンの導入を示す)、mSecM(+):5'-ctaagttaaa cgttgagcac cagcagcaat accttgagct tgag-3'(配列番号:5)(下線は、amber終止コドンならびに、SecM ORFのアミノ酸置換 R163A およびP166Aを示す)、mSecM(−):5'-agttaaacgt tgagcaccag cagcaatacc ttgagcttga g-3'(配列番号:6)(下線は、SecM ORFのアミノ酸置換 R163A および P166Aを示す)。これらのPCR産物は、上記と同様、アガロースゲルからの切り出しにより精製した。mRNAは、CUGA 7 in vitro転写キット(Nippongene製)を用いて、2 pmol以下のDNA鋳型(上記PCR産物)からの転写反応(≦40μL、37℃で2時間)で合成した。合成されたmRNAをISOGEN-LS(Nippongene製)処理、エタノール沈殿で精製し、翻訳実験で用いるために水に溶解した。
〔実施例2〕
リボソームの調製:大腸菌A19株をLB培地において37℃で対数増殖中期まで培養した。細胞を遠心によって回収し、-80℃で保存した。細胞を等量の懸濁緩衝液(10 mM Hepes-KOH、pH 7.6、50 mM KCl、10 mM Mg(OAc)2、7 mMβ-メルカプトエタノール)に懸濁し、フレンチプレスによって7000〜10,000 psiで破砕した。未破砕細胞を20,000 gでの30分間の遠心によって除去した。上清に、硫酸アンモニウムを最終濃度が1.5 Mとなるように加え、析出した分画を20,000 gでの30分間の遠心によって除去した後、上清を0.45μmメンブレンによって濾過した。1000 OD260 unit分の上清を、緩衝液A(20 mM Hepes-KOH、pH 7.6、1.5 M (NH4)2SO4、10 mM Mg(OAc)2、7 mMβ-メルカプトエタノール)であらかじめ平衡化した10 ml HiTrap Butyl FFカラム(GE Healthcare Biosciences製)にローディングした。緩衝液Aを緩衝液B(20 mM Hepes-KOH、pH 7.6、10 mM Mg(OAc)2、7 mMβ-メルカプトエタノール)によって希釈することによって、より低濃度の硫酸アンモニウムを含む緩衝液を調製した。カラムを1.2 Mの硫酸アンモニウムを含む緩衝液で洗浄後、0.75 Mの硫酸アンモニウムを含む緩衝液でリボソーム画分を溶出した。溶出液を、等量のクッション緩衝液(20 mM Hepes-KOH、pH 7.6、30 mM NH4Cl、10 mM Mg(OAc)2、30% ショ糖、7 mMβ-メルカプトエタノール)の上に重層して、Beckman 70Tiローターにおいて36,000 rpmで16時間超遠心した。得られた澄んだ沈殿は70Sリボソームを含み、これをリボソーム緩衝液(20 mM Hepes-KOH、pH 7.6、30 mM KCl、6 mM Mg(OAc)2、7 mMβ-メルカプトエタノール)に溶解して、-80℃で保存した。
〔実施例3〕
PUREシステムを用いたin vitro翻訳:標準的なPUREシステムの反応液(30 μl)は、1 mM酸化型グルタチオン、0.1 mM還元型グルタチオン、1μM蛋白質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)および0.6 U RNasin(Promega製)を加えた以外は、既報(Ying et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. (2004) vol.320, p.1359-1364)と同様に調製した。なお、この反応液には、解離因子(RF1、RF3、およびRRF)およびジチオスレイトール(DTT)は含んでいない。反応液を37℃で5分間プレインキュベートした後、mRNAを加えて翻訳反応を37℃でさらに20分間行なった。氷冷したWBTH緩衝液(50mM Tris-OAc、pH 7.5、150 mM NaCl、50 mM Mg(OAc)2、0.5% Tween 20、2.5 mg/mlヘパリンナトリウム)120μlを加えて反応を停止させた後、14,000 gで10分間遠心して、不溶性成分を除去した。上清に、WBT(50 mM Tris-OAc、pH 7.5、150 mM NaCl、50 mM Mg(OAc)2、0.5% Tween 20、5% BSA(TakaraBio製)および4% BlockAce(Dainippon Sumitomo Pharma製))50μlを加えた。
〔実施例4〕
in vitro選択:ビオチン化リゾチームを以下のように調製した。卵白リゾチーム(Seikagaku Corporation製)10 mgをPBS 1 mlに溶解し、840 μlの10 mM Ez-Link Sulfo-NHS-LC-Biotin(PIERCE製)と混合後、室温で30分間インキュベートした。未反応試薬をPBSに対する透析によって除去した。scFv-HyHEL10 mRNAを選択するために、調製したビオチン化リゾチーム(3 pmol)を実施例3の翻訳反応後の上清に加えて、室温で1時間インキュベートした。次に、ストレプトアビジンコーティング磁気ビーズ(M270ストレプトアビジン、DYNAL製)30 μlを加えて、室温で軽く振とうさせながらさらに30分間インキュベートした。ビーズを回収してWBT 1 mlで10回洗浄した。磁気ビーズに溶出緩衝液A(50 mM Tris-OAc、pH 7.5、150 mM NaCl、50 mM EDTA、10 μg/ml出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)全RNA(Sigma製))60 μlを加え、室温で軽く振とうさせながら30分間インキュベートすることによって、複合体をビーズから解離させた。回収したmRNAをISOGEN-LS(Nippongene製)を用いて精製した後、エタノールによって沈殿させ、水に溶解した。DHFR mRNAの特異的選択は、メトトレキセート(MTX)-アガロースビーズ(Sigma製)10 μlおよび溶出緩衝液B(50 mM Tris-OAc、pH 7.5、150 mM NaCl、50 mM Mg(OAc)2、0.03 mMメトトレキセート(Wako製)、10 μg/ml出芽酵母全RNA)を用いたことを除き、scFv-HyHEL10 mRNAの場合と同様に行なった。精製mRNAから、T7pおよびSecMpプライマーを用いて、SuperScript III One-Step RT-PCRシステムおよびプラチナTaq DNAポリメラーゼ(Invitrogen製)によって逆転写およびPCRを行なった。
〔実施例5〕
リアルタイムRT-PCR:リアルタイムRT-PCRは、Smart Cycler IIシステム(Cepheid製)を使用して行なった。図3、表2では、HyHEL10s-F(tgcaaactgg gacggtgatt a(配列番号:7))およびHyHEL10s-R(ctggagactg ggtcagcaca a(配列番号:8))、DHFR-F(ctgacgcata tcgacgcaga a(配列番号:9))およびDHFR-R(ccgctccaga atctcaaagc a(配列番号:10))をプライマーとして用いた。また、図5では、G3Forward1(5'-gctccggttc cggtgatttt ga-3'(配列番号11))およびG3Reverse2(5'-tcagtagcga cagaatcaag tttgcc-3'(配列番号12))をプライマーとして用いた。ExScript RT試薬キット(TakaraBio製)およびSYBRプレミクスEx Taq(TakaraBio製)をそれぞれ、逆転写およびPCRのために用いた。
〔実施例6〕
結果及び考察:(1)in vitro翻訳系に混入するヌクレアーゼ活性を減少させるためのリボソーム調製法の改良:リボソームディスプレイによる効率的な蛋白質またはペプチドのスクリーニング系を構築するためには、ヌクレアーゼ活性を含まないin vitro翻訳系を用いることが望ましい。この点において、PUREシステムは、翻訳に必須の因子のみから再構成されたin vitro翻訳系であることから、理想的なツールであると考えられる(Shimizu et al., Nat. Biotechnol. (2001) vol.19, p.751-755)。実際、本発明者らが最初に開発したPUREシステムに含まれるヌクレアーゼ活性は、従来の大腸菌S30系と比べて大幅に低減していた。しかし、本発明者らは、ヌクレアーゼ活性が少量混入していることを確認し、これらの活性が、主にリボソーム画分に由来することを明らかにした。
従来のリボソーム調製方法は、ショ糖密度勾配(SDG)遠心を用いて、70Sリボソームを粗リボソーム抽出物から分離後、遠心によって沈殿として回収する方法であった(図1A)。この方法はリボソームの沈降係数、すなわち分子量に依存することから、デグラドソーム複合体や膜会合ヌクレアーゼのような他の高分子量複合体を完全に除去することが難しく、これらの夾雑物が、最終的なリボソーム画分に混入していた。このような活性を除去するために、本発明者らは、大腸菌細胞抽出物に硫酸アンモニウムを加えることにより、透明な上清を得た。このことは、塩析により大部分の膜画分を含む夾雑物を除去できたことを示唆している。次に、本発明者らは、70Sリボソームの調製に疎水性相互作用カラムクロマトグラフィーの使用が有効であることを示唆した報告(Ramakrishnan et al., J. Mol. Biol. (2001) vol.310, p.827-843)を参考にして、塩析後の上清から疎水性相互作用カラムクロマトグラフィーによってリボソームを含む画分を分離した。この画分を、30%ショ糖溶液に重層して超遠心することにより、残存していた低分子量の可溶性因子を除去し、リボソームを沈殿として回収した。改良したリボソーム調製方法の概略を図1Aに示す。
改良した調製法で調製したリボソーム画分へのヌクレアーゼ活性の混入は、従来法と比較して有意に低減していた(図1B)。また、調製したリボソーム画分をSDS-PAGEで解析したところ、他の蛋白質の混入は認められなかった(図1C)。改良した方法で調製したリボソームを使用したPUREリボソームディスプレイシステム(下記参照)におけるmRNAの回収量は、従来法で調製したリボソームを使用した場合に比べて4倍増加した(図1D)。これらの結果は、リボソームの調製法を改良することにより、リボソーム画分中のヌクレアーゼ活性が減少し、PUREリボソームディスプレイシステムを容易に行なえることを示している。標準的な大腸菌S30系と比較した場合、この改良型PUREシステムに含まれるヌクレアーゼ活性はきわめて低い。
改良した方法で調製したリボソーム画分を、SDG遠心で分析したところ、大部分が70Sリボソームであった(図1E)。PUREシステムにおけるリボソームとしての活性は、従来法で調製したリボソームの活性と同様であった。さらに、高度に精製された活性を持ったリボソーム調製物を得るために、従来法では少なくとも2回、終夜超遠心を行なう必要があったが、改良法では1回で済む。従って、新規調製法では、1日で大腸菌細胞からリボソーム画分を得ることが可能である。
(2)PUREシステムで形成したmRNA-リボソーム-ポリペプチド三者複合体のアフィニティ精製:本発明者らは、PUREシステムを使用してリボソームディスプレイが実施できるかを検討するために、以下のようにDNA配列を構築した(図2A)。T7プロモーターおよびSD配列の下流にscFv-HyHEL10、またはDHFRをコードする遺伝子を導入し、さらにORFの下流にスペーサー配列としてgeneIIIの部分配列をそれぞれ挿入した。スペーサー配列は、翻訳されたポリペプチドが正確に折り畳まれるための十分な空間を提供することによって、新生蛋白質とリボソームとのあいだの立体障害を防止する。さらに、mRNA-リボソーム-ポリペプチド三者複合体を安定化するために、SecM伸長停止配列(アミノ酸残基148〜170)をgeneIIIの下流に配置した。この伸長停止配列は、リボソームのペプチドトンネルと堅固に相互作用することが示されており(Nakatogawa et al., Cell (2002) vol.108, p.629-636)、PUREシステムを用いた場合、効率よく翻訳の伸長を停止させることが証明されている(Nakatogawa et al., Mol. Cell (2006) vol.22, p.545-552)。
等量のscFv-HyHEL10およびDHFR mRNAから翻訳させたPUREシステム反応液からmRNA-リボソーム-ポリペプチド三者複合体のアフィニティ精製を行った(図2BおよびC)。scFv-HyHEL10およびDHFR mRNA三者複合体はそれぞれに特異的なリガンド、すなわち、ビオチン化卵白リゾチームおよびストレプトアビジンコーティング磁気ビーズ、またはMTXコーティングアガロースビーズでアフィニティ精製することが可能である。それぞれのアフィニティ精製から回収したmRNAから、mRNA特異的プライマーを用いてRT-PCRを行なうと、それぞれのリガンドに対して特異的な蛋白質をコードするcDNAのみが増幅された(図2BおよびC)。この条件下では、非特異的cDNAの増幅は認められなかった。さらに、特異的リガンド非存在下では、いずれのcDNAも増幅されず、精製方法が非常に特異的であることを証明した。
アフィニティ精製およびcDNAの増幅が、PUREシステムにおける三者複合体の形成に依存するか否かを調べるために、ポリペプチド合成にとって必須である成分の非存在下で同じ実験を行なった。リボソーム、三つの伸長因子、またはmRNA非存在下では、cDNAは全く増幅されなかった(図2D)。この結果は、PUREシステムを用いたリボソームディスプレイが蛋白質合成反応に厳密に依存すること、およびリボソーム上での遺伝子型(mRNA)と表現型(ポリペプチド)との物理的結合が選択にとって必須であることを示唆している。
mRNAの回収に及ぼすリボソーム濃度の効果も同様に評価した(図3)。その結果、1 pmolのscFv-HyHEL10 mRNAを含む30μlの反応液の場合、10 pmolのリボソームを添加したときに、mRNAの回収量が最大になった。このリボソーム濃度は、反応液に添加したmRNA濃度より10倍高い濃度であった。この最適な条件において、mRNAの回収率は2.5%であり、大腸菌S30系を用いた従来のリボソームディスプレイ(Hanes et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1997) vol.94, p.4937-4942)での回収率より2桁高い。また、この値は、1分子のmRNAが、40分子のmRNAから回収できること、および、30μlのPUREシステム反応液で、1010の遺伝子ライブラリから、ペプチドまたは蛋白質のリガンド特異的な選択が容易に実施できることを示している。
(3)様々な比のDNA混合液からのscFv-HyHEL10の有意な濃縮:scFv-HyHEL10 mRNA、およびDHFR mRNAをそれぞれ、選択の標的、競合物質として用いて、PUREリボソームディスプレイシステム(PRDシステム)において、1回の選択での濃縮効率を調べた。scFv-HyHEL10およびDHFR mRNAを1:103、1:104、および1:105の比で混合した反応液から、リゾチームによる選択を1回行なった(図4Aおよび表2)。回収したmRNAをリアルタイムRT-PCRによって定量し、濃縮効率を算出した。1:105の比の場合、約12,000倍の濃縮が見られた(表2)が、この濃縮効率は、これまでの報告より1桁以上高かった(<〜1000倍)。この高い濃縮効率は、PRDシステムにおける高いmRNA回収率のためと考えられる(図2D)。
1:106より大きい比の場合、1回の選択では、scFv-HyHEL10 mRNAを回収できなかったため、1:108および1:1010の比についてリゾチームによる選択を複数回繰り返して行なった。その結果、それぞれ、2回目および3回目の選択後、scFv-HyHEL10 cDNAを検出できた。また、3および4ラウンドの選択後では、競合物質(DHFR)のcDNAは完全に消失した。これらの結果は、1:108の比では、選択を5回繰り返す必要がある大腸菌S30抽出物を用いる従来のリボソームディスプレイ(Hanes et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1997) vol.94, p.4937-4942)と比較して、PRDシステムの効率が高いことを示している。
(4)mRNAの回収における解離因子の有無および鋳型mRNA上の終止コドンの有無の影響:鋳型mRNAコンストラクトの違い、および、in vitro翻訳系内の解離因子の有無が、mRNAの回収量に与える影響について検証した(図5)。終止コドンが存在する鋳型mRNAを使用した場合は、解離因子を含まないin vitro翻訳系を使用すると、解離因子を含むin vitro翻訳系を使用したときよりもmRNAの回収量が2倍以上増大した。一方、終止コドンを含まないmRNAを使用した場合では、解離因子の有無で、mRNAの回収量に差はほとんど見られなかった。また、SecMの翻訳伸長反応停止配列に変異を導入すると、変異を導入していない正常型よりも、mRNAの回収率が低下した。これらの実験から、SecMの翻訳伸長反応停止配列の下流に終止コドンを有した鋳型mRNAを用い、解離因子を含まないin vitro翻訳系を使用した場合に、mRNAの回収率、すなわち、mRNA-リボソーム-ポリペプチド三者複合体の形成効率が最大となることが明らかとなった。
〔実施例7〕
結論:本発明は、リボソームディスプレイへのPUREシステムの応用に焦点を当てており、このシステムが、アフィニティ精製によりポリペプチドを選択するための強力なプラットフォームとなりうることを示した。インビトロウイルスまたはmRNAディスプレイ(Nemoto et al., FEBS Lett. (1997) vol.414, p.405-408、Roberts et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1997) vol.94, p.12297-12302、Keefe et al., Nature (2001) vol.410, p.715-718)、CISディスプレイ(Odegrip et al., Proc. Natl.Acad. Sci. USA (2004) vol.101, p.2806-2810)、およびエマルジョンよる単一DNA分子の区画化によって行なうDNAディスプレイ(Doi et al., FEBS Lett. (1999) vol.457, p.227-230、Yonezawa et al., Nucleic Acids Res. (2003) vol.31, e118)のような他のin vitro選択系は、主に大腸菌S30抽出物に基づくin vitro 翻訳系を利用しているが、本発明者らの結果は、これら他のin vitro選択系においてもPUREシステム用いることで選択効率が大幅に上昇する可能性を示唆している。
同様に、リボソームディスプレイに関して、本発明者らが開発した購入可能なPUREシステムを使用した場合でも、従来の大腸菌S30システム(Hanes et al., FEBS Lett. (1999) vol.450, p.105-110)と比較して非常に効率がよいことも注目に値する。mRNA-リボソーム-ポリペプチド三者複合体は、大腸菌S30システムにおいて有意に不安定であるが、PUREシステムにおいては非常に安定であり、このことはMatsuuraらの結果(Matsuura et al., BBRC (2007) vol.352, p.372-377)と一致する。さらに、本発明では、リボソームディスプレイに適したPUREシステムを構築するためにリボソーム調製法を改善することで、mRNAの回収率を最大にするリボソーム濃度を最適化した。これは、市販のPUREシステムキットを用いる限り調べることができない、また、以前の報告(Villemagne et al., J. Immunol. Methods (2006) vol.313, p.140-148)では示されなかったPRDシステムにおける特異的遺伝子の濃縮レベルの定量的評価により、他の蛋白質選択システムより高い次数であることを示した。
本発明では、ヌクレアーゼ活性を実質的に含まないリボソームを提供した。さらに、リボソーム量と鋳型となる核酸との量比等を最適化することで、リボソームディスプレイに最適化したin vitro翻訳系を再構築した。また、in vitro翻訳系を利用するリボソームディスプレイの諸条件が最適化された。
本発明によるリボソームディスプレイは、新しい抗体医薬の創出や生体高分子相互作用解析のための、実際的で高効率な蛋白質スクリーニングシステムの基盤技術として有用である。さらに本発明によるリボソームは、リボソームディスプレイのみならず、他のin vitro選択系にも利用しうる。これらにより、本発明は、蛋白質進化工学の分野および難治性疾患を処置するための治療効果を有する抗体を含む蛋白質医薬の開発に関する新しい方向を示した。
改良したリボソーム調製法の概略と結果を示した図および写真である。(A)リボソーム調製に関する従来の方法と新規方法との比較。(B)リボソーム調製物に含まれる内因性のヌクレアーゼの相対活性。リボソーム(60 pmol)をRNaseAlert(Ambion)50μlに加えて96ウェルマイクロプレートにおいて37℃で1時間インキュベートした。プレートを、532 nmでの励起レーザーおよび526 nmでの放射フィルターを用いて、Typhoon Variable Scanner(GE Healthcare)によってスキャンした。(C)リボソームのSDS-PAGEによる分析。リボソーム(40 pmol)を従来法(レーンa)および改良法(レーンb)によって調製した後、12%SDS-PAGEによって分離して、クマシーブリリアントブルーによって染色した。(D)PUREリボソームディスプレイシステムからのmRNA回収に及ぼすリボソーム調製法の効果。scFv-HyHEL10 mRNAをPUREシステムにおいて翻訳して、mRNA-リボソーム-ポリペプチド三者複合体のアフィニティ精製をリゾチームの存在下または非存在下で行った。1ラウンドのアフィニティ選択後、mRNAを単離して、リアルタイムRT-PCRを行った。改良法、または従来法によって調製されたリボソームを使用したPUREシステムを用いた場合の相対的なmRNA回収量を示す。(E)改良法によって調製したリボソームのSDGによる分析。6〜38%SDGでリボソームを分画した。30Sおよび50Sサブユニットと共に70Sリボソームを表すピークを示す。 PUREリボソームディスプレイ(PRD)システムの構築を示す図および写真である。(A)PRDのために用いたDNA構築物。scFv-HyHEL10またはDHFRをコードする遺伝子をT7プロモーターおよびシャイン-ダルガルノ配列の下流に挿入した。グリシンに富むリンカー(geneIII)は、標的蛋白質をコードする遺伝子とSecMとのあいだに存在する。(B,C)リゾチーム(B)およびMTX(C)に対するアフィニティ選択。scFv-HyHEL10およびDHFR mRNAを1:1で混合した混合物を翻訳して、リゾチームおよびMTXに対してそれぞれ選択した。scFvの選択はリゾチームの存在下(+)または非存在下(-)で行った。1ラウンドのアフィニティ選択後、mRNAを単離して、RT-PCRに供した後、アガロースゲル電気泳動を行った。(D)mRNA-リボソーム-ポリペプチド三者複合体の翻訳反応依存的形成。全ての必須の成分の存在下と共に個々の成分、すなわち伸長因子、リボソーム、およびmRNAの非存在下でアフィニティ選択を行った。scFv-HyHEL10およびDHFR mRNAを1:30で混合した混合物から選択した。リゾチームによる1ラウンドのアフィニティ選択産物を、アガロースゲル電気泳動によって分離した。 mRNA回収率に及ぼすリボソーム濃度の効果を示す図である。scFv-HyHEL10 mRNA(1 pmol)をリガンドと共にリボソーム0〜60 pmolを含む反応液30μlに加えた。縦軸は、1ラウンドの選択後のmRNAの回収率を表す。選択されたmRNAをリアルタイムRT-PCRに供して、標準曲線に従って定量した。誤差のバーは、独立した実験5回のSDを示す。 scFv-HyHEL10およびDHFR mRNA の特異的濃縮を示した写真である。(A)1ラウンドの選択後。scFv-HyHEL10およびDHFR mRNAを1:103、1:104、および1:105で混合した混合液から始めた場合の結果。(B,C)複数回の選択ラウンド後のscFv-HyHEL10 mRNAの特異的濃縮。scFv-HyHEL10およびDHFR mRNAを1:108(B)および1:1010(C)で混合した混合物から始めた場合の結果。アフィニティ選択の各ラウンド後、mRNAを単離して、RT-PCRを行ない、増幅産物をアガロースゲル電気泳動によって分析した。単離したmRNAをそれぞれのその後の選択段階のために用いた。 in vitro翻訳系の解離因子の有無とmRNAの終止コドンの有無がmRNA回収率に及ぼす効果を示す図である。(A)用いた鋳型の概略を示す。SecMは、翻訳伸長反応停止を起こす正常なSecM配列を示す。mSecMは、翻訳伸長反応停止が起こらない変異SecM配列を示す。(B)縦軸は、mRNAの回収率(相対値)を表す。横軸は用いた各鋳型を表す。(+)はmRNAに終止コドンを含み、(−)はmRNAに終止コドンを含まない鋳型を示す。数値は、鋳型として変異SecMの下流に終止コドンを含む鋳型を、in vitro翻訳系として解離因子を含まない翻訳系を使用した場合のmRNAの回収量を1としたときの相対値を示す。

Claims (28)

  1. 次の工程を含む標的物質と結合するポリペプチドをコードする核酸の単離方法であって、in vitro翻訳系を構成するリボソームが、独立に精製された、ヌクレアーゼ活性を実質的に含まない精製リボソームである単離方法、
    (a) in vitro翻訳系においてmRNAをポリペプチドに翻訳し、当該mRNAとポリペプチドを含む複合体を形成する工程、
    (b) (a)で形成された複合体を標的物質と接触させる工程、および、
    (c) 標的物質に結合した複合体を回収し、回収された複合体を構成するmRNAまたはそのcDNAを、標的物質と結合するポリペプチドをコードする核酸として単離する工程。
  2. リボソーム中のヌクレアーゼ混入量が、1pmolのリボソームあたり、RNaseA 0.1pgに相当するRNase活性以下である、請求項1に記載の方法。
  3. in vitro翻訳系が、ヌクレアーゼ活性を実質的に含まない請求項1または2に記載の方法。
  4. in vitro翻訳系が、独立に精製された因子のみからなるin vitro翻訳系である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
  5. in vitro翻訳系が、開始因子、伸長因子、解離因子、アミノアシルtRNA合成酵素、およびメチオニルtRNAトランスフォルミラーゼからなる群から選択される、少なくとも1つの成分を含むin vitro翻訳系である請求項に記載の方法。
  6. in vitro翻訳系を構成するリボソームが、次の工程によって精製されたリボソームである請求項1〜のいずれかに記載の方法、
    (a) 細胞を破砕し、粗抽出液を回収する工程、
    (b) 回収された粗抽出液の塩析処理で生成する沈殿から上清を分離する工程、
    (c) 分離された上清を疎水性相互作用カラムクロマトグラフィーで分画する工程、および
    (d) 分画中、リボソームを含む分画から超遠心により、リボソームを沈殿として単離する工程。
  7. 細胞が原核生物である請求項6に記載の方法。
  8. 細胞が大腸菌である請求項7に記載の方法。
  9. mRNAとポリペプチドを含む複合体を、mRNAがポリペプチドコード配列の3'末端側に終止コドンを含み、かつ解離因子を含まないin vitro翻訳系においてmRNAをポリペプチドに翻訳する工程によって形成する請求項1から8のいずれかに記載の方法。
  10. in vitro翻訳系を構成する翻訳すべきmRNAとリボソームのモル比が、1:5〜1:15である請求項1から9のいずれかに記載の方法。
  11. in vitro翻訳系におけるmRNAの濃度が、0.01〜0.5μMである請求項10に記載の方法。
  12. in vitro翻訳系におけるmRNAの濃度が、0.015〜0.1μMである請求項11に記載の方法。
  13. in vitro翻訳系におけるリボソームの濃度が、0.1〜2μMである請求項10に記載の方法。
  14. in vitro翻訳系におけるリボソームの濃度が、0.15〜1μMである請求項13に記載の方法。
  15. ポリペプチドをコードする核酸が、ライブラリーである請求項1から14のいずれかに記載の方法。
  16. 標的物質が、固相に結合しているか、または固相に捕捉される結合パートナーで標識されている請求項1から15のいずれかに記載の方法。
  17. in vitro翻訳系のための組成物であって、独立に精製された、ヌクレアーゼ活性を実質的に含まない精製リボソームを含む組成物。
  18. リボソーム中のヌクレアーゼ混入量が、1pmolのリボソームあたり、RNaseA 0.1pgに相当するRNase活性以下である、請求項17に記載の組成物。
  19. ヌクレアーゼ活性を実質的に含まない請求項17または18に記載の組成物。
  20. 独立に精製された因子からなる請求項17〜19のいずれかに記載の組成物。
  21. 独立に精製された因子が、開始因子、伸長因子、解離因子、アミノアシルtRNA合成酵素、およびメチオニルtRNAトランスフォルミラーゼからなる群から選択される、少なくとも1つの成分を含む請求項20に記載の組成物。
  22. in vitro翻訳系を構成するリボソームが、次の工程によって精製されたリボソームである請求項17〜21のいずれかに記載の組成物、
    (a) 細胞を破砕し、粗抽出液を回収する工程、
    (b) 回収された粗抽出液の塩析処理で生成する沈殿から上清を分離する工程、
    (c) 分離された上清を疎水性相互作用カラムクロマトグラフィーで分画する工程、および
    (d) 分画中、リボソームを含む分画から超遠心により、リボソームを沈殿として単離する工程。
  23. 細胞が原核生物である請求項22に記載の組成物。
  24. 細胞が大腸菌である請求項23に記載の組成物。
  25. 次の工程を含む、ヌクレアーゼ活性を実質的に含まない精製リボソームの製造方法、
    (a) 細胞を破砕し、粗抽出液を回収する工程、
    (b) 回収された粗抽出液の塩析処理で精製する沈殿から上清を分離する工程、
    (c) 分離された上清を疎水性相互作用カラムクロマトグラフィーで分画する工程、および
    (d) 分画中、リボソームを含む分画から超遠心により、リボソームを沈殿として単離する工程。
  26. リボソーム中のヌクレアーゼ混入量が、1pmolのリボソームあたり、RNaseA 0.1pgに相当するRNase活性以下である、請求項25に記載の方法。
  27. 細胞が原核生物である請求項25または26に記載の方法。
  28. 細胞が大腸菌である請求項27に記載の方法。
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